説明

アルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置

【課題】化学工業、アルミニウムの表面洗浄工程等で発生するアルミニウム含有排水や、アルミニウム系無機凝集剤を用いる排水処理で発生するアルミニウム含有排水から高密度で沈降性に優れた汚泥を得、これを効率的に沈殿分離するアルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置を提供する。
【解決手段】アルミニウム含有排水又はアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水を凝集沈殿処理する方法において、pH9〜12の条件下に該排水に炭酸ガスを含むガスを曝気する。曝気後の排水を、pH5.8〜8.6に調整し、高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理する。pH9〜12のアルカリ条件下で炭酸ガスを含むガスを吹き込むことにより、水酸化アルミニウムフロックの濃縮を促進し、高密度で沈降に優れた凝集汚泥を得ることができ、これを効率的に沈殿分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工業、アルミニウムの表面洗浄工程等で発生するアルミニウム含有排水や、アルミニウム系無機凝集剤を用いる排水処理で発生するアルミニウム含有排水から、高密度で沈降性に優れた汚泥を得、これを効率的に沈殿分離するアルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業や、アルミニウムの表面洗浄工程からは、アルミニウムを含有する排水が発生する。また、各種の水処理分野において、SS除去やフッ素処理、色度処理等の目的で、アルミニウム系無機凝集剤を用いて排水を凝集処理する工程からは、アルミニウムを含有する凝集処理水が発生する。
【0003】
従来、アルミニウム含有排水は、pH調整により中性付近で水酸化アルミニウムの不溶化物を生成させた後、これを固液分離することにより処理されている。
また、SS除去や、色度処理にアルミニウム系凝集剤を用いる場合は、排水にアルミニウム系凝集剤を添加した後、pH調整により排水を中性付近として水酸化アルミニウムの不溶化物を生成させた後、固液分離することにより処理が行われている。
即ち、水中のアルミニウムイオンは、pH中性付近で以下の反応により水酸化アルミニウムとして析出する。
Al3+ + 3OH → Al(OH)
例えば、特許文献1の実施例1には、アルミニウム含有排水に不溶化剤として苛性ソーダを添加して、pH6.0〜6.5で不溶化処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−255267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミニウム含有排水やアルミニウム系無機凝集剤を添加した排水を、pH中性付近で不溶化して得られる水酸化アルミニウム汚泥は、ゲル状で、一般的に密度が低く、濃縮性、沈降性が悪い。
このため、固液分離のための沈殿槽が大きくなるという課題がある。
また、沈殿槽から引き抜かれる汚泥は、水を多く含み、次の脱水工程に供する汚泥容量が大きくなることから、脱水機の設備容量も大きくする必要があるという課題もある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、化学工業、アルミニウムの表面洗浄工程等で発生するアルミニウム含有排水や、アルミニウム系無機凝集剤を用いる排水処理で発生するアルミニウム含有排水から、高密度で沈降性に優れた汚泥を得、これを効率的に沈殿分離するアルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来、アルミニウム含有排水中のアルミニウムの水酸化物フロックを生成させる場合、通常、pH5〜7.5程度が最適とされていたが、このpHを9以上とし、ここへ炭酸ガスを含むガスを曝気することにより、高密度で沈降性に優れたフロックが得られることを見出した。
なお、高濃度のアルミン酸溶液に炭酸ガスを吹き込むと、以下の反応により、結晶性の高い水酸化アルミニウムが析出、沈降するとされているが、排水処理に一般的に供される程度のアルミニウムの希薄溶液において、このようなことは知られていない。
NaAlO + 2HO + CO → Al(OH) + NaHCO
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] アルミニウム含有排水又はアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水を凝集沈殿処理する方法において、pH9〜12の条件下に該排水に炭酸ガスを含むガスを曝気することを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【0010】
[2] [1]において、前記炭酸ガスを含むガスが空気であることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【0011】
[3] [1]又は[2]において、前記曝気後の排水を、pH5.8〜8.6に調整し、高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理することを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【0012】
[4] アルミニウム含有排水又はアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水を凝集沈殿処理する装置において、該排水をpH9〜12に調整する手段と、pH調整された排水に炭酸ガスを含むガスを曝気する手段とを備えることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。
【0013】
