説明

アンモニウム塩の分解方法

【課題】特に中和剤の存在下に炭素源を微生物変換して得られる高融点の有機酸のアンモニウム塩から効率的に低コストで、かつ使用した反応原料や副生物を破棄することなく循環再使用してフリーの有機酸を製造できる新規な方法を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸、トリカルボン酸又はアミノ酸等の有機酸Aのアンモニウム塩を、下記の式(1)を満たす、モノカルボン酸等の酸Bを使用する反応晶析により、フリーの有機酸Aを固体として分離する。
pKa(A)≦pKa(B) …(1)
(但し、pKa(A)及びpKa(B)は、それぞれ有機酸A及び酸Bの電離指数を表し、それらが複数の値を有する場合はそのうちの最も小さいpKaを表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、又はアミノ酸などの高融点を有する有機酸(以下、総称して「有機酸A」という場合がある。)の製造方法に関する。更に詳しくは、生物由来原料のグルコース、ブドウ糖、セルロースなどを微生物変換により有機酸Aを製造する場合に好適な、有機酸の新規な分離、精製工程を含む有機酸の製造方法に関する。本発明はまた、この有機酸の製造方法に好適なアンモニウム塩の分解方法と、この有機酸の製造方法で製造された有機酸及びこの有機酸を用いたポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸、例えば琥珀酸又はその誘導体は、ポリエステル、ポリアミドなどのポリマー、特に、生分解性ポリエステルの原料として、また、食品、医薬品、及び化粧品などの原料として広く用いられている。また、トリカルボン酸、例えばクエン酸は食品添加物などとして広く用いられている。近年、特に琥珀酸は、乳酸と共に生分解性ポリマーの原料として期待されている。
【0003】
琥珀酸は、従来、マレイン酸を水添して工業的に得られており、そのマレイン酸は石油由来の原料である。そこで、植物由来の原料から琥珀酸をはじめ、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸を製造する技術として、発酵操作を利用した技術が検討されてきた。また、既に、アミノ酸は発酵法により製造されているが、アミノ酸の分離、精製は、従来、硫酸を用いた等電点晶析により一般的に行われている。
【0004】
更に、これらのジカルボン酸、トリカルボン酸などの有機酸は、官能基として、カルボン酸を2つ以上、又はカルボン酸基とアミノ基を有しており、これらの水素結合のために一般的に融点が高く(通常、120℃以上)、その製造工程では一般的な分離、精製手法である蒸留操作を用いることができない。また、発酵によるこれら有機酸の製造においては、発酵に用いられる菌体やカビ等の微生物が、一般に低いpH条件下では十分な活性を示さないことから、中和が必要となる。このため、発酵槽から得られる有機酸は通常、中和に用いたアルカリとの塩の形態となっている。このことが、これら有機酸の分離・精製をより一層困難にする原因となっていた。
【0005】
従来、発酵により生成した有機酸塩の一般的な分離・精製方法としては、電気透析を用いる方法(特開平2−283289号公報)がある。しかし、電気透析は装置がその生産規模に比例して大きくなるため、工業スケールの生産であってもスケールメリットが小さく、コスト高になるという問題がある。
【0006】
また、イオン交換樹脂を用いる方法(USP6,284,904)も提案されている。この方法では、イオン交換樹脂の再生時に強酸強塩基の塩(NaClなど)が生成し、結局、この塩は廃棄するか又は電気透析で処理する必要がある。
【0007】
また、コハク酸カルシウムを硫酸で分解する方法(特開平3−030685号公報)も提案されている。この方法は硫酸カルシウムが大量に副生するため、その処理に問題があった。
【0008】
更に、有力な方法として、硫酸を用いる塩の交換反応で反応晶析を行う方法(特表2001−514900号公報、USP5,958,744)が提案されている。即ち、有機酸アンモニウム塩に硫酸を添加して反応晶析を行うことにより、有機酸を析出させて分離する方法である。
この方法では、晶析で有機酸を分離した後の晶析母液中に溶解度分の有酸酸アンモニウム塩が残留し、かつ、この晶析母液中には硫酸アンモニウムも含まれる。プロセス全体の回収率を上げるためには、この晶析母液中に残留する有機酸アンモニウム塩を回収する必要があるが、この晶析母液に更に晶析操作を行っても有機酸アンモニウム塩を液中に残したまま、硫酸アンモニウムを固体として分離することは極めて困難である。また、気液分離操作、例えば、蒸留などで分離しようとしても、有機酸アンモニウム塩や硫酸アンモニウムは融点が非常に高く、これらを気化させる高温度条件で、有機酸アンモニウム塩は脱水反応を起こし、有機酸を回収することはできなくなる。更に、この方法では、硫酸アンモニウムから硫酸を回収して再利用するために、300℃以上で硫酸アンモニウムの熱分解を行うための特別な設備を必要としていた。
【特許文献1】特開平2−283289号公報
【特許文献2】USP6,284,904
【特許文献3】特開平3−030685号公報
【特許文献4】特表2001−514900号公報
【特許文献5】USP5,958,744
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、特に、中和剤の存在下に炭素源を微生物変換により発酵法により生成する有機酸Aの塩からフリーの有機酸Aを分離・精製して純度の高い有機酸Aを製造する新規な方法を提供することにある。
【0010】
また本発明の別の目的は、上記有機酸Aの新規な製造方法において、生成した副生塩も分解して再使用することにより、環境に配慮した低廃棄物、低コストで有機酸Aを効率的に製造することを可能とするアンモニウム塩の分解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、本発明で対象とされる有機酸Aは、酢酸、プロピオン酸などの弱酸であるモノカルボン酸等の酸(以下、「酸B」という場合がある)に対して、その溶解度が一般的に小さいとともに温度依存性が大きいこと、かつ、有機酸Aのアンモニウム塩は、酸Bに対して溶解度が大きいことに着目した。これらの特性を利用すれば、酸Bを使用した反応晶析により、pKa(Ka:酸解離定数、pKa=log10Ka)だけで判断すれば分解が困難な有機酸Aのアンモニウム塩を酸として分離できること、また副生する酸Bのアンモニウム塩が比較的温和な加熱条件で分解可能であり、分解により得られたアンモニアを再利用可能であることを見出した。
【0012】
なお、本発明において「アンモニウム塩」は、特に断らない限りモノアンモニウム塩、ジアンモニウム塩、及び/又はトリアンモニウム塩を意味する。
【0013】
一般に、塩の交換反応により弱酸の塩は強酸によって分解され、強酸の塩を副生し、弱酸を得ることができることは良く知られた事実であり、これは、上記した、従来の硫酸を用いて塩の交換反応を行う方法(USP5,958,744)である。また、イオン交換樹脂を用いた方法も、イオン交換樹脂の酸強度はジカルボン酸やトリカルボン酸よりも強い酸であることが必要である。しかしながら、こうした方法は前述の如く、該当有機酸よりも強酸の塩を副生する。
【0014】
酸塩基交換反応の酸強度の指標となるpKaを比較した場合、例えば、琥珀酸と酢酸のpKaは以下の通りであり、琥珀酸アンモニウム塩(ジアンモニウム塩)の1つめのアンモニア(第二pKa)は酢酸と酸塩基交換反応可能であるが、2つめのアンモニア(モノアンモニウム塩)は酢酸と酸塩基交換反応が困難であることが分かる。
【表1】

【0015】
そのため前述のように、従来においては、強酸や強酸性のイオン交換樹脂を用いる方法が採られてきた。特表2001−514900公報に示されるように、無機酸を用いる晶析では、一般に無機酸のアンモニウム塩が不揮発性であるため、1段の晶析で高い回収率
が必要である。そのため、琥珀酸の場合、第一pKaは4.21であるので、十分な回収率を得るためにはpHは2.1よりも小さくなければならない。かくして、特表2001−514900号公報では硫酸を用いて、反応晶析を行っている。この方法では、特にpHが1.5から1.8が必要とされている。
【0016】
しかしながら、本発明者は、目的とする有機酸Aよりも弱酸であるモノカルボン酸などの酸Bを用い、酸塩基反応だけでは得ることが困難な有機酸Aを反応晶析することにより、容易に分離・精製することができることを見出した。
【0017】
即ち、本発明者は中和剤の存在下における微生物変換の結果得られる有機酸Aは、弱酸である酸Bに対して、有機酸Aのアンモニウム塩としては溶解度が高く、アンモニアフリーの有機酸Aとしては溶解度が低いことに着目し、酸Bに対して有機酸Aのアンモニウム塩としては溶解するが、アンモニアフリーの有機酸Aとしては溶解できない領域が存在する事実を見出した。
【0018】
一方で、酸Bはプロトン源として機能するため、充分な量の酸Bを共存させることにより、pHを下げ、酸Bとの酸塩基反応により、アンモニウム塩の形態からアンモニアフリーの有機酸Aとすることが出来る。そのアンモニアフリーの有機酸Aが、その溶解度以上存在する場合にアンモニアフリーの有機酸Aが析出する。この時、アンモニウム塩の形態としての有機酸Aは、酸Bへの溶解度が充分大きく、同時に析出しない。
【0019】
これらの新たに見出された知見から、本発明者は有機酸Aよりも弱酸である酸Bを用い、酸塩基反応だけでは得ることが困難であった有機酸Aを反応晶析により、固体として分離し得ることに成功した。
【0020】
一方、この場合、従来の強酸を使用する晶析に比べて一段あたりの回収率が悪くなる場合がある。そこで、母液中に含まれる副生した酸Bのアンモニウム塩と有機酸Aのアンモニウム塩を母液中から分離回収し、リサイクルすることが工業的実施のためには好ましい。更に、副生した酸Bの塩を廃棄した場合には、従来技術と同様、廃棄物の問題が生じることになるため、副生した酸Bのアンモニウム塩を分解し、再利用することが好ましい。
【0021】
本発明者は、有機酸Aのアンモニウム塩を構成するアンモニアが揮発性の塩基であり、酸Bとして、揮発性の酸、好ましくは、酢酸、プロピオン酸などの沸点の低い飽和のモノカルボン酸を使用した場合には、酸Bのアンモニウム塩は気化させることが可能となることを見出した。この操作により、反応晶析によって得られる母液から有機酸Aを回収することに成功した。
【0022】
かくして本発明は、以下の要旨を有することを特徴とするものである。
【0023】
1.有機酸Aのアンモニウム塩から、下記の式(1)を満たす酸Bを使用する反応晶析により、有機酸Aを固体として分離することを特徴とする有機酸Aの製造方法。
pKa(A)≦pKa(B) …(1)
(但し、pKa(A)及びpKa(B)は、それぞれ有機酸A及び酸Bの電離指数を表し、それらが複数の値を有する場合はそのうちの最も小さいpKaを表わす。)
【0024】
2.酸Bが、揮発性である上記1に記載の有機酸の製造方法。
【0025】
3.有機酸Aが、融点120℃以上の有機酸である上記1又は2に記載の有機酸の製造方法。
【0026】
4.有機酸Aが、炭素数4〜12の、ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸、又はアミノ酸である上記1ないし3のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0027】
5.酸Bが、モノカルボン酸である上記1ないし4のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0028】
6.酸Bが、酢酸又はプロピオン酸である上記1ないし4のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0029】
7.反応晶析が1段又は多段であり、pHが2.1〜6.5である段を少なくとも1段有する上記1ないし6いずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0030】
8.有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アンモニア、炭酸アンモニウム、及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て得られたものである上記1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0031】
9.有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て、有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液を得、該有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液に、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して反応晶析を行うことによりアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させ(ソルベー法反応工程)、析出した炭酸塩を分離し、有機酸Aのアンモニウム塩水溶液として得られたものである上記1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0032】
10.微生物変換工程で得られた反応液を濃縮する濃縮工程を有し、該濃縮工程で得られた濃縮物を、反応晶析に供する上記8又は9に記載の有機酸の製造方法。
【0033】
11.有機酸Aのアンモニウム塩が、化学プロセスで得られたものである上記1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0034】
12.反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解工程により分解して酸Bを得、得られた酸Bを反応晶析の溶媒として循環再利用する上記1ないし11のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0035】
13.反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液から酸Bを気化させて濃縮した後、酸B及びそのアンモニウム塩を分解・気化させ有機酸A及びそのアンモニウム塩を回収する上記12に記載の有機酸の製造方法。
【0036】
14.酸Bの気化が、そのアンモニウム塩の融点以下で行われる上記13に記載の有機酸の製造方法。
【0037】
15.酸B及びそのアンモニウム塩の分解・気化が、酸Bのアンモニウム塩を、0.001mmHg以上200mmHg以下の減圧下に加熱することによって行われる上記13又は14に記載の有機酸の製造方法。
【0038】
16.分解工程が、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を加熱し、塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と、加熱工程からの抜き出した塩基性水溶液を直接、又は凝縮した後、前記酸Bのアンモニウム塩の融点以下の温度にて気液分離、気固分離、又は気液固分離する工程を備えている上記12ないし15のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0039】
17.分解工程が、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔に供給し、該蒸留塔の塔頂から塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程を備えている上記12ないし15のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0040】
18.加熱工程において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔の、酸Bのアンモニア塩の融点以下となる部位に供給する上記17に記載の有機酸の製造方法。
【0041】
19.酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を形成する、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、Na、K、Ca、及び、Mgからなる群から選ばれる1種又は2種以上である上記16ないし18のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0042】
20.加熱工程にて塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液から、減圧或いは常圧下、125℃以上で酸Bを分離回収する分離回収工程を備えている上記16ないし19のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0043】
21.分離回収工程後の残留液を水を含む系と混合し、加熱工程及び分離回収工程で副生するアミド化合物を加水分解した後、加熱工程へ循環する上記20に記載の有機酸の製造方法。
【0044】
22.有機酸Aのアンモニウム塩が、アンモニアを中和剤として用い微生物により変換する微生物変換工程を経て有機酸Aのアンモニウム塩を含む反応液として得られたものであり、酸Bを添加して行う反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解してアンモニアを得、該アンモニアを微生物変換工程の中和剤として用いる上記1〜10及び12ないし21のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0045】
23.有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液を得、該有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液に、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して反応晶析を行うことによりアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させ(ソルベー法反応晶析工程)、該炭酸塩を分離し、有機酸Aのアンモニウム塩水溶液として得られたものであり、酸Bを添加して行う反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解してアンモニアを得、該アンモニアをソルベー法反応晶析工程のアンモニア源として用いる上記9,10及び12ないし22のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0046】
24.反応晶析が多段であり、2段目以降の反応晶析において、析出した有機酸Aを分離した後の晶析母液を、直接若しくは酸Bを含む反応晶析溶媒の気化によって酸Bのアンモニウム塩を濃縮した後、又は母液に溶存している有機酸A若しくはその塩を分離した後、酸Bとそのアンモニウム塩をそれより前段の反応晶析の晶析槽へ循環させる上記1ないし23のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0047】
25.酸Bのアンモニウム塩を、酸Bとアンモニアとに分解して酸Bとアンモニアとを分離回収する方法において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を加熱して塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と、該加熱工程で抜き出した塩基性水溶液を直接若しくは凝縮した後、前記酸Bのアンモニウム塩の融点以下の温度にて気液分離、気固分離、或いは気液固分離する工程とを備えていることを特徴とするアンモニウム塩の分解方法。
【0048】
26.酸Bのアンモニウム塩を、酸Bとアンモニアとに分解して酸Bとアンモニアとを分離回収する方法において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔の酸Bのアンモニウム塩の融点以下となる部位に供給し、該蒸留塔の塔頂から前記塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程を備えることを特徴とするアンモニウム塩の分解方法。
【0049】
27.酸Bのアルカリ金属塩塩及び/又はアルカリ土類金属塩を構成するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、Na、K、Ca、及びMgからなる群から選ばれる1種又は2種以上である上記25又は26に記載のアンモニウム塩の分解方法。
【0050】
28.酸Bが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である上記25ないし27のいずれかに記載のアンモニウム塩の分解方法。
【0051】
29.加熱工程において塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液を、減圧或いは常圧下、125℃以上での分離工程により、酸Bを分離回収する酸Bの分離回収工程を備えた上記25ないし28のいずれかに記載のアンモニウム塩の分解方法。
【0052】
30.分離回収工程後の残留液を水を含む系と混合し、加熱工程及び分離回収工程において副生するアミド化合物を、加水分解した後加熱工程へ循環する上記29に記載のアンモニウム塩の分解方法。
【0053】
31.上記1ないし24のいずれかに記載の有機酸の製造方法で製造された有機酸A。
【0054】
32.上記1ないし24のいずれかに記載の有機酸の製造方法で製造された有機酸Aを原料として用いたポリマー。
【0055】
なお、各種有機酸等の化合物のpKa、その他の特性は下記表2に示す通りである。
【0056】
【表2】

