説明

アスファルト混合物の評価方法、評価装置及び供試体

【課題】高温下で、アスファルト混合物のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することのできるアスファルト混合物の評価方法、評価装置及び供試体を提供する。
【解決手段】このアスファルト混合物41を評価するための試験装置1は、アスファルト混合物41を円柱形状に成形した供試体4の軸心まわりにねじりを加えたときのその供試体4の応答に基づいて、供試体4のせん断弾性係数、耐流動性及び耐久性の少なくとも一つを評価するように構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト混合物の評価方法、評価装置及び供試体に関するものであって、特にアスファルト混合物の開発設計に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト混合物は、主として歴青材料と骨材とから構成されている。アスファルト混合物の配合設計を行うにあたっては、これら2種類の材料の個々についての材料試験を行い、この材料試験が終了すると、これら2種類の材料の混合物を試験して、耐流動性などを評価することとなる。
【0003】
アスファルト混合物の耐流動性は、従来、ホイールトラッキング試験を行って得られる動的安定度で評価されていた(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。このホイールトラッキング試験では、300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させ、単位時間当たりの変形量から動的安定度を求める。
【0004】
また、アスファルト混合物を用いた構造設計を行うにあたっては、アスファルト混合物の弾性係数などを評価することとなる。
【0005】
アスファルト混合物の弾性係数は、従来、間接引張モードの試験から求められていた(例えば非特許文献2参照)。この間接引張モードの試験では、直径略100mm、厚さ略50mmの円柱供試体を横に寝かした状態で鉛直方向に繰り返し荷重を作用させたときの鉛直荷重、供試体の鉛直変位と水平変位とを測定して弾性係数を求める。ポアソン比が分かれば、せん断弾性係数が求まる。供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があった。
【0006】
この間接引張モード試験に類似するものとしては、American Association of State Highway and Transportation Officials(米国交通運輸行政官試験)の試験法がある(AASHTO
Designation 320−03)。これは直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体の上下面の鉛直動が生じないように鉛直荷重を制御しながら、上下面を水平方向にせん断させる試験装置を用いて水平変位、鉛直荷重及び水平荷重を測定して、せん断弾性係数及び塑性せん断ひずみを求める試験である。
【特許文献1】特開2006−170680号公報
【非特許文献1】日本道路協会 舗装試験法便覧別冊pp117−134
【非特許文献2】日本道路協会 舗装試験法便覧別冊pp249−259
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、現実のアスファルト舗装道路においては、夏場での温度が60℃を超えることがあり、またねじりせん断が発生することがあるが、上記試験方法では、これらに対する剛性、耐久性及び流動性を直接求めることができなかった。すなわち、高温下で、アスファルト混合物のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することのできる評価方法がこれまでは無かった。
【0008】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があった。また試験装置で扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点もあった。
【0009】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があった。また試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点もあった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、高温下で、アスファルト混合物のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することのできるアスファルト混合物の評価方法、評価装置及び供試体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アスファルト混合物の評価方法であって、アスファルト混合物を円柱形状に成形した供試体の軸心まわりにねじりを加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価することを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、アスファルト混合物を円柱形状に成形した供試体の軸心まわりにねじりを加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価するので、現実のアスファルト舗装道路において発生することのある、ねじりせん断を直接求めることにより、実情に応じた評価ができるようになる。
【0013】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があったが、本発明ではそのような特殊な試験装置が不要である。また、この試験装置ではその扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0014】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があったが、本発明では供試体の温度が60℃を超える場合でも、試験精度が急落して試験ができなくなることはない。また、この試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0015】
その結果、高温下で、アスファルト混合物のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することができるようになる。
【0016】
請求項2記載の発明のように、供試体の端面に直角方向の荷重をさらに加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価することが好ましい。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、供試体の端面に直角方向の荷重をさらに加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価するので、現実のアスファルト舗装道路において発生するような、荷重をも加味することにより、より実情に応じた評価ができるようになる。
【0018】
ところで、供試体のねじり剛性は、その弾性域で求める必要がある一方、耐久性は、その塑性域をも超えたところで求める必要がある。そこで、請求項3記載の発明のように、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを単調に増大しつつ載荷させたときの当該トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性及び耐久性の少なくとも一方を評価することが好ましい。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを単調に増大しつつ載荷させたときの当該トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性及び耐久性の少なくとも一方を評価するので、供試体のねじり剛性を、その弾性域で確実に求めることができるとともに、耐久性を、その塑性域をも超えたところで確実に求めることができ、これにより両者の正確な評価ができるようになる。
【0020】
また、供試体のねじり剛性を正確に求めるには、その弾性比例域での初期応答を使用するのが好ましい。そこで、請求項4記載の発明のように、前記ねじり剛性は、前記トルクと回転角との関係における初期値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されることが好ましい。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、前記ねじり剛性は、前記トルクと回転角との関係における初期値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されるので、供試体のねじり剛性を弾性比例域で正確に求めることができ、供試体のねじり剛性のより正確な評価ができるようになる。
【0022】
請求項5記載の発明のように、前記耐久性は、前記トルクと回転角との関係における当該トルクのピーク値で評価されることが好ましい。
【0023】
請求項5記載の発明によれば、前記耐久性は、前記トルクと回転角との関係における当該トルクのピーク値で評価されるので、耐久性をより正確に評価できるようになる。
【0024】
一方、供試体のねじり剛性の指標となる各トルクと回転角との関係は、その弾性比例域で当該トルクを繰り返し載荷させるによりそれぞれ一定化してくる。そこで、請求項6記載の発明のように、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを段階的に増大しつつ繰り返し載荷させたときの各トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性を評価することが好ましい。
【0025】
請求項6記載の発明によれば、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを段階的に増大しつつ繰り返し載荷させたときの各トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性を評価するので、それぞれ一定化した各トルクと回転角との関係を使用して、供試体のねじり剛性の正確な評価を行うことができるようになる。
【0026】
この場合に、供試体のねじり剛性を正確に求めるには、最も一定化した各トルクと回転角との関係が得られる各トルクでの終期応答を使用するのが好ましい。そこで、請求項7記載の発明のように、前記ねじり剛性は、各トルクと回転角との関係におけるトルクごとの最終値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されることが好ましい。
【0027】
請求項7記載の発明によれば、前記ねじり剛性は、各トルクと回転角との関係におけるトルクごとの最終値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されるので、最も一定化した各トルクと回転角との関係を使用して、供試体のねじり剛性のより正確な評価を行うことができるようになる。
【0028】
請求項8記載の発明のように、前記せん断弾性係数は、次式で表現されるものであることが好ましい。
【数2】

