説明

アラキドン酸代謝抑制剤

【課題】 本発明者は、アラキドン酸代謝異常による様々な症状を軽減し、もしくは予防することができる、新規なアラキドン酸代謝抑制剤を提供すること、特により簡便に入手できるとともに、大量生産が容易に実現可能なアラキドン酸代謝抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、ジヒドロジャスモン、および/またはジヒドロジャスモネートまたはそのエステルを有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤によって前記課題は解決される。また、本発明はさらに、該アラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、血流改善剤、抗血栓剤、抗炎症剤または抗アレルギー剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラキドン酸代謝抑制剤に関する。さらには、アラキドン酸の代謝を抑制することによる血流改善剤、抗血栓剤、抗炎症剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
各種プロスタグランジン類やトロンボキサンなどは、アラキドン酸を出発物質として生合成されることが知られている。これらアラキドン酸代謝産物は、生体内の各種調節機構に関与していることが知られている一方、炎症や血栓の生成にも深く関与していることも知られている。また、近年、一般に血液の流動性やアレルギー性のものを含む各種炎症の改善などに対する関心が高まっており、このアラキドン酸の代謝経路を制御することによって、様々な症状を緩和する方法が注目されている。たとえば、キノリルメトキシフェニル酢酸やその誘導体によるアラキドン酸代謝の抑制(特許文献1)、桑白皮、甘草の抽出物またはその成分によるアラキドン酸代謝異常の治療(特許文献2)、モルギンまたはその誘導体によるアラキドン酸代謝を阻害する方法(特許文献3)、カンキツ果皮抽出物によりアラキドン酸代謝酵素を阻害する方法(特許文献4)などが提案されている。また、カプサイシンやトウガラシ抽出物が血流促進効果を有することが知られているが、これらは刺激が強いため投与方法や投与量に制限があるなど使用方法や用途が限られている。また、非特許文献1には、カルバクロール類、オイゲノール、ジャスモンに、アラキドン酸によって惹起される兎血小板の凝集反応に対する抑制能があることが報告されている。しかしながら、ジャスモンは阻害率が充分とはいえず、カルバクロール類縁体やオイゲノールは特徴的な香気が強く、用途によっては必ずしも使いやすいものではなかった。
【特許文献1】特開平06−157463号公報
【特許文献2】特開平07−017859号公報
【特許文献3】特開平08−113536号公報
【特許文献4】特開平08−245412号公報
【非特許文献1】信州大学農学部紀要1996,33(1/2),1−8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、アラキドン酸代謝が原因で引き起こされる様々な生体への悪影響の症状を軽減し、もしくは予防することができる、新規なアラキドン酸代謝抑制剤を提供すること、特に、より簡便に入手できるとともに、大量生産が容易に実現可能なアラキドン酸代謝抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般式1
【0005】


で表されるジヒドロジャスモン、および一般式2
【0006】


(式中Rは水素または炭素数1から3のアルキル基を表す)で示されるジヒドロジャスモネートおよびそのエステルから選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤である。また、本発明はさらに、該アラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、血流改善剤、抗血栓剤、抗炎症剤または抗アレルギー剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アラキドン酸の代謝異常を改善し、血流促進、血栓予防、各種炎症およびアレルギー症状の予防、緩和の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、一般式1
【0009】


で表されるジヒドロジャスモン、および一般式2
【0010】


(式中Rは水素または炭素数1から3のアルキル基を表す)で示されるジヒドロジャスモネートおよびそのエステルから選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤として使用される、一般式1
【0012】

で表されるジヒドロジャスモンは、従来から香料として使用されている公知の化合物であって、既に製法が確立され、人体への安全性も確認されているものである。本発明では、香料として製造されている該化合物をそのまま利用することもでき、また必要に応じて公知の方法により、さらに精製して使用することもできる。
【0013】
本発明で使用される一般式2
【0014】


