説明

アンモニア吸蔵装置および選択的触媒還元システム

【課題】本発明は、安全性の高いアンモニア吸蔵装置、および前記アンモニア吸蔵装置を用いたSCRシステムの提供。
【解決手段】アンモニアを吸蔵、放出するとともに、アンモニア吸蔵時には体積が増大するアンモニア吸蔵材10と、アンモニア吸蔵材10を収容するとともに、空間11Bの内容積がアンモニア吸蔵材10のアンモニア吸蔵時の自由体積よりも小さいアンモニア吸蔵タンク11と、アンモニア吸蔵タンク11にアンモニアを導入するアンモニア導入管路12と、アンモニア吸蔵タンク11から放出されたアンモニアを外部に導出するアンモニア導出管路13と、アンモニア吸蔵タンク11のアンモニア導入管路12およびアンモニア導出管路13との連通部に設けられた多孔質フィルタ14と、アンモニア吸蔵タンク11に収容されたアンモニア吸蔵材10を加熱するヒータ15と、を備えるアンモニア吸蔵装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア吸蔵装置および選択的触媒還元システムにかかり、特に、吸蔵したアンモニアをディーゼル車の排気ガス中のNOxの還元剤として使用するためのアンモニア吸蔵装置、および前記アンモニア吸蔵装置を備える選択的触媒還元システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル自動車は燃費が良好であるが、NOxの排出量の低減が大きな課題の一つである。
【0003】
しかしながら、ディーゼル車の排ガスは酸素含有量が多いので、通常のガソリン車に使用される三元触媒による接触還元によってNOxを分解除去することは困難である。
【0004】
したがって、ディーゼル車の排ガスからNOxを除去するには、選択的触媒還元(SCR)型の排気ガス浄化システム(SCRシステム)が使用されるのが一般的である。
【0005】
SCRシステムにおいては、NOxの還元にアンモニアを用いることが一般的であるが、アンモニア源としては、通常、液化アンモニア、アンモニア水溶液、および尿素水溶液が使用される。
【0006】
アンモニア源として液化アンモニアを用いるSCRシステムには、高圧容器にアンモニアを充てんして使用することによる潜在的な危険性やアンモニアの漏洩の問題がある。アンモニア源としてアンモニア水溶液を用いるSCRシステムには高圧容器を用いることによる危険の問題はないが、アンモニア漏洩の問題は残る。
【0007】
アンモニア源として尿素水溶液を使用するSCRシステムにおいては、高温の排気ガスに尿素水溶液を注入することで尿素を分解してアンモニアを発生させるから、高圧容器にアンモニアを充てんして使用することによる潜在的な危険性やアンモニアの漏洩の問題はない。そこで、近年は、アンモニア源として尿素水溶液を使用するものが一般的である。
【0008】
しかしながら、アンモニア源として尿素水溶液を用いるSCRシステムには、以下に述べるような幾つかの問題点がある。
【0009】
SCRシステムにおいては、通常約30重量%の尿素水溶液が使用されるから、このSCRシステムにおいては、尿素水溶液を貯留する容器の容量の約70%を水が占めることになる。
【0010】
また、アンモニア源として尿素水溶液を用いるSCRシステムでは、尿素を尿素水溶液中の水で加水分解させてアンモニアを発生させるが、尿素は、化学式CO(NHで示される化学構造を有するから、尿素が加水分解すると2分子のアンモニアと1分子の二酸化炭素とを生じる。したがって、尿素が加水分解して生じるアンモニアは、尿素の約50重量%に過ぎないから、尿素水溶液の加水分解で生じるアンモニアの尿素水溶液に対する割合は約15重量%に過ぎず、アンモニア源として液化アンモニアを使用する場合やアンモニア水を使用する場合のアンモニア源に対する実際に使用されるアンモニアの重量割合と比較して低い。
【0011】
前記SCRシステムにおいては、また、排気ガス中に尿素水溶液を注入するための噴射システムが必要である。更に、尿素水溶液は、−11℃以下の温度で凍結するので、極寒時に尿素水溶液が凍結しないような配慮が必要である。
【0012】
そこで、以下の一般式:
【化1】

(但し、Mは、アルカリ土類金属および/または、Mn、Fe、Co、Ni、およびZnからなる群から選択されるカチオンであり、
Xは、1つ以上のアニオンであり、
aは、単位塩分子1個当りのカチオン数であり、
Zは、単位塩分子1個当りのアニオン数であり、
nは、2〜12の配位数である。)
で示されるイオン塩を含有するアンモニア貯蔵および移送用材料が考案された(特許文献1)
【0013】
【特許文献1】特表2008−508186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記アンモニア貯蔵および移送用材料は、アンモニアを吸蔵した状態でもアンモニアを放出した状態でも常温で固体であるから、アンモニア源として液化アンモニアを用いる場合やアンモニア水を陥る場合と比較して、高圧容器が不要であり、安全性が高いという特徴がある。
【0015】
しかしながら、上記アンモニア貯蔵および移送用材料は嵩比重が約0.1程度と低いからSCRシステムに使用するにはプレス等で圧縮してタブレット状とする必要がある。しかしながら、プレス機の発熱などにより上記材料が分解して作業中に人体に有害なアンモニアが発生し、外部に放出される可能性がある。アンモニアが発生、放出される可能性は、夏場などの高温時に著しいと考えられる。