【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、生物由来の炭素源の微生物変換により製造される、ジカルボン酸、トリカルボン酸、アミノ酸などの高融点の有機酸Aのアンモニウム塩からフリーの有機酸Aを、従来の酸塩基反応では予想外のことに、該有機酸Aよりも弱酸であるモノカルボン酸などの弱酸Bを用いた酸塩基反応を利用する反応晶析により、固体として分離し得ることができる。
また、反応晶析により有機酸Aを析出、分離した後の晶析母液から、モノカルボン酸などの酸B及びモノカルボン酸アンモニウム塩などの酸Bのアンモニウム塩を気化させて効率的に分離して有機酸A及びそのアンモニウム塩を回収することができる。この気化操作における副反応を防止して、各物質の分離回収効率を高めることができる。分離された酸B,有機酸A及びそのアンモニウム塩を、煩雑な操作を要することなく循環して再利用することができる。
【0058】
更に、分離されたモノカルボン酸アンモニウム塩などの酸Bのアンモニウム塩は、アルカリ(土類)金属塩を用いてモノカルボン酸などの酸Bとアンモニアとに分解する方法が提供される。その際、反応系に存在する水とモノカルボン酸などの酸Bとを容易に分離して、低含水率の酸Bとこれを含まないアンモニア水とを効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に本発明を適用した有機酸製造方法の実施形態を詳細に説明する。
【0060】
[有機酸Aのアンモニウムの生成]
本発明で製造される有機酸Aとしては、融点が好ましくは120℃以上のものが挙げられる。その炭素数は好ましくは4〜12であり、好ましくは直鎖状のジカルボン酸、トリカルボン酸などが代表例である。有機酸Aは、好ましくは飽和又は不飽和の脂肪族炭素にカルボキシル基が2個、或いは3個結合しているもので、分岐鎖状又は環状構造を有していても良く、置換基を有していてもよい。また、有機酸Aには、融点が好ましくは120℃以上のアミノ酸も含まれる。
【0061】
有機酸Aとは、具体的には、例えば、琥珀酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタル酸、グルタミン酸、アジピン酸、スベリン酸、クエン酸、イタコン酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、チロシン等が挙げられる。これらは2種以上が混在していてもよい。これらのうち、好ましい有機酸Aとしては琥珀酸、アジピン酸、グルタミン酸、スベリン酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。特に好ましくは、琥珀酸、アジピン酸、グルタミン酸、スベリン酸が挙げられる。
【0062】
これらの有機酸Aは、例えば、炭素源を出発原料とした微生物変換により生成される。炭素源としては、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、シュークロース、サッカロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、グリセロールが好ましく、特にグルコースが好ましい。より広義の植物由来原料としては、紙の主成分であるセルロースが好ましい。また、上記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用される。これらの発酵性糖質は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
微生物変換に用いる微生物としては、有機酸Aの生産能を有すれば特に限定されないが、例えば、Anaerobiospirillum属(USP5,143,833)等の嫌気性細菌、Actinobacillus属(USP5,504,004)、Escherichia属(USP5,770,435)等の通性嫌気性細菌、Corynebacterium属(特開平11−113588号公報)などの好気性細菌を用いることができる。微生物変換における反応温度、圧力等の反応条件は、選択される菌体、カビなどの活性に依存することになるが、対応する有機酸Aを得るための好適な条件を各々の場合に応じて選択すればよい。
【0064】
上記微生物変換においては、pHが低くなると微生物の代謝活性が低くなったり、或いは微生物が活動を停止するようになり、製造歩留まりが悪化したり、微生物が死滅するため、中和剤を使用する。通常はpHセンサーによって反応系内のpHを計測し、所定のpH範囲となるように中和剤の添加の都度pHを調節する。本発明において、中和剤の添加方法については特に制限はなく、連続添加であっても間欠添加であってもよい。
【0065】
中和剤としてはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられる(なお、以下において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を「アルカリ(土類)金属」と称す場合がある。)。好ましくはアンモニア、炭酸アンモニウム、尿素である。即ち、前述の如く、アルカリ(土類)金属の水酸化物やアルカリ(土類)金属の炭酸塩を用いた場合には、酸Bによる反応晶析では、酸Bのアルカリ(土類)金属塩が副生し、中和に用いたアルカリ(土類)金属を直接回収できないため、ソルベー法反応工程において、酸Aのアンモニウム塩を得る工程が必要になる。なお上記アルカリ(土類)金属の水酸化物としてはNaOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)等、或いはこれらの混合物などが挙げられ、アルカリ(土類)金属の炭酸塩としては、NaCO、KCO、CaCO、MgCO、NaKCO等、或いはこれらの混合物などが挙げられる。
【0066】
これらの中和剤による調整pH値は、用いる菌体、カビ等の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されるが、一般的には、pH4〜10、好ましくは6〜9程度の範囲である。
【0067】
本発明で製造される有機酸Aの原料となる有機酸Aのアンモニウム塩は、上記した微生物変換により得られたものに必ずしも限られず、石油化学プロセスや他の種々のプロセスから製造、又は副生されるものに適用できる。
【0068】
[反応晶析]
一般に、晶析とは、不要成分を溶媒中に溶存した状態で必要成分を析出させる操作を言うが、本発明における「反応晶析」とは、反応によって必要成分を得、同時に晶析を行う操作を言う。即ち、晶析させるべき対象物を得る反応を行いながら同時に該対象物の晶析を行う操作を意味する。本発明においては、この有機酸Aの分離・精製を上記のように有機酸Aよりも弱酸である酸Bを使用する反応晶析にて行う。使用する酸Bとしては以下の式(1)を満足する必要がある。
pKa(A)≦pKa(B) …(1)
(但し、pKa(A)及びpKa(B)は、それぞれ有機酸A及び酸Bの電離指数を表し、それらが複数の値を有する場合はそのうちの最も小さいpKaを表わす。)
【0069】
なお、有機酸Aの持つ官能基によっても大きく影響を受けるが、上記式(1)を満足するなかでも、pKa(B)は、pKa(A)よりも0〜3だけ大きいことが好ましい。
【0070】
酸Bの例としては、好ましくは炭素数1〜6、特に炭素数1〜4のモノカルボン酸が挙げられ、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ノルマル酪酸、及びイソ酪酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、装置材質に対する低腐食性及び蒸発潜熱の観点から、好ましくは酢酸、又はプロピオン酸である。更に好ましくは、微生物変換に用いられる菌体によって副生される酸であり、例えば、特開平11−206385号公報や特願2002−34826に記載の菌体の場合では、酢酸が好ましい。また、酸Bはアルカリ金属塩から分離するためには、揮発性でなければならない。更に、熱に対して安定であることが好ましい。好ましくないものとは、具体的には炭素間二重結合や三重結合を有していて、アルカリ(土類)金属共存下で200℃以下の条件で重合や分解をするものや、官能基としてパーオキサイドやパーオキサイドを有し、アルカリ(土類)金属共存下で200℃以下の条件で自己分解するもの、或いは、乳酸や酒石酸、アミノ酸のように一つの分子内に複数の官能基を有し、それらが単体でポリマー(ポリエステルやポリアミド)を作るもの等である。
【0071】
有機酸Aは、上記のように、特に微生物変換にて使用された中和剤との塩の形態の希薄な水溶液として発酵槽から得られる。従って、この発酵槽から排出される反応液から、有機酸Aを分離・精製することにより製品としての有機酸Aを製造することができる。なお、ここでは、中和剤としてアンモニア、炭酸アンモニウム、及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上(以下、「アンモニア系中和剤」と称す場合がある。)を用いる場合について説明する。
【0072】
この場合、有機酸Aのアンモニウム塩を含む発酵槽からの反応液は、一般に希薄な水溶液であり、好ましくは、この反応液を濃縮することが好ましい。濃縮方法には特に制限はないが、例えば蒸発、アルコール等を用いた晶析、逆浸透圧を利用する膜分離、イオン交換膜を用いる電気透析等が挙げられる。このうち、電気透析は前述の如く、スケールメリットが得られず、装置コストや運転コストが高いという難点がある。アルコール等を用いた晶析ではアルコールを回収するために余計な蒸留装置が必要になる。このことから及びコストの点からは、蒸留が好ましく、好ましくは多重効用缶を用いた蒸留が挙げられる。
【0073】
反応液の濃縮の程度としては、高濃度の水溶液、例えば、有機酸Aのアンモニウム塩の濃度40重量%以上の高濃度水溶液であっても、有機酸Aのアンモニウム塩が固体として析出するまで濃縮してもよい。高濃度水溶液の場合、酸Bへの溶解が容易であり、スラリーや固体に比べ、操作が容易であるという利点がある。一方、有機酸Aのアンモニウム塩を固体形態とする場合には、水と酸Bとの混合が避けられ、また、過剰なアンモニアや副生する酸Bのアンモニウム塩が存在したとしても、例えば薄膜蒸発器を用いるなどすれば、乾燥・蒸発工程で気化させて除去することができるなどの利点がある。これらいずれの濃縮の程度を採用するかは、不純物の種類と量に影響を与える微生物変換の反応条件を含め、全体のプロセスを最適化できるように適宜決定される。
【0074】
有機酸Aの種類や酸Bの種類により、反応晶析の段数は1段の場合も、多段(複数段)の場合もある。初期投資、運転条件や回収率の制約から、通常は多段であり、特に2〜4段が好ましい場合が多い。また、多段晶析を行う場合は、pHが7以下のものは本発明における反応晶析に該当する。pHが7以下であれば、例えば有機酸Aが琥珀酸であれば、琥珀酸のジアンモニウム塩から琥珀酸のモノアンモニウム塩を得ることができるため、後段の反応晶析において、琥珀酸をより高い回収率で得ることが出来る。従って反応晶析に該当する。
【0075】
反応晶析の最終段において(反応晶析が1段の場合は1段目において)、酸Bの反応液への添加量は、酸Bの添加により有機酸Aが析出する量、即ち、酸Bと有機酸Aのアンモニウム塩との酸塩基反応により、有機酸Aが生成するに十分な量であって、生成した有機酸Aが溶解せずに析出するに十分な少量であればよい。酸Bの添加量は、酸Bの種類とpKa、有機酸Aの種類とpKa、醗酵反応液の濃縮の程度等によっても異なり特に制限はない。作業性、析出効率等の面から、酸Bの添加量は、濃縮物が固体の場合は、有機酸Aのアンモニウム塩に対して、1〜100モル倍程度、好ましくは1.5〜30モル倍程度、より好ましくは2〜20モル倍程度である。
【0076】
また、上記有機酸Aが析出する系は水を含んでいてもよい。特にアンモニアが多量に存在する条件においては、副生する酸Bのアンモニウム塩を溶解させるために、寧ろ水を含んでいることが好ましい場合も多く、酸Bの使用量が少ない時にも水を加えてもよい。
【0077】
酸Bの添加により有機酸Aを反応晶析させる条件としては特に制限はないが、一般的には、前記反応液の濃縮物に酸Bを添加して加熱した後、冷却して放置すればよい。或いは、水を添加して有機酸Aのアンモニウム塩を溶解した後に、酸Bを加えて晶析させてもよい。後者の方法は酸の状態での水に対する溶解度が低く、塩にすると溶解度が高くなり、その差が著しい有機酸A、例えば、グルタミン酸に有効である。
【0078】
晶析の際の加熱温度、加熱時間、及び冷却温度は、濃縮物中の有機酸Aの種類、用いる酸Bの種類や添加量等によっても異なるが、一般的には、60〜130℃で完全に溶解した後、50℃以下、好ましくは40℃以下であり、0℃以上、好ましくは10℃以上にて冷却して放置することが好ましい。
【0079】
酸Bとして酢酸を用いた場合には、融点が16℃であるが、凝固点降下の影響で10℃近くまで冷却温度を下げることが可能である。実用的プロセスを考えると、酸Bが凝固しない安全な条件として15℃以上が好ましい。特に、連続プロセスの場合には、熱交換器のユーティリティ(冷媒)の温度が目標温度に対して約10℃程度の温度差がある方が好ましいため、冷却温度は、酸Bが酢酸の場合20℃以上がより一層好ましい条件である。
【0080】
本発明での反応晶析は、通常用いられる晶析装置を用いて常法に従って行うことができるが、一部の有機酸A、特に琥珀酸においては、晶析速度が遅いため、種晶を循環させる、滞留時間を長くとる、などの晶析量向上のための工夫を採用することが好ましい。
【0081】
反応晶析を行うことにより、アンモニア系中和剤を用いる微生物変換で得られた有機酸Aのアンモニウム塩と酸Bとの酸塩基反応で、酸Bに対して溶解度の低い有機酸Aが生成して析出する。従って、この晶析液から濾過等により析出物を分離することにより、目的物である純度の大きい有機酸Aを回収することができる。得られた有機酸Aは、必要に応じて、更に酸Bなどを用いて再結晶させるなどして精製した後、製品とされる。
【0082】
なお、微生物変換による有機酸Aの製造においては、微生物によっては、中和剤によって生産効率が変わる場合がある。このため、中和剤としては、上記アンモニア系中和剤よりも、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩(以下、「アルカリ(土類)金属系中和剤」と称す場合がある)を用いた方が好ましい場合がある。アルカリ(土類)金属系中和剤を用いた場合には、微生物変換による有機酸Aは、アルカリ(土類)金属塩の形態で生成するが、アルカリ(土類)金属は揮発しないので、この反応晶析により副成する酸Bのアルカリ(土類)金属塩と有機酸Aからなる母液からは、有機酸Aと酸Bのアルカリ(土類)金属塩を分離することは困難である。
【0083】
このため、アルカリ(土類)金属系中和剤を用いる場合には、第1の反応晶析工程としてのソルベー法を用い、塩基の交換を行って有機酸Aのアンモニウム塩を得、この有機酸Aのアンモニウム塩を第2の反応晶析工程で酸Bにより反応晶析させて有機酸Aを得ることができる。この場合においても、微生物変換工程で得られた反応液を濃縮した後に第1の反応晶析工程に供することが好ましい。
【0084】
第1の反応晶析工程においては、濃縮工程で得られた濃縮物に、まず、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して、有機酸Aのアルカリ(土類)金属塩水溶液からアルカリ(土類)金属の炭酸塩を析出させる。この第1の反応晶析工程において、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムの添加量は、アルカリ(土類)金属の炭酸塩の析出に十分な量であれば良く、特に制限はない。
【0085】
この第1の反応晶析工程により、有機酸Aのアルカリ(土類)金属塩からアルカリ(土類)金属の炭酸塩が析出し、有機酸Aのアンモニウム塩が生成する。第1の反応晶析工程で生成した有機酸Aのアンモニウム塩から、次いで第2の反応晶析工程において、前述のアンモニア系中和剤を用いる場合の反応晶析工程と同様にして酸Bによる反応晶析で有機酸Aを析出させることができる。
【0086】
分離母液中の酸B,有機酸A及びそのアンモニウム塩の分離、回収、リサイクル反応晶析液から有機酸Aを分離した後の分離母液(以下「晶析母液」又は「母液」と称す場合がある。)は、有機酸Aのアンモニウム塩と、これとの酸塩基反応で生成した酸Bのアンモニウム塩と余剰の酸Bと、残留する有機酸Aを含む。本発明では、以下の方法により、これらの分離母液から酸B及びそのアンモニウム塩を効率的に分離し、有機酸Aのアンモニウム塩及び有機酸Aを回収することができる。また、分離した酸Bのアンモニウム塩は分解し、得られる酸Bとアンモニアは再利用される。
【0087】
本発明においては、まず、晶析母液から酸Bを気化させて除去した後、更に加熱して酸Bのアンモニウム塩を気化させる。晶析母液からの酸Bの気化は、酸Bのアンモニウム塩の融点以下で行うことが好ましく、例えば、ケトル式の蒸発器、薄膜蒸発器、又は、加熱部を持ったフラッシュドラムや熱交換器とフラッシュドラムの組み合わせ、或いは、これらを組み合わせたものを用いて行うことができる。蒸留塔形式のものを用いる場合、塔内が酸Bのアンモニウム塩の融点以下であれば、晶析母液は例えば、コンデンサー部やリフラックスライン、その他、いずれの箇所に供給してもよい。その他、酸Bのアンモニウム塩の融点以下で酸Bを気化させることができる条件であれば装置の仕様や形態は問わない。
【0088】
酸Bの気化のための温度範囲は20℃以上、酸Bのアンモニウム塩の融点以下であることが好ましい。本発明における酸Bのアンモニウム塩として、例えば代表的な酢酸アンモニウムの融点は114℃である。融点とは分子の運動において特異的な意味を持つものであり、酢酸アンモニウムは融点を超えると、熱分解をしながら気化される。酸Bのアンモニウム塩の沸点は理論的に必ず存在し、昇華などの現象もあり、それが熱分解によるものと、蒸発や昇華との寄与が厳密に分けることができないと考えられる。従って酸Bのアンモニウム塩の気化を本発明においては「分解・気化」と呼ぶことがある。一方、プロピオン酸アンモニウムは潮解性が強く、融点は公知ではない。しかしながら、酢酸アンモニウムとの類似性を考慮すると、単純に酢酸とプロピオン酸の融点の差がそのアンモニウム塩の融点の差になるとは考え難いが、114℃よりも少し低い温度、約100℃がプロピオン酸アンモニウムの融点であると想定される。
【表3】