ここに、Gはせん断弾性係数、Hは供試体高さ、Rは供試体半径、Tはトルク、Δθは回転角を示す。
【0029】
請求項8記載の発明によれば、前記せん断弾性係数は、上式(数2)で表現されるものであるので、このせん断弾性係数を用いて、供試体のねじり剛性のさらに正確な評価を行うことができるようになる。
【0030】
他方、供試体の耐流動性の指標となる各トルクでの累積回転角と載荷回数との関係は、その弾性域を超えたところまで当該トルクを繰り返し載荷させるにより変化してくる。そこで、請求項9記載の発明のように、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを段階的に増大して繰り返し載荷させたときの各トルクでの累積回転角と載荷回数との関係に基づいて、前記供試体の耐流動性を評価することが好ましい。
【0031】
請求項9記載の発明によれば、供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを繰り返し載荷させたときの各トルクでの累積回転角と載荷回数との関係に基づいて、前記供試体の耐流動性を評価するので、変化した累積回転角と載荷回数との関係を示すトルクを使用して、供試体の耐流動性を正確に評価することができるようになる。
【0032】
この場合に、供試体の耐流動性を正確に求めるには、急激に変化した累積回転角と載荷回数との関係を示すトルクを使用するのが好ましい。そこで、請求項10記載の発明のように、前記耐流動性は、前記累積回転角と載荷回数との関係において当該累積回転角が急激に増大したときのトルクで評価されることが好ましい。
【0033】
請求項10記載の発明によれば、前記耐流動性は、前記累積回転角と載荷回数との関係において当該累積回転角が急激に増大したときのトルクで評価されるので、各トルクの中で急激に変化した累積回転角と載荷回数との関係を示すトルクを把握することで、供試体の耐流動性をより正確に評価することができるようになる。
【0034】
請求項11記載の発明のように、供試体を0℃よりも高く、かつ100℃よりも低い温度に設定した恒温槽に浸漬した状態で前記評価を行うことが好ましい。
【0035】
請求項11記載の発明によれば、供試体を0℃よりも高く、かつ100℃よりも低い温度に設定した恒温槽に浸漬した状態で前記評価を行うので、夏場での温度が60℃を超えるわが国でのアスファルト舗装道路の実情に応じた評価ができるようになる。
【0036】
請求項12記載の発明は、ベース上に立設された載荷台と、アスファルト混合物を円柱形状に成形した上で該載荷台に着脱自在にセットされるように構成した供試体と、前記載荷台にセットされた供試体の軸心まわりにねじりを加えるためのトルクを載荷するトルク載荷ユニットと、該トルク載荷ユニットの動作を制御する制御ユニットとを備えたことを特徴とするアスファルト混合物の評価装置に係るものである。
【0037】
請求項12記載の発明に係るアスファルト混合物の評価装置によれば、ベース上に立設された載荷台と、アスファルト混合物を円柱形状に成形した上で該載荷台に着脱自在にセットされるように構成した供試体と、前記載荷台にセットされた供試体の軸心まわりにねじりを加えるためのトルクを載荷するトルク載荷ユニットと、該トルク載荷ユニットの動作を制御する制御ユニットとを備えたので、現実のアスファルト舗装道路において発生することのある、ねじりせん断を直接求めることにより、実情に応じた評価ができるようになる。
【0038】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があったが、本発明ではそのような特殊な試験装置が不要である。
【0039】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があったが、本発明では供試体の温度が60℃を超える場合でも試験精度が急落して試験ができなくなることはない。
【0040】
請求項13記載の発明のように、前記載荷台にセットされた供試体の端面に直角方向の荷重を載荷する荷重載荷ユニットをさらに備えることが好ましい。
【0041】
請求項13記載の発明によれば、前記載荷台にセットされた供試体の端面に直角方向の荷重を載荷する荷重載荷ユニットをさらに備えたので、現実のアスファルト舗装道路において発生するような、荷重をも加味することにより、より実情に応じた評価ができるようになる。
【0042】
請求項14記載の発明に係る供試体は、アスファルト混合物を、直径が略100〜200mmで、高さが略50〜200mmである円柱形状に成形した上で、前記請求項12又は13に記載のアスファルト混合物の評価装置における載荷台に着脱自在にセットされるように構成したことを特徴とするものである。
【0043】
請求項14記載の発明によれば、アスファルト混合物を、直径が略100〜200mmで、高さが略50〜200mmである円柱形状に成形した上で、前記請求項12又は13に記載のアスファルト混合物の評価装置における載荷台に着脱自在にセットされるように構成したので、従来の試験装置では扱えないような大きさの供試体を使用して各評価を行うことができるようになる。
【0044】
すなわち、特許文献1、非特許文献1の試験装置ではその扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0045】
また非特許文献2等の試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、アスファルト混合物を円柱形状に成形した供試体の軸心まわりにねじりを加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価するので、現実のアスファルト舗装道路において発生することのある、ねじりせん断を直接求めることにより、実情に応じた評価ができるようになる。
【0047】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があったが、本発明ではそのような特殊な試験装置が不要である。また、この試験装置ではその扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0048】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があったが、本発明では供試体の温度が60℃を超える場合でも、試験精度が急落して試験ができなくなることはない。また、この試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0049】
その結果、高温下で、アスファルト混合物のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することができるようになる。
【0050】
請求項12記載の発明に係るアスファルト混合物の評価装置によれば、ベース上に立設された載荷台と、アスファルト混合物を円柱形状に成形した上で該載荷台に着脱自在にセットされるように構成した供試体と、前記載荷台にセットされた供試体の軸心まわりにねじりを加えるためのトルクを載荷するトルク載荷ユニットと、該トルク載荷ユニットの動作を制御する制御ユニットとを備えたので、現実のアスファルト舗装道路において発生することのある、ねじりせん断を直接求めることにより、実情に応じた評価ができるようになる。
【0051】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があったが、本発明ではそのような特殊な試験装置が不要である。
【0052】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があったが、本発明では供試体の温度が60℃を超える場合でも、試験精度が急落して試験ができなくなることはない。
【0053】
請求項14記載の発明によれば、アスファルト混合物を、直径が略100〜200mmで、高さが略50〜200mmである円柱形状に成形した上で、前記請求項12又は13に記載のアスファルト混合物の評価装置における載荷台に着脱自在にセットされるように構成したので、従来の試験装置では扱えないような大きさの供試体を使用してその各種評価を行うことができるようになる。
【0054】
