説明

アルミナ薄膜形成用材料、耐熱部材、バリア性能評価方法及びバリア性能評価装置

【課題】優れたバリア性能を有するEBC膜を形成することができるアルミナ薄膜形成用材料、及びこの材料を用いてなる環境バリアコーティング膜を備える耐熱部材、並びにバリア性能の簡便な評価方法及びそれに用いる簡易な構造の評価装置を提供する。
【解決手段】本発明のアルミナ薄膜形成用材料は、アルミナ粉末と、希土類化合物粉末とを含有し、環境バリアコーティング膜の形成に用いられる。また、本発明の耐熱部材は、耐熱基材と、その表面に、本発明のアルミナ薄膜形成用材料を用いて設けられた環境バリアコーティング膜と、を備える。更に、本発明のバリア性能評価方法及びバリア性能評価装置は、本発明のアルミナ基焼結材料を用いてなるEBC膜のバリア性能を、容易に、且つ効率よく、評価することができる方法及び装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ薄膜形成用材料、耐熱部材、環境バリアコーティング膜[以下、「EBC膜」(Environmental Barrier Coating膜)ということもある。]のバリア性能評価方法及びバリア性能評価装置に関する。更に詳しくは、本発明は、腐食ガスの透過を抑えることができ、優れたバリア性能を有するEBC膜を形成することができるアルミナ薄膜形成用材料、及びこのアルミナ薄膜形成用材料を用いてなるEBC膜を備え、ガスによる腐食等が抑制された耐熱部材に関する。また、腐食ガスの透過を抑えるEBC膜のバリア性能の簡便な評価方法及びそれに用いる簡易な構造の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EBC膜は、優れた耐熱性を有する基材の表面に被覆されて用いられるため、この耐熱部材が使用される環境において、酸素及び水蒸気等の腐食ガスの急峻なポテンシャル勾配に曝される。このポテンシャル勾配下では、腐食種がEBC膜中を内/外方向に拡散することに加えて、膜の構成成分が分相及び偏析等を生じることがある。従って、EBC膜には、超高温の酸素及び水蒸気等に対する安定性はもとより、ポテンシャル勾配に起因する腐食種の透過及び膜内における分相、偏析等の抑制が要求される。このEBC膜としては、耐熱基材である炭素材料の表面に、ケイ素層を介して炭化ケイ素層を形成したうえ、二酸化ケイ素とムライトとを被覆してなる膜が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、炭素材料の表面に、炭化ケイ素、YSix及びYSiOを、この順に被覆した膜も知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
一方、ケイ素化合物ではない他のEBC膜も検討されている。例えば、Alは、優れた高温安定性及び耐食性等を有し、各種の耐熱基材の保護被膜として用いられており、十分な保護性能を有することが知られている。更に、1600℃以上の高温では、10−5atm付近を境として、高酸素分圧側ではp型半導体、低酸素分圧側ではn型半導体としての性質を有し、それぞれの酸素分圧領域でホール伝導性、電子伝導性を発現することが知られている。
【0004】
【非特許文献1】フリッツ他8名、「ジャーナルオブヨーロピアンセラミックソサエティ」(Journal of European Ceramic Society)(英国),1998,p.2351−2364
【非特許文献2】近藤雅之他3名、日本金属学会誌,1999,63,p.851−858
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1、2に記載されたEBC膜は、いずれも多層被覆構造であるが、酸化物層が緻密でないため、十分な耐酸化性が発現されないことがある。また、EBC膜のおかれる環境は、腐食ガス側の表面の酸素分圧が1atm、EBC膜と基材との境界における酸素分圧が10−15atmレベルと、広範な酸素ポテンシャル勾配に曝される。そのため、Alを単独でEBC膜として用いた場合、複数の物質移動機構が同時に関与することとなり、酸素透過機構ばかりでなく、材料そのものの安定性にも影響を及ぼすことが有り得る。
【0006】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、腐食ガスの透過を抑えることができ、優れたバリア性能を有するEBC膜を形成することができるアルミナ薄膜形成用材料、及びこのアルミナ薄膜形成用材料を用いてなるEBC膜を備え、ガスによる腐食等が抑制された耐熱部材を提供することを目的とする。また、腐食ガスの透過を抑えるEBC膜のバリア性能の簡便な評価方法及びそれに用いる簡易な構造の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
