説明

アルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤及びそれを用いたマグネシウム濃度調整方法

【課題】アルミニウム合金溶湯中に含まれるMgの除去効果の高い、経済的なマグネシウム濃度調整剤と、それを用いることによりアルミニウムを効率的にリサイクルする方法を提供する。
【解決手段】使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓100質量部に対して塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末とを含む混合塩粉末を1〜30質量部添加した粉末からなるアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して0.5〜20質量部添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムのスクラップを溶解した溶湯中のMgを低減して高純度化するためのマグネシウム濃度調整剤及びそれを用いたアルミニウム合金溶湯のマグネシウム濃度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウムはそのスクラップを再溶解して再生地金にリサイクルされている。しかし、スクラップを再溶解したアルミニウム溶湯中には、多くの非金属介在物や合金元素が不純物として混入していることから、通常、新地金に比べて品質が著しく劣っている。
そこで、アルミニウムをリサイクルする際に、アルミニウム又はアルミニウム合金スクラップ溶湯から合金元素又は不純物を除去する高純度化処理も行われているが、高純度化処理には、有害な塩素ガスの使用や高価なフラックスの使用又は複雑な装置及び工程を必要とするなど、環境面、コスト面の問題があり、実用化の障害となっている。
【0003】
ところで、アルミニウムのリサイクルは、回収したアルミニウムスクラップを溶解、希釈によりある合金成分濃度域まで調節したグレードの低い合金(ベースメタル)を、主に自動車部品(ホイール)等の製造に用いられるダイカスト用合金ADC12の原料として使用される場合が多い。二次合金の代表格であるダイカスト用JISADC12合金は、その組成規格においてマグネシウム濃度が0.3%以下に限定されている。このため、マグネシウム濃度が比較的高いアルミニウム缶由来のスクラップは再利用し難くなっている。
【0004】
アルミニウム溶湯中のマグネシウム濃度の微調整には、通称「脱Mg剤」が用いられているが、市販の脱Mg剤は高価であるために、容易に使用できないのが現状である。
そこで、アルミニウム溶湯中のマグネシウム濃度を低減するための手法が各種提案されている。
例えば特許文献1には、アルミニウム又はアルミニウム合金スクラップを溶融し、当該溶湯に使用済みの乾電池を焙焼及び粉砕して得られた粉末状のアルミニウム回収用材料を添加し、アルミニウム回収用材料に合金元素又は不純物を反応又は吸着させ、これらを分離してアルミニウムに含まれる合金元素又は不純物を除去し、純度を高めてアルミニウムを回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−50637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法によると、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓に、電解液由来のKCl等の塩化物が適度(Cl濃度に換算して1〜10wt%)に含まれる場合には、適量の電池滓をアルミニウム合金溶湯に添加することにより、Mg等の合金元素又は不純物を吸着・除去する効果が著しく高まるとされている。
【0007】
一方、近年マンガン電池の使用割合が低下しアルカリ電池の使用割合が増加しているため、電池滓に含まれる塩化物含有量は低下する傾向にあり、現状はCl換算で約1wt%に過ぎないことが明らかとなっている。このため、電池滓をそのままアルミニウム合金溶湯中に添加するにしても、多量に添加しないことには十分なMg除去効果を得ることが難しい状況にある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓に対して、さらに数種類の混合塩粉末を適量添加することにより、経済的で且つアルミニウム合金溶湯中に含まれるMgの除去効果の高い、経済的なマグネシウム濃度調整剤を見出し、それを用いることによりアルミニウムを効率的にリサイクルする方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤は、その目的を達成するため、アルミニウム合金溶湯中に含有されるマグネシウムを除去してアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度を調整する粉末であって、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓100質量部に対して、少なくとも塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末とを含む混合塩粉末を1〜30質量部添加した粉末であることを特徴とする。
【0010】
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20〜70質量%であることが好ましい。
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が30〜80質量%であることが好ましい。
