説明

アニオン電着塗料組成物

【課題】 鉛化合物やクロム化合物のような有害金属を用いることなく防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性、低温硬化性及び耐2次タレ・ワキ性などに優れた塗膜を形成するアニオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)50〜95質量部、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤(B)50〜5質量部、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)0.1〜30質量部含有するアニオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛化合物やクロム化合物のような有害金属を用いることなく、防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性、低温硬化性及び耐2次タレ・ワキ性などに優れた塗膜を形成するアニオン電着塗料組成物に関する。
【0002】
アニオン電着塗料組成物は、工業用部品や自動車部品などをはじめ、幅広い分野において使用されており、防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性、低温硬化性などの塗膜性能に優れた塗装物品を低コストで生産することができることが要求されている。
【0003】
例えば、従来のアニオン電着塗料には、乾性油(あまに油、脱水ひまし油、桐油など)に無水マレイン酸を付加してなるマレイン化樹脂、ポリブタジエン(1,2型、1,4型など)に無水マレイン酸を付加してなるマレイン化ポリブタジエン樹脂、エポキシ樹脂と不飽和脂肪酸とのエステルに無水マレイン酸を付加してなる樹脂、高分子量多価アルコールに多塩基酸を付加せしめてなる樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有アクリル樹脂等のカルボキシル基含有樹脂が開示されている(特許文献1)。しかし、特許文献1に記載の電着塗料では、防食性が不十分であるという欠点がある。
【0004】
また、環状脂肪族部分を有するエポキシ樹脂をモノカルボン酸と反応させ、ついで残存する水酸基をε−カプロラクトンと反応させることにより得られる1級水酸基をもつ低分子量ポリオールと架橋剤及び場合によりイオン性高分子ポリオールを含有する電着塗料組成物が開示されている(特許文献2参照)。しかし、防食性、耐2次タレ・ワキ性などの塗装作業性において満足できるものではない。
【0005】
他に、水酸基及びカルボキシル基含有樹脂、架橋剤、塩基性中和剤、水を含有するアニオン電着塗料が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
他に、粗面を有する金属素材にシリカ微粒子を含有するカチオン電着塗料を用いて塗装し、無水洗又は水洗後、焼き付けることを特徴とする防食方法が開示されている(特許文献4参照)。特許文献3や特許文献4に挙げられた電着塗料では、自動車用部品等に要求される防食性には、不十分であった。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−87282号公報
【特許文献2】特開平10−147734号公報
【特許文献3】特開2000−186235号公報
【特許文献4】特開2005−272952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鉛化合物やクロム化合物のような有害金属を用いることなく、防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性、低温硬化性などの塗膜性能、さらに2次タレ・ワキ性などの塗装作業性に優れた塗膜を形成し得るアニオン電着塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤(B)及びカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)を含有するアニオン電着塗料組成物により、上記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛化合物やクロム化合物のような有害な化合物を用いることなく、防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性及び低温硬化性等の塗膜性能、2次タレ・ワキ性などの塗装作業性に優れたアニオン電着塗料組成物を提供できる。
【0011】
本発明が、防食性に優れている理由は、腐食環境下において、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)から溶出したカルシウムイオンが塗膜と鋼板との界面に析出し、塗膜と鋼板の界面をアルカリ性にすることが考えられる。さらに、耐2次タレ・ワキ性などの塗装作業性に優れているため、塗装工程における水洗設備の簡略化を図ることができ、工程短縮や省エネルギー効果を得ることができる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアニオン電着塗料組成物は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤(B)及びカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)を含有するものである。以下、詳細に説明する。
【0013】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A):
