説明

アロマターゼ活性化剤

【課題】更年期障害等の症状の予防、改善、治療に有効なアロマターゼ活性化剤を提供すること。
【解決手段】アシブトアミガサタケ若しくはビャクブ又はその抽出物を有効成分とするアロマターゼ活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロマターゼの活性を増強するアロマターゼ活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アロマターゼは、性ステロイドホルモン生合成経路の最終段階を触媒し、アンドロゲンからエストロゲンを生合成する、唯一のエストロゲン合成酵素として知られている。アロマターゼは、体内に広く分布するが、厳密な組織特異的発現調節を受けており、この発現調節機構は、I.1型(胎盤)、I.2型(胎盤)、I.3型(脂肪組織、乳がん)、I.4型(皮膚、脂肪組織、骨、胎児)、I.5型(胎児)、I.6型(骨)、I.7型(乳がん)、PII型(卵巣、脂肪組織、乳がん)、I.f型(脳)などの多種のタイプに分けることができる(非特許文献1)と考えられている。
【0003】
アロマターゼによって生合成されるエストロゲンは、一般的に女性ホルモンとも云われ、17β−エストラジオール、エストロン、エストリオール等の存在が知られている。
このエストロゲンは、子宮内膜の増殖(非特許文献2)、性機能の調節(非特許文献3)、骨代謝の調節(非特許文献3)、脂質代謝の調節(非特許文献2)、肌状態(非特許文献2)等様々な生理機能に関与している。
例えば、加齢(年齢の増加)や卵巣機能の低下等に伴って、体内のエストロゲン分泌能が低下してエストロゲンが欠乏し、更年期障害、性機能低下、自律神経失調症、脂質代謝異常、血管運動障害、骨粗しょう症等の症状が現れることが知られている。
このため、体内でのエストロゲンの産生能を高めることができれば、上記エストロゲン欠乏に起因する各種症状の予防又は改善も可能であると考えられている。
【0004】
そこで、アロマターゼの活性を促進することによって、上記症状を改善する植物等に関して、種々のものが検討されている(特許文献1〜4)が、更にアロマターゼ活性化剤が期待されている。
【0005】
ところで、ツルビャクブ(Stemona japonica)の塊根のエタノール抽出物には、活性酸素消去作用(特許文献5)があることが知られている。また、ビャクブ根には、古くから、殺虫作用、抗菌作用、鎮咳作用があることが知られている。
また、アミガサタケ科アミガサタケ属菌の一種であるアシブトアミガサタケ(子実体)の50%エタノール抽出物には、線維芽細胞増殖促進作用、コラーゲン産生促進作用、保湿作用があることが知られている(特許文献6)。
【0006】
しかしながら、上記植物又は菌に、アロマターゼ活性化作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−343872号公報
【特許文献2】特開2005−343873号公報
【特許文献3】特開2008−63270号公報
【特許文献4】特開2008−81440号公報
【特許文献5】特開2007−126368号公報
【特許文献6】特開平5−258022号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Regulation of aromatase expression in estrogen-responsive breast and uterine disease: From bench to treatment., Bulun SE, Lin Z, Imir G, Amin S, Demura M, Yilmaz B, Martin R, Utsunomiya H, Thung S, Gurates B, Tamura M, Langoi D, Deb S., Pharmacol Rev. 2005 Sep;57(3):359-83.
