説明

アルミニウム合金接合部材

【課題】アルミニウム合金接合部材の陽極酸化処理による被膜において、反対面接合部相当部分とそれ以外の部分との間で発生する色調差を解消する。
【解決手段】摩擦撹拌接合により接合部を形成して接合してアルミニウム合金接合部材とするアルミニウム合金材を、Mg:0.3〜4.0%(質量%、以下同じ。)、Cu:0.2%以下、Si:0.1%以下、Fe:0.1%以下、残部Al及び不可避的不純物とし、該アルミニウム合金中に分散する第二相粒子の粒径を5μm以下とすることで、アルミニウム合金接合部材の接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較しても第二相粒子は均一に分散しているのでエッチングによるピット形成の変化は小さくなり、陽極酸化被膜における色調差を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、アルミニウム合金材の端部間を摩擦撹拌接合により一体に接合した後、陽極酸化処理による被膜を形成してなる車両用ホイールや筺体の製造に供されるアルミニウム合金接合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ホイールや筺体の製造では、その軽量性からアルミニウム合金接合部材が製造に供される。例えば車両ホイールの製造では、板状のアルミニウム合金材を円筒状とし、その端部を突き合わせた上で、該端部間を摩擦撹拌接合により一体に接合して円筒状とする。更に、両端をフレア加工によって製品として成形する。そして、接合部の反対の面を意匠面とし、該意匠面での耐食性や耐摩耗性を向上させるために陽極酸化処理による被膜を形成してなるものである。
また、筺体の場合は、アルミニウム合金材からなる側材と蓋材とを摩擦撹拌接合により一体に接合している。そして、一体に接合した側材と蓋材とは接合部も含めて接合部側の表面を平滑に面削した上で、耐食性や耐摩耗性を向上させるために陽極酸化処理による被膜を形成し意匠面とするものである。
ところが、上記意匠面において形成される被膜には、該接合部に対応する部分とその他の部分との間で結晶粒径の相違によって被膜に色調差が発生することがある。
そこで、アルミニウム合金接合部材の被膜において接合部に対応する部分とその他の部分との間で発生する結晶粒径の相違による色調差を解消すために、熱処理を施して結晶粒径の均一化を図ることが提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかしながら、上述のように熱処理によって結晶粒径の均一化を図っても、アルミニウム合金接合部材の被膜における接合部に対応する部分とその他の部分との間で発生する色調差が十分に改善されないことがある。
そこで、まずアルミニウム合金接合部材における摩擦撹拌接合による接合部とそれ以外の部分とにおける断面ミクロ組織を詳細に比較検討した。その結果、接合部では粗大なAl−Fe−Si系からなる第二相粒子は撹拌により微細に粉砕されるので2μm以上の第二相粒子は減少し、5μm以上の第二相粒子はほとんど見出すことができないものである。そして、被膜を形成する意匠面において接合部に相当する部分(以下、「接合部相当部分」という。)とそれ以外の部分とを比較検討すると、接合部相当部分では粗大な第二相粒子も含めた第二相粒子が偏って分散していることが見出された。即ち、このような接合部相当部分における偏って分散する第二相粒子では、エッチングによるピット形成の変化は大きくなるので、被膜における色調差として認識されるものとなる。
従って、前記アルミニウム合金接合部材の被膜における色調差を解消するためには、アルミニウム合金部材中の第二相粒子の均一な分散を適切に制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−225780号公報
【特許文献2】特開2003−230970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、アルミニウム合金接合部材の陽極酸化処理によって形成される被膜における接合部相当部分での第二相粒子の偏った分散に起因する色調差を解消することができない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の特徴として、本願発明のアルミニウム合金接合部材を、
Mg:0.3〜4.0%(質量%、以下同じ。)、Cu:0.2%以下、Si:0.1%以下、Fe:0.1%以下、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金材であって、
該アルミニウム合金材中に分散する第二相粒子の粒径が5μm以下とするものであって、
該アルミニウム合金材の端面同士を摩擦撹拌接合によって接合部を形成するように一体に接合し、
該接合部側の面あるいはその反対面において陽極酸化処理による被膜を形成するものである。
