説明

アルミニウム合金製導電体及びその製造方法

【課題】従来よりも低コストで、かつ従来と同等の耐食性及び接続部での低接触抵抗を有するアルミニウム合金製導電体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Si0.3〜0.8mass%、Mg0.35〜1.00mass%、Fe0.1〜0.6mass%、Cu0.12〜0.50mass%を含有し、さらにMn0.1〜0.3mass%、Zr0.1〜0.3mass%の1種又は2種を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金材2と、当該アルミニウム合金材2の表面に形成され、厚さ0.1〜1.5μmで皮膜中のAl以外の金属元素の合計が平均1.0mass%以下であるベーマイト皮膜3とを含むことを特徴とするアルミニウム合金製導電体1、ならびに、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器のブレーカーの接続等、電流を通電するために用いられるアルミニウム合金製導電体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器のブレーカーの接続等、電流を通電するために用いられる導電体としては、純銅製にかわり、軽量なアルミニウム合金製のものが使用されている。アルミニウム合金製の導電体は、アルミニウム合金材の表面にNiとSnめっき皮膜を設けたもの(特許文献1)がある。めっき皮膜は、アルミニウム製導電体の耐食性を高める目的と、接続部の低接触抵抗を確保する目的がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3557116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、変圧器の製造メーカからは、導電体の低コスト化の要求がある。一方、Niなどの希少金属は高価であり、Niめっきを設けた従来のアルミニウム合金製導電体は低コスト化の要求に反する。さらに、希少金属は資源の枯渇が懸念されている。そのため、従来のめっき皮膜を廃止し、低コストの導電体を提供する必要がある。そこで本発明は、めっき皮膜を設けることなく、従来よりも低コストで、かつ従来と同等の耐食性及び接続部での低接触抵抗を有するアルミニウム合金製導電体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者ら鋭意検討の結果、従来よりも低コストで、かつ従来と同等の耐食性及び接続部での低接触抵抗を有するアルミニウム合金製導電体及びその製造方法を見出した。
【0006】
すなわち、本発明は請求項1において、Si0.3〜0.8mass%、Mg0.35〜1.00mass%、Fe0.1〜0.6mass%、Cu0.12〜0.50mass%を含有し、さらにMn0.1〜0.3mass%、Zr0.1〜0.3mass%の1種又は2種を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金材と、当該アルミニウム合金材の表面に形成され、厚さ0.1〜1.5μmで皮膜中のAl以外の金属元素の合計が平均1.0mass%以下であるベーマイト皮膜とを含むことを特徴とするアルミニウム合金製導電体とした。
【0007】
また、本発明は請求項2において、請求項1に記載のアルミニウム合金製導電体の製造方法において、アルミニウム合金材の表面を脱脂処理した後に、当該アルミニウム合金材の表面に、導電率10μS/cm以下で温度80〜100℃の水を平均圧力0.01kgf/cm以上で3〜120分間の累積時間で接触させることを特徴とするアルミニウム合金製導電体の製造方法とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のアルミニウム合金材を適用することで導電体としての性能を確保する一方、従来のめっき皮膜を廃止しベーマイト皮膜を設けることで、導電体として低コスト化が可能となる。ベーマイト皮膜は、厚さ0.1〜1.5μmで、皮膜中に含有するAl以外の金属元素の合計を平均1.0mass%以下とすることで、従来のめっき皮膜と同等以上の耐食性と接続部での低接触抵抗を備える。このベーマイト皮膜は、アルミニウム合金材を脱脂処理を施した後に、導電率10μS/cm以下で温度80〜100℃の水を0.01kgf/cm以上で3〜120分間の累積時間でアルミニウム合金材表面に接触させることで得られる。以上により、従来よりも低コストで、かつ従来と同等の耐食性及び接続部での低接触抵抗を有するアルミニウム合金製導電体とその製造方法を提供することができる。本発明に係るアルミニウム合金製導電体は、特に変圧器のブレーカーの接続用途として優れた性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金製導電体の模式図である。
