説明

アラミドドープの製造方法

【課題】アラミド繊維屑から安価にアラミドドープを製造する方法を提供することにより、アラミド繊維屑を有効に再利用する方法を提供すること。
【解決手段】アラミド繊維を製造及び/又は加工する工程において発生する延伸されたアラミド繊維屑を、無機塩を含有するアミド系溶媒と接触混合させたのち、該混合物をせん断応力下にて混練することにより該アミド系溶媒に溶解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミドドープの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、アラミド繊維の製造工程で発生するアラミド繊維屑を用いてアラミドドープを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミド繊維は、その高強度、高弾性率、耐薬品性等の特性を生かして産業資材用途や機能性衣料用途等に広く利用されている。
【0003】
このアラミド繊維の製造現場では、紡出される繊維を乾燥後、紙管に巻いて出荷しているのが常であり、従って繊維の巻き始め、紙管の交換時、銘柄の変更時、或いはトラブル発生時には、繊維屑が発生する。また、アラミド繊維を用いた各種製品の製造現場においても、加工時には繊維屑が不可避的に発生する。
【0004】
しかしながら、アラミド繊維は高価な素材であるため、上記の繊維屑をそのまま廃棄してしまうとコスト高になるだけでなく、地球環境に対する配慮から、産業廃棄物を減らすと同時に、廃棄物を焼却せずに処理するという近年の社会的要請の観点からも、製造工程において発生する繊維屑を資源として再利用することが重要になってきている。
【0005】
このような観点から、例えば、特開平7−286061号公報には、アラミドフィブリッドからアラミドドープを製造する方法が開示されているが、該方法をそのままアラミド繊維屑の再生に適用しようとすると、アラミド繊維が本来有する高強度、高弾性率、耐薬品性等の特性を具備する繊維が得られないという問題があり、その解決策が切望されてきた。
【特許文献1】特開平7−286061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、アラミド繊維屑から安価にアラミドドープを製造する方法を提供することにより、アラミド繊維屑を有効に再利用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、アラミド繊維を製造及び/又は加工する工程において発生する延伸されたアラミド繊維屑を、無機塩を含有するアミド系溶媒と接触混合させたのち、該混合物をせん断応力下にて混練することにより該アミド系溶媒に溶解させることを特徴とするアラミドドープの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アラミド繊維屑からアラミドドープを製造する方法が提供されるので、アラミド繊維屑を有効に再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいうアラミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロルキなどのハロゲン基等が含まれていてもよい。さらには、これらアミド結合は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
【0010】
かかるアラミドの具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレンなどが挙げられるが、本発明においては、実質的に、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましく使用される。
【0011】
本発明で使用するアラミド繊維は公知の製造方法により製糸されたものである。例えば、半乾半湿式紡糸法によりアラミドドープを凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶媒を十分に除去し、乾燥工程にて水分を乾燥したのち熱処理あるいは熱延伸を行なう。
【0012】
本発明のアラミド繊維屑は、アラミド繊維の製造現場で発生する繊維屑或いはアラミド繊維を用いた各種製品の製造現場で発生する繊維屑であり、繊維の巻き始め、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時或いはカットファイバーの製造工程、短繊維の製造工程、紡績糸の製造工程、不織布の製造工程等の加工時に発生する。
【0013】
本発明におけるアラミド繊維屑は、上記の工程で発生する繊維屑のうち、延伸された繊維の繊維屑が使用される。延伸された繊維屑とは、熱延伸または熱処理を行なう工程より後の工程で発生する繊維屑のことである。
【0014】
本発明により得られたアラミドドープの固有粘度(IV)は4.0を越え、7.0以下である。固有粘度は98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値を示す。
【0015】
本発明で用いられるアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンなどを例示することができるが、取扱い性や安定性及び溶媒の毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0016】
本発明においては、アラミド繊維屑をアミド系溶媒に接触混合させたのち、該混合物をせん断応力下にて混練させる。その際のアミド系溶媒に対する濃度は、生産性の観点からは大きい方が好ましいが、ドープの粘性の観点から20%重量以下が好ましい。ポリマー濃度が20重量%を超える場合、ドープ粘性が著しく高くなり、取扱いが困難になるため好ましくない。
【0017】
