説明

アルツハイマー病の予防および治療

本発明は、HMG−CoAレダクタ−ゼ阻害剤、コレステロール捕獲阻害剤、コレステロール合成捕獲阻害剤またはAPPセクレターゼ阻害剤と場合により併用される、アルツハイマー病の予防または治療のための胆汁酸の胃腸再捕獲阻害剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、アルツハイマー病の予防および治療のための胃腸の胆汁酸再取り込み阻害剤の使用である。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、高齢者人口の大部分に影響を及ぼす進行性神経変性疾患である。この疾患は、臨床レベルでは記憶の喪失および認識機能の衰退、そして神経病理学レベルでは神経原線維の細胞内における沈着物およびアミロイド班を形成するβ−アミロイド(A−β)ペプチドの細胞外における沈着物が脳内に存在することにより特徴付けられる(Yankner BA (1996) Neuron 16: 921-932参照)。これらの徴候の外に、その他の多くの異常な変化、例えば免疫系および炎症系の欠陥並びにミトコンドリア機能の欠陥があり、それらは酸化的ストレスを増加させ、アポトーシスの機序を活性化しそして最終的には細胞死をもたらし得る。
【0003】
アミロイド班は、β−アミロイドペプチド前駆蛋白質(APP)の蛋白質分解過程中に生成される残基40個または42個を含有するA−βペプチドから主としてなる。細胞外のA−β沈着物は、ADおよび関連疾患に極めて特異的である。それらは家族性形態(FAD)を含むADの全ての形態の不変的特徴を意味する。該疾患の初期家族性形態(40〜60才に発症)は、APP遺伝子並びにプレセニリン−1(PS1)遺伝子およびプレセニリン−2(PS2)遺伝子の変異による。これら3種の遺伝子の変異がAPPの蛋白質分解において変化を誘導し、Aβの過剰生産をもたらしそしてADの散発性形態のと同様の病状および症候群の初期様相をもたらす(Czech C., et al. (2000) Progress in Neurobiology 60: 361-382参照)。
【0004】
また、コレステロールとアルツハイマー病との関連も疫学的研究および最近の生化学ないし細胞生物学の研究成果から立証されている(Hartmann, T. (2001) TINS 24: S45-48参照)。成人年齢の高コレステロールレベル、および高血圧はアルツハイマー病の危険を有意に増加させる(Kivipelto et al., 2001 Br Med J. 322: 1447参照)。
【0005】
しかし、スタチン型の低コレステロール血症剤で治療を受けている人々では、危険が非常に減少することが報告されている(Wolozin et al. (2000) Arch Neurol. 57: 1439; Jick et al. (2000) Lancet 356: 1627参照)。
【0006】
最近、分子連結が立証されたようである。インビトロおよびインビボで、高コレステロールレベルはA−βペプチドの産生を増加し、アミロイド班の出現を促進する(Sparks et al. (1994) Exp. Neurol. 126: 88-94; Refolo et al. (2000) Neurobiol. Dis. 7: 321-331; Puglielli et al. (2001) Nat. Cell Biol. 3: 905; Shieetal. (2002). Neuroreport 13: 455参照)が、一方、コレステロール合成経路阻害剤はそれらを減少させる(Simons et al. (1998) PNAS USA 95: 6460-6464; Fasbender et al. (2001) PNAS USA 98: 5856, Refolo et al., (2001) Neurobiol. Dis. 8: 890-899参照)。
【0007】
すなわち、インビボで(アミロイドペプチドレベルを低下させ、そしてアルツハイマー病の進行を治療し、予防し、または減少させるために、コレステロール合成阻害剤、例えばWO00/28981に記載されるようなコレステロールの生合成に関与する酵素である3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の阻害剤、および特にシンバスタチンのようなスタチン類(Hartman, 2001 TINS 24: S45-48参照)を使用することが示唆された。
【0008】
