説明

アンテナおよびそれを用いた無線通信装置

【課題】低周波数帯と高周波数帯とに対応可能であって、高周波帯のアンテナ特性への影響を抑えつつ、低周波帯の通信帯域の切り換えを行うことが可能なアンテナおよび無線通信装置を提供する。
【解決手段】一端が給電点に接続され、他端が開放端である第1の線路と、前記第1の線路の一端側を接地する接地線路と、一端が前記給電点に接続され、他端が開放端である、前記第1の線路よりも短い第2の線路とを有し、複数の通信帯域での通信を可能とするアンテナであって、前記第1の線路の途中に接続されたスイッチ回路と、一端が前記スイッチ回路に接続され、他端が接地されたインダクタンス素子とを有し、前記スイッチ回路によって前記インダクタンス素子と前記第1の線路との接続状態を切り換えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に用いられるアンテナに関し、特には広範囲の周波数帯において通信する無線通信装置において、共振周波数を変化させることが可能なマルチバンドアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の無線通信装置が急速に普及し、通信に使用する周波数帯域も多岐に亘っている。特に、最近の携帯電話では、デュアルバンド方式、トリプルバンド方式、クワッドバンド方式等と呼ばれるように、複数の送受信帯域を一つの携帯電話に装備する例が多くなっている。
例えば、GSM(登録商標)850/900帯、DCS帯、PCS帯、UMTS帯の通信システムに対応したクワッドバンド方式の携帯電話では、各システムで利用される周波数帯が、GSM850/900帯:824〜960MHz、DCS帯:1710〜1850MHz、PCS帯:1850〜1990MHz、UMTS帯:1920〜2170MHzであるので、携帯電話に内蔵されるアンテナ回路を構成するアンテナとして、複数の周波数帯域に対応可能なアンテナが要求されている。
【0003】
通常アンテナを構成する放射素子(放射電極、放射線路、あるいは線路とも呼ばれる)は、基本となる周波数で共振するとともに、高次の周波数でも共振する。例えば1/4波長での共振を基本モードとすれば、高次モードでは3/4波長での共振となる。従って一つの放射素子でも、複数の周波数帯域が1:3の関係にあれば対応可能であるものの、高次モードの共振は帯域幅が狭いといった問題がある。
基本モードの共振をGSM850/900帯で得るとすると、DCS帯等を高次モードの共振で対応することとなる。しかしながら、DCS帯、PCS帯、UMTS帯は、GSM帯の略2〜2.5倍の周波数であって、単純には対応できない。
更に、GSM850/900帯の周波数帯域幅は136MHz、比帯域幅は約15.3%〔136MHz/892MHz〕であり、DCS帯、PCS帯、UMTS帯では周波数帯域幅が460MHzであり、比帯域幅は約23.7%〔460MHz/1940MHz〕であって、それぞれ帯域幅が広く、一つの放射素子による共振だけでは十分な帯域幅も確保できない問題があった。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、給電点と接続された放射電極と、放射電極と電磁結合する無給電放射電極を有し、放射電極の開放端部とグランドとの間に接続する静電容量の付与量をスイッチ部によって可変にするアンテナが開示されている。このアンテナは放射電極と無給電放射電極との複共振によって、高次周波数帯の広帯域化を図り、基本モードの基本モード周波数帯と共に高次モードの高次モード周波数帯も無線通信用として使用してマルチバンド化されている。そしてグランド側電極と放射電極の開放端部との間に形成される静電容量の容量値を変化させることで、放射電極のアンテナ動作に基づいた基本周波数帯の共振周波数を、利用する周波数にあわせて調整し、異なる周波数で無線通信を可能とすることも提案している。
