説明

アダマンタンアミンの還元性炭水化物誘導体、ならびにその合成およびその使用方法。

本発明は、式Aのアダマンタンアミンの還元性炭水化物誘導体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物または誘導体に関し、式中、R1、R2、R3およびR4は、一緒にまたは独立してH、F、メチル、または低級アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基であり、Zは、元々アルデヒドカルボニル基を有するモノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライドから誘導される。本発明はまた、このようなアダマンタンアミン誘導体の製造方法、およびこのような誘導体の使用方法に関する。本発明の化合物は、グラム陽性またはグラム陰性菌に起因する感染症の治療に有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2004年12月16日に出願され、参照することにより本明細書に組み込まれる米国仮出願No. 60/636,899の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、還元性炭水化物(reducing carbohydrate)とアダマンタンアミンとの間の反応により形成するアダマンタンアミン誘導体に関する。
【0003】
アダマンタンアミンおよびその誘導体は、これらの抗ウイルス特性および神経保護特性のために長期にわたって注目を受けている。遊離の第一級アミノ基を有するアダマンタンアミン(特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4 )、それに続くそのアルキル誘導体(特許文献5)、そのアダマンチンアミド誘導体(特許文献6)およびその金属錯体誘導体(特許文献7)の合成に関しては数多くの方法が存在するが、アダマンタンアミンの還元性炭水化物誘導体に利用できる報告は存在しない。アダマンタンアミン以外の他の第一級アミンの還元性炭水化物誘導体に関してはいくつかの刊行物が存在する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4参照)。
【0004】
第一級アミンと還元性炭水化物との反応の主生成物は、通常、N置換炭水化物アミンである。例えば、ラクトースと4-アミノトルエンとの反応から製造されるラクトシルアミン(式B)、または、マルトースと4-アミノベンゼンチオールとの反応から製造されるマルトシルアミン(式C)である。
【0005】
【化1】

このタイプの反応はMaillard反応と呼ばれる(非特許文献5;非特許文献6)。Maillard反応生成物は、自発的に、または熱または試薬による処理によって、対応するイソ−アミン(例えば、Amadori転位によるイソ-ラクトシル-アミン(式D)またはイソ−マルトシル−アミン(式E))に転化することができる。
【0006】
【化2】

【特許文献1】米国特許第5,599,998号明細書
【特許文献2】中国特許第1,400,205号明細書
【特許文献3】米国特許第3,388,164号明細書
【特許文献4】米国特許第3,391,142号明細書
【特許文献5】米国特許第3,391,142号明細書
【特許文献6】国際公開03/068726号パンフレット
【特許文献7】国際公開99/61450号パンフレット
【非特許文献1】Nucl. Acids Res. 28(1):15-18 (2000)
【非特許文献2】R. Kuhn, L. Birkofer, Ber. 71B:621-35 (1938)
【非特許文献3】Adachi, Susumu, Chemistry & Industry (1957)
【非特許文献4】Shimamura et al., J. Agric. Food Chem. 48(12): 6227-29 (2000)
【非特許文献5】Kramholler et. al, J. Agric. Food. Chem. 41(3):347-51 (1993)
【非特許文献6】Shimamura et al., J. Agric. Food Chem. 48(12): 6227-29 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アダマンタンアミンおよび還元性炭水化物からの同様の化合物に関してはまだ報告がされていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アダマンタンアミンおよび還元性炭水化物から形成し、式A
【0009】
【化3】

で表される誘導体であって、式中、R1、R2、R3およびR4が、一緒にまたは独立してH、F、メチル、または低級アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基であり、そして、Zが式F
【0010】
【化4】

で表される、前記の誘導体に関する。
【0011】
式Fは、カルボニル基の隣のメチレン基を通して式Aに結合した炭水化物残基である。Yは、水素またはモノサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライドでよい。Zは、通常「還元性炭水化物」として知られ、元々アルデヒドカルボニル基を有するモノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライドから誘導される。このような還元性炭水化物の例としては、グルコース、ラクトース、マルトース等が挙げられる。
【0012】
式G
【0013】
【化5】

により表される主生成物は、アダマンチンアミンのグリコシルアミン誘導体であり、これは、ほとんどの場合に自発的にまたは人為的にAmadori転位を受け、その後、R1、R2、R3、R4およびYが上記で定義される式Hの「イソグリコシル」生成物を形成する。
【0014】
【化6】

