説明

アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物及びシラノール基含有籠型シロキサン化合物並びにこれらの製造方法

【課題】分子構造の制御された籠型シロキサンに任意にアルコキシル基又はシラノール基を含有させた、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物又はシラノール基含有籠型シロキサン化合物を提供する。
【解決手段】一般式[R1SiO3/2n 〔但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であり、nは8〜14の整数〕で表される籠型シロキサン化合物に、一般式R12Si(OR3) 2 〔但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基であり、R3はメチル基又はエチル基である〕で表されるジアルコキシシランを非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させて得られるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物であり、また、これを酸又は塩基性触媒の存在下で加水分解して得られるシラノール基含有籠型シロキサン化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な籠型シロキサン化合物及びその製造方法に関し、詳しくは、アルコキシル基又はシラノール基を有する籠型シロキサン化合物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、籠型シロキサンまたはその誘導体に関する研究が行われている(Chem. Rev. 1995, 95,1409)。中でも加水分解性基を有する籠型シロキサン誘導体は、加水分解性基の反応性を利用し、新たなシロキサン化合物を誘導することができる有用な化合物である。例えば、シラノール基を有する籠型シロキサン化合物としては、Feher等により、クロロシランを加水分解し、更に熟成させることで得られることが報告されている(Organometallics, 1991, 10, 2526)。
【0003】
しかしながら、この方法は合成に長時間有し、副生成物が多く目的化合物の収率が低いといった問題点がある。このようにシラノール基を有する籠型シロキサン化合物の製造方法として、加水分解性基を有するモノシランから合成する方法では、加水分解と縮合反応を制御する必要があることに加え、シラノール基自体が非常に不安定であり、シラノール基の間での縮合反応が進行して分子量が経時的に変化してしまう問題などがある。故にシラノール基を任意にコントロールすることも実質的に不可能である。最近では、3官能の加水分解性基を有するシラン化合物を1価のアルカリ金属水酸化物の存在下、有機溶媒中で加水分解することでシラノール基(Si−OH)の代わりにSi-ONaを反応活性基として導入した前駆体を用いたシルセスキオキサンの誘導体が提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【特許文献1】WO2002/094839号パンフレット
【特許文献2】WO2003/024870号パンフレット
【特許文献3】特開2004−123698号公報
【非特許文献1】Chem. Rev. 1995, 95,1409
【非特許文献2】Organometallics, 1991, 10, 2526
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、シラノール基を有するシロキサンは、シラノール基の不安定さからシラノール基の量を制御した籠型シロキサンの製造が困難である。また、加水分解性基であるアルコキシル基を任意に籠型シロキサンに導入した製造方法はこれまで報告されていない。
【0005】
本発明の目的は、従来の欠点を解消して、分子構造の制御された籠型シロキサンに任意にアルコキシル基又はシラノール基を含有させた、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物又はシラノール基含有籠型シロキサン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の反応条件によりこれを解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物に、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランを非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させて得られることを特徴とするアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物である。
【0008】
また、本発明は、上記アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物を酸または塩基性触媒の存在下で加水分解して得られる下記一般式(4)
[(HO)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/2H]b (4)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1又はR2において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。また、a及びbは0〜3の数であって1≦a + b≦4の関係を満たす。更にnは8〜14の整数である。)で表せるシラノール基含有籠型シロキサン化合物である。
【0009】
更に本発明は、下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物と、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランとを[R1SiO3/2]n:R12Si(OR3) 2 =1モル:0.5〜2モルの範囲で混合し、非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させることで、数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、かつ、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0であるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物を得ることを特徴とするアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の製造方法である。
【0010】
