アルツハイマー病、中枢神経系の損傷および炎症性疾患を治療するための組成物ならびに方法
【課題】本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。
【解決手段】特に、本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【解決手段】特に、本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認可番号1-PO1-AG08012のもとに米国立衛生研究所により一部支援された研究においてなされたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有するものである。
【0002】
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病や他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は記憶、行動、言語、視覚空間的技能が次第に損なわれて、最終的には死に至ることにより特徴づけられる複合的で複遺伝子性の神経変性疾患である。傷害を受けている領域の病理学的特徴としては、細胞外のβアミロイド沈着、細胞内の神経原繊維変化、シナプス欠損、広範なニューロン細胞死が挙げられる。アルツハイマー病の原因と治療に関する研究は研究者達をおびただしい道へと導いてきた。多くのモデルが提唱されているけれども、ADの単一モデルはどれも、全ての神経病理学的知見ならびに発病への加齢の必要性を満足のいくように説明するものではない。この病気の進行のメカニズムも同様に不明である。相当数のヒト遺伝的証拠は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の産生またはプロセシングの変化がこの病気の原因に関係していることを示している。しかしながら、徹底的な研究により、ADは多数の異なる(おそらくは重複している)病因による多要素疾患であることが判ってきた。
【0004】
今までのところ、米国ではアルツハイマー病が3番目に費用のかかる病気となっており、社会は毎年約1000億ドルを支払っている。アルツハイマー病は老人集団において最も広く行き渡っている病気のひとつであり、社会の高齢化がすすむにつれて、ますます重大になってくるだろう。ADに関係した費用には、ナーシングホームでの介護などの直接的医療費、家庭でのデイケアなどの直接的非医療費、ゆくえ不明の患者および介護提供者の生産性などの間接的費用が含まれる。医学的治療は、認知の衰退速度を遅くし、施設への収容を遅らせ、ケア提供者の時間を短縮し、生活の質を向上させることにより経済的利益をもたらす可能性がある。薬物経済学的評価は、薬物治療がナーシングホーム入院、認知、介護提供者の時間に及ぼす影響に関してポジティブな結果を明らかにしている。
【0005】
これまでに試みられた治療戦略は神経伝達物質の補充または正常な脳構造の保存を標的としてきたが、これらは短期間の病状緩和をもたらす可能性があるものの、ニューロンの変性および死を防止することはない。したがって、アルツハイマー病と関連したニューロンの変性および死を防止し、かつ長期的に症状を軽減させる治療法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病や他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【0007】
本発明は、アルツハイマー病にかかっている被験者およびアルツハイマー病にかかりやすい被験者からなる群より選択される被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、中枢神経系の損傷をかかえている被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、炎症性成分が原因の疾患にかかっている被験者および炎症性成分が原因の疾患にかかりやすい被験者からなる群より選択される被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。いくつかの実施形態において、炎症性成分が原因の疾患はアルツハイマー病、発作、外傷性損傷および脊髄損傷からなる群より選択されるが、本発明の方法は炎症性成分が原因となるあらゆる疾患の治療に使用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、βアミロイドで刺激したTHP-1細胞におけるチロシンリン酸化タンパク質をSDS-PAGEで分解し、抗ホスホチロシン抗体を用いてチロシンリン酸化タンパク質をモニターしたオートラジオグラムを示す。
【図2】図2は、細胞溶解物を抗ホスホチロシン抗体によるウェスタンブロットで調べたときの、PPARγアゴニストがチロシンキナーゼシグナル伝達カスケードの活性化に及ぼす影響を示す。
【図3−1】図3A〜Fは、表示した化合物で刺激したときのTHP-1細胞のマクロファージへの表現型変換を示す。
【図3−2】図3G〜Jは、表示した化合物で刺激したときのTHP-1細胞のマクロファージへの表現型変換を示す。
【図4】図4は、PPARγアゴニストがβアミロイドで刺激したTHP-1細胞からの馴らし培地を妨げて反応性アストロサイトの形態を誘導する能力を測定するために、表示した化合物で処理した細胞を示す。培養物を固定し、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)を染色した。
【図5】図5は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図6】図6は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図7】図7は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図8】図8は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図9】図9Aは、表示した化合物に応答するIL-6プロモーター活性を示すグラフである。図9Bは、表示した化合物に応答するTNF-αプロモーター活性を示すグラフである。
【図10】図10Aは、ホルボールエステルで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。図10Bは、LPSで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図11】図11Aは、ホルボールエステルとPPARγアゴニストで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。図11Bは、LPSとPPARγアゴニストで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図12】図12A〜Bは、ホルボールエステルおよび表示したPPARγアゴニストで処理したときの、細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図13】図13A〜Bは、PPARγアゴニストの存在下または不在下にホルボールエステルまたはβアミロイドで処理したときの、細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図14】図14は、表示した化合物に応答するヒトCox-2プロモーター活性を示す。
【図15−1】図15-1は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図15−2】図15-2は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図16】図16は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図17】図17は、種々のPPARγアゴニストが中枢神経系二次損傷の細胞培養物モデルに及ぼす影響を示すグラフである。
【図18】図18は、ヒト2.4kb cox-2遺伝子プロモーター領域の配列(配列番号1)を示す。翻訳開始部位はヌクレオチド2328にある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、PPARγアゴニストはチアゾリジンジオンからなるが、あらゆるPPARγリガンドおよび調節因子が本発明により意図される。いくつかの実施形態では、チアゾリジンジオンは、限定するものではないが、トログリタゾン(troglitazone)、シグリタゾン(ciglitazone)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、BRL 49653、エンクリタゾン(englitazone)またはこれらの組合せからなる。他の実施形態では、PPARγアゴニストは、限定するものではないが、ドコサヘキサエン酸、プロスタグランジンJ2およびプロスタグランジンJ2類似体(例えば、Δ12-プロスタグランジンJ2および15-デオキシ-Δ12,14-プロスタグランジンJ2)からなる。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、前記投与は経口投与であるが、あらゆる投与手段が想定される。いくつかの実施形態では、PPARγアゴニストの治療に有効な量は約10mg/kg/日であるが、本発明では前記量より多いまたは少ない量も考えられる。
【0013】
本発明はまた、cox-2遺伝子のPPARγ介在遺伝子転写を改変する化合物(例えば、アゴニストおよびアンタゴニスト)の能力を測定する方法を提供し、この方法は、1種以上の被験化合物、および1) PPARγ感受性cox-2調節エレメント、2) プロモーターおよび3) 異種遺伝子を機能しうる順序で含むオリゴヌクレオチド配列を含有するDNA構築物により形質転換された宿主細胞を用意すること;そして1種以上の被験化合物と該宿主細胞とを、該異種遺伝子の発現が1種以上の該化合物に応答する条件下で接触させること;を含んでなる。いくつかの実施形態では、この方法はステップb)における異種遺伝子の発現レベルと、該化合物の不在下での該宿主細胞からの該遺伝子の発現レベルとを比較するステップをさらに含む。本発明の1つの好ましい実施形態において、PPARγ感受性cox-2調節エレメントを含むオリゴヌクレオチド配列を含有するDNA構築物は配列番号1を含む。
【0014】
本発明はさらに、COX-2発現を調節する方法を提供し、この方法は、1種以上の、COX-2を発現する細胞、1種以上の該細胞においてPPARγを発現させる手段、および1種以上のPPARγアゴニストを用意すること;そして1種以上の該細胞中に、任意の順序で、PPARγを発現させる手段および1種以上のPPARγアゴニストを導入すること;を含んでなる。いくつかの実施形態では、1種以上のCOX-2を発現する細胞が異常なレベルのCOX-2を発現する細胞を含む。
【0015】
定義
本発明の理解を容易にするために多数の用語および語句を下記に定義する。
【0016】
本明細書に用いる「治療に有効な量」という用語は、患者に症状の回復または生存の延長を生じさせる化合物量を意味する。治療に適切な効果は、疾患または病状の1以上の症状をある程度緩和するか、または疾患または病状に関係した、もしくはその原因である生理的な、または生化学的なパラメーターを部分的に、もしくは完全に正常へと回復させる。
【0017】
本明細書に用いる「PPARγアゴニスト」という用語は、PPARγと組み合わせたとき、該受容体に典型的なin vivoまたはin vitro反応(例えば、転写調節活性)を直接もしくは間接的に刺激、もしくは増加する化合物または組成物を意味する。増加した反応は、当業者に公知の多種類のアッセイのいずれかにより測定できる。好ましいPPARγアゴニストは、チアゾリジンジオン化合物である。チアゾリジンジオン化合物には、トログリタゾン(troglitazone)、BRL 49653、ピオグリタゾン(pioglitazone)、シグリタゾン、WAY-120,744、エングリタゾン(englitazone)、AD 5075、ダーグリタゾン(darglitazone)、およびそれらの同族体、類似体、誘導体、ならびに製薬上許容される塩があるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書に用いる「調節エレメント」という用語は、1つの活性型転写調節タンパク質、または活性型転写調節タンパク質を1つ以上含む複合体が、関連の遺伝子または遺伝子群(異種遺伝子を含む)の発現を転写的にモジュレートするために結合する、オリゴヌクレオチド配列の全体または一部分を含むデオキシリボヌクレオチド配列を意味する。
【0019】
本明細書に用いる「転写調節タンパク質」という用語は、活性化した場合に、本発明の調節エレメント/オリゴヌクレオチド配列に直接的に、もしくは転写調節タンパク質の複合体または他のアダプタータンパク質を通じて間接的に結合し、関連の遺伝子または遺伝子群の活性を転写的にモジュレートする、細胞質タンパク質または核タンパク質を意味する。このように転写調節タンパク質は、本発明のDNA調節エレメントに直接的に結合できる。または転写調節タンパク質は、別のタンパク質と結合し、引き続き別のタンパク質が本発明のDNA調節エレメントに結合するか、または結合されることにより、間接的に調節エレメントに結合できる。
【0020】
本明細書に用いる「関連の遺伝子または遺伝子群の発現を転写的にモジュレートする」という用語は、該遺伝子または遺伝子群の転写率を変化させることを意味する。
【0021】
本明細書に用いる「移植片」または「移植」という用語は、移植(grafting)、埋め込み(implanting)、移植(transplanting)の際に使用する組織、ならびに身体の1部分からの組織を他の部分へ転移すること、または1個体の組織を他の個体へ転移すること、または身体内もしくは身体上に生体適合性の材料を導入することを意味する。「移植する」という用語は、身体の1部分からの組織を他の部分へ、または他の個体へ移植(grafting)することを意味する。
【0022】
本明細書に用いる「幹細胞」または「未分化細胞」という用語は、表現型および遺伝子型的が同一の娘細胞、ならびに少なくとも1つの他の最終細胞型(例えば、最終分化細胞)を生じることができる自己更新細胞を意味する。
【0023】
本明細書に用いる「中枢神経系」という用語は、硬膜内のすべての構造を意味する。該構造には、脳および脊髄があるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書に用いる「宿主」および「被験者」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物(例えば、げっ歯類、節足動物、昆虫(例えば、双口類)、魚(例えば、ゼブラフィッシュ)、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反すう動物、ウサギ目、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリなど)を含む任意の動物(ただしこれらに限定されない)を意味し、かかる動物は、特定の治療のレシピエントとなる。典型的には、「宿主」、「患者」および「被験者」という用語は本明細書ではヒト被験者に関して交換可能に用いられる。本明細書に使用する場合、「アルツハイマー病にかかっている被験者」、「炎症性成分が原因の疾患にかかっている被験者」および「中枢神経系損傷を患う被験者」という用語は、特定の疾患、損傷、または病状をそれぞれ有する、または有している可能性がある被験者を意味する。本明細書に使用する「アルツハイマー病にかかりやすい被験者」および「炎症性成分が原因の疾患にかかりやすい被験者」という用語は、特定の疾患、損傷、または病状を招くまたは発症するリスクがあるとして確認された被験者を意味する。本明細書に使用する場合に、「炎症性成分が原因の疾患」という用語は、炎症性要素に関連する疾患および病状を意味する。炎症性要素は、疾患または病状に関連する症状、副作用、または原因となる事象を含みうる。炎症性成分が原因の疾患には、発作、神経系の虚血性損傷、神経損傷(例えば、衝撃的な脳損傷、脊髄損傷、神経系の外傷性損傷)、多発性硬化症および他の免疫媒介神経障害(例えば、ギヤン-バレー症候群およびその変異型、急性運動軸索神経障害(acute motor axonal neuropathy)、急性炎症脱髄性多発性神経障害(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy)およびフィッシャー症候群(Fisher Syndrome))、HIV/エイズ痴呆複合症および細菌性髄膜炎ならびにウイルス性髄膜炎があるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書に用いる「神経学的欠陥」という用語は、神経系を伴う、または神経系に関する欠陥を意味する。神経系の組織または細胞の欠陥により引き起こされる神経学的欠陥もあれば、神経系に影響する組織または細胞の欠陥により起こる神経学的欠陥もある。本明細書に使用する「神経学的欠陥のある哺乳動物」という用語は、1つ以上の神経学的欠陥を有する哺乳動物を意味する。神経学的欠陥が回復する場合には、宿主の状態が改善される。例えば、欠陥のある組織が、正常の状態に部分的に、または完全にもどる場合、回復が起こり得る。しかし組織が正常以下の状態のままであるが、他の点では、宿主に利益となるように変更される場合にも回復が起こり得る。
【0026】
本明細書に用いる「障害」という用語は、創傷または外傷を意味し、または組織での病理学的変化を意味する。
【0027】
本明細書に用いる「非ヒト動物」という用語は、すべての非ヒト動物を意味する。該非ヒト動物には、脊椎動物(例えば、げっ歯類)、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反すう動物、ウサギ目、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書に用いる「生物学的に活性な」という用語は、天然に存在する分子の構造的、調節的、または生化学的機能を有するタンパク質または他の生物学的活性分子(例えば、触媒RNA)を意味する。
【0029】
本明細書に用いる「アゴニスト」という用語は、生物学的活性分子と相互作用する場合に、その生物学的活性分子の活性をモジュレートする生物学的活性分子の変化(例えば、増強)を引き起こす分子を意味する。アゴニストには、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、または生物学的活性分子と結合もしくは相互作用する他のあらゆる分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、アゴニストは、RNAポリメラーゼと直接相互作用することにより、または転写因子もしくはシグナル伝達経路を介して遺伝子転写活性を変更できる。
【0030】
本明細書に用いる「アンタゴニスト」もしくは「インヒビター」という用語は、生物学的活性分子と相互作用する場合に、生物学的活性分子の生物学的活性をブロックまたはモジュレートする分子を意味する。アンタゴニストおよびインヒビターには、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質または生物学的活性分子と結合もしくは相互作用する他のあらゆる分子が含まれるが、これらに限定されない。インヒビターおよびアンタゴニストは、完全な細胞、器官または生物の生物学に影響を及ぼすことができる(例えば、ニューロンの変性および死を遅くしたり、または防止するインヒビター)。
【0031】
本明細書に用いる「モジュレートする」という用語は、生物学的活性分子の生物学的活性の変化を意味する。モジュレーションは活性の増加もしくは減少、結合特性の変化、または生物学的活性分子の生物学的、機能的、もしくは免疫学的性質の他のいかなる変化であっても良い。
【0032】
本明細書に用いる「核酸分子」という用語は、DNAまたはRNAを含むが、これらに限定されないあらゆる核酸含有分子を意味する。該用語には、DNAおよびRNAの公知の塩基類似体を含む配列が包含される。DNAおよびRNAの公知の塩基類似体には、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン(mannosylqueosine)、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、プソイドウラシル、ケオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル, 5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステルおよび2,6-ジアミノプリンがあるが、これらに限定されない。
【0033】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドもしくは前駆体の産生のために必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を意味する。そのポリペプチドは、完全長のコード配列により、または完全長のもしくは断片の所望の活性もしくは機能的性質(例えば、酵素活性、リガンド結合性、シグナル伝達など)が維持されている限りにおいては、コード配列の任意の部分によりコードされ得る。該用語はまた、構造遺伝子のコード領域、およびコード領域の5'末端および3'末端の両方で末端から約1kb以上の距離でコード領域に近接した配列であって、その遺伝子が完全長のmRNAの長さに対応するようなものも包含する。コード領域の5'末端に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ぶ。コード領域の3'末端または下流に位置し、かつmRNA上に存在する配列は3'非翻訳配列と呼ぶ。「遺伝子」と言う用語は、cDNAおよび遺伝子のゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態もしくはクローンは、「イントロン」、もしくは「介在領域」、もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード領域で遮断されたコード領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントである;イントロンはエンハンサーなどの調節エレメントを含んでいることもある。イントロンは、核転写産物もしくは一次転写産物から除去もしくは「スプライスされて外される」;従ってイントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写産物中には存在しない。mRNAは、翻訳の過程で発生期のポリペプチドのアミノ酸配列もしくは序列を特定する機能を有する。
【0034】
本明細書に用いる「遺伝子発現」という用語は、遺伝子の「転写」を介して(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素的作用を介して)遺伝子にコードされる遺伝子情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換する過程、およびタンパク質をコードする遺伝子の場合は、mRNAの「翻訳」を介してタンパク質に変換する過程を意味する。遺伝子発現は、この過程の多くの段階で調節できる。「アップレギュレーション」または「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわち、RNAまたはタンパク質)の産生を増加する調節を意味し、一方「ダウンレギュレーション」または「抑制」は、産生を減少する調節を意味する。アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに関与する分子(例えば、転写因子)は、しばしばそれぞれ「アクチベータ−」および「リプレッサー」と呼ばれる。
【0035】
本明細書で「アミノ酸配列」という用語が天然に存在するタンパク質分子のアミノ酸配列を意味して用いられる場合には、「アミノ酸配列」、および「ポリペプチド」もしくは「タンパク質」などの類似の用語は、そこで述べられているタンパク質分子に関連する完全な、天然のアミノ酸配列に限定することを意味したものではない。
【0036】
遺伝子のゲノム形態は、イントロンを含有することに加え、配列の5'末端および3'末端の両方に位置する配列をも含むことができ、それはRNA転写産物上に存在する。これらの配列は、「隣接」または「フランキング」配列もしくは領域と呼ばれる(これらの隣接配列は、mRNA転写産物上に存在する非翻訳配列の5'側もしくは3'側に位置する)。5'側隣接領域は、遺伝子の転写を調節する、もしくは影響を与えるプロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含有することができる。3'側隣接配列は転写の終了、転写後の切断、およびポリアデニル化を指令する配列を含有することができる。
【0037】
「野生型」という用語は、天然に存在する供給源から単離された場合の遺伝子もしくは遺伝子産物の特徴を有する遺伝子もしくは遺伝子産物を意味する。野生型遺伝子は、ある集団で最も頻繁に観察されるものであり、したがって遺伝子の「正常」もしくは「野生型」形態と任意に称される。これに対して、「修飾型」もしくは「変異体」 という用語は、野生型の遺伝子もしくは遺伝子産物と比較した場合に、配列および/または機能的特性が修飾(すなわち、変更)されている遺伝子もしくは遺伝子産物を意味する。天然に存在する変異体も単離しうることは注記すべきである;それらは、野生型の遺伝子もしくは遺伝子産物と比較した場合、特性が変更されているという事実により同定される。
【0038】
本明細書に用いる「オリゴヌクレオチド」という用語は、短い長さの1本鎖ポリヌクレオチド鎖を意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的には長さ100残基以下(例えば、15と50の間)であるが、しかし本明細書で用いる場合、該用語は、より長いポリヌクレオチド鎖も包含することを意図している。オリゴヌクレオチドは、しばしばその長さによって呼ばれる。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは、「24-mer」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズするかまたは他のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることにより2次構造もしくは3次構造を形成することができる。該構造には、2本鎖、ヘアピン、十字形、ベンドおよび3本鎖があるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書に用いる「ベクター」という用語は、DNAセグメントを一方の細胞から他方へ転移する核酸分子に関して用いられる。「ビヒクル」という用語は、時に「ベクター」と互換的に使用される。ベクターは、しばしばプラスミド、バクテリオファージ、植物ウイルスもしくは動物ウイルスに由来する。
【0040】
本明細書に用いる「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列ならびに特定の宿主生物において機能的に連結された前記コード配列の発現に必要な適当な核酸配列を含有する組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列には、一般にプロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位、ならびにしばしば他の配列が含まれる。真核細胞がプロモーター、エンハンサー、ならびに終結およびポリアデニル化シグナルを利用することは公知である。
【0041】
真核細胞の転写調節シグナルは、「プロモーター」および「エンハンサー」エレメントを含む。プロモーターとエンハンサーは、転写に関与する細胞性タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列の短いアレイからなる(T. Maniatisら, Science 236:1237[1987])。プロモーターおよびエンハンサーエレメントは、酵母、昆虫および哺乳動物細胞の遺伝子を含めた種々の真核細胞供給源ならびにウイルスから単離されている(類似の調節エレメント、すなわちプロモーターは原核細胞中にも認められる)。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、目的のタンパク質の発現のために用いられる細胞型に依存する。幾つかの真核細胞プロモーターおよびエンハンサーは、広範囲の宿主に用いるが、一方その他のものは、細胞型の限定されたサブセットにおいてのみ機能的である(概説としてS. D. Vossら, Trends Biochem. Sci., 11:287[1986]; およびT. Maniatisら, 同上、を参照されたい)。例えば、SV40初期遺伝子エンハンサーは、多数の哺乳動物種に由来する多様な細胞型中で顕著な活性を有し、哺乳動物細胞中でのタンパク質の発現に広く用いられている(R. Dijkemaら, EMBO J., 4:761[1985])。広範囲の哺乳動物細胞型中で活性するプロモーター/エンハンサーエレメントの例を他に2つ挙げれば、ヒト伸長因子1α遺伝子からのもの(T. Uetsukiら, J. Biol. Chem., 264:5791 [1989]; D. W. Kimら, Gene 91:217 [1990]; およびS. MizushimaとS. Nagata, Nuc. Acids. Res., 18:5322 [1990])、ならびにラウス肉腫ウイルス(C.M. Gormanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:6777 [1982])およびヒトサイトメガロウイルス(M. Boshartら, Cell 41:521 [1985])の長末端反復配列からのものである。幾つかのプロモーターエレメントは、組織特異的方法で遺伝子発現を指令するのに役立つ。
【0042】
本明細書に用いる「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーターおよびエンハンサーの両方の機能(すなわちプロモーターエレメントおよびエンハンサーエレメントにより提供される機能、これらの機能についての考察は上述を参照されたい)を提供することのできる配列を含有するDNAのセグメントを意味する。例えば、レトロウイルスの長末端反復配列は、プロモーターおよびエンハンサー機能の両方を含有する。エンハンサー/プロモーターは「内在性」、または「外来性」、もしくは「異種性」であり得る。「内在性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム中の所定の遺伝子に天然に連結されているものである。「外来性」もしくは「異種性」のエンハンサー/プロモーターは、連結されたエンハンサー/プロモーターにより遺伝子の転写が指令されるように、遺伝子操作(すなわちクローニングおよび組換えのような分子生物学的技法)によりその遺伝子に並ぶ位置に置かれたものである。
【0043】
発現ベクターにおける「スプライシングシグナル」の存在は、しばしば組換え転写産物の高レベル発現をもたらす。スプライシングシグナルは、RNAの一次転写産物からのイントロンの除去を媒介し、スプライス供与部位および受容部位からなる(J. Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York [1989], pp. 16.7-16.8)。一般に使用するスプライス供与部位および受容部位は、SV40の16S RNA由来のスプライス部位である。
【0044】
真核細胞の組換えDNA配列の効率的な発現には、得られた転写産物の効率的な終結およびポリアデニル化を指令するシグナルの発現が必要である。転写終結シグナルは、一般にポリアデニル化シグナルの下流で見られ、長さは数百ヌクレオチドである。本明細書で用いる「ポリA部位」または「ポリA配列」とは、新生RNA転写産物の終結およびポリアデニル化の両方を指令するDNA配列を意味する。ポリAテイル(尾部)を欠いた転写産物は不安定であり、かつ急速に分解されるため、組換え転写産物を効率的にポリアデニル化することが望ましい。発現ベクターにおいて用いられるポリAシグナルは、「異種性」または「内在性」であってよい。内在性ポリAシグナルは、ゲノムにおける所定の遺伝子のコード領域の3’末端で本来見られるものである。異種性ポリAシグナルは、ある遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’側に配置されるものである。一般に使用される異種性ポリAシグナルは、SV40ポリAシグナルである。SV40ポリAシグナルは、237bp BamHI/BcII制限断片上にあり、終結およびポリアデニル化の両方を指令する (J. Sambrook, 前記, pp. 16.6-16.7)。
【0045】
また真核細胞発現ベクターは、「ウイルスレプリコン」または「ウイルスの複製起点」も含有し得る。ウイルスレプリコンは、好適な複製因子を発現する宿主細胞においてベクターの染色体外複製を可能にするウイルスDNA配列である。SV40またはポリオーマウイルスのいずれかの複製起点を含有するベクターは、好適なウイルスT抗原を発現する細胞において多くの「コピー数」(104コピー/細胞まで)複製する。ウシパピローマウイルスまたはエプスタイン-バールウイルス由来のレプリコンを含有するベクターは、「少ないコピー数」(〜100コピー/細胞)で染色体外複製する。
【0046】
「相同」という用語は、相補性の程度を意味する。これには部分的相同または完全相同(すなわち同一)があり得る。部分的相補配列は、完全相補配列が、「実質的に相同」という機能的な用語を用いて称される標的核酸とハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害するものである。完全相補的配列の標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害については、低ストリンジェンシー条件下にてハイブリダイゼーションアッセイ(サザンまたはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーションおよび類似法)を用いて試験し得る。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件下にて完全に相同なものと標的との結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)について競合し、これを阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件が非特異的結合を可能とするようなものであるとは言えないまでも、低ストリンジェンシー条件には、2つの配列の互いの結合が特異的(すなわち、選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的結合の不在については、部分的な程度の相補性さえ欠く(例えば、約30%未満の同一性)第2の標的を使用して試験し得る;非特異的結合の不在下では、プローブは非相補的な第2の標的とはハイブリダイズしないであろう。
【0047】
非常に多くの条件を使用して、低ストリンジェンシー条件を構成しうることは、当技術分野では十分に公知であり、プローブの長さおよび種類(DNA、RNA、塩基組成)および標的の種類(DNA、RNA、塩基組成、溶解状態で存在しているか、または固定化されているかなど)をはじめとする要因、ならびに塩および他の成分の濃度(例えばホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの存在または不在)を考慮して、ハイブリダイゼーション溶液を変え、前記に列挙した条件とは異なるが同等である低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を得てもよい。さらに、当技術分野では高ストリンジェンシー条件下にてハイブリダイゼーションを促進する条件も公知である(例えばハイブリダイゼーションおよび/または洗浄ステップの温度を高めたり、ハイブリダイゼーション溶液においてホルムアミドを使用するなど。下記の「ストリンジェンシー」の定義を参照されたい)。
【0048】
cDNAまたはゲノムクローンのような2本鎖核酸配列に関して用いる場合、「実質的に相同」という用語は、前記に記載した低ストリンジェンシー条件下にて2本鎖核酸配列のいずれかまたは両方とハイブリダイズ可能な任意のプローブを意味する。
【0049】
遺伝子は、RNAの一次転写産物の種々のスプライシングにより産生される多様なRNA種を産生し得る。同一遺伝子のスプライス変異体であるcDNAは、配列同一性または完全相同性(両cDNA上に同一のエキソンまたは同一のエキソンの一部分の存在を示す)を有する領域および完全非同一性(例えば、cDNA1上にはエキソン「A」の存在を示し、cDNA2はその代わりにエキソン「B」を含有する)を有する領域を含有する。2つのcDNAは、配列同一性の領域を含有するため、両方とも、両cDNAで見られる配列を含有する遺伝子全体または遺伝子の一部分に由来するプローブとハイブリダイズするだろう;それゆえ2つのスプライス変異体は、該プローブに対して、および互いに対して実質的に相同である。
【0050】
1本鎖核酸配列に関して用いる場合、「実質的に相同」という用語は、前記に記載の低ストリンジェンシー条件下にて1本鎖核酸配列とハイブリダイズ可能な任意のプローブ(すなわち1本鎖核酸配列に相補的なもの)を意味する。
【0051】
本明細書に用いる「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸の対合に関して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(すなわち、核酸間の結合強度)は、核酸間の相補性の程度、関連する条件のストリンジェンシー、形成されたハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比率などの因子により強い影響を受ける。構造的に相補的核酸の対合(pairing)を含む単一の分子は「自己ハイブリダイズ」すると言われる。
【0052】
本明細書に用いる「Tm」という用語は、「融解温度」に関して用いられる。融解温度は、2本鎖核酸分子の集団が1本鎖に半分が分離する温度である。核酸のTmの算出式については当技術分野で公知である。標準対照により示されるように、核酸が1M NaCl水溶液中に存在する場合、Tm値の簡易推定値を式: Tm = 81.5+0.41(%G+C)により算出し得る(例えば、AndersonおよびYoung, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization [1985]を参照されたい)。他の参考文献では、Tmの算出に関して構造ならびに配列特性を考慮に入れたより精巧な計算値が挙げられている。
【0053】
本明細書に用いる「ストリンジェンシー」という用語は、温度、イオン強度および有機溶媒などの他の化合物の存在についての条件に関して用いられ、その条件下では核酸ハイブリダイゼーションが行われる。「高ストリンジェンシー」条件では、高頻度の相補的塩基配列を有する核酸断片間でのみ核酸塩基対合が起こる。このように遺伝学的に異なる生物由来の核酸では、相補的配列の頻度が一般に低いため、「弱い」または「低い」ストリンジェンシー条件がしばしば必要である。
【0054】
「増幅」は、鋳型特異性に関連する核酸複製の特殊な場合である。「増幅」は、非特異的鋳型複製(すなわち、鋳型依存的であるが、特異的な鋳型に依存しない複製)と対比される。本明細書での鋳型特異性は、複製の忠実度(すなわち、適当なポリヌクレオチド配列の合成)および(リボまたはデオキシリボ)ヌクレオチド特異性とは区別される。鋳型特異性は、「標的」特異性に関して記載されることが多い。標的配列は、それらが他の核酸から選別されることを要求されるという意味で「標的」である。増幅技術は、主としてこの選別をするために設計されている。
【0055】
鋳型特異性は、酵素を選択することでほとんどの増幅技術において達成される。増幅酵素は、それらが用いられる条件下にて、核酸の不均質混合物中の特異的核酸配列だけを処理するであろう酵素である。例えば、Qβレプリカーゼの場合、MDV-1 RNAは、該レプリカーゼの特異的な鋳型である (D.L. Kacianら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69: 3038 [1972])。他の核酸は該増幅酵素により複製されないだろう。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、該増幅酵素はそれ自身のプロモーターに対するストリンジェントな特異性を有する(M. Chamberlinら, Nature 228: 227 [1970])。T4 DNAリガーゼの場合、連結部位におけるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と鋳型間のミスマッチがある場合、該酵素は2つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを連結させないだろう(D.Y. WuおよびR.B. Wallace, Genomics 4: 560 [1989])。最後に、TaqおよびPfuポリメラーゼは、それらの高温で機能するという能力に基づいて、プライマーが結合し、それによって規定される配列に対し高い特異性を示すことが見出されている;高温は、標的配列とのプライマーハイブリダイゼーションに有利であり、非標的配列とのハイブリダイゼーションには有利でない熱力学条件をもたらす(H.A. Erlich (編集), PCR Technology, Stockton Press [1989])。
【0056】
本明細書に用いる「増幅可能な核酸」という用語は、任意の増幅法により増幅され得る核酸に関して用いられる。一般に「増幅可能な核酸」は、「サンプル鋳型」を含んでなると考えられる。
【0057】
本明細書に用いる「サンプル鋳型」という用語は、「標的」の存在について分析されるサンプル由来の核酸を意味する。それに対して、「バックグラウンド鋳型」は、サンプル中に存在するまたはしないであろうサンプル鋳型以外の核酸に関して用いられる。バックグラウンド鋳型は非常に多くの場合、偶然である。そのことは、キャリーオーバーの結果の可能性もあり、またはサンプルから取り去って精製すべき核酸混在物質の存在によるものである可能性もある。例えば、検出されるべき核酸以外の生物由来の核酸は試験サンプル中にバックグラウンドとして存在する可能性がある。
【0058】
本明細書に用いる「プライマー」という用語は、精製した制限酵素消化物の場合のように天然に存在していようと、合成的に生成されたものであろうと、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成を誘導する条件下(すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、および好適な温度とpH)においた場合に、合成の開始点として作用できるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、増幅の最大効率のために1本鎖であることが好ましいが、別に2本鎖であってもよい。もし2本鎖である場合、伸長産物の調製に用いる前にまずプライマーを処理してその鎖を分離する。プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドであることが好ましい。プライマーは、誘導剤の存在下で伸長産物の合成を開始させるのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー源および方法の使用を含む多くの要因に依存している。
【0059】
本明細書に用いる「プローブ」という用語は、精製した制限酵素消化物の場合のように天然に存在していようと、合成的、組換え的にまたはPCR増幅により生成されたものであろうと、目的の別のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)を意味する。プローブは、1本鎖であっても2本鎖であってもよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定および単離に有用である。本発明で用いるプローブはいずれも、限定するものではないが、酵素系(例えば、ELISAならびに酵素に基づく組織化学アッセイ)、蛍光系、放射性系および発光系を含む任意の検出系において検出可能であるように任意の「リポーター分子」で標識されることが企図される。本発明は、特定の検出系または標識のいずれにも限定することを意図していない。
