アルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法
【課題】十分な耐摩耗性及び耐食性を得ることができるアルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する。メカニカルアロイング法により形成された被膜は、高い耐摩耗性及び耐食性を呈する。
【解決手段】少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する。メカニカルアロイング法により形成された被膜は、高い耐摩耗性及び耐食性を呈する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な被膜を含むアルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウム及びアルミニウム合金を総称してアルミニウムということがある。)材の製造に当たっては、耐摩耗性及び耐食性等の向上を目的としてアルミニウム基材の表面処理が行われている。例えば、電着法、陽極酸化法、スプレー法、ソールゲル法、ポリマーコーティング法等が行われている。但し、アルミニウムの融点が低いため、高温での熱処理は行われていない。
【0003】
しかしながら、アルミニウム材の用途によっては、従来の表面処理では十分な被膜を形成することができないことがある。つまり、十分な耐摩耗性及び耐食性を得にくいことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−269976号公報
【特許文献2】特開2000−160321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、十分な耐摩耗性及び耐食性を得ることができるアルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法は、少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材は、アルミニウム又はアルミニウム合金基材と、前記アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面にメカニカルアロイングにより形成され、鉄アルミナイドを含有する被膜と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な被膜が形成されるため、十分な耐摩耗性及び耐食性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Al粉及びFe粉のSE像を示す図である。
【図2】条件No.1のX線回折の結果を示す図である。
【図3】条件No.2のX線回折の結果を示す図である。
【図4】条件No.4のX線回折の結果を示す図である。
【図5】条件No.5のX線回折の結果を示す図である。
【図6】条件No.7のX線回折の結果を示す図である。
【図7】条件No.3のX線回折の結果を示す図である。
【図8】条件No.6のX線回折の結果を示す図である。
【図9】条件No.1のBSE像を示す図である。
【図10】条件No.2のBSE像を示す図である。
【図11】条件No.4のBSE像を示す図である。
【図12】条件No.5のBSE像を示す図である。
【図13】条件No.3のBSE像を示す図である。
【図14】条件No.6のBSE像を示す図である。
【図15】条件No.4及び条件No.5における被膜の厚さの変化を示す図である。
【図16】条件No.4及び条件No.5における被膜のビッカース硬さの測定結果を示す図である。
【図17】被膜の圧痕のBSE像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明者らは、メカニカルアロイング(MA)法によりアルミニウム基材の表面に種々の被膜を形成し、その観察を行った。なお、被膜の原材料として、Al粉(99.5mass%、粒径:約50μm〜150μm)及びFe粉(99.5mass%、粒径:約5μm)を使用した。これらの二次電子像(SE像)を図1に示す。図1(a)はAl粉を示し、図1(b)はFe粉を示す。また、アルミニウム基材としては、日本工業規格(JIS)A1070で規定されるものを使用し、その表面を♯800の研磨材を用いて研磨した。また、MA装置として遊星ボール・ミールを使用した(容器:SKD11、鉄鋼ボール:SUJ2)。鉄鋼ボールとしては、直径が10mmのものと5mmのものを1:10の比率で混合したものを使用した。また、鉄鋼ボールに対する原料粉の重量率(BPR)は1/23、1/115又は1/460とした。そして、アルゴン雰囲気中で、容器を毎分250回転の速度で回転させて、メカニカルアロイングを行った。実験条件を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
得られた試料は走査型電子顕微鏡(E-SEM-XL30CP, Phillips Co. Ltd.製)で観察し、元素はEDX(EDX-XL30CP, Phillips Co. Ltd.製)で分析した。結晶構造の同定はX線回折(X'pert, PAN Analytical Co. Ltd.製)で行った。また、被膜の硬さはマイクロ・ビッカース硬さ試験(HMV, Shimadzu Co. Ltd.製)で測定した。
