説明

アレイ超音波探傷装置

【課題】入射角に依らず反射率がほぼ同じである場合や、1回だけのパルス照射しか許されない場合でも、接触媒質中にある不要な反射源による妨害エコーときずエコーとを識別することができ、探傷試験の精度を向上させることができるアレイ超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】加算部21は、各チャンネルの受信部11b,12b,13bからのエコーを加算する。送受信器8は、加算部21で求めた加算エコーの大きさと各チャンネルで求めたエコーの大きさとを、比較部22で比較する。比較部22で比較した結果、加算エコーが各チャンネルで求めたエコーと比較して非常に大きければ、送受信器8は、そのエコーをきず2からのエコーとして処理する。加算エコーが各チャンネルで求めたエコーと比較して大きさがあまり変わらない場合には、送受信器8は、そのエコーを気泡4からのエコーとして処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体に発生したきずを非破壊で検査するためのアレイ超音波探傷装置に関するものであり、特に、接触媒質中にある反射源からのエコーと、試験体内部にあるきずエコーとを識別する機能を有するアレイ超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、アレイ探触子を用いた自動探傷装置について、試験体が丸棒鋼である場合を例にとり説明する。アレイ探触子を用いた丸棒鋼自動探傷に関しては、例えば特許文献1に記述されている。特許文献1には、丸棒鋼の周囲に配置したアレイ探触子から超音波ビームを照射して探傷する方法が示されており、励振するアレイ素子を切り替えることにより、超音波ビームを回転させている。丸棒鋼は搬送されているので、結果として丸棒鋼の全域が探傷可能となるというものである。この場合、アレイ探触子と丸棒鋼との間には、水等の接触媒質が満たされている。なお、特許文献1のものは、偏芯を補正するように超音波ビームの方向を制御するというものであり、本発明の目的であるエコーの識別とは関係ない。
【0003】
接触媒質中に超音波の反射源がなければ問題ないが、金属粉や気泡のような音響的不連続部が存在する場合には、これらを反射源としたエコーを受信してしまう。このエコーは丸棒鋼内部にきずがない場合にも受信するので、本来は受信したくないエコーである。このエコーを、本明細書では「妨害エコー」とする。
【0004】
次に、図9及び図10を参照しながら、妨害エコーについて説明する。図9は、きずエコー及び妨害エコーの伝搬経路を説明するための説明図である。図10は、各エコーの受信タイミングを説明するための説明図である。図10では、接触媒質中の反射源として気泡がある場合を示している。
【0005】
図9の矢印を付した実線のように、アレイ探触子から放射された超音波ビームは、丸棒鋼へ伝搬していく。そして、丸棒鋼の表面を透過した超音波は、丸棒鋼内部のきずで反射され、同じ経路を辿ってアレイ探触子で受信される。これがきずエコーの伝搬経路である。一方、図9の矢印を付した一点鎖線のように、丸棒鋼の表面で反射された超音波が気泡で反射され、再び丸棒鋼の表面で反射され、アレイ探触子で受信されるという伝搬経路が存在する。これが妨害エコーの伝搬経路である。
【0006】
なお、丸棒鋼表面での反射を伴わず、超音波が直接気泡に照射され、気泡から直接アレイ探触子で受信されるというエコーも存在する。しかしながら、一般的には、このエコーは、探傷ゲート(きずエコーを受信するための時間的範囲)の外で受信されるので、ここでは問題とはならない。
【0007】
図10に、各エコーの受信タイミングを示す。時間的に一番早く受信されるエコーは、超音波ビームが直接気泡に照射され、そのままアレイ探触子で受信されるエコーである。このエコーを図10では、直射エコーとして示している。その次に受信されるエコーは、丸棒鋼の表面で反射されて受信されるエコーである。このエコーを図10では、表面エコーとして示している。
【0008】
続いて受信されるエコーは、妨害エコーあるいはきずエコーである。どちらが早く受信されるかは、気泡及びきずの位置関係によって異なる。探傷ゲートは、表面エコーよりも時間的に遅い位置に設定するので、妨害エコーは探傷ゲート内で受信される場合がある。このような場合、妨害エコーをきずエコーとして判定してしまうので、探傷試験の精度を劣化させてしまうという問題がある。従って、妨害エコーときずエコーとを識別する技術が望まれている。これに対して、このような不要な反射源による妨害エコーを識別するための従来技術としては、例えば、特許文献2や特許文献3に示すようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−145114号公報