【0089】
このようにして、酸Bの気化温度は酸Bの種類(即ち、酸Bのアンモニウム塩の種類)によっても異なるが、一般的には40〜100℃の範囲が好ましい。
【0090】
このような温度で酸Bを気化させる際の温度以外の操作条件として特に制限はないが、圧力条件については、加圧すると装置材質の腐食が激しくなることから、減圧又は常圧とすることが好ましい。特に好ましくは10〜400mmHg、更に好ましくは40〜200mmHgの減圧条件とすることが好ましい。
【0091】
この酸Bの気化の際には、晶析母液中に含まれる酸Bよりも低融点の物質、例えば、水等も気化する。
【0092】
このようにして、晶析母液中の酸Bを気化させて回収するが、その後の操作、即ち、酸Bのアンモニウム塩の気化、残留する有機酸Aのアンモニウム塩や有機酸Aの回収等の観点から、晶析母液から気化させて除去する酸Bの量は、晶析母液中の酸B、その他の成分の量によっても異なるが、気化の程度は、母液がスラリー状になるまでならよい。固体になるまで気化させると、第2の気化装置で常法では熱伝導度が悪化する(例えば:薄膜蒸発機)ので好ましくない。目安としては、気化温度に対して有機酸Aの飽和溶解度になるようにする。飽和溶解度は、取り除かれるべきアンモニア量に相当する酸Bのアンモニウム塩の量と晶析温度における有機酸Aの溶解量によって決まる。なお、以下において、酸Bを気化させた後の晶析母液を「第1残液」と称する場合がある。
【0093】
酸Bを気化させた後の酸Bのアンモニウム塩の気化に際しては、滞留時間が重要となる。即ち、後述の実験例の結果からも明らかなように120℃前後の加熱により、アミド化の反応が急速に速くなる。一方、酸Bのアンモニウム塩を有機酸A及びそのアンモニウム塩から分離するには、より高温であることが必要であり、酸Bのアンモニウム塩の融点以上が特に好ましい。
【0094】
従って、このような高温条件におけるアミド化等の副反応を防止するために、酸Bのアンモニウム塩を気化させる方法としては、加熱時間が短いものが好ましい。また、過熱状態で気化させること、即ち、プロセス流体を減圧条件にし、十分に高温の熱源で加熱することが好ましい。熱源としては一般には蒸気や加熱用オイルなどが考えられる。その場合、酸Bによる腐食性などを考慮すると加熱温度は200℃以下であることが好ましいと考えられる。その他、例えば、電磁波によって分子振動を与えて急速昇温させてもよい。ただし、加熱温度は融点以上であれば良く、滞留時間が十分に短ければ特に上限を設けるものではない。
【0095】
従って、操作可能な範囲は当該プロセス流体について、0.001mmHg(0.133Pa)以上200mmHg(26.7kPa)以下であり、より好ましくは100mmHg(13.3kPa)以下である。更に好ましくは20mmHg(2.67kPa)から90mmHg(12.0kPa)である。
【0096】
こうした条件に合致する装置としては、一般的には減圧下で短時間の加熱に好適な薄膜蒸発器が挙げられる。その他にも、例えば、噴霧を伴う加熱器、ユーティリティーとプロセス流体の温度差が20℃以上の蒸発器などが挙げられる。加熱の方法も特に制約はなく、電子レンジと同じ原理で、電磁波によって分子振動を与え、急速昇温する方法などであってもよい。その他、減圧条件と高温条件を満たす操作であれば良く、特に加熱時間が短く、十分な熱量を与えることができれば、装置や原理、その構造には何ら制限はない。
【0097】
加熱温度は酸Bのアンモニウム塩の種類、圧力条件によっても異なるが、酢酸アンモニウムの場合は115〜180℃、より好ましくは120〜160℃であることが好ましく、また、プロピオン酸アンモニウムの場合は100〜180℃であることが好ましい。
【0098】
このようにして、第1残液から酸Bのアンモニウム塩を気化させた液又はスラリー(以下、「第2残液」と称す場合がある。)は、有機酸A及びそのアンモニウム塩と残留する酸B及びそのアンモニウム塩を含むものであり、反応晶析工程に循環して処理することにより、更に有機酸Aを回収することができる。
【0099】
本発明において、有機酸Aのアンモニウム塩と酸Bとの反応晶析で有機酸Aが析出、分離した後の晶析母液から気化分離した酸Bは、反応晶析工程に循環して再利用することが好ましい。この酸Bは、酸Bの他に、水やその他の物質を含んでいてもよい。回収された酸Bは、通常、精製してから晶析溶媒として再利用されるが、不純物の種類や量によっては、精製を行うことなく晶析溶媒としてそのまま用いることもできる。
【0100】
[酸Bのアンモニウム塩の分解]
晶析母液から気化分離した酸Bのアンモニウム塩は、酸Bとアンモニアに分解される。酸Bのアンモニウム塩の分解方法は以下に記載されるが、有機酸Aの分離母液から得られる酸Bのアンモニウム塩に限られるものではなく、他のプロセスから得られる酸Bのアンモニウム塩にも同様に適用されるものである。
【0101】
本発明における、酸Bのアンモニウム塩の分解方法においては、加熱工程において、酸Bのアンモニウム塩とアルカリ(土類)金属と水とを含む液、好ましくは、酸Bのアンモニウム塩と水との混合液に酸Bのアルカリ(土類)金属塩を添加した液(以下「原料液」と称す場合がある。)を加熱して塩基性水溶液の気体を抜き出す。以下、この加熱する工程を「加熱工程」と称し、その際の操作を「加熱操作」称する場合がある。
【0102】
加熱工程において抜き出される塩基性水溶液の気体の温度が、酸Bのアンモニウム塩の融点より高い場合、酸Bも一部一緒に抜き出される。そのため、抜き出した塩基性水溶液の気体を直接、或いは凝縮した後、減圧下或いは常圧下において、酸Bのアンモニウム塩の融点以下の温度で酸Bのアンモニウム塩を気液分離、気固分離或いは気液固分離する。以下、この分離する工程を「分離工程」と称しその操作を「分離操作」と称する場合がある。
【0103】
なお、上記酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を形成する、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属としては、Na、K、Ca、及びMgからなる群から選ばれる1種又は2種以上である場合が好ましい。特に好ましくは、Na又はKである。
【0104】
この加熱工程で用いる装置は、加熱操作が可能で気相と液相とを分離することができるものであればどのような装置であってもよい。加熱と気液分離は別々の装置であっても良く、熱交換器とフラッシュドラムの組み合わせでもよい。ケトル式の熱交換器であれば一つの装置で加熱と気液分離とを行うことができる。また、加熱機構についても特に制限はなく、例えばジャケットや伝熱コイルを備えるフラッシュドラムであってもよい。
【0105】
加熱と共に気液分離を効率良く行うには、蒸留塔が最も望ましい。蒸留塔としては充填塔、棚段塔のいずれでも良く、構造についても特に制約はないが、後述の通り滞留時間の確保のためには棚段塔が望ましい。また、リボイラは内蔵式であっても、外付け式であってもよい。外付け式リボイラを用いる場合、強制循環式のリボイラ、サーモサイホン式リボイラ、ケトル式リボイラなどが考えられるが、これらに何ら限定されるものではない。本発明では、蒸留塔とリボイラを組み合わせて実施させる操作を加熱操作とみなす。
【0106】
コンデンサーの有無には制約はなく、コンデンサーは加熱操作の一部を構成するものではない。理論的には、ケトル式熱交換器や加熱装置付フラッシュドラムも1段の蒸留塔とみなすことができる。
【0107】
加熱工程で抜き出される気体は、アンモニアを含んでおり、必然的にpHが7よりも大きくなるため、本発明では、これを塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と称する。
【0108】
この塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱操作を実施する装置の中で、最も望ましいものは蒸留塔であるため、以下に、主に蒸留塔を用いる場合について説明する。
【0109】
塩効果による酸Bと水との分離効果を得、同時に酸Bのアンモニウム塩を分解するには蒸留塔が適している。アンモニアは通常の気液平衡(蒸発と凝縮が同じ量)であるのではなく、滞留時間、及び、気液の界面面積の大きさに大きく影響されるものと考えられるため、より効率的に加熱工程を実施するには、確実な液のホールドアップ、より長い滞留時間が重要になる。そのため、蒸留塔としては、棚段(トレイ)塔が好ましい。充填塔であっても液のホールドアップは少なからずあるが、充填塔よりも棚段(トレイ)塔の方が、より確実に、塩効果による酸Bと水との分離効果と酸Bのアンモニウム塩の分解効果を同時に得ることができる。
【0110】
棚段塔のトレイタイプについては、スタートアップやシャットダウンにおける運転範囲を考慮した場合、容易にウィーピングが起きるシーブトレイは実用上劣る。運転レートが遅い、或いは、ゼロであっても、ウィーピングが起こりにくく、液が確実にトレイ上にホールドされるトレイが好ましい。こうしたトレイとは固定式のトレイの場合、一例として泡鐘トレイがある。泡鐘トレイであれば、トレイ上における気液接触を良くするために、ダウンカマーの堰以外に、泡鐘部分の機構上トレイ上のガス穴に堰が存在し液深を保つことが可能となる。また、バルブキャップトレイなどのように、トレイ上の穴を可動式キャップで塞ぐタイプのトレイもウィーピングを起こし難く、本発明への適用に好ましい。
【0111】
但し、塔の内部の温度プロファイルを考えた場合、水が少ない状態で高温になるとアミド化するため、水をストリッピングする塔の下部については滞留時間を短くすることが好ましい。そのため、塔の上部は棚段塔、下部は充填塔が好ましい。その割合や段数は温度や圧力によって異なるので適宜最適化される。
【0112】
塩効果による酸Bと水との分離効果を装置全体で得るには、蒸留塔の場合、原料を、塔上部から供給する、いわゆる抽出蒸留の形で実施することが好ましいが、この原料の供給段は特に指定されるものではない。
【0113】
塔の圧力は特に制約は受けないが、酸Bのアンモニウム塩の効率的な分解のために、少なくとも塔底の温度は80℃以上、好ましくは115℃以上180℃以下になるような圧力でなければならない。更に、塔頂が当該酸Bのアンモニウム塩の融点又は酸Bの沸点のいずれか高い方より低い温度であれば、塔頂部は加熱工程後の分離工程の気液分離装置とみなすことができるので、加熱工程と分離工程とを一つの装置で行うことが可能となり、装置の数を減らすことができるので投資コスト上は好ましい。この場合の塔頂の温度条件は、酸Bのアンモニウム塩が酢酸アンモニウムの場合、114℃(酢酸アンモニウムの融点)以下であり、プロピオン酸アンモニウムの場合、141℃(プロピオン酸の沸点)以下である。
【0114】
塔頂の条件を満たす圧力条件とは、酸Bやアルカリ(土類)金属の種類とその使用量、水の量、要求される水/酸Bの分離の度合いなどにより変動するが、通常は2.0atm(0.2MPa)以下、好ましくは常圧(1atm(0.1MPa))以下である。また、前述の塔底の条件を満たす圧力条件とは、同様に、酸Bやアルカリ(土類)金属の種類とその使用量、水の量、要求される水/酸Bの分離の度合い、更にはトレイや充填物による圧力損失などにより変動するが、通常は80mmHg(10.6kPa)以上、好ましくは200mmHg(26.7kPa)以上である。
【0115】
原料を塔頂部へ供給する場合、ストリッピング効果やエントレイメント(飛沫同伴)によって酸Bやその塩が留去されてしまうことがある。その場合、蒸留塔のみで加熱操作と分離操作の条件を満たすことができても、ストリッピングによる塩の除去の効果を狙って分離操作に相当する気液分離装置を加えて設置する、或いは供給段を下げるなどの対応が必要となる場合がある。
【0116】
これに対して、加熱用装置の一つである蒸留塔と気液分離装置を分ける場合には、蒸留塔の塔頂から抜き出された塩基性水溶液の気体はコンデンサーで一度凝縮した後、気液(気液固、気固)分離装置に供給してもよい。また、必要に応じて圧力調整器を塔頂からの抜き出しラインに設置するなどして、コンデンサーを気液(気液固、気固)分離装置としてもよい。前者の場合、気液分離装置への供給は主に液になるが、気液のまま供給してもよい。後者の場合、気液分離装置への供給はエントレイメント(飛沫同伴)があるものの、殆ど気体である。
【0117】
気液(気液固、気固)分離装置から抜き出された液体、固体、或いは、スラリーは主にストリッピング効果によって留去された酸Bのアンモニウム塩が濃縮されたものである。これは加熱工程を実施する加熱装置に戻すか、或いは、新たに供給される酸Bのアンモニウム塩水溶液、或いは酸Bの水溶液に混合して、分解されるまで循環処理する。
【0118】
加熱工程の蒸留塔と分離工程の気液(気液固、気固)分離装置が一体の場合も、これらが別々の装置の場合も、塔底から抜き出された液は、常法、例えば薄膜蒸発器やエバポレータなどにより酸Bと酸Bのアルカリ(土類)金属塩に分けられる。或いは、加熱器である蒸留塔の回収部(回収段)からガス抜き出しをしてもよい。
【0119】
ここまでのプロセスで熱履歴を受けているので、酸Bのアンモニウム塩は一部アミド化している。このアミド化合物は沸点が高く、大部分が酸Bのアルカリ(土類)金属塩と同様の挙動をする。代表的なアミド化合物、アセトアミドの沸点は222℃であるので、殆ど混入することは無い。エントレイメントなどで酸Bにこのアミド化合物が僅かながら混入した場合でも、常法、例えば蒸留などにより、容易に分離することができる。
【0120】
これらアミド化合物は、水を加え、加熱するとアルカリ(土類)金属の存在によって加水分解される。つまり、酸Bのアルカリ(土類)金属塩は回収され循環利用されるが、新たに供給される酸Bのアンモニウム塩水溶液、或いは酸Bの水溶液に混ぜられ、加熱工程、即ち、分離装置とは別に設けた加熱装置、或いは、加熱装置としての蒸留塔、又は蒸留装置に供給される前に予熱することにより事前に、或いは加熱装置、蒸留装置内において、アミド化合物を加水分解して除去することができる。
【0121】
本発明において、アルカリ(土類)金属は特に種類を規定するものではなく、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ金属とアルカリ土類金属では、アルカリ土類金属が架橋構造をとりやすく、高粘度や結晶化の問題を起こしやすいという欠点があるため、アルカリ金属の方が有利である。また、アルカリ金属の中でも、このプロセスが適用される製品が食品添加物や医薬品用途である場合や、経済性や扱い易さを考慮すると、ナトリウム或いはカリウムが特に好ましい。さらに、これらを混合して用いてもよい。
【0122】
酸Bのアンモニウム塩は、適量、例えば、酸Bのアンモニウム塩に対して0.3〜10重量倍、好ましくは0.5〜5重量倍の水の共存下、当該酸Bのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)及び/又はアルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩)と共に、pH6.5以上、好ましくはpH7〜10の条件で80℃以上、好ましくは100〜160℃程度の温度に加熱することにより、アンモニアを気化させることができる。
【0123】
特に反応蒸留装置を用いる場合、塔頂部はpH7以上であり、塔底部はpH7以下である。こうした条件とは、例えば、酸Bのアンモニウム塩に対して0.3〜5重量倍、好ましくは0.5〜3重量倍の水、及び、0.2〜2重量倍、好ましくは0.5〜1.5重量倍の当該酸Bのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)及び/又はアルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩)を用いる事で酸Bのアンモニウム塩を分解することができる。
【0124】
水の量は少なければ少ないほど、エネルギー消費は小さくなるが、アミド化しやすくなる。そのため、酸Bの種類やアルカリ(土類)金属の種類と量、装置の構造や滞留時間分布などにより、適宜制御される。
【0125】
なお、本発明の方法は、酢酸水などにアンモニアを混合して酢酸アンモニウム水溶液とすることにより、工業的に重要な酢酸水の経済的に有効な分離法としても用いることもできる。その場合、抜き出されたアンモニア水或いはアンモニアを含む蒸気は、常法、例えば蒸留などにより、純水と濃縮されたアンモニア水に分けられ、濃縮アンモニア水或いはアンモニアガスは新たに供給される酢酸水溶液に戻され、リサイクル利用することができ、酢酸含有量が少ない水の精製に特に有効である。
【0126】