【0060】
本明細書に用いる「標的」という用語は、プライマーが結合する核酸領域を意味する。このように「標的」は、他の核酸配列から選別されることが求められる。「セグメント」は、標的配列内の核酸領域として定義される。
【0061】
本明細書に用いる「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)という用語は、クローニングまたは精製なしにゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメント濃度を高める方法を記載するK.B. Mullisの方法(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,965,188号)を意味する。標的配列を増幅するこの方法は、非常に過剰な2つのオリゴヌクレオチドプライマーの所望の標的配列を含有するDNA混合物への導入、次いでDNAポリメラーゼの存在下での正確な連続した熱サイクルからなる。2つのプライマーは、2本鎖標的配列の各鎖に相補的である。増幅をなし遂げるために混合物を変性させ、次いでプライマーを標的分子内のそれらの相補的配列にアニーリングさせる。アニーリングの後、プライマーをポリメラーゼを用いて伸長させて新しい1対の相補鎖を形成する。変性、プライマーアニーリングおよびポリメラーゼ伸長ステップを多数回繰り返し(すなわち、変性、アニーリングおよび伸長が1「サイクル」を構成し、多数の「サイクル」が存在し得る)、所望の標的配列の増幅セグメントを高濃度で得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、互いのプライマーの相対的な位置により求められ、従ってこの長さは、制御可能なパラメーターである。該方法の反復態様により、該方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以下「PCR」)と呼ばれる。標的配列の所望の増幅セグメントが混合物中、(濃度に関して)優位な配列となるため、それらは「PCR増幅された」と言われる。
【0062】
PCRでは、幾つかの異なる方法論(例えば標識プローブとのハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーを組み込んだ後のアビジン-酵素結合検出; 32P標識したdCTPまたはdATPなどのデオキシヌクレオチド三リン酸の増幅セグメントへの組み込み)によりゲノムDNAの特定の標的配列の1コピーを検出可能なレベルまで増幅することが可能である。ゲノムDNAに加え、任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列も適当なプライマー分子のセットで増幅させることができる。特に、PCR方法創生された増幅セグメントは、それ自体が後に続くPCR増幅の有効な鋳型である。
【0063】
本明細書に用いる「PCR産物」、「PCR断片」および「増幅産物」という用語は、変性、アニーリングおよび伸長のPCRステップを2サイクル以上終えた後に得られた化合物の混合物を意味する。これらの用語は、1以上の標的配列の1以上のセグメントの増幅があった場合を包含する。
【0064】
本明細書に用いる「増幅試薬」という用語は、プライマー、核酸鋳型および増幅酵素を除いた、増幅に必要なそれらの試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、バッファーなど)を意味する。典型的には、増幅試薬は他の反応成分とともに反応容器(試験管、マイクロウェルなど)に入れられ、収容される。
【0065】
本明細書に用いる「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」という用語は、細菌酵素を意味し、その各々は特異的ヌクレオチド配列でまたはその近くで2本鎖DNAを切断する。
【0066】
本明細書に用いる「アンチセンス」という用語は、特定のDNAもしくはRNA配列(例えば、mRNA)に相補的なDNAもしくはRNA配列に関して用いられる。細菌による遺伝子調節に関連するアンチセンスRNA(「asRNA」)分子は、この定義内に含められる。アンチセンスRNAは、コード鎖の合成を可能にするウイルスプロモーターに対して逆方向に目的遺伝子(群)をスプライスすることによる合成を含む任意の方法によって産生し得る。いったん胚導入されれば、この転写された鎖は、胚で産生した天然mRNAと結合し、2本鎖を形成する。次いでこれらの2本鎖は、mRNAのさらなる転写かまたはその翻訳のいずれかをブロックする。この方法で突然変異表現型が生成され得る。「アンチセンス鎖」という用語は、「センス」鎖に相補的な核酸鎖に関して用いられる。(-)(すなわち、「負の」)の記載は、時にアンチセンス鎖に関して用いられ、(+)の記載は、時にセンス(すなわち、「正の」)鎖に関して用いられる。
【0067】
本明細書に用いる「機能的な組合せで」、「機能的な順で」および「機能的に連結された」という用語は、所定の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指令する能力のある核酸分子が、産生されるような方法における核酸配列の結合を意味する。また、この用語は機能的タンパク質が産生されるような方法におけるアミノ酸配列の結合も意味する。
【0068】
核酸に関連して用いられる場合の「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」の場合のように、その天然供給源において一般にそれが関連している少なくとも1つの混在物質の核酸から同定され、分離される核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然で見られるようなものとは異なる形態またはセッティングで存在する。それに対し、単離されない核酸は、DNAおよびRNAのような核酸として、それらが天然に存在している状態で見られる。例えば、所定のDNA配列(例えば、遺伝子)は、近隣の遺伝子付近の宿主細胞の染色体上で見られる;特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列のようなRNA配列は、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として細胞で見られる。しかし、所定のタンパク質をコードする単離された核酸としては、例えば、一般に核酸が天然の細胞のものとは異なる染色体上の位置にあるか、そうでなければ天然で見られるものとは異なる核酸配列が隣接した、所定のタンパク質を発現する細胞中の核酸が挙げられる。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、1本鎖もしくは2本鎖の形で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをタンパク質の発現に利用しようとする場合、オリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドは、最低限のセンスまたはコード鎖を含んでいる(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは1本鎖であり得る)が、センスおよびアンチセンス鎖両方を含み得る(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは2本鎖であり得る)。
【0069】
本明細書に用いる「トランスジーン」という用語は、例えば外来遺伝子を新しい受精卵または初期胚へ導入することにより、生物に配置される外来遺伝子を意味する。「外来遺伝子」と言う用語は、実験操作により動物のゲノムに導入される任意の核酸(例えば、遺伝子配列)を意味し、導入された遺伝子が天然に存在する遺伝子と同じ位置にない限り、その動物で見られる遺伝子配列を含み得る。
【0070】
様々な発生段階にある胚性細胞は、トランスジェニック動物作製用のトランスジーンを導入するために用いることができる。種々の方法が、胚性細胞の発生段階に応じて用いられる。接合子は、マイクロインジェクションの好ましい標的である。マウスでは、オスの前核がおよそ直径20μmの大きさに達し、DNA溶液1〜2ピコリットル(pl)の再現可能な注入を可能にする。遺伝子導入の標的としての接合子の使用は、多くの場合に注入DNAが初めの卵割前に宿主ゲノムに組み込まれるであろうという点で顕著な利点を有する(Brinsterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 4438-4442 [1985])。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の細胞すべてが、組み込まれたトランスジーンを有するであろう。概して、50%の生殖細胞がトランスジーンを保有するので、このことは創始動物の子孫への該トランスジーンの効率的な伝達においても反映されるであろう。接合子へのマイクロインジェクションは、本発明で実施する際にトランスジーンを組み込むための好適な方法である。米国特許第4,873191号が、接合子へのマイクロインジェクション方法を記載する;この特許の開示を、そのまま本明細書に組み入れる。
【0071】
レトロウイルス感染もまた、トランスジーンの動物への導入に用いることができる。発生中の胚を、胚盤胞期までin vitroで培養できる。この期間の間、卵割球はレトロウイルス感染の標的となり得る(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73: 1260-1264 [1976])。卵割球の効率的な感染は、透明帯を除去する酵素的処理により達成する(Hoganら, in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. [1986])。トランスジーンを導入するためのウイルスベクター系は、典型的にはトランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(D. Jahnerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6927-693 [1985])。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することにより容易にかつ効率的に達成される(Van der Putten, 上記;Stewartら, EMBO J. 6: 383-388 [1987])。あるいは、感染は後期段階で行うこともできる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を卵割球中に注入できる(D. Jahnerら, Nature 298: 623-628 [1982])。組込みは、トランスジェニック動物を形成する細胞のサブセットにおいてのみ起こるので、多くの創始動物はトランスジーンのモザイクであろう。さらに創始動物は、一般に子孫において分離するゲノム中の、異なる位置にトランスジーンの様々なレトロウイルス挿入物を含んでいてもよい。加えて、低効率ではあるが、子宮内での妊娠中期胚へのレトロウイルス感染により、トランスジーンを生殖細胞系へ導入することも可能である(Jahnerら,上記 [1982])。さらに当技術分野で公知である、レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いて、トランスジェニック動物を作製する手段には、レトロウイルス粒子またはレトロウイルスを産生するマイトマイシンC処理細胞の、受精卵または初期胚の卵黄周囲腔へのマイクロインジェクションがある(PCT国際出願 WO 90/08832 [1990]、およびHaskellおよびBowen, Mol. Reprod. Dev., 40: 386 [1995])。
【0072】
トランスジーン導入ための第3の標的細胞型は、胚性幹(ES)細胞である。ES細胞は、適当な条件下にてin vitroで未着床胚を培養することにより得られる(Evansら, Nature 292: 154-156 [1981]; Bradleyら, Nature 309: 255-258 [1984];Gosslerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 9065-9069 [1985];およびRobertsonら, Nature 322: 445-448 [1986])。トランスジーンは、当技術分野で公知の多種の方法(リン酸カルシウム共沈降、プロトプラストもしくはスフェロプラスト融合、リポフェクション、およびDEAE-デキストラン媒介トランスフェクションを含める)によるDNAトランスフェクションにより、効率的にES細胞へ導入し得る。またトランスジーンは、レトロウイルス媒介による形質導入により、またはマイクロインジェクションによりES細胞へ導入してもよい。このようにトランスフェクトされたES細胞は、その後胚盤胞期の胚の分割腔に導入した後に胚を集落形成し、得られたキメラ動物の生殖細胞系に寄与しうる(概説として、Jaenisch, Science 240: 1468-1474 [1988]を参照されたい)。分割腔へのトランスフェクトされたES細胞導入の前に、トランスジーンを組み込んでいるES細胞を富化するために、トランスジーンが選別手段を提供すると仮定して、トランスフェクトされたES細胞を、そのような種々の選別プロトコールに課してもよい。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応を、トランスジーンを組み込んでいるES細胞を選び出すのに用いてもよい。この技術により、分割腔へ導入する前に適当な選別条件下でトランスフェクトされたES細胞を増殖させる必要性が不要になる。
【0073】
「過剰発現」および「過剰発現する」という用語は、文法的に同等であり、mRNAのレベルに関して用いられ、対照または非トランスジェニック動物の所定の組織において典型的に観察されるより約3倍高い発現レベルを示す。mRNAのレベルは、限定するものではないが、ノーザンブロット分析を含めた当業者に公知の多数の技術のいずれかを用いて測定される。ノーザンブロットでは適当な対照を含めて、解析する各組織から添加されるRNA量の差異を調節する。(例えば、各サンプルに存在し、本質的に全組織に同一量で存在する豊富なRNA転写産物28S rRNAの量を、ノーザンブロットにおいて観察されるmRNA特異的シグナルを正規化、または標準化する手段として用いることができる)。正確にスプライスされたトランスジーンRNAと大きさが一致するバンドに存在するmRNA量を定量する;トランスジーンプローブとハイブリダイズするRNAの他の少数種については、トランスジェニックmRNAの発現の定量化においては考慮されない。
【0074】
本明細書に用いる「トランスフェクション」という用語は、外来DNAの真核細胞への導入を意味する。トランスフェクションは、当技術分野で公知の種々の手段(リン酸カルシウム-DNA共沈降、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、およびバイオリスティックス (biolistics)を含める)により達成され得る。
【0075】
「安定したトランスフェクション」または「安定してトランスフェクトされた」という用語は、外来DNAのトランスフェクトされた細胞ゲノムへの導入および組込みを意味する。「安定したトランスフェクト体」という用語は、外来DNAをゲノムDNAに安定的に組み込んだ細胞を意味する。
【0076】
「一過性トランスフェクション」または「一過性にトランスフェクトされた」という用語は、外来DNAをトランスフェクトされた細胞ゲノムに組み込むことができない場合の外来DNAの細胞への導入を意味する。外来DNAは、数日間トランスフェクトされた細胞の核に維持される。この間、外来DNAは染色体において内在性遺伝子の発現を制御する調節制御に課される。「一過性トランスフェクト体」という用語は、外来遺伝子を取り込んだが、この外来DNAを組み込むことができなかった細胞を意味する。
【0077】
「リン酸カルシウム共沈降」という用語は、核酸を細胞へ導入するための技術を意味する。核酸がリン酸カルシウム-核酸共沈降物として現れる場合、細胞による核酸の取り込みが増大する。Grahamおよびvan der Ebの原型の技術(Grahamおよびvan der Eb, Virol., 52: 456 [1973])は、細胞の特定の型に対して条件を最適化するために幾つかのグループにより改良された。当技術分野では、これらの多くの改良は周知である。
【0078】
本明細書に用いる「選択マーカー」という用語は、他の場合には必須栄養素であろうものを欠いた培地で、増殖する能力を与える酵素活性をコードする遺伝子(例えば、酵母細胞のHIS3遺伝子)の使用を意味する;さらに選択マーカーは、選択マーカーを発現する細胞にある抗生物質または薬剤に対する耐性を付与し得る。選択マーカーは、「優性」であり得る;優性な選択マーカーは、任意の真核細胞系において検出され得る酵素活性をコードする。優性な選択マーカーの例としては、哺乳動物細胞に薬剤G418耐性を与える細菌アミノグリコシド3'ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子とも呼ばれる)、抗生物質ヒグロマイシン耐性を与える細菌ヒグロマイシンGホスホトランスフェラーゼ(hyg)遺伝子、およびミコフェノール酸の存在下で増殖する能力を与える細菌キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(gpt遺伝子とも呼ばれる)がある。
他の選択マーカーは、関連した酵素活性を欠く細胞系とともに使用しなければならないという点で優性ではない。非優性選択マーカーの例としては、tk-細胞系とともに使用されるチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、CAD欠失細胞とともに使用されるCAD遺伝子およびhprt-細胞系とともに使用される哺乳動物ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)遺伝子がある。哺乳動物細胞系の選択マーカーの使用についての概説は、Sambrook, J.ら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989), pp. 16.9-16.15に示されている。
【0079】
本明細書に用いる「精製された」または「精製する」という用語は、サンプルから混在物質を除去することを意味する。例えば、抗体は混在している非免疫グロブリンタンパク質の除去により精製される;またそれらは、標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去によっても精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去の結果として、サンプル中の標的反応性免疫グロブリンのパーセントが増加する。別の例では、組換えポリペプチドを細菌宿主細胞で発現させ、宿主細胞タンパク質を除去して、該組換えポリペプチドを精製する;それによって組換えポリペプチドのパーセントがサンプル中で増加する。
【0080】
「ウエスタンブロット」という用語は、ニトロセルロースのような支持体または膜上へ固定されたタンパク質(群)(またはポリペプチド)を解析することを意味する。タンパク質をアクリルアミドゲル上で移動させてタンパク質を分離した後、タンパク質をゲルから固相支持体(例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜)へ転写させる。次いで固定されたタンパク質を目的の抗原に対して反応性を有する抗体に暴露する。抗体の結合は、放射性標識した抗体の使用を含む様々な方法により検出され得る。
【0081】
本明細書に用いる「抗原決定基」という用語は、特定の抗体と接触する抗原のその部分(すなわちエピトープ)を意味する。宿主動物の免疫化にタンパク質またはタンパク質の断片が用いられる場合、タンパク質の多くの領域が、タンパク質の所定の領域または三次元構造と特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る;これらの領域または構造を抗原決定基と呼ぶ。抗体との結合に関し、抗原決定基は完全抗原(すなわち免疫応答を導き出すために用いられる「免疫原」)と競合し得るものである。
【0082】
「特異的結合」または「特異的に結合すること」という用語は、抗体とタンパク質またはペプチドとの相互作用に関して用いられる場合、相互作用がタンパク質の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存していることを意味する;言い換えると、抗体は一般にタンパク質よりむしろ特異的なタンパク質構造を認識し、それと結合する。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識した「A」および該抗体を含む反応物においては、エピトープA(または遊離の標識されていないA)を含有するタンパク質の存在により、抗体と結合する標識Aの量が減少するであろう。
【0083】
本明細書に用いる「細胞培養」という用語は、任意のin vitro細胞培養を意味する。連続細胞系(例えば、不死化(immortal)表現型)、一次細胞培養、有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)およびin vitroで保持された任意の他の細胞集団がこの用語内に含まれる。
【0084】
用いられる「真核生物」という用語は、「原核生物」と区別できる生物を意味する。該用語は、通例の真核生物の特徴(例えば、核膜で区切られ、中には染色体がある本当の意味での核および膜結合細胞小器官の存在)、および真核生物に一般に観察される他の特徴を示す細胞を有する、すべての生物を包含することを意図している。
【0085】
本明細書に用いる「in vitro」という用語は、人工的な環境および人工的な環境内で起こる過程または反応を意味する。in vitro環境は、試験管および細胞培養からなるが、これらに限定されない。「in vivo」という用語は、天然の環境(例えば、動物または細胞)および天然の環境内で起こる過程または反応を意味する。
【0086】
「試験化合物」または「被験化合物」という用語は、生体機能の疾患、病気、不健康または障害を治療または予防するために用いる任意の化学種、医薬、薬剤およびそれに対応する物を意味する。試験化合物には、公知の治療用化合物および潜在的な治療用化合物の両方が含まれる。本発明のスクリーニング方法を用いたスクリーニングにより、試験化合物が治療上有効であることを調べることができる。「公知の治療用化合物」とは、かかる治療または予防において有効であることが示されている(例えば動物実験またはヒトへの投与による予備試験による)治療用化合物を意味する。
【0087】
本明細書に用いる「サンプル」という用語は、その最も広い意味で用いられる。一つの意味として、該用語は、薬剤および治療用化合物を意味し得る。別の意味では、任意の供給源から得られた検体または培養物、ならびに生物学的サンプルおよび環境的サンプルを含むことを意味する。生物学的サンプルは、動物(ヒトを含めて)から得ることができ、液体、固体、組織および気体を包含する。生物学的サンプルは、血液産物(例えば、血漿、血清など)を含む。環境的サンプルは、環境物質(例えば、表面物質、土壌、水)および工業用サンプルを含む。これらの例は、本発明に適用できるサンプルの種類を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0088】
発明の一般的説明
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病、および炎症性成分が原因の他の疾患または症状、そのようなものとしては限定はされないが、発作、神経系への虚血性ダメージ、神経外傷(例えば、打撃性脳損傷、脊髄損傷、および神経系への外傷性ダメージ)、多発性硬化症ならびにその他の免疫が介在する神経障害(例えば、ギランバレー症候群およびその変異型、急性運動神経軸索障害、急性炎症性脱髄性多発神経障害、ならびにフィッシャー症候群)、HIV/AIDS痴呆複合症、ならびに細菌性およびウイルス性髄膜炎が挙げられるが、そのような疾患または症状に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【0089】
本発明はさらに、薬剤スクリーニング、および炎症応答に関与する細胞性および分子機構において役割を果たす因子を同定し特性評価するための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、シクロオキシゲナーゼ−2の調節、およびシクロオキシゲナーゼ−2を調節するもしくはシクロオキシゲナーゼ−2によって調節されるシグナル伝達経路に関与する因子を同定し特性評価するための方法と組成物を提供する。
【0090】
本発明の多数の態様を本明細書ではアルツハイマー病をモデルとして用いて説明している。当業者であれば、炎症性成分が関与する広範な疾患と症状の治療および調節に対してこれらの実施例が一般的に応用可能であることは理解されよう。
【0091】
上述のとおり、アルツハイマー病に対して用いられてきた治療上の処置方策は神経伝達物質の置換、もしくは正常脳構造の保持に焦点があてられていたが、これらは短期間の病状の軽減を与える可能性はあるが神経の変性および死は防止しないものである。アルツハイマー病に対するより有効な治療法の必要性に応じて、本発明は神経細胞の変性および死を炎症過程の調節によって防ぐ方法を提供するものである。
【0092】
AD脳で炎症性サイトカインが高レベルで存在すること、および多数の急性期産物の存在が報告されている。しかし本発明以前にはこれらの炎症過程の基礎となる分子機構については十分には特性評価されておらず、関連する神経細胞の変性および死を防止するための安全で予防的な療法は開発されていなかった。
【0093】
ADの病理学的な第1の特徴は糸状アミロイドの細胞外沈着およびそれが老人斑中にぎっしり詰まっていることである。老人斑はアミロイド斑に近接するミクログリアおよび星状細胞の双方の活性化に関与する複雑な細胞性反応の中心である。ミクログリアは老人斑中に最も大量かつ顕著に見られる細胞性成分である。老人斑と会合したミクログリアは「反応性の」もしくは「活性化された」表現型を呈し、分枝状の形状を有しその突起が老人斑を包んでまとわりつく。ミクログリアは脳内の主たる免疫細胞であり、単球細胞系統に由来し、形態学的および機能的にはマクロファージと識別し得ない。マクロファージと同様に、ミクログリアは「反応性の」表現型の獲得によって種々の刺激に応答し、MHCクラスII抗原、CD45、補体受容体CR3およびCR4、免疫グロブリン受容体FcγRIおよびFcγRII、ならびにICAM-1などの多数の細胞表面分子の発現の増加がその証拠となる。活性化ミクログリアは、活性化マクロファージと同様に、特にα−抗キモトリプシン、α−抗トリプシン、血清アミロイドP、C反応性タンパク質、および補体系成分を含む広範な急性期タンパク質を分泌する(McGeerとRogers, Neurology 42:447[1992])。重要なことは、ミクログリアの活性化が前炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、およびTNF-α、ならびにマクロファージ走化性タンパク質−1の合成と分泌をもたらすことである。
【0094】
AD脳においてはミクログリアと老人斑との会合が、アミロイド沈着に対する最も顕著で常に見られる細胞性反応である(Cotmanら, Neurobiol. Aging 17:723[1996]; Itagakiら, J. Neuroimmunol. 24:173[1989]; およびMiyazonoら, Am. J. Path. 139:589[1991])。老人斑と会合したミクログリアは反応性の表現型を呈し、分枝状の形態をとり、その突起で老人斑を包み込む(Itagakiら, 上述の文献; Fukumotoら, Neurodegen 5:13[1996]; Mannら, Acta Neuropath. 90:472[1995]; およびPerlmutterら, Neurosci. Lett. 119:32[1990])。アミロイド前駆体タンパク質(APP)の変異型を発現しているトランスジェニックマウスでは、アミロイド斑形成に引き続き活性化ミクログリアがその斑のコアの内部におよび近接して出現することは重要な意義を有する(Borcheltら, Neuron 19:939[1997]; Sturchler-Pierraら, Proc. Natl. Acad. Sci. 94:13287[1997]; Frautschyら, Am. J. Pathol. 152:307[1998]; およびMasliahら, J. Neurosci. 16:5795[1996])。さらに、Aβを直接的に脳内に注射した動物モデルでは、ミクログリアのアミロイド沈着への補強を誘発しその活性化を介在するためにはAβ単独で十分である(Weldonら, J. Neurosci.18:2161[1998]。従って、ヒトおよびマウスの双方において、豊富かつ反応性のミクログリアが存在することは脳内のアミロイド沈着に対する不変の応答である。
【0095】
本発明の組成物と方法はAβに対するミクログリアの様々な応答を阻害するための方法を提供する。例えば、本発明は広範な炎症性応答(例えば、単球およびミクログリア中におけるAβが誘発する広範な炎症性応答)を抑制する薬剤を提供する。これらの薬剤(例えば、PPARγアゴニスト)は転写因子であるPPARγと相互作用することが示されている。本発明はまた、PPARγアゴニストがシクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)およびサイトカインであるTNF-αおよびIL-6の発現をブロックし、神経毒性産物の分泌を阻害することを示している。本発明以前には、炎症性疾患におけるPPARγおよびPPARγエフェクターの治療効果は探索されていなかった。従って、本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状を治療するための新規の治療方法を提供するものである。
【0096】
詳細な説明
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法および組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病およびその他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。本発明の治療用薬剤はPPARγリガンド(例えばPPARγアゴニスト)を含んでなる。本発明を実施するためにその機構を理解することは必要ではなく、本発明がその機構によって限定されることは意図していないが、本発明の治療用薬剤がPPARγ活性を変え、それに続いてPPARγによる遺伝子発現を調節することによって前炎症性および神経毒性産物の産生を調節すると考えられる。
【0097】
PPARは、構造的にステロイドおよびレチノイン酸受容体ファミリーと関連する、脂質によって活性化されるDNA結合タンパク質である(Lembergerら, Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 12:335[1996])。その受容体の活性化型は、PPREと称される配列特異的プロモーターエレメントと結合し、遺伝子発現を転写の段階で調節する(Ricoteら, Nature 391:79[1998])。PPARには3種類のアイソフォーム(PPARα、γ、およびδ)があり、それらは示差的に発現される。この受容体ファミリーの天然のリガンドは脂肪酸および脂質代謝物であり、PPARファミリーの各メンバーとともに、明白なパターンのリガンド特異性を示す。
【0098】
I. 本発明の治療用薬剤
本発明は、PPARγを調節する薬剤(例えばPPARγアゴニスト)が、アルツハイマー病およびその他の炎症性疾患(例えば、中枢神経系の損傷)に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する治療用の組成物を提供することを示す。そのような薬剤としては、限定はされないが、プロスタグランディンJ2(PGJ2)およびその類似体(例えば、Δ12-プロスタグランディンJ2および15-デオキシ-Δ12, 14-プロスタグランディンJ2)、プロスタグランディンD2ファミリーのメンバーの化合物、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびチアゾリジンジオン(例えば、シグリタゾン、トログリタゾン、ピオグリタゾン、およびBRL49653)が挙げられる。ほとんどのPPARγアゴニストが経口投与後に実質的なバイオアベイラビリティーを示しその使用に伴う毒性がほとんどもしくは全くないことは重要なことである(例えば、SaltielとOlefsky, Diabetes 45:1661[1996]; Wangら, Br. J. Pharmacol. 122:1405[1997]; およびOakesら, Metabolism 46:935[1997]を参照せよ)。本発明は、既知のもしくは将来同定されるであろうPPARγアゴニストのいかなるものも本発明で用いることができるであろうと予想する。
【0099】
本発明を実施するために有用な化合物、およびそれらの化合物を製する方法は、WO91/07107; WO92/02520; WO94/01433; WO89/08651; WO96/33724; 米国特許第4,287,200号; 第4,340,605号; 第4,438,141号; 第4,444,779号; 第4,461,902号; 第4,572,912号; 第4,687,777号; 第4,703,052号; 第4,725,610号; 第4,873,255号; 第4,897,393号; 第4,897,405号; 第4,918,091号; 第4,948,900号; 第5,002,953号; 第5,061,717号; 第5,120,754号; 第5,132,317号; 第5,194,443号; 第5,223,522号; 第5,232,925号; 第5,260,445号; および第5,814,647号に開示されている。これらの公表物の開示事項は本明細書中に参照によりその全体を組み込むこととする。
【0100】
前述の効果を有する薬剤としては下記の式の化合物が個人を治療するのに有用である。本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Iの化合物[式中、R1およびR2は同じかもしくは異なり、その各々は水素原子、もしくはC1-C5アルキル基を表し;R3は水素原子、C1-C6脂肪族アシル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基、ヘテロ環式アシル基、araliphaticアシル基、(C1-C6アルコキシ)カルボニル基、またはアラルキルオキシカルボニル基を表し;R4とR5は同じかもしくは異なり、各々は水素原子、C1-C5アルキル基もしくはC1-C5アルコキシ基、またはR4とR5は共同してC1-C5アルキレンジオキシ基を表し;nは1、2、または3;Wは-CH2-、>CO、もしくはCH-OR6基を表し(ここでR6は、R3で定義した原子もしくは基のうち任意のものであってもよく、それはR3と同じであっても異なるものであってもよい);そしてYおよびZは同じものでも異なるものでもよく、その各々は酸素原子、もしくはイミノ(=NH)基を表す];および製薬上許容されるその塩を含む。
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IIの化合物[式中R11は置換された、もしくは置換されていないアルキル、アルコキシ、シクロアルキル、フェニルアルキル、フェニル、芳香族アシル基、窒素、酸素、およびイオウからなる群から選択された1もしくは2個のヘテロ原子を含んでいる5-、もしくは6-員の複素環基、または図15に示す式の基(すなわち、「R11に用いうる式」と表示した基)であって、式中、R13およびR14は同じかもしくは異なり、その各々は低級アルキル(あるいは、R13およびR14はお互いに直接、もしくは窒素、酸素、およびイオウからなるヘテロ原子で隔てて、組み合わされ5員環もしくは6員環を形成する);そして、式中、L1およびL2は同じかもしくは異なり、その各々は水素もしくは低級アルキルであるか、またはL1およびL2は組み合わさってアルキレン基を形成する]、または製薬上許容されるその塩を含む。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IIIの化合物[式中、R15およびR16は独立に水素、1個〜6個の炭素原子を含有する低級アルキル、1個〜6個の炭素原子を含有するアルコキシ、ハロゲン、エチニル、ニトリル、メチルチオ、トリフルオロメチル、ビニル、ニトロ、もしくはハロゲンで置換されたベンジルオキシであり、nは0〜4である];または製薬上許容されるそれらの塩を含む。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IVの化合物[式中、点線は結合もしくは結合がないことを示す;Vは−H=CH−、−N=CH−、−CH=N−、もしくはSであり;DはCH2、CHOH、CO、C=NOR17、もしくはCH=CHであり;XはS、O、NR18、−CH=N、もしくは−N=CHであり;YはCHもしくはNであり;Zは水素、(C1−C7)アルキル、(C1−C7)シクロアルキル、フェニル、ナフチル、ピリジル、フリル、チエニル、または同じかもしくは異なる基((C1−C3)アルキル、トリフルオロメチル、(C1−C3)アルコキシ、フルオロ、クロロ、もしくはブロモ)によって1カ所もしくは2カ所が置換されたフェニルであり、Z1は水素もしくは(C1−C3)アルキルであり;R17およびR18は各々独立に水素もしくはメチルであり;nは1、2、もしくは3である]、製薬上許容されるそれらの陽イオン性塩、またはその化合物が塩基性窒素を含有している場合には製薬上許容される酸付加塩を含む。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Vの化合物[式中、点線は結合もしくは結合がないことを示す;AおよびBは各々独立にCHもしくはNで、AもしくはBがNである場合には他方はCHであるという条件があり;X1はS、SO、SO2、CH2、CHOH、もしくはCOであり;nは0もしくは1であり;Y1はCHR20もしくはR21で、nが1でY1がNR21の場合にはX1がSO2もしくはCOであるという条件があり;Z2はCHR22、CH2CH2、環状C2H2O、CH=CH、OCH2、SCH2、SOCH2、もしくはSO2CH2であり;R19、R20、R21、およびR22は各々独立に水素もしくはメチルであり;X2およびX3は各々独立に水素、メチル、トリフルオロメチル、フェニル、ベンジル、ヒドロキシ、メトキシ、フェノキシ、ベンジロキシ、ブロモ、クロロ、もしくはフルオロである]、それらの製薬上許容される陽イオン性塩、またはAもしくはBがNの場合には製薬上許容される酸付加塩を含む。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIの化合物、もしくは製薬上許容されるその塩であって、式中、R23は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル、3〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル、フェニル、またはモノ置換もしくはジ置換のフェニルでその置換基が独立に炭素原子1〜6個のアルキル、炭素原子1〜3個のアルコキシ、ハロゲン、もしくはトリフルオロメチルであるものである。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはそれらの製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物を含み、式中、A2はアルキル基、置換されているかもしくはされていないアリール基、またはアルキレンもしくはアリール部分が置換されているもしくはされていないアラルキル基であり;A3は任意で合計3カ所までの置換を有するベンゼン環を表し;R24は水素原子、アルキル基、アシル基、アルキルもしくはアリール部分が置換されているもしくはされていないアラルキル基、または置換されているもしくはされていないアリール基であり;またはA2はR24とともに置換されたもしくはされていないC2-3ポリメチレン基を表し、このポリメチレン基の任意の置換基はアルキル、もしくはアリールであるか、または近接する置換基がその置換基が付くメチレンの炭素原子と共に、置換されたもしくはされていないフェニレン基を形成する;R25およびR26は各々独立に水素を示すか、またはR25およびR26は共にある結合を表し;X4はOもしくはSを表し;ならびにnは2〜6の範囲の整数を示す。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIIIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、R27およびR28は各々独立にアルキル基、置換されているもしくはされていないアリール基、またはアリールもしくはアルキル部分が置換されているかもしくはされていないアラルキル基であり;またはR27はR28と共同して結合基を表し、その結合基は場合により、置換されたメチレン基、またはOもしくはS原子からなり、メチレン基の任意の置換基としてはアルキル、アリール、もしくはアラルキル、または近接するメチレン基の置換基はその置換基が付いている炭素原子と共に置換されているもしくはされていないフェニレン基を形成し;R29およびR30は各々水素を示すかまたはR29とR30は共にある結合を表し;A3は任意で合計3カ所までの置換のあるベンゼン環であり;X5はOもしくはSを表し;nは2〜6の範囲の整数を示す。
