説明

アルケノンの製造方法

次の工程:(a)アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程、(b)瞬間熱分解、真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程を含む、アルケノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、この出願の全体内容があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、2009年7月6日出願の国際出願PCT/EP2009/058525号および2010年1月7日出願の欧州特許出願公開第10150276.3号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、アルケノン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテノン(ETFBO)などの、ハロゲン化アルケノン類は、例えば、(特許文献1)に開示されているように、化学合成における構成単位である。それらは、前述の米国特許に記載されているように、塩基の存在下に酸塩化物をビニルエーテルと反応させることによって製造することができる。この反応のために、塩基はまた溶媒として過剰に使用されてもよい。
【0004】
(特許文献2)は、オニウム塩の存在下にビニルエーテルと酸ハロゲン化物または酸無水物とからのアルケノンの製造を開示している。
【0005】
(特許文献3)はとりわけ、ビニルエーテルへのカルボン酸ハロゲン化物の付加を含むアルケノンの簡略化製造を開示している。この参考文献は、付加生成物が150℃以下の温度で熱分解され得ることを開示している。アルケノンの製造は、周囲圧力でまたはわずかな減圧下に実施することができる。発生したハロゲン化水素は、例えば、加熱、減圧または両方によって反応中にまたは反応後に反応混合物から除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,708,175号明細書
【特許文献2】国際公開第03/066558号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/084813 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、本発明は、特に製造の選択率および収率に関して、改良されたアルケノンの製造方法であって、それによって、とりわけ、生成物の分離を簡略化することができ、かつ、物質の損失および副生物の廃棄処分の必要性を低減することができる方法を利用可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の工程:
(a)好ましくは、本明細書で前に開示された方法のいずれか、またはそれらの組み合わせに従ったカルボン酸ハロゲン化物とビニルエーテルとからの製造によって、アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)瞬間熱分解、真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む、アルケノンの製造方法に関する。
【0009】
より具体的には、本発明は、次の工程:
(a)アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)90℃超〜120℃の温度で実施される熱分解、瞬間熱分解、60℃〜140℃の温度で実施される真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む、アルケノンの製造方法に関する。
【0010】
意外にも、本発明による方法、特に瞬間熱分解が、製造条件下において、アルケノンのハロゲン化前駆体の高転化率を可能にすることが分かった。本発明による方法はまた、アルケノン、特にETFBOへの、立体配置異性体選択性を含めて、特に高い選択性を可能にする。高選択性は、標的生成物の簡略化された精製および高い単離収率をさらに可能にする。
【0011】
工程(b)で、2つ以上の熱分解処理を組み合わせることができる。例えば、熱分解は不活性ガスでのストリッピング下に90℃超〜120℃の温度で実施することができるか、または真空熱分解は不活性ガスでのストリッピングと組み合わせられる。
【0012】
本発明による方法は、式(I):R1−C(O)−C(H)=C(H)−OR2(I)(式中、R1は、少なくとも1個のハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表すかまたはR1はCF、CFCl、CFHを表し;R2はアリール、置換アリール、または少なくとも1個のハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表す)に相当するアルケノンの製造であって、式(II):R1−C(O)X(II)(式中、Xはフッ素、塩素または臭素を表し、R1は上に与えられた意味を有する)に相当する酸ハロゲン化物が、式(III):CH=C(H)−OR2(III)(式中、R2は上に与えられた意味を有する)に相当するビニルエーテルと反応させられる製造に有利に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
