説明

アミドワックスおよびその製造方法、ならびに該アミドワックスを含有するトナー

【課題】 高温に曝された場合にも着色しにくく、臭気を発生しにくいアミドワックスを提供すること。
【解決手段】 炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物との縮合反応により得られる、酸価が1mgKOH/g以下、アミン価が1mgKOH/g以下、および130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が1以下であるアミドワックスを提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザープリンターなどの電子写真法や静電記録法等で形成される静電荷像の現像に好適に用いられる、実質的にN−アルキルモノ置換脂肪族アミド化合物からなるアミドワックスおよびその製造方法ならびに該アミドワックスを含有するトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機などの事務処理用複写機に使用されている電子写真技術は、例えば、特許文献1〜3などに記載の電子写真法を基に開発されてきた。電子写真法とは、画像情報から静電潜像を経由して可視画像を形成する方法である。具体的には、感光体上に形成された静電潜像に着色微粉末を含む樹脂粉末を付着させトナー像とし、これを紙やOHPシート等の記録媒体上に転写した後、加熱や加圧等によって複写画像を長期間にわたり若しくは半永久的に定着させる方法である。
【0003】
近年、複写機は高速化、小型化、カラー化、および低温定着化が志向されており、これらの要請にこたえるために、複写機の装置の改良およびトナーの改良がすすめられている。将来制定される省エネルギー法に対応するためには、装置全体の消費電力の低減、特に、定着装置の消費電力の低減という観点から、定着温度の低温化は今後避けては通れない。また、環境汚染防止の観点からは、加熱時における昇華物および臭気の発生の抑制が望まれている。
【0004】
上記の要請に対応できる複写機の定着方式として、現在、熱効率が良く、コンパクトな機構にすることが可能なローラ定着方式、あるいは高速にも対応できるフラッシュ定着方式などが採用されている。
【0005】
しかしながら、フラッシュ定着方式では、トナーに瞬間的に高熱がかかるため、昇華物がより多く発生することがある。また、加熱ローラ定着方式は、フラッシュ定着方式に比べて昇華物の発生は少ないものの、加熱ローラ表面と紙面上のトナー画像が接触するために、トナーが加熱ローラ表面に付着し、続いて送られてくる記録媒体に転写して画像を汚す、いわゆるオフセット現象が発生するという新たな問題が生じる。
【0006】
加熱ローラ方式におけるオフセット現象を防止するために、定着ローラ表面をトナーに対して離型性の良いシリコンゴムやフッ素樹脂で形成し、さらにその表面にシリコーンオイル等の離型性液体を供給することが行われている。しかし、この方法は、トナーのオフセット現象の防止という点では有効ではあるが、上記オフセット防止用の離型性液体が加熱時に蒸発するため不快臭が発生する上、その離型性液体を供給するための装置も必要となる。このように、複写機の装置の改良のみでは、他の問題を生じさせずに昇華物や臭気の発生を抑制することには現時点では限界がある。
【0007】
他方、トナー自体に離型剤として、炭素数が8〜30のカルボン酸と炭素数が8〜30の脂肪族モノアミンとから得られるN−アルキルモノ置換脂肪族アミド化合物からなり、ワックスとして機能するアミドワックスを添加することによって、オフセット現象を防止する検討が行われている(例えば、特許文献4〜6)。
【0008】
アミドワックスは、一般に、カルボン酸とアミンとを脱水縮合反応することによって得られるが、このアミドワックス中には、生成したアミド化合物以外に、未反応のカルボン酸やアミンが残存する。これらのカルボン酸、アミンなどが残存するアミドワックスは、熱安定性に劣り、様々な問題を引き起こす。
【0009】
このようなアミドワックスは、例えば、トナーの製造時、ローラ定着時などにおいて空気中で高温にさらされると、残存するカルボン酸およびアミンが熱劣化を受け、結果として著しく着色したり、臭気を発生させる。さらに、得られたトナーの保存中に、残存するカルボン酸およびアミンがトナー粒子表面に移行し、トナー粒子同士の融着・凝集を引き起こすため、トナーの保存安定性が低下する。さらにローラ定着時における耐オフセット性が低下し、印刷媒体への定着性も低下する。
【0010】