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)は、酸価5〜150mgKOH/g、好ましくは8〜120mgKOH/g、さらに好ましくは8〜100mgKOH/gを有する樹脂である。
【0014】
上記カルボキル基含有ポリエステル樹脂(A)は、多塩基酸と多価アルコールとを常法に従い、例えば直接エステル化法やエステル交換法などによりエステル化反応させることによって得ることができる。
【0015】
上記多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸などの二塩基酸又はその無水物;これら二塩基酸の低級アルキルエステル;トリメリット酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸又はその無水物などが挙げられ、これらの中、1分子中に1もしくは2個の脂環式構造と少なくとも2個のカルボキシル基を有する脂環式多塩基酸、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸及びそれらの無水物、殊に、ヘキサヒドロテレフタル酸が好適である。また、必要に応じて、分子量調整などの目的で、上記多塩基酸を、例えば、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸などの一塩基酸と併用することができる。更に、ヤシ油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸等の油脂肪酸を併用することも可能である。
【0016】
上記多価アルコールとしては、1分子中に2個の水酸基を有する2価アルコール及び1分子中に3個以上の水酸基を有する多価アルコールを使用することができ、2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルなどのグリコール類;これらのグリコール類にε−カプロラクトンなどのラクトン類を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのポリエステルジオール類;シクロヘキサン−1,4−ジメチロール、水添ビスフェノールA、スピログリコール、ジヒドロキシメチルトリシクロデカン等の脂環式2価アルコールなどが挙げられ、また、1分子中に3個以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0017】
これらの中、1分子中に1もしくは2個の4〜6員環程度の脂環式構造と少なくとも2個の水酸基を有する脂環式多価アルコール、例えば、シクロヘキサン−1,4−ジメチロール、水添ビスフェノールA、スピログリコール、ジヒドロキシメチルトリシクロデカン等、炭素数4〜9のグリコール類、例えば、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール
等が好適である。
【0018】
多塩基酸等の酸含有化合物と多価アルコール等の水酸基含有化合物の比率は特に制限されるわけではないが、水酸基含有化合物の水酸基のモル数1に対して、酸含有化合物の酸のモル数は、0.4〜0.95モル、好ましくは0.45〜0.85モル、さらに好ましくは0.5〜0.8モルの範囲内である。
【0019】
このようにして得られたポリエステル樹脂へのカルボキシル基の導入は、例えば、上記多塩基酸の無水物を100〜180℃の温度において、ポリエステル樹脂が有している水酸基の一部にハーフエステル化反応させることによりカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を得ることができる。この時、製造安定性などの観点から、反応系に少量の高沸点極性溶媒を添加して系の粘度を下げるようにすることができる。該高沸点極性溶媒としては、例えば、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0020】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)は、数平均分子量(注1)が、500〜50,000、好ましくは800〜10,000、より好ましくは1,000〜3,000の範囲内、酸価5〜150mgKOH/g、好ましくは8〜120mgKOH/g、さらに好ましくは8〜100mgKOH/gの範囲内、水酸基価が20〜800mgKOH/g、好ましくは40〜500mgKOH/g、さらに好ましくは60〜200mgKOH/gの範囲内である。
【0021】
(注1)数平均分子量:JIS K 0124−83に準じて、分離カラム
としてTSK GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL (東ソー株式会社製)を用い且つ溶離液にGPC用テトラヒドロフランを用いて、温度40℃及び流速1.0ml/にて、RI屈折計で得られたクロマトグラムとポリスチレンの検量線から計算により求めることができる。
【0022】
架橋剤(B):
本発明のアニオン電着塗料組成物に用いる架橋剤(B)は、塗膜性能などの観点から、カルボキシル基含有樹脂の水酸基と反応する、メラミン樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
メラミン樹脂としては、メラミンをホルムアルデヒドでメチロール化してなるメチロール化メラミン樹脂;該メチロール基をモノアルコールでエーテル化したアルキル化メラミン樹脂;イミノ基を有するメチロール化メラミン樹脂又はアルキル化メラミン樹脂などを挙げることができる。また、上記のメチロール基のエーテル化において、2種以上のモノアルコールを用いて混合アルキル化したものも使用することができる。モノアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノ
ール、2−エチルヘキサノールなどが挙げられる。メラミン樹脂として具体的には、例えば、メチル化メラミン樹脂、イミノ基含有メチル化メラミン樹脂、メチル化・ブチル化メラミン樹脂、イミノ基含有メチル化・ブチル化メラミン樹脂などが挙げられ、特に、メチル化メラミン樹脂、メチル化・ブチル化メラミン樹脂が好ましい。
【0023】
メラミン樹脂の市販品としては、例えば、「サイメル202」、「サイメル232」、「サイメル235」、「サイメル236」、「サイメル238」、「サイメル254」、「サイメル266」、「サイメル267」、「サイメル272」、「サイメル285」、「サイメル301」、「サイメル303」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル370」、「サイメル701」、「サイメル703」、「サイメル736」、「サイメル738」、「サイメル771」、「サイメル1141」、「サイメル1156」、「サイメル1158」など(以上、日本サイテック社製、商品名)、「ユーバン120」、「ユーバン20HS」、「ユーバン2021」、「ユーバン2028」、「ユーバン2061」など(以上、三井化学社製、商品名)、「メラン522」など(日立化成社製、商品名)が挙げられる。
【0024】
ブロックポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基をブロック剤で部分的又は完全にブロックしたものであり、該ポリイソシアネート化合物としては、それ自体知られているものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート(通常「MDI」と呼ばれる)、クルードMDI、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族又は脂環族ポリイソシアネート化合物;これらのポリイシアネート化合物の環化重合体、イソシアネートビゥレット体;これらのポリイソシアネート化合物の過剰量にエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート含有化合物などを挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0025】
一方、ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温においては安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常、約100〜約200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが望ましい。
【0026】
このような要件を満たすブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物等を挙げることができる。
なお、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の配合割合は、要求される塗膜性能などに応じて適宜に変えることができるが、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と架橋剤(B)の固形分合計を基準にして、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)は、50〜95質量%、好ましくは60〜85質量%、さらに好ましくは65〜80質量%、架橋剤(B)50〜5質量%、好ましくは40〜15質量%、さらに好ましくは35〜20質量%の範囲内とすることができる。
【0027】
カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C):
本発明のアニオン電着塗料組成物は、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)(以下、「イオン交換シリカ(C)」と略称することがある)を含有する。イオン交換シリカ(C)は、微細な多孔質のシリカ担体にイオン交換によってカルシウムイオンが導入されたシリカ微粒子である。
塗膜中に配合されたイオン交換シリカ(C)は、塗膜を透過してきた水素イオンなどとイオン交換され、カルシウムイオンCa2+が放出されて金属表面を保護するものと考えられる。イオン交換シリカ(C)は、アニオン電着塗料中に配合することによって、従来から公知の水性塗料をスプレー塗装や刷毛塗りに適用した塗料比べて、電着塗装によってよりいっそうの防食性が得られる。
【0028】
このようなイオン交換シリカの市販品としては、SHIELDEX(シールデックス、登録商標)C303、SHIELDEX AC−3、SHIELDEX AC−5(以上、いずれもW.R.Grace & Co.社製)などを挙げることができる。
本発明において、イオン交換シリカ(C)の配合量は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の100質量部に対して、0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜25質量部、さらに好ましくは1〜20質量部の範囲内である。
【0029】
なお、アニオン電着塗料組成物には、イオン交換シリカ(C)に加えて、必要に応じて、例えば、チタン白、カーボンブラックなどの着色顔料、クレー、タルク、バリタなどの体質顔料、トリポリリン酸二水素アルミニウム、リンモリブデン酸、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマスなどの防錆成分、顔料分散剤、表面調整剤などを適宜配合して、ボールミル、サンドミル及びシェーカーなどの分散手段を用いて顔料分散して得られる顔料分散ペーストを使用することが、防食性、仕上り性及び塗料安定性の面から好ましい。さらにイオン交換シリカ(C)と水酸化ビスマス、又はイオン交換シリカ(C)とトリポリリン酸二水素アルミニウムのように2種の防錆成分を組合せて使用することが好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂(D):