1.アルミナ粉末と希土類化合物粉末とを含有し、環境バリアコーティング膜の形成に用いられることを特徴とするアルミナ薄膜形成用材料。
2.上記希土類元素が、Y、Sm、Eu、Tm及びLuのうちの少なくとも1種である上記1.に記載のアルミナ薄膜形成用材料。
3.上記アルミナ粉末と、酸化物換算した上記希土類化合物粉末との合計を100モル%とした場合に、該希土類化合物粉末は0.1〜0.5モル%である上記1.又は2.に記載のアルミナ薄膜形成用材料。
4.耐熱基材と、上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載のアルミナ薄膜形成用材料を用いて、該耐熱基材の表面に設けられた環境バリアコーティング膜と、を備えることを特徴とする耐熱部材。
5.環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給したときの、該環境バリアコーティング膜の厚さ方向における該腐食ガスの透過量の計測において、該分圧を変化させた場合の、該変化に対する該透過量の依存性を評価し、各々の該分圧における該腐食ガスの透過係数を算出し、該分圧と該透過係数との相関を求め、該相関に基づいて、該環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価することを特徴とする環境バリアコーティング膜のバリア性能評価方法。
6.環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給する腐食ガス供給手段と、該環境バリアコーティング膜の厚さ方向における該腐食ガスの透過量を計測する計測手段と、該分圧を変化させた場合の、各々の該分圧における該透過量に基づいて該腐食ガスの透過係数を求める係数算出手段と、該分圧と該透過係数との相関に基づいて、該環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価する相関評価手段と、を備えることを特徴とする環境バリアコーティング膜のバリア性能評価装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルミナ薄膜形成用材料によれば、酸素及び水蒸気等の超高温の腐食ガスの透過が、これらの腐食ガスの急峻なポテンシャル勾配に曝されたときでも十分に抑えられる。即ち、酸素を始めとする腐食種の内方向拡散を十分に抑制することができ、且つ膜内における分相、偏析等も抑制されるEBC膜を容易に形成することができる。
また、希土類元素が、Y、Sm、Eu、Tm及びLuのうちの少なくとも1種である場合は、腐食ガスの透過、及び膜内における分相、偏析等が、より十分に抑えられるEBC膜とすることができる。
更に、アルミナ粉末と、酸化物換算した希土類化合物粉末との合計を100モル%とした場合に、希土類化合物粉末が0.1〜0.5モル%である場合は、腐食ガスの透過、及び膜内における分相、偏析等が、特に十分に抑えられるEBC膜とすることができる。
本発明の耐熱部材では、耐熱基材の表面に、本発明のアルミナ薄膜形成用材料を用いてなるEBC膜が設けられているため、超高温において長期に渡って安定して使用することができる。
本発明のバリア性能評価方法によれば、簡便な方法であるにもかかわらず、酸素を始めとする腐食種の内/外方向拡散挙動を定量的に評価することができる。また、腐食ガスの分圧と透過係数との相関を容易に求めることができ、この相関に基づいて、EBC膜のバリア挙動、及び腐食ガスの透過量等のバリア性能を正確に評価することができる。
本発明のバリア性能評価装置によれば、簡易な装置でありながら、腐食ガスの分圧と透過係数との相関を容易に求めることができ、上記と同様に、EBC膜のバリア性能を正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]アルミナ薄膜形成用材料
本発明のアルミナ薄膜形成用材料は、アルミナ粉末と、希土類化合物粉末とを含有し、環境バリアコーティング膜の形成に用いられる。
【0010】
