説明

アントラキノン系薬剤含有下剤医薬組成物

【課題】刺激性下剤であるアントラキノン系薬剤の作用を調節し得る医薬組成物の提供。
【解決手段】ダイオウまたはそのエキスもしくは瀉下成分に、ビタミンB1およびその誘導体並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも1種の成分を配合してなる医薬組成物。ダイオウまたはそのエキスもしくは瀉下成分が大黄甘草湯に配合されているもの、ビタミンB1およびその誘導体並びにそれらの塩類が、チアミン、チアミンジスルフィド、プロスルチアミン、フルスルチアミン等並びにそれらの塩であるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン系薬剤含有下剤医薬組成物、特に、アントラキノン系薬剤がダイオウ(大黄)である製剤の瀉下作用の強弱、効果発現時間を調整し得る医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化、ストレス過多、運動不足など生活様式の変化により、便秘症は増加傾向にある。便秘は決して軽視できる症状ではなく、たとえば便秘症が原因の1つである大腸癌は特に日本人で著しく増加しており、将来女性では1番多くなると推定されている。したがって、便秘症への対処は適切に、早期に行われなければならない。
便秘症状を改善するための下剤は、薬理作用によって刺激性、膨潤性、浸潤性、塩類下剤に分類されている。刺激性下剤には、アントラキノン系、ジフェニルメタン系、フェノールフタレイン系があり(例えば、特許文献1〜3参照)、腸管粘膜への腸管蠕動運動の亢進作用、水分吸収阻害作用などにより高い瀉下効果を示す。しかし、従来の大腸刺激性下剤は、効き目が強すぎて就寝中目覚めたり、投与を中止しても作用が持続して正常便への回復が遅れたりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52−139712号公報
【特許文献2】特開平8−310960号公報
【特許文献3】特表2004−532258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、刺激性下剤の中でも、アントラキノン系薬剤の作用を調節し得る医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ある種の洋薬を配合することによって、アントラキノン系薬剤による瀉下作用の強弱、効果発現時間を調節できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)アントラキノン系の薬剤に、クロロフィル誘導体、ビタミン類、抗酸化剤および催眠鎮静剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分を配合してなる医薬組成物;
(2)アントラキノン系の薬剤がダイオウまたはその配合製剤、センナ、カスカラサグラダ、アロエおよびこれらのエキスもしくは瀉下成分から選ばれる少なくとも1種である上記(1)記載の医薬組成物;
(3)クロロフィル誘導体が銅クロロフィリンまたはその塩類、鉄クロロフィリンまたはその塩類である上記(1)または(2)記載の医薬組成物;
(4)ビタミン類がビタミンBおよびその誘導体またはそれらの塩である上記(1)または(2)記載の医薬組成物;
(5)抗酸化剤がグルタチオンである上記(1)または(2)記載の医薬組成物;
(6)催眠鎮静剤がブロムワレリル尿素である上記(1)または(2)記載の医薬組成物;
(7)下剤である上記(1)〜(6)いずれか1項記載の医薬組成物;などを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の医薬組成物は、アントラキノン系薬剤による瀉下効果、効果発現時間を調節することができ、より患者個々人のニーズに合った医薬品を提供することができる。例えば、(a)アントラキノン系薬剤による腹痛、腹鳴、腹部膨満感などの胃腸症状や軟便などの副作用を懸念する患者に対しては銅クロロフィリン、塩酸フルスルチアミン、グルタチオン、ブロムワレリル尿素の配合により、そのような副作用を懸念する必要のない医薬品を提供することができ、(b)現在のアントラキノン系薬剤では効果が弱いと感じている患者に対しては、塩酸フルスルチアミンを配合することで安全に瀉下作用を増強した医薬品が提供できる。さらに、(c)アントラキノン系薬剤を就寝前に服用し、就寝中に薬効が発現し目覚めてしまうような患者に対しては、銅クロロフィリン、塩酸フルスルチアミン、グルタチオン、ブロムワレリル尿素の配合により、瀉下効果の発現時間を遅らせることができ、夜中ぐっすり眠ることができるよう調節でき、(d)アントラキノン系薬剤の投薬を中止しても下痢が長引いてしまう患者に対しては銅クロロフィリン、塩酸フルスルチアミン、グルタチオンの配合により正常便への回復を早めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の動物試験における各ラットが24時間に排泄した糞便の最高スコアの割合を示すグラフである。
