説明

アポトーシスを促進又は抑制する化合物をスクリーニングする方法、アポトーシス抑制剤

【課題】 p53の不活性化の分子メカニズムを解明し、そして、そのメカニズムから導き出されたアポトーシスを促進又は抑制する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 p53とNFBD1との相互作用を阻害する化合物を、アポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程を備える、アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシスを促進又は抑制する化合物をスクリーニングする方法、アポトーシス抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
KIAA0170は1996年にKG−1(ヒト未成熟骨髄性細胞株)由来のcDNAライブラリーから単離された遺伝子であるが、その機能については不明であった(非特許文献1)。また、KIAA0170のC末端にリン酸化タンパク質の結合ドメインであるBRCTドメインが保存されていることから、DNA修復に関与することが推測されていたが、未だその機能については明らかにされていない(非特許文献2、3)。本発明者らは2000年に、KIAA0170は様々な哺乳動物細胞の核内に局在し、DNA結合活性を有し、抗アポトーシス機能を有する核内転写因子である事を報告した(非特許文献4)。そして、本発明者らはKIAA0170をNFBD1(a uclear actor with RCT omain 1)と名づけた。
【0003】
NFBD1はN末端及びC末端に、それぞれフォークヘッド・ホモロジー関連ドメイン(FHAドメイン)及びリン酸化タンパク質結合ドメイン(BRCTドメイン)を有している。また、最近、NFBD1はDNA損傷、特にDNA二本鎖切断の際に、毛細血管拡張性運動失調原因遺伝子ATMによりリン酸化され、DNA修復複合体であるMRN complex等をDNA損傷部にリクルートする事が報告されている(非特許文献5)。また、Xuらは、NFBD1がp53と複合体を形成する事を報告したが(非特許文献6)、その機能的意義については不明であった。
【0004】
また、p53の機能異常は発癌だけでなく、神経変性疾患でも重要な役割を果たしていることが報告された(非特許文献7)。
【0005】
【非特許文献1】Takahiro N. et al., Prediction of the coding sequence of unidentifiedhuman genes. v. the coding sequence of 40 new genes (KIAA0161-KIAA0200) deducedby analysis of cDNA clones from human cell line KG-1. DNA Research 3: 17-24(1996).
【非特許文献2】Peer B. et al., A superfamily of conserved domains in DNAdamage-responsive cell cycle checkpoint proteins. The FASEB Journal 11: 68-76(1997).
【非特許文献3】Isabelle C. et al., From BRCA1 to RAP1: a widespread BRCT module associatedwith DNA repair. FEBS Letters 400: 25-30 (1997).
【非特許文献4】Toshinori O. et al., NFBD1/KIAA0170 is a novel nuclear transcriptionaltransactivator with BRCT domain. DNA and Cell Biology 19: 475-485 (2000).
【非特許文献5】Xingzhi X. et al., NFBD1/KIAA0170 is a chromatin-associated protein involvedin DNA damage signaling pathways. J. Biol. Chem. 278: 8795-8803 (2003).
【非特許文献6】Xingzhi X. et al., NFBD1/MDC1 regulated ionizing radiation-inducedfocus formation by DNA checkpoint signaling and repair factors. The FASEBJournal 17: 1842-1848 (2003).
【非特許文献7】澤明、p53神経変性疾患ハンチントン病を1つのモデルとして、実験医学 Vol19. No.9,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、NFBD1と、p53によって仲介されるアポトーシスとの間のあり得る関係の機能的な重要性については、いまだに確立されていない。p53のアポトーシス誘導活性をそのメカニズムを含めて明らかにし、それを増強又は抑制する化合物を見出すことは、癌又は神経変性疾患の治療薬及び予防薬の開発につながる。
【0007】
従って、本発明は、p53の不活性化の分子メカニズムを解明することを目的の一つとした。そして、そのメカニズムから導き出されたアポトーシスを促進又は抑制する化合物のスクリーニング方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アドリアマイシンによってDNA損傷を起こした際、p53はリン酸化されることによって安定化し、その下流遺伝子の発現が誘導されるのに対して、NFBD1はmRNAレベル及びタンパク質レベルでの発現が減少することを見出した。一方、NFBD1を過剰発現させると、p53のリン酸化が阻害され、その下流遺伝子の発現誘導も阻害されることを見出した。また、NFBD1に対するRNA干渉(RNAi)を用いて、内在性NFBD1のノックアウトによってアドリアマイシン依存性のアポトーシスが亢進することを見出した。また、p53とNFBD1とは、それぞれp53の転写活性化ドメインを含むアミノ末端、及びNFBD1のBRCTドメインとFHAドメインを介して複合体を形成しており、NFBD1のプロリン・セリン・スレオニンリッチドメイン(PSTドメイン)は複合体形成に関与していないことを見出した。また、量を変化させたNFBD1及び/又はp53を細胞に発現させることによって、NFBD1はp53の転写活性能を抑制することを見出した。さらに、免疫染色によって、アドリアマイシンによるDNA損傷に伴って、p53の発現誘導が認められる細胞ではNFBD1が消失し、一方、NFBD1が修復の場と考えられるnuclear fociに集積している細胞では、p53の発現が誘導されることを見出した。以上の知見等から、NFBD1がp53と結合することによって、p53のリン酸化に伴う安定化を阻害し、p53が誘導するアポトーシスを阻害するという分子メカニズムを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、p53とNFBD1との相互作用を阻害する化合物を、アポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程を備える、アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法を提供する。本スクリーニング方法は、p53とNFBD1とが直接相互作用するという分子メカニズムを応用したものである。かかる分子メカニズムは本発明者らが新たに見出したものであり、従って、今までとは作用機序が全く異なるアポトーシス促進性化合物を本スクリーニング方法により得ることが可能である。かかる化合物は、アポトーシス促進剤や抗癌剤として応用することが可能である。
