説明

アルミン酸塩蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプ

【課題】真空紫外線や紫外線励起下において、従来のものと比べほぼ同等の明るさを有しながら、残光時間が画期的に短く、しかも材料コスト削減の実現が可能な、緑色発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体、該蛍光体の製造方法、及びこの蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】少なくともセリウム(Ce)、テルビウム(Tb)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)及び酸素(O)からなる蛍光体であって、1/10残光時間が6.4ms以下であることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体、あるいは、一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦n、又は0.32≦x≦0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線及び真空紫外線、特に180nm〜300nmの紫外線による励起下で、従来のものと比べほぼ同等の明るさを有しながら、残光時間が画期的に短く、しかも材料コスト削減の実現が可能な、緑色発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、バックライトと液晶シャッターによる組み合わせによりパネル上に画像を構成し、さらにカラーフィルターを組み合わせることにより画像のカラー表示を可能にしている。
LCDでは、すべてのピクセルが同時に表示され、1フレームの映像が次のフレームに置き換わるまで常に表示されているホールド表示である。このホールド表示では、人間の目が持つ残像を感じる特性のため残像感は消えず、スポーツ番組などの動きの激しい映像では非常に残像感のある映像にしかならなかった。
ちなみに、世界のテレビの映像信号は、一秒間の表示コマ数が約50〜60フレームであり、日本でも毎秒60フレームが一般的で、1フレームの表示時間は約16msecである。技術の進歩によって、液晶の応答速度は16msecよりも短くなり残像感は低減されつつあるが、応答速度を速くするだけではそれ以上の効果は薄く、たとえ応答速度を0msecにできたとしても残像感は消えない。
【0003】
このように、LCDテレビにおいては、特に動きの激しい映像において、インパルス型表示を行うカラーブラウン管(CRT)と同程度の動画特性が必要となってきている。
LCDにおける残像感をなくすために、例えば、従来は毎秒60フレームであった表示を倍の120フレームまで引き上げ、ホールドしている画像を半分の8msecまで短くしたり、1フレーム分の映像信号を入力する毎に、全画面黒表示を行わせたり、バックライトの発光タイミングを選択的に行わせたり、あるいはその両方を組み合わせることにより、擬似インパルス型表示を実現することで、CRTに近い動画特性を得ている。
他方、LCDの残像感や輪郭のぼやけを低減するために、バックライトに用いる冷陰極蛍光ランプ(CCFL)を全画面黒表示に同期させて点滅させることが試みられている。60Hzであったフレーム周波数も、近年120Hz以上にまで速くなってきているのに従い、CCFLの点灯時間・消灯時間が短くなってきている。そのため上記CCFLに用いられる蛍光体についても、できるだけ残光時間の短いものの開発が要望されている。
【0004】
従来、液晶バックライト用のCCFLとしては、三波長形蛍光ランプが使われており、これら三波長形蛍光ランプには450、540および610nmの各波長域付近に、強く、かつ半値幅の狭い発光スペクトルのピークを有する青色、緑色、赤色蛍光体が使われている。
代表的なCCFL用赤色蛍光体であるユウロピウム付活酸化イットリウム蛍光体(以下、YOX蛍光体ともいう)の1/10残光時間はおよそ3.0ms、代表的なCCFL用青色蛍光体であるユウロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体(以下、BAM蛍光体ともいう)の1/10残光時間はおよそ1.0ms以下であるのに対し、現在CCFL用として多用されている代表的な緑色蛍光体であるCeおよびTb共付活リン酸ランタン蛍光体(以下、LAP蛍光体ともいう)の1/10残光時間は7.4msである。
これら赤色、青色、緑色蛍光体の中でも、特に緑色蛍光体は残光時間が他の2色に比べ長く、また540nmの波長域の緑色発光は比視感度が高いため、緑色の残光が目立つという問題があった。
【0005】
一方、上記LAP蛍光体以外の緑色蛍光体として、アルミン酸塩系のTb・Mn共付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体(以下、CAT:Mn蛍光体ともいう)やTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体(以下、CAT蛍光体ともいう)が知られている。
しかし、特許文献1に記載されるようなCAT:Mn蛍光体は、上記LAP蛍光体同様、発光の残光が比較的長く、短残光が要求されるLCDバックライト用としては不向きである。