また、本発明において、加熱工程において塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液は主に酸Bのアルカリ(土類)金属塩と分解によって得られたフリーの酸B、未分解の酸Bのアンモニウム塩を含む。この液は、減圧下、或いは常圧下、好ましくは減圧下、より好ましくは100mmHg以下、特に好ましくは75mmHg以下において、125℃以上、好ましくは135℃以上、更に好ましくは160℃以上、特に好ましくは180〜220℃で加熱することにより、酸Bを分離回収することが出来る。こうして回収された酸Bは上記の反応晶析工程に再利用することができる。充分に減圧(100mmHg以下)し、高温(180℃以上)で行う場合は、酸Bアミド化合物や未反応の酸Bのアンモニウム塩が酸Bと共に気化される。これらは常法(例えば蒸留)によって分離され、より高純度の酸Bを得ることができる。
【0127】
また、上記のようにして酸Bを分離回収した後の残留物は酸Bのアルカリ(土類)金属と未分解の酸Bのアンモニウム塩と副生成物の酸Bのアミド化合物を含有するものであり、これを酸Bのアルカリ(土類)金属源として循環使用することが出来る。この場合、この残留物は、副生成物である酸Bのアミド化合物を含んでいる。これはアルカリ金属と水の共存下、容易に加水分解される。上記残留物は水を加えた後、或いは酸Bおよび水を含む液を混合した後、125℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上の温度で副生成物である酸Bのアミド化合物を加水分解することができる。
【0128】
以下に図面を参照して酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な具体的な装置構成を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示の方法に限定されるものではない。また、以下においては、酸Bのアンモニウム塩として酢酸アンモニウム、アルカリ(土類)金属としてナトリウムを例示するが、本発明は酢酸アンモニウム及びナトリウムに限らず、他の酸Bのアンモニウム塩及び他のアルカリ(土類)金属にも適用可能であることは言うまでもない。
【0129】
図1の方法では、酢酸アンモニウム及び水をアセトアミド分解槽3を経て蒸留塔1に供給する。このアセトアミド分解槽3には、後段の薄膜蒸発器4の残留物(酢酸ナトリウム、副生アセトアミド及び未分解酢酸アンモニウムを含む)が循環されており、この残留物が酢酸アンモニウム水溶液と混合されて蒸留塔1に送給され、蒸留塔1の上部に導入される。このアセトアミド分解槽3では、前述の如く、アセトアミドに水が混合されることにより、アセトアミドの加水分解が行われる。
【0130】
アセトアミド分解槽3からの混合液は蒸留塔1において、前述の蒸留条件により加熱操作及び分離操作が行われ、蒸留塔1の塔頂から、アンモニア、水及び少量の酢酸アンモニウムを含む塩基性水溶液の気体が留出する。この塩基性水溶液の気体は、気化槽2において、酢酸アンモニウムの融点以下の温度で気液分離が行われ、水とアンモニアが分離される。残留する酢酸アンモニウムはアセトアミド分解槽3に送給されて、循環処理される。
【0131】
蒸留塔1の塔底からの缶残液は、酢酸と未分解酢酸アンモニウムと副生成物のアセトアミドと酢酸ナトリウムとを含むものであり、薄膜蒸発器4において、酢酸が分離され、残留物はアセトアミド分解槽3に循環される。
【0132】
図2に示す方法は、気化槽2からの酢酸アンモニウム留分が蒸留塔1に戻される点が図1に示す方法と異なるが、図1と同様に、加熱操作、分離操作が行われる。
【0133】
図3に示す方法は、蒸留塔1Aにおいて、気化と蒸留を行わせることにより、気化槽2を省略した点が図1に示す方法と異なるが、図1と同様に加熱操作、分離操作が行われる。なお、この方法において、アセトアミド分解槽3からの混合液は、蒸留塔1Aの気化部に導入しても良く、蒸留部の上部に導入してもよい。
【0134】
図4に示す方法は、蒸留塔1Bにおいて、酢酸を中段から抜き出すことにより、酢酸の分離をも行わせ、薄膜蒸発器4を省略した点が図1に示す方法と異なるが、図1と同様に加熱、分離操作が行われる。
【0135】
図5に示す方法は、蒸留塔の代りにフラッシュドラム5を用いた点が図1に示す方法と異なるが、図1と同様に加熱、分離操作が行われる。
【0136】
いずれの方法においても、蒸留塔又はフラッシュドラム等の加熱工程において、アルカリ(土類)金属及びアンモニアが存在することにより、還流比が小さくなり、加熱分離における消費エネルギーを大幅に低減することができる。
【0137】
[分離母液のリサイクル]
本発明においては、反応晶析が多段の場合、後段の反応晶析における母液を次の(1)〜(3)のような循環液として、新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と混合する。
【0138】
(1) 後段の母液をそのまま循環させ、新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と混合する。この後段の母液中には、酸B及びそのアンモニウム塩と、有機酸A及びそのアンモニウム塩が含まれている。これらのうち、酸Bは、新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と反応して酸Bのアンモニウム塩に変換され、有機酸Aモノアンモニウム塩を晶析後に、次の気化工程において、後段の母液中の酸Bのアンモニウム塩と共に除去される。また、有機酸A及びそのアンモニウム塩は新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と共に反応晶析において有機酸Aあるいは有機酸Aのモノアンモニウム塩として分離される。
【0139】
(2) 後段の母液から酸Bを気化させて分離回収した後、残液を循環させて新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と混合する。
【0140】
この場合、酸Bは、これを気化分離した後の残留分が液相を維持する程度に残留分中に残す必要がある。即ち、循環液中には、酸Bのアンモニウム塩と有機酸A及びそのアンモニウム塩が十分に溶解するだけの酸Bが存在することが好ましい。
【0141】
この場合においても、(1)の場合と同様に、循環液中の酸Bは、新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と反応して酸Bのアンモニウム塩に変換され、次の気化工程において後段の母液中の酸Bのアンモニウム塩と共に除去される。また、有機酸A及びそのアンモニウム塩は新たに供給される有機酸Aアンモニウム塩と共に反応晶析において有機酸Aあるいは有機酸Aのモノアンモニウム塩として分離される。
【0142】
(3) 分離母液から酸Bを気化させて分離回収した後、酸Bのアンモニウム塩を気化させて有機酸A及びそのアンモニウム塩とを分離し、酸Bのアンモニウム塩留分を循環させて新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と混合する。
【0143】
この場合、酸Bのアンモニウム塩留分中には、この留分が液相を維持する程度に酸Bが含まれている必要がある。即ち、循環液中には、酸Bのアンモニウム塩が十分に溶解するだけの酸Bが存在する必要がある。
【0144】
この場合においても、(1)の場合と同様に、循環液中の酸Bは、新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩と反応して酸Bのアンモニウム塩に変換され、次の気化工程において晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩と共に除去される。
【0145】
なお、晶析母液から酸Bを気化させる条件としては、前述の(2)の場合と同様である。また、酸Bのアンモニウム塩を気化させて有機酸A及びそのアンモニウム塩と分離するには、後述の気化工程と同様の操作条件を採用することが好ましい。この方法で分離された有機酸A及びそのアンモニウム塩は、反応晶析工程に循環して処理することにより有機酸Aを回収する。
【0146】
上記(1)〜(3)の循環液と新たに供給される有機酸Aのアンモニウム塩との混合条件には特に制限はなく、20〜140℃、好ましくは40〜110℃の温度にて混合槽にて撹拌することにより行うことができる。
【0147】
[有機酸Aの用途]
本発明の製造方法により得られる目的物である有機酸Aは種々の用途に使用できるが、なかでも、ジカルボン酸類はポリエステルやポリアミドの原料として用いることができる。
【0148】
例えば、本発明により製造されるジカルボン酸である、シュウ酸、コハク酸、イタコン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、又はそれらの低級アルコールエステル、無水コハク酸、無水アジピン酸などは、高分子ポリエステルの原料である。特に、重合体の物性の面から、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸又はこれらの無水物が好ましいとされるが、これらは、天然の炭素源から微生物発酵法により環境に負荷を与えることなく、本発明を適用して製造することができるものである。
【0149】
さらに、ポリエステル共重合体の製造などに使用されるジオールである、例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノールなども、本発明により製造された上記有機酸Aを水添する事によって得ることができる。
【0150】
[具体的な好ましい実施の態様]
本発明の具体的な好ましい実施の態様は以下の通りである。
【0151】
1.炭素源を微生物変換することにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を製造する方法において、
炭素源を、アンモニア、炭酸アンモニウム、及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換してジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩を含む反応液を得る微生物変換工程と、
該微生物変換工程で得られたジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、目的とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0152】
2.上記1において、該微生物変換工程で得られた反応液を濃縮する濃縮工程を有し、該濃縮工程で得られた濃縮物を前記反応晶析工程に供することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0153】
3.上記1又は2において、該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の液からモノカルボン酸を気化させて除去した後、該液中のモノカルボン酸のアンモニウム塩を気化させて捕集し、該モノカルボン酸のアンモニウム塩を水及びモノカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩と混合した後加熱することにより、アンモニアを気化させて回収するアンモニア回収工程と、
該アンモニア回収工程で回収されたアンモニアを前記微生物変換工程の中和剤として用いる循環工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0154】
4.炭素源を微生物変換することにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を製造する方法において、
炭素源を、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換してジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液を得る微生物変換工程と、
該微生物変換工程で得られたジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩に、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して反応晶析を行うことにより、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させ、該炭酸塩を分離し、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩水溶液を得る第1の反応晶析工程と、
該第1の反応晶析工程で析出したアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を除去した後の液に、モノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、目的とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる第2の反応晶析工程と、
該第2の反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0155】
5.上記4において、該微生物変換工程で得られた反応液を濃縮する濃縮工程を有し、該濃縮工程で得られた濃縮物を前記第1の反応晶析工程に供することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0156】
6.上記4又は5において、該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の液からモノカルボン酸を気化させて除去した後、該液中のモノカルボン酸のアンモニウム塩を気化させて捕集し、該モノカルボン酸のアンモニウム塩を水及びモノカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩と混合した後加熱することにより、アンモニアを気化させて回収するアンモニア回収工程と、
該アンモニア回収工程で回収されたアンモニアを前記第1の反応晶析工程のアンモニア源として用いる循環工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0157】
7.ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩からジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を得るジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法において、
該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程と、
該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後のモノカルボン酸のアンモニウム塩を含む液からモノカルボン酸のアンモニウム塩を分解し、次いで分離したモノカルボン酸のアンモニウム塩に、モノカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を添加することにより、モノカルボン酸とアンモニアとを得るアンモニア及びモノカルボン酸回収工程と、
該アンモニア及びモノカルボン酸回収工程で回収されたアンモニア及びモノカルボン酸を、それぞれ前記ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩のアンモニア源、並びに前記反応晶析工程のモノカルボン酸として用いる循環工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0158】
8.上記7において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩が、アンモニア、炭酸アンモニウム、及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を中和剤として用いる、炭素源の微生物変換により得られることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0159】
9.上記7において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を中和剤として用いる、炭素源の微生物変換により得られたジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩から、ソルベー法によりジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩とすることにより得られることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0160】
10.上記1〜9のいずれか1項において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の炭素数が4以上12以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0161】