更にまた本発明は、下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物と、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランとを[R1SiO3/2]n:R12Si(OR3) 2 =1モル:0.5〜2モルの範囲で混合し、 非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させて得られる数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、かつ、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0のアルコキシル基含有籠型シロキサン樹脂を、酸または塩基触媒の存在下で加水分解することで、数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0であるシラノール基含有籠型シロキサン化合物を得ることを特徴とするシラノール基含有籠型シロキサン化合物の製造方法である。
【0011】
本発明において、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物は、下記一般式(3)を用いて表すことができる。
[(R3O)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/23]b (3)
ここで、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。また、a及びbは0〜3の数であって1≦a + b≦4の関係を満たす。更にnは8〜14の整数である。
【0012】
アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の構造式の例を下記式(5)〜(13)にそれぞれ示す。構造式(5)はn=8, a=1, b=1、(6)はn=8, a=2, b=0、(7)はn=8, a=0, b=2、(8)はn=9, a=1, b=2、(9)はn=10, a=1, b=1、(10)はn=11, a=1, b=2、(11)はn=12, a=1, b=1、(12)はn=13, a=1, b=2、(13)はn=14, a=1, b=1である。なお、アルコキシル基含有シロキサン化合物は、n,a,b数の異なる組み合わせがありここに示す限りではない。また構造式(5)〜(13)においてR1、R2及びR3は一般式(3)と同じである。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0013】
本発明のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の製造方法では、公知の方法により製造された上記一般式(1)で表される籠型シロキサン化合物と、上記一般式(2)で表せるジアルコキシシランとを非極性溶媒下で塩基性触媒を用いて付加させることにより得る。
【0014】
本発明に用いられる一般式(1)で表される籠型シロキサン化合物の例としては、n=8、10、12及び14に対応する構造式の例としてそれぞれ下記一般式(14)、(15)、(16)及び(17)が挙げられる。なお、下記構造式(14)〜(17)においてR1は一般式(1)と同じである。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【0015】
一般式(1)で表せる籠型シロキサン化合物におけるnの値は8〜14の整数であり、好ましくはn=8、10、12であり、より好ましくは8である。本発明では、一般式(1)で表せる籠型シロキサン化合物がn=8〜14の整数である混合物を用いてもよいが、好ましくはnが単一の化合物を用いるのがよい。
【0016】
また、本発明で用いる一般式(2)で表されるジアルコキシシランの好ましい化合物を示せば、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、エチルアリルジメトキシシラン、スチリルメチルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、エチルアリルジエトキシシラン、スチリルメチルジエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0017】
また、一般式(1)で表される籠型シロキサン化合物と一般式(2)で表せるジアルコキシシランとを付加させる際に用いる非極性溶媒及び塩基性触媒について、先ず、非極性溶媒としては、水に対し溶解性の無い又は殆どないものであればよいが、好ましくは炭化水素系溶媒であるのがよい。炭化水素系溶媒のなかでもトルエン、ベンゼン、キシレンなどの比較的沸点の低い非極性溶媒であるのがよく、好ましくはトルエンを用いるのがよい。塩基性触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、あるいはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化アンモニウム塩が例示される。これらの中でも、テトラアルキルアンモニウム等の非極性溶媒に可溶性の触媒が好ましい。中でも触媒活性が高い点からテトラメチルアンモニウムヒドロキシドがより好ましく用いられる。
【0018】
一般式(1)で表される籠型シロキサン化合物と一般式(2)で表せるジアルコキシシランとを非極性溶媒下で塩基性触媒を用いて付加させる反応については、次のように推測することができる。まず籠型シロキサンを構成するシロキサン結合が塩基性触媒によって切断される。次いで切断されたシロキサン結合末端が、ジアルコキシシランのアルコキシル基とアルコール交換反応により、シロキサン結合が生成しアルコキシル基が付加する反応(付加反応)と、籠型シロキサンの分子内および分子間で切断されたシロキサン結合末端同士が結合する反応(再結合反応)とが競争的に起こる。よって前者(付加反応)を優先的に行う必要がある。また、本発明における反応は基本的に平衡反応であることから、目的物のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の数平均分子量Mn、収率、及び生成速度は、反応温度、反応時間、両原料の添加量比、塩基触媒量等によって自ずと決定されるため、以下に記した条件下で行うのが好ましい。
【0019】
すなわち、一般式(1)で表される籠型シロキサン化合物と一般式(2)で表せるジアルコキシシランを非極性溶媒下で塩基性触媒を用いて付加させる反応の反応条件については、一般式(2)のアルコキシル基が反応系内の水分と反応してシラノール基への変換や加水分解縮合を抑える為、窒素ガスなどの不活性雰囲気で反応を行うことが好ましい。反応温度は一般式(2)で表されるジアルコキシシランの沸点以下であるのがよく、70〜200℃の範囲が好ましく、80〜130℃がより好ましい。反応温度が低すぎると付加反応をさせるために十分なドライビングフォースが得られず反応が進行しない。反応温度が高すぎるとビニル基や(メタ)アクリロイル基のような不飽和結合をもつ反応性の官能基を含む場合、自己重合反応を起こす可能性があるので、反応温度を抑制するか、或いは重合禁止剤などを添加する必要がある。
【0020】