【0107】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IXの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A5は置換されたもしくはされていない芳香族複素環基を表し;A6は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;X6はO、S、もしくはNR32を表し、R32は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)、または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;Y2はOもしくはSを表し;R31はアルキル、アラルキル、もしくはアリール基を表し;nは2〜6の範囲の整数を表す。適切な芳香族複素環基は、置換されたもしくはされていない、単環もしくは縮合環の、4個以内のヘテロ原子からなる芳香族複素環基であり、該ヘテロ原子は酸素、イオウ、もしくは窒素から選択される。好ましい芳香族複素環基としては、4〜7個の、好ましくは5〜6個の環の構成原子を有する、置換されたもしくはされていない単環の芳香族複素環基を含む。とりわけ、その芳香族複素環基は1、2、もしくは3個のヘテロ原子、特に1もしくは2個の、酸素、イオウ、もしくは窒素から選択されるヘテロ原子を含む。A5の適切な意味としてはそれが5員環の芳香族複素環基を表す場合にはチアゾリルおよびオキサゾイル、とりわけオキサゾイルが挙げられる。A6の適切な意味はそれが6員環の芳香族複素環基を表す場合にはピリジルもしくはピリミジニルを含む。適切なR31としてはアルキル基、特にC1-6アルキル基(例えば、メチル基)が挙げられる。好ましくはA5は図15の式IXの下の式(a)、(b)、または(c)に表した部分を示し、式中、R33およびR34は各々独立に水素原子、アルキル基、または置換されたもしくはされていないアリール基またはR33とR34の各々が近接する炭素原子に付けられている場合には、R33とR34はそれらが付けられている炭素原子と共同してベンゼン環を形成し、そのベンゼン環中でR33およびR34で共同して表されている各炭素原子は置換されていてもされていなくてもよく:式(a)の部分においてX7は酸素もしくはイオウを表している。本発明の好ましい1実施形態においては、R33およびR34は共に図15の式IXの下に記載の式(d)の部分を示し、その式中でR35およびR36は各々独立に水素、ハロゲン、置換されたもしくはされていないアルキル、またはアルコキシを表す。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Xの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A7は置換されたもしくはされていないアリール基を表し;A8は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;X8はO、S、もしくはNR39を表し、ここでR39は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)、または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;Y3はOもしくはSを表し;R37は水素を表し;R38は水素もしくはアルキル、アラルキル、もしくはアリール基を表し、またはR37はR38と共同して1つの結合を表し;nは2〜6の範囲の整数を表す。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式XIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A1は置換されたもしくはされていない芳香族複素環基を表し;R1は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;A2は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;nは2〜6までの範囲の整数を表す。適切な芳香族複素環基は、置換されたもしくはされていない、単環もしくは縮合環の、4個以内のヘテロ原子からなる芳香族複素環基であり、各環内のヘテロ原子は酸素、イオウ、もしくは窒素から選択される。好ましい芳香族複素環基としては、4〜7個の、好ましくは5〜6個の環の構成原子を有する、置換されたもしくはされていない単環の芳香族複素環基を含む。とりわけ、その芳香族複素環基は1、2、もしくは3個のヘテロ原子、特に1もしくは2個の、酸素、イオウ、もしくは窒素から選択されるヘテロ原子を含む。A1の適切な意味としてはそれが5員環の芳香族複素環基を表す場合にはチアゾリルおよびオキサゾイル、とりわけオキサゾイルが挙げられる。A1の適切な意味はそれが6員環の芳香族複素環基を表す場合にはピリジルもしくはピリミジニルが挙げられる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式XIIおよびXIIIの化合物、もしくはそれらの製薬上許容される塩からなり、式中、点線は結合もしくは結合がないことを示し;Rは3〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル、ナフチル、チエニル、フリル、フェニルもしくは置換されたフェニル(ここで置換基は1〜3個の炭素原子を有するアルキル、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ、トリフルオロメチル、クロロ、フルオロ、またはビス(トリフルオロメチル)である);R1は1〜3個の炭素原子を有するアルキルであり;XはOもしくはC=O;AはOもしくはS;BはNもしくはCHである。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態は化合物IからXIIIの化合物のアルツハイマー病ならびに炎症性成分が関与する疾患と症状の治療のための使用を含んでいる。これらの化合物を本明細書ではチアゾリジン誘導体と呼ぶ。必要に応じて、チアゾリジン誘導体の具体的名称が用いられ、そのようなものとしては、トログリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、およびBRL49653が挙げられる。
【0112】
好ましい化合物群は式XIのものであって、式中、点線は結合がないことを表し、R1はメチル、XはO、およびAはOのものである。この化合物群の中で特に好ましいものは、式中、Rがフェニル、2-ナフチル、および3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルであるような化合物である。好ましい化合物の別の1群としては式XIIIのものであって、式中、点線は結合がないことを表し、R1はメチルであり、AはOのものである。この化合物群中で特に好ましいものは、式中、BがCH、Rはフェノール、p-トリル、m-トリル、シクロヘキシル、および2-ナフチルのものである。本発明の別の実施形態においては、BはNでRはフェニルである。
【0113】
さらに別の実施形態においては、本発明は式IからXIIIを含む、少なくとも1つの組成物の有効量を単位剤形で投与するのに適した医薬組成物の使用方法を提供する。また別の実施形態においては、組成物はさらに製薬上許容される担体を含む。
【0114】
本発明の組成物の具体的な例としては、限定はされないが次のものを挙げることができる:(+)-5[[4-[3,4-ジヒドロ-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-2H-1-ベンゾピラン-2-イル]メトキシ]フェニル]メチル]-2,4-チアゾリジンジオン(トログリタゾン);4-(2-ナフチルメチル)-1,2,3,5-オキサチアジアゾール-2-オキシド;5-[4-[2-[N-(ベンゾキシアゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]-5-メチルチアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[2,4-ジオキソ-5-フェニルチアゾリジン-3-イル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-メチル-N-(フェノキシカルボニル)アミノ]エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-(2-フェノキシエトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(4-クロロフェニル)エチルスルホニル]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[3-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)プロピオニル]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[(1-メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン(シグリタゾン);5-[[4-(3-ヒドロキシ-1-メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)エトキシ]ベンジル]チアジゾリジオン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシル]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン(ピオグリタゾン);5-[(2-ベンジル-2,3-ジヒドロベンゾピラン)-5-イルメチル]チアジアゾリン-2,4-ジオン(エングリタゾン);5-[[2-(2-ナフチルメチル)ベンゾキサゾール]-5-イルメチル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(3-フェニルウレイド)エトキシル]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-(ベンゾキサゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[3-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)プロピオニル]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[2-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イルメチル)ベンゾフラン-5-イルメチル]-オキサゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ]エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(BRL49653);および5-[4-[2-[N-(ベンゾキサゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]-オキサゾリジン-2,4-ジオン。
【0115】
本発明の別の実施形態においては、治療用薬剤は図16に示す構造を有する化合物を含み、その構造中でAは水素もしくは環のαもしくはβの位置の脱離基から選択されたものであるか、または環のCαとCβの間に二重結合がある場合にはAは存在せず;Xはアルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキル、もしくは2〜15個までの範囲の炭素原子を有する置換されたアルキニル基であり;Yはアルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、もしくは2〜15個までの範囲の炭素原子を有する置換されたアルキニル基である。本明細書で用いられている「脱離基」という用語は前駆体化合物から、例えば、E2脱離条件下での求核性置換などによって、および類似の方法によって容易に除去することのできる官能基を意味する。例としては、限定はされないが、ヒドロキシ基、アルコキシ基、トシラート、ブロシラート(brosylate)、ハロゲンなどが挙げられる。
【0116】
本発明の治療用薬剤(例えば、図15の式I−XIIIに記載の化合物)はさらに製薬上許容される酸付加および/もしくは塩基性塩の双方を形成することができる。
これらの形態の全てが本発明の範囲内に含まれる。
【0117】
本発明の製薬上許容される酸付加塩としては、限定はされないが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などの無毒な無機酸に由来する塩、ならびに脂肪族モノ-およびジカルボン酸、フェニルで置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの無毒の有機酸から由来する塩が挙げられる。そのような塩としては硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、ビス亜硫酸塩bissulfite、硝酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソブチル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、malcate、マンデル酸塩(mandelate)、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。また、アルギニンなどのアミノ酸の塩、ならびにグルコン酸塩、ガラクツロン酸塩、およびn-メチルグルカミンなども包含される(例えば、Bergeら, J. Pharm. Science 66:1[1977]を参照せよ)。
【0118】
塩基性化合物の酸付加塩は、遊離塩基形態のものを十分量の所望の酸と接触させることによって従来法で塩を生成させて調製される。遊離塩基形態のものは、従来法もしくは上述の方法でその塩形態のものを塩基と接触させ遊離塩基を単離することにより再生することができる。遊離塩基形態のものはその塩形態のものとは極性溶媒への溶解性などの特定の物理的特性においていくらか異なるが、素その他の点では、本発明の目的では塩はそれの遊離塩基と同等である。
【0119】
製薬上許容される塩基付加塩はアルカリ金属およびアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属もしくはアミンを用いて形成される。陽イオンとして用いられる金属の例としては、限定はされないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。適切なアミンの例としては、限定はされないが、N2N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、およびプロカインが挙げられる(例えば、Bergeら, J. Pharm. Science 66:1[1977]を参照せよ)。
【0120】
酸性化合物の塩基付加塩は、遊離酸形態のものを十分量の所望の塩基と接触させ、従来法で塩を生成させることによって調製される。遊離酸形態のものは、従来法もしくは上述の方法でその塩形態を酸と接触させ遊離酸を単離することにより再生することができる。遊離酸形態のものはその塩形態のものと極性溶媒への溶解性などの特定の物理的特性においていくらか異なるが、その他の点で本発明の目的では、塩はそれの遊離酸と同等である。
【0121】
本発明の化合物のある種のものは溶媒和していない形態のものおよび溶媒和した形態のもので存在することができ、そのようなものとしては、限定はされないが、水和した形のものが挙げられる。通常は、水和を含む溶媒和した形のものはそうでない形のものと同等で、本発明の範囲内に包含されることを意図している。本発明の化合物のある種のものは1個以上のキラル中心を有し、各中心は異なる立体配置で存在しうる。従って、その化合物は立体異性体を形成することができる。本明細書では限られた数の分子式によってそれら全てを代表させているが、本発明は、個々の単離した異性体およびラセミ体を含むそれらの混合物の双方の使用を含んでいる。その化合物を調製する際に立体特異的な合成技法が行われる場合、もしくは光学活性化合物が出発材料として用いられる場合には、個々の異性体を直接的に調製することができる。しかし、異性体の混合物が調製されれば、個々の異性体は従来の分離技法で得ることができ、またはその混合物はそのまま用いることができる。
【0122】
さらに、式IからXIIIの化合物のチアゾリデンもしくはオキサゾリデン部分は互変異性体形態で存在することができ、本発明の一部をなすことを意図している。
【0123】
本発明の化合物から医薬組成物を調製するためには、製薬上許容される担体は適切なものであればどのような形態でもよい(例えば、個体、液体、ゲル、その他)。固体製剤としては、限定はされないが、粉末、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤、および分散しうる顆粒剤が挙げられる。固体担体は1種以上の物質とすることができ、それはまた希釈剤、香料、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、もしくは被包化物質としても作用する。本発明は治療用組成物の投与のための種々の技法を包含している。適切な投与経路としては、限定はされないが、経口、直腸、経皮、経膣、経粘膜、もしくは経腸投与;筋肉内、皮下、髄内注射、ならびに鞘内、直接的心室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、もしくは眼内注射などの非経口投与が特に挙げられる。本発明がいずれか特定の投与経路に限定されることは意図していない。
【0124】
注射用として、本発明の薬剤は水溶液中、好ましくは生理学的に両立しうるバッファー、例えばHank's溶液、リンゲル液、もしくは生理的食塩水バッファー中に製剤化することができる。経粘膜投与のためにはその浸透すべきバリアに適切な浸透剤が製剤中に用いられる。そのような浸透剤は当業界では一般的に知られている。
【0125】
粉末剤では、担体は微細化した固体で、それは微細化した活性成分との混合物中にある。錠剤では、活性成分は必要な結合特性を有し担体と適切な比率で混合され、所望のサイズおよび形に成型される。
【0126】
これらの粉末と錠剤は好ましくは活性化合物を5もしくは10%〜約70%まで含有する。適切な担体としては、限定はされないが、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ショ糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカンタ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ロウ、カカオ脂などがその他の実施形態のなかで特に挙げられる(例えば、固体、ゲル、および液体の形状で)。「調製」という用語は、活性化合物を担体としての被包材料を用いて製剤化してカプセル剤を提供することをも包含しており、そのカプセル中で活性化合物はその他の担体と共に、もしくはその他の担体なしで、ある担体によって取り囲まれ、それによって活性化合物は担体と会合している。同様に、カシェ剤およびトローチ剤も含まれる。錠剤、粉末、カプセル剤、丸剤、カシェ剤、およびトローチ剤は経口投与に適した固体剤形として用いることができる。
【0127】
坐剤の調製には、本発明のいくつかの実施形態においては、低融点のロウ例えば脂肪酸グリセリドまたはカカオ脂の混合物をまず溶融し、活性化合物を均一に、例えば攪拌によって、その中に分散する。次いで溶融した均一な混合物を都合のよいサイズの型に注ぎ込み、冷却して投与に適切な形態に固化させる。
【0128】
液状の製剤としては、限定はされないが、溶液剤、懸濁剤、および乳剤(例えば、水もしくは水プロピレングリコール溶液)が挙げられる。非経口注射用には、本発明のいくつかの実施形態においては、液状製剤がポリエチレングリコール水溶液中の溶液として製剤化される。経口投与に適する水性溶液は活性化合物を水に溶解し、適切な着色剤、香料、ならびに安定化剤および増粘剤を所望により添加することによって調製することができる。経口投与に適する水性懸濁液は微細なものとした活性化合物を粘性材料、例えば天然もしくは合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびその他の既知の懸濁剤などと共に水中に分散することによって製造することができる。
【0129】
また、使用の直前に経口投与用の液状製剤に転換することを意図した固体製剤も含まれる。そのような液状品としては溶液剤、懸濁剤、および乳剤が挙げられる。これらの製剤は活性化合物に加えて、着色剤、香料、安定化剤、バッファー、人工および天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤およびその他同種のものを含有することができる。
【0130】
これらの医薬製剤は好ましくは単位剤形である。そのような形態では製剤はさらに、適切な量の活性化合物を含有する単位用量に再分割される。その単位剤形は包装された製剤とすることができ、そのパッケージには、例えば小分包化した錠剤、カプセル剤、およびバイアル瓶もしくはアンプル内の粉末などの、別々の量の製剤が含有されている。単位剤形はまた、カプセル剤、錠剤、カシェ剤、もしくはトローチ剤それ自体とすることができ、これらの任意のものが適当な数でパッケージされた形態のものとすることができる。
【0131】
単位剤形中の活性化合物の量は変えることができ、または0.1mg〜100mgまで、好ましくは0.5mg〜100mgの範囲に活性化合物の特定の用途および活性化合物の力価に従って調節することができる。所望により、該組成物は他の両立しうる治療用薬剤を含有することもできる。医薬組成物を調製する一般的方法についてはRemington's Pharmaceutical Science, E.W.Martin編, Mack Publishing Co., 米国ペンシルベニア州(1990)に述べられている。
【0132】
臨床上の特徴の評価および個々の患者に対する適切な治療レジメンの設計は究極的には処方医の責任である。処方医の患者評価の一部として、担当医は毒性もしくは臓器機能不全により、いつどのような方法で投与を終了し、中断し、もしくは調整するかを承知していると考えられる。逆に、担当医は、臨床的応答が不十分な状況下では毒性を避けつつ治療をより高いレベルへと調節することも知っている。対象とする障害の管理において投与量の大きさは治療しようとする病状の重篤度、患者の個々の生理学的、生化学的その他の条件、および投与経路によって異なる。病状の重篤度は、例えば、部分的には標準的な予後評価法によって評価することができる。さらに、用量および投与頻度も、年齢、体重、性別、および個々の患者の治療への応答によって変わってくる。
【0133】
II. 治療薬の活性
上記治療薬は、アルツハイマー病および炎症性成分が原因の疾患または症状、例えば発作、虚血による神経系の障害、神経傷害(例えば衝撃による脳の障害、脊髄損傷、および神経系の外傷性障害など)、多発性硬化症、および他の免疫に関わる神経障害(例えばギヤン‐バレー症候群およびその変種、急性運動軸索神経障害、急性炎症性脱髄性多発性神経炎、およびフィッシャー症候群など)、HIV/エイズ痴呆、ならびに細菌性、寄生生物性、真菌性、およびウイルス性の髄膜炎および脳炎を含む(ただしこれらに限定されない)疾患および症状の治療に有用である。以下の説明は、該治療薬の活性を示す実施例を提供する。
【0134】
本発明の開発中に、実験により、PPARγアゴニストがAβ-刺激誘導型マクロファージ分化を遮断することが示された(例えば実施例2を参照されたい)。さらに、PPARγアゴニストは、ミクログリアにより媒介される星状細胞の活性化を遮断し、単球により媒介される神経毒性を予防した(例えば実施例3および4を参照されたい)。Aβまたは他の免疫刺激によるミクログリアの活性化の1つの結果として、サイトカイン産生が刺激される。本発明のPPARγアゴニストは、サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)およびTNF-αの発現を阻害することが分かった(例えば実施例5を参照されたい)。また、PPARγアゴニストは、COX-2の発現も阻害した(例えば実施例6を参照されたい)。これらの観察結果は、本発明の治療薬が、アルツハイマーおよび他の炎症性疾患におけるCOX-2の作用を抑制するための新規治療法を提供することを示した。
【0135】
COX-2遺伝子は極初期遺伝子であり、その転写活性化は、まだ特徴付けられていないシグナル伝達経路を介して媒介される(Smithら, J. Biol. Chem. 271: 33157[1996])。ミクログリアおよびマクロファージにおけるリポ多糖(LPS)刺激によるCOX-2誘導については調査されており、これらの研究により、その発現にはNF-κBが必要であることが確立された(Bauerら, Eur. J. Biochem. 243: 726[1997];およびHwangら, Biochem Pharmacol 54:87[1997])。これは、他の細胞系から得たデータと一致する(Inoueら, J. Biol. Chem. 270: 24965[1995];およびYamamotoら, J. Biol. Chem. 270: 31315[1995])。COX-2プロモーターは必須cAMP応答配列(CRE)を含む多数の正の調節エレメントを保持しているが、NF-κBの必要性以外に、本発明以前には、COS-2発現がどのように調節されるのか、およびどのシグナル伝達経路がこの遺伝子のプロモーターに影響を与えるのかということは、はっきりしていなかった。さらに、本発明は、COX-2プロモーターで同定された第1の負の作用を持つエレメントを提供する。
【0136】
さらに、本発明の開発中に行った実験は、単球およびマクロファージのAβ処理によって、COX-2発現の誘導が速くなり且つ持続されることを示した(例えば実施例6および7を参照されたい)。重要なことに、これらの実験により、ホルボールエステルによるCOX-2の誘導が、cis作用性プロモーターエレメントに対するPPARγアゴニストの作用によって大きく阻害されることが示された。COX-2発現がPPARγアゴニストによってその阻害性プロモーターエレメントに対する作用により阻害されるという知見は、前炎症性物質(例えばプロスタグランジンE2など)の合成を阻害するための他の治療選択肢を提供する。
【0137】
また、本発明の開発中に行われた実験は、PPARγアゴニストがAβに対するミクログリアの多様な応答を強力に阻害することも示した。このように、これらの物質は、アルツハイマー病および有意な炎症性成分が原因の他の疾患(中でも例えば発作、外傷性損傷、および脊髄損傷など)の治療における治療薬として有用であることが分かった。上記のように、PPARγアゴニストの多くは、経口投与後に十分なバイオアベイラビリティを示し、これらの使用に伴う毒性を殆どまたは全く持たない(例えばSaltielおよびOlefsky, Diabete 45: 1661[1996];Wangら, Br. J. Pharmacol. 122:1405[1997];およびOakesら, Metabolism 46: 935[1997]を参照されたい)。このように、本発明は、アルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状における進行性の神経変性過程を和らげるための方法および組成物を提供する。しかし、本発明は特定のメカニズムに限定されるものではない。実際に、本発明を実施するためにこのようなメカニズムの理解は必要ではない。
【0138】
本発明の方法および組成物の一般的な適用性をさらに示すために、中枢神経系損傷を治療する、特に炎症を治療して損傷後の2次障害を防ぐこれらの能力を立証するための実験を行った。長い間、哺乳動物の中枢神経系(CNS)への損傷は永久的な能力障害につながると認識されていた。最も重要であるが未だ十分に理解されていないCNS損傷の結果の1つは、脳および脊髄の損傷にみられる独特の進行性である。多年にわたりCNS損傷の研究分野を悩ましてきたこの問題は、CNSの外傷後に2次的事象として起こる連続的な壊死および腔または嚢の発生である。このような空洞化は、小さな初期の病巣から発達して、損傷の元の領域から吻側および尾側に広がる大きな空洞へと進行する(Balentine, Lab. Invest. 39: 236[1978])。研究者らは、空洞化および中心壊死は虚血性損傷(Balentine(前掲))、出血症(Duckerら, J. Neurosurg. 35:700[1971];およびWallaceら, Surg. Neurol. 27: 209[1987])、神経リゾチーム活性(Kaoら, J. Neurosurg 46:757[1977])または血清蛋白の血液脳関門の通過(FitchおよびSilver, Exp. Neuro. 148: 587[1997])に関係があるという仮設を立てたが、多くの証拠は、この病理過程にとってマクロファージの浸潤および炎症がキーとなることを指摘している(Blight, Neuroscience 60: 263[1994]; Szezepanikら, Neuroscience 70: 57[1996]; FitchおよびSilver(前掲);およびZhangら, Exp. Neurology 143: 141[1997])。これは、軸索再生が起こるのに適した細胞基質を無細胞嚢が持たないので、さらなる研究の重要な治療的目標である(Guthら, Exp. Neurol. 88:1[198])。さらに、この炎症性反応は、サイトカイン、特にTNF-α、IL-1βおよびIL-6の局所的な合成および分泌も伴う。
【0139】
損傷後に中枢神経系(CNS)で起こる炎症性反応は、主に2つの成分、つまり内因性ミクログリアの活性化、ならびに骨髄由来マクロファージおよび末梢血流からの他の炎症性細胞の漸増で構成される。多くの研究者らは、損傷に対するこの反応が、CNS内の2次障害に貢献すると考えている(例えばBlight, Neuroscience 60: 263[1994]を参照されたい)。また、ミクログリアサイトカインは、損傷後の神経系の機能障害の原因となりうるものであると示唆されてきており(Giulianら, J. Neurosci. 9:4116[1989])、また好中球は、CNS損傷の後に壊死および炎症を促進し得る(MeansおよびAnerson, J. Neuropathol. Exp. Neurol. 42: 707[1983])。ミクログリアは、ニューロンを殺すことができる細胞毒性因子を放出することができ(Banatiら, Glia 7:111[1993];およびGiulian, Glia 7: 102[1993])、また、既存のニューロンの繋がりを切断し、損傷の周りの領域に存在するニューロンを破壊する役割を担うと示唆されてきた(Giulianら、Neurochem. Int. 25: 227[1994];およびGiulianら、Dev. Neurosci. 16: 128[1994])。多くの著者は、CNSへの2次障害を食い止める1つの方法としてミクログリア/マクロファージの分泌活性を改変するための治療薬の使用を主張してきた(例えばGiulianおよびLachman, Science 228:497[1985];Giulianら, [1989](前掲);Banatiら(前掲);Guthら, Expl. Neurol. 126: 76[1994];Guthら, Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 12308[1994];およびZhangら(前掲)を参照されたい)。
【0140】
外傷後のCNSにおけるこの2次障害は、しばしば進行性の壊死および嚢の空洞化を招き、損傷のサイズおよび程度の大幅な拡大につながり得る。進行性壊死の拡大を食い止めることができるか否かを測定するために、動物モデルにおいて様々な抗炎症剤がテストされてきた(Zhangら(前掲))。本発明の開発中に行った実験は、PPARγアゴニストが嚢の空洞化の予防に有用であり、CNS損傷後の臨床結果を改善するための手段を提供することを示す。
【0141】
本発明の開発中に行った実験は、活性化マクロファージまたは非活性化マクロファージを導入した時のコンフルエントな単層における星状細胞の反応(神経系における外傷の後に起こる事象の順番に似た反応)を比較するために、進行性壊死の組織培養モデルを用いた(例えば実施例8を参照されたい)。外傷後にin vivoで見られるように、本発明のモデルは、2つの主な細胞型を直接的に接触および相互作用をさせる。各細胞型の生細胞および死細胞の数を定量的に測定し、各培養物について「培養腔」のサイズを測定した。これらの腔は、細胞を全く含まない培養物の領域(すなわち、もともと星状細胞の集密的単層によって覆われていたが後に細胞が無くなった領域)として観測された。これは、脳または骨髄の損傷後に起こる進行性壊死の結果生じる嚢腔において見られる無星状細胞領域に似ている。これらの腔は、星状細胞の死、星状細胞の移出、または両プロセスの様々な組合せによって生じ得る。
【0142】
図17のグラフは、マクロファージの活性化および抗炎症性PPARγアゴニストを用いた治療による、星状細胞-マクロファージ共培養物における変化の定量的分析を示す。各治療カテゴリーは、適切な薬物またはビヒクルで処理した非活性化マクロファージ対照(各対照群の平均を1に設定)と比べて表されている。アスタリスクは、分散分析(ANOVA)のためのFisher’s PLSD法によって、プールした「対照:非活性化マクロファージ」群に対する統計的有意差(p<0.5)を示す。図17に示すように、活性化されたマクロファージは、CNS損傷後に見られる空洞の発生に良く似た変化を星状細胞培養物において誘導した。顕微鏡視野あたりの星状細胞消失領域は、無処置(ビヒクル)の活性化マクロファージによって有意に増加し、これは、in vivo CNS損傷後に見られる空洞化に似ている。活性化マクロファージのインドメタシン処置(100μM)は、対照レベルと比べて培養腔面積のこの増加を妨げなかった。対照的に、活性化マクロファージのプロスタグランジンJ2処置(10μM)およびシグリタゾン処置(50μM)は、星状細胞培養物と相互作用しながら、非活性化マクロファージを用いたこれらの対照レベルに比べて培養腔面積の増加を完全に止めた。プロスタグランジンJ2の場合、視野あたりの培養物空洞化の平均サイズは、対照レベルに維持された(すなわち腔サイズの増加は妨げられた)が、シグリタゾンは、視野あたりの腔のサイズを対照の腔サイズより大幅に小さくした。
【0143】
これらの結果は、PPARγアゴニストがCNS損傷に伴う進行性壊死における活性化マクロファージの破壊的影響を効果的に遮断することができることを、定性的および定量的に示す。また、これらの結果は、本発明の方法および組成物(例えばPPARγアゴニスト)が、最初の外傷の重篤度が増す中で2次障害につながるような炎症性続発症を防ぐために、骨髄および脳の損傷のin vivo治療において重要な治療的用途に用いられることも示す。
【0144】
以下の説明は、本発明の幾つかの臨床適用のための用量および治療条件を評価するためのテストモデルを提供する。これらの実施例は、一連の適用とこのような治療において使用される一般的手順を示すために提供されるが、本発明の用途をこれらの具体的な実施例に限定することを意図するものではない。当業者であれば、これらの手順が様々な臨床適用に広く応用できることが分かるであろう。選択されたモデルおよび治療の実施に関して、本発明の精神から逸脱することなく、変化を加えることができることを理解されたい。
【0145】
A. 多発性硬化症および免疫性神経障害
本発明の治療薬を用いた治療薬は、多発性硬化症および免疫性神経障害の動物疾患モデルに使用することができると考えられる。多発性硬化症(MS)、ギヤン‐バレー症候群、および同類の自己免疫疾患の主な動物モデルは、げっ歯類実験的自己免疫性神経障害(EAN)である(例えばGauppら, J. Neuroimmunol. 79:129[1997];およびHoら, Ann. Rev. Neurosci. 21: 187[1998]を参照されたい)。
【0146】
このように、幾つかの実施形態において、本発明の方法および組成物は、臨床的および病理的マーカーを抑制するPPARγアゴニストの効力を測定するために使用することができる。EANは、猛烈な脱髄、臨床的神経脱落および麻痺を引き起こし、これはあきらかにリンパ球、マクロファージおよび単球の活性化ならびにこれに伴うサイトカイン発現の誘導によるものである。前炎症性サイトカインは疾患の主な病理学的特徴に関連しており、これらの発現の阻害は、この病理的影響の強さおよび臨床結果を低減させると考えられる。
【0147】
常染色体優性遺伝子がMHC遺伝子クラスターにリンクしているためルイスラットはEAEにかかりやすいので、EAEのルイスラットモデルを用いた実験が考えられる(Zhuら, J. Neuroimmunol. 84:40[1998];およびMartineyら, J. Immunol. 160: 5588[1998])。これらの実験では、フロイントの完全アジュバント中の末梢神経系ミエリンでルイスラットを免疫する。その後、これらのラットは末梢肢節虚弱を発症し、これは進行すると最終的に麻痺となる。神経脱落は、0〜5段階で評価し、0は脱落が観察されなかったことを示し、5は完全な麻痺を示す。臨床的機能障害の開始時刻および重篤度を45日日にわたり評価する。この期間の間を通して、脳および骨髄の両方に由来するTNF-α、IL-1βおよびIL-6mRNAレベルの準定量的な(semi-quantitative)分析のためのRT-PCRを用いて、サイトカインの発現を評価する。これらの動物に、PPARγアゴニスト、トログリタゾン(レズリン)(10〜50mg/kg)、ドコサヘキサン酸(100mg/kg)およびインドメタシン(2mg/kg)、またはビヒクル(対照)を経口投与する。実験の第1組は、免疫時から始まって45日の評価期間の間、治療薬により動物を治療する。最初の実験の後、治療薬の用量を再評価し、症状の発症時まで薬物投与を遅らせて実験を行う。
【0148】
B. 発作および虚血性脳損傷
前炎症性サイトカインは、発作および他の虚血性脳損傷を伴う進行性の神経病理学的変化において重大な役割を担う(SharmaおよびKumar, Metab. Brain Dis. 13:1[1998];およびRothwellら, J. Clin. Invest. 100: 2648[1998])。脳内に虚血が起こると、脳内の神経病理学的変化にメカニズム上関連する様々なサイトカイン(特にIL-1β、TNF-αおよびIL-6)の発現が誘導される。虚血の臨床的および解剖学的続発症を緩和するためにサイトカインの作用を阻害する実験的治療が報告されている。
【0149】
げっ歯類の発作モデルを使用する実験が考えられる。このモデルでは、成体Sprague-Dawleyラットにおいて熱凝固により中大脳動脈(MCA)を閉塞させる。次に、14日間以上の様々な間隔後にこれらの動物を解剖する(Hillhouseら, Neurosci. Lett. 249: 177[1997])。脳を切片に分け、梗塞部分および脳浮腫を評価し、梗塞自体の中、該梗塞の周辺領域および虚血の影響を受けない領域におけるIL-1β、TNF-α、およびIL-6のmRNAレベルを、RT-PCRによって測定する(SharmaおよびKumar(前掲))。最初の研究において、実験前の一週間および虚血後期間を通して、PPARγアゴニストであるインドメタシン(2mg/kg)、ドコサヘキサン酸(100mg/kg)、トログリタゾン(10〜50mg/kg)、またはビヒクル(対照)を用いて動物を毎日(経口投与により)処理する。また、MCA閉塞の直後にPPARγアゴニストを与えた動物においてフォローアップ実験を行う。これらの動物を、最初の4時間は1時間毎に、および72時間のあいだ24時間毎に、モニターする。
【0150】
C. 外傷による脳および脊髄の損傷
神経系への外傷的損傷(脳および脊髄の衝撃および貫通による損傷を含む)は、前炎症性サイトカインの局所的合成および分泌を引き起こす。サイトカインのレベルの上昇は、外傷的損傷に伴う病理学的変化を開始および変化させることが分かっている。特に、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルは、損傷後に星状細胞およびミクログリアからこれらが放出される結果、有意に増大することが分かっている。神経系への外傷的損傷に伴う2次変化の多くは、この免疫性2次変性反応に関連していた。
【0151】
本発明の幾つかの実施形態において、実験は、十分確立された骨髄挫傷損傷モデルを用いて、PPARγアゴニストが腔サイズの削減および外傷からの行動回復の改善において及ぼす影響を測定する。1つの実施形態において、これらの実験は、嚢の空洞化につながり得る直接的な損傷のモデルを提供するNYU Weight-Dropデバイスを使用する(例えばConstantiniおよびYoung, J. Neurosurg. 80: 97[1994];およびBassoら, Exp. Neuro. 139: 244[1996]を参照されたい)。この装置は、4段階の傷害重篤度で、標準化された再現可能な挫傷による損傷を脊髄に与える。これらの実験において、成体Sprague-Dawleyラットを4つのグループに分け、各々に4段階の重篤度の挫傷による損傷を脊髄に与える。実験的な損傷を与えた日から、対照動物にはビヒクルのみを毎日経口投与し、実験グループには、PPARγアゴニストであるドコサヘキサン酸(100mg/kg)、トログリタゾン(10〜50mg/kg)、またはインドメタシン(2mg/kg)を毎日経口投与する。これらの動物の行動的回復を、Basso、BeattieおよびBresnahanスケール(BBBスケール)に基づいて、後脚の機能をモニターする0〜21スケールで、6週間にわたり毎週評価する(Bassoら(前掲))。各グループから数匹の動物を24時間、48時間およびその後毎週犠牲にし、組織学的評価、ならびに病巣サイズ、腔サイズ、および軸索変性変化の定量を行う。脊髄の障害領域、該障害のすぐ周辺の領域、および損傷から離れた領域における炎症性サイトカインTNF-α、IL-1βおよびIL-6のレベルを、損傷後1日、14日および42日目にRT-PCRによって評価する。
【0152】
D. アルツハイマー病患者におけるPPARγアゴニストの臨床学的評価
罹患した患者におけるその病気の進行を測定する臨床実験において、PPARγアゴニストの効力を評価する。例えば、1組の実験において、n-3脂肪酸、ドコサヘキサン酸、およびチアゾリジンジオンであるトログリタゾン(レズリン)を二重盲検、プラセボコントロール、無作為試験でテストする。
【0153】
主な患者登録基準は、他の中枢神経系疾患を持たない中程度の重篤度のアルツハイマー病(臨床学的重篤度=2)に罹り、精神活性薬物の投与を受けず、自宅で生活している患者である。2年間にわたり、一次および2次予後測定の両方を用いて患者を診察することにより、病気の進行速度を評価する。臨床学的評価は、3ヶ月間隔で行う。一次予後測定は、死亡時期、特殊施設への収容、Blessed Dementia Scaleを用いて測定される3つの基本的な日常活動の内の2つを行う能力の喪失(例えばHeunら, Int. J. Geriatr. Psychiatry 13:368[1998]を参照されたい)、および重い臨床痴呆(臨床痴呆等級=3)を含む。2次予後測定は、認識力(精神状態のミニ検査およびアルツハイマー病評価スケール[例えばRogersら, Arch. Intern. Med. 158: 1021(1998)])、および行動(痴呆についての行動等級スケール[例えばHeunら(前掲)を参照されたい])、および機能の測定を含む。機能は、道具を使った行動(例えばリストを覚えたりお金を扱ったり等)および基本的な行動(例えば食べる、トイレを使う、身だしなみを整える等)によって評価する。
【0154】
患者にはDHA(6mg/日)を経口投与により与えた。この用量は、十分耐量範囲内であることが証明されており、この用量での脂肪酸の代謝について多くのデータが文書化されている(Nelsonら, Lipids 32: 1137[1997])。400mg/日の用量でトログリタゾン(レズリン)をテストする。この用量は、糖尿病適用に推奨されるものであり、この病気の進行実験の設計は、アルツハイマー病に対するビタミンEの効果についての過去の研究において実証済みである(Sanoら, New Engl. J. Med. 336: 1216[1997])。
【0155】
動物およびヒト実験におけるPPARγアゴニストの効力をテストするための他の方法は、当分野において公知であり(例えばJohnsonら, Ann. Pharma. 32: 337[1998];Loiら, J. Clin. Pharmacol. 37: 1038[1997];Suterら, Diabetes Care 15:193[1992];Ogiharaら, Am. J. Hypertens. 8:316[1995];Iwamotoら, Diabetes Care 19: 151[1996];Iwamotoら, Diabetes Care 14: 1083[1991];Nolanら, N. Engl. J. Med. 331: 1188[1994];Antonucciら,Diabetes Care 20:188[1997];およびGhazziら, Diabetes 46: 433[1997]を参照されたい)、本発明により考慮される。
【0156】
III. 薬物のスクリーニングおよび疾患の分子調節
本発明は、COX-2発現を制御する、COS-2発現に影響を及ぼす因子を同定する(例えば薬物スクリーニング法)、およびCOS-2の過剰発現または過小発現に伴う病状に関係のあるシグナル伝達経路を同定および制御するための、新規調節配列を提供する。特に、本発明は、本発明の開発中に同定されたPPARγエンハンサーを用いる方法および組成物を提供する。上記炎症性の疾患および症状の他に、本発明の方法および組成物は、COX-2発現によって影響を受ける様々な生理学的事象および細胞事象に利用できる。このような事象としては特に、ホルモンシグナル伝達、成長因子シグナル伝達、結腸直腸癌等の癌(例えばFranzeseら, Melanoma Res. 8:323[1998]を参照されたい)、視力(例えばCamrasら, Opthamology 103, 1916[1996]を参照されたい)、睡眠/覚醒サイクル(例えばScrammellら, Proc. Natl. Acad. Sci., 95:7754[1998]を参照されたい)、血小板凝集(例えばWu, J. Formos, Med. Assoc. 95, 661[1996]を参照されたい)、黄体融解(例えばTsaiおよびWiltbank, Biol. Reprod. 57, 1016[1997]を参照されたい)、細胞の分化および発生、慢性関節リウマチや変形性関節症(Vaneら, Ann. Rev. Pharm. Tox. 38:97[1998])、ならびに痛覚過敏、異痛症および過温症(Kaufmannら, Prostaglandins 54:601[1997])が挙げられるが、これらに限定されない。
【0157】
シクロオキシゲナーゼ-2(シクロオキシゲナーゼ酵素の誘導可能な形態)は、プロスタグランジンの病理学的作用(炎症性物質、ホルモン、成長因子およびサイトカイン等の物質に応答して該酵素の急速な誘導が起こる)に主に関係する。このように、COX-2の選択的インヒビターは、従来の非ステロイド系抗炎症薬に似た抗炎症作用、解熱作用、および鎮痛作用の特性を有するであろうし、また付け加えて、ホルモンにより誘導される子宮収縮を阻害し、潜在的な抗癌作用を有するであろうが、メカニズムに基づく幾つかの副作用(例えばCOX-1の阻害により引き起こされる副作用)を誘導する能力は低い。特に、好適な実施形態において、このような化合物は、胃腸毒性の可能性が低く、腎臓への副作用の可能性が低く、出血時間に及ぼす影響が少なく、また幾つかの実施形態において、おそらくアスピリン感受性喘息の被験者における喘息発作を誘導する可能性が低い。