【図2】本発明に用いるアルミニウム合金材の模式図である。
【図3】本発明に係るアルミニウム合金製導電体の模式図である。
【図4】本発明に係るアルミニウム合金製導電体の製造方法の一例を示す模式図である。
【図5】本発明に係るアルミニウム合金製導電体と純銅製板材との接続方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
A.アルミニウム合金材
一般的に使用されている導電体用のアルミニウム合金としては、材料強度が高く、導電率の高いJIS 6101合金が知られている。さらに、ボルト締め付け部の変形が小さい(耐クリープ性が良好な)合金が、本発明には好適に適用できる。
【0011】
材料強度や成形性に関する機械的性質は、JIS 6101合金の規格を基準とし、基準以上であることが好ましい。例えば板厚tが5mmの板材の場合、引張試験において、引張強度は195N/mm以上、耐力は165N/mm以上、伸びは10%以上、曲げ試験において、内側半径10mm(2t)を満足することが好ましい。導電率は、JIS 6101合金の規格以上が好ましく、具体的には55%IACS以上である。なお、導電率は高ければ高いほど、導電体の断面積を小さくでき、軽量化できるのでよいが、導電率が30%IACSを超える程度の値であれば、銅製の導電率に対して軽量化が可能となる。
【0012】
次に、合金組成について説明する。合金組成はSi0.3〜0.8mass%、Mg0.35〜1.00mass%、Fe0.1〜0.6mass%、Cu0.12〜0.50mass%を含有し、さらにMn0.1〜0.3mass%、Zr0.1〜0.3mass%の1種又は2種を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなる。
【0013】
SiとMgは材料強度を高めるために添加される。Siが0.3mass%未満又はMgが0.35mass%未満では、材料強度が低下し導電体として不適切となる。Siが0.8mass%を超えるか又はMgが1.00mass%を超えると、導電率が低下し、また成形性が低下するので不適切である。
【0014】
FeとCuは耐クリープ性を高めるために添加される。Feが0.1mass%未満又はCuが0.12mass%未満では、耐クリープ性が低下するため不適切である。Feが0.6mass%を超えるか又はCuが0.50mass%を超えると、成形性が低下するので不適切である。
【0015】
MnとZrは耐クリープ性をさらに高めるために添加される。MnとZrの1種又は2種が0.1mass%未満では、耐クリープ性が不足するため不適切である。MnとZrの1種又は2種が0.3mass%を超えると、成形性が低下するので不適切である。
【0016】
アルミニウム合金材の形態は、圧延材または押出材のいずれも好適に用いられる。熱処理は、T5、T6、T8のいずれも好適に用いられる。
【0017】
次に製造方法について説明する。圧延材の場合には、アルミニウム合金のスラブを鋳造し、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理を行い、その後時効硬化処理(T6)又は冷間圧延と時効硬化処理(T8)を行う。
鋳造は、半連続鋳造法(DC鋳造法)、電磁場鋳造法、水平連続鋳造法等が好適に適用できる。均質化処理は、鋳造時に生成したミクロ偏析を解消する等の目的で行う。500〜550℃で1〜24時間程度保持するのが好ましい。500℃未満ではミクロ偏析の解消が不十分となる場合があり、550℃を超えるとアルミニウム合金が熔融する危険がある。熱間圧延と冷間圧延により、所望の厚さの板材にする。なお、冷間圧延前又は冷間圧延中に、圧延により加工硬化したアルミニウム合金を軟化させる等の目的で、中間焼鈍を行ってもよい。300〜550℃で1秒〜3時間程度保持する。300℃未満ではアルミニウム合金の軟化が不十分となる場合があり、550℃を超えるとアルミニウム合金が熔融する危険がある。
【0018】
溶体化処理は、アルミニウム合金中に析出したMgSi等の化合物を固溶させる等の目的で行う。500〜550℃で1秒〜1時間程度保持し、その後200℃まで1℃/秒以上の速度で冷却する。500℃未満では固溶が不十分となる場合があり、550℃を超えるとアルミニウム合金が熔融する危険がある。冷却速度が1℃/秒未満ではMgSi等の化合物が析出し固溶が不十分となる場合がある。時効硬化処理は、MgSi等の化合物を析出させアルミニウム合金の強度を高める等の目的で行う。150〜250℃で10分〜24時間程度保持する。150℃未満では析出が不十分となる場合があり、250℃を超えると析出する化合物が粗大となり強度が低下する場合がある。