【非特許文献2】からだの科学 No 219 2001 日本評論社
【非特許文献3】女性ホルモンの作用と性差の出現 玉舎輝彦 著 金芳堂 2006年
【非特許文献4】Hormone replacement therapy and the skin., Brincat MP. Maturitas. 2000 May 29;35(2):107-17.、Biology of estrogens in skin: implications for skin aging., Verdier-Sevrain S, Bonte F, Gilchrest B. Exp Dermatol. 2006 Feb;15(2):83-94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性が高く、エストロゲン生成を促進させることができ、上記エストロゲン欠乏に起因する各種症状、の予防、改善又は治療に有効なアロマターゼ活性化剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、天然物由来であってアロマターゼ活性化作用を有する物質について鋭意研究を重ねた結果、アシブトアミガサタケ若しくはビャクブ又はその抽出物に、アロマターゼ、特に線維芽細胞に存在するアロマターゼを活性化する作用等があることを見出し、この知見により本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)のものである。
(1)アシブトアミガサタケ若しくはビャクブ又はその抽出物を有効成分とするアロマターゼ活性化剤。
(2)抽出物が、水抽出物、アルコール類抽出物、アルコール類−水混合液抽出物又はヘキサン抽出物である前記(1)記載のアロマターゼ活性化剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアロマターゼ活性化剤は、天然由来であるので安全性が高く、エストロゲン生成を促進させることから、エストロゲン欠乏に起因する各種症状の予防、改善又は治療の効果を発揮する医薬品等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いるアシブトアミガサタケとは、アミガサタケ科アミガサタケ属菌類のMorchella crassipesを意味する(植物リファレンス辞典,日外アソシエーツ株式会社、2004年発行)。これは、大形の子実体を作る食用菌として知られている。
【0014】
本発明に用いるビャクブとは、ビャクブ科(Stemonaceae)植物のツルビャクブ(Stemona japonica Miq)、タチビャクブ(S. sessilifolia FR. et SAV)、タマビャクブ(S. tuberosa LOUR.)及びこれらの近縁植物から選ばれる少なくとも1種を意味する(中薬大辞典,上海科学技術出版社・株式会社 小学館編集,株式会社 小学館 1985年発行)。このうち、ツルビャクブが好ましい。
【0015】
本発明における菌類としては、その菌類の子実体又は菌糸体等;本発明における植物としては、その植物の全草、葉(葉身、葉柄等)、樹皮、木質部、枝、果実(成熟、未熟等)、種子、花(花弁、子房等)、茎、根茎、根、塊根等を、そのまま、破砕、粉砕、搾取して用いるか、又はこれら処理されたものを乾燥若しくは粉末化して用いることができる。
用いる部位としては、アシブトアミガサタケについては子実体を;ビャクブについては塊根を、使用するのが好ましい。
尚、本発明に用いる上記菌類若しくは植物を単独で、又は上記菌類及び植物から選ばれる2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0016】
本発明における抽出物とは、本発明に用いる菌類又は植物を一定温度(低温、常温又は加温)下にて抽出すること;又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出すること等の抽出手段により得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその粉末を意味するものである。
【0017】
本発明の菌類又は植物の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤の何れをも使用することができる。当該抽出溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状又は環状のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワレン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ピリジン類;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他のオイル等が挙げられる。これら溶剤は、単独で又は2種以上混合して混合液として使用することができる。
この溶剤のうち、水、アルコール類(好ましくは炭素数1〜5)、水−アルコール類混合液、炭化水素類(好ましくはヘキサン)が好ましい。このうち、水、エタノール、水−エタノール混合液、ヘキサンが好ましい。