アルミナ薄膜形成用材料は、アルミナ粉末と、希土類元素化合物粉末とを含有する混合粉末である。アルミナ粉末の平均粒径等は特に限定されないが、例えば、EBC膜を焼成により形成する場合、平均粒径が小さいアルミナ粉末であれば、低温での焼成によって、より緻密な焼結体とすることができるため好ましい。但し、アルミナ粉末の平均粒径が過小であると、取り扱い難く、EBC膜形成時の作業性に劣ることがある。一方、平均粒径が過大であると、高温で焼成しないと緻密化することができない等の問題があり、好ましくない。
【0011】
希土類化合物粉末は、希土類元素を有する化合物の粉末である。希土類元素は特に限定されず、Sc、Y及びランタノイドのうちのいずれであってもよい。この希土類元素は、Y、Sm、Eu、Tm及びLuのうちの少なくとも1種であることが好ましく、Lu及びYがより好ましい。希土類元素がLu及びYである場合は、腐食種の拡散、透過、及び膜内における分相、偏析等が、より十分に抑えられるEBC膜とすることができる。希土類化合物粉末も特に限定されず、希土類元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物などの粉末を用いることができ、酸化物粉末及び炭酸塩粉末として用いられることが多い。
【0012】
アルミナ粉末と希土類化合物粉末との含有割合は、これらの合計を100モル%とした場合に、希土類化合物粉末が0.05〜1.0モル%であることが好ましく、0.1〜0.5モル%であることがより好ましく、0.1〜0.3モル%であることが特に好ましい。希土類化合物粉末の含有割合が0.05〜1.0モル%、特に0.1〜0.5モル%であれば、腐食種の拡散、透過、及び膜内における分相、偏析等が、特に十分に抑えられるEBC膜とすることができる。また、この希土類化合物粉末は、EBC膜を焼成により形成する場合、焼結助剤として作用し、この範囲の含有割合であれば、焼成により十分に緻密化され、且つアルミナ焼結体が本来有する優れた強度及び耐熱性等が損なわれることがない。
【0013】
更に、アルミナ薄膜形成用材料を100質量%とした場合に、アルミナ粉末と希土類化合物粉末との合計は90〜100質量%、特に95〜100質量%であることが好ましい。アルミナ粉末と希土類化合物粉末との合計が90質量%以上であれば、アルミナ焼結体が本来有する優れた強度及び耐熱性等が損なわれることがなく、より優れた強度及び耐熱性等を有するEBC膜を形成することができる。アルミナ薄膜形成用材料に含有されるアルミナ粉末及び希土類化合物粉末を除く他の成分は、EBC膜のバリア性能を損なうことがなければよく、特に限定されない。この他の成分としては、後記の焼結助剤の他、組織制御剤としても作用する酸化マグネシウム等の組織制御剤などの各種助剤が挙げられる。
【0014】
[2]耐熱部材
本発明の耐熱部材は、耐熱基材と、本発明のアルミナ薄膜形成用材料を用いて、耐熱基材の表面に設けられた環境バリアコーティング膜と、を備える。
【0015】
耐熱基材は特に限定されず、高温で用いられるため、その表面にEBC膜の形成が必要とされる各種の基材が使用される。耐熱基材の材質としては、炭素/炭素複合材料(黒鉛材料を炭素繊維により強化した複合材料等)、及び耐熱金属を用いることができる。この耐熱金属としては、ステンレス鋼等のFe基合金、ニッケル基合金、クロム基合金等が挙げられる。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。また、ニッケル基合金としては、インコネル600(登録商標)、インコネル718(登録商標)、インコロイ802(登録商標)等が挙げられる。更に、クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(94Cr5Fe1Y)等が挙げられる。
【0016】
耐熱基材を用いてなる製品も特に限定されず、(1)各種プラント関係、(2)輸送機器関係、(3)その他の施設、設備、機器等が挙げられる。(1)各種プラント関係としては、各種製品の製造、エネルギー供給プラント等で使用されている内燃機関、ボイラー(過熱器官、管寄せ・主蒸気管、高温高圧バルブ等)、蒸気タービン、ガスタービン(高温ロータ、内車室、蒸気弁、低圧ロータ等)、熱交換器、改質器、配管、遮熱材、断熱材、固定部品等の、800℃以上の高温にて使用される部位、部品などが挙げられる。また、(2)輸送機器関係としては、自動車及び鉄道車両等の各種車両、船舶、航空機、宇宙機器等で使用されている内燃機関、ボイラー(過熱器官、管寄せ・主蒸気管、高温高圧バルブ等)、蒸気タービン、ガスタービン(高温ロータ、内車室、蒸気弁、低圧ロータ等)、熱交換器、改質器、配管、遮熱材、断熱材、固定部品等の、800℃以上の高温にて使用される部位、部品などが挙げられる。更に、(3)その他の施設、設備、機器としては、上記(1)、(2)以外の分野の各種施設、設備、機器等で使用されている内燃機関、ボイラー(過熱器官、管寄せ・主蒸気管、高温高圧バルブ等)、蒸気タービン、ガスタービン(高温ロータ、内車室、蒸気弁、低圧ロータ等)、熱交換器、改質器、配管、遮熱材、断熱材、固定部品等の800℃以上の高温にて使用される部位、部品などが挙げられる。