【0158】
従って、本発明の目的は、COX-2およびCOX-2活性の強力なインヒビターである薬理学的物質の同定および評価に適したアッセイ(方法)ならびに物質(組成物)を提供することである。また、本発明の目的は、COX-1およびCOX-1活性よりもCOX-2およびCOX-2活性を優先的にまたは選択的に阻害する薬理学的物質を同定および評価するためのアッセイならびに物質を提供することである。
【0159】
以下に開示されるのは、PPARγおよびCOX-2のシグナル伝達経路ならびに細胞応答に関与する化合物のスクリーニングに適した例示的なアッセイである。これらのアッセイにより候補化合物をテストすることができる。本発明は例示されたアッセイの使用に限られず、当業者に公知の他のアッセイを使用してもよい。
【0160】
本発明のアッセイのベースとなるのは、cox-2遺伝子の5’側-調節領域の一部を含む調節エレメントを介したPPARγによるcox-2の転写調節である。特に、本発明は、図18に示すPPARγ応答性調節エレメントを含むヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分(配列番号1)を含む核酸分子を提供する(Genbank受け入れ番号:U20548)。本発明は、本発明のPPARγ応答性調節エレメントまたはその機能的類似体を含むのであれば、cox-2プロモーターのより大きな部分や小さな部分の使用も想定する。本明細書中に開示される方法や当分野で公知の方法などの方法を用いて、連結された遺伝子に対して調節活性を与えるcox-2プロモーターの活性断片を同定する。例えば、上記ヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分の欠失突然変異体を構築し、残りの部分の、連結された遺伝子に対して調節活性(例えばPPARγ応答性調節活性)を与える能力について分析する。プロモーターの一部を調製するための方法(例えば5’側もしくは3’側の欠失または中間欠失)は当分野では周知であり、例えば天然の制限部位もしくは人工的な制限部位の使用、ヌクレアーゼ消化、またはオリゴヌクレオチド特異的「ループアウト」突然変異誘発法が含まれる。さらに、cox-2プロモーターの小さな部分を相補的な合成オリゴヌクレオチドのアニーリングにより構築する。所望であれば、活性の低下により調節領域を同定するために、プロモーター領域を突然変異により改変する(例えば部位特異的突然変異誘発)。連結遺伝子に対する調節活性を与える能力を変えない改変を含む、改変されたcox-2プロモーターまたはその改変活性断片は、「cox-2プロモーター」の意味に含まれる。
【0161】
本発明のDNA構築物のオリゴヌクレオチド配列は、PPARγ応答性調節エレメントのみを含むか、またはさらに隣接するヌクレオチド配列を含むことができる。また、本発明のDNA構築物のオリゴヌクレオチド配列成分は、PPARγ応答性調節エレメントの2以上の「ユニット」からなる多量体を含んでいてもよい。プロモーターや異種遺伝子を含む本発明のDNA構築物に使用する場合、該調節エレメントの多量体は、PPARγまたは他のシグナル伝達分子に応答して、そのDNA構築物からの該遺伝子の発現を促進する。
【0162】
レポータープラスミドなどの本発明の組換えDNA構築物は、従来の分子生物学、微生物学、および当業者に周知である遺伝子組換技法を用いて構築される。このような技法は、Maniatisら(Maniatisら, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”[1982])およびAusubel(Ausubel, “Current Protocols in Molecular Biology,” Wiley, New York[1994])等の文献に詳しく説明されており、これらの文献の開示内容は本明細書中に参考として組み込まれる。COX-2発現ベクターを構築しこれを使用する方法および組成物は、米国特許第5,543,297号に記載されており、当該特許は全て本明細書中に参考として組み込まれる。
【0163】
本発明の幾つかの実施形態において、本発明の組換えDNA組成物または構築物は、ヌクレオチドの所望のセットで構成され得る異種遺伝子を含む。このような異種遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌された胎盤アルカリホスファターゼ、ヒト成長ホルモン、tPA、グリーン蛍光タンパク質、およびインターフェロンの構造遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の構築物および方法に使用できる異種遺伝子のより詳しいリストについては、Beaudet(Beaudet, Am. J. Hum. Gen. 37: 386[1985])を参照されたい。
【0164】
好ましくは、異種遺伝子は、本発明のプロモーターおよび調節エレメント/オリゴヌクレオチド配列を介した転写調節を評価するために用いることができる遺伝子産物を生じるレポーター遺伝子を含む。このレポーター遺伝子が発現されると、簡単に検出することができるレポーター産物(例えばタンパク質)が形成される。本発明の1つの実施形態において、レポーター分子の存在は、該レポーター分子に特異的に結合することができる抗体または抗体フラグメントを用いて検出される。他の実施形態において、β-ガラクトシダーゼやルシフェラーゼ等のレポーターは、酵素的または免疫学的にアッセイされる。
【0165】
幾つかの実施形態において、本発明の組換え分子は、レポーター細胞を産生するのに適した宿主細胞中に導入される。COX-2発現に適した宿主細胞は、米国特許第5,543,297号に記載されている。本明細書中のスクリーニングアッセイに使用される宿主細胞は一般には哺乳動物細胞であり、好ましくはヒト細胞系である。またスクリーニングアッセイには哺乳動物以外の細胞系を使用することもでき、例えばショウジョウバエ属(SL-2やKcなど)および酵母株(S. cerevisiaeおよびS. pombeなど)だけでなく、他の細胞(例えば線虫類細胞など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
転写調節タンパク質(例えばPPARγ)を調節(例えば活性化または抑制)することができる分子を含むことが疑われる化合物またはサンプルを用いて、これらのレポーター細胞を処理する。所望のインキュベーションが完了したら、レポーター産物が存在するか否かについて細胞をアッセイする。対照サンプルと比較したレポーター産物のレベルは、cox-2 PPARγ感受性調節エレメントを介して転写を調節する試験化合物の能力を示す。また、公知のPPARγアゴニストの存在下または不在下で、PPARγのレベルを変えて(例えばPPARγ発現ベクターの導入、PPARγとへテロダイマー化して調節エレメントに結合するその能力を変化させたタンパク質の導入、または天然のPPARγ発現を誘導する化合物の導入によってレベルを変えて)実験を行う。このような実験は、PPARγにより誘導されるCOX-2発現の調節を刺激するまたは該調節と拮抗する試験化合物の能力を同定する。
【0167】
一般に、本発明のアッセイは、活性化もしくは抑制された調節タンパク質(例えばPPARγ)を介して遺伝子転写を誘導するシグナル伝達分子のアゴニストおよびアンタゴニストを検出する。本明細書中で使用される「遺伝子転写のアゴニストまたはアンタゴニスト」とは、シグナル伝達経路の中の任意の地点において、1以上の転写調節タンパク質の活性化および該タンパク質のDNA調節エレメントへの結合によるシグナル伝達分子と細胞表面受容体との相互作用(最終的な結果としてcox-2遺伝子の転写がモジュレートされる)に干渉する化合物を含む。さらに、本明細書中に使用される「遺伝子転写のアゴニストおよびアンタゴニスト」とは、このようなアゴニストまたはアンタゴニストの特徴を有する公知の化合物の促進物質(potentiator)も含む。
【0168】
好適な実施形態において、アゴニストは、トランスフェクトした宿主細胞を化合物または化合物の混合物と接触させ、その一定時間経過後に、処理した細胞内の遺伝子発現のレベル(例えばレポーター産物のレベル)を測定することにより、検出される。次にこの発現レベルを該化合物の不在下における発現レベルと比較する。遺伝子発現のレベルにおいて差がある場合、この差は目的の化合物が公知のアゴニストシグナル伝達分子(例えば公知のPPARγアゴニスト)と類似した様式で細胞内の転写調節タンパク質の活性化を拮抗することを示す。さらに、処理した細胞と未処理の細胞との間で発現されるレポーター産物のレベルの大きさは、転写調節タンパク質経路を介する遺伝子転写のアゴニストとしての前記化合物の強さを相対的に示す。
【0169】
あるいは、このようなトランスフェクトされた細胞を用いて、公知のアゴニストのアンタゴニストを同定する。これらのアッセイのこのような好適な実施形態において、目的の化合物を固定濃度に維持された1以上の公知のアゴニストと一緒に宿主細胞に接触させる。その化合物が宿主細胞における遺伝子発現のレベルを、化合物の不在下で且つ公知のアゴニストの存在下で宿主細胞中で観察されるレベルよりどれだけ低く抑制するかの程度は、このような化合物のアンタゴニスト特性の指標および相対的な強さを提供する。
【0170】
本発明の幾つかの実施形態において、スクリーニングアッセイはin vivoで行われる。マウスなどの動物は、化合物を投与することができる主なスクリーニングビヒクルとして使用することができ、および栄養補給、体重、サイトカインmRNAのレベル(例えばTNF-α、IL-1βおよびIL-6 のmRNAレベルなど)、COX-2 mRNAもしくはタンパク質の産生のレベル、またはCOX-2活性レベル(例えば米国特許第5,543,297号)などのパラメータを他の適当な対照と共に測定して、COX-2タンパク質、mRNAまたは活性における変化を効率的に評価することができる。他の実施形態において、cox-2 PPARγ応答性5’側調節領域に機能的に連結されたレポーター遺伝子またはcox-2 cDNA(Genbank受け入れ番号AF044206、U20548およびU04636)を、標準的なトランスジェニック手法を用いて動物に導入し、外来DNAを発現させる。
【0171】
例えば、本発明の1つの実施形態において、トランスジェニックマウスは、上記ヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分の調節制御下で受精卵に所望の異種レポーター遺伝子を含む構築物を注入することによって産生される。この構築物は、Brinsterらの手法(Brinsterら, Proc. Natl. Acad. Sci., 82: 4438[1985])によりマウスの受精卵の中にマイクロインジェクション法により注入される。所望の投与法を用いてトランスジェニック動物を試験化合物で処理し、組織を収穫して、レポーター遺伝子の発現について試験して、発現を変更する該試験化合物の能力を、その試験化合物を与えていない対照動物と比べて測定する。アゴニストおよびアンタゴニストは、PPARγ感受性調節エレメントを用いてレポーター発現を増減するこれらの能力により同定される。
【0172】
このように、本発明は、該DNA構築物のPPARγ感受性調節エレメントおよび本発明のトランスフェクトされた宿主細胞を用いてcox-2遺伝子転写のアゴニストおよびアンタゴニストをアッセイするための方法および組成物を提供する。さらに、これらの方法および組成物を用いて発見されたアゴニストおよびアンタゴニスト化合物は、様々なCOX-2調節機能の介入において医薬として機能し得る。上記PPARγアゴニストのほかに、これらの化合物は、cox-2を発現することができる被験者の細胞中に該化合物を導入してcox-2の発現およびこれに関連する生理学的機能を調節する方法において使用することができる。PPARγがその細胞の中において十分に発現されない場合は、望ましければPPARγ発現を刺激または提供する化合物(例えばPPARγ発現構築物およびPPARγ発現を刺激する物質など)と共に該化合物を導入してもよい。例えば、望ましくないCOX-2発現により病気にかかった細胞において、本発明の治療化合物を導入してCOX-2発現のPPARγ誘導型抑制を容易にする。実際に、本発明は、PPARγが関与するメカニズムを介してCOX-2発現を調節する化合物を用いてCOX-2発現細胞をターゲッティングするための、今まで認識されていない手段を提供する。
【0173】
実験
以下の実施例は、本発明のある好適な実施形態および態様を示説しさらに例証するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0174】
以下の実験の開示において、以下の略語が使用される:N(正常);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度):μM(マイクロモル濃度);mol(モル):mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル):nmol(ナノモル);pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏℃);Sigma(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)。
【0175】
後述の実施例においては以下の材料およびプロトコールを使用した。
【0176】
A. 材料
抗ホスホチロシン抗体4G10はUpstate Biotechnology Incorporated(Lake Placid, NY)から得た。抗COX-2抗体はTransduction Laboratories(Lexington, KY)から得た。抗GFAP抗体はAccurate Chemical & Scientific Corporation(Westbury, NY)から得た。ヤギ抗マウスF(ab)2は、Cappel(West Chester, PA)から得た。アフィニティー精製した西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス抗体およびヤギ抗ウサギ抗体は、Boehringer Mannheim(Indianapolis, IN)から購入した。ヒトβアミロイドのアミノ酸25〜35および1〜40に対応するペプチドは、Bachem(Philadelphia, PA)から購入した。β-アミロイドペプチドは滅菌dH2O中に再懸濁した。凍結乾燥ペプチドを滅菌蒸留水の中で再構成した後、37℃にて1週間インキュベートすることにより、筋原線維βアミロイド1〜40を調製した。LPS、TPAおよびコンカナバリンA(Con A)をSigmaから購入した。シグリタゾンは、Biomol(Plymouth Meeting, PA)から得た。DHAおよびプロスタグランジンJ2は、Calbiochem(San Diego, CA)から入手した。
【0177】
B. 組織培養
5%CO2中で、10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS)、5×10-5M 2-メルカプトエタノール、5mM HEPESおよび2μg/mlゲンタマイシンを添加したRPMI-1640(Whittaker Bioproducts, Walkersville, MD)中でTHP-1細胞を培養した。ミクログリアおよび星状細胞培養物は、以前に記載されたように(McDonaldら, J. Neurosci. 18:4451[1997])、生後1〜2日のマウス脳(C57B1/6J)から得た。ミクログリアを回収した後に星状細胞を回収し、連続継代を行って、星状細胞を増やした。E17マウス(C57B1/6J)の皮質からニューロンを培養した。髄膜を含まない皮質を単離し、0.25%トリプシン、1mM EDTA中で37℃にて15分間消化した。20%熱不活化FCSを含むDMEMを用いてトリプシンを不活化した。B27を添加した神経基本培地(Neurobasal media)に皮質を移し、すりつぶして、ポリ-L-リジン(0.05mg/ml)をコーティングした組織培養ウェル上に載せた。ニューロンを、B2を添加した神経基本培地(4.0×104/24ウェル組織培養プレート)中で、使用前にin vitroで5〜7日間培養した。
【0178】
C. 細胞刺激
THP-1細胞およびミクログリアを、刺激前にまずこれらそれぞれの培地を除去し、これをハンクス液(HBSS)に取り替えて、37℃にて30分間放置した。細胞を、懸濁液(5〜10×106細胞/200μl HBSS)中で、または結合ペプチド(48pmole/mm2)上に載せることにより、刺激した。結合ペプチドは、以前に記載されたように(LagenaurおよびLemmon, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:7753[1987])調製した。簡単にまとめると、組織培養ウェルをニトロセルロースでコーティングし、このコーティングしたウェルにペプチドを加えて乾燥させた。次にウェルを滅菌3% BSAと共にdH2O中で1時間インキュベートし、ニトロセルロースとの細胞の相互作用を遮断した。BSAを除去し、THP-1細胞をHBSS中に加えて10分間放置した。培地を調整するために、THP-1細胞(1.8×104)を、48ウェル組織培養皿中の結合ペプチドを含む神経基本培地(0.25ml)が入ったウェルに、薬物と共にまたは薬物なしで加え、48時間置いた。
【0179】
D. 神経毒性研究
THP-1単球を用いた神経毒性実験では、上記のように馴化培地0.25mlを加えた。培地を回収し、遠心分離して非接着細胞をペレット状にし、神経培養物(in vitroで5〜7日)に直接加えて72時間置いた。全ての条件で2重テストを行い、ウェル上に計数グリッドを載せて、各条件毎に8つの同じ視野(field)からニューロンの数を数えた。各条件毎にニューロンの数の平均値を求め、ニューロンの生存率を評価した。
【0180】
E. ウェスタンブロッティング
200μlの氷冷したRIPA緩衝液(1% Triton, 0.1% SDS, 0.5%デオキシコール酸エステル, 20mM Tris(pH7.4), 150mM NaCl, 10mM NaF, 1mM Na3VO4, 1mM EDTA, 1mM EGTA, 0.2mM PMSF)の中で細胞を溶解し、遠心分離(10,000×g、4℃、10分間)により不溶物質を除去した。Bradfordの方法(Bradford, Anal. Biochem. 72:248[1976])によってタンパク質濃度を定量した。タンパク質を7.5% SDS-PAGEにより分離し、一次抗体4G10(1:2000)またはCOX-2(1:250)を用いて4℃にて一晩、ウェスタンブロッティングを行った。増大した化学ルミネッセンス(Pierce, Rockford, IL)を介して抗体結合を検出した。
【0181】
F. シクロオキシゲナーゼ-2発現
様々な薬物の存在下または不在下で、THP-1単球またはRAW264.7マウスマクロファージをTPA(100nM)、LPSまたは筋原線維Aβ25-35と共に、5%FCSを含むRPMI培地の中で18時間インキュベートした。RIPA緩衝液中で細胞を溶解し、細胞溶解物のアリコートをSDS-PAGEにより分離し、PVDF膜に移し、COX-2に対する抗体を用いてプローブした。
【0182】
G. IL-6およびTNF-αプロモーターアッセイ
DEAE-デキストランを用いて、ルシフェラーゼに結合した上流プロモーター配列(-1160〜+14)を含むヒトIL6-ルシフェラーゼレポーター構築物を、βガラクトシダーゼレポーター構築物と一緒にTHP-1細胞中にトランスフェクトし、トランスフェクション効率を制御した。ヒトTNF-αレポーター構築物は、ルシフェラーゼに連結された5’上流プロモーター配列の配列1.2kbを含んでいた。細胞をトランスフェクトし、48時間後に薬物の存在下または不在下において40μM Aβまたは1μg/ml LPSを用いて無血清RPMI中で6時間刺激し、細胞溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0183】
H. シクロオキシゲナーゼ-2プロモーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーター(ボストン大学のDr. Peter Polgarより贈呈)に結合されたヒトシクロオキシゲナーゼ-2遺伝子の5’側隣接領域の2.3kbを担持するプラスミドを用いて、THP-1単球(40μg DNA/107細胞)をエレクトロポレーションにかけた。SV40駆動型β-ガラクトシダーゼベクターをコトランスフェクトして、トランスフェクション効率の評価を行った。次に細胞を、指定薬物の存在下または不在下において、インキュベーションの最後の18時間の間、インキュベートした。トランスフェクションの48時間後に細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0184】
実施例1
Aβで刺激される細胞内シグナル伝達経路に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、Aβで刺激される細胞内シグナル伝達経路がPPARγアゴニストによって影響されないことを証明する。図1に示すように、原線維形態のAβ1へのTHP-1単球若しくは一次ミクログリアの曝露は、チロシンキナーゼであるLyn、Syk、FAKおよびPyk2(Burridge and Chrzanowska,Ann.Rev.Cell Dev.Biol.12:463 [1996];Ghazizadehら、J.Biol.Chem.269:8878 [1994];Kienerら、J.Biol.Chem.268:24442 [1993];ならびにLevら、Nature 376:737 [1995])の活性化の結果として、タンパク質のチロシンリン酸化の刺激をもたらした。図1において、THP-1細胞を、ベヒクルのみ(c)、またはβA25-35(40μM、2分間)若しくはConA(60μg/ml、5分間、陽性対照)で刺激した。抗リン酸化チロシン抗体、PY20を使用して、チロシンリン酸化されたタンパク質を免疫沈降させることによって、βアミロイドで刺激されたTHP-1細胞中のチロシンキナーゼ活性の増加をモニターした。この免疫沈降したタンパク質を[32P]ATP中でインキュベートし、自己リン酸化させて、活性化チロシンキナーゼおよびその基質を可視化した。図は、SDS-PAGEによって分離したタンパク質のオートラジオグラムを示す。
【0185】
Aβに対するこれらの細胞の応答に介在するキナーゼおよびシグナル伝達機構のエレメントの活性化に影響を与えるPPARγアゴニストの能力を試験した。図2に示すように、PPARγアゴニストである、PGJ2、DHA、シグリタゾンおよびトログリタゾンは、Aβへの曝露後のタンパク質チロシンリン酸化の誘導を有意には変更しなかった。この図中、チロシンキナーゼシグナル伝達カスケードの活性化に及ぼすPPARγアゴニストの効果を、細胞をベヒクル(DMSO)のみ、または10μM PGJ2、50μM DHA、50μM シグリタゾン若しくは50μM トログリタゾンとともに24時間インキュベートした後、抗リン酸化チロシン Ab、4G10を使用した細胞溶解物のウエスタンブロットによって試験した。これらのデータにより、PPARγアゴニストがこれらの細胞中での炎症性応答に連結するシグナル伝達カスケードの主要な触媒構成要素と相互作用しないことを証明している。
【0186】
実施例2
マクロファージ分化に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがTHP-1のマクロファージへの分化を抑制することを証明する。単球は、ホルボールエステル若しくはその他の活性化刺激物に曝露された後、形態的および生化学的に分化してマクロファージ表現型になる(Tsuchiyaら、Cancer Res. 42:1530 [1982])。図3A-Jに示すように、THP-1細胞のマクロファージへの表現型の転換は、細胞をTPA(100 nM)に48時間曝露することによって刺激された。TPAが誘導する分化を抑制するPPARγアゴニストの能力を形態学的にモニターした。細胞を、(図3A)ベヒクルのみ(対照;DMSO、エタノール)または(図3B)100 nM TPAとともに以下のPPARγアゴニストを含ませるか含ませないで48時間インキュベートした:(図3C、D)10μM PGJ2、(図3E、F)50μM DHA、(図3G、H)50μM シグリタゾン、および(図3I、J)50μM トログリタゾン。この図に示されるように、細胞のTPAならびにPPARγアゴニストである、PGJ2、DHA、シグリタゾンおよびトログリタゾンを併用した曝露は、細胞の分化を阻止した。これらのデータは、PPARγアゴニストがこれらの細胞の分化に関与する広範囲の細胞の活性を抑止するように作用することの直接的な証拠を提供する。さらに、これらの知見は、これらの細胞内での反応性表現型の生成を阻止する能力によって、抗炎症剤として作用するこれらの薬剤の役割と一致する。
【0187】
実施例3
ミクログリアが介在するアストロサイトの活性化に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、ミクログリアが介在するアストロサイトの活性化をPPARγアゴニストが阻止することを証明する。アストロサイトグリオーシスおよび分枝した「活性化」形態の獲得が、多数のCNS疾患において、また急性および慢性の両方の脳傷害に応答して観察される。これらの状況におけるアストロサイトの一次応答は、中間径フィラメントタンパク質、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現の増大であり、これはアストロサイトの活性化の標準的なマーカーとして有用である。馴化培地は、Aβ原繊維による単球の活性化後に単球によって産生される多数の前炎症性分泌産物を含んでいる。この培養系は、アルツハイマー病、ならびにアストロサイトの反応性が重要な役割をする多数のCNS疾患において観察されるアストロサイトグリオーシスの研究のためのモデルを提供する。
【0188】
図4は、βアミロイドで刺激されたTHP-1細胞からの馴化培地が培養で反応性アストロサイト形態を誘導するのを抑制する、PPARγアゴニストの能力を示す。THP-1細胞をこれのみ、またはベヒクル(DMSO)若しくは10μM PGJ2の存在下にて表面結合βA25-35(48 pmole/mm2)上に平板培養することによって、48時間刺激した。(図4A)培地のみのウェル、(図4B)βA25-35で刺激したTHP-1細胞培養物、(図4C)βA25-35で刺激したTHP-1+10μM PGJ2細胞培養物、(図4D)10μM PGJ2のみのウェル、(図4E)表面結合βAのみのウェル、ならびに(図4F)THP-1細胞のみの培養物から、培地を回収した。次に精製したマウスアストロサイト培養物にこの馴化培地を72時間添加した。培養物を固定し、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)について染色した。
【0189】
図4に示すように、形態若しくはGFAP発現によって評価したところ、未処理のTHP-1細胞若しくはアストロサイトからの馴化培地へのアストロサイトの曝露、および原繊維への直接の曝露は、対照培養物との検知し得る差異が導かれなかった。しかし、活性化されたAβ処理THP-1細胞からの馴化培地は、アストロサイトの活性化を反映して、GFAP免疫反応性の劇的な増加と分枝した形状の発生を誘起した。重要なことは、AβおよびPPARγアゴニスト PGJ2で同時に処理したTHP-1細胞が見かけ上、対照培養物と同様だったことである。これらの観察は、PPARγアゴニストがアストロサイトの活性化に対応するミクログリア分泌産物の産生を抑制することの証拠を提供する。
【0190】
実施例4
単球が介在する神経毒性に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、単球が介在する神経毒性をPPARγアゴニストが抑止することを証明する。ミクログリアの活性化には、末梢におけるマクロファージの応答を代表する、それらからの多数の急性期かつ前炎症性の産物の分泌を伴う。多数の研究が、Aβペプチドでの処理に応答して神経毒性産物を生成する、ミクログリア系の能力について記載している(例えば、Banatiら、Glia 7:111 [1993];Giulian,Glia 7:102 [1993];Giulianら、Neurochem.Int.27:119 [1995];およびGiulianら、J.Neurosci.16:6021 [1996]、参照)。サイトカイン、ケモカイン、反応性酸素および窒素類、ならびに未確定神経毒性成分を含む多様なミクログリア分泌産物がニューロンに対して毒性であることが報告されている(Brownら、Nature 380:345 [1996];Iiら、Brain Res.720:93 [1996];およびKretzschmarら、J.Neur.Transm.50 [1997])。これらの神経毒性産物の放出は、前炎症性応答を仲介する生物学的応答の統制されたプログラムの結果を表す。
【0191】
この実施例の実験では、一次皮質ニューロンの高度に精製した集団を、THP-1細胞若しくは一次ミクログリアからの馴化培地中で培養する、組織培養モデル系を使用して、神経毒性および前炎症性産物の生成を評価および定量する。具体的に言うと、マウス皮質ニューロンの精製培養物(E16、4.0x104ニューロン/ウェル、in vitro 5-7日目のものを使用)を単独で、またはTHP-1細胞からの馴化培地(1.8x104 THP-1細胞/1馴化)の存在下で培養した。THP-1細胞をこれのみの組織培養ウェル、またはDMSOベヒクル(対照)若しくはPPARγアゴニストの存在下のβA25-35でコーティング(48 pmole/mm2)したウェル上に平板培養することによって、48時間刺激した。培地のみのウェル、THP-1細胞のみの培養物、表面結合βA25-35のみのウェル、薬剤のみのウェル、βA+THP-1細胞培養物、ならびにβA+THP-1+薬剤培養物からの馴化培地をマウス皮質ニューロン培養物に72時間添加した。次にニューロンを固定し、ニューロン特異的MAP2タンパク質について染色し、計数してニューロンの生存を定量した。
【0192】
非処理THP-1からの馴化培地は、ほとんどまたは全く神経毒性を示さなかった。しかし、原繊維Aβに曝露したTHP-1細胞からの馴化培地は高度に神経毒性で、大部分のニューロンを72時間以内に殺傷した。図5に示すように、THP-1単球をNSAIDおよびPPARγアゴニスト、イブプロフェン(100μM、1 mM)若しくはインドメタシン(100μM)の存在下でAβに曝露した場合は、神経毒素の産生は抑制された。
【0193】
同様に、PPARγアゴニストである、PGJ2(5μM、10μM)およびDHA(10μM、50μM)(図6)ならびにチアゾリジンジオンのシグリタゾン(10μM、50μM)(図7)およびトログリタゾン(10μM、50μM)(図8)もまた、神経毒素の産生を阻止した。これらのデータは、多様なPPARγアゴニストが活性化された単球/マクロファージからの前炎症性神経毒性産物の生成を抑制するように作用することを証明している。
【0194】
実施例5
インターロイキン-6およびTNF-αの発現に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがインターロイキン-6およびTNF-αの発現を抑制することを証明する。Aβ若しくはその他の免疫刺激物によるミクログリアの活性化の結果の1つは、サイトカイン産生の刺激である。この実施例における実験では、PPARγアゴニストがヒトIL-6およびTNF-α遺伝子のプロモーターの活性に影響を与えるかどうかを試験した。これらの実験では、ルシフェラーゼに連結させた、ヒト遺伝子のプロモーターエレメントへのリポーターを使用した。THP-1細胞に、IL-6ルシフェラーゼリポーター若しくはTNF-αリポーター構築物を一時的にトランスフェクトし、48時間後にプロモーター活性についてアッセイした。トランスフェクション効率を制御するために、細胞にβガラクトシダーゼリポーター構築物を同時トランスフェクトした。最後の6時間は、トログリタゾン(50μM)、シグリタゾン(50μM)、DHA(50μM)、PGJ2(10μM)、若しくはイブプロフェン(1 mM)の存在下または不在下で、LPS(1μg/ml)若しくはAβ25-35(40μM)とともに、細胞をインキュベートした。実験を二重に実施したが、報告したデータは、その測定の平均を表している。図9Aおよび9Bに示すように、THP-1細胞のLPSおよびAβ処理の結果、両サイトカイン遺伝子のプロモーター活性の刺激がもたらされ、このことはこれらの薬剤のサイトカイン産生へのin vivo効果に一致している。THP-1細胞と天然のPPARγアゴニストである、PGJ2およびDHAとのインキュベートの結果、プロモーター活性の抑制がもたらされた。同様に、チアゾリジンジオンの、トログリタゾンおよびシグリタゾン、さらにはイブプロフェンもまたリポーターの発現を抑止した。これらのデータは、多様なPPARγアゴニストがIL-6およびTNF-α遺伝子の発現を効果的に抑制することを証明している。
【0195】
実施例6
シクロオキシゲナーゼ-2の発現に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがシクロオキシゲナーゼ-2の発現を阻止することを証明する。具体的に言うと、この実施例では多様な免疫刺激に応答して、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)が誘導的に発現されることを証明する。図10Aおよび10Bに示すように、THP-1細胞のホルボールエステル(TPA)若しくはLPSでの18時間の処理の結果、用量依存様式でのCOX-2の発現の誘導がもたらされた。図10Aにおいて、THP-1単球を、ベヒクル(v)若しくは示した濃度(nM)のホルボールエステル(TPA)の存在下でインキュベートした。未処理の細胞を「z」で表示する。図10Bにおいて、THP-1単球を処理しない(z)か、あるいは単独で(c)またはベヒクル(v)若しくは示した濃度(nM)のLPSの存在下でインキュベートした。
【0196】
図11Aおよび11Bに示すように、TPAおよびLPSに誘導されるCOX-2の発現が、PPARγアゴニストのPGJ2により、10μM PGJ2の用量において、ほぼ完全な発現抑止として抑制された。図11Aにおいて、THP-1単球を100 nM TPAおよび示した濃度(μM)のPGJ2の存在若しくは不在下でインキュベートした。図11Bにおいて、THP-1単球をLPS 25μg および示した濃度(μM)のPGJ2の存在若しくは不在下でインキュベートした。シクロオキシゲナーゼ-2の発現を、COX-2特異的抗体を使用する細胞溶解物のウエスタン分析によって評価した。
【0197】
図12Aおよび12Bに示すように、PPARγアゴニストのシグリタゾン、トログリタゾン、DHAおよびインドメタシンもまた、TPAで刺激されるCOX-2の発現を抑制した。これらの実験において、THP-1単球を100 nm TPAの存在または不在下で18時間インキュベートした。PPARγアゴニストのインドメタシン(1 mM)、シグリタゾン(50μM)、ドコサヘキサン酸(100μM)、およびPGJ2(10μM)(図12A)またはインドメタシン(500μM)若しくはトログリタゾン(50μM)(図12B)を単独で、またはTPAと組合せて培養物に添加した。細胞溶解物のウエスタン分析によって、COX-2の発現をモニターし、そのブロットを抗COX-2特異的抗体でプローブした。
【0198】
図13Aに示すように、TPAと同様にAβによるTHP-1の処理の結果、COX-2の発現の迅速な誘導がもたらされ、それは24時間目まで持続した。この図中、THP-1単球を、ベヒクル(DMSO)、TPA(100 nM)若しくはAβ25-35原繊維とともに0-24時間インキュベートした。図13Bに示すように、PPARγの特定のアゴニスト、PGJ2とこの細胞の共インキュベートはCOX-2の発現を劇的に抑制した。この図中、マウスマクロファージ系統、RAW 264.7を、PGJ2(10μM)の不在若しくは存在下で、ホルボールエステル(100 nM)若しくは原繊維Aβ(25-35)(40μM)とともに18時間、インキュベートした。細胞溶解物のウエスタン分析によって、COX-2の発現をモニターし、そのブロットを抗COX-2特異的抗体でプローブした。これらの観察は、本発明がADおよびその他の炎症性疾患におけるCOX-2の作用の抑制のための新規な治療方法を提供することを証明しているので、特に意義がある。
【0199】
実施例7
COX-2プロモーター活性に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがCOX-2プロモーター活性を抑制することを証明する。ルシフェラーゼリポーターの1つに連結させた2.4 kbのヒトCOX-2プロモーターを含有する構築物を使用して、THP-1細胞中のCOX-2プロモーター活性を評価した。細胞をPPARγアゴニスト、PGJ2で処理した場合、プロモーターの活性が劇的に抑制された(約90%の抑制)。図14に示すように、同様に、チアゾリジンジオンのシグリタゾンおよびトログリタゾンがDHAの場合と同じく、このプロモーターからの転写を阻止した。具体的に言うと、エレクトロポレーションによって、COX-2ルシフェラーゼリポーター構築物をTHP-1細胞にトランスフェクトした。細胞にSV-40βガラクトシダーゼプラスミドを同時トランスフェクトして、トランスフェクションの効率の評価ができるようにした。細胞を48時間インキュベートし、溶解し、ルシフェラーゼおよびβガラクトシダーゼ活性を測定した。最後の18時間は、細胞を示した薬剤の不在または存在下でインキュベートした(対照=非トランスフェクト細胞;PGL-C=ベクター対照;COX=COX-2ルシフェラーゼリポーターをトランスフェクトした細胞;細胞にCOX-2ルシフェラーゼリポーターをトランスフェクトして、PGJ2[10μM]、トログリタゾン[50μM]、シグリタゾン[50μM]、若しくはDHA[50μM]とともに18時間インキュベート)。データは、2つの独立した実験における二重判定の平均(+/-SEM)を表している。これらのデータは、COX-2の発現のPPARγによって調節された発現が、COX-2遺伝子内のcis作用性プロモーターエレメントに及ぼしたこれらの薬剤の作用の直接の結果であることを立証している。
【0200】
実施例8
中枢神経系の損傷に及ぼすPPARγアゴニストの効果
標準的技術を使用して、PO スプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)仔ラットからアストロサイトを単離し 、24ウェル組織培養プレートのポリLリジン(0.1 mg/ml)およびラミニン(5μg/ml)でコーティングしたガラスカバースリップ上に、50,000細胞/ウェルの密度で播種し、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM-F12培地中で密集に達するまで(1-3日)おいた。3日後、成体スプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)ラットからチオグリコレートで誘発した腹腔マクロファージを単離し、100,000細胞/ウェルの密度でアストロサイト培養物中に導入した。非活性化マクロファージを培地のみに播種し、一方活性化マクロファージに強力なマクロファージ活性化剤であるザイモサン0.5 mg/mlを導入する。ザイモサンはサッカロミセス セレビシエ(S.cerevisiae)に由来する細胞壁粒子で、α-マンナンおよびβ-グルカン残基で構成されている(Lombardら、J.Immunol.Methods 174:155 [1994])。ザイモサンの食作用には、MFRマンノース受容体およびβ-グルカン受容体が関与し(Czop, Adv.Immunol.38:361 [1986];Stewart and Weir,J.Clin.Lab.Immunol.28:103 [1989];ならびにLombardら、上記)、これは強力なマクロファージ活性化剤であって、ロイコトリエンの産生(Czop,上記)、リソソーム酵素の放出(Tapper and Sundler,Biochem.J.306:829 [1995])、アラキドン酸の分解(Daum and Rohrbach,FEBS 309:110 [1992])、サイトカインの放出(例えばIL-1、IL-6、TNF-α、IFN-γ)(Ofekら、Annu.Rev.Microbiol.49:239 [1995] ;およびHashimotoら、Biol.Pharm.Bull.20:1006 [1997])、呼吸バースト(Berton and Gordon,Immunology 49:705 [1983])ならびにマクロファージが介在する細胞毒性に至り得るその他の経路の活性化を導く。マクロファージ、アストロサイトおよび薬剤処理用剤を含む共培養物を3日間維持した。各グループ内で標準化するために、各グループを2構成(処理剤を含む非活性化マクロファージおよび処理剤を含む活性化マクロファージ)として、活性化しない培養調製物に対する薬剤の効果における変動の可能性を調整する。3日間の培養後、4%パラホルムアルデヒドで培養物を固定する前に、ヨウ化プロピジウムを使用して、細胞の生存性を評価した。固定した培養物をGFAPに対する抗体で染色して、アストロサイトを同定し、ED1でマクロファージを染色し、DAPIですべての細胞核を標識した。各カバースリップについて、低出力の16x対物レンズを使用して、標準グリッドから6種の顕微鏡視野を撮影した。これらの写真をコンピュータ内でスキャンし、ランダム化し、そしてNIH Imageでもって盲目的に分析して、生存アストロサイトの数、 生存マクロファージの数、細胞密度、および培養空洞の大きさを測定した。各測定グループからの定量データは、1視野について、適切な対照グループの平均を数値1に標準化したものに相対させて表現した。次にデータを、多重比較のための分散の分析(ANOVA)およびフィッシャー(Fisher)のPLSDを使用する統計ソフトウェアで分析した。
【0201】
上記の説明中のすべての出版物および特許を参照により本明細書に組み入れる。記載した本発明の方法および体系の各種の改変および変更は、本発明の範囲および精神からはずれることなく、当業者に明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連させて記載したが、特許請求の範囲に記載した本発明がこうした特定の実施形態によって不当に限定されるべきものでないことを理解されたい。実際、本発明を実施するために記載した様式についての、細胞生物学、神経科学、医学、化学および分子生物学または関連分野の当業者にとって明らかな各種の改変は、添付する請求の範囲内のものであることを意図している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、認可番号1-PO1-AG08012のもとに米国立衛生研究所により一部支援された研究においてなされたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有するものである。
【0002】
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病や他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は記憶、行動、言語、視覚空間的技能が次第に損なわれて、最終的には死に至ることにより特徴づけられる複合的で複遺伝子性の神経変性疾患である。傷害を受けている領域の病理学的特徴としては、細胞外のβアミロイド沈着、細胞内の神経原繊維変化、シナプス欠損、広範なニューロン細胞死が挙げられる。アルツハイマー病の原因と治療に関する研究は研究者達をおびただしい道へと導いてきた。多くのモデルが提唱されているけれども、ADの単一モデルはどれも、全ての神経病理学的知見ならびに発病への加齢の必要性を満足のいくように説明するものではない。この病気の進行のメカニズムも同様に不明である。相当数のヒト遺伝的証拠は、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の産生またはプロセシングの変化がこの病気の原因に関係していることを示している。しかしながら、徹底的な研究により、ADは多数の異なる(おそらくは重複している)病因による多要素疾患であることが判ってきた。
【0004】