[5] [4]において、前記炭酸ガスを含むガスが空気であることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。
【0014】
[6] [4]又は[5]において、前記曝気後の排水を、pH5.8〜8.6に調整する手段と、pH調整された排水に高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理する手段とを備えることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、pH9〜12のアルカリ条件下で炭酸ガスを含むガスを吹き込むことにより、水酸化アルミニウムフロックの濃縮を促進し、高密度で沈降に優れた凝集汚泥を得ることができ、これを効率的に沈殿分離することができる。
例えば、凝集汚泥の沈降性については、pHアルカリ性で空気曝気を行った後掲の実施例1では、このような空気曝気を行っていない比較例1に比べて、沈降性の程度を示すSV(24h)が1/9にも改善されており、また、汚泥密度も約9倍に向上している。
【0016】
本発明では、このように、沈降性に優れた凝集汚泥を得ることができることから、沈殿槽の容量を小さくすることができ、また、得られる分離汚泥は高密度で含水量が少ないことから、脱水工程への汚泥の移送量も少なく、また、脱水機の設備容量も小さくて足り、効率的な脱水を行って低含水率の脱水ケーキを容易に得ることができる。
【0017】
また、本発明の実施に当っては、既存の凝集沈殿設備にアルカリ性で曝気する反応槽を追加するのみでよく、或いはアルミニウム系無機凝集剤を添加する反応槽にアルカリ添加手段と曝気手段とを設けるのみでよく、既存の設備にも容易に適用することができる。
【0018】
本発明において、炭酸ガスを含むガスとしては、空気を用いることができる(請求項2,5)。
また、曝気後は、pH5.8〜8.6の中性で高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理することにより、高密度で沈降性に優れた分離汚泥を得ると共に、分離水として清澄度の高い処理水を得ることができる(請求項3,6)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1〜3及び比較例1〜3における排水Al濃度と汚泥のSSとの関係を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜3における排水Al濃度と汚泥のSV(24h)との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3及び比較例1〜3における排水Al濃度と沈降汚泥濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明のアルミニウム含有排水の処理方法及び処理装置を詳細に説明する。
【0021】
本発明で処理する排水は、化学工業や、アルミニウムの表面洗浄工程等から排出されるアルミニウム含有排水、或いは、アルミニウム含有排水又はアルミニウムを含有しない排水に、SS除去、フッ素処理、色度処理等の目的で、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)やポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水(以下、これらを含めて「アルミニウム含有排水」と称す。)である。本発明で処理するアルミニウム含有排水には、アルミニウム以外にフッ素、その他の成分が含まれていてもよい。
【0022】
本発明では通常、このアルミニウム含有排水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加してpH9〜12、好ましくはpH9〜10にpH調整する。このpHが9より低いと、結晶性の高い水酸化アルミニウムのフロックを形成し得ず、本発明による効果が得られない。pHが高過ぎると、水酸化アルミニウムがアルミン酸となって溶解するため、pHは12以下とする。アルミニウム含有排水が、pH12以上となっている場合は、炭酸ガスを含むガスを曝気しながら酸を添加してpH9〜12にpH調整する。
【0023】
pH調整したアルミニウム含有排水に曝気する炭酸ガスを含むガスの炭酸ガス濃度としては、100ppm以上であることが、処理効率の面で好ましい。このような炭酸ガスを含むガスとしては、空気を用いるのが簡便かつ安価であるが、排水処理設備に近接して、炭酸ガスを含む排ガスを発生させる設備が存在する場合には、この排ガスを曝気してもよい。
【0024】
pH調整したアルミニウム含有排水に炭酸ガスを含むガスを曝気することにより、排水中に生成した水酸化アルミニウムのフロックの濃縮が進み、高密度で沈降性に優れたフロックが形成される。この曝気量は排水の種類、曝気するガスの種類、アルミニウム濃度等により適宜決定されるが、空気曝気を行う場合、排水量に対して単位時間に1〜5m−空気/m−排水/min程度で、1〜24時間程度の曝気を行うことが好ましい。曝気量が少ないとフロックの濃縮が十分に進行せず、曝気量が多過ぎても曝気量の増加に見合う効果は得られず、徒に曝気コストが嵩み、また、処理時間が長くなるなど、好ましくない。
【0025】
なお、炭酸ガスを含むガスを曝気することにより排水のpHは若干変化するため、必要に応じて曝気中にpH9〜12の範囲を維持するようにpH調整を行うことが好ましい。
【0026】
上記曝気後は、排水に塩酸、硫酸等の酸を添加して、pH5.8〜8.6の中性にpH調整し、高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理することが清澄度の高い処理水を得る上で好ましい。
【0027】
高分子凝集剤としては、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤のいずれも用いることができ、中性域の処理であることから、アニオン系高分子凝集剤を用いることが好ましい。
【0028】
