説明

アダパレン含有外用剤組成物

【課題】角質や皮膚への浸透性に優れたアダパレン含有外用剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)アダパレン、並びに(b)イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸の少なくとも1種、を含有することを特徴とする外用剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角質及び皮膚への浸透性に優れたアダパレン含有外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アダパレンは、第三世代の合成レチノイド類の1つで、脂腺、毛包に浸透して効果を発揮し、ニキビの初発疹である面皰のサイズを縮小することが知られており、また、アダパレン含有製剤については、従来の外用レチノイド剤の高い治療効果を維持しつつ、落屑、灼熱感などの副作用が少ないという報告がある(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、本来、皮膚は、外界からの異物の侵入を防ぐバリアー機能(角質層)を有しているため、単に外用剤中に薬効成分を配合しただけでは、充分な皮膚浸透性が得られず、充分な薬効を発現できないことが多い。
【0004】
そして、0.1%アダパレン含有ゲル剤について、拡散セルを用いたin vitro経皮吸収性試験を実施したところ、毛包への素早い浸透が確認されたものの、投与15時間後においてもアダパレンは対投与量で僅か0.01%しかレシーバ液に移行しないことが報告されており(非特許文献2参照)、角質を介した皮膚への浸透性が低いことが推察される。
【0005】
【非特許文献1】西嶋攝子「皮膚の化学」2(3)、p155−159、2003年
【非特許文献2】J.Allec, et al, Journal of the American Academy of Dermatology, 36(6):S119-S125(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アダパレンはレチノイド類であるため、ビタミンA類と同様にニキビ、角化症、乾癬、シワ及びシミ等の皮膚疾患に有効であることが期待される。しかしながら、上述したようにアダパレンは角質や皮膚への浸透性が低く、表皮や真皮で起こる疾患に対しては充分な治療効果を発揮できていないと考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、角質や皮膚への浸透性に優れたアダパレン含有外用剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アダパレンと共にイブプロフェンピコノールやグリチルレチン酸を配合することによって、アダパレンの角質や皮膚への浸透性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の態様は、(a)アダパレン、並びに(b)イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸の少なくとも1種、を含有することを特徴とする外用剤組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、角質や皮膚への浸透性に優れたアダパレン含有外用剤組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
「アダパレン」は、アダマンチル骨格を持った分子量412.52の化合物で、テトラヒドロフランに溶解するが、エタノールにやや溶け難く、水に不溶といった特徴を有する(THE MERCK INDEX参照)。アダパレンの含有(配合)量は、本外用剤組成物中0.01〜1.0質量%であり、アダパレンの有効性と安全性のバランスから0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0012】
「イブプロフェンピコノール」の含有(配合)量は、アダパレンの1質量部に対して0.5〜25質量部であり、アダパレンの皮膚への浸透性を高めるという点で、2.5〜25質量部が好ましい。イブプロフェンピコノールの含有量が0.25質量部未満であるとアダパレンの皮膚への浸透性が充分でないと考えられ、好ましくないからである。一方、本外用剤組成物を用いて外用剤を調製するときにアダパレンが外用剤中に1.0質量%を超えて含有されていると、アダパレンの1質量部に対して25質量部を超えるイブプロフェンピコノールを配合した際に、アダパレンの皮膚への浸透性は充分にあると思われるが、イブプロフェンピコノールの配合量が多くなりすぎて、皮膚に対する刺激が強くなり、また、溶解し難くなって製剤化が困難になるなど好ましくないからである。