【特許文献2】特開2001−4602号公報
【特許文献3】特開2000−214100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に示すような従来技術は、大きな径及び小さな径の2つの収束型超音波探触子を用いて探傷し、両者で受信されたエコーを気泡エコーとし、大きな径の探触子だけでエコーが受信された場合は介在物エコーとするものである。また、エコーの識別は、反射源への入射角の差異を用いて行う。しかしながら、この従来技術の方法では、入射角の差異により反射率が大きく異なることが前提となっており、このような状況が保証されない場合には適用困難と考えられる。
【0011】
また、特許文献3に示すような従来技術は、アレイ探触子による超音波ビームの走査をインターリーブ化することにより、気泡エコーときずエコーとを識別するものである。エコーの識別は、例えば2回パルスを照射し、1回だけエコーが受信されれば気泡として識別し、2回エコーが受信されればきずとして識別するように、エコーが受信される回数で識別する。しかしながら、この従来技術の方法は、1つの探傷領域に対して複数回のパルスを照射できる場合に適用可能なものであり、1回のパルス照射ではエコーの識別は困難である。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、入射角に依らず反射率がほぼ同じである場合や、1回だけのパルス照射しか許されない場合でも、接触媒質中にある不要な反射源による妨害エコーときずエコーとを識別することができ、探傷試験の精度を向上させることができるアレイ超音波探傷装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のアレイ超音波探傷装置は、励振信号を受信することにより駆動され、それぞれ異なるチャンネルをなす複数の励振素子を有し、接触媒質を介して超音波ビームを試験体へ向けて照射し、前記接触媒質内部あるいは前記試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、前記接触媒質を介して受信して電気信号に変換するアレイ探触子と、前記励振信号を送信して前記アレイ探触子を駆動し、前記アレイ探触子で変換された前記電気信号を受信する送受信器とを備えるものであって、前記送受信器は、前記アレイ探触子の各チャンネルの電気信号の受信時間差あるいは位相差に基づいて、前記接触媒質中の音響的不連続部からのエコーと前記試験体内部の音響的不連続部からのエコーとを識別するエコー識別部を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアレイ超音波探傷装置によれば、エコー識別部が、アレイ探触子の各チャンネルの電気信号の受信時間差あるいは位相差に基づいて、接触媒質中の音響的不連続部からのエコーと試験体内部の音響的不連続部からのエコーとを識別するので、入射角に依らず反射率がほぼ同じである場合や、1回だけのパルス照射しか許されない場合でも、接触媒質中にある不要な反射源による妨害エコーときずエコーとを識別することができ、探傷試験の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1によるアレイ超音波探傷装置の探傷動作の概念を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1によるアレイ超音波探傷装置を示す構成図である。
【図3】シミュレーションで用いたアレイ探触子の応答特性を示すグラフである。
【図4】アレイ探触子と試験体との相対的な位置関係を説明するための説明図である。
【図5】18チャンネルを同時励振した場合に受信されたエコーのうち、ch1及びch9で受信されたエコーを示すグラフである。
【図6】各エコーの時間と位置と強度との関係を示すグラフである。
【図7】加算エコーとch3のエコーとを示すグラフである。
【図8】図2のアレイ超音波探傷装置によるエコーの識別動作を示すフローチャートである。
【図9】きずエコー及び妨害エコーの伝搬経路を説明するための説明図である。
【図10】各エコーの受信タイミングを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるアレイ超音波探傷装置の探傷動作の概念を説明するための説明図である。
図1において、1は丸棒鋼であり、2は丸棒鋼内部にあるきずであり、3は水等の接触媒質であり、4は接触媒質中にある気泡であり、5はきずエコーの波面であり、6は気泡による妨害エコーの波面である。なお、図示はしていないが、アレイ探触子が図1の上側にあり、超音波ビームを照射する。また、きず2及び気泡4に超音波が入射されるが、説明の簡略化のため入射波も図示していない。気泡4への超音波の入射は、丸棒鋼1の表面で反射された後のものとする。