【0019】
押出材の場合には、アルミニウム合金のビレットを鋳造し、均質化処理、熱間押出、溶体化処理、時効硬化処理(T6)を行う。或いは、鋳造、均質化処理、熱間押出、溶体化処理、冷間引抜、時効硬化処理(T8)を行う。これらに代えて、鋳造後、均質化処理、熱間押出、冷却、時効硬化処理(T5)を行う。
【0020】
T6材とT8材の場合には、鋳造、均質化処理、溶体化処理、時効硬化処理は圧延材と同様に行う。T5材の場合には、鋳造、均質化処理、時効硬化処理は圧延材と同様に行うが、溶体化処理は省略する。熱間押出時の発熱によりアルミニウム合金中の化合物を固溶させることができるためである。熱間押出時の温度は500〜550℃が好ましい。熱間押出後は200℃まで1℃/秒以上の速度で冷却する。理由は前記溶体化処理と同様である。
【0021】
B.ベーマイト皮膜
ベーマイト皮膜は、主にAlOOHとAl以外の金属元素から構成される。アルミニウム合金材2の表面にベーマイト皮膜3を形成したアルミニウム合金製導電体1を、図1(a)及び(b)に示す。ベーマイト皮膜3は、基層31と呼ばれる緻密な層と、上層32と呼ばれる針状の層とからなる。この基層31と上層32を合計した厚さを、ベーマイト皮膜3の皮膜厚とする。また、ベーマイト皮膜3中のAl以外の金属元素4は、アルミニウム合金材2中に添加されている金属元素、ならびに、外部からベーマイト皮膜3に侵入する金属元素に由来する。ベーマイト皮膜3は、耐食性向上の目的からアルミニウム合金材2の両面に形成される。図1、ならびに、後述する図3においては、簡略化のためアルミニウム合金材2と一方の表面に形成したベーマイト皮膜3のみを示す。
【0022】
本発明に用いるベーマイト皮膜は、0.1〜1.5μmの皮膜厚を有し、皮膜中のAl以外の金属元素の合計を平均1.0mass%以下とする。皮膜厚を0.1〜1.5μmとする理由は、接続部で皮膜が割れることがなく耐食性が良好であり、かつ、接続部での電気的接触抵抗が小さく導電体として使用できるからである。皮膜厚が0.1μm未満では、接続部で皮膜が割れて耐食性が劣る。1.5μmを超えて厚くなると接続部での電気的接触抵抗が大きくなり、導電体として使用できない。
【0023】
次に、皮膜中のAl以外の金属元素の合計を平均1.0mass%以下とする理由は次の通りである。ベーマイト皮膜3中、特に基層31にAl以外の金属元素4が混入するとこの混入金属元素に起因する局所的な欠陥5が生じ、これを起点として割れ6(図1(b))が進行し易くなる。割れ6がベーマイト皮膜3中に進行すると電気抵抗が大きくなり、ベーマイト皮膜3中を割れ6が貫通して皮膜表面及びアルミニウム合金材2に達すると耐食性が劣り導電体としての性能も満足できない。ベーマイト皮膜3中のAl以外の金属元素4の合計を平均1.0mass%以下とすることで、皮膜中の局所的な欠陥5が減少し皮膜割れ6を抑制できる。その結果、耐食性が良好で、かつ接続部での電気的接触抵抗が小さくなる。なお、耐食性及び電気的接触抵抗を悪化させる金属元素としては、Fe、Si、Cu等が挙げられる。
【0024】
C.ベーマイト皮膜の生成方法
C−1.脱脂処理
アルミニウム合金材に、まず前処理として脱脂処理を施す。前処理方法は特に限定されるものではないが、市販のアルカリ系脱脂剤や水酸化ナトリウム水溶液などが好適に用いられる。また、脱脂処理後に市販の酸系処理剤や硝酸水溶液などを用いて酸洗浄を施してもよい。脱脂処理後や酸洗浄後には、水洗浄を行うのが好ましい。
【0025】
C−2.アルミニウム合金材表面への水の接触
前処理を施したアルミニウム合金材表面に、導電率10μS/cm以下で温度80〜100℃の水を平均圧力0.01kgf/cm以上で3〜120分間の累積時間で接触させることによって、ベーマイト皮膜を生成する。接触させる水の導電率を10μS/cm未満とする理由は、ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素を平均1.0mass%以下に抑制するためである。接触させる水の導電率が10μS/cmを超えると、すなわち接触させる水中に含有する金属元素が増加すると、ベーマイト皮膜中に取り込まれる金属元素も増加し、ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素を平均1.0mass%以下に抑制することができない。
【0026】