【0013】
先ず、X線回折の結果について説明する。
【0014】
(条件No.1、No.2)
条件No.1及びNo.2では、表1に示すように、原料粉としてFe粉のみを用いた。図2に、条件No.1のX線回折の結果を示し、図3に、条件No.2のX線回折の結果を示す。図2及び図3中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0015】
図2に示すように、条件No.1(BPR=1/23)では、MA時間が長くなるに伴って、Feの主ピークがブロードになり、角度の小さい方向にシフトした。また、被膜にはFe−Al固溶体が形成され始めたが、鉄アルミナイド(FeAl)は形成されなかった。
【0016】
一方、図3に示すように、条件No.2(BPR=1/460)では、2時間のMAではFeの主ピークのピークが広がり、角度の小さい方向にシフトした。Fe−Alの固溶体が形成されたと考えられる。5時間のMAでは、FeAlのピークが観察された。10時間のMAでは、FeAlのピークがより高くなった。
【0017】
これらの結果から、Fe粉のみを使用する場合、Fe粉が少ない(BPR=1/460)ほど、固溶体が形成されやすく、MA時間の継続に連れて、FeAlが形成されるといえる。Fe粉が多い(BPR=1/23)場合、FeAlが形成され難いといえる。
【0018】
(条件No.4、No.5)
条件No.4及びNo.5では、表1に示すように、原料粉として、50原子%のFe粉及び50原子%のAl粉を用いた。図4に、条件No.4のX線回折の結果を示し、図5に、条件No.5のX線回折の結果を示す。図4及び図5中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0019】
図4に示すように、条件No.4(BPR=1/23)では、5時間、10時間のMAでFeAlのピークが観察された。
【0020】
一方、図5に示すように、条件No.5(BPR=1/115)では、2時間のMAでFeAlのピークが観察された。また、FeAlのピーク強度がMA時間と共に少し低下した。
【0021】
これらの結果から、原料粉として、50原子%のFe粉及び50原子%のAl粉を用いる場合、原料粉の量に関係なくFeAlが形成されるといえる。また、原料粉の量が少ないほどFeAlの形成が起こりやすいといえる。これは、原料粉の量が少ないほど、試料面上の原料粉への衝突効率が上がったことが要因と考えられる。
【0022】
(条件No.7)
条件No.7では、表1に示すように、条件No.4の原料粉を用いて10時間のMAを行った後、再度、条件No.4の原料粉を用いたMAを行った。図6に、条件No.7のX線回折の結果を示す。図6中の「a」は再MA時のMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」は再MA時のMA時間が2時間の結果を示し、「c」は再MA時のMA時間が5時間の結果を示し、「d」は再MA時のMA時間が10時間の結果を示す。
【0023】
図6に示すように、条件No.7では、0.75時間のMAでもFeAlのピークが観察された。また、MA時間が長くなるに伴って、FeAlのピークが減少した。
【0024】
(条件No.3、No.6)
条件No.3では、表1に示すように、原料粉として、35原子%のFe粉及び65原子%のAl粉を用い、条件No.6では、表1に示すように、原料粉として、65原子%のFe粉及び35原子%のAl粉を用いた。図7に、条件No.3のX線回折の結果を示し、図8に、条件No.6のX線回折の結果を示す。図7及び図8中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が5時間の結果を示し、「c」はMA時間が10時間の結果を示す。また、図7中の「d」は、10時間のMA後に、500℃で2時間のアニールを行った場合の結果を示す。
【0025】
図7に示すように、条件No.3では、10時間のMAでFeAl及びFe2Al5のピークが観察された。Fe2Al5のピークが現れたのは、Fe粉の割合が少ないことによると考えられる。
【0026】
一方、図8に示すように、条件No.6では、5時間のMAでFeAlのピークが観察された。
【0027】
次に、組織観察の結果について説明する。図9〜図14に後方散乱電子像(BSE像)を示す。各BSE像の左側の濃い部分はアルミニウム基材を示し、右側の薄い部分は被膜を示す。また、被膜のグレー色の部分はAlリッチ相であり、白色の部分はFeリッチ相である。
【0028】
(条件No.1、No.2)
図9に、条件No.1のBSE像を示し、図10に、条件No.2のBSE像を示す。図9及び図10中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0029】
図10に示すように、条件No.2では、2時間、10時間のMAにおいて、固溶体が観察された。また、10時間のMAでは2時間のMAより被膜が薄くなった。EDX分析の結果より、Feリッチ相でのAlの割合は35原子%〜40原子%であった。XRDの結果を考慮すると、10時間のMAでFeAlが形成されたと考えられる。