そこで、これらのアミドワックスを脱酸により精製することが考えられる。しかし、アミドワックスの実質的な成分であるアミド化合物は、比較的高い融点を有するため、従来の脱酸精製方法においては、高温で加熱することが必要となる。その結果、アミドワックス中のアミド化合物、カルボン酸、アミンなどが熱劣化を受けてしまい、結局、トナーの製造時および使用時に着色および臭気が少なく、保存安定性、定着性などのトナー性能に優れたアミドワックスを得ることは困難である。
【特許文献1】米国特許2,297,691号明細書
【特許文献2】特公昭42−23910号公報
【特許文献3】特公昭43−24748号公報
【特許文献4】特開平6−180511号公報
【特許文献5】特開平7−140699号公報
【特許文献6】特開平10−48867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高温に曝された場合にも着色しにくく臭気の発生が少ないアミドワックスを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、上記アミドワックスを含有することによって、複写時の臭気の発生が少なく、色再現性に優れ、さらに耐オフセット性、保存安定性、定着性などに優れたトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、酸価およびアミン価が特定の値以下でかつ130℃にて3時間保持後の色相増加が少ないアミドワックスが、高温に曝された場合にも着色および臭気をほとんど生じないこと見出した。さらにこのアミドワックスを用いたトナーが耐オフセット性、保存安定性、および定着性に優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物との縮合反応により得られ、酸価が1mgKOH/g以下、アミン価が1mgKOH/g以下、および130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が1以下であるアミドワックスを提供する。
【0015】
本発明はまた、上記アミドワックスの製造方法を提供し、その方法は、炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物と、該モノアミン化合物に対して当量を超える量の炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸とを縮合反応に供してアミド化粗生成物を得る工程、および該アミド化粗生成物100質量部に対して、炭化水素溶媒5〜100質量部およびアルカリ水溶液を添加して分相し、有機層を回収する脱酸工程を包含する。
【0016】
好ましい実施態様においては、上記脱酸工程において、上記アルカリ水溶液100質量部に対して、さらに水溶性アルコールを10〜150質量部の割合で添加する。
【0017】
本発明はまた、結着樹脂100質量部に対して、上記アミドワックスを0.1〜40質量部の割合で含有するトナーを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアミドワックスは、酸価およびアミン価が極めて低く、130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が少ない。そのため、高温に曝された場合にも着色しにくく、臭気を発生しにくい。このアミドワックスを使用したトナーは、複写時に臭気の発生が少なく、色再現性に優れ、さらに耐オフセット性、保存安定性、および定着性などにも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明のアミドワックスおよびその製造方法ならびに該アミドワックスを含有するトナーについて、順次詳細に説明する。
【0020】
(アミドワックス)
本発明のアミドワックスは、炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物との縮合反応により得られる。
【0021】
本発明のアミドワックスの原料であるカルボン酸は、炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸であれば特に制限はない。飽和脂肪族モノカルボン酸および不飽和脂肪族モノカルボン酸のいずれも使用することができ、また、直鎖脂肪族モノカルボン酸および分岐鎖を有する脂肪族モノカルボン酸のいずれも使用することができる。具体的には、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などが挙げられる。炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