R1は多くの場合フッ素化C1〜C4アルキル基である。R1は好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルまたは少なくとも1個のフッ素原子で置換されたメチル、エチル、n−プロピルもしくはイソプロピルを表す。R1がメチル、エチルまたは少なくとも1個のフッ素原子で置換されたメチルもしくはエチルを表すことがとりわけ好ましい。CF、CFH、CFC1、C、CがR1として特に好ましい。CF、CFClおよびCFHがR1としてより特に好ましい。
【0014】
R2は、アリール、例えば、フェニル、C1〜C4アルキル基、および/またはハロゲン原子で置換されたフェニルから選択することができる。R2は多くの場合C1〜C4アルキル基である。好ましくは、R2は線状または分岐のC1〜C4アルキル基を表し、特に好ましくはR2はメチル、エチル、n−プロピルもしくはイソプロピル、最も好ましくはメチルまたはエチル基を表す。
【0015】
Xは好ましくはフッ素および塩素から選択され、より好ましくはXは塩素である。
【0016】
第1の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、トリフルオロアセチルクロリドである。
【0017】
第2の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、クロロジフルオロアセチルクロリドである。
【0018】
第3の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、ジフルオロアセチルクロリドである。
【0019】
第4の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、トリフルオロアセチルフルオリドである。
【0020】
第5の特定の実施形態では、カルボン酸ハロゲン化物は、(トリフルオロアセト)アセチルフルオリドである。
【0021】
本発明による方法の工程(a)は、アルケノンのハロゲン化前駆体を提供することを含む。これは例えば、ハロゲン化前駆体を、工程(b)が実施される反応ゾーンに満たすかまたはポンプ送液することによって実施することができる。ハロゲン化前駆体は、例えば好適なタンク中の前に製造されたハロゲン化前駆体の輸送によって供給されてもよい。しかし、それは好ましくは、その前駆体の反応によって提供される。
【0022】
特にエチルビニルエーテル(EVE)とトリフルオロアセチルクロリド(TFAC)とからの4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−ブタン−3−オン(CETFBO)の製造のための好適な実施形態は、(a)カルボン酸ハロゲン化物を含有する反応媒体中で反応を実施すること、(b)アルケノンおよび/またはハロゲン化前駆体を溶媒として使用する反応媒体中で反応を実施すること、(c)特に反応を乱流状態で実施することによって、ホットスポットを回避するかまたは最小限にするのを可能にする条件下に反応を実施すること、(d)ハロゲン化水素用の酸捕捉剤の不在下に反応を実施することおよびこれらの実施形態の組み合わせから選択される。これらの実施形態は、その内容が本特許出願へ参照により援用される、米国特許出願公開第2006/084813号明細書、国際出願PCT/EP/2009/058525号明細書ならびに同時係属欧州特許出願公開第10150234.2号明細書および同第10150229.2号明細書にさらに詳細に説明されている。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、アルケノンの製造方法は、次の工程:
(a)次の特徴:(1)カルボン酸ハロゲン化物を含有する反応媒体中で反応を実施すること、(2)アルケノンおよび/またはハロゲン化前駆体を溶媒として使用する反応媒体中で反応を実施すること、(3)特に反応を乱流状態で実施することによって、ホットスポットを回避するかまたは最小限にするのを可能にする条件下に反応を実施すること、(4)ハロゲン化水素用の酸捕捉剤の不在下に反応を実施することの少なくとも2つが行われる、アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)90℃超〜120℃の温度で実施される熱分解、瞬間熱分解、60℃〜140℃の温度で実施される真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む。
【0024】
とりわけ好ましい実施形態では、アルケノンの製造方法は、次の工程:
(a)反応がカルボン酸ハロゲン化物を含有する反応媒体中で反応を実施され、ならびに反応がアルケノンおよび/またはハロゲン化前駆体を溶媒として使用する反応媒体中で実施され、ならびに反応が、特に反応を乱流状態で実施することによって、ホットスポットを回避するかまたは最小限にするのを可能にする条件下に実施され、ならびに反応がハロゲン化水素用の酸捕捉剤の不在下に実施される、アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)90℃超〜120℃の温度で実施される熱分解、瞬間熱分解、60℃〜140℃の温度で実施される真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む。
【0025】
本方法が回分式に実施されるときに有利である、本発明による方法の一実施形態およびその特定の実施形態では、工程(a)および(b)は、同じ反応ゾーン、例えば、蒸留塔が上にある容器中で実施される。
【0026】
本方法が連続して実施されるときに有利である、本発明による方法の別の好ましい実施形態およびその特定の実施形態では、その工程(a)は第1反応ゾーンで実施され、工程(b)は、第1反応ゾーンとは異なる第2反応ゾーンで実施される。
【0027】
