説明

アルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤

【課題】 アルドステロンの分泌を好適に抑制し、優れた血圧降下作用を発揮することのできるアルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤を提供する。
【解決手段】アルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られる有効成分を含有している。前記有効成分は、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrの各種ペプチドを含有している。この有効成分は、RAS−アルドステロン系の情報伝達を阻害すべく作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症の予防や治療等を目的とする健康食品、医薬品等として有用なアルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レニン−アンジオテンシン系(RAS)及びアルドステロンは、カテコールアミンやバソプレッシンとともに生体内における血圧の調節や体内電解質の維持に重要な役割を果たしている。アンジオテンシノーゲンより生成するアンジオテンシンIは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンIIになる。アンジオテンシンIIは、強い昇圧活性を有し、副腎球状層からのアルドステロンの分泌を促進させる。このアンジオテンシンIIは、主に、細動脈平滑筋を収縮させて血圧を上昇させる血管収縮作用と、副腎球状層に作用してアルドステロンの合成と遊離を促進させる作用とを介して昇圧活性を発揮する。この場合、アンジオテンシンIIは、血管収縮作用を示す量よりも少量で副腎球状層に作用してアルドステロンの合成と遊離を促進させる。
【0003】
さらに、アンジオテンシンIIは、副腎髄質からのカテコールアミン(アドレナリン)の遊離を促進させる作用や、末梢神経においてシナプス前部に作用してノルアドレナリンの遊離を促進させる作用を有している。その他、当該アンジオテンシンIIは、腎血管の収縮による腎血流量の低下を生じさせるとともに尿細管に直接作用してナトリウム及び水の再吸収を促進させ、また、中枢神経系に作用して渇感の惹起等を介して血圧を上昇させる作用も有する。
【0004】
前記アルドステロンは、腎遠位尿細管からのナトリウム再吸収を増加させる作用を有する。ナトリウム再吸収が増加すると、循環血漿量が増加し、血圧が上昇してしまう。そこで、近年ではカプトプリルやエナラプリル等のACE阻害剤やスピロノラクトン、トリアムテレン等の抗アルドステロン薬が高血圧治療薬として臨床的に利用されている。しかしながら、このような高血圧治療薬には浮腫、多尿、動悸、筋痙攣、腹痛、頭痛、頻脈、徐脈等の副作用が少なからず存在するため、これら副作用のない特定保健用食品への期待が高まっている。
【0005】
最近では、様々な食品起源のタンパク質からも、ACEを特異的に阻害して血圧の上昇を抑制し高血圧を予防及び改善するACE活性阻害ペプチドが単離されており、これらを特定保健用食品に応用する研究がなされている。例えば特許文献1では、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン等のタンパク質分解酵素を用いてローヤルゼリーを酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解組成物が開示されている。このローヤルゼリー分解組成物は、ACE活性を阻害する性質を有している。
【0006】
また特許文献2では、イワシ、アジ、マグロ等の魚肉由来のペプチドα−1000の水溶液をペプチド吸着性樹脂処理した後、10%エタノールを用いて溶出することにより得られるY−2画分が開示されている。このY−2画分には、血圧低下作用を有するVal−Tyr(VY)が含有されている。
【0007】
非特許文献1には、ローヤルゼリーに含まれるタンパク質をタンパク質分解酵素処理することによって得られた酵素処理ローヤルゼリーが開示されている。この酵素処理ローヤルゼリーは、タンパク質分解酵素処理していないものと比べて、ACE阻害活性が著しく増強されていた。そして、前記ACE阻害活性に関与する成分がIle−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyr等のペプチド類であることを報告している。さらに、これらのペプチド類を高血圧自然発症ラットに対して経口投与することにより、血圧降下作用が発揮されたことも確認されている(非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−193997号公報
【特許文献2】特開2000−312567号公報
【非特許文献1】丸山 広恵、外6名、"プロテアーゼ処理ローヤルゼリー中に含まれるアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの単離同定"、食科工、2003、50,310−315