本発明のアニオン電着塗料組成物は、防食性の向上を目的として、エポキシ樹脂(D)を配合することができる。上記エポキシ樹脂(D)は、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる1分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するエポキシ当量180〜70,000のエポキシ樹脂(d1)のエポキシ基を、活性水素含有化合物(e)により封鎖したエポキシ樹脂(以下、エポキシ樹脂(D1)と称する)である。
【0031】
エポキシ樹脂(d1)の製造に用いるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0032】
ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式(1):
【0033】
【化1】

【0034】
n=0〜8で示されるものが好適である。
【0035】
このようなエポキシ樹脂(d1)の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社からエピコート828EL、同左1002、同左1004、同左1007などの商品名で販売されているものが挙げられる。
上記エポキシ樹脂(d1)は、400〜100,000、好ましくは800〜20,000の範囲内の数平均分子量(注1)、180〜70,000、好ましくは300〜15,000の範囲内のエポキシ当量を有することが好ましい。
エポキシ樹脂(d1)のエポキシ基に反応させる活性水素含有化合物(e)としては、フェノール基、カルボキシル基を有する化合物が好適である。また、活性水素含有基は1分子中に1個以上あればよいが、反応の容易さ、樹脂エマルションの貯蔵安定性の点からモノフェノール類、脂肪族モノカルボン酸類、芳香族モノカルボン酸類よりなる群から選ばれる化合物が好適である。
【0036】
上記モノフェノール類の具体例としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、パラ−tert−ブチルフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。
【0037】
上記脂肪族カルボン酸類としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、アクリル酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。上記芳香族カルボン酸類としては、安息香酸、没食子酸等が挙げられる。
【0038】
エポキシ樹脂(d1)のエポキシ基と活性水素含有化合物(e)の活性水素基の比率は、エポキシ基1モルに対して、1.5〜0.75モル、好ましくは、1.2〜0.8モルである。なお、エポキシ樹脂(D1)のエポキシ基は、活性水素含有化合物(e)によって封鎖されてるため塗料安定性に優れる。
また、エポキシ樹脂(D)として、エポキシ樹脂(d1)に下記式(2)
【0039】
【化2】

【0040】
[式中、Rは水素原子又はCHであり、nは3〜6を示す]
で示される環状エステル化合物(d2)を付加反応させて環状エステル化合物変性したエポキシ樹脂(d12)とし、該エポキシ樹脂(d12)のエポキシ基を活性水素含有化合物(e)によって封鎖したエポキシ樹脂(D12)も使用することができる。
活性水素含有化合物(e)は、エポキシ樹脂(D1)と同様の活性水素含有化合物を用いることができる。アニオン電着塗料組成物は、エポキシ樹脂(D12)を配合することによって、防食性や仕上り性に優れた塗膜が得られる。
【0041】
上記環状エステル化合物(d2)として、具体的には、例えば、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ζ−エナラクトン、ε−エナラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、η−カプリロラクトン、ζ−カプリロラクトンなどが挙げられ、特に、ε−カプロラクトンが好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂(d1)と環状エステル化合物(d2)との反応は、それ自体既知の方法で行なうことができ、例えば、触媒として、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンなどのチタン化合物;オクチル酸スズ、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズラウレートなどの有機スズ化合物;塩化第1スズなどの金属化合物の存在下に、水酸基含有エポキシ樹脂を環状エステル化合物と、約100℃〜約250℃の温度で約1〜約15時間加熱することによって行なう。上記触媒は、通常、水酸基含有エポキシ樹脂と環状エステル化合物との合計量に基づいて0.5〜1,000ppmの範囲内で使用することができる。
【0043】
環状エステル化合物の使用量は、厳密に制限されるものではないが、一般には、生成した環状エステル化合物変性したエポキシ樹脂(d12)中に、該環状エステル化合物(d2)に由来する成分が5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%を占めるように調節することが好ましい。
【0044】
また、エポキシ樹脂(D)としては、エポキシ樹脂(d1)に、多価ポリオール(d3)のグリシジルエーテルを反応させて可塑剤変性エポキシ樹脂(d13)とし、該エポキシ樹脂(d13)のエポキシ基を、活性水素含有化合物(e)によって封鎖したエポキシ樹脂(D13)も用いることもできる。エポキシ樹脂(d1)は、前記エポキシ樹脂と同様である。また、活性水素含有化合物(e)は、前記活性水素含有化合物と同様である。