本発明の1つの特定の実施態様は、メマンチン(3,5-ジメチル-アダマンチルアミン)およびラクトースから形成する誘導体(式J)に関する。
【0015】
【化7】

別の実施態様において、本発明は、アダマンタンアミンおよび還元性炭水化物誘導体から形成する前記誘導体を効率的に製造する方法を提供する。本発明者は、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびN-メチルピロリジノン型の溶剤が、本発明化合物の製造のための反応媒体として特に有利であり、他の溶剤よりも高い収率およびより純粋な生成物を提供することを見出した。
【0016】
別の実施態様において、本発明は、有効量のアダマンタンアミンの還元性炭水化物誘導体をそれを必要とする患者に投与することにより、グラム陽性またはグラム陰性菌に起因する感染症を患っている患者を治療する方法を提供する。米国特許第6,818,633号明細書には、抗ウイルス活性を有する化合物に関する典型的な投薬量および投与経路が記載されている。本明細書においては、好適な投薬量は、レシピエントの体重1 kgあたり0.1〜400 mgの範囲である。好適な投与経路には、限定はされないが、経口、直腸、経鼻、吸入、局所、膣、および非経口が含まれる。
【実施例】
【0017】
本発明は、アダマンタンアミンおよび還元性炭水化物から形成する誘導体の、新規な製造および精製方法を提供し、これらはさらに以下の実施例によって記載されるものである。明細書中におけるこれらの使用方法およびその他の例はいずれも、例を示すだけのものであり、本発明または例示された形態の範囲および意味を限定するものではない。同様に、本発明は 本明細書に記載される特定の好ましい実施態様に限定されない。本発明の改変およびバリエーションは、当業者にはこの明細書から明らかなものであり、本発明の範囲から外れることなく到達することができるものである。従って、本発明は、特許請求の範囲と等価な包括的範囲に沿って特許請求の範囲の語句によってのみ限定されるものである。
【0018】
<実施例1>
メマンチン(3,5-ジメチル-アダマンチルアミン) 遊離塩基(8.0 g; 0.045 mol)およびラクトース一水和物(8.0 g.; 0.022 mol)を65 mlのアセトニトリル/水(1:1)に懸濁した。該混合物を還流に付し、最初に透明な溶液を形成させた。さらに3時間加熱することにより暗褐色の懸濁物が形成し、さらに1時間加熱を継続した。室温に冷却後、該混合物を半分の容量まで濃縮し、混合物を30 mlのクロロホルムで2回抽出した。黄色の水溶液を7.5 gの重量を有する黄色の粘着性固体にまで濃縮した。この物質のLC/MS解析により、35〜40%の付加生成物の存在を確認した。
【0019】
ラクトース-メマンチン付加生成物の最終精製として、ESLD(蒸発光散乱検出)を用いる分取HPLCにおいて、Luna C18カラム(溶剤A:水(0.1% TFA);溶剤B:アセトニトリル(0.1% TFA))によって、粗製物質の分離を行った。単離生成物の通常の純度は99%を超えるものであった。
【0020】
<実施例2>
冷却器に装備した250 mLの二口丸底フラスコに、メマンチン(3,5-ジメチル-アダマンチルアミン) 遊離塩基(10.0 g, 27.9 mmol)、ラクトース一水和物(10.0 g, 55.8 mmol)、DMF(80 mL)および水(1 mL)を仕込んだ。該混合物を73〜78℃で18時間加熱した。その後、混合物を室温に冷却し、ロータリーエバポレーターにより濃縮した。その後、残渣をメタノール(50 mL)に溶解し、撹拌しながらジエチルエーテル(500 mL)を添加した。該混合物をさらに10分間撹拌した。その後、沈殿物をろ過し、メタノール(50 mL)に再溶解した。ジエチルエーテル(500 mL)を該混合物に再度添加し、得られた沈殿物をろ過することにより、粗製メマンチン-ラクトース付加体(7.0 g, 50%)を赤色固体として得た。該固体をメタノール(300 mL)に溶解し、脱色炭(10.5g)を添加した。該混合物を室温で30分間撹拌し、その後、セライトによりろ過した。ろ過液を濃縮し、固体を真空オーブンに5時間置くことにより、メマンチン-ラクトース付加体(6.2 g)をHPLC純度が91%の淡黄色固体として得た。この生成物を固相抽出によりさらに精製した。
【0021】
<実施例3> メマンチン-ラクトース付加体の抗菌特性
生理食塩水における1%メマンチン-ラクトース付加体溶液の抗生物質活性を、3種のUSP細菌培養:スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)およびエシェリヒア・コリー(Escherichia coli)に対してディスク法(disk assay)を用いることにより評価した。0.9%の生理食塩水ディスク(ネガティブ・コントロール)および生理食塩水における1%ゲンタマイシン溶液(ポジティブ・コントロール)も含めた。表1に、阻害試験の阻止帯の結果を示す。各サンプルの周囲の増殖が見られない透明な領域(すなわち発育阻止帯)の大きさを測定することにより(mmで)、抗菌活性の評価を行った。抗菌活性が観察されない場合には、「阻止帯なし」と記載する。驚くべきことに、表1に示されるとおり、メマンチン-ラクトース付加体がスタフィロコッカス・アウレウスに関して抗菌活性を有することが見出された。これらの実験は、ヒトまたはその他の哺乳類における生物学的効果を予測し得るものであり、そして/または、本発明をヒトまたはその他の哺乳類においてグラム陽性またはグラム陰性菌に起因する感染症の治療のために使用する際のモデルとしての役割を果たし得るものである(例えば、「Kustimur et al., Chinese Medical Journal, 116(4):633-636 (2003)」を参照)。
【0022】
表1:メマンチン-ラクトース付加体の発育阻止帯(mm)試験結果
【0023】
【表1】