【図2A】実施例1の動物試験におけるDK−1+銅クロロフィリンナトリウム製剤を使用した場合のスコア1以上のラット出現率の推移を示すグラフである。
【図2B】実施例1の動物試験におけるDK−1+フルスルアミン製剤を使用した場合のスコア1以上のラット出現率の推移を示すグラフである。
【図2C】実施例1の動物試験におけるDK−1+グルタチオン製剤を使用した場合のスコア1以上のラット出現率の推移を示すグラフである。
【図2D】実施例1の動物試験におけるDK−1+ブロムワレリル尿素製剤を使用した場合のスコア1以上のラット出現率の推移を示すグラフである。
【図3】実施例1の動物試験におけるスコア1以上の糞便個数の推移を示すグラフである。
【図4】実施例1の糞便中の水分含量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の医薬組成物において、アントラキノン系の薬剤としては、ダイオウおよびその配合製剤、センナ、カスカラサグラダ、アロエ、またはこれらのエキスもしくは瀉下成分が挙げられ、各種便秘症の改善を目的に配合されるものである。これらは1種または2種以上併用してもよい。アントラキノン系の薬剤の配合量は特に限定するものはないが、通常組成物全量に基づいて10〜80%程度である。
【0009】
クロロフィル誘導体としては、銅クロロフィリンまたはその塩類、鉄クロロフィリン、またはその塩類などが挙げられ、これらは単独又は2種以上を併せて用いることができ、銅クロロフィリンナトリウムが特に好ましい。特に限定するものではないが、クロロフィル誘導体の配合量は、種類によって異なるが、成人に対する1日服用量として10〜500mgの範囲であり、好ましくは、45〜200mgの範囲である。
【0010】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB、B、B6、12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、葉酸、γ-オリザノールなどを使用することができる。好ましくはビタミンBおよびその誘導体またはそれらの塩類、γ−オリザノール、さらに好ましくはビタミンBおよびその誘導体またはそれらの塩類、例えば、チアミン、ジスルフィド誘導体[チアミンジスルフィド(TDS)、プロスルチアミン(TPD)、フルスルチアミン(TTFD)、オクトチアミン(TATD)、ビスベンチアミン(BTDS)]、S−アシル誘導体[ビスイブチアミン(DBT)、ベンフォチアミン(BTMP)、ジセチアミン(DCET)およびシコチアミン(CCT)またはそれらの塩(例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩など)が包含される。特に好ましいビタミンB誘導体としては、塩酸フルスルチアミンが挙げられる。これらの薬剤は、1種または2種以上組み合わせて用いることができ、特に限定するものではないが、ビタミンBおよびその誘導体またはそれらの塩類の量は、成人に対する1日服用量として1〜200mgの範囲であり、好ましくは、25〜100mgの範囲である。
【0011】
抗酸化剤としては、具体的にはアスコルビン酸およびその誘導体、エリソルビン酸およびその誘導体、トコフェロールおよびその誘導体、コエンザイムQ10、カロチン、リコピン、グルタチオン、没食子酸プロピル、タンニン酸、カテキンおよびフラボノイド並びにアントシアニンなどのフェノール化合物、β−カロチンなどのカロテノイド類、クルクミンなどのβ−ジケトン類、含硫化合物、ノルヒドログアセレテン酸、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキシシチロソール、p−ヒドロキシアニソール並びにそれらの食品衛生上或いは薬学上許容される塩などが挙げられる。特に限定するものではないが、グルタチオンの量は、成人に対する1日服用量として25〜200mgの範囲であり、好ましくは、50〜100mgの範囲である。
【0012】
催眠鎮静剤としては、例えばカノコソウ、チャボトケイソウ、ホップ、トケイソウまたはこれらのエキスもしくは瀉下成分、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素、塩酸ジフェンヒドラミンなどが挙げられる。特に限定するものではないが、ブロムワレリル尿素の量は、成人に対する1日服用量として100〜1000mgの範囲であり、好ましくは、200〜600mgの範囲である。
【0013】
必要に応じて、さらに食物繊維類、塩類下剤、浸潤性下剤、膨張性下剤、整腸生菌成分を配合することもできる。
