アンテナ装置
【課題】 検波系統の信号対雑音比が低い場合において、従来技術に比べて、利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能なアンテナ装置を得ること。
【解決手段】 フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段とを備え、上記差分位相から最適な所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更する。
【解決手段】 フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段とを備え、上記差分位相から最適な所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フェーズドアレーアンテナのアンテナ放射特性を校正可能な構成を有するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレーアンテナでは、アンテナ運用中において、アンテナ開口面の機械的変形や送受信モジュールの特性変化などにより、アンテナ放射特性が変化することがある。そのため、その特性変化を検出し、校正する技術が必要とされている。上記特性変化を検出する方法として、従来フェーズドアレーアンテナにおいて、ピックアップアンテナを配置し、各素子アンテナの励振位相を順次変化させ、上記ピックアップアンテナを用いて測定したアレー合成電力の最大値と最小値の比およびその最大値を与える位相変化量を測定して、上記測定値より各素子アンテナの振幅・位相を算出する方法があった。(例えば特許文献1参照)
さらに上記手法により、フェーズドアレーアンテナの初期構成時に測定した各素子アンテナの初期位相と、フェーズドアレー運用中に上記手法によって測定した各素子アンテナの位相との差分位相を求め、この差分位相を補正位相として各素子アンテナの励振位相を変更し、フェーズドアレーアンテナの放射特性変化を校正するものがあった。(例えば特許文献2参照)
【0003】
【特許文献1】特開昭57−93267号公報
【特許文献2】特開平2−104104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のアンテナ装置では、検波系統の信号対雑音比が小さい場合には、測定される各素子アンテナの位相量には大きな誤差が含まれることとなり、上記位相量より求められる補正位相量についても誤差が大きくなる。結果として、上記の大きな誤差を含んだ補正位相量を用いて各素子アンテナの励振位相を変更すると、放射特性を校正できないだけでなく、放射パターンが変化してしまい、利得低下が生じるという問題があった。
【0005】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、上記差分位相から最適な所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更することにより、検波系統の信号対雑音比が低い場合において、従来技術に比べて、利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能なアンテナ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わるアンテナ装置は、複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された検波手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更することにより、検波系統の信号対雑音比が低い場合でも、アンテナ利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能なアンテナ装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。図において、フェーズドアレーアンテナ開口面上に設置された複数の素子アンテナ1−n(n=1、2、3、・・・、N)にそれぞれ移相器2−n(n=1、2、3、・・・、N)が接続され、さらにこれらが電力分配合成回路3に接続され、電力分配合成回路3には送信機4が接続されている。なお、電力分配合成回路3は素子アンテナ方向へは電力分配回路として動作し、送信機4方向へは電力合成回路として動作する。また、これら移相器2−nにはそれぞれ移相器制御回路5が接続され、移相器制御回路5が各移相器2−nを制御する。フェーズドアレーアンテナの各素子アンテナ1−nとは別に設けられたピックアップアンテナ6には、検波回路7が接続され、さらに、フェーズドアレーアンテナの各移相器2−nの設定位相を変化させた時の受信電力を測定し、その受信電力の変化から該移相器に接続された各素子アンテナの素子電界の振幅及び位相を算出する素子電界演算回路8が接続されている。さらに、素子電界演算回路8には、アンテナ初期構成時に素子電界演算回路8で求められた各素子アンテナの初期電界位相φ0,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する初期位相記憶回路9と、アンテナ運用中に上記素子電界演算回路8で求められた各アンテナ素子の電界位相φ1,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する位相記憶回路10と、が接続される。なお、アンテナ初期構成とは、基準とするアンテナ運用前などのアンテナ構成のことを言う。さらに、初期位相記憶回路9と位相記憶回路10は、アンテナ運用中に発生した放射特性変化を補正するため、これら回路に記憶された位相量の差分量を求める差分位相演算回路11に接続される。つまり、差分位相演算回路11は、(1)式により各素子アンテナの差分位相φ2,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める回路である。
【0009】
【数1】
【0010】
さらに、差分位相演算回路11は位相面演算回路12に接続される。位相面演算回路12は、上記差分位相演算回路11により求められた差分位相φ2,nに最適な所望関数の位相面を求める演算回路である。つまり、位相面演算回路12は、(2)式を最小とするような位相面φsを最小二乗法などにより求める回路である。
【0011】
【数2】
(2)
【0012】