【0007】
そのため、上記アルミニウム合金材中では第二相粒子をなすSi及びFeの含有量及び第二相粒子の平均粒径自体を制御するので、該アルミニウム合金材を摩擦撹拌接合により接合しても、接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較しても第二相粒子の偏った分散は抑制される。その結果、該接合部相当部分とそれ以外の部分との間ではエッチングによるピット形成の変化は小さくなるので、アルミニウム合金接合部材の被膜における色調差を防止することができる。
【0008】
ここで、上記アルミニウム合金接合部材に含有されるMgは、車両用ホイールや筺体の強度を調整に寄与するものである。そのため、0.3%未満では強度が不足し、4.0%超では成形が困難となるので、本願発明では0.3〜4.0%とするが、強度の確保と成形の容易性との兼ね合いから好ましくは1.0〜4.0%、より好ましくは2.0〜4.0%とするものである。
さらに、Cuは、陽極酸化処理後の被膜全体の色調を均質にすることに寄与するものである。そのため、0.2%超では陽極酸化処理後の被膜がAl−Cu系の微細析出物の影響により混濁するので、本願発明では0.2%以下とするものである。
また、Si及びFeは、Al−Fe−Si系からなる第二相粒子を形成するものであって、該Si及びFeの含有量が0.1%超であると、粒径が5μmを超える粗大なAl−Fe−Si系の第二相粒子が形成され易くなる。そのため、摩擦撹拌接合時には接合部で粗大な第二相粒子は優先的に粉砕されるが、接合部相当部分では、摩擦撹拌接合の撹拌により粗大なものも含めた第二相粒子は偏って分散することとなる。その結果、接合部相当部分において偏って分散する第二相粒子ではそれ以外の部分のものと比較してもエッチングによるピット形成の変化は大きくなり、被膜における色調差の原因となるものである。そこで、本願発明ではSi及びFeの含有量は0.1%以下とするものである。より好ましいSi及びFeの含有量は0.07%以下である。
【0009】
第2の特徴として、第1の特徴を踏まえて、本願発明のアルミニウム合金接合部材を、
上記アルミニウム合金材中の第二相粒子が10000個/mm以下で分散するものである。
【0010】
そのため、アルミニウム合金材中に分散する第二相粒子を少なくすることで、摩擦撹拌接合時の撹拌により接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較しても第二相粒子の分散が最小限にすることができる。その結果、エッチングによるピット形成の変化は小さくなり、被膜における色調差をより確実に解消することができる。
【0011】
ここで、第二相粒子の偏った分散は、上述のようにアルミニウム合金接合部材に陽極酸化処理による被膜における色調差の原因となる。そのため、第二相粒子の分散密度が10000個/mm超であると、摩擦撹拌接合時に接合部相当部分における第二相粒子の分散はその他の部分と比較して多く偏ったものとなる。そのため、エッチングによるピット形成の変化は大きくなり被膜に色調差が発生するものとなる。そこで、本願発明では、接合部相当部分における偏った分散を防止すべく第二相粒子自体の存在を少なくするものであって、第二相粒子の分散密度を10000個/mm以下とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明のアルミニウム合金接合部材は、接合部側の面あるいはその反対の面に対して陽極酸化処理による被膜を形成しても、接合部相当部分とそれ以外の部分とにおける第二相粒子をなす金属の含有量、第二相粒子の粒径を制限することで、第二相粒子の偏った分散に起因する色調差を確実に解消して均一な被膜を形成するので、アルミニウム合金接合部材の製品の品質の向上を図ることができる優れた効果を有する。更に、第二相粒子の分散密度を制御することで、より好ましく色調差の解消が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
摩擦撹拌接合により接合したアルミニウム合金接合部材の被膜において接合部相当部分とそれ以外の部分との間で発生する色調差を解消するという目的を、第二相粒子をなすSi及びFeの含有量、第二相粒子の粒径を制限して実現した。更には分散密度まで制限してより好ましい形に実現した。
【実施例】
【0014】
そこで、本願発明の効果について以下のようにして確認した。
まず、アルミニウム合金材には、第二相粒子をなすSi及びFeのうち、SiあるいはFeの含有量が上限近傍の2種類の5000系アルミニウム合金を本発明材1あるいは本発明材2として使用した。SiあるいはFeの含有量が上限をわずかに外れる2種類の5052材を、5052材1あるいは5052材2として、本発明材1、2の比較例として使用した。
なお、該本発明材及び5052材の化学成分は表1に示す通りである。
【0015】