今まで、スタチン類の治療効果が中枢神経系に及ぼす直接的作用によるのか、または血漿コレステロールを減少させることによりスタチン類が作用したのかどうかは明示されたことがない。実際には、脳コレステロールが血漿コレステロールとは無関係であることは一般に承認されているので、血漿コレステロールレベルに限定された効果はありそうにもないと思われた(Dietschy and Turley (2001) Curr. Opin. Lipidol. 12: 105-112参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願人は、特定の薬物類、すなわち、胃腸内で胆汁酸の再取り込みを遮断することにより血漿コレステロールレベルを減少させることができる胆汁酸再取り込み阻害剤(BARI)もまた、脳内のβ−アミロイドペプチドレベルを減少させ得ることを明らかにした。
【0010】
胆汁酸再取り込み阻害剤は吸収されず、それらの作用部位は胃腸内にあり、そこで該阻害剤は分泌される胆汁酸の再取り込みを遮断する。該胆汁酸はコレステロール前駆物質の大きな供給源を構成する。
【0011】
後述の実験部分で得られ、記載された結果からは、脳内のβ−アミロイドペプチドレベルを減少させるためには血漿コレステロールレベルのみが減少されなければならないということを立証することが可能である。
【0012】
すなわち、意外なことに、アルツハイマー病の動物モデルにおいて、胆汁酸再取り込み阻害剤(BARI)は身体中に吸収されないので、該阻害剤は血漿コレステロールの調整によってのみ作用し、そして特に脳内に浸透させないことによって有効であるということが立証された。
【0013】
アルツハイマー病の予防または治療の表現は、アルツハイマー病の発症および/または進行を予防するか、または遅延させる可能性を意味するものと理解される。
【0014】
従って、本発明の主題はアルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための、胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用である。
【0015】
さらに一般的には、本発明の主題は、経口投与後に身体に吸収されることを必要とせずに血漿コレステロールレベルを減少させる化合物または化合物の混合物をアルツハイマー病の予防または治療のために使用することである。
【0016】
胆汁酸再取り込み阻害活性を有する分子(BARI)は、特にUS 6,221,897およびUS 6,245,744に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、さらに詳しく云えば、本発明の主題はアルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための、胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここで該胆汁酸再取り込み阻害剤は式(IA)
【0018】
【化1】

[式中、
R1はメチル、エチル、プロピルまたはブチルを示し;
R2はH、OH、NH2、またはNH−(C1−C6)アルキルであり;
R3は単糖基、二糖基、三糖基または四糖基であって、該基は置換されていないか、または糖保護基でモノ−もしくはポリ置換されており;
R4はメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり;
R5はメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり;
Zは(C=O)n−(C0−C16)−アルキル; (C=O)n−(C0−C16)−アルキル−NH; (C=O)n−(C0−C16)−アルキル−O; (C=O)n−(C0−C16)−アルキル−(C=O)−; または共有結合であり;
nは0または1であり;そして
mは0または1である]
で表される化合物およびそれらの製薬的に許容し得る塩である。
【0019】
単糖基の表現は、5、6、7または8個の炭素原子を含有し、さらにまたカルボニル(ケトンまたはアルデヒド)基も含有するポリアルコールを意味するものと解される。該ポリアルコールは、大抵は遊離状態で存在せずに、同じ分子の1個またはそれ以上のヒドロキシル基と一緒になってヘミケタールまたは環状ヘミケタールの形態で存在する。この例としてはL−アラビノース、D−リボース、2−デオキシ−D−リボースおよびD−キシロースのような5個の炭素原子を含有する糖を挙げることができる。これらの糖はペントース(またはアルドペントース)系の部分を形成する。
【0020】
それはまた、6個の炭素を有する糖、例えばD−グルコース、D−フルクトース、D−ガラクトースおよびD−マンノースも包含する。それはまた、エリスロース、グリセルアルデヒド、セドヘプツロース、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸、グルカミン、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、グルカル酸、およびガラクタル酸も包含する。好ましい炭水化物には以下の基:
【化2】

を挙げることができる。
【0021】
最も詳しく云えば、本発明の主題は、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は以下の式(IA):