【非特許文献2】徳永 勝彦、外6名、"高血圧自然発症ラットに対する蛋白質分解酵素処理ローヤルゼリーの血圧調節作用"、食科工、2003、50,457−462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、前記非特許文献1に開示されているペプチド類が示す血圧降下機序についてさらに詳細に検討し、その作用機序を解明したことにより本発明を完成するに至った。本発明の目的とするところは、アルドステロンの分泌を好適に抑制し、優れた血圧降下作用を発揮することのできるアルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のアルドステロン分泌阻害剤は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られ、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを有効成分として含有することを要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明のアンジオテンシン変換酵素阻害剤は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られる有効成分を含有し、当該有効成分はIle−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを含むとともにアルドステロンの分泌阻害作用を有することを要旨とする。
【0011】
請求項3に記載の発明の血圧降下剤は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られる有効成分を含有し、当該有効成分はIle−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを含むとともにアルドステロンの分泌阻害作用を有することを要旨とする。
【0012】
上記構成のアルドステロン分泌阻害剤には、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことによって生成される少なくとも3種類のペプチド(Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyr)を含む有効成分が含有されている。この有効成分は、ACE活性を阻害するとともに、昇圧活性を有するアルドステロンの分泌を抑制して優れた血圧降下作用を発揮する。すなわち、前記有効成分は、アルドステロンの分泌を阻害する経路を介して血圧降下作用を発揮する。
【0013】
また、上記アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことによって生成される少なくとも3種類のペプチド(Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyr)を含む有効成分、即ち上記アルドステロン分泌阻害剤が含有されている。このため、アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、アルドステロンの分泌を阻害する経路を介してアンジオテンシン変換酵素の阻害作用に優れている。また、血圧降下剤は、アルドステロンの分泌を阻害する経路を介して血圧降下作用に優れている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルドステロン分泌阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤によれば、アルドステロンの分泌を好適に抑制し、優れた血圧降下作用を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態では「ローヤルゼリー」を「RJ」と略記する。
本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤は、RJにタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られ、少なくともIle−Tyr(IY)、Val−Tyr(VY)及びIle−Val−Tyr(IVY)の各種ペプチドからなる有効成分を含有している。また、このアルドステロン分泌阻害剤には、配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドもそれぞれ含まれている。配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、いずれもアルドステロン分泌阻害剤の有効成分として機能し、ACE活性の阻害を介した血圧降下作用に優れている。このアルドステロン分泌阻害剤は、RJ由来の前記ペプチド及びその他未同定成分(主にペプチド)が有効成分として含有されており、それら有効成分の作用によりRAS−アルドステロン系の血圧上昇に関与する情報伝達を阻害して高い血圧降下作用を発揮するようになっている。
【0016】