【0010】
本発明は、また、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、p53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、培養したそれぞれの細胞における、p53とNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用よりも弱い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程と、を備える、アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法を提供する。本スクリーニング方法により、今までとは作用機序が全く異なるアポトーシス促進性化合物を得ることが可能であり、また、かかる化合物は、アポトーシス促進剤や抗癌剤として応用することが可能である。
【0011】
本発明は、また、p53とNFBD1との相互作用を増強する化合物を、アポトーシスを阻害する化合物と判定する判定工程を備える、アポトーシスを阻害する化合物のスクリーニング方法を提供する。本スクリーニング方法は、p53とNFBD1とが直接相互作用するという分子メカニズムを応用したものである。かかる分子メカニズムは本発明者らが新たに見出したものであり、従って、今までとは作用機序が全く異なる抗アポトーシス性化合物を本スクリーニング方法により得ることが可能である。かかる化合物は、アポトーシス抑制剤や神経変性疾患の治療薬及び予防薬として応用することが可能である。
【0012】
本発明は、また、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、p53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、培養したそれぞれの細胞における、p53とNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用よりも強い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを抑制する化合物と判定する判定工程と、を備える、アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法を提供する。本スクリーニング方法により、今までとは作用機序が全く異なる抗アポトーシス性化合物を得ることが可能である。かかる化合物は、アポトーシス抑制剤や神経変性疾患の治療薬及び予防薬として応用することが可能である。
【0013】
本発明は、また、配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質からなるアポトーシス阻害剤及び配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸からなるアポトーシス阻害剤を提供する。配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、NFBD1タンパク質であり、それをコードする核酸配列は、例えば配列番号14に示すNFBD1タンパク質をコードするcDNA配列である。上述したように、本発明者らは、NFBD1はp53と直接相互作用することによりp53の安定化を阻害し、p53が誘導するアポトーシスを阻害するという分子メカニズムを明らかにした。即ち、p53が仲介するアポトーシスにおいて、NFBD1は、アポトーシス阻害的な役割を演じている。従って、NFBD1タンパク質やそれをコードする核酸は、アポトーシス抑制剤や神経変性疾患の治療薬及び予防薬として応用することが可能である。
【0014】
本発明は、また、配列番号13に示すアミノ酸配列において、787〜1634番目のアミノ酸のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、p53結合活性を有するタンパク質からなるアポトーシス抑制剤を提供する。配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、NFBD1タンパク質である。上述したように、本発明者らは、p53とNFBD1とは複合体を形成しており、NFBD1のPSTドメイン(787〜1634)は複合体形成に関与していないことを明らかにした。即ち、NFBD1タンパク質のPSTドメインにおいて、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたとしても、p53とNFBD1とが複合体を形成することが可能である。従って、NFBD1たんぱく質のPSTドメインにおいて1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、アポトーシス抑制剤や神経変性疾患の治療薬及び予防薬として応用することが可能である。
【0015】
本発明は、また、配列番号13に示すアミノ酸配列において、787〜1634番目のアミノ酸のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、p53結合活性を有するタンパク質をコードする核酸からなるアポトーシス抑制剤を提供する。配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、NFBD1タンパク質であり、それをコードする核酸配列は、例えば配列番号14に示すNFBD1タンパク質をコードするcDNA配列である。上述したように、本発明者らは、p53とNFBD1とは複合体を形成しており、NFBD1のPSTドメイン(787〜1634)は複合体形成に関与していないことを明らかにした。即ち、NFBD1タンパク質のPSTドメインにおいて、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたとしても、p53とNFBD1とが複合体を形成することが可能である。従って、NFBD1たんぱく質のPSTドメインにおいて1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列をコードする核酸からなるタンパク質は、アポトーシス抑制剤や神経変性疾患の治療薬及び予防薬として応用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスクリーニング方法によれば、今までとは作用機序が全く異なるアポトーシス促進性化合物及び抗アポトーシス性化合物を得ることが可能である。このような化合物を見出すことで、癌又は神経変性疾患の治療・予防に有効な薬を開発することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法)