【0017】
アルミナ薄膜形成用材料を用いて、耐熱基材の表面にEBC膜を設ける方法も特に限定されない。この方法としては、(1)熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、スパッタリング、反応性スパッタリング等の物理蒸着法、(2)熱化学蒸着、プラズマ化学蒸着、電子サイクロトロン共鳴源プラズマ化学蒸着等の化学蒸着法、(3)プラズマ溶射等の溶射法、(4)ゾルゲル法、ディップコート法、スプレーコート法等の、スラリー状のアルミナ薄膜形成用材料を用いる被膜形成法などが挙げられる。
【0018】
上記の各種の方法のうち、物理蒸着法及び溶射法は、アルミナ薄膜形成用材料が耐熱基材に向けて直線的に放射される方法であるため、上記のような複雑な形状の各種部位、部品の表面に均一な厚さの均質なEBC膜を効率よく形成するのは容易ではない。また、化学蒸着法は、複雑な形状の各種部位、部品であっても、所定厚さを有し、且つ密度の高いEBC膜を形成することができるが、高コストであり、製膜速度も必ずしも大きいとはいえない。
【0019】
更に、ゾルゲル法では、複雑な形状の各種部位、部品であっても、密度の高いEBC膜を、低コストで、且つ効率よく形成することができるが、十分な厚さを有する膜を形成するのは容易ではない。また、ディップコート法及びスプレーコート法では、複雑な形状の各種部品であっても、低コストで、且つ効率よくEBC膜を形成することができるが、耐熱基材との接着性が十分ではないことがある。更に、スラリー状のアルミナ薄膜形成用材料を用いた被膜形成法は、通常、操作、工程がやや煩雑である。
このように、各々の方法には、それぞれ特徴があるため、それらを勘案して、適宜選択することが好ましい。
【0020】
スラリー状のアルミナ薄膜形成用材料を用いた被膜形成法は、複雑な形状の各種部品の表面に、低コストで、且つ効率よくEBC膜を形成することができる。この方法では、塗膜を乾燥させ、その後、焼成することによりEBC膜が形成される。以下、この方法について説明する。
【0021】
スラリー状のアルミナ薄膜形成用材料は、例えば、所定量のアルミナ粉末、希土類化合物粉末及び有機溶剤等を配合し、その後、ボールミル等により湿式混合し、次いで、有機バインダ、可塑剤及び有機溶媒等を配合し、その後、更に湿式混合して調製することができる。また、アルミナ粉末、希土類化合物粉末、有機バインダ、可塑剤及び有機溶剤等を配合し、その後、ボールミル等により湿式混合して調製することができる。
【0022】
有機バインダ、可塑剤及び有機溶剤としては、アルミナ粉末を主成分とするセラミックスラリーにおいて一般に使用されるものを特に限定されることなく用いることができる。有機バインダとしては、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類などが挙げられる。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジブチルアジペート等のフタル酸エステルなどが挙げられる。有機溶剤としては、ブチルカルビトール、タ−ピネオール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤などが挙げられ、トルエン、メチルエチルケトン等が用いられることが多い。有機バインダ、可塑剤、有機溶剤は各々1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記のようにして調製されたスラリー状のアルミナ薄膜形成用材料を、耐熱基材の表面に塗布して塗膜を形成し、その後、この塗膜を乾燥させ、有機溶剤を除去し、次いで、焼成することによりEBC膜を形成することができる。この焼成は、乾燥後の塗膜を所定温度で所要時間保持することによりなされる。焼成温度は、アルミナ粉末の平均粒径及び希土類化合物粉末の種類及び配合量等により設定することができる。この焼成は、通常、塗膜を焼成温度より低い所定温度で加熱し、有機バインダを除去する、所謂、脱脂をした後になされる。この場合、脱脂した後、そのまま降温させることなく、焼成温度まで昇温させて焼成してもよいし、脱脂の後、一旦降温させ、例えば、室温(25〜35℃)にまで降温させ、その後、焼成してもよい。