なお以下の説明では、複数の通信システムにおいて、GSM850/900等、相対的に低い周波数を利用するシステムの周波数帯を低周波数帯とし、DCS、PCS、UMTS等、相対的に高い周波数を利用するシステムの周波数帯を高周波数帯とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−150937号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のアンテナでは、複数の放射電極によって高次モード周波数帯を広帯域化するとともに、放射電極の開放端部とグランドとの間の静電容量の付与量を切り換えて基本モード周波数帯における共振周波数を可変としているが、アンテナの構成上、容量をアンテナの放射電極の開放端部に接続して接地する構成であるので、回路としてはリアクタンスが放射電極の開放端部に直列に接続されることとなる。この様な構成であっては、基本モード周波数帯における共振周波数の変化に伴って、高次モード周波数帯の共振周波数もまた変化し易く、高次モード周波数帯のVSWR特性が劣化し、複数の周波数帯の通信システムに対応したマルチバンドアンテナとして機能しなくなる問題が発生した。
【0007】
そこで本発明では、低周波数帯と高周波数帯とに対応可能であって、高周波帯のアンテナ特性への影響を抑えつつ、低周波帯の通信帯域の切り換えを行うことが可能なアンテナおよび無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一端が給電点に接続され、他端が開放端である第1の線路と、前記第1の線路の一端側を接地する接地線路と、一端が前記給電点に接続され、他端が開放端である、前記第1の線路よりも短い第2の線路とを有するアンテナであって、前記第1の線路の途中に接続されたスイッチ回路と、一端が前記スイッチ回路に接続され、他端が接地されたインダクタンス素子とを有し、前記スイッチ回路によって前記インダクタンス素子と前記第1の線路との接続状態を切り換えることを特徴とする。かかる構成によれば、第2の線路を用いて構成される高周波帯のアンテナ特性への影響を抑えつつ、低周波帯の通信帯域の切り換えが可能である。
【0009】
また、前記アンテナにおいて、前記接続状態の切り換えにより、前記複数の通信帯域のうち周波数が最も低い低周波帯の通信帯域を切り換えるとともに、
前記接続状態のうちの少なくとも一つの接続状態において、前記低周波帯の通信帯域よりも高周波側の複数の通信帯域におけるVSWRが3以下であることが好ましい。かかる構成によれば、高周波側の複数の通信帯域をカバーしつつ、低周波側の通信帯域を可変にしたチューナブルのマルチバンドアンテナが提供できる。
【0010】
さらに、前記アンテナにおいて、前記スイッチ回路が共通端子と複数の分岐端子との接続を切り換えるFETスイッチであり、前記共通端子が前記第1の線路に接続され、前記複数の分岐端子の少なくとも一つに前記インダクタンス素子が接続されていることが好ましい。
【0011】
さらに、前記アンテナにおいて、前記複数の分岐端子の一つが、オープンになっていることが好ましい。
【0012】
一方、前記アンテナにおいて、前記複数の分岐端子には、それぞれインダクタンス値の異なる前記インダクタンス素子が接続されていることも好ましい。
【0013】
本発明の無線通信装置は、前記アンテナを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低周波数帯と高周波数帯とに対応可能であって、高周波帯のアンテナ特性への影響を抑えつつ、低周波帯の通信帯域の切り換えを行うことが可能なアンテナおよび無線通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアンテナの一実施形態を示す図である。
【図2】スイッチ回路の一例を示す図である。
【図3】本発明に係るアンテナの他の実施形態を示す図である。
【図4】スイッチ回路の他の例を示す図である。
【図5】本発明に係るアンテナの他の実施形態を示す等価回路である。
【図6】本発明に係るアンテナの実施例を示す斜視図である。
【図7】図6に示す実施例のアンテナのVSWR特性を示す図である。
【図8】VSWR特性の、接続線路の接続位置依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るアンテナおよび無線通信装置の実施形態について図を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施形態において説明する構成は、他の実施形態の趣旨を損なわない限りにおいて他の実施形態においても適用することが可能であり、その場合、重複する説明は適宜省略する。
【0017】
以下に示す実施形態では、アンテナの基本構成を逆F型アンテナとしている。なお本発明は逆F型アンテナ以外のモノポールアンテナ、例えば逆L型アンテナやT型アンテナであっても適用することができ、特に限定されるものではない。