本発明材と比較例の5052材の供試材は、半連続鋳造により鋳塊を製造した後、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延で2.5mmの板厚にした後、最終焼鈍によりO材調質(軟化材)とすることで得た。それぞれ100mm幅×200長さの板を2枚製造し、長手方向を突合わせて、突合せ部を摩擦撹拌接合した。ツールの回転数は500rpm、接合速度は800mm/分、ツールの直径は7mm、ピンの直径は3mmとした。
【0016】
【表1】

【0017】
上記本願発明の実施例としての本発明材1、2と比較例としての5052材1、2のアルミニウム合金材の長手端面を突き合わせた上で摩擦撹拌接合により接合部を形成するよう一体に接合し、接合後は接合部も含めた接合面をフライス盤による面削によって表層を0.5mm削除した後にショットブラストにより粗面化仕上げを行い、硫酸による陽極酸化処理により10μm厚さの陽極酸化被膜を形成した。
【0018】
その結果、本願発明の実施例である本発明材1、2によるアルミニウム合金接合部材に形成された被膜では、接合部相当部分とそれ以外の部分との間で色調差は認められず、本願発明の効果が確認された。一方、比較例である5052材1、2によるアルミニウム合金接合部材に形成された被膜では、接合部相当部分とそれ以外の部分との間で色調差が認められた。
【0019】
さらに、上記本願発明の実施例である本発明材1、2によるアルミニウム合金接合部材及び比較例である5052材1、2によるアルミニウム合金接合部材において、接合部相当部分とそれ以外の部分とにおける0.5mm面削後の表面ミクロ組織を観察した。ミクロ組織はバフ研磨の後、5%フッ酸でエッチングした後、光学顕微鏡で400倍に拡大し、画像解析により、1μmピッチで各粒径での1mm当りの分布数を測定することで得た。
【0020】
その結果、本願発明の実施例である本発明材によるアルミニウム合金接合部材では、反対面接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較しても第二相粒子は偏ることなく均一に分散しており、本発明材1の場合は最大粒径が4μmであり、4μm以下の第二相粒子の分散密度は2310個/mm、本発明材2の場合は最大粒径が5μmであり、5μm以下の第二相粒子の分散密度は4150個/mmであったのに対して、比較例である5052材によるアルミニウム合金接合部材では、接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較して第二相粒子は偏って分散しており、5052材1の場合は最大粒径が6μmであり、6μm以下の第二相粒子の分散密度は6170個/mmであり、5052材2の場合は最大粒径が7μmであり、7μm以下の第二相粒子の分散密度は8620個/mm材であることが確認された。
【0021】
また、第2の特徴である分散密度について、その効果を確認した。
本発明材としては、前記の本発明材2を用い、5052材としてはFe量を多く含有した5052材3を用いた。化学成分は表2に示す。供試材の製造方法、評価方法は前記と同じとした。
その結果、本発明材3は、陽極酸化処理後に接合部相当部分の色調差はなく筋模様は認められず、最大粒径が4μmであり、4μm以下の第二相粒子の分散密度は2390個/mmであるのに対して、5052材3は、陽極酸化処理後に接合部相当部分に色調差が認められ、接合部相当部分ではそれ以外の部分と比較して第二相粒子は偏って分散しており、最大粒径が8μmであり、8μm以下の第二相粒子の分散密度は11670個/mmであった。
【0022】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:0.3〜4.0%(質量%、以下同じ。)、Cu:0.2%以下、Si:0.1%以下、Fe:0.1%以下、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金材であって、
該アルミニウム合金材中に分散する第二相粒子の粒径が5μm以下とするものであって、
該アルミニウム合金材の端面同士を摩擦撹拌接合によって接合部を形成するように一体に接合し、
該接合部側の面あるいはその反対面において陽極酸化処理による被膜を形成する
ことを特徴とするアルミニウム合金接合部材。
【請求項2】
上記アルミニウム合金在中の第二相粒子が10000個/mm以下で分散する
ことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金接合部材。

【公開番号】特開2011−26657(P2011−26657A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172829(P2009−172829)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】