水−エタノール混合液やエタノールを用いる場合、当該混合液中のエタノール濃度(V/V)は、0.01〜100容量%未満であるのが好ましく、20〜100容量%であるのがより好ましく、40〜100容量%であるのが更に好ましい。
【0018】
溶剤の使用量は、菌類又は植物1質量部(乾燥物換算)に対して、1〜50質量部であるのが好ましく、5〜40質量部であるのが好ましい。抽出温度は、0〜100℃であるのが好ましく、より4〜80℃、更に4〜60℃であるのが好ましい。抽出時間は、1分〜150日間であるのが好ましく、より30分〜50日間、更に60分〜30日間であるのが好ましい。
一例として、抽出物を得る際、菌類又は植物1質量部(乾燥物換算)に対して、20〜80容量%エタノール−水混液、エタノール、ヘキサン又は水の1〜50質量部の溶剤を用い、4〜50℃の温度(好ましくは、4〜40℃)で、1時間〜50日間(好ましくは1〜45日間)抽出するのが好ましい。
また、抽出の際、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、非酸化的雰囲気下で行なってもよい。
【0019】
上記にて得られた菌類又は植物抽出物は、単独で又は混合して、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮又は凍結乾燥して、液状、粉末状又はペースト状に調製して用いることもできる。
また、得られた菌類又は植物抽出物は、クロマトグラフィー、液液分配、ゲルろ過分離、活性炭処理等の公知の分離技術により、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることができる。
【0020】
後記実施例に示すように、本発明の菌類或いは植物又はその抽出物は、線維芽細胞型アロマターゼ遺伝子の発現を増強させたり、線維芽細胞に存在するアロマターゼを活性化させるので、優れたアロマターゼ活性化作用を有する。
よって、本発明の植物又はその抽出物は、組織内のエストロゲン量を増加させることができるので、更年期障害、性機能低下(排泄障害、膣炎、性機能低下等)、自律神経失調症(ほてり、多汗等)、精神神経症状(うつ、不眠症等)脂質代謝異常(動脈硬化、コレステロール上昇、脳梗塞等)、血管運動障害、骨粗しょう症(腰痛、骨折等)等の体内のエストロゲン減少によって現れる各種症状(非特許文献2及び3)の予防、改善又は治療にも有効であると考えられる。
従って、本発明の菌類或いは植物又はその抽出物は、アロマターゼ活性化剤として使用でき、さらにこの製剤を製造するために使用することができる。このとき、当該アロマターゼ活性化剤では、当該菌類或いは植物又はその抽出物を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0021】
斯かるアロマターゼ活性化剤は、更年期障害予防又は改善作用や骨粗鬆症予防又は改善作用等の各効果を発揮する、ヒト若しくは非ヒト動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、皮膚外用剤、入浴剤等として又はこれらの有効成分として配合して使用することができる。また、食品は、上記各種症状予防又は改善作用、特に、更年期障害の予防又は改善作用や骨粗鬆症予防又は改善作用等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、病者用食品、特定保健用食品等の機能性食品の有効成分として使用することができる。
【0022】
本発明のアロマターゼ活性化剤は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口投与、並びに経皮、経腸、経結膜及び注射等の非経口投与が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与のための製剤の剤型としては、塗布剤又は貼付剤等の外用剤、静脈内注射用、皮下注射用又は点滴注射用等の注射剤、吸入剤、輸液、座剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
斯かる製剤では、本発明の上記菌類若しくは植物又はその抽出物を単独で、またこれと、薬学的に許容される担体とを組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0023】
本発明のアロマターゼ活性化剤を、経口投与用製剤として用いる場合、本発明の上記菌類或いは植物又はその抽出物の含有量は、製剤全質量中、乾燥物換算で、通常0.0001〜20質量%、より0.01〜5質量%であるのが好ましい。
上記経口投与製剤の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、本発明の上記菌類或いは植物又はその抽出物の投与量は、成人(60kg)1日当たり、通常0.001〜1200mg、より0.01〜300mgであるのが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日当たり1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0024】
