説明

アレーアンテナ

【課題】ビーム指向性の走査範囲が広い小形のアレーアンテナを実現し、更に、ビーム幅を自在に変更したり、所望の向きにヌルを形成する制御手段を実現すること。
【解決手段】電界設定手段Cにおける電界制御手段αは、例えばMOSFET等から成るスイッチSWを用いて構成されており、直流電源Eは全単位パターンの間で共有されている。スイッチSWをON状態にした単位パターンUを終端点p2 の側から複数並べると、その単位パターンにはほとんど電流が流れなくなり、そこにはバンドギャップが形成される。即ち、スイッチSWがOFF状態である単位パターンの部分のみがアンテナとして動作する。この作用は、液晶13に電圧をかけることにより、生じるものであり、これによって、例えば、バンドギャップの動作に変化した終端点p2 寄りの単位パターンの数が増えれば、その分アンテナ長が短くなってアレーアンテナ全体のビーム幅は広くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面に接地板を有する誘電体基板の表側に導体から成る所定の単位パターンを一方向に周期的に繰り返し配置することによって形成されたストリップ線路を有するアレーアンテナ(漏れ波アンテナ)に関し、特に、アンテナの指向性やビーム形状などを制御可能としたものに関する。
この発明は、ミリ波帯域又はマイクロ波帯域の電磁波を送信または受信するレーダや通信機器などに有益であり、アンテナの小型化または配設空間の省スペース化に大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
誘電体基板上にCRLH(Composite Right and Left Handed )伝送線路を備えた従来のストリップアレーアンテナ(漏れ波アンテナ)の構成例を図8に例示する。このCRLH線路には、伝送線路(X軸方向の主線路)を周期的に分断するギャップや、その伝送線路から枝分かれしたスタブなどが具備されている。このアンテナでは、ギャップが供するキャパシタンスや、スタブが供するインダクタンスの作用により、ある周波数帯において、伝送される電磁波の群速度の向きと位相速度の向きを相互に反対の向きとすることができる。これにより、伝送される電磁波の周波数を変化させることによって、主線路上で電磁波が伝播する向きとは反対向きの図中のz軸方向から−x軸方向に傾斜したθ<0なる角度領域に対しても電磁波を放射することができる。その結果、放射ビームの方向を変化させる場合には、その放射ビームの走査範囲を広くとることができるという利点がある。この様なに、位相速度と群速度の向きが反対となる原理については、例えば下記の非特許文献1などに詳しい開示がある。しかしながら、周波数を大きく変化させないと、−x軸方向に傾斜した方向に指向性を持たせることは困難である。
【0003】
また、下記の非特許文献2には、給電点から入力する電磁波の周波数を一定値に固定したまま、所定の電子制御に基づいて放射ビームの放射角を可変制御する制御方式が開示されている。この放射角の制御方式では、例えば図8の配線パターンの個々のギャップやスタブに対して、それぞれバラクタダイオードを接近させて配置し、各バラクタダイオードの容量を可変制御することによって放射ビームの放射角を可変制御している。
【0004】
また、下記の特許文献1には、中央にビアのある金属パッチ1を誘電体基板上に周期的に配置したEBG構造(Electrical Band Gap 構造)の反射体を利用したビーム走査アンテナ(図9−A,−B)が提案されている。このビーム走査アンテナは、その反射体が有する各金属パッチ(1,2)間のキャパシタンスを変化させることによって、所定の方向からその反射体に入射した電磁波の反射波の進行方向、すなわち、反射の指向性を可変制御するものである。そして、各金属パッチ(1,2)間のキャパシタンスは、ビア1とビア2の間に印加される直流電圧により金属パッチ1と金属パッチ2の間に電界を生成して、この電界により金属パッチ間に配置された液晶の比誘電率を変化させることで、可変制御される。
【非特許文献1】伊藤龍男、他2名、’CHARACTERISTICS AND APPLICATIONS OF PLANAR NEGATIVE REFRACTIVE INDEX MEDIA’,MWE2003,WS02−03
【非特許文献2】伊藤龍男、他2名、’Electronically-Controlled Metamaterial-Based Transmission Line as a Continuous-Scanning Leaky-Wave Antenna’,2004 IEEE MTT-S Digest TU1D-4.
