説明

アルミニウム合金導体

【課題】低コストで製造でき、接合強度及び耐腐食性に優れたアルミニウム合金導体を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金基材2の両面又は片面に、高純度アルミニウム皮膜3が片面当り0.05〜0.5mmの厚さで形成されたアルミニウム合金導体1である。アルミニウム合金基材2は、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなる。高純度アルミニウム皮膜3は、アルミニウム純度99.0%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド車のパワーコントロールユニット(PCU)等に用いられるアルミニウム合金導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車のPCU用のブスバー、電気・電子機器等には、合金導体が用いられていた。該合金導体としては、導電性の高い銅合金板に電解Niめっきを施したもの等が用いられていた。しかし、銅合金やNiめっきはコストが高く、重量が大きいという問題点があった。そのため、これに代る材料の開発が求められており、その中でも安価で軽量なアルミニウム合金が有望視されている。
【0003】
上述のブスバー等に用いられる上記合金導体には、強度及び導電性等の特性が要求される。また、上記合金導体は、該合金導体と他部材とを電気的に接続して用いられるため、アルミニウムワイヤー等の導電性接続部材との接合性が要求される。
しかし、アルミニウム合金は、大気中に放置するだけで表面に酸化物や水酸化物を主体とする絶縁性皮膜が生じ易く、接触抵抗が増加し易い。そのため、アルミニウム合金導体は、上記導電性接続部材との接続性が悪いという問題があった。
アルミニウム合金導体の電気接続性を向上させるために、表面に、Zn皮膜、Cuめっき層、SnまたはAgめっき層を形成した合金導体が開発されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−102356号公報
【特許文献2】特開平8−47793号公報
【特許文献3】特開平11−302855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアルミニウム合金導体においては、電気接続面間の摺動によってめっき皮膜が損傷し易い。その結果、露出したアルミニウム合金基材とCu、Ag等のめっき金属との間に電池が形成され、特に高温多湿の環境下においては腐食が急速に進行してしまうという問題がある。
また、従来のアルミニウム合金導体においては、Cu、Ag、Snなどのめっき層を多重に形成していたため、めっきにかかるコストが増大し、低コストでの生産が困難であるという問題がある。
また、Zn皮膜を亜鉛置換法により形成したアルミニウム合金導体が提案されており(特許文献3参照)、かかる技術は、上述の腐食の進行及びコストの増大という問題点に対して比較的有効であるが、その効果は未だ充分とはいえなかった。
【0006】
また、アルミニウム合金導体においては、アルミニウムワイヤー等の導電性接続部材との超音波接合等による接合性(ボンディング性)が重要となる。特に例えばブスバー等の自動車部品に用いられるアルミニウム合金導体においては、温度変化の激しい環境下での使用を余儀なくされるため、接合初期の接合強度だけでなく、熱履歴後の接合強度、冷熱サイクル後の接合強度等が要求される。しかし、これらの特性を満足するアルミニウム合金導体はほとんどなく、ブスバー等に適したアルミニウム合金導体の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、低コストで製造でき、接合強度及び耐腐食性に優れたアルミニウム合金導体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金基材の両面又は片面に、アルミニウム純度99.0%以上の高純度アルミニウム皮膜が片面当り0.05〜0.5mmの厚さで形成されていることを特徴とするアルミニウム合金導体にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルミニウム合金導体は、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなる上記アルミニウム合金基材を有している。そのため、上記アルミニウム合金導体は、優れた強度を示すことができ、例えばハイブリッド車のブスバー等として好適に用いることができる。
【0010】
Si含有量が0.3質量%未満の場合又はMg含有量が0.35質量%未満の場合には、強度が不十分になるおそれがある。一方、Si含有量が0.7質量%を超える場合又はMg含有量が0.8質量%を超える場合には、熱間圧延時の変形抵抗が大きくなり、熱間圧延が困難になるおそれがある。
【0011】
また、上記アルミニウム合金導体は、上記アルミニウム合金基材の両面又は片面に、アルミニウム純度99.0%以上の高純度アルミニウム皮膜を片面当り0.05〜0.5mmの厚さで有している。
そのため、上記アルミニウム合金導体を、アルミニウムワイヤー又はアルミニウムテープ等の導電性接続部材に充分に優れた接合強度で接合させることができる。また、加熱及び冷却を繰り返し行っても、接合強度の低下を抑制することができ、優れた接合強度を維持することができる。さらに、加熱及び冷却を繰り返し行っても接合部が腐食され難く、耐腐食性に優れている。