【0006】
CAT蛍光体については、例えば非特許文献1によると、明るさの観点からは、Ce:Tb=2:1(すなわちCe/Tb=2.0)、Mg:(Ce+Tb)=1:1(すなわちMg/(Ce+Tb)=1.0)が最適と言われているが、このような比率では1/10残光時間について満足できるものではなかった。
なお、本明細書において、1/10残光時間とは、蛍光体に紫外線を照射して発光させ、該励起光を遮断した直後の発光強度が1/10の明るさに減衰するまでに要する時間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−308634号公報
【特許文献2】特許第4199530号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc..SOLID−STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY(Dec.1974 P1623−1627)A Survey of a Group of Phosphors, Based on Hexagonal Aluminate and Gallate Host Lattice(J.M.P.J.Verstegen)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、紫外線及び真空紫外線、特に180nm〜300nmの紫外線による励起下で、従来のものと比べほぼ同等の明るさを有しながら、残光時間が画期的に短く、しかも材料コスト削減の実現が可能な、緑色発光を呈するTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体、該蛍光体の製造方法、及びこの蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来公知のCAT蛍光体の残光時間の短縮化を実現するために、まず、該蛍光体の非特許文献1の推奨組成(P1627参照、以下、単に「推奨組成」という)であるCe/Tb=2.0あるいは化学量論組成でもあるMg/(Ce+Tb)=1.0になる組成、すなわち、輝度の最適点としての(Ce0.67Tb0.33)MgAl1119からずらすことに着目し、
さらに詳細な検討を重ねた結果、
α)蛍光体中のCeに対するTb量を減少させること、すなわち、Ce/Tb>2.0とする、
β)蛍光体中の(Ce+Tb)に対するMg量を減少させること、すなわち、Mg/(Ce+Tb)<1.0とする、
γ)このようなTb量減とMg量減とを組み合わせる
ことで、従来のものと比べほぼ同等の明るさを有しながら、残光時間が著しく短縮する緑色蛍光体が得られるとの知見を得た。
【0011】
加えて、本発明者らは、この緑色蛍光体を白色蛍光ランプに用いると、明るさの低下がより抑えられることをも見出した。
これは、蛍光体中のTb量が減ると、Ce発光が増加しTb発光が減るために輝度は低下する傾向にあるが、Ce発光が他色蛍光体(赤色蛍光体、青色蛍光体)を励起するために白色ランプとしてはそれほど輝度低下がないためと考えられる。また前述のように、LCDでは残像感や輪郭のぼやけを低減するために、バックライトを点滅させる、更にはバックライトの点滅間隔をより短くする方式が採用されようとしており、この点滅方式では瞬時に明るさが立ち上がることが必要とされるので、減衰時間(残光時間)が短い蛍光体は立ち上がり時間も短いため、明るさに有利に働くことが予想される。
【0012】
本発明は、このような知見をもとになし得たものであり、以下を要旨とする。
(1)少なくともセリウム(Ce)、テルビウム(Tb)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)及び酸素(O)からなる蛍光体であって、1/10残光時間が6.4ms以下であることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。
(2)一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
(3)前記一般式Iにおいて、式中のyが、0.6≦y≦1.8であることを特徴とする前記(2)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(4)前記一般式Iにおいて、式中のxが、0.15≦x≦0.30であることを特徴とする前記(2)または(3)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(5)一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.32≦x≦0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
(6)前記一般式Iにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体。
【0013】
(7)組成式が前記(2)〜(6)のいずれかに記載の一般式Iで表され、かつ1/10残光時間が6.4ms以下であるアルミン酸塩蛍光体。
