説明

アンテナ装置及びレーダ装置

【課題】 装置規模の増大や性能劣化を抑制しつつ複数系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナを備えたアンテナ装置を得る。
【解決手段】 本発明によるアンテナ装置は、同一開口100に各アンテナのアンテナ素子31a及び31bが2次元に配列されて開口100を共用する第1及び第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナを含み、第1のレーダ用フェーズドアレイアンテナ(A系)のアンテナ素子31aは開口100に素子間引きにより間引いて配置され、第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナ(B系)のアンテナ素子31bは開口100の上記素子間引きにより間引かれた位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置及びレーダ装置に関し、特にフェーズドアレイアンテナを備えたレーダ用のアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ用アンテナとして、送受信モジュールが実装されたアンテナ素子を平面状に並べたフェーズドアレイアンテナが多く用いられている。このフェーズドアレイアンテナでは、送信系サイドローブを低減するため、あるいはアンテナの製造価格を低減するためにモジュール数を間引く(シニング)方法がよく用いられている。
【0003】
また、捜索のデータレートを短縮するために、マルチビームを形成して送信する方式が用いられている。このマルチビームアンテナとして、アンテナを複式備える方法、開口面を分割して複数系統のアンテナを構成する方法、あるいは遅延伝送線路(スネイクライン)を用いる方法等がある。
【0004】
図5は本発明に関連するアンテナ装置を示す図である(例えば特許文献1参照)。図5に示すアンテナ装置は、2式の反射鏡方式のアンテナ21a及び21bが回転装置11に搭載されてマルチビームを形成して全方位をカバーするレーダ用アンテナ装置である。一次放射器12は垂直方向のフェーズドアレイであり、垂直面のビーム走査が可能である。
【0005】
図6は本発明に関連する開口面を分割する方式のアンテナ装置を示す図である(例えば特許文献2参照)。図6に示すアンテナ装置は、2式のフェーズドアレイアンテナ22a及び22bが一つの筐体に収められたプレーナ方式のアンテナ22が回転装置11に搭載されてマルチビームを形成し、全方位をカバーするレーダ用アンテナ装置である。2式のアンテナ22a及び22bは各々独立してビーム成形、ビーム走査が可能である。
【0006】
図7は遅延線(スネイクライン)を有してマルチビームを成形するアレイアンテナの原理を説明する図である。図7(a)は該アレイアンテナの給電系統を示し、信号発生器13にて発信されるRF(Radio Frequency)信号は、分配合成部61の結合器6−1を介して各送受信モジュール51に分配されてアンテナ素子33より放射される。各送受信モジュール51の間には等しい長さの遅延線6−2が挿入されている。
【0007】
図7(b)は(a)の各素子33より放射されるRF信号の等位相面を示している。送受信モジュール51内の移相器を用いて周波数f1で各素子の位相が同相になるように調整したとき、f1の等位相面14aは直線状になる。このとき、異なる周波数f2の等位相面14bは、遅延線6−2の挿入位相15だけ遅れ(あるいは進み)が生じるため傾斜する。図7(c)は(b)の等位相面14a及び14bに直角となる方向に成形される主ビーム41a及び41bを示している。主ビーム41aはf1、主ビーム41bはf2を示しており、遅延線6−2により生じる位相面14a及び14bの傾斜角度分だけ異なる方向となり周波数マルチビームが形成される。
【0008】
【特許文献1】特許第3202520号公報
【特許文献2】特開2003−207559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図5に示すアンテナ装置はアンテナを複式備えるので、装置規模が増大するという問題がある。図6に示すアンテナ装置のように開口面を上下あるいは左右に分割する方式は、実効開口面積が半減して利得低下、ビーム幅の増大を招くという問題がある。図7に示す遅延伝送線路を用いる方式は、周波数に拘束されて個々のビーム走査の自由度がなく、また、ビーム成形も相似した形状に限定されて自由度がない。
【0010】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、装置規模の増大や性能劣化を抑制しつつ複数系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナを備えたアンテナ装置及びレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるアンテナ装置は、同一開口に各アンテナのアンテナ素子が2次元に配列されて前記開口を共用する第1及び第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナを含み、前記第1のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