【0030】
一方、図9に示すように、条件No.1では、2時間のMAで厚いFeの被膜が形成された。また、被膜中に穴が観察された。これは、硬いFe粉同士が完全に付着できずに、Fe粒界に穴が形成されたためであると考える。10時間のMAでは被膜と基材との界面が消失し、緻密な結合が形成された。なお、図2に示すように、固溶が進行しただけで、FeAlは形成されなかった。
【0031】
(条件No.4、No.5)
図11に、条件No.4のBSE像を示し、図12に、条件No.5のBSE像を示す。図11及び図12中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0032】
図11に示すように、条件No.4では、0.75時間のMAで形成された被膜において、内側には粒径の大きなFeリッチ相及びAlリッチ相が観察された。外側になるほど微細になり、ラメラー構造を持った。アルミニウム基材と被膜との間に明瞭な界面はなく、被膜中に穴は観察されなかった。2時間のMAでは、被膜の微細化が全体的に進み、Feリッチ相中のAl固溶量が増えた。5時間のMAでは、更に微細化が進み、表面ではAlの量が55原子%〜57原子%となった。XRDの結果を考慮すると、FeAlが形成されたと考えられる。10時間のMAでは、被膜の厚さは減少した。
【0033】
一方、図12に示すように、条件No.5では、0.75時間のMAで形成された被膜の組織は条件No.4のものと似ていた。しかし、図5に示すXRDの結果によると、まだ固溶体のままである。2時間のMAでは、被膜の外側で厚い微細化された層が観察された。図5に示すXRDの結果及びEDXの結果から、FeAlが形成されたといえる。このように、条件No.4よりも早い段階で固溶体及び鉄アルミナイドが形成された。5時間のMAでは、被膜の外側で亀裂が多数観察された。10時間のMAでは、被膜の剥離が観察された。これらの亀裂及び剥離は、硬い被膜の表面へのボールの衝突により起きたと考えられる。従って、必要以上に長いMAは被膜の厚さを減少させるといえる。
【0034】
(条件No.3、No.6)
図13に、条件No.3のBSE像を示し、図14に、条件No.6のBSE像を示す。図13及び図14中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が5時間の結果を示し、「c」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0035】
図13に示すように、条件No.3では、2時間、5時間のMAで形成された被膜の組織は条件No.5の組織に似ていたが、EDX結果によるとFeAl及びFe2Al5が形成されたことが確認された。10時間のMAでは、表面と平行な亀裂が多数観察された。これは、脆いFe2Al5が形成されたためであると考えられる。
【0036】
一方、図14に示すように、条件No.6では、2時間、5時間、10時間のMAで形成された被膜の組織は、条件No.3の組織に似ていた。
【0037】
これらの結果から得た条件No.4及び条件No.5における被膜の厚さの変化を図15に示す。MAの初期段階で被膜が急激に成長した。そして、5時間のMAで最大となり、その後に減少した。XRD及び断面組織観察の結果によると、被膜にFeAlが形成された後もMAを続けると、亀裂が発生し剥離を起こすためであると考えられる。
【0038】
次に、ビッカース硬さの測定結果について説明する。図16に、条件No.4及び条件No.5における被膜のビッカース硬さの測定結果を示す。また、被膜の圧痕(荷重:245mN)の二次電子線像(SE像)を図17に示す。図17中の「a」は条件No.5のMA時間が2時間の結果を示し、「b」は条件No.4のMA時間が5時間の結果を示す。FeAlが形成された被膜の硬さは4.7GPaであった。ホットディップ法によって得られるFeAlの硬さは4.9GPaであり、これと同等の硬さが得られた。圧痕の周囲に亀裂は観察されなかった。このことは、このコーティング層が高い靱性を有していることを意味している。
【0039】
図15、図16に示す結果から、MA時間は2時間〜5時間とすることが好ましい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な被膜を含むアルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウム及びアルミニウム合金を総称してアルミニウムということがある。)材の製造に当たっては、耐摩耗性及び耐食性等の向上を目的としてアルミニウム基材の表面処理が行われている。例えば、電着法、陽極酸化法、スプレー法、ソールゲル法、ポリマーコーティング法等が行われている。但し、アルミニウムの融点が低いため、高温での熱処理は行われていない。
【0003】
しかしながら、アルミニウム材の用途によっては、従来の表面処理では十分な被膜を形成することができないことがある。つまり、十分な耐摩耗性及び耐食性を得にくいことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−269976号公報
