説明

アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの製造法

【課題】従来技術の欠点を有しない、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの新規の製造法を提供する。
【解決手段】(1)(メタ)アクリル酸と一般式Iの少なくとも1種のオレフィンとを、均質相中で酸性触媒の存在で反応器中で反応させる工程、(2)得られた反応混合物(1)を反応器から排出する工程、(3)排出された反応混合物(2)を触媒を含有する混合物(3.1)と目的エステルを含有する混合物(3.2)とに分離する工程、及び(4)目的エステルを混合物(3.2)から除去する工程を含む、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの製造法において、(5)前記処理工程(4)において、少なくとも1個のN−オキシル基を含む少なくとも1種の化合物Sを安定剤として添加することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの新規の製造法に関する。
【0002】
本発明の明細書中で、「(メタ)アクリル酸」なる表現は、「アクリル酸又はメタクリル酸」及びまた「アクリル酸及びメタクリル酸」の略記を意味するものと解釈されるべきである。従って「(メタ)アクリル酸エステル」なる表現は、「アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル」及びまた「アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル」の略記を意味するものと解釈されるべきである。
【背景技術】
【0003】
以下の処理工程:
(1)(メタ)アクリル酸と一般式:
【化1】

[式中、
'及びR''は同じか又は異なっていてよく、かつそれぞれメチル又はエチルであり、かつR'''は水素、メチル又はエチルである]の少なくとも1種のオレフィンとを、均質相中で酸性触媒の存在で反応器中で反応させる工程、
(2)得られた反応混合物(1)を反応器から排出する工程、
(3)排出された反応混合物(2)を、触媒を含有する混合物(3.1)と、アルキル基中に4〜8個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを含有する混合物(3.2)とに分離する工程、及び
(4)アルキル基中に4〜8個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを混合物(3.2)から除去する工程
を含む、アルキル基中に4〜8個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの製造法は、ドイツ特許出願DE10036959A1の記載から公知である。前記刊行物においては、処理工程(1)における当該反応を、安定剤、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、p−ニトロソフェノール(PNP)、フェノチアジン(PTZ)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン(OH−Tempo)及び/又はメチレンブルーの存在で実施することが提案されている。
【0004】
しかしながら、OH−Tempoは、酸性触媒、特に硫酸の所定の反応条件下で迅速に分解することが判明した。この分解はPTZの存在により更に促進される。従って、OH−Tempoは、処理工程(1)中の反応における安定剤としては、 − 例え有用であったとしても − 極めて制限された程度で有用であるに過ぎない。ここで最も有効な安定剤は、特にヒドロキノンモノメチルエーテルと組み合わせたPTZであることが判明した。
【0005】
公知の方法では、処理工程(3)及び(4)における後処理において安定剤が使用されねばならない。処理工程(3)における混合物(3.1)は反応で使用された安定剤をなおも含有しているのに対して、除去された混合物(3.2)は実質的にか又は完全に安定剤不含であるため、処理工程(4)のために再度安定化されねばならない。
【0006】
DE10036959A1の記載によれば、使用される安定剤はPTZとPNPとの混合物である。しかしながら、PNPは欠点を有することが知られている。この欠点とは、例えば自己発火性、毒性、爆発性及び比較的高価であることである。しかしながら、蒸留塔における重合のリスク及び塔底における汚損のリスクが存在しており、後処理におけるPTZの安定化作用が望まれているため、PNPを完全に省くことは不可能である。
【特許文献1】ドイツ特許出願DE10036959A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、以下の処理工程:
(1)(メタ)アクリル酸と一般式I:
【化2】

[式中、
1及びR2は同じか又は異なっていてよく、かつそれぞれアルキル基であり、
3は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、脂肪族又は脂環式炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキル基、脂肪族又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルアリール基、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているシクロアルキルアリール基、又は脂肪族、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキルアリール基である]の少なくとも1種のオレフィンとを、均質相中で酸性触媒の存在で反応器中で反応させる工程、
(2)得られた反応混合物(1)を反応器から排出する工程、
(3)排出された反応混合物(2)を、触媒を含有する混合物(3.1)と、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを含有する混合物(3.2)とに分離する工程、及び