接触させる水の温度を80〜100℃とする理由は、耐食性が良好で、かつ電気的接触抵抗が小さいベーマイト皮膜を形成するためである。接触させる水の温度が80℃未満では、欠陥や割れの多い皮膜となり、耐食性と電気的接触抵抗を満足しないので不適当である。一方、接触させる媒体は、アルミニウム以外の金属元素がベーマイト皮膜中に取り込まれるのを抑制するための水流を発生させる必要がある。そのため、液体であることが必要であり、100℃を超えることができない。
【0027】
接触させる水の平均圧力を0.01kgf/cm以上とする理由は、ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素を平均1.0mass%以下に抑制するためである。図2に示すように、アルミニウム合金材2に水7を接触させると、アルミニウム合金材2中に固溶又は晶析出物として存在する金属元素4は、溶出してアルミニウム合金材2表面に浮上する。図3(a)に示すアルミニウム合金製導電体1のように、水の平均圧力が0.01kgf/cm未満の場合には、溶出してアルミニウム合金材2表面に浮上した金属元素4は、その後、ベーマイト3皮膜中に取り込まれてしまう。図3(b)に示すように、水の平均圧力が0.01kgf/cm以上の場合にも、アルミニウム合金材2中に固溶又は晶析出物として存在する金属元素4は、溶出してアルミニウム合金材2表面に浮上する。しかしながら、水圧が高いので発生する水流により金属元素4はベーマイト皮膜3の表面から離脱してベーマイト皮膜中3に取り込まれ難くなる。そのため、ベーマイト皮膜3中のAl以外の金属元素4が平均1.0mass%以下に抑制されることになる。
【0028】
すなわち、水の平均圧力が0.01kgf/cm未満の場合には、ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素の平均が1.0mass%を超えるため不適当である。水の平均圧力が0.01kgf/cm以上であれば、ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素の平均を1.0mass%以下とすることができる。水の平均圧力が0.2kgf/cmを超えるとその効果が飽和する。
【0029】
水に接触させる累積時間を3〜120分とする理由は、適切な処理時間でベーマイト皮膜の皮膜厚を0.1〜1.5μmとするためである。適切な処理時間とは、基準とする一般的なNiめっきの処理時間である120分以下となることである。120分を超える処理時間は生産効率が悪く不適当である。さらに、ベーマイト皮膜厚が1.5μmを超え不適当である。接触させる累積時間が3分未満では皮膜厚が0.1μmに達しないので不適当である。
【0030】
C−3.アルミニウム合金材表面への水の接触方法
上記条件でベーマイト皮膜を生成するための水の接触方法について説明する。導電率10μS/cm以下の水としては、イオン交換水、蒸留水、限外ろ過水、逆浸透水が好適に使用できる。
【0031】
温度80〜100℃の水を平均圧力0.01kgf/cm以上で3〜120分間の累積時間でアルミニウム合金材に接触させる方法として、水槽にアルミニウム合金材を浸漬してバッチ処理する方法が挙げられる。すなわち、電熱ヒーターやガスバーナー等の加熱装置を備えた水槽に、導電率10μS/cm以下の水を所定深さとなるように収容し、水底にアルミニウム合金材を所定時間浸漬するものである。水温は加熱装置によって80〜100℃に調整される。アルミニウム合金材表面の水圧は水ヘッドにより、すなわち、アルミニウム合金材表面における水の深さによって適当な圧力に調整される。水圧付加は、水槽を密閉型にして外部から加圧する方式を用いてもよい。一方、水槽中に複数本のロールを設置した巻取り方式の連続処理も可能である。この場合には、アルミニウム合金材の所定水圧における滞留時間を3〜120分間とすればよい。但し、これら水槽で処理を行う場合、処理開始から終了までの間、アルミニウム合金材表面に導電率が10μS/cm以下の水を供給する必要がある。その手段として、水の供給口と排出口を供えた水槽が好適に使用できる。
【0032】
上記の方法に代わって、スプレー処理を用いてもよい。スプレー処理には、市販のスプレーノズルが好適に使用できる。特に、アルミニウム合金材表面に均一にベーマイト皮膜を生成させるためには、アルミニウム合金材表面に均一に水を噴射可能なフルコーンタイプのスプレーノズルが好ましい。スプレー処理の模式図を図4に示す。温度80〜100℃の水をスプレーノズル8から、噴射圧力P、噴射角度θ、アルミニウム合金材2表面までの垂直距離Lで噴射させた場合、アルミニウム合金材2表面に加わる平均圧力は、P=P/[π{(Ltan(θ/2)})]で得られる。このようなスプレー処理も、バッチ処理と連続処理が可能である。連続処理では、アルミニウム合金材2の移動速度を調整してスプレー処理されている時間を3〜120分間とすればよい。なお、図4では、アルミニウム合金材2の一方の表面にスプレー処理されている例を示したが、片面ずつ又は両面同時にスプレー処理が行なわれる。