【0012】
上記高純度アルミニウム皮膜のアルミニウム純度が99.0%未満の場合、又は上記高純度アルミニウム皮膜の厚みが0.05mm未満の場合には、接合強度が不十分になるおそれがある。また、上記接合部が腐食し易くなるおそれがある。また、0.5mmを超えて厚みを大きくしても接合強度の向上効果にもはやほとんど寄与しなくなるだけでなく、コストを増大させてしまうおそれがある。また、この場合には、上記アルミニウム合金導体全体の強度が低下してしまうおそれがある。上記高純度アルミニウム皮膜のアルミニウム純度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.9%以上がよい。
【0013】
上記高純度アルミニウム皮膜は、めっき等により形成する必要はなく、例えばクラッド圧延等により上記アルミニウム合金基材に一体化させることができる。そのため、上記アルミニウム合金導体は、低コストで簡単に製造することができる。
【0014】
このように、本発明によれば、低コストで製造でき、接合強度及び耐腐食性に優れたアルミニウム合金導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例にかかる、アルミニウム合金導体の断面構造を示す説明図。
【図2】実施例にかかる、導電性接続部材を接合したアルミニウム合金導体の断面構造を示す説明図。
【図3】実施例にかかる、アルミニウムワイヤーが接合されたアルミニウム合金導体を上面から観察した様子を示す説明図(a)、剪断引張試験後に、接合部にアルミニウムワイヤーの一部が残存した様子を示す説明図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
上記アルミニウム合金導体は、上記アルミニウム合金基材と、該アルミニウム合金基材の表面に形成された上記高純度アルミニウム皮膜とを有する。
上記アルミニウム合金導体の用途に応じて、上記高純度アルミニウム皮膜は、例えば板状の上記アルミニウム合金基材の両面に形成することもできるが、片面に形成することもできる。
【0017】
上記アルミニウム合金基材は、上記のごとく、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなる。即ち、上記アルミニウム合金基材は、Al−Mg−Si系(6000系)のアルミニウム合金からなる。
【0018】
上記アルミニウム合金基材は、厚さ1.5〜5mmの板材からなることが好ましい(請求項2)。
厚さが1.5mm未満の場合には、実用上充分な強度を発揮することができず、上記アルミニウム合金導体の実用性が低下するおそれがある。一方、5mmを超える場合には、プレス成形を行う用途において、プレス成形性が劣化するおそれがある。
【0019】
上記アルミニウム合金導体は、上記アルミニウム合金基材用の板材と、上記高純度アルミニウム皮膜用の板材とを重ね合わせて圧延により圧着させるクラッド圧延を行って得られることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記アルミニウム合金導体を低コストで簡単に製造することができる。また、この場合には、上記高純度アルミニウム皮膜と上記アルミニウム合金基材との間を金属結合させることができる。そのため、上記高純度アルミニウム皮膜が剥がれてしまうことを防止することができる。
【0020】
具体的には、上記アルミニウム合金導体は、例えば上記アルミニウム合金基材用の板材と、上記高純度アルミニウム皮膜用の板材とを重ね合わせ、熱間圧延を行ってクラッド材とし、さらに冷間圧延を行うことにより製造することができる。
また、上記アルミニウム合金導体は、さらに溶体処理を行い、その後に時効硬化処理を行ったもの、即ちT6材(JIS H 0001)であることが好ましい。
この場合には、上記アルミニウム合金基材の6000系アルミニウム合金材の時効析出挙動により、強度を向上させることができ、さらに導電率を確保することができる。
【0021】
上記アルミニウム合金導体は、上記高純度アルミニウム皮膜において、導電性接続部材に接続して用いることができる。
上記導電性接続部材としては、例えばアルミニウム純度99.99%以上のアルミニウムワイヤー又はアルミニウムテープ等を用いることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、図1及び図2を用いて説明する。
図1に示すごとく、本例のアルミニウム合金導体1は、板状のアルミニウム合金基材2と、その両面に形成された高純度アルミニウム皮膜3とを有する。
【0023】
アルミニウム合金基材2は、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなる。
高純度アルミニウム皮膜3は、純度99.0%以上のアルミニウムからなり、片面当り0.05〜0.5mmの厚さで形成されている。
また、図2に示すごとく、アルミニウム合金導体1は、高純度アルミニウム皮膜3において、例えばアルミニウム純度99.99%以上のアルミニウムワイヤー等の導電性接続部材4と接合して用いることができる。
【0024】
次に、本例のアルミニウム合金導体の製造方法につき、説明する。