本発明のアミドワックスの原料であるアミン化合物は、炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物であれば特に制限はない。飽和脂肪族モノアミン化合物および不飽和脂肪族モノアミン化合物のいずれも使用することができ、また、直鎖脂肪族モノアミン化合物および分岐鎖を有する脂肪族モノアミン化合物のいずれも使用することができる。具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、アラキルアミン、ベヘニルアミン、2−エチルヘキシルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等が挙げられる。炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0023】
本発明のアミドワックスは、酸価が1mgKOH/g以下、好ましくは0.5mgKOH/g以下、より好ましくは0.3mgKOH/g以下である。アミン価は、1mgKOH/g以下、好ましくは0.8mgKOH/g以下、特に好ましくは0.5mgKOH/g以下である。さらに、130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が1以下である。酸価が1mgKOH/gを超える場合、アミン価が1mgKOH/gを超える場合、あるいは130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が1を超える場合は、高温での加熱時に著しい着色や臭気を発生する。このようなアミドワックスを電子写真用トナー、特にカラートナーに用いた場合、色再現性、耐オフセット性、保存安定性、および定着性が低下する。
【0024】
本明細書において、「色相」というときは、ガードナー・ヘリーゲ法により得られる色相の値をいう。色相の増加は、具体的には、アミドワックスの一部を用いて130℃にて3時間保持する処理を行った後、処理前後の色相の差から求められる。
【0025】
本発明のアミドワックスは、好ましくは上記色相の増加が1以下で、かつ処理前の色相が2以下であり、より好ましくは処理前の色相が1以下である。上記色相の増加が1以下でかつ処理前の色相が2以下のアミドワックスを使用することによって、より良好な色相を有しかつ色再現性により優れたトナーを得ることができる。このようなアミドワックスは、例えば、電子写真用トナー、特にカラートナーに有用である。
【0026】
本発明のアミドワックスは、融点が50〜120℃の範囲にあることが好ましい。このようなアミドワックスを電子写真用トナーに用いることで、耐オフセット性および保存安定性がさらに優れたトナーを調製することが可能である。
【0027】
本発明のアミドワックスは、110℃における溶融粘度が、100mPa・s以下であることが好ましく、80mPa・s以下であることがより好ましく、50mPa・s以下であることがさらに好ましい。このようなアミドワックスを用いた場合、定着性、耐オフセット性にさらに優れた電子写真用トナー、特にカラートナーを調製することが可能である。
【0028】
(アミドワックスの製造方法)
次に、本発明のアミドワックスの製造方法について説明する。本発明の方法は、上記炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物と、該モノアミン化合物に対して当量を超える量の上記炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸とを縮合反応に供してアミド化粗生成物を得る工程、および該アミド化粗生成物100質量部に対して、炭化水素溶媒5〜100質量部およびアルカリ水溶液を添加して分相し、有機層を回収する脱酸工程を包含する。本発明の方法は、上記アミン化合物と当量を超える量の上記カルボン酸とを反応させることで、未反応の脂肪族モノアミン化合物の残存量を低減し、そして得られたアミド化粗生成物に炭化水素溶媒を所定量添加することによって、アミド化粗生成物のアルカリ水溶液による脱酸時において良好な分層状態を得ることができる。その結果、高温に加熱することなく、未反応物として残存するカルボン酸を除去することができ、高温に曝された場合にも着色や臭気の発生が少ないアミドワックスが得られる。このアミドワックスをトナーに使用することによって、複写時の臭気の発生が少なく、色再現性に優れ、さらに耐オフセット性、保存安定性、および定着性に優れたトナーを得ることが可能となる。
【0029】
