説明

アルミニウム板材の接合方法

【課題】表面の平滑性に優れ、かつ、欠陥のない同厚のアルミニウム接合板を安価に提供する。
【解決手段】Mg:1.5mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl合金で構成され、厚さ0.5〜3.0mmを有する複数枚の同厚のアルミニウム板材を、被溶接材として用意し、隣接するアルミニウム板材の端面同士を突合せてこの突合せ部を直流正極性ティグ溶接法によって溶接することにより平滑板を製造する方法において、タングステン電極と被溶接材であるアルミニウム板材との距離を1.0mm以下とし、純度75〜100%で流量5〜15リットル/分のHeをシールドガスとして用い、溶加材を用いず、溶接時における単位板厚当たりの入熱量を2500〜10000(J/cm)とすることを特徴とするアルミニウム板材の接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚0.5〜3.0mmのアルミニウム板材を複数枚溶接し、表面の平滑性に優れ、かつ、欠陥のない接合板を安価に提供する接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の装置の大型化やコスト、歩留まり等の観点より、アルミニウム板材も従来に比べより大型化が要望されつつある。板厚0.5〜3.0mm程度の1枚板となると、従来の熱間圧延加工で対応可能ではある。しかしながら、平滑度を重要視した厚さに仕上げる冷間圧延では、現状の生産設備で対応できる幅以上のサイズのものには対応できない。
【0003】
そこで、従来の製造方法によって製造されたアルミニウム平板を接合することで必要とする大きさに対応することが考えられる。近年、アルミニウム平板を接合する方法で熱歪みや変形が少ないといわれている接合方法の一つに、固相接合である摩擦撹拌接合法(Friction Stir Welding、以下「FSW」と記す)が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、0.5〜3.0mmの板材の接合となると、接合の際における熱の影響や内部応力等に起因して接合部付近にどうしても反り上がりや変形が生じ易い問題があった。
【0004】
一般的な溶融接合方法として広く用いられているものとして、ティグ溶接やミグ溶接に代表されるアーク溶接が挙げられる。また、同じく溶融接合方法として、電子ビーム溶接とCOやYAG等に代表されるレーザ溶接も挙げられる。特許文献2には、直流正極性ティグ溶接を用いた工法が記載されている。溶接の対象部材としては、押出プレス機では製造不可能な広幅の大型ヒートシンク(押出形材)が用いられており、本発明によって製造される大型の平滑板にそのまま適用することはできないという問題があった。
【0005】
特許文献3に記載される押出形材の接合も、本発明によって製造される大型の平滑板にそのまま適用することはできないという問題があった。特許文献4に記載される溶接対象部材は0.03mm以下の薄板材であり、本発明で用いる0.5〜3.0mmのアルミニウム板材とは厚さにおいて著しく相違するので、本発明によって製造される大型の平滑板にそのまま適用することはできないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特開2002−192346号公報
【特許文献3】特開平01−107971号公報
【特許文献4】特開昭62−286674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、厚さ0.5〜3.0mmを有する複数枚のアルミニウム板材を、直流正極性ティグ溶接法にて溶接することにより、表面の平滑性に優れ、かつ、欠陥のない大型接合板を安価に製造する方法の提を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は請求項1において、Mg:1.5mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl合金で構成され、厚さ0.5〜3.0mmを有するアルミニウム板材を、被溶接材として複数枚用意し、隣接するアルミニウム板材の端面同士を突合せてこの突合せ部を直流正極性ティグ溶接法によって溶接することにより平滑板を製造する方法において、タングステン電極と被溶接材であるアルミニウム板材との距離を1.0mm以下とし、純度75〜100%で流量5〜15リットル/分のHeをシールドガスとして用い、溶加材を用いず、溶接時における単位板厚当たりの入熱量を2500〜10000(J/cm)とすることを特徴とするアルミニウム板材の接合方法とした。
【0009】
本発明は請求項2では請求項1において、前記アルミニウム合金が、Si:2.0mass%以下、Fe:1.0%mass以下、Cu:0.5%mass以下及びMn:2.0%mass以下の1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【0010】
更に本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記アルミニウム合金が、Cr:0.2mass%以下、Zn:0.3mass%以下及びTi:0.2mass%以下の1種又は2種以上を更に含有するものとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る溶接方法によって、厚さ0.5〜3.0mmのアルミニウム板材を複数枚接合した、表面の平滑性に優れ、かつ、欠陥のない大型平滑板を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る製造方法によって溶接したアルミニウム板材の表面と断面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る製造方法によって溶接したアルミニウム板材の表面と断面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】従来の方法によって溶接したアルミニウム板材の表面と断面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】従来の方法によって溶接したアルミニウム板材の表面と断面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.直流正極性ティグ溶接の選定