【化3】

で表される化合物(生成物A)である。
【0022】
さらに詳しく云えば、本発明の主題はまた、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は以下の式(IB):
【化4】

で表される化合物およびそれらの製薬的に許容し得る付加塩である。
【0023】
上記式中、
R1はフェニル基またはヘテロアリール基であり、それは置換されていないかまたはF、Cl、Br、I、−OH、−CF3、−NO2、−NHR9、−NR9R10、−CHO、−CO2H、−CO2R11、−COR12、−(C1−C6)−アルキル−OH、−(C1−C6)−アルキル−OH−フェニル、−(C1−C6)−アルキル−CF3、−(C1−C6)−アルキル−NO2、−(C1−C6)−アルキル−CN、−(C1−C6)−アルキル−NH2、−(C1−C6)−アルキル−NHR9、−(C1−C6)−アルキル−NR9R10、−(C1−C6
)−アルキル−CHO、−(C1−C6)−アルキル−CO2H、−(C1−C6)−アルキル−CO2R11、−(C1−C6)−アルキル−COR12、−O−(C1−C6)−アルキル−OH、−O−(C1−C6)−アルキル−(−OH)−フェニル、−O−(C1−C6)−アルキル−CF3、−O−(C1−C6)−アルキル−NO2、−O−(C1−C6)−アルキル−CN、−O−(C1−C6)−アルキル−NH2、−O−(C1−C6)−アルキルNHR9、−O−(C1−C6)−アルキル−NR9R10、−O−(C1−C6)−アルキル−CHO、−O−(C1−C6)−アルキル−NH−S3H、−S2−CH3、−O−(C1−C6)−アルキル−O−(C1−C6)−アルキルフェニル、−(C1−C6)−アルキルチオまたはピリジルから選択される1〜3個の独立した基で置換されており、上記アルキル誘導体は1個またはそれ以上のフッ素原子で置換されることが可能であり、そして上記フェニルまたはピリジル基はメチル、メトキシまたはハロゲンでモノ置換されることが可能であり;
R2はH、OH、−CH2OH、−OMe、−CHOまたは−NH2を示し;
R3は単糖残基、二糖残基、三糖残基または四糖残基であり、該基は置換されていないかまたは糖保護基、HO−SO2−または(HO)2−PO−でモノ−またはポリ置換されており;
R4はH、メチル、Fまたは−OMeであり;
R9〜R12は互いに独立して、Hまたは−(C1−C8)−アルキルを示し;
Zは共有結合を示すか、または−NH−(C0−C36)−アルキル−CO−、−O−(C0−C36)−アルキル−CO−、−(CO)m−(C0−C36)−アルキル−(CO)n−、アミノ酸残基もしくはジアミノ酸残基の基を示し、該アミノ酸残基もしくはジアミノ酸残基はアミノ酸保護基でモノ−またはポリ置換されていてもよいと解される。
【0024】
さらに詳しく云えば、本発明の主題は、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は以下の式(IB):
【化5】

で表される化合物(生成物B)である。
【0025】
これらの化合物の製造は前記で引用した特許明細書に記載されている。
【0026】
本発明の使用における胆汁酸再取り込み阻害剤は、
−HMG−CoAレダクターゼ阻害剤、例えばスタチン類、
−コレステロール再取り込み阻害剤、
−コレステロール合成阻害剤並びに血漿および/または脳コレステロールのレベルを減少させるいずれか他の薬物、
−γないしβAPP セクレターゼ阻害剤
から選択される1種またはそれ以上の他の化合物と併用して投与されうる。
【0027】
上記コレステロール再取り込み阻害剤にはエゼチミブ(Ezetimibe)を挙げることができる。上記γおよびβAPPセクレターゼ阻害剤にはH. Josien (2002, Current Opinion in
Drug Disc. & dev 5: 513-525)またはM.S. Wolfeによる総説(2002, Nat. Rev. Drug. Discov. 1: 859-866)に記載された化合物を挙げることができる。
【0028】
従って、本発明の主題はまた、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の
製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は、
a)HMG−CoAレダクターゼ阻害剤、
b)コレステロール再取り込み阻害剤、
c)コレステロール合成阻害剤、または
d)APPセクレターゼ阻害剤
から選択される1種またはそれ以上の他の化合物と併用される。
【0029】
従って、本発明の主題はまた、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は、同時に、別々にまたは時間をへだてて間隔を置いたHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、コレステロール再取り込み阻害剤、コレステロール合成阻害剤またはγないしβAPPセクレターゼ阻害剤と投与のために組み合わされる。
