説明

アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法、複合材料及び表面加工前処理液

【課題】アルミニウム、アルミニウム合金表面を粗面化するための表面加工方法に関し、樹脂や異種金属、セラミック等との接着等に際し形状や材質にかかわらず、簡単な工程により強固な接着力が達成できるような接着性に優れた金属の表面処理方法、及び該表面処理方法により得られた表面を有する金属部材を提供する。
【解決手段】(1)Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される少なくとも1種の金属と(2)亜鉛とを含む表面皮膜を有するアルミニウム又はアルミニウム合金をエッチング溶液と接触させることにより粗化表面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面粗化用の表面加工液を用いたアルミニウム及びその合金材の粗化面の形成方法、並びに該方法により加工された表面を有するアルミニウム及びその合金材に関する。より具体的にはアルミニウムとその合金に対して、難接着性樹脂をはじめ、汎用樹脂や樹脂塗装膜との密着、セラミック・セラミック前駆体との密着、異種金属や金属めっき、はんだ・ろう材との接着等幅広い分野の接着力、接合性、密着性を付与するための表面微細加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車部品、モバイル機器、OA機器、FPD(フラットパネルディスプレイ)等の市場では軽量化のニーズが益々高まるとともに、コストダウンの要求も一層厳しいものとなっている。こうしたニーズに対応するため、部品点数の削減が必須要件となっており、従来複数の部品から組み立てられていたユニットをモジュール化する動きが鮮明になっている。部品の一体化には異種材料の接合技術が不可欠であり、従来、ボルト・ナット等で接合していた部品も、信頼性が高く量産性に優れた接合技術の適用により、大幅な部品点数やコストの削減を達成できる可能性がある。
【0003】
この中でも最も幅広い分野で求められているのが金属と樹脂との接合であり、軽量化を目的として金属やガラスを樹脂へ置き換える検討が行われている。金属部材は強度、耐久性が高い利点がある一方、樹脂は成型の自由度が大きい利点が各々あるため、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の難接着性エンジニアリングプラスチックをインサート成型、アウトサート成型等により樹脂と金属を接合して一体化したり、金属部品表面に樹脂をライニングや塗装したりすることにより両者の機能を一体化する試みも増加している。
【0004】
また、プリント配線板や電池材料等電子・電気部品の分野でも、高密度化、高周波数対応が求められており、樹脂材料だけでは耐熱性、放熱性の要求に対応が困難となっている。プリント配線板においては放熱性、耐熱性に優れた金属基板と絶縁樹脂との接合や、LED、インバータ用放熱基板とヒートシンクとの間のろう付け、はんだ付け性接着性の向上等が求められている。
【0005】
一方、二次電池やキャパシタにおいても、腐食性の高い電解液に対する耐食性に優れ、絶縁性を持った樹脂が電池容器やパッキン等に使用されるが、電池容器や蓋の強度を得るためにアルミ等の金属と樹脂を接合して使用される場合が多い。
【0006】
このような難接着性樹脂とアルミニウム等の金属との接合では、従来一般的には物理的な手法であるショットブラスト処等が行われているが、量産性に劣り、箔等の薄い材料には使用できず、穴の内面等にも適用できない等の制限が多い。また、ショット材が金属表面に残存して問題となる場合もあった。
【0007】
このような理由から化学的方法による表面処理がこれまでに検討されてきており、多くの技術が開示されている。例えば、建材用途に関連する技術では、特許文献1に耐候性や耐熱性そして塗装下地としての密着性に着目し、アルミニウムを陽極酸化した後にめっきを行うことにより良好な性能を得ている。また、特許文献2では同様に陽極酸化したのちプラスチックフィルムを張り合わせる技術を開示しているが、これらの処理には処理時間及び電解設備を必要とするためコストダウンや簡便性を得ることはできなかった。
【0008】
一方、特許文献3や特許文献4ではヒドラジン溶液を使用した特殊エッチングによりアルミニウム表面を微細な粗化面として接着性を高めることが可能でインサート成型にも使用できることが開示されている。しかし、ヒドラジンは可燃性、毒性があり、廃水処理も容易とはいえないことから問題点も残っている。
【0009】
また、特許文献5では塩酸エッチングにより基材表面に凹部を形成させたのちめっきを行う方法が開示されているが、十分なアンカー効果を奏する程の凹部は形成できず実用に耐える密着強度が得られない。また、特許文献6では、銅等の遷移金属を含む表面加工溶液で処理することにより遷移金属成分を析出させながらエッチングを進行させ、その後の工程で遷移金属皮膜を溶解除去する方法であり、難接着性樹脂に対しても接着が可能だが、遷移金属の析出とエッチングが並行して進行するため金属の析出量が多いことから経済的な操業が難しく、析出量が増加するとカソード面積の増加のため反応が加速して制御が難しいという課題があった。
【特許文献1】特開平6−88292号公報
【特許文献2】特開平6−297639号公報
【特許文献3】特開2003−73630号公報
【特許文献4】特開2005−119005号公報
【特許文献5】特開2002−115086号公報
【特許文献6】特開2007−138224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、種々の被接合材質との接着を可能にするための、アルミニウムとその合金表面において、優れたアンカー効果を奏する凹部が形成された多孔質を得ることは困難であった。
【0011】