【特許文献1】米国特許:US6,552,696B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般にバラクタダイオードは伝送損失が大きいため、数GHz以上の周波数帯域においては、バラクタダイオードを所望の可変容量として動作させることは難しい。このため、数GHz以上の周波数帯域の電磁波を取り扱うアレーアンテナに、非特許文献2の上記の従来技術を用いることはできない。
また、放射ビームの放射角が可変制御可能な1GHz以下の周波数帯域などにおいても、一般にバラクタダイオードでは標準容量(所定の基準容量)に対する容量変位の比率(変化率)を十分大きく確保することは必ずしも容易ではないので、放射角の変動範囲を大きく確保することも必ずしも容易とは言えない。
【0006】
また、特許文献1に記載されている従来のビーム走査アンテナ(図9−A,−B)は、液晶分子の向きを変えることによって、その液晶部分の誘電率を変化させて反射ビームの指向性を可変制御するものであるが、これらの従来のビーム走査アンテナには、生産性や制御性や、或いは薄板化や小型化など係わる、例えば以下の(1)〜(3)の様な問題がある。
【0007】
(1)図9−A,−Bに示す様に、EBG構造の反射体を用いてビーム走査アンテナを構成するので、この反射体に対して電磁波を照射するための給電用アンテナを別途用意する必要がある。
(2)反射板で反射される反射波の位相を変化させるだけなので、反射強度がピークとなる角度を制御することはできるが、それぞれのパッチからの反射量を変えることはできないため、ビーム幅やビームパターンを可変制御することはできない。
(3)また液晶の誘電率を変えるための電圧は接地板から浮かしたビア部分にかける構造であるが、この部分の構造が複雑にならざるを得ない。
【0008】
また、電磁波センシングや無線通信などの分野では、放射電磁波の周波数を変化させることなく、アンテナの放射ビームの指向性が制御されることが望ましいが、しかし、非特許文献1に記載されている従来のアレーアンテナでは、給電点から入力する電磁波の周波数を一定にしたまま、アンテナの放射ビームの放射角を可変制御することはできない。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、1GHz以上の高い周波数帯域においてもビーム指向性の可変制御が容易な小形のアレーアンテナを実現することである。また、本発明の更なる目的は、以下の少なくとも何れか1つの機能をそれらの小形のアレーアンテナに与えることである。
(機能1)アンテナのビーム幅を自在に変更する機能
(機能2)不要なサイドローブの放射量を抑制する機能
(機能3)所望の向きにヌルを形成する機能
【0010】
ただし、上記の個々の目的は、本発明の個々の手段の内の少なくとも何れか1つによって、個々に達成されればよく、よって、本願の個々の発明(下記の個々の手段)は、必ずしも上記の全ての課題を同時に解決できるものでなくても良い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、その誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、当該アレーアンテナの実効長を可変制御する実効長可変制御手段とを設け、上記の単位パターンに、所定の方向に走る伝送線路と、その伝送線路を途中で分断するギャップと、その伝送線路から枝分かれするスタブとを設け、上記の誘電率可変部材を上記のギャップまたはスタブに対して接近して配置し、上記の実効長可変制御手段において、上記の電界設定手段を用いて、各単位パターンの各放射量を制御することによって当該アレーアンテナの実効長を可変制御することである。
【0012】
ただし、上記の実効長とは、当該アンテナを構成する単位パターンの配列の全長の内、実際にアンテナとして実質的に有効に作用する部分の長さのことであり、この長さは各単位パターンの各放射量に基づいて判定することができる。
【0013】
本発明のアレーアンテナ(本発明の第1乃至第3の手段)は、ストリップ線路が1本のラインアンテナであっても、複数本のストリップ線路から成る平面アンテナであっても良い。誘電体基板面上であってストリップ線路に垂直な方向への指向性の制御は、各ストリップ線路に供給する電力の位相を制御することで行うことができる。スタブは、ストリップ線路の片側だけにあっても、同位置で両側にあっても良く、或いは、進行方向に沿って設ける側を交互に反転しても良い。スタブは、通常、ストリップ線路に対して直角に設けられるが、角度は任意である。ギャップを構成するストリップ線路の対向する部分は、キャパシタンスを大きくするためにその幅を広く構成しても良い。
【0014】