第1反応ゾーンは多くの場合、場合により撹拌されるタンク型反応器、好ましくは連続撹拌タンク型反応器である。第2反応ゾーンは、例えば、蒸留塔であることができる。
【0028】
本発明の意味で熱分解は、ハロゲン化前駆体を含む液体画分を熱分解処理の温度に加熱することによって好適に実施することができる。加熱は、例えば、反応器、熱交換器および加熱されたパイプの壁などの加熱された固体物体と液体画分を特に接触させることなどの好適な方法によって実施することができる。加熱はまた、熱ガス、特に窒素などの特に熱い不活性ガスを液体画分に提供することによって実施することができる。
【0029】
本発明による方法での熱分解は、形成されたガス状ハロゲン化水素の液体画分からの抜き出しを容易にする装置で好適に実施される。多くの場合、このような装置は、液体画分の表面を増加させるための手段を含む。「液体画分の表面を増加させるための手段」は、液相の2倍体積を有する球形フラスコへ満たされたときの気相と接触している同じ体積の液体画分の表面と比較した場合に気相と接触した液体画分の増加した表面を提供するあらゆる手段を特に意味すると理解される。このような装置の特定例としては、フィルムエバポレーターおよび、好ましくは、流れ抵抗を有する塔が挙げられる。プレート塔もしくはデュアルフロー型のプレート塔が、または好ましくはバルクパッキングもしくは構造化パッキングの塔が使用されてもよい。好適な塔の特定例は、例えばポール(Pall)リングまたは好ましくはラシヒ(Raschig)リングで充填される。
【0030】
液体画分の表面を増加させるための手段は一般に、ガス流れ、特にハロゲン化水素流れの抜き出しを可能にする少なくとも1つのラインに連結される。必要ならばこのようなラインはまた、特に本明細書に記載されるような、真空をかけるために使用されてもよい。液体画分の表面を増加させるための手段は、必要ならば、特に本明細書に記載されるような不活性ガスの供給を可能にする少なくとも1つのラインに連結されてもよい。
【0031】
液体画分の表面を増加させるための手段が用いられるとき、液体画分の加熱は、例えば、液体画分の表面を増加させるための手段と加熱するための手段、特に上記のように、好ましくは熱交換器との間で液体画分を循環させることによって外部から好適に提供されてもよい。
【0032】
熱分解処理の温度は、多くの場合少なくとも50℃、多くの場合60℃以上、好ましくは70℃以上、好ましくは約80℃以上である。熱分解処理の温度は、一般に150℃未満、多くの場合140℃未満、好ましくは130℃以下である。90℃〜120℃、特に約100℃の温度で実施される熱分解処理が特に好ましい。この温度範囲が、特にETFBOへのCETFBOの熱分解のために、特に効率的であることが分かった。
【0033】
本発明の目的のためには、用語「瞬間熱分解」は、液体反応媒体が短時間加熱されるプロセスを意味する。瞬間熱分解のための典型的な加熱時間は1時間未満、特に30分未満、好ましくは約15分である。一般に、加熱時間は1秒超、多くの場合15秒超である。
【0034】
「加熱時間」は、初期温度から熱分解処理の温度まで、ハロゲン化前駆体を含有する液体画分、特に液体反応媒体を加熱するために要する時間を特に意味すると理解される。典型的な初期温度は50℃未満、多くの場合40℃未満、好ましくは30℃以下である。一態様では、この温度は好ましくは約−25℃以下である。初期温度は一般に少なくとも−50℃、多くの場合−40℃以上、好ましくは−30℃以上である。多くの場合、初期温度は、アルケノン前駆体がその製造プロセスを出る温度に相当する。撹拌タンク型反応器では、例えば、ビニルエーテルへの酸ハロゲン化物の付加のための反応温度は多くの場合、0℃〜40℃の温度で実施される。その結果として、前駆体の初期温度もまたその範囲にある。
【0035】
本実施形態による方法の特定の態様では、瞬間熱分解は、−20℃〜140℃の範囲の温度および30秒〜1時間の範囲の期間で、好ましくは0℃〜130℃の範囲の温度および30秒〜30分の範囲の期間で、より好ましくは20℃〜120℃の範囲の温度、好ましくは50℃〜120℃、および30秒〜20分の範囲の期間で行われる。
【0036】
瞬間熱分解の追加の利点は、とりわけETFBOが製造されるときに、2モルのアルケノンのヘテロディールス・アルダー(Hetero−Diels−Alder)生成物の形成が回避されることである。ヘテロディールス・アルダー生成物は、熱分解が余りにも長い時間範囲で行われる場合に益々形成される。
【0037】
特に本明細書で前に記載されたような、熱分解または瞬間熱分解は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス流れでのストリッピング下に場合により実施することができる。
【0038】
本発明の目的のためには、用語「ストリッピング」は、1つ以上の成分、特にHClがガス流れによって液体反応媒体から除去される物理的分離プロセスを特に意味する。液体およびガス流れは、並流または向流方向を有することができる。
【0039】
適切な場合、ストリッピングは有利には窒素流れで実施される。
【0040】
この実施形態による方法は、熱分解を−20℃〜140℃、好ましくは60〜130℃の温度で、例えば80℃に等しいかまたは約80℃で、より好ましくは120℃に等しいかまたは約120℃で実施する工程を一般に含む。
【0041】
熱分解または瞬間熱分解は減圧下で実施されてもよい。その場合には、減圧は、多くの場合100〜600ミリバール、好ましくは100ミリバール〜500ミリバール未満、例えば200〜450ミリバールである。
【0042】