今までのところ、米国ではアルツハイマー病が3番目に費用のかかる病気となっており、社会は毎年約1000億ドルを支払っている。アルツハイマー病は老人集団において最も広く行き渡っている病気のひとつであり、社会の高齢化がすすむにつれて、ますます重大になってくるだろう。ADに関係した費用には、ナーシングホームでの介護などの直接的医療費、家庭でのデイケアなどの直接的非医療費、ゆくえ不明の患者および介護提供者の生産性などの間接的費用が含まれる。医学的治療は、認知の衰退速度を遅くし、施設への収容を遅らせ、ケア提供者の時間を短縮し、生活の質を向上させることにより経済的利益をもたらす可能性がある。薬物経済学的評価は、薬物治療がナーシングホーム入院、認知、介護提供者の時間に及ぼす影響に関してポジティブな結果を明らかにしている。
【0005】
これまでに試みられた治療戦略は神経伝達物質の補充または正常な脳構造の保存を標的としてきたが、これらは短期間の病状緩和をもたらす可能性があるものの、ニューロンの変性および死を防止することはない。したがって、アルツハイマー病と関連したニューロンの変性および死を防止し、かつ長期的に症状を軽減させる治療法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病や他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【0007】
本発明は、アルツハイマー病にかかっている被験者およびアルツハイマー病にかかりやすい被験者からなる群より選択される被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、中枢神経系の損傷をかかえている被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、炎症性成分が原因の疾患にかかっている被験者および炎症性成分が原因の疾患にかかりやすい被験者からなる群より選択される被験者に、治療に有効な量のPPARγアゴニストを投与することを含む、前記被験者の治療方法を提供する。いくつかの実施形態において、炎症性成分が原因の疾患はアルツハイマー病、発作、外傷性損傷および脊髄損傷からなる群より選択されるが、本発明の方法は炎症性成分が原因となるあらゆる疾患の治療に使用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、βアミロイドで刺激したTHP-1細胞におけるチロシンリン酸化タンパク質をSDS-PAGEで分解し、抗ホスホチロシン抗体を用いてチロシンリン酸化タンパク質をモニターしたオートラジオグラムを示す。
【図2】図2は、細胞溶解物を抗ホスホチロシン抗体によるウェスタンブロットで調べたときの、PPARγアゴニストがチロシンキナーゼシグナル伝達カスケードの活性化に及ぼす影響を示す。
【図3−1】図3A〜Fは、表示した化合物で刺激したときのTHP-1細胞のマクロファージへの表現型変換を示す。
【図3−2】図3G〜Jは、表示した化合物で刺激したときのTHP-1細胞のマクロファージへの表現型変換を示す。
【図4】図4は、PPARγアゴニストがβアミロイドで刺激したTHP-1細胞からの馴らし培地を妨げて反応性アストロサイトの形態を誘導する能力を測定するために、表示した化合物で処理した細胞を示す。培養物を固定し、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)を染色した。
【図5】図5は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図6】図6は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図7】図7は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図8】図8は、表示した化合物でTHP-1細胞を処理したときの細胞の生存を示すグラフである。
【図9】図9Aは、表示した化合物に応答するIL-6プロモーター活性を示すグラフである。図9Bは、表示した化合物に応答するTNF-αプロモーター活性を示すグラフである。
【図10】図10Aは、ホルボールエステルで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。図10Bは、LPSで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図11】図11Aは、ホルボールエステルとPPARγアゴニストで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。図11Bは、LPSとPPARγアゴニストで処理したときの細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図12】図12A〜Bは、ホルボールエステルおよび表示したPPARγアゴニストで処理したときの、細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図13】図13A〜Bは、PPARγアゴニストの存在下または不在下にホルボールエステルまたはβアミロイドで処理したときの、細胞溶解物のCOX-2特異的抗体によるウェスタン分析で評価したシクロオキシゲナーゼ-2発現を示す。
【図14】図14は、表示した化合物に応答するヒトCox-2プロモーター活性を示す。
【図15−1】図15-1は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図15−2】図15-2は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図16】図16は、本発明の治療用化合物の化学構造を示す。
【図17】図17は、種々のPPARγアゴニストが中枢神経系二次損傷の細胞培養物モデルに及ぼす影響を示すグラフである。
【図18】図18は、ヒト2.4kb cox-2遺伝子プロモーター領域の配列(配列番号1)を示す。翻訳開始部位はヌクレオチド2328にある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、PPARγアゴニストはチアゾリジンジオンからなるが、あらゆるPPARγリガンドおよび調節因子が本発明により意図される。いくつかの実施形態では、チアゾリジンジオンは、限定するものではないが、トログリタゾン(troglitazone)、シグリタゾン(ciglitazone)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、BRL 49653、エンクリタゾン(englitazone)またはこれらの組合せからなる。他の実施形態では、PPARγアゴニストは、限定するものではないが、ドコサヘキサエン酸、プロスタグランジンJ2およびプロスタグランジンJ2類似体(例えば、Δ12-プロスタグランジンJ2および15-デオキシ-Δ12,14-プロスタグランジンJ2)からなる。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、前記投与は経口投与であるが、あらゆる投与手段が想定される。いくつかの実施形態では、PPARγアゴニストの治療に有効な量は約10mg/kg/日であるが、本発明では前記量より多いまたは少ない量も考えられる。
【0013】
本発明はまた、cox-2遺伝子のPPARγ介在遺伝子転写を改変する化合物(例えば、アゴニストおよびアンタゴニスト)の能力を測定する方法を提供し、この方法は、1種以上の被験化合物、および1) PPARγ感受性cox-2調節エレメント、2) プロモーターおよび3) 異種遺伝子を機能しうる順序で含むオリゴヌクレオチド配列を含有するDNA構築物により形質転換された宿主細胞を用意すること;そして1種以上の被験化合物と該宿主細胞とを、該異種遺伝子の発現が1種以上の該化合物に応答する条件下で接触させること;を含んでなる。いくつかの実施形態では、この方法はステップb)における異種遺伝子の発現レベルと、該化合物の不在下での該宿主細胞からの該遺伝子の発現レベルとを比較するステップをさらに含む。本発明の1つの好ましい実施形態において、PPARγ感受性cox-2調節エレメントを含むオリゴヌクレオチド配列を含有するDNA構築物は配列番号1を含む。
【0014】
本発明はさらに、COX-2発現を調節する方法を提供し、この方法は、1種以上の、COX-2を発現する細胞、1種以上の該細胞においてPPARγを発現させる手段、および1種以上のPPARγアゴニストを用意すること;そして1種以上の該細胞中に、任意の順序で、PPARγを発現させる手段および1種以上のPPARγアゴニストを導入すること;を含んでなる。いくつかの実施形態では、1種以上のCOX-2を発現する細胞が異常なレベルのCOX-2を発現する細胞を含む。
【0015】
定義
本発明の理解を容易にするために多数の用語および語句を下記に定義する。
【0016】
本明細書に用いる「治療に有効な量」という用語は、患者に症状の回復または生存の延長を生じさせる化合物量を意味する。治療に適切な効果は、疾患または病状の1以上の症状をある程度緩和するか、または疾患または病状に関係した、もしくはその原因である生理的な、または生化学的なパラメーターを部分的に、もしくは完全に正常へと回復させる。
【0017】
本明細書に用いる「PPARγアゴニスト」という用語は、PPARγと組み合わせたとき、該受容体に典型的なin vivoまたはin vitro反応(例えば、転写調節活性)を直接もしくは間接的に刺激、もしくは増加する化合物または組成物を意味する。増加した反応は、当業者に公知の多種類のアッセイのいずれかにより測定できる。好ましいPPARγアゴニストは、チアゾリジンジオン化合物である。チアゾリジンジオン化合物には、トログリタゾン(troglitazone)、BRL 49653、ピオグリタゾン(pioglitazone)、シグリタゾン、WAY-120,744、エングリタゾン(englitazone)、AD 5075、ダーグリタゾン(darglitazone)、およびそれらの同族体、類似体、誘導体、ならびに製薬上許容される塩があるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書に用いる「調節エレメント」という用語は、1つの活性型転写調節タンパク質、または活性型転写調節タンパク質を1つ以上含む複合体が、関連の遺伝子または遺伝子群(異種遺伝子を含む)の発現を転写的にモジュレートするために結合する、オリゴヌクレオチド配列の全体または一部分を含むデオキシリボヌクレオチド配列を意味する。
【0019】
本明細書に用いる「転写調節タンパク質」という用語は、活性化した場合に、本発明の調節エレメント/オリゴヌクレオチド配列に直接的に、もしくは転写調節タンパク質の複合体または他のアダプタータンパク質を通じて間接的に結合し、関連の遺伝子または遺伝子群の活性を転写的にモジュレートする、細胞質タンパク質または核タンパク質を意味する。このように転写調節タンパク質は、本発明のDNA調節エレメントに直接的に結合できる。または転写調節タンパク質は、別のタンパク質と結合し、引き続き別のタンパク質が本発明のDNA調節エレメントに結合するか、または結合されることにより、間接的に調節エレメントに結合できる。
【0020】
本明細書に用いる「関連の遺伝子または遺伝子群の発現を転写的にモジュレートする」という用語は、該遺伝子または遺伝子群の転写率を変化させることを意味する。
【0021】
本明細書に用いる「移植片」または「移植」という用語は、移植(grafting)、埋め込み(implanting)、移植(transplanting)の際に使用する組織、ならびに身体の1部分からの組織を他の部分へ転移すること、または1個体の組織を他の個体へ転移すること、または身体内もしくは身体上に生体適合性の材料を導入することを意味する。「移植する」という用語は、身体の1部分からの組織を他の部分へ、または他の個体へ移植(grafting)することを意味する。
【0022】
本明細書に用いる「幹細胞」または「未分化細胞」という用語は、表現型および遺伝子型的が同一の娘細胞、ならびに少なくとも1つの他の最終細胞型(例えば、最終分化細胞)を生じることができる自己更新細胞を意味する。
【0023】
本明細書に用いる「中枢神経系」という用語は、硬膜内のすべての構造を意味する。該構造には、脳および脊髄があるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書に用いる「宿主」および「被験者」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物(例えば、げっ歯類、節足動物、昆虫(例えば、双口類)、魚(例えば、ゼブラフィッシュ)、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反すう動物、ウサギ目、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリなど)を含む任意の動物(ただしこれらに限定されない)を意味し、かかる動物は、特定の治療のレシピエントとなる。典型的には、「宿主」、「患者」および「被験者」という用語は本明細書ではヒト被験者に関して交換可能に用いられる。本明細書に使用する場合、「アルツハイマー病にかかっている被験者」、「炎症性成分が原因の疾患にかかっている被験者」および「中枢神経系損傷を患う被験者」という用語は、特定の疾患、損傷、または病状をそれぞれ有する、または有している可能性がある被験者を意味する。本明細書に使用する「アルツハイマー病にかかりやすい被験者」および「炎症性成分が原因の疾患にかかりやすい被験者」という用語は、特定の疾患、損傷、または病状を招くまたは発症するリスクがあるとして確認された被験者を意味する。本明細書に使用する場合に、「炎症性成分が原因の疾患」という用語は、炎症性要素に関連する疾患および病状を意味する。炎症性要素は、疾患または病状に関連する症状、副作用、または原因となる事象を含みうる。炎症性成分が原因の疾患には、発作、神経系の虚血性損傷、神経損傷(例えば、衝撃的な脳損傷、脊髄損傷、神経系の外傷性損傷)、多発性硬化症および他の免疫媒介神経障害(例えば、ギヤン-バレー症候群およびその変異型、急性運動軸索神経障害(acute motor axonal neuropathy)、急性炎症脱髄性多発性神経障害(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy)およびフィッシャー症候群(Fisher Syndrome))、HIV/エイズ痴呆複合症および細菌性髄膜炎ならびにウイルス性髄膜炎があるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書に用いる「神経学的欠陥」という用語は、神経系を伴う、または神経系に関する欠陥を意味する。神経系の組織または細胞の欠陥により引き起こされる神経学的欠陥もあれば、神経系に影響する組織または細胞の欠陥により起こる神経学的欠陥もある。本明細書に使用する「神経学的欠陥のある哺乳動物」という用語は、1つ以上の神経学的欠陥を有する哺乳動物を意味する。神経学的欠陥が回復する場合には、宿主の状態が改善される。例えば、欠陥のある組織が、正常の状態に部分的に、または完全にもどる場合、回復が起こり得る。しかし組織が正常以下の状態のままであるが、他の点では、宿主に利益となるように変更される場合にも回復が起こり得る。
【0026】
本明細書に用いる「障害」という用語は、創傷または外傷を意味し、または組織での病理学的変化を意味する。
【0027】
本明細書に用いる「非ヒト動物」という用語は、すべての非ヒト動物を意味する。該非ヒト動物には、脊椎動物(例えば、げっ歯類)、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反すう動物、ウサギ目、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書に用いる「生物学的に活性な」という用語は、天然に存在する分子の構造的、調節的、または生化学的機能を有するタンパク質または他の生物学的活性分子(例えば、触媒RNA)を意味する。
【0029】
本明細書に用いる「アゴニスト」という用語は、生物学的活性分子と相互作用する場合に、その生物学的活性分子の活性をモジュレートする生物学的活性分子の変化(例えば、増強)を引き起こす分子を意味する。アゴニストには、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、または生物学的活性分子と結合もしくは相互作用する他のあらゆる分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、アゴニストは、RNAポリメラーゼと直接相互作用することにより、または転写因子もしくはシグナル伝達経路を介して遺伝子転写活性を変更できる。
【0030】
本明細書に用いる「アンタゴニスト」もしくは「インヒビター」という用語は、生物学的活性分子と相互作用する場合に、生物学的活性分子の生物学的活性をブロックまたはモジュレートする分子を意味する。アンタゴニストおよびインヒビターには、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質または生物学的活性分子と結合もしくは相互作用する他のあらゆる分子が含まれるが、これらに限定されない。インヒビターおよびアンタゴニストは、完全な細胞、器官または生物の生物学に影響を及ぼすことができる(例えば、ニューロンの変性および死を遅くしたり、または防止するインヒビター)。
【0031】
本明細書に用いる「モジュレートする」という用語は、生物学的活性分子の生物学的活性の変化を意味する。モジュレーションは活性の増加もしくは減少、結合特性の変化、または生物学的活性分子の生物学的、機能的、もしくは免疫学的性質の他のいかなる変化であっても良い。
【0032】
本明細書に用いる「核酸分子」という用語は、DNAまたはRNAを含むが、これらに限定されないあらゆる核酸含有分子を意味する。該用語には、DNAおよびRNAの公知の塩基類似体を含む配列が包含される。DNAおよびRNAの公知の塩基類似体には、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルケオシン(mannosylqueosine)、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、プソイドウラシル、ケオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル, 5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステルおよび2,6-ジアミノプリンがあるが、これらに限定されない。
【0033】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドもしくは前駆体の産生のために必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を意味する。そのポリペプチドは、完全長のコード配列により、または完全長のもしくは断片の所望の活性もしくは機能的性質(例えば、酵素活性、リガンド結合性、シグナル伝達など)が維持されている限りにおいては、コード配列の任意の部分によりコードされ得る。該用語はまた、構造遺伝子のコード領域、およびコード領域の5'末端および3'末端の両方で末端から約1kb以上の距離でコード領域に近接した配列であって、その遺伝子が完全長のmRNAの長さに対応するようなものも包含する。コード領域の5'末端に位置し、かつmRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ぶ。コード領域の3'末端または下流に位置し、かつmRNA上に存在する配列は3'非翻訳配列と呼ぶ。「遺伝子」と言う用語は、cDNAおよび遺伝子のゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態もしくはクローンは、「イントロン」、もしくは「介在領域」、もしくは「介在配列」と呼ばれる非コード領域で遮断されたコード領域を含有する。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントである;イントロンはエンハンサーなどの調節エレメントを含んでいることもある。イントロンは、核転写産物もしくは一次転写産物から除去もしくは「スプライスされて外される」;従ってイントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写産物中には存在しない。mRNAは、翻訳の過程で発生期のポリペプチドのアミノ酸配列もしくは序列を特定する機能を有する。
【0034】
本明細書に用いる「遺伝子発現」という用語は、遺伝子の「転写」を介して(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素的作用を介して)遺伝子にコードされる遺伝子情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)に変換する過程、およびタンパク質をコードする遺伝子の場合は、mRNAの「翻訳」を介してタンパク質に変換する過程を意味する。遺伝子発現は、この過程の多くの段階で調節できる。「アップレギュレーション」または「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわち、RNAまたはタンパク質)の産生を増加する調節を意味し、一方「ダウンレギュレーション」または「抑制」は、産生を減少する調節を意味する。アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに関与する分子(例えば、転写因子)は、しばしばそれぞれ「アクチベータ−」および「リプレッサー」と呼ばれる。
【0035】
本明細書で「アミノ酸配列」という用語が天然に存在するタンパク質分子のアミノ酸配列を意味して用いられる場合には、「アミノ酸配列」、および「ポリペプチド」もしくは「タンパク質」などの類似の用語は、そこで述べられているタンパク質分子に関連する完全な、天然のアミノ酸配列に限定することを意味したものではない。
【0036】
遺伝子のゲノム形態は、イントロンを含有することに加え、配列の5'末端および3'末端の両方に位置する配列をも含むことができ、それはRNA転写産物上に存在する。これらの配列は、「隣接」または「フランキング」配列もしくは領域と呼ばれる(これらの隣接配列は、mRNA転写産物上に存在する非翻訳配列の5'側もしくは3'側に位置する)。5'側隣接領域は、遺伝子の転写を調節する、もしくは影響を与えるプロモーターおよびエンハンサーなどの調節配列を含有することができる。3'側隣接配列は転写の終了、転写後の切断、およびポリアデニル化を指令する配列を含有することができる。
【0037】
「野生型」という用語は、天然に存在する供給源から単離された場合の遺伝子もしくは遺伝子産物の特徴を有する遺伝子もしくは遺伝子産物を意味する。野生型遺伝子は、ある集団で最も頻繁に観察されるものであり、したがって遺伝子の「正常」もしくは「野生型」形態と任意に称される。これに対して、「修飾型」もしくは「変異体」 という用語は、野生型の遺伝子もしくは遺伝子産物と比較した場合に、配列および/または機能的特性が修飾(すなわち、変更)されている遺伝子もしくは遺伝子産物を意味する。天然に存在する変異体も単離しうることは注記すべきである;それらは、野生型の遺伝子もしくは遺伝子産物と比較した場合、特性が変更されているという事実により同定される。
【0038】
本明細書に用いる「オリゴヌクレオチド」という用語は、短い長さの1本鎖ポリヌクレオチド鎖を意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的には長さ100残基以下(例えば、15と50の間)であるが、しかし本明細書で用いる場合、該用語は、より長いポリヌクレオチド鎖も包含することを意図している。オリゴヌクレオチドは、しばしばその長さによって呼ばれる。例えば、24残基のオリゴヌクレオチドは、「24-mer」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズするかまたは他のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることにより2次構造もしくは3次構造を形成することができる。該構造には、2本鎖、ヘアピン、十字形、ベンドおよび3本鎖があるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書に用いる「ベクター」という用語は、DNAセグメントを一方の細胞から他方へ転移する核酸分子に関して用いられる。「ビヒクル」という用語は、時に「ベクター」と互換的に使用される。ベクターは、しばしばプラスミド、バクテリオファージ、植物ウイルスもしくは動物ウイルスに由来する。
【0040】
本明細書に用いる「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列ならびに特定の宿主生物において機能的に連結された前記コード配列の発現に必要な適当な核酸配列を含有する組換えDNA分子を意味する。原核生物における発現に必要な核酸配列には、一般にプロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位、ならびにしばしば他の配列が含まれる。真核細胞がプロモーター、エンハンサー、ならびに終結およびポリアデニル化シグナルを利用することは公知である。
【0041】
真核細胞の転写調節シグナルは、「プロモーター」および「エンハンサー」エレメントを含む。プロモーターとエンハンサーは、転写に関与する細胞性タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列の短いアレイからなる(T. Maniatisら, Science 236:1237[1987])。プロモーターおよびエンハンサーエレメントは、酵母、昆虫および哺乳動物細胞の遺伝子を含めた種々の真核細胞供給源ならびにウイルスから単離されている(類似の調節エレメント、すなわちプロモーターは原核細胞中にも認められる)。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、目的のタンパク質の発現のために用いられる細胞型に依存する。幾つかの真核細胞プロモーターおよびエンハンサーは、広範囲の宿主に用いるが、一方その他のものは、細胞型の限定されたサブセットにおいてのみ機能的である(概説としてS. D. Vossら, Trends Biochem. Sci., 11:287[1986]; およびT. Maniatisら, 同上、を参照されたい)。例えば、SV40初期遺伝子エンハンサーは、多数の哺乳動物種に由来する多様な細胞型中で顕著な活性を有し、哺乳動物細胞中でのタンパク質の発現に広く用いられている(R. Dijkemaら, EMBO J., 4:761[1985])。広範囲の哺乳動物細胞型中で活性するプロモーター/エンハンサーエレメントの例を他に2つ挙げれば、ヒト伸長因子1α遺伝子からのもの(T. Uetsukiら, J. Biol. Chem., 264:5791 [1989]; D. W. Kimら, Gene 91:217 [1990]; およびS. MizushimaとS. Nagata, Nuc. Acids. Res., 18:5322 [1990])、ならびにラウス肉腫ウイルス(C.M. Gormanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:6777 [1982])およびヒトサイトメガロウイルス(M. Boshartら, Cell 41:521 [1985])の長末端反復配列からのものである。幾つかのプロモーターエレメントは、組織特異的方法で遺伝子発現を指令するのに役立つ。
【0042】
本明細書に用いる「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーターおよびエンハンサーの両方の機能(すなわちプロモーターエレメントおよびエンハンサーエレメントにより提供される機能、これらの機能についての考察は上述を参照されたい)を提供することのできる配列を含有するDNAのセグメントを意味する。例えば、レトロウイルスの長末端反復配列は、プロモーターおよびエンハンサー機能の両方を含有する。エンハンサー/プロモーターは「内在性」、または「外来性」、もしくは「異種性」であり得る。「内在性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム中の所定の遺伝子に天然に連結されているものである。「外来性」もしくは「異種性」のエンハンサー/プロモーターは、連結されたエンハンサー/プロモーターにより遺伝子の転写が指令されるように、遺伝子操作(すなわちクローニングおよび組換えのような分子生物学的技法)によりその遺伝子に並ぶ位置に置かれたものである。
【0043】
発現ベクターにおける「スプライシングシグナル」の存在は、しばしば組換え転写産物の高レベル発現をもたらす。スプライシングシグナルは、RNAの一次転写産物からのイントロンの除去を媒介し、スプライス供与部位および受容部位からなる(J. Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York [1989], pp. 16.7-16.8)。一般に使用するスプライス供与部位および受容部位は、SV40の16S RNA由来のスプライス部位である。
【0044】
真核細胞の組換えDNA配列の効率的な発現には、得られた転写産物の効率的な終結およびポリアデニル化を指令するシグナルの発現が必要である。転写終結シグナルは、一般にポリアデニル化シグナルの下流で見られ、長さは数百ヌクレオチドである。本明細書で用いる「ポリA部位」または「ポリA配列」とは、新生RNA転写産物の終結およびポリアデニル化の両方を指令するDNA配列を意味する。ポリAテイル(尾部)を欠いた転写産物は不安定であり、かつ急速に分解されるため、組換え転写産物を効率的にポリアデニル化することが望ましい。発現ベクターにおいて用いられるポリAシグナルは、「異種性」または「内在性」であってよい。内在性ポリAシグナルは、ゲノムにおける所定の遺伝子のコード領域の3’末端で本来見られるものである。異種性ポリAシグナルは、ある遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’側に配置されるものである。一般に使用される異種性ポリAシグナルは、SV40ポリAシグナルである。SV40ポリAシグナルは、237bp BamHI/BcII制限断片上にあり、終結およびポリアデニル化の両方を指令する (J. Sambrook, 前記, pp. 16.6-16.7)。
【0045】
また真核細胞発現ベクターは、「ウイルスレプリコン」または「ウイルスの複製起点」も含有し得る。ウイルスレプリコンは、好適な複製因子を発現する宿主細胞においてベクターの染色体外複製を可能にするウイルスDNA配列である。SV40またはポリオーマウイルスのいずれかの複製起点を含有するベクターは、好適なウイルスT抗原を発現する細胞において多くの「コピー数」(104コピー/細胞まで)複製する。ウシパピローマウイルスまたはエプスタイン-バールウイルス由来のレプリコンを含有するベクターは、「少ないコピー数」(〜100コピー/細胞)で染色体外複製する。
【0046】
「相同」という用語は、相補性の程度を意味する。これには部分的相同または完全相同(すなわち同一)があり得る。部分的相補配列は、完全相補配列が、「実質的に相同」という機能的な用語を用いて称される標的核酸とハイブリダイズするのを少なくとも部分的に阻害するものである。完全相補的配列の標的配列とのハイブリダイゼーションの阻害については、低ストリンジェンシー条件下にてハイブリダイゼーションアッセイ(サザンまたはノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーションおよび類似法)を用いて試験し得る。実質的に相同な配列またはプローブは、低ストリンジェンシー条件下にて完全に相同なものと標的との結合(すなわち、ハイブリダイゼーション)について競合し、これを阻害する。これは、低ストリンジェンシー条件が非特異的結合を可能とするようなものであるとは言えないまでも、低ストリンジェンシー条件には、2つの配列の互いの結合が特異的(すなわち、選択的)な相互作用であることを必要とする。非特異的結合の不在については、部分的な程度の相補性さえ欠く(例えば、約30%未満の同一性)第2の標的を使用して試験し得る;非特異的結合の不在下では、プローブは非相補的な第2の標的とはハイブリダイズしないであろう。
【0047】
非常に多くの条件を使用して、低ストリンジェンシー条件を構成しうることは、当技術分野では十分に公知であり、プローブの長さおよび種類(DNA、RNA、塩基組成)および標的の種類(DNA、RNA、塩基組成、溶解状態で存在しているか、または固定化されているかなど)をはじめとする要因、ならびに塩および他の成分の濃度(例えばホルムアミド、デキストラン硫酸、ポリエチレングリコールの存在または不在)を考慮して、ハイブリダイゼーション溶液を変え、前記に列挙した条件とは異なるが同等である低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を得てもよい。さらに、当技術分野では高ストリンジェンシー条件下にてハイブリダイゼーションを促進する条件も公知である(例えばハイブリダイゼーションおよび/または洗浄ステップの温度を高めたり、ハイブリダイゼーション溶液においてホルムアミドを使用するなど。下記の「ストリンジェンシー」の定義を参照されたい)。
【0048】
cDNAまたはゲノムクローンのような2本鎖核酸配列に関して用いる場合、「実質的に相同」という用語は、前記に記載した低ストリンジェンシー条件下にて2本鎖核酸配列のいずれかまたは両方とハイブリダイズ可能な任意のプローブを意味する。
【0049】
遺伝子は、RNAの一次転写産物の種々のスプライシングにより産生される多様なRNA種を産生し得る。同一遺伝子のスプライス変異体であるcDNAは、配列同一性または完全相同性(両cDNA上に同一のエキソンまたは同一のエキソンの一部分の存在を示す)を有する領域および完全非同一性(例えば、cDNA1上にはエキソン「A」の存在を示し、cDNA2はその代わりにエキソン「B」を含有する)を有する領域を含有する。2つのcDNAは、配列同一性の領域を含有するため、両方とも、両cDNAで見られる配列を含有する遺伝子全体または遺伝子の一部分に由来するプローブとハイブリダイズするだろう;それゆえ2つのスプライス変異体は、該プローブに対して、および互いに対して実質的に相同である。
【0050】
1本鎖核酸配列に関して用いる場合、「実質的に相同」という用語は、前記に記載の低ストリンジェンシー条件下にて1本鎖核酸配列とハイブリダイズ可能な任意のプローブ(すなわち1本鎖核酸配列に相補的なもの)を意味する。
【0051】
本明細書に用いる「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸の対合に関して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強さ(すなわち、核酸間の結合強度)は、核酸間の相補性の程度、関連する条件のストリンジェンシー、形成されたハイブリッドのTm、および核酸内のG:C比率などの因子により強い影響を受ける。構造的に相補的核酸の対合(pairing)を含む単一の分子は「自己ハイブリダイズ」すると言われる。
【0052】
本明細書に用いる「Tm」という用語は、「融解温度」に関して用いられる。融解温度は、2本鎖核酸分子の集団が1本鎖に半分が分離する温度である。核酸のTmの算出式については当技術分野で公知である。標準対照により示されるように、核酸が1M NaCl水溶液中に存在する場合、Tm値の簡易推定値を式: Tm = 81.5+0.41(%G+C)により算出し得る(例えば、AndersonおよびYoung, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization [1985]を参照されたい)。他の参考文献では、Tmの算出に関して構造ならびに配列特性を考慮に入れたより精巧な計算値が挙げられている。
【0053】
本明細書に用いる「ストリンジェンシー」という用語は、温度、イオン強度および有機溶媒などの他の化合物の存在についての条件に関して用いられ、その条件下では核酸ハイブリダイゼーションが行われる。「高ストリンジェンシー」条件では、高頻度の相補的塩基配列を有する核酸断片間でのみ核酸塩基対合が起こる。このように遺伝学的に異なる生物由来の核酸では、相補的配列の頻度が一般に低いため、「弱い」または「低い」ストリンジェンシー条件がしばしば必要である。
【0054】
「増幅」は、鋳型特異性に関連する核酸複製の特殊な場合である。「増幅」は、非特異的鋳型複製(すなわち、鋳型依存的であるが、特異的な鋳型に依存しない複製)と対比される。本明細書での鋳型特異性は、複製の忠実度(すなわち、適当なポリヌクレオチド配列の合成)および(リボまたはデオキシリボ)ヌクレオチド特異性とは区別される。鋳型特異性は、「標的」特異性に関して記載されることが多い。標的配列は、それらが他の核酸から選別されることを要求されるという意味で「標的」である。増幅技術は、主としてこの選別をするために設計されている。
【0055】
鋳型特異性は、酵素を選択することでほとんどの増幅技術において達成される。増幅酵素は、それらが用いられる条件下にて、核酸の不均質混合物中の特異的核酸配列だけを処理するであろう酵素である。例えば、Qβレプリカーゼの場合、MDV-1 RNAは、該レプリカーゼの特異的な鋳型である (D.L. Kacianら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69: 3038 [1972])。他の核酸は該増幅酵素により複製されないだろう。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、該増幅酵素はそれ自身のプロモーターに対するストリンジェントな特異性を有する(M. Chamberlinら, Nature 228: 227 [1970])。T4 DNAリガーゼの場合、連結部位におけるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と鋳型間のミスマッチがある場合、該酵素は2つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを連結させないだろう(D.Y. WuおよびR.B. Wallace, Genomics 4: 560 [1989])。最後に、TaqおよびPfuポリメラーゼは、それらの高温で機能するという能力に基づいて、プライマーが結合し、それによって規定される配列に対し高い特異性を示すことが見出されている;高温は、標的配列とのプライマーハイブリダイゼーションに有利であり、非標的配列とのハイブリダイゼーションには有利でない熱力学条件をもたらす(H.A. Erlich (編集), PCR Technology, Stockton Press [1989])。
【0056】
本明細書に用いる「増幅可能な核酸」という用語は、任意の増幅法により増幅され得る核酸に関して用いられる。一般に「増幅可能な核酸」は、「サンプル鋳型」を含んでなると考えられる。
【0057】
本明細書に用いる「サンプル鋳型」という用語は、「標的」の存在について分析されるサンプル由来の核酸を意味する。それに対して、「バックグラウンド鋳型」は、サンプル中に存在するまたはしないであろうサンプル鋳型以外の核酸に関して用いられる。バックグラウンド鋳型は非常に多くの場合、偶然である。そのことは、キャリーオーバーの結果の可能性もあり、またはサンプルから取り去って精製すべき核酸混在物質の存在によるものである可能性もある。例えば、検出されるべき核酸以外の生物由来の核酸は試験サンプル中にバックグラウンドとして存在する可能性がある。
【0058】
本明細書に用いる「プライマー」という用語は、精製した制限酵素消化物の場合のように天然に存在していようと、合成的に生成されたものであろうと、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成を誘導する条件下(すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、および好適な温度とpH)においた場合に、合成の開始点として作用できるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、増幅の最大効率のために1本鎖であることが好ましいが、別に2本鎖であってもよい。もし2本鎖である場合、伸長産物の調製に用いる前にまずプライマーを処理してその鎖を分離する。プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドであることが好ましい。プライマーは、誘導剤の存在下で伸長産物の合成を開始させるのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー源および方法の使用を含む多くの要因に依存している。
【0059】
本明細書に用いる「プローブ」という用語は、精製した制限酵素消化物の場合のように天然に存在していようと、合成的、組換え的にまたはPCR増幅により生成されたものであろうと、目的の別のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチド配列)を意味する。プローブは、1本鎖であっても2本鎖であってもよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定および単離に有用である。本発明で用いるプローブはいずれも、限定するものではないが、酵素系(例えば、ELISAならびに酵素に基づく組織化学アッセイ)、蛍光系、放射性系および発光系を含む任意の検出系において検出可能であるように任意の「リポーター分子」で標識されることが企図される。本発明は、特定の検出系または標識のいずれにも限定することを意図していない。
【0060】
本明細書に用いる「標的」という用語は、プライマーが結合する核酸領域を意味する。このように「標的」は、他の核酸配列から選別されることが求められる。「セグメント」は、標的配列内の核酸領域として定義される。
【0061】
本明細書に用いる「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)という用語は、クローニングまたは精製なしにゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメント濃度を高める方法を記載するK.B. Mullisの方法(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,965,188号)を意味する。標的配列を増幅するこの方法は、非常に過剰な2つのオリゴヌクレオチドプライマーの所望の標的配列を含有するDNA混合物への導入、次いでDNAポリメラーゼの存在下での正確な連続した熱サイクルからなる。2つのプライマーは、2本鎖標的配列の各鎖に相補的である。増幅をなし遂げるために混合物を変性させ、次いでプライマーを標的分子内のそれらの相補的配列にアニーリングさせる。アニーリングの後、プライマーをポリメラーゼを用いて伸長させて新しい1対の相補鎖を形成する。変性、プライマーアニーリングおよびポリメラーゼ伸長ステップを多数回繰り返し(すなわち、変性、アニーリングおよび伸長が1「サイクル」を構成し、多数の「サイクル」が存在し得る)、所望の標的配列の増幅セグメントを高濃度で得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、互いのプライマーの相対的な位置により求められ、従ってこの長さは、制御可能なパラメーターである。該方法の反復態様により、該方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以下「PCR」)と呼ばれる。標的配列の所望の増幅セグメントが混合物中、(濃度に関して)優位な配列となるため、それらは「PCR増幅された」と言われる。
【0062】
PCRでは、幾つかの異なる方法論(例えば標識プローブとのハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーを組み込んだ後のアビジン-酵素結合検出; 32P標識したdCTPまたはdATPなどのデオキシヌクレオチド三リン酸の増幅セグメントへの組み込み)によりゲノムDNAの特定の標的配列の1コピーを検出可能なレベルまで増幅することが可能である。ゲノムDNAに加え、任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列も適当なプライマー分子のセットで増幅させることができる。特に、PCR方法創生された増幅セグメントは、それ自体が後に続くPCR増幅の有効な鋳型である。
【0063】
本明細書に用いる「PCR産物」、「PCR断片」および「増幅産物」という用語は、変性、アニーリングおよび伸長のPCRステップを2サイクル以上終えた後に得られた化合物の混合物を意味する。これらの用語は、1以上の標的配列の1以上のセグメントの増幅があった場合を包含する。