非極性溶媒の使用量は特に限定されないが籠型シロキサン化合物の重量に対して、撹拌効率や釜効率を考慮すると1〜5倍の重量を用いることが好ましい。ジアルコキシシランの添加量は、籠型シロキサン化合物1モルに対して0.5〜2.0モルの範囲で加えることが好ましい。ジアルコキシシランの添加量を調節することで、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物のアルコキシル基の量を調節することが可能である。例えば、籠型シロキサン化合物1モルに対して、1モルのジアルコキシシランを添加し反応させた場合、下記一般式(3)で表せるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物
[(R3O)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/23]b (3)
はa+b=2の、籠構造単位に2個アルコキシル基を含有する籠型シロキサン化合物が混合物として得られる。また用いる籠型シロキサン化合物が混合物である場合、nの平均値に対してジアルコキシシランの添加量を調整することで籠構造単位当りのアルコキシル基の含有量を調整することができる。一方ジアルコキシシランの添加量が籠型シロキサン化合物1モルに対して0.5〜2.0モルの範囲より多いと、籠構造を形成するシロキサン結合がより多く切断し、アルコキシル基の付加が起こるため籠構造が分解されてしまう。
【0021】
また、塩基性触媒の使用量については、籠型シロキサン化合物1モルに対し、塩基性触媒を0.01〜0.15モル、好ましくは0.06〜0.1モルとなるように加えるのがよい。また用いる籠型シロキサン化合物が混合物である場合、nの平均値に対して塩基性触媒を0.01〜0.15モル、好ましくは0.06〜0.1モルとなるように加えるのがよい。
【0022】
本発明によって得られるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物は、用いる籠型シロキサン化合物の種類及び純度、ジアルコキシシラン化合物の添加量、種類、純度、並びに反応条件や重縮合物の状態により異なるが、一般式(3)のa及びbは0〜3の数であり、1≦ a + b ≦4を満たし、nは8〜14の整数で表される複数種のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の混合物として得られる場合が多い。
【0023】
本発明におけるシラノール基含有籠型シロキサン化合物は、上記一般式(3)で表されるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物を酸または塩基触媒存在下加水分解して得ることができ、得られるシラノール基含有籠型シロキサン化合物は下記一般式(4)
[(HO)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/2H]b (4)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1又はR2において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。またa及びbは0〜3の数であり、1≦ a + b ≦4を満たし、更にnは8〜14の整数である。)で表すことができる。
【0024】
シラノール基含有籠型シロキサン化合物の構造式の例は、基本的には上述したアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の構造式の例(5)〜(13)におけるR3が水素原子に置き換わったものに対応する。すなわち構造式(5)はn=8, a=1, b=1、(6)はn=8, a=2, b=0、(7)はn=8, a=0, b=2、(8)はn=9, a=1, b=2、(9)はn=10, a=1, b=1、(10)はn=11, a=1, b=2、(11)はn=12, a=1, b=1、(12)はn=13, a=1, b=2、(13)はn=14, a=1, b=1である。なお、シラノール基含有シロキサン化合物は、n,a,b数の異なる組み合わせがあるためこれらに示す限りではない。また構造式(5)〜(13)においてR1及びR2は一般式(4)と同じである。
【0025】
シラノール基含有籠型シロキサン化合物を製造するために用いる酸性触媒の例としては、塩酸、硫酸、酢酸、蟻酸、トリフロオロメタンスルホン酸等が挙げられる。また塩基性触媒としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、あるいはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化アンモニウム塩が例示される。
【0026】
加水分解に必要な水は、酸又は塩基性触媒に含まれる水分を使用してもよく、別途加えてもよい。水の量としては使用するアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物のアルコキシル基1モルに対して1〜3モルが好ましく、より好ましくは1〜1.5モルがよい。水の量が少なすぎるとアルコキシル基からシラノール基の変換が完全に行われず、多すぎるとシロキサン結合が切断するといった悪影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
酸または塩基触媒の使用量は、使用するアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物のアルコキシル基1モルに対して0.1〜1.5モルが好ましい。触媒の使用量が多すぎるとシロキサン結合が切断され籠構造が分解されてしまう。
【0028】
加水分解反応条件については、反応温度は0〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。反応温度が0℃より低いと、反応速度が遅くなりアルコキシル基が未反応の状態で残存してしまい反応時間を多く費やす結果となる、一方、40℃より高いと加水分解に加え、シラノール基の縮合反応が進行し結果として加水分解生成物の高分子量化が促進される。また、反応時間は2時間以上が好ましい。反応時間が2時間に満たないと、加水分解反応が十分に進行せずアルコキシル基が未反応の状態で残存してしまう状態となる。
【0029】
加水分解時には非極性溶媒と極性溶媒のうちの1つもしくは両方合わせて使用するのがよく、好ましくは両方用いるか、極性溶媒のみ用いるのがよい。極性溶媒としてはメタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、或いは他の極性溶媒を用いることができ、好ましくは水に対し溶解性のある炭素数1〜6の低級アルコール類であるのがよく、2-プロパノールを用いることがより好ましい。非極性溶媒のみを用いると反応系が均一にならず加水分解が十分に進行しない。なお、非極性溶媒についてはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の製造方法において例に挙げたものを用いることができる。
【0030】