11.上記10において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸が、琥珀酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、アスパラギン酸、及びグルタミン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0162】
12.上記1〜11のいずれか1項において、該モノカルボン酸の炭素数が1以上6以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0163】
13.上記12において、該モノカルボン酸が、酢酸及び/又はプロピオン酸であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0164】
14.ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩からジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を得るジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法において、
該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程と、
該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の晶析母液から、更にモノカルボン酸を気化させる第1の気化工程と、
該第1の気化工程後、該晶析母液からモノカルボン酸アンモニウムを気化させる第2の気化工程とを有することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0165】
15.上記14において、該第1の気化工程は、該モノカルボン酸アンモニウムの融点以下の温度で、前記晶析母液からモノカルボン酸を気化させる工程であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0166】
16.上記14又は15において、該第2の気化工程は、前記晶析母液を、0.001mmHg(0.133Pa)以上200mmHg(26.7kPa)以下の減圧下に加熱することによって、該モノカルボン酸アンモニウムを気化させる工程であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0167】
17.上記14〜16のいずれか1項において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の炭素数が4以上12以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0168】
18.上記17において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸が、琥珀酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタル酸、及びグルタミン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0169】
19.上記14〜18いずれか1項において、該モノカルボン酸の炭素数が1以上6以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0170】
20.上記19において、該モノカルボン酸が、酢酸及び/又はプロピオン酸であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0171】
21.ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩からジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を得るジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法において、
該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程にジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩を供給する供給工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程とを有するジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法であって、
該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の晶析母液を、前記供給工程に循環する循環工程と、
該循環工程の循環液を、該供給工程に新たに供給されるジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩と混合する混合工程と、
該混合工程で得られた混合物からモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させる気化工程とを備え、該気化工程でモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させて除去した後の残留物を前記反応晶析工程に供給することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0172】
22.ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩からジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を得るジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法において、
該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程にジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩を供給する供給工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程とを有するジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法であって、
該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の晶析母液からモノカルボン酸を気化させて分離するモノカルボン酸回収工程と、
該モノカルボン酸回収工程でモノカルボン酸を除去した後の残液を、前記供給工程に循環する循環工程と、
該循環工程の循環液を、該供給工程に新たに供給されるジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩と混合する混合工程と、
該混合工程で得られた混合物からモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させる気化工程とを備え、該気化工程でモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させて除去した後の残留物を前記反応晶析工程に供給することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0173】
23.ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩からジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を得るジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法において、
該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩にモノカルボン酸を添加して反応晶析を行うことにより、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を析出させる反応晶析工程と、
該反応晶析工程にジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩を供給する供給工程と、
該反応晶析工程で析出したジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離する分離工程とを有するジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法であって、
該分離工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸を分離した後の晶析母液からモノカルボン酸を気化させて分離する第1の回収工程と、
該第1の回収工程でモノカルボン酸を除去した後の残液から、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸とそのアンモニウム塩を分離する第2の回収工程と、
該第2の回収工程でジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸とそのアンモニウム塩を分離した後の残液を、前記供給工程に循環する循環工程と、
該循環工程の循環液を、該供給工程に新たに供給されるジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のアンモニウム塩と混合する混合工程と、
該混合工程で得られた混合物からモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させる気化工程とを備え、該気化工程でモノカルボン酸アンモニウム塩を気化させて除去した後の残留物を前記反応晶析工程に供給することを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0174】
24.上記21〜23のいずれか1項において、前記混合工程における、新たに供給されるジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸のモル数に対する、前記循環液中のモノカルボン酸のモル数が30倍以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0175】
25.上記21〜24のいずれか1項において、前記気化工程は、前記混合液を0.001mmHg(0.133Pa)以上200mmHg(26.7kPa)以下の減圧下に加熱することによって、該モノカルボン酸アンモニウム塩を気化させる工程であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0176】
26.上記21〜25のいずれか1項において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の炭素数が4以上12以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0177】
27.上記26において、該ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸が、琥珀酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、アスパラギン酸、グルタル酸、及びグルタミン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0178】
28.上記21〜27のいずれか1項において、該モノカルボン酸の炭素数が1以上6以下であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0179】
29.上記28において、該モノカルボン酸が、酢酸及び/又はプロピオン酸であることを特徴とするジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸の製造方法。
【0180】
30.モノカルボン酸アンモニウム塩をモノカルボン酸とアンモニアとに分解してモノカルボン酸とアンモニアとを分離回収する方法において、 モノカルボン酸アンモニウム塩と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属と、水とを含む液を加熱して塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と、該加熱工程から抜き出した塩基性水溶液の気体を直接、或いは凝縮した後、前記モノカルボン酸アンモニウム塩の融点以下の温度にて気液分離、気固分離、或いは気液固分離する分離工程とを備えてなることを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0181】
31.上記30において、該加熱工程が、モノカルボン酸アンモニウム塩と、モノカルボン酸アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩或いはこれらから派生するイオン類と水とを含む液を蒸留塔に供給し、該蒸留塔の塔頂から前記塩基性水溶液の気体を抜き出す工程であることを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0182】
32.上記30又は31において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、Na、K、Ca及びMgよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0183】
33.上記30〜32のいずれか1項において、モノカルボン酸が酢酸、プロピオン酸及び酪酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0184】
34.上記30〜33のいずれか1項において、前記加熱工程において塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液を、減圧或いは常圧下において125℃以上で加熱することにより、モノカルボン酸を分離回収するモノカルボン酸回収工程を備えることを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0185】
35.上記34において、該モノカルボン酸回収工程において、モノカルボン酸を分離した残留物にモノカルボン酸アンモニウム塩と水を混合して前記加熱工程に循環することを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【0186】
36.上記35において、前記残留物にモノカルボン酸アンモニウム塩及び水を混合した後、90℃以上に予熱した後前記加熱工程に循環することを特徴とするモノカルボン酸アンモニウム塩の分解方法。
【実施例】
【0187】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0188】
なお、以下の実施例1−1においては、微生物変換工程から得られる有機酸Aのアンモニウム塩を濃縮工程で濃縮して得られた濃縮物の代替材料として、琥珀酸ジアンモニウム(和光純薬社製)を用いた。また、酸Bとしては、酢酸(和光純薬社製)又はプロピオン酸(和光純薬社製)を用いた。
【0189】
実施例1−1
琥珀酸ジアンモニウム180g(琥珀酸78重量%、アンモニア22重量%)を720gの水に溶解し、900gの20重量%琥珀酸アンモニウム溶液を用意した。
【0190】
この水溶液を140℃のオイルバス(蒸発器内は100℃)によって蒸発濃縮し、256.5gまで濃縮した。これから249gを分取し、琥珀酸に対し酢酸173gを加え、十分に攪拌した。これ(415.5g仕込)を晶析装置に入れ、100℃で10分間保持した後、攪拌を続けたまま40℃にて18時間保持した。
【0191】
次いで、吸引濾過した後、固形分を取り出した。濾液は296.6g、固形分は93.4gであった。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析すると酢酸28.4g重量%、琥珀酸58.3重量%、アンモニアが10.4重量%であった。合計は100%にならなかったが、アンモニアと有機物を別々に分析しているため、測定誤差と考えられる。同様に母液は酢酸59.9重量%、琥珀酸25.3重量%、アンモニアが6.7重量%であった。
【0192】
母液の酢酸がこれほど多く付着しているとは考えられないため、酢酸アンモニウムが相当量共沈しているものと考えられる。そこでモル比(100gを仮定)を計算すると以下のようになった。
【表4】