(2)式において、nは上記素子アンテナ番号を表し、本実施の形態ではn=1、2、3、・・・、Nである。xn及びynは素子アンテナ番号nの各素子アンテナのフェーズドアレーアンテナ開口面上での位置を表す。
さらに、位相面演算回路12は、補正位相演算回路13に接続される。補正位相演算回路13は、上記位相面演算回路12により求められた位相面φsより各素子アンテナに設定する補正位相φc,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める回路である。つまり、補正位相演算回路13は、(3)式により各素子アンテナに与える補正位相φc−nを求める。
【0013】
【数3】
(3)
【0014】
補正位相演算回路13は、励振位相演算回路14に接続され、励振位相演算回路14には初期励振位相記憶回路15が接続されている。励振位相演算回路14は、各移相器2−nに与える励振位相Φ1,nを求める回路であり、初期励振位相記憶回路15は、フェーズドアレーアンテナ初期構成時に移相器制御回路5が各移相器2−nに与えていた初期励振位相Φ0,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する回路である。つまり、励振位相演算回路14は下式4によって、各移相器2−nに与える励振位相Φ1,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める。
【0015】
【数4】
(4)
【0016】
以上のように構成されたアンテナ装置において、図2及び図3に示すような手順により放射特性の校正を行う。ここで、図2と図3は以下に述べる手続きAと手続きBの手順を示した図である。
送信機4から送信された高周波信号は、電力分配合成回路3によって分配され、移相器2−nによって励振位相が与えられた後に素子アンテナ1−nから空間中に放射される。放射された信号はピックアップアンテナ6によって受信され、検波回路7によって検波される。
このため、移相器制御回路5によりある素子アンテナの励振位相を360度回転させたときの受信電力の変化は検波回路7で検波され、さらにこの受信電力の変化を素子電界演算回路8により演算処理することにより、当該素子アンテナの素子電界振幅及び位相が求められる。さらにこの手続きを全ての素子アンテナに対し繰り返すことにより、全ての素子アンテナの素子電界振幅及び位相が求められる。この一連の測定手続きを手続きAとする。
フェーズドアレーアンテナの初期構成時に上記手続きAにより測定された全素子アンテナの初期素子電界位相φ0,nは初期位相記憶回路9に記憶され、以後フェーズドアレーアンテナ運用中に、同様に上記手続きAにより測定した全素子アンテナの素子電界位相φ1,nは位相記憶回路10に記憶される。上記の記憶された両位相は、アンテナ運用中における放射特性変化により異なった値となり、この特性変化を校正するため、上記両位相から各素子アンテナの差分位相φ2,nを差分位相演算回路11により求める。得られた差分位相を(2)式に代入すれば、最適な所望関数の位相面φsが位相面演算回路12により求められる。得られた位相面φsと各素子アンテナ位置より(3)式によって各素子アンテナに与える補正位相が補正位相演算回路13により求められる。このようにして求めた各素子アンテナの補正位相をφc,nとする。求めた補正位相φc,nと、初期励振位相記憶回路15に記憶されたフェーズドアレーアンテナ初期構成時において各移相器2−nに与えていた初期励振位相Φ0,nを(4)式に代入すれば、新たに各移相器2−nに与える励振位相Φ1,nが励振位相演算回路14により求められる。この一連の手続きを手続きBとする。
【0017】
さて上述のように、フェーズドアレーアンテナ運用中にアレーアンテナ開口面に回転や歪みなどの機械的変形が生じた場合には、上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nはそれぞれ異なった値となる。このとき、検波系統の信号対雑音比が大きい場合には、上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nから求められる上記差分位相φ2,nの分布は、図4のようになり、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を表す位相分布に近い分布となる。ここで、図4において横軸は各素子アンテナ1−nのアレーアンテナ開口面上での位置を、縦軸は各素子アンテナの上記差分位相φ2,nを、図中の直線はアレーアンテナ開口面の機械的変形(ここでは開口面の軸回転を示す)による光路長の変化を示す位相分布を、それぞれ示している。そのため、上記手続きBにより求められる励振位相Φ1,nを各移相器2−nに与えることは、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を電気的に補正することとなり、フェーズドアレーアンテナの放射特性をアレーアンテナ初期構成時の放射特性に校正することが可能となる。
【0018】
しかし、検波系統の信号対雑音比が小さい場合には、上記手続きAにより求められる上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nには大きな誤差が含まれることとなる。このとき、上記差分位相φ2,nの分布は、図5のようになり、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布から大きく異なる分布となる。ここで、図5は図4と同様の軸と値を示し、さらに位相面φsを示している。従来の技術では、このような大きな誤差を含む補正位相より得られる新たな励振位相を各移相器に与えるため、アンテナパターンが初期構成時から大きく変化し、その結果、校正を行ってもアンテナ利得が大きく低下してしまう。
【0019】
本発明では、上記差分位相φ2,nを所望関数の位相面φsに最適化するため、この所望関数としてアレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を表すような関数(この場合は各素子アンテナ位置に関して1次の関数)を採用することにより、(2)式により求められる上記位相面φsは、雑音に起因する誤差はランダムな誤差であるから、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となる。こうして得られた上記位相面φsより求められる上記励振位相Φ1,nは、位相のそろった励振位相となり、励振位相Φ1,nを各移相器に与えることにより、校正後のアンテナパターンの初期構成時からの変化を小さくすることができ、その結果、アンテナ利得低下量を小さくすることが可能となる。