加水分解反応終了後は、トルエンなどの極性溶媒を加えて、使用した触媒により異なるが、反応溶液を弱塩基または弱酸性溶液で中和し、水又は水含有反応溶媒を分離する。水又は水含有反応溶媒の分離は、この溶液を食塩水等で洗浄し水分やその他の不純物を十分に除去し、その後無水硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥させる等の手段が採用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明におけるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の製造方法やシラノール基含有籠型シロキサン化合物の製造方法を用いれば、アルコキシル基やシラノール基の籠構造当りの含有量が調整された、分子量分散度の低い構造制御されたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物又はシラノール基含有籠型シロキサン化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例等に基づき本発明の好適な実施の形態を説明するが、本発明は下記の内容に制限されるものではない。
【0033】
<参考例1>
[籠型フェニルシロキサン化合物の合成]
本合成例は特公昭40−15989号公報に記載された方法を使用して構造式 (C6 H5 SiO3/2 )8 を有する籠型オクタフェニルシルセスキオキサンの製造例を示す。反応容器にトルエン500mlとフェニルトリクロロシラン105gを装入し、0℃に冷却した。水を滴下し、加水分解が完了するまで撹拌した。加水分解生成物を水洗後市販の30%ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキサイド溶液16.6mlを加え、この混合物を4時間還流温度に加熱した。次いで全体を冷却し、約96時間放置した。この時間経過後得られたスラリーを再び24時間還流温度に加熱し次いで冷却し濾過を行い、白色の粉末を75g得た。得られた白色粉末の質量分析を行い籠型オクタフェニルシルセスキオキサンであることを確認した。
【実施例1】
【0034】
[籠型シロキサン化合物として籠型オクタフェニルシルセスキオキサン(C6 H5 SiO3/2 )8とジアルコキシシランとして3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン〔RMeSi(OEt) 2〕(但しRは3-メタクリロキシプロピル基である)を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Aの合成]
ディンスターク、及び冷却管を備えた反応容器にトルエン100ml、水酸化テトラメチルアンモニウム123mg(1.35mmol、25%のメタノール溶液として0.49g)、参考例1で得たオクタフェニルシルセスキオキサン20.29g(19.7mmol)、及び3-メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン5.12g(19.7mmol)を入れ、80℃で1時間加熱しメタノールを留去した。次いで100℃に加熱し2時間後、室温に戻し反応を終了とした。反応溶液はオクタフェニルシルセスキオキサンの白色粉末が消え、完全に反応が進行したと判断できた。反応溶液を10%クエン酸水溶液で中和した後、水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで目的のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物A を無色透明の粘性液体として19.7g、収率78%で得た。
【0035】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物AのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1212、重量平均分子量(Mw)=1405、Mw/Mn=1.159であった。また1H-NMRよりオクタフェニルシルセスキオキサンのフェニル基40H に帰属される7〜8ppmのシグナルの積分比をS(Ph)=40とし、メタクリル基のアルケン2Hに帰属される5.4と6.0ppmのシグナルの積分比S(M)、エトキシ基のメチレン2Hに帰属される3.7ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(Ph):S(M):S(E)=40:1.9:3.8であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物A は下記式(3A)
[(EtO)MeRSiO1/2]a − [PhSiO3/2]8 − [O1/2Et]b (3A)
(但しRは3-メタクリロキシプロピル基である)におけるa=0.95及びb=0.95で表せられることが分った。更に、液体クロマトグラフィ大気圧イオン化分析計(LC/APCI-MS)による質量分析を行った結果、式(3A)のa=1,b=1のアンモニウムイオンが付加したスペクトルm/z1311.9が検出された。これらのことからアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Aは籠型オクタフェニルシルセスキオキサン一分子にメトキシ基が2つ付加したアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【実施例2】
【0036】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Aを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物A-OHの合成]
滴下ロートを備えた反応容器に2-プロパノール10ml、トルエン7ml、及び実施例1で得たアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物A 1.23g(式3Aのa=1,b=1の分子量1292として計算 0.95mmol)を装入した。反応溶液に2%塩酸38mg(HCl:0.02mmol,H2O:2.09mmol)を室温で滴下し、室温で24時間撹拌した。反応溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和、水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮することで目的のシラノール基含有籠型シロキサン化合物A-OH を無色透明の粘性液体として1.07g、収率91%で得た。
【0037】
得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物A-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1165、重量平均分子量(Mw)=1349、Mw/Mn=1.158であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。更に、液体クロマトグラフィ大気圧イオン化分析計(LC/APCI-MS)による質量分析を行った結果、下記式(4A)
[(HO)MeRSiO1/2]a − [PhSiO3/2]8 − [O1/2H]b (4A)