(8)被覆物質により表面がコート処理されていることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体。
(9)前記被覆物質が希土類金属の炭酸塩であることを特徴とする前記(8)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(10)前記希土類金属の炭酸塩の被覆量が蛍光体に対し0.05〜5重量%であることを特徴とする前記(8)または(9)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【0014】
(11)セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム酸化物(Mg)又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が前記(2)〜(6)のいずれかに記載の一般式Iとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
【0015】
(12)前記(1)〜(10)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
(13)緑色蛍光体として、前記(1)〜(10)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を、青色蛍光体として、1/10残光時間が1.0ms以下の蛍光体を、赤色蛍光体として、1/10残光時間が3.0ms以下の蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
(14)前記青色蛍光体が、Eu付活ストロンチウム・カルシウムアパタイト蛍光体またはEu付活バリウム・マグネシウムアルミネート蛍光体であり、前記赤色蛍光体が、Eu付活酸化イットリウム蛍光体またはEu付活バナジン酸イットリウム蛍光体であることを特徴とする前記(13)に記載の冷陰極蛍光ランプ。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、母体を構成する各成分元素自体は従来のCAT蛍光体と同じ構成成分からなるにもかかわらず、Ceに対するTbの比率あるいは(Ce+Tb)に対するMgの比率を従来の同系のものとは異なる比率とすることによって、従来のものと比較してほぼ同等の輝度の緑色発光でありながら、残光時間が著しく短くすることができ、しかも、比較的高価なTbの母体成分に占める割合が低くなるため、製造コストが低減される利点を有する。
また、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、冷陰極蛍光ランプのみならず、通常の水銀ランプに好適に使用することができ、更には真空紫外域の励起源を利用するプラズマディスプレイ等の真空紫外線発光素子に適用しても、その優れた特性が認められる。また、本発明の蛍光体と組み合わせて用いられる励起用光源の励起波長を適宜選択することにより、LED用等にも好適に使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のxと1/10残光時間との相関を示したグラフである。
【図2】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のxと輝度との相関を示したグラフである。
【図3】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のyと1/10残光時間との相関を示したグラフである。
【図4】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のyと輝度との相関を示したグラフである。
【図5】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のnと1/10残光時間との相関を示したグラフである。
【図6】一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式I中のnと輝度との相関を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の態様の蛍光体は、少なくともCe、Tb、Mg、AlおよびOからなる蛍光体であって、1/10残光時間が6.4ms以下であることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体である。
1/10残光時間が6.4msより長いと、従来品と大差が無く短残光が要求されるLCDバックライト用としては不適切であり、好ましくは、6.0ms以下、より好ましくは5.7ms以下である。
本発明の特徴は、少なくともCe、Tb、Mg、AlおよびOからなる蛍光体であって、1/10残光時間が6.4ms以下のものを作り出したことにあり、その組成は特に限定されないが、好ましくは、一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体、あるいは一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.32≦x≦0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体が挙げられる。