【0193】
酢酸の60%が酢酸アンモニウム(28モル)と仮定すると、琥珀酸のカルボン酸98モルに対し、アンモニア33モルであり、既に16モル(得られた固体の3分の1)は塩分解した琥珀酸そのものであり、その他も琥珀酸モノアンモニウム塩であることが判る。実際には母液としてはアンモニアも含んでいるため、反応晶析によって塩分解はもっと進んでいると考えられる。
【0194】
更に、得られた固体90gを80℃前後で80gの酢酸に溶解し、これ(165g)を晶析装置に入れて80℃で10分間保持した後、攪拌を続けたまま40℃にて7時間保持した。
【0195】
次いで、吸引濾過した後、固形分を取り出した。濾液は129.6g、固形分は16.2gであった。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析すると酢酸10.9重量%、琥珀酸87.4重量%、アンモニアが2.8重量%であった。同様に母液は酢酸90.2重量%、琥珀酸25.2重量%、アンモニアが6.0重量%であった。
【表5】

【0196】
本実施例においては、電気透析や無機酸を用いる事無く琥珀酸アンモニウムから琥珀酸を得ることができ、反応晶析のみによって琥珀酸に分解する事が確認できた。
【0197】
実施例1−2
100mlの試薬ビンを用い、琥珀酸ジアンモニウム15.2g(0.1モル)を酢酸15.2g(0.25モル)、水6gに加熱しながら混合し、90℃にて溶解した。これをウォーターバス(40℃)にて12時間放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は6.1gあり、分析の結果、琥珀酸69重量%、アンモニア12.8重量%であった。
【0198】
この固体3.1gを再度、100mlの試薬ビンに入れ、酢酸5.4gに加熱して混合し、75℃にて溶解した。これをウォーターバス(40℃)にて8時間放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は0.5gあり、分析の結果、琥珀酸97重量%、アンモニア1.6重量%であった。
【0199】
実施例1−3
100mlの試薬ビンを用い、琥珀酸ジアンモニウム15g(0.1モル)を酢酸35g(0.58モル)、水10gに加熱しながら混合し、95℃にて溶解した。これをウォーターバス(40℃)にて12時間放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は4.3gであった。
【0200】
この固体4gを再度、100mlの試薬ビンに入れ、酢酸16gに加熱して混合し、70℃にて溶解した。これを室温(約15℃)にて8時間放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は2.2gあり、分析の結果、琥珀酸90重量%、アンモニア0.8重量%であった。
【0201】
以上の結果より、酢酸による反応晶析で、高純度の琥珀酸を回収することができたことが明らかである。
【0202】
実施例1−4
琥珀酸ジアンモニウム50.35g、酢酸269.72gを晶析装置に入れ、85℃で溶解し10分間保持した後、攪拌を続けたまま15℃に冷却した。15℃に冷却後22分で、種晶として、試薬琥珀酸(和光純薬社製)1.03gを入れ4時間保持した。
【0203】
ろ過液は299.8g、固体は13.1g回収された。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析すると酢酸19.5重量%、琥珀酸82.4重量%、アンモニアが1.1重量%であった。同様に母液は酢酸80.7重量%、琥珀酸9.9重量%、アンモニアが4.0重量%であった。
【表6】