本発明のアポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法は、p53とNFBD1との相互作用を阻害する化合物を、アポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程を備える。本スクリーニング方法はp53とNFBD1とが直接相互作用するという新たな分子メカニズムに基づいており、今までとは作用機序が全く異なるアポトーシス促進性化合物が得られる。
【0019】
具体的なスクリーニング方法は、当業者にとって公知のタンパク質間相互作用を測定する系が利用可能であり、例えば、酵母ツーハイブリッド法やPCA法(プロテイン・フラグメント・コンプリメンテーション・アッセイ)が挙げられる。酵母ツーハイブリッド法及びPCA法の概要を以下に説明する。
【0020】
まず、酵母ツーハイブリッド法を説明する。酵母Gal4は、N末端側のDNA結合ドメイン(DBD)とC末端側の転写活性化ドメイン(AD)とからなる転写制御因子である。両ドメインは基本的には自律的に機能し、DBDは単独でDNAに結合できるが転写の活性化は起こせない。ADはその反対である。この性質を応用して開発されたのが酵母ツーハイブリッド法である。つまり、Gal4のDBDに目的のタンパク質Pを融合したタンパク質(ベイト)と、Gal4のADに別のタンパク質Qを融合したタンパク質(プレイ)を酵母細胞に導入した場合、PとQとが核内で相互作用すれば、酵母細胞内で転写制御複合体が再構成され、Gal4結合部位依存的に転写が活性化されることになる。この活性をレポーター遺伝子を用いて検出することにより、タンパク質P及びQの間の相互作用が容易に評価できる。レポーター遺伝子としては、例えば、HIS3、lacZ、URA3などを利用することができる。また、酵母Gal4以外にも、SRFやLexAを用いた系も利用することが可能である。
【0021】
酵母ツーハイブリッド法において、タンパク質Pとしてp53を、タンパク質QとしてNFBD1を用いた系(又はその逆の系でも構わない)によれば、本発明のスクリーニング方法を行うことが可能である。即ち、ベイトとしてp53又はNFBD1の一方を、プレイとしてNFBD1又はp53の他方を酵母に発現させ、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下で当該酵母を培養し、培養した酵母のレポーター遺伝子の転写活性(p53とNFBD1との相互作用の強さを表す)を測定し、被検化合物存在下の転写活性が被検化合物非存在下の転写活性よりも低下している場合、被検化合物はアポトーシスを促進する化合物であると判定できる。
【0022】
次に、PCA法について説明する。PCA法では、一つの機能タンパク質A(酵素、転写因子など)を二つの断片A1及びA2に分割し、それぞれを目的タンパク質P及びQと融合し、融合タンパク質A1−P及びA2−Qを作製する。目的タンパク質P及びQが結合すると、機能タンパク質Aの機能が回復し、その活性を検出することで、P及びQの相互作用を判定する、という原理に基づいている。機能タンパク質としては、例えばβ−ラクタマーゼを利用することができる。以下では、β−ラクタマーゼを利用したPCA法について説明する。
【0023】
β−ラクタマーゼは細菌由来のβ−ラクタム環切断酵素である。N末端側のα197断片(25〜197残基)とC末端側のω198断片(198〜288残基)に分割し、それぞれを目的タンパク質との融合タンパク質として発現すると、その両者が結合する場合にのみβ−ラクタマーゼタンパク質の立体構造が回復し、活性を示す。β−ラクタマーゼ活性は細胞透過性の蛍光プローブCCF2/AM(CCF2アセトキシメチルエステル)により検出される。CCF2/AMは、セファロスポリン分子の両末端に2種類の異なる蛍光物質クマリン及びフルオレセインが結合した構造をしており、前者をドナー、後者をアクセプターとする分子内FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)を呈する。即ち、クマリンを409nmの光で励起すると、フルオレセイン由来の520nmの蛍光を発することになる。しかし、CCF2がβ−ラクタマーゼ活性による分解を受けると、両者が解離し、FRETは観察されなくなるため、409nmの光の励起によってクマリン本来の447nmの蛍光を発するようになる。447nmの蛍光を測定することにより、β−ラクタマーゼの活性、即ち、目的タンパク質の相互作用の強さを測定することが可能となる。
【0024】
従って、PCA法を利用して本発明のスクリーニング方法を行うには、以下の方法によればよい。機能タンパク質の二つの断片A1又はA2にp53又はNFBD1を融合させた融合タンパク質を細胞に発現させ、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下で当該細胞を培養し、培養した細胞における機能タンパク質の活性を測定し、被検化合物存在下培養した細胞における機能タンパク質の活性が、被検化合物非存在下培養した細胞における機能タンパク質の活性よりも低下している場合、被検化合物はアポトーシスを促進する化合物であると判定できる。
【0025】
また、本発明のアポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法は、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、p53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、培養したそれぞれの細胞における、p53とNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用よりも弱い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程と、を備える。本スクリーニング方法はp53とNFBD1とが直接相互作用するという新たな分子メカニズムに基づいており、今までとは作用機序が全く異なるアポトーシス促進性化合物が得られる。
【0026】
具体的なスクリーニング方法は、当業者にとって公知のタンパク質間相互作用を測定する系が利用可能であり、例えば、免疫沈降法が挙げられる。免疫沈降法を用いたスクリーニング方法を以下に説明する。
【0027】
まず、p53及びNFBD1を発現した細胞を調製する。p53及びNFBD1を発現した細胞としては、両者を発現している細胞、どちらか一方を発現している細胞に他方をトランスフェクションさせて両者を発現させた細胞、又は、いずれも発現していない細胞に両者をコトランスフェクションさせた細胞のいずれを用いてもよい。そして、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下で前記細胞を培養する。培養時間は、p53とNFBD1とが相互作用する時間であればよく、用いる細胞の種類によって異なるが、例えば、p53及びNFBD1をコトランスフェクトした場合、12〜48時間程度である。
【0028】
次に、培養したそれぞれの細胞における、p53及びNFBD1との相互作用を測定する。相互作用の測定には、まず、培養した細胞を粉砕して細胞可溶化物を調製する。調製した細胞可溶化物にp53及びNFBD1のいずれか一方の分子に対する抗体を加えて免疫沈降を行う。そして、得られた沈殿物(p53及びNFBD1の複合体が含まれている)を他方の分子に対する抗体を用いた免疫学的手法(イムノブロット等)により、p53及びNFBD1の複合体を検出、定量することにより、p53及びNFBD1との相互作用を測定できる。