本発明では、溶接方法として直流正極性ティグ溶接を選定している。以下に、選定理由について述べる。
消耗電極(溶加材)を用いるミグ溶接方法では、溶接後において溶接ビードが存在するので、平滑な板材を得るには切削等の機械加工が必要となる。また、FSWは局部的な荷重を付加することにより板材に内部応力が残留し、接合後において反りや歪みが発生する。大型の接合装置となると、周辺機器類も大掛かりなものとなり、コスト増加が避けられない。COやYAGを用いたレーザ溶接は、近年ではファイバー、ディスク、半導体等の製造に適用されており、いずれのレーザ溶接もアーク溶接に比べて熱歪みの発生が少ないといわれている。レーザ溶接は、非接触工法であって溶接速度も速く自動車の製造ラインにも使用されており、本発明のような薄板製品への適用は十分可能である。しかしながら、溶接機器類や周辺機器類を含めて装置が高額となり、安価な製造には適さない。電子ビーム溶接は厚板の深い溶け込みを特徴とする接合方法であるが、真空中のチャンバー内に被接合材を収容して溶接することが必須であり、本発明で用いるような大型の薄板への適用には不向きである。
【0014】
ティグ溶接は一般的に溶加材を加える工法であるが、溶加材を用いないでアークのみを照射することで被溶接材を溶融し接合することが可能である。本発明では、上記各溶接方法が有する欠点がない、溶加材を用いないティグ溶接を採用する。アルミニウム板材のティグ溶接では、電極を損傷させず、かつ、アルミニウム材材表面の酸化皮膜を除去するために、交流のティグ溶接が一般的に用いられる。しかしながら、交流ティグ溶接では、その原理上、電流の極性がマイナスとプラスに交互に反転する必要があるため接合速度を速く出来ないという欠点があった。
【0015】
一方、直流のティグ溶接には、電極がプラスの逆極性ティグ溶接と電極がマイナスの直流正極性ティグ溶接の2種類がある。いずれもアルミニウム合金の溶接には適用されておらず、主に鉄鋼材料に用いられる方法として知られている。電極がプラスの逆極性ティグの場合には、交流ティグ同様にクリーニング効果は発揮されるが電極への入熱量が大きいため電極自体の消耗が激しくなり、陰極点が母材表面を走り入熱が分散されるため溶け込みも浅くなる。このように、逆極性ティグは、良好な溶接状態を長時間維持できないために、工業的に適用するには困難である。
【0016】
一方、電極がマイナスの直流正極性ティグ溶接の場合には、電極への負荷が低く消耗も少ないという利点があり、深い溶け込みが得られるため500A以上の電流を必要とする大電流ティグ溶接に用いられることもある。しかしながら、クリーニング作用が発揮されないため溶接金属内部と表面部に欠陥が生じ易く
、これまた工業的に適用するには困難であった。しかしながら、本発明者は、溶接金属内部と表面部における欠陥発生の防止について種々検討を重ねた結果、所定要件を満たすことにより直流正極性ティグ溶接をアルミニウム合金に適用可能とすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
B.アルミニウム板材
本発明に用いるアルミニウム板材は、厚さ0.5〜3.0mmを有する。アルミニウム板材の厚さが0.5mm未満では、板材として用いるには薄く強度や剛性などが不足する。更に、板厚全てを溶け込ませた貫通溶接を実施時には、溶け落ちや周囲の熱影響部の変形発生といった問題が生じる。板厚が3.0mmを超えると、薄板の範疇を超える厚さとなり重量も増加するので用いられない。更に、板厚全てを溶け込ませた貫通溶接を実施時には溶接時の入熱を高くする必要があるため、やはり周囲の熱影響部の変形発生といった問題が生じる。従って、本発明では、アルミニウム板材の厚さを0.5〜3.0mmに規定する。
【0018】
アルミニウム板材の材質としては、Mg:1.5mass%以下を含有するAl合金が用いられるが、以下に示す成分範囲において、より良好な生産性と、表面平滑性や耐欠陥性により優れた溶接方法となる。成分組成「mass%」については、以下において単に「%」と記す。なお、上記Al合金の他に、純度99.5mass%以上の純Alも用いることができる。
【0019】
Mg:Al合金中のMgは、含有量が増えれば強度を向上させる元素である。SiとMgSiを形成することによって、強度向上に寄与するものである。しかしながら、溶接時の欠陥発生の要因にもなりうる元素でもある。交流ティグ(TIG)溶接においても欠陥の発生の問題となるが、クリーニング作用の無い直流正極性ティグにおいてはその影響は更に大きい。そのため、Mg添加量が1.5%を超えると、内部欠陥及びビード表面へのピット等の欠陥となる。したがって、Mgの添加量は1.5%以下とし、好ましくは1.3%以下とする。本発明においてMgは、強度を犠牲にしても欠陥発生の防止を優先させる場合は添加しなくてもよい。
【0020】
Si:Mgと同時に存在するとMgSiを形成して合金の強度を向上させるため、意図的に添加してもよい。本発明において、Siは選択的添加元素である。添加量が増加すると板材への加工が困難となるので、Si添加量は2.0%以下とし、好ましくは1.5%以下とする。なお、意図的に添加するのではなく、上述の不可避的不純物として含有されていてもよい。
【0021】
Fe:Feの添加によりAl合金中にAl−Fe系の化合物が形成され合金の強度を向上させるため、意図的に添加してもよい。本発明において、Feは選択的添加元素である。添加量が増加すると板材への加工が困難となるので、Fe添加量は1.0%以下とし、好ましくは、0.7%以下とする。なお、意図的に添加するのではなく、上述の不可避的不純物として含有されていてもよい。
【0022】