【0064】
本明細書に用いる「増幅試薬」という用語は、プライマー、核酸鋳型および増幅酵素を除いた、増幅に必要なそれらの試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、バッファーなど)を意味する。典型的には、増幅試薬は他の反応成分とともに反応容器(試験管、マイクロウェルなど)に入れられ、収容される。
【0065】
本明細書に用いる「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」という用語は、細菌酵素を意味し、その各々は特異的ヌクレオチド配列でまたはその近くで2本鎖DNAを切断する。
【0066】
本明細書に用いる「アンチセンス」という用語は、特定のDNAもしくはRNA配列(例えば、mRNA)に相補的なDNAもしくはRNA配列に関して用いられる。細菌による遺伝子調節に関連するアンチセンスRNA(「asRNA」)分子は、この定義内に含められる。アンチセンスRNAは、コード鎖の合成を可能にするウイルスプロモーターに対して逆方向に目的遺伝子(群)をスプライスすることによる合成を含む任意の方法によって産生し得る。いったん胚導入されれば、この転写された鎖は、胚で産生した天然mRNAと結合し、2本鎖を形成する。次いでこれらの2本鎖は、mRNAのさらなる転写かまたはその翻訳のいずれかをブロックする。この方法で突然変異表現型が生成され得る。「アンチセンス鎖」という用語は、「センス」鎖に相補的な核酸鎖に関して用いられる。(-)(すなわち、「負の」)の記載は、時にアンチセンス鎖に関して用いられ、(+)の記載は、時にセンス(すなわち、「正の」)鎖に関して用いられる。
【0067】
本明細書に用いる「機能的な組合せで」、「機能的な順で」および「機能的に連結された」という用語は、所定の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を指令する能力のある核酸分子が、産生されるような方法における核酸配列の結合を意味する。また、この用語は機能的タンパク質が産生されるような方法におけるアミノ酸配列の結合も意味する。
【0068】
核酸に関連して用いられる場合の「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」の場合のように、その天然供給源において一般にそれが関連している少なくとも1つの混在物質の核酸から同定され、分離される核酸配列を意味する。単離された核酸は、天然で見られるようなものとは異なる形態またはセッティングで存在する。それに対し、単離されない核酸は、DNAおよびRNAのような核酸として、それらが天然に存在している状態で見られる。例えば、所定のDNA配列(例えば、遺伝子)は、近隣の遺伝子付近の宿主細胞の染色体上で見られる;特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列のようなRNA配列は、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として細胞で見られる。しかし、所定のタンパク質をコードする単離された核酸としては、例えば、一般に核酸が天然の細胞のものとは異なる染色体上の位置にあるか、そうでなければ天然で見られるものとは異なる核酸配列が隣接した、所定のタンパク質を発現する細胞中の核酸が挙げられる。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、1本鎖もしくは2本鎖の形で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをタンパク質の発現に利用しようとする場合、オリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドは、最低限のセンスまたはコード鎖を含んでいる(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは1本鎖であり得る)が、センスおよびアンチセンス鎖両方を含み得る(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは2本鎖であり得る)。
【0069】
本明細書に用いる「トランスジーン」という用語は、例えば外来遺伝子を新しい受精卵または初期胚へ導入することにより、生物に配置される外来遺伝子を意味する。「外来遺伝子」と言う用語は、実験操作により動物のゲノムに導入される任意の核酸(例えば、遺伝子配列)を意味し、導入された遺伝子が天然に存在する遺伝子と同じ位置にない限り、その動物で見られる遺伝子配列を含み得る。
【0070】
様々な発生段階にある胚性細胞は、トランスジェニック動物作製用のトランスジーンを導入するために用いることができる。種々の方法が、胚性細胞の発生段階に応じて用いられる。接合子は、マイクロインジェクションの好ましい標的である。マウスでは、オスの前核がおよそ直径20μmの大きさに達し、DNA溶液1〜2ピコリットル(pl)の再現可能な注入を可能にする。遺伝子導入の標的としての接合子の使用は、多くの場合に注入DNAが初めの卵割前に宿主ゲノムに組み込まれるであろうという点で顕著な利点を有する(Brinsterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 4438-4442 [1985])。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の細胞すべてが、組み込まれたトランスジーンを有するであろう。概して、50%の生殖細胞がトランスジーンを保有するので、このことは創始動物の子孫への該トランスジーンの効率的な伝達においても反映されるであろう。接合子へのマイクロインジェクションは、本発明で実施する際にトランスジーンを組み込むための好適な方法である。米国特許第4,873191号が、接合子へのマイクロインジェクション方法を記載する;この特許の開示を、そのまま本明細書に組み入れる。
【0071】
レトロウイルス感染もまた、トランスジーンの動物への導入に用いることができる。発生中の胚を、胚盤胞期までin vitroで培養できる。この期間の間、卵割球はレトロウイルス感染の標的となり得る(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73: 1260-1264 [1976])。卵割球の効率的な感染は、透明帯を除去する酵素的処理により達成する(Hoganら, in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. [1986])。トランスジーンを導入するためのウイルスベクター系は、典型的にはトランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(D. Jahnerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 6927-693 [1985])。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することにより容易にかつ効率的に達成される(Van der Putten, 上記;Stewartら, EMBO J. 6: 383-388 [1987])。あるいは、感染は後期段階で行うこともできる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を卵割球中に注入できる(D. Jahnerら, Nature 298: 623-628 [1982])。組込みは、トランスジェニック動物を形成する細胞のサブセットにおいてのみ起こるので、多くの創始動物はトランスジーンのモザイクであろう。さらに創始動物は、一般に子孫において分離するゲノム中の、異なる位置にトランスジーンの様々なレトロウイルス挿入物を含んでいてもよい。加えて、低効率ではあるが、子宮内での妊娠中期胚へのレトロウイルス感染により、トランスジーンを生殖細胞系へ導入することも可能である(Jahnerら,上記 [1982])。さらに当技術分野で公知である、レトロウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いて、トランスジェニック動物を作製する手段には、レトロウイルス粒子またはレトロウイルスを産生するマイトマイシンC処理細胞の、受精卵または初期胚の卵黄周囲腔へのマイクロインジェクションがある(PCT国際出願 WO 90/08832 [1990]、およびHaskellおよびBowen, Mol. Reprod. Dev., 40: 386 [1995])。
【0072】
トランスジーン導入ための第3の標的細胞型は、胚性幹(ES)細胞である。ES細胞は、適当な条件下にてin vitroで未着床胚を培養することにより得られる(Evansら, Nature 292: 154-156 [1981]; Bradleyら, Nature 309: 255-258 [1984];Gosslerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 9065-9069 [1985];およびRobertsonら, Nature 322: 445-448 [1986])。トランスジーンは、当技術分野で公知の多種の方法(リン酸カルシウム共沈降、プロトプラストもしくはスフェロプラスト融合、リポフェクション、およびDEAE-デキストラン媒介トランスフェクションを含める)によるDNAトランスフェクションにより、効率的にES細胞へ導入し得る。またトランスジーンは、レトロウイルス媒介による形質導入により、またはマイクロインジェクションによりES細胞へ導入してもよい。このようにトランスフェクトされたES細胞は、その後胚盤胞期の胚の分割腔に導入した後に胚を集落形成し、得られたキメラ動物の生殖細胞系に寄与しうる(概説として、Jaenisch, Science 240: 1468-1474 [1988]を参照されたい)。分割腔へのトランスフェクトされたES細胞導入の前に、トランスジーンを組み込んでいるES細胞を富化するために、トランスジーンが選別手段を提供すると仮定して、トランスフェクトされたES細胞を、そのような種々の選別プロトコールに課してもよい。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応を、トランスジーンを組み込んでいるES細胞を選び出すのに用いてもよい。この技術により、分割腔へ導入する前に適当な選別条件下でトランスフェクトされたES細胞を増殖させる必要性が不要になる。
【0073】
「過剰発現」および「過剰発現する」という用語は、文法的に同等であり、mRNAのレベルに関して用いられ、対照または非トランスジェニック動物の所定の組織において典型的に観察されるより約3倍高い発現レベルを示す。mRNAのレベルは、限定するものではないが、ノーザンブロット分析を含めた当業者に公知の多数の技術のいずれかを用いて測定される。ノーザンブロットでは適当な対照を含めて、解析する各組織から添加されるRNA量の差異を調節する。(例えば、各サンプルに存在し、本質的に全組織に同一量で存在する豊富なRNA転写産物28S rRNAの量を、ノーザンブロットにおいて観察されるmRNA特異的シグナルを正規化、または標準化する手段として用いることができる)。正確にスプライスされたトランスジーンRNAと大きさが一致するバンドに存在するmRNA量を定量する;トランスジーンプローブとハイブリダイズするRNAの他の少数種については、トランスジェニックmRNAの発現の定量化においては考慮されない。
【0074】
本明細書に用いる「トランスフェクション」という用語は、外来DNAの真核細胞への導入を意味する。トランスフェクションは、当技術分野で公知の種々の手段(リン酸カルシウム-DNA共沈降、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染、およびバイオリスティックス (biolistics)を含める)により達成され得る。
【0075】
「安定したトランスフェクション」または「安定してトランスフェクトされた」という用語は、外来DNAのトランスフェクトされた細胞ゲノムへの導入および組込みを意味する。「安定したトランスフェクト体」という用語は、外来DNAをゲノムDNAに安定的に組み込んだ細胞を意味する。
【0076】
「一過性トランスフェクション」または「一過性にトランスフェクトされた」という用語は、外来DNAをトランスフェクトされた細胞ゲノムに組み込むことができない場合の外来DNAの細胞への導入を意味する。外来DNAは、数日間トランスフェクトされた細胞の核に維持される。この間、外来DNAは染色体において内在性遺伝子の発現を制御する調節制御に課される。「一過性トランスフェクト体」という用語は、外来遺伝子を取り込んだが、この外来DNAを組み込むことができなかった細胞を意味する。
【0077】
「リン酸カルシウム共沈降」という用語は、核酸を細胞へ導入するための技術を意味する。核酸がリン酸カルシウム-核酸共沈降物として現れる場合、細胞による核酸の取り込みが増大する。Grahamおよびvan der Ebの原型の技術(Grahamおよびvan der Eb, Virol., 52: 456 [1973])は、細胞の特定の型に対して条件を最適化するために幾つかのグループにより改良された。当技術分野では、これらの多くの改良は周知である。
【0078】
本明細書に用いる「選択マーカー」という用語は、他の場合には必須栄養素であろうものを欠いた培地で、増殖する能力を与える酵素活性をコードする遺伝子(例えば、酵母細胞のHIS3遺伝子)の使用を意味する;さらに選択マーカーは、選択マーカーを発現する細胞にある抗生物質または薬剤に対する耐性を付与し得る。選択マーカーは、「優性」であり得る;優性な選択マーカーは、任意の真核細胞系において検出され得る酵素活性をコードする。優性な選択マーカーの例としては、哺乳動物細胞に薬剤G418耐性を与える細菌アミノグリコシド3'ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子とも呼ばれる)、抗生物質ヒグロマイシン耐性を与える細菌ヒグロマイシンGホスホトランスフェラーゼ(hyg)遺伝子、およびミコフェノール酸の存在下で増殖する能力を与える細菌キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(gpt遺伝子とも呼ばれる)がある。
他の選択マーカーは、関連した酵素活性を欠く細胞系とともに使用しなければならないという点で優性ではない。非優性選択マーカーの例としては、tk-細胞系とともに使用されるチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、CAD欠失細胞とともに使用されるCAD遺伝子およびhprt-細胞系とともに使用される哺乳動物ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)遺伝子がある。哺乳動物細胞系の選択マーカーの使用についての概説は、Sambrook, J.ら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989), pp. 16.9-16.15に示されている。
【0079】
本明細書に用いる「精製された」または「精製する」という用語は、サンプルから混在物質を除去することを意味する。例えば、抗体は混在している非免疫グロブリンタンパク質の除去により精製される;またそれらは、標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去によっても精製される。非免疫グロブリンタンパク質の除去および/または標的分子と結合しない免疫グロブリンの除去の結果として、サンプル中の標的反応性免疫グロブリンのパーセントが増加する。別の例では、組換えポリペプチドを細菌宿主細胞で発現させ、宿主細胞タンパク質を除去して、該組換えポリペプチドを精製する;それによって組換えポリペプチドのパーセントがサンプル中で増加する。
【0080】
「ウエスタンブロット」という用語は、ニトロセルロースのような支持体または膜上へ固定されたタンパク質(群)(またはポリペプチド)を解析することを意味する。タンパク質をアクリルアミドゲル上で移動させてタンパク質を分離した後、タンパク質をゲルから固相支持体(例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜)へ転写させる。次いで固定されたタンパク質を目的の抗原に対して反応性を有する抗体に暴露する。抗体の結合は、放射性標識した抗体の使用を含む様々な方法により検出され得る。
【0081】
本明細書に用いる「抗原決定基」という用語は、特定の抗体と接触する抗原のその部分(すなわちエピトープ)を意味する。宿主動物の免疫化にタンパク質またはタンパク質の断片が用いられる場合、タンパク質の多くの領域が、タンパク質の所定の領域または三次元構造と特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る;これらの領域または構造を抗原決定基と呼ぶ。抗体との結合に関し、抗原決定基は完全抗原(すなわち免疫応答を導き出すために用いられる「免疫原」)と競合し得るものである。
【0082】
「特異的結合」または「特異的に結合すること」という用語は、抗体とタンパク質またはペプチドとの相互作用に関して用いられる場合、相互作用がタンパク質の特定の構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存していることを意味する;言い換えると、抗体は一般にタンパク質よりむしろ特異的なタンパク質構造を認識し、それと結合する。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識した「A」および該抗体を含む反応物においては、エピトープA(または遊離の標識されていないA)を含有するタンパク質の存在により、抗体と結合する標識Aの量が減少するであろう。
【0083】
本明細書に用いる「細胞培養」という用語は、任意のin vitro細胞培養を意味する。連続細胞系(例えば、不死化(immortal)表現型)、一次細胞培養、有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)およびin vitroで保持された任意の他の細胞集団がこの用語内に含まれる。
【0084】
用いられる「真核生物」という用語は、「原核生物」と区別できる生物を意味する。該用語は、通例の真核生物の特徴(例えば、核膜で区切られ、中には染色体がある本当の意味での核および膜結合細胞小器官の存在)、および真核生物に一般に観察される他の特徴を示す細胞を有する、すべての生物を包含することを意図している。
【0085】
本明細書に用いる「in vitro」という用語は、人工的な環境および人工的な環境内で起こる過程または反応を意味する。in vitro環境は、試験管および細胞培養からなるが、これらに限定されない。「in vivo」という用語は、天然の環境(例えば、動物または細胞)および天然の環境内で起こる過程または反応を意味する。
【0086】
「試験化合物」または「被験化合物」という用語は、生体機能の疾患、病気、不健康または障害を治療または予防するために用いる任意の化学種、医薬、薬剤およびそれに対応する物を意味する。試験化合物には、公知の治療用化合物および潜在的な治療用化合物の両方が含まれる。本発明のスクリーニング方法を用いたスクリーニングにより、試験化合物が治療上有効であることを調べることができる。「公知の治療用化合物」とは、かかる治療または予防において有効であることが示されている(例えば動物実験またはヒトへの投与による予備試験による)治療用化合物を意味する。
【0087】
本明細書に用いる「サンプル」という用語は、その最も広い意味で用いられる。一つの意味として、該用語は、薬剤および治療用化合物を意味し得る。別の意味では、任意の供給源から得られた検体または培養物、ならびに生物学的サンプルおよび環境的サンプルを含むことを意味する。生物学的サンプルは、動物(ヒトを含めて)から得ることができ、液体、固体、組織および気体を包含する。生物学的サンプルは、血液産物(例えば、血漿、血清など)を含む。環境的サンプルは、環境物質(例えば、表面物質、土壌、水)および工業用サンプルを含む。これらの例は、本発明に適用できるサンプルの種類を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0088】
発明の一般的説明
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法ならびに組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病、および炎症性成分が原因の他の疾患または症状、そのようなものとしては限定はされないが、発作、神経系への虚血性ダメージ、神経外傷(例えば、打撃性脳損傷、脊髄損傷、および神経系への外傷性ダメージ)、多発性硬化症ならびにその他の免疫が介在する神経障害(例えば、ギランバレー症候群およびその変異型、急性運動神経軸索障害、急性炎症性脱髄性多発神経障害、ならびにフィッシャー症候群)、HIV/AIDS痴呆複合症、ならびに細菌性およびウイルス性髄膜炎が挙げられるが、そのような疾患または症状に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。
【0089】
本発明はさらに、薬剤スクリーニング、および炎症応答に関与する細胞性および分子機構において役割を果たす因子を同定し特性評価するための組成物および方法を提供する。特に、本発明は、シクロオキシゲナーゼ−2の調節、およびシクロオキシゲナーゼ−2を調節するもしくはシクロオキシゲナーゼ−2によって調節されるシグナル伝達経路に関与する因子を同定し特性評価するための方法と組成物を提供する。
【0090】
本発明の多数の態様を本明細書ではアルツハイマー病をモデルとして用いて説明している。当業者であれば、炎症性成分が関与する広範な疾患と症状の治療および調節に対してこれらの実施例が一般的に応用可能であることは理解されよう。
【0091】
上述のとおり、アルツハイマー病に対して用いられてきた治療上の処置方策は神経伝達物質の置換、もしくは正常脳構造の保持に焦点があてられていたが、これらは短期間の病状の軽減を与える可能性はあるが神経の変性および死は防止しないものである。アルツハイマー病に対するより有効な治療法の必要性に応じて、本発明は神経細胞の変性および死を炎症過程の調節によって防ぐ方法を提供するものである。
【0092】
AD脳で炎症性サイトカインが高レベルで存在すること、および多数の急性期産物の存在が報告されている。しかし本発明以前にはこれらの炎症過程の基礎となる分子機構については十分には特性評価されておらず、関連する神経細胞の変性および死を防止するための安全で予防的な療法は開発されていなかった。
【0093】
ADの病理学的な第1の特徴は糸状アミロイドの細胞外沈着およびそれが老人斑中にぎっしり詰まっていることである。老人斑はアミロイド斑に近接するミクログリアおよび星状細胞の双方の活性化に関与する複雑な細胞性反応の中心である。ミクログリアは老人斑中に最も大量かつ顕著に見られる細胞性成分である。老人斑と会合したミクログリアは「反応性の」もしくは「活性化された」表現型を呈し、分枝状の形状を有しその突起が老人斑を包んでまとわりつく。ミクログリアは脳内の主たる免疫細胞であり、単球細胞系統に由来し、形態学的および機能的にはマクロファージと識別し得ない。マクロファージと同様に、ミクログリアは「反応性の」表現型の獲得によって種々の刺激に応答し、MHCクラスII抗原、CD45、補体受容体CR3およびCR4、免疫グロブリン受容体FcγRIおよびFcγRII、ならびにICAM-1などの多数の細胞表面分子の発現の増加がその証拠となる。活性化ミクログリアは、活性化マクロファージと同様に、特にα−抗キモトリプシン、α−抗トリプシン、血清アミロイドP、C反応性タンパク質、および補体系成分を含む広範な急性期タンパク質を分泌する(McGeerとRogers, Neurology 42:447[1992])。重要なことは、ミクログリアの活性化が前炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、およびTNF-α、ならびにマクロファージ走化性タンパク質−1の合成と分泌をもたらすことである。
【0094】
AD脳においてはミクログリアと老人斑との会合が、アミロイド沈着に対する最も顕著で常に見られる細胞性反応である(Cotmanら, Neurobiol. Aging 17:723[1996]; Itagakiら, J. Neuroimmunol. 24:173[1989]; およびMiyazonoら, Am. J. Path. 139:589[1991])。老人斑と会合したミクログリアは反応性の表現型を呈し、分枝状の形態をとり、その突起で老人斑を包み込む(Itagakiら, 上述の文献; Fukumotoら, Neurodegen 5:13[1996]; Mannら, Acta Neuropath. 90:472[1995]; およびPerlmutterら, Neurosci. Lett. 119:32[1990])。アミロイド前駆体タンパク質(APP)の変異型を発現しているトランスジェニックマウスでは、アミロイド斑形成に引き続き活性化ミクログリアがその斑のコアの内部におよび近接して出現することは重要な意義を有する(Borcheltら, Neuron 19:939[1997]; Sturchler-Pierraら, Proc. Natl. Acad. Sci. 94:13287[1997]; Frautschyら, Am. J. Pathol. 152:307[1998]; およびMasliahら, J. Neurosci. 16:5795[1996])。さらに、Aβを直接的に脳内に注射した動物モデルでは、ミクログリアのアミロイド沈着への補強を誘発しその活性化を介在するためにはAβ単独で十分である(Weldonら, J. Neurosci.18:2161[1998]。従って、ヒトおよびマウスの双方において、豊富かつ反応性のミクログリアが存在することは脳内のアミロイド沈着に対する不変の応答である。
【0095】
本発明の組成物と方法はAβに対するミクログリアの様々な応答を阻害するための方法を提供する。例えば、本発明は広範な炎症性応答(例えば、単球およびミクログリア中におけるAβが誘発する広範な炎症性応答)を抑制する薬剤を提供する。これらの薬剤(例えば、PPARγアゴニスト)は転写因子であるPPARγと相互作用することが示されている。本発明はまた、PPARγアゴニストがシクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)およびサイトカインであるTNF-αおよびIL-6の発現をブロックし、神経毒性産物の分泌を阻害することを示している。本発明以前には、炎症性疾患におけるPPARγおよびPPARγエフェクターの治療効果は探索されていなかった。従って、本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状を治療するための新規の治療方法を提供するものである。
【0096】
詳細な説明
本発明はアルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状(例えば、中枢神経系の損傷)を治療するための方法および組成物に関する。特に、本発明はアルツハイマー病およびその他の炎症性疾患に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する薬剤を提供する。本発明の治療用薬剤はPPARγリガンド(例えばPPARγアゴニスト)を含んでなる。本発明を実施するためにその機構を理解することは必要ではなく、本発明がその機構によって限定されることは意図していないが、本発明の治療用薬剤がPPARγ活性を変え、それに続いてPPARγによる遺伝子発現を調節することによって前炎症性および神経毒性産物の産生を調節すると考えられる。
【0097】
PPARは、構造的にステロイドおよびレチノイン酸受容体ファミリーと関連する、脂質によって活性化されるDNA結合タンパク質である(Lembergerら, Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 12:335[1996])。その受容体の活性化型は、PPREと称される配列特異的プロモーターエレメントと結合し、遺伝子発現を転写の段階で調節する(Ricoteら, Nature 391:79[1998])。PPARには3種類のアイソフォーム(PPARα、γ、およびδ)があり、それらは示差的に発現される。この受容体ファミリーの天然のリガンドは脂肪酸および脂質代謝物であり、PPARファミリーの各メンバーとともに、明白なパターンのリガンド特異性を示す。
【0098】
I. 本発明の治療用薬剤
本発明は、PPARγを調節する薬剤(例えばPPARγアゴニスト)が、アルツハイマー病およびその他の炎症性疾患(例えば、中枢神経系の損傷)に関与する前炎症性および神経毒性産物の産生を調節する治療用の組成物を提供することを示す。そのような薬剤としては、限定はされないが、プロスタグランディンJ2(PGJ2)およびその類似体(例えば、Δ12-プロスタグランディンJ2および15-デオキシ-Δ12, 14-プロスタグランディンJ2)、プロスタグランディンD2ファミリーのメンバーの化合物、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびチアゾリジンジオン(例えば、シグリタゾン、トログリタゾン、ピオグリタゾン、およびBRL49653)が挙げられる。ほとんどのPPARγアゴニストが経口投与後に実質的なバイオアベイラビリティーを示しその使用に伴う毒性がほとんどもしくは全くないことは重要なことである(例えば、SaltielとOlefsky, Diabetes 45:1661[1996]; Wangら, Br. J. Pharmacol. 122:1405[1997]; およびOakesら, Metabolism 46:935[1997]を参照せよ)。本発明は、既知のもしくは将来同定されるであろうPPARγアゴニストのいかなるものも本発明で用いることができるであろうと予想する。
【0099】
本発明を実施するために有用な化合物、およびそれらの化合物を製する方法は、WO91/07107; WO92/02520; WO94/01433; WO89/08651; WO96/33724; 米国特許第4,287,200号; 第4,340,605号; 第4,438,141号; 第4,444,779号; 第4,461,902号; 第4,572,912号; 第4,687,777号; 第4,703,052号; 第4,725,610号; 第4,873,255号; 第4,897,393号; 第4,897,405号; 第4,918,091号; 第4,948,900号; 第5,002,953号; 第5,061,717号; 第5,120,754号; 第5,132,317号; 第5,194,443号; 第5,223,522号; 第5,232,925号; 第5,260,445号; および第5,814,647号に開示されている。これらの公表物の開示事項は本明細書中に参照によりその全体を組み込むこととする。
【0100】
前述の効果を有する薬剤としては下記の式の化合物が個人を治療するのに有用である。本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Iの化合物[式中、R1およびR2は同じかもしくは異なり、その各々は水素原子、もしくはC1-C5アルキル基を表し;R3は水素原子、C1-C6脂肪族アシル基、脂環式アシル基、芳香族アシル基、ヘテロ環式アシル基、araliphaticアシル基、(C1-C6アルコキシ)カルボニル基、またはアラルキルオキシカルボニル基を表し;R4とR5は同じかもしくは異なり、各々は水素原子、C1-C5アルキル基もしくはC1-C5アルコキシ基、またはR4とR5は共同してC1-C5アルキレンジオキシ基を表し;nは1、2、または3;Wは-CH2-、>CO、もしくはCH-OR6基を表し(ここでR6は、R3で定義した原子もしくは基のうち任意のものであってもよく、それはR3と同じであっても異なるものであってもよい);そしてYおよびZは同じものでも異なるものでもよく、その各々は酸素原子、もしくはイミノ(=NH)基を表す];および製薬上許容されるその塩を含む。
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IIの化合物[式中R11は置換された、もしくは置換されていないアルキル、アルコキシ、シクロアルキル、フェニルアルキル、フェニル、芳香族アシル基、窒素、酸素、およびイオウからなる群から選択された1もしくは2個のヘテロ原子を含んでいる5-、もしくは6-員の複素環基、または図15に示す式の基(すなわち、「R11に用いうる式」と表示した基)であって、式中、R13およびR14は同じかもしくは異なり、その各々は低級アルキル(あるいは、R13およびR14はお互いに直接、もしくは窒素、酸素、およびイオウからなるヘテロ原子で隔てて、組み合わされ5員環もしくは6員環を形成する);そして、式中、L1およびL2は同じかもしくは異なり、その各々は水素もしくは低級アルキルであるか、またはL1およびL2は組み合わさってアルキレン基を形成する]、または製薬上許容されるその塩を含む。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IIIの化合物[式中、R15およびR16は独立に水素、1個〜6個の炭素原子を含有する低級アルキル、1個〜6個の炭素原子を含有するアルコキシ、ハロゲン、エチニル、ニトリル、メチルチオ、トリフルオロメチル、ビニル、ニトロ、もしくはハロゲンで置換されたベンジルオキシであり、nは0〜4である];または製薬上許容されるそれらの塩を含む。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IVの化合物[式中、点線は結合もしくは結合がないことを示す;Vは−H=CH−、−N=CH−、−CH=N−、もしくはSであり;DはCH2、CHOH、CO、C=NOR17、もしくはCH=CHであり;XはS、O、NR18、−CH=N、もしくは−N=CHであり;YはCHもしくはNであり;Zは水素、(C1−C7)アルキル、(C1−C7)シクロアルキル、フェニル、ナフチル、ピリジル、フリル、チエニル、または同じかもしくは異なる基((C1−C3)アルキル、トリフルオロメチル、(C1−C3)アルコキシ、フルオロ、クロロ、もしくはブロモ)によって1カ所もしくは2カ所が置換されたフェニルであり、Z1は水素もしくは(C1−C3)アルキルであり;R17およびR18は各々独立に水素もしくはメチルであり;nは1、2、もしくは3である]、製薬上許容されるそれらの陽イオン性塩、またはその化合物が塩基性窒素を含有している場合には製薬上許容される酸付加塩を含む。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Vの化合物[式中、点線は結合もしくは結合がないことを示す;AおよびBは各々独立にCHもしくはNで、AもしくはBがNである場合には他方はCHであるという条件があり;X1はS、SO、SO2、CH2、CHOH、もしくはCOであり;nは0もしくは1であり;Y1はCHR20もしくはR21で、nが1でY1がNR21の場合にはX1がSO2もしくはCOであるという条件があり;Z2はCHR22、CH2CH2、環状C2H2O、CH=CH、OCH2、SCH2、SOCH2、もしくはSO2CH2であり;R19、R20、R21、およびR22は各々独立に水素もしくはメチルであり;X2およびX3は各々独立に水素、メチル、トリフルオロメチル、フェニル、ベンジル、ヒドロキシ、メトキシ、フェノキシ、ベンジロキシ、ブロモ、クロロ、もしくはフルオロである]、それらの製薬上許容される陽イオン性塩、またはAもしくはBがNの場合には製薬上許容される酸付加塩を含む。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIの化合物、もしくは製薬上許容されるその塩であって、式中、R23は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル、3〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル、フェニル、またはモノ置換もしくはジ置換のフェニルでその置換基が独立に炭素原子1〜6個のアルキル、炭素原子1〜3個のアルコキシ、ハロゲン、もしくはトリフルオロメチルであるものである。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはそれらの製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物を含み、式中、A2はアルキル基、置換されているかもしくはされていないアリール基、またはアルキレンもしくはアリール部分が置換されているもしくはされていないアラルキル基であり;A3は任意で合計3カ所までの置換を有するベンゼン環を表し;R24は水素原子、アルキル基、アシル基、アルキルもしくはアリール部分が置換されているもしくはされていないアラルキル基、または置換されているもしくはされていないアリール基であり;またはA2はR24とともに置換されたもしくはされていないC2-3ポリメチレン基を表し、このポリメチレン基の任意の置換基はアルキル、もしくはアリールであるか、または近接する置換基がその置換基が付くメチレンの炭素原子と共に、置換されたもしくはされていないフェニレン基を形成する;R25およびR26は各々独立に水素を示すか、またはR25およびR26は共にある結合を表し;X4はOもしくはSを表し;ならびにnは2〜6の範囲の整数を示す。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式VIIIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、R27およびR28は各々独立にアルキル基、置換されているもしくはされていないアリール基、またはアリールもしくはアルキル部分が置換されているかもしくはされていないアラルキル基であり;またはR27はR28と共同して結合基を表し、その結合基は場合により、置換されたメチレン基、またはOもしくはS原子からなり、メチレン基の任意の置換基としてはアルキル、アリール、もしくはアラルキル、または近接するメチレン基の置換基はその置換基が付いている炭素原子と共に置換されているもしくはされていないフェニレン基を形成し;R29およびR30は各々水素を示すかまたはR29とR30は共にある結合を表し;A3は任意で合計3カ所までの置換のあるベンゼン環であり;X5はOもしくはSを表し;nは2〜6の範囲の整数を示す。
【0107】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式IXの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A5は置換されたもしくはされていない芳香族複素環基を表し;A6は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;X6はO、S、もしくはNR32を表し、R32は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)、または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;Y2はOもしくはSを表し;R31はアルキル、アラルキル、もしくはアリール基を表し;nは2〜6の範囲の整数を表す。適切な芳香族複素環基は、置換されたもしくはされていない、単環もしくは縮合環の、4個以内のヘテロ原子からなる芳香族複素環基であり、該ヘテロ原子は酸素、イオウ、もしくは窒素から選択される。好ましい芳香族複素環基としては、4〜7個の、好ましくは5〜6個の環の構成原子を有する、置換されたもしくはされていない単環の芳香族複素環基を含む。とりわけ、その芳香族複素環基は1、2、もしくは3個のヘテロ原子、特に1もしくは2個の、酸素、イオウ、もしくは窒素から選択されるヘテロ原子を含む。A5の適切な意味としてはそれが5員環の芳香族複素環基を表す場合にはチアゾリルおよびオキサゾイル、とりわけオキサゾイルが挙げられる。A6の適切な意味はそれが6員環の芳香族複素環基を表す場合にはピリジルもしくはピリミジニルを含む。適切なR31としてはアルキル基、特にC1-6アルキル基(例えば、メチル基)が挙げられる。好ましくはA5は図15の式IXの下の式(a)、(b)、または(c)に表した部分を示し、式中、R33およびR34は各々独立に水素原子、アルキル基、または置換されたもしくはされていないアリール基またはR33とR34の各々が近接する炭素原子に付けられている場合には、R33とR34はそれらが付けられている炭素原子と共同してベンゼン環を形成し、そのベンゼン環中でR33およびR34で共同して表されている各炭素原子は置換されていてもされていなくてもよく:式(a)の部分においてX7は酸素もしくはイオウを表している。本発明の好ましい1実施形態においては、R33およびR34は共に図15の式IXの下に記載の式(d)の部分を示し、その式中でR35およびR36は各々独立に水素、ハロゲン、置換されたもしくはされていないアルキル、またはアルコキシを表す。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式Xの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A7は置換されたもしくはされていないアリール基を表し;A8は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;X8はO、S、もしくはNR39を表し、ここでR39は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)、または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;Y3はOもしくはSを表し;R37は水素を表し;R38は水素もしくはアルキル、アラルキル、もしくはアリール基を表し、またはR37はR38と共同して1つの結合を表し;nは2〜6の範囲の整数を表す。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式XIの化合物、またはその互変異性体および/もしくはその製薬上許容される塩、および/もしくはその製薬上許容される溶媒和物からなり、式中、A1は置換されたもしくはされていない芳香族複素環基を表し;R1は水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基(アラルキル基はアリール部分が置換されたもしくはされていないものである)または置換されたもしくはされていないアリール基を表し;A2は合計で5個までの置換基を有するベンゼン環を表し;nは2〜6までの範囲の整数を表す。適切な芳香族複素環基は、置換されたもしくはされていない、単環もしくは縮合環の、4個以内のヘテロ原子からなる芳香族複素環基であり、各環内のヘテロ原子は酸素、イオウ、もしくは窒素から選択される。好ましい芳香族複素環基としては、4〜7個の、好ましくは5〜6個の環の構成原子を有する、置換されたもしくはされていない単環の芳香族複素環基を含む。とりわけ、その芳香族複素環基は1、2、もしくは3個のヘテロ原子、特に1もしくは2個の、酸素、イオウ、もしくは窒素から選択されるヘテロ原子を含む。A1の適切な意味としてはそれが5員環の芳香族複素環基を表す場合にはチアゾリルおよびオキサゾイル、とりわけオキサゾイルが挙げられる。A1の適切な意味はそれが6員環の芳香族複素環基を表す場合にはピリジルもしくはピリミジニルが挙げられる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態においては、治療用薬剤は図15の式XIIおよびXIIIの化合物、もしくはそれらの製薬上許容される塩からなり、式中、点線は結合もしくは結合がないことを示し;Rは3〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル、ナフチル、チエニル、フリル、フェニルもしくは置換されたフェニル(ここで置換基は1〜3個の炭素原子を有するアルキル、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ、トリフルオロメチル、クロロ、フルオロ、またはビス(トリフルオロメチル)である);R1は1〜3個の炭素原子を有するアルキルであり;XはOもしくはC=O;AはOもしくはS;BはNもしくはCHである。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態は化合物IからXIIIの化合物のアルツハイマー病ならびに炎症性成分が関与する疾患と症状の治療のための使用を含んでいる。これらの化合物を本明細書ではチアゾリジン誘導体と呼ぶ。必要に応じて、チアゾリジン誘導体の具体的名称が用いられ、そのようなものとしては、トログリタゾン、シグリタゾン、ピオグリタゾン、およびBRL49653が挙げられる。