RJは、蜜蜂のうち日齢3〜12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。このRJは、人体に対し好ましい生理活性を持つことが知られている。このRJ中の主な生理活性成分としては、例えば、タンパク質、糖類、RJに特有な10−ハイドロキシデセン酸等の有機酸類、脂質、ビタミンB類や葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤に用いられるRJとしては、生RJ又は該生RJを乾燥させて粉末化したRJ粉末のいずれを採用してもよい。また、RJの産地は、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等いずれであってもよい。
【0017】
前記タンパク質分解酵素処理は、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来のエンド型中性プロテアーゼを用いて、RJに含有されるタンパク質のペプチド結合を加水分解してIle−Tyr、Val−Tyr、Ile−Val−Tyr等のペプチドを得る処理をいう。バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼは、金属プロテイナーゼに属しており、至適pHが概ね6.5〜7.5の範囲にある。
【0018】
RJのタンパク質分解酵素処理により得られるIle−Tyr、Val−Tyr、Ile−Val−Tyrは、それぞれACE阻害活性を有するとともに、アルドステロンの分泌阻害活性を有している。さらに、前記タンパク質分解酵素処理により得られる配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド及びその他未同定成分にも、高いACE阻害活性及びアルドステロンの分泌阻害活性が存在する。
【0019】
本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤の利用形態としては、例えば、液状(ドリンク剤等の健康食品)、凍結乾燥、減圧乾燥又はその他の粉末化手段による粉末状、これに賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等を添加した錠剤、カプセル剤等が挙げられる。そして、このアルドステロン分泌阻害剤は、健康食品を始めとする飲食品等に含有させて利用される。このアルドステロン分泌阻害剤は経口投与に適している。
【0020】
さて、本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤は、Ile−Tyr、Val−Tyr、Ile−Val−Tyr等の有効成分がRAS−アルドステロン系の情報伝達を阻害すべく作用する。このアルドステロン分泌阻害剤を経口投与する場合には、前記有効成分が消化官から吸収され、血中に移行し、腹部大動脈や肺等の特定臓器においてACE活性を阻害する。このとき、前記有効成分は、前記特定臓器においてACE活性を阻害してアンジオテンシンIからのアンジオテンシンIIの生成を抑制する。このアンジオテンシンIIの生成抑制は、副腎球状層からのアルドステロンの分泌を阻害し、腎遠位尿細管からのナトリウム再吸収を抑える。その結果、循環血漿量が低下して血圧が降下する。従って、上記アルドステロン分泌阻害剤によれば、血圧の上昇が好適に抑制され、高血圧症を予防及び改善することができるようになる。
【0021】
次に、本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤の製造方法について以下に説明する。なお本実施形態では、粉末状のアルドステロン分泌阻害剤の製造方法について説明する。
アルドステロン分泌阻害剤の製造方法は、分解工程と酵素失活工程と乾燥工程とを備えている。分解工程は、RJにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を行う工程である。酵素失活工程は、前記分解工程で用いたエンド型中性プロテアーゼを失活させる工程である。乾燥工程は、前記酵素失活工程後のRJを乾燥する工程である。
【0022】
以下に各工程について記載する。分解工程では、溶液の粘度を低下させて酵素反応(分解反応)を円滑に進行させるために、上記RJを所定量の水又は緩衝液で希釈したRJ希釈液を用いるのが好ましい。さらにこのとき、前記RJ希釈液のpHを前記エンド型中性プロテアーゼの至適pH付近に調整するのが好ましく、具体的にはRJ希釈液のpHを好ましくは6.5〜7.5、特に好ましくは6.8〜7.2に調整するのが好ましい。RJ希釈液を調製する際には、タンパク質分解酵素処理を効率的に進行させるとともに乾燥工程を迅速に進行させるために、RJの重量に対し、好ましくは2〜10倍量、より好ましくは5〜6倍量の水又は緩衝液にて希釈されるとよい。
【0023】
また、RJ中には数多くの成分が含有されており、前記エンド型中性プロテアーゼに対して阻害的に働く可能性もあることから、通常の基質に対して酵素処理を行う場合の10倍量以上使用することが好ましい。但し、これも反応時間との兼ね合いで任意に選択することができる。このタンパク質分解酵素処理は前記エンド型中性プロテアーゼの至適温度である40〜60℃で行われるのが好ましい。
