説明

アルキレンオキサイドの処理方法およびそれを用いたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造した際に残存する未反応のアルキレンオキサイドを効率よく処理可能な、アルキレンオキサイドの処理方法を提供する。
【解決手段】まず、少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを、アルキレングリコールを含む吸収液に吸収させる。次いで、前記吸収液に吸収されたアルキレンオキサイドを、触媒の存在下で水和して、アルキレングリコールを生成させる。そして、そのアルキレングリコールを含む水和液を回収する。アルキレンオキサイド含有液を処理する場合は、最初にアルキレンオキサイド含有液中のアルキレンオキサイドを気化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキサイドの処理方法およびそれを用いたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させて合成されている。この反応では、(メタ)アクリル酸の反応率を極力高くするため、一般に、(メタ)アクリル酸よりも過剰のモル量のアルキレンオキサイドを反応器に供給する。したがって、反応終了後の反応液中には未反応のアルキレンオキサイドが残存することとなり、そのアルキレンオキサイドを反応液から分離して、廃棄または再利用する処理を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを付加反応させた反応液中の未反応のアルキレンオキサイドを気化させ、(メタ)アクリル酸に吸収させた上で、その吸収液を付加反応に再使用する方法が記載されている。特許文献2には、反応液中の未反応のアルキレンオキサイドを放散させ、水に吸収させた上で、その吸収液をアルキレングリコールの製造に使用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−330320号公報
【特許文献2】特開2002−114740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、吸収剤として使用される(メタ)アクリル酸の量は反応のモル比により制限されるため、反応液中の未反応のアルキレンオキサイドを全て(メタ)アクリル酸に吸収させることは困難であった。したがって、吸収されなかったアルキレンオキサイドは別途水に吸収させ、水和して希薄なアルキレングリコール水溶液とした後、活性汚泥処理等をする必要があった。特許文献2の方法は、アルキレングリコールの製造プラントを有していない場合には実施することはできず、やはり未反応のアルキレンオキサイドを水に吸収させ、水和して希薄なアルキレングリコール水溶液とした後、活性汚泥処理等をする必要があった。
【0006】
本発明は、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造した際に残存する未反応のアルキレンオキサイドを効率よく処理可能な、アルキレンオキサイドの処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、未反応のアルキレンオキサイドを効率よく処理しつつヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを、アルキレングリコールを含む吸収溶剤に吸収させて、前記アルキレンオキサイドを含む吸収溶液を得る工程と、(b)前記吸収溶液に含まれるアルキレンオキサイドを、触媒の存在下で水和して、前記アルキレンオキサイドが水和したアルキレングリコールを含む水和液を得る工程と、(c)前記水和液を回収する工程とを有するアルキレンオキサイドの処理方法である。
【0008】
また、本発明は、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得る工程と、未反応のアルキレンオキサイドを、上記の方法により処理する工程とを有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造した際に残存する未反応のアルキレンオキサイドを効率よく処理できる。また、本発明によれば、未反応のアルキレンオキサイドを効率よく処理しつつヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るアルキレンオキサイドの処理方法を用いたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造に使用する装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係るアルキレンオキサイドの処理方法を用いたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造に使用する装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および2は、本発明に係るアルキレンオキサイドの処理方法を用いたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造に使用する装置の概略構成図である。
【0012】
まず、合成反応器10内で、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを触媒の存在下で反応させ、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得る。アルキレンオキサイドとしては特に限定はされないが、好ましくは炭素数2〜6、より好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキサイドであり、特に好ましくはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。
【0013】
なお、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとの反応は、公知の方法を利用することができ、通常(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを触媒と重合禁止剤の存在のもと付加反応させる。この反応では原料の(メタ)アクリル酸と生成物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの分離が困難なため、通常(メタ)アクリル酸に対するアルキレンオキサイドのモル比を1以上で反応を行い(メタ)アクリル酸をできるだけ消費させる。そのため反応終了時には過剰量分のアルキレンオキサイドが存在するため、放散や減圧脱気、蒸留などの操作により反応液から分離する。