多価ポリオール(d3)としては、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0045】
エポキシ樹脂(D)は、カルボキシル基を含有していなくても使用できるが、カルボキシル基を含有したカルボキシル基含有エポキシ樹脂(D2)として使用することもできる。エポキシ樹脂(D)としては、塗料安定性の面からカルボキシル基含有エポキシ樹脂(D2)を用いることが好ましい。
なおエポキシ樹脂(D)へのカルボキシル基の導入は、例えば、エポキシ樹脂(D1)が有している水酸基の一部に多塩基酸の無水物を、100〜180℃の温度においてハーフエステル化反応により付加することによって、カルボキシル基含有エポキシ樹脂(D2)を得ることができる。
上記カルボキシル基含有エポキシ樹脂(D2)は、酸価0.1〜150mgKOH/g、好ましくは0.5〜120mgKOH/g、さらに好ましくは1〜100mgKOH/gの範囲である。
【0046】
なお本発明のアニオン電着塗料組成物における、エポキシ樹脂(D)の配合量としては、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)とエポキシ樹脂(D)の固形分合計に対して、エポキシ樹脂(D)を0.1〜45質量%、好ましくは1〜42質量%、さらに好ましくは5〜40質量%含有することが、防食性、耐候性及び塗料安定性の面から好ましい。
【0047】
レゾール型フェノール樹脂(E):
さらに、本発明のアニオン電着塗料組成物は、防食性の向上を目的として、適宜に、レゾール型フェノール樹脂(E)を除く樹脂成分100質量部に対して、レゾール型フェノール樹脂(E)を0.1〜40質量部、好ましくは0.5〜30質量部、さらに好ましくは1〜20質量部含有できる。
【0048】
上記レゾール型フェノール樹脂(E)は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の架橋の補助剤として働くものであり、フェノールやビスフェノールAなどのフェノール類とホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを反応触媒の存在下で縮合反応させて、メチロール基を導入してなるフェノール樹脂、また導入されたメチロール基の一部を炭素原子数6以下のアルコールでアルキルエーテル化したものも包含される。
レゾール型フェノール樹脂(E)は、数平均分子量(注1)が100〜3,000、好ましくは150〜2,000の範囲内であり、かつベンゼン核1核当りのエーテル化されていてもよいメチロール基の平均数が0.3〜3.0個、好ましくは0.5〜3.0個、さらに好ましくは0.7〜3.0個の範囲内であることが適当である。
本発明のアニオン電着塗料には、上記レゾール型フェノール樹脂(E)を使用することによって、防食性や耐衝撃性などの塗膜性能の優れた塗膜を形成することができる。
【0049】
[アニオン電着塗料組成物について]
本発明のアニオン電着塗料組成物は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)及び架橋剤(B)、さらに必要に応じてエポキシ樹脂(D)、レゾール型フェノール樹脂(E)、界面活性剤、表面調整剤及び消泡剤等を配合し、十分に混合した後、通常水性媒体中において、塩基性化合物で中和してカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)を水溶化ないし水分散化することにより、樹脂エマルションを調製することができる。また、目的に応じて、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルションなどの樹脂エマルションを配合することもできる。
【0050】
上記中和のために用い得る塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノールなどの第1級モノアミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−またはジ−i−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどの第3級モノアミン;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどのポリアミンを挙げることができる。これらの塩基性化合物は、塗料安定性などの観点から、通常、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基に対して0.1〜1当量、好ましくは0.3〜0.9当量の範囲内で使用することが好ましい。
【0051】
さらに、塗膜の架橋反応を促進するために、スルホン酸系化合物を加えることもできる。スルホン酸系化合物としては、例えば、n−ブチルベンゼンスルホン酸、n−アミルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、n−オクタデシルベンゼンスルホン酸、n−ジブチルベンゼンスルホン酸、i−プロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等、及びこれらのスルホン酸のアミン中和物等が挙げられ、中でも、特に優れた効果を発揮するジノニルナフタレンスルホンのアミン中和物を使用することが好ましい。
本発明のアニオン電着塗料組成物におけるこれらのスルホン酸系化合物の含有量は、厳密に規定されるものではなく、塗料に要求される性能などに応じて広範囲にわたって変えることができるが、通常、カルボキル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の合計固形分100質量部あたり10質量部以下、好ましくは0〜5.0質量部の範囲内が好適である。