【0029】
測定の結果、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53及びNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53及びNFBD1との相互作用よりも弱い場合(タンパク質複合体の形成量が少ない場合)に、当該化合物を陽性と判定する。即ち、当該化合物はアポトーシスを促進する化合物であると判定できる。
【0030】
(アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法)
本発明のアポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法は、p53及びNFBD1との相互作用を増強する化合物を、アポトーシスを抑制する化合物と判定する判定工程を備える。本スクリーニング方法はp53とNFBD1とが直接相互作用するという新たな分子メカニズムに基づいており、今までとは作用機序が全く異なる抗アポトーシス性化合物が得られる。
【0031】
具体的なスクリーニング方法は、当業者にとって公知のタンパク質間相互作用を測定する系が利用可能であり、例えば、酵母ツーハイブリッド法やPCA法(プロテイン・フラグメント・コンプリメンテーション・アッセイ)が挙げられる。酵母ツーハイブリッド法及びPCA法の概要は先に説明した通りである。
【0032】
酵母ツーハイブリッド法を利用した本スクリーニング方法は以下の通りである。ベイトとしてp53又はNFBD1の一方を、プレイとしてNFBD1又はp53の他方を酵母に発現させ、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下で当該酵母を培養し、培養したそれぞれの酵母のレポーター遺伝子の転写活性(p53とNFBD1との相互作用の強さを表す)を測定し、被検化合物存在下の転写活性が被検化合物非存在下の転写活性よりも上昇している場合、被検化合物はアポトーシスを抑制する化合物であると判定できる。
【0033】
PCA法を利用した本スクリーニング方法は以下の通りである。機能タンパク質の二つの断片A1又はA2にp53又はNFBD1を融合させた融合タンパク質を細胞に発現させ、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下で当該細胞を培養し、培養したそれぞれの細胞における機能タンパク質の活性を測定し、被検化合物存在下培養した細胞における機能タンパク質の活性が、被検化合物非存在下培養した細胞における機能タンパク質の活性よりも上昇している場合、被検化合物はアポトーシスを抑制する化合物であると判定できる。
【0034】
本発明のアポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法は、被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、p53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、培養したそれぞれの細胞における、p53及びNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53及びNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53及びNFBD1との相互作用よりも強い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを抑制する化合物と判定する判定工程と、を備える。本スクリーニング方法はp53とNFBD1とが直接相互作用するという新たな分子メカニズムに基づいており、今までとは作用機序が全く異なる抗アポトーシス性化合物が得られる。
【0035】
具体的なスクリーニング方法は、当業者にとって公知のタンパク質間相互作用を測定する系が利用可能であり、例えば、免疫沈降法が挙げられる。免疫沈降法を用いたスクリーニング方法は、化合物を判定する工程を除いて先に説明したのと同様である。即ち、p53とNFBD1との相互作用測定の結果、被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用よりも強い場合(タンパク質複合体の形成量が多い場合)に、当該化合物を陽性と判定する。即ち、当該化合物はアポトーシスを抑制する化合物であると判定できる。
【0036】
(アポトーシス抑制剤)
本発明のアポトーシス抑制剤は、配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質からなる。配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質はNFBD1タンパク質を表す。本発明者らが見出した分子メカニズムによれば、NFBD1はp53と直接相互作用することによりp53の安定を阻害し、p53が誘導するアポトーシスを抑制することを明らかにした。従って、本アポトーシス抑制剤を細胞、組織又は個体に接触又は投与することにより、細胞、組織又は個体のアポトーシスを抑制することが可能である。また、アポトーシスを起こしている細胞又は組織、若しくは神経変性疾患を患っている個体に本アポトーシス促進剤を接触又は投与することにより、神経変性疾患の治療を行うことが可能である。即ち、本アポトーシス抑制剤は神経変性疾患の治療剤として用いることが可能である。本アポトーシス抑制剤を接触又は投与する場合には、接触又は投与する細胞、組織又は個体がp53を発現していることを確認するのが好ましい。アポトーシスをより確実に抑制することができるからである。
【0037】
本発明のアポトーシス抑制剤及び配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸からなる。本発明者らは、NFBD1はp53と直接相互作用することによりp53の安定を阻害し、p53が誘導するアポトーシスを抑制することを明らかにした。従って、本アポトーシス抑制剤を適切なベクターに組み込み、当該ベクターを細胞、組織又は個体に接触又は投与することにより、細胞、組織又は個体のアポトーシスを抑制することが可能である。また、アポトーシスを起こしている細胞又は癌組織、若しくは神経変性疾患を患っている個体に前記ベクターを接触又は投与することにより、神経変性疾患の治療を行うことが可能である。即ち、本アポトーシス抑制剤は神経変性疾患の治療剤として用いることが可能である。本アポトーシス抑制剤を接触又は投与する場合には、接触又は投与する細胞、組織又は個体がp53を発現していることを確認するのが好ましい。アポトーシスをより確実に抑制することができるからである。
【0038】
