説明

アルカリ乾電池

【課題】放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供する。
【解決手段】負極材料に亜鉛粉末を用いたアルカリ乾電池であって、上記亜鉛粉末の組成を正極側に位置する部分と負極集電側に位置する部分とで異ならせ、負極集電側の負極材料232が正極側の負極材料231よりもKOH水溶液でのガス発生速度が遅くなる組成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ乾電池に関し、とくに、負極材料に亜鉛粉末を用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は従来のアルカリ乾電池10’の構成例を示す。同図に示すアルカリ乾電池はLR20と呼ばれるタイプであって、電池ケースと正極集電体を兼ねる有底円筒状の金属製電池缶11内に、正極合剤21、セパレータ22、負極合剤23からなる発電要素20をアルカリ電解液と共に収容した後、負極集電子31、負極端子板33、封口ガスケット35からなる封口体30で電池缶11を封口して作製される。
【0003】
正極合剤21は、二酸化マンガンなどの正極活物質に黒鉛等の導電助剤を混入して所定の合剤形状に成型したものが使用される。セパレータ22は、不職布などの透液性および保液性を有するフィルム状素材を用いて作製されている。負極合剤23はゲル状亜鉛(負極ゲル)が使用されている。電解液には高濃度のKOH(水酸化カリウム)水溶液が使用されている。
【0004】
負極集電子31は、その基端が負極端子板33の内側面(電池内側面)にスポット溶接されるとともに、その先端側がゲル状の負極合剤23中に挿入されている。負極端子板33は電池缶11の開口部を塞ぎ、封口ガスケット35はその負極端子板33と電池缶11の開口部との間の環状隙間に被圧状態で介在することにより電池缶11を気密封止している。
【0005】
この種のアルカリ乾電池では、負極材料(負極活物質材料)として用いた亜鉛粉末が腐食することによるガス発生が生じやすく、これが漏液発生原因となって電池の保存性能を低下させることが知られている。そこで、従前においては、負極材料として、亜鉛粉末に水銀を添加した汞化亜鉛粉末を使用することにより、亜鉛粉末の腐蝕によるガス発生を抑制することが行われていた。
【0006】
しかし、近年は、環境保全上の観点から、負極材料として水銀を添加しない無汞化亜鉛粉末を用いたアルカリ乾電池が提供されている。たとえば、Al(アルミニウム)やBi(ビスマス)などを添加した亜鉛粉末は耐食性が優れ、腐食によるガス発生を抑制する効果が高い(特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−86430
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、AlやBiを添加した亜鉛粉末は、ガス発生を抑える効果は高いものの、放電性能の低下や放電時の内部短絡を起こす原因となっていた。放電時の内部短絡は、電池を特定の電流値あるいは特定の抵抗値で放電させた場合に樹枝状の亜鉛酸化物が生成し、これがセパレータ上に析出して、セパレータを貫通することにより生じる。
【0008】
この内部短絡を防止するためには、セパレータの厚さを厚くすることで正負極間の距離を大きくするか、セパレータの目を緻密にして遮蔽性を高めることが有効である。しかし、セパレータを厚くすると負極合剤の充填量が減って放電容量が低下する。また、セパレータを緻密にすると電池内部抵抗が増大して電池性能が低下する。
【0009】
そこで、特許文献2では、放電時の内部短絡を抑制するために添加剤(ケイ素含有ゲル化剤)を入れることを提案している。しかし、この添加剤を入れる方法は放電性能の悪化を招く。近来のアルカリ乾電池の用途として、デジタルカメラのような重負荷放電用途が増加しているが、これらの用途にも対応させるためには放電性能を良好にする必要がある。
【0010】
本発明は以上のような技術背景を鑑みてなされたもので、その目的は、放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供することにある。
【0011】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【特許文献2】特開平9−35720
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題の解決手段として、次の手段を提供する。
(1)負極材料に亜鉛粉末を用いたアルカリ乾電池において、上記亜鉛粉末の組成を正極側に位置する部分と負極集電側に位置する部分とで異ならせ、負極集電側の負極材料が正極側の負極材料よりもKOH水溶液でのガス発生速度が遅くなる組成であることを特徴とするアルカリ乾電池。
(2)上記手段(1)において、負極集電側の負極材料には少なくともAlを含有する亜鉛粉末を使用する一方、正極側の負極材料にはAlを含まない亜鉛粉末を使用したことを特徴とするアルカリ乾電池。
(3)上記手段(1)または(2)において、正極側の負極材料が負極集電側の負極材料を径方向と軸方向から取り囲んだ状態で充填されていることを特徴とするアルカリ乾電池。
【発明の効果】
【0013】
放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供することができる。
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の第1実施形態をなすアルカリ乾電池の概略構成を示す。同図に示す電池10はLR6と呼ばれるタイプであって、電池ケースと正極集電体を兼ねる有底円筒状の金属製電池缶11内に、正極合剤21、セパレータ22、負極合剤23からなる発電要素20をアルカリ電解液と共に収容した後、負極集電子31、負極端子板33、封口ガスケット35からなる封口体30で電池缶11を封口して作製される。