【0018】
図1に示した第1の実施形態のアンテナ10は、一端が給電点5に接続され、他端が開放端である第1の線路1と、第1の線路の一端側を接地する接地線路3と、一端が給電点5に接続され、他端が開放端である、第1の線路よりも短い第2の線路2とを有する。
【0019】
一般的に逆F型アンテナは、線路を基本波(第1の共振周波数f1r)のλ/4(λ:波長)で共振させると、給電点では電流が最大となり、開放端で電流は零となる。電圧は開放端で最大となる。給電点でのインピーダンス整合を考慮すれば、前記線路は基本波の第3次高調波で共振させることができ、単純には周波数比が1(基本波)対3のマルチバンドアンテナが得られる。しかしながら、代表的携帯電話の周波数帯域を例に取れば、1000MHz以下の低周波帯のGSMに対してDCS等の高周波帯で高次モードの共振を得るとともに、高次モードの共振のみで、所望の周波数帯域で電圧定在波比VSWRを所定の数値以下とするのは困難である。そこで本発明のアンテナでは、低周波数帯用の線路と高周波数帯用の線路とを合わせて用いることで、第1の共振周波数f1r(低周波数帯)の約2倍の周波数を含む高周波数帯で共振する第2の共振を得ている。
【0020】
第1の線路1の長さは、実質的に低周波数帯域内で直列共振する共振周波数f1rの波長λ1の略1/4となっており、直列共振モードで動作する第1の放射素子を構成している。第1の放射素子が直列共振する時の電流分布は、その開放端で0(零)となり、接地線路3との接続点4の近傍にて最大となる。接続点4では、実質的に電圧が0(零)となり、インピーダンスはショート状態となっている。 第2の線路2の長さは、実質的に高周波数帯域内で直列共振する共振周波数f2rの波長λ2の略1/4となっており、直列共振モードで動作する第2の放射素子を構成している。第2の放射素子が直列共振する時の電流分布は、第1の放射素子と同様となる。なお、第1の線路と第2の線路との接続点から給電点5までの線路は第1の線路と第2の線路とで共用している。接地線路の接続点4の位置を調整することで、第1の放射素子及び第2の放射素子のインピーダンスを調整することができる。また、第1の線路および/または第2の線路とグランドとの間にリアクタンス素子を接続したりすることで、第1の放射素子及び第2の放射素子のインピーダンスを調整することもできる。
【0021】
第1の線路1はグランド面GNDに対して水平に延びる構成であるが、途中で逆方向に折り返す線路として構成しても良く、折り返しは多重であっても構わない。また、第2の線路2も折り返す線路として構成しても良いし、ミアンダ状の折り返し線路としても良い。
【0022】
図1に示す第1の実施形態のアンテナでは、第1の線路1の途中に接続されたスイッチ回路SW1と、一端がスイッチ回路SW1に接続され、他端が接地されたインダクタンス素子L1とを有する。第1の線路1とスイッチ回路SW1との間に配置されているキャパシタンス素子C1と、スイッチ回路SW1とインダクタンス素子L1との間に配置されたキャパシタンス素子C2は、DCカットコンデンサである。スイッチ回路SW1によってインダクタンス素子L1と第1の線路1との接続状態を切り換える。なお、インダクタンス素子L1とキャパシタンス素子C2の位置は、入れ替えても良い。図1に示す実施形態では、スイッチ回路SW1は、SPST型、すなわちON/OFF型のスイッチ回路であり、第1の線路1にインダクタンス素子L1が接続された状態と、接続されていない状態とを切り換える。かかるスイッチ回路SW1による切り換えによって、第1の線路1で構成される第1の放射素子の直列共振モードの共振周波数を変化させ、チューナブルアンテナが実現される。例えば、SW1をONにしてインダクタンス素子L1を接続した状態にすると、SW1がOFFの場合に比べて、第1の放射素子の直列共振モードの共振を50MHz程度高周波側に移動させることができる。したがって、SW1がOFFの状態をGSM850帯に、SW1がONの状態をGSM900帯に合わせることによって、これら複数の通信帯域に対応が可能となる。インダクタンス素子L1のインダクタンス値を変えることで通信帯域のシフト量を変えることができる。インダクタンス素子L1は第1の線路の途中に接続されているため、高周波側の通信帯域に対応する第2の線路の主共振への影響を抑えつつ、低周波側の通信帯域を可変にすることができる。
【0023】