従って、上記手続きBによって得られる上記励振位相Φ1,nを各移相器2−nに与えることにより、検波系統の信号対雑音比が小さく、手続きAによる測定が十分に行えないような場合においても、従来技術に比べアンテナ利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能となる効果がある。
【0020】
なお、図1において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図6に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、放射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−n によって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0021】
実施の形態2.
実施の形態1では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の回転変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関して1次の関数を採用した。
実施の形態2では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の熱歪み変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関して2次の関数を採用する。従って、実施の形態2では、アレーアンテナ開口面に熱歪み変形が生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0022】
実施の形態3.
実施の形態3では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の波状変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関する正弦関数を採用する。従って、実施の形態3では、アレーアンテナ開口面に波状変形が生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0023】
実施の形態4.
実施の形態4では、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関する1次の関数と2次の関数と正弦関数の和であらわされる関数を採用する。従って、実施の形態4では、上記実施で示したような、アレーアンテナ開口面に軸回転、歪変形、波状変形が同時に生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0024】
実施の形態5.
図7はこの発明の実施の形態5におけるアンテナ装置の構成を示す図である。ここでは、実施の形態1で例示した図1に適用した場合を例示して説明する。図7において上記実施の形態1のものと同一もしくは相当部分は同一符号で示し説明を省略する。実施の形態5では、フェーズドアレーアンテナに対向して反射鏡16を設置し、アレー給電反射鏡アンテナを構成する。
以上のように構成された実施の形態5では、送信機4から送信された高周波信号は、電力分配合成回路3によって分配され、移相器2−nによって励振位相が与えられた後に素子アンテナ1−nから空間中に放射され、反射鏡16によって放射された信号を反射する。反射鏡16により反射された信号はピックアップアンテナ6によって受信され、検波回路7によって検波される。
従って、実施の形態5では、フェーズドアレーアンテナと反射鏡との位置関係が変化しアンテナ放射特性が変化した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0025】
なお、図7において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図8に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、反射鏡16によって放射された信号を反射する。反射鏡16により反射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−n によって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0026】
実施の形態6.
図9はこの発明の実施の形態6におけるアンテナ装置の構成を示す図である。ここでは、実施の形態1で例示した図1に適用した場合を例示して説明する。図9において上記実施の形態1のものと同一もしくは相当部分は同一符号で示し説明を省略する。
実施の形態6では、フェーズドアレーアンテナと、受信用アンテナ17と、受信機18と、を移動体に搭載し、実施の形態1で述べたその他の手段と、送信用アンテナ19と、送信機20、を固定局に備えた形態をとる。
【0027】
以上のように構成された実施の形態6では、励振位相演算回路14で求められた励振位相Φ1,nが送信機20によって高周波信号となり、送信アンテナ19によって空間中に放射される。放射された信号は受信アンテナ17によって受信され、受信機18によって受信される。受信した励振位相Φ1,nを移相器2−nに与えることとなる。
従って、例えば移動体を静止衛星とし、固定局を地球局とした場合には、静止衛星の軌道が本来の軌道から僅かに変化したことによりアンテナ放射特性が変化した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、図9において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図10に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、放射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−nによって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0029】
実施の形態7.