【0112】
好ましい化合物群は式XIのものであって、式中、点線は結合がないことを表し、R1はメチル、XはO、およびAはOのものである。この化合物群の中で特に好ましいものは、式中、Rがフェニル、2-ナフチル、および3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルであるような化合物である。好ましい化合物の別の1群としては式XIIIのものであって、式中、点線は結合がないことを表し、R1はメチルであり、AはOのものである。この化合物群中で特に好ましいものは、式中、BがCH、Rはフェノール、p-トリル、m-トリル、シクロヘキシル、および2-ナフチルのものである。本発明の別の実施形態においては、BはNでRはフェニルである。
【0113】
さらに別の実施形態においては、本発明は式IからXIIIを含む、少なくとも1つの組成物の有効量を単位剤形で投与するのに適した医薬組成物の使用方法を提供する。また別の実施形態においては、組成物はさらに製薬上許容される担体を含む。
【0114】
本発明の組成物の具体的な例としては、限定はされないが次のものを挙げることができる:(+)-5[[4-[3,4-ジヒドロ-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-2H-1-ベンゾピラン-2-イル]メトキシ]フェニル]メチル]-2,4-チアゾリジンジオン(トログリタゾン);4-(2-ナフチルメチル)-1,2,3,5-オキサチアジアゾール-2-オキシド;5-[4-[2-[N-(ベンゾキシアゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]-5-メチルチアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[2,4-ジオキソ-5-フェニルチアゾリジン-3-イル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-メチル-N-(フェノキシカルボニル)アミノ]エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-(2-フェノキシエトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(4-クロロフェニル)エチルスルホニル]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[3-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)プロピオニル]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[(1-メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン(シグリタゾン);5-[[4-(3-ヒドロキシ-1-メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)エトキシ]ベンジル]チアジゾリジオン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシル]ベンジル]チアジアゾリジン-2,4-ジオン(ピオグリタゾン);5-[(2-ベンジル-2,3-ジヒドロベンゾピラン)-5-イルメチル]チアジアゾリン-2,4-ジオン(エングリタゾン);5-[[2-(2-ナフチルメチル)ベンゾキサゾール]-5-イルメチル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[2-(3-フェニルウレイド)エトキシル]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-(ベンゾキサゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[4-[3-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イル)プロピオニル]ベンジル]チアジアゾリン-2,4-ジオン;5-[2-(5-メチル-2-フェニルオキサゾール-4-イルメチル)ベンゾフラン-5-イルメチル]-オキサゾリジン-2,4-ジオン;5-[4-[2-[N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ]エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(BRL49653);および5-[4-[2-[N-(ベンゾキサゾール-2-イル)-N-メチルアミノ]エトキシ]ベンジル]-オキサゾリジン-2,4-ジオン。
【0115】
本発明の別の実施形態においては、治療用薬剤は図16に示す構造を有する化合物を含み、その構造中でAは水素もしくは環のαもしくはβの位置の脱離基から選択されたものであるか、または環のCαとCβの間に二重結合がある場合にはAは存在せず;Xはアルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキル、もしくは2〜15個までの範囲の炭素原子を有する置換されたアルキニル基であり;Yはアルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、アルキニル、もしくは2〜15個までの範囲の炭素原子を有する置換されたアルキニル基である。本明細書で用いられている「脱離基」という用語は前駆体化合物から、例えば、E2脱離条件下での求核性置換などによって、および類似の方法によって容易に除去することのできる官能基を意味する。例としては、限定はされないが、ヒドロキシ基、アルコキシ基、トシラート、ブロシラート(brosylate)、ハロゲンなどが挙げられる。
【0116】
本発明の治療用薬剤(例えば、図15の式I−XIIIに記載の化合物)はさらに製薬上許容される酸付加および/もしくは塩基性塩の双方を形成することができる。
これらの形態の全てが本発明の範囲内に含まれる。
【0117】
本発明の製薬上許容される酸付加塩としては、限定はされないが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、亜リン酸などの無毒な無機酸に由来する塩、ならびに脂肪族モノ-およびジカルボン酸、フェニルで置換されたアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの無毒の有機酸から由来する塩が挙げられる。そのような塩としては硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、ビス亜硫酸塩bissulfite、硝酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソブチル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、malcate、マンデル酸塩(mandelate)、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。また、アルギニンなどのアミノ酸の塩、ならびにグルコン酸塩、ガラクツロン酸塩、およびn-メチルグルカミンなども包含される(例えば、Bergeら, J. Pharm. Science 66:1[1977]を参照せよ)。
【0118】
塩基性化合物の酸付加塩は、遊離塩基形態のものを十分量の所望の酸と接触させることによって従来法で塩を生成させて調製される。遊離塩基形態のものは、従来法もしくは上述の方法でその塩形態のものを塩基と接触させ遊離塩基を単離することにより再生することができる。遊離塩基形態のものはその塩形態のものとは極性溶媒への溶解性などの特定の物理的特性においていくらか異なるが、素その他の点では、本発明の目的では塩はそれの遊離塩基と同等である。
【0119】
製薬上許容される塩基付加塩はアルカリ金属およびアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属もしくはアミンを用いて形成される。陽イオンとして用いられる金属の例としては、限定はされないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。適切なアミンの例としては、限定はされないが、N2N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、およびプロカインが挙げられる(例えば、Bergeら, J. Pharm. Science 66:1[1977]を参照せよ)。
【0120】
酸性化合物の塩基付加塩は、遊離酸形態のものを十分量の所望の塩基と接触させ、従来法で塩を生成させることによって調製される。遊離酸形態のものは、従来法もしくは上述の方法でその塩形態を酸と接触させ遊離酸を単離することにより再生することができる。遊離酸形態のものはその塩形態のものと極性溶媒への溶解性などの特定の物理的特性においていくらか異なるが、その他の点で本発明の目的では、塩はそれの遊離酸と同等である。
【0121】
本発明の化合物のある種のものは溶媒和していない形態のものおよび溶媒和した形態のもので存在することができ、そのようなものとしては、限定はされないが、水和した形のものが挙げられる。通常は、水和を含む溶媒和した形のものはそうでない形のものと同等で、本発明の範囲内に包含されることを意図している。本発明の化合物のある種のものは1個以上のキラル中心を有し、各中心は異なる立体配置で存在しうる。従って、その化合物は立体異性体を形成することができる。本明細書では限られた数の分子式によってそれら全てを代表させているが、本発明は、個々の単離した異性体およびラセミ体を含むそれらの混合物の双方の使用を含んでいる。その化合物を調製する際に立体特異的な合成技法が行われる場合、もしくは光学活性化合物が出発材料として用いられる場合には、個々の異性体を直接的に調製することができる。しかし、異性体の混合物が調製されれば、個々の異性体は従来の分離技法で得ることができ、またはその混合物はそのまま用いることができる。
【0122】
さらに、式IからXIIIの化合物のチアゾリデンもしくはオキサゾリデン部分は互変異性体形態で存在することができ、本発明の一部をなすことを意図している。
【0123】
本発明の化合物から医薬組成物を調製するためには、製薬上許容される担体は適切なものであればどのような形態でもよい(例えば、個体、液体、ゲル、その他)。固体製剤としては、限定はされないが、粉末、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤、および分散しうる顆粒剤が挙げられる。固体担体は1種以上の物質とすることができ、それはまた希釈剤、香料、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、もしくは被包化物質としても作用する。本発明は治療用組成物の投与のための種々の技法を包含している。適切な投与経路としては、限定はされないが、経口、直腸、経皮、経膣、経粘膜、もしくは経腸投与;筋肉内、皮下、髄内注射、ならびに鞘内、直接的心室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、もしくは眼内注射などの非経口投与が特に挙げられる。本発明がいずれか特定の投与経路に限定されることは意図していない。
【0124】
注射用として、本発明の薬剤は水溶液中、好ましくは生理学的に両立しうるバッファー、例えばHank's溶液、リンゲル液、もしくは生理的食塩水バッファー中に製剤化することができる。経粘膜投与のためにはその浸透すべきバリアに適切な浸透剤が製剤中に用いられる。そのような浸透剤は当業界では一般的に知られている。
【0125】
粉末剤では、担体は微細化した固体で、それは微細化した活性成分との混合物中にある。錠剤では、活性成分は必要な結合特性を有し担体と適切な比率で混合され、所望のサイズおよび形に成型される。
【0126】
これらの粉末と錠剤は好ましくは活性化合物を5もしくは10%〜約70%まで含有する。適切な担体としては、限定はされないが、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ショ糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカンタ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ロウ、カカオ脂などがその他の実施形態のなかで特に挙げられる(例えば、固体、ゲル、および液体の形状で)。「調製」という用語は、活性化合物を担体としての被包材料を用いて製剤化してカプセル剤を提供することをも包含しており、そのカプセル中で活性化合物はその他の担体と共に、もしくはその他の担体なしで、ある担体によって取り囲まれ、それによって活性化合物は担体と会合している。同様に、カシェ剤およびトローチ剤も含まれる。錠剤、粉末、カプセル剤、丸剤、カシェ剤、およびトローチ剤は経口投与に適した固体剤形として用いることができる。
【0127】
坐剤の調製には、本発明のいくつかの実施形態においては、低融点のロウ例えば脂肪酸グリセリドまたはカカオ脂の混合物をまず溶融し、活性化合物を均一に、例えば攪拌によって、その中に分散する。次いで溶融した均一な混合物を都合のよいサイズの型に注ぎ込み、冷却して投与に適切な形態に固化させる。
【0128】
液状の製剤としては、限定はされないが、溶液剤、懸濁剤、および乳剤(例えば、水もしくは水プロピレングリコール溶液)が挙げられる。非経口注射用には、本発明のいくつかの実施形態においては、液状製剤がポリエチレングリコール水溶液中の溶液として製剤化される。経口投与に適する水性溶液は活性化合物を水に溶解し、適切な着色剤、香料、ならびに安定化剤および増粘剤を所望により添加することによって調製することができる。経口投与に適する水性懸濁液は微細なものとした活性化合物を粘性材料、例えば天然もしくは合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびその他の既知の懸濁剤などと共に水中に分散することによって製造することができる。
【0129】
また、使用の直前に経口投与用の液状製剤に転換することを意図した固体製剤も含まれる。そのような液状品としては溶液剤、懸濁剤、および乳剤が挙げられる。これらの製剤は活性化合物に加えて、着色剤、香料、安定化剤、バッファー、人工および天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤およびその他同種のものを含有することができる。
【0130】
これらの医薬製剤は好ましくは単位剤形である。そのような形態では製剤はさらに、適切な量の活性化合物を含有する単位用量に再分割される。その単位剤形は包装された製剤とすることができ、そのパッケージには、例えば小分包化した錠剤、カプセル剤、およびバイアル瓶もしくはアンプル内の粉末などの、別々の量の製剤が含有されている。単位剤形はまた、カプセル剤、錠剤、カシェ剤、もしくはトローチ剤それ自体とすることができ、これらの任意のものが適当な数でパッケージされた形態のものとすることができる。
【0131】
単位剤形中の活性化合物の量は変えることができ、または0.1mg〜100mgまで、好ましくは0.5mg〜100mgの範囲に活性化合物の特定の用途および活性化合物の力価に従って調節することができる。所望により、該組成物は他の両立しうる治療用薬剤を含有することもできる。医薬組成物を調製する一般的方法についてはRemington's Pharmaceutical Science, E.W.Martin編, Mack Publishing Co., 米国ペンシルベニア州(1990)に述べられている。
【0132】
臨床上の特徴の評価および個々の患者に対する適切な治療レジメンの設計は究極的には処方医の責任である。処方医の患者評価の一部として、担当医は毒性もしくは臓器機能不全により、いつどのような方法で投与を終了し、中断し、もしくは調整するかを承知していると考えられる。逆に、担当医は、臨床的応答が不十分な状況下では毒性を避けつつ治療をより高いレベルへと調節することも知っている。対象とする障害の管理において投与量の大きさは治療しようとする病状の重篤度、患者の個々の生理学的、生化学的その他の条件、および投与経路によって異なる。病状の重篤度は、例えば、部分的には標準的な予後評価法によって評価することができる。さらに、用量および投与頻度も、年齢、体重、性別、および個々の患者の治療への応答によって変わってくる。
【0133】
II. 治療薬の活性
上記治療薬は、アルツハイマー病および炎症性成分が原因の疾患または症状、例えば発作、虚血による神経系の障害、神経傷害(例えば衝撃による脳の障害、脊髄損傷、および神経系の外傷性障害など)、多発性硬化症、および他の免疫に関わる神経障害(例えばギヤン‐バレー症候群およびその変種、急性運動軸索神経障害、急性炎症性脱髄性多発性神経炎、およびフィッシャー症候群など)、HIV/エイズ痴呆、ならびに細菌性、寄生生物性、真菌性、およびウイルス性の髄膜炎および脳炎を含む(ただしこれらに限定されない)疾患および症状の治療に有用である。以下の説明は、該治療薬の活性を示す実施例を提供する。
【0134】
本発明の開発中に、実験により、PPARγアゴニストがAβ-刺激誘導型マクロファージ分化を遮断することが示された(例えば実施例2を参照されたい)。さらに、PPARγアゴニストは、ミクログリアにより媒介される星状細胞の活性化を遮断し、単球により媒介される神経毒性を予防した(例えば実施例3および4を参照されたい)。Aβまたは他の免疫刺激によるミクログリアの活性化の1つの結果として、サイトカイン産生が刺激される。本発明のPPARγアゴニストは、サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)およびTNF-αの発現を阻害することが分かった(例えば実施例5を参照されたい)。また、PPARγアゴニストは、COX-2の発現も阻害した(例えば実施例6を参照されたい)。これらの観察結果は、本発明の治療薬が、アルツハイマーおよび他の炎症性疾患におけるCOX-2の作用を抑制するための新規治療法を提供することを示した。
【0135】
COX-2遺伝子は極初期遺伝子であり、その転写活性化は、まだ特徴付けられていないシグナル伝達経路を介して媒介される(Smithら, J. Biol. Chem. 271: 33157[1996])。ミクログリアおよびマクロファージにおけるリポ多糖(LPS)刺激によるCOX-2誘導については調査されており、これらの研究により、その発現にはNF-κBが必要であることが確立された(Bauerら, Eur. J. Biochem. 243: 726[1997];およびHwangら, Biochem Pharmacol 54:87[1997])。これは、他の細胞系から得たデータと一致する(Inoueら, J. Biol. Chem. 270: 24965[1995];およびYamamotoら, J. Biol. Chem. 270: 31315[1995])。COX-2プロモーターは必須cAMP応答配列(CRE)を含む多数の正の調節エレメントを保持しているが、NF-κBの必要性以外に、本発明以前には、COS-2発現がどのように調節されるのか、およびどのシグナル伝達経路がこの遺伝子のプロモーターに影響を与えるのかということは、はっきりしていなかった。さらに、本発明は、COX-2プロモーターで同定された第1の負の作用を持つエレメントを提供する。
【0136】
さらに、本発明の開発中に行った実験は、単球およびマクロファージのAβ処理によって、COX-2発現の誘導が速くなり且つ持続されることを示した(例えば実施例6および7を参照されたい)。重要なことに、これらの実験により、ホルボールエステルによるCOX-2の誘導が、cis作用性プロモーターエレメントに対するPPARγアゴニストの作用によって大きく阻害されることが示された。COX-2発現がPPARγアゴニストによってその阻害性プロモーターエレメントに対する作用により阻害されるという知見は、前炎症性物質(例えばプロスタグランジンE2など)の合成を阻害するための他の治療選択肢を提供する。
【0137】
また、本発明の開発中に行われた実験は、PPARγアゴニストがAβに対するミクログリアの多様な応答を強力に阻害することも示した。このように、これらの物質は、アルツハイマー病および有意な炎症性成分が原因の他の疾患(中でも例えば発作、外傷性損傷、および脊髄損傷など)の治療における治療薬として有用であることが分かった。上記のように、PPARγアゴニストの多くは、経口投与後に十分なバイオアベイラビリティを示し、これらの使用に伴う毒性を殆どまたは全く持たない(例えばSaltielおよびOlefsky, Diabete 45: 1661[1996];Wangら, Br. J. Pharmacol. 122:1405[1997];およびOakesら, Metabolism 46: 935[1997]を参照されたい)。このように、本発明は、アルツハイマー病および炎症性成分が原因の他の疾患または症状における進行性の神経変性過程を和らげるための方法および組成物を提供する。しかし、本発明は特定のメカニズムに限定されるものではない。実際に、本発明を実施するためにこのようなメカニズムの理解は必要ではない。
【0138】
本発明の方法および組成物の一般的な適用性をさらに示すために、中枢神経系損傷を治療する、特に炎症を治療して損傷後の2次障害を防ぐこれらの能力を立証するための実験を行った。長い間、哺乳動物の中枢神経系(CNS)への損傷は永久的な能力障害につながると認識されていた。最も重要であるが未だ十分に理解されていないCNS損傷の結果の1つは、脳および脊髄の損傷にみられる独特の進行性である。多年にわたりCNS損傷の研究分野を悩ましてきたこの問題は、CNSの外傷後に2次的事象として起こる連続的な壊死および腔または嚢の発生である。このような空洞化は、小さな初期の病巣から発達して、損傷の元の領域から吻側および尾側に広がる大きな空洞へと進行する(Balentine, Lab. Invest. 39: 236[1978])。研究者らは、空洞化および中心壊死は虚血性損傷(Balentine(前掲))、出血症(Duckerら, J. Neurosurg. 35:700[1971];およびWallaceら, Surg. Neurol. 27: 209[1987])、神経リゾチーム活性(Kaoら, J. Neurosurg 46:757[1977])または血清蛋白の血液脳関門の通過(FitchおよびSilver, Exp. Neuro. 148: 587[1997])に関係があるという仮設を立てたが、多くの証拠は、この病理過程にとってマクロファージの浸潤および炎症がキーとなることを指摘している(Blight, Neuroscience 60: 263[1994]; Szezepanikら, Neuroscience 70: 57[1996]; FitchおよびSilver(前掲);およびZhangら, Exp. Neurology 143: 141[1997])。これは、軸索再生が起こるのに適した細胞基質を無細胞嚢が持たないので、さらなる研究の重要な治療的目標である(Guthら, Exp. Neurol. 88:1[198])。さらに、この炎症性反応は、サイトカイン、特にTNF-α、IL-1βおよびIL-6の局所的な合成および分泌も伴う。
【0139】
損傷後に中枢神経系(CNS)で起こる炎症性反応は、主に2つの成分、つまり内因性ミクログリアの活性化、ならびに骨髄由来マクロファージおよび末梢血流からの他の炎症性細胞の漸増で構成される。多くの研究者らは、損傷に対するこの反応が、CNS内の2次障害に貢献すると考えている(例えばBlight, Neuroscience 60: 263[1994]を参照されたい)。また、ミクログリアサイトカインは、損傷後の神経系の機能障害の原因となりうるものであると示唆されてきており(Giulianら, J. Neurosci. 9:4116[1989])、また好中球は、CNS損傷の後に壊死および炎症を促進し得る(MeansおよびAnerson, J. Neuropathol. Exp. Neurol. 42: 707[1983])。ミクログリアは、ニューロンを殺すことができる細胞毒性因子を放出することができ(Banatiら, Glia 7:111[1993];およびGiulian, Glia 7: 102[1993])、また、既存のニューロンの繋がりを切断し、損傷の周りの領域に存在するニューロンを破壊する役割を担うと示唆されてきた(Giulianら、Neurochem. Int. 25: 227[1994];およびGiulianら、Dev. Neurosci. 16: 128[1994])。多くの著者は、CNSへの2次障害を食い止める1つの方法としてミクログリア/マクロファージの分泌活性を改変するための治療薬の使用を主張してきた(例えばGiulianおよびLachman, Science 228:497[1985];Giulianら, [1989](前掲);Banatiら(前掲);Guthら, Expl. Neurol. 126: 76[1994];Guthら, Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 12308[1994];およびZhangら(前掲)を参照されたい)。
【0140】
外傷後のCNSにおけるこの2次障害は、しばしば進行性の壊死および嚢の空洞化を招き、損傷のサイズおよび程度の大幅な拡大につながり得る。進行性壊死の拡大を食い止めることができるか否かを測定するために、動物モデルにおいて様々な抗炎症剤がテストされてきた(Zhangら(前掲))。本発明の開発中に行った実験は、PPARγアゴニストが嚢の空洞化の予防に有用であり、CNS損傷後の臨床結果を改善するための手段を提供することを示す。
【0141】
本発明の開発中に行った実験は、活性化マクロファージまたは非活性化マクロファージを導入した時のコンフルエントな単層における星状細胞の反応(神経系における外傷の後に起こる事象の順番に似た反応)を比較するために、進行性壊死の組織培養モデルを用いた(例えば実施例8を参照されたい)。外傷後にin vivoで見られるように、本発明のモデルは、2つの主な細胞型を直接的に接触および相互作用をさせる。各細胞型の生細胞および死細胞の数を定量的に測定し、各培養物について「培養腔」のサイズを測定した。これらの腔は、細胞を全く含まない培養物の領域(すなわち、もともと星状細胞の集密的単層によって覆われていたが後に細胞が無くなった領域)として観測された。これは、脳または骨髄の損傷後に起こる進行性壊死の結果生じる嚢腔において見られる無星状細胞領域に似ている。これらの腔は、星状細胞の死、星状細胞の移出、または両プロセスの様々な組合せによって生じ得る。
【0142】
図17のグラフは、マクロファージの活性化および抗炎症性PPARγアゴニストを用いた治療による、星状細胞-マクロファージ共培養物における変化の定量的分析を示す。各治療カテゴリーは、適切な薬物またはビヒクルで処理した非活性化マクロファージ対照(各対照群の平均を1に設定)と比べて表されている。アスタリスクは、分散分析(ANOVA)のためのFisher’s PLSD法によって、プールした「対照:非活性化マクロファージ」群に対する統計的有意差(p<0.5)を示す。図17に示すように、活性化されたマクロファージは、CNS損傷後に見られる空洞の発生に良く似た変化を星状細胞培養物において誘導した。顕微鏡視野あたりの星状細胞消失領域は、無処置(ビヒクル)の活性化マクロファージによって有意に増加し、これは、in vivo CNS損傷後に見られる空洞化に似ている。活性化マクロファージのインドメタシン処置(100μM)は、対照レベルと比べて培養腔面積のこの増加を妨げなかった。対照的に、活性化マクロファージのプロスタグランジンJ2処置(10μM)およびシグリタゾン処置(50μM)は、星状細胞培養物と相互作用しながら、非活性化マクロファージを用いたこれらの対照レベルに比べて培養腔面積の増加を完全に止めた。プロスタグランジンJ2の場合、視野あたりの培養物空洞化の平均サイズは、対照レベルに維持された(すなわち腔サイズの増加は妨げられた)が、シグリタゾンは、視野あたりの腔のサイズを対照の腔サイズより大幅に小さくした。
【0143】
これらの結果は、PPARγアゴニストがCNS損傷に伴う進行性壊死における活性化マクロファージの破壊的影響を効果的に遮断することができることを、定性的および定量的に示す。また、これらの結果は、本発明の方法および組成物(例えばPPARγアゴニスト)が、最初の外傷の重篤度が増す中で2次障害につながるような炎症性続発症を防ぐために、骨髄および脳の損傷のin vivo治療において重要な治療的用途に用いられることも示す。
【0144】
以下の説明は、本発明の幾つかの臨床適用のための用量および治療条件を評価するためのテストモデルを提供する。これらの実施例は、一連の適用とこのような治療において使用される一般的手順を示すために提供されるが、本発明の用途をこれらの具体的な実施例に限定することを意図するものではない。当業者であれば、これらの手順が様々な臨床適用に広く応用できることが分かるであろう。選択されたモデルおよび治療の実施に関して、本発明の精神から逸脱することなく、変化を加えることができることを理解されたい。
【0145】
A. 多発性硬化症および免疫性神経障害
本発明の治療薬を用いた治療薬は、多発性硬化症および免疫性神経障害の動物疾患モデルに使用することができると考えられる。多発性硬化症(MS)、ギヤン‐バレー症候群、および同類の自己免疫疾患の主な動物モデルは、げっ歯類実験的自己免疫性神経障害(EAN)である(例えばGauppら, J. Neuroimmunol. 79:129[1997];およびHoら, Ann. Rev. Neurosci. 21: 187[1998]を参照されたい)。
【0146】
このように、幾つかの実施形態において、本発明の方法および組成物は、臨床的および病理的マーカーを抑制するPPARγアゴニストの効力を測定するために使用することができる。EANは、猛烈な脱髄、臨床的神経脱落および麻痺を引き起こし、これはあきらかにリンパ球、マクロファージおよび単球の活性化ならびにこれに伴うサイトカイン発現の誘導によるものである。前炎症性サイトカインは疾患の主な病理学的特徴に関連しており、これらの発現の阻害は、この病理的影響の強さおよび臨床結果を低減させると考えられる。
【0147】
常染色体優性遺伝子がMHC遺伝子クラスターにリンクしているためルイスラットはEAEにかかりやすいので、EAEのルイスラットモデルを用いた実験が考えられる(Zhuら, J. Neuroimmunol. 84:40[1998];およびMartineyら, J. Immunol. 160: 5588[1998])。これらの実験では、フロイントの完全アジュバント中の末梢神経系ミエリンでルイスラットを免疫する。その後、これらのラットは末梢肢節虚弱を発症し、これは進行すると最終的に麻痺となる。神経脱落は、0〜5段階で評価し、0は脱落が観察されなかったことを示し、5は完全な麻痺を示す。臨床的機能障害の開始時刻および重篤度を45日日にわたり評価する。この期間の間を通して、脳および骨髄の両方に由来するTNF-α、IL-1βおよびIL-6mRNAレベルの準定量的な(semi-quantitative)分析のためのRT-PCRを用いて、サイトカインの発現を評価する。これらの動物に、PPARγアゴニスト、トログリタゾン(レズリン)(10〜50mg/kg)、ドコサヘキサン酸(100mg/kg)およびインドメタシン(2mg/kg)、またはビヒクル(対照)を経口投与する。実験の第1組は、免疫時から始まって45日の評価期間の間、治療薬により動物を治療する。最初の実験の後、治療薬の用量を再評価し、症状の発症時まで薬物投与を遅らせて実験を行う。
【0148】
B. 発作および虚血性脳損傷
前炎症性サイトカインは、発作および他の虚血性脳損傷を伴う進行性の神経病理学的変化において重大な役割を担う(SharmaおよびKumar, Metab. Brain Dis. 13:1[1998];およびRothwellら, J. Clin. Invest. 100: 2648[1998])。脳内に虚血が起こると、脳内の神経病理学的変化にメカニズム上関連する様々なサイトカイン(特にIL-1β、TNF-αおよびIL-6)の発現が誘導される。虚血の臨床的および解剖学的続発症を緩和するためにサイトカインの作用を阻害する実験的治療が報告されている。
【0149】
げっ歯類の発作モデルを使用する実験が考えられる。このモデルでは、成体Sprague-Dawleyラットにおいて熱凝固により中大脳動脈(MCA)を閉塞させる。次に、14日間以上の様々な間隔後にこれらの動物を解剖する(Hillhouseら, Neurosci. Lett. 249: 177[1997])。脳を切片に分け、梗塞部分および脳浮腫を評価し、梗塞自体の中、該梗塞の周辺領域および虚血の影響を受けない領域におけるIL-1β、TNF-α、およびIL-6のmRNAレベルを、RT-PCRによって測定する(SharmaおよびKumar(前掲))。最初の研究において、実験前の一週間および虚血後期間を通して、PPARγアゴニストであるインドメタシン(2mg/kg)、ドコサヘキサン酸(100mg/kg)、トログリタゾン(10〜50mg/kg)、またはビヒクル(対照)を用いて動物を毎日(経口投与により)処理する。また、MCA閉塞の直後にPPARγアゴニストを与えた動物においてフォローアップ実験を行う。これらの動物を、最初の4時間は1時間毎に、および72時間のあいだ24時間毎に、モニターする。
【0150】
C. 外傷による脳および脊髄の損傷
神経系への外傷的損傷(脳および脊髄の衝撃および貫通による損傷を含む)は、前炎症性サイトカインの局所的合成および分泌を引き起こす。サイトカインのレベルの上昇は、外傷的損傷に伴う病理学的変化を開始および変化させることが分かっている。特に、TNF-α、IL-1β、およびIL-6のレベルは、損傷後に星状細胞およびミクログリアからこれらが放出される結果、有意に増大することが分かっている。神経系への外傷的損傷に伴う2次変化の多くは、この免疫性2次変性反応に関連していた。
【0151】
本発明の幾つかの実施形態において、実験は、十分確立された骨髄挫傷損傷モデルを用いて、PPARγアゴニストが腔サイズの削減および外傷からの行動回復の改善において及ぼす影響を測定する。1つの実施形態において、これらの実験は、嚢の空洞化につながり得る直接的な損傷のモデルを提供するNYU Weight-Dropデバイスを使用する(例えばConstantiniおよびYoung, J. Neurosurg. 80: 97[1994];およびBassoら, Exp. Neuro. 139: 244[1996]を参照されたい)。この装置は、4段階の傷害重篤度で、標準化された再現可能な挫傷による損傷を脊髄に与える。これらの実験において、成体Sprague-Dawleyラットを4つのグループに分け、各々に4段階の重篤度の挫傷による損傷を脊髄に与える。実験的な損傷を与えた日から、対照動物にはビヒクルのみを毎日経口投与し、実験グループには、PPARγアゴニストであるドコサヘキサン酸(100mg/kg)、トログリタゾン(10〜50mg/kg)、またはインドメタシン(2mg/kg)を毎日経口投与する。これらの動物の行動的回復を、Basso、BeattieおよびBresnahanスケール(BBBスケール)に基づいて、後脚の機能をモニターする0〜21スケールで、6週間にわたり毎週評価する(Bassoら(前掲))。各グループから数匹の動物を24時間、48時間およびその後毎週犠牲にし、組織学的評価、ならびに病巣サイズ、腔サイズ、および軸索変性変化の定量を行う。脊髄の障害領域、該障害のすぐ周辺の領域、および損傷から離れた領域における炎症性サイトカインTNF-α、IL-1βおよびIL-6のレベルを、損傷後1日、14日および42日目にRT-PCRによって評価する。
【0152】
D. アルツハイマー病患者におけるPPARγアゴニストの臨床学的評価
罹患した患者におけるその病気の進行を測定する臨床実験において、PPARγアゴニストの効力を評価する。例えば、1組の実験において、n-3脂肪酸、ドコサヘキサン酸、およびチアゾリジンジオンであるトログリタゾン(レズリン)を二重盲検、プラセボコントロール、無作為試験でテストする。
【0153】
主な患者登録基準は、他の中枢神経系疾患を持たない中程度の重篤度のアルツハイマー病(臨床学的重篤度=2)に罹り、精神活性薬物の投与を受けず、自宅で生活している患者である。2年間にわたり、一次および2次予後測定の両方を用いて患者を診察することにより、病気の進行速度を評価する。臨床学的評価は、3ヶ月間隔で行う。一次予後測定は、死亡時期、特殊施設への収容、Blessed Dementia Scaleを用いて測定される3つの基本的な日常活動の内の2つを行う能力の喪失(例えばHeunら, Int. J. Geriatr. Psychiatry 13:368[1998]を参照されたい)、および重い臨床痴呆(臨床痴呆等級=3)を含む。2次予後測定は、認識力(精神状態のミニ検査およびアルツハイマー病評価スケール[例えばRogersら, Arch. Intern. Med. 158: 1021(1998)])、および行動(痴呆についての行動等級スケール[例えばHeunら(前掲)を参照されたい])、および機能の測定を含む。機能は、道具を使った行動(例えばリストを覚えたりお金を扱ったり等)および基本的な行動(例えば食べる、トイレを使う、身だしなみを整える等)によって評価する。
【0154】
患者にはDHA(6mg/日)を経口投与により与えた。この用量は、十分耐量範囲内であることが証明されており、この用量での脂肪酸の代謝について多くのデータが文書化されている(Nelsonら, Lipids 32: 1137[1997])。400mg/日の用量でトログリタゾン(レズリン)をテストする。この用量は、糖尿病適用に推奨されるものであり、この病気の進行実験の設計は、アルツハイマー病に対するビタミンEの効果についての過去の研究において実証済みである(Sanoら, New Engl. J. Med. 336: 1216[1997])。
【0155】
動物およびヒト実験におけるPPARγアゴニストの効力をテストするための他の方法は、当分野において公知であり(例えばJohnsonら, Ann. Pharma. 32: 337[1998];Loiら, J. Clin. Pharmacol. 37: 1038[1997];Suterら, Diabetes Care 15:193[1992];Ogiharaら, Am. J. Hypertens. 8:316[1995];Iwamotoら, Diabetes Care 19: 151[1996];Iwamotoら, Diabetes Care 14: 1083[1991];Nolanら, N. Engl. J. Med. 331: 1188[1994];Antonucciら,Diabetes Care 20:188[1997];およびGhazziら, Diabetes 46: 433[1997]を参照されたい)、本発明により考慮される。
【0156】
III. 薬物のスクリーニングおよび疾患の分子調節
本発明は、COX-2発現を制御する、COS-2発現に影響を及ぼす因子を同定する(例えば薬物スクリーニング法)、およびCOS-2の過剰発現または過小発現に伴う病状に関係のあるシグナル伝達経路を同定および制御するための、新規調節配列を提供する。特に、本発明は、本発明の開発中に同定されたPPARγエンハンサーを用いる方法および組成物を提供する。上記炎症性の疾患および症状の他に、本発明の方法および組成物は、COX-2発現によって影響を受ける様々な生理学的事象および細胞事象に利用できる。このような事象としては特に、ホルモンシグナル伝達、成長因子シグナル伝達、結腸直腸癌等の癌(例えばFranzeseら, Melanoma Res. 8:323[1998]を参照されたい)、視力(例えばCamrasら, Opthamology 103, 1916[1996]を参照されたい)、睡眠/覚醒サイクル(例えばScrammellら, Proc. Natl. Acad. Sci., 95:7754[1998]を参照されたい)、血小板凝集(例えばWu, J. Formos, Med. Assoc. 95, 661[1996]を参照されたい)、黄体融解(例えばTsaiおよびWiltbank, Biol. Reprod. 57, 1016[1997]を参照されたい)、細胞の分化および発生、慢性関節リウマチや変形性関節症(Vaneら, Ann. Rev. Pharm. Tox. 38:97[1998])、ならびに痛覚過敏、異痛症および過温症(Kaufmannら, Prostaglandins 54:601[1997])が挙げられるが、これらに限定されない。
【0157】
シクロオキシゲナーゼ-2(シクロオキシゲナーゼ酵素の誘導可能な形態)は、プロスタグランジンの病理学的作用(炎症性物質、ホルモン、成長因子およびサイトカイン等の物質に応答して該酵素の急速な誘導が起こる)に主に関係する。このように、COX-2の選択的インヒビターは、従来の非ステロイド系抗炎症薬に似た抗炎症作用、解熱作用、および鎮痛作用の特性を有するであろうし、また付け加えて、ホルモンにより誘導される子宮収縮を阻害し、潜在的な抗癌作用を有するであろうが、メカニズムに基づく幾つかの副作用(例えばCOX-1の阻害により引き起こされる副作用)を誘導する能力は低い。特に、好適な実施形態において、このような化合物は、胃腸毒性の可能性が低く、腎臓への副作用の可能性が低く、出血時間に及ぼす影響が少なく、また幾つかの実施形態において、おそらくアスピリン感受性喘息の被験者における喘息発作を誘導する可能性が低い。
【0158】
従って、本発明の目的は、COX-2およびCOX-2活性の強力なインヒビターである薬理学的物質の同定および評価に適したアッセイ(方法)ならびに物質(組成物)を提供することである。また、本発明の目的は、COX-1およびCOX-1活性よりもCOX-2およびCOX-2活性を優先的にまたは選択的に阻害する薬理学的物質を同定および評価するためのアッセイならびに物質を提供することである。
【0159】
以下に開示されるのは、PPARγおよびCOX-2のシグナル伝達経路ならびに細胞応答に関与する化合物のスクリーニングに適した例示的なアッセイである。これらのアッセイにより候補化合物をテストすることができる。本発明は例示されたアッセイの使用に限られず、当業者に公知の他のアッセイを使用してもよい。
【0160】
本発明のアッセイのベースとなるのは、cox-2遺伝子の5’側-調節領域の一部を含む調節エレメントを介したPPARγによるcox-2の転写調節である。特に、本発明は、図18に示すPPARγ応答性調節エレメントを含むヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分(配列番号1)を含む核酸分子を提供する(Genbank受け入れ番号:U20548)。本発明は、本発明のPPARγ応答性調節エレメントまたはその機能的類似体を含むのであれば、cox-2プロモーターのより大きな部分や小さな部分の使用も想定する。本明細書中に開示される方法や当分野で公知の方法などの方法を用いて、連結された遺伝子に対して調節活性を与えるcox-2プロモーターの活性断片を同定する。例えば、上記ヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分の欠失突然変異体を構築し、残りの部分の、連結された遺伝子に対して調節活性(例えばPPARγ応答性調節活性)を与える能力について分析する。プロモーターの一部を調製するための方法(例えば5’側もしくは3’側の欠失または中間欠失)は当分野では周知であり、例えば天然の制限部位もしくは人工的な制限部位の使用、ヌクレアーゼ消化、またはオリゴヌクレオチド特異的「ループアウト」突然変異誘発法が含まれる。さらに、cox-2プロモーターの小さな部分を相補的な合成オリゴヌクレオチドのアニーリングにより構築する。所望であれば、活性の低下により調節領域を同定するために、プロモーター領域を突然変異により改変する(例えば部位特異的突然変異誘発)。連結遺伝子に対する調節活性を与える能力を変えない改変を含む、改変されたcox-2プロモーターまたはその改変活性断片は、「cox-2プロモーター」の意味に含まれる。
【0161】
本発明のDNA構築物のオリゴヌクレオチド配列は、PPARγ応答性調節エレメントのみを含むか、またはさらに隣接するヌクレオチド配列を含むことができる。また、本発明のDNA構築物のオリゴヌクレオチド配列成分は、PPARγ応答性調節エレメントの2以上の「ユニット」からなる多量体を含んでいてもよい。プロモーターや異種遺伝子を含む本発明のDNA構築物に使用する場合、該調節エレメントの多量体は、PPARγまたは他のシグナル伝達分子に応答して、そのDNA構築物からの該遺伝子の発現を促進する。
【0162】