スイッチ回路SW1の構成例を図2に示す。図2(a)に示したスイッチ回路SW1はダイオードを用いて構成されたSPST型のスイッチ回路である。ダイオードは二つのDCカットコンデンサの間に接続され、インダクタンス素子を介して制御電圧Vcが印加されて、ON/OFF制御される。また、図2(b)に示すように、ダイオードのアノードを第1の線路側、カソードをインダクタンス素子L1の接地側とし、該インダクタ素子L1を介して接地するように配置することによって、部品点数を削減することが可能である。なお、スイッチ回路SW1の構成は図2に記載されたものに限らない。例えば電界効果トランジスタ(FET)を用いたスイッチ回路でも良い。
【0024】
次に、図3に第2の実施形態のアンテナ20を示す。図3に示す実施形態は、第1の実施形態とスイッチ回路に係る部分の構成が異なり、その他の構成は同様であるので、その説明は省略する。スイッチ回路SW2を挟んでDCカットコンデンサとしてキャパシタンス素子C3、C4が配置されている点も第1の実施形態と同様である。第2の実施形態では、スイッチ回路SW2が共通端子と二つの分岐端子との接続を切り換えるSPDT型のFETスイッチであり、その共通端子が第1の線路1に接続され、二つの分岐端子のうちの一つにインダクタンス素子L2が接続されている。他方の分岐端子にはインダクタンス素子等は接続されず、オープンになっている。共通端子と各分岐端子との接続を切り換えることによって、第1の線路1にインダクタンス素子L2が接続された状態と、接続されていない状態とを切り換えることができる。また、図3に示した接地線路3の接地端側を直接接地させる構成の代わりに、インダクタンス素子を介して接地させることにより、共振インピーダンスを微調整することもできる。
【0025】
スイッチ回路SW2の構成例を図4に示す。図4に示したスイッチ回路SW2は、複数の電界効果トランジスタTr1〜Tr4を用いて構成されたSPDT型のFETスイッチである。Tr1とTr4のゲートには共通の制御電源から制御電圧Vc2が印加され、Tr2とTr4のゲートには共通の制御電源から制御電圧Vc1が印加される。制御電圧Vc1およびVc2によって、共通端子Pcと分岐端子P1またはP2との接続が切り換えられる。なお、スイッチ回路は複数の分岐端子を有していればよいので、SPDT型のスイッチ回路に限定されるものではなく、三つ以上の分岐端子があるものでもよい。この場合、複数の分岐端子の少なくとも一つにインダクタンス素子を接続し、分岐端子のうちの一つが、オープンになっていればよい。
【0026】
複数の分岐端子の少なくとも一つにインダクタンス素子が接続された他の実施形態として、第3の実施形態を図5に示す。第3の実施形態のアンテナ30は、スイッチ回路の分岐端子に接続される部分の構成が第2の実施形態と異なり、その他の構成は同様であるので、その説明は省略する。共通端子が第1の線路1に接続され、二つの分岐端子のうちの一つにはインダクタンス素子L3が、他方の分岐端子にはインダクタンス素子L4が接続されている。また、スイッチ回路SW2の共通端子側にはキャパシタンス素子C5が、二つの切り換え端子側にはそれぞれキャパシタンス素子C6、C7がDCカットコンデンサとして接続されている。二つの分岐端子に、それぞれインダクタンス値の異なるインダクタンス素子が接続されている第3の実施形態の構成によれば、切り換えによるインダクタンス値の選択の自由度、ひいては通信帯域の調整の自由度が高くなる。かかる構成は、第1の線路の形状・大きさに制約がある場合などに有効である。
【0027】
図3および図5に示した実施形態では、SPDT型のスイッチ回路としてFETスイッチの例を示したが、SPDT型のスイッチ回路はこれに限らず、ダイオードを用いて構成してもよい。但し、小型化の観点からは、GaAsスイッチ、CMOSスイッチなど、単体でその機能を有するFETスイッチがより好ましい。また、図3および図5に示した実施形態では、スイッチ回路として分岐端子が二つのSPDT型のスイッチ回路の例を示したが、分岐端子は複数あればよく、SPDT型のスイッチ回路に限定されるものではなく、三つ以上の分岐端子があるものでもよい。その場合、分岐端子の全てにインダクタンス素子を接続してもよいし、一部の分岐端子がオープンであったり、インダクタンス素子を接続しない構成でもよい。但し、FETを用いたSPnT(nが2以上の自然数である単極複投)型スイッチ回路を用いる場合、分岐端子が三つ以上(nが3以上の自然数)のSPnT型スイッチ回路を用いて、三つ以上の状態を切り換える構成が、SPnT型スイッチ回路の複投(nT)の機能を活かす上では好ましい。