上記実施の形態では、位相面演算回路12において、差分位相φ2,nと所望関数の位相面との差が最小となるような位相面φsを求める手段として、(2)式を用いた。しかし、上記手続きAにより求められる各素子アンテナの電界位相には360度の不確定性が存在するため、図11に示すように上記差分位相φ2,nの分布が、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布から大きく異なる分布となる場合がある。
【0030】
ここで、図11は図4と同様の軸と値を示し、さらに位相面φsを示している。そのため、(2)式を用いて求めた位相面φsがアレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布と大きく異なる分布となり、上記のような効果を得ることができなくなる場合がある。この位相の不確定性は、位相を複素数で扱うことにより考慮することができる。つまり、(5)式を最小とするような位相面φsを、例えば共役勾配法などにより求めることにより、同様の効果を得ることができる。
【0031】
【数5】
(5)
【0032】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、これらの可能な組み合わせを含むことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図2】この発明の、手続きAの手順を示す図である。
【図3】この発明の、手続きBの手順を示す図である。
【図4】信号対雑音比が大きい場合の、差分位相の位相分布を示した説明図である。
【図5】信号対雑音比が小さい場合の、差分位相の位相分布を示した説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図7】この発明の実施の形態5に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図8】この発明の実施の形態5に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図9】この発明の実施の形態6に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図10】この発明の実施の形態6に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図11】電界位相の360度の不確定性による影響を示した説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1−1〜1−N 素子アンテナ、2−1〜2−N 移相器、3 電力分配合成回路、4 送信機、5 移相器制御回路、6 ピックアップアンテナ、7 検波回路、8 素子電界演算回路、9 初期位相記憶回路、10 位相記憶回路、11 差分位相演算回路、12 位相面演算回路、13 補正位相演算回路、14 励振位相演算回路、15 初期励振位相記憶回路、16 反射鏡、17 受信用アンテナ、18 受信機、19 送信用アンテナ、20 送信機。
【技術分野】
【0001】
この発明は、フェーズドアレーアンテナのアンテナ放射特性を校正可能な構成を有するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレーアンテナでは、アンテナ運用中において、アンテナ開口面の機械的変形や送受信モジュールの特性変化などにより、アンテナ放射特性が変化することがある。そのため、その特性変化を検出し、校正する技術が必要とされている。上記特性変化を検出する方法として、従来フェーズドアレーアンテナにおいて、ピックアップアンテナを配置し、各素子アンテナの励振位相を順次変化させ、上記ピックアップアンテナを用いて測定したアレー合成電力の最大値と最小値の比およびその最大値を与える位相変化量を測定して、上記測定値より各素子アンテナの振幅・位相を算出する方法があった。(例えば特許文献1参照)
さらに上記手法により、フェーズドアレーアンテナの初期構成時に測定した各素子アンテナの初期位相と、フェーズドアレー運用中に上記手法によって測定した各素子アンテナの位相との差分位相を求め、この差分位相を補正位相として各素子アンテナの励振位相を変更し、フェーズドアレーアンテナの放射特性変化を校正するものがあった。(例えば特許文献2参照)
【0003】
【特許文献1】特開昭57−93267号公報
【特許文献2】特開平2−104104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のアンテナ装置では、検波系統の信号対雑音比が小さい場合には、測定される各素子アンテナの位相量には大きな誤差が含まれることとなり、上記位相量より求められる補正位相量についても誤差が大きくなる。結果として、上記の大きな誤差を含んだ補正位相量を用いて各素子アンテナの励振位相を変更すると、放射特性を校正できないだけでなく、放射パターンが変化してしまい、利得低下が生じるという問題があった。