上記縮合反応において、炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸の量は、好ましくは上記炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物1モルに対して1.01〜1.15モル、より好ましくは1.02〜1.10モルである。1.01モル未満の場合は未反応のアミン化合物が残存し、得られるアミドワックスのアミン価が高くなるおそれがある。1.15モルを超える場合は、過剰量のカルボン酸を中和するために多量のアルカリが必要となるため経済的に不利となる可能性がある。上記縮合反応は特に制限されず、当業者が通常行う方法が採用される。例えば、上記モノアミン化合物と当量を超える量の上記脂肪族モノカルボン酸とを混合し、触媒の存在下または不存在下で、通常120℃〜220℃にてアミド化反応(脱水縮合反応)が行われる。
【0030】
次いで、得られたアミド化粗生成物中に残存するカルボン酸を、アルカリ水溶液および炭化水素溶媒を添加することによって脱酸する。脱酸時に得られる溶液の分層状態をさらに良好にし、アミド化合物の精製を良好にする観点から、さらに水溶性アルコールを添加することが好ましい。
【0031】
脱酸時に用いるアルカリ水溶液としては、アルカリ金属塩(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、炭酸アンモニウムなどの水溶液が挙げられる。通常、5〜20質量%濃度のアルカリ水溶液が用いられる。アルカリの量は、カルボン酸とアミンとを反応させて得られるアミド化粗生成物の酸価に対し、1〜2倍当量が好適である。
【0032】
上記炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタンなどが挙げられる。炭化水素系溶剤の添加量は、アミド化粗生成物100質量部に対して、5〜100質量部の割合である。5質量部未満では、分層不良あるいは乳化状態になり、アミド化合物を精製することができない。100質量部を超えても添加量に見合った向上がなく、かえって、溶媒の除去工程に長時間を要し、生産性が低下する場合もある。
【0033】
上記水溶性アルコールとしては、炭素数1〜3のアルコールであるメタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。水溶性アルコールの添加量に特に制限はない。好ましくは、脱酸に用いるアルカリ水溶液100質量部に対して10〜150質量部、より好ましくは20〜130質量部、さらに好ましくは30〜100質量部である。水溶性アルコールの添加量が10質量部未満の場合は、該アミド化合物を含む有機層と水層との分離が良好でない場合があり、150質量部を超えると有機層と水層との比重差が小さくなり分層不良になるおそれがある。
【0034】
脱酸は、上記アミド化粗生成物に、アルカリ水溶液、炭化水素溶媒、さらに必要に応じて水溶性アルコールを用いて、アミド化粗生成物中に存在する酸をアルカリにより中和することにより行われる。アルカリ水溶液、炭化水素溶媒、および水溶性アルコールの添加順序に特に制限はない。例えば、予め炭化水素溶媒あるいは炭化水素溶媒と水溶性アルコールとの混合液を添加した後、アルカリ水溶液を添加して中和してもよいし、アルカリ水溶液を添加して中和した後、炭化水素溶媒あるいは上記混合液を添加してもよい。さらには、アルカリ水溶液、炭化水素溶媒、および水溶性アルコールの混合溶液を予め調製しておき、この混合溶液を添加してもよい。通常、これらを十分に混合することにより脱酸が行なわれる。脱酸は、アミド化粗生成物の融解温度よりも高い温度に保持して行なう。通常、50〜95℃、好ましくは70〜90℃である。50℃より低い温度では、分層不良や乳化を起こすおそれがあり、95℃を超えると水層が沸騰し得、作業性が低下する場合がある。
【0035】
上記脱酸によりアミド化合物を含む有機層とアルカリ水層とに分離するので、このアルカリ水層を除去する。次にアミド化合物を含む有機層を温水あるいは熱水(50〜95℃)を用いて水洗する。水洗は、水洗廃水のpHが7〜8となるまで繰り返し行なう。上記アルカリは、脱酸後の水洗を繰り返し行なうことにより、有機層から除去することができる。さらに、水洗後に有機層中に残存する炭化水素系溶剤を、減圧条件下にて除去することによって目的のアミドワックスが得られる。
【0036】
以上のような方法を採用すると、精製時に分層不良や乳化を引き起こすことなく、本発明のアミドワックスを製造することができる。このようにして得られるアミドワックスは、高温に曝された場合にも着色や臭気の発生が少ない。このアミドワックスをトナーに使用することによって、複写時の臭気の発生が少なく、色再現性に優れ、さらに耐オフセット性、保存安定性、および定着性に優れたトナーを得ることが可能である。