まず、後述の表1に示す組成のアルミニウム合金基材用の板材と高純度アルミニウム合金皮膜用の板材を準備した。そして、これらの板材を積み重ねて熱間圧延を行い、アルミニウム合金基材用の板材の両面に高純度アルミニウム皮膜用の板材を圧着させた。これにより、厚み3.2mmのクラッド材を得た。次いで、このクラッド材に冷間圧延を行って、全体厚みを2mmにした。次に、溶体化処理を行った後、時効熱処理を行って、最終的なアルミニウム合金導体(T6材)を得た。本例においては、表1に示すごとく、アルミニウム合金基材の組成、高純度アルミニウム皮膜の厚みを変えて12種類のアルミニウム合金導体(試料E1〜試料E6及び試料C1〜試料C6)を作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2)
本例においては、実施例1において作製した試料E1〜試料E6及び試料C1〜試料C6のアルミニウム合金導体の特性を評価する。
まず、図2に示すごとく、各試料のアルミニウム合金導体1における高純度アルミニウム皮膜3に、アルミニウム純度99.99%以上のアルミニウムワイヤー4を接合した。接合は超音波接合により行った。そして、接合部(ワイヤーボンディング部)45における接合強度を下記のようにして評価した。
【0027】
「初期接合強度」
図3(a)に示すごとく、重ね継ぎ手により接合されたアルミニウム合金導体1とアルミニウムワイヤー4とからなる試験片において、アルミニウムワイヤー4及びアルミニウム合金導体1をそれぞれ矢印A及びBの方向に破断するまで引張る(剪断引張試験)。図3(b)に示すごとく、破断後に、接合部45においてアルミニウムワイヤー4が残存する領域40の面積S1を求め、破断前の接合部45の面積をS0とし、アルミニウムワイヤー残存率S(S(%)=S1/S0×100)を算出した。そして、接合強度としては、アルミニウムワイヤー残存率が70%以上の場合を「○」として評価し、30%を超えかつ70%未満の場合を「△」として評価し、30%以下の場合を「×」として評価した。その結果を表2に示す。
【0028】
「熱履歴後の接合強度」
各試料を温度150℃で3時間加熱した後、室温まで冷却した。その後、ワイヤーボンディング部の接合強度を上述の「初期接合強度」と同様の方法により評価した。その結果を表2に示す。
【0029】
「冷熱サイクル後の接合強度」
各試料を温度150℃まで加熱した後、温度−40℃まで冷却するという冷熱サイクルを3000サイクル繰り返し行った。その後、ワイヤーボンディング部の接合強度を上述の「初期接合強度」と同様の方法により評価した。その結果を表2に示す。
【0030】
「冷熱サイクル後の腐食性」
各試料を温度150℃まで加熱した後、温度−40℃まで冷却するという冷熱サイクルを3000サイクル繰り返し行った。その後、ワイヤーボンディング部の断面を顕微鏡で観察し、腐食の有無を観察した。そして、腐食が認められない場合を「○」として評価し、腐食が観察された場合を「×」として評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2より知られるごとく、試料E1〜試料E6は、初期接合強度、熱履歴後の接合強度、冷熱サイクル後の接合強度、及び冷熱サイクル後の耐腐食性に優れていることがわかる。これに対し、試料C1〜試料C6は、いずれかの特性に不具合を生じていた。
【0033】
また、実施例1に示すごとく、高純度アルミニウム皮膜3は、めっき等を用いて形成する必要はなく、例えばクラッド圧延等によりアルミニウム合金基材2に一体化させて形成させることができる(図1参照)。そのため、本例のアルミニウム合金導体は、低コストで簡単に製造することができる。
【0034】
したがって、本例よれば、Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金基材の両面に、アルミニウム純度99.0%以上の高純度アルミニウム皮膜が片面当り0.05〜0.5mmの厚さで形成されたアルミニウム合金導体(試料E1〜試料E6)は、低コストで製造でき、接合強度及び耐腐食性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0035】
1 アルミニウム合金導体
2 アルミニウム合金基材
3 高純度アルミニウム皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを0.3〜0.7%(質量%、以下同じ)、Mgを0.35〜0.8%含有し、残部が不可避的不純物及びアルミニウムからなるアルミニウム合金基材の両面又は片面に、アルミニウム純度99.0%以上の高純度アルミニウム皮膜が片面当り0.05〜0.5mmの厚さで形成されていることを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項2】
請求項1において、上記アルミニウム合金基材は、厚さ1.5〜5mmの板材からなることを特徴とするアルミニウム合金導体。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記アルミニウム合金導体は、上記アルミニウム合金基材用の板材と、上記高純度アルミニウム皮膜用の板材とを重ね合わせて圧延により圧着させるクラッド圧延を行って得られることを特徴とするアルミニウム合金導体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−14257(P2011−14257A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154870(P2009−154870)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】