【0017】
図1では、きず2で反射された超音波の伝搬経路を、矢印を付した実線で示している。図1に示すように、きず2で反射された超音波は、丸棒鋼1を透過して接触媒質3に至る。そして、きずエコーの波面5は、図示したような曲率が小さい形状となる。従って、アレイ探触子できずエコーを受信すると、各チャンネルでの受信時間は、ほぼ同じと考えられる。
【0018】
また、図1では、気泡4で反射された超音波の伝搬経路を、矢印を付した一点鎖線で示している。気泡4で反射された超音波は、丸棒鋼1の表面での反射を伴うので、妨害エコーの波面6は、きずエコーの波面5と比較して曲率が大きい形状となる。従って、アレイ探触子で受信すると、各チャンネルでの受信時間が微少ではあるが異なると考えられる。どの程度の差異になるかは、気泡4の位置、丸棒鋼の形状、及び音場等に依存する。実施の形態1のアレイ超音波探傷装置は、この差異を用いることにより、エコーを識別する。即ち、実施の形態1のアレイ超音波探傷装置は、アレイ探触子で受信されるエコーの受信時間差あるいは位相差を用いて、エコーの識別を行う。
【0019】
具体的には、アレイ探触子の各チャンネルで受信されたエコーを加算して加算エコー(の振幅)を求める。各チャンネルで受信されたエコーの受信時間差がなければ、加算することによりエコーは強め合うので、加算エコーは大きくなる。即ち、きず2からのエコーは、加算することにより大きくなる。一方、各チャンネルで受信されたエコーに受信時間差がある場合、加算してもエコーはあまり大きくならない。また、任意の時点における逆相の関係(位相差がある関係)のエコーを加算する場合には、加算すると逆に小さくなる。即ち、気泡4からのエコーは加算してもあまり大きくならない。このように、加算エコー(の振幅)が大きくなるかどうかで、きず2からのエコーと気泡4からのエコーを識別することが可能となる。
【0020】
次に、以上の動作を実現するためのアレイ超音波探傷装置の構成について説明する。図2は、本発明の実施の形態1によるアレイ超音波探傷装置を示す構成図である。図2では、チャンネル数Nで送受信する場合のアレイ超音波探傷装置の構成を示している。図2において、アレイ超音波探傷装置は、アレイ探触子7及び送受信器8を有している。
【0021】
アレイ探触子7は、それぞれ異なるチャンネルをなす複数の励振素子を有している。送受信器8は、複数のチャンネルのそれぞれに対応する複数の送受信部11〜13と、エコー識別部20とを有している。なお、図2では、簡略化のため3つの送受信部のみを示しているが、実際はN個の送受信部が存在している。
【0022】
送受信部11は、ch1に対応しており、送受信部12はch2に対応しており、送受信部13はchNに対応している。また、各送受信部は、送信部と受信部とによって構成されており、例えばch1の送受信部11は、送信部11aと受信部11bとによって構成されている。エコー識別部20は、加算部21及び比較部22を有している。
【0023】
図2を参照しながら、アレイ超音波探傷装置の動作について説明する。まず、アレイ超音波探傷装置は、送信部11a,12a,13aを用いてアレイ探触子7の各チャンネルの励振素子を励振する。全チャンネルを同時励振する場合には、各チャンネルにおける送信部での時間差はない。位相制御して超音波ビームを集束させる場合や、ある方向に傾けて超音波ビームを照射する場合には、各チャンネルにおける送信部での時間差を設けて励振する。
【0024】
アレイ探触子7から照射された超音波ビームは、きず2及び気泡4で反射される。これらの反射波は、アレイ探触子7でエコーとして受信される。これらのエコーは、受信部11b,12b,13bで増幅され、また必要に応じてA/D変換され、加算部21へ送られる。加算部21は、各チャンネルの受信部11b,12b,13bからのエコーを加算する。なお、アレイ探触子7で受信された後は超音波ではなく電気信号となるので、増幅された後の信号を正確に記述すると「エコーによる電気信号」となるが、ここでは簡単のため「エコー」と表記して説明する。
【0025】
次に、比較部22は、加算部21で求めた加算エコーの大きさと各チャンネルで求めたエコーの大きさとを比較する。そして、エコー識別部20は、比較部22の比較結果により、加算エコーが各チャンネルで求めたエコーと比較して非常に大きければ、そのエコーをきず2からのエコーとして処理する。
【0026】
他方、加算エコーが各チャンネルで求めたエコーと比較して大きさがあまり変わらない場合には、エコー識別部20は、そのエコーを気泡4からのエコーとして処理する。ここで、エコーの大きさを判断する基準は、探傷システムや励振するチャンネル数等によって異なる。即ち、閾値の設定方法は、場合によって異なる。なお、図2では、比較部22に入力される各チャンネルのエコーとしてch1のエコーを用いているが、ch1のエコーに限る必要はない。