【0037】
(トナーおよび該トナーを用いる現像)
本発明のトナーは、上記アミドワックスおよび結着樹脂を含有し、必要に応じて各種添加剤を含有し得る。上記アミドワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜40質量部、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部の割合である。上記割合が0.1質量部未満では低温定着性および耐オフセット性を改善できず、一方、40質量部を超えるとドラムフィルミングが発生する可能性がある。トナー中のアミドワックスの含有量は、好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは0.1〜20質量%である。トナー中には、本発明のアミドワックスを単独であるいは2種類以上混合して含有してもよい。
【0038】
結着樹脂は、一般的に80℃〜200℃程度の軟化点を有するものが用いられ、具体的には、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0039】
本発明のトナーは、アミドワックスおよび結着樹脂に加えて、種々の添加剤などを含有し得る。添加剤としては、上記アミドワックス以外のワックス類、研磨剤、流動性付与剤、ケーキング防止剤、カーボンブラック、導電性付与剤(酸化スズなど)などが挙げられる。上記添加剤は、本発明のアミドワックスの本来の効果を損なわない範囲の量で任意に含有される。
【0040】
本発明のトナーはモノクロトナーまたはカラートナーのいずれでも良く、トナーの使用用途に応じて着色剤が含有され得る。着色剤としては通常用いられる顔料および染料が利用される。
【0041】
さらに、本発明のトナーを二成分系現像剤として用いる場合には、キャリアと混合して用いることができる。この場合、キャリアとしては、通常用いられるキャリアが使用可能であり、例えば鉄粉、フェライト粉、ニッケル粉のような磁性を有する粉体;ガラスビーズ;およびこれらの表面を樹脂などで処理したものなどが挙げられる。また、本発明のトナーは、磁性材料を含有する一成分系の磁性トナーとしても使用できる。
【0042】
本発明のトナーは、乾式および湿式のいずれの方法によっても現像することができる。さらに、上記現像方法により像担持体に作成されたトナーによる可視像を、像担持体上から記録媒体上に転写した後、その記録媒体にトナーを定着させるが、この定着方法についても特に制限はない。例えば、オープン式の定着方法、フラッシュ式の定着方法のような非接触式の加熱定着方法、弾性体や剛体の接触ローラーを用いる加熱・加圧定着方法、およびこれらを組み合わせた定着方法が用いられる。加熱温度は、定着スピードや紙質に応じて選択される。本発明のトナーを用いた場合、従来のトナーに比べて低いエネルギーで定着が可能であり、かつ、接触式の定着装置を用いた場合も非オフセット性が良好であり、かつ、接触式の定着装置を形成する材質の選択性も広い。
【0043】
本発明のトナーを用いることのできる画像形成装置は、モノクロ画像形成装置およびカラー画像形成装置のいずれであっても良く、乾式あるいは湿式の、二成分系現像剤、磁性一成分系現像剤、非磁性一成分系現像剤などの既知の現像剤を用いた画像形成装置のいずれもが利用される。
【実施例】
【0044】
以下に本発明のアミドワックスの製造例およびそれを用いたトナーの製造方法を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。実施例において「部」は質量部を示す。
【0045】
本実施例で採用した各種評価の方法を次に示す。
(1)アミドワックスの酸価:JIS K 0070に準じて行った。
(2)アミドワックスのアミン価:ASTM D 2074に準じて行った。
(3)アミドワックスの色相(ガードナー・ヘリーゲ法、溶融時):JIS K 0071に準じて行った。
(4)アミドワックスの粘度(B型粘度):ブルックフィールド型回転粘度計を用いて110℃での粘度(mPa・s)を測定した。
(5)アミドワックスの透明融点:JOCS 2.2.4.1に準じて行った。
(6)トナーの保存安定性:トナーを密閉容器に入れ、50℃の恒温槽で24時間静置した後、トナーを取り出して60メッシュフィルターを用いてトナーを通過させた。このときトナーのフィルター通過後の質量比率(%)がトナー総質量の95%以上の場合を、トナーの保存安定性が良好であるとした。