アミド系溶媒の温度は、アラミド繊維屑の溶解性を高める観点からは高い方が良いが、アミド溶媒の熱劣化・分解を避けるという点で、130℃以下が好ましい。
【0018】
上記混合物を混練・溶解させるにあたり、溶解性を向上せしめるために、アミド系溶媒中に無機塩を添加することが必要である。かかる無機塩としては塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該無機塩の量は、アラミド繊維屑に対して30〜150重量%の範囲であることが好ましい。該無機塩の量が、30重量%未満の場合には、アラミド繊維屑のアミド溶媒に対する溶解性が不十分となるため好ましくない。一方、該無機塩の量が150重量%を越える場合には、該無機塩をアミド溶媒中に完全に溶解することが困難となるため好ましくない。
【0019】
本発明で用いられる混練装置としては、せん断混練りできるものであれば特に制限はなく、一軸押出機、二軸押出機などのスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。
【0020】
本発明のアラミド繊維屑は、アミド系溶媒への溶解効果を高める目的であらかじめシュレッダー等により微細に粉砕しておくことができ、多くの場合その方が好ましい。
【0021】
このようにして得られたアラミドドープは、不溶分の濾別、脱色等の処理を施して精製することができる。
【0022】
本発明によって得られるアラミドドープはそのままで、またはこれに同質のアラミドポリマーを加えるかあるいは同じアミド系溶媒を加えて希釈する等の方法によって適当な濃度に調節され、再利用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(アラミド繊維の製造)
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミンと3,4‘ジアミノジフェニルエーテルが当モルとなる様に秤量して投入し溶解させた。このジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モル、秤量し投入した。反応終了後、水酸化カルシウムで中和し、芳香族ポリアミドドープを得た。
【0024】
該ドープは孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出され、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出され凝固された後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸された後、巻き取ることにより、芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3.4‘オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維)を得た。
【0025】
(アラミド繊維屑の製造)
アラミド繊維屑としては、上記方法により製造されたアラミド繊維のうち、繊度斑が生じて製品にならなかった延伸繊維屑を使用した。
【0026】
[実施例1]
あらかじめシュレッダーにて裁断したアラミド繊維屑に対して、NMP/塩化カルシウム=95/5(重量比)の溶液を重量比で20倍量加え混合した。これを浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、80℃に加熱、混練してアラミドドープを得た。該アラミドドープには未溶解成分がなく、透明なドープであった。
得られたドープの溶解状態と固有粘度(IV)を表1に示す。
【0027】
[実施例2〜3、比較例1]
実施例1において、アラミド繊維屑とNMP/塩化カルシウムとの混合比率を表1に示す如く変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたドープの溶解状態と固有粘度(IV)を表1に示す。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、アラミド繊維屑からアラミドドープを製造する方法が提供されるので、アラミド繊維屑を有効に再利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維を製造及び/又は加工する工程において発生する延伸されたアラミド繊維屑を、無機塩を含有するアミド系溶媒と接触混合させたのち、該混合物をせん断応力下にて混練することにより該アミド系溶媒に溶解させることを特徴とするアラミドドープの製造方法。
【請求項2】
アラミドドープの固有粘度が4.0を越え、7.0以下である請求項1記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項3】
アラミド繊維が、パラ型アラミド繊維である請求項1又は2記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項4】
アラミド繊維が、コポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタラミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項5】
アミド系溶媒中の無機塩の量が、アラミド繊維屑全重量に対し30〜150重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアラミドドープの製造方法。

【公開番号】特開2006−241624(P2006−241624A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57350(P2005−57350)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】