【0028】
第1の線路、第2の線路、接地線路は、Cuやリン青銅からなる導体薄板で構成するのが好ましく、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチックを用いて射出成形して一体化するのも好ましい。この場合、携帯端末の筐体部分と同時成形することも可能である。リン青銅などの合金で放射電極を形成すれば、それ自体が加工容易であるとともに、外力に対して変形し難い特性を有するので、支持体に依らず自由な形状に放射素子を形成することが可能となり好ましい。また、線路導体をフレキシブルプリント基板 (FPC:Flexible Printed Circuits)等を用いて形成することにより、携帯端末の搭載面によらず、設置することが可能となり、搭載自由度を向上させることが可能である。
【0029】
また各線路をプリント基板やセラミック素体に形成しても良いし、アンテナの一部をリン青銅などの導体薄板とし他部をプリント基板等に構成して組み合わせても良い。セラミック素体は、アルミナや他の誘電体セラミクス材料から成るセラミック基板に、印刷法やエッチング法などの公知の手法によって低抵抗のAu,Ag,Cu等の良導体で形成する場合がある。プリント基板は、FR4(ガラスエポキシ樹脂基板)などのリジッド基板や、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド類、ナイロン等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類等からなるフレキシブル基板などの所謂プリント基板に、エッチング法や、フォトリソグラフィ法などの公知の手法によって形成される。フレキシブル基板で構成する場合には支持体の形状にならって変形容易であるので、アンテナが配置される筐体内の限られた空間を有効に利用することができる。グランド面GNDを有する実装基板も、プリント基板などによって形成することができる。
【0030】
本発明に係るアンテナを用いて携帯電話等の無線通信装置を構成することができる。本発明に係るアンテナは、例えば無線通信装置の主回路基板に直接構成してもよいし、主回路基板とは別の実装基板に構成し、該実装基板を無線通信装置に組み込んでも良い。
【実施例】
【0031】
図6に本発明に係るアンテナの具体的な構成例を示す。このアンテナ40は、第1の放射素子と第2の放射素子によって、低周波数帯域と高周波数帯内の周波数で共振する逆Fアンテナであって、給電回路が構成される主回路基板(図示せず)とは分離した実装基板49を用いる構成である。実装基板49と主回路基板との間の高周波信号経路との接続は同軸ケーブルにより行なわれる。なお、主回路基板に第1の放射素子と第2の放射素子を設ける構成であっても本発明の効果には変わりは無い。
【0032】
銅張両面導体基板(ガラスエポキシ基板)として構成された実装基板49には、Cu板金からなる厚さ0.2mmの薄板で一体的に形成された複数の放射素子が、実装基板49に立設される。実装基板49には、後述するDCカットコンデンサやインダクタンス素子などが実装され、それぞれが実装基板49に形成された配線で適宜接続されている。
【0033】
実装基板49に立設された、一体的に形成された放射素子の一端側は、給電点45に接続される。その逆側は、実装基板49のグランド面GNDから遠ざかる方向(図6では実装基板に垂直な方向。以下鉛直方向ともいう)に延び、所定の高さで、第1の放射素子を構成する第1の線路41と、第2の放射素子を構成する第2の線路42とに分岐している。通常アンテナはグランド面から離間させるほどに放射利得が向上する。従って本実施例では実装基板49に対して第1の線路と第2の線路を所定の高さに配置して、グランド面GNDとの距離を確保している。なお、図6に示す実施例では、第1の線路41よりも第2の線路42の方がグランド面GNDに近い位置で分岐している。第1の線路および第2の線路は幅1mm〜1.5mmの帯状に形成されている。第1の線路41は、鉛直方向の端部で、幅広の主面が実装基板49の主面と対向するように折り曲げられている。第1の線路41は、実装基板49の主面と略平行に給電点から遠ざかる方向に延び、その先端は開放端になっている。実装基板49は寸法が縦9mm×横48mm×厚み0.9mmの概略矩形状に形成されており、その長辺に沿って第1の線路41が配置されている。その給電点からの長さは約55mmである。第1の線路の下方には、第2の線路42が第1の線路41と同じ方向に延びており、その先端は開放端になっている。第2の線路は、その主面の向きが90°変わるように途中で折り曲げられている。第2の線路の長さは第1の線路よりも短く、約18mmである。この様にして、縦10mm以下、横48mm以下、高さ6mm以下のマルチバンドアンテナを構成することが可能である。