【0013】
「グリチルレチン酸」の含有(配合)量は、アダパレンの1質量部に対して0.5〜5質量部である。グリチルレチン酸の含有量が0.5質量部未満であってもアダパレンの皮膚への浸透性あると考えられるが、アダパレンを0.01質量%含有する外用剤を調製する際に、アダパレンの1質量部に対して0.5質量部未満のグリチルレチン酸を配合すると、グリチルレチン酸の配合量が少なすぎて、その抗炎症効果が期待できないからである。一方、5質量部を超えるとアダパレンの皮膚への浸透性が却って低下するからである。
【0014】
本発明において、イブプロフェンピコノールとグリチルレチン酸は何れか1種を用いるだけでなく、2種を併用してもよい。
【0015】
なお、イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸は抗炎症作用を有し、本発明の外用剤組成物は単にアダパレンの角質や皮膚への浸透性を増強するだけでなく、炎症症状を伴う角化症や乾癬等の治療に有効であり、また、乾燥肌、敏感肌、アトピー性肌を併有するニキビ、シワ及びシミ等の皮膚疾患において優れた治療効果を発揮するものと予想される。
【0016】
本発明のアダパレン含有外用剤組成物は、液剤、ローション剤、ゲル剤、エアゾール剤、クリーム剤、水性軟膏剤等の各種外用剤として提供される。
【0017】
液剤は、アダパレン、イブプロフェンピコノール及び/又はグリチルレチン酸を、水、低級アルコール、多価アルコール又はこれらの混液に溶解・分散させて調製することができる。なお、イブプロフェンピコノールやグリチルレチン酸、油成分を完全に溶解できない場合には可溶化するのに必要な界面活性剤を配合すればよい。また、このような液剤と適当な液化ガス(液化石油ガス、ジメチルエーテルなど)をアルミ製耐圧容器等に入れてエアゾール剤を調製することもできる。さらに、このような液剤に適当なゲル化剤を配合してゲル剤を調製することも可能である。
【0018】
クリーム剤も常法により調製が可能である。例えば、水と多価アルコール相にアダパレン及び界面活性剤を添加して、ホモミキサー用容器に入れて脱気・加温する。ホッパーから加温したイブプロフェンピコノール及び/又はグリチルレチン酸の溶解相や油分及び界面活性剤を溶解させた油相を添加し、高速攪拌(ホモジナイズ)した後、室温まで冷却することによってクリーム剤を調製することができる。ここで、HLBの高い界面活性剤を用いればO/Wクリーム剤が調製できるし、HLBの低い界面活性剤を用いればW/Oクリーム剤が調製できる。
【0019】
水性軟膏剤は、室温で固体のポリエチレングリコールと室温で液状の多価アルコールをそれぞれ任意の量とり、加温融解後、アダパレン、イブプロフェンピコノール及び/又はグリチルレチン酸を加え、分散させた後、室温まで冷却することによって調製できる。
【0020】
本発明の外用剤組成物には、抗菌剤、殺菌剤、鎮痛剤、局所麻酔剤、組織修復剤、鎮痒剤、保湿剤、血管収縮剤、抗アレルギー剤、清涼化剤、酸素除去剤、ビタミン、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤などを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0021】
本発明の外用剤組成物には、医薬品や医薬部外品に配合可能な種々の基剤成分を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。このような基剤成分としては、精製水、低級アルコールや多価アルコール等の溶解補助剤、炭化水素、グリセリン脂肪酸エステル、ワックス成分、界面活性剤、抗酸化剤、乳化安定剤、ゲル化剤、粘着剤等、各種動植物からの抽出物、pH調整剤、防腐剤、キレート剤、香料、色素、液化ガスなどが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