本発明のアロマターゼ活性化剤を、食品の有効成分として用いる場合、当該食品の形態は、固形、半固形又は液状等であり得る。食品としては、例えば、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、澱粉加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、及びそれらの原料等が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様の、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、粉末剤、顆粒剤等の形態であってもよい。
これら食品を調製するには、本発のアロマターゼ活性化剤を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油脂、乳化剤、防腐剤、香料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
また、食品中の、本発明の上記菌類或いは植物又はその抽出物の含有量は、その使用形態により異なる。飲料の形態では、乾燥物換算で、通常、0.0001〜20質量%、より0.001〜5質量%であるのが好ましい。また、錠剤や加工食品等の固形食品の形態では、乾燥物換算で、0.0001〜20質量%、より0.01〜5質量%であるのが好ましい。
【0025】
また、本発明のアロマターゼ活性化剤等を、飼料の有効成分として用いる場合には、当該飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、本発明のアロマターゼ活性化剤の他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を組み合わせて用いることができる。
また、飼料中の、本発明の上記菌類或いは植物又はその抽出物の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常、0.0001〜20質量%であり、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい
【0026】
本発明のアロマターゼ活性化剤を、経皮的に投与する場合は、当該経皮投与組成物中の本発明の上記菌類或いは植物又はその抽出物は、乾燥物換算で、通常、0.0001〜20質量%であり、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
製造例1
乾燥したビャクブ(学名 Stemona japonica Miq.)の根40gに、10倍量(0.4L)の50容量%(以下、「%」とする)エタノール−水混合溶液を加え、常温(20〜30℃程度)、41日間で抽出し、不溶物をろ別後、抽出液を得、減圧濃縮し、ビャクブの50%エタノール抽出乾固物1を得た。
また「50%エタノール−水混合溶液」を「95%エタノール」に代えた以外は、上記と同様にしてビャクブのエタノール抽出乾固物2を得た。
また「50%エタノール−水混合溶液」を「ヘキサン」に代えた以外は、上記と同様にしてビャクブのヘキサン抽出乾固物3を得た。
また、「50%エタノール−水混合溶液」を「水」に代えた以外は、上記と同様にしてビャクブの水抽出乾固物4を得た。
【0029】
製造例2
乾燥したアシブトアミガサタケ(学名 Morchella crassipes (Vent.)Pers.)の子実体50gに、10倍量(0.5L)の50%エタノール−水混合溶液を加え、常温(20〜30℃程度)、20日間で抽出し、不溶物をろ別後、抽出液を得、減圧濃縮し、アシブトアミガサタケの50%エタノール抽出乾固物5を得た。
また「50%エタノール−水混合溶液」を「95%エタノール」に代えた以外は、上記と同様にしてアシブトアミガサタケのエタノール抽出乾固物6を得た。
また「50%エタノール−水混合溶液」を「ヘキサン」に代えた以外は、上記と同様にしてアシブトアミガサタケのヘキサン抽出乾固物7を得た。
また、「50%エタノール−水混合溶液」を「水」に代えた以外は、上記と同様にしてアシブトアミガサタケの水抽出乾固物8を得た。
【0030】
試験例1:各抽出物におけるアロマターゼ遺伝子発現増強作用
<各抽出物>
製造例1〜2で得られた各抽出物1〜8を用いた。50%エタノールにて溶解し、それぞれ抽出物溶液1〜8とした。コントロールは、50%エタノールとした。
<レポータージーンアッセイ系の構築>
ヒト正常ケラチノサイトより抽出したゲノムDNAより、ヒトアロマターゼ遺伝子エクソンI.4の転写調節領域とエクソンI.4の一部を含む部分を、以下のプライマーを用いて
PCRを行って増幅した。
upper primer 5'- GACTAGTAAGGTGCAGTGACAGGCTC -3'(配列番号1)
lower primer 5'- GGAATTCCTGTCAGGCTCCAGTTGGTC -3'(配列番号2)
得られたPCR産物を制限酵素SpeIとEcoRIで処理し、シーパンジーnullコントロールベクター(東洋インキ製造株式会社)のSpeIサイトとEcoRIサイトに組み込み、これをExI.4−lucプラスミドとして、後述のルシフェラーゼアッセイに用いた。