【0204】
実施例1−5
アジピン酸ジアンモニウム(和光純薬社製)50.46g、酢酸269.83gを晶析装置に入れ、85℃で溶解し10分間保持した後、攪拌を続けたまま15℃に冷却した。ただちに析出が始まり、そのまま4時間23分保持した。
【0205】
ろ過液は253.4g、固体は55.4g回収された。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析すると酢酸47.1重量%、アジピン酸61.8重量%、アンモニアが2.0重量%であった。同様に母液は酢酸85.0重量%、アジピン酸5.1重量%、アンモニアが3.7重量%であった。
【表7】

【0206】
得られた固形分50.21gを149.78gの酢酸を用い、16℃にて30分洗浄し、ろ過した。得られた固体は25.9g、リンス液は169.5gであった。固体を分析すると、酢酸11.6重量%、アジピン酸重量80.3%、アンモニアが0.2重量%であった。同様にリンス液は酢酸89.4重量%、アジピン酸3.9重量%、アンモニアが0.5重量%であった。
【表8】

【0207】
実施例1−6
グルタミン酸モノアンモニウム(シグマ社製)6.08gを10.08gの水に溶解した。酢酸399.69gを晶析装置に入れ、60℃に保持し、そこへ、グルタミン酸モノアンモニウム水溶液を15.72gを入れた。直ぐに白濁が始まり、攪拌を続けたまま16℃に冷却した。16℃のまま4時間18分保持した。
【0208】
ろ過液は387.1g、固体は19.3g回収された。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析すると酢酸68.2重量%、グルタミン酸24.7重量%、アンモニアが0.15重量%であった。同様に母液は酢酸92.3重量%、グルタミン酸は検出されず、アンモニアが1.4重量%であった。母液の残りは水と推定される。
【表9】

【0209】
実施例1−7
100mlの試薬ビンを用い、スベリン酸(Acros organics社製)15g(0.086モル)に28%アンモニア水(関東化学社製)50.42g(0.83モルのアンモニア)アンモニアを加え、溶解させた。これを80℃にて減圧乾燥し塩を得た。分析すると、スベリン酸77重量%、アンモニア9.2重量%でスベリン酸のカルボキシル基の62%がアンモニウム塩となっている事が分かった。
【0210】
このスベリン酸アンモニウム塩5.01gを酢酸25.05gに加熱しながら溶解し、これを15℃にて18時間恒温槽中に放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は0.46gあり、分析の結果、スベリン酸55重量%、酢酸40重量%、アンモニア0.2重量%であった。母液は29.60gであり、分析の結果、スベリン酸2.6重量%、酢酸93重量%、アンモニア1.3重量%であった。
【表10】

【0211】
実施例1−8
アジピン酸ジアンモニウム(和光純薬社製)50.20g、酢酸399.29gを晶析装置に入れ、95℃で溶解し10分間保持した後、攪拌を続けたまま15℃に冷却した。15℃になってから55分経過したところで種晶として0.5gのアジピン酸(和光純薬社製)を加えた。そのまま3時間保持した後、ろ過した。
【0212】
母液(ろ過液)は420.5g、固体は25.65g回収された。得られた固形分を液体クロマトグラフィーにて有機物を、イオンクロマトグラフィーにてアンモニアを分析するとプロピオン酸35.3重量%、アジピン酸56.8重量%、アンモニアが5.5重量%であった。同様に母液はプロピオン酸90.6重量%、アジピン酸6.2重量%、アンモニアが2.2重量%であった。
【表11】

【0213】
得られた固形分25.2gを99.99gのプロピオン酸を用い、95℃にて溶解したあと、15℃冷却した。直ちに析出が始まった。そのまま3時間53分保持した後、ろ過した。得られた固体は16.48g、母液は104.4gであった。固体を分析すると、プロピオン酸28.2重量%、アジピン酸重量69.0%、アンモニアが0.4重量%であった。同様に母液はプロピオン酸94.4重量%、アジピン酸3.3重量%、アンモニアが1.1重量%であった。
【表12】

【0214】
実施例2
以下に、モノカルボン酸及びモノカルボン酸アンモニウム塩の蒸留実験を挙げる。
【0215】
[モデル母液の調製]
(1)モデル母液1の調製
反応晶析後の母液組成は反応晶析における溶媒の量やリサイクル時の溶媒の純度によって影響を受け、ユーティリティーなどの条件により最適な運転条件によって決まる。モノカルボン酸アンモニウム塩の融点を基準とした分離性能の違いを見るため、モノカルボン酸は特開2002−135656号で記述される通り、炭素数1以上6以下のもののうち、好ましいとされる酢酸を選んだ。ジ/トリカルボン酸の種類は、沸点に与える影響がわずかに異なるものの、モノカルボン酸とモノカルボン酸アンモニウム塩の分離には影響を与えない。本実験例においてジ/トリカルボン酸は、琥珀酸を標準物質として選択した。
【0216】
琥珀酸アンモニウムの酢酸への溶解度を確認すると、100℃で33wt%の濃度まで溶解し、16℃で10wt%まで溶解した。そこで、工業用水の温度を20℃程度とすると、晶析温度は30〜50℃程度であろうと推定し、濃度20wt%程度が晶析操作後の晶析母液中に残存するものと推定された。
【0217】
そこで、酢酸による反応晶析により琥珀酸を析出させてこれを分離した晶析母液を仮定して、和光純薬社製酢酸約120gと和光純薬社製琥珀酸アンモニウム約30gを混合して、加熱し完全溶解した琥珀酸アンモニウム濃度約20%のものを「モデル母液1」とした。前述の如く、
【表13】

であることから、琥珀酸ジアンモニウムは酢酸と反応し、このモデル母液1は
【表14】

に対して、凡そ以下のような組成になっていると考えられる。
【表15】

【0218】
(2)モデル母液2の調製
和光純薬社製プロピオン酸、和光純薬社製琥珀酸ジアンモニウム、和光純薬社製28%アンモニア水を以下の配合で混合して、加熱し完全溶解したものを「モデル母液2」とした。
【表16】

【0219】
このモデル母液2は
【表17】

であることから、琥珀酸ジアンモニウムはプロピオン酸と反応し、凡そ以下のような組成になっていると考えられる。
【表18】

【0220】
[蒸留実験]
実験例2−1:下限温度
モデル母液1(酢酸120.00g、琥珀酸ジアンモニウム30.42g)を作成した後、これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、10mmHgにて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0221】
フラスコ内の温度が36℃で留去が始まり、69℃でほとんど留分がなくなったので、留去を停止した。フラスコ内は析出が起き、固化していた。
【0222】
留去した量は40ml(45.65g)であった。フラスコの内容量は、フラスコの風袋、実験前後の差し引きから64.78gであった。残りは減圧度に対しコンデンサーの冷媒水の水温が高かったため、コンデンサーで十分に凝縮せず、減圧ラインからドラフトへ抜けていったものと考えられる。
【0223】
実験例2−2:上限温度
モデル母液1(酢酸120.18g、琥珀酸ジアンモニウム30.40g)を作成した後、これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、150mmHgにて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0224】
フラスコ内の温度が85℃で留去が始まり、途中、オイルバスの温度が105℃になったので、その後は、10mmHgずつ減圧しながら留去した。1時間45分で留去量は40mlになった。ここで1回目の留分サンプルを回収した。この時点でのフラスコ内の温度は89℃であり、圧力は120mmHgであった。
【0225】
その後も留去が止まったら減圧するという操作を繰り返しフラスコの温度が100℃を超えないようにした。オイルバスの温度は融点(114℃)を超えないように、温度計の誤差や揺らぎを考慮して操作し、109℃が最大であった。1回目のサンプリングから1時間47分を費やし、40ml留去したところでサンプルを採取した。この時点でのフラスコ内の温度は95℃であり、圧力は60mmHgであった。
【0226】
常圧に戻し、缶残サンプル2.55gを採取した。フラスコの内容量は、フラスコの風袋、実験前後の差し引きから64.96gであった。単蒸留の時間を通じ、結晶が析出する事はなかった。
【0227】
実験例2−3:温度超過
モデル母液1(酢酸120.03g、琥珀酸ジアンモニウム30.41g)を作成した後、これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、380mmHgにて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0228】
フラスコ内の温度が110℃で留去が始まり、約1時間で、114℃、その後留去速度が上がらず、更に45分で留去量は40ml(実験例2−1相当)になった。ここで1回目の留分サンプルを回収した。この時点での温度は118℃であった。更に40ml留去したところで(132℃:1回目のサンプリングから1時間10分後)、一旦常圧に戻し、2回目の留分サンプルと缶残サンプル2.55gを採取した。再び380mmHgに減圧し、2.97g留去したところで終了した。フラスコの内容量は、フラスコの風袋、実験前後の差し引きから54.47gであった。単蒸留の時間を通じ、結晶が析出する事はなかった。
【0229】
実験例2−4:水の効果
モデル母液1と同じく琥珀酸30.40gを用いた。モデル母液1の酢酸120gの代わりに酢酸を72.02g、水48.01gを用いてこれを溶解した。
【0230】
これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、常圧にて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0231】
フラスコ内の温度が132℃(オイルバス温158℃)で留去が始まり、20分で40ml(42.64g)を留去し、サンプルを採取した。更に34分かけて40ml(41.88g)を留去し(フラスコ内温度150℃、オイルバス180℃)、サンプルを採取した。この時、缶残から、2.71gをサンプリングした。更に、加熱を続け、20ml(22.08g)留去した時点で(フラスコ内温度169℃、オイルバス206℃)停止し、留分、缶残をそれぞれサンプリングした。フラスコの風袋、実験前後の差し引きから、缶残は39.27gであった。
【0232】
実験例2−5:プロピオン酸の場合
モデル母液2を200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、100mmHg減圧後、加熱を開始した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0233】
フラスコ内の温度が72℃になった所で留去が始まった。フラスコ内の温度が83℃になった所で、温度が維持されるように減圧し、50mmHgまで減圧した。その後90℃になった時、留去が始まってから55分、で留分をサンプリングした。このとき、オイルバスの温度は100℃であった。留去が開始されてから1時間が経過後、オイルバスの温度を105℃へ昇温して20分、さらに108℃に昇温して20分留去を続けた後、缶残と留分をサンプリングした。留去終了時のフラスコ内の温度は95℃であった。
【0234】
回収した留分は1回目が37.0g、2回目の留分が15.25g、缶残は79.7gであった。
【0235】
実験例2−5では、分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表19】

である。
【0236】
実験例2−6:酢酸アンモニウムの気化・最低温度
実験例2−1、2−2の結果を考慮し、酢酸−琥珀酸系における酢酸アンモニウムの気化を以下のモデル溶液を用いて検証した。
【0237】
酢酸29.99g、琥珀酸アンモニウム15.19g、更に、酢酸アンモニウムの気化をより正確に把握するため、酢酸アンモニウム7.69gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。30mmHgに減圧し、108℃に昇温したオイルバスにつけて27分加熱した。
【0238】
コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。缶残は白色の固体が析出固化し、その量は27.93gであった。
【0239】
分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表20】

である。
【0240】
実験例2−7:酢酸アンモニウムの気化・最高温度
実験例2−1、2−2の結果、更には、実験例2−3、2−4から高温条件では水分を加えたほうが有利ではないかとの考察を元に、酢酸−琥珀酸系における酢酸アンモニウムの気化を以下のモデル溶液を用いて検証した。
【0241】
酢酸24.00g、琥珀酸アンモニウム15.20g、イオン交換水6.11g、更に、酢酸アンモニウムの気化をより正確に把握するため、酢酸アンモニウム7.68gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。150mmHgに減圧し、150℃に昇温したオイルバスにつけ、178℃までオイルバスを昇温した。留去速度は直ぐに遅くなったが、実験例2−6との対比を考え、30分加熱した。
【0242】
コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。缶残は白色の固体が析出固化し、その量は16.07gであった。
【0243】
分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表21】