【0033】
なお、いずれの処理方法においても、処理時間は累積時間で3〜120分である。すなわち、間断なく処理してもよいし、1回以上の中断をもって全処理時間を複数に分けて処理してもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例及び比較例について詳細に説明する。
【0035】
実施例1〜12及び比較例13〜23
実施例及び比較例で用いた14種類のアルミニウム合金材(合金A〜合金N)の組成を、表1に示す。アルミニウム合金材をDC鋳造後に540℃で4時間均質化処理し、熱間圧延により板厚10mmの板材とした。次いで、冷間圧延により板厚5mmの板材とし、540℃で10秒間溶体化処理を施した。更に、200℃まで20℃/秒の冷却速度で冷却し、その後200℃で2時間の時効硬化処理を施した。このようにしてアルミニウム合金材を調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
上記アルミニウム合金材について、本発明に係るアルミニウム合金製導電体自体の機械的特性である引張性能及び曲げ性能、ならびに、電気的特性である導電率を測定した。
引張試験においては、引張強度が195N/mm以上、耐力が165N/mm以上、伸びが10%以上のものを合格(○)、これらのうちいずれか1項目でも満たなかったものを不合格(×)と判定した。
【0038】
曲げ試験においては、内側半径10mmで割れが発生しなかったものを合格(○)、割れが発生したものを不合格(×)と判定した。
【0039】
導電率測定においては、導電率が55%IACS以上のものを合格(○)、55%IACS未満のものを不合格(×)と判定した。
【0040】
表1に示す合金A、B、C、H、J、Lは、上記機械的特性と電気的特性のいずれも満足した。合金DはSi、合金FはMgが本発明の範囲に満たず、引張性能が劣った。合金EはSi、合金Gは、Mgが本発明の範囲を超え、曲げ性能と導電率が劣った。合金IはFe、合金KはCu、合金MとNはそれぞれMnとZrが本発明の範囲を越え、曲げ性能が劣った。上記機械的特性及び電気的特性の少なくともいずれかを満足しなかった合金D、E、F、G、I、K、M、Nについては、アルミニウム合金製導電体自体の性能を満たさなかったのでこの時点で不適切と判断し、次の試験に供さなかった。
【0041】
合金性能を満足した合金A、B、C、H、J、Lについて、アルミニウム合金材を100mm×30mmに切り出し、径8mmのボルト用穴をあけた。更に、表2に示す条件でアルミニウム合金材の両面にベーマイト皮膜を形成して試料とした。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜12及び比較例13〜20では、市販のフルコーンタイプのスプレーノズルを用いてバッチ方式で試料の片面ずつを間断なくスプレー処理を行なった。実施例1〜4、7〜12及び比較例13〜20では、噴射角度を45℃、スプレーノズルとアルミニウム合金材表面までの垂直距離を15cmとし、ノズルの噴射圧力を1〜5kgf/cmの範囲で調整した。実施例5、6では、噴射角度を30°、スプレーノズルとアルミニウム合金材表面までの垂直距離を10cmとし、ノズルの噴射圧力を3.5〜5kgf/cmの範囲で調整した。比較例21では、ガラスビーカー中で水圧0.005kgf/cmとなるよう水深5cmの位置で、バッチ方式の浸漬処理を間断なく行なって試料の両面を処理した。比較例22、23では、ベーマイト皮膜に代えて、試料の両面に一般的な方法によってめっき皮膜をそれぞれ形成した。
【0044】
ここで、上記試料のベーマイト皮膜厚と、皮膜中のAl以外の金属元素含有量を測定した。皮膜厚は、ミクロトームで断面切片を作製してSEM観察して直読した。ベーマイト皮膜中のAl以外の金属元素含有量は、グロー放電発光分析(GDS)法で測定した。
【0045】
上記試料について、他の部材と接続した際における接続部の機械的特性としての耐クリープ性、電気的特性としての接触抵抗、耐性としての耐食性を測定し、コストについても評価した。図5に示すように、試料1と純銅製100mm×40mm×厚さ5mmの板材9を、合わせ部OL(20mm幅)で重ね合わせ、フランジボルト10と不図示のナットでトルク50N・mで締め付けた。フランジボルト10はCrめっきが施されたステンレス製で、ボルト径6mm、フランジ径12mmである。ボルト締め付け後、120℃で3時間保持し、室温まで冷却した後、接続部におけるER間の電気的な接触抵抗を測定した。接触抵抗2.9mΩ以下を合格(○)、2.9mΩを超えるものを不合格(×)と判定した。