Cu:CuはAlマトリックスに固溶し、固溶体中の溶質の過飽和度を上げる等して強度を付与するため、意図的に添加してもよい。本発明において、Cuは選択的添加元素である。Cuの添加量が0.5%を超えると、板材への加工が困難になり、更に、強度は向上するものの耐食性や溶接割れも発生する危険性が生じる。したがって、Cu添加量は0.5%以下とし、好ましくは0.3%以下とする。なお、意図的に添加するのではなく、上述の不可避的不純物として含有されていてもよい。
【0023】
Mn:Al合金中のMnは耐食性を低下することなく強度を向上させるため、意図的に添加してもよい。本発明において、Mnは選択的添加元素である。2.0%を超えて添加すると、鋳造中に巨大な金属間化合物を生成し、Al合金の機械的性質を低下させる原因となる。したがって、Mn添加量は2.0%以下とし、好ましくは1.5%以下とする。なお、意図的に添加するのではなく、上述の不可避的不純物として含有されていてもよい。
なお、これらSi、Fe、Cu、Mnの選択的添加元素は、1種又は2種以上が添加される。
【0024】
Cr:本発明の効果を損なわない範囲において、不純物レベルのCrが少量含有されていてもよい。Crの微細な析出物は、熱間加工の際に発生する結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する。0.2%を超えて含有されると鋳造中に巨大な金属間化合物を生成し、Al合金の機械的性質を低下させる原因になる。したがって、Cr含有量は0.2%以下とし、好ましくは0.1%以下である。
【0025】
Zn:本発明の効果を損なわない範囲において、不純物レベルのZnが少量含有されていてもよい。Znは強度向上に寄与する元素でもあるが、耐食性や耐応力腐食割れ性を低下させる元素でもある。したがって、Znの含有量は0.3%以下とし、好ましくは0.25%以下である。
【0026】
Ti:本発明の効果を損なわない範囲において、不純物レベルのTiが少量含有されていてもよい。Tiは鋳造組織を微細化し、合金の強度や靭性を向上させる元素ではあるが、0.2%を超えて含有されると粗大化合物を形成し、板材への加工が困難になるだけでなく強度低下や靭性低下を招く。したがって、Tiの含有量は0.2%以下とし、好ましいくは0.15%以下である。
なお、これらCr、Zn、Tiは、1種又は2種以上が添加される。これら不純物レベルの元素は、上記選択的添加元素と共に添加されてもよく、選択的添加元素を添加せずにこれら不純物レベルの元素のみを添加してもよい。
【0027】
C.直流正極性ティグ溶接
本発明で用いる直流正極性ティグ溶接の条件について、下記に詳述する。
【0028】
C−1.シールドガス
ティグ溶接におけるシールドガスとして、純度100%Heを用いると大きな溶け込みが得られることが知られている。しかしながら、ティグ溶接におけるシールドガスとして一般に用いられるArに比べてHeは比重が約1/10と小さいので、Heのプラズマ気流がArのプラズマ気流に比べて弱く、更に、HeはArに比べてシールド性に劣るなど、Arに比べてHeはシールドガスとして不利であった。このように、シールドガスにHeを使用することは汎用的なティグ溶接では実用的ではないとされていた。本発明者は、直流正極性ティグ溶接におけるシールドガスとしてHeを用いる際の適正条件を見出すことによって、ティグ溶接におけるシールドガスとしてのHeの不利な点を克服した。
本発明で用いるシールドガスは、純度75〜100%のHeである。純度が75%未満では、十分な溶け込み効果が得られない。シールドガスとしてのHe純度は、好ましくは
90〜100%である。
【0029】
C−2.シールドガスの流量
直流正極性ティグ溶接において、純度75〜100%のHeの流量が5リットル/分未満では、シールドガスによるシールド効果が得られないことが判明した。一方、15リットル/分を超えると、シールド効果は得られるものの、凝固前の溶接金属部にHeが強く押し当たることによって、溶接金属部表面がシールドガスの圧力に押されてへこみ、溶接面の平滑が維持できなくなることが判明した。そこで、シールドガスの流量を5〜15リットル/分に設定することによって溶接部のシールド効果と溶接面の平滑性の両立が可能となった。本発明では、直流正極性ティグ溶接において純度75〜100%のHeの流量を5〜15リットル/分とする。
【0030】
C−3.電極間距離
直流正極性ティグ溶接における溶け込みやシールド効果は、タングステン電極と被溶接材であるアルミニウム板材の距離によって影響を受けることが判明した。すなわち、タングステン電極とアルミニウム板材の距離が1.0mmを超えると、適正な溶け込み状態が得られず、かつ、Heによるシールド効果が得られず、良好な溶接が達成できないことが判明した。そこで、タングステン電極とアルミニウム板材の距離を1.0mm以下に設定することによって、溶接金属の適正な溶け込みと溶接部におけるシールド効果との両立が可能となった。本発明では、直流正極性ティグ溶接において、タングステン電極とアルミニウム板材の電極間距離を1.0mm以下とする。上記効果を更に高めるには、電極間距離を0.5mm以下とするのが好ましい。操作上においてタングステン電極を移動させる際に、被溶接材であるアルミニウム板材に接触させずに移動させるには、タングステン電極とアルミニウム板材とが少なくとも0.1mm離間していることが望ましい。そこで、電極間距離の下限は0.1mmとするのが好ましい。
【0031】
C−4.溶接時における入熱量
直流正極性ティグ溶接の溶接時における入熱量について検討した。直流正極性ティグ溶接において、溶接電圧E(V)、電流I(A)、溶接速度v(cm/分)とするとき、溶接部の単位長さ(1cm)当たりに発生する電気的エネルギーHは、H=(60・E・I)/v(ジュール<J>/cm)で表される。この電気的エネルギーHを、アルミニウム板材の板厚t(cm)で割ることにより、アルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量H‘が得られる。すなわち、H‘=(60・E・I)/v・t(J/cm)となる。
【0032】
