説明

アルミニウム製中心導体を有するケーブル

【課題】
本発明は、ケーブルの加工方法及び前記方法により得られたケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】前記ケーブルは、銅製の層で覆ったアルミニウム製中心導体を含んでおり、前記方法によりケーブルの機械的特性、特に伸び及び曲げを改善し、耐用年限を延長させることができる。本発明では、中心導体と銅製の層との間にニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウム製の中間層を挿入する。本発明は特に航空機産業に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心導体がアルミニウム製の同一金属線の集合体から構成されるケーブルの製造方法に関する。本発明はまた、本発明に係る製造方法により得られたケーブルにも関する。本発明に係るケーブルは、航空機産業の分野で使用されるのが有用であり、従来技術のケーブルと比較して耐用年限及び機械的特性が改善された。
【背景技術】
【0002】
主に軽量化を目的として、導電性に優れた金属である銅で作製された中心導体を有するケーブルが、銅製の層で覆われたアルミニウム製の中心導体を有するケーブルに取って代わられるようになっている。この場合、銅製の層はケーブル直径の約15%を占める一方、アルミニウム製中心導体の直径はケーブル直径の約85%を占めている。
【0003】
銅で被覆したアルミニウム製中心導体の製造のために、従来技術として、銅製のテープで包まれたアルミニウム製棒線の連続的な冷間溶接技術(この技術はカベルメタル(kabelmetal)法として知られている)及び冷間静水圧プレス技術などがある。ケーブルを保護しているけれども、銅の酸化を避けるために厚さ約1ミクロンの微細なニッケル層を銅の層の表面に付着させる。それでもなお、アルミニウム製ケーブルには、機械的、電気的に欠点がある。
【0004】
第1の問題点は、銅で覆ったアルミニウム製ケーブルが高温下において長年経た後の機械的特性は、アルミニウムのみまたは銅のみを含む導体の機械的特性ほどは優れてはいないことである。特に、伸び及び曲げの特性が劣る。銅で覆ったアルミニウム製ケーブルについて、本願発明者は、特に、製造の最終工程と長期間高温下にさらされた後に伸び及び曲げの能力に損失が生じることを見出した。
【0005】
第2の問題点は、アルミニウム製中心導体の電気的特性が劣化することにより、その耐用年限が短縮することである。やがてはケーブルの電気抵抗が増加し、好ましくない状況が生じることを見出した。同様の現象が、金属層で覆われたアルミニウム製ではない中心導体を有するケーブルについて記載した米国特許第5704993号に開示されている。第一の実施態様としては、中心導体はカーボンスチール製、金属層は銅、ニッケル、銀または金製であった。第二の実施態様としては、中心導体は銅製、金属層はカーボンスチール製であった。ニオブ、バナジウムまたはタンタルからなる微細粒子の層が、中心導体と金属層の間に挿入されていた。上記微細粒子の層は、銅がカーボンスチール中に拡散しないようにする仕切りとして使用する。それでもなお、アルミニウムとカーボンスチールからなる導体を作製する試みは失敗したことが、米国特許公報に記載されている。
【0006】
特許出願WO94/13866Aは、アルミニウムの中核、銅の下層及び錫の層からなる電気ケーブルの製造方法に関する。その目的は、錫の合金をハンダに使用する際のアルミニウム金属線のハンダ付け性の改善にある。
【0007】
米国特許第2075332号は、金属線表面に金属層を電解析出させるための装置に関する。しかし、この特許はアルミニウム製導体とは関係ないものである。
【0008】
米国特許第3867265号は、アルミニウムまたはアルミニウムをベースとした導体表面にニッケル、銅、錫、亜鉛またはカドミウム層を電解析出させる方法に関する。しかし、この文献には中間層についての記載はない。
【0009】
つまり、上記した文献には、本発明が提案するケーブル構造についての記載ははい。
【特許文献1】米国特許 第5704993号
【特許文献2】国際特許公開番号 W094/13866A
【特許文献3】米国特許 第2075332号
【特許文献4】米国特許 第3867265号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、銅製の層で覆われたアルミニウム製中心導体を有する金属線の集合体であるケーブルにより、機械的特性の劣化及び耐用年限の短縮という従来技術における二つの欠点を改善することを目的とする。
【0011】
さらに本発明は、銅製の層で覆ったアルミニウム製中心導体を有する金属線の集合体から構成されるケーブルの製造方法を開示する。前記製造方法により、ケーブルの機械的特性、特に、伸びと曲げが改善し、耐用年限も延ばすことができる。本方法では、中心導体と銅製の層の間にニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウム製の金属中間層を挿入する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ケーブルを保護しているけれども、銅の酸化を防ぐため、通常、厚さ約1ミクロンのニッケルの微細粒子層を銅製の層の表面に付着させる。
【0013】
導体の加工のために使用される技術には、電気めっき技術、テープまたはチューブを用いた被膜または溶接技術、冷間押し出し若しくは熱間押し出しまたはテープ若しくはチューブを利用するための静水圧プレスを使用する技術、熱間静水圧圧縮技術がある。金属線を製造するために上記技術のうち二つの技術を使用することも可能である。一方の技術を金属中間層の付着させるために使用し、他方の技術を銅製の層を付着させるために使用する。両方の層を付着させるのに、同じ技術を使用することも可能である。