【0005】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、上記差分位相から最適な所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更することにより、検波系統の信号対雑音比が低い場合において、従来技術に比べて、利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能なアンテナ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わるアンテナ装置は、複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された検波手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、上記位相面より求められる補正位相を用いて各素子アンテナの励振位相を変更することにより、検波系統の信号対雑音比が低い場合でも、アンテナ利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能なアンテナ装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。図において、フェーズドアレーアンテナ開口面上に設置された複数の素子アンテナ1−n(n=1、2、3、・・・、N)にそれぞれ移相器2−n(n=1、2、3、・・・、N)が接続され、さらにこれらが電力分配合成回路3に接続され、電力分配合成回路3には送信機4が接続されている。なお、電力分配合成回路3は素子アンテナ方向へは電力分配回路として動作し、送信機4方向へは電力合成回路として動作する。また、これら移相器2−nにはそれぞれ移相器制御回路5が接続され、移相器制御回路5が各移相器2−nを制御する。フェーズドアレーアンテナの各素子アンテナ1−nとは別に設けられたピックアップアンテナ6には、検波回路7が接続され、さらに、フェーズドアレーアンテナの各移相器2−nの設定位相を変化させた時の受信電力を測定し、その受信電力の変化から該移相器に接続された各素子アンテナの素子電界の振幅及び位相を算出する素子電界演算回路8が接続されている。さらに、素子電界演算回路8には、アンテナ初期構成時に素子電界演算回路8で求められた各素子アンテナの初期電界位相φ0,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する初期位相記憶回路9と、アンテナ運用中に上記素子電界演算回路8で求められた各アンテナ素子の電界位相φ1,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する位相記憶回路10と、が接続される。なお、アンテナ初期構成とは、基準とするアンテナ運用前などのアンテナ構成のことを言う。さらに、初期位相記憶回路9と位相記憶回路10は、アンテナ運用中に発生した放射特性変化を補正するため、これら回路に記憶された位相量の差分量を求める差分位相演算回路11に接続される。つまり、差分位相演算回路11は、(1)式により各素子アンテナの差分位相φ2,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める回路である。
【0009】
【数1】
【0010】
さらに、差分位相演算回路11は位相面演算回路12に接続される。位相面演算回路12は、上記差分位相演算回路11により求められた差分位相φ2,nに最適な所望関数の位相面を求める演算回路である。つまり、位相面演算回路12は、(2)式を最小とするような位相面φsを最小二乗法などにより求める回路である。
【0011】
【数2】
(2)
【0012】
(2)式において、nは上記素子アンテナ番号を表し、本実施の形態ではn=1、2、3、・・・、Nである。xn及びynは素子アンテナ番号nの各素子アンテナのフェーズドアレーアンテナ開口面上での位置を表す。
さらに、位相面演算回路12は、補正位相演算回路13に接続される。補正位相演算回路13は、上記位相面演算回路12により求められた位相面φsより各素子アンテナに設定する補正位相φc,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める回路である。つまり、補正位相演算回路13は、(3)式により各素子アンテナに与える補正位相φc−nを求める。
【0013】
【数3】
(3)
【0014】
補正位相演算回路13は、励振位相演算回路14に接続され、励振位相演算回路14には初期励振位相記憶回路15が接続されている。励振位相演算回路14は、各移相器2−nに与える励振位相Φ1,nを求める回路であり、初期励振位相記憶回路15は、フェーズドアレーアンテナ初期構成時に移相器制御回路5が各移相器2−nに与えていた初期励振位相Φ0,n(n=1、2、3、・・・、N)を記憶する回路である。つまり、励振位相演算回路14は下式4によって、各移相器2−nに与える励振位相Φ1,n(n=1、2、3、・・・、N)を求める。
【0015】
【数4】
(4)
【0016】
以上のように構成されたアンテナ装置において、図2及び図3に示すような手順により放射特性の校正を行う。ここで、図2と図3は以下に述べる手続きAと手続きBの手順を示した図である。
送信機4から送信された高周波信号は、電力分配合成回路3によって分配され、移相器2−nによって励振位相が与えられた後に素子アンテナ1−nから空間中に放射される。放射された信号はピックアップアンテナ6によって受信され、検波回路7によって検波される。