<定義>
本明細書において使用される場合に、「還元性炭水化物」という語句には アルデヒド末端基を有するか、または溶液中において遊離アルデヒド体と平衡状態にあるアセタールを有する全ての炭水化物、および、これらの光学異性体、ジアステレオマー、エナンチオマー、水和物、薬学的に許容される塩、ならびに、これらの混合物が含まれる。
【0024】
本明細書において使用される場合に、「低級」(例えば、「低級アルキル」、「低級アルケニル」または「低級アルキニル」)という語句は、1〜6個の炭素原子を有する対応する基を表す。
【0025】
本発明は、ここに記載される特定の実施態様による範囲に限定されるものではない。当業者であれば、ここに記載されるものに加えて、上記記載から本発明に種々の改変を施すことが可能である。このような改変は、特許請求の範囲内に含まれる。
【0026】
本明細書において引用される全ての特許、出願、公報、試験方法、文献、およびその他の事項は、参照することにより全体として、および、各参照が個々に参照されることにより組み入れられた場合と同じように組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で表される化合物であって、式中、R1、R2、R3およびR4が、一緒にまたは独立してH、F、メチル、または低級アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基であり、そして、Yが水素またはモノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライドから選択される前記の化合物、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは誘導体。
【請求項2】
化合物が式(II)
【化2】

で表される化合物からAmadori転位を受けた、請求項1記載の化合物であって、式中、R1、R2、R3およびR4が、一緒にまたは独立してH、F、メチル、または低級アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基であり、そして、Zが式(III)
【化3】

で表され、式中、Xは炭水化物残基が式(II)の窒素原子に結合する地点であり、そして、Yが水素またはモノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライドである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式(IV)
【化4】

で表される化合物。
【請求項4】
式(V)
【化5】

で表される化合物。
【請求項5】
反応媒体がアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリジノンから選択される溶剤を含む、請求項1記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
反応媒体がアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリジノンから選択される溶剤を含む、請求項2記載の化合物の製造方法。
【請求項7】
反応媒体がアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリジノンから選択される溶剤を含む、請求項3記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
反応媒体がアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリジノンから選択される溶剤を含む、請求項4記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の化合物の有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に起因する感染症を患っている患者を治療する方法。
【請求項10】
請求項2記載の化合物の有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に起因する感染症を患っている患者を治療する方法。
【請求項11】
請求項3記載の化合物の有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に起因する感染症を患っている患者を治療する方法。
【請求項12】
請求項4記載の化合物の有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に起因する感染症を患っている患者を治療する方法。

【公表番号】特表2008−523107(P2008−523107A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545737(P2007−545737)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045439
【国際公開番号】WO2006/066006
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(503450128)フォーレスト ラボラトリーズ, インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】Forest Laboratories, Inc.
【住所又は居所原語表記】909 Third Avenue, New York, New York 10022, U.S.A.
【Fターム(参考)】