【0027】
次に、本発明の有効性を確認するため、シミュレーションでエコーを求め、加算エコーと各チャンネルで受信されたエコーとを比較した。まずシミュレーション条件について説明する。図3に、シミュレーションで用いたアレイ探触子7の応答特性を示す。この応答特性では、中心周波数を7MHzで広帯域なものとした。今回は、ハイブリッドFDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いてシミュレーションを行った。また、格子間隔Δhを10μmとし、時間ステップΔtを0.625nsとした。
【0028】
図4に、アレイ探触子と丸棒綱(試験体)との相対的な位置関係を示す。ここで、実際の気泡は、球状であると考えられるが、シミュレーションでは、気泡の形状を2次元形状とした。また、丸棒鋼1の直径は40mmとし、表面から5mmの位置にφ0.5mmの気泡4があるものとした。さらに、丸棒鋼1の内部には、表面から32mmの位置にφ1mmのきず2があるものとした。また、アレイ探触子7のチャンネル数を18とし、曲率半径を40mmとし、曲率中心と丸棒鋼1の中心とが一致する配置とした。さらに、丸棒鋼1からアレイ探触子7までの距離は20mmとした。
【0029】
18チャンネルを同時励振した場合に受信されたエコーのうち、ch1及びch9で受信されたエコーを図5に示す。図5では、妨害エコーとしての気泡エコーと、きずエコーとが受信されている様子を示している。これらのエコーを比較すると、きずエコーの受信時間は殆ど同じであるが、気泡エコーの受信時間は微少ではあるがch9の方が早く受信されている。なお、図4に示したように、ch1はアレイ探触子7の端部に位置するチャンネルであり、ch9はアレイ探触子7の中央付近に位置するチャンネルである。
【0030】
次に、図5におけるエコーの受信時間差をより明確に説明するために、横軸を受信チャンネルとし、縦軸を時間として作成した(エコーを時間と位置と強度とで示した)B−scanを図6に示す。図6では、エコーの大きさを色の濃淡で示している。図6に示すように、気泡エコーの受信時間は僅かではあるがチャンネル間で差がある。これに対して、きずエコーの受信時間は、どのチャンネルでもほぼ同じとなっている。
【0031】
図6に示したように、気泡エコーの受信時間はチャンネル間で差があるが、きずエコーの受信時間は、どのチャンネルでもほぼ同じである。即ち、気泡エコーは各チャンネルのエコーを加算してもそれ程大きくならないが、きずエコーは、非常に大きくなると考えられる。図7に、加算エコーと、各チャンネルのエコーを代表してch3だけのエコーとを示す。縦軸は、加算エコーの最大値で規格化している。図7に示すように、気泡エコーは、各チャンネルを加算することにより11.2dB大きくなる。これに対して、きずエコーは、各チャンネルを加算することにより24.5dB大きくなる。
【0032】
これにより、例えば、次のような識別処理が可能となる。
・加算エコーが「ch3のエコー+15dB」超過の場合は、きずエコーと識別する。
・加算エコーが「ch3のエコー+15dB」以下の場合は、気泡エコーと識別する。
従って、任意のチャンネルのエコーを基準とし、その基準のエコーからの増加度合いに対する閾値(ここでは15dB)を設定することにより、妨害エコーとしての気泡エコーときずエコーとを識別することができる。
【0033】
このように、加算エコーと各チャンネルのエコーとを比較することにより、気泡エコーときずエコーとを識別できることが確認できた。なお、ここでは、「ch3のエコー+15dB」を閾値として用いたが、「15dB」という値は一例である。閾値は、システムやアレイのチャンネル数等により異なる。また、この例ではch3のエコーを比較対象としたが、他のチャンネルでのエコーを比較対象としても同様であり、各チャンネルの平均値を比較対象としても同様である。
【0034】
以上のアレイ超音波探傷装置(エコー識別部20)によるエコーの識別動作について、図8のフローチャートを用いて説明する。まず、アレイ超音波探傷装置は、アレイ探触子7の各チャンネルを励振する(ステップS1)。次に、アレイ超音波探傷装置は、各チャンネルでエコーを受信し、大きさEbを求める(ステップS2)。なお、各チャンネルのエコーの大きさが一定とならない場合が考えられるが、この場合には代表的なエコーの大きさをEbとしてもよく、あるいは平均のエコーの大きさをEbとしてもよい。
【0035】