従って、本発明はアルミニウムやアルミニウム合金に対して接着、接合する際の相手材材質を選ばず、スーパーエンプラ等の難接着性樹脂に対しても効果があり、まためっき下地等異種金属との接合用途やセラミックとの接着も可能なアルミニウムとその合金表面の表面加工技術を得ることを目的とする。更に、環境負荷が少なく、経済的で安定した接着性を得ることが可能な表面加工方法、及び相手材と接合して得られる複合材、ならびに該表面加工に使用する前処理液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は前記従来技術の抱える問題点を解決するための手段について鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム表面と接合される樹脂等の化学結合力に頼らず、ミクロン〜サブミクロンレベルの物理的な噛み合いによる接合をより確実な構造に制御することが重要であるとの見解に基き、化学エッチングの方法の検討とその効果の確認のため、エッチング跡の断面形状の自己組織化制御を中心に鋭意検討を行った。
【0013】
その過程において、従来の酸やアルカリのみを用いたウェットエッチング法では、そのエッチングピットは開口部面積が広く深部ほど狭いすり鉢状か半球状が基本的な形状である。かかる従来法では、比較的確実なアンカー効果が得られるインクボトル状は安定して得られず、更に進んで確実な接合を得るための構造は得られないことを確認した。
【0014】
発明者らは更に、酸性エッチング溶液中に銅等の遷移金属塩を添加して金属を置換析出させながらエッチングを行う方法について研究を重ね、この方法によりエッチング孔が蛇行して進行することを見出し、良好な接着性が得られることを確認した。しかし、金属の析出量が多く浴管理が困難なことから、更に研究を続けた。その結果、遷移金属と亜鉛を予めアルミニウム表面に共析させると同時にアルミニウムの酸化膜を除去し、次いでこの皮膜をエッチング溶液で溶解させながらエッチングを行うと、亜鉛がまず優先的に溶出し、表面に残った遷移金属微粒子がミクロカソードとなって均一な制御エッチングが行われ、自己組織的に隣接するエッチング孔同士が基材内部で繋がる3次元多孔質構造層(蟻の巣構造)や開口部面積よりも深部の孔面積が広い多孔質構造層(インクボトル構造)がアルミニウム表面に形成されることを見出し、この表面の接着性が従来は接合困難だった材料に対しても優れることを確認して本発明を完成した。
【0015】
即ち本発明は以下の[1]〜[8]からなる。
[1] アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料の表面加工方法であって、前記表面加工方法は
{1}前記材料の表面に、
(1)Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される少なくとも1種の金属及び
(2)亜鉛
の金属単体が主成分である表面皮膜を置換めっき法にて形成させる表面皮膜形成工程、及び
{2}前記表面皮膜を有する材料をエッチング溶液と接触させることにより、亜鉛及び前記材料のアルミニウムを選択的に溶解させて前記材料表面に多孔質エッチング層を形成させるエッチング工程
を含むことを特徴とする表面加工方法。
【0016】
[2] 前記表面皮膜が、前記材料を、
(1)前記第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオン及び
(2)亜鉛イオン
を含む前処理液と接触させることにより、前記材料の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜の少なくとも一部を除去するとともに形成されたものである前項[1]に記載の方法。
【0017】
[3] 前記表面皮膜が、亜鉛イオンを含有する第一の前処理液に前記材料を接触させることにより金属状亜鉛からなる皮膜を形成させたのち、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオンを含む第二の前処理液に前記材料を接触させることにより前記材料上に第一群の金属を析出させて得られたものである前項[1]に記載の方法。
【0018】
[4] 前記表面皮膜において、金属付着量が、前記第一群の金属より選択される少なくとも1種の合計で3〜3000mg/mの範囲であり、亜鉛の付着量が10〜10000mg/mの範囲である前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
[5] 前記エッチング溶液が、ハロゲン化物イオンを0.02〜5mol/Lと、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種を0.0001〜0.1mol/L含み、pHが5以下である前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[6] 前記エッチング溶液が、アルカリ金属イオンを0.02〜5mol/Lと、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種を0.0001〜0.1mol/L含み、pHが9以上である前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0021】
[7] Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される1種以上のイオンの合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、アルカリ金属濃度が0.1〜10mol/Lの範囲のアルカリ性水溶液であることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面加工前処理液。
【0022】