子は前記開口に素子間引きにより間引いて配置され、前記第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子は前記開口の前記素子間引きにより間引かれた位置に配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明によるレーダ装置は、上記アンテナ装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置規模の増大や性能劣化を抑制しつつ複数系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナを備えることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態について説明する前に、本発明の理解を助けるために、本発明の原理について図面を参照して説明する。図1は本発明の原理を説明するためのアンテナ装置の概略図であり、(a)はアンテナ装置の開口面を示す図であり、(b)はアンテナ素子の配列を示す開口100の部分拡大図である。
【0015】
図1(a)及び(b)に示すアンテナ装置は、同一開口100に各アンテナのアンテナ素子31a及び31bが2次元に配列されて同一開口100を共用する第1及び第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナを含み、第1のレーダ用フェーズドアレイアンテナ(A系)のアンテナ素子31aは開口100に素子間引きにより間引いて配置され、第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナ(B系)のアンテナ素子31bは開口100の上記素子間引きにより間引かれた位置に配置されている。
【0016】
このように、各系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子を同一開口に配列する際、レーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子が間引いて配列され、この間引いた箇所に新たにアンテナ素子が配列されて独立した系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナを構成するようにしているので、装置規模の増大や性能劣化を抑制しつつ複数系統のレーダ用フェーズドアレイアンテナを備えることができる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図2は本発明の実施の形態によるアンテナ装置を示す図であり、(a)は本発明の実施の形態によるアンテナ装置の外観斜視図であり、(b)はアンテナ素子の配列を示す開口2の部分拡大図である。
【0019】
図2(a)に示すように、本発明の実施の形態によるアンテナ装置は、平面状フェーズドアレイアンテナ1が4面に設けられ全方位をカバーするレーダ用アンテナ装置である。各方面のアンテナ1は2つの送信ビーム4a及び4bを有し、各々のビームは独立して走査することができ、また各ビーム形状を独立して成形することも可能である。すなわち、各方面のアンテナ1は、送信ビーム4aを有するA系のフェーズドアレイアンテナと、送信ビーム4bを有するB系のフェーズドアレイアンテナとから構成される。
【0020】
図2(b)に示すように、送信ビーム4aを有するA系のフェーズドアレイアンテナのアンテナ素子3a及び送信ビーム4bを有するB系のフェーズドアレイアンテナのアンテナ素子3bが同一開口2に2次元に配列されて開口2を共用している。ここで、A系のフェーズドアレイアンテナのアンテナ素子3aは開口2に素子間引きにより間引いて配置され、B系のフェーズドアレイアンテナのアンテナ素子3bは開口100の素子3aが間引かれた位置に配置されることにより、A系のアンテナ素子3aとB系のアンテナ素子3bが同一開口の中に重複することなく配置されている。
【0021】
なお、上述したようにフェーズドアレイアンテナではアンテナ素子を間引く方法がよく用いられているが、本発明の実施の形態では、アンテナ素子3aを間引きする率を増大する。すなわち、A系及びB系のフェーズドアレイアンテナの性能が同程度となるよう、間引き率を50%以上としている。
【0022】
図3は本発明の実施の形態によるアンテナ装置を含むレーダ装置の構成を示す図であり、図2の素子配列の一部分を抽出してA系、B系二つの独立したフェーズドアレイアンテナの給電、制御系統を示している。各素子3a,3bには送受信モジュール5a,5bが装備されてフェーズドアレイアンテナとして動作し、A系及びB系の分配合成部6a,6bを介してそれぞれA系及びB系のレーダ送受信機(励振装置7a,7b、信号処理装置8a,8b、制御器9a,9b、電源装置10a,10b等)に接続されている。このように、A系、B系のフェーズドアレイアンテナ各々に給電、制御系統が独立して装備されている。
【0023】
図4は図3の送受信モジュール5a,5bの構成を示す図である。励振装置7a,7bから分配合成部6a,6bを介して送受信モジュール5a,5bのTx端子に伝送されたRF信号は、移相器5−1、電力増幅器5−2、サーキュレータ5−3を介してANT端子に接続されているアンテナ素子3a,3bより放射される。アンテナ素子3a,3bで受信されたRF信号は、サーキュレータ5−3、低雑音増幅器5−4を介して周波数変換器5−5に伝送され、外部より供給されるローカル信号(Lo)と混合されてIF信号に変換される。