また、本発明の第2の手段は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、その誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、当該アレーアンテナにおけるサイドローブの発生を抑制するサイドローブレベル抑制手段とを設け、上記の単位パターンに、所定の方向に走る伝送線路と、その伝送線路を途中で分断するギャップと、その伝送線路から枝分かれするスタブとを設け、上記の誘電率可変部材を上記のギャップまたはスタブに対して接近して配置し、上記のサイドローブレベル抑制手段において、上記の電界設定手段を用いて、上記の単位パターンの各放射量の分布を制御することである。
即ち、その分布を、例えば周知のテイラー分布などの様な、サイドローブ抑制作用を奏する適当な分布に制御することにより、アンテナのサイドローブレベルを抑制することができる。
【0015】
また、本発明の第3の手段は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンをその誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、その誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、その誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、当該アレーアンテナの放射パターン上にヌルを形成するヌル形成手段とを設け、上記の単位パターンに、所定の方向に走る伝送線路と、その伝送線路を途中で分断するギャップと、その伝送線路から枝分かれするスタブとを設け、上記の誘電率可変部材を上記のギャップまたはスタブに対して接近して配置し、上記のヌル形成手段において、上記の電界設定手段を用いて、上記の単位パターンの各指向性を相異なる複数の向きに制御することによって所望の方向にヌルを形成することである。
【0016】
ただし、例えば、単位パターンの各指向性を相異なる2つの向きに組分けして制御する場合、一方の向きに放射させる単位パターンの組に属する各単位パターンは、必ずしも単位パターンの配列上に連続に一纏まりに配置する必要はない。即ち、相異なる指向性を与える単位パターンを交互に配置しても良いし、一方の向きに放射させる単位パターンの組を配列上の連続的な1組にまとめても良い。また、上記の複数の向きは、3方向でも4方向以上でも良い。
【0017】
また、本発明の第4の手段は、上記の第1乃至第3の何れか1つの手段において、上記の誘電率可変部材を液晶または強誘電体から構成することである。
【0018】
また、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、上記の誘電率可変部材を上記の単位パターンと接地板との間に配置することである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
上記の本発明の電界設定手段を使って、上記の誘電率可変部材が置かれる空間領域の電界を可変制御すれば、それらの誘電率可変部材を構成する分子レベルの電気双極子のモーメントベクトルの方向を所望の方向に可変制御することができる。したがって、これにより、上記の誘電率可変部材の各方向の誘電率が制御可能となる。そして、この誘電率可変部材の誘電率の変化により、ストリップ線路を構成する上記の各ギャブが持つキャパシタンスや、上記の各スタブが持つインダクタンスや、或いは各単位パターンと接地板との間の各キャパシタンスまたはアドミタンスなどが変化する。
また、上記の電界設定手段で与える電界の強さの加減によって、上記の誘電率可変部材の各方向の誘電率は、単調かつ連続的に自在に可変制御することもできる。
【0020】
したがって、本発明の第1の手段によれば、この電界設定手段を用いて構成される本発明の実効長可変制御手段によって、各単位パターンの各放射量を任意に制御することができ、またこれによって、当該アレーアンテナの実効長を可変制御することができる。
更に、当該アレーアンテナのビーム幅は、当該アレーアンテナの実効長の増大に対して、単調に減少するので、よって本発明の第1の手段によれば、当該アンテナのビーム幅を自在に可変制御することができる。
【0021】
また、本発明の第2の手段によれば、上記の電界設定手段を用いて構成される本発明のサイドローブレベル抑制手段によって、上記の単位パターンの各放射量の分布を、例えば周知のテイラー分布などの様な、サイドローブ抑制作用を奏する適当な分布に制御することができるので、これによって、当該アレーアンテナのサイドローブの放射量を小さく抑制することができる。
【0022】
また、本発明の第3の手段によれば、上記の電界設定手段を用いて構成される本発明の上記のヌル形成手段によって、単位パターンの各指向性を相異なる複数の向きに制御することができ、これによって、それらの向きから外れた向きにヌルを形成することができる。したがって、本発明の第3の手段によれば、所望の向きにヌルを形成することができ、これによって、任意の方向からの雑音の受信を低減させることができる。
例えば、アンテナの正面方向にヌルを形成したい場合には、半数の単位パターンのビームの向きを後方波(Backward波)の側(即ち、左手系のビームの向き)に向け、残りの半数の単位パターンのビームの向きを前方波(Forward 波)の側(即ち、右手系のビームの向き)に向ければ良い。これにより、正面方向からの雑音の受信を低減させることができる。