[8] Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される1種以上のイオンの合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、フッ化物イオン濃度が0.01〜5mol/Lの範囲の酸性水溶液であることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面加工前処理液。
【0023】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料の表面加工に関する。前記表面加工は、[1]表面皮膜形成工程及び[2]エッチング工程からなる。
【0024】
[1]の表面皮膜形成工程では、前記材料の表面に(1)Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される少なくとも1種の金属及び(2)亜鉛の金属単体が主成分である表面皮膜を置換めっき法にて形成させる(前処理)。[2]のエッチング工程では、[1]の前処理によって表面皮膜を付された材料をエッチング溶液と接触させることにより、亜鉛及び前記材料のアルミニウムを選択的に溶解させて前記材料表面に多孔質エッチング層を形成させる。
【0025】
ここで、「金属単体が主成分」とは、例えば、表面皮膜の金属成分全重量のうち、これら金属単体を90重量%以上含有し、金属化合物(水酸化物、酸化物、塩等)の含有量が10重量%以下であることを意味する。
【0026】
更に、「選択的に溶解」とは、例えば、単位時間あたりの亜鉛及びアルミニウムの溶解量(モル量)が、第一群の金属のそれよりも大きいことを意味する。
【0027】
例えば、第一群の金属として銅を用いた場合において、エッチング工程では、亜鉛の方が溶解しやすく、その一方で銅は比較的溶解しにくく、残りやすい。そこでアルミニウムの上に銅がまばらに散らばったような皮膜ができ、余分な亜鉛や銅は溶解している。皮膜の溶解が進み、アルミニウム素地が見えてくるとアルミニウムと銅の間で異種金属接触腐食が働き、アルミニウムが腐食しやすい状況になる。理論に束縛されないが、亜鉛に加えて亜鉛よりも貴な第一群の金属が共存することによってエッチングが促進されると考えられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料の表面に多孔質層を形成することが可能となり、加工後の表面はアルミニウム(合金)に樹脂や異種金属、セラミック等を接合する場合の界面層として、これまでの加工方法で得られなかった強いアンカー効果を持つ。その具体的な形状として、本発明の加工表面を、隣接する微細孔同士が内部で連結された蟻の巣構造とすること又は開口部面積よりも深部の孔面積が広いインクボトル構造とすることが可能である。従来知られている表面加工技術ではこのような表面構造を得ることは不可能であった。本発明の蟻の巣構造の多孔質表面は、樹脂を高い接着強度で接着する用途や放熱・吸熱機能を得る用途には特に好ましく、一方インクボトル構造の多孔質表面は、密着の優れた光沢めっき下地やシーリング材の接着用途などに好ましい性能を持つため用途に応じて使い分けることができる。また、インクボトル構造では接合相手の材料の種類に関わらず高いアンカー効果が期待できる。本発明の表面加工方法によれば接着、接合材料だけでなく、優れた熱交換機能を利用した放熱・吸熱材料も製造することができることからその用途範囲は広い。また、加工後表面にシランカップリング剤等で後処理することにより超親水性処理や超撥水性処理等の機能性表面を付与することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料(合金材)の置換めっきを利用した湿式プロセスによる表面加工方法及びこれにより得られる多孔質表面を有するアルミニウム又はアルミニウム合金材であって、当該粗化面は遷移金属を含むことを特徴とするアルミニウム材又はアルミニウム合金材を提供する。
<アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法>
【0030】
本発明が適用できるアルミニウム又はアルミニウム合金材の種類としては、アルミニウムを主成分とする金属であれば特に限定されない。特に好ましい材料としては、純アルミニウム、JIS 1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、8000系等のアルミニウム合金等が挙げられる。また、アルミニウムを主成分としたダイカスト材(ADC12等)に対してもスマット除去等の処理を行えば使用することができる。
【0031】
[本発明のアルミニウム又はその合金材の表面加工方法の第一の態様]
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法における第一の態様では、その第一の工程でアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面に、Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオンと、亜鉛イオンを含む表面加工前処理液(以下、単に前処理液と称する場合がある。)と接触させることにより、前記材料の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜の少なくとも一部を除去するとともに形成される。第一の工程で形成された表面皮膜は第二の工程であるエッチング工程で溶解するが、この場合、表面皮膜中の亜鉛成分が速やかに溶解するのに対し、前記第一群の金属は溶解が遅く、超微粒子としてアルミニウム表面に残存し、微細なカソード活性点となる。一方、アルミニウムはアノード部分となってミクロセル(局部電池)を形成するため、アルミニウム表面で起きるアルミニウムの溶解反応(アノード反応)と、Sn、Cu等のより貴な金属粒子表面で起きる水素発生反応(カソード反応)が同時的に進行し、短時間のうちにアルミニウム又はその合金表面には微細な孔食が内部へ進行して微細な多孔質層が形成される。理論に束縛されないが、エッチング孔は縦方向のみでなく横方向にも進行して孔同士が内部で繋がった連続孔となりやすいと考えられる。