そして、前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末20〜70質量%、塩化カリウム粉末30〜80質量%を含み、残部が不可避的不純物からなる粉末であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度調整方法は、上記アルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して0.5〜20質量部添加することを特徴とする。
このマグネシウム濃度調整剤の添加により、アルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度を低減させることができる。
前記マグネシウム濃度調整剤の添加は、投げ込み法、押し込み法及びインジェクションフラックス法いずれの方法であってもよいが、インジェクションフラックス法によって行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によれば、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓に対して、さらに数種類の混合塩粉末を適量添加するのみで、アルミニウム合金溶湯中に含まれるMgを効率よく低減することができるアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤が経済的に調製できる。
そして、本発明のマグネシウム濃度調整剤を用いることにより、アルミニウムスクラップリサイクル材の品質を大幅に向上できることが可能となり、アルミニウム材料のリサイクル化を大きく進展させることができる。また、今まで十分なリサイクルが行なわれていなかった使用済みの乾電池の有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電池滓に加える塩化物量の適正量を説明する図
【図2】電池滓に加える塩化物中の塩化ナトリウム及び塩化カリウムの適正割合を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者等は、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓をアルミニウム合金溶湯に添加することによりアルミニウム合金溶湯中に含まれるMgをより効率的に低減する技術について、鋭意検討を重ねてきた。
その過程で、電池滓中のCl濃度を高くすることが有効であることがわかった。そしてそのCl分を、塩化ナトリウムの粉末及び塩化カリウムの粉末を適正比率で混合した混合塩粉末の添加により増量することが有効であることがわかり、本発明に到達した。
以下に、その詳細を説明する。
【0015】
電池滓は、マンガン電池、アルカリ電池などの使用済み乾電池を焙焼炉(ロータリーキルン)により大気中800℃で焙焼し、粉砕後に電池表皮に用いられる鉄などの有価金属、または古い電池や輸入した電池に含まれる有害金属を除去した後の粉末である。
電池滓は、黒色の粉末であり、電子顕微鏡による観察の結果、通常は5μm程度の微粉末であることが確認されている。電池滓の組成例を表1に示す。なお、分析は蛍光X線分析法及びX線回折法を併用し、これら分析法から得られる各元素の蛍光X線強度データ、X線回折強度プロファイルを基に専用ソフトを用いて電池滓の組成を計算した。これにより電池滓は亜鉛酸化物(ZnO)とマンガン酸化物(MnO)を主成分とする数種類の酸化物から構成されていることがわかる。
【0016】

【0017】
乾電池の成分は、本願発明のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤の主成分となるものであるが、亜鉛酸化物(ZnO)とマンガン酸化物(MnO)以外にマンガン電池には電解液としてNHCl、アルカリ電池には電解液としてKOH、C、Fe、SiO等を含有する。マンガン電池に含まれるNHCl及びアルカリ電池に含まれるKOHは、焙焼により多くはKClを形成し電池滓に残存することになる。
電解液由来のKCl等の塩化物が適度(Cl濃度に換算して1〜10wt%)に含まれる場合には、適量の電池滓をアルミニウム合金溶湯に添加することにより、電池滓に残存するKClが電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善するとともに、KClと溶湯中のMgが発熱反応してMgClを生成するため、溶湯中のマグネシウム濃度を低減させることができるのである。
【0018】
しかしながら、近年マンガン電池の使用割合が低下しアルカリ電池の使用割合が増加しているため、電池滓に含まれる塩化物含有量は低下する傾向にあり、現状はCl換算で約1wt%に過ぎないことが明らかとなっている。このため、電池滓をそのままアルミニウム合金溶湯中に添加するにしても、多量に添加しないことには十分なMg除去効果を得ることが難しい状況にある。
そこで、電池滓に対して、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末とを含む混合塩粉末を加えて、塩化物量を増量したものである。
【0019】
〔電池滓100質量部に対して、少なくとも塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末とを含む混合塩粉末を1〜30質量部添加〕