【0024】
焼成雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気等の酸化雰囲気、窒素ガス雰囲気及びアルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気などの不活性雰囲気、並びに水素ガスを含有する還元雰囲気のいずれであってもよい。また、乾燥雰囲気であってもよく、加湿雰囲気であってもよい。焼成雰囲気は、加湿された還元雰囲気であることが好ましく、この焼成雰囲気であれば、有機バインダの分解に有利で、より低温で緻密化させることができる。更に、アルミナ焼結体は、大気雰囲気において焼成することができ、大気雰囲気であれば、製造コスト等の点において有利である。
【0025】
アルミナ粉末を焼結させるためには、通常、焼結助剤粉末が配合される。本発明のアルミナ薄膜形成用材料では、含有される希土類化合物粉末が焼結助剤として作用し、この希土類化合物粉末のみで十分に緻密化させることができる場合は、特に他の焼結助剤を必要としない。一方、希土類化合物粉末のみでは十分に緻密化することができないときは、EBC膜としてのバリア性能が損なわれない種類の焼結助剤を適量配合することもできる。この焼結助剤としては、アルミナ粉末の焼成に一般に使用される焼結助剤を特に限定されることなく用いることができる。
【0026】
焼結助剤としては、Si、Ti、Zr、並びにMg、Sr、Ca及びBa等の周期表における2族元素、の各々の酸化物、炭酸塩、水酸化物などの粉末を用いることができる。これらのうち、Si、Ti、Zrなどは、酸化物粉末として用いられることが多い。また、周期表における2族元素は、酸化物粉末及び炭酸塩粉末などとして用いられることが多い。これらの焼結助剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用することにより、より低温で緻密化させることもできる。
【0027】
アルミナ粉末に希土類化合物粉末を除く他の焼結助剤粉末を配合する場合、他の焼結助剤粉末の含有割合は、アルミナ粉末、希土類化合物粉末及び焼結助剤粉末の合計を100モル%とした場合に、3モル%以下、特に1モル%以下であることが好ましい。この範囲の含有割合であれば、焼成により十分に緻密化され、且つアルミナ焼結体が本来有する優れた強度及び耐熱性等が損なわれることがなく、より優れた強度及び耐熱性等を有するEBC膜を形成することができる。
【0028】
EBC膜は、いずれの方法により形成した場合も、優れた強度及び耐熱性等を有するEBC膜とするためには、十分に緻密化されていることが好ましい。相対密度を緻密化の指標とした場合、この相対密度は95%以上、特に98%以上、更に99.5%以上であることが好ましい。この相対密度は、例えば、焼成によりEBC膜を形成する場合、アルミナ薄膜形成用材料に含有されるアルミナ粉末の平均粒径、希土類化合物粉末の種類及びその配合量、並びに焼成温度等によって、上記の好ましい範囲に調整することができる。
尚、相対密度は、純水を溶媒にしてアルキメデス法により測定した嵩密度を、理論密度で除して算出することができる。
【0029】
[3]バリア性能評価方法
本発明のバリア性能評価方法は、環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給したときの、環境バリアコーティング膜の厚さ方向における腐食ガスの透過量の計測において、分圧を変化させた場合の、変化に対する透過量の依存性を評価し、各々の分圧における腐食ガスの透過係数を算出し、分圧と透過係数との相関を求め、相関に基づいて、環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価することを特徴とする。
【0030】
上記のバリア性能評価方法では、アルミナ薄膜形成用材料を用いて試験片を作製し、この試験片の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給する。この腐食ガスは、耐熱部材が高温で用いられるときに、例えば、この部材を酸化させるガスであり、酸素ガス、水蒸気等が挙げられる。
尚、アルミナがn型半導体として挙動する低腐食ガス分圧領域では、高分圧側には、Arガス等の不活性ガスが供給され、低分圧側には不活性ガスと微量の水素ガスとの混合ガスを供給するが、不活性ガス及び混合ガスのいずれにも微量の腐食ガスが含有されているため、「分圧の異なる腐食ガスを供給する」と表現する。