【0032】
模式図を用いて説明する。図1は従来の方法による表面加工後の粗化面の断面模式図である。アルミニウム(合金)10の表面で微細孔12が縦方向に進行するが、横方向には進行せず、孔同士が内部で繋がった連結した構造とはなっていない。アルミニウム(合金)10の表面から見ると、微細孔が連続的に設けられている。一方、図2は本発明による表面加工後の粗化面の断面模式図である。ここで、図2(a)の多孔質層は、エッチングされるアルミニウム(合金)10の表面で隣接する微細孔12同士の少なくとも一部が層内部で連結した構造(蟻の巣構造)を有する。アルミニウム(合金)10の表面部分において多孔質層14が形成され、微細孔12同士が内部で繋がった連続孔となっている。また、図2(b)の多孔質層は、開口部面積よりも深部の孔面積が広い構造(インクボトル構造)を有する。理論に束縛されないが、かかるインクボトル構造もエッチング孔が縦方向のみでなく横方向にも進行することで形成されるものであると考えられる。
【0033】
前記第一の工程(前処理工程)において形成される表面皮膜は、アルミニウム又はアルミニウム合金材表面を、
(1)Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される少なくとも1種のイオンと、
(2)亜鉛イオンと
を含む前処理液と接触させ、酸化物(酸化アルミニウム)皮膜を除去するとともに、亜鉛及び前記第一群の金属を主成分とする皮膜を析出させることにより形成することができる。第一群の金属の中では、Cu、Sn、Fe、Te及びBiから選択される一種以上が好ましく、Cu及び/又はSnがより好ましく、Cuが最も好ましい。上述の第一群金属を使用した場合には、前述の「蟻の巣構造」を形成させることができ、更に第一群金属としてCuを使用した場合には、前述の「蟻の巣構造」及び「インクボトル構造」のいずれも形成させることができる。尚、好ましい金属は基材合金種によっても異なり、1000系、5000系はCuを含むことが好ましく、ADC12等アルミダイカスト材ではSnやBiを含むことが好ましい。
【0034】
また、第一の工程において形成される表面皮膜の好ましい金属付着量は、第一群の金属の合計で3〜3000mg/m、より好ましくは5〜2500mg/m、更に好ましくは10〜2000mg/mの範囲であり、好ましい亜鉛の付着量は10〜10000mg/m、より好ましくは15〜7500mg/m、更に好ましくは25〜5000mg/mの範囲である。皮膜における亜鉛と第一群の金属の重量比は、好ましくは1:1〜1000:1、より好ましくは10:1〜100:1である。
【0035】
前記第一の工程において形成される表面皮膜は、アルミニウム又はアルミニウム合金材を
(1)Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、第一群の金属の合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、アルカリ金属濃度が0.1〜10mol/Lの範囲のアルカリ性水溶液(より好ましくは0.2〜4mol/L)か、又は
(2)Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、第一群の金属の合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、フッ化物イオン濃度が0.01〜5mol/Lの範囲の酸性水溶液(より好ましくは0.2〜4mol/L)
である表面加工前処理液と接触させることによって形成することが好ましい。好ましい処理温度は10〜60℃、より好ましくは15〜45℃、好ましい処理時間は1〜500秒間、より好ましくは3〜300秒間である。表面加工前処理液における亜鉛イオンと第一群の金属のモル比は、好ましくは1:1〜1000:1、より好ましくは1:1〜100:1である。
【0036】
前記第一群の金属の合計濃度が低い状態(例えば、0.001mol/L未満)ではこれらの金属の析出量が少ないため多孔質層の成長が不十分となり、高い状態(例えば、1mol/Lを超えると)では皮膜が剥がれやすくなって多孔質層の均一性が低下すると考えられる。
【0037】
前記第一群の金属イオンは、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物、又はモノカルボン酸、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の可溶性有機酸塩や水溶性金属錯体として添加することが好ましい。また、Agイオンは硝酸塩又は硫酸塩として添加することが好ましい。
【0038】
前記アルカリ性水溶液に加えるアルカリ金属としては、Na、K及びLiからなる群より選択される1種以上が好ましく、またこれらの水酸化物を使用することがより好ましい。前記アルカリ性水溶液の好ましいpH範囲は12〜14である。pH12未満では水酸化物の沈殿が発生しやすく、pH14を超えると生成した皮膜の密着性が低下しやすいと考えられる。亜鉛イオンは、特に限定されないが、前記アルカリ性水溶液(例えば、前記アルカリ水酸化物の水溶液)に酸化亜鉛又は水酸化亜鉛を溶解して使用することが好ましい。
【0039】
前記酸性水溶液に加えるフッ化物イオンは、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸等のフッ素含有酸性化合物としてのほか、Znとともにフッ化亜鉛として添加することが好ましい。前記酸性水溶液の好ましいpH範囲は3〜5の範囲である。pH3未満では亜鉛が析出しにくく、pH5を超えると水酸化亜鉛の沈殿が生じやすく、その結果亜鉛皮膜の形成が阻害されると考えられる。