【0052】
なお本発明のアニオン電着塗料組成物を用いたアニオン電着塗料は、前記樹脂エマルションと、シリカ微粒子(C)を含有する顔料分散ペーストとを混合し、脱イオン水で固形分を5〜40質量%、好ましくは8〜25質量%、pHを7〜10の範囲内に調整し、通常、浴温10〜35℃、負荷電圧100〜400Vの条件下に、被塗物を陽極として電着塗装することによって、所望の導電性基材表面に塗装することができる
電着塗装によって形成される電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般には、硬化塗膜に基づいて10〜40μm、特に15〜35μmの範囲内が好ましい。また、塗膜の焼き付け温度は、被塗物表面で一般に約120〜約200℃、好ましくは約130〜約170℃の範囲内が適しており、焼き付け時間は5〜60分程度、好ましくは10〜30分程度とすることができる。
【0053】
本発明のアニオン電着塗料は、電着塗料用途として好適に使用されるが、電着塗装に限らず、水性塗料として静電塗装、スプレー塗装、ロール塗装等の方法で塗装するための防食用プライマーとして使用することもできる。カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)に、架橋剤としてポリイソシアネート化合物(ブロックされていない)を使用する、2液型常乾塗料や接着剤等としても使用することもできる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例を掲げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」である。
【0055】
製造例1 カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)の製造
加熱装置、攪拌機、窒素導入管及び分留塔を有する反応装置に、無水ヘキサヒドロフタル酸550部、アジピン酸160部、トリメチロールプロパン220部、ネオペンチルグリコール170部、ブチルエチルプロパンジオール350部を仕込み、乾燥窒素下で加熱を開始し、230℃まで徐々に昇温してエステル化反応を行った。
さらに230℃を保持し、樹脂酸価1mgKOH/g以下までエステル化を行った後、170℃まで冷却し無水トリメリット酸160部を加え、さらにエチレングリコールモノブチルエーテル380部を加えて、樹脂酸価60mgKOH/g、水酸基価90mgKOH/g、 数平均分子量1,500、樹脂固形分80%のカルボキシ基含有ポリエステル樹脂を得た。
【0056】
製造例2 エポキシ樹脂(D)の製造
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却器を取りつけたフラスコに、エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ樹脂 エポキシ当量190 分子量350)500部に、ビスフェノールA 200部及びジメチルベンジルアミン0.1部を加え、130℃でエポキシ当量750になるまで反応させた。そこにジメチロール酪酸135部、エチレングリコールモノブチルエーテル210部を加え、130℃で4時間反応させて樹脂固形分80%のエポキシ樹脂を得た。
【0057】
製造例3 カルボキシル基含有エポキシ樹脂溶液の製造
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却器を取りつけたフラスコに、エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名、エポキシ樹脂 エポキシ当量190 分子量350)500部にビスフェノールA 200部及びジメチルベンジルアミン0.1部を加え、130℃でエポキシ当量750になるまで反応させた。そこにジメチロール酪酸135部を加え、130℃で4時間反応させた。続いて、無水トリメリット酸77部を加えた後、エチレングリコールモノブチルエーテル228部を加え、樹脂固形分80%のカルボキシ基含有エポキシ樹脂溶液を得た。該カルボキシ基含有エポキシ樹脂は、酸価50mgKOH/gであった。
【0058】
製造例4 カルボキシル基含有アクリル樹脂溶液
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却器を取りつけたフラスコに、イソプピルアルコールを280部を仕込み、80℃に保持した中へ、スチレン40部、メチルメタクリレート96部、n−ブチルアクリレート40部、エチルアクリレート120部、2−ヒドロキシエチルアクリレート48部、アクリル酸28部、及びアゾビスジメチルバレロニトリル8部の混合物を3時間かけて滴下し、次いでアゾビスジメチルバレロニトリル4部を添加し、80℃で1時間保持して反応を行って、樹脂固形分57%のカルボキシル基含有アクリル樹脂溶液を得た。該カルボキシル基含有アクリル樹脂は、酸価58mgKOH/gであった。
【0059】
製造例5 ブロックポリイソシアネート硬化剤の製造
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却器を取りつけたフラスコにおいて、イソホロンジイソシアネート222部にメチルイソブチルケトン44部を加え、70℃に昇温した。その後、メチルエチルケトキシム174部を2時間かけて滴下して、この温度を保ちながら経時でサンプリングして赤外吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアネートの吸収がなくなったことを確認し、樹脂固形分90%のブロックポリイソシアネート硬化剤を得た。
【0060】
製造例6 エマルションNo.1の製造