【0024】
酵素失活工程は、前記分解工程後のRJ希釈液を前記エンド型中性プロテアーゼが失活する温度に加熱する工程である。この酵素失活工程における加熱温度は、エンド型中性プロテアーゼを十分に失活させるために、75〜100℃であるのが好ましい。また、加熱時間は5〜60分間であるとよい。一方、乾燥工程は、常法に従って行われればよく、例えば真空凍結乾燥機等を用いて前記酵素失活工程後のRJ希釈液を凍結乾燥することにより実施される。この乾燥工程を行うことにより、粉末状のアルドステロン分泌阻害剤が得られる。
【0025】
本実施形態のアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)は、RJにタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られ、上記有効成分(アルドステロン分泌阻害剤)を含有している。このACE阻害剤は、前記有効成分の作用によりACE活性を阻害するとともに、RAS−アルドステロン系の血圧上昇に関与する情報伝達を阻害するようになっている。
【0026】
本実施形態の血圧降下剤は、RJにタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られ、上記有効成分(アルドステロン分泌阻害剤)を含有している。この血圧降下剤は、前記有効成分の作用によりRAS−アルドステロン系の血圧上昇に関与する情報伝達を阻害して高い血圧降下作用を発揮するようになっている。
【0027】
ACE阻害剤及び血圧降下剤の利用形態は、前記アルドステロン分泌阻害剤と同様である。また、これらACE阻害剤及び血圧降下剤は、前記アルドステロン分泌阻害剤と同様の製造方法により製造される。
【0028】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態では、RJにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrの各ペプチドを含有する有効成分が得られる。前記有効成分はACE阻害活性及びアルドステロンの分泌阻害活性を有していることから、RAS−アルドステロン系の血圧上昇に関与する情報伝達を阻害して血圧降下作用に優れている。すなわち、本実施形態のアルドステロン分泌阻害剤、ACE阻害剤及び血圧降下剤によれば、アルドステロンの分泌を好適に抑制し、優れた血圧降下作用を発揮することができる。
【0029】
・ 本実施形態では、タンパク質分解酵素としてエンド型中性プロテアーゼを使用することにより、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrの各有効成分を含有する分解組成物が容易に得られる。すなわち、血圧降下作用に優れた分解組成物を容易に得ることができる。
【実施例】
【0030】
<アルドステロン分泌阻害剤の調製>
中国産生RJ(固形分32.7%)8gに水45mlを加えて5分間攪拌し、RJ希釈液を調製した。次に、前記RJ希釈液に、バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼ(天野エンザイム社製プロテアーゼN)を25mg添加し、至適pHである7.0に調整した後、50℃で14時間反応させた。反応終了後、98℃で5分間加熱することにより酵素失活工程を行い、次いで凍結乾燥にて乾燥工程を行うことにより粉末状のアルドステロン分泌阻害剤を調製した。なおデータは示さないが、このアルドステロン分泌阻害剤には、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrに加え、配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが含まれていたことがHPLC分析にて確認された。
【0031】
<使用動物>
本実施例では、星野実験動物(株)より購入した自然発症高血圧ラット(SHRラット、9週齢)を使用した。SHRラットは、室温23〜25℃、相対湿度40〜70%、照明時間12時間/日(7:00〜19:00)、換気回数15回/時間の環境下で、水道水を自由に摂取させるとともに固形飼料CRF-1(日本チャールズリバー社)を与えながら飼育した。なお本実施例では、購入後、2週間予備飼育を行い、健康状態に異常が認められなかった動物を用いた。
【0032】
<単回投与による各種臓器のACE活性及びペプチド定量>
1)SHRへのアルドステロン分泌阻害剤の投与及び解剖
9週齢のSHRを上記の環境で予備飼育した後、11週齢で収縮期血圧が185mmHg以上を示す動物を用いた。またここでは、試験開始前の血圧及び体重を指標として、動物を2群(アルドステロン分泌阻害剤投与群及び対照群)に群分けした。なお、血圧は、動物を37℃で10分間保温した後、血圧測定装置(ソフトロン社製、BP−98A)を用いて非観血的に測定した。次に、アルドステロン分泌阻害剤を精製水に溶解し、これをSHRに2g/kg単回経口投与した。一方、対照群には、アルドステロン分泌阻害剤を含有しない同量の精製水を投与した。アルドステロン分泌阻害剤投与群に対するアルドステロン分泌阻害剤の投与6時間後、及び対照群に対する精製水の投与6時間後にそれぞれのSHRを開腹して、心臓より採血した後、腹部大動脈、心臓、肺、肝臓、腎臓、脳の各臓器を摘出した。