本発明者は、アルミニウム板材の厚さを貫通させるに十分な溶け込みが得られ、かつ、歪みや反りの少ない平滑な接合が得られるH‘の範囲を検討したところ、2500〜10000(J/cm)の範囲であることを実験的に見出した。H‘が2500(J/cm)未満では入熱量不足で十分な溶け込みが得られない。一方、H‘が10000(J/cm)を超えると、入熱量過剰で接合部に溶け落ちが発生したり熱変形が生じる。更に十分な溶け込みと平滑性を得るには、H‘を2500〜8000(J/cm)とするのが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ3.0mmのアルミニウム平板(JIS A1050P−H12)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材との電極間距離0.3mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量14リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、2800(J/cm)となった。
【0035】
(実施例2)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ1.5mmのアルミニウム平板(JIS A1100P−O)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流80A、溶接速度80cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.8mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量8リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、6800(J/cm)となった。
【0036】
(実施例3)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ0.5mmのアルミニウム平板(JIS A3003P−H12)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧20V、溶接電流30A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離1.0mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量5リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7600(J/cm)となった。
【0037】
(実施例4)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0038】
(実施例5)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ1.2mmのアルミニウム平板(JIS A6022P−T4)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.8mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量10リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7000(J/cm)となった。
【0039】
(実施例6)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは85%He−15%Arの混合ガスを流量8リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0040】
(実施例7)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3003P−H12)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧25V、溶接電流110A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量10リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、8700(J/cm)となった。
【0041】
(実施例8)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧25V、溶接電流125A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離1.0mmとし、シールドガスは100%Heガスを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、9900(J/cm)となった。
【0042】
(比較例1)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A5052P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流80A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7600(J/cm)となった。
【0043】
(比較例2)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ1.6mmのアルミニウム平板(JIS A5182P−O)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流80A、溶接速度80cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.8mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量8リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、6400(J/cm)となった。
【0044】
(比較例3)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ0.3mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流25A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、8900(J/cm)となった。