で示される化合物としては、メチルジヒドロジャスモネートが香料化合物として市販されており、容易に入手することができる。本発明では、市販されているメチルジヒドロジャスモネートをそのまま使用してもよく、公知の方法により合成することもできる。また、公知の方法でエステル交換により、一般式のR部分をエチル基またはプロピル基に変換することもできる。また、市販のメチルジヒドロジャスモネートを加水分解してジヒドロジャスモネートとして使用することもできる。
【0015】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を、医薬品もしくは医薬部外品として製剤化する場合は、必要に応じて安定化剤、着色剤、嬌味剤、香料、賦形剤、溶剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤、溶解補助剤、等張化剤、緩衝剤、保湿剤、結合剤、被覆剤、潤沢剤、崩壊剤、経皮吸収剤などを加え、液剤、粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、懸濁剤、座剤、浴剤、軟膏、クリーム、ゲル、貼付剤、注射液、点眼剤など任意の剤形を選択することができるが、本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、その緩和な作用から健康補助の目的に特に適していることから、特に経口摂取に適した剤形が好ましい。
【0016】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤に用いる有効成分は、その多くが従来から主に香料として使用されている化合物であるため、飲食品や香粧品などに添加することができる。例えば、乳飲料、清涼飲料、嗜好飲料、アルコール飲料などの飲料、チョコレート、キャンディ、錠菓、ガム、スナック菓子、クッキー、ケーキ、その他焼き菓子などの菓子類、氷菓、アイスクリームなどの冷菓類、即席麺類、レトルト食品、冷凍食品などの調理食品、調味料、栄養補助食品などの食品類に添加することで、血流促進、血栓予防、炎症の緩和、アレルギー症状の低減など健康維持の機能を付加することができる。
【0017】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する場合、特に添加量の制限はないが、0.001〜5質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する方法は、特に制限はないが必要に応じて、乳化剤、分散剤、安定化剤などを加えることもできる。
【0019】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を飲食品に添加する場合は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養強化剤、抗酸化剤、抗菌剤、食物繊維、アラキドン酸代謝抑制以外による血流促進剤、抗血栓剤、抗アレルギー剤など他の機能性成分を本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【0020】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、香水、化粧水、ファンデーション、口紅、クリーム、ローション、乳液、ジェル、パック、日焼け止め、サンオイルなどの化粧品類、石鹸、ボディーシャンプー、洗顔料などの身体洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント剤、整髪料、染毛剤、パーマネント剤、養毛剤などの毛髪化粧料、シェービングフォーム、シェービングクリーム、アフターシェーブローション、歯磨き、洗口剤、粉末洗剤、液体洗剤、漂白剤、柔軟剤、浴剤、衛生用品、避妊具などの香粧品に添加することができる。
【0021】
また、接触性皮膚炎や、アレルギー症状を緩和する目的で、染料、顔料、塗料、ゴム、プラスチック、シリコン製品、紙製品、不繊布、繊維製品、コンクリート、フィルム、つや出し剤、接着剤、金属表面や木材表面などに付与するコーティング剤など、皮膚に接触する製品に添加することもできる。
【0022】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品類に添加する場合、特に添加量の制限はないが、0.001〜15質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品に添加する方法は特に限定されないが、必要に応じて乳化剤、分散剤、安定化剤、賦形剤などを加えることもできる。
【0024】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤を香粧品に添加する場合は、抗酸化剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、保湿剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、抗かび剤、メラニン生成抑制剤、養毛剤、冷感剤、温感剤、吸収促進剤、アラキドン酸代謝抑制以外による血流促進剤、抗血栓剤、抗アレルギー剤など他の機能性物質を本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【実施例1】
【0025】
(試験方法)
人の血液に10%濃度になるように3.8%クエン酸ナトリウム液を加え、この血液を1000rpmで10分間遠心分離し、上層部を採取、これを多血小板血漿(PRP)とした。更に下層部を3000rpmで15分間遠心分離し、上層部より乏血小板血漿(PPP)を採取して、これを血小板凝集能測定時におけるコントロールとした。
【0026】
測定装置として、興和株式会社製の血小板凝集能測定装置(コーワPA−20)を使用し、被験物質を加えず、凝集惹起剤のみを加えた対象凝集曲線に対する最大凝集率を100%とした時の各試料濃度段階の最大凝集率を求めた。
【0027】
被験物質を測定容器に入れ、さらにPRP270μlを加えたものを測定装置に設置し、37℃で撹拌しながら30秒間インキュベートした。続いて、30秒以内に凝集惹起剤として0.2Mに調整したアラキドン酸のメタノール溶液を2μL加え、測定容器設置から7分後までの凝集率を測定した。
【0028】
アラキドン酸代謝阻害活性は、以下の計算方法により血小板凝集阻害率を求めることで評価した。
(血小板凝集阻害率計算法)
PRP+凝集惹起剤のみを加えたときの最大凝集率をAとする。
被験物質+PRP+アラキドン酸を加えたときの最大凝集率をBとする。
凝集阻害率(%)をCとすると
C=100−B/A×100
【0029】
(試験結果)
前記試験方法において、被験物質100μgを添加した条件下で血小板凝集阻害活性を測定した。さらに活性が比較的高いものについて、被験物質50μg、10μgを添加した条件下での血小板凝集阻害活性を測定した。
【0030】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の試験結果を、従来血小板凝集阻害活性が知られている市販のトウガラシチンキと、血流改善効果が知られている松樹皮抽出物を比較例として、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように本発明の化合物には、トウガラシチンキや松樹皮抽出物と比較して、同等かそれ以上の活性が確認された。
【0033】
以下に本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の製剤例について、一例を示す。
【0034】