【0033】
2)TritonX‐100可溶性画分の調製
摘出した各臓器より、TritonX‐100可溶性画分を調製した。すなわち、各臓器1gに対して4mlのBufferA(50mMTris‐HCl、pH7.9、0.3M NaCl)を加え、ホモジナイズした。これをろ過した後、得られたろ液を33000×gの条件で90分間遠心分離し、次いで沈殿に4mlのBufferAを加えて懸濁し、これを33000×gの条件で90分間遠心分離した。その後、沈殿に4mlのBufferB(50mMTris‐HCl、pH7.9、0.3M NaCl、0.5%TritonX‐100)を加えて懸濁し、1000×gの条件で10分間遠心分離した。さらに、この沈殿に所定量のBufferBを加え、2時間抽出後、1000×gの条件で10分間遠心分離することにより得られた上澄みをTritonX‐100可溶性画分とした。
【0034】
3)ACE活性の測定
摘出した各臓器のTritonX‐100可溶性画分のACE活性を、Matsudaらの方法(J.Peptide,Sci.,5,289−297,1999)に準じて測定した。その結果を図1(a)に示す。なお、この測定値は、1ユニットを1分あたりの1.0mmolのhippuric acid遊離に要する酵素量と定義し、蛋白定量はウシ血清アルブミン(BSA)をスタンダードとしてLowry法にて測定した。測定値は比活性(units/mg protein)で表した。また、血漿のACE活性も上記と同様の方法で測定し、その測定値はunits/L plasmaで表した。その結果を図1(b)に示す。
【0035】
図1(a)及び(b)に示すように、各種臓器のうち、腹部大動脈及び肺においては、アルドステロン分泌阻害剤投与群のACE活性が対照群よりも有意に低下した。また、血漿に関しては、ACE活性の僅かな低下が確認された。これに対し、心臓、肝臓、腎臓及び脳においてはACE活性の低下は認められなかった。
【0036】
4)血漿及び各臓器中のペプチド定量
ここでは、ACE活性の阻害に関して有効に作用するペプチド(IY、VY及びIVY)の体内挙動を調べるため、ACE活性の低下がみられた腹部大動脈、肺及び血漿中の各ペプチドの定量を行った。すなわち、採取した血漿5mlを5分間煮沸し、その後20%アセトニトリル10mlで抽出して、1700×gの条件で15分間遠心分離を行い、上澄みを回収した。以下、この操作を2度繰り返した。続いて、全ての上澄みを回収してエバポレーターにより濃縮した後、これを3%アセトニトリル1mlに溶解した。次いで、この溶液をSep-pakC18(Waters社製)で処理し、0.45μmメンブレンフィルターを用いてろ過した後、HPLCにより各ペプチドの定量分析を行った。なお、この定量分析はCAPCELL PAK‐AG ODS(資生堂製、4.6φ×250mm)カラムを用いて行った。また、当該定量分析は、0.1%TFA含有水(A液)及び0.1%TFA含有アセトニトリル(B液)の混合溶液を用いたグラジエント溶出(B液3%;0〜10分、B液3→11%;10〜90分、B液11→65%;90〜105分、B液65%;105〜110分、B液65→3%;110〜125分)にて行った。なおこのとき、1分あたり0.6mlの流量でカラム温度35℃、検出波長220nmの条件で行った。その結果を以下の表1に示す。表1中の*印は、ペプチドが検出されなかったことを意味する。また、同表中の阻害剤投与群とは、アルドステロン分泌阻害剤投与群を意味する。
【0037】
【表1】

表1に示すように、アルドステロン分泌阻害剤投与群の腹部大動脈、肺及び血漿のいずれにおいても、IY、VY及びIVYの3種のACE阻害ペプチドが対照群よりも多量に検出された。なお、ACE活性の低下がみられなかった臓器に対して上記と同様のペプチド定量を行ったところ、IY、VY及びIVYのどのペプチドも検出されなかった。このように、ACE活性の低下が確認された特定臓器(腹部大動脈及び肺)にACE活性阻害ペプチドが検出されたことは、アルドステロン分泌阻害剤中のペプチドが消化管から吸収されて血中に移行し、前記特定臓器においてACE活性を阻害することで血圧降下作用が発揮されたことを意味する。
【0038】
<単回投与による血圧及び血漿中のアルドステロン量の評価>
ここでは、9週齢のSHRを上記の環境で予備飼育した後、11週齢で収縮期血圧が185mmHg以上を示す動物を用いた。なお血圧は、上記と同様に測定した。またここでは、試験開始前の血圧及び体重を指標として1群6匹に群分けした。次に、アルドステロン分泌阻害剤を精製水に溶解し、これをSHRに2g/kg単回経口投与した。そして、投与前及び投与後1、2、4、6、8時間後のSHRの収縮期血圧値を測定した。その結果を図2に示す。
【0039】
続いて、上記の様にSHRの収縮期血圧値を測定した後、それぞれのSHRを開腹して血液を採取し、血漿を得た。この血漿のアルドステロン量を、三菱化学BCL(株)にてラジオイムノアッセイ(RIA)法を用いて測定した。その結果を図3に示す。
