説明

アルミニウム製素材の表面処理方法

【課題】アルミニウム製素材の表面に多色構成の画像を簡単に表現できながら、しかも前記素材の表面全域を所望の色彩に容易に着色することが出来るアルミニウム製素材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム製素材の表面にアルマイト処理を施すアルマイト処理工程と、前記アルマイト処理が施された素材の表面に、インクジェットプリンタにより所定の画像をインクによりプリントするプリント処理工程と、前記プリント処理工程が施された素材を、染料にドブ漬けして、前記プリント処理工程によりプリントされた画像以外の部分の表面に色付けを行なう色付け処理工程と、色付け処理工程により色付け処理された素材に対して、素材の微細孔の開口を封鎖するための封孔処理工程とを行なって、アルミニウム製の素材の表面全域を所望の画像と所望の色彩でもって表現できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製の素材の表面に多色構成の画像や模様を容易に表せる表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアルミニウム製の素材に対しては、耐食性や耐摩耗性を向上させるために、アルマイト処理により、アルミニウム製の素材の表面にアルマイト皮膜を生成した上で、その素材を所望の色の染料にドブ漬けするなどして、アルマイト皮膜の微細孔に染料を浸透させて、素材の表面を所望の色彩に着色するようにしている。
【0003】
(特許文献1参照)
ところで、以上の表面処理方法では、アルミニウム製素材の表面全域を好みの色彩に単色で着色することが出来るにしても、多色構成の画像や模様を素材の表面に表現することは出来ない。
【0004】
一方、近年、油性インクを用いたインクジェット式プリンタが開発されて、このインクジェット式プリンタにより、金属等の表面に所望の画像や模様をプリントする技術も提案されている。
【0005】
しかしながら、インクジェット式プリンタで使用されるインクは、前記したドブ漬け処理で用いられる染料よりもコストが高く、例えばプレートの裏面のように一色で着色すればよい部分までもインクジェット式プリンタによりプリント処理した場合には、コストがそれだけ高くなる。また以上のインクジェット式プリンタでは、プレートの上面などの一面にプリント処理することは簡単に行なえても、例えばプレートの周りのエッジ部分を着色することが困難である。
【特許文献1】特開平5−256997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みて開発したものであって、目的とするところは、アルミニウム製素材の表面に多色構成の画像を簡単に表現できながら、しかも前記素材の表面全域を所望の色彩に容易に着色することが出来るアルミニウム製素材の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
アルミニウム製素材の表面にアルマイト処理を施すアルマイト処理工程と、
前記アルマイト処理が施された素材の表面に、インクジェットプリンタにより所定の画像をプリントするプリント処理工程と、
前記プリント処理工程が施された素材を、染料にドブ漬けして、前記プリント処理工程によりプリントされた画像以外の部分の表面に色付けを行なう色付け処理工程とからなることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアルミニウム製素材の表面処理方法において、色付け処理工程により色付け処理された素材に対して、素材の微細孔の開口を封鎖するための封孔処理工程を施すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、プリント処理工程による画像のプリントと色付け処理工程による着色とにより、アルミニウム製の素材の表面全域を所望の画像と所望の色彩でもって自由に表現することが出来る。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、素材の耐食性、対候性、耐汚染性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかるアルミニウム製素材の表面処理方法の一実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかるアルミニウム製素材の表面処理方法の一実施形態を示すフローチャート、図2は、この表面処理方法により処理するアルミニウム製素材の一例として携帯電話のケースの一部であるアルミニウム製のプレート1の正面図である。
【0013】
このプレート1は周縁部が湾曲しており、またこのプレート1の表面は予め脱脂処理が施されているのであって、先ずこのプレート1にアルマイト処理工程Aを施す。
【0014】
このアルマイト処理工程Aでは、プレート1にプラス側の電極をつけると共に、そのプレート1を、水で薄めた硫酸などの電解液が収容された電解槽内に漬けた上で、プレート1に電流を流して、電解処理することで行なうのであって、このアルマイト処理工程Aにより、プレート1の表面には、図3に示すように、無数の微細孔21を有するアルマイト皮膜2が生成される。
【0015】
次にプレート1を水洗浄処理Bと乾燥処理Cを行なった上で、このプレート1の表面にインクジェット式プリンタにより所定の画像をプリントするプリント処理工程Dを施す。
【0016】