高分子凝集剤の添加量は、用いる高分子凝集剤の種類、被処理排水の性状等によっても異なるが、通常0.5〜3mg/L程度である。
【0029】
本発明は、既存の凝集沈殿設備にも容易に適用することができ、例えば、本発明のアルミニウム含有排水の処理装置は図1のような構成とすることができる。
図1において、1は反応槽、2は中和槽、3は凝集槽、4は沈殿槽であり、排水(この排水はアルミニウム含有排水であってもアルミニウムを含有しない排水であってもよい)は、反応槽1でアルミニウム系無機凝集剤が添加されると共にアルカリが添加されてpH9〜12に調整され、かつ、散気管1Aで空気が曝気される。曝気処理水は次いで中和槽で酸が添加されてpH5.8〜8.6に調整された後、凝集槽3で高分子凝集剤が添加されて凝集処理される。凝集処理水は沈殿槽4で固液分離され、上澄液(分離水)が処理水として取り出されると共に、高密度の分離汚泥が抜き出される。この分離汚泥は、通常更に脱水工程へ移送されて脱水処理される。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0031】
なお、以下において凝集汚泥の性状等は以下の方法で評価した。
<SS>
JIS K 0102 14.1により求めた。
<SV(24h)>
凝集汚泥をメスシリンダ内に静置し、24時間経過後のSV(フラッジボリーム:凝集汚泥全容量に占めるSS層の割合)を百分率で求めた。
<沈降汚泥濃度>
下記式により算出した。
沈降汚泥濃度={汚泥のSS濃度/SV(24h)}×100
また、水中のAl濃度はJIS K 0102 58.4(ICP発光分光分析法)により測定した。
【0032】
[実施例1〜3]
染色排水に無機凝集剤として硫酸バンドを添加した、表1に示すAl濃度のAl含有凝集処理排水に、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整し、その後空気曝気を2m/m/minの条件で一昼夜(24時間)行った。曝気後、硫酸を添加してpH7に調整し、アニオン系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製「クリフロックPA331」)を1mg/L添加して凝集汚泥を沈殿槽で固液分離した。
得られた凝集汚泥の性状と固液分離で得られた上澄液のAl濃度を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[比較例1〜3]
実施例1〜3において、pH9に調整しての空気曝気を行わず、Al含有凝集処理排水を直接pH7に調整してアニオン系高分子凝集剤を添加したこと以外はそれぞれ同様に処理を行い、得られた凝集汚泥の性状と上澄水のAl濃度を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3における排水Al濃度と凝集汚泥のSS、SV(24h)、沈降汚泥濃度との関係を図2〜4に示す。これらの結果より、pHアルカリ性で空気曝気を行うことにより、高密度で沈降性に優れた凝集汚泥を得ることができることが分かる。
【0037】
[実施例4、比較例4,5]
Al濃度108mg/Lのアルミニウム表面洗浄排水に水酸化ナトリウムを添加して表3に示すpHに調整し、その後空気曝気を2m/m/minの条件で一昼夜(24時間)行った。曝気後、硫酸を添加してpH7に調整し、アニオン系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製「クリフロックPA331」)を1mg/L添加して凝集汚泥を沈殿槽で固液分離した。
得られた凝集汚泥の性状と固液分離で得られた上澄液のAl濃度を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3より、空気曝気時の排水pHを9以上とすることにより、凝集汚泥の沈降性、汚泥密度を格段に高めることができることが分かる。
【符号の説明】
【0040】
1 反応槽
2 中和槽
3 凝集槽
4 沈殿槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有排水又はアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水を凝集沈殿処理する方法において、pH9〜12の条件下に該排水に炭酸ガスを含むガスを曝気することを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記炭酸ガスを含むガスが空気であることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記曝気後の排水を、pH5.8〜8.6に調整し、高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理することを特徴とするアルミニウム含有排水の処理方法。
【請求項4】
アルミニウム含有排水又はアルミニウム系無機凝集剤が添加された排水を凝集沈殿処理する装置において、該排水をpH9〜12に調整する手段と、pH調整された排水に炭酸ガスを含むガスを曝気する手段とを備えることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。
【請求項5】
請求項4において、前記炭酸ガスを含むガスが空気であることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記曝気後の排水を、pH5.8〜8.6に調整する手段と、pH調整された排水に高分子凝集剤を添加して凝集沈殿処理する手段とを備えることを特徴とするアルミニウム含有排水の処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−170905(P2012−170905A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36153(P2011−36153)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】