【0015】
正極合剤21は、二酸化マンガンなどの正極活物質に黒鉛等の導電助剤を混入して所定の合剤形状に成型したものが使用される。セパレータ22は、不職布などの透液性および保液性を有するフィルム状素材を用いて作製されている。負極合剤23はゲル状亜鉛(負極ゲル)が使用される。電解液には高濃度のKOH(水酸化カリウム)水溶液が使用される。
【0016】
負極集電子31は、その基端が負極端子板33の内側面(電池内側面)にスポット溶接されるとともに、その先端側がゲル状の負極合剤23中に挿入されている。負極端子板33は電池缶11の開口部を塞ぎ、封口ガスケット35はその負極端子板33と電池缶11の開口部との間の環状隙間に被圧状態で介在することにより電池缶11を気密封止している。
【0017】
さらに、図示の実施形態では、上記構成に加えて、負極合剤23に使用する負極亜鉛粉末の組成を、正極側に位置する部分と負極集電側に位置する部分とで異ならせてある。具体的には、同図に示すように、組成の異なる2種類の亜鉛粉末を用いた負極材料(負極活物質材料)231,232が同軸状に配置されている。つまり、負極集電子31を取り囲む円柱状部分に配置された負極材料232と、この負極材料232とセパレータ22との間の管状部分に配置された負極材料231とが、組成の異なる亜鉛粉末を用いて調整されている。
【0018】
負極集電側の負極材料232には、AlやBiを含有する亜鉛粉末が使用される一方、正極側の負極材料231には、Alを含まない亜鉛粉末が使用されている。これにより、負極集電側の負極材料232が正極側の負極材料231よりもKOH水溶液でのガス発生速度が遅くなっている。このような構成により、次のような作用効果が生じる。
【0019】
一般に、電池の負極材料の反応順序は正極と負極の界面側(正極側)から負極集電側へ進む。このとき、負極材料がAlやBiを多く含有していると、樹枝状の亜鉛酸化物が析出して正極側に達することによる内部短絡が起きやすくなる。しかし、上記構成のアルカリ乾電池10では、正極側に位置する負極材料にAlを含まない亜鉛粉末が使用されていることにより、亜鉛酸化物の析出による内部短絡が起きにくくなっている。
【0020】
また、デジタルカメラなどによる重負荷放電では、正極と負極の界面付近に位置する部分の活物質だけしか使用されないが、この部分に反応性の高い材料すなわちAlやBiを含有していない亜鉛粉末またはAlやBiの含有量が少ない亜鉛粉末を用いた負極材料232を配置することにより、重負荷放電用途にも良好に対応することができる。
【0021】
この場合、AlやBiを含有していない亜鉛粉末またはAlやBiの含有量が少ない亜鉛粉末は反応性が高いことにより、腐食によるガス発生が懸念される。しかし、このガス発生は負極材料232と負極集電部の界面で起こることが多い。このため、負極集電側に位置する負極材料232だけにAlやBiを比較的多く含有した亜鉛粉末を用いることにより、ガス発生を効果的に抑制して耐漏液性能を高めることができる。
【0022】
以上のように、上記構成のアルカリ乾電池10は、正極側に位置する負極材料231と負極集電側に位置する負極材料232の組成を異ならせ、負極集電側の負極材料232が、正極側の負極材料231よりも、KOH水溶液でのガス発生速度が遅くなるようにしてある。これにより、放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供することができる。
【0023】
この場合、ガス発生の抑制効果がとくに高い添加金属はAlである。負極集電側の負極材料232のガス発生速度を遅くするためには、その負極材料232に少なくともAlを含有する亜鉛粉末を使用すればよい。
【0024】
一方、良好な放電性能を確保するためには、正極側の負極材料231にそのAlを含まない亜鉛粉末を使用すればよい。Alを含有した亜鉛粉末は、放電性能を低下させるとともに、亜鉛酸化物の析出による内部短絡を起こしやすい。そのAlを含有しない亜鉛粉末、あるいは小量しか含有しない亜鉛粉末を使用することにより、放電性能を確保し、かつ内部短絡を起きにくくすることができる。
【0025】
放電性能をさらに良好にするためには、重負荷放電に寄与する正極側の負極材料231を、負極側の負極材料232よりも多く充填することが望ましい。
【実施例1】
【0026】
3種類の亜鉛粉末を使用して6種類のLR6型アルカリ乾電池を試作した。
この試作に際して使用した亜鉛粉末は、表1に示すように、添加金属の種類(Al,Bi,In)と量(ppm/Zn量)が異なる3種類(A,B,C)である。
【0027】

表1において、ガス発生速度は亜鉛粉末10gに40wt%のKOH水溶液5mlを加え、60℃下で3日間放置したときのガス発生量を測定し、この測定結果を相対値で評価した。この相対値は、数値が小さいほどガス発生速度が遅いことを示す。
【0028】
上記3種類の亜鉛粉末(A,B,C)を用いて作製した3種類の負極材料を正極側に位置する部分と負極集電側に位置する部分とに振り分けて配置するとともに、その配置の組合せにより、表2に示すように、6種類の試験用アルカリ乾電池(No.1〜6)をそれぞれ所定サンプル数ずつ作製した。
【0029】

各試験用アルカリ乾電池(No.1〜6)についてそれぞれ、パルス放電性能、間欠放電時の内部短絡、および耐漏液試験を行った。
【0030】