すなわち、特許文献1、非特許文献1の試験装置ではその扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【0055】
また非特許文献2等の試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本発明ではそのような制限がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
図1は本発明の一実施形態に係るアスファルト混合物の評価を行うための試験装置1の全体構成を示す模式図であり、図2は供試体4の構成を示す斜視図であって、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。また、図3及び図4は供試体4を構成するアスファルト混合物の組成例を示す図表である。
【0057】
図1に示すように、本実施形態に係るアスファルト混合物の評価を行うための試験装置(評価装置に相当する。)1は、主として、ベース2上に立設された載荷台3と、載荷台3の中央付近に着脱自在に設定される供試体4と、載荷台3の上部に配置され、供試体4の上面に鉛直荷重を負荷する鉛直荷重載荷ユニット(荷重載荷ユニットに相当する。)5と、載荷台3の下部に配置され、供試体4の軸心まわりにねじりを加えるためのトルクを負荷するトルク載荷ユニット6と、供試体4を水浸する恒温槽7と、制御ユニット8とからなっている。
【0058】
載荷台3は、中間部材31と、下部部材32と、ベース2上に直立し中間部材31及び下部部材32をそれぞれ第一、第二の所定高さに支持する下部支柱33と、上部部材34と、中間部材31上に直立し上部部材34を第三の所定高さに支持する上部支柱35とからなっている。
【0059】
供試体4は、図2に示すように、アスファルト混合物41を直径略100〜200mm、厚さ略50〜200mmの円柱形状に成形したものであり、このアスファルト混合物41の上下面をそれぞれ接着剤44,45にてフランジ状の上下キャップ42,43に固定してなっている。上下キャップ42,43の適所にはそれぞれ孔部46,47が開口されている。アスファルト混合物41としては、例えば図3に示すような組成を有する排水性アスファルトと、例えば図4に示すような組成を有する密粒度アスファルトとを試験に用いることとした。
【0060】
鉛直荷重載荷ユニット5は、コンプレッサー51と、コンプレッサー51からの圧縮空気で往復駆動される空圧シリンダ54と、空圧シリンダ54の駆動軸に付設された荷重計57と、荷重計57の下部に設けられた2軸ピストン58とを備えている。
【0061】
そして、コンプレッサー51からの圧縮空気は、それぞれエアーレギュレータ52と圧力計53とを付設した空圧ライン55,56を介して空圧シリンダ54に給排気されるようになっている。2軸ピストン58は、前記中間部材31を貫通してその直下に取り付けた上載荷板59に連結されている。この上載荷板59には図示しない孔部が形成されており、この孔部と前記上キャップ42の孔部46とを平面的に整合させた上で、上載荷板59と上キャップ42とをボルト結合可能となっている。
【0062】
トルク載荷ユニット6は、油圧ポンプ61と、油圧ポンプ61で往復駆動される油圧シリンダ62と、油圧シリンダ62の駆動軸に付設された荷重計63と、荷重計63の前部に設けられ、前記油圧シリンダ62の駆動軸の往復運動をねじり運動に変換するねじりアーム64と、ねじりアーム64に付設されたねじり変位計65とを備えている。ねじり変位計65としては、例えば巻き込み式ワイヤ変位計を用いた。
【0063】
そして、油圧ポンプ61からの圧油は、油圧ライン66aを介して油圧シリンダ62に付設されたサーボバルブ66に供給されるようになっている。ねじりアーム64は、その回転軸がスラストベアリング67を介装された状態で前記下部部材32を貫通しており、その直上に取り付けた下載荷板68に連結されている。この下載荷板部68には図示しない孔部が形成されており、この孔部と前記下キャップ43の孔部47とを平面的に整合させた上で、下載荷板68と下キャップ43とをボルト結合可能となっている。
【0064】
恒温槽7は、供試体4を水浸するための水槽71と、水槽71から溢れた水を受けるウオータパン72と、このウオータパン72に貯留され、設定温度に自動制御される電気ヒータ73で加熱された水(温水)を水槽71に供給する水中ポンプ74とを備えている。なお、水槽71又は供試体4の適所には温度計77が装備されている。
【0065】
そして、水槽71を水浸する場合には、ウオータパン72内で所定温度に調整された水は、水中ポンプ74を駆動することで、水ライン76を介して水槽71に供給され、水槽71から溢れた水は、水ライン75を介してウオータパン72に戻るようになっている。水槽71を水浸しない場合には、その下部に設けられた水ラインを介してウオータパン72に水槽71内の水を回収すればよい。
【0066】
制御ユニット8は、ファンクションジェネレータ81と、サーボアンプ82と、データロガー83とを備えている。ファンクションジェネレータ81は、0.01〜10Hzでの載荷制御ができるものであって、サーボアンプ82に向けて単調載荷(単調増加)信号と、載荷時間0.1秒〜任意に設定可能で、かつ休止時間0.1秒〜任意に設定可能な繰り返し載荷(例えば載荷時間0.1秒、休止時間0.6秒のハーバーサイン波)信号とを入力することができる。なお、この入力信号は、三角波、矩形波その他の波形であってもよい。
【0067】
データロガー83には、荷重計63からトルク信号が入力され、ねじり変位計65からねじり変位信号が入力され、荷重計57から垂直荷重信号が入力され、温度計77から温度信号が入力されるとともに、このデータロガー83からは、サーボアンプ82にフィードバック信号が出力されるようになっている。なお図1中では、便宜上、各センサ63,65,57,77からデータロガー83に入力される信号ルートは省略している。
【0068】
そして、サーボアンプ82は、ファンクションジェネレータ81からの入力信号と、前記データロガー83からのフィードバック信号とに基づいて、前記油圧シリンダ62のサーボバルブ66を動作させることで、油圧シリンダ62を往復駆動して単調載荷又は繰り返し載荷する所定のトルクを発生させるようになっている。また、エアーレギュレータ52と圧力計53とを用いて、前記空圧シリンダ54を動作させることで、空圧シリンダ54を往復駆動させて所定の鉛直荷重を発生させるようになっている。
【0069】
このようにして、鉛直荷重載荷ユニット5で負荷される鉛直荷重により上キャップ42に鉛直荷重をかけながら、あるいは上キャップ42の上下動を止めながら、トルク載荷ユニット6によって下キャップ43にトルクを単調増加あるいは繰り返し負荷している状態におけるトルク、下キャップ43の回転角、鉛直荷重の各測定値をデータロガー83で収集する。そして、データロガー83より、載荷時間との関係、鉛直荷重と載荷時間との関係、回転角と載荷時間との関係、トルクと回転角との関係、及び鉛直荷重と回転角との関係を示す各データが出力され、これらの出力データに基づいて、単調載荷試験又は繰り返し載荷試験を行ったときの、アスファルト混合物41のせん断弾性係数(ねじり剛性)、ねじりせん断抵抗(耐久性)、累積回転角(耐流動性)が評価されるようになっている。
【0070】
ここで、本試験装置1を用いて、せん断弾性係数Gを算出する方法を説明する。図5は円柱形状の供試体4に作用する力と変位との関係を示す説明図、図6はその微小要素に作用する応力とひずみとの関係を示す説明図、図7はせん断応力の円筒座標上での分布を示す説明図である。以下、各図中におけるRは供試体4の半径、Hは高さ、ΔHは高さの変化量、Tはトルク、Fvは鉛直荷重、Δθは回転角、rは半径方向(r方向)の距離、zは鉛直方向(z方向)の距離、θは周方向(θ方向)の角度である。
【0071】
なお、試験装置1では鉛直荷重Fvが供試体4の上面に載荷され、トルクTが下面に載荷されているが、その試験装置1の取り扱い上、鉛直荷重FvとトルクTとの両方が供試体4の上面に載荷されるようにすることが好ましく、図5中では、そのような場合を想定している。
【0072】
図5、図6に示すように、円柱形状の供試体4の微小要素に作用する応力をσ,σθ,σ,τzr,τzθ,τθrとすると、軸に加えるトルクTは、
【数3】