【特許文献2】特開2000−160321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、十分な耐摩耗性及び耐食性を得ることができるアルミニウム又はアルミニウム合金材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法は、少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係るアルミニウム又はアルミニウム合金材は、アルミニウム又はアルミニウム合金基材と、前記アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面にメカニカルアロイングにより形成され、鉄アルミナイドを含有する被膜と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な被膜が形成されるため、十分な耐摩耗性及び耐食性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Al粉及びFe粉のSE像を示す図である。
【図2】条件No.1のX線回折の結果を示す図である。
【図3】条件No.2のX線回折の結果を示す図である。
【図4】条件No.4のX線回折の結果を示す図である。
【図5】条件No.5のX線回折の結果を示す図である。
【図6】条件No.7のX線回折の結果を示す図である。
【図7】条件No.3のX線回折の結果を示す図である。
【図8】条件No.6のX線回折の結果を示す図である。
【図9】条件No.1のBSE像を示す図である。
【図10】条件No.2のBSE像を示す図である。
【図11】条件No.4のBSE像を示す図である。
【図12】条件No.5のBSE像を示す図である。
【図13】条件No.3のBSE像を示す図である。
【図14】条件No.6のBSE像を示す図である。
【図15】条件No.4及び条件No.5における被膜の厚さの変化を示す図である。
【図16】条件No.4及び条件No.5における被膜のビッカース硬さの測定結果を示す図である。
【図17】被膜の圧痕のBSE像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明者らは、メカニカルアロイング(MA)法によりアルミニウム基材の表面に種々の被膜を形成し、その観察を行った。なお、被膜の原材料として、Al粉(99.5mass%、粒径:約50μm〜150μm)及びFe粉(99.5mass%、粒径:約5μm)を使用した。これらの二次電子像(SE像)を図1に示す。図1(a)はAl粉を示し、図1(b)はFe粉を示す。また、アルミニウム基材としては、日本工業規格(JIS)A1070で規定されるものを使用し、その表面を♯800の研磨材を用いて研磨した。また、MA装置として遊星ボール・ミールを使用した(容器:SKD11、鉄鋼ボール:SUJ2)。鉄鋼ボールとしては、直径が10mmのものと5mmのものを1:10の比率で混合したものを使用した。また、鉄鋼ボールに対する原料粉の重量率(BPR)は1/23、1/115又は1/460とした。そして、アルゴン雰囲気中で、容器を毎分250回転の速度で回転させて、メカニカルアロイングを行った。実験条件を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
得られた試料は走査型電子顕微鏡(E-SEM-XL30CP, Phillips Co. Ltd.製)で観察し、元素はEDX(EDX-XL30CP, Phillips Co. Ltd.製)で分析した。結晶構造の同定はX線回折(X'pert, PAN Analytical Co. Ltd.製)で行った。また、被膜の硬さはマイクロ・ビッカース硬さ試験(HMV, Shimadzu Co. Ltd.製)で測定した。
【0013】
先ず、X線回折の結果について説明する。
【0014】
(条件No.1、No.2)
条件No.1及びNo.2では、表1に示すように、原料粉としてFe粉のみを用いた。図2に、条件No.1のX線回折の結果を示し、図3に、条件No.2のX線回折の結果を示す。図2及び図3中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0015】
図2に示すように、条件No.1(BPR=1/23)では、MA時間が長くなるに伴って、Feの主ピークがブロードになり、角度の小さい方向にシフトした。また、被膜にはFe−Al固溶体が形成され始めたが、鉄アルミナイド(FeAl)は形成されなかった。
【0016】
一方、図3に示すように、条件No.2(BPR=1/460)では、2時間のMAではFeの主ピークのピークが広がり、角度の小さい方向にシフトした。Fe−Alの固溶体が形成されたと考えられる。5時間のMAでは、FeAlのピークが観察された。10時間のMAでは、FeAlのピークがより高くなった。
【0017】
これらの結果から、Fe粉のみを使用する場合、Fe粉が少ない(BPR=1/460)ほど、固溶体が形成されやすく、MA時間の継続に連れて、FeAlが形成されるといえる。Fe粉が多い(BPR=1/23)場合、FeAlが形成され難いといえる。
【0018】