【0031】
そして、分圧が異なることにより、腐食ガスが高分圧側から低分圧側に透過するが、この透過量を、各々の腐食ガスに適したガスセンサ等により計測する。また、低分圧側で腐食ガスの分圧が平衡に達した時点の分圧に基づき、下記式(1)に従って透過係数を算出する。
PL(透過係数)=C・Q・L/Vst・S (1)
(C;透過した腐食ガスの濃度、Q;腐食ガスの流量、Vst;理想気体モル体積、S;試験片の面積、L;試験片の厚さ)
【0032】
更に、ガス流量を変化させる等によって腐食ガスの分圧を変化させたときに、低分圧側で腐食ガスの分圧が平衡に達した時点の分圧に基づき、各々の平衡分圧において上記式(1)に従って、それぞれの透過係数を算出する。このようにして、平衡分圧と透過係数との相関を求め、平衡分圧を横軸、透過係数を縦軸とした両対数グラフを作成し、平衡分圧の変化に対する透過係数の依存性を評価し、得られる直線の傾きにより、腐食ガスの透過機構を推定し、且つ透過係数の絶対値によりEBC膜のバリア性能を評価する。
【0033】
[4]バリア性能評価装置
本発明のバリア性能評価装置は、環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給する腐食ガス供給手段と、環境バリアコーティング膜の厚さ方向における腐食ガスの透過量を計測する計測手段と、分圧を変化させた場合の、各々の分圧における透過量に基づいて腐食ガスの透過係数を求める係数算出手段と、分圧と透過係数との相関に基づいて、環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価する評価手段と、を備える。
【0034】
上記のバリア性能評価装置は、前記のバリア性能評価方法において用いる評価装置の一例である。装置が備える腐食ガス供給手段は特に限定されず、腐食ガスを一定流量で供給することができればよく、例えば、各種の定流量ポンプを用いることができる。また、計測手段も特に限定されず、腐食ガスの種類により適宜の計測器を用いることができる。この計測器としては、例えば、腐食ガスが酸素ガスである場合、酸素導電性を有するジルコニア等の固体電解質体を用いた酸素センサ等の酸素ガスセンサが挙げられ、腐食ガスが水蒸気である場合、プロトン導電性を有する固体電解質体を用いた水蒸気センサ及び露点計が挙げられる。
【0035】
更に、係数算出手段としては、前記のように、透過した腐食ガスの濃度等に基づき、前記式(1)に従って透過係数を算出する手段が挙げられる。また、評価手段としては、前記のように、平衡分圧を横軸、透過係数を縦軸とした両対数グラフにおける直線の傾き等により評価する手段が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
Alを用いて作製した試験片と、Al/Luを用いて作製した試験片とを使用し、腐食ガスとして酸素ガスを用いて、希土類元素の作用効果を確認した。
[1]試験片の製作
Al粉末(大明化学工業社製、商品名「TMDAR、純度99.99%以上)を出発原料として、圧力20MPaでプレス成形し、その後、圧力600MPaでCIP成形し、次いで、温度1500℃で大気雰囲気下、焼成した。その後、切削加工して直径23.5mm、厚さ0.25mmの試験片を製作した。
【0037】
また、Al−Lu系試験片については、Al粉末(大明化学工業社製、商品名「TMDAR、純度99.99%以上)に、硝酸ルテチウム水和物[Lu(NO)・xHO、シグマ−アルドリッチ社製、純度99.999%以上]を所定量(Al粉末と、Luに換算したLu化合物粉末との合計を100モル%とした場合に、Lu化合物粉末が0.05モル%及び0.20モル%となる配合量とした。)湿式混合し、その後、圧力20MPaでプレス成形し、次いで、圧力600MPaでCIP成形し、その後、温度1500℃で大気雰囲気下、焼成した。次いで、切削加工して直径23.5mm、厚さ0.25mmの試験片を製作した。尚、試験片の表面は、いずれの試験片の場合も、両面ともに鏡面仕上げとした。
【0038】
[2]酸素透過特性の評価及び結果
Alがn型半導体としての性質を有する低酸素分圧下における酸素透過特性を評価した。即ち、酸素ガスの分圧が10−5atmより低い低腐食ガス分圧下で評価した。