次に、アレイ超音波探傷装置は、各チャンネルで受信されたエコーを加算し、加算エコーの大きさEaを求める(ステップS3)。そして、アレイ超音波探傷装置は、Eaと「Eb+α」との値を比較し、Ea>「Eb+α」であるかどうかを確認する(ステップS4)。ここで、αは、予め設定したデシベル値であり、システムやアレイのチャンネル数等によって異なる。なお、エコーの大きさをデシベル値でなく真数で比較する場合には、比較対象とする値はEb×αとなる。この場合のαは真数となる。
【0036】
ステップS4において、Ea>「Eb+α」である場合には(ステップS4のYES方向)、アレイ超音波探傷装置は、対象としたエコーをきずエコーであると判断する(ステップS5)。従って、アレイ超音波探傷装置は、試験体としての丸棒鋼1の内部にきずがあるものとして処理する(ステップS6)。なお、対象としたエコーをきずエコーと識別した後の処理については、ここでは問題とならず、アレイ超音波探傷装置は、任意の処理を行ってよい。
【0037】
他方、ステップS4において、Ea>「Eb+α」でない場合には(ステップS4のNO方向)、アレイ超音波探傷装置は、対象としたエコーを接触媒質3中の反射源による妨害エコーと判断し、その妨害エコーを無視する(ステップS8)。なお、対象としたエコーを妨害エコーと識別した後の処理についても、アレイ超音波探傷装置は、任意の処理を行ってよい。
【0038】
上記のような実施の形態1のアレイ超音波探傷装置によれば、エコー識別部20が、アレイ探触子7の各チャンネルの電気信号の受信時間差あるいは位相差に基づいて、接触媒質3中の気泡4等の音響的不連続部からの妨害エコーと、丸棒綱1内部の音響的不連続部からのきずエコーとを識別する。この構成により、入射角に依らず反射率がほぼ同じである場合や、1回だけのパルス照射しか許されない場合でも、接触媒質3中にある不要な反射源による妨害エコーときずエコーとを識別することができ、探傷試験の精度を向上させることができる。
【0039】
なお、以上の実施の形態1では、音響的不連続部として気泡4がある場合について説明した。しかしながら、音響的不連続部が金属粉のようなものでも、本発明により妨害エコーときずエコーとの識別は可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 丸棒鋼(試験体)、2 きず、3 接触媒質、4 気泡、7 アレイ探触子、8 送受信器、11〜13 送受信部、20 エコー識別部、21 加算部、22 比較部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振信号を受信することにより駆動され、それぞれ異なるチャンネルをなす複数の励振素子を有し、接触媒質を介して超音波ビームを試験体へ向けて照射し、前記接触媒質内部あるいは前記試験体内部の音響的不連続部で反射された超音波を、前記接触媒質を介して受信して電気信号に変換するアレイ探触子と、
前記励振信号を送信して前記アレイ探触子を駆動し、前記アレイ探触子で変換された前記電気信号を受信する送受信器と
を備えるアレイ超音波探傷装置であって、
前記送受信器は、前記アレイ探触子の各チャンネルの電気信号の受信時間差あるいは位相差に基づいて、前記接触媒質中の音響的不連続部からのエコーと前記試験体内部の音響的不連続部からのエコーとを識別するエコー識別部
を有することを特徴とするアレイ超音波探傷装置。
【請求項2】
前記送受信器は、前記アレイ探触子の各チャンネルで受信された電気信号を加算し、前記加算された信号の大きさを、前記各チャンネルで受信された電気信号を基準に設定した閾値と比較し、前記加算された信号の大きさが前記閾値よりも大きければ前記試験体内部の音響的不連続部からのエコーと判定し、前記加算された信号の大きさが前記閾値以下であれば前記接触媒質中の音響的不連続部からのエコーと判定する
ことを特徴とする請求項1記載のアレイ超音波探傷装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記各チャンネルで受信された電気信号のうち、代表的な値を基準として設定されている
ことを特徴とする請求項2記載のアレイ超音波探傷装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記各チャンネルで受信された電気信号の平均値を基準にして設定されている
ことを特徴とする請求項2記載のアレイ超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−103167(P2012−103167A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253079(P2010−253079)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】