(条件No.4、No.5)
条件No.4及びNo.5では、表1に示すように、原料粉として、50原子%のFe粉及び50原子%のAl粉を用いた。図4に、条件No.4のX線回折の結果を示し、図5に、条件No.5のX線回折の結果を示す。図4及び図5中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0019】
図4に示すように、条件No.4(BPR=1/23)では、5時間、10時間のMAでFeAlのピークが観察された。
【0020】
一方、図5に示すように、条件No.5(BPR=1/115)では、2時間のMAでFeAlのピークが観察された。また、FeAlのピーク強度がMA時間と共に少し低下した。
【0021】
これらの結果から、原料粉として、50原子%のFe粉及び50原子%のAl粉を用いる場合、原料粉の量に関係なくFeAlが形成されるといえる。また、原料粉の量が少ないほどFeAlの形成が起こりやすいといえる。これは、原料粉の量が少ないほど、試料面上の原料粉への衝突効率が上がったことが要因と考えられる。
【0022】
(条件No.7)
条件No.7では、表1に示すように、条件No.4の原料粉を用いて10時間のMAを行った後、再度、条件No.4の原料粉を用いたMAを行った。図6に、条件No.7のX線回折の結果を示す。図6中の「a」は再MA時のMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」は再MA時のMA時間が2時間の結果を示し、「c」は再MA時のMA時間が5時間の結果を示し、「d」は再MA時のMA時間が10時間の結果を示す。
【0023】
図6に示すように、条件No.7では、0.75時間のMAでもFeAlのピークが観察された。また、MA時間が長くなるに伴って、FeAlのピークが減少した。
【0024】
(条件No.3、No.6)
条件No.3では、表1に示すように、原料粉として、35原子%のFe粉及び65原子%のAl粉を用い、条件No.6では、表1に示すように、原料粉として、65原子%のFe粉及び35原子%のAl粉を用いた。図7に、条件No.3のX線回折の結果を示し、図8に、条件No.6のX線回折の結果を示す。図7及び図8中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が5時間の結果を示し、「c」はMA時間が10時間の結果を示す。また、図7中の「d」は、10時間のMA後に、500℃で2時間のアニールを行った場合の結果を示す。
【0025】
図7に示すように、条件No.3では、10時間のMAでFeAl及びFe2Al5のピークが観察された。Fe2Al5のピークが現れたのは、Fe粉の割合が少ないことによると考えられる。
【0026】
一方、図8に示すように、条件No.6では、5時間のMAでFeAlのピークが観察された。
【0027】
次に、組織観察の結果について説明する。図9〜図14に後方散乱電子像(BSE像)を示す。各BSE像の左側の濃い部分はアルミニウム基材を示し、右側の薄い部分は被膜を示す。また、被膜のグレー色の部分はAlリッチ相であり、白色の部分はFeリッチ相である。
【0028】
(条件No.1、No.2)
図9に、条件No.1のBSE像を示し、図10に、条件No.2のBSE像を示す。図9及び図10中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0029】
図10に示すように、条件No.2では、2時間、10時間のMAにおいて、固溶体が観察された。また、10時間のMAでは2時間のMAより被膜が薄くなった。EDX分析の結果より、Feリッチ相でのAlの割合は35原子%〜40原子%であった。XRDの結果を考慮すると、10時間のMAでFeAlが形成されたと考えられる。
【0030】
一方、図9に示すように、条件No.1では、2時間のMAで厚いFeの被膜が形成された。また、被膜中に穴が観察された。これは、硬いFe粉同士が完全に付着できずに、Fe粒界に穴が形成されたためであると考える。10時間のMAでは被膜と基材との界面が消失し、緻密な結合が形成された。なお、図2に示すように、固溶が進行しただけで、FeAlは形成されなかった。
【0031】
(条件No.4、No.5)
図11に、条件No.4のBSE像を示し、図12に、条件No.5のBSE像を示す。図11及び図12中の「a」はMA時間が0.75時間の結果を示し、「b」はMA時間が2時間の結果を示し、「c」はMA時間が5時間の結果を示し、「d」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0032】
図11に示すように、条件No.4では、0.75時間のMAで形成された被膜において、内側には粒径の大きなFeリッチ相及びAlリッチ相が観察された。外側になるほど微細になり、ラメラー構造を持った。アルミニウム基材と被膜との間に明瞭な界面はなく、被膜中に穴は観察されなかった。2時間のMAでは、被膜の微細化が全体的に進み、Feリッチ相中のAl固溶量が増えた。5時間のMAでは、更に微細化が進み、表面ではAlの量が55原子%〜57原子%となった。XRDの結果を考慮すると、FeAlが形成されたと考えられる。10時間のMAでは、被膜の厚さは減少した。