【0040】
また、第二の工程で使用されるエッチング溶液は、(1)例えば、ハロゲン化物イオンを好ましくは0.02〜5mol/L、より好ましくは0.2〜5mol/Lと、例えば、前記第一群の金属中から選択される少なくとも1種のイオンを好ましくは合計0.0001〜0.1mol/L、より好ましくは合計0.001〜0.1mol/L含んでいてもよい酸性溶液であって、pHの上限値は特に限定されず、例えばpH5以下(例えば、4.5以下)であり、pHの下限値も特に限定されず、例えばpH0である酸性溶液、(2)例えば、アルカリ金属イオンを好ましくは0.02〜5mol/L、より好ましくは0.2〜5mol/Lと、例えば、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオンを好ましくは0.0001〜0.1mol/L、より好ましくは0.001〜0.1mol/L含むアルカリ性溶液であって、pHの下限値は特に限定されず、例えばpH9以上(例えば、pH10以上)であり、pHの上限値も特に限定されず、例えばpH15であるアルカリ性溶液である。更に好ましくは(1)の酸性溶液である。ここで、第一群の金属としてCu及び/又はSnを使用する場合には、酸性溶液であることが特に好ましい。特に、第一群の金属としてCuを用いた場合には、(1)の酸性溶液をエッチング液に用いた場合、例えば、pH1.5未満の低pHのエッチング液では蟻の巣構造を形成させることができ、より温和なpH1.5以上のエッチング液ではインクボトル構造を形成させることができる。エッチング溶液のpHについては、pH6〜9の範囲でも本発明の適用は可能だが、処理には比較的長時間を要すると考えられる。尚、(1)及び(2)何れの場合も、前段階である置換めっき工程で持ち込まれた亜鉛イオンがエッチング液中に存在していてもよい。
【0041】
エッチング液におけるハロゲン化物イオンとしては塩化物イオン及びフッ化物イオンが好ましく、より好ましくは塩化物イオンである。ハロゲン化物イオンの濃度が0.02mol/L未満ではエッチング溶液の更新頻度が増える問題が生じ、5mol/Lを超えると作業環境が悪化すると考えられる。
【0042】
エッチング溶液にはこれらの他に溶解蓄積したアルミニウムイオンを捕捉できるキレート剤や沈殿防止剤を更に加えてもよい。
【0043】
キレート剤としては、カルボン酸、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)等が挙げられる。
【0044】
沈殿防止剤としては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基等を含む高分子類が挙げられる。例えば、公知の増粘多糖類、有機酸等が挙げられる。
【0045】
[本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法の第二の態様]
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法における第二の態様では、前記表面皮膜が、亜鉛イオンを含有する第一の前処理液に前記材料を接触させることにより酸化物皮膜を除去するとともに金属状亜鉛からなる皮膜を形成させたのち、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオンを含む第二の前処理液に前記材料を接触させることにより前記材料上に第一群の金属を析出させて得られたものである。
【0046】
前記第二の態様で使用される第一の前処理液で使用される亜鉛置換めっきは、従来知られているジンケート浴、フッ化亜鉛浴等が使用でき、特に限定されない。第一の前処理液は亜鉛イオンを好ましくは0.01〜1mol/L、より好ましくは0.05〜0.8mol/L含む。また、アルカリ金属イオンを0.1〜10mol/L、好ましくは1.0〜5mol/L含む。第一の前処理液のpHは特に限定されないが、好ましくはアルカリ性であり、より好ましくはpH9〜14である。
【0047】
第一の前処理後におけるアルミニウム又はアルミニウム合金材への亜鉛の付着量は10〜10000mg/mが好ましく、より好ましくは200〜5000mg/mである。
【0048】
前記第二の態様で使用される第二の前処理液は、第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオンを含み、これらの金属を硫酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物、又はカルボン酸、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の可溶性有機酸塩や水溶性金属錯体として添加することが好ましく、Agは硝酸塩又は硫酸塩として添加することが好ましい。
【0049】
この場合、第二の前処理液中の第一群の金属のイオン濃度の合計は、0.01〜3mol/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜2mol/Lである。0.01mol/L未満では処理に長時間を要し、3mol/L以上では経済的でない。これら第一群の金属イオンを含む水溶液のpHは特に限定されないが、pH1〜5又は9〜14が好ましく、より好ましくはpH1〜5であり、更に好ましくはpH1〜4である。また、これらの金属錯体を形成可能な錯化剤や前記キレート剤を含むことも好ましい。
【0050】
第一の前処理液における亜鉛イオンと第二の前処理液における第一群の金属のモル比は、好ましくは1:1〜1000:1、より好ましくは1:1〜100:1である。
【0051】
第二の前処理後における第一群の金属の付着量は10〜3000mg/m、亜鉛の付着量は10〜2000mg/mが好ましい。
【0052】