【0016】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、アンモニア源として液化アンモニアを用いるSCRシステムとは異なり、高圧容器を用いることによる危険性がなく、また、取り扱い時におけるアンモニアの漏洩の危険がないアンモニア吸蔵装置、および前記アンモニア吸蔵装置を用いたSCRシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の発明は、アンモニアを吸蔵し、吸蔵したアンモニアを加熱により放出するとともに、アンモニア吸蔵時には体積が増大するアンモニア吸蔵材と、前記アンモニア吸蔵材を収容するとともに、前記アンモニア吸蔵材が収容される部分の内容積が前記アンモニア吸蔵材のアンモニア吸蔵時の自由体積よりも小さいアンモニア吸蔵タンクと、前記アンモニア吸蔵タンクにアンモニアを導入するアンモニア導入路と、前記アンモニア吸蔵タンクに収容されたアンモニア吸蔵材から放出されたアンモニアを外部に導出するアンモニア導出路と、前記アンモニア吸蔵タンクにおける前記アンモニア導入路および前記アンモニア導出路との連通部に設けられた多孔質フィルタと、前記アンモニア吸蔵タンクに収容されたアンモニア吸蔵材を加熱する加熱手段と、を備えるアンモニア吸蔵装置に関する。
【0018】
請求項1のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニア吸蔵材はアンモニアを吸蔵すると膨張する。そして、アンモニア吸蔵タンクにおけるアンモニア吸蔵材が収容される部分の内容積は、自由空間でアンモニアを吸蔵させたときのアンモニア吸蔵材の体積よりも小さく、また、アンモニア吸蔵タンクにおけるアンモニア吸蔵材が収容される部分とアンモニア導入路およびアンモニア導出路との間には多孔質フィルタが配設されている。したがって、アンモニアを吸蔵して膨張したアンモニア吸蔵材は、逃げ場がないから、アンモニア吸蔵タンクにおけるアンモニア吸蔵材が収容される部分の内容積とアンモニア吸蔵時のアンモニア吸蔵材の自由体積との体積差の分だけ圧縮され、アンモニア吸蔵材のバルク密度は自由状態でアンモニアを吸蔵させた場合と比較して高くなる。したがって、アンモニア吸蔵材に自由状態でアンモニアを吸蔵させる場合と比較して単位体積当りのアンモニア吸蔵量をより多くすることができる。
【0019】
このため、アンモニア吸蔵装置全体のコンパクト化が可能になるから、自動車への搭載性が向上する。
【0020】
また、アンモニアを吸蔵することにより、アンモニア吸蔵材は自動的に圧縮されるから、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材をプレスなどによって圧縮してからアンモニア吸蔵タンクに収納する必要がない。したがって、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材をアンモニア吸蔵タンクに出し入れする必要がなくなるから、アンモニア吸蔵材をアンモニア吸蔵タンクに出し入れすることによるアンモニアの漏洩が防止できる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵タンクの内部が、多孔体隔壁によって複数の室に区分されている請求項1に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0022】
請求項2に記載のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニア吸蔵タンクの内部が多孔体隔壁によって複数の室に分割されているから、アンモニア吸蔵タンクにアンモニア吸蔵材が収容された状態においてアンモニア吸蔵タンクの内部にアンモニアの流通通路を確保できる。したがって、アンモニア吸蔵タンクの内部が多孔体隔壁によって複数の室に分割されていない場合と比較してより速やかにアンモニアを吸蔵、放出できる。
【0023】
また、前記多孔質隔壁によって複数の室に分割されていることにより、アンモニア吸蔵タンクの強度が向上しているから、アンモニア吸蔵材がアンモニアを吸蔵して膨張することにより、アンモニア吸蔵タンクの壁面に生じる外向きの応力に対する安全性が向上する。
【0024】
また、多孔体隔壁として金属多孔体を用いた場合は、金属多孔体の熱伝導率が高いこと、および多孔体隔壁とアンモニア吸蔵材との接触面積が大きいことから、加熱手段からの熱をアンモニア吸蔵材全体に速やかに伝えることができる。したがって、アンモニアの放出をより速やかに行うことができる。
【0025】
請求項3に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵タンクの壁面が内壁と外壁とからなる二重構造とされている請求項1または2に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0026】
請求項3のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニア吸蔵タンクの壁面が二重構造とされているから、前記壁面の空間に冷却用流体を流通させたり、加熱用の流体を流通させたりすることにより、アンモニアの吸蔵、放出をより速やかに行うことができる。
【0027】
請求項4に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間に冷却用流体を流通させる請求項3に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0028】
アンモニア吸蔵材は、アンモニアを吸蔵する際には発熱するから、アンモニアを大量に吸蔵させるためには、アンモニア吸蔵材を冷却する必要がある。請求項4に記載のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させるときは、アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間に冷却用流体を流通させてアンモニア吸蔵材を冷却するから、アンモニア吸蔵材を冷却しないアンモニア吸蔵装置と比較してより多くのアンモニアを吸蔵できる。
【0029】
請求項5に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵材からアンモニアを放出させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間を真空にする請求項3または4に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0030】