【0033】
一方、図12に示すように、条件No.5では、0.75時間のMAで形成された被膜の組織は条件No.4のものと似ていた。しかし、図5に示すXRDの結果によると、まだ固溶体のままである。2時間のMAでは、被膜の外側で厚い微細化された層が観察された。図5に示すXRDの結果及びEDXの結果から、FeAlが形成されたといえる。このように、条件No.4よりも早い段階で固溶体及び鉄アルミナイドが形成された。5時間のMAでは、被膜の外側で亀裂が多数観察された。10時間のMAでは、被膜の剥離が観察された。これらの亀裂及び剥離は、硬い被膜の表面へのボールの衝突により起きたと考えられる。従って、必要以上に長いMAは被膜の厚さを減少させるといえる。
【0034】
(条件No.3、No.6)
図13に、条件No.3のBSE像を示し、図14に、条件No.6のBSE像を示す。図13及び図14中の「a」はMA時間が2時間の結果を示し、「b」はMA時間が5時間の結果を示し、「c」はMA時間が10時間の結果を示す。
【0035】
図13に示すように、条件No.3では、2時間、5時間のMAで形成された被膜の組織は条件No.5の組織に似ていたが、EDX結果によるとFeAl及びFe2Al5が形成されたことが確認された。10時間のMAでは、表面と平行な亀裂が多数観察された。これは、脆いFe2Al5が形成されたためであると考えられる。
【0036】
一方、図14に示すように、条件No.6では、2時間、5時間、10時間のMAで形成された被膜の組織は、条件No.3の組織に似ていた。
【0037】
これらの結果から得た条件No.4及び条件No.5における被膜の厚さの変化を図15に示す。MAの初期段階で被膜が急激に成長した。そして、5時間のMAで最大となり、その後に減少した。XRD及び断面組織観察の結果によると、被膜にFeAlが形成された後もMAを続けると、亀裂が発生し剥離を起こすためであると考えられる。
【0038】
次に、ビッカース硬さの測定結果について説明する。図16に、条件No.4及び条件No.5における被膜のビッカース硬さの測定結果を示す。また、被膜の圧痕(荷重:245mN)の二次電子線像(SE像)を図17に示す。図17中の「a」は条件No.5のMA時間が2時間の結果を示し、「b」は条件No.4のMA時間が5時間の結果を示す。FeAlが形成された被膜の硬さは4.7GPaであった。ホットディップ法によって得られるFeAlの硬さは4.9GPaであり、これと同等の硬さが得られた。圧痕の周囲に亀裂は観察されなかった。このことは、このコーティング層が高い靱性を有していることを意味している。
【0039】
図15、図16に示す結果から、MA時間は2時間〜5時間とすることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する工程を有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項2】
前記メカニカルアロイングの時間を2時間乃至5時間とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
前記粉末として、鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合粉末を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金基材と、
前記アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面にメカニカルアロイングにより形成され、鉄アルミナイドを含有する被膜と、
を有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金材。
【請求項1】
少なくとも鉄を含有する粉末を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に対するメカニカルアロイングを行い、被膜を形成する工程を有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項2】
前記メカニカルアロイングの時間を2時間乃至5時間とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
前記粉末として、鉄粉末及びアルミニウム粉末の混合粉末を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金基材と、
前記アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面にメカニカルアロイングにより形成され、鉄アルミナイドを含有する被膜と、
を有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−265513(P2010−265513A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118738(P2009−118738)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]