【0030】
本発明の主題はまた、アルツハイマー病の発症の危険があるかまたはその進行中の患者の該疾患の予防または治療の方法であり、それは血中コレステロール低下活性を有しそして経口投与後身体中に浸透しない化合物の治療上有効な量を該患者に投与することからなる。
【0031】
さらに正確には、本発明の主題は、前述の定義を有するアルツハイマー病の予防または治療の方法であり、ここで血中コレステロール低下活性を有しそして身体中に浸透しない化合物は胆汁酸再取り込み阻害剤である。
【0032】
さらに特定的には、本発明の主題は、アルツハイマー病の発症の危険があるかまたはその進行中の患者の該疾患の予防または治療の方法であり、それは式(IA)および(IB)に定義した胆汁酸再取り込み阻害剤、特に化合物Aまたは化合物Bの治療的に有効な量を該患者に投与することからなる。
【0033】
さらに、本発明の主題は、前述の定義を有するアルツハイマー病の予防または治療の方法であり、ここで胆汁酸再取り込み阻害剤はHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、コレステロール再取り込み阻害剤、コレステロール合成阻害剤またはγないしβAPPセクレターゼ阻害剤から選択される1種またはそれ以上の化合物と併用して投与される。
【0034】
胆汁酸再取り込み阻害剤は、経口または非経口投与(例えば舌下投与)の可能な医薬製剤(医薬組成物)の形態で投与することができる。
【0035】
従って、本発明の主題は、アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤の使用であり、ここでその胆汁酸再取り込み阻害剤は経口投与され得る医薬組成物の形態である。
【0036】
さらに具体的には、本発明の主題は上記の定義を有する使用であり、ここで該医薬組成物は有効投与量の少なくとも1種の胆汁酸再取り込み阻害剤の化合物並びに1種またはそれ以上の製薬的に不活性な担体および/または経口または非経口投与を可能にする1種もしくはそれ以上の慣用の添加剤を含有する。
【0037】
本発明の医薬組成物は、通常、胆汁酸再取り込み阻害剤0.01〜100mg、好ましくは0.02〜50mgを含有する。
【0038】
従って、さらに詳しく云えば、本発明の主題はアルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための胆汁酸再取り込み阻害剤の使用であり、ここで経口投与可能なその医薬組成物は胆汁酸再取り込み阻害剤0.02〜50mgを含有する。
【0039】
これらの医薬組成物は例えば、ピル、錠剤、コーティング錠剤、フイルムコーティング錠剤、顆粒、ハードゼラチンカプセルおよびソフトゼラチンカプセル、溶液、シロップ、乳液、懸濁液またはエーロゾル混合物の形態で経口投与され得る。
【0040】
これらの医薬組成物は、それ自体知られた方法により調製され、製薬的に不活性な有機または無機の担体が胆汁酸再取り込み阻害剤に添加される。
【0041】
ピル、錠剤、コーティング錠剤およびハードゼラチンカプセルの製造には、例えばラクトース、コーンスターチおよびその誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩等を使用することができる。
【0042】
溶液、例えば乳液またはシロップの調製に適当なビヒクルとしては、例えば水、アルコール、グリセロール、ポリオール、スクロース、転化糖、グルコース、植物性油等がある。医薬製剤は通常、0.05〜90質量%の胆汁酸再取り込み阻害剤を含有する。
【0043】
前記活性成分および担体の外に、医薬製剤は添加剤、例えば、希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、安定剤、乳化剤、保存剤、甘味剤、着色剤、矯味矯臭剤、濃化剤、緩衝剤、およびまた溶媒もしくは溶解剤または作用を遅延させるための剤およびまた浸透圧を調整するための塩、コーティング剤または抗酸化剤を含有してもよい。
【0044】
医薬製剤はまた、2種またはそれ以上の胆汁酸再取り込み阻害剤を含有してもよい。さらに、少なくとも1種またはそれ以上の胆汁酸再取り込み阻害剤の外に、それらは治療または予防的に使用可能な少なくとも1種またはそれ以上のその他の活性成分、例えばHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、コレステロール再取り込み阻害剤、コレステロール合成阻害剤またはγないしβAPPセレクターゼ阻害剤を含有してもよい。
【0045】
胆汁酸再取り込み阻害剤を使用する場合、その投与量は広い範囲内で変えることができるが、治療される人によって決めるべきである。これは、例えば、使用する化合物、または治療すべき疾患の性質および重度、重篤の病状または慢性の病状が存在するかどうか、または予防処置が用いられているかどうかによって左右される。