【0046】
次に、フランジボルト10とナットの接合を外し、ボルト締め付け部の試料厚さを測定して耐クリープ性の指標としての変形率を求めた。変形率が0.3%以下の場合を合格(○)とし、0.3%より大きい場合を不合格(×)と判定した。ここで、変形率とは、試料1のボルト締め付け前における締め付け部厚さに対する、締め付け後における締め付け部厚さの減少割合を%で示したものである。
【0047】
さらに、接続部と接続部以外の耐食性を測定した。接触抵抗を測定した試料について、塩水噴霧試験96時間を行い、接続部と接続部以外の腐食状況を観察した。腐食が認められない場合を合格(○)、腐食が認められた場合を不合格(×)で判定した。
【0048】
コストの評価では、一般的なNiめっき処理の場合を基準として、それよりも低コストの場合を合格(○)、それ以上となるコストの場合を不合格(×)で判定した。
【0049】
以上の結果を表2に示す。実施例1〜12では、導電率、耐クリープ性、接触抵抗、耐食性、コストのいずれも合格であった。
【0050】
比較例13〜15では、合金組成が本発明の範囲外であり、耐クリープ性が劣った。
比較例16では、水との接触時間が短いので膜厚が薄くなった。その結果、接続部で皮膜が割れて耐食性が劣った。
比較例17では、水との接触時間が長いので膜厚が厚くなった。その結果、接続部での接触抵抗が大きくなった。
比較例18では、水の導電率が大きくAl以外の金属元素の含有量が多くなった。その結果、接触抵抗と接続部および接続部以外の耐食性が劣った。
比較例19では、水温が低く欠陥や割れの多い皮膜が形成された。その結果、接触抵抗と接続部および接続部以外の耐食性が劣った。
比較例20では、水圧が低くAl以外の金属元素の含有量が多くなった。その結果、接触抵抗と接続部および接続部以外の耐食性が劣った。
比較例21では、水圧が低くAl以外の金属元素の含有量が多くなった。その結果、接触抵抗と接続部および接続部以外の耐食性が劣った。
比較例22と23では、ベーマイト皮膜に代えてめっき皮膜を用いたのでコストにおいて劣った。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のベーマイト皮膜を設けることで、従来のめっき皮膜を設けたアルミニウム製導電体と同等の耐食性と導電率を実現できる。すなわち、従来のめっき皮膜が不要となり、低コスト化が可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1……アルミニウム合金製導電体
2……アルミニウム合金材2
3……ベーマイト皮膜3
31……基層
32……上層
4……Al以外の金属元素
5……欠陥
6……割れ
7……水
8……スプレーノズル
9……純銅製板材
10……フランジボルト
OL……合わせ部
ER……接触抵抗測定部
P……アルミニウム合金材表面に加わる平均圧力
……噴射圧力
θ……噴射角度θ
L……スプレーノズルとアルミニウム合金材表面までの垂直距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si0.3〜0.8mass%、Mg0.35〜1.00mass%、Fe0.1〜0.6mass%、Cu0.12〜0.50mass%を含有し、さらにMn0.1〜0.3mass%、Zr0.1〜0.3mass%の1種又は2種を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金材と、当該アルミニウム合金材の表面に形成され、厚さ0.1〜1.5μmで皮膜中のAl以外の金属元素の合計が平均1.0mass%以下であるベーマイト皮膜とを含むことを特徴とするアルミニウム合金製導電体。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金製導電体の製造方法において、アルミニウム合金材の表面を脱脂処理した後に、当該アルミニウム合金材の表面に、導電率10μS/cm以下で温度80〜100℃の水を平均圧力0.01kgf/cm以上で3〜120分間の累積時間で接触させることを特徴とするアルミニウム合金製導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−157607(P2011−157607A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21701(P2010−21701)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】