【0014】
本発明では、例えば、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造した際に残存する未反応のアルキレンオキサイドを、以下に示す工程(a)〜(c)により処理する。この処理方法は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得るための反応形式により、連続式、バッチ式のいずれでも行うことができるが、放散や吸収操作の工程安定性、運転管理が容易であるという観点から、連続式で行うことが好ましい。
【0015】
〔工程(a)〕
工程(a)では、少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを、アルキレングリコールを含む吸収溶剤に吸収させる。処理するアルキレンオキサイドが気体状であれば、そのまま工程(a)を行うことができる。処理するアルキレンオキサイドが液体状のアルキレンオキサイド含有液であれば、工程(a)の前に、アルキレンオキサイド含有液中のアルキレンオキサイドを気化させ、少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを得る工程(工程(e))を行い、その少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを工程(a)で用いることが好ましい。さらに、処理するアルキレンオキサイドが気体状であっても、そのアルキレンオキサイドを含有するガスを洗浄して、アルキレンオキサイド含有液を得る工程(工程(f))を行い、そのアルキレンオキサイド含有液を工程(e)で用いることもできる。ここで、「アルキレンオキサイドを含有するガスを洗浄する」とは、アルキレンオキサイドを含有するガス中のアルキレンオキサイドを吸収操作により洗浄溶剤に吸収させ、それ以外の窒素や空気などの非凝縮性ガスとアルキレンオキサイドの一部または全部を分離することを意味する。
【0016】
例えば、図1において、合成反応器10内で(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させると、未反応のアルキレンオキサイドを含む排ガスが発生する。その排ガスを真空発生装置11を介して回収して、その排ガスを排ガス導入ライン15を通じて洗浄塔20に導入する。図2においては、未反応のアルキレンオキサイドを含む反応液が、反応液供給ライン12を通じて脱気塔13に導入される。脱気塔13には脱気ガスライン31から脱気ガスが供給されており、反応液中のアルキレンオキサイドを含む排ガスが得られる。反応液からアルキレンオキサイドが除去された粗製品は、粗製品ライン17から排出される。排ガスは、排ガス導入ライン15を通じて洗浄塔20に導入される。洗浄塔20には、洗浄溶剤供給ライン21から洗浄溶剤が供給されており、アルキレンオキサイドを含む排ガスを洗浄することができる。洗浄された排ガスは、排ガス放出ライン22から大気へ放出される。
【0017】
洗浄溶剤としては、排ガス中に含まれるアルキレンオキサイドを吸収可能な液体であればよい。洗浄溶剤の具体例としては、水、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられるが、環境対策、安全性を考慮すると、特に水が好ましい。洗浄溶剤として水以外のものを使用すると、洗浄塔20の塔頂の排ガス放出ライン22から洗浄溶剤のガスが大気へ放出されるため、さらに対策のための設備が必要となる。洗浄溶剤として水を使用した場合には排ガス放出ライン22から大気へ放出されてもなんら環境に影響を与ることはない。
【0018】
排ガス中に含まれるアルキレンオキサイドを吸収した洗浄液は、洗浄液ライン25を通じて放散塔30に導入される。放散塔30には、放散ガス供給ライン31から放散ガスが供給されており、アルキレンオキサイドを気化させることができる。気化されなかった洗浄液は、洗浄液排出ライン32から排出される。排出された洗浄液は、必要に応じて活性汚泥処理等を施した上で廃棄してもよく、洗浄溶剤供給ライン21を通じて洗浄塔20に供給して、洗浄液として再利用してもよい。
【0019】
放散ガスとしては、洗浄液中に含まれるアルキレンオキサイドを放散可能な気体であればよい。放散ガスの具体例としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、空気や不活性ガスにより希釈された空気等の酸素含有ガス、あるいは水蒸気等が挙げられる。放散ガスとして水蒸気を使用する代わりに放散塔30の塔底にリボイラーを設け、加熱用の水蒸気と放散塔30の塔底液とを熱交換させ塔底液を加熱蒸発させる形式をとっても何ら問題ない。
【0020】
なお、この洗浄液ライン25には、アルキレンオキサイド含有排水ライン26を接続しておくこともできる。こうすることで、反応液から分離された未反応のアルキレンオキサイドを含むエジェクター排水やタンクなどから放出されるアルキレンオキサイドをエジェクターやエダクター等により回収する装置から排出される排水等のアルキレンオキサイド含有液を放散塔30に導入することができ、上記と同様の方法で、アルキレンオキサイドを気化させることができる。
【0021】
気化されたアルキレンオキサイドは、放散ガスライン35を通じて吸収塔40に導入される。吸収塔40には、吸収溶剤供給ライン41から吸収溶剤が供給されており、アルキレンオキサイドを吸収溶剤に吸収させることができる。吸収されなかった放散ガスは、大気に放出してもよいが、放散ガス循環ライン42を通じて洗浄塔20に供給して、再度洗浄を施すことが好ましい。
【0022】
工程(e)および(f)を行わない場合は、合成反応器10内から回収した排ガスを、直接吸収塔40に導入すればよい。
【0023】
吸収溶剤としては、アルキレングリコールを含むものを使用する。アルキレングリコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。吸収溶剤に含まれるアルキレングリコールは、1種でもよく、2種以上でもよい。吸収溶剤は、アルキレングリコールのみでもよいが、アルキレングリコールと他の吸収溶剤との混合溶剤でもよい。後の工程でアルキレンオキサイドを水和することを考慮すると、少なくとも吸収させるアルキレンオキサイドに対応するアルキレングリコールが含まれていることが好ましい。ここでアルキレンオキサイドに対応するアルキレングリコールとは、例えばエチレンオキサイドに対してはエチレングリコール、プロピレンオキサイドに対してはプロピレングリコールのようにアルキレンオキサイドを水和してできるアルキレングリコールを意味する。前記他の吸収溶剤は特に限定されるものではなくアルキレオキサイドを吸収できるものであればよいが、後の工程でアルキレンオキサイドを水和することを考慮すると、特に水が好ましい。吸収溶剤における吸収させるアルキレンオキサイドに対応するアルキレングリコールの割合は、15質量%〜100質量%であることが好ましい。