となる。
【0073】
供試体4に作用するせん断応力τzθについて考える。
【0074】
このとき、上式から、まずせん断応力τzθのr方向の分布を仮定する必要があるが、例えば図7の下段に示すように、せん断応力τzθがrに対して線形分布であると考えると、
τzθ(r)=αr
である。なお、αは係数である。
【0075】
したがって、
【数4】

【数5】

【数6】

最大値τmaxはr=Rのときで、
【数7】

となる。
【0076】
さらに、r=R/2でのせん断応力を平均せん断応力τaveと仮定すると、
【数8】

となる。
【0077】
さらに、面積平均を平均せん断応力τaveと仮定すると、
【数9】

【数10】

となる。
【0078】
つぎに、円柱形状の供試体4の微小要素の変位をu,uθ,uとし、ひずみをε,εθ,ε,γrz,γzθ,γrθとすると、
【数11】

となる。
【0079】
せん断ひずみγzθは、
【数12】

となる。
【0080】
なお、r=Rのとき最大値
【数13】

となる。
【0081】
平均値γzθ,aveについては、γzθが軸中心からrとともに直線的に増加すると仮定し(数12)、面積平均をとると、
【数14】

【数15】

となる。
【0082】
r=R/2の位置でのγzθを平均値と考えると、(数12)から、
【数16】

となる。
【0083】
せん断ひずみεは、
【数17】

となる。
【0084】
すなわち、せん断弾性係数Gを求めるには、線形弾性体と仮定すると、
【数18】

したがって、以下、
(1)τaveとγaveとして平均値(数10、数15)を用いる場合を左側に表示し、
(2)τaveとγaveとしてr=R/2での値(数8、数16)を用いる場合を右側に表示すると、
【数19】

