説明

アルブミンを含有しないエリスロポエチン製剤

本発明は、血液由来成分の蛋白質を含有しない安定化剤を使用することにより、ウィルス感染などの問題点を引き起こすことなく、延長した保存期間中にエリスロポエチンの活性を維持させる、安定したエリスロポエチンの溶液製剤に関する。本発明に係る安定した溶液製剤は、非イオン性界面活性剤及び等張性調節剤をさらに含むことにより、保存中にエリスロポエチンの損失を防ぎ且つ体内投与を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、血液由来成分であるアルブミンまたは精製ゼラチンを代替することが可能な安定化剤を使用することにより、血液由来の蛋白質を含有しないためウィルス感染のおそれなしに長期間の保存が可能であり、生体内効力を保障する、安定したエリスロポエチン(erythropoietin)(以下、「EPO」という)溶液製剤に関する。
【0002】
〔背景技術〕
EPOは、コロニー刺激因子(colony stimulating factor、CSF)の一つである糖蛋白質であって、主に腎臓で生成されるが、肝でも少量生成されるものと知られている。EPOは、赤血球系列の前駆細胞の成長及び分化を促進させ、成熟した赤血球の生成を助ける役割をするので、腎臓機能障害による貧血、骨髄移植性貧血、関節リウマチに伴う貧血、癌または抗癌剤関連の貧血、AIDS関連の貧血などに利用でき、再生不良性貧血患者及び慢性腎不全患者の治療に広範囲に用いられている。
【0003】
前述した疾患の治療のため、EPOのような蛋白質薬物を市場に製品として供給するためには、製剤化過程で見られる、例えば加水分解、ジスルフィド交換反応、変性、凝集、吸着などの物理化学的な変化を抑制しながら生体内効力を維持させることが必須条件であると言える。
【0004】
したがって、当該分野では、このようなEPO製剤の物理化学的変化を抑制しながら長期間の保存によっても生体内効力を維持させるための努力が続けられてきた。このようにEPO蛋白質薬物を長期間保存しながら生体内効力を維持させる方法としては、安定化剤を使用した製剤化方法が挙げられる。
【0005】
例えば、米国特許第4,879,272号では、EPO製剤化過程でヒト血清アルブミン、牛血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコールなどの成分を使用することにより、EPOの変性及びEPO製剤の容器内壁への吸着を防止することができることを開示している。また、この特許は、吸着防止剤としてのヒト血清アルブミンの濃度とEPO吸着による損失との関係についても開示している。
【0006】
前記引用特許のように、既存の蛋白質薬物の剤形において蛋白質の安定性を改善するために、一般に安定化剤としてヒトまたは牛血清アルブミン、精製ゼラチンなどが使用されたが、このようなヒト血清アルブミンは、輸血に依存した血液由来成分であって、ウィルス感染のおそれが常在した。
【0007】
かかる問題を克服するために、蛋白質薬物EPOに対する血液由来成分を使用しない安定化方法に関する従来の技術として、例えば、米国特許第4,992,419号では、EPO;生理学的に適したリン酸塩緩衝液;5〜50g/Lの尿素;L−グリシン、L−アラニン、L−アルギニン、L−ロイシン、L−フェニルアラニン、L−グルタミン酸、L−トレオニン及びこれらの混合物よりなる群から選ばれる1〜50g/Lのアミノ酸;ポリエチレンソルビタンラウレート、三オレイン酸ソルビタン及びオレイン酸ポリグリコールエーテルなどポリマクロゴール型の0.05〜5g/Lの非イオン性界面活性剤;を含む生体適合性及び保存安定性EPO製剤に対する発明を開示している。この引用特許は、アルブミンを使用することなく、保存の際に安定したEPO蛋白質製剤化が可能であることを提示している。
【0008】
また、米国特許第6,120,761号では、ヒト血清アルブミンや精製ゼラチンなどの異種蛋白質を含有せず、ロイシン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジンなどのアミノ酸を安定化剤として使用することにより、EPO安定化を維持するEPO製剤化技術を提示している。
【0009】
また、国際特許出願WO00/61169号では、pH緩衝剤、ソルビタンモノ−9−オクタデノエートポリオキシ−1,2−エタンジイル誘導体、及びアミノ酸などからなるEPO安定化製剤を開示している。この特許出願において、好ましいEPOの薬剤学的組成物は、リン酸緩衝システムで安定化剤としてポリソルベート80とグリシンとの組合わせを含む。
【0010】