このため、移相器制御回路5によりある素子アンテナの励振位相を360度回転させたときの受信電力の変化は検波回路7で検波され、さらにこの受信電力の変化を素子電界演算回路8により演算処理することにより、当該素子アンテナの素子電界振幅及び位相が求められる。さらにこの手続きを全ての素子アンテナに対し繰り返すことにより、全ての素子アンテナの素子電界振幅及び位相が求められる。この一連の測定手続きを手続きAとする。
フェーズドアレーアンテナの初期構成時に上記手続きAにより測定された全素子アンテナの初期素子電界位相φ0,nは初期位相記憶回路9に記憶され、以後フェーズドアレーアンテナ運用中に、同様に上記手続きAにより測定した全素子アンテナの素子電界位相φ1,nは位相記憶回路10に記憶される。上記の記憶された両位相は、アンテナ運用中における放射特性変化により異なった値となり、この特性変化を校正するため、上記両位相から各素子アンテナの差分位相φ2,nを差分位相演算回路11により求める。得られた差分位相を(2)式に代入すれば、最適な所望関数の位相面φsが位相面演算回路12により求められる。得られた位相面φsと各素子アンテナ位置より(3)式によって各素子アンテナに与える補正位相が補正位相演算回路13により求められる。このようにして求めた各素子アンテナの補正位相をφc,nとする。求めた補正位相φc,nと、初期励振位相記憶回路15に記憶されたフェーズドアレーアンテナ初期構成時において各移相器2−nに与えていた初期励振位相Φ0,nを(4)式に代入すれば、新たに各移相器2−nに与える励振位相Φ1,nが励振位相演算回路14により求められる。この一連の手続きを手続きBとする。
【0017】
さて上述のように、フェーズドアレーアンテナ運用中にアレーアンテナ開口面に回転や歪みなどの機械的変形が生じた場合には、上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nはそれぞれ異なった値となる。このとき、検波系統の信号対雑音比が大きい場合には、上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nから求められる上記差分位相φ2,nの分布は、図4のようになり、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を表す位相分布に近い分布となる。ここで、図4において横軸は各素子アンテナ1−nのアレーアンテナ開口面上での位置を、縦軸は各素子アンテナの上記差分位相φ2,nを、図中の直線はアレーアンテナ開口面の機械的変形(ここでは開口面の軸回転を示す)による光路長の変化を示す位相分布を、それぞれ示している。そのため、上記手続きBにより求められる励振位相Φ1,nを各移相器2−nに与えることは、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を電気的に補正することとなり、フェーズドアレーアンテナの放射特性をアレーアンテナ初期構成時の放射特性に校正することが可能となる。
【0018】
しかし、検波系統の信号対雑音比が小さい場合には、上記手続きAにより求められる上記素子電界位相φ0,n及びφ1,nには大きな誤差が含まれることとなる。このとき、上記差分位相φ2,nの分布は、図5のようになり、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布から大きく異なる分布となる。ここで、図5は図4と同様の軸と値を示し、さらに位相面φsを示している。従来の技術では、このような大きな誤差を含む補正位相より得られる新たな励振位相を各移相器に与えるため、アンテナパターンが初期構成時から大きく変化し、その結果、校正を行ってもアンテナ利得が大きく低下してしまう。
【0019】
本発明では、上記差分位相φ2,nを所望関数の位相面φsに最適化するため、この所望関数としてアレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を表すような関数(この場合は各素子アンテナ位置に関して1次の関数)を採用することにより、(2)式により求められる上記位相面φsは、雑音に起因する誤差はランダムな誤差であるから、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となる。こうして得られた上記位相面φsより求められる上記励振位相Φ1,nは、位相のそろった励振位相となり、励振位相Φ1,nを各移相器に与えることにより、校正後のアンテナパターンの初期構成時からの変化を小さくすることができ、その結果、アンテナ利得低下量を小さくすることが可能となる。
従って、上記手続きBによって得られる上記励振位相Φ1,nを各移相器2−nに与えることにより、検波系統の信号対雑音比が小さく、手続きAによる測定が十分に行えないような場合においても、従来技術に比べアンテナ利得低下量を小さくするような放射特性の校正が可能となる効果がある。
【0020】
なお、図1において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図6に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、放射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−n によって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0021】
実施の形態2.