【0014】
ニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウム製の金属中間層の断面積が、金属線の全断面積の0.01〜5%であることが好ましい。上限値の5%は、技術的な限度というよりはむしろ経済的な限度である。これは、厚さが増すと加工費用がかかることによる。
【0015】
金属線の銅製の層の断面積が、金属線の全断面積の10〜30%であることが好ましい。
【0016】
導体を構成する棒線を冷間引抜きまたは線引することで、前記ケーブルを得ることが好ましい。
【0017】
銅の酸化を防ぐために、さらにニッケル層を銅製の層の表面に付着させるのが好ましい。
【0018】
本発明の他の利点及び特徴は、以下の実施例に限定されない本発明の種々の実施態様の記載に示されている。
【0019】
従来技術では、アルミニウム製ケーブルは、二つの銅製のテープで包まれた同一のアルミニウム製棒線から最初の方法で加工されている。この集合物は、銅で覆われたアルミニウム製の金属線を形成するために次々と溶接している。銅とアルミニウム間の金属結合は、集合物を圧延と線引することにより生じる。他の方法として、銅被覆アルミニウム棒材は、アルミニウム棒材を銅製チューブで覆って作製することもできる。断面積を静水圧プレスによって低減させることで、銅とアルミニウム間で良好な金属結合を得ることができる。得られた銅被膜アルミニウム線は、200℃で約2時間焼きなましてから、ケーブルを形成するために集める。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような絶縁性のプラスチック材料で覆うことで、ケーブルは絶縁される。次に、約370℃で約10分間加熱する。
【0020】
発明者は、銅被覆アルミニウムの機械的特性、特に伸びと曲げが低下することを見出した。従来技術のケーブルでは、被覆後の破断伸びは3%である。ここで、破断伸びとは、ケーブルを破断させずに伸ばすことができるパーセンテージとして定義される。この発明では、アルミニウムと銅の間にニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウム製の金属中間層を挿入する。これは、劣化が生じないか、またはわずかに生じるのみである。このような状況下、本発明によるケーブルは、8%以上の伸びが可能であり、場合によっては10%以上の伸びに耐えることも可能である。このように本発明によるケーブルでは、引っ張り耐性及び曲げ耐性が改善され、結果として、耐用年限も延びることとなった。
【0021】
本発明の製造方法は、種々の手段で行うことができる。
【0022】
ひとつの実施態様として、アルミニウム線を連続的な電気めっきによりニッケルで被覆した後、連続的な電気めっきにより銅で被覆して、アルミニウムケーブルを製造する方法がある。ニッケルの抗酸化層が銅製の層の表面に電気めっきされる。そして、この金属線を線引して、例えば0.2mm付近の直径を有する金属線とする。
【0023】
他の実施態様として、出発材料が、例えば直径約40〜60mm長さ約1〜5mのアルミニウムの円筒形の棒材がある。例えば層厚約20ミクロンのニッケル層を、この円筒形のアルミニウム棒材の表面に析出させる。この場合、ニッケルの析出速度が遅い化学ニッケルめっきではなく、電気ニッケルめっきが好ましい。ニッケルめっきされたアルミニウム棒材は、アルミニウム棒材と同じ長さでありアルミニウム棒材の直径よりもほんのわずかだけ大きい内径の銅製チューブに挿入する。銅製チューブの厚さは、銅の断面積がアルミニウム断面積の約15%となるように選択されるのが好ましい。直径が約40mmのアルミニウム棒材を例にとると、銅製チューブの厚さは約1.6mmである。
【0024】
銅製チューブで被覆されたニッケルめっきしたアルミニウム棒材からなる集合物は、冷間引抜きと中間焼きなましを行い、約8mmの外径とする。次に、線引及び焼きなましをして、約1.8mmの直径とする。その後、銅の酸化を防止するために銅の表面にニッケル層を付着させる。その後、1.8mmの径は線引により約0.2mmまで細くされる。
【0025】
本方法のほかの実施態様として、ニッケルの替わりにニオブをアルミニウムと銅の間に用いてもよい。例えば25〜400umの厚さを有するニオブのシートは、例えば直径が50mmであり長さが1〜5mであるアルミニウム棒材を完全に包むのに使用される。このシートはアルミニウム棒材に溶接されてもよい。上記のように銅製チューブは、ニオブで包まれたアルミニウム棒材を覆っている。そして、冷間引抜きされて、1.8mmの直径まで線引される。ニッケルの抗酸化層はドローダウンした銅製チューブの表面に電気めっきにより析出される。次に、線引されて、ほぼ0.2mmの直径を有する金属線となる。
【0026】
他の実施形態として、アルミニウム棒材をニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウムの中間層で覆い、これを銅製チューブに挿入して作製した上記集合物について、引抜き工程に替えて押し出し工程を用いることもできる。この実施態様の一例としては、アルミニウム棒材の直径が500mm、中間層の厚さが0.6mm、銅製チューブの厚さが20mmである。電気めっきによって微細なニッケル層を析出させるために中間的直径へと細くされた約8mmの直径を有する金属線が、押出しによって製造される。次に、線引工程により、直径を約0.2mmとする。上記の押出しは、冷間で連続的操業において行うことができるが、そのような状況下では、金型は非常に高圧な工程でも耐えることができなければならない。従って、押出しは、一回の工程において熱間で行うのが好ましい。これにより、押出し圧力を低減して製造することが可能となるからである。