【0034】
図6に示す実施例では、実装基板49の主面と略平行に給電点から遠ざかる方向に延びている第1の線路41の途中に接続線路46を介してスイッチ48が接続されている。接続位置は、第1の線路に沿って給電点の位置から14mmの位置、すなわち、給電点から起算して、第1の線路の全長の25%の位置である。図6に示す実施例の等価回路は図3に示すものと同様である。なお、図6に示す実施例では、第1の線路41は開放端に近い側で分岐部分を有する他、波長短縮等の目的のために誘電体素子47を備えるが、これらの有無、形態は、必要とされる特性に応じて変更すればよい。
【0035】
インダクタンス素子L2のインダクタンス値を15nHとし、オープンとの間で切り換えを行い、その時のVSWRを評価した。なお、キャパシタンス素子C3、C4の容量値は220pF、100pFである。評価結果を図7に示す。図7において1〜5のマーカーはそれぞれ824MHz、880MHz、960MHz、1710MHz、2170MHzを指している。15nHのインダクタンスとオープンとの切り換えによって、低周波帯のピークを850MHzと900MHzとに切り換えることが可能となっている。オープンへの切り換えの際、中心周波数850MHzでVSWRは3以下、GSM850の通信帯域に相当する824〜894MHzでVSWRは4以下となった。また、15nHのインダクタンスへの切り換えの際も、中心周波数900MHzでVSWRは3以下、GSM900の通信帯域に相当する880〜960MHzでVSWRは4以下の値が得られた。
【0036】
これら、低周波帯の切り換えを行った場合でも、700MHz以上高周波側に位置する高周波帯である1710MHz付近のピークにはほとんど影響を与えなかった。1710MHz付近のピークは第2の線路で構成される第2の放射素子の共振によるものである。実施例の構成では、スイッチ回路を接続するための接続線路が第1の線路の途中に接続されているため、その接続が第2の放射素子の共振に影響しにくい構造になっているのである。さらに、DCS、PCS、UMTSなど高周波側の複数の通信システムをカバーする1710MHz〜2170MHzの帯域において、いずれに切り換えても3以下の良好なVSWRが得られた。すなわち、図6に示す実施例の構成では、第2の放射素子の直列共振に対応する1710MHz付近の帯域だけでなく、高周波側の広帯域に渡って、切り換えによるVSWRの変動が抑えられていた。なお、上記1710MHz〜2170MHzの帯域を含む少なくとも550MHzの帯域幅において、いずれの切り換え状態においてもVSWRは4以下になっていることもわかる。図6に示す実施例のように、第1の線路が接続点4よりも先端側に互いに平行に配置されるような分岐部分を有する場合、1710MHz〜2170MHzの帯域において3以下のVSWRを得るためには、分岐部分の各先端から給電点までの長さの平均をとり、給電点から起算して、その平均長の20%以上の位置にスイッチ回路を接続するとよい。かかる接続位置はより好ましくは25%以上の位置である。
【0037】
次に、図3に示す実施形態において、接続線路の第1の線路への接続位置を変えてVSWRを評価した。第1の線路には、接続点4よりも先端側に、互いに平行に配置されるような分岐部分はなく、第1の線路の給電点からの長さは約55mmである。接続位置を、第1の線路に沿って給電点の位置から20mm、25mm、30mm、35mmの位置(給電点から起算して、それぞれ第1の線路の全長82mmの24%、30%、37%、43%の位置)へと変えた場合の高周波帯域におけるVSWRを図8に示す。図8に示す結果は、切り換え状態として、12nHのインダクタンス素子が接続されている場合のものである。接続位置が変わっても1.71GHz付近のピークに大きな影響がないのは、図7の場合と同様である。