【0023】
また、本発明の第4の手段によれば、上記の誘電率可変部材が示す誘電率の可変範囲を広く確保することができるので、上記の各手段(実効長可変制御手段、サイドローブレベル抑制手段、またはヌル形成手段)の制御性をより高く確保することができる。
【0024】
また、本発明の第5の手段によれば、必要となる誘電率可変部材の少なくとも一部を基板の中に配置することができるので、所望のアレーアンテナを更に小形化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、同一のパターンを用いてそれらを周期的に配列することが、例えば設計の容易性などの面でより望ましいが、必ずしも同一のパターンだけを用いる必要はなく、また、必ずしも周期的に配列する必要もない。したがって、例えば、ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、伝送線路やスタブなどの各部の太さや長さなどの寸法が、揃っていなくとも良く、また、ギャップなどの間隔なども不揃いでも良い。
【0026】
また、以下に例示する各実施例のアレーアンテナが放射または受信する電磁波の周波数は、概ね10GHz〜300GHzの範囲(ミリ波帯及び準ミリ波帯)において概ね略一定に固定された周波数を想定したものであり、単位パターンをx軸方向に繰り返し形成する際のそのパターン形成周期は、勿論従来と同様にしてその周波数に合わせて決定すれば良い。ただし、本発明によって得ることができる作用・効果は、必ずしも上記の周波数帯域内の電磁波を取り扱うアレーアンテナだけに限定されるものではない。
【0027】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1に本実施例1のアレーアンテナ100の平面図を示す。比誘電率が2.2の4フッ化エチレン樹脂から成る誘電体基板15の中央には、矩形のプール領域15aが形成されており、このプール領域15aの中には、ネマティック液晶に光重合成ポリマーを混合して成る液晶13(誘電率可変部材)が充鎮されている。給電点p1 から終端点p2 へ展開されているストリップ線路14の殆どの部位は、この液晶13の上にパターン形成されている。このストリップ線路14は例えば銅などの導体から形成することができ、その殆どの部位は、単位パターンUの周期的な繰り返しによって形成されている。単位パターンUは、x軸方向に延びる主線路11と、この主線路11を幹としてy軸方向に延びるスタブ12と、主線路11を途中で分断するギャップG1から構成されている。
【0029】
このアレーアンテナ100は、上記の単位パターンUをx軸方向に16周期配列して構成されている。分断された主線路11の対峙面から形成されるこのギャップG1はキャパシタを構成するものであり、その対峙部11a,11bはそれぞれ、ギャップG1のキャパシタンスを増大させるために、y軸方向に拡張して形成されている。また、y軸方向に突き出したスタブ12の端部は、スタブ12が供するインダクタンス成分を増大させるために、その途中の枝部よりも若干x軸方向に幅広に形成されている。
【0030】
図2に上記のアレーアンテナ100のA−A′断面における断面図を示す。ただし、本図2の電界設定手段Cや配線1、配線2は、図1ではその図示が省略されていたものである。誘電体基板15の裏面には、一面に略一様に接地板16が積層されており、この接地板16は、配線2を介して電界設定手段Cの直流電源Eに接続されている。また、各単位パターンUのスタブ12は、配線1を介して電界設定手段Cの電界制御手段αに接続されている。電界制御手段αは、スイッチまたは可変抵抗器から構成することができ、各単位パターンU毎に具備されている。電界設定手段Cは、この電界制御手段αと直流電源Eとの直列接続によって構成される。
【0031】
この様な電界設定手段Cに基づいて、ストリップ線路14の下に配置された液晶13(誘電率可変部材)に対してz軸方向に電界を掛けると、液晶13を構成する液晶分子が回転して向きを変えるので、そのz軸方向の誘電率は高くなる。
例えば、上記の液晶13のz軸方向の厚みを約0.13mmに設定した場合、上記の電界設定手段Cでストリップ線路14と接地板16との間に100vの電圧をかけると、液晶13のz軸方向の比誘電率は、約2.2から約2.8まで変化させることができる。
【0032】
図3−A,−Bに、電界設定手段Cの具体的な構成例と操作形態を例示する。この構成例では、上記の電界設定手段Cにおける電界制御手段αが、例えばMOSFET等から成るスイッチSWを用いて構成されており、直流電源Eは、全単位パターンUの間で共有されている。したがって、この電界制御手段αは、例えばMOSFETなどを用いて構成される1つのICチップに形成することも容易である。
【0033】