ガス透過係数測定装置100(図1参照、各々のガスは矢印の方向に流れる。)を用いた。具体的には、2本のアルミナ保護管の間にPtシールリング21、22を介して試験片3を配置し,上側のアルミナ保護管11に対して錘にて一定荷重を加え、試験片3とPtシールリング21、22との間に面圧を付加した。その後、試験片3の両側に100cc/分の流速で高純度Arガスを供給した。ここで、Ptシールリング21、22と試験片3との間のガスリークの影響を防止するため、上下のアルミナ保護管11、12の外側に、更にアルミナ保護管(外側アルミナ保護管13)を配置し、外側と内側の保護管の間にも同一流速にて高純度Arガスを供給した。また、高純度Arガスは、Arガス供給配管4を、ドライアイスが投入されたエタノール浴(冷却浴槽5)中を通過させて−72℃まで冷却することにより、供給するArガス中に不純物として含まれる水蒸気量の低減を図った。
【0039】
その後、上下のチャンバーの酸素分圧を、それぞれ酸素センサ(ジルコニアセンサ)61、62により計測しながら、電気炉8により1600〜1700℃まで昇温させてPtシールリング21、22によるシールを完成させ、次いで、計測温度まで降温させた。酸素分圧の計測は酸素センサ61、62を700℃に保持して実施した。その後、各々のセンサの出力が一定となった時点で、上下チャンバーの平衡酸素分圧を計測し、バックグラウンド値とした。
【0040】
次いで、上側チャンバーの供給ガスを低酸素分圧ガス(0.01〜1体積%のHガスを含有するArガスであり、下側チャンバーに供給される高純度Arガスより更に酸素分圧が低い。尚、Hガス量はガスクロマトグラフィ7により測定する。)に切り替え、100cc/分の流速で供給し、上下チャンバーの酸素分圧の変化をモニターした。そして、それぞれのセンサの出力が一定となった時点で、上側チャンバーの平衡酸素分圧を計測し、バックグラウンド値との差分から、前記式(1)に基づいて酸素ガスに係る透過係数PLを算出した。
【0041】
その後、上側チャンバーに供給する低酸素分圧ガスの流速を変化させ、各々の流速における上側チャンバーの平衡酸素分圧を計測し、バックグラウンド値との差から、前記式(1)に基づいて、それぞれの酸素分圧における透過係数PLを算出した。この平衡酸素分圧と、透過係数PLとの相関を表す図2の両対数グラフによれば、Alのみの場合、並びに0.05モル%及び0.20モル%のLuが含有される場合ともに、平衡酸素分圧と透過係数PLとは直線関係を有し、且つその傾きは−1/6で一定であることが分かる。
【0042】
上記のように、Alのみの場合と、これにLuが含有される場合とで、直線の傾きが同じであることから、Alのみのときと、これにLuが含有されるときとで、酸素ガスの透過機構が同一であると推定される。即ち、いずれの場合も、1600℃以上、且つ1×10−5atm以下の低酸素分圧下では、酸素欠損の状態となって、酸素空孔が形成され、酸素空孔を介する電子伝導性を有するものと推察される。また、Alのみの場合に比べて、0.05モル%のLuが含有されるときは、酸素透過係数に大差はなく、希土類酸化物を含有することによる大きな作用効果はみられない。一方、0.20モル%のLuが含有される場合は、酸素透過係数が大きく低下し、腐食ガスの透過が抑えられ、希土類酸化物を含有することによる十分な作用効果が発現されることが分かる。
【0043】
また、Alのみの場合と、0.20モル%のLuが含有される場合の、各々の試験片について、上記のガス透過係数測定装置を使用し、下側チャンバーを高酸素分圧側(高純度Arガスを用いた、酸素分圧;2×10−5atm)、上側チャンバーを低酸素分圧側(Arガスと2体積%のHガスとの混合ガスを用いた、酸素分圧;6×10−13atm)として、170℃で加熱処理した場合の、それぞれの試験片の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
【0044】
その結果、Alのみの場合、及び0.20モル%のLuが含有される場合、のいずれの場合も、高酸素分圧側、低酸素分圧側ともに、一般に観察される粒界部のサーマルエッチングの様相を呈しており、粒界の隆起及び深い粒界溝等は観察されなかった。このように、低酸素分圧側では、酸素の脱着を生じるのみであり、Al成分の移動をともなわないため、処理後のサンプル表面に粒界の隆起及び深い粒界溝等は観察されず、通常の粒界部のサーマルエッチングの様相を呈しているものと推定される。更に、0.20モル%のLuが含有されるときは、Alのみのときと比べて、エッチングレベルが低く、粒界においてLu添加による物質移動抑制効果が現れているものと考えられ、Luが含有される場合は、より優れたEBC膜を形成することができると推察される。