アンモニア吸蔵材は、アンモニアを放出するときは吸熱するから、アンモニア放出時にはアンモニア吸蔵手段を加熱手段で加熱する必要がある。請求項5のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニアを放出するときは、アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間を真空にするから、アンモニア吸蔵タンクが前記空間を有しないアンモニア吸蔵装置や、アンモニア吸蔵タンクが前記空間を有していてもアンモニア放出時に前記空間を真空にしないアンモニア吸蔵装置と比較してアンモニア吸蔵タンクの壁面からの放熱が抑えられるから、加熱手段からの熱がより効率的にアンモニア吸蔵材に伝達される。
【0031】
請求項6に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵材からアンモニアを放出させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間にディーゼルエンジンからの排気ガスを流通させる請求項3または4に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0032】
請求項6に記載のアンモニア吸蔵装置においては、アンモニア放出時には、アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間にディーゼルエンジンからの排気ガスを流通させるから、前記排気ガスの熱でアンモニア吸蔵材を加熱することができる。したがって、加熱手段の負荷を低減することができる。また排気ガスによる加熱だけでアンモニア吸蔵材を十分に加熱できるときは、前記空間そのものを加熱手段として機能させることができる。
【0033】
請求項7に記載の発明は、前記アンモニア吸蔵材が塩化マグネシウムである請求項1〜6の何れか1項に記載のアンモニア吸蔵装置に関する。
【0034】
アンモニアを吸蔵すると体積が増大する化合物としては、塩化マグネシウムのほか、塩化ストロンチウムや塩化カルシウムがあるが、塩化ストロンチウムや塩化カルシウムは室温に近い温度でアンモニアを放出するから、取り扱いには危険を伴う。
【0035】
これに対して請求項7に記載のアンモニア吸蔵装置で使用されている塩化マグネシウムは、塩化ストロンチウムや塩化カルシウムのように室温に近い温度ではなく、更に高温でアンモニアを放出する。したがって、室温に放置した状態で誤ってアンモニア導出路を開とした場合においても、加熱手段を作動させない限り、アンモニアが放出されることは殆どない。
【0036】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7に記載のアンモニア吸蔵装置と、前記アンモニア吸蔵装置から放出されたアンモニアをディーゼルエンジンからの排気ガスに注入するアンモニア注入装置と、前記排気ガスに導入されたアンモニアを前記排気ガス中のNOxと反応させるための触媒が保持され、前記アンモニア注入装置によってアンモニアが供給された排気ガスが導入される選択的還元触媒コンバータと、を有する選択的触媒還元システムに関する。
【0037】
請求項8に記載の選択的触媒還元システム、即ちSCRシステムにおいては、アンモニア吸蔵装置に予めアンモニアを吸蔵させておき、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵装置からアンモニアを放出させ、これをアンモニア導入手段によってディーゼルエンジンからの排気ガスに導入し、この排気ガスを触媒部に導入することにより、排気ガス中のNOxはアンモニアと反応して最終的に水と窒素とに分解される。
【発明の効果】
【0038】
請求項1の発明によれば、よりコンパクトでありながら大量のアンモニアを吸蔵、放出することができるため、自動車への搭載性が良好であるとともに、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材をアンモニア吸蔵タンクから取り出してプレスする操作が不要であるため安全性の高いアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0039】
請求項2の発明によれば、多孔体隔壁を有しないアンモニア吸蔵装置と比較してより急速なアンモニアの吸蔵、放出が可能であり、また、アンモニア吸蔵材の膨張圧に対するアンモニア吸蔵タンクの強度が高いアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0040】
請求項3の発明によれば、アンモニア吸蔵タンクの壁面が二重構造とされていないアンモニア吸蔵装置とは異なり、前記壁面に形成された区間に冷却用流体や加熱用流体を流通させることにより、より急速なアンモニアの吸蔵、放出が可能となるアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0041】
請求項4の発明によれば、アンモニア吸蔵時にアンモニア吸蔵タンクの冷却を行わないアンモニア吸蔵装置と比較してより急速なアンモニア吸蔵が可能なアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0042】
請求項5の発明によれば、アンモニア放出時にアンモニア吸蔵タンクの外壁と内壁との間の空間を真空にしないアンモニア吸蔵装置と比較して加熱手段からの熱がより効率的にアンモニア吸蔵剤に伝達されることから、加熱手段に投入するエネルギーが節約できる。また、より急速なアンモニア放出も可能なアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0043】