図3−Bに示すように、スイッチSWをON状態にした単位パターンUを終端点p2 の側から複数並べると、その単位パターンUにはほとんど電流が流れなくなり、そこにはバンドギャップが形成される。即ち、図3−Bの状態の場合、終端点p2 寄りの8つの単位パターンUはアンテナとして動作せず、スイッチSWがOFF状態である、給電点p1 よりの8つの単位パターンUの部分のみがアンテナとして動作する。
この作用は、誘電率可変部材(液晶13)に電圧をかけることにより、その誘電率が変化してギャップG1のキャパシタンスとスタブ12のインダクタンスが変化するために生じるものであり、これによって、例えば、バンドギャップの動作に変化した終端点p2 寄りの単位パターンUの数が増えれば、その分アレーアンテナ100のアンテナ長が短くなって、アンテナのビーム幅は広くなる。
したがって、例えば上記のICチップによって、本発明の実効長可変制御手段を構成することができる。
【0034】
図4に、本実施例1の実効長可変制御手段の効果を例示する。このグラフは、上記のアレーアンテナ100のビーム形状(方位−利得特性)を例示するものであり、各グラフは、以下の各場合(1)〜(3)について、動作周波数fを76GHzとしてシミュレーションによって検証した結果を模式的に示している。ただし、本グラフでは、利得のピーク値と半値角をパラメータとしてビーム形状を模式化し、そのビームの中心をグラフの中央に配置した。
【0035】
(1)上記の様な操作によって動作しなくする微小アンテナの数(即ち、終端点p2 寄りのON操作されている単位パターンUの数)を、4個とした場合
(2)上記の様な操作によって動作しなくする微小アンテナを終端点p2 の側から8個だけ設けた場合
(3)上記の様な操作によって動作しなくする微小アンテナを終端点p2 の側から12個だけ設けた場合
例えばこの様にして、動作しなくする微小アンテナの数を変化させることにより、アレーアンテナ100のビーム幅を自在に可変制御することができる。
【0036】
(実効長可変制御手段の効果と利得特性)
上記のアレーアンテナ100について、以下の2つのケースにわたって、xz平面上での指向性をシミュレーションによって算出した。
(a)図3−Aの場合(即ち、全てのスイッチSWをOFF状態とした場合)
(b)図3−Bの場合(即ち、上記の(2)の場合)
【0037】
この(a)、(b)のシミュレーション結果を図5−A,−Bに示す。ただし、ここでは、直流電源Eの電圧を100vとしたので、先にも言及した様に、上記の(b)図3−Bの場合には、終端点p2 側の8つのスイッチがONになった単位パターンUの液晶13の比誘電率は、スイッチがOFF状態の時の2.2から、2.8に変化する。
【0038】
図5−A,−Bの各グラフより、上記の(a)、(b)の何れの場合においても、動作周波数fをf0(≡76GHz)から、f=f0×1.04(=79GHz)まで振ることによりθ>0°の角度領域(Backward側)から、θ<0°の角度領域(Forward 側)まで広角にビーム走査ができていることが分かる。即ち、この結果から、上記の(a)と(b)の何れの場合においても、動作周波数fを約4%程度と非常に小さく変化させるだけで、アンテナの放射ビームの最も高い感度ピークの方位角を左右に大きく可変制御できることが分かった。
また、上記の(a)と(b)の場合を比較すると、(b)では半値角で測って2倍以上の太いビームが実現できている。
【0039】
即ち、これらのシミュレーション結果より、上記のアレーアンテナ100においては、ビーム走査特性は変化させることなく、ビーム幅のみを変化させることができることが分かる。また、アレーアンテナ100のビーム幅は、図4からも分かる様に、スイッチSWをON状態にする単位パターンUの数を変化させることで自在に可変制御できる。
【0040】
なお、図5−A,−Bの例では、本発明の実効長可変制御手段に基づいてビーム幅を任意の幅に自在に可変制御しつつ、アンテナの動作周波数fを4%程度可変制御することによってアレーアンテナ全体の指向性を制御したが、上記の電界設定手段Cを使えば、各単位パターンUが有するギャップG1やスタブ12のリアクタンス成分を任意に可変制御することができるので、アレーアンテナの動作周波数fを一定に維持したままそのアレーアンテナ全体の指向性を可変制御することも勿論可能である。
【0041】
また、励振状態の弱い略非動作状態の単位パターンを任意数、例えば終端点側に纏めて配置することによって、即ち、例えば終端点から測った略非動作の部分の長さを任意に設定することによって、本発明の実効長可変制御手段を実現することができるので、上記の様にしてアレーアンテナの動作周波数fを一定に維持する場合においても、この実効長可変制御手段と並行に同時に有効に動作し得る指向性可変制御手段を、例えば上記の電界設定手段Cなどが有する誘電率可変作用に基づいて構成することができる。
【実施例2】
【0042】
図6に本実施例2のヌル形成手段の効果と利得特性を例示する。このグラフは、上記のアレーアンテナ100の電界設定手段Cにおいて、直流電源Eの電源電圧を50Vに変更し、この制御電圧をかけたときの利得特性に係わるシミュレーション結果を示している。ただし、ここでは、f=f0における指向性を調べた。また、制御電圧が50Vの時の液晶13の比誘電率は2.4となる。