(但しRはメタクリロキシプロピル基である。)のa=1,b=1のプロトンイオンが付加したスペクトルm/z1238.8質量が検出された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物A-OHは籠型オクタフェニルシルセスキオキサン一分子にシラノール基が2つ付加したシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【実施例3】
【0038】
[籠型シロキサン化合物として籠型オクタフェニルシルセスキオキサン(C6 H5 SiO3/2 )8とジアルコキシシランとしてビニルメチルジメトキシシラン〔RMeSi(OEt) 2〕(但しRはビニル基)を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Bの合成]
実施例1と同様な操作をトルエン50ml、水酸化テトラメチルアンモニウム60mg(0.66 mmol、25%のメタノール溶液として0.24g)、参考例1で得たオクタフェニルシルセスキオキサン10.00g(9.69mmol)、及びビニルメチルジメトキシシラン1.55g(9.69mmol)の仕込み量に変更して行い、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物B を無色透明の粘性液体として8.87g、収率77%で得た。
【0039】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物BのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1095、重量平均分子量(Mw)=1207、Mw/Mn=1.159であった。また1H-NMRよりオクタフェニルシルセスキオキサンのフェニル基40Hに帰属される7〜8ppmのシグナルの積分比をS(Ph)=40とし、ビニル基3Hに帰属される5.9ppm付近のシグナルの積分比S(V)、エトキシ基のメチレン2Hに帰属される3.7ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(Ph):S(M):S(E)=40:2.9:3.8であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Bは下記式(3B)
[(EtO)MeRSiO1/2]a − [PhSiO3/2]8 − [O1/2Et]b (3B)
(但しRはビニル基でありa=0.97、b=0.95)で表されることが分かった。
【実施例4】
【0040】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Bを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物B-OHの合成]
実施例2と同様な操作をアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Aの代わりにアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物B 1.13g(式3Aのa=1,b=1の分子量1192として計算 0.95mmol)を用いて行ない、シラノール基含有籠型シロキサン化合物B-OHを無色透明の粘性液体として1.07g、収率91%で得た。得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物B-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1147、重量平均分子量(Mw)=1255、Mw/Mn=1.094であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物B-OHはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Bのアルコキシル基がシラノール基に変換されたシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【0041】
<参考例2>
[籠型ビニルシロキサン化合物の合成]
本合成例は先に出願した特開2004-143449号公報に記載された方法を参考に使用して構造式 (H2C=CH-SiO3/2 )n を有する籠型ポリビニルシルセスキオキサンの製造例を示す。
反応容器に、トルエン150ml、2-プロパノール85ml、及び5%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TMAH水溶液)37.2gを装入した。トルエン25mlとビニルトリメトキシシラン50.3gの溶液を室温で反応容器へ撹拌しながら、3時間かけ滴下した。滴下終了後、室温で2時間撹拌後に攪拌を停止して1日静置した。反応溶液を10%クエン酸水溶液23.0gで中和した後、飽和食塩水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水、濃縮することでビニルトリメトキシシランの加水分解重縮合物を20.6g得た。
【0042】
次に、ディンスターク及び冷却管を備えた反応容器に先得られたビニルトリメトキシシランの加水分解重縮合物15.0gとトルエン380mlと5%TMAH水溶液1.72gとを入れ120℃で水を留去しながら還流加熱を3時間行った。室温に冷却し、10%クエン酸23.0gで中和にした後、飽和食塩水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水、濃縮することで籠型ポリビニルシルセスキオキサンを14.5g得た。得られた籠型ポリビニルシルセスキオキサンは、NMR測定及びIR測定ではメトキシ基、及びシラノール基は確認されず、GPCおよび液体クロマトグラフィ大気圧イオン化分析計(LC/APCI-MS)による質量分析より構造式(H2C=CH-SiO3/2 )nのn=8,10,12,14を主に含み、平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物であると確認された。
【実施例5】
【0043】
[籠型シロキサン化合物として参考例2で合成した籠型ポリビニルシルセスキオキサン(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物)とジアルコキシシランとして、ジメチルジエトキシシランMe2Si(OEt) 2を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cの合成]
実施例1と同様な操作をトルエン50ml、水酸化テトラメチルアンモニウム78mg(0.86 mmol、25%のメタノール溶液として0.31g)、参考例2で得た籠型ビニルシロキサン混合物(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10)10.00g(n=10として12.7mmol)、及びジメチルジメトキシシラン1.88g(12.7mmol)の仕込み量に変更して行い、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cを無色透明の粘性液体として10.01g、回収率84%で得た。