パルス放電性能は、300mA/59.5秒と2000mA/0.5秒の通電サイクルを繰り返して所定の終止電圧(1.0V)になるまでの時間を測定し、この測定結果を相対値で評価した。内部短絡は、10Ω負荷で5分/日の放電を行わせて、内部短絡による電圧降下の有無を確認した。異常な電圧降下を示したものを内部短絡有りとし、その発生数(20個中の発生数)を計数した。耐漏液試験は、60℃90%R.H.の加速保存条件下で60日間保存したときの漏液発生数(100個中の発生数)を計数した。
【0031】
上記試験の結果は表2に示すように、Alをまったく含有しない亜鉛粉末Bを正極側に配置した電池No.1は、放電性能および内部短絡においてもっとも良好な結果を得ることができた。
【0032】
また、Alの含有量が比較的少ない亜鉛粉末Aを正極側に配置した場合でも、負極側の亜鉛粉末のガス発生速度が正極側のそれよりも遅くなるようにした電池No.1〜3はいずれも、パルス放電性能、内部短絡、および耐漏液試験において、正極側と負極側とに同じ組成の亜鉛粉末を配置した電池No.4〜6よりも、総合的に良好な結果を得ることができた。
【0033】
図2は、本発明の第2実施形態をなすアルカリ乾電池の概略構成を示す。同図に示す電池10は第1実施携帯と同様、LR6型である。第1実施形態では、負極集電側の負極材料232と正極側の負極材料231とが同軸状に配置され、両材料231,232は電池10の径方向に振り分けられていた。しかし、この第2実施形態では、負極集電側の負極材料232の径方向と軸方向の2方向に正極側の負極材料231を配置している。つまり、負極極集電側の負極材料232を正極側の負極材料231が3次元的に取り囲む状態で両負極材料231,232が配置されている。
【0034】
これにより、正極側の負極材料231の充填割合を大きくして放電性能を高めることができる。この場合も、負極集電側の負極材料232は、負極集電子31との界面を取り囲んだ部分だけに集中的に配置されているので、その界面でのガス発生を十分に抑制することができる。
【0035】
図3は、本発明の第3実施形態をなすアルカリ乾電池の概略構成を示す。同図に示す電池10はボタン型アルカリ乾電池であって、電池ケースと正極集電体を兼ねる皿状の金属製電池缶11内に、正極合剤21、セパレータ22、負極合剤23が積層されて発電要素20が形成されている。この発電要素20をアルカリ電解液と共に収容した電池缶11は、負極集電体を兼ねる負極端子板33と封口ガスケット35とによって封口されている。
【0036】
この実施形態のアルカリ乾電池10も、負極合剤23の材料組成が、セパレータ22側(正極側)と負極端子板33側とで異なる。すなわち、負極端子板33側の負極材料232には、Alの添加によってガス発生の抑制効果を高めた亜鉛粉末が使用されている。また、セパレータ22側の負極材料231には、少なくともAlを添加しない、あるいはAlの添加量を少なくした亜鉛粉末が使用されている。
【0037】
これにより、この実施形態においても、放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供することができる。
【0038】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、本発明は、正極活物質にオキシ水酸化ニッケルなどの二酸化マンガン以外の活物質を含むアルカリ乾電池にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
放電性能と耐漏液性能が共に良好であり、かつ放電時の内部短絡が起こりにくいアルカリ乾電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によるアルカリ乾電池の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明によるアルカリ乾電池の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明によるアルカリ乾電池の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】従来のアルカリ乾電池の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 アルカリ乾電池
11 電池缶
20 発電要素
21 正極合剤
22 セパレータ
23 負極合剤
231 正極側の負極材料(亜鉛粉末)
232 負極集電側の負極材料(亜鉛粉末)
31 負極集電子
33 負極端子板
35 封口ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極材料に亜鉛粉末を用いたアルカリ乾電池において、上記亜鉛粉末の組成を正極側に位置する部分と負極集電側に位置する部分とで異ならせ、負極集電側の負極材料が正極側の負極材料よりもKOH水溶液でのガス発生速度が遅くなる組成であることを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項2】
請求項1において、負極集電側の負極材料には少なくともAlを含有する亜鉛粉末を使用する一方、正極側の負極材料にはAlを含まない亜鉛粉末を使用したことを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項3】
請求項1または2において、正極側の負極材料が負極集電側の負極材料を径方向と軸方向から取り囲んだ状態で充填されていることを特徴とするアルカリ乾電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−48623(P2007−48623A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232347(P2005−232347)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】