【0043】
この場合(b)においては、前述の図5の結果とは異なり、給電点p1 寄りの8つの単位パターンUについては、ビームがθ>0°の角度領域(Backward側)の方を向き、終端点p2 寄りの8つの単位パターンUについては、ビームがθ<0°の角度領域(Forward 側)の方を向くため、ピーク利得はほとんど変化せずに、z軸方向であるθ=0°の方向にヌルが形成される。
また、次の実施例3でも言及する様に、このヌルの方向は液晶13にかける電圧を連続的に変化させることによっても自在に可変制御することができる。
【実施例3】
【0044】
本実施例3では、図2の電界設定手段Cに係わるその他の具体的な構成例を例示する。図7は、その構成例を示す平面図である。ここでは前述の図2の電界制御手段αが可変抵抗器を用いて構成されている。この様な可変抵抗器は、例えばMOSFETなどを用いて構成される1つのICチップと多数の抵抗を用いて、コンピュータ(CPU)によるデジタル電子制御が容易な構造に構成することができ、これによって、液晶13のz軸方向に掛ける電圧は、例えば0v〜200vなどの適当な範囲内で任意に設定することができる。
【0045】
例えば、この様な構造を有するアレーアンテナにおいて、液晶13のz軸方向に掛ける電圧を比較的狭い範囲内(例:0v〜50v程度の範囲内)で適当に制御した場合には、実施例1(図5−B)で見られた様な、略非動作状態の単位パターンUによって生成されるバンドギャップは発現せず、かつ、各単位パターンUからの放射量や放射の方向を任意に制御することができる。
なお、電界制御手段αを構成する上記の可変抵抗器の抵抗値の範囲を0〜∞に設定すれば、これによって図3−AのスイッチSWの機能をも、勿論その電界制御手段αの機能の中に含めることもできる。
そして、図2の電界制御手段αを可変抵抗器を用いて構成するこれらの方式によれば、例えば、以下に示す本発明の各手段を構成することも可能となる。
【0046】
(1)サイドローブレベル抑制手段
例えば、前述のアレーアンテナ100において、各単位パターンUからの放射の分布を例えば周知のテイラー分布などに制御することにより、xz平面上における指向性に関してそのサイドローブレベルを抑えることができる。
【0047】
(2)ヌル形成手段
また、例えば、前述のアレーアンテナ100において、給電点p1 寄りの8つの単位パターンUのビームの向きをx軸の正の向き(放射がBackward波となる向き)に向け、終端点p2 寄りの8つの単位パターンUのビームをx軸の負の向き(放射がForward 波となる向き)に向けることにより、例えば先の実施例2に例示した場合(図3−B、図6)と同様に、アンテナ正面方向(z軸の正の向き)にヌルを形成することができる。
【0048】
なお、この様にして形成されるヌルの方位は、各単位パターンの液晶13に掛ける電圧を変化させることにより、自在に可変制御することができる。したがって、この場合には、上記の電界設定手段Cが、所望の任意の方向にヌルを形成することができる本発明のヌル形成手段に相当するものと考えることができる。
【0049】
また、先の実施例1の図5−Bのf=f0に関するグラフについては、前述の様にビーム幅が拡大されているが、それと同時に、正面(θ=0°)付近に若干弱いヌルが形成されていると見做すこともできる。即ち、本発明の実効長可変制御手段とヌル形成手段とは、例えば上記の電界設定手段Cなどによって同時に実現可能な手段であると考えることができる。
【0050】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
【0051】
(変形例1)
例えば、動作周波数fを固定して指向性を可変制御する手段(指向性可変制御手段)と、本発明の実効長可変制御手段と、本発明のヌル形成手段と、本発明のサイドローブレベル抑制手段とは、例えば前述の電界設定手段Cなどを用いて、同時に同様に構成することもできる。また、これらの各手段(指向性可変制御手段、実効長可変制御手段、ヌル形成手段、サイドローブレベル抑制手段)は、本発明に基づく1台のアレーアンテナ上においてそれぞれ同時に有効に作用させることもできる。
【0052】
(変形例2)
また、上記の実施例1(図1)では、周期的な配線パターンを主線路の中心線に対して対称形としたが、配線パターンは主線路の中心線に対して対称形でなくても良い。
また、ギャップG1の対峙部やスタブ12の端部などは、必ずしも幅広に拡張しなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、無線通信や電磁波センシングに有用であり、例えば、無線通信装置や、車両の事故防止システムやオートクルーズ制御システムなどに用いられる障害物センサや、或いはその他の車両周辺の物体に対する物体探索手段などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1のアレーアンテナ100の平面図
【図2】実施例1のアレーアンテナ100の断面図