【0019】
本発明の第二の態様の蛍光体は、一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体である。
なお、前記組成中のMgについては、本発明の効果を大きく阻害しない範囲で、Mgにイオン半径が近い例えばSrやBaのような二価金属によって少量置換されていても何ら差し支えなく、また、Ceは同様にY,Gd,La等に少量置換されていても何ら差し支えなく、Alの一部をGaおよび/またはScにより置き換えられていてもよい。
【0020】
一般式Iで表されるアルミン酸塩蛍光体は、従来のCAT蛍光体の推奨組成であるCe/Tb=2.0あるいは化学量論組成でもあるMg/(Ce+Tb)=1.0であるものと比較して、緑色発光の輝度や所望とする残光時間等に応じて、Ceに対するTbの比率{上記式中、(1−x)/x比}あるいは(Ce+Tb)に対するMgの比率(上記式中、y値)をずらすことに特徴を有する。
このように、本発明の蛍光体は、蛍光体を構成する各金属元素の含有比率が、推奨組成や化学量論組成からずれており、このずれ(不定比性)が蛍光体の結晶構造の変化や光学的性質(残光特性)の変化をもたらし、優れた諸特性を有する蛍光体になり得るものと推測される。なお、化学量論組成とは、一般式Iにおけるxが任意の数であり、y値は2であり、n値は11である。
【0021】
一般式I中のx(蛍光体中のCeを置換するTbの比率)が、小さくなると、蛍光体の輝度は低下する傾向に有るが、短残光化により輝度の立ち上がり時間が短縮するため、明るさには有利に働く。しかしながら0.05未満だと、Tb発光(緑色発光)の低下が低すぎて、蛍光体全体としての明るさの低下につながる虞がある。一方、x値が0.32以上だと、従来の推奨組成に近づくことになり、残光時間の短縮化が達成できない。x値の好ましい範囲としては、0.15≦x≦0.30、このうち輝度とのバランスを考えると更に好ましくは0.25≦x≦0.30であり、また、残光特性をより重視すれば0.15≦x≦0.25である。
蛍光体中のCeに対するTb量を減少させる(すなわち、一般式Iにおけるx値を0.32より小とする)ことで、残光時間の短縮化が実現でき、しかも立ち上がりの速さの効果によりx=0.05程度までは従来のものと比べほぼ同等の明るさを維持できる。また、比較的高価なTbの母体成分に占める割合が低くなるため、製造コストの低減化も実現できる。
【0022】
一般式I中のy値(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対するMgOの比率)が、0.6未満であると、十分な発光が得られにくい。一方、3.0を超えても同様に輝度が低下しやすい。y値の好ましい範囲としては、0.6≦y≦1.8であり、より好ましくは0.8≦y≦1.6である。
蛍光体中のCeに対するTb量を減少するとともに、(Ce+Tb)に対するMg量を減少することで、残光時間を大幅に短くすることができる。
【0023】
一般式I中のn値(蛍光体におけるCe23とTb23との総和に対するAl23の比率)は7以上である。このn値が7未満であると、輝度特性が低下するので好ましくない。
そして更に、n値が11以上になると、結晶の形状が丸みを帯びて、塗布した際の蛍光膜の膜質を向上させることが容易になるため好ましく、一方、30を超えると、輝度が下がり始めるため、発光輝度の点では、n値としてより好ましい下限値は、11以上であり、好ましい上限値は30以下、更に好ましくは20以下である。
【0024】
本発明の第三の態様の蛍光体は、一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.32≦x<0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体である。
第三の態様の蛍光体は、第二の態様の蛍光体に対し、一般式としては同じであるが、xの範囲、すなわちセリウムとテルビウムの比に関しては推奨組成を含む、0.32≦x≦0.8とするが、その代わりMg量を表すyは、化学量論組成である2より小さく、0.6≦y≦1.8の範囲に限定される。
この第三の態様の蛍光体において、好ましいxの範囲は0.32≦x≦0.6であり、より好ましくは0.32≦x≦0.4である。n値に関しての好適な条件は、本発明の第二の態様と同様である。
【0025】
本発明の第四の態様の蛍光体は、このような一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23で表され、1/10残光時間が6.4ms以下であることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体である。
1/10残光時間が6.4msより長いと、短残光が要求されるLCDバックライト用としては不適切であり、好ましくは、6.0ms以下、更に好ましくは5.7ms以下である。
【0026】
本発明のアルミン酸塩蛍光体では、輝度の経時劣化抑制や寿命特性の向上などを目的とし、無機化合物や有機化合物からなる被覆物質により、蛍光体の表面をコート処理することもできる。