(4)アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを混合物(3.2)から除去する工程
を含み、かつ、もはや従来技術の欠点を有しない、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの新規の製造法を提供することである。特に、この新規の方法は、PNPを使用せずに反応混合物の残りの成分から(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを除去すること、及び、重合、汚損及び/又は再解離なしに、特に高純度かつ特に高収率で該アルキルエステルを単離することを可能にするのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これに相応して、以下の工程:
(1)(メタ)アクリル酸と一般式I:
【化3】

[式中、
1及びR2は同じか又は異なっていてよく、かつそれぞれアルキル基であり、
3は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、脂肪族又は脂環式炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキル基、脂肪族又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルアリール基、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているシクロアルキルアリール基、又は脂肪族、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキルアリール基である]の少なくとも1種のオレフィンとを、均質相中で酸性触媒の存在で反応器中で反応させる工程、
(2)得られた反応混合物(1)を反応器から排出する工程、
(3)排出された反応混合物(2)を、触媒を含有する混合物(3.1)と、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを含有する混合物(3.2)とに分離する工程、及び
(4)アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを混合物(3.2)から除去する工程
を含む、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの新規の製造法において、
(5)前記処理工程(4)において、少なくとも1個のN−オキシル基を含む少なくとも1種の化合物Sを安定剤として添加することを特徴とする方法が見出された。
【0009】
簡略のため、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの新規の製造法を以下で「本発明による方法」と呼称する。
【0010】
従来技術に関して、当業者にとって、本発明が扱う課題を本発明による方法を用いて解決し得ることは意想外でありかつ予見不可能であった。
【0011】
特に、新規の方法によって、PNPを使用せずに反応混合物の残りの成分からアルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを除去することができ、かつ重合、汚損及び/又は再解離なしに、特に高純度かつ特に高収率で該アルキルエステルを単離することができることは意想外であった。
【0012】
意想外にも、処理工程(4)においてアルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルから除去された生成物を反応器中に再循環させた場合には、処理工程(1)中の反応における付加的な安定化効果の達成も可能であった。この付加的な安定化効果は更なる収率の改善をもたらした。
【0013】
本発明による方法は、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子、特に4〜8個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの製造に貢献する。簡略のため、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを以下で「目的エステル」と呼称する。
【0014】
適当な目的エステルの例は、t−ブチルアクリレート及びメタクリレート、2−メチルブト−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチルペント−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチルへキス−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチルヘプト−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチル−1−シクロヘキシルプロプ−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチル−1−フェニルプロプ−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチルブト−2−イルアクリレート及びメタクリレート、3−メチルペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、3−メチルへキス−3−イルアクリレート及びメタクリレート、3−メチルヘプト−3−イルアクリレート及びメタクリレート、3−メチルオクト−3−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチル−1−シクロヘキシルブト−2−イルアクリレート及びメタクリレート、2−メチル−1−フェニルブト−2−イルアクリレート及びメタクリレート、3−メチルペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、3−エチルペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、3−プロピルペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、1,1−ジエチルペント−1−イルアクリレート及びメタクリレート、1,1−ジエチルヘキス−1−イルアクリレート及びメタクリレート、3−(シクロヘキシルメチル)ペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、及び3−(フェニルメチル)ペント−3−イルアクリレート及びメタクリレート、特にt−ブチルアクリル酸又はt−ブチルアクリレート(TBA)及びt−ブチルメタクリル酸又はt−ブチルメタクリレート(TBMA)である。