本発明のアポトーシス抑制剤及び配列番号13に示すアミノ酸配列において、787〜1643番目のアミノ酸のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、p53結合活性を有するたんぱく質からなる。本発明者らは、NFBD1はp53と直接相互作用し複合体を形成することによりp53の安定を阻害し、p53が誘導するアポトーシスを抑制することを明らかにした。また、NFBD1のPSTドメイン(787〜1643)は複合体形成に関与していないことを明らかにした。従って、本アポトーシス抑制剤を細胞、組織又は個体に接触又は投与することにより、細胞、組織又は個体のアポトーシスを抑制することが可能である。また、アポトーシスを起こしている細胞又は組織、若しくは神経変性疾患を患っている個体に本アポトーシス促進剤を接触又は投与することにより、神経変性疾患の治療を行うことが可能である。即ち、本アポトーシス抑制剤は神経変性疾患の治療剤として用いることが可能である。本アポトーシス抑制剤を接触又は投与する場合には、接触又は投与する細胞、組織又は個体がp53を発現していることを確認するのが好ましい。アポトーシスをより確実に抑制することができるからである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(細胞培養及びトランスフェクション)
アフリカミドリザル腎臓由来COS7細胞及びヒト子宮頸癌由来Hela細胞は、10%(v/v)熱不活性化ウシ胎児血清(FBS;インビトロジェン)及びペニシリン(100IU/mL)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で培養した。ヒト非小細胞肺癌細胞A549及びH1299細胞は、10%熱不活性化FBS及び抗生剤混合物(100IU/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)を含むRPMI1640培地で培養した。培養物は、5%COの水飽和雰囲気下、37℃で維持した。
【0041】
FuGENE6 transfection reagent(ロシュ・モレキュラー・バイオケミカルズ)を用いて、製造業者の説明書に従い、直径6センチの組織培養皿において、所定の組合せの発現プラスミドをCOS7細胞及びHela細胞にトランスフェクトした。A549細胞及びH1299細胞は、リポフェクション法を用い、製造業者の説明書に従い、6ウェル又は12ウェルの組織培養皿において、LipofectAMINE 2000 transfection reagent(インビトロジェン)でトランスフェクトした。pcDNA3(インビトロジェン)をブランクプラスミドとして用い、一過的なトランスフェクションで導入されるDNA量のバランスをとった。
(RNA抽出及びRT−PCR)
【0042】
RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用い、製造業者のプロトコールに従って、アドリアマイシン(ADR;最終濃度:600nM)に曝したA549細胞又は所定の発現プラスミドでトランスフェクトしたH1299細胞から全RNAを抽出した。逆転写反応(RT−PCR)は、SuperScriptII reverse transcriptase(インビトロジェン)及びランダムプライマーを用いて、ファースストランドcDNAを調製した。42℃で1時間インキュベーションすることで行った。
【0043】
用いたオリゴヌクレオチドプライマーは、以下のとおりである。
p21WAF1
(フォワード、配列番号1) 5’-ATGAAATTCACCCCCTTTCC-3’
(リバース、配列番号2) 5’-CCCTAGGCTGTGCTCACTTC-3’
p53:
(フォワード、配列番号3) 5’-GTCCAGATGAAGCTCCCAGA-3’
(リバース、配列番号4) 5’-CAAGGCCTCATTCAGCTCTC-3’
NFBD1:
(フォワード、配列番号5) 5’-AGCAACCCCAGTTGTCATTC-3’
(リバース、配列番号6) 5’-AGCGCTGCTGAGACTTCTTC-3’
BAX:
(フォワード、配列番号7) 5’-TTTGCTTCAGGGTTTCATCC-3’
(リバース、配列番号8) 5’-CAGTTGAAGTTGCCGTCAGA-3’
PUMA:
(フォワード、配列番号9) 5’-CTGTGAATCCTGTGCTCTGC-3’
(リバース、配列番号10) 5’-TCCTCCCTCTTCCGAGATTT-3’
【0044】
(NFBD1及びp53とNFBD1の部分欠失ミュータントの発現プラスミドの構築)
NFBD1及びGFP−NFBD1の哺乳類発現プラスミドの作成はOzakiら, DNA Cell Biol. 19: 475−485の記載に従って行った。pcDNA3−p53、pcDNA3−FLAG−p53、及びp53(1−359)、p53(1−292)、p53(1−101)とp53(102−393)を含むp53の部分欠失ミュータントの作製はAndoら, J.Biol.Chem. 279: 5549−25561の記述に従って行った。FHA(2−140)及びBRCT(1883−2088)はPCRで増幅し、PfuUltraTM High−Fidelity DNAポリメラーゼ(ストラタジーン)を用い、製造業者の説明書に従って、それぞれpcDNA3―FLAGの制限酵素サイトEcor I及びXho Iの間に導入し、pcDNA3―FLAG―FHA(2−140)及びpcDNA3―FLAG―BRCT(1883−2088)を得た。PST(791−1695)はPCRで増幅し、pcDNA3―FLAGの制限酵素サイトEcor I及びNot Iの間に導入し、pcDNA3―FLAG―PST(791−1695)を得た。
【0045】
(NFBD1に対する低分子干渉RNAの発現プラスミドの構築)
低分子干渉RNA(siRNA)ベクターはA.K.Munirajan博士(千葉がんセンター研究所)より分譲された。NFBD1に対するsiRNA二本鎖を得るために、以下のオリゴヌクレオチドを合成した。
NFBD1:
(配列番号11)5’-CCCCAGCUCGAGCCUUCCACUUCUUCAAGAGAGAAGUGGAAGGCUCGAGCUUUUUUGGAAAC-3’
(配列番号12)5’-UCGAGUUUCCAAAAAAGCUCGAGCCUUCCACUUCUCUCUUGAAGAAGUGGAAGGCUCGAGCUGGGGAGCU-3’
【0046】
合成されたオリゴヌクレオチドはそれぞれ制限酵素MluI及びScaIによって切断し、siRNAベクターの同じサイトに導入し、siRNA−NFBD1を得た。
【0047】
(抗体)
抗NFBD1ポリクローナル抗体は、Louら, Nature, 421: 957−961の記載通り、NFBD1のN末端領域(アミノ残基1−150)を含むグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)融合タンパクに対して調製した。イムノブロットのため以下の抗体を用いた:抗p53モノクローナル抗体(DO−1;オンコジーンリサーチプロダクツ)、抗FLAGモノクローナル抗体(M2;シグマ)、抗Baxモノクローナル抗体(6A7;eバイオサイエンス)、抗GFPモノクローナル抗体(1E4;MBL)、抗p21WAF1ポリクローナル抗体(H−164;サンタクルーズバイオテクノロジー)、抗アクチンポリクローナル抗体(20−33;シグマ)、抗リン酸p53(Ser−15)ポリクローナル抗体(セルシグナリングテクノロジー)、及び抗PUMAポリクローナル抗体(アブカム)。
【0048】
(ウェスタンブロット)