請求項6の発明によれば、アンモニア吸蔵タンクの外壁と内壁との間の空間に排気ガスを流通させないアンモニア吸蔵装置と比較して加熱手段からの熱がより効率的にアンモニア吸蔵剤に伝達されることから、加熱手段に投入するエネルギーが節約できる。また、より急速なアンモニア放出も可能なアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0044】
請求項7の発明によれば、アンモニア吸蔵材として塩化ストロンチウムや塩化カルシウムを用いたアンモニア吸蔵装置とは異なり、誤ってアンモニア導出路を開としても、加熱手段を作動させない限りアンモニアが放出されることは殆どなく、安全性の高いアンモニア吸蔵装置が提供される。
【0045】
請求項8の発明によれば、アンモニア源として液化アンモニアを用いるSCRシステムと比較して遥かに安全性に優れ、また、アンモニア源としてアンモニア水や尿素を用いるSCRシステムと比較して、タンク体積当りより多くのアンモニアを吸蔵、放出できるSCRシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、実施形態1に係るアンモニア吸蔵装置の構成を示す長手方向に沿って切断した概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係るアンモニア吸蔵装置においてアンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材がアンモニア吸蔵タンク内で自動的に圧縮されることを示す説明図である。
【図3】図3は、実施形態2に係るアンモニア吸蔵装置の構成を示す長手方向に沿って切断した概略断面図である。
【図4】図4は、実施形態2に係るアンモニア吸蔵装置を、図3における平面X−Xに沿って切断した断面を示す断面図である。
【図5】図5は、実施形態3に係るアンモニア吸蔵装置の構成を示す長手方向に沿って切断した概略断面図である。
【図6】図6は、実施形態4に係るアンモニア吸蔵装置の構成を示す長手方向に沿って切断した概略断面図である。
【図7】図7は、実施形態5に係るSCRシステムの構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、実施例1においてアンモニア吸蔵材としての塩化マグネシウムの質量を変えたときのアンモニア吸蔵量の変化を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例2において多孔質フィルタの濾過能力を変えたときのアンモニア吸蔵量の変化を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例2において多孔質フィルタの濾過能力を変えたときのアンモニア吸蔵速度の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、アンモニア吸蔵材として塩化マグネシウムを用いた比較例3におけるアンモニア吸蔵材1kgおよび1リットル当たりのアンモニア放出量と、アンモニア源として尿素水(比較例1)、またはアンモニア水(比較例2)を用いたときのアンモニア源1kgおよび1リットル当たりのアンモニア放出量の比較を示す表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
1.実施形態1
以下、本発明のアンモニア吸蔵装置の一例について図面を用いて説明する。
図1に示すように、実施形態1に係るアンモニア吸蔵装置1は、アンモニア吸蔵材10を収容するアンモニア吸蔵タンク11と、アンモニア吸蔵タンク11にアンモニアを導入するアンモニア導入路としてのアンモニア導入管路12と、アンモニア吸蔵タンクから外部にアンモニアを導出するアンモニア導出路としてのアンモニア導出管路13と、アンモニア吸蔵タンク11の内部におけるアンモニア導入管路12およびアンモニア導出管路13に連通する部分に設けられた多孔質フィルタ14と、アンモニア吸蔵タンク11内に収容されたアンモニア吸蔵材10を加熱する加熱手段としてのヒータ15と、を備える。
【0048】
アンモニア導入管路12およびアンモニア導出管路13には、開閉弁16おおび開閉弁17が夫々介装され、開閉可能とされている。
【0049】
アンモニア吸蔵材10は、アンモニア吸蔵タンク11における底面11Aと多孔質フィルタ14との間の空間11Bに収納されている。空間11Bの内容積は、アンモニア吸蔵材が自由空間でアンモニアを吸蔵したときの体積よりも小さく設定されている。
【0050】
アンモニア吸蔵材10としては、アンモニアを吸蔵したときに体積が増大するものが使用されるが、具体的には塩化マグネシウムが使用される。アンモニアを吸蔵したときに体積が増大する化合物としては、他に塩化カルシウムおよび塩化ストロンチウムがあるが、これらの化合物にアンモニアを吸蔵させると、室温に近い温度でアンモニアを放出するからアンモニア吸蔵材10としては不適当である。これに対して塩化マグネシウムにアンモニアを吸蔵させたものは、室温ではアンモニアを放出せず、150℃〜200℃の温度に加熱して初めてアンモニアを放出するから、アンモニア吸蔵材10として好ましい。
【0051】
アンモニア吸蔵材10の嵩密度は、アンモニア吸蔵タンク11に収容された状態で0.4〜1.3g/cmが好ましく、特に0.6〜1.3g/cmが好ましい。また、粒径は、10〜200μm程度が好ましい。
【0052】
多孔質フィルタ14は、濾過能力が2〜90μmのものが好ましい。ここで、多孔質フィルタ14の濾過能力は、多孔質フィルタ14によって阻止できる粒子の直径の最小値として示すことができる。
【0053】
以下、実施形態1のアンモニア吸蔵装置1の作用について説明する。図2(A)に示すように、アンモニアを吸蔵する前のアンモニア吸蔵材の体積は、アンモニア吸蔵タンクにおける空間11Bの内容積よりも小さい。
【0054】
開閉弁16を開けてアンモニア導入管路12からアンモニア吸蔵タンク11にアンモニアを供給すると、アンモニア吸蔵材10は供給されたアンモニアを吸蔵して膨張する。しかしながら、アンモニア吸蔵材10は、アンモニア吸蔵タンク11に設けられた多孔質フィルタ14を通過することができないので、図2(B)に示すように空間11Bの内容積以上には膨張できない。