錯化剤としては、カルボン酸、多価カルボン酸、ジヒドロキシカルボン酸、アミン化合物等が好適に用いられる。
【0053】
第二の態様においても、形成された表面皮膜を前記第一の態様で示されるエッチング工程に付すことによって多孔質エッチング層が形成される。
【0054】
第一の態様及び第二の態様のいずれにおいても、エッチング工程の後工程として、必要に応じて更にスマット除去工程を加えてもよい。スマット除去工程は、好ましくは酸化剤(例えば、硝酸やその塩、過酸化水素等)を含む酸性〜中性溶液によって行われる。アルミニウム基材がSiを含む合金(例えば、ADC12〜AC4〜AC8、A6000系)である場合は、スマット除去液中に更にフッ化物イオンを含むことが好ましい。また、この他にカルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸系キレート剤(例えば、スルホンアミド)を含むことも好ましく、アミン、アンモニウム類を添加してpHを調整することも好ましい。スマット除去液は金属成分が除去できるものであればよく、その組成は、pH1〜7が好ましく、pH1〜6がより好ましい。酸化剤濃度が0.1〜250g/Lが好ましく、より好ましくは0.1〜100g/L、フッ化物イオン濃度が0.1〜100g/Lが好ましく、より好ましくは0.1〜40g/Lである。
【0055】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工後の粗化面は、好ましくは直径0.1μm〜10μm、より好ましくは0.1〜5μm、深さが0.2μm〜30μm、より好ましくは0.2〜20μmの微細孔が連続的に形成されている。更に隣接する孔同士の少なくとも一部は内部で連結した蟻の巣構造を持つことがより好ましい。或いは、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工後の粗化面は、好ましくは前述の微細孔がインクボトル状に形成されている。表面加工後のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面と、樹脂、金属、又はセラミック等の被接合材料を以下のような方法で接合することにより、アルミニウム又はアルミニウム合金の複合材料を得ることができる。
【0056】
[アルミニウム合金と樹脂の複合材料の製造]
本発明による表面加工を行った後、樹脂材料と接合して金属−樹脂複合材料を製造するための好適な方法の例として、インサート成型やアウトサート成型がある。インサート成型を行う場合、金型を用意してアルミニウム合金を射出成型金型にインサートして熱可塑性樹脂組成物を射出し、そのまま離型したら既に接着して一体化しているのが好ましい。
【0057】
一般に、通常の射出成型では射出成型金型は樹脂が冷却されて固化する温度に調節されているため、射出された溶融樹脂組成物はアルミニウム合金表面に形成された凹部に浸入する前に固化しやすく、接着性が発現しにくい。一方、本発明の表面加工を施したものは表面の多孔質層の熱伝導性、熱容量が小さいため、溶融樹脂が多孔質層浸入前に固化することがなく、高い接着性が期待できる。また、接合する樹脂層が比較的薄い場合には、本発明による表面加工を行った後、塗料や樹脂接着剤を塗布又は含浸させたのち硬化させる方法、樹脂フィルムをラミネートする方法が好適に使用できる。
【0058】
[アルミニウム合金とセラミックの複合材料の製造]
本発明による表面加工を行った後、セラミック材料と接合して金属−樹脂複合材料を製造するための方法としては、粘土状無機可塑性材料等の700℃以下の低温焼成が可能なセラミック前駆体やセラミックペースト、塗料や無機接着剤を使用することができる。
【0059】
[アルミニウム合金と異種金属の複合材料の製造]
また、本発明による表面加工を行った後、銅、ニッケル、コバルト、すず、はんだ合金等の他の金属材料と接合して複合材料を製造するための好適な方法の例としては、めっき、はんだ付、ろう付等がある。
【実施例】
【0060】
以下に本発明の実施例及び比較例について説明する。
[被処理金属基材]
被処理金属基材であるアルミニウム(合金)材として、A1085、A5052及びADC12の3種類の板を使用した。実施例4〜7、12〜13、18及び比較例2ではA1085を使用し、実施例1〜3、11、15〜17及び比較例1ではA5052を使用し、実施例8〜10、14、19及び比較例3ではADC12を使用した。
【0061】
[処理工程]
アルミニウムの被処理金属基材を、亜鉛イオンと前記第一群の金属イオンを含む表面加工前処理液で前処理した。続いて、前処理された被処理金属基材をエッチング溶液に浸漬して表面加工を行った。
【0062】
実施例1(前処理が1段階のもの)
アルミニウム合金(A5052)を前処理液(すず酸カリウム:0.01mol/L、酸化亜鉛:0.1mol/L、水酸化ナトリウムでpH13に調整)に30秒間浸漬して置換めっきを行った。その後、50℃のエッチング液(塩酸:0.5mol/L、pH1未満)で240秒間浸漬後、水洗し、100℃で5分間乾燥し、表面加工されたアルミニウム合金を得た。
【0063】
実施例2〜12、16〜19及び比較例2は実施例1と同様に、前処理工程が1段階である。実施例1と同様の方法で、表1及び3の条件下で行った(尚、前処理液及びエッチング液ともに、第一群金属源としてテルル以外は硫酸塩を用い、テルルに関しては塩化物塩を用いた)。表1に組成を示す(尚、表中、アルカリ金属はナトリウムである)。
【0064】
実施例13(前処理が2段階のもの)
アルミニウム合金(A1085)を第一の前処理液(酸化亜鉛:0.2mol/L、水酸化ナトリウムでpHを13に調整)に30秒間浸漬して置換めっきを行った。その後、第二の前処理液(硫酸銅:0.05mol/L、塩酸でpH1に調整)に30秒間浸漬した。その後、50℃のエッチング液(組成:塩酸:0.5mol/L、硫酸銅:0.0005mol/L、pH1未満)で240秒間浸漬後、水洗し、100℃で5分間乾燥し、表面加工されたアルミニウム合金を得た。