【0027】
上述した方法で作製した金属線の集合体からなるケーブルを、プラスチック材料の覆いを使用して絶縁し、約370℃で10分間加熱する。上記の工程後に行ったケーブルの伸びと曲げの測定値は、ニッケル、ニオブ、タンタルまたはバナジウムの中間層がない銅で被覆したアルミニウム製ケーブルと比較して改善が見られた。上述したように、中間層のない従来のケーブルは約3%の伸び値であるのに対し、本発明により加工したアルミニウムケーブルでは、8%以上の伸び値を得ることができた。
【0028】
ニオブ、ニッケル、タンタルまたはバナジウムで被覆したアルミニウム製ケーブルは、伸び及び曲げの特性を維持する利点に加えて、高温で長期間曝された後の電気的特性、特に導電性の改善もみられる。微細な中間層は、被覆を構成する銅が中心導体を構成するアルミニウムに拡散するのを防ぎ、中心導体を構成するアルミニウムが被覆を構成する銅に拡散するのを防ぐ拡散障壁の役割を果たす。これによりアルミニウム製導体と銅製の層との間にアルミニウムの混合した銅の層ができるのを避けることとなる。この銅とアルミニウムの混合層が、アルミニウムケーブルの電気的特性、特に導電性を下げる原因となる。本発明では、中間層を上記のアルミニウムと銅の間に入れているために、ケーブルの耐用年限が延びる。
【0029】
本発明の更なる利点としては、いろいろな層を電解析出させた後に、金属線を線引できるという点である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的特性、特に伸び及び曲げを改善し、耐用年限を延長させることができる、銅製の層で被覆されたアルミニウム製中心導体を含む金属線の集合体からなるケーブルの製造方法であって、該アルミニウム製中心導体と中心導体を被覆した該銅製の層との間に中間層を挿入し、該中間層がニッケル、ニオブ、タンタルおよびバナジウムからなる群から選択された金属で作製されていることを特徴とするケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記ニッケル製中間層が、電気めっきにより析出されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル製中間層の断面積が、前記金属線の全断面積の0.01〜5%であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記銅製の層が、電気めっきにより析出されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記銅製の層の断面積が、前記金属線の全断面積の10〜30%であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ニオブ、タンタルまたはバナジウム製中間層が、前記アルミニウム製中心導体の周囲をニオブ、タンタルまたはバナジウムのテープで包んで作製されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属線のニオブ、タンタルまたはバナジウム製中間層の断面積が、前記金属線の全断面積の0.01〜5%であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記中間層が、アルミニウム棒材の表面に付着されることを特徴とする、請求項1ないし7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記中間層で覆われた前記アルミニウム棒材が、次々と溶接され、冷間引抜き後に線引きされて前記ケーブルとすることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記中間層で覆われた前記アルミニウム棒材が、該アルミニウム棒材の直径よりもわずかに大きい内径を有する銅製チューブに挿入されることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記中間層で覆われ前記銅製チューブに挿入された前記アルミニウム棒材で構成された集合物が、冷間引抜きされた後に線引されて前記ケーブルを作製することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記中間層で覆われ前記銅製チューブに挿入された前記アルミニウム棒材で構成された集合物が、冷間押し出しまたは熱間押し出しをされた後に線引されて前記ケーブルを作製することを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記銅製の層の表面にさらにニッケル層を付着させて、該銅製の層の酸化を防ぐことを特徴とする、請求項1ないし12の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13の何れか1項に記載の製造方法により得られた、伸び及び曲げの機械的特性並びに耐用年限について改善されたアルミニウム製ケーブル。


【公開番号】特開2006−313745(P2006−313745A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−118707(P2006−118707)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(501044725)ネクサン (81)
【Fターム(参考)】