(7)トナーの定着性:一成分トナーについては、市販のモノクロ複写機(キャノン製LBP404G)、二成分トナーについては、市販のカラー複写機(HITACHI HT−4551−11)を用いて、それぞれ画像出しを行った。このときのトナーの定着性を以下のように評価した。粘着テープ(スコッチメンディングテープ;住友3M社製)を複写画像の表面に貼り、直径5cmで質量が500gの重りを乗せ、1分間放置した。放置後、テープを一定速度ではがし、テープへの付着状態を目視観察して定着性を評価した。表における定着性は、テープへの付着物がなく、定着性の良いものを「○」、テープへの付着物が多く、定着性の悪いものを「×」とした。
(8)トナーのオフセット性:トナーの定着性の評価時と同様に画像出しを行い、余白部にトナー汚れが生じるか否かを目視観察して、オフセット性を評価した。表におけるオフセット性は、トナー汚れが生じない場合を「なし」、トナー汚れが生じた場合を「あり」とした。
(9)複写時の臭気:トナーの定着性の評価と同様にして画像出しを行い、複写時に発生する臭気を官能評価した。臭気が発生しない場合を「なし」、臭気が発生する場合を「あり」とした。
(10)複写時の色再現性:トナーの定着性の評価と同様にして画像出しを行い、アミドワックスを添加せずに調製したトナーとの色の違いを目視観察して、
色再現性を評価した。アミドワックスを添加せずに調製したトナーに比べて色の違いがほとんどなく、実用上問題ない場合を「○」、色の違いが明らかな場合を「×」とした。
【0046】
(実施例1:アミドワックスの製造および評価)
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、アミン化合物としてステアリルアミン150.0g(0.556mol)およびカルボン酸としてステアリン酸163.8g(0.576mol)を加え、窒素気流下、190℃で反応水を留去しつつ、8時間常圧で反応させた。得られたアミド化粗生成物の量は301.2gであり、酸価が3.7mgKOH/gであった。このアミド化粗生成物301.2gにトルエン100g(アミド化粗生成物100質量部に対し、33質量部)を入れ、さらにアミド化粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10%水酸化カリウム水溶液16.7gとエタノール16.7g(アルカリ水溶液100質量部に対して、100質量部)を入れたのち、75℃で10分攪拌した。30分間静置して水層部を除去して脱酸工程を終了した。次いで、用いたアミド化粗生成物100質量部に対して、20質量部のイオン交換水を入れて、75℃で10分間攪拌した後、30分間静置して水層部を分離、除去した。廃水のpHが中性(7.4)になるまで水洗を4回繰り返した。残ったアミド層を150℃、1kPaの減圧条件下で溶媒を留去し、濾過を行い、融点95.5℃、酸価0.1mgKOH/g、アミン価0.4mgKOH/g、色相(ガードナー)1のアミドワックス290.2gを得た(アミドワックスAとする)。脱酸に供したアミド化粗生成物に対する収率は、96.3%であった。
【0047】
本実施例で使用したカルボン酸およびアミン化合物の種類および量(モル数)、これらの仕込み時のカルボキシル基とアミノ基との比率、得られたアミド化粗生成物の量および酸価、脱酸に用いたアルカリ水溶液の種類および量、脱酸時に用いた有機溶剤の種類および量、脱酸および水洗時の温度、および脱酸および水洗時の分層状態をまとめて表1に示す。分層状態○は、分層状態が良好であることを示す。後述の実施例および比較例についてもこれらを表1に示す。
【0048】
本実施例で得られたアミドワックスAについて、上記方法により試験を行い、酸価、アミン価、色相、透明融点、および粘度の各特性を調べた。その結果を表2に示す。
【0049】
(実施例2〜5)
表1に示すカルボン酸およびアミン化合物を用いて、実施例1に準じてアミドワックスB〜Eの製造を行なった。実施例2のアミドワックスの製造方法は、実施例1と同様であるが、脱酸時にトルエンの代わりにキシレンを使用した。実施例3および実施例7については、脱酸時にトルエンの代わりにシクロヘキサンを使用した。得られたアミドワックスB〜Eについて、実施例1と同様に試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0050】
(比較例1)
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ステアリルアミン150.0g(0.556mol)およびステアリン酸163.8g(0.576mol)を加え、窒素気流下、190℃で8時間常圧で反応してアミド化粗生成物304.1gを得た。反応終了後、脱酸工程を行わず濾過のみを行い、アミドワックスを得た(アミドワックスFとする)。
【0051】
(比較例2)