【0015】
本発明による方法は、処理工程(1)において、(メタ)アクリル酸と一般式I:
【化4】

の少なくとも1種の、特に1種のオレフィンとの反応から進行する。
【0016】
一般式Iにおいて、R1及びR2は同じか又は異なっており、かつそれぞれ有利に1〜10個、更に有利に1〜6個、更に有利に1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であるが、特にメチル又はエチルである。
【0017】
一般式Iにおいて、R3
− 水素原子;
− 有利に1〜20個、更に有利に1〜10個、更に有利に1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、最も有利にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル又はt−ブチル、特にメチル又はエチル;
− 有利に4〜20個、更に有利に5〜16個、更に有利に6〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル基、特にシクロヘキサン、及び、ノルボルナン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、デカリン、ヒドリンダン又はアダマンタン;
− 有利に6〜30個、更に有利に6〜20個、更に有利に6〜14個の炭素原子を有するアリール基、特にフェニル、又は、ナフタレン又はフェナントレンから誘導される基;
− 有利に5〜30個、更に有利に7〜20個、更に有利に7〜10個の炭素原子を有する、脂肪族又は脂環式炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキル基、特に、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン又はt−ブチルシクロヘキサンから誘導される基;
− 有利に7〜30個、更に有利に7〜20個、更に有利に7〜10個の炭素原子を有する、脂肪族又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルアリール基、特に、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン又はt−ブチルベンゼンから誘導される基;
− 有利に10〜30個、更に有利に10〜20個、更に有利に10〜16個の炭素原子を有する、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているシクロアルキルアリール基、特に、シクロヘキシルベンゼンから誘導される基;
− 有利に11〜30個、更に有利に11〜20個、更に有利に11〜16個の炭素原子を有する、脂肪族、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキルアリール基、特に、1−メチル−2−、−3−又は−4−シクロヘキシルベンゼンから誘導される基;
であるが、特に、水素原子又はメチル又はエチル基である。
【0018】
適当なオレフィンIの例は、イソブテン、トリメチレン(2−メチル−2−ブテン)、2−メチルペント−2−エン、2−メチルヘキス−2−エン、2−メチルヘプト−2−エン、2−メチル−1−シクロヘキシルプロプ−1−エン、2−メチル−1−フェニルプロプ−1−エン、2−メチルブト−1−エン、3−メチルペント−2−エン、3−メチルヘキス−3−エン、3−メチルヘプト−3−エン、3−メチルオクト−3−エン、2−メチル−1−シクロヘキシルブト−1−エン、2−メチル−1−フェニルブト−1−エン、2−エチルブト−1−エン、3−エチルペント−2−エン、3−エチルヘキス−3−エン、3−エチルヘプト−3−エン、3−エチルオクト−3−エン、2−エチル−1−シクロヘキシルブト−1−エン及び2−エチル−1−フェニルブト−1−エン、特にイソブテンである。
【0019】
(メタ)アクリル酸はオレフィンIと均質相中で、特に液体均質相中で、有利に溶剤の不在で反応する。該反応は酸性触媒の存在で行われる。該触媒は有利に少なくとも部分的に、有利に完全に、反応混合物中で可溶性である。
【0020】
適当な触媒の例は、無機強酸及び有機強酸、例えば鉱酸又はスルホン酸である。極めて適当な鉱酸の例は、硫酸、リン酸及びポリリン酸、特に硫酸である。極めて適当なスルホン酸の例は、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸及びメタンスルホン酸である。
【0021】
触媒の量は広く変動してよく、かつ個々の事例の要求に依存する。該量は、(メタ)アクリル酸に対して有利に1〜10質量%、有利に2〜5質量%である。
【0022】
オレフィンIはガス状及び/又は液体形、特に液体形で使用されてよい。
【0023】
使用される(メタ)アクリル酸は、酢酸、プロピオン酸及び/又は水を、(メタ)アクリル酸に対して少量、有利に2質量%未満、特に1質量%未満含有してよい。適当な(メタ)アクリル酸の一例はドイツ特許DE10036958A1、第3欄、段落[0018]の記載から公知である。
【0024】
反応物は化学量論量で使用されてよい。一つの反応物を過剰で使用するのが有利である。該反応物は有利に(メタ)アクリル酸である。該過剰は50モル%までであってよい。
【0025】