錠剤配合例(質量比)
──────────────────────
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 5.0
6%HPC乳糖 80.0
ステアリン酸マグネシウム 4.0
バレイショデンプン 6.0
──────────────────────
【0035】

軟膏剤配合例(質量比)
─────────────────────────
白色ワセリン 20.0
ステアリルアルコール 22.0
プロピレングリコール 12.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
パラベン 0.2
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 5.0
精製水 39.3
─────────────────────────
【0036】

入浴剤配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――─
炭酸水素ナトリウム 50.0
硫酸ナトリウム 46.0
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.3
香料 0.7
色素 3.0
───────────────────────
【0037】
以下に本発明のアラキドン酸代謝抑制剤の食品への配合例について一例を示す。
【0038】

アイスクリーム配合例(質量比)
────────────────────────
全脂練乳 10.0
生クリーム 9.4
無塩バター 2.0
脱脂粉乳 3.4
砂糖 12.0
安定剤 0.3
乳化剤 0.2
pH調整剤 0.1
カラメル色素 0.1
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.01
香料 0.01
水 49.0
────────────────────────
【0039】

クッキー生地配合例(質量比)
────────────────────────
薄力粉 62.5
全粒粉 37.5
ショートニング 30.0
全卵 30.0
砂糖 20.0
水飴 1.0
脱脂粉乳 5.0
食塩 1.2
食用油脂 30.0
重炭酸ソーダ 1.0
重炭酸アンモニウム 1.0
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.01
香料 0.3
水 11.0
────────────────────────
【0040】

チョコレート配合例(質量比)
─────────────────────────
カカオ液 12.0
カカオバター 24.0
ショ糖 33.0
フルクリームミルクパウダー 19.0
スキムミルクパウダー 11.4
レシチン 0.5
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.01
香料 0.1
─────────────────────────
【0041】

ノンオイルドレッシング配合例(質量比)
─────────────────────────
濃口醤油 10.0
醸造酢 6.0
リンゴ酢 5.0
レモン果汁 4.0
液糖 7.0
食塩 2.0
調味料 7.0
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.01
香料 0.2
水 50.0
─────────────────────────
【0042】

飲料配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――───
果糖ぶどう糖液糖 60.0
アップル透明果汁 4.3
クエン酸 2.3
クエン酸三ナトリウム 0.8
アスコルビン酸 0.2
スクラロース 0.03
アセスルファムカリウム 0.02
香料 0.99
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.01
水 31.0
――――――――――――――――――――――───
【0043】

チューインガム配合例(質量比)
――――――――――――――――――――――─
ガムベース 20.0
砂糖 60.0
ブドウ糖 10.0
水飴 8.0
グリセリン 5.0
香料 0.7
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤 0.3
───────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のアラキドン酸代謝抑制剤は、香料として使用実績がある化合物であり、刺激性などは極めて小さく、飲食品や香粧品類など幅広く添加することができる。また、本発明の化合物群は容易に入手ができるため、大量生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1


で表されるジヒドロジャスモン、および一般式2


(式中Rは水素または炭素数1から3のアルキル基を表す)で示されるジヒドロジャスモネートおよびそのエステルから選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項2】
ジヒドロジャスモネートのエステルがメチルジヒドロジャスモネートであることを特徴とする請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、血流改善剤。
【請求項4】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、抗血栓剤。
【請求項5】
請求項1に記載のアラキドン酸代謝抑制剤を有効成分とする、抗炎症剤。
【請求項6】
請求項1に記載のアラキドン酸抑制剤を有効成分として含有してなる、アラキドン酸代謝抑制機能を有する飲食品または香粧品。

【公開番号】特開2007−169245(P2007−169245A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372505(P2005−372505)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】