下表1に示した比較例1〜5及び実施例1〜7の各液剤は、アダパレンを配合して24時間攪拌したアダパレンの分散液である。すなわち、比較例1はアダパレン、エタノール及び精製水を混合した液剤であり、比較例2〜5及び実施例1〜7は、アダパレン以外の配合成分をその濃度を変えてエタノール、pH調整剤及び精製水の混液に溶解させた後、さらにアダパレンを分散させて調製した液剤である。比較例2〜4は比較例1の組成に外用剤の有効成分として汎用されているパントテニルエチルエーテルを種々の濃度で配合した液剤であり、比較例5はグリチルレチン酸を5.0重量%で配合した液剤である。実施例1〜4はイブプロフェンピコノールを種々の濃度で配合した液剤であり、実施例5〜7はグリチルレチン酸を種々の濃度で配合した液剤である。なお、pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、リン酸二水素カリウム及び希塩酸を用い、各液剤のpHを約8に調整した。
【0024】
【表1】

【0025】
試験例1 アダパレンのシリコン膜移行性試験
前提:Tanakaらによれば、開放系でのシリコン膜を用いた移行性試験は局所投与製剤の経皮吸収性の評価に適しているとされている(S.Tanaka, et al., International Journal of Pharmaceutics, 27:29-38(1985))ことから、角質への浸透性をシリコン膜移行性試験により評価した。また、シリコン膜にすることで、アダパレンが浸透しやすい毛穴の影響を排除することができるので、単純にアダパレンの角質への移行性を評価できると考えられる。
【0026】
方法:シリコンゴム膜(2.5cm×2.5cm×0.5mm)上に比較例1〜5及び実施例1〜7の液剤を均一に塗布するためのガーゼを置き、各液剤を全体に広がるように150μLずつ塗布し、直ちに恒温器(約35℃,湿度成行)に投入した。1時間後、恒温器からシリコンゴム膜を取り出し、表面上の液剤を水で良く洗い流し、水気を良く拭き取った。これをメタノール中に1晩放置し、さらに超音波発生器にて完全にアダパレンをシリコン膜から抽出し、抽出液中のアダパレンの含有量を液体クロマトグラフィーにて測定した。各液剤のアダパレンのシリコン膜移行性を比較例1のシリコン膜移行率を1とした場合の移行率値として求めた。
【0027】
結果:実施例1〜4(アダパレンの1質量部に対して0.5〜25質量部のイブプロフェンピコノール)、実施例5〜7(アダパレンの1質量部に対して0.5〜5質量部のグリチルレチン酸)、比較例1〜5におけるシリコン膜移行性試験結果を図1に示す。なお、相対的移行率が1.4倍以上で効果ありと判断した。
【0028】
比較例1に対する移行率は、実施例1(アダパレンの1質量部に対して0.5質量部のイブプロフェンピコノール)で約1.7倍、実施例2(アダパレンの1質量部に対して2.5質量部のイブプロフェンピコノール)で約2.6倍、実施例3(アダパレンの1質量部に対して5質量部のイブプロフェンピコノール)で約3.5倍と濃度依存的に増大した。実施例4(アダパレンの1質量部に対して25質量部のイブプロフェンピコノール)でのアダパレン移行性は実施例3に比べ低下していたが、それでも約3倍の移行率を示した。このように、イブプロフェンピコノールにはアダパレンの移行性に適した量があった(アダパレンの1質量部に対して2.5〜25質量部のイブプロフェンピコノール)。
【0029】
また、実施例5(アダパレンの1質量部に対して0.5質量部のグリチルレチン酸)は約3.4倍、実施例6(アダパレンの1質量部に対して2.5質量部のグリチルレチン酸)は約2.9倍、実施例7(アダパレンの1質量部に対して5質量部のイブプロフェンピコノール)で約1.8倍と濃度依存的にシリコン膜移行性が低下し、比較例5(アダパレンの1質量部に対して25質量部のイブプロフェンピコノール)で約0.5倍と比較例1より低下した。このように,グリチルレチン酸においても移行性に適した量(アダパレンの1質量部に対して0.5〜5質量部のグリチルレチン酸)の存在が明らかになった。
【0030】
一方、比較例2〜4(アダパレンの1質量部に対して2.5〜25質量部のパントテニルエチルエーテル)においては、薬物によってアダパレンのシリコン膜移行性は殆ど増大しなかった。
【0031】
以上の結果より、イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸は、アダパレンのシリコン膜移行性を増大させる効果を有していることが明らかとなった。シリコン膜移行性と皮膚浸透性には相関関係があると考えられるため、イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸はアダパレンの皮膚浸透性を増大させると考えられる。