【0045】
(比較例4)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、交流ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧17V、溶接電流95A、溶接速度40cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、12000(J/cm)となった。
【0046】
(比較例5)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離1.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0047】
(比較例6)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量20リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0048】
(比較例7)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは50%Ar−50%Heの混合ガスを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0049】
(比較例8)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%Arを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0050】
(比較例9)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流21A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%Heを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、2000(J/cm)となった。
【0051】
(比較例10)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流125A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%Heを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、12000(J/cm)となった。
【0052】
(比較例11)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ5.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流270A、溶接速度30cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量9リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、32400(J/cm)となった。
【0053】
(比較例12)
被溶接材として、幅1500mm、長さ3000mm、厚さ2.0mmのアルミニウム平板(JIS A3004P−H32)を2枚用意した。それぞれの被溶接材の長辺同士を突合せた。これらの被溶接材を、溶加材を用いない直流正極性ティグ溶接法を用いて幅3000mm、長さ3000mmの接合体とした。溶接時の前処理として酸化皮膜の一般的な除去を行い、溶接条件は板厚全てが溶ける完全溶け込み条件を選定した。すなわち、溶接電圧30V、溶接電流78A、溶接速度95cm/分、タングステン電極と被溶接材の距離0.5mmとし、シールドガスは純度100%のHeを流量4リットル/分で流した。このときのアルミニウム板材の単位厚さ当たりの入熱量(H‘)を上記式より計算すると、7400(J/cm)となった。
【0054】
上記の実施例及び比較例に用いた合金組成を表1に示す。また、溶接条件、ならびに、溶接部の表面状態と断面状態を下記のように評価した結果を表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
(溶接部の表面状態の評価)
溶接部の表面状態は、目視観察によって評価した。目視により、平滑性が得られていた場合を合格とした。目視により、ピット状の欠陥、溶け落ち、平滑性を損なう程の激しい凹凸、溶け込み不足のいずれかが観察された場合を不合格とした。
【0058】
(溶接部の断面状態の評価)
溶接部の断面状態は、目視観察によって評価した。目視により、欠陥が観察されなかった場合を合格とした。目視により、気泡状の欠陥や割れが観察された場合を不合格とした。
【0059】
(総合評価)
溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが合格の場合を、総合評価が合格(○とした。表面状態と断面状態の少なくともいずれかが不合格の場合を、総合評価が不合格(×)とした。
【0060】
実施例1〜8では、溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが合格であり、総合評価が合格であった。実施例4、5に示す接合体の断面図を、図1、2にそれぞれ示す。図1、2において、1は接合する二枚のアルミニウム板材、2は溶接部の表面、3は溶接部の断面を示す。これら図から明らかなように、溶接部の表面状態は良好な平滑性を示し、溶接部の断面状態に欠陥はない。
【0061】
比較例1では、アルミニウム板材に含有されるMg量が多過ぎたため、溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが不合格であり、総合評価が不合格となった。なお、接合体の断面図を図3に示す。図3において、1〜3は図1、2と同じである。4は表面のピット状欠陥、5は断面の気泡状欠陥である。図から明らかなように、溶接部の表面にはピット状の欠陥があり、溶接部の断面には気泡状の欠陥が見られる。