表1に示すカルボン酸およびアミン化合物を用いて、実施例1に準じてアミドワックスの製造を行った(アミドワックスGとする)。得られたアミドワックスGについて、実施例1と同様に試験を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
(比較例3)
温度計、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ステアリルアミン150.0g(0.556mol)およびステアリン酸166.1g(0.584mol)を加え、窒素気流下、190℃で8時間常圧で反応してアミド化粗生成物を得た。得られたアミド化粗生成物の量は302.8gであり、酸価が3.9mgKOH/gであった。反応終了後、250℃、1mmHgの減圧下にて3時間保持し、脱酸を行った。その後、濾過を行い、酸価が2.5mgKOH/g、アミン価が0.3mgKOH/gのアミドワックスを得た(アミドワックスHとする)。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表2から明らかなように、実施例1〜5のアミドワックスA〜Eは、いずれも酸価が1.0mgKOH/g以下、アミン価が1.0mgKOH/g以下であり、かつ空気中において、130℃にて3時間保持した場合の色相(ガードナー)の増加が1以下であることがわかる。一方、比較例1〜3のアミドワックスF〜Hは、酸価が1.0mgKOH/g以下あるいはアミン価が1.0mgKOH/g以下の条件を満たさず、かつ色相の増加が1以下の条件を満たしていない。上記比較例1のアミドワックスFは、脱酸工程を行っていないため、特にカルボン酸が多く残存し、そのため、酸価が1.0mgKOH/g以下および色相の増加が1以下の条件を満たさないと考えられる。比較例2のアミドワックスGは、反応工程において、カルボン酸の量がアミン化合物に対して当量以下であるため、アミン化合物が不純物として残存し、そのためアミン価が1.0mgKOH/g以下および色相の増加が1以下の条件を満たさないと考えられる。比較例3のアミドワックスHは、溶剤を使用せず250℃の高温下で脱酸しているため、酸価が1.0mgKOH/g以下および色相の増加が1以下の条件を満たさないと考えられる。
【0056】
(実施例6〜8:トナーの製造および評価)
ポリエステル樹脂(軟化点85℃)95質量部、実施例1で得られたアミドワックスA6質量部、カーボンブラック8質量部、およびニグロシン染料3質量部を高速攪拌して溶融混合した。室温まで冷却した後、ハンマーミルを用いて粗粉砕し、続いてエアージェットミル方式による微粉砕機を用いて微粉砕した。得られた微粉砕品を風力分級機を用いて分級し、平均粒径9μmとした。本粒子100質量部に対して、流動化剤として酸化チタン微粉末(平均粒径0.02μm)1質量部を添加混合して、一成分系磁性トナー「T−1」を得た。以下、実施例1で得られたアミドワックスAを用いる代わりに、実施例2および実施例3で得られたアミドワックスBおよびCをそれぞれ表3に示す含量となるように使用したこと以外は、上記と同様に操作して、各々一成分系磁性トナー「T−2」および「T−3」を得た。各トナーについて、上記試験法を用いて、保存安定性、複写時の定着性、オフセットの有無、臭気の有無、および色再現性を調べた。結果を表3に示す。
【0057】
(実施例9および10)
温度計および攪拌機を備えたオートクレーブ中に、ジメチルテレフタレート94質量部、ジメチルイソフタレート95質量部、エチレングリコール89質量部、ネオペンチルグリコール80質量部、および酢酸亜鉛0.1質量部を仕込み、120℃〜230℃で120分間加熱してエステル交換反応を行った。次いで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸8.4質量部を加え、220〜230℃で60分間反応を続けた。さらに250℃まで昇温した後、系の圧力を1〜10mmHgとして60分間反応を続けた結果、共重合ポリエステル乳化分散液を得た。この乳化分散液1Lに、実施例4のアミドワックスDのエマルジョン(固形分30%)を30mL加えた。得られた混合液を、40℃に加熱したMgSO4(0.2%)水溶液2Lに、十分攪拌しながら約30分間で滴下することにより、造粒操作を行った。さらに、30分間この温度で保持し、常温まで冷却した。得られたポリエステル樹脂粒子(アミドを離型剤として内包する)の水系分散体を100g、そして染料(イエロー)としてC.I.ディスパーズ・イエロー64を3g、各々ステンレススチール製ポットに仕込み、常温から3℃/分の昇温速度にて130℃まで昇温し、130℃にて60分間保持したあと、常温まで冷却した。得られた染料粒子を濾過・洗浄し、スプレードライヤーにて乾燥し、イエローに染着された樹脂粒子を得た。