【0065】
実施例14〜15は実施例13と同様に、前処理工程が2段階である。実施例13と同様の方法で、表1及び3の条件下で行った。
【0066】
比較例1は公知の方法で脱脂のみを行った。
【0067】
基材種のうちA1085、A5052については50℃のエッチング溶液と240秒間接触させ、水洗したのち100℃で5分間乾燥した。ADC12については50℃のエッチング溶液と180秒間接触させたのち、水洗し、更に50g/L酸性フッ化アンモニウムと50g/L硝酸アンモニウムを含むpH5〜6のスマット除去液に60秒間浸漬して表面の清浄化を行った後、100℃で5分間乾燥した。
【0068】
[表面加工前処理液]
本発明の実施例及び比較例の実験に使用した表面加工前処理液の組成を表1に示す。
【表1】

【0069】
<表面皮膜中の金属付着量の分析>
金属が析出した表面皮膜はエッチング溶液で処理する前に(二段階の前処理を行う場合には、前処理の各段階後にそれぞれ)亜鉛及び各種金属付着量を測定した。測定は、蛍光X線分析装置(X線光電子分光(XPS)、X線回折(XRD))を使用して行った。表面皮膜組成の測定結果を表2に示す。尚、析出した金属が塩、酸化物、水酸化物等の金属化合物ではなく金属単体であることは、蛍光X線分析(XRF)により金属成分の有無の確認を行った。更に金属付着量については、エッチング前に生成した皮膜を67.5%硝酸で溶解し、その溶解液をICP分析し金属成分の付着量を換算した。
【0070】
尚、分析に用いた測定装置は以下の通りである。
XPS:島津製作所 製 ESCA-850型
XRD:PANalytical社 製 X’Pert-MPD型
XRF:リガク 製 RIX-1000型
ICP発光分析装置:島津製作所 製 ICPS-8100型
【表2】

【0071】
表面加工前処理後の第二の工程で使用されたエッチング溶液の組成を表3に示す。尚、表3中のアルカリ金属はナトリウムである。尚、使用した液には、第一の工程で持ち込まれた亜鉛イオンが0.005〜0.01mol/L含まれていた。
【表3】

【0072】
<表面加工されたアルミニウム(合金)材の樹脂との接着性評価>
実施例及び比較例において、表面加工後のアルミニウム合金試験片は、PEEK樹脂(VICTREX社製)を膜厚100μmとなるよう被覆し、約400℃で焼き付けたのち、90°ピール強度を測定した。
【0073】
<表面加工されたアルミニウム(合金)材のめっき接着力評価>
実施例及び比較例において、表面加工後のアルミニウム合金試験片は、50mm×50mmに切断したのち電気ニッケルめっきを行った。めっきはスルファミン酸ニッケル浴を使用し、5A/dmの電流密度で20分間めっきを施した。すずめっき銅線(1.0mmφ)を試験片に垂直にはんだ付けして接合し、カッターナイフで接合部の周囲1mm×1mmのめっき膜を素地に達するようカットをいれたのち、引っ張り試験機で剥離強度(めっき接着力)を測定した。
【0074】
<表面加工されたアルミニウム(合金)材のめっき耐熱密着性及び接着力評価>
実施例及び比較例において、表面加工後のアルミニウム合金試験片は、50mm×50mmに切断したのち電気ニッケルめっきを行った。めっきはスルファミン酸ニッケル浴を使用し、5A/dmの電流密度で20分間めっきを施した。めっき後の試験板は、260℃に加熱したはんだ浴にフロートさせ、経時的なふくれ発生の有無を測定した。
【0075】
<表面加工されたアルミニウム(合金)材のめっき光沢の評価>
実施例及び比較例において、表面加工後のアルミニウム合金試験片は、50mm×50mmに切断したのち電気ニッケルめっきを行った。めっきはスルファミン酸ニッケル浴を使用し、5A/dmの電流密度で20分間めっきを施した。めっきの光沢がアルミニウム基材よりも向上したものを「光沢あり」、低下したものを「光沢なし」と目視で判定した。
【0076】
<表面加工後断面形状の確認>
表面加工後の表面形状の電子顕微鏡(SEM)による比較例1を図3に、実施例2の断面観察結果を図4に示す。図3は、表面が空洞を作っているものの、層内部において空洞が連結しているわけではないので、めっきの接着性や密着性はそれほど高くない。一方、図4は、多孔質エッチングができており、層内部が空洞を連結している。層内部で空洞が連結されているので、連結された空洞に入り込んだめっきにより、更に高いめっきの接着性及び密着性が得られる。また、第一群の金属としてCuを用いた場合(実施例18)の断面観察結果を図5、図5の正面図を図6に示す。
【0077】
表面加工後の試験片は切断片をエポキシ樹脂に埋め込み、断面を研摩仕上げしてSEMで平均孔径(孔表面の直径)及び多孔質層の厚み(=孔の平均深さ)を計測した。尚、平均深さは処理時間後の断面を観察及び実測した。
【0078】
表4に加工後表面の平均孔径、多孔質層の厚さ、孔内部の連結の有無、樹脂のピール強度、めっきの密着度及びめっき板のはんだ耐熱試験結果を示す。孔内部構造において、Aは層内部の孔が連結された「蟻の巣構造」が確認されたことを示し、Bは開口部面積よりも深部の孔面積が広い「インクボトル構造」が確認されたことを示す。
【表4】

【0079】
表4から明らかなように、本発明の実施例1〜19では、難接着性樹脂においてもピール強度が高く、優れた密着性を示した。また、表面にめっきを施した試験片でもはんだ槽に浸漬後の時間が経過してもふくれが発生せず、めっき層の耐熱密着性が優れていた。実施例の加工後の表面には0.1〜10μmの直径を持つ孔が(1)連続的に設けられ、更に隣接する孔同士の少なくとも一部が層内部で連結した構造(実施例1〜16)又は(2)表面よりも層内部の内径が広いインクボトル構造(実施例17〜19)を持つ多孔質層となっているものが多かったため、この表面構造が密着性に良い効果を示すものと考えられる。これに対し、比較例1〜3はピール強度、めっき密着が本発明の実施例よりも低く、まためっき耐熱ふくれも観察されたことから、これらよりも劣っていることは明らかであった。