実施の形態1では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の回転変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関して1次の関数を採用した。
実施の形態2では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の熱歪み変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関して2次の関数を採用する。従って、実施の形態2では、アレーアンテナ開口面に熱歪み変形が生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0022】
実施の形態3.
実施の形態3では、位相面φsがアレーアンテナ開口面の波状変形による光路長の変化を示す位相分布と同様の位相面となるよう、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関する正弦関数を採用する。従って、実施の形態3では、アレーアンテナ開口面に波状変形が生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0023】
実施の形態4.
実施の形態4では、所望関数として上記各素子アンテナ位置に関する1次の関数と2次の関数と正弦関数の和であらわされる関数を採用する。従って、実施の形態4では、上記実施で示したような、アレーアンテナ開口面に軸回転、歪変形、波状変形が同時に生じた場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0024】
実施の形態5.
図7はこの発明の実施の形態5におけるアンテナ装置の構成を示す図である。ここでは、実施の形態1で例示した図1に適用した場合を例示して説明する。図7において上記実施の形態1のものと同一もしくは相当部分は同一符号で示し説明を省略する。実施の形態5では、フェーズドアレーアンテナに対向して反射鏡16を設置し、アレー給電反射鏡アンテナを構成する。
以上のように構成された実施の形態5では、送信機4から送信された高周波信号は、電力分配合成回路3によって分配され、移相器2−nによって励振位相が与えられた後に素子アンテナ1−nから空間中に放射され、反射鏡16によって放射された信号を反射する。反射鏡16により反射された信号はピックアップアンテナ6によって受信され、検波回路7によって検波される。
従って、実施の形態5では、フェーズドアレーアンテナと反射鏡との位置関係が変化しアンテナ放射特性が変化した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0025】
なお、図7において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図8に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、反射鏡16によって放射された信号を反射する。反射鏡16により反射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−n によって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0026】
実施の形態6.
図9はこの発明の実施の形態6におけるアンテナ装置の構成を示す図である。ここでは、実施の形態1で例示した図1に適用した場合を例示して説明する。図9において上記実施の形態1のものと同一もしくは相当部分は同一符号で示し説明を省略する。
実施の形態6では、フェーズドアレーアンテナと、受信用アンテナ17と、受信機18と、を移動体に搭載し、実施の形態1で述べたその他の手段と、送信用アンテナ19と、送信機20、を固定局に備えた形態をとる。
【0027】
以上のように構成された実施の形態6では、励振位相演算回路14で求められた励振位相Φ1,nが送信機20によって高周波信号となり、送信アンテナ19によって空間中に放射される。放射された信号は受信アンテナ17によって受信され、受信機18によって受信される。受信した励振位相Φ1,nを移相器2−nに与えることとなる。
従って、例えば移動体を静止衛星とし、固定局を地球局とした場合には、静止衛星の軌道が本来の軌道から僅かに変化したことによりアンテナ放射特性が変化した場合にも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、図9において素子アンテナ1−nとピックアップアンテナ6の送信と受信の関係を入れ替えて、例えば図10に示すように、ピックアップアンテナ6に送信機4を接続し、送信機4から送信された高周波信号をピックアップアンテナ6から空間中に放射し、放射された信号を素子アンテナ1−nによりそれぞれ受信し、移相器2−nによって適当な励振位相を与えた後、電力分配合成回路3により合成し、検波回路7により受信電力を検波するようにしてもよい。
【0029】
実施の形態7.