塩化ナトリウム(NaCl)粉末も塩化カリウム(KCl)粉末も、アルミニウム合金溶湯の脱滓処理用のフラックスとして、広く用いられている。電池滓に新たに混合されたこれら塩化物は、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善するため、電池滓由来の塩化物よるマグネシウム濃度低減効果をさらに高めることができる。特に塩化ナトリウムと塩化カリウムとの混合フラックスにすると、共晶融解するために溶融温度が低くなり、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果が高くなる。
【0020】
この効果は塩化ナトリウムと塩化カリウムとの質量比が4:6の場合に最も高くなる。
電池滓に新たに加えられた混合塩粉末中の塩化物自身がアルミニウム合金溶湯中に含まれるマグネシウムと反応してMgClを生成するため、マグネシウム濃度調整剤のマグネシウム濃度低減効果をより一層高めることができる。
【0021】
電池滓100質量部に対して前記混合塩粉末を1〜30質量部の範囲で添加することが好ましい。前記混合塩粉末の添加割合が1質量部未満であると、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果、マグネシウム濃度低減効果を改善する効果を発揮することができない。前記混合塩粉末の添加割合が30質量部を超えると、マグネシウム濃度調整剤の原料コストが増加し、電池滓を再利用するという目的を達成することが困難となる。
より好ましい前記混合塩粉末の添加割合は、電池滓100質量部に対して3〜20質量部の範囲である。さらに好ましい前記混合塩粉末の添加割合は、電池滓100質量部に対して5〜15質量部の範囲である。
【0022】
〔塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20〜70質量%〕
さらに、本願発明において、前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20〜70質量%の範囲であることが好ましい。
塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20質量%未満であると、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果、マグネシウム濃度低減効果を改善する効果が十分ではない。塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が70質量%を超えると、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果、マグネシウム濃度低減効果を改善する効果が十分ではない。
より好ましい塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率は30〜60質量%の範囲である。さらに好ましい塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率は30〜50質量%の範囲である。
【0023】
〔塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が30〜80質量%〕
さらに、本願発明において、前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が30〜80質量%の範囲であることが好ましい。
塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が30質量%未満であると、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果、マグネシウム濃度低減効果を改善する効果が十分ではない。塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が80質量%を超えると、電池滓とアルミニウム溶湯との濡れ性を改善する効果、マグネシウム濃度低減効果を改善する効果が十分ではない。
【0024】
より好ましい塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率は40〜70質量%の範囲である。さらに好ましい塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率は50〜70質量%の範囲である。
前記混合塩粉末には、塩化ナトリウム粉末20〜70質量%、塩化カリウム粉末30〜80質量%の他に、不可避的な不純物を含んでいてもよい。
この不可避的不純物とは、塩化ナトリウム粉末及び塩化カリウム粉末を製造、精製する際に不可避的に混入する水分、酸化物、硫酸塩などである。
【0025】
なお、混合塩粉末には、NaCl、KClの粉末以外に、アルミニウム合金溶湯とマグネシウム濃度調整剤との反応性を高めるKAlF、AlF、KSO、NaSO、NaCO等の粉末を積極的に含ませていてもよい。特にインジェクションフラックス法により、Ar、Nなどの不活性ガスとともにマグネシウム濃度調整剤をアルミニウム合金溶湯中に混入・分散させてもよい。
前記混合塩粉末中におけるKAlF、AlF、KSO、NaSO、NaCO等の粉末の混合比率は20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下である。さらに好ましくは5質量%以下である。
【0026】
次に、マグネシウム濃度調整剤を用いてアルミニウム合金溶湯のマグネシウム濃度を低減させる方法について説明する。
上記のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して、0.5〜20質量部添加し、何らの手段で当該マグネシウム濃度調整剤を溶湯中に分散させることにより、マグネシウム濃度調整剤中の塩化物等の成分とアルミニウム合金溶湯中のMgとが反応して、MgClなる反応生成物を形成してアルミニウム合金から分離される。