【0046】
経口投与の場合、日用量は一般に0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kg、特に好ましくは0.1〜5mg/kgである。例えば、75kgの成人は0.3〜0.5mg/kgの日用量を考慮することができる。
【0047】
日用量は、特に、多量の活性成分を投与する場合、いくつかの部分、例えば2つ、3つ、または4つの部分に分けてもよい。必要により、個人の挙動の如何によって、量を増加させながらまたは減少させながら種々の用量を投与することが必要なこともある。
【実施例】
【0048】
トランスジェニックマウスのアミロイドペプチドの産生における生成物Aのインビボ試験を下記の方法で実施した。
a) 実験1 (図1)
‐動物の処置
粉末形態の生成物Aを0.01% (質量/質量)の用量で粉末形態の標準食餌と混合した。8〜10週令雌性のトランスジェニックマウスTg53(スエーデン(“Swedish”)変異およびロンドン(“London”)変異を担持するヒトAPP導入遺伝子を過発現している)(2002 Wirths, et al. (2002). Brain Pathol. 12, 275-286参照)を3週間処置した。マウスを個別のケージに入れ、飲料水は任意に飲めるようにした。毎日、粉末状食物(生成物Aを補給したもの、または補給していないもの)6gを各ケージに分配した。11〜12匹の動物からなる2つの群(対照レジメン、または生成物Aを補給したレジメン)を用いた。処置の終わりに、血液試料を集め、そして自動生化学的分析装置を使用して血漿コレステロールレベルを測定した。
【0049】
‐脳抽出物の調製
人道的に殺害した後にマウスの脳を除去し、次いで計量した。組織を個別に氷上で、ポッター機器(Potter device)を用いて、プロテアーゼ阻害剤混合物(CompleteTM, Roche Diagnostics)を含有するバッファー溶液(すなわち0.32M スクロース, 4mM トリス−HCl, pH 7.4)10容量(質量/容量)中でホモジナイズした。次いでホモジネートを50000×gで4℃において2時間遠心分離にかけ、上澄み液を集めて可溶性(可溶性Aβ)脳フラクションを構成し、次いで−80℃で保存した。
全Aβを測定するために、ホモジネートのアリコートを6Mグアニジン塩酸塩(最終濃度)で変性させ、次いで4℃、15分の超音波処理(Bandelin Electronique Sonorex Super RK 102K−ドイツ)を3サイクル行って、すべてのAβペプチド形態(全フラクション)を可溶化させた。
【0050】
‐免疫電気化学ルミネセンス法によるアミロイドペプチドの分析
トランスジェニックマウス由来の可溶性または不溶性の脳フラクション中にあるAβペプチドの濃度を、免疫電気化学ルミネセンス法(Yang et al. (1994). Biotechnology (NY) 12 (2), 193-194)により、2種のマウスモノクローナル抗体の抗−Aβペプチド(4G8および6E10)およびリーダーのOrigen M8アナライザー(IGEN Europe Inc. Oxford)を用い、Khorkova氏等(J. Neurosci. Methods 82, 159-166 (1998))の変形されたプロトコルに従って測定した。
Aβペプチドのエピトープ残基17−24を認識する上記モノクローナル抗体4G8(Senetek PLC)を、供給業者(IGEN Europe Inc., Oxford)のプロトコルに従ってエステルTAG−NHSを用いてルテニル化した。Ru−4G8、ビオチニル化抗体6E10、Aβペプチドのエピトープ1−10(SenetekPLC)を可溶性脳フラクションまたは全脳フラクションに曝し、そしてこれら3成分からなる複合体のRu−4G8/Aβ/6E10−ビオット(biot)をOrigenリーダーにより定量した。全フラクションの場合には、そのAβペプチド分析のためにグアニジン塩酸塩の濃度を希釈によりあらかじめ0.3Mにした。一連の合成Aβペプチド(Bachem社製)を用いて各実験を修正した。そのAβペプチドレベルを脳組織の初期質量1g当たりのナノグラム表示で計算した。
【0051】
‐結果
対照レジメン群に比較して、生成物Aを補給したレジメン群(図1ではBARIと称される生成物A、0.01%)は、可溶性Aβペプチドの脳内レベルにおいて18%の減少を示した[18.85±0.96ng/g組織(n=12)と比較して15.45±0.71ng/g組織(n=11)、対応のないt検定、p=0.0103]。
血漿コレステロールレベルもまた、そのレベルとして14%減少した[対照レジメン群: 0.72±0.023g/l (n=12)と比較して生成物Aを補給したレジメン群: 0.62±0.030g/l (n=11); 対応のないt検定、p=0.0154] (図1参照)。