【0024】
このIF信号は、増幅器5−6を介してA/D変換器5−7にてデジタル信号に変換され、Rx端子より分配合成部6a,6bを介して信号処理装置8a,8bに伝送される。制御器9a,9bが対応する系の各送受信モジュール5a,5b内の移相器5−1を制御することにより送信系のビーム成形、ビーム走査が可能となる。また、信号処理装置8a,8bにて受信系のビーム成形、ビーム走査が可能となる。
【0025】
以上説明したように、本発明の実施の形態では、開口が共用されて外形寸法が増加しないため装置規模の増大を抑制することができる。また、実効開口面積が減少しないため、利得低下、ビーム幅増加は間引き率増加によるわずかな変化に留まり、よって、性能劣化を抑制することができる。また、複数系統のフェーズドアレイアンテナを備えることにより、自在なビーム走査、ビーム成形が可能となりレーダ運用における捜索、追尾の自由度が向上すると共に、データレート短縮が可能となる。また、複数の独立した系統のフェーズドアレイを合成して、出力を複数倍に増加した一つのビームとして使用することにより、遠距離の捜索や小さな目標を捕らえることが可能となる。
【0026】
なお、本発明は二つの独立した系統には限定されない。アンテナ素子を間引きする率をより高めることにより同一開口を共用する三つ以上の独立した系統のフェーズドアレイアンテナを構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の原理を説明するためのアンテナ装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態によるアンテナ装置を示す図である。
【図3】図2のアンテナ装置を含むレーダ装置の構成を示す図である。
【図4】図3の送受信モジュール5a,5bの構成を示す図である。
【図5】本発明に関連するアンテナ装置を示す図である。
【図6】本発明に関連するアンテナ装置を示す図である。
【図7】遅延線を有してマルチビームを成形するアレイアンテナの原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
1 フェーズドアレイアンテナ
2,100 開口
3a,3b,31a,31b アンテナ素子
4a,4b 送信ビーム
5a,5b 送受信モジュール
5−1 移相器
5−2 電力増幅器
5−3 サーキュレータ
5−4 低雑音増幅器
5−5 周波数変換器
5−6 IF増幅器
5−7 A/D変換器
6a,6b 分配合成部
7a,7b 励振装置
8a,8b 信号処理装置
9a,9b 制御器
10a,10b 電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一開口に各アンテナのアンテナ素子が2次元に配列されて前記開口を共用する第1及び第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナを含み、
前記第1のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子は前記開口に素子間引きにより間引いて配置され、前記第2のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子は前記開口の前記素子間引きにより間引かれた位置に配置されることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記レーダ用フェーズドアレイアンテナ各々に対応して設けられ、対応するレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子に送信パルス信号を分配し該アンテナ素子からの受信信号を合成する分配合成部を更に含むことを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記素子間引きによる間引き率は50%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
第3のレーダ用フェーズドアレイアンテナを更に含み、
前記第2及び第3のレーダ用フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子が前記開口の前記素子間引きにより間引かれた位置に配置されることを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記レーダ用フェーズドアレイアンテナが共用する前記開口が複数設けられることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載のアンテナ装置を含むことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−19611(P2010−19611A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178541(P2008−178541)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】