また、本発明に係る医薬組成物の投与形態、剤型は、特に限定するものではないが、例えば、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、舐剤、カプセル内に上記細粒剤や顆粒剤等を充填したカプセル剤等の固形製剤;液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液剤およびゼリー剤等の半固形製剤などの経口投与用製剤、特に、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口投与用固形製剤である場合が多い。これらの製剤は、必要に応じて薬理学的に許容される担体を用いて、常法により調製することができる。
【0014】
本発明の医薬組成物は、従来の便秘薬の効果、効果発現時間を調節することができる。 したがって、本発明により、
(a)アントラキノン系薬剤により腹痛、腹鳴、腹部膨満感などの胃腸症状や軟便などを併発する患者に対して、そのような副作用を懸念する必要のない医薬品を提供すること、
(b)現在のアントラキノン系薬剤では効果が弱いと感じている患者に対しては刺激性下剤の量を増量することなく安全に瀉下作用を増強した医薬品を提供すること、
(c)アントラキノン系薬剤を就寝前に服用し、就寝中に薬効が発現し目覚めてしまう患者に対しては、瀉下効果の発現時間を遅らせることで夜中ぐっすり眠ることができるよう調節すること、
(d)アントラキノン系薬剤の投薬を中止しても下痢が長引いてしまう患者に対しては正常便への回復を早めること、
が可能となった。
【0015】
本発明の医薬組成物を、例えば、ヒト等哺乳動物の便秘薬として用いる場合は、常法により、各有効成分に関して通常採用される投与量で経口的に投与できる。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
以下に本発明の医薬組成物に関する動物試験を示す。
(1)試験動物
8週齢のラット〔Crj:CD(SD)IGS、入手後1日の体重範囲:257〜304g〕を用いた。入手した動物は、5日間の検疫期間と2日間の馴化期間を設けた。飼育環境は室温20〜26℃(実測値:20〜26℃)、湿度40〜70%(実測値:40〜68℃)、明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時)、換気回数12回/時、餌および水は自由摂取の条件下で飼育した。
(2)投与
試験前一夜の排便状態を観察して下痢便排泄動物がいないことを確認した。
正常便排泄動物に検体を表1に示す群構成表に従い、経口投与し、その直後から皿の上に濾紙を敷いたラット用ステンレス製五連ケージに移した。投与後、表2に示すタイムスケジュールに従い、糞便の外観形状観察、糞便の個数および糞便中水分含量の測定を行い、各群毎の代表例の写真撮影を行った。糞便の外観形状観察は表3に従い、スコアを付け、スコア1以上の糞便の排泄が認められた場合を瀉下効果ありとした。糞便中水分含量は、糞便をスパーテルで採取し、重量を測定後、80℃で2日間乾燥させ、乾燥重量を測定し、乾燥前の便重量(湿重量)に対する割合(%)を求めた。なお、経時毎に濾紙を取り替えた。
【表1】

【表2】

【表3】

(3)統計処理
糞便の外観形状観察はスコア別に出現率を、糞便数および糞便中水分含量は平均値および標準誤差を算出した。有意差検定は、表4に従い実施した。有意水準は、危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)および1%未満(p<0.01)とした。
【表4】

(4)試験結果
各化合物単独では瀉下活性はみられなかった。
1匹のラットが24時間で排泄した最高スコアの割合を図1に、スコアの出現率の推移を図2A〜2Dに、スコア1以上の糞便個数の推移を図3に、糞便中水分含量の推移を図4に示す。図1中、*は、残り20%が、観測の結果、便は出ていたがスコア0(普通便)のみであったことを示す。
(5)試験結果の考察
各種化合物の配合により、スコアの出現率の上昇開始(図2A〜2D)、スコア1以上の糞便個数の上昇開始(図3)、糞便中水分含量の上昇開始(図4)が遅延し、DK−1の作用の出現時間が遅延する傾向がみられた。特に銅クロロフィリンナトリウム製剤の配合により、スコア3を排泄した例数、スコア1以上の糞便の出現率、スコア1以上の糞便個数、糞便中水分含量が低下したことから(図1〜図4)、銅クロロフィリンナトリウムには、DK−1によって発生する重篤な下痢を抑える効果があると考えられる。一方、フルスルチアミン製剤の配合により、下痢便(スコア3)を排泄した例数が増加した(図1)。また、投与後22〜24時間の糞便中水分含量に関して、DK−1(63.2%)では、注射用水(58.6%)に対し有意差はみられないものの増加傾向が認められたが、銅クロロフィリンナトリウム、フルスルチアミン、グルタチオン配合群では、DK−1と比較して有意に低値(57.2%〜58.7%)を示し、注射用水群と比較して有意差がみられなかった。さらに、16〜18時間後のスコア1以上の出現率はDK−1単独群に比べて低値を示したことより、銅クロロフィリンナトリウム、フルスルチアミン、グルタチオンは通常便への回復を早める可能性が考えられる。