また、EPO以外の蛋白質薬物安定化に関する従来の技術として、国際特許出願WO00/48635号(EP第1154796号)は、血液凝固因子の欠乏に使用される血液成分製剤として抗血友病因子の第VIII血液凝固因子を含み、アルブミンフリーの凍結乾燥した血液成分製剤を開示しており、具体的には、前記特許出願では、第VIII血液凝固因子と、マンニトール、グリシン、アラニンよりなる群から選ばれた4〜10%の増量剤(bulking agent)、または増量剤としての2〜6%のヒドロキシエチル澱粉(以下「HES」という)と、スクロース、トレハロース、ラフィノース、アルギニンよりなる群から選ばれた1〜4%の安定化剤と、1mM〜5mMカルシウム塩と、100mM〜300mM塩化ナトリウムと、pH6〜8を維持させる緩衝剤とから構成することにより、アミノ酸や多糖類などの安定化剤と増量剤を使用したアルブミン代替可能の血液成分製剤が提供できるということを開示している。
【0011】
また、米国特許第5,358,708号では、蛋白質薬物であるインターフェロン、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macropharge colony-stimulating factor、GM−CSF)、インターロイキンなどの安定化及び保管期間延長のために、メチオニン、ヒスチジンなどを安定化剤として使用した。
【0012】
米国特許第4,457,916号では、マイクロファージによって体内で生成される蛋白質である腫瘍怪死因子(tumor necrosis factor)を水溶液及び粉末状態で安定化させるための方法として、非イオン性界面活性剤とD−ガラクトース、D−キシロース、D−グルクロン酸、トレハロース、デキストラン及びHESよりなる群から選ばれた少なくとも1種の混合成分を使用した。前述したように、糖または糖と類似の誘導体によって腫瘍怪死因子を、熱による前処理、凍結乾燥及び反復的な解氷によっても活性を失わずに長期間の保管を可能にする水溶液及び粉末状の安定した製剤に剤形化することを開示している。
【0013】
ところが、EPO蛋白質製剤を安定化させるにおいて、これを凍結乾燥させる場合には、凍結乾燥過程が物理化学的に前述の問題を引き起こす危険性が増加するうえ、かかる問題を解決するとしても、凍結乾燥物としての生産のための生産コストが高くなるという問題点を抱えている。
【0014】
そこで、本発明者らは、蛋白質製剤に対する安定化剤として使用されるアルブミンを代替することが可能なEPO安定化剤を選定して使用することにより、血液由来成分の蛋白質を含有しないためウィルス汚染のおそれなしに長期間の保存が可能であり、生体内効力を保障する、安定したEPO注射剤形の溶液製剤を発明しようとした。
【0015】
〔発明の開示〕
本発明は、血液由来成分の蛋白質を含有しない安定化剤を用いて、ウィルス感染のおそれがなく且つ延長した時間に活性を維持する、エリスロポエチン(EPO)、アルブミンフリー安定化剤、非イオン性界面活性剤、及び等張性調節剤を含む、安定したエリスロポエチン(EPO)の注射用溶液製剤を提供する。
【0016】
〔発明を実施するための最良の形態〕
当該分野で通常の知識を有する者であれば、相異なる蛋白質は、その相異なる化学的な差異点により、保存中に異なる比率及び異なる条件の下で漸次非活性化できることを理解するであろう。
【0017】
すなわち、安定化のために使用される物質による保存期間の延長効果は、相異なる蛋白質に対して同等ではなく、これにより保存安定性を与えるために使用される安定化剤は、目的蛋白質の種類よって比率及び種類が異なり、同一の安定化剤を相異なる蛋白質に対して使用する場合には、保存中に保存蛋白質の本質または濃度が変わるため、相異なる効果を示す。
【0018】
したがって、本発明者らは、EPOを、ウィルス汚染のおそれなしに、延長した期間の間効能を維持させることが可能な、安定したEPO溶液製剤を提供するために、保存期間中にEPOを安定化させることが可能な非蛋白質性安定化剤を選定しようとした。
【0019】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、安定化剤としてHESまたは/及び特定のアミノ酸を付加することにより、ヒト血清アルブミンまたは精製ゼラチンなどの異種蛋白質を含有しないためウィルス感染のおそれがなく、延長した期間の間にEPOの効能を維持させる、安定したEPOの注射剤形の溶液製剤を見出すことができ、これにより本発明を完成した。
【0020】
本願で使用されるとおり、用語「安定した」または「安定化(剤)」は、一定の時間特定の保存条件の下で活性成分の損失が特定量未満、一般に10%未満であることを意味するものと理解されるべきである。一般に、10℃で2年、25℃で6ヶ月、または40℃で1〜2週間EPOが90%以上、好ましくは約95%程度の残存率を維持する場合、このような製剤は安定したものと理解することができるであろう。