コート処理の方法としては、特に限定されず、例えば、微粒子にしたコート物質を、被覆される蛍光体と混合し、乾燥させて付着させる方法、コート物質が被覆される蛍光体の表面に析出するよう、pH等の調整を行う方法、電位を利用して被覆される蛍光体の表面に吸着させる方法、あるいは別にバインダーとなる物質を混合して被覆する方法等、被覆される蛍光体とコート物質の特性に応じて任意に選択することができる。
被覆物質の具体例としては、例えば酸化マグネシウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなど、各種の酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩及び希土類金属炭酸塩などの炭酸塩、水酸化イットリウム等の水酸化物などが挙げられるが、中でも、特許4199530号に記載された希土類金属の炭酸塩による被覆が、ランプ用として用いる場合、寿命の改善効果が大きい点で、好ましい。
希土類金属の炭酸塩として好ましいものは、炭酸イットリウム、炭酸ランタン等であり、また、被覆量は、蛍光体に対し0.05〜5重量%とすることが好ましい。
【0027】
本発明のアルミン酸塩蛍光体の粒径に関しては、特に限定されないが、本発明の冷陰極蛍光ランプの蛍光膜などに適用する場合には、取り扱いや色の均一性の点から、FSSS粒度で1〜20程度の範囲から任意に選択すればよく、好ましくは2〜8である。
【0028】
一般式Iで表される本発明のアルミン酸塩蛍光体は、(i)酸化セリウム、または炭酸セリウム、硝酸セリウムなどの加熱によりセリウム(Ce)の酸化物に変わりうるCe化合物、(ii)酸化テルビウム、または炭酸テルビウム、硝酸テルビウム、塩化テルビウムなどの加熱によりテルビウム(Tb)の酸化物に変わりうるTb化合物、(iii)酸化マグネシウム、または炭酸マグネシウムなどの加熱によりマグネシウム(Mg)の酸化物に変わりうるMg化合物、及び(iv)酸化アルミニウム、または硫酸アルミニウムなど加熱によりアルミニウム(Al)の酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が前記一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦n、又は0.32≦x≦0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)となる割合で混合してなる蛍光体原料混合物を、焼成することを製法上の特徴とする。
【0029】
すなわち、本発明の製造方法は、例えば、以下のような手順で行うことができる。
1)上記のような原料を所定量秤取し、ボールミル、V型混合機などの混合手段により十分に混合して、蛍光体原料混合物を調製する。
2)得られた蛍光体原料混合物をアルミナ坩堝等の耐熱容器に充填して、還元雰囲気において1400〜1600℃で、高温炉中において炉の昇降温に要する時間も含めて10〜26時間焼成する。
3)得られた焼成物に、通常の蛍光体製造時に適用される後処理工程と同様の分散、洗浄、乾燥の諸処理を施す。尚、コートは必要に応じ、洗浄後に行うと、表面洗浄時に剥離することも無く、乾燥時の凝集等の影響も受けにくいので好ましい。
本発明では、焼成に供される蛍光体原料混合物中に、公知のアルミン酸塩蛍光体を得る場合と同様に、反応促進のためにフッ化アルミニウムなどのフッ化物またはホウ酸や酸化ホウ素等をフラックスとして添加してもよい。
【0030】
本発明の冷陰極蛍光ランプは、このようにして得られた本発明のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いる以外は、従来の冷陰極蛍光ランプと同様にして製造される。
すなわち、本発明のアルミン酸塩蛍光体を、必要に応じ他色の蛍光体とともに、例えば、低融点ガラス粉末、微粒子金属酸化物、あるいは微粒子金属硼酸塩または燐酸塩等の結着剤とともに水または酢酸ブチル、イソプロピルアルコール等有機溶媒の溶媒中に懸濁させて蛍光体塗布スラリーを調製する。得られたスラリーを、ガラス管内壁に塗布し、温風などで乾燥させ蛍光膜を形成した後、これをベーキングしてから水銀封入、減圧、封止、電極装着すればよい。
【0031】
本発明の冷陰極蛍光ランプでは、緑色蛍光体として、これまで説明してきた本発明のアルミン酸塩蛍光体を用い、これに1/10残光時間が1.0ms以下の青色蛍光体と、1/10残光時間が3.0ms以下の赤色蛍光体とを混合してなる混合蛍光体を、蛍光膜として用いることが好ましい。
1/10残光時間が1.0ms以下の青色蛍光体としては、Eu付活ストロンチウム・カルシウムアパタイト蛍光体(以下、SCA蛍光体ともいう)、BAM蛍光体などが挙げられ、中でも、SCA蛍光体を好適に用いることができる。
1/10残光時間が3.0ms以下の赤色蛍光体としては、YOX蛍光体、Eu付活バナジン酸イットリウム蛍光体(以下、YVO蛍光体ともいう)などが挙げられ、中でも、YOX蛍光体を好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は特に限定が無い限り、実施例に限定されるものではない。
〔蛍光体〕
実施例1〜16、比較例1〜5
