説明

アルコールの製造方法

【課題】厨芥物を有効に利用したアルコールの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明では、厨芥物を主原料とし、澱粉を糖分に分解する酵素を添加し、その後、糖分からアルコールを生成するアルコール生成微生物を添加し、液体部分のみをアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造することにした。特に、前記厨芥物に発酵菌を添加して、発酵熱で澱粉をアルファ化し、その後、前記酵素を添加することにした。また、前記アルコール粕を厨芥物に添加し、アルコール粕に残留する香味成分や調味成分をアルコール生成微生物によって生成されるアルコールに溶解させることにした。この前記アルコール粕とアルコールとの混合は、加圧環境下で行うことにした。さらに、前記液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品廃棄物としての厨芥物は、発酵によって堆肥化させることで有効に利用されてきている。この厨芥物を原料とする堆肥は、殺菌処理した後に、作物の植付前に圃場の土に混入して使用されていた(たとえば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−210595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、厨芥物を原料とする堆肥では、線虫などの有害物によって作物の育成に悪影響を与えるおそれがあり、そのために有害物を除去するために殺菌処理を行うと、それに伴って堆肥のコスト増を招くおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者は、厨芥物の有効利用について鋭意研究を重ね、厨芥物を主原料とするアルコールの製造方法に関する本発明を成すに至った。
【0005】
すなわち、請求項1に係る本発明では、厨芥物を主原料とし、澱粉を糖分に分解する酵素を添加し、その後、糖分からアルコールを生成するアルコール生成微生物を添加し、液体部分のみをアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法を提供するものである。
【0006】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記厨芥物に発酵菌を添加して、発酵熱で澱粉をアルファ化し、その後、前記酵素を添加することを特徴とするアルコールの製造方法を提供するものである。
【0007】
また、請求項3に係る本発明では、前記請求項1又は請求項2に係る本発明において、前記アルコール粕を厨芥物に添加し、アルコール粕に残留する香味成分や調味成分をアルコール生成微生物によって生成されるアルコールに溶解させることを特徴とするアルコールの製造方法を提供するものである。
【0008】
また、請求項4に係る本発明では、前記請求項3に係る本発明において、前記アルコール粕とアルコールとの混合を加圧環境下で行うことを特徴とするアルコールの製造方法を提供するものである。
【0009】
また、請求項5に係る本発明では、前記請求項1〜請求項4のいずれかに係る本発明において、前記液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことを特徴とするアルコールの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0011】
すなわち、請求項1に係る本発明では、厨芥物を主原料とし、澱粉を糖分に分解する酵素を添加し、その後、糖分からアルコールを生成するアルコール生成微生物を添加し、液体部分のみをアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造することにしているために、食品廃棄物である厨芥物を有効に利用することができる。
【0012】
また、請求項2に係る本発明では、厨芥物に発酵菌を添加して、発酵熱で澱粉をアルファ化し、その後、酵素を添加しているために、酵素の働きを促成することができるとともに、アルコール生成微生物の繁殖を促成させることができ、良好にアルコールを製造することができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明では、アルコール粕を厨芥物に添加し、アルコール粕に残留する香味成分や調味成分をアルコール生成微生物によって生成されるアルコールに溶解させているために、アルコールの製造時に生成される廃棄物であったアルコール粕を有効に再利用することができ、アルコールの製造コストを低減することができる。
【0014】
また、請求項4に係る本発明では、アルコール粕とアルコールとの混合を加圧環境下で行うことにしているために、アルコール粕に含有される香味成分や調味成分を良好にアルコール中に溶解させることができ、短時間で香味や調味に優れたアルコールを製造することができる。
【0015】
また、請求項5に係る本発明では、液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことにしているために、アルコールの製造により生成される残渣物の量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るアルコールの製造方法は、厨芥物を主原料とし、厨芥物に澱粉を糖分に分解するアミラーゼなどの酵素を添加して、厨芥物に含有される澱粉をブドウ糖などの糖分に分解し、その後、糖分からアルコールを生成するイースト菌や麹菌などのアルコール生成微生物を添加して、糖分からアルコールを生成、その後、液体部分であるアルコールのみをそれ以外のアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造するものである。なお、本発明においてアルコールは、産業用などの薬品としてのアルコールに限られず、飲料としてのアルコールも含むものである。
【0017】
主原料となる厨芥物としては、残飯や賞味期限切れの食品等に代表される固体状の食品廃棄物や、飲み残しや賞味期限切れの飲料製品に代表される含水率の高い液体状の食品廃棄物や、これらを混合した食品廃棄物が利用できる。
【0018】
そして、食品廃棄物を破砕機で破砕してペースト状の厨芥物を生成し、発酵槽の内部でペースト状の厨芥物に必要に応じて澱粉質を添加するとともに、発酵菌(放線菌や乳酸菌など)を含有する菌床を混合する。その際に、菌床にペースト状の厨芥物を混入した状態で含水率が50%〜60%程度となるように、必要に応じて加水する。なお、ここでいう菌床とは、飼料等に使われる米糖やトウモロコシ等に、炭水化物等の有機物を分解する作用を有する微生物(例えば、放線菌や乳酸菌など)を混入させ、その含水率を10%〜20%程度として、微生物を安定に貯蔵させたものをいう。
【0019】
これにより、菌床に含まれる微生物が含水率の増加によって活動を開始し、ペースト状の厨芥物に含まれる水分や栄養分を栄養源として増殖し、発酵槽の内部で厨芥物が好気的に発酵して厨芥物に含まれる有機物が分解される。
【0020】