となる。
【0085】
(数19)の最終式より、供試体4の高さHと半径Rとは既知であるので、トルクTと回転角Δθとを与えることで、せん断弾性係数Gを計算できることがわかる。
【0086】
図8、図9は試験装置1を用いて供試体4の各種試験を行う手順を示すフローチャートである。以下、説明する。
【0087】
図8(a)に示すメインフローにおいて、まず供試体4を載荷台3の上下載荷板59,68間に設置する(ステップS1)。ここでは、同図(b)に示すサブフローにおいて、図3及び図4に示した組成を有するアスファルト混合物41を円柱形状に形成しておく。このアスファルト混合物41の上面に上キャップ42を接着剤44で接着し、下面に下キャップ43を接着剤45で接着することにより供試体4とする(ステップS11)。ついで、供試体4を載荷台3にセットして、上載荷板59の上下動を調整しながら、上下キャップ42,43と上下載荷板59,68とをボルトにて固定する(ステップS12)。そして、ウオータパン72に貯留しておいた水を電気ヒータ73で所定温度(例えば20℃又は60℃)に昇温しておき、水中ポンプ74でウオータパン72から水槽71に温水を供給することにより供試体4の温度調整を行う(ステップS13)。
【0088】
メインフローに戻り、単調載荷試験と繰り返し載荷試験とのいずれを行うかを選択する(ステップS2)。いま、単調載荷試験を行うものとする(ステップS3)。このときには、図9(a)に示すサブフローに示すように、鉛直載荷ユニット5により任意の鉛直荷重Fvを加えるか、上キャップ42の上下動を固定する(ステップS31)。ここで、鉛直荷重Fvを加える場合は、鉛直荷重載荷ユニット5のコンプレッサー51からの圧縮空気をエアーレギュレータ52と圧力計53とを用いて制御し、この制御された圧縮空気で空圧シリンダ54を往復駆動し、その荷重計57、2軸ピストン58及び上載荷板59を介して供試体4の上面に鉛直荷重Fvを載荷する。ついで、荷重計63でトルクTの初期値を読み取り、ねじり変位計65で回転角Δθの初期値を読み取り、荷重計57で鉛直荷重Fvの初期値を読み取り、温度計77で供試体4の温度Teの初期値を読み取る(ステップS32)。
【0089】
ついで、トルク載荷ユニット6により下キャップ43にトルクTを与え、ねじりせん断を開始する(ステップS33)。このとき、サーボアンプ82は、ファンクションジェネレータ81からの入力信号と、データロガー83からのフィードバック信号とに基づいて、トルク載荷ユニット6の油圧シリンダ62のサーボバルブ66を動作させて、その油圧シリンダ62を往復駆動し、その荷重計63、ねじりアーム64、ねじり変位計65、スラストベアリング67及び下載荷板68を介して供試体4の下面に単調に増大するトルクTを載荷する。ねじりせん断中、荷重計63でトルクTを計測し、ねじり変位計65で回転角Δθを計測し、荷重計57で鉛直荷重Fvを計測し、温度計77で供試体4の温度Teを計測する(ステップS34)。そして、回転角Δθが45度に達するか、供試体4がねじり破壊した時点での試験を終了し(ステップS35)、リターンする。
【0090】
図10〜図12は単調ねじり試験を行った場合の実測値を示すグラフであって、図10は排水性アスファルト混合物(供試体温度20℃、水浸)の場合、図11は排水性アスファルト混合物(供試体温度60℃、水浸)の場合、図12は密粒度アスファルト混合物(供試体温度20℃、水浸)の場合をそれぞれ示している。以下、説明する。
【0091】
(1)排水性アスファルト混合物(供試体温度20℃、水浸)の場合
図10の左上に示すトルクTと載荷時間tとの関係において、載荷時間t=20秒未満では、トルクTはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、20秒でT=380N・mとなったときにピークを示し、その後はトルクTが急激に減少し、30秒でT=0N・mとなっている。このことは、t=20秒で供試体4が破断したことを意味する。
【0092】
ここでは、同図の右上に示す鉛直荷重Fvと載荷時間tとの関係においては、鉛直荷重Fvを加えておらず、上キャップ42を固定しているものとする。トルクTを加えたときの反力により、載荷時間t=20秒未満では、鉛直荷重Fvはこの載荷時間tに比例して徐々に増加している。そして、20秒で鉛直荷重Fv=20Nとなったときにピークを示し、その後は鉛直荷重Fvが急激に減少し、30秒後には鉛直荷重Fv=0Nとなっている。このことは、t=20秒で供試体4が破断したことに一致する。
【0093】
さらに、同図の中央に示す回転角Δθと載荷時間tとの関係においても、載荷時間t=20秒未満では、回転角Δθはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、20秒でΔθ=45度となったときにピークを示し、その後は回転角Δθ=45度(一定)となっている。このことも、t=20秒で供試体4が破断したことに一致する。
【0094】
そして、トルクTと回転角Δθとの関係を求めると、同図の左下に示すようになる。すなわち、初期の回転角θとトルクTとは比例関係にあるので、これらの初期値(又はその付近の値)を上記(数19)の最終式に代入することで、供試体4のせん断弾性係数Gを計算することができる。これによりねじり剛性が評価される。また、回転角Δθ=5度でトルクT=380N・mのピークとなっており、このピーク値により供試体4のせん断抵抗が得られる。これにより耐久性が評価される。
【0095】
さらに、鉛直荷重Fvと回転角Δθとの関係を求めると、同図の右下に示すようになる。すなわち、回転角Δθで鉛直荷重Fv=20Nのピークとなっており、このピーク値により供試体4のダイレイタンシー(せん断による体積変化)特性が得られる。