【図3−A】電界設定手段Cの具体的な構成例と操作形態を例示する図
【図3−B】電界設定手段Cの具体的な構成例と操作形態を例示する図
【図4】実効長可変制御手段の効果を例示するグラフ
【図5−A】実効長可変制御手段の効果と利得特性を例示するグラフ
【図5−B】実効長可変制御手段の効果と利得特性を例示するグラフ
【図6】実施例2のヌル形成手段の効果と利得特性を例示するグラフ
【図7】電界設定手段Cのその他の具体的な構成例(実施例3)を例示する図
【図8】従来のストリップアレーアンテナの特性を説明する説明図
【図9−A】その他の従来のビーム走査アンテナの平面図
【図9−B】その他の従来のビーム走査アンテナの断面図
【符号の説明】
【0055】
100 : アレーアンテナ
U : 単位パターン
11 : 主線路
12 : スタブ
13 : 液晶(誘電率可変部材)
15 : 誘電体基板
G1 : ギャップ
C : 電界設定手段
α : 電界制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、
与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、
前記誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、
当該アレーアンテナの実効長を可変制御する実効長可変制御手段と
を有し、
前記単位パターンは、
所定の方向に走る伝送線路と、
前記伝送線路を途中で分断するギャップと、
前記伝送線路から枝分かれするスタブと
を有し、
前記誘電率可変部材は、
前記ギャップまたは前記スタブに対して接近して配置されており、
前記実効長可変制御手段は、
前記電界設定手段を用いて、各前記単位パターンの各放射量を制御することによって当該アレーアンテナの実効長を可変制御する
ことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、
与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、
前記誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、
当該アレーアンテナにおけるサイドローブの発生を抑制するサイドローブレベル抑制手段と
を有し、
前記単位パターンは、
所定の方向に走る伝送線路と、
前記伝送線路を途中で分断するギャップと、
前記伝送線路から枝分かれするスタブと
を有し、
前記誘電率可変部材は、
前記ギャップまたは前記スタブに対して接近して配置されており、
前記サイドローブレベル抑制手段は、
前記電界設定手段を用いて、前記単位パターンの各放射量の分布を制御する
ことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項3】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有するアレーアンテナにおいて、
与えられた電界によって誘電率が変化する誘電率可変部材と、
前記誘電率可変部材に対して電界を与える電界設定手段と、
当該アレーアンテナの放射パターン上にヌルを形成するヌル形成手段と
を有し、
前記単位パターンは、
所定の方向に走る伝送線路と、
前記伝送線路を途中で分断するギャップと、
前記伝送線路から枝分かれするスタブと
を有し、
前記誘電率可変部材は、
前記ギャップまたは前記スタブに対して接近して配置されており、
前記ヌル形成手段は、
前記電界設定手段を用いて、前記単位パターンの各指向性を相異なる複数の向きに制御することによって所望の方向に前記ヌルを形成する
ことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項4】
前記誘電率可変部材は、
液晶または強誘電体から構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
前記誘電率可変部材は、
前記単位パターンと前記接地板との間に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のアレーアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図4】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−A】
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【図9−B】
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【公開番号】特開2007−110330(P2007−110330A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297833(P2005−297833)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】