比較例2では、アルミニウム板材に含有されるMg量が多過ぎたため、溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが不合格であり、総合評価が不合格となった。
比較例3では、アルミニウム板材の厚さが薄過ぎ、溶接部に溶け落ち(穴あき)が発生し接合できなかったため、表面状態は無論、不合格であり、断面状態の評価については、溶接板として成り立たないため評価しなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例4では、直流正極性ティグ溶接法を用いず、入熱量も多過ぎたため、溶接部における表面状態は凹凸が激しく不合格であった。断面状態の評価については、凹凸により平滑板として成り立たないため評価しなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例5では、電極間距離が長過ぎたため、溶接条件選定時は板厚全てが溶け込んでいたが、溶接長3000mmでは部分的に溶け込み不足が生じ表面状態が不合格であった。断面状態の評価については、接合板として成り立たないため評価できなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例6では、シールドガスの流量が多過ぎたため、溶接部における表面状態は凹凸が激しく不合格であった。断面状態の評価については、凹凸により平滑板として成り立たないため評価しなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例7では、シールドガスのHe含有量が少な過ぎたため、溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが不合格であり、総合評価が不合格となった。
比較例8では、シールドガスにArを用いたため、溶接部における表面状態及び断面状態のいずれもが不合格であり、総合評価が不合格となった。なお、接合体の断面図を図4に示す。図4において、1〜5は図3と同じである。図から明らかなように、溶接部の表面にはピット状の欠陥があり、溶接部の断面には気泡状の欠陥が見られる。
比較例9では、入熱量が少な過ぎたため、溶接条件選定時は板厚全てが溶け込んでいたが、溶接長3000mmでは部分的に溶け込み不足が生じ表面状態が不合格であった。断面状態の評価については、接合板として成り立たないため評価しなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例10では、入熱量が多過ぎたため、溶接部に溶け落ち(穴あき)が発生し接合できなかったため、表面状態は無論、不合格であり、断面状態の評価については、溶接板として成り立たないため評価できなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
比較例11では、アルミニウム板材の厚さが厚過ぎ、溶接部における表面状態は凹凸が激しく不合格であった。断面状態の評価については、凹凸により平滑板として成り立たないため評価しなかった。その結果、総合評価は不合格となった。また、薄板範疇を超えた厚さのアルミニウム板材を接合したので、入熱量は本発明で規定する上限値の3倍以上となった。
比較例12では、シールドガスの流量が少な過ぎたためシールド不十分であった。溶接条件選定時は顕著でなかったものの、溶接長3000mmでは溶接部表面が黒色化するとともにピット状の欠陥が発生した。したがって表面状態が不合格のため断面状態の評価については、接合板として成り立たないため評価できなかった。その結果、総合評価は不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る厚さ0.5〜3.0mmのアルミニウム板材を複数枚接合する方法によって、表面の平滑性に優れ、かつ、欠陥のない大型の接合板が安価に提供可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 アルミニウム板材
2 溶接部の表面
3 溶接部の断面
4 溶接部の表面におけるピット状の欠陥
5 溶接部の断面における気泡状の欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:1.5mass%以下を含有し残部Al及び不可避的不純物からなるAl合金で構成され、厚さ0.5〜3.0mmを有するアルミニウム板材を、被溶接材として複数枚用意し、隣接するアルミニウム板材の端面同士を突合せてこの突合せ部を直流正極性ティグ溶接法によって溶接することにより平滑板を製造する方法において、タングステン電極と被溶接材であるアルミニウム板材との距離を1.0mm以下とし、純度75〜100%で流量5〜15リットル/分のHeをシールドガスとして用い、溶加材を用いず、溶接時における単位板厚当たりの入熱量を2500〜10000(J/cm)とすることを特徴とするアルミニウム板材の接合方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、Si:2.0mass%以下、Fe:1.0%mass以下、Cu:0.5%mass以下及びMn:2.0%mass以下の1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載のアルミニウム板材の接合方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、Cr:0.2mass%以下、Zn:0.3mass%以下及びTi:0.2mass%以下の1種又は2種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載のアルミニウム板材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255403(P2011−255403A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132519(P2010−132519)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】