上記製造例1で得た樹脂固形分80%のカルボキシ基含有ポリエステル樹脂溶液No.1を87.5部(固形分70部)に、ニカラックMX−430(注2)30部(固形分30部)、トリエチルアミン19部(0.25当量分)及び脱イオン水176部を加えて水分散化し、固形分32%のエマルションNo.1を得た。
(注2)ニカラックMX−430:三和ケミカル社製、商品名、メラミン樹脂、固形分100%。
【0061】
製造例7〜19
製造例6と同様にして、製造例7〜19のエマルションNo.2〜No.14を得た。表1にその配合内容を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(注3)ショーノールCKS394:商品名、昭和高分子(株)製、レゾール型フェノール樹脂。
【0064】
製造例20 顔料分散用のアクリル樹脂溶液
撹拌機、温度計及び還流冷却管の備えた通常のアクリル樹脂反応槽にエチレングリコールモノブチルエーテル37部を仕込み、加熱撹拌して110℃に保持した。
その中にスチレン10部、メチルメタクリレート35部、2−エチルヘキシルメタクリレート20部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、NFバイソマーS20W(注4)40部、アゾビスイソブチロニトリル1部及びイソブチルアルコール5部からなる混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、110℃で30分間熟成し、次にエチレングリコールモノブチルエーテル20部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5部からなる追加触媒混合液を1時間かけて滴下した。次いで110℃で1時間熟成したのち冷却し、樹脂固形分55%の顔料分散用アクリル樹脂溶液を得た。
(注4)NFバイソマーS20W:第一工業製薬株式会社製、商品名、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートの50%水希釈品、分子量約2080。
【0065】
製造例21 顔料分散ペーストNo.1の製造
製造例20で得た樹脂固形分55%の顔料分散用のアクリル樹脂溶液5.5部(固形分3部)、カーボンMA−7(注5)3部、ハイドライドPXN(注6)7部、シールデックスC303(注7)2部及び脱イオン水9.8部をボールミルにて20時間分散して顔料分散ペーストNo.1を得た。
【0066】
製造例22〜27 顔料分散ペーストNo.2〜No.7の製造
製造例20の顔料分散ペーストNo.1と同様にして、顔料分散ペーストNo.2〜No.7を得た。表2に、詳細な配合内容を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
(注5)カーボンMA−7:三菱化成社製、商品名、カーボンブラック
(注6)ハイドライドPXN:ジョージアカオリン社製、商品名、アルミニウムシリケート
(注7)シールデックスC303:W.R.Grace & Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子、カルシウム成分3%
(注8)シールデックスAC−3:W.R.Grace & Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子、カルシウム成分3%
(注9)シールデックスAC−5:W.R.Grace & Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子、カルシウム成分3%
(注10)KW−840E:テイカ社製、商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウム。
【0069】
実施例及び比較例
実施例1
製造例6で得たエマルションNo.1を312.5部(固形分100)に、製造例21で得た顔料分散ペーストNo.1を27.3部(固形分15部)及び脱イオン水235.2部を加え、固形分20%のアニオン電着塗料No.1を得た。
【0070】
実施例2〜14
実施例1と同様にして、表3の配合内容にて、実施例2〜14のアニオン電着塗料No.2〜No.14を得た。
【0071】
【表3】

【0072】
比較例1〜11
実施例1と同様にして、表4の配合内容にて、比較例1〜11のアニオン電着塗料No.15〜No.25を得た。
【0073】
【表4】

【0074】
比較例12
比較例12として、エレクロン#7100ブラック(注11)を用いた。
(注11)エレクロン#7100ブラック:関西ペイント社製、商品名、ポリブタジエン/エポキシ樹脂脂肪酸エステル/アマニ油混合物に無水マレイン酸を反応させ得られる不飽和樹脂を用いたアニオン電着塗料。
【0075】
塗装試験
上記実施例及び比較例で得た各アニオン電着塗料中に、パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した冷延鋼板(0.8mm×150mm×70mm)を浸漬し、被塗物を陽極として乾燥膜厚20μmの膜厚が得られるような、電圧と通電時間にて電着塗装を行い、130℃で20分間焼き付けて試験板を得た。得られた試験板による性能試験結果を表5及び表6に示す。なお性能試験は下記の方法に従って実施した。
【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
(注12)防食性:
各試験板の電着塗膜に、素地に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、これをJISZ−2371に準じて840時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎は、錆、フクレの最大幅がカット部より2mm未満(片側)
○は、錆、フクレの最大幅がカット部より2mm以上、3mm未満(片側)、