【0080】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法によれば、0.1〜10μmの直径を持つ孔が連続的に設けられ、更に隣接する孔同士の少なくとも一部が層内部で連結した構造又は開口部面積よりも深部の孔面積が広い形状のインクボトル構造を持つ多孔質層の形成が可能である。本発明によると、従来困難であった相手材(被接合材)とであっても、プライマーや亜鉛置換層等の中間層を特に設けることなく、実用的かつ信頼性の高い接着が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面加工方法は、樹脂や金属、セラミック等熱膨張率の異なる異種材料との高強度・高信頼性接合や塗装・ライニング下地に利用できるのみに留まらず、ヒートシンクや熱交換器部材、電池・キャパシタ用集電材、更にはミクロフィルター、含油部材等多孔質アルミ材料の製造にも適しており、種々の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】従来法による、微細孔が連続的に設けられた加工後の断面模式図である。
【図2】本発明による、隣接する孔同士の少なくとも一部が層内部で連結した蟻の巣構造(a)又は開口部面積よりも深部の孔面積が広いインクボトル構造(b)を有する多孔質層を持つ表面加工後の断面模式図である。
【図3】図1の構造からなる比較例1の表面加工後断面写真である。
【図4】図2の構造からなる実施例2の表面加工後断面写真である。
【図5】第一群の金属としてCuを用いた場合(実施例18)の、表面加工後断面写真である。
【図6】図5の表面加工材料を上から見た正面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる材料の表面加工方法であって、前記表面加工方法は
[1]前記材料の表面に、
(1)Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される少なくとも1種及び
(2)亜鉛
の金属単体が主成分である表面皮膜を置換めっき法にて形成させる表面皮膜形成工程、及び
[2]前記表面皮膜を有する材料をエッチング溶液と接触させることにより、亜鉛及び前記材料のアルミニウムを選択的に溶解させて前記材料表面に多孔質エッチング層を形成させるエッチング工程
を含むことを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
前記表面皮膜が、前記材料を、
(1)前記第一群の金属から選択される少なくとも1種のイオン及び
(2)亜鉛イオン
を含む前処理液と接触させることにより、前記材料の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜の少なくとも一部を除去するとともに形成されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面皮膜が、亜鉛イオンを含有する第一の前処理液に前記材料を浸漬することにより金属状亜鉛からなる皮膜を形成させたのち、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種の金属イオンを含む第二の前処理液に前記材料を浸漬させることにより前記材料上に第一群の金属を析出させて得られたものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記表面皮膜において、金属付着量が、前記第一群の金属より選択される少なくとも1種の合計で3〜3000mg/mの範囲であり、亜鉛の付着量が10〜10000mg/mの範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記エッチング溶液が、ハロゲン化物イオンを0.02〜5mol/Lと、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種を0.0001〜0.1mol/L含み、pHが5以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エッチング溶液が、アルカリ金属イオンを0.02〜5mol/Lと、前記第一群の金属から選択される少なくとも1種の金属を0.0001〜0.1mol/L含み、pHが9以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される1種以上のイオンの合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、アルカリ金属濃度が0.1〜10mol/Lの範囲のアルカリ性水溶液であることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面加工前処理液。
【請求項8】
Zn濃度が0.01〜1mol/Lの範囲であり、Sn、Cu、Fe、Ni、Co、Bi、Sb、Ag及びTeからなる第一群の金属より選択される1種以上のイオンの合計濃度が0.001〜1mol/Lの範囲であり、フッ化物イオン濃度が0.01〜5mol/Lの範囲の酸性水溶液であることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面加工前処理液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−41579(P2012−41579A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182011(P2010−182011)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【Fターム(参考)】