レポータープラスミドなどの本発明の組換えDNA構築物は、従来の分子生物学、微生物学、および当業者に周知である遺伝子組換技法を用いて構築される。このような技法は、Maniatisら(Maniatisら, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”[1982])およびAusubel(Ausubel, “Current Protocols in Molecular Biology,” Wiley, New York[1994])等の文献に詳しく説明されており、これらの文献の開示内容は本明細書中に参考として組み込まれる。COX-2発現ベクターを構築しこれを使用する方法および組成物は、米国特許第5,543,297号に記載されており、当該特許は全て本明細書中に参考として組み込まれる。
【0163】
本発明の幾つかの実施形態において、本発明の組換えDNA組成物または構築物は、ヌクレオチドの所望のセットで構成され得る異種遺伝子を含む。このような異種遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌された胎盤アルカリホスファターゼ、ヒト成長ホルモン、tPA、グリーン蛍光タンパク質、およびインターフェロンの構造遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の構築物および方法に使用できる異種遺伝子のより詳しいリストについては、Beaudet(Beaudet, Am. J. Hum. Gen. 37: 386[1985])を参照されたい。
【0164】
好ましくは、異種遺伝子は、本発明のプロモーターおよび調節エレメント/オリゴヌクレオチド配列を介した転写調節を評価するために用いることができる遺伝子産物を生じるレポーター遺伝子を含む。このレポーター遺伝子が発現されると、簡単に検出することができるレポーター産物(例えばタンパク質)が形成される。本発明の1つの実施形態において、レポーター分子の存在は、該レポーター分子に特異的に結合することができる抗体または抗体フラグメントを用いて検出される。他の実施形態において、β-ガラクトシダーゼやルシフェラーゼ等のレポーターは、酵素的または免疫学的にアッセイされる。
【0165】
幾つかの実施形態において、本発明の組換え分子は、レポーター細胞を産生するのに適した宿主細胞中に導入される。COX-2発現に適した宿主細胞は、米国特許第5,543,297号に記載されている。本明細書中のスクリーニングアッセイに使用される宿主細胞は一般には哺乳動物細胞であり、好ましくはヒト細胞系である。またスクリーニングアッセイには哺乳動物以外の細胞系を使用することもでき、例えばショウジョウバエ属(SL-2やKcなど)および酵母株(S. cerevisiaeおよびS. pombeなど)だけでなく、他の細胞(例えば線虫類細胞など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
転写調節タンパク質(例えばPPARγ)を調節(例えば活性化または抑制)することができる分子を含むことが疑われる化合物またはサンプルを用いて、これらのレポーター細胞を処理する。所望のインキュベーションが完了したら、レポーター産物が存在するか否かについて細胞をアッセイする。対照サンプルと比較したレポーター産物のレベルは、cox-2 PPARγ感受性調節エレメントを介して転写を調節する試験化合物の能力を示す。また、公知のPPARγアゴニストの存在下または不在下で、PPARγのレベルを変えて(例えばPPARγ発現ベクターの導入、PPARγとへテロダイマー化して調節エレメントに結合するその能力を変化させたタンパク質の導入、または天然のPPARγ発現を誘導する化合物の導入によってレベルを変えて)実験を行う。このような実験は、PPARγにより誘導されるCOX-2発現の調節を刺激するまたは該調節と拮抗する試験化合物の能力を同定する。
【0167】
一般に、本発明のアッセイは、活性化もしくは抑制された調節タンパク質(例えばPPARγ)を介して遺伝子転写を誘導するシグナル伝達分子のアゴニストおよびアンタゴニストを検出する。本明細書中で使用される「遺伝子転写のアゴニストまたはアンタゴニスト」とは、シグナル伝達経路の中の任意の地点において、1以上の転写調節タンパク質の活性化および該タンパク質のDNA調節エレメントへの結合によるシグナル伝達分子と細胞表面受容体との相互作用(最終的な結果としてcox-2遺伝子の転写がモジュレートされる)に干渉する化合物を含む。さらに、本明細書中に使用される「遺伝子転写のアゴニストおよびアンタゴニスト」とは、このようなアゴニストまたはアンタゴニストの特徴を有する公知の化合物の促進物質(potentiator)も含む。
【0168】
好適な実施形態において、アゴニストは、トランスフェクトした宿主細胞を化合物または化合物の混合物と接触させ、その一定時間経過後に、処理した細胞内の遺伝子発現のレベル(例えばレポーター産物のレベル)を測定することにより、検出される。次にこの発現レベルを該化合物の不在下における発現レベルと比較する。遺伝子発現のレベルにおいて差がある場合、この差は目的の化合物が公知のアゴニストシグナル伝達分子(例えば公知のPPARγアゴニスト)と類似した様式で細胞内の転写調節タンパク質の活性化を拮抗することを示す。さらに、処理した細胞と未処理の細胞との間で発現されるレポーター産物のレベルの大きさは、転写調節タンパク質経路を介する遺伝子転写のアゴニストとしての前記化合物の強さを相対的に示す。
【0169】
あるいは、このようなトランスフェクトされた細胞を用いて、公知のアゴニストのアンタゴニストを同定する。これらのアッセイのこのような好適な実施形態において、目的の化合物を固定濃度に維持された1以上の公知のアゴニストと一緒に宿主細胞に接触させる。その化合物が宿主細胞における遺伝子発現のレベルを、化合物の不在下で且つ公知のアゴニストの存在下で宿主細胞中で観察されるレベルよりどれだけ低く抑制するかの程度は、このような化合物のアンタゴニスト特性の指標および相対的な強さを提供する。
【0170】
本発明の幾つかの実施形態において、スクリーニングアッセイはin vivoで行われる。マウスなどの動物は、化合物を投与することができる主なスクリーニングビヒクルとして使用することができ、および栄養補給、体重、サイトカインmRNAのレベル(例えばTNF-α、IL-1βおよびIL-6 のmRNAレベルなど)、COX-2 mRNAもしくはタンパク質の産生のレベル、またはCOX-2活性レベル(例えば米国特許第5,543,297号)などのパラメータを他の適当な対照と共に測定して、COX-2タンパク質、mRNAまたは活性における変化を効率的に評価することができる。他の実施形態において、cox-2 PPARγ応答性5’側調節領域に機能的に連結されたレポーター遺伝子またはcox-2 cDNA(Genbank受け入れ番号AF044206、U20548およびU04636)を、標準的なトランスジェニック手法を用いて動物に導入し、外来DNAを発現させる。
【0171】
例えば、本発明の1つの実施形態において、トランスジェニックマウスは、上記ヒトcox-2プロモーターの2.4kb部分の調節制御下で受精卵に所望の異種レポーター遺伝子を含む構築物を注入することによって産生される。この構築物は、Brinsterらの手法(Brinsterら, Proc. Natl. Acad. Sci., 82: 4438[1985])によりマウスの受精卵の中にマイクロインジェクション法により注入される。所望の投与法を用いてトランスジェニック動物を試験化合物で処理し、組織を収穫して、レポーター遺伝子の発現について試験して、発現を変更する該試験化合物の能力を、その試験化合物を与えていない対照動物と比べて測定する。アゴニストおよびアンタゴニストは、PPARγ感受性調節エレメントを用いてレポーター発現を増減するこれらの能力により同定される。
【0172】
このように、本発明は、該DNA構築物のPPARγ感受性調節エレメントおよび本発明のトランスフェクトされた宿主細胞を用いてcox-2遺伝子転写のアゴニストおよびアンタゴニストをアッセイするための方法および組成物を提供する。さらに、これらの方法および組成物を用いて発見されたアゴニストおよびアンタゴニスト化合物は、様々なCOX-2調節機能の介入において医薬として機能し得る。上記PPARγアゴニストのほかに、これらの化合物は、cox-2を発現することができる被験者の細胞中に該化合物を導入してcox-2の発現およびこれに関連する生理学的機能を調節する方法において使用することができる。PPARγがその細胞の中において十分に発現されない場合は、望ましければPPARγ発現を刺激または提供する化合物(例えばPPARγ発現構築物およびPPARγ発現を刺激する物質など)と共に該化合物を導入してもよい。例えば、望ましくないCOX-2発現により病気にかかった細胞において、本発明の治療化合物を導入してCOX-2発現のPPARγ誘導型抑制を容易にする。実際に、本発明は、PPARγが関与するメカニズムを介してCOX-2発現を調節する化合物を用いてCOX-2発現細胞をターゲッティングするための、今まで認識されていない手段を提供する。
【0173】
実験
以下の実施例は、本発明のある好適な実施形態および態様を示説しさらに例証するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0174】
以下の実験の開示において、以下の略語が使用される:N(正常);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度):μM(マイクロモル濃度);mol(モル):mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル):nmol(ナノモル);pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏℃);Sigma(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)。
【0175】
後述の実施例においては以下の材料およびプロトコールを使用した。
【0176】
A. 材料
抗ホスホチロシン抗体4G10はUpstate Biotechnology Incorporated(Lake Placid, NY)から得た。抗COX-2抗体はTransduction Laboratories(Lexington, KY)から得た。抗GFAP抗体はAccurate Chemical & Scientific Corporation(Westbury, NY)から得た。ヤギ抗マウスF(ab)2は、Cappel(West Chester, PA)から得た。アフィニティー精製した西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス抗体およびヤギ抗ウサギ抗体は、Boehringer Mannheim(Indianapolis, IN)から購入した。ヒトβアミロイドのアミノ酸25〜35および1〜40に対応するペプチドは、Bachem(Philadelphia, PA)から購入した。β-アミロイドペプチドは滅菌dH2O中に再懸濁した。凍結乾燥ペプチドを滅菌蒸留水の中で再構成した後、37℃にて1週間インキュベートすることにより、筋原線維βアミロイド1〜40を調製した。LPS、TPAおよびコンカナバリンA(Con A)をSigmaから購入した。シグリタゾンは、Biomol(Plymouth Meeting, PA)から得た。DHAおよびプロスタグランジンJ2は、Calbiochem(San Diego, CA)から入手した。
【0177】
B. 組織培養
5%CO2中で、10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS)、5×10-5M 2-メルカプトエタノール、5mM HEPESおよび2μg/mlゲンタマイシンを添加したRPMI-1640(Whittaker Bioproducts, Walkersville, MD)中でTHP-1細胞を培養した。ミクログリアおよび星状細胞培養物は、以前に記載されたように(McDonaldら, J. Neurosci. 18:4451[1997])、生後1〜2日のマウス脳(C57B1/6J)から得た。ミクログリアを回収した後に星状細胞を回収し、連続継代を行って、星状細胞を増やした。E17マウス(C57B1/6J)の皮質からニューロンを培養した。髄膜を含まない皮質を単離し、0.25%トリプシン、1mM EDTA中で37℃にて15分間消化した。20%熱不活化FCSを含むDMEMを用いてトリプシンを不活化した。B27を添加した神経基本培地(Neurobasal media)に皮質を移し、すりつぶして、ポリ-L-リジン(0.05mg/ml)をコーティングした組織培養ウェル上に載せた。ニューロンを、B2を添加した神経基本培地(4.0×104/24ウェル組織培養プレート)中で、使用前にin vitroで5〜7日間培養した。
【0178】
C. 細胞刺激
THP-1細胞およびミクログリアを、刺激前にまずこれらそれぞれの培地を除去し、これをハンクス液(HBSS)に取り替えて、37℃にて30分間放置した。細胞を、懸濁液(5〜10×106細胞/200μl HBSS)中で、または結合ペプチド(48pmole/mm2)上に載せることにより、刺激した。結合ペプチドは、以前に記載されたように(LagenaurおよびLemmon, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:7753[1987])調製した。簡単にまとめると、組織培養ウェルをニトロセルロースでコーティングし、このコーティングしたウェルにペプチドを加えて乾燥させた。次にウェルを滅菌3% BSAと共にdH2O中で1時間インキュベートし、ニトロセルロースとの細胞の相互作用を遮断した。BSAを除去し、THP-1細胞をHBSS中に加えて10分間放置した。培地を調整するために、THP-1細胞(1.8×104)を、48ウェル組織培養皿中の結合ペプチドを含む神経基本培地(0.25ml)が入ったウェルに、薬物と共にまたは薬物なしで加え、48時間置いた。
【0179】
D. 神経毒性研究
THP-1単球を用いた神経毒性実験では、上記のように馴化培地0.25mlを加えた。培地を回収し、遠心分離して非接着細胞をペレット状にし、神経培養物(in vitroで5〜7日)に直接加えて72時間置いた。全ての条件で2重テストを行い、ウェル上に計数グリッドを載せて、各条件毎に8つの同じ視野(field)からニューロンの数を数えた。各条件毎にニューロンの数の平均値を求め、ニューロンの生存率を評価した。
【0180】
E. ウェスタンブロッティング
200μlの氷冷したRIPA緩衝液(1% Triton, 0.1% SDS, 0.5%デオキシコール酸エステル, 20mM Tris(pH7.4), 150mM NaCl, 10mM NaF, 1mM Na3VO4, 1mM EDTA, 1mM EGTA, 0.2mM PMSF)の中で細胞を溶解し、遠心分離(10,000×g、4℃、10分間)により不溶物質を除去した。Bradfordの方法(Bradford, Anal. Biochem. 72:248[1976])によってタンパク質濃度を定量した。タンパク質を7.5% SDS-PAGEにより分離し、一次抗体4G10(1:2000)またはCOX-2(1:250)を用いて4℃にて一晩、ウェスタンブロッティングを行った。増大した化学ルミネッセンス(Pierce, Rockford, IL)を介して抗体結合を検出した。
【0181】
F. シクロオキシゲナーゼ-2発現
様々な薬物の存在下または不在下で、THP-1単球またはRAW264.7マウスマクロファージをTPA(100nM)、LPSまたは筋原線維Aβ25-35と共に、5%FCSを含むRPMI培地の中で18時間インキュベートした。RIPA緩衝液中で細胞を溶解し、細胞溶解物のアリコートをSDS-PAGEにより分離し、PVDF膜に移し、COX-2に対する抗体を用いてプローブした。
【0182】
G. IL-6およびTNF-αプロモーターアッセイ
DEAE-デキストランを用いて、ルシフェラーゼに結合した上流プロモーター配列(-1160〜+14)を含むヒトIL6-ルシフェラーゼレポーター構築物を、βガラクトシダーゼレポーター構築物と一緒にTHP-1細胞中にトランスフェクトし、トランスフェクション効率を制御した。ヒトTNF-αレポーター構築物は、ルシフェラーゼに連結された5’上流プロモーター配列の配列1.2kbを含んでいた。細胞をトランスフェクトし、48時間後に薬物の存在下または不在下において40μM Aβまたは1μg/ml LPSを用いて無血清RPMI中で6時間刺激し、細胞溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0183】
H. シクロオキシゲナーゼ-2プロモーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーター(ボストン大学のDr. Peter Polgarより贈呈)に結合されたヒトシクロオキシゲナーゼ-2遺伝子の5’側隣接領域の2.3kbを担持するプラスミドを用いて、THP-1単球(40μg DNA/107細胞)をエレクトロポレーションにかけた。SV40駆動型β-ガラクトシダーゼベクターをコトランスフェクトして、トランスフェクション効率の評価を行った。次に細胞を、指定薬物の存在下または不在下において、インキュベーションの最後の18時間の間、インキュベートした。トランスフェクションの48時間後に細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0184】
実施例1
Aβで刺激される細胞内シグナル伝達経路に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、Aβで刺激される細胞内シグナル伝達経路がPPARγアゴニストによって影響されないことを証明する。図1に示すように、原線維形態のAβ1へのTHP-1単球若しくは一次ミクログリアの曝露は、チロシンキナーゼであるLyn、Syk、FAKおよびPyk2(Burridge and Chrzanowska,Ann.Rev.Cell Dev.Biol.12:463 [1996];Ghazizadehら、J.Biol.Chem.269:8878 [1994];Kienerら、J.Biol.Chem.268:24442 [1993];ならびにLevら、Nature 376:737 [1995])の活性化の結果として、タンパク質のチロシンリン酸化の刺激をもたらした。図1において、THP-1細胞を、ベヒクルのみ(c)、またはβA25-35(40μM、2分間)若しくはConA(60μg/ml、5分間、陽性対照)で刺激した。抗リン酸化チロシン抗体、PY20を使用して、チロシンリン酸化されたタンパク質を免疫沈降させることによって、βアミロイドで刺激されたTHP-1細胞中のチロシンキナーゼ活性の増加をモニターした。この免疫沈降したタンパク質を[32P]ATP中でインキュベートし、自己リン酸化させて、活性化チロシンキナーゼおよびその基質を可視化した。図は、SDS-PAGEによって分離したタンパク質のオートラジオグラムを示す。
【0185】
Aβに対するこれらの細胞の応答に介在するキナーゼおよびシグナル伝達機構のエレメントの活性化に影響を与えるPPARγアゴニストの能力を試験した。図2に示すように、PPARγアゴニストである、PGJ2、DHA、シグリタゾンおよびトログリタゾンは、Aβへの曝露後のタンパク質チロシンリン酸化の誘導を有意には変更しなかった。この図中、チロシンキナーゼシグナル伝達カスケードの活性化に及ぼすPPARγアゴニストの効果を、細胞をベヒクル(DMSO)のみ、または10μM PGJ2、50μM DHA、50μM シグリタゾン若しくは50μM トログリタゾンとともに24時間インキュベートした後、抗リン酸化チロシン Ab、4G10を使用した細胞溶解物のウエスタンブロットによって試験した。これらのデータにより、PPARγアゴニストがこれらの細胞中での炎症性応答に連結するシグナル伝達カスケードの主要な触媒構成要素と相互作用しないことを証明している。
【0186】
実施例2
マクロファージ分化に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがTHP-1のマクロファージへの分化を抑制することを証明する。単球は、ホルボールエステル若しくはその他の活性化刺激物に曝露された後、形態的および生化学的に分化してマクロファージ表現型になる(Tsuchiyaら、Cancer Res. 42:1530 [1982])。図3A-Jに示すように、THP-1細胞のマクロファージへの表現型の転換は、細胞をTPA(100 nM)に48時間曝露することによって刺激された。TPAが誘導する分化を抑制するPPARγアゴニストの能力を形態学的にモニターした。細胞を、(図3A)ベヒクルのみ(対照;DMSO、エタノール)または(図3B)100 nM TPAとともに以下のPPARγアゴニストを含ませるか含ませないで48時間インキュベートした:(図3C、D)10μM PGJ2、(図3E、F)50μM DHA、(図3G、H)50μM シグリタゾン、および(図3I、J)50μM トログリタゾン。この図に示されるように、細胞のTPAならびにPPARγアゴニストである、PGJ2、DHA、シグリタゾンおよびトログリタゾンを併用した曝露は、細胞の分化を阻止した。これらのデータは、PPARγアゴニストがこれらの細胞の分化に関与する広範囲の細胞の活性を抑止するように作用することの直接的な証拠を提供する。さらに、これらの知見は、これらの細胞内での反応性表現型の生成を阻止する能力によって、抗炎症剤として作用するこれらの薬剤の役割と一致する。
【0187】
実施例3
ミクログリアが介在するアストロサイトの活性化に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、ミクログリアが介在するアストロサイトの活性化をPPARγアゴニストが阻止することを証明する。アストロサイトグリオーシスおよび分枝した「活性化」形態の獲得が、多数のCNS疾患において、また急性および慢性の両方の脳傷害に応答して観察される。これらの状況におけるアストロサイトの一次応答は、中間径フィラメントタンパク質、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現の増大であり、これはアストロサイトの活性化の標準的なマーカーとして有用である。馴化培地は、Aβ原繊維による単球の活性化後に単球によって産生される多数の前炎症性分泌産物を含んでいる。この培養系は、アルツハイマー病、ならびにアストロサイトの反応性が重要な役割をする多数のCNS疾患において観察されるアストロサイトグリオーシスの研究のためのモデルを提供する。
【0188】
図4は、βアミロイドで刺激されたTHP-1細胞からの馴化培地が培養で反応性アストロサイト形態を誘導するのを抑制する、PPARγアゴニストの能力を示す。THP-1細胞をこれのみ、またはベヒクル(DMSO)若しくは10μM PGJ2の存在下にて表面結合βA25-35(48 pmole/mm2)上に平板培養することによって、48時間刺激した。(図4A)培地のみのウェル、(図4B)βA25-35で刺激したTHP-1細胞培養物、(図4C)βA25-35で刺激したTHP-1+10μM PGJ2細胞培養物、(図4D)10μM PGJ2のみのウェル、(図4E)表面結合βAのみのウェル、ならびに(図4F)THP-1細胞のみの培養物から、培地を回収した。次に精製したマウスアストロサイト培養物にこの馴化培地を72時間添加した。培養物を固定し、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)について染色した。
【0189】
図4に示すように、形態若しくはGFAP発現によって評価したところ、未処理のTHP-1細胞若しくはアストロサイトからの馴化培地へのアストロサイトの曝露、および原繊維への直接の曝露は、対照培養物との検知し得る差異が導かれなかった。しかし、活性化されたAβ処理THP-1細胞からの馴化培地は、アストロサイトの活性化を反映して、GFAP免疫反応性の劇的な増加と分枝した形状の発生を誘起した。重要なことは、AβおよびPPARγアゴニスト PGJ2で同時に処理したTHP-1細胞が見かけ上、対照培養物と同様だったことである。これらの観察は、PPARγアゴニストがアストロサイトの活性化に対応するミクログリア分泌産物の産生を抑制することの証拠を提供する。
【0190】
実施例4
単球が介在する神経毒性に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、単球が介在する神経毒性をPPARγアゴニストが抑止することを証明する。ミクログリアの活性化には、末梢におけるマクロファージの応答を代表する、それらからの多数の急性期かつ前炎症性の産物の分泌を伴う。多数の研究が、Aβペプチドでの処理に応答して神経毒性産物を生成する、ミクログリア系の能力について記載している(例えば、Banatiら、Glia 7:111 [1993];Giulian,Glia 7:102 [1993];Giulianら、Neurochem.Int.27:119 [1995];およびGiulianら、J.Neurosci.16:6021 [1996]、参照)。サイトカイン、ケモカイン、反応性酸素および窒素類、ならびに未確定神経毒性成分を含む多様なミクログリア分泌産物がニューロンに対して毒性であることが報告されている(Brownら、Nature 380:345 [1996];Iiら、Brain Res.720:93 [1996];およびKretzschmarら、J.Neur.Transm.50 [1997])。これらの神経毒性産物の放出は、前炎症性応答を仲介する生物学的応答の統制されたプログラムの結果を表す。
【0191】
この実施例の実験では、一次皮質ニューロンの高度に精製した集団を、THP-1細胞若しくは一次ミクログリアからの馴化培地中で培養する、組織培養モデル系を使用して、神経毒性および前炎症性産物の生成を評価および定量する。具体的に言うと、マウス皮質ニューロンの精製培養物(E16、4.0x104ニューロン/ウェル、in vitro 5-7日目のものを使用)を単独で、またはTHP-1細胞からの馴化培地(1.8x104 THP-1細胞/1馴化)の存在下で培養した。THP-1細胞をこれのみの組織培養ウェル、またはDMSOベヒクル(対照)若しくはPPARγアゴニストの存在下のβA25-35でコーティング(48 pmole/mm2)したウェル上に平板培養することによって、48時間刺激した。培地のみのウェル、THP-1細胞のみの培養物、表面結合βA25-35のみのウェル、薬剤のみのウェル、βA+THP-1細胞培養物、ならびにβA+THP-1+薬剤培養物からの馴化培地をマウス皮質ニューロン培養物に72時間添加した。次にニューロンを固定し、ニューロン特異的MAP2タンパク質について染色し、計数してニューロンの生存を定量した。
【0192】
非処理THP-1からの馴化培地は、ほとんどまたは全く神経毒性を示さなかった。しかし、原繊維Aβに曝露したTHP-1細胞からの馴化培地は高度に神経毒性で、大部分のニューロンを72時間以内に殺傷した。図5に示すように、THP-1単球をNSAIDおよびPPARγアゴニスト、イブプロフェン(100μM、1 mM)若しくはインドメタシン(100μM)の存在下でAβに曝露した場合は、神経毒素の産生は抑制された。
【0193】
同様に、PPARγアゴニストである、PGJ2(5μM、10μM)およびDHA(10μM、50μM)(図6)ならびにチアゾリジンジオンのシグリタゾン(10μM、50μM)(図7)およびトログリタゾン(10μM、50μM)(図8)もまた、神経毒素の産生を阻止した。これらのデータは、多様なPPARγアゴニストが活性化された単球/マクロファージからの前炎症性神経毒性産物の生成を抑制するように作用することを証明している。
【0194】
実施例5
インターロイキン-6およびTNF-αの発現に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがインターロイキン-6およびTNF-αの発現を抑制することを証明する。Aβ若しくはその他の免疫刺激物によるミクログリアの活性化の結果の1つは、サイトカイン産生の刺激である。この実施例における実験では、PPARγアゴニストがヒトIL-6およびTNF-α遺伝子のプロモーターの活性に影響を与えるかどうかを試験した。これらの実験では、ルシフェラーゼに連結させた、ヒト遺伝子のプロモーターエレメントへのリポーターを使用した。THP-1細胞に、IL-6ルシフェラーゼリポーター若しくはTNF-αリポーター構築物を一時的にトランスフェクトし、48時間後にプロモーター活性についてアッセイした。トランスフェクション効率を制御するために、細胞にβガラクトシダーゼリポーター構築物を同時トランスフェクトした。最後の6時間は、トログリタゾン(50μM)、シグリタゾン(50μM)、DHA(50μM)、PGJ2(10μM)、若しくはイブプロフェン(1 mM)の存在下または不在下で、LPS(1μg/ml)若しくはAβ25-35(40μM)とともに、細胞をインキュベートした。実験を二重に実施したが、報告したデータは、その測定の平均を表している。図9Aおよび9Bに示すように、THP-1細胞のLPSおよびAβ処理の結果、両サイトカイン遺伝子のプロモーター活性の刺激がもたらされ、このことはこれらの薬剤のサイトカイン産生へのin vivo効果に一致している。THP-1細胞と天然のPPARγアゴニストである、PGJ2およびDHAとのインキュベートの結果、プロモーター活性の抑制がもたらされた。同様に、チアゾリジンジオンの、トログリタゾンおよびシグリタゾン、さらにはイブプロフェンもまたリポーターの発現を抑止した。これらのデータは、多様なPPARγアゴニストがIL-6およびTNF-α遺伝子の発現を効果的に抑制することを証明している。
【0195】
実施例6
シクロオキシゲナーゼ-2の発現に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがシクロオキシゲナーゼ-2の発現を阻止することを証明する。具体的に言うと、この実施例では多様な免疫刺激に応答して、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)が誘導的に発現されることを証明する。図10Aおよび10Bに示すように、THP-1細胞のホルボールエステル(TPA)若しくはLPSでの18時間の処理の結果、用量依存様式でのCOX-2の発現の誘導がもたらされた。図10Aにおいて、THP-1単球を、ベヒクル(v)若しくは示した濃度(nM)のホルボールエステル(TPA)の存在下でインキュベートした。未処理の細胞を「z」で表示する。図10Bにおいて、THP-1単球を処理しない(z)か、あるいは単独で(c)またはベヒクル(v)若しくは示した濃度(nM)のLPSの存在下でインキュベートした。
【0196】
図11Aおよび11Bに示すように、TPAおよびLPSに誘導されるCOX-2の発現が、PPARγアゴニストのPGJ2により、10μM PGJ2の用量において、ほぼ完全な発現抑止として抑制された。図11Aにおいて、THP-1単球を100 nM TPAおよび示した濃度(μM)のPGJ2の存在若しくは不在下でインキュベートした。図11Bにおいて、THP-1単球をLPS 25μg および示した濃度(μM)のPGJ2の存在若しくは不在下でインキュベートした。シクロオキシゲナーゼ-2の発現を、COX-2特異的抗体を使用する細胞溶解物のウエスタン分析によって評価した。
【0197】
図12Aおよび12Bに示すように、PPARγアゴニストのシグリタゾン、トログリタゾン、DHAおよびインドメタシンもまた、TPAで刺激されるCOX-2の発現を抑制した。これらの実験において、THP-1単球を100 nm TPAの存在または不在下で18時間インキュベートした。PPARγアゴニストのインドメタシン(1 mM)、シグリタゾン(50μM)、ドコサヘキサン酸(100μM)、およびPGJ2(10μM)(図12A)またはインドメタシン(500μM)若しくはトログリタゾン(50μM)(図12B)を単独で、またはTPAと組合せて培養物に添加した。細胞溶解物のウエスタン分析によって、COX-2の発現をモニターし、そのブロットを抗COX-2特異的抗体でプローブした。
【0198】
図13Aに示すように、TPAと同様にAβによるTHP-1の処理の結果、COX-2の発現の迅速な誘導がもたらされ、それは24時間目まで持続した。この図中、THP-1単球を、ベヒクル(DMSO)、TPA(100 nM)若しくはAβ25-35原繊維とともに0-24時間インキュベートした。図13Bに示すように、PPARγの特定のアゴニスト、PGJ2とこの細胞の共インキュベートはCOX-2の発現を劇的に抑制した。この図中、マウスマクロファージ系統、RAW 264.7を、PGJ2(10μM)の不在若しくは存在下で、ホルボールエステル(100 nM)若しくは原繊維Aβ(25-35)(40μM)とともに18時間、インキュベートした。細胞溶解物のウエスタン分析によって、COX-2の発現をモニターし、そのブロットを抗COX-2特異的抗体でプローブした。これらの観察は、本発明がADおよびその他の炎症性疾患におけるCOX-2の作用の抑制のための新規な治療方法を提供することを証明しているので、特に意義がある。
【0199】
実施例7
COX-2プロモーター活性に及ぼすPPARγアゴニストの効果
この実施例では、PPARγアゴニストがCOX-2プロモーター活性を抑制することを証明する。ルシフェラーゼリポーターの1つに連結させた2.4 kbのヒトCOX-2プロモーターを含有する構築物を使用して、THP-1細胞中のCOX-2プロモーター活性を評価した。細胞をPPARγアゴニスト、PGJ2で処理した場合、プロモーターの活性が劇的に抑制された(約90%の抑制)。図14に示すように、同様に、チアゾリジンジオンのシグリタゾンおよびトログリタゾンがDHAの場合と同じく、このプロモーターからの転写を阻止した。具体的に言うと、エレクトロポレーションによって、COX-2ルシフェラーゼリポーター構築物をTHP-1細胞にトランスフェクトした。細胞にSV-40βガラクトシダーゼプラスミドを同時トランスフェクトして、トランスフェクションの効率の評価ができるようにした。細胞を48時間インキュベートし、溶解し、ルシフェラーゼおよびβガラクトシダーゼ活性を測定した。最後の18時間は、細胞を示した薬剤の不在または存在下でインキュベートした(対照=非トランスフェクト細胞;PGL-C=ベクター対照;COX=COX-2ルシフェラーゼリポーターをトランスフェクトした細胞;細胞にCOX-2ルシフェラーゼリポーターをトランスフェクトして、PGJ2[10μM]、トログリタゾン[50μM]、シグリタゾン[50μM]、若しくはDHA[50μM]とともに18時間インキュベート)。データは、2つの独立した実験における二重判定の平均(+/-SEM)を表している。これらのデータは、COX-2の発現のPPARγによって調節された発現が、COX-2遺伝子内のcis作用性プロモーターエレメントに及ぼしたこれらの薬剤の作用の直接の結果であることを立証している。
【0200】
実施例8
中枢神経系の損傷に及ぼすPPARγアゴニストの効果
標準的技術を使用して、PO スプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)仔ラットからアストロサイトを単離し 、24ウェル組織培養プレートのポリLリジン(0.1 mg/ml)およびラミニン(5μg/ml)でコーティングしたガラスカバースリップ上に、50,000細胞/ウェルの密度で播種し、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM-F12培地中で密集に達するまで(1-3日)おいた。3日後、成体スプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)ラットからチオグリコレートで誘発した腹腔マクロファージを単離し、100,000細胞/ウェルの密度でアストロサイト培養物中に導入した。非活性化マクロファージを培地のみに播種し、一方活性化マクロファージに強力なマクロファージ活性化剤であるザイモサン0.5 mg/mlを導入する。ザイモサンはサッカロミセス セレビシエ(S.cerevisiae)に由来する細胞壁粒子で、α-マンナンおよびβ-グルカン残基で構成されている(Lombardら、J.Immunol.Methods 174:155 [1994])。ザイモサンの食作用には、MFRマンノース受容体およびβ-グルカン受容体が関与し(Czop, Adv.Immunol.38:361 [1986];Stewart and Weir,J.Clin.Lab.Immunol.28:103 [1989];ならびにLombardら、上記)、これは強力なマクロファージ活性化剤であって、ロイコトリエンの産生(Czop,上記)、リソソーム酵素の放出(Tapper and Sundler,Biochem.J.306:829 [1995])、アラキドン酸の分解(Daum and Rohrbach,FEBS 309:110 [1992])、サイトカインの放出(例えばIL-1、IL-6、TNF-α、IFN-γ)(Ofekら、Annu.Rev.Microbiol.49:239 [1995] ;およびHashimotoら、Biol.Pharm.Bull.20:1006 [1997])、呼吸バースト(Berton and Gordon,Immunology 49:705 [1983])ならびにマクロファージが介在する細胞毒性に至り得るその他の経路の活性化を導く。マクロファージ、アストロサイトおよび薬剤処理用剤を含む共培養物を3日間維持した。各グループ内で標準化するために、各グループを2構成(処理剤を含む非活性化マクロファージおよび処理剤を含む活性化マクロファージ)として、活性化しない培養調製物に対する薬剤の効果における変動の可能性を調整する。3日間の培養後、4%パラホルムアルデヒドで培養物を固定する前に、ヨウ化プロピジウムを使用して、細胞の生存性を評価した。固定した培養物をGFAPに対する抗体で染色して、アストロサイトを同定し、ED1でマクロファージを染色し、DAPIですべての細胞核を標識した。各カバースリップについて、低出力の16x対物レンズを使用して、標準グリッドから6種の顕微鏡視野を撮影した。これらの写真をコンピュータ内でスキャンし、ランダム化し、そしてNIH Imageでもって盲目的に分析して、生存アストロサイトの数、 生存マクロファージの数、細胞密度、および培養空洞の大きさを測定した。各測定グループからの定量データは、1視野について、適切な対照グループの平均を数値1に標準化したものに相対させて表現した。次にデータを、多重比較のための分散の分析(ANOVA)およびフィッシャー(Fisher)のPLSDを使用する統計ソフトウェアで分析した。
【0201】
上記の説明中のすべての出版物および特許を参照により本明細書に組み入れる。記載した本発明の方法および体系の各種の改変および変更は、本発明の範囲および精神からはずれることなく、当業者に明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連させて記載したが、特許請求の範囲に記載した本発明がこうした特定の実施形態によって不当に限定されるべきものでないことを理解されたい。実際、本発明を実施するために記載した様式についての、細胞生物学、神経科学、医学、化学および分子生物学または関連分野の当業者にとって明らかな各種の改変は、添付する請求の範囲内のものであることを意図している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病予防又は治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を含有することを特徴とする予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
投与経路が経口であることを含む請求項1に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項3】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項1に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項4】
中枢神経系の損傷の治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を有効量含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
投与経路が経口であることを含む請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
炎症性成分が原因の疾患予防又は治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を有効量含有することを特徴とする予防又は治療用医薬組成物。
【請求項8】
投与経路が経口であることを含む請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記炎症性成分が原因の疾患がアルツハイマー病、発作、外傷性損傷および脊髄損傷からなる群より選択される、請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項1】
アルツハイマー病予防又は治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を含有することを特徴とする予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
投与経路が経口であることを含む請求項1に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項3】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項1に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項4】
中枢神経系の損傷の治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を有効量含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
投与経路が経口であることを含む請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
炎症性成分が原因の疾患予防又は治療用医薬組成物であって、
シグリタゾン、
ピオグリタゾン、
BRL 49653、又は
エングリタゾンの群から選択される有効成分を有効量含有することを特徴とする予防又は治療用医薬組成物。
【請求項8】
投与経路が経口であることを含む請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項9】
1日あたりの治療に有効な量が約10mg/kgであることを特徴とする請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記炎症性成分が原因の疾患がアルツハイマー病、発作、外傷性損傷および脊髄損傷からなる群より選択される、請求項7に記載の予防又は治療用医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15−1】
【図15−2】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15−1】
【図15−2】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−93941(P2011−93941A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30253(P2011−30253)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【分割の表示】特願2000−584885(P2000−584885)の分割
【原出願日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(500429332)ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【分割の表示】特願2000−584885(P2000−584885)の分割
【原出願日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(500429332)ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ (12)
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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