A549細胞に所定の発現プラスミドを一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、培養物にアドリアマイシンを終濃度が600nMになるように加えた。所定の処理時間が経過後、細胞を溶解バッファー(25mMのTris−Cl(pH8.0)、137mMの塩化ナトリウム、2.7mMの塩化カリウム、1%のTriton X−100、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、プロテアーゼインヒビターミックス(シグマ)を含む)に懸濁させ、10秒間超音波処理を行った。15000rpmで10分間、遠心を行い、上清を回収し、ブラッドフォード法(バイオラッド)を用い、製造業者の説明書に従い、タンパク濃度を測定した。等量の細胞全体の可溶化物(タンパク量:50μg)をSDSサンプルバッファー(62.5mMのTris−Cl(pH6.8)、2%のβ−メルカプトエタノール、0.01%のブロモフェノールブルーを含む)中で煮沸して変性させ、還元条件下の10%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、Immobilon−P膜(ミリポア)に室温下にて1時間で転写した。膜を5%の脱脂粉乳を含むTBS−T(50mMのTris−Cl(pH7.6)、100mMの塩化ナトリウム及び0.1%のTween20を含む)で室温にて1時間、ブロックした。その後、所定の一次抗体を含むTBS−Tで1時間反応させ、さらに西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウス又は抗ウサギ二次抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボ)を用いて、室温にて1時間反応させた。膜をTBS−Tで充分に洗浄して、enhanced chemiluminescence system(ECL;アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を製造業者の説明書に従って用いることにより、免疫反応性のタンパク質は最終的に可視化された。
【0049】
(免疫沈降及びプルダウンアッセイ)
免疫沈降:細胞を30μLのグルタチオン−セファロース懸濁液(ファルマシア)で前処理し、正常マウス血清(NMS)又は抗GFPモノクローナル抗体(1E4;MBL)と4℃にて30分間免疫沈降させた。免疫沈降物を、抗p53モノクローナル抗体(DO−1;オンコジーンリサーチプロダクツ)を用いてイムノブロットで分析を行った。
【0050】
プルダウンアッセイ:[35S]メチオニン標識したFLAG−FHA、FLAG−BRCT及びFLAG−PSTは転写/翻訳カップルシステム(プロメガ)によって調製して、COS7細胞から調製した細胞全体の可溶化物と4℃にて2時間反応させた。[35S]メチオニン標識タンパクを10%SDS−PAGEで分離して、オートラジオグラフィーで可視化した。
【0051】
(ルシフェラーゼ・レポーターアッセイ)
p53を欠損したH1299細胞を5×10細胞/ウェルの密度で12ウェル組織培養皿に播き、以下のもので細胞を一過的にトランスフェクトした:100ngのp53応答配列を保有するルシフェラーゼレポータープラスミド(p21WAF1、MDM2又はBax)、10ngのpRL−TKウミシイタケルシフェラーゼcDNA、及び25ngのp53発現プラスミドと量を変化させたpcDNA3−NFBD1と一緒に又は無しに。pcDNA3(インビトロゲン)を用いて、トランスフェクションあたりのトータルのDNA量は一定(510ng)に保った。トランスフェクションから48時間後、細胞を1×PBSで2回洗浄し、passive lysis buffer(プロメガ)に再懸濁させた。デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(プロメガ)を用いて、説明書に従い、ホタル及びウミシイタケの両ルシフェラーゼ活性を測定した。蛍光強度はTD−20ルミノメーター(ターナーデザイン)を用いて測定した。ホタルルシフェラーゼのシグナルを、ウミシイタケルシフェラーゼのシグナルに基づいて規格化した。少なくとも3回のトランスフェクションを行って得られた結果を、平均値±標準偏差で表した。
【0052】
(細胞生存アッセイ)
生存率は、改良3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−テトラゾリウムブロマイド(MTT)アッセイを用いて評価した。100μLの完全培地を添加してある96ウェル組織培養皿に、A549細胞を5×10/ウェルの密度で播き、付着させた。次の日、アドリアマイシンを含む新鮮な培地に交換し、さらに24時間又は48時間培養した。MTTアッセイは、10μLのMTT溶液を各ウェルに添加し、培養物を37℃で3時間インキュベーションして行った。マイクロプレートリーダー(モデル450;バイオラッド)を用いて、各ウェルの570nmにおける吸光度を測定した。
【0053】
(アポトーシスアッセイ)
一定量の緑色蛍光タンパク(GFP)発現プラスミドを、NFBD1発現プラスミド又はsiRNA−NFBD1発現プラスミドの存在下又は非存在下、A549細胞にトランスフェックションした。トランスフェクションの24時間後、細胞をアドリアマイシンで処理した。アドリアマイシン処理から24時間後、トランスフェクトした細胞を緑色蛍光の存在によって識別して、核濃縮及びフラグメンテーションを確認するため細胞核を4’、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;シグマ)によって染色した。フラグメンテーションを呈するGFP陽性細胞をスコア化して、全GFP陽性細胞に占めるパーセンテージとして表した。
【0054】
(間接免疫蛍光法)
A549細胞をカバーガラスの上に蒔き、一晩培養した後、アドリアマイシン(終濃度が1μM)で処理するか、または処理しないままとした。アドリアマイシン処理から24時間後、PBSで細胞を洗浄し、さらに4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液で室温にて20分固定した。PBSで洗浄した後、カバーガラスを0.2%Triton−X 100のPBS溶液で室温にて5分間透過処理し、さらに3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで室温にて1時間ブロックした。カバーガラスを、抗NBS1モノクローナル抗体(1D7;GeneTex, Inc.)、抗Mrel1(12D7;GeneTex, Inc.)モノクローナル抗体、抗p53モノクローナル抗体(DO−1)、抗p53(Ser−15)モノクローナル抗体(16G8;セルシグナリング)、又は抗NFBD−1ポリクローナル抗体を用いて、室温にて1時間反応させた。PBSで結合していない一次抗体を洗浄除去した後、カバーガラスを、ローダミン標識抗マウス二次抗体、及びフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗ウサギ二次抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボ)を用いて、室温にて1時間反応させた。PBSで洗浄した後、細胞核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した。最後にカバーガラスをPBSで洗浄し、antifade溶液でマウントし、共焦点レーザ走査型顕微鏡(オリンパス)を用いて分析した。
【0055】
(実施例1) A549細胞におけるアドリアマイシンを介したアポトーシス誘導過程中のP53とNFBD1との関係