【0032】
試験例2 アダパレンの溶解度のシリコン膜移行性に対する影響
表1記載の各液剤中に溶解しているアダパレン量に依存してアダパレンのシリコン膜移行性が増大しているとも考えられることから、各液剤のアダパレンの溶解度とシリコン膜移行性との関係を調べるため、各液剤中のアダパレンの飽和溶解度を測定した。
【0033】
方法:表1に記載の比較例1〜5、実施例1〜4及び実施例5〜7の液剤を濾過し、濾液中のアダパレン量を、液体クロマトグラフィーを用いて定量した。各液剤の飽和溶解度を比較例1の溶解度を1としたときの溶解度比率として求めた。
【0034】
結果:結果を図2に示す。
比較例2(アダパレンの1質量部に対して2.5質量部のパントテニルエチルエーテル)では1.5倍、比較例4(アダパレンの1質量部に対して25質量部のパントテニルエチルエーテル)では約3倍と、アダパレンの溶解補助剤であるパントテニルエチルエーテルの濃度依存的にアダパレンの溶解度比率は増大した。また、実施例2(アダパレンの1質量部に対して0.5質量部のイブプロフェンピコノール)では1.5倍、実施例4(アダパレンの1質量部に対して25質量部のイブプロフェンピコノール)では3.6倍、実施例5(アダパレンの1質量部に対して0.5質量部のグリチルレチン酸)では0.7倍、実施例7(アダパレンの1質量部に対して5質量部のグリチルレチン酸)では1.8倍、比較例5(アダパレンの1質量部に対して25質量部のグリチルレチン酸)では1.6倍と、イブプロフェンピコノール、グリチルレチン酸の濃度依存的にアダパレンの溶解度比率は増大した。
【0035】
濃度依存的にアダパレンの溶解度比率を増大させたパントテニルエチルエーテルを配合した比較例2〜4の液剤では、アダパレンのシリコン膜移行性の増大は見られなかったが、イブプロフェンピコノールを配合した実施例1〜4ではほぼ濃度依存的にシリコン膜移行性が増大した。また、グリチルレチン酸を配合した実施例5〜7ではほぼ濃度依存的にシリコン膜移行性は増大しているが、アダパレンの溶解度比率は比較例1と大差ないことがわかった(以上、図1及び2参照)。
【0036】
以上のことを勘案すると、アダパレンのシリコン膜移行性は液剤中に溶解しているアダパレンの濃度に無関係で、アダパレンが液剤中に分散状態で存在していても変わらず、また、イブプロフェンピコノールやグリチルレチン酸の配合により、アダパレンのシリコン膜移行性が増大していると考えられる。
【0037】
すなわち、アダパレンの角質や皮膚への浸透性は液剤中に溶解しているアダパレンの濃度に無関係で、アダパレンが液剤中に分散状態で存在していても変わらず、また、イブプロフェンピコノールやグリチルレチン酸の配合により、アダパレンの角質や皮膚への浸透性が増大すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、アダパレンを含有し、ニキビ、角化症、乾癬、シワ及びシミ等に有効な液剤、ローション剤、ゲル剤、エアゾール剤、クリーム剤、水性軟膏剤等の各種外用剤を提供することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】アダパレンのシリコン膜移行率を示すグラフである。
【図2】アダパレンの溶解度比率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アダパレン、並びに(b)イブプロフェンピコノール及びグリチルレチン酸の少なくとも1種、を含有することを特徴とする外用剤組成物。
【請求項2】
アダパレンの含有量が外用剤組成物全体に対して0.01〜1.0質量%である請求項1記載の外用剤組成物。
【請求項3】
イブプロフェンピコノールの含有量がアダパレンの1質量部に対して0.5〜25質量部である請求項1記載の外用剤組成物。
【請求項4】
グリチルレチン酸の含有量がアダパレンの1質量部に対して0.5〜5質量部である請求項1記載の外用剤組成物。
【請求項5】
液剤、ローション剤、ゲル剤、エアゾール剤、クリーム剤又は水性軟膏剤である請求項1〜4の何れか1項に記載の外用剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−184446(P2008−184446A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20291(P2007−20291)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】