この際に、発酵が進むにつれて発酵熱が発生し、約12時間後には菌床の温度が澱粉をアルファ化させるに十分な70℃以上に増加し、約14時間後には発酵が完了する。これにより、発酵熱によってペースト状の厨芥物に添加した澱粉が厨芥物に含有される水分と結合してアルファ澱粉を生成するとともに、澱粉のアルファ化に寄与しなかった残存する水分は、発酵の際に生成される発酵熱によって蒸発し、その結果、含水率が20%〜30%程度の厨芥物となる。
【0021】
また、アルコールの製造時に分離されるアルコール粕は、本来、廃棄物として処理されているが、このアルコール粕をその後のアルコールの製造時に有効に再利用することもできる。
【0022】
すなわち、アルコールの製造時に分離されたアルコール粕をその後のアルコールの製造時に原料に添加し、アルコール生成微生物によって生成されたアルコールとその際に生成されるアルコール粕(新規に生成されたアルコール粕)と原料に添加したアルコール粕(以前に生成され分離されたアルコール粕)とを容器内で混合された状態で静置する。
【0023】
これにより、原料に添加したアルコール粕の内部に残留する香味成分や調味成分がアルコールに溶解される。このアルコール粕の内部含有されている香味成分や調味成分は、アルコールの製造工程においてアルコール生成微生物によりアルコールとともに生成されたものであり、本来であれば、アルコール粕が生成される際にアルコールに溶解してアルコールとして抽出されているものであるが、アルコールの製造工程においては、アルコール生成微生物により生成されるアルコールの量に比べてアルコールとともに生成される香味成分や調味成分の量が少なく、香味成分や調味成分の一部がアルコールに溶解されずに残留してしまい、アルコール粕に残渣物として残留している。そのため、アルコール粕とアルコールとを混合すると、アルコール粕に残留していた香味成分や調味成分がアルコールに溶解する。
【0024】
このアルコールに溶解する香味成分や調味成分は、アルコール粕を製造する過程で残留するものであるため、そのアルコール粕が生成されるアルコールに含有される成分と同様なものとなり、この香味成分や調味成分をアルコールに溶解させてアルコールを製造することにより、製造されるアルコールもアルコール粕が生成されるアルコールと類似した香りや味のアルコールとすることができる。
【0025】
このアルコール粕とアルコールとの混合や静置は、常温常圧環境下で行っても良いが、加圧環境下で行うようにしてもよい。
【0026】
特に、加圧環境下で行った場合には、アルコール粕に含有される香味成分や調味成分を良好にアルコール中に溶解させることができ、短時間で香味や調味に優れたアルコールを製造することができる。
【0027】
静置は、1昼夜程度の期間でもよく、また、数ヶ月から数年間の長期にわたって熟成してもよい。
【0028】
静置後に、上澄みとなる液体部分のみを抽出して、アルコールを製造する。この抽出は、単に静置により固形分を沈殿させて、上澄みの液体部分だけを取出してもよく、蒸留により抽出してもよい。
【0029】
特に、液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことにした場合には、水蒸気蒸留を用いる場合に比べてアルコールの製造により生成される残渣物の量を低減することができる。また、アルコール粕とアルコールとの混合や静置を行った後に、容器を所定温度で加熱してアルコール分を蒸留分離し、その後、さらに高温で加熱して水分を蒸発させれば、アルコールの製造により生成される残渣物の乾燥処理まで併せて行うことができる。
【0030】
以上に説明したように、本発明に係るアルコールの製造方法では、厨芥物を主原料とし、澱粉を糖分に分解する酵素を添加し、その後、糖分からアルコールを生成するアルコール生成微生物を添加し、液体部分のみをアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造することにしているために、食品廃棄物である厨芥物を有効に利用することができる。
【0031】
特に、厨芥物に発酵菌を添加して、発酵熱で澱粉をアルファ化し、その後、酵素を添加しているために、酵素の働きを促成することができるとともに、アルコール生成微生物の繁殖を促成させることができ、良好にアルコールを製造することができる。
【0032】
また、アルコール粕を厨芥物に添加し、アルコール粕に残留する香味成分や調味成分をアルコール生成微生物によって生成されるアルコールに溶解させているために、アルコール粕を有効に再利用することができ、アルコールの製造コストを低減することができるとともに、全体的に見ればアルコールの生産量に対するアルコール粕の生成率を低減することができるので、相対的にアルコール粕の生成量を低減することになり、最終的に残留するアルコール粕を既存の技術を用いて肥料化や飼料化することにより、全てのアルコール粕を有効に利用することができ、これにより、アルコール粕を海洋投棄せずに済んで社会問題を解決することができる。
【0033】
また、アルコール粕とアルコールとの混合を加圧環境下で行うことにしているために、アルコール粕に含有される香味成分や調味成分を良好にアルコール中に溶解させることができ、短時間で香味や調味に優れたアルコールを製造することができる。
【0034】
さらに、液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことにしているために、アルコールの製造により生成される残渣物の量を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厨芥物を主原料とし、澱粉を糖分に分解する酵素を添加し、その後、糖分からアルコールを生成するアルコール生成微生物を添加し、液体部分のみをアルコール粕から分離して抽出することによってアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記厨芥物に発酵菌を添加して、発酵熱で澱粉をアルファ化し、その後、前記酵素を添加することを特徴とする請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記アルコール粕を厨芥物に添加し、アルコール粕に残留する香味成分や調味成分をアルコール生成微生物によって生成されるアルコールに溶解させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記アルコール粕とアルコールとの混合を加圧環境下で行うことを特徴とする請求項3に記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記液体部分の抽出を乾式蒸留で行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。

【公開番号】特開2008−99639(P2008−99639A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286672(P2006−286672)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(391051197)
【出願人】(503370022)
【Fターム(参考)】