【0044】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物CのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=986、重量平均分子量(Mw)=1315、Mw/Mn=1.334であった。また1H-NMRより籠型ビニルシロキサンのビニル基30Hに帰属される5.8〜6.2ppmのシグナルの積分比をS(cV)=30とし、メチル基3Hに帰属される0.1ppm付近のシグナルの積分比S(Me)、エトキシ基のメチレン2Hに帰属される3.7ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(cV):S(Me):S(E)=30:6:3.9であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cは下記式(3C) [(EtO)Me2SiO1/2]a − [H2C=CH-SiO3/2]n − [O1/2Et]b (3C)
におけるn=10、a=1.00、及びb=0.95で表されることが分かった。
【実施例6】
【0045】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物C-OHの合成]
滴下ロートを備えた反応容器に2-プロパノール10ml、トルエン7ml、及びアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物C 1.0g(式3Cのa=1,b=1の分子量734として計算 1.36mmol)を装入し、反応溶液に水酸化テトラメチルアンモニウム260mg(2.86mmol、25%のメタノール溶液として1.04g)、イオン交換水59mg(3.27mmol)及び2-プロパノール6mlの混合溶液を滴下し、室温で3時間撹拌した。反応溶液にトルエン20mlを加え、撹拌し、続けて10%クエン酸水溶液で中和した後、飽和食塩水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水、濃縮することでシラノール基含有籠型シロキサン化合物C-OHを6.2g、収率92%で得た。
【0046】
得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物C-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=577、重量平均分子量(Mw)=641、Mw/Mn=1.111であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物C-OHはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cのアルコキシル基がシラノール基に変換されたシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【実施例7】
【0047】
[籠型シロキサン化合物として参考例2で合成した籠型ポリビニルシルセスキオキサン(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物)とジアルコキシシランとして、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン〔RMeSi(OEt) 2〕(但しRは3-メタクリロキシプロピル基)を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dの合成]
実施例1と同様な操作をトルエン50ml、水酸化テトラメチルアンモニウム78mg(0.86 mmol、25%のメタノール溶液として0.31g)、参考例2で得た籠型ビニルシロキサン混合物(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10)10.00g(n=10として12.7mmol)、及び3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン3.30g(12.7mmol)の仕込み量に変更して行い、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dを無色透明の粘性液体として11.84g、回収率89%で得た。
【0048】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物DのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1110、重量平均分子量(Mw)=1521、Mw/Mn=1.370であった。また1H-NMRより籠型ビニルシロキサンのビニル基30Hとメタクリル基のアルケン2Hうち1Hに帰属される5.8〜6.2ppmのシグナルの積分比をS(cV+M)=31とし、メタクリル基のアルケンの残り1Hに帰属される5.5ppmのシグナルの積分比S(M)、エトキシ基のメチレン2Hに帰属される3.7ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(cV+M):S(M):S(E)=31:0.89:3.8であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dは下記式(3D)
[(EtO)RMeSiO1/2]a − [H2C=CH-SiO3/2]n − [O1/2Et]b (3D)
(但しRはメタクリロキシプロピル基である。)におけるn=10、a=0.89、b=1.01で表されることが分った。
【実施例8】
【0049】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物D-OHの合成]
アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物C 1.0gの代わりに実施例7で合成したアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物D 1.43g(式3Dのa=1,b=1の分子量1050として計算 1.36mmol)を用い実施例6と同様の操作を行い、シラノール基含有籠型シロキサン化合物D-OHを0.91g、収率92%で得た。
【0050】
得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物D-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1283、重量平均分子量(Mw)=1511、Mw/Mn=1.178であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物D-OHはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Cのアルコキシル基がシラノール基に変換されたシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【実施例9】
【0051】