反応条件は広く変動してよく、かつ個々の事例の要求に依存する。反応温度は有利に20〜400℃である。反応時間は有利に1〜6時間である。圧力は決定的に重要なわけではなく;低圧、高圧又は有利に雰囲気圧又はわずかに高い圧力、有利に100〜300ミリバール(104〜3×104Pas)を用いることができる。
【0026】
反応は、(メタ)アクリル酸の重合又は目的エステルの重合を阻害する少なくとも1種の阻害剤の存在で行われるのが有利である。適当な阻害剤の例は、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン、p−ニトロソフェノール(PNP)、フェノチアジン(PTZ)、N−オキシル化合物、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン(OH−Tempo)及びメチレンブルー、有利にPTZ、特にPTZ及びヒドロキノンモノメチルエーテルである。
【0027】
更に、酸素を空気又は希薄空気の形で阻害剤として使用することもできる。
【0028】
阻害剤の濃度は広く変動してよく、かつ個々の事例の要求に依存する。阻害剤は有利に(メタ)アクリル酸及びオレフィンIの全質量に対して200〜10000ppmの濃度で使用される。
【0029】
反応は連続式又はバッチ式で慣用かつ公知の反応器中で実施されてよい。適当な反応器の一例は、ドイツ特許出願DE10036959A1、第3欄、段落[0018]〜[0020]及び第6欄、段落[0036]〜第7欄、段落[0042](図に関連して)の記載から公知である。
【0030】
処理工程(2)において反応器から排出される、得られた反応混合物(1)の組成は、出発材料の組成によって、特に(メタ)アクリル酸とオレフィンIとの割合によって調節することができ、かつ広く変動し得る。排出された反応混合物(2)の適当な組成の例は、ドイツ特許出願DE10036959A1、第7欄、段落[0043]及びDE10036959A1、第4欄、段落[0022]の記載から公知である。
【0031】
同時に、存在する空気及び不活性ガス、例えばブタン及び存在する過剰のオレフィンIはいずれも反応混合物(1)とは別個に反応器から排出されてよい。オレフィンIは凝縮され、かつ反応へ返送されてよい。
【0032】
本発明による方法の他の過程において、排出された反応混合物(2)は、処理工程(3)において、触媒を含有する混合物(3.1)と、目的エステルを含有する混合物(3.2)とに分離される。
【0033】
反応混合物(2)は、多様な種々の方法で分離されてよい。例えば、混合物(3.1)は、反応混合物(2)を水で1回以上洗浄し、かつ/又は、触媒を塩基性水溶液(例えばNaOH、KOH、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液又は炭酸水素カリウム水溶液)で中和することにより除去されてよい。
【0034】
特に、混合物(3.1)及び混合物(3.2)への分離は、反応混合物(2)を例えば蒸発器、塔及び冷却器を有する蒸留ユニット中で蒸留することにより行われる。このようにして、混合物(3.2)は、実質的に目的エステルと少量のカルボン酸と低沸点成分、例えばt−ブタノール及びジイソオレフィンとを含有する塔頂生成物として得られる。更に、混合物(3.1)は、触媒、大部分の未変換の(メタ)アクリル酸及び高沸点成分、例えば(メタ)アクリレート(コ)ポリマーを含有する塔底生成物として得られる。塔底生成物(3.1)は部分的にか又は完全に反応器中に再循環されてよい。処理工程(3)を行うための特に有利な方法及び特に有利な装置は、ドイツ特許出願DE1003698A1、第4欄、段落[0023]及び第5欄、段落[0029]第30行までの記載から公知である。
【0035】
本発明による方法の他の過程において、目的エステルは処理工程(4)において塔頂生成物(3.2)から除去される。これは有利に二段蒸留により行われる。
【0036】
この場合、第一の蒸留工程(4.1)において、混合物(3.2)は、低沸点物質、例えば残留オレフィンI、特にイソブテン、t−ブチルアセテート、t−ブタノール及びジイソオレフィン、特にジイソブテンを含有する低沸点留出物(4.1.1)と、実質的に目的エステル及び(メタ)アクリル酸を含有する塔底生成物(4.1.2)とに分離される。低沸点物質除去(4.1)のための適当な方法の例は、ドイツ特許出願DE1003698A1、第5欄、段落[0030]第6行まで、段落[0036]第36行までの記載から公知である。
【0037】
塔底生成物(4.1.2)は第二の蒸留工程(4.2)において、即ち精留において、実質的に目的エステルからなる留出物(4.2.1)と塔底生成物(4.2.2)とに分離される。この目的のために、蒸発器、塔及び冷却器を有する慣用かつ公知の蒸留ユニットを使用することができる。実質的に(メタ)アクリル酸を含有する塔底生成物(4.2.2)は有利に部分的にか又は完全に反応器中に再循環される。
【0038】
本発明による方法に関して、処理工程(4)において、少なくとも1個の、特に1個のN−オキシル基を有する少なくとも1種の、特に1種の化合物Sを安定剤として添加することが不可欠である。
【0039】
N−オキシル基は有利に複素環、有利に複素脂肪族環の一部である。特に、複素脂肪族環はピペリジン環から誘導される。
【0040】
N−オキシル基は有利に立体的に障害されている。該立体障害は有利にN−オキシル基の窒素原子に対してα位にある炭素原子の効力によりもたらされ、ここで該炭素原子はそれぞれの場合において少なくとも1個、特に2個のアルキル基を有する。
【0041】
化合物Sは有利に、少なくとも1個の、特に1個の2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン−4−イル基を含む。
【0042】
2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン−4−イル基の4位に結合している基は、以下のものであってよい:
− 水素原子、
− ハロゲン原子、有利にフッ素、塩素又は臭素原子、
− 官能基、有利にヒドロキシル基、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトリル基、イソシアネート基又はニトロ基、有利にヒドロキシル基、又は