【0045】
以上、詳述したように、n型が発現する領域(酸素分圧<10−6atm)では、Alに所定量の希土類元素を含有させた場合、腐食種の拡散、透過を十分に抑えることができ、且つ膜内における分相、偏析等も抑制され、優れたバリア性能を有するEBC膜を形成することができ、このEBC膜を用いて、ガスによる腐食等が抑制される耐熱部材が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、環境バリアコーティングを必要とする各種の耐熱部材において利用することができる。例えば、各種プラント関係、輸送機器関係、その他の施設、設備、機器等における内燃機関、ボイラー、蒸気タービン、ガスタービンなどの各種部位、部品の表面に、特に、これら部品が複雑な形状であっても、均一な厚さの均質なEBC膜を形成する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】酸素透過係数の計測に用いた装置の模式的な説明図である。
【図2】Al/Lu系の酸素透過係数の酸素分圧依存性に係るグラフである。
【図3】酸素ポテンシャル勾配下に曝されたAl/Lu系焼結体の高酸素分圧側の表面の微細組織に係るSEM写真による説明図である。
【図4】酸素ポテンシャル勾配下に曝されたAl/Lu系焼結体の低酸素分圧側の表面の微細組織に係るSEM写真による説明図である。
【図5】酸素ポテンシャル勾配下に曝された多結晶Al焼結体の高酸素分圧側の表面の微細組織に係るSEM写真による説明図である。
【図6】酸素ポテンシャル勾配下に曝された多結晶Al焼結体の低酸素分圧側の表面の微細組織に係るSEM写真による説明図である。
【符号の説明】
【0048】
100;ガス透過係数測定装置、11;上側アルミナ保護管、12;下側アルミナ保護管、13;外側アルミナ保護管、21、22;Ptシールリング、3;円板状試片、4;Arガス供給配管、5;冷却浴槽、61、62;酸素センサ、7;ガスクロマトグラフィ、8;電気炉、91;上部基体、92;下部基体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粉末と、希土類化合物粉末とを含有し、環境バリアコーティング膜の形成に用いられることを特徴とするアルミナ薄膜形成用材料。
【請求項2】
上記希土類元素が、Y、Sm、Eu、Tm及びLuのうちの少なくとも1種である請求項1に記載のアルミナ薄膜形成用材料。
【請求項3】
上記アルミナ粉末と、酸化物換算した上記希土類化合物粉末との合計を100モル%とした場合に、該希土類化合物粉末は0.1〜0.5モル%である請求項1又は2に記載のアルミナ薄膜形成用材料。
【請求項4】
耐熱基材と、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のアルミナ薄膜形成用材料を用いて、該耐熱基材の表面に設けられた環境バリアコーティング膜と、を備えることを特徴とする耐熱部材。
【請求項5】
環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給したときの、該環境バリアコーティング膜の厚さ方向における該腐食ガスの透過量の計測において、該分圧を変化させた場合の、該変化に対する該透過量の依存性を評価し、各々の該分圧における該腐食ガスの透過係数を算出し、該分圧と該透過係数との相関を求め、該相関に基づいて、該環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価することを特徴とするバリア性能評価方法。
【請求項6】
環境バリアコーティング膜の一面側と他面側に、分圧の異なる腐食ガスを供給する腐食ガス供給手段と、該環境バリアコーティング膜の厚さ方向における該腐食ガスの透過量を計測する計測手段と、該分圧を変化させた場合の、各々の該分圧における該透過量に基づいて該腐食ガスの透過係数を求める係数算出手段と、該分圧と該透過係数との相関に基づいて、該環境バリアコーティング膜のバリア性能を評価する評価手段と、を備えることを特徴とするバリア性能評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−6620(P2010−6620A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165024(P2008−165024)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】