上記実施の形態では、位相面演算回路12において、差分位相φ2,nと所望関数の位相面との差が最小となるような位相面φsを求める手段として、(2)式を用いた。しかし、上記手続きAにより求められる各素子アンテナの電界位相には360度の不確定性が存在するため、図11に示すように上記差分位相φ2,nの分布が、アレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布から大きく異なる分布となる場合がある。
【0030】
ここで、図11は図4と同様の軸と値を示し、さらに位相面φsを示している。そのため、(2)式を用いて求めた位相面φsがアレーアンテナ開口面の機械的変形による光路長の変化を示す位相分布と大きく異なる分布となり、上記のような効果を得ることができなくなる場合がある。この位相の不確定性は、位相を複素数で扱うことにより考慮することができる。つまり、(5)式を最小とするような位相面φsを、例えば共役勾配法などにより求めることにより、同様の効果を得ることができる。
【0031】
【数5】
(5)
【0032】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、これらの可能な組み合わせを含むことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図2】この発明の、手続きAの手順を示す図である。
【図3】この発明の、手続きBの手順を示す図である。
【図4】信号対雑音比が大きい場合の、差分位相の位相分布を示した説明図である。
【図5】信号対雑音比が小さい場合の、差分位相の位相分布を示した説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図7】この発明の実施の形態5に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図8】この発明の実施の形態5に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図9】この発明の実施の形態6に係わるアンテナ装置を示す構成説明図である。
【図10】この発明の実施の形態6に係わるアンテナ装置の他の構成例を示す構成説明図である。
【図11】電界位相の360度の不確定性による影響を示した説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1−1〜1−N 素子アンテナ、2−1〜2−N 移相器、3 電力分配合成回路、4 送信機、5 移相器制御回路、6 ピックアップアンテナ、7 検波回路、8 素子電界演算回路、9 初期位相記憶回路、10 位相記憶回路、11 差分位相演算回路、12 位相面演算回路、13 補正位相演算回路、14 励振位相演算回路、15 初期励振位相記憶回路、16 反射鏡、17 受信用アンテナ、18 受信機、19 送信用アンテナ、20 送信機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された検波手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された送信手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナからの電波を受信可能に上記フェーズドアレーアンテナに対向して設置されるピックアップアンテナと、上記ピックアップアンテナに接続された検波手段と、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される上記ピックアップアンテナでの受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項2記載のアンテナ装置において、さらに上記励振位相演算回路の出力を上記移相器制御回路へ空間伝送する送信手段と受信手段を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
上記フェーズドアレーアンテナからの電波を受信可能に上記フェーズドアレーアンテナに対向して設置された反射鏡を備えたことを特徴とする請求項1、2、又は3記載のアンテナ装置。
【請求項5】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する1次の関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する2次の関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する正弦関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項1】
複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された検波手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナが放射特性校正用の電波を受信した場合に、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
複数個の素子アンテナ、上記素子アンテナのそれぞれに接続された移相器、上記各移相器の設定位相を制御する移相器制御回路、上記各移相器に接続された電力分配合成回路、上記電力分配合成回路に接続された送信手段、を有するフェーズドアレーアンテナと、上記フェーズドアレーアンテナからの電波を受信可能に上記フェーズドアレーアンテナに対向して設置されるピックアップアンテナと、上記ピックアップアンテナに接続された検波手段と、上記各移相器の設定位相を順次それぞれに360度回転させた時の上記検波手段から出力される上記ピックアップアンテナでの受信電力の変化に基づいて、対応する各移相器に接続された素子アンテナの設定位相を算出する手段と、2度にわたって上記手段により算出した上記各移相器の設定位相の上記フェーズドアレーアンテナの放射特性変化の校正に供する基準値と比較値を記憶し、上記基準値と比較値の差分位相を算出する差分位相算出手段と、上記差分位相から所定の最適化により所望関数の位相面を算出し、算出された位相面に基づいて各素子アンテナに設定する補正位相を算出する補正位相算出手段と、上記補正位相と上記各移相器に予め設定された初期励振位相に基づいて上記各素子アンテナに与える励振位相を算出し、上記移相器制御回路に出力する励振位相演算回路と、を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項2記載のアンテナ装置において、さらに上記励振位相演算回路の出力を上記移相器制御回路へ空間伝送する送信手段と受信手段を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
上記フェーズドアレーアンテナからの電波を受信可能に上記フェーズドアレーアンテナに対向して設置された反射鏡を備えたことを特徴とする請求項1、2、又は3記載のアンテナ装置。
【請求項5】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する1次の関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する2次の関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
上記所望関数の位相面として、上記各素子アンテナの位置座標に関する正弦関数で表される位相面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−41577(P2010−41577A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204373(P2008−204373)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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