本明細書に開示される異なる方法および実施形態は、アルキルビニルエーテルとトリフルオロ酢酸ハロゲン化物とからの、特にトリフルオロアセチルクロリドとエチルビニルエーテルとからのハロトリフルオロアルコキシブタノン類、特にクロロトリフルオロアルコキシブタノンの製造およびトリフルオロアルコキシブテノン、特にETFBOを形成するためのその後の脱離に最も好ましいやり方で適用されることが理解される。
【0043】
本明細書に開示される異なる方法および実施形態は、アルキルビニルエーテルとジフルオロ酢酸ハロゲン化物とからの、特にジフルオロアセチルクロリドとエチルビニルエーテルとからのハロジフルオロアルコキシブタノン類、特にクロロジフルオロアルコキシブタノンの製造およびジフルオロアルコキシブテノン、特に4−エトキシ−1,1−ジフルオロ−3−ブテノン(EDFBO)を形成するためのその後の脱離に最も好ましいやり方で適用されることが理解される。
【0044】
本明細書で以下の実施例は、本発明を例示することを意図されるが、それを限定しない。
【0045】
これらの実施例ではおよび本明細書の全体にわたって、用いられる省略形は次の通り定義される:TFACはトリフルオロアセチルクロリドであり、EVEはエチルビニルエーテルであり、CETFBOは4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンであり、ETFBOはエトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンである。
【実施例】
【0046】
実施例1:4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの2工程製造
工程(a)
Pt100内部温度計を備えた、ドライアイス冷却器で囲まれた100mlの3つ口フラスコに、66,24g(0.5モル)のトリフルオロアセチルクロリドを−30℃で凝縮させた。36.06g(0.5モル)のエチルビニルエーテルを1時間にわたって滴加した。滴加後に、さらなる0.5モルのトリフルオロアセチルクロリドを加えた。サンプルのGCは、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンのほぼ定量的な収率を示した。
【0047】
工程(b)
上記の工程(a)の反応後に、フラスコを室温に温め、減圧下に分別蒸留にかけた。第1留分(B.P.47ミリバールで59.3〜66.4℃)は、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンと4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンとの混合物を含有し、それを、さらなる4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを与えるために再蒸留することができた。第2留分(B.P.30ミリバールで66.4〜70℃)は、純エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(E/Z比98.5:1.5)を含有した。単離収率は、理論収率の97.5%であった。
【0048】
実施例2:乱流条件および溶媒としてのETFBO下の4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オンおよび4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの製造
一般的な手順:前の合成によって得られた、純ETFBOを再循環システムの流れ部分に入れ、チラーを使用して冷却した。この再循環システムは、20Lのフラスコ、別の蒸留塔の上に置かれた10mmガラスラシヒリングを充填した2つの1メートル蒸留塔、循環ポンプ(1500L/時間)、それぞれ3mパス長さ(直径1.5cm)の3つの管型反応器を含む。再循環システムで所望の温度に達したらすぐに、ガス状または液体トリフルオロアセチルクロリド(15kg/時間;113.2モル/時間)を、第1の3m反応器の直前に乱流循環で導入し、次に小モル過剰のエチルビニルエーテル(TFAC/EVE=1:1.01)を第1の3m反応器の後に加えた。リサイクル装置の20Lのフラスコ中のレベルを、膜ポンプを使用して物質を第2装置へポンプ送液することによって一定に保った。4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(ETFBO)への4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタン−2−オン(CETFBO)の熱分解に役立ったこの第2装置は、10mmガラスラシヒリングを充填した3つの1メートル蒸留塔と除去付き冷却器とを持った100LのPfaudlerセラミック容器を含んだ。ETFBOへのHClを失うCETFBOの転化は、セラミック容器が満ちているときに回分式熱分解によって、またはリサイクル装置からのCETFBO流れの連続供給によってかのどちらかで行われた。精密蒸留を蒸留塔で連続的にかまたは回分式にさらに実施した。
【0049】
実施例2a:
再循環システムを純ETFBOで満たし、10℃の温度に冷却した。一般的な手順に従って、TFACおよびEVEを、それぞれ、12.4モル/時間および12.8モル/時間の速度で導入した。リサイクル装置のトップで毎時採取されたGCサンプルは、TFACとEVEとからの完全な反応を示し、それによってCETFBO濃度はETFBO濃度の低下と共に連続的に増加した。TFACおよびEVEの連続的な導入を8時間の間ずっと実施し、物質を全てセラミック容器に集めた。熱分解を、窒素流れ下に80℃で実施し、これに、分別蒸留が続いて、理論収率の87%の単離収率でおよび98%の純度(シス+トランス異性体)で4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを与えた。