【0024】
アルキレンオキサイドが吸収された吸収溶液は、吸収溶液ライン45から排出される。
【0025】
ここで洗浄塔、放散塔、吸収塔、脱気塔に用いられる装置としては特に限定されるものではなく、一般的に使用される充填塔や泡鐘塔、多孔板塔、などが使用できる。また、操作圧力は減圧、常圧、加圧のいずれでも構わないが、好ましくは−10kPaG〜10kPaG、より好ましくは−5kPaG〜5kPaGで行うことが好ましい。洗浄溶剤、吸収溶剤の温度は特に限定されることはないが、ガスを効率よく吸収させるという観点から0℃〜50℃、より好ましくは10℃〜45℃である。
【0026】
〔工程(b)〕
工程(b)では、吸収溶液に含まれるアルキレンオキサイドを、触媒の存在下で水と反応させて、アルキレングリコールを生成させる。例えば、図1において、アルキレンオキサイドが吸収された吸収溶液を、吸収溶液ライン45を通じて水和反応器50に導入する。吸収したアルキレンオキサイドを水和するための水は吸収液ライン45に新たに供給しても良い(図示無し)し、吸収溶剤供給ラインから吸収溶剤として供給される水を利用しても構わない。吸収溶液に含まれるアルキレンオキサイドは、主に水和反応器50において水和によりアルキレングリコールとなる。
【0027】
水和反応は公知の条件で行われ、通常触媒として硫酸や強酸性イオン交換樹脂などを用いることができる。水和反応器に用いられる装置としては用いられる触媒により異なるが、管型反応器、槽型反応器、充填塔型反応器などが挙げられる。反応温度は水和反応を十分に行わせるために10℃〜90℃、より好ましくは20℃〜70℃とする。
【0028】
こうして得られた水和液は、水和液ライン55から排出される。
【0029】
この水和液は、工程(a)の吸収溶剤として再利用することが好ましい。例えば、図1において、水和液ライン55と水和液循環ライン61が連通するように液分配器60を切り替えておくことで、水和液を吸収溶剤供給ライン41を通じて吸収塔40に再度供給することができる。
【0030】
〔工程(c)〕
工程(c)では、水和液を回収する。例えば、図1において、水和液ライン55と水和液排出ライン65が連通するように液分配器60を切り替えておくことで、水和液を水和液排出ライン65から回収することができる。
【0031】
この回収した水和液には、アルキレングリコールが高濃度で含まれているので、燃焼させることができる(工程(d))。工程(d)での燃焼熱はプロセスに必要な熱源としたり、プロセスで使用する蒸気を発生するボイラーの燃料として使用することもでき、活性汚泥処理の負荷を大きく低減でき、また、アルキレングリコールの製造プラントを有していない場合でも、アルキレンオキサイドを有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 合成反応器
11 真空発生装置
12 反応液供給ライン
13 脱気塔
15 排ガス導入ライン
16 脱気ガスライン
17 粗製品ライン
20 洗浄塔
21 洗浄溶剤供給ライン
22 排ガス放出ライン
25 洗浄液ライン
26 アルキレンオキサイド含有排水ライン
30 放散塔
31 放散ガス供給ライン
32 洗浄液排出ライン
35 放散ガスライン
40 吸収塔
41 吸収溶剤供給ライン
42 放散ガス循環ライン
45 吸収溶液ライン
50 水和反応器
55 水和液ライン
60 液分配器
61 水和液循環ライン
65 水和液排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを、アルキレングリコールを含む吸収溶剤に吸収させて、前記アルキレンオキサイドを含む吸収溶液を得る工程と、
(b)前記吸収溶液に含まれるアルキレンオキサイドを、触媒の存在下で水和して、前記アルキレンオキサイドが水和したアルキレングリコールを含む水和液を得る工程と、
(c)前記水和液を回収する工程と
を有するアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項2】
前記工程(b)を経た水和液を、前記工程(a)の吸収溶剤として再利用する請求項1に記載のアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項3】
(d)前記工程(c)で回収された水和液を燃焼させる工程
をさらに有する請求項1または2に記載のアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項4】
前記工程(a)より前に、
(e)アルキレンオキサイド含有液中のアルキレンオキサイドを気化させ、少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを得る工程
をさらに有し、該少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを前記工程(a)で用いる請求項1〜3のいずれかに記載のアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項5】
前記工程(e)より前に、
(f)少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを洗浄して、アルキレンオキサイド含有液を得る工程
をさらに有し、該アルキレンオキサイド含有液を前記工程(e)で用いる請求項4に記載のアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項6】
前期工程(f)での洗浄操作として、前記少なくともアルキレンオキサイドを含有するガスを、洗浄溶剤としての水に吸収させる請求項5に記載のアルキレンオキサイドの処理方法。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドを反応させて、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを得る工程と、
未反応のアルキレンオキサイドを、請求項1〜6のいずれかに記載の方法により処理する工程と
を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116721(P2011−116721A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277433(P2009−277433)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】