【0058】
以下、それぞれマゼンダとしてC.I.ディスパーズ・レッド92、シアンとしてC.I.ディスパーズブルー60を用いて、同様にそれぞれマゼンタ、シアンに染着された樹脂粒子を得た。得られた染色樹脂粒子100gに対し、シリカ1gを混合し、各々イエロートナー、マゼンタトナーおよびシアントナーを得た。得られたイエロートナー、マゼンタトナーおよびシアントナー各5gに、シリコーンコートしたフェライトビーズ100gを混合し、これを二成分系トナー「T−4」とした。以下、上記と同様の操作により、実施例5のアミドワックスEを使用して重合トナー「T−5」を得た。得られたトナーについて実施例6と同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0059】
(比較例4〜6)
実施例1で得られたアミドワックスAの代わりに、比較例1で得られたアミドワックスFおよび比較例2で得られたアミドワックスGをそれぞれ使用したこと以外は、実施例6と同様に操作を行い、トナー「T−6」および「T−7」を得た。また、実施例4で得られたアミドワックスDの代わりに、比較例3で得られたアミドワックスHを用いたこと以外は、実施例9と同様に操作を行い、トナー「T−8」を得た。各トナーについて実施例6と同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から明らかなように、本発明の条件を満たすアミドワックスA〜Eを所定割合で含む実施例6〜10のトナー「T−1」〜「T−5」は、ブロッキングを起こさず、保存安定性に優れ、定着性が良好であり、オフセットも確認されなかった。また、複写時において、いずれも臭気を感じることはなく、色再現性にも優れていた。このように、トナー「T−1」〜「T−5」は、高画像濃度で地肌あれやオフセット汚れのない鮮明な画像を得ることができる。
【0062】
一方、比較例4〜6の本発明の条件を満たさないアミドワックスF〜Hを用いたトナー「T−6」〜「T−8」は、いずれも保存安定性が悪く、また、複写時にはオフセット現象が生じ、画像濃度が低く実用に適していない画像しか得られなかった。さらに、いずれも複写時において、明らかな臭気の発生が認められ、色再現性も不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のアミドワックスは、酸価およびアミン価が極めて低く、130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が少ない。そのため、高温に曝された場合にも着色しにくく、臭気を発生しにくい。本発明のアミドワックスは、トナー、固体インクジェット用インクなどの現像材料;熱によるワックスの光透過性や流動性などの性状変化を利用したリライトカード、リライトペーパーなどの表示材料;温度センサーなどにおける電気抵抗の制御材料;熱転写フィルムなどに使用されるフィルム離型材料などに用いられるアミドワックスとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物との縮合反応により得られるアミドワックスであって、酸価が1mgKOH/g以下、アミン価が1mgKOH/g以下、および130℃にて3時間保持した場合のガードナー・ヘリーゲ法による色相の増加が1以下であるアミドワックス。
【請求項2】
請求項1に記載のアミドワックスの製造方法であって、
炭素数8〜30の脂肪族モノアミン化合物と、該モノアミン化合物に対して当量を超える量の炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸とを縮合反応に供してアミド化粗生成物を得る工程、および
該アミド化粗生成物100質量部に対して、炭化水素溶媒5〜100質量部およびアルカリ水溶液を添加して分相し、有機層を回収する脱酸工程、
を包含する、方法。
【請求項3】
前記脱酸工程において、前記アルカリ水溶液100質量部に対して、さらに水溶性アルコールを10〜150質量部の割合で添加する、請求項3に記載のアミドワックスの製造方法。
【請求項4】
結着樹脂100質量部に対して、請求項1に記載のアミドワックスを0.1〜40質量部の割合で含有する、トナー。

【公開番号】特開2006−188467(P2006−188467A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2403(P2005−2403)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】