6種の原料(CeO2、Tb47、MgCO3、Al23(アルファタイプ)、H3BO3、AlF3)を、それぞれ表1に示す組成になるよう十分に混合した後、坩堝に充填し、更に黒鉛の塊を蛍光体原料の上にのせ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中で最高温度1550℃にて昇降温時間を含めて24時間かけて焼成した。原料中のH3BO3とAlF3は蛍光体の製造に一般的に用いられるフラックスである。なお、表1中の1−x、x、y、nのコラムの各数値は、前記一般式(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23における1−x、x、y、nの値をそれぞれ表し、Mgのコラムの各数値は、蛍光体中のMgのモル数である。
次いで、焼成粉について、分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、実施例1〜16および比較例1〜5のTb付活アルミン酸塩蛍光体を得た。なお、組成に関しては、ICPにて確認した。実施例1〜16、比較例1〜5は、Tb量を変化させた時の1/10残光時間と、相対輝度との関係を示すことを主な目的としている。
【0033】
【表1】

【0034】
得られた各蛍光体の発光色(色度)、相対輝度、1/10残光時間、平均粒子径を下記の評価方法で評価した。結果を表1に示す。なお、平均粒子径に関しては、実施例1〜11の蛍光体についてのみ測定した。
【0035】
(a)色度:色彩輝度計(コニカミノルタ社製 商品名“CS200”)を用いて測定した。
(b)相対輝度:標準品として、各実施例の蛍光体と同様にして測定された、市販の冷陰極蛍光ランプ用テルビウム付活リン酸ランタン蛍光体(化成オプトニクス社製 商品名“LP−G2”)の発光輝度を100としたときの相対値で示した。
(c)平均粒子径:FSSS法(フィッシャーサブシーブサイザー法)に準じて測定された。
(d)1/10残光時間:日立製作所製 商品名“F−4500形分光蛍光光度計”を用いて、りん光測定モード(りん光短寿命)にて測定。波長254nmの紫外線を照射して発光させてから、該紫外線の照射を停止した後、測定開始時の540nm付近のピーク波長の発光強度が1/10に減衰するまでの時間(ms)を求めた。
【0036】
表1の結果(実施例1〜16及び比較例1〜5)を基に、y値が1.30、n値が13.0である蛍光体と、y値が2.0、n値が13.0である蛍光体について、x値(Ce量に対するTb量)の変化に伴う各蛍光体の1/10残光時間の変化について、図1に示す。
また、x値の変化に伴う各蛍光体の輝度の変化を図2に示す。比較例4が、化学量論組成かつ公知文献の推奨組成になる。
なお、図示していないが、本発明の蛍光体において、y値が1.30、n値が13.0以外の値である場合にも、x値とその残光時間との相関関係は、ほぼ図1に示す相関と類似の関係にあることを確認している。一方、図1から明らかなように、y値が2.0、n値が13.0の場合、すなわち化学量論組成を保ったままセリウムとテルビウムの量を変えると、1/10残光時間の短縮の効果は相対的には小さい。他方、図2から、輝度はy値が低いほうが高い傾向にあるが、輝度とxの相関関係は、y値にあまり影響を受けないことがわかる。蛍光体の輝度は、xが0.15未満になると低下する傾向にあることも見て取ることができる。
【0037】
実施例17〜22、比較例6〜10
前記実施例1と同様に、表2に示す組成比にて、実施例17〜22、比較例6〜10の蛍光体を作成した。その結果を、前記実施例8の結果も併せて、表2と図3,4に示す(表2中の数値については、表1と同様である)。ここでは、x値を推奨組成であるx=0.33に固定し、y値を変化させている。なお、平均粒子径に関しては、実施例8,17〜22、比較例8〜10の蛍光体についてのみ測定した。
図3の1/10残光時間のデータから、驚くべきことに化学量論組成であるy=2より小さくなると、急速に1/10残光時間が短くなることが判る。一方、輝度の点から見ると、図4に示すように、yが0.6以上であることが好ましいとわかる。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例23〜26、比較例11
前記実施例1と同様に、表3に示す組成比にて、実施例23〜26、比較例11の蛍光体を作成した。その結果を表3と図5,6に示す(表3中の数値については、表1と同様である)。ここでは、x値を推奨組成であるx=0.33に、y値を1.30に固定し、n値を変化させている。
図5の1/10残光時間のデータから、nが7より小さくなると、急速に1/10残光時間が長くなることが判る。一方、輝度の点からは、nが11以上がより好ましいことが判る。
【0040】
【表3】

【0041】
〔単色蛍光ランプ〕
実施例27
緑色蛍光体として、実施例6に記載の蛍光体を用い、化成オプトニクス社製青色蛍光体「LP−B4」(BAM蛍光体)と、化成オプトニクス社製赤色蛍光体「LP−RE1」(YOX蛍光体)と混合し、色度点が(x/y=0.270/0.240)になる白色冷陰極管を作成した。
【0042】
比較例12
緑色蛍光体として、比較例9に記載の蛍光体を用いたほかは、上記実施例27と同様に、色度点が(x/y=0.270/0.240)になる白色冷陰極管を作成した。
【0043】
比較例13
緑色蛍光体として、化成オプトニクス社製緑色蛍光体「LP−G2」(LAP蛍光体)を用いたほかは、上記実施例27と同様に、色度点が(x/y=0.270/0.240)になる白色冷陰極管を作成した。