DNA損傷により誘導されるアポトーシスにおいて、NFBD1の潜在的な機能を規定するため、野生型p53を持つ肺非小細胞癌由来の細胞株であるA549細胞を、トポイソメラーゼII阻害剤であるDNA2本鎖切断を惹起するアドリアマイシン(ADR)で処理して、NFBD1及びp53等のタンパク質及びmRNAの発現レベルを調べた。アドリアマイシン処理から48時間後、細胞生存アッセイ(MTT)により調べたところ、A549細胞はアドリアマイシンの用量依存的にアポトーシスを起こしていた(図1)。さらに、600nmアドリアマイシンで処理したA549細胞についてイムノブロット分析を行ったところ、アドリアマイシン依存性のアポトーシス誘導過程において、NFBD1はmRNA(図2)及び蛋白レベル(図3)で発現の低下を認めた。その一方、p53はSer−15のリン酸化に伴う安定化が認められ、その標的遺伝子群であるp21WAF1やBax等の発現誘導も観察された(図2及び図3)。特に、RT−PCR分析の結果、NFBD1のmRNAの発現はアドリアマイシン処理で顕著に低下し、24時間後にその発現はほとんど認められなくなった(図2)。これに対して、p53及びSer−15のリン酸化p53(P−p53(Ser−15))のmRNAの発現レベルは、アドリアマイシン処理によって、24時間をピークに顕著な増加が認められた(図2)。また、p21WAF1及びBaxのmRNAの発現レベルもアドリアマイシン処理時間依存的に増加した(図2)。その一方、アドリアマイシン処理により、NFBD1のタンパク質レベルの発現が顕著に低下し、アドリアマイシン曝露から24時間後にその発現はほとんど認められなくなった(図3)。それに対して、p53のタンパク質レベルはほとんど変化せず、p21WAF1及びPUMAのタンパク質レベルはアドリアマイシン処理時間依存的に発現が顕著に誘導された(図3)。
【0056】
以上の結果をあわせると、DNA損傷で誘導されるp53の蓄積はNFBD1の発現量と逆相関していること、及び、DNA損傷が介するアポトーシス経路の間にそれらの機能的な相互作用が存在する可能性があることが示唆された。
【0057】
(実施例2)アドリアマイシンによるアポトーシス誘導における過剰発現するNFBD1の機能
アドリアマイシンによるアポトーシス誘導におけるNFBD1の調節機能を規定するため、A549細胞にNFBD1発現プラスミドをトランスフェクトして過剰発現させ、アドリアマイシン対する感受性を測定した。その結果、コントロール(エンプティベクター)に比べて、NFBD1過剰発現のA549細胞にはアドリアマイシン対する感受性の顕著な低下を認められた(図4)。また、イムノブロット分析を行ったところ、p53はSer−15のリン酸化阻害に伴う発現レベルの低下が認められた(図5)。さらに、p53標的遺伝子群であるp21WAF1及びPUMAのタンパク質レベルの発現誘導の阻害も認められた(図5)。以上よりNFBD1はp53のリン酸化阻害により、そのアポトーシス機能を阻害している可能性が示唆される。
【0058】
(実施例3)アドリアマイシンによるアポトーシスにおけるNFBD1の機能
内在性NFBD1の機能を規定するため、NFBD1に対する低分子干渉RNA(siRNA)(以下siRNA−NFBD1)を作製し、イムノブロットによって確認した(図6)。NFBD1又はsiRNA−NFBD1の存在下又は非存在下GFPによって一過性にトランスフェクトしたA549細胞を用いて、アポトーシスアッセイを行った。その結果、GFP陽性の細胞はトランスフェクト細胞であり、DAPI陽性の細胞はアポトーシスを起こした細胞である(図7A)。DAPI及びGFPともに陽性の細胞を、GFP陽性細胞に占める比率としてスコアした(図7B)。図7Bに示しているように、NFBD1トランスフェクトされた場合、NFBD1トランスフェクトされない場合に比べて、アドリアマイシン処理によって生じたアポトーシス細胞数は減少した。また、NFBD1及びsiRNA−NFBD1の共トランスフェクト細胞において、アドリアマイシン処理によって生じたアポトーシス細胞数は顕著に増加した。即ち、内在性NFBD1のノックアウトによってアドリアマイシン依存性のアポトーシスの亢進が認められた。以上の結果から、NFBD1はアドリアマイシンによるアポトーシスを抑制することが判明した。
【0059】
(実施例4) p53とNFBD1との相互作用
哺乳動物の培養細胞において、NFBD1がp53と相互作用するかどうかを調べるため、GFP−NFBD1によってトランスフェクトしたCOS7細胞から細胞全体の可溶化物を調製し、その可溶化物を正常マウス血清(NMS)又は抗GFP抗体と免疫沈降させ、それぞれ、抗p53抗体を使ったイムノブロットで分析した。図8に示したように、外因的に発現させたGFP−NFBD1は、COS7細胞中で安定な融合タンパクを形成し(上段)、p53はGFP−NFBD1と免疫共沈降した(下段)。これは、p53とNFBD1と複合体を形成していることを示している。
【0060】
また、NFBD1との結合に関与するp53の領域を同定するため、p53の欠失変異体をいくつか作製し、インビトロのプルダウンアッセイにおいてNFBD1への結合能を調べた。転写活性化ドメイン(TAドメイン)、DNA結合ドメイン(DBDドメイン)及びオリゴマー化ドメイン(ODドメイン)を含むp53の機能的ドメインに基づいて、変異体p53(1−359)、p53(1−292)、p53(1−101)及びp53(102−393)を設計した(図9)。p53(1−101)は、NFBD1に結合した(図10A)が、p53(102−393)はNFBD1には結合しなかった(図10B)。他のp53変異体も全てNFBD1に結合したことが認められた(データは示さず)。以上の結果より、アミノ末端を欠くp53の変異体はNFBD1に対する結合活性を失っていることから、NFBD1と複合体を形成するには、p53の転写活性化ドメインを含むアミノ末端が重要であると考えられる。
【0061】
さらに、p53との結合に関与するNFBD1の領域を同定するため、NFBD1の欠失変異体をいくつか作製し、インビトロのプルダウンアッセイにおいてp53への結合能を調べた。FHAドメイン(2−141)、PSTドメイン(787−1634)及びBRCTドメイン(1890−2089)を含むNFBD1の機能的ドメインに基づいて、これらの変異体を作製した(図11)。FLAG−FHA及びFLAG−BRCTはGST−p53に結合したが、FLAG−PSTはGST−p53には結合しなかった(図12)。以上のことから、NFBD1はそのBRCTドメイン及びFHAドメインを介してp53と結合していることが示唆された。
【0062】
(実施例5)NFBD1のp53の転写活性に対する効果
NFBD1のp53の活性に対する効果を検討するため、p53の下流遺伝子である、p21、MDM2、BAXのプロモーターを用いたルシフェラーゼ・レポーターアッセイを行った。p53が欠損したH1299細胞に、p21WAF1、MDM2又はBaxプロモーターのコントロール下のルシフェラーゼレポーター発現プラスミド、pRL−TKウミシイタケルシフェラーゼcDNA、及びp53発現プラスミドを、量を変化させたNFBD1の発現プラスミドと一緒に又は無しにトランスフェクトした。図13に示したように、エンプティプラスミドの対照に比べて、異所的に発現したp53は、p53応答性レポーターの転写を活性化した。また、NFBD1単独では、ルシフェラーゼ活性にはほとんど影響を与えなかった。NFBD1をp53と共発現させたときは、p21WAF1、MDM2又はBaxの活性がNFBD1用量依存的に顕著に減少したことが認められた。以上のことから、NFBD1はp53に転写活性化能を抑制していることが示唆された。