【0096】
(2)排水性アスファルト混合物(供試体温度60℃、水浸)の場合
図11の左上に示すトルクTと載荷時間tとの関係において、載荷時間t=5秒未満では、トルクTはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、5〜10秒でT=80N・mとなったときにピークを示し、その後はトルクTが徐々に減少し、20秒でT=0N・mとなっている。このことは、t=10秒で供試体4が破断したことを意味する。
【0097】
また、同図の右上に示す鉛直荷重Fvと載荷時間tとの関係において、鉛直荷重Fvを加えておらず、上キャップ42を固定している。このときには、トルクTを加えたときの反力により、載荷時間t=2秒未満では、鉛直荷重Fvはこの載荷時間tに比例して僅かに増加している。そして、2〜10秒で鉛直荷重Fv=5Nとなったときにピークを示し、その後は鉛直荷重Fvが急激に減少して鉛直荷重Fv=0Nとなっている。このことは、t=10秒で供試体4が破断したことと一致する。
【0098】
さらに、同図の中央に示す回転角Δθと載荷時間tとの関係においても、載荷時間t=35秒未満では、回転角θはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、42秒で回転角Δθ=45度となったときにピークを示し、その後は回転角Δθ=45度(一定)となっている。このことは、前記したように、載荷時間t=10秒で供試体4が破断したことと一致しない。これは、高温下のアスファルト混合物41のねばりが出たためであると推察される。
【0099】
そして、トルクTと回転角Δθとの関係を求めると、同図の左下に示すようになる。すなわち、初期の回転角ΔθとトルクTとは比例関係にあるので、これらの初期値(又はその付近の値)を上記(数19)の最終式に代入することで、供試体4のせん断弾性係数Gを計算することができる。これにより、前記(1)の場合よりも、ねじり剛性がかなり小さくなっているものと評価される。また、回転角θ=5度でトルクT=80N・mのピークとなっており、このピーク値により供試体4のせん断抵抗が得られる。これにより、前記(1)の場合よりも、耐久性がかなり小さくなっているものと評価される。
【0100】
さらに、鉛直荷重Fvと回転角Δθとの関係を求めると、同図の右下に示すようになる。すなわち、回転角Δθ=5度で鉛直荷重Fv=5Nのピークとなっており、このピーク値により供試体4のダイレイタンシー特性が得られる。
【0101】
(3)密粒度アスファルト混合物(供試体温度20℃、水浸)の場合
図12の左上に示すトルクTと載荷時間tとの関係において、載荷時間t=35秒未満では、トルクTはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、35秒でT=680N・mとなったときにピークを示し、その後はトルクTが急激に減少し、40秒でT=0N・mとなっている。このことは、t=35秒で供試体4が破断したことを意味する。
【0102】
また、同図の右上に示す鉛直荷重Fvと載荷時間tとの関係において、ここでは鉛直荷重Fvを加えておらず、上キャップを固定している。このときには、トルクTを加えたときの反力により、載荷時間t=5秒未満では、鉛直荷重Fvはこの載荷時間tに比例して僅かに増加している。そして、5〜10秒で鉛直荷重Fv=20Nとなったときにピークを示し、その後は鉛直荷重Fvが急激に減少し、20秒後には鉛直荷重Fv=0Nとなっている。このことは、t=35秒で供試体4が破断したことと一致する。
【0103】
さらに、同図の中央に示す回転角Δθと載荷時間tとの関係においても、載荷時間t=35秒未満では、回転角θはこの載荷時間tに比例して徐々に増加しており、42秒でΔθ=45度となったときにピークを示し、その後は回転角Δθ=45度(一定)となっている。このことも、t=35秒で供試体4が破断したことに一致する。
【0104】
そして、トルクTと回転角Δθとの関係を求めると、同図の左下に示すようになる。すなわち、初期の回転角ΔθとトルクTとは比例関係にあるので、これらの初期値(又はその付近の値)を上記(数19)の最終式に代入することで、供試体4のせん断弾性係数Gを計算することができる。これにより、前記(1)の場合よりも、ねじり剛性が若干小さくなっているものの、(2)の場合よりも、ねじり剛性が大きくなっていると評価される。また、回転角Δθ=5度でトルクT=680N・mのピークとなっており、このピーク値により供試体4のせん断抵抗が得られる。これにより、前記(1)(2)の場合よりも、大きな耐久性があると評価される。
【0105】
さらに、鉛直荷重と回転角との関係を求めると、同図の右下に示すようになる。すなわち、回転角Δθ=5度で鉛直荷重Fv=20Nのピークとなっており、このピーク値により供試体4のダイレイタンシー特性が得られる。
【0106】
一方、上記図8(a)のメインフローにおける、ステップS2での選択により、繰り返し載荷試験を行うものとする(ステップS4)。ここでは、図9(b)に示すサブフローにおいて、鉛直載荷ユニット5により任意の鉛直荷重Fvを加えるか、上キャップ42の上下動を固定する(ステップS41)。ここで、鉛直荷重Fvを加える場合は、鉛直荷重載荷ユニット5のコンプレッサー51からの圧縮空気をエアーレギュレータ52と圧力計53とを用いて制御し、この制御された圧縮空気で空圧シリンダ54を往復駆動し、その荷重計57、2軸ピストン58及び上載荷板59を介して供試体4の上面に鉛直荷重Fvを載荷する。