【0021】
EPOなどの蛋白質において、保存安定性は、正確な投与量を保障するためだけでなく、EPOに対する抗原性形態物質の潜在的な生成を抑制するために重要である。保存中のEPOの10%程度の損失は、組成物内で凝集体や断片などを引き起こして抗原性化合物に転換されない限りは実質的な投与の際に許容すべきものと理解される。
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
一様態において、本発明は、治療学的有効量のEPO、アルブミンフリー安定化剤、非イオン性界面活性剤、及び等張性調節剤を含有することを特徴とする、安定したEPO溶液製剤を提供する。
【0024】
より具体的な様態において、本発明は、安定化剤が、ヒドロキシエチル澱粉(HES)、またはHESとアミノ酸との混合物を含むことを特徴とする、安定したEPO溶液製剤を提供する。
【0025】
また、前記様態において、本発明で使用されるヒドロキシエチル澱粉(HES)の濃度は、0.1〜10%が好ましく、より好ましくは0.1〜3%である。
【0026】
さらに、本発明の安定したEPO溶液製剤において、追加の安定化剤として使用されるアミノ酸は、グルタミン酸、グルタミン、グリシンまたはその塩、及びこれらの混合物から選択できる。
【0027】
また、本発明の安定したEPO溶液製剤で使用される非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体の中から選択できる。
【0028】
より好ましくは、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80及びこれらの混合物から選択できる。
【0029】
また、本発明のEPO溶液製剤で使用される等張性調節剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール及びこれらの混合物から選択できる。
【0030】
より好ましくは、等張性調節剤は塩化ナトリウムである。
【0031】
より具体的な様態において、本発明に係る安定したEPO溶液製剤は、当該分野に公知となっている生理学的に許容される緩衝液に溶解された溶液製剤である。
【0032】
より好ましくは、前記緩衝液は注射用水である。
【0033】
本発明の前述した目的及び他の目的、特徴及び利点は、下記の詳細な説明、実施例及び特許請求の範囲から、当該分野で通常の知識を有する者には明らかである。
【0034】
本発明では、EPOとして、天然または組み換え由来の方法で製造されたもののいずれも使用可能であり、天然由来のものとしては血液または尿由来のEPOが挙げられ、組み換え由来のものとしては遺伝工学的に形質転換された哺乳類細胞の培養液由来のEPOが挙げられる。
【0035】
本発明のEPO溶液製剤に存在するEPOの量は、治療学的有効量である。一般に、EPOの治療学的有効量は、使い捨てバイアル(single-use vial)内に約2000〜10000国際単位(international unit、IU)程度が含有された量である。
【0036】
当該分野で常用されるEPO安定化剤は、アルブミンやゼラチンなどの血液由来成分を含まない薬剤学的に好ましい組成物であって、単糖類と多糖類を含む糖類、糖アルコール、ヘキサノール、アミノ酸、無機塩、有機塩、硫黄含有還元剤、界面活性剤及びキレート化剤などを例示することができる。その他の安定化剤としては、アルギニン、グアニジンまたはイミダゾールなどの塩基性成分、ポリビニルピロリジンやポリエチレングリコールなどの高分子、及びグリシルグリシン(glycylglycine)やグリシル−L−グルタミン酸(glycyl-L-glutamic acid)などのジペプチドなどが使用できる。
【0037】
前記EPO安定化剤としての糖類には、マンノース、グルコース、フルクトース、キシロースなどの単糖類と、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デキストランなどの多糖類などがあり、糖アルコールにはマンニトール、ソルビトール、グリセロールなどがあり、ヘキサノールにはイノシトールなどがある。
【0038】
また、EPO安定化剤としてのアミノ酸には、従来から公知となっているグリシン、アラニン、リジン、ロイシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、プロリン、トリプトファンなどのL、D型の異性体とその塩を含むアミノ酸が言及できる。