【0063】
(実施例6)アドリアマイシンによるDNA損傷に伴うp53及びNFBD1の細胞内局在
アドリアマイシン処理に伴うp53及びNFBD1の細胞内局在を間接免疫蛍光法で検討した。図14に示したように、アドリアマイシン処理しない時、p53もNFBD1も核内に局在している(図14上段)。1μMのアドリアマイシンで処理して24時間後、p53の発現誘導が認められる細胞ではNFBD1が消失していた(図14下段)。一方、NFBD1が修復の場と考えられるnuclear fociに集積している細胞では、p53の発現誘導は認められなかった(図14下段)。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ヒト非小細胞肺癌細胞A549細胞を異なる用量のアドリアマイシンに曝したときの細胞生存率を表すグラフである。
【図2】アドリアマイシン処理したA549細胞のアポトーシス誘導過程でのmRNAレベルを表す図である。
【図3】アドリアマイシン処理したA549細胞のアポトーシス誘導過程での蛋白レベルを表すグラフである。
【図4】NFBD1発現プラスミドを一過的にトランスフェクトしたA549細胞をアドリアマイシン処理したときの細胞生存率を表すグラフである。
【図5】NFBD1発現プラスミドを一過的にトランスフェクトしたA549細胞をアドリアマイシン処理したときのアポトーシス誘導過程での蛋白レベルを表す図である。
【図6】イムノブロットによって内在性NFBD1に対する特異的なsiRNAがNFBD1の発現を阻害したことを表す図である。
【図7】A549細胞にGFP−NFBD1発現プラスミドを一過的にトランスフェクションしたとき、NFBD1−RNAiによるアポトーシスの亢進をアポトーシス細胞の確認(図7A),及び全トランスフェクション細胞中のアポトーシス細胞の占める割合(図7B)で表す図である。
【図8】COS7細胞にGFP−NFBD1発現プラスミドを一過的にトランスフェクションしたとき、細胞全体の可溶化物を抗NFBD1抗体及び抗p53抗体でイムノブロットした結果(上図)、及び正常マウス血清又は抗NFBD1抗体で免疫沈降したものを抗p53抗体でイムノブロットした結果(下図)を表す図である。
【図9】p53欠失変異体の構築及びそれらの変異体とNFBD1との結合能を表す図である。
【図10】図10AはNFBD1及びp53(1−101)でCOS7細胞をトランスフェクションしたとき、細胞全体の可溶化物を抗NFBD1抗体及び抗p53抗体でイムノブロットした結果(図10A左図)、及び正常マウス血清又は抗NFBD1抗体で免疫沈降したものを抗p53抗体でイムノブロットした結果(図10A右図)を表す図であり、図10Bは、NFBD1及びで又はp53(102−393)でCOS7細胞をトランスフェクションしたときの結果を表す図である。
【図11】NFBD1欠失変異体の構築を表す図である。
【図12】FHAドメイン、PSTドメイン及びBRCTドメインの発現プラスミドによって、一過的にトランスフェクションしたとき、インビトロプルダウンアッセイの結果を表す図である。
【図13】H1299細胞に、p21WAF1、MDM2又はBaxプロモーターのコントロール下のルシフェラーゼレポーター発現プラスミド、pRL−TKウミシイタケルシフェラーゼcDNA、及びp53発現プラスミドを、量を変化させたNFBD1の発現プラスミドと一緒に又は無しにトランスフェクトしたとき、それぞれのフォールディング活性を表すグラフである。
【図14】アドリアマイシンによるDNA損傷に伴うNFBD1及びp53の細胞内局在を表す図である。
【図15】DNA損傷に伴うP53とNFBD1の相互作用の模式図を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53とNFBD1との相互作用を阻害する化合物を、アポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程を備える、アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法。
【請求項2】
被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、p53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、
培養したそれぞれの細胞における、p53とNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、
被検化合物の存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるp53とNFBD1との相互作用よりも弱い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを促進する化合物と判定する判定工程と、
を備える、アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法。
【請求項3】
p53とNFBD1との相互作用を増強する化合物を、アポトーシスを抑制する化合物と判定する判定工程を備える、アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法。
【請求項4】
被検化合物の存在下及び非存在下のそれぞれの条件下において、P53及びNFBD1を発現した細胞を培養する培養工程と、
培養したそれぞれの細胞における、P53とNFBD1との相互作用を測定する測定工程と、
被検化合物の存在下において培養した細胞におけるP53とNFBD1との相互作用が、被検化合物の非存在下において培養した細胞におけるP53とNFBD1との相互作用よりも強い場合に、当該被検化合物をアポトーシスを抑制する化合物と判定する判定工程と、
を備える、アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法。
【請求項5】
配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質からなるアポトーシス抑制剤。
【請求項6】
配列番号13に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸からなるアポトーシス抑制剤。
【請求項7】
配列番号13に示すアミノ酸配列において、787〜1634番目のアミノ酸のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、p53結合活性を有するタンパク質からなるアポトーシス抑制剤。
【請求項8】
配列番号13に示すアミノ酸配列において、787〜1634番目のアミノ酸のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ、p53結合活性を有するタンパク質をコードする核酸からなるアポトーシス抑制剤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−223265(P2006−223265A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44554(P2005−44554)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】