【0107】
ついで、繰り返しトルクT、載荷時間t、載荷回数Nを設定する(ステップS42)。荷重計63でトルクTの初期値を読み取り、ねじり変位計65で回転角Δθの初期値を読み取り、荷重計57で鉛直荷重Fvの初期値を読み取り、温度計77で供試体4の温度Teの初期値を読み取る(ステップS43)。
【0108】
ついで、トルク載荷ユニット6により繰り返しねじりを開始する(ステップS44)。このとき、サーボアンプ82は、ファンクションジェネレータ81からの入力信号と、データロガー83からのフィードバック信号とに基づいて、トルク載荷ユニット6の油圧シリンダ62のサーボバルブ66を動作させて、その油圧シリンダ62を往復駆動し、その荷重計63、ねじりアーム64、ねじり変位計65、スラストベアリング67及び下載荷板68を介して供試体4の下面に、所定のタイミングで繰り返すようにトルクTを載荷する。繰り返しねじり中、荷重計63でトルクTを計測し、ねじり変位計65で回転角Δθを計測し、荷重計57で鉛直荷重Fvを計測し、図略のカウンタで載荷回数Nを計測し、温度計77で供試体4の温度Teを計測する(ステップS45)。
【0109】
そして、回転角Δθ=45度に達するか、供試体4がねじり破壊した時点での試験を終了して(ステップS46)、リターンする。もし、上記ステップS46で回転角Δθが45度に達せず、かつ供試体4がねじり破壊せずに所定載荷回数に達したとすると、その時点で試験を終了して(ステップS47)、リターンする。
【0110】
図13、図14は繰り返しねじり試験を行った場合の推定を示すグラフであって、図13は微小トルクの繰り返し載荷(複数のトルクTq1,Tq2,・・・Tqnを載荷する場合)、図14は中トルクの繰り返し載荷(トルクTq1<Tq2の場合)を示す。以下、説明する。
【0111】
(1)微小トルクの繰り返し載荷(複数のトルクTq1,Tq2,・・・Tqnを載荷する場合)
図13に示すトルクTと回転角Δθとの関係において、供試体4に微小トルクTq1,Tq2,・・・Tqnをそれぞれ繰り返し載荷した時には、回転角ΔθとトルクTq1,Tq2,・・・Tqnとのなす傾きが略一定となった時点での値(各トルクの最終値又はその付近の値)を上記(数19)の最終式にそれぞれ代入することで、供試体4の各せん断弾性係数Gを計算することができ、これにより、ねじり剛性が評価される。
【0112】
(2)中トルクの繰り返し載荷(トルクTq1<Tq2の場合)
図14の左上に示すように、供試体4に中トルクTq1を載荷したときのトルクTと回転角Δθとの関係においては、回転角ΔθとトルクTq1とのなす傾きが徐々に大きくなって一定となるが、図14の右上に示すように、供試体4に中トルクTq2を載荷したときのトルクと回転角との関係においては、回転角θとトルクTq1とのなす傾きが徐々に小さくなって一定とならない。
【0113】
したがって、図14の下に示す載荷回数Nと累積回転角θとの関係において、トルクTq1が載荷された場合には累積回転角θが一定となるのに対し、トルクTq2が載荷された場合には累積回転角θが、ある載荷回数Nで急激に大きくなる。これにより、供試体4の耐流動性が評価される。
【0114】
以上説明したように、この実施形態によれば、アスファルト混合物41を円柱形状に成形した供試体4の軸心まわりにねじりを加えたときの該供試体4の応答に基づいて、前記供試体4のせん断弾性係数G、耐流動性及び耐久性の少なくとも一つを評価するので、現実のアスファルト舗装道路において発生することのある、ねじりせん断を直接求めることにより、実情に応じた評価ができるようになる。
【0115】
また特許文献1、非特許文献1のホイールトラッキング試験を行うためには、アスファルト混合物の板供試体の表面に試験輪を当てて水平前後運動を繰り返し作用させるための特殊な試験装置が必要であるという欠点があったが、本実施形態ではそのような特殊な試験装置が不要である。また特許文献1、非特許文献1の試験装置ではその扱える供試体の大きさが300mm四方×50mm厚さのアスファルト混合物の板供試体であって、大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本実施形態ではそのような制限がない。
【0116】
さらに非特許文献2の間接引張モードの試験及び類似方法では、供試体の温度が40℃以上になると供試体が軟らかくなるため、試験精度が急落して試験ができなくなるといった欠点があったが、本実施形態では供試体4の温度が60℃を超える場合でも、試験精度が急落して試験ができなくなることはない。また非特許文献2等の試験装置で扱える供試体の大きさが直径150mm、厚さ38mm〜50mmのアスファルト混合物の円柱供試体であって、この場合も大きな供試体が扱えないという欠点があったが、本実施形態ではそのような制限がない。
【0117】
その結果、高温下で、アスファルト混合物41のねじりせん断による剛性、耐久性及び流動性を適切に評価することができるので、実情に応じた評価を行うことができるようになる。
【0118】
なお、上記実施形態では、トルクTと回転角Δθとの関係に基づいて評価を行っているが、(数19)の式から、トルクTと回転角Δθとを、せん断応力τaveとせん断ひずみγaveとにそれぞれ置き換えて評価を行ってもよいのはもちろんである。
【0119】
また、上記実施形態では、(数3)の式から、まずせん断応力τzθのr方向の分布を線形弾性と仮定したが、例えば図7の上段に示すように、τzθのがrにかかわらず一様分布(完全塑性)であると考えると、
τzθ(r)=τmax=const
である。
【0120】
したがって、
【数20】