【0052】
b)実験2 (図2および3)
処置の終わりに、すなわち加齢のためにより高いAβレベルを有する15.5週令の雌性トランスジェニックマウスを用いた実験では、対照レジメン群と比較すると、生成物Aを補給したレジメン群(0.01%, 図2〜4ではBARIと称されている)は、可溶性Aβペプチドの脳内レベルにおいて40%のより顕著な減少を示した[40.8±2.5ng/g組織(n=7)と比
較して24.5±1.2ng/g 組織(n=8)、対応のないt検定、p=0.0001] (図2参照)。全ペプチドAβ(Aβペプチドの可溶性形態および膜形態もしくは凝集形態を含む)の脳内レベルは、それらのレベルとして極めて多く46%も減少した[364.2±40.9ng/g 組織(n=7)と比較して196.3±17.8ng/g 組織(n=8)、対応のないt検定、p=0.0017] 図3参照)。Aβの全形態のプールに及ぼすこの効果は、アルツハイマー病に罹患しそして凝集したAβ(ペプチドの極めて高いレベルを老人班中に有する患者の治療に重要である。
上述のように、血漿コレステロールレベルそれ自体は、18% 減少した[対照レジメン群: 0.85±0.03g/l (n=7)と比較して生成物Aを補給したレジメン群: 0.70±0.03g/l (n=8); 対応のないt検定、p=0.0037]。
【0053】
c)実験3 (図4)
同一の実験条件下で、種々の用量の生成物Aによる処置から、全Aβペプチドの脳内レベルの減少効果を保持しつつ、生成物Aの用量を少なくとも100の因数まで減少させることが可能であることが分かった(すなわち、0.0001%を用いるレジメンの場合の補給である)。実際、全Aβレベルは、0.0001%の生成物Aの場合には21%減少し[108.1±8.5ng/g組織(n=10)の対照群と比較して85.4±4.1ng/g組織(n=8)、対応のないt検定, p=0.04]、0.001%の生成物Aの場合には20%減少し[86.5±5.9ng/g組織(n=10)、p=0.050]、そして0.01%の生成物Aの場合には16%減少した[90.5±6.9ng/g組織(n=10)、p=0.123, ns](図4参照)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】8〜10週令マウスの対照レジメン群と0.01%BARI補給のレジメン群とにおける可溶性Aβペプチドの脳内レベルおよび血漿コレステロールレベルの比較を示す。
【図2】15.5週令の高齢マウスの対照レジメン群と0.01%BARI補給のレジメン群とにおける可溶性Aβペプチドの脳内レベルの比較を示す。
【図3】15.5週令の高齢マウスの対照レジメン群と0.01%BARI補給のレジメン群とにおける全Aβペプチドの脳内レベルの比較を示す。
【図4】15.5週令の高齢マウスの対照レジメン群と0.01%、0.001%、および0.001%のBARI補給のレジメン群とにおける全Aβペプチドの脳内レベルの比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための、胆汁酸再取り込み阻害剤である化合物の使用。
【請求項2】
胆汁酸再取り込み阻害剤が式(IA):
【化1】

[式中、
R1はメチル、エチル、プロピルまたはブチルを示し;
R2はH、OH、NH2、またはNH−(C1−C6)アルキルであり;
R3は単糖基、二糖基、三糖基または四糖基であって、該基は置換されていないか、または糖保護基でモノ−もしくはポリ置換されており;
R4はメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり;
R5はメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり;
Zは(C=O)n−(C0−C16)−アルキル; (C=O)n−(C0−C16)−アルキル−NH;(C=O)n−(C0−C16)−アルキル−O;(C=O)n−(C0−C16)−アルキル−(C=O)−;または共有結合であり;
nは0または1であり;そして
mは0または1である]
で表される化合物およびそれらの製薬的に許容され得る付加塩である請求項1記載の使用。
【請求項3】
胆汁酸再取り込み阻害剤が下記式(IA):
【化2】

で表される化合物である請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
胆汁酸再取り込み阻害剤が式(IB):
【化3】

[式中、