− 有機基、有利に、場合により少なくとも1個のヘテロ原子、例えばケイ素、酸素、硫黄又は窒素を含み、有利に1〜40個、更に有利に1〜30個の炭素原子を有する一価、二価又は三価、有利に一価又は二価の有機基、ここで、該有機基は炭素−炭素結合を介して4位に結合していてよく、エーテル基、エステル基(−C(O)−O−基又は−O−C(O)−基)、アミノ基、アミド基(−NHC(O)−基又は−C(O)−NH−基)又はウレタン基(−NH−C(O)−O−基又は−O−C(O)−NH−基)、例えばアジペート基又はセバケート基。
【0043】
特に、該基はヒドロキシル基である。相応して、特に4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン(OH−Tempo)が化合物Sとして使用される。
【0044】
本発明による方法において、化合物Sは第一の蒸留工程(4.1)の前に混合物(3.2)に添加されてよい。これは有利に、触媒除去(処理工程3)のための蒸留ユニットの冷却器中に化合物Sを計量供給することによって行われる。この状況において、化合物Sを希釈液、有利に、特に単離すべき目的エステル中の3%、更に有利に2%、特に1%溶液の形で計量供給するのが有利である。
【0045】
本発明による方法において、化合物Sは第一の蒸留工程(4.1)において添加される。これは有利に、化合物Sを、低沸点物質除去(4.1)のために使用される塔頂で、希釈液、有利に、特に目的エステル中の3%、更に有利に2%、特に1%溶液の形で計量供給することにより行われる。更に、分離すべき混合物(3.2)はすでに化合物Sを含有してもよい。
【0046】
相応して、本発明による方法の塔底生成物(4.1.2)は、目的エステル及び(メタ)アクリル酸のみならず、化合物Sをも含有する。塔底生成物(4.1.2)中の化合物Sの濃度は広く変動してよく、かつ個々の事例の要求に依存する。塔底生成物(4.1.2)が化合物Sを10〜10000ppm、有利に100〜5000ppm、特に100〜1000ppm含有するのに十分な化合物Sを計量供給するのが有利である。
【0047】
本発明による方法において、化合物Sは第二の蒸留工程(4.2)にも添加される。これは有利に、化合物Sを希釈液、有利に、特に目的エステル中の3%、更に有利に2%、特に1%溶液の形で、精留(4.2)のために使用される塔の低い部分に供給することによって行われる。
【0048】
相応して、本発明による方法の塔底生成物(4.2.2)は、目的エステル及び(メタ)アクリル酸のみならず、化合物Sをも含有する。塔底生成物(4.2.2)中の化合物Sの濃度は広く変動してよく、かつ個々の事例の要求に依存する。塔底生成物(4.2.2)が化合物Sを100〜10000ppm、有利に200〜5000ppm、特に400〜1000ppm含有するのに十分な化合物Sを計量供給するのが有利である。
【0049】
本発明による方法の塔底生成物(4.2.2)は有利に完全に反応器中に再循環される。ここで、化合物Sは、触媒により分解される前に、付加的な安定化をもたらす。
【0050】
付加的な安定化のために、塔底生成物(4.2.2)中のヒドロキノンモノメチルエーテルの濃度が10〜500ppm、特に20〜150ppmとなるようにヒドロキノンモノメチルエーテルを蒸留塔の還流に計量供給することもできる。
【0051】
精留(4.2)の留出物(4.2.1)は、特に高純度の目的エステルからなる。純度は有利に99.5質量%を上回り、更に有利に99.8質量%を上回り、特に99.9質量%を上回る。目的エステルの再解離は、− 例え生じたとしても− 極めて低レベルであり、かつ処理工程(4)における目的エステルの除去における重合は− 例え生じたとしても− 極めて低レベルであるため、収率は特に高い。特にプラント部分における重合のレベルが極めて低いために、プラントの運転時間は特に長い。
【実施例】
【0052】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン(OH−Tempo)を用いたt−ブチルアクリレート(TBA)の製造
イソブテン、硫酸、フェノチアジン(TBA中で4%)及びアクリル酸(純度99.9%の新鮮なアクリル酸、精留の塔底からのヒドロキノンモノメチルエーテル及びアクリル酸で安定化されたもの、OH−Tempoを含有する)のための供給導管、生じる反応混合物のための排出部及び排ガス導管を有する慣用かつ公知の反応器中で、イソブテンを過剰のアクリル酸(50モル%)と反応させた。TBA、アクリル酸、PTZ、ヒドロキノンモノメチルエーテル及び触媒を含有する生じる反応混合物を排出した。触媒を、DE10036958A1、実施例1、第9〜10欄、段落[0057]に記載の通りに、排出された反応混合物から除去した。TBAを含有する生じる留出物を熱交換器中で冷却し、TBA中で1%のOH−Tempo溶液と混合し、外部循環蒸発器(自然循環)、40のデュアルフロートレー(供給トレー22)を有する蒸留塔及び直列に配置された2つの冷却器からなる蒸留ユニットに供給した。塔頂で、TBA中で1%のOH−Tempo溶液を、同様に、塔底におけるOH−Tempoの全濃度が200ppmとなるような量で供給した。低沸点成分(残留イソブテン、ジイソブテン及びt−ブタノール)を除去し、実質的にアクリル酸、TBA及びOH−Tempoからなる塔底生成物をもう1つの蒸留ユニット中で精留した。該蒸留ユニットは、外部管束型蒸発器、40のデュアルフロートレー(供給トレー18)を有する蒸留塔及び直列に配置された2つの冷却器からなっていた。TBA中で1%のOH−Tempo溶液を、同様に、塔底におけるOH−Tempoの濃度が400〜700ppmとなるような量で塔の中央部に供給した。実質的にアクリル酸からなる塔底生成物を反応器中に再循環させた。留去されたTBAは99.8%の純度を有していた。OH−Tempoの量を電子スピン共鳴(ESR)を用いて測定した;しかしながら、シグナルは検出不可能であった。従って、該量は0.3ppmの検出限界未満であった。60日間の運転時間後に製造を終了させたが、これは単にこれ以上貯蔵槽が利用不可能であったためである。前記時間後に、塔底において汚損は生じず、かつ塔段上でポリマーの堆積は生じなかったため、いかなる問題もなく、連続的な製造を確実に継続させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)(メタ)アクリル酸と一般式I:
【化1】

[式中、
1及びR2は同じか又は異なっていてよく、かつそれぞれアルキル基であり、
3は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、脂肪族又は脂環式炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキル基、脂肪族又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルアリール基、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているシクロアルキルアリール基、又は脂肪族、脂環式又は芳香族炭素原子を介してオレフィン性不飽和炭素原子に結合しているアルキルシクロアルキルアリール基である]の少なくとも1種のオレフィンとを、均質相中で酸性触媒の存在で反応器中で反応させる工程、
(2)得られた反応混合物(1)を反応器から排出する工程、
(3)排出された反応混合物(2)を、触媒を含有する混合物(3.1)と、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを含有する混合物(3.2)とに分離する工程、及び
(4)アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを混合物(3.2)から除去する工程
を含む、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルの製造法において、
(5)前記処理工程(4)において、少なくとも1個のN−オキシル基を含む少なくとも1種の化合物Sを安定剤として添加することを特徴とする方法。
【請求項2】
N−オキシル基の窒素原子が複素環の一部である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
複素環が脂肪族である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
複素脂肪族環がピペリジン環から誘導されている、請求項3記載の方法。
【請求項5】
N−オキシル基が立体的に障害されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
N−オキシル基の窒素原子に対してα位にある炭素原子がそれぞれ少なくとも1個のアルキル基を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
N−オキシル基の窒素原子に対してα位にある炭素原子がそれぞれ2個のアルキル基を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アルキル基がメチル基である、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
化合物Sが少なくとも1個の2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジン−4−イル基を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
化合物Sが4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシルピペリジンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
混合物(3.1)を部分的にか又は完全に反応器中に再循環させる、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
混合物(3.2)を留出物として除去する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルを、処理工程(4)における二段蒸留により混合物(3.2)から除去する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
化合物Sを第一の蒸留工程(4.1)及び第二の蒸留工程(4.2)において添加する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
化合物Sを第一の蒸留工程(4.1)の前に混合物(3.2)に添加する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
混合物(3.2)を、第一の蒸留工程(4.1)において、低沸点留出物(4.1.1)と、アルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステル及び化合物Sを含有する塔底生成物(4.1.2)とに分離する、請求項14又は15記載の方法。
【請求項17】
塔底生成物(4.1.2)を、第二の蒸留工程(4.2)において、実質的にアルキル基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の3級アルキルエステルからなる留出物(4.2.1)と、化合物Sを含有する塔底生成物(4.2.2)とに分離する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
塔底生成物(4.2.2)を部分的にか又は完全に反応器中に再循環させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
一般式Iのオレフィンがイソブテンである、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2009−24010(P2009−24010A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−184847(P2008−184847)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】