となるから、平均せん断応力τaveは、
【数21】

となる。
【0121】
また、上記実施形態では、供試体4の側圧を大気圧(一定)としているが、側圧を可変として繰り返し側圧を与えることとしてもよい。また、供試体4の上キャップ42を拘束しているが、鉛直荷重載荷ユニット5を往復駆動することで、静的又は繰り返し変化する軸圧を与えることとしてもよい。これらを実験することにより、供試体4のさらなる評価が可能となる。また、鉛直荷重載荷ユニット5の駆動源を、圧空シリンダ54に代えて油圧シリンダ等としてもよいし、トルク載荷ユニット6の駆動源を、油圧シリンダ62に代えて圧空シリンダ等としてもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、恒温槽7に供試体4を水浸して温度制御を行っているが、供試体4まわりの空調を行うこととしてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、ねじり変位計65として、巻き込み式ワイヤ変位計を使用しているが、これに代えて例えばレーザ変位計を用いることで、供試体4の微小な回転角Δθの計測精度をさらに向上させることができる。さらに、供試体4の体積変化量ΔVや、供試体4の損失量ΔWを計測することとしてもよい。これらにより、供試体4のさらに精密な評価が可能となる。
【0124】
また、上記実施形態では、データロガー83からは、トルクTと載荷時間tとの関係、鉛直荷重Fvと載荷時間tとの関係、回転角Δθと載荷時間tとの関係、トルクTと回転角Δθとの関係、鉛直荷重Fvと回転角Δθとの関係がデータ出力されているが、各データを予め所定の演算プログラムを入力しておいたパーソナルコンピュータ(不図示)に入力して、せん断弾性係数G、せん断弾性抵抗及び累積回転数Nを算出し、これらの計算値に基づいて供試体4のねじり剛性、耐久性、耐流動性の少なくとも1つを自動的に評価するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の一実施形態に係るアスファルト混合物を評価するための試験装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】供試体の構成を示す斜視図であって、(a)は正面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図3】供試体を構成するアスファルト混合物(排水性アスファルトの場合)の組成例を示す図表である。
【図4】供試体を構成するアスファルト混合物(密粒度アスファルトの場合)の組成例を示す図表である。
【図5】円柱形状の供試体に作用する力と変位との関係を示す説明図である。
【図6】円柱形状の供試体の微小要素に作用する応力とひずみとの関係を示す説明図である。
【図7】せん断応力の円筒座標上での分布を示す説明図である。
【図8】試験装置を用いてアスファルト混合物の各種試験を行う手順を示すフローチャートであって、(a)はメインフローチャート、(b)は(a)におけるステップS1のサブフローチャートである。
【図9】試験装置を用いてアスファルト混合物の各種試験を行う手順を示すフローチャートであって、(a)は図8(a)におけるステップS3のサブフローチャート、(b)は図8(b)におけるステップS4のサブフローチャートである。
【図10】単調ねじり試験を行った場合(排水性アスファルト混合物、供試体温度20℃、水浸の場合)での実測値を示すグラフである。
【図11】単調ねじり試験を行った場合(排水性アスファルト混合物、供試体温度60℃、水浸の場合)の実測値を示すグラフである。
【図12】単調ねじり試験を行った場合(密粒度アスファルト混合物、供試体温度20℃、水浸の場合)の実測値を示すグラフである。
【図13】繰り返しねじり試験を行った場合(微小トルクの繰り返し載荷)の推定を示すグラフである。
【図14】繰り返しねじり試験を行った場合(中トルクの繰り返し載荷)の推定を示すグラフである。
【符号の説明】
【0126】
1 試験装置(評価装置に相当する。)
2 ベース
3 載荷台
4 供試体
41 アスファルト混合物
42 上キャップ
43 下キャップ
44,45 接着剤
5 鉛直荷重載荷ユニット(荷重載荷ユニットに相当する。)
54 空圧シリンダ
57 荷重計
59 上載荷板
6 トルク載荷ユニット
62 油圧シリンダ
63 荷重計
64 ねじりアーム
65 ねじり変位計
68 下載荷板
7 恒温槽
71 水槽
72 ウオータパン
73 電気ヒータ
77 温度計
8 制御ユニット
81 ファンクションジェネレータ
82 サーボアンプ
83 データロガー
T トルク
Fv 鉛直荷重
Δθ 回転角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト混合物を円柱形状に成形した供試体の軸心まわりにねじりを加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価することを特徴とするアスファルト混合物の評価方法。
【請求項2】
供試体の端面に直角方向の荷重をさらに加えたときの該供試体の応答に基づいて、前記供試体のねじり剛性、耐久性及び耐流動性のうちの少なくとも一つを評価することを特徴とする請求項1記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項3】
供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを単調に増大しつつ載荷させたときの当該トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性及び耐久性の少なくとも一方を評価することを特徴とする請求項1又は2記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項4】
前記ねじり剛性は、前記トルクと回転角との関係における初期値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されることを特徴とする請求項3記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項5】
前記耐久性は、前記トルクと回転角との関係における当該トルクのピーク値で評価されることを特徴とする請求項3記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項6】
供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを段階的に増大しつつ繰り返し載荷させたときの各トルクと回転角との関係に基づいて、前記供試体のねじり剛性を評価することを特徴とする請求項1又は2記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項7】
前記ねじり剛性は、前記各トルクと回転角との関係におけるトルクごとの最終値付近の値を用いて計算されるせん断弾性係数で評価されることを特徴とする請求項6記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項8】
前記せん断弾性係数は、次式で表現されるものであることを特徴とする請求項4又は7記載のアスファルト混合物の評価方法。
【数1】

ここに、Gはせん断弾性係数、Hは供試体高さ、Rは供試体半径、Tはトルク、Δθは回転角を示す。
【請求項9】
供試体に前記ねじりを加えるためのトルクを段階的に増大しつつ繰り返し載荷させたときの各トルクでの累積回転角と載荷回数との関係に基づいて、前記供試体の耐流動性を評価することを特徴とする請求項1又は2記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項10】
前記耐流動性は、前記累積回転角と載荷回数との関係において当該累積回転角が急激に増大したときのトルクで評価されることを特徴とする請求項9記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項11】
供試体を0℃よりも高く、かつ100℃よりも低い温度に設定した恒温槽に浸漬した状態で前記評価を行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のアスファルト混合物の評価方法。
【請求項12】
ベース上に立設された載荷台と、アスファルト混合物を円柱形状に成形した上で該載荷台に着脱自在にセットされるように構成した供試体と、前記載荷台にセットされた供試体の軸心まわりにねじりを加えるためのトルクを載荷するトルク載荷ユニットと、該トルク載荷ユニットの動作を制御する制御ユニットとを備えたことを特徴とするアスファルト混合物の評価装置。
【請求項13】
前記載荷台にセットされた供試体の端面に直角方向の荷重を載荷する荷重載荷ユニットをさらに備えたことを特徴とする請求項11記載のアスファルト混合物の評価装置。
【請求項14】
アスファルト混合物を、直径が略100〜200mmで、高さが略50〜200mmである円柱形状に成形した上で、前記請求項12又は13に記載のアスファルト混合物の評価装置の載荷台に着脱自在にセットされるように構成したことを特徴とする供試体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−192391(P2009−192391A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33941(P2008−33941)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】