【0044】
これら実施例27、比較例12〜13のランプの輝度を測定したところ、比較例13のランプの輝度を100とした時、比較例12、実施例27のランプはいずれも99の輝度であった。この結果から、ランプ輝度においては、本発明の短残光蛍光体は、従来品と同等のランプ輝度を有しており、実用可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、従来公知のTb付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とほぼ同等の明るさを有しながら、緑色の発光を呈し、大幅に残光時間が短いものである。
したがって、真空紫外域や紫外域の励起を利用する冷陰極蛍光ランプ、希ガスランプ、水銀ランプ、プラズマディスプレイ、LEDなどの広範な分野に好適に使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセリウム(Ce)、テルビウム(Tb)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)及び酸素(O)からなる蛍光体であって、1/10残光時間が6.4ms以下であることを特徴とするアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】
一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.05≦x<0.32、0.6≦y≦3.0、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】
前記一般式Iにおいて、式中のyが、0.6≦y≦1.8であることを特徴とする請求項2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】
前記一般式Iにおいて、式中のxが、0.15≦x≦0.30であることを特徴とする請求項2または3に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】
一般式I:(Ce1-xTbx23・yMgO・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.32≦x≦0.8、0.6≦y≦1.8、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項6】
前記一般式Iにおいて、式中のnが、11≦nであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項7】
組成式が請求項2〜6のいずれか一項に記載の一般式Iで表され、かつ1/10残光時間が6.4ms以下であるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項8】
被覆物質により表面がコート処理されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項9】
前記被覆物質が希土類金属の炭酸塩であることを特徴とする請求項8に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項10】
前記希土類金属の炭酸塩の被覆量が蛍光体に対し0.05〜5重量%であることを特徴とする請求項8または9に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項11】
セリウム(Ce)酸化物又は加熱によりセリウムの酸化物に変わりうるCe化合物、テルビウム(Tb)酸化物又は加熱によりテルビウムの酸化物に変わりうるTb化合物、マグネシウム酸化物(Mg)又は加熱によりマグネシウムの酸化物に変わりうるMg化合物、及びアルミニウム(Al)酸化物又は加熱によりアルミニウムの酸化物に変わりうるAl化合物を、組成式が請求項2〜6のいずれか一項に記載の一般式Iとなる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
【請求項13】
緑色蛍光体として、請求項1〜10のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を、
青色蛍光体として、1/10残光時間が1.0ms以下の蛍光体を、
赤色蛍光体として、1/10残光時間が3.0ms以下の蛍光体を蛍光膜として用いた冷陰極蛍光ランプ。
【請求項14】
前記青色蛍光体が、Eu付活ストロンチウム・カルシウムアパタイト蛍光体またはEu付活バリウム・マグネシウムアルミネート蛍光体であり、
前記赤色蛍光体が、Eu付活酸化イットリウム蛍光体またはEu付活バナジン酸イットリウム蛍光体であることを特徴とする請求項13に記載の冷陰極蛍光ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−215701(P2010−215701A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61087(P2009−61087)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】