[籠型シロキサン化合物として参考例2で合成した籠型ポリビニルシルセスキオキサン(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物)とジアルコキシシランとして、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン〔RMeSi(OEt) 2〕(但しRは3-グリシドキシプロピル基)を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Eの合成]
実施例1と同様な操作をトルエン50ml、水酸化テトラメチルアンモニウム78mg(0.86 mmol、25%のメタノール溶液として0.31g)、参考例2で得た籠型ビニルシロキサン混合物(H2C=CH-SiO3/2 )n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10)10.00g(n=10として12.7mmol)、及び3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン3.15g(12.7mmol) の仕込み量に変更して行い、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dを無色透明の粘性液体として11.17g、回収率85%で得た。
【0052】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物DのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1138、重量平均分子量(Mw)=1578、Mw/Mn=1.387であった。また1H-NMRより籠型ビニルシロキサンのビニル基30Hに帰属される5.8〜6.2ppmのシグナルの積分比をS(cV)=30とし、グリシジル基の2Hに帰属される2.45と2.6ppmのシグナルの積分比S(G)、エトキシ基のメチル3Hに帰属される1.2ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(cV):S(G):S(E)=30:1.99:5.98であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Eは下記式(3E)
[(EtO)RMeSiO1/2]a − [H2C=CH-SiO3/2]n − [O1/2Et]b (3E)
(但しRは3-グリシドキシプロピル基である。)におけるn=10、a=1.00、b=1.00で表されることが分った。
【実施例10】
【0053】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Dを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物E-OHの合成]
アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物C 1.0gの代わりに実施例9で合成したアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物D1.41g(式3Eのa=1,b=1の分子量1038として計算 1.36mmol)を用い実施例6と同様の操作を行い、シラノール基含有籠型シロキサン化合物E-OHを0.86g、収率88%で得た。
【0054】
得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物E-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1220、重量平均分子量(Mw)=1579、Mw/Mn=1.294であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物E-OHはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Eのアルコキシル基がシラノール基に変換されたシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。
【0055】
<参考例3>
参考例2と同様な操作をトリメトキシビニルシラン(50.3g:0.34mol)の代わりに、トリメトキシエチルシラン(25.2g:0.17mol)とトリメトキシビニルシラン((25.5g:0.17mol)を混合して用い行い、籠型ポリ(ビニル‐エチル)シルセスキオキサンを得た。参考例2と同様の分析から、構造式 [R1SiO3/2]nのn=8,10,12,14を主に含み、R1がビニル基とエチル基からなる平均してn=10の籠型ポリ(ビニルーエチル)シロキサン混合物であることが分った。
【実施例11】
【0056】
[籠型シロキサン化合物として参考例3で合成した籠型ポリ(ビニルーエチル)シロキサン混合物[R1SiO3/2]n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物)とジアルコキシシランとして、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン〔RMeSi(OEt) 2〕(但しRは3-メタクリロキシプロピル基)を用いたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Fの合成]
実施例1と同様な操作をトルエン50ml、水酸化テトラメチルアンモニウム78mg(0.86 mmol、25%のメタノール溶液として0.31g)、参考例3で合成した籠型ポリ(ビニルーエチル)シロキサン混合物[R1SiO3/2]n(但しn=8,10,12,14を主に含み平均してn=10の籠型ビニルシロキサン混合物)10.00g(n=10でR1にビニル基とエチル基が同数含まれるとして12.7mmol)、及び3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン3.30g(12.7mmol)の仕込み量に変更して行い、アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Fを無色透明の粘性液体として12.64g、回収率95%で得た。
【0057】
得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物FのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1176、重量平均分子量(Mw)=1543、Mw/Mn=1.312であった。また1H-NMRより籠型ポリ(ビニルーエチル)シロキサン混合物のエチル基のメチレン(n=10でR1にビニル基とエチル基が同数含まれるとして10H)0.6ppmのシグナルの積分比をS(cEt)=10とし、メタクリル基のアルケンの1Hに帰属される5.5ppmのシグナルの積分比S(M)、エトキシ基のメチレン2Hに帰属される3.7ppmのシグナルの積分比S(E)としたとき、S(cEt):S(M):S(E)=10:1.01:4.00であり、得られたアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Fは下記式(3F)