【0055】
したがって、圧縮しない状態でアンモニア吸蔵材10にアンモニアを吸蔵させたときの体積、即ち自由空間でアンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させたときの体積、言い換えればアンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させたときの自由体積V1(図2(C)参照)と、アンモニア吸蔵タンク11における空間11Bの内容積V2との差ΔVだけ、アンモニア吸蔵材は圧縮される。
【0056】
したがって、アンモニア吸蔵タンク11における空間11Bの内容積V2は、アンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させたときの自由体積V1よりも小さく設定されているにも拘らず、自由空間において吸蔵させたときと同程度の量のアンモニアを吸蔵させることができる。
【0057】
アンモニア吸蔵材10に吸蔵されるアンモニアの量が飽和量に達したら、開閉弁16を閉じてアンモニア導入路12を閉じ、アンモニアの導入を終了する。
【0058】
アンモニア吸蔵材10に吸蔵させたアンモニアを放出するときは、開閉弁17を開けてアンモニア導出管路13を開とするとともに、ヒータ15に通電してアンモニア吸蔵材10を加熱する。アンモニア吸蔵材10が例えば150〜200℃に加熱されると吸蔵されたアンモニアの放出が開始される。放出されたアンモニアは、アンモニア導出管路13を通じて放出される。
【0059】
実施形態1のアンモニア吸蔵装置1は、前述のように、アンモニア吸蔵タンク11の空間11Bの内容積V2が、アンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させたときの自由体積V1よりも小さく設定されているにも拘らず、自由空間において吸蔵させたときと同程度の量のアンモニアをアンモニア吸蔵材10に吸蔵させることができる。したがって、コンパクトに構成できるにも拘らずアンモニア吸蔵量が大きいから、ディーゼル自動車への搭載性が良好である。
【0060】
また、アンモニア吸蔵材10にアンモニアを吸蔵させるときは、アンモニア吸蔵材10は、空間11Bの内容積V2を超えて膨張しようとすると、アンモニア吸蔵タンク11の壁面や多孔質フィルタ14に押圧されて自動的に圧縮される。したがって、アンモニアを吸蔵したアンモニア吸蔵材10をプレスしてからアンモニア吸蔵タンク11に収納する操作は不要になるから、前記操作に伴うアンモニアの漏出が防止され、安全性が高い。
【0061】
また、アンモニア吸蔵装置1は、アンモニア吸蔵タンク11と多孔質フィルタ14とアンモニア導入管路12とアンモニア導出管路13とヒータ15とで構成できるから、構成が簡略である。
【0062】
2.実施形態2
以下、本発明のアンモニア吸蔵装置の他の一例について図面を用いて説明する。
図3及び図4に示すように、実施形態2に係るアンモニア吸蔵装置2は、アンモニア吸蔵材10を収容するアンモニア吸蔵タンク11と、アンモニア吸蔵タンク11にアンモニアを導入するアンモニア導入路としてのアンモニア導入管路12と、アンモニア吸蔵タンクから外部にアンモニアを導出するアンモニア導出路としてのアンモニア導出管路13と、アンモニア吸蔵タンク11の内部におけるアンモニア導入管路12およびアンモニア導出管路13に連通する部分に設けられた多孔質フィルタ14と、アンモニア吸蔵タンク11内に収容されたアンモニア吸蔵材10を加熱する加熱手段としてのヒータ15と、を備える。
【0063】
アンモニア吸蔵タンク11の内部は、長手方向に延在する多孔体隔壁20によって複数の小室11Cに区分され、アンモニア吸蔵材10は小室11C内に収容されている。多孔体隔壁20は、図4(A)に示すように多孔質体の円筒18の集合体から形成されていてもよく、また図4(B)に示すように蜂の巣状に形成されていてもよい。
【0064】
多孔体隔壁20は、ヒータ15による加熱に耐えられるものであれば、材質は特に限定されないが、セラミック多孔体および金属多孔体が好ましく、特に熱伝導率が高い点で金属多孔体が好ましい。
【0065】
多孔体隔壁20は、濾過能力が2〜90μmのものが好ましい。濾過能力については実施形態1のところで説明したとおりである。
【0066】
ヒータ15は、アンモニア吸蔵タンク11の底部に配置されているが、これに限定されず、例えば多孔体内部に組み込まれたようなものでもよい。
【0067】
上記以外の点については、アンモニア吸蔵装置2は実施形態1のアンモニア吸蔵装置1と同様の構成を有している。したがって、アンモニア吸蔵材10、アンモニア吸蔵タンク11、アンモニア導入管路12、アンモニア導出管路13、多孔質フィルタ14については実施形態1のところで述べたとおりである。
【0068】
実施形態2のアンモニア吸蔵装置2は、実施形態1のアンモニア吸蔵装置が有する特長に加え、アンモニアの吸蔵時、および放出時には多孔体隔壁20がアンモニアの通路になるため、アンモニアの吸蔵および放出がより迅速に行えるという特長を有する。
【0069】
また、空間11Bが多孔体隔壁20によって複数の小室11Cに区分されているため、アンモニア吸蔵材10の膨張圧に対するアンモニア吸蔵タンク11の強度がより高いという特長を有する。
【0070】
3.実施形態3
以下、本発明のアンモニア吸蔵装置の他の一例について図面を用いて説明する。
図5に示すように、実施形態3に係るアンモニア吸蔵装置3においては、アンモニア吸蔵タンク11の底面11A以外の壁面は、外壁112と内壁111との二重構造とされ、外壁112と内壁111との間の空間は、冷却用流体としての冷却水の流路である冷却水流路21とされている。なお、アンモニア吸蔵タンク11の底面11Aも外壁と内壁との二重構造とされていてもよい。