このプリント処理工程Dで用いるインクジェット式プリンタは、インクヘッド、マゼンタ・イエロー・シアンなどの各種インクが充填されたインク容器、ポンプなどを備えた既存のものが用いられ、またインク容器に充填するインクは、アカツキ工業株式会社製の染料系の油性インク(例えば商品名CYAN U87、MAGENTA U82、YELLOW U99、BLACK U37など)が使用されている。
【0017】
実施形態では、インクジェット式プリンタにより、図4に示すように、プレート1の上面に花柄模様の画像3をプリント処理するのであって、このプリント処理工程Dにより、インクジェット式プリンタからプレート1の上面に吐出されるインクが、図5に示すように、プリントする花柄模様に対応した部位の微細孔21に浸透して、所望の色彩の花柄模様画像3が、図4に示すように、プレート1の上面に表れる。
【0018】
前述のプリント処理工程Dを終えたプレート1は、さらに水洗浄処理Eが行なわれた後、色付け処理工程Fが施される。
【0019】
この色付け処理工程Fは、所望の色彩の染料(実施形態では奥野製薬工業株式会社製のグレー色の染料・商品名・TACグレーW7501・O)が入れられた染色タンク内にプレート1を一定時間(例えば5分間)ドブ漬けするのであって、このドブ漬け処理により、図7に示すように、前述のプリント処理工程Dにてインクが浸透した以外の微細孔21に染色タンク内の染料が浸透して、図6に示すように、プリント処理工程Dで処理された花柄模様画像3以外の表面全域がグレー色に着色するのである。
【0020】
尚、ドブ漬け用の染料は、染色タンク内において摂氏50〜60度に保っておくのが好ましい。
【0021】
そして続いてプレート1を水洗浄処理Gした後、プレート1の微細孔21の開口を封鎖するための封孔処理Hを施す。
【0022】
封孔処理Hの方法として本実施形態では、摂氏95度以上とした酢酸ニッケルなどの水溶液(実施形態では奥野製薬工業株式会社製の商品名・トップシールH−298を封孔剤として使用)中に10分〜20分漬けて封孔する。
【0023】
尚、封孔処理の方法としては、前記実施形態で示す方法の他に、例えばプレート1を耐圧高圧容器に収容した後、この容器内に3〜5気圧の蒸気を送り、20分〜30分保って封孔を行なうようにしてもよいし(いわゆる加圧水蒸気による封孔)、あるいは、プレート1を摂氏95度〜摂氏100度に加熱した水溶液中に30分程度漬けて封孔を行なうようにしてもよい(いわゆる沸騰水中での封孔)。
【0024】
そして前述の封孔処理Hが終了したならば、更に水洗浄処理Iと乾燥処理Jを行なった後、プレート1の表面をシンナーなどの溶剤で拭く仕上げ拭き処理Kを行ない、プレートの表面に残存するインクや油性染料を拭き取るのであって、これにより、プレート1の表面処理作業が終了する。
【0025】
斯くして、以上の表面処理作業により、プレート1の上面に多色刷りの花柄模様3がプリントされると同時に、この花柄模様3以外の表面全域がグレー色に着色されるのであって、換言すれば、アルミニウム製プレート1の表面に多色構成の画像3を簡単に表現できながら、しかもプレート1の表面全域を所望の色に着色することが出来、しかも表現された画像や色彩の色落ちもないのである。
【0026】
以上の実施形態では、アルミニウム製素材の一例として、携帯電話のケースの一部であるアルミニウム製のプレート1を示したが、このプレート1に限定されるものではないこと言うまでもない。
【0027】
また以上の実施形態では、インクジェット式プリンタによりプリント処理する画像3として、プレート1の上面に花柄模様を描いたが、これに限定されるものではなく、その他の図柄の画像3や風景・人物などの画像3や文字から構成される画像3などをプリント処理してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる表面処理方法の工程を示すフローチャート。
【図2】アルマイト処理工程が施された素材の一例を示す正面図。
【図3】図2に示す素材の要部の拡大断面図。
【図4】図2に示す素材の表面にプリント処理工程を施した状態の正面図。
【図5】図4に示す素材の要部の拡大断面図。
【図6】図4に示す素材の表面に色付け処理工程を施した状態の正面図。
【図7】図6に示す素材の要部の拡大断面図。
【符号の説明】
【0029】
1 プレート(素材)
2 アルマイト皮膜
21 微細孔
3 画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製素材の表面にアルマイト処理を施すアルマイト処理工程と、前記アルマイト処理が施された素材の表面に、インクジェットプリンタにより所定の画像をプリントするプリント処理工程と、前記プリント処理工程が施された素材を、染料にドブ漬けして、前記プリント処理工程によりプリントされた画像以外の部分の表面に色付けを行なう色付け処理工程とからなることを特徴とするアルミニウム製素材の表面処理方法。
【請求項2】
請求項2に記載の発明は、色付け処理工程により色付け処理された素材に対して、素材の微細孔の開口を封鎖するための封孔処理工程を施すことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製素材の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−301455(P2007−301455A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131146(P2006−131146)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(506150283)有限会社山本工芸 (2)
【出願人】(506157879)伸和工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】