一方、1.71GHz付近のピークよりも高周波側においては接続位置によってVSWRが変化し、接続線路の接続位置が給電点に近い場合はVSWRが大きくなっている。第1の線路に実質的な分岐部分がない構成の場合、接続線路の接続位置を第1の線路の全長の37%以上にすることで1.71GHz〜2.17GHzに広帯域において3以下の良好なVSWRが得られた。1.71GHz付近のピークに隣接した2.17GHz付近のピークは第1の線路で構成される第1の放射素子の高次モードの共振に由来すると考えられるが、これらのピークの間の周波数帯域においても良好なVSWRが得られている。図面上重なってしまうので省略しているが、接続位置を35mmより大きく離しても(例えば40mm、45mm)、30mm、35mmの接続位置の場合と同様の結果が得られている。上述のように、1.71GHz〜2.17GHzは高周波側の複数の複数の通信帯域をカバーする。このように、接続状態の切り換えにより複数の通信帯域のうち周波数が最も低い低周波帯の通信帯域を切り換えるとともに、切り換え前後の各接続状態において、前記低周波帯の通信帯域よりも高周波側の複数の通信帯域におけるVSWRが3以下である構成を採用することによって、高周波側の複数の通信帯域をカバーしつつ、低周波側の通信帯域を可変にしたチューナブルのマルチバンドアンテナが実現される。かかる機能を備えたチューナブルのマルチバンドアンテナは、前記接続状態のうちの少なくとも一つの接続状態において高周波側の複数の通信帯域におけるVSWRが3以下である構成を用いれば実現可能であるが、上述のように切り換え前後の各接続状態において、高周波側の複数の通信帯域におけるVSWRが3以下であることがより好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1、41:第1の線路
2、42:第2の線路
3:接地線路
4:接続点
5、45:給電点
10、20、30、40:アンテナ
46:接続線路
47:誘電体素子
48:スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が給電点に接続され、他端が開放端である第1の線路と、
前記第1の線路の一端側を接地する接地線路と、
一端が前記給電点に接続され、他端が開放端である、前記第1の線路よりも短い第2の線路とを有し、複数の通信帯域での通信を可能とするアンテナであって、
前記第1の線路の途中に接続されたスイッチ回路と、
一端が前記スイッチ回路に接続され、他端が接地されたインダクタンス素子とを有し、
前記スイッチ回路によって前記インダクタンス素子と前記第1の線路との接続状態を切り換えることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記接続状態の切り換えにより、前記複数の通信帯域のうち周波数が最も低い低周波帯の通信帯域を切り換えるとともに、
前記接続状態のうちの少なくとも一つの接続状態において、前記低周波帯の通信帯域よりも高周波側の複数の通信帯域におけるVSWRが3以下であることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記スイッチ回路が共通端子と複数の分岐端子との接続を切り換えるFETスイッチであり、前記共通端子が前記第1の線路に接続され、
前記複数の分岐端子の少なくとも一つに前記インダクタンス素子が接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記複数の分岐端子の一つは、オープンになっていることを特徴とする請求項3に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記複数の分岐端子には、それぞれインダクタンス値の異なる前記インダクタンス素子が接続されていることを特徴とする請求項3に記載のアンテナ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアンテナを用いたことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−17112(P2013−17112A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149877(P2011−149877)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】