【0071】
冷却水流路21には、冷却水が導入される冷却水導入管路22と、冷却水が導出される冷却水導出管路23が接続されている。冷却水導入管路22および冷却水導出管路23は、夫々開閉弁24および開閉弁25によって開閉可能とされている。
【0072】
上記以外の点については、アンモニア吸蔵装置3は実施形態1のアンモニア吸蔵装置1と同様の構成を有している。したがって、アンモニア吸蔵材10、アンモニア吸蔵タンク11、アンモニア導入管路12、アンモニア導出管路13、多孔質フィルタ14、及びヒータ15については実施形態1のところで述べたとおりである。
【0073】
アンモニア吸蔵装置3においては、アンモニア吸蔵材10にアンモニアを吸蔵させるときは開閉弁24および開閉弁25を開いて冷却水流路21に冷却水を流通させ、アンモニア吸蔵材10がアンモニアを吸蔵する際に発生する熱を除去する。
【0074】
一方、アンモニア吸蔵材10に吸蔵されたアンモニアを脱着するときは、冷却水流路21内部を真空とした後、開閉弁24および開閉弁25を閉じて冷却水流路21内部の真空を保持する。この状態でヒータ15を通電してアンモニア吸蔵材10を加熱することにより、ヒータ15からの熱がアンモニア吸蔵タンク11の壁面から外部に逃げるのを抑える。
【0075】
アンモニア吸蔵装置3は、アンモニア吸蔵時には冷却水流路21に冷却水を流通させてアンモニア吸蔵タンク11内部を冷却し、アンモニア放出時には、冷却水流路21内部を真空にしてヒータからの熱の逸散を抑えているから、アンモニア吸蔵タンク11の壁が一汁構造のものと比較して加熱手段に投入するエネルギーを節約できる。また、アンモニアの吸蔵、放出をより迅速に行うことができるという特長を有している。
【0076】
4.実施形態4
以下、本発明のアンモニア吸蔵装置の他の一例について図面を用いて説明する。
図6に示すように、実施形態4に係るアンモニア吸蔵装置4も、実施形態3に係るアンモニア吸蔵装置3と同様に、アンモニア吸蔵タンク11の底面11A以外の壁面は、外壁112と内壁111との二重構造とされている。そして、外壁112と内壁111との間の空間は、冷却用流体としての冷却水の流路であるとともに、加熱用流体としてのディーゼルエンジンの排気ガスの流路である冷却加熱用流路30とされている。
【0077】
冷却加熱用流路30の一端には管路31が、他端には管路32が接続されている。
【0078】
上記以外の点については、アンモニア吸蔵装置3は実施形態1のアンモニア吸蔵装置1と同様の構成を有している。したがって、アンモニア吸蔵材10、アンモニア吸蔵タンク11、アンモニア導入管路12、アンモニア導出管路13、多孔質フィルタ14、及びヒータ15については実施形態1のところで述べたとおりである。
【0079】
アンモニア吸蔵装置4においては、アンモニア吸蔵材10にアンモニアを吸蔵させるときは管路31から冷却加熱用流路30に冷却水を導入し、この冷却水を管路32から導出することにより、アンモニア吸蔵材10がアンモニアを吸蔵する際に発生する熱を除去する。
【0080】
一方、アンモニアを放出するときは、ディーゼルエンジンの排気ガスを管路32から冷却加熱用流路30に供給することにより、アンモニア吸蔵タンク11の内部を加熱して内部に収納されたアンモニア吸蔵材からのアンモニアの放出を促進させる。
【0081】
アンモニア吸蔵装置4は、アンモニア吸蔵時には冷却加熱用流路30に冷却水を流通させてアンモニア吸蔵タンク11内部を冷却し、アンモニア放出時には、冷却加熱用流路30にディーゼルエンジンから排出された排気ガスを流通させてアンモニア吸蔵タンク11内部を加熱しているから、アンモニア吸蔵タンク11の冷却、加熱を行わないアンモニア吸蔵装置と比較してアンモニアの吸蔵をより迅速に行うことができるから、アンモニア放出時のヒータ15の負担が軽くなる。そして、排気ガスの温度が高いときや排気ガスの流量が多いときは、排気ガスの熱だけでアンモニア吸蔵材が十分加熱されるから、ヒータ15によるアンモニア吸蔵材10の加熱が不要になる。
【0082】
以上、アンモニア導入管路12とアンモニア導出管路13とを別個の管路として設けた例について説明したが、本発明のアンモニア吸蔵タンクにおいては、アンモニア導入管路とアンモニア導出管路とを1本の管路で兼用してもよいことは言うまでもない。
【0083】
5.実施形態5
以下、本発明の選択的触媒還元システムの一例であるSCRシステムについて図面を用いて説明する。実施形態5のSCRシステム5は、図7に示すようにディーゼルエンジン200の排気系50上に設けられた酸化触媒コンバータ51と、排気系50における酸化触媒コンバータ51の下流側に設けられたSCR触媒コンバータ52と、SCR触媒コンバータ52の下流側に設けられたスリップ触媒コンバータ53と、排気系50における酸化触媒コンバータ51とSCRコンバータ52との間にアンモニアを注入するアンモニア注入装置54と、アンモニア注入装置54に接続されたアンモニア吸蔵装置55と、アンモニア注入装置54を流通するアンモニアの流量に応じてアンモニア吸蔵装置55のヒータ15に流れる電流を制御するコントローラ56と、を備える。なお、SCRコンバータ52は、本発明の選択的触媒還元システムが備える選択的触媒還元コンバータに相当する。
【0084】
アンモニア吸蔵装置55は、アンモニア注入装置54にアンモニアを供給する機能を有し、例えば実施形態1〜4に記載のアンモニア吸蔵装置が好ましく使用される。なお、アンモニア吸蔵装置55は、アンモニア導出管路12においてアンモニア注入装置54に接続されている。
【0085】
SCRシステム5において、酸化触媒コンバータ51は、ディーゼルエンジン200の排気ガスに含まれる炭化水素とCOとを水とCOとに、また、NOをNOxに酸化する。
【0086】
アンモニア注入装置54は、酸化触媒コンバータ51で酸化された排気ガスにアンモニアを注入する機能を有する。
【0087】
SCR触媒コンバータ52は、アンモニア注入装置54によって注入されたアンモニアによって排気ガス中のNOxを窒素ガスと水とに還元する機能を有する。