[(EtO)RMeSiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/2Et]b (3F)
(但しRはメタクリロキシプロピル基であり、R1は同数のビニル基とエチル基である。)におけるn=10、a=1.01、b=0.99で表されることが分った。
【実施例12】
【0058】
[アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Fを用いたシラノール基含有籠型シロキサン化合物F-OHの合成]
アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物C 1.0gの代わりに実施例11で合成したアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物F1.42g(式3FのRはメタクリロキシプロピル基でR1が同数のビニル基とエチル基でありa=1,b=1の分子量1045として計算 1.36mmol)を用い実施例6と同様の操作を行い、シラノール基含有籠型シロキサン化合物F-OHを0.89g、収率90%で得た。
【0059】
得られたシラノール基含有籠型シロキサン化合物F-OHのGPCを測定した結果、数平均分子量(Mn)=1150、重量平均分子量(Mw)=1520、Mw/Mn=1.322であった。また1H-NMRよりエトキシ基に帰属されるシグナルは無く、IRからシラノールに帰属される3310cm-1付近のブロードのピークが観測された。これらのことからシラノール基含有籠型シロキサン化合物F-OHはアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物Fのアルコキシル基がシラノール基に変換されたシラノール基含有籠型シロキサン化合物といえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物に、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランを非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させて得られることを特徴とするアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物。
【請求項2】
アルコキシル基含有籠型シロキサン化合物が、下記一般式(3)
[(R3O)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/23]b (3)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。また、a及びbは0〜3の数であって1≦a + b≦4の関係を満たす。更にnは8〜14の整数である。)で表される請求項1記載のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物。
【請求項3】
数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0である請求項1又は2記載のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物を酸または塩基性触媒の存在下で加水分解して得られる下記一般式(4)
[(HO)R12SiO1/2]a − [R1SiO3/2]n − [O1/2H]b (4)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1又はR2において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。また、a及びbは0〜3の数であって1≦a + b≦4の関係を満たす。更にnは8〜14の整数である。)で表せるシラノール基含有籠型シロキサン化合物。
【請求項5】
数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0である請求項4記載のシラノール基含有籠型シロキサン化合物。
【請求項6】
下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物と、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランとを[R1SiO3/2]n:R12Si(OR3) 2 =1モル:0.5〜2モルの範囲で混合し、非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させることで、数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、かつ、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0であるアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物を得ることを特徴とするアルコキシル基含有籠型シロキサン化合物の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(1)
[R1SiO3/2]n (1)
(但し、R1はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R1は互いに同じか異なるものであってもよく、nは8〜14の整数である。)で表される籠型シロキサン化合物と、
下記一般式(2)
12Si(OR3) 2 (2)
(但し、R1及びR2はビニル基、アルキル基、フェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基又はオキシラン環を有する基から選ばれ、R3はメチル基またはエチル基から選ばれ、R1、R2又はR3において、各置換基は互いに同じか異なるものであってもよい。)で表されるジアルコキシシランとを[R1SiO3/2]n:R12Si(OR3) 2 =1モル:0.5〜2モルの範囲で混合し、 非極性溶媒及び塩基性触媒の存在下で付加させて得られる数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、かつ、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0のアルコキシル基含有籠型シロキサン樹脂を、酸または塩基触媒の存在下で加水分解することで、数平均分子量Mnが500〜2000の範囲であり、分子量分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.0〜2.0であるシラノール基含有籠型シロキサン化合物を得ることを特徴とするシラノール基含有籠型シロキサン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−155287(P2009−155287A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337059(P2007−337059)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】