R1はフェニル基またはヘテロアリール基であり、それらは置換されていないかまたはF、Cl、Br、I、−OH、−CF3、−NO2、−NHR9、−NR9R10、−CHO、−CO2H、−CO2R11、−COR12、−(C1−C6)−アルキル−OH、−(C1−C6)−アルキル−OH−フェニル、−(C1−C6)−アルキル−CF3、−(C1−C6)−アルキル−NO2、−(C1−C6)−アルキル−CN、−(C1−C6)−アルキル−NH2、−(C1−C6)−アルキル−NHR9、−(C1−C6)−アルキル−NR9R10、−(C1−C6)−アルキル−CHO、−(C1−C6)−アルキル−CO2H、−(C1−C6)−アルキル−CO2R11、−(C1−C6)−アルキル−COR12、−O−(C1−C6)−アルキル−OH、−O−(C1−C6)−アルキル−(−OH)−フェニル、−O−(C1−C6)−アルキル−CF3、−O−(C1−C6)−アルキル−NO2、−O−(C1−C6)−アルキル−CN、−O−(C1−C6)−アルキル−NH2、−O−(C1−C6)−アルキル−NHR9、−O−(C1−C6)−アルキル−NR9R10、−O−(C1−C6)−アルキル−CHO、−O−(C1−C6)−NH−S3H、−S2−CH3、−O−(C1−C6)−アルキル−O−(C1−C6)−アルキルフェニル、−(C1−C6)−アルキルチオまたはピリジルから独立して選択される1〜3個の基で置換されており、上記アルキル誘導体は1個またはそれ以上のフッ素原子で置換されることが可能であり、そして上記フェニルまたはピリジル基はメチル、メトキシまたはハロゲンでモノ置換されることが可能であり;
R2はH、OH、−CH2OH、−OMe、−CHOまたは−NH2を示し;
R3は単糖残基、二糖残基、三糖残基または四糖残基であり、該基は置換されていないかまたは糖保護基、HO−SO2−または(HO)2−PO−でモノ−またはポリ置換されており;
R4はH、メチル、Fまたは−OMeであり;
R9〜R12は互いに独立して、Hまたは−(C1−C8)−アルキルを示し;
Zは共有結合を示すか、または−NH−(C0−C36)−アルキル−CO−、−O−(C0−C36) −アルキル−CO−、−(CO)m−(C0−C36)−アルキル−(CO)n−の基、アミノ酸残基もしくはジアミノ酸残基を示し、該アミノ酸残基もしくはジアミノ酸残基はアミノ酸保護基でモノ−またはポリ置換されていてもよい]
で表される化合物およびそれらの製薬的に許容し得る付加塩である請求項1記載の使用。
【請求項5】
胆汁酸再取り込み阻害剤が下記の式(IB):
【化4】

で表される化合物である請求項1または4に記載の使用。
【請求項6】
胆汁酸再取り込み阻害剤が、経口投与可能な医薬組成物の形態である請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
経口投与可能な医薬組成物が、胆汁酸再取り込み阻害剤0.02〜50mgを含有する請求項6記載の使用。
【請求項8】
1種またはそれ以上の胆汁酸再取り込み阻害剤が、HMG−CoAレダクタ−ゼ阻害剤、コレステロール再取り込み阻害剤、コレステロール合成阻害剤またはγおよびβAPPセクレターゼ阻害剤から選択される1種またはそれ以上の化合物と併用される請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
種々の活性成分の同時の、別々のまたは時間をかけて間隔を置いた投与での請求項8記載の使用。
【請求項10】
アルツハイマー病の予防または治療を可能にする医薬の製造のための、経口投与後身体中に吸収される必要なしに血漿コレステロールレベルを減少させる化合物の使用。
【請求項11】
アルツハイマー病の発症の危険またはその進行中の患者のための該疾患の予防または治療の方法であって、血中コレステロール低下活性を有しそして経口投与後身体中に浸透しない化合物の治療上有効な量を該患者に投与することからなる方法。
【請求項12】
血中コレステロール低下活性を有しそして身体中に浸透しない化合物が胆汁酸再取り込み阻害剤である、請求項11に記載のアルツハイマー病の予防または治療の方法。
【請求項13】
胆汁酸再取り込み阻害剤が請求項2〜5のいずれか1項に定義されたものである、請求項12に記載のアルツハイマー病の予防または治療の方法。
【請求項14】
胆汁酸再取り込み阻害剤が、HMG−CoAレダクタ−ゼ阻害剤、コレステロール再取り込み阻害剤、コレステロール合成阻害剤またはγおよびβAPPセクレターゼ阻害剤から選択される1種またはそれ以上の化合物と併用して投与される、請求項12または13に記載のアルツハイマー病の予防または治療の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−514063(P2006−514063A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566119(P2004−566119)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003654
【国際公開番号】WO2004/062652
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(598006222)アベンティス・ファーマ・ソシエテ・アノニム (30)
【Fターム(参考)】