【0031】
<アロマターゼ遺伝子エクソンI.4発現増加作用>
(i)使用細胞:
ヒト皮膚由来正常線維芽細胞
(ii)使用プラスミド:
アロマターゼ遺伝子エクソンI.4の転写調節領域、約1kbをルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込んだExI.4−lucと生細胞に導入されるとホタルルシフェラーゼが強制発現されるコントロールベクター(東洋インキ製造株式会社)を用いた。
(iii)細胞へのトランスフェクション:
ヒト皮膚由来正常線維芽細胞を96ウェル培養プレート中に3万個ずつまき、ExI.4−lucとコントロールベクターを10:1で混合し、リポフェクトアミン試薬(Invitrogen)を用いて導入した。プロトコールは試薬に添付された説明書の記載に従った。DNAの量は1ウェル当たり0.1μg用いた。コントロールとして2つのウェルに対しては、DNAを加えずに同様の操作を行った。
(iv)ルシフェラーゼアッセイ:
トランスフェクションを行った細胞を1晩培養した後、製造例で調製した抽出物1及び4の2試料をそれぞれ加え(蒸発残分〔培地中に添加した終濃度〕0.01又は0.001(w/v%))、24時間培養した。また、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。細胞の溶解は5xLysis Bufferを1x濃度に調整し、各ウェルに25μL加えて細胞を溶解した。
【0032】
よって、下記表1に示すように、上記抽出物は、線維芽細胞型アロマターゼ遺伝子発現増強作用、従ってまたアロマターゼ産生促進作用を有している。
【0033】
【表1】

【0034】
試験例2:菌類又は植物抽出物におけるアロマターゼ活性化試験
上記抽出物1〜8を試料として用いた。
ヒト皮膚由来線維芽細胞(HDF1616:KURABO)を使用した。
24穴細胞培養プレート(FALCON)にヒト皮膚線維芽細胞を播種し、コンフルエントになるまで培養した。培地を除き、無血清培地900μLを加えて24時間培養した。
その際、ウェルには最終濃度が0.01w/v%となるように50%エタノール水溶液を用いて調整した各抽出物1〜8の9μLを3ウェルずつに加えた。
また、ネガティブコントロールとして50%エタノール水溶液9μLを加えたものと、何も添加しないものを用意した。
バックグラウンドには細胞を含まない培地を用い、薬剤を加えず同様の時間インキュベートし、その後も同様の操作をした。アロマターゼの基質である1β-3H-androst-4-ene-3, 17-dione (PerkinElmer)を37kBq/100μLとなる様に無血清培地に加え、各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。1ウェルから900μLを2mLチューブにとり、CHCl3 1mLを加え激しく攪拌した。15,000rpm,10分間遠心して上層(水層)を別のチューブに移した。Charcoal/Dextran (Charcoal, dextran coated (SIGMA) 5gをH2O 50mLに懸濁したもの)200μLを加えてよく混ぜ、30分間室温で放置した。15,000rpm,10分間遠心し、上清を新しいチューブに移した。CHCl3 1mLを加え激しく攪拌し、15,000rpm,10分間遠心して上層(水層)をUltimaGold (PerkinElmer) 5mLに加え、液体シンチレーションカウンター(PerkinElmer Tricarb 2550)で3Hの放射活性を測定した。
なお、上記測定方法は、文献Stampfer MJ, Willett WC, Colditz GA, Rosner B, Speizer FE and Hennenkens CH, N. Engl. J. Med., 313, 1044-1049, 1985を参考にして行った。
よって、下記表2に示すように、基質の分解が促進されたことから、上記抽出物は、線維芽細胞に存在するアロマターゼの活性化作用を有している。
【0035】
【表2】

【0036】
以上のことから、ビャクブ及びアシブトアミガサタケの各原料から、水、40〜60%エタノール、90〜100%エタノール及びヘキサンの各溶剤にて抽出された各抽出物は、何れも優れたアロマターゼ活性化作用を有していた。よって、ビャクブ若しくはアシブトアミガサタケ又はその抽出物は、アロマターゼ活性化剤等の有効成分として有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシブトアミガサタケ若しくはビャクブ又はその抽出物を有効成分とするアロマターゼ活性化剤。
【請求項2】
抽出物が、水抽出物、アルコール類抽出物、アルコール類−水混合液抽出物又はヘキサン抽出物である請求項1記載のアロマターゼ活性化剤。

【公開番号】特開2011−102265(P2011−102265A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257760(P2009−257760)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】