【0088】
スリップ触媒コンバータ53は、SCR触媒コンバータ52から排気ガスと共にアンモニアが排出された場合に、排出されたアンモニアを酸化分解して除去する機能を有する。
【0089】
以下、SCRシステム5の作用について説明する。
【0090】
ディーゼルエンジン200から排出された排気ガスは、酸化触媒コンバータ51に導入され、排気ガス中の炭化水素とCOとが水およびCOに、NOがNOxに夫々酸化される。
【0091】
アンモニア注入装置54においては、アンモニア吸蔵装置55から放出されたアンモニアを、酸化触媒コンバータ51を通過した排気ガスに排気ガスのNOx濃度に応じた量で注入する。
【0092】
SCR触媒コンバータ52においては、排気ガス中のNOxが注入されたアンモニアによって窒素と水とに還元されて除去される。アンモニア注入装置54において万が一アンモニアが過剰に注入された場合には、余剰のアンモニアは排気ガスと共に排出される。しかしながら、SCR触媒コンバータ52の下流側にはスリップ触媒コンバータ53が設けられているから、排気ガスと共に排出されたアンモニアはスリップ触媒コンバータ53で酸化されて除去される。したがって余剰のアンモニアが外界に排出されることは殆どない。
【0093】
なお、コントローラ56は、アンモニア注入装置54で注入されるアンモニアの量に応じてアンモニア吸蔵装置55のヒータ15を制御する。即ち、アンモニア注入装置54においてアンモニア注入量が減少したときは、コントローラ56は、ヒータ15に流れる電流を減少させることにより、アンモニア吸蔵装置55からのアンモニア放出量を減少させる。一方、アンモニア注入装置54においてアンモニア注入量が増加したときは、コントローラ56はヒータ15に流れる電流を増大させることにより、アンモニア吸蔵装置55からのアンモニア放出量を増大させる。
【0094】
また、コントローラ56においては、排気ガスの温度およびNOx濃度に応じ、たとえば排気ガスの温度およびNOx濃度が低いときはヒータ15に流す電流を減少させ、排気ガスの温度およびNOx濃度が高いときはヒータ15に流す電流を増大させてもよい。
【0095】
あるいは、アンモニア吸蔵装置55内の圧力が略一定になるようにヒータ15で調節し(調圧弁をアンモニア吸蔵装置55の下流に配置してアンモニア注入装置54に略一定圧のアンモニアが供給されるようにしてもよい)、アンモニア注入装置54の開口面積、あるいは開口時間を制御して所定量のアンモニアが供給されるようにする。
【0096】
SCRシステム5においては、アンモニア吸蔵装置55において高圧を用いていないから、アンモニア源として液化アンモニアを用いるSCRシステムと比較して遥かに安全性に優れている。また、アンモニア源としてアンモニア水や尿素を用いるSCRシステムと比較して小さなアンモニア吸蔵タンク容量で多くのアンモニアを排気ガスに注入できる。
【0097】
また、コントローラ56においては、アンモニア注入装置54で注入されるアンモニアの量に応じてヒータ15を制御してアンモニア吸蔵装置55からのアンモニア放出量を制御しているから、排気ガスにアンモニアが過剰に注入されたり、アンモニア注入量が不足したりすることが抑止される。
【実施例】
【0098】
(1)実施例1
実施形態1に係るアンモニア吸蔵装置1を用い、アンモニア吸蔵材10として塩化マグネシウムを用いてアンモニアの吸蔵を行った。アンモニア吸蔵装置1が備えるアンモニア吸蔵タンク11の空間11Bの内容積は3.5cmとした。また、空間11Bに収容する塩化マグネシウムの重量は、0.83g、1,15g、1.5gの3点とした。アンモニア吸蔵装置に導入するアンモニアの圧力は0.3MPaに設定し、アンモニア導入時間は90分とした。結果を図8に示す。なお、塩化マグネシウムがアンモニアを吸蔵すると、下記の化学式2:
【化2】

の右辺で示されるアンモニア吸蔵塩を形成する。図8において、実線は、アンモニア吸蔵量の理論値を示し、白丸はアンモニア吸蔵量の実測値を示す。なお、アンモニア吸蔵量の理論値は、上記化学式2に基いて求めたアンモニア吸蔵量である。
【0099】
図8から明らかなように、アンモニア吸蔵装置1においては、アンモニア吸蔵量の実測値は理論値とよく一致することが判った。
【0100】
また、実施例1で使用した塩化マグネシウムの嵩密度は約0.6g/cmであるから、0.83gの塩化マグネシウムの体積は1.38cmとなり、1.5gの塩化マグネシウムの体積は2.5cmとなる。したがって、塩化マグネシウムの量が0.83gのときは、塩化マグネシウムは、吸蔵タンク11の空間11Bの内容積の約40%を占め、塩化マグネシウムの量が1.5gのときは、塩化マグネシウムは、吸蔵タンク11の空間11Bの内容積の約71%を占める。
【0101】
ここで、塩化マグネシウムがアンモニアを吸蔵して生じるアンモニア吸蔵塩の嵩密度は約0.1g/cmであるから、塩化マグネシウムは、自由状態でアンモニアを吸蔵すると体積が約6倍に増大する。
【0102】
しかしながら、空間11Bは、アンモニア吸蔵タンク11と多孔質フィルタ14とで囲まれた空間なので、吸蔵塩は、区間11Bの内容積を超えて膨張することはできない。したがって、塩化マグネシウムの量が0.83gのときも、1.5gのときも、アンモニアを吸蔵して生じた吸蔵塩は、アンモニア吸蔵タンク11内で圧縮される。
【0103】
(2)実施例2
次に、吸蔵材として塩化マグネシウムを1.15g用い、多孔質フィルタ14として濾過能力が2μ、15μm、60μm、および90μmのものを用い、アンモニア吸蔵量を測定した。90分経過後の吸蔵量を図9に、吸蔵量の時間変化を図10に示す。
【0104】