【0050】
実施例2b:
実施例2aと同じ手順に従ったが、再循環システムを20℃の温度に保った。エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンが理論収率の87%の単離収率でおよび98%の純度(シス+トランス異性体)で得られた。
【0051】
実施例3:熱分解処理によるETFBOへのCETFBOの転化
一般的な手順:実施例1で上に記載されたように、工程(a)の反応後に、還流冷却器を備えたフラスコを、油浴を使用することによって所望の温度に加熱した。熱分解または瞬間熱分解を異なる条件下に:異なる温度で、不活性ガス流れありもしくはなしで、または減圧下に行った。ETFBOへのCETFBOの転化の後にGC分析を行った。反応混合物の組成が一定のままであったとき、生じた反応混合物を減圧での蒸留(70℃、20ミリバール)にさらにかけてエトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを得た。実験データを表1にまとめる。熱分解時間は、その後に反応混合物の組成が一定のままであった時間を意味する。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(a)アルケノンのハロゲン化前駆体を提供する工程
(b)90℃超〜120℃の温度で実施される熱分解、瞬間熱分解、60℃〜140℃の温度で実施される真空熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択される熱分解処理によって前記前駆体からハロゲン化水素を脱離させてアルケノンを形成する工程
を含む、アルケノンの製造方法。
【請求項2】
式(I):R1−C(O)−CH2−CH(X)−OR2(I)(式中、Xはフッ素、塩素または臭素を表し、R1は、少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表すかまたはR1はCF3C(O)CH2を表し;R2は、アリール、置換アリール、または少なくとも1つのハロゲン原子で場合により置換されているC1〜C10アルキル基を表す)に相当するアルケノンの前記ハロゲン化前駆体が、式(II):R1−C(O)X(II)(式中、XおよびR1は上に与えられた意味を有する)に相当する酸ハロゲン化物の反応によって製造され、式(III):CH2=C(H)−OR2(III)(式中、R2は上に与えられた意味を有する)に相当するビニルエーテルと反応させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1がフッ素化C1〜C4アルキル基、好ましくはCF基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R2がC1〜C4アルキル基、好ましくはメチルまたはエチル基である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボン酸ハロゲン化物がトリフルオロアセチルクロリドである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解が、瞬間熱分解および不活性ガスでのストリッピング下の熱分解から選択され、−20℃〜140℃の温度で実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱分解がガス流下で実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱分解が窒素でのストリッピング下に実施される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱分解が減圧下に実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱分解が100〜600ミリバールの減圧下に実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱分解が瞬間熱分解である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱分解が30秒〜1時間の範囲の時間実施される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
回分式に実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
連続的に実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)で生成した前記アルケノンエーテルを、ハロゲン化水素、未反応カルボン酸ハロゲン化物および未反応ハロゲン化前駆体から分離する工程と、カルボン酸ハロゲン化物を工程(a)におよびハロゲン化前駆体を工程(b)に場合によりリサイクルする工程とをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−532184(P2012−532184A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518945(P2012−518945)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059556
【国際公開番号】WO2011/003860
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】