【実施例2】
【0017】
以下に製剤例を示す。
製剤例1
大黄甘草湯エキス散 200mg(大黄267mg、甘草67mgより抽出)
銅クロロフィリンナトリウム 200mg
軽質無水ケイ酸 100mg
結晶セルロース 30mg
カルメロースカルシウム 18mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記処方に従い、日本薬局方製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤として製造した。
【0018】
製剤例2
大黄甘草湯エキス散 200mg(大黄267mg、甘草67mgより抽出)
塩酸フルスルチアミン 25mg
軽質無水ケイ酸 100mg
結晶セルロース 30mg
カルメロースカルシウム 18mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記処方に従い、日本薬局方製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤として製造した。
【0019】
製剤例3
大黄甘草湯エキス散 200mg(大黄267mg、甘草67mgより抽出)
グルタチオン 667.5mg
軽質無水ケイ酸 100mg
結晶セルロース 30mg
カルメロースカルシウム 18mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記処方に従い、日本薬局方製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤として製造した。
【0020】
製剤例4
大黄甘草湯エキス散 200mg(大黄267mg、甘草67mgより抽出)
γ−オリザノール 50mg
軽質無水ケイ酸 100mg
結晶セルロース 30mg
カルメロースカルシウム 18mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記処方に従い、日本薬局方製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤として製造した。
【0021】
製剤例5
大黄甘草湯エキス散 200mg(大黄267mg、甘草67mgより抽出)
ブロムワレリル尿素 270mg
軽質無水ケイ酸 100mg
結晶セルロース 30mg
カルメロースカルシウム 18mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記処方に従い、日本薬局方製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤として製造した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上記載したごとく、本発明によれば、刺激性下剤であるアントラキノン系薬剤の作用を調節し得る医薬組成物が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオウまたはそのエキスもしくは瀉下成分に、ビタミンBおよびその誘導体並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも1種の成分を配合してなる医薬組成物。
【請求項2】
ダイオウまたはそのエキスもしくは瀉下成分が大黄甘草湯に配合されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ビタミンBおよびその誘導体並びにそれらの塩類が、チアミン、チアミンジスルフィド、プロスルチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、ビスベンチアミン、ビスイブチアミン、ベンフォチアミン、ジセチアミンおよびシコチアミン並びにそれらの塩である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
下剤である請求項1〜3いずれか1項記載の医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−229242(P2012−229242A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153639(P2012−153639)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2006−258596(P2006−258596)の分割
【原出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】