【0027】
アルミニウム溶湯の対する上記マグネシウム濃度調整剤の適切な添加量は次の通りである。
〔アルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して、0.5〜20質量部添加〕
アルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲で添加することが好ましい。アルミニウム合金溶湯へのマグネシウム濃度調整剤の添加量が0.5質量部未満であると、マグネシウム濃度低減効果が発揮されない。アルミニウム合金溶湯へのマグネシウム濃度調整剤の添加量が20質量部を超えると、添加方法にもよるが、アルミニウム合金溶湯中への電池滓中のいわゆる骨材(亜鉛酸化物(ZnO)とマンガン酸化物(MnO)を主成分とする数種類の酸化物)の混入量が多くなって、インゴット、鋳物製品等の品質劣化を招くおそれがある。
より好ましいアルミニウム合金溶湯へのマグネシウム濃度調整剤の添加量は1〜15質量部の範囲である。さらに好ましいアルミニウム合金溶湯へのマグネシウム濃度調整剤の添加量は2〜10質量部の範囲である。
【0028】
続いて、適切な添加方法について説明する。
〔インジェクションフラックス法によって添加〕
アルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤は、アルミニウム合金溶湯の湯面から上方添加してもよいし、適量をアルミニウム箔に包んでフォスフォライザーを使用して押し込み添加してもよい。しかしながら、マグネシウム濃度調整剤を溶湯中に迅速に分散させるためには、インジェクションフラックス法として、ランスを使用し、Ar、Nなどの不活性ガスとともに溶湯中に吹き込むことが好ましい。回転脱ガス装置を使用し、マグネシウム濃度調整剤を溶湯中に吹き込み分散させてもよい。
【0029】
マグネシウム濃度調整剤を添加する際のアルミニウム合金溶湯の保持温度は、720〜860℃の範囲が好ましい。溶湯温度720℃未満であると、マグネシウム濃度調整剤中の塩化物等の成分とアルミニウム溶湯中のMgとの反応が進まず、マグネシウム濃度低減効果が低下する。溶湯温度860℃を超えると、マグネシウム濃度調整剤中の塩化物等の成分が坩堝や溶解・保持炉の内壁ブロックの劣化を促進する。より好ましい溶湯保持温度は、740〜840℃の範囲内である。さらに好ましくは、760〜820℃の範囲内である。
【実施例】
【0030】
電池滓として、マンガン電池、アルカリ電池などの使用済み乾電池を焙焼炉(ロータリーキルン)により大気中800℃で焙焼し、粉砕後に電池表皮に用いられる鉄などの有価金属、または古い電池や輸入した電池に含まれる有害金属を除去した後の粉末を用いた。
用いた電池滓は、黒色の粉末であり、電子顕微鏡による観察の結果、通常は5μm程度の微粉末であり、その成分組成を表2に示す。なお、分析は蛍光X線分析法で行った。電池滓には、分析値を超えるC(炭素)及びO(酸素)が含まれていると考えられるが、蛍光X線分析法では、いわゆる軽元素を正確に半定量分析することができない。
この電池滓に、KClとNaClを種々の比率で混合した混合塩を加えてマグネシウム濃度調整剤とした。なお、用いた塩化ナトリウムの平均粒径(D50)は、200μm程度であった。塩化カリウム粉末の平均粒径(D50)は、200μm程度であった。
【0031】

【0032】
実施例1:(予備試験、最適な塩化物割合の検討)
電池滓100質量部に対し、KCl:NaClを1:1としたKCl−NaCl混合塩を0質量部(添加なし)、5質量部、10質量部、15質量部添加した、4種類のマグネシウム濃度調整剤を各500g調製した。
次に、離型剤を塗布した黒鉛坩堝(4個)にそれぞれ表3に示す成分組成を有するJISADC12アルミニウム合金地金を10kgずつ装入配置し、黒鉛坩堝を電気炉内に挿入して780℃で溶解・保持し、さらにMgインゴットをフォスフォライザーにて各坩堝のJISADC12アルミニウム合金溶湯にそれぞれ35gずつ添加した。
なお、表3に示すJISADC12アルミニウム合金の成分組成は、地金出荷時の分析値である。したがって、Mgインゴット添加後のJISADC12アルミニウム合金溶湯中のMg濃度は0.64質量%となっている。
【0033】

【0034】
このMg添加JISADC12アルミニウム合金溶湯(4ロット)に対して、上記4種類のマグネシウム濃度調整剤をそれぞれ500gずつフォスフォライザーにて押し込み添加した。
マグネシウム濃度調整剤の添加直後に1分間の攪拌を行い、780℃で30分間溶湯を保持した。湯面の除滓を行った後、スプーンにて各溶湯を採取し、ディスクサンプルを分析用試料採取鋳型に鋳造した。鋳型から取り出したディスクサンプルは空冷後、旋盤を用いて表面を約2mm切削し、蛍光X線分析装置を用いてマグネシウム濃度を測定した。
【0035】
結果を図1に示す。
電池滓100質量部に上記混合塩5質量部を添加した場合、十分なMg低減効果を示さなかったが、電池滓100質量部に上記混合塩10質量部を添加した場合、高いMg低減効果を示した。しかし、電池滓100質量部に上記混合塩15質量部を添加した場合、Mg低減効果は電池滓100質量部に上記混合塩10質量部を添加した場合に比べて、ほとんど変わらない。したがって、マグネシウム濃度調整剤としては、電池滓100質量部に対する上記混合塩添加量が10質量部であるものが最適であると判断した。
【0036】
実施例2:
次に、電池滓に新たに加える塩化物の添加量を、電池滓100質量部に対して10質量部に固定し、塩化ナトリウム粉末、塩化カリウム粉末の混合塩粉末の混合比率を変化させて電池滓に混合し、これらの塩化物混合電池滓からなるマグネシウム濃度調整剤をJISAC7A合金溶湯100質量部に対して5質量部添加して、マグネシウム濃度の低減効果に及ぼす塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との混合比率の影響について調査した。
なお、試験に使用したJISAC7A合金の成分組成を表4に示す。
【0037】

【0038】
上記電池滓5.0g(6ロット分)に対して、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末を塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が0,20,40,60,80,100質量%になるように混合した塩化物粉末0.5gを添加した塩化物混合電池滓からなる6種類のマグネシウム濃度調整剤を調製した。
次に、100g(6ロット分)のJISAC7A合金地金を切り出し、離型剤を塗布した黒鉛坩堝内に挿入・配置して、黒鉛坩堝を電気炉内に挿入し、JISAC7A合金地金を大気中780℃で溶解した。次にそれぞれのJISAC7A合金溶湯(6ロット分)に対して、上記6種類の塩化物添加電池滓からなるマグネシウム濃度調整剤を5.0gずつ湯面上方から添加した。
電池滓の添加直後に1分間の攪拌を行い、780℃で30分間溶湯を保持した。湯面の除滓を行った後、スプーンにて各溶湯を採取し、ディスクサンプルを分析用試料採取鋳型に鋳造した。鋳型から取り出したディスクサンプルは空冷後、旋盤を用いて表面を約2mm切削し、蛍光X線分析装置を用いてマグネシウム濃度を測定した。
【0039】
電池滓に添加した塩化物中の塩化ナトリウム比率(塩化カリウム比率)に従って、ディスクサンプルのマグネシウム濃度をプロットしたものが図2である。
塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20〜70質量%の範囲で、塩化カリウム粉末の比率では80〜30質量%の範囲で、確実にマグネシウム濃度が低減できていることがわかる。好ましくは、塩化ナトリウム粉末の比率が30〜60質量%の範囲、塩化カリウム粉末の比率では70〜40質量%の範囲であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金溶湯中に含有されるマグネシウムを除去してアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度を調整する粉末であって、使用済みの乾電池を焙焼した後これを粉砕して得られた粉末である電池滓100質量部に対して、少なくとも塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末とを含む混合塩粉末を1〜30質量部添加した粉末であることを特徴とするアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤。
【請求項2】
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化ナトリウム粉末の比率が20〜70質量%である請求項1に記載のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤。
【請求項3】
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末と塩化カリウム粉末との合計質量に対する塩化カリウム粉末の比率が30〜80質量%である請求項1に記載のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤。
【請求項4】
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末20〜70質量%、塩化カリウム粉末30〜80質量%を含み、残部が不可避的不純物からなる粉末である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤。
【請求項5】
前記混合塩粉末は、塩化ナトリウム粉末16〜56質量%、塩化カリウム粉末24〜64質量%を含み、さらにフッ化アルミニウムカリウム粉末、フッ化アルミニウム粉末、硫酸カリウム粉末、硫酸ナトリウム粉末、炭酸ナトリウム粉末のうち一種または二種以上を20質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金溶湯用マグネシウム濃度調整剤を、アルミニウム合金溶湯100質量部に対して0.5〜20質量部添加することによりアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度を低減させることを特徴とするアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度調整方法。
【請求項7】
前記マグネシウム濃度調整剤の添加をインジェクションフラックス法によって行う請求項6に記載のアルミニウム合金溶湯中のマグネシウム濃度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168830(P2011−168830A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33203(P2010−33203)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
【Fターム(参考)】