図9に示すように、90分経過後の吸蔵量、言い換えれば平衡状態に達したときの吸蔵量は、多孔質フィルタ14として濾過能力が2μ、15μm、60μm、および90μmの何れも場合も約1.2gと変化がなく、これは化学式2に基いて求めたアンモニア吸蔵量の理論値とほぼ等しい値であった。また、図10に示すように、アンモニア吸蔵開始5分後、10分後、及び25分後のアンモニア吸蔵量も多孔質フィルタ14として濾過能力が2μ、15μm、60μm、および90μmの場合で差が殆ど見られなかった。このことから、多孔質フィルタ14の濾過能力は2〜90μmの範囲が好ましいことが判る。
【0105】
(3)実施例3、比較例1、比較例2
次に、実施例1で用いたのと同様のアンモニア吸蔵装置を用い、アンモニア吸蔵材10として塩化マグネシウム(実施例3)を用いた場合、及びアンモニア源として尿素水(比較例1、32.5%水溶液)、またはアンモニア水(比較例2、25%水溶液)を用いてアンモニア放出量を測定し、その結果に基いて吸蔵材(アンモニア源)1kg当りおよび1リットル当たりのアンモニア放出量を求めた。結果を図11に示す。
【0106】
図11から明らかなように、実施例3においては、塩化マグネシウム1kg当りのアンモニア放出量は0.52kgであり、塩化マグネシウム1リットル当りのアンモニア放出量は0.62kgであった。これに対し、アンモニア源として尿素水を用いた比較例1においては、アンモニア源1kg当りのアンモニア放出量は0.18kgであり、アンモニア源1リットル当たりのアンモニア放出量は0.20kgに過ぎなかった。また、アンモニア源としてアンモニア水を用いた比較例2においては、アンモニア源1kg当りのアンモニア放出量は0.28kgであり、アンモニア源1リットル当たりのアンモニア放出量は0.25kgに過ぎなかった。このことから、実施例3におけるアンモニア吸蔵材1kgおよび1リットル当たりのアンモニア放出量は、アンモニア源として尿素を用いた比較例1、およびアンモニア水を用いた比較例2におけるアンモニア放出量の倍以上であることが判った。
【符号の説明】
【0107】
1 アンモニア吸蔵装置
2 アンモニア吸蔵装置
3 アンモニア吸蔵装置
4 アンモニア吸蔵装置
5 SCRシステム
10 アンモニア吸蔵材
11 アンモニア吸蔵タンク
12 アンモニア導出管路
12 アンモニア導入管路
13 アンモニア導出管路
14 多孔質フィルタ
15 ヒータ
16 開閉弁
17 開閉弁
18 円筒
20 多孔体隔壁
21 冷却水流路
22 冷却水導入管路
23 冷却水導出管路
24 開閉弁
25 開閉弁
30 冷却加熱用流路
50 排気系
51 酸化触媒コンバータ
52 SCR触媒コンバータ
53 スリップ触媒コンバータ
54 アンモニア注入装置
55 アンモニア吸蔵装置
56 コントローラ
200 ディーゼルエンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを吸蔵し、吸蔵したアンモニアを加熱により放出するとともに、アンモニア吸蔵時には体積が増大するアンモニア吸蔵材と、
前記アンモニア吸蔵材を収容するとともに、前記アンモニア吸蔵材が収容される部分の内容積が前記アンモニア吸蔵材のアンモニア吸蔵時の自由体積よりも小さいアンモニア吸蔵タンクと、
前記アンモニア吸蔵タンクにアンモニアを導入するアンモニア導入路と、
前記アンモニア吸蔵タンクに収容されたアンモニア吸蔵材から放出されたアンモニアを外部に導出するアンモニア導出路と、
前記アンモニア吸蔵タンクにおける前記アンモニア導入路および前記アンモニア導出路との連通部に設けられた多孔質フィルタと、
前記アンモニア吸蔵タンクに収容されたアンモニア吸蔵材を加熱する加熱手段と、
を備えるアンモニア吸蔵装置。
【請求項2】
前記アンモニア吸蔵タンクの内部は、多孔体隔壁によって複数の室に区分されている請求項1に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項3】
前記アンモニア吸蔵タンクの壁面は内壁と外壁とからなる二重構造とされている請求項1または2に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項4】
前記アンモニア吸蔵材にアンモニアを吸蔵させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間に冷却用流体を流通させる請求項3に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項5】
前記アンモニア吸蔵材からアンモニアを放出させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間を真空にする請求項3または4に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項6】
前記アンモニア吸蔵材からアンモニアを放出させるときは、前記アンモニア吸蔵タンクの内壁と外壁との間の空間にディーゼルエンジンからの排気ガスを流通させる請求項3または4に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項7】
前記アンモニア吸蔵材は塩化マグネシウムである請求項1〜6の何れか1項に記載のアンモニア吸蔵装置。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のアンモニア吸蔵装置と、
前記アンモニア吸蔵装置から放出されたアンモニアをディーゼルエンジンからの排気ガスに注入するアンモニア注入装置と、
前記排気ガスに導入されたアンモニアを前記排気ガス中のNOxと反応させるための触媒が保持され、前記アンモニア注入装置によってアンモニアが供給された排気ガスが導入される選択的還元触媒コンバータと、
を有する選択的触媒還元システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−47156(P2012−47156A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192417(P2010−192417)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】