【0039】
また、その他に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩、及びグルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロル、α−モノチオグリセロール、チオ硫酸などの硫黄含有還元剤が含まれてもよい。
【0040】
使用可能な界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステルなどの疎水性単位体と親水性単位体とのブロック重合またはグラフト重合によって合成された高分子活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体などからなる非イオン性界面活性剤を含む。
【0041】
前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルには、「ツイン」の商品名で市販されているポリソルベートがあり、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体類には、商品名「ポロキサマー(Poloxamer)」或いは「フルロニック(Pluronic)」と公知になって市販されているものがある。
【0042】
本発明に係るEPOの安定した注射剤形の溶液製剤は、安定化剤の主成分としてHES、別の安定化剤としてアミノ酸、等張性調節剤として塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトールまたはこれらの混合物、非イオン性界面活性剤としてポリソルベート20、ポリソルベート80またはこれらの混合物をそれぞれ含み、注射用水を含む。
【0043】
より具体的には、本発明で安定化剤の主成分として用いられたHESは、アミロペクチン(amylopectin)のアルカリヒドロキシエチレン化(alkaline hydroxyethylation)過程で合成されたグルコース単位の分岐状構造物であって、血漿増量剤としてのアルブミンは、69,000g/moleの分子量を有する単分子性膠質であるが、これに対し、HESは、多分散性膠質であって、重合体の80%が30〜2,400,000g/moleの分子量を有し、本発明で使用可能なHESは、中分子量のHESであって、平均分子量が200,000g/moleに至る。
【0044】
本発明の安定したEPO溶液製剤に主成分として含まれたHESの好ましい濃度は、0.1〜10%であり、より好ましくは0.1〜3%である。
【0045】
本発明の安定したEPO溶液製剤には、別の安定化剤として、アミノ酸及びそのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩が含まれ、好ましいアミノ酸は、グルタミン、グリシン、アルギニン、プロリン、グルタミン酸、ヒスチジン、必須アミノ酸の一種であるイソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、メチオニン、トレオニン、トリプトファン、バリン及びその塩がある。前記言及されたアミノ酸またはその塩は、1種または2種以上の組み合わせを添加することが可能である。
【0046】
特に好ましくは、本発明に係る安定化剤としてのアミノ酸は、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン及びその塩である。このようなアミノ酸の1種または2種以上の組み合わせを添加することが可能である。
【0047】
本発明の安定したEPO溶液製剤に付加できるアミノ酸の量は、約1〜20mg/mLの範囲であり、好ましくは約2〜10mg/mLである。
【0048】
本発明に係る溶液製剤に使用するための好適な非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80、及びこれらの混合物である。
【0049】
本発明の安定したEPO溶液製剤は、一般に、約5.0〜8.0のpH程度に調節される。好ましくは、pHの範囲は約6.0〜7.0である。好ましいpH条件は、等張性調節剤としての塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール及びその他の対応物質などの水性緩衝液を用いて達成することができる。
【0050】
本発明の安定したEPO溶液製剤は、一般に、密封、滅菌したプラスチックまたはガラス容器内に含有できる。本発明の溶液製剤は、アンプル、バイアル、または使い捨て注射器内に指定された量で供給されるか、それとも注射用バックまたはボットルなどの多重投与型で供給される。