【0040】
図2に示すように、アルドステロン分泌阻害剤投与後1時間以内において一過性的な収縮期血圧値の降下がみられた。収縮期血圧値は2時間後にはやや回復するものの、その後8時間まで血圧低下状態が持続することが確認された。また、図3に示すように、血漿中のアルドステロン量は、アルドステロン分泌阻害剤投与後1時間以内において初期値(投与前のアルドステロン量)に対して有意に減少し、投与後4時間後までその状態が持続することが確認された。しかしながら、投与後4時間を超えると、アルドステロン量は徐々に増加し始め、8時間後にはほぼ初期状態となった。
【0041】
ここで、図2及び図3に示すように、アルドステロン分泌阻害剤投与後1時間でアルドステロン量が有意に減少し、この状態が凡そ4時間後まで持続していたことから、アルドステロン分泌阻害剤投与後1時間で一過性的な収縮期血圧値の低下がみられ、結果的に血圧低下状態を持続することができたものと推測される。
【0042】
なお、本実施例中のACE活性の測定試験においては、アルドステロン分泌阻害剤投与群と対照群との間における測定値の統計学的な差の検定をStudent's t-test法にて行った。アルドステロン分泌阻害剤の投与による血圧及び血漿中のアルドステロン量の測定試験においては、投与前と投与後との間でDunnetの多重比較検定を行った。各測定試験で得られた測定値は平均値±標準偏差で表記した。また、ACE活性の測定試験においての有意水準は5%未満、アルドステロン分泌阻害剤の投与による血圧及び血漿中のアルドステロン量の測定試験においての有意水準は1%未満とした。
【0043】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 請求項1に記載のアルドステロン分泌阻害剤の製造方法であって、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施す分解工程と、当該分解工程後のローヤルゼリーを加熱して前記エンド型中性プロテアーゼを失活させる酵素失活工程と、当該酵素失活工程後のローヤルゼリーを乾燥する乾燥工程とを実施することを特徴とするアルドステロン分泌阻害剤の製造方法。この構成によれば、優れた血圧降下作用を有するアルドステロン分泌阻害剤を得ることができる。
【0044】
・ ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られるアルドステロン分泌阻害剤を含有する飲食品であって、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを含み、アルドステロンの分泌阻害作用を有することを特徴とする飲食品。この構成によれば、アルドステロンの分泌を好適に抑制する飲食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)は実施例のアルドステロン分泌阻害剤投与6時間後における各種臓器のACE活性を示すグラフ、(b)は実施例のアルドステロン分泌阻害剤投与6時間後における血漿中のACE活性を示すグラフ。
【図2】実施例のアルドステロン分泌阻害剤を投与したSHRの収縮期血圧値の経時変化を示すグラフ。
【図3】実施例のアルドステロン分泌阻害剤を投与したSHRの血漿中のアルドステロン量の経時変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られ、Ile−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを有効成分として含有することを特徴とするアルドステロン分泌阻害剤。
【請求項2】
ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られる有効成分を含有し、当該有効成分はIle−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを含むとともにアルドステロンの分泌阻害作用を有することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項3】
ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより得られる有効成分を含有し、当該有効成分はIle−Tyr、Val−Tyr及びIle−Val−Tyrを含むとともにアルドステロンの分泌阻害作用を有することを特徴とする血圧降下剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28065(P2006−28065A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207445(P2004−207445)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年1月15日 社団法人日本食品科学工学会発行の「日本食品科学工学会誌 第51巻 第1号(通巻 第541号)」に発表
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】