△は、錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上、4mm未満(片側)、
×は、錆、フクレの最大幅がカット部より4mm以上(片側)。
【0079】
(注13)耐衝撃性:
乾燥膜厚20μmの各試験板を、温度20℃±1、湿度75±2%の恒温恒湿室に24時間置いた後、デュポン衝撃試験器に規定の大きさの受台と撃心を取り付け、試験板の塗面を上向きにして、その間に挟み、次に500gの重さのおもりを撃心の上に落とし、衝撃による塗膜のワレ、ハガレが発生する落下高さ(cm)を測定した。
【0080】
(注14)耐候性:
乾燥膜厚20μmの各試験板を、JIS H 8602 5.12(1992)に準拠(水スプレー時間12分間、ブラックパネル温度60℃)し、サンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機サンシャインウェザオメーターを使用して測定して、試験前の光沢に対する光沢保持率が80%を割る時間を測定した。
◎は、60度鏡面反射率(%)が80%を割る時間が400時間を越える
○は、60度鏡面反射率(%)が80%を割る時間が150時間を越え、かつ400時間未満
△は、60度鏡面反射率(%)が80%を割る時間が50時間を越え、かつ150時間未満
×は、60度鏡面反射率(%)が80%を割る時間が50時間未満。
【0081】
(注15)耐2次タレ・ワキ性:
図1に示すように2枚の鋼板(1)と鋼板(2)をかさね合わせて(鋼板(1)と鋼板(2)のクリアランスが100μm)治具を作製し、20μmの乾燥塗膜が得られる条件にて電着塗装を行って水洗し、10分間のセッティング後、130℃で20分間焼き付けて塗面の2次タレ・ワキの状態を観察した。
○は、問題なく良好
△は、タレ・ワキがあるため、研ぎなどの修正が必要なレベル
×は、タレ・ワキがあり、外観を著しく損なうレベル。
【0082】
(注16)仕上り性:
20μmの乾燥塗膜が得られる条件にて電着塗装を行った後、水洗し、130℃で20分間焼付け乾燥して、ワキ、ヘコミ、平滑性の評価をした。
○は、問題なく良好
△は、ワキ、ヘコミ、平滑性低下のいずれかがみられる
×は、ワキ、ヘコミ、平滑性低下のいずれかが著しくみられる。
【0083】
(注17)塗料安定性:
各アニオン電着塗料を30℃にて1ヶ月間密閉攪拌し、各アニオン電着塗料を400メッシュ濾過網にて全量濾過して残渣量(mg/L)を測定した。
◎は、残渣量が5mg/L未満
○は、残渣量が5mg/L以上で、かつ10mg/L未満
△は、残渣量が10mg/L以上で、かつ15mg/L未満
×は、残渣量が15mg/Lを超える。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のアニオン電着塗料を用いれば、有害金属を使用することなく、防食性、耐候性、耐衝撃性、仕上り性、低温硬化性に優れた塗装物品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】2次タレ試験用のパネルの概略図である。
【符号の説明】
【0086】
1.化成処理を施した冷延鋼板(1)(0.8mm×70mm×150mm)
2.化成処理を施した冷延鋼板(2)(0.8mm×50mm×50mm)
3.染み出た塗料タレ水を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)50〜95質量部、メラミン樹脂及びブロックイソシアネート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤(B)50〜5質量部、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)の固形分合計100質量部に対して、カルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子(C)0.1〜30質量部含有するアニオン電着塗料組成物。
【請求項2】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)の酸価が5〜150mgKOH/gである請求項1に記載のアニオン電着塗料組成物。
【請求項3】
さらにエポキシ当量180〜70,000のエポキシ樹脂(d1)のエポキシ基を活性水素含有化合物(e)により封鎖したエポキシ樹脂(D)を含有し、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(A)と架橋剤(B)とエポキシ樹脂(D)の固形分合計に対して、該エポキシ樹脂(D)を0.1〜45質量%含有する請求項1又は2項に記載のアニオン電着塗料組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(D)の酸価が0.1〜150mgKOH/gである請求項3項に記載のアニオン電着塗料組成物。
【請求項5】
レゾール型フェノール樹脂(E)を除く樹脂成分100質量部に対して、レゾール型フェノール樹脂(E)を0.1〜40質量部含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のアニオン電着塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアニオン電着塗料組成物を電着塗装してなる塗装物品。
















【図1】
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【公開番号】特開2007−302792(P2007−302792A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132959(P2006−132959)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】