【0051】
本発明では、下記実施例で具体的に説明されるように、EPO溶液製剤を40℃、25℃の過酷、加速安定性試験条件で一定の期間保管した後、EPO溶液製剤それぞれの残存率を安定化剤の選定及び判断基準とした。
【0052】
より具体的に、安定化剤の主成分であるHESを含んだEPO溶液製剤を製造し、40℃、25℃に一定の期間保管した後、EPO含量を逆相高性能液体クロマトグラフィ(reverse phase high performance chromatography、RP−HPLC)を使用して確認した。その結果、HESとアミノ酸であるL−グルタミン、L−グルタミン酸、L−グリシンを添加した溶液のEPO残存率が高いものと確認され、EPOの長期安定性を期待することができた。
【0053】
本発明に係る安定化剤HESは、アルブミンを代替することが可能であり、比較的毒性がなく、低いコストで求め易いうえ、輸血伝播性疾患の危険性もないため便利に利用することが可能な物質である。そこで、本発明者は、注射可能な、当該分野で血漿増量剤、懸濁剤及び凍結防止剤として使用されるHESを利用することにより、長期安定性を持つEPO溶液製剤を製造することができることを確認することにより、本発明を完成するに至った。
【0054】
以下、本発明を下記実施例によってより詳細に説明する。ところが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0055】
実施例1:HESの濃度によるEPO安定化の影響
特定のアミノ酸の添加なしに濃度0%〜3%(0g/L〜30g/L)のHESを含有するEPO注射溶液を製造するために、注射用水0.9Lに濃度0%〜3%のHESを入れて70 5℃の温度で20分以上攪拌して溶解させ、その後35℃に冷却させた後、塩化ナトリウム、ポリソルベート80を加えて溶解させた。これに注射用水を添加して最終的に1Lの体積に製造して攪拌した後、緩衝溶液でpH6.9に調整した。この溶液を0.22mmの膜を利用して濾過滅菌し、その濾過滅菌した溶液に所定量のEPOを入れてタイプIのガラスバイアルに充填させて安定性サンプルを製造した。EPO量は、2000〜10,000国際単位範囲を使用した。
【0056】
製造された安定性サンプルを40℃で1週間保管した後、EPOの残存率をRP−HPLCを用いて評価した。
【0057】
HES自体のみの適正濃度でEPO安定化効果を確認し、長期保存性が期待される結果は表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1及び図1に示すように、特定のアミノ酸を含有しないとき、HESの濃度が1〜3%程度の範囲、好ましくは1%の場合に高い残存率を示すことを確認することができた。
【0060】
実施例2:HESとアミノ酸を含んだ溶液の等張性による影響
本発明に係るEPO注射剤形の溶液製剤を製造するために純水を使用し、このような溶液製剤を等張性に作るために0.5〜10g/Lの塩化ナトリウム、またはマンニトール、ソルビトール及びその他の対応物質を加えた。使用されたpHは、実施例1と同様に、6.9に調節した。等張性によるEPO安定化効果を確認するために、表2に示したような量のHES、それぞれ異なる量の塩化ナトリウムを含有するEPO溶液を実施例1と同様の方法で製造した。製造されたサンプルを浸透圧測定器(freezing-point osmometer)(製造元:Gonotec GmbH)を用いて測定し、40℃で2週間保管した後、RP−HPLC分析法によるEPO残存率を評価した。その評価結果は、表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、実験例2及び3の塩化ナトリウム濃度による浸透圧298、347mOsmで94及び96%の特に高い安定性を示すことを確認することができた。
【0063】
実施例3:HESとグルタミンを含んだ溶液におけるEPO安定性の確認
安定化剤HESとアミノ酸グルタミンを含む溶液におけるEPO安定化を確認するために、1%のHESと濃度8mg/mLのグルタミンを実施例1と同様にして40℃/RH75%、25℃/RH60%の恒温恒湿器にそれぞれ2週、6ヶ月間保管した後、EPO残存率をRP−HPLC(Waters社)分析法で評価した。その評価結果は表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
評価結果、ヒドロキシエチル澱粉とグルタミンを含んだ組成において、EPOの初期含量に対する残存率が、40℃の過酷条件では91%、25℃の過酷条件では95%の残存率を示した。
【0066】
実施例4:HESとグルタミン酸を含んだ溶液におけるEPO安定性の確認
安定化剤HESとアミノ酸グルタミン酸を含む溶液におけるEPO安定化を確認するために、1%のHESと濃度8g/mLのグルタミン酸を実施例1と同様にして40℃/RH75%、25℃/RH60%の恒温恒湿器にそれぞれ2週、6ヶ月間保管した後、EPO残存率をRP−HPLC(Waters社)分析法で評価した。その評価結果は表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
評価結果、ヒドロキシエチル澱粉とグルタミン酸を含んだ組成でEPOの初期含量に対する残存率が、40℃の過酷条件では94%、25℃の過酷条件では96%の残存率を示した。
【0069】
実施例5:HES、グルタミン及びグリシンを含んだ溶液におけるEPO安定性の確認
安定化剤HESと2つのアミノ酸、例えばグルタミンとグリシンを含む溶液におけるEPO安定化を確認するために、1%のHES、8mg/mLのグルタミン及び2mg/mLのグリシンを実施例1と同様にして40℃/RH75%、25℃/RH60%の恒温恒湿器にそれぞれ2週、6ヶ月間保管した後、EPO残存率をRP−HPLC(Waters社)分析法で評価した。その評価結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
評価結果、ヒドロキシエチル澱粉、グルタミン及びグリシンを含んだ組成におけるEPOの初期含量に対する残存率が、40℃の過酷条件では96%、25℃の過酷条件では95%の残存率を示した。
【0072】
これらの実施例は本発明を例示するためのものに過ぎないので、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されるものと理解されてはならない。
【0073】
〔産業上の利用可能性〕
本発明のEPO溶液製剤は、ヒト血清アルブミンやゼラチンなどの異種蛋白質を含有しないため、ウィルス感染のおそれのない長期安定性が期待される製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、40℃で1週間保管した後のヒドロキシエチル澱粉(HES)の濃度によるEPO残存率の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療学的有効量のエリスロポエチン(EPO)と、ヒドロキシエチル澱粉(HES)、またはHESとアミノ酸との混合物からなるアルブミンフリー安定化剤とを含むことを特徴とする、エリスロポエチン(EPO)溶液製剤。
【請求項2】
ヒドロキシエチル澱粉(HES)の濃度が、0.1〜10%であることを特徴とする、請求項1に記載のエリスロポエチン(EPO)溶液製剤。
【請求項3】
アミノ酸が、グルタミン酸、グルタミン、グリシンまたはその塩、及びこれらの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のエリスロポエチン(EPO)溶液製剤。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤及び等張性調節剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のエリスロポエチン(EPO)溶液製剤。
【請求項5】
非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体から選ばれることを特徴とする、請求項4に記載のエリスロポエチン(EPO)溶液製剤。
【請求項6】
等張性調節剤が、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、及びこれらの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項4に記載のエリスロポエチン(EPO)溶液製剤。

【図1】
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【公表番号】特表2007−501221(P2007−501221A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522503(P2006−522503)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001891
【国際公開番号】WO2005/014025
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(502172696)シージェイ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】