である。
【0244】
実験例2−8:設計値
酢酸30.00g、琥珀酸アンモニウム15.18g、更に、酢酸アンモニウムの気化をより正確に把握するため、酢酸アンモニウム7.71gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。50mmHgに減圧し、100℃に昇温したオイルバスにつけた。オイルバスの温度が132℃で留去が始まり、25分後、139℃で缶残が析出固化し、終了した。缶残量は22.71gであった。コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。
【0245】
分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表22】

【0246】
実験例2−9:水の効果
実験例2−1、2−2の結果、更には、実験例2−3、2−4から水分を加えたほうが有利ではないかとの考察を元に、晶析溶媒に水が加わっている、或いは、加える条件を想定し、酢酸−琥珀酸系における酢酸アンモニウムの気化を以下のモデル溶液を用いて検証した。
【0247】
酢酸7.50g、琥珀酸アンモニウム15.23g、イオン交換水35.99g、更に、酢酸アンモニウムの気化をより正確に把握するため、酢酸アンモニウム7.68gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。50mmHgに減圧し、137℃に昇温したオイルバスにつけた。オイルバスの温度は実験中、137〜138℃で推移した。
【0248】
17分で終了し、缶残は白色の固体が析出固化し、その量は27.96gであった。コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。
【0249】
分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表23】

である。
【0250】
実験例2−10:プロピオン酸アンモニウムの気化
プロピオン酸アンモニウムは市販されていない。そこで、プロピオン酸39.99g、琥珀酸アンモニウム15.23g、和光純薬社28%アンモニア水15.16gをモデル溶液として用いた。
【0251】
これをナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。40mmHgに減圧し157℃に昇温したオイルバスにつけた。実験中は160℃であった。この状態で25分留去した。
【0252】
コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。缶残は白色の固体が析出固化し、その量は25.38gであった。
【0253】
分析時と同じ基準、即ち、酸と塩基を別々に存在するとして、仕込みは、
【表24】

である。
【0254】
[結果]
以上の蒸留実験の結果を表25〜28にまとめて記す。
【0255】
【表25】

【0256】
【表26】

【0257】
【表27】

【0258】
【表28】

【0259】
[考察]
琥珀酸−酢酸系においては酸Bのアンモニウム塩とは酢酸アンモニウムを指し、その融点が114℃である事が知られている。実験例2−3においては、オイルバスは134℃から149℃であり、フラスコ内の液温は114℃を超え、最大132℃であった。経過時間は約2時間であった。この時、アセトアミドは7.4wt%も生成しており、更に、琥珀酸アミドなどが生成し、琥珀酸は、琥珀酸アンモニウムとして30.4g(0.2mol相当)を入れ、缶残中の残存琥珀酸は0.09mol相当に減少している。これに対し、実験例2−2においては、オイルバスの温度、即ち、フラスコの壁温が最大109℃に達しており、フラスコ内の液温が95℃の状態で、3.3時間もかけているにも関わらず、アセトアミドは0.4wt%しか生成しておらず、同様に琥珀酸は、琥珀酸アンモニウムとして30.4g(0.2mol相当)に対し、留分には検出されていない状態で、0.186mol相当であり、その差は歴然としていた。
【0260】
この結果から本発明者は、実験例2−2の液温95℃より高温で、実験例2−3の液温132℃以下、操作中の平均温度として120℃前後において、カルボン酸アンモニウムがアミド化する反応に特異的に影響を与える温度が存在すると考えた。
【0261】
酢酸アンモニウムの融点は114℃であり、プロピオン酸アンモニウムの融点は、前述の如く、約100℃と考えられる。
【0262】
この実験において、操作温度はほぼ融点か、或いは、融点の少し上と想定される。そのため、特に留分2では、熱分解によってアンモニアが少し蒸発してきていると考えられる。しかしながら、経過時間の大部分はフラスコ内の温度が95℃以下なので、アミド化は極端には進んでいない事が観察される。実験例2−2の酢酸の場合、滞留時間が3時間を越えており、約1時間半が90℃以上である。実験例2−5の場合、40分程度である事を考えると、そのアミド化率は分析誤差の範囲でほぼ同程度とみなすことができる。
【0263】
酸Bとしての酢酸やプロピオン酸をアンモニアを含まない状態で取り出し、且つ、有機酸A及び、そのアンモニウム塩をアミド化やイミド化させないで濃縮することが重要である。そのためには反応特異点の110℃前後か、酸Bの融点のいずれか低い方を基準にする必要がある。従って、酢酸の場合には反応特異点が厳密には不明であり、ほぼ融点と同じ温度である事から酢酸の融点114℃以下における操作条件、プロピオン酸の場合にはプロピオン酸の融点が不明であり、実験例におけるアンモニアの揮発量が1時間40分という長い滞留時間であるにも関わらず、仕込み量に対して10分の1以下であり、実用上、許容範囲であると思われる事から、本実験例の前後が上限温度と考えてよい。即ち、壁面の温度(オイルバスの温度)を考えると110℃である。壁面の温度は一般に測定することはないので、加熱に用いるユーティリティーの温度として110℃が上限となる。液温を考えると100℃であり、これをプロピオン酸アンモニウムの融点相当と考えてよく、プロピオン酸を用いた場合にはプロセス流体の温度が100℃以下である事が操作条件となる。ユーティリティー或いはプロセス流体のいずれかの操作条件を満たしていればよい。
【0264】
更に比較例として、実験例2−3、2−4を行った。特に水を含んでいる場合にアミド化やイミド化反応が阻害されるのではないかとの考察によるものである。実験例2−1、2−2の条件ではアミド化やイミド化は僅かであり、分析誤差の範囲で有意差を明示することは困難であるので、意図的にアミド化やイミド化が起きる状況で検証している。結果を見ると、明らかに有意差が認められた。従って、酸Bの気化時には水分が幾分あることが望ましいと言える。
【0265】
晶析母液から酸Bを気化させた後、酸Bのアンモニウム塩を気化させる方法を実験する時に、無視できないのが滞留時間である。前述の如く、120℃前後でアミド化の反応が急速に速くなる、一方、酸Bのアンモニウム塩を有機酸A及びそのアンモニウム塩から分離するには、より高温である事が必要であり、酸Bのアンモニウム塩の融点以上が理想的であるからである。
【0266】
単蒸留装置の場合、加熱部であるフラスコからコンデンサー部までの接続部が外気に曝されており、外気とプロセスが熱交換してしまい、内部還流を起こす。その結果、接続部の放熱とフラスコ部の加熱の差が相当に大きくないと、滞留時間が増加する。実験例2−3において、一気にオイルバスを昇温し、加熱量が大きいにも関わらず、滞留時間が長くなる理由は、プロセスと外気の温度差も高くなるため接続部における放熱量も同じように大きくなるからである。
【0267】
そこで本発明者はロータリーエバポレータを用いて実験を行った。ロータリーエバポレータはフラスコをオイルバスに対して斜めに設置し、回転することによってフラスコの接続部近くまで、均等に加熱することが可能である。しかも、フラスコの接続部からコンデンサーまでは駆動部によって外気から遮断されていて、実質的に外気との熱交換は極めて少なくなっている。その結果、内部還流が極めて少なく、滞留時間も短くできる。
【0268】
しかし、回転するフラスコ内の液温を測定することができない。なぜなら、滞留時間を短くするために、意図的にフラスコの大きさに比べ、少なめの仕込み量にしてあるため、温度計を入れることはできても、液面は常にフラスコの内壁近傍にあり、安定的に液温を測定する事ができないためである。また、回転している事と蒸発の最終段階で有機酸A及びそれらのアンモニウム塩が固化するため、フラスコ内の温度を測定することは困難である。
【0269】
酸Bのアンモニウム塩は熱分解を起こすため、正確な物性値、例えば沸点は測定することができない。しかし、本発明者は、理論的には必ず沸点は存在し、昇華などの現象もあり、それが熱分解によるものと、蒸発や昇華との寄与が厳密に分ける事ができないだけではないかと考えた。
【0270】
そこで、減圧系にし、滞留時間を短くすることで、酸Bのアンモニウム塩を気化させる実験を行った。実験例2−6、実験例2−7、実験例2−8はロータリーエバポレータを用いた実験である。
【0271】
実験例2−6では十分に減圧する事で、約110℃のオイルバス、即ち、熱源を用いることによって、酢酸アンモニウムが気化する事を発見した。これは融点以下での現象であり、昇華が起こっていると推定される。実験例2−7では、150mmHgという比較的マイルドな減圧条件下においても酢酸アンモニウムは十分に気化している。実プロセスにおいては、滞留時間は短くできるので、この条件でも設計は十分に可能である事が証明された。しかしながら、オイルバス、即ち、熱源を180℃にしたにも関わらず、本実験においては比較のため、実験例2−6相当に時間を引き延ばしたため、幾分アミド化が起こっている。熱源の温度が高くなれば、相応に滞留時間を短くしなければならないことが示唆される。
【0272】
実験例2−9では水が早く蒸発したので、アミド化が抑えられたのは時間が短いことが理由なのか、水の存在により脱水反応が抑えられたのか要因を特定する事は難しい。しかし、どちらの効果も少なからずあり、水の存在によりアミド化が低くなることだけは確認できた。
【0273】
従って、晶析母液を濃縮した後、酸Bを気化させる方法としては、加熱時間が短いものが好ましい。また、過熱状態で気化、即ち、プロセス流体を減圧条件にし、十分に高温の熱源で加熱するのが好ましい。
【0274】
実施例3
実験例3−1:酢酸アンモニウムの存在を確認する実験(ロータリーエバポレータによる分離)
和光純薬社製酢酸6.0g、和光純薬社製琥珀酸アンモニウム15.18g、及び水20gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。50mmHgに減圧し、140℃に昇温したオイルバスにつけ昇温した。留去時間は5分であった。
【0275】
コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。缶残は20.8gであった。この固体の組成は琥珀酸56.1重量%(0.099モル)、酢酸19.6重量%(0.068モル)、アンモニア15.4重量%(0.189モル)であった。
【0276】
実験例3−2:反応晶析
100mlの試薬ビンを用い、琥珀酸ジアンモニウム4.5g(0.03モル)を酢酸30g(0.5モル)に加熱しながら混合し、80℃にて溶解した。これを室温(17℃)にて2時間、放置した。白色の固体が析出したので、これを濾過した。回収された固体は1.92gあり、分析の結果、琥珀酸96重量%、アンモニア1重量%であることが確認された。
【0277】
実験例3−3:晶析後の気液分離・濃縮
和光純薬社製酢酸120g、和光純薬社製琥珀酸アンモニウム30gを混合して、加熱し完全溶解したものを晶析母液とした。また、
【表29】

であることから、琥珀酸アンモニウムの1価目は酢酸と反応し、
【表30】

に対して、凡そ以下のような組成になっていると考えられる(アンモニアとして2重量%)。
【表31】

【0278】
これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、150mmHgにて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0279】
フラスコ内の温度が85℃で留去が始まり、途中、オイルバスの温度が105℃になったので、その後は、10mmHgずつ減圧しながら留去した。1時間45分で留去量は40mlになった。ここで1回目の留分サンプルを回収した。この時点でのフラスコ内の温度は89℃であり、圧力は120mmHgであった。
【0280】
その後も留去が止まったら減圧するという操作を繰り返しフラスコの温度が100℃を超えないようにした。オイルバスの温度は融点(114℃)を超えないように、温度計の誤差や揺らぎを考慮して操作し、109℃が最大であった。1回目のサンプリングから1時間34分(延べ時間3時間19分)を費やし、40ml留去したところでサンプルを採取した。この時点でのフラスコ内の温度は95℃であり、圧力は60mmHgであった。
【0281】
常圧に戻し、缶残サンプルを採取した。フラスコの内容量は、フラスコの風袋、実験前後の差し引きから64.96gであった。単蒸留の時間を通じ、結晶が析出する事はなかった。
【0282】
1回目留去組成は酢酸が102%(分析誤差のため、100%を超過)、2回目留去組成は、酢酸が103%(分析誤差のため、100%を超過)、最終の缶残の組成は酢酸が54%、アセトアミドが0.4%、琥珀酸34%、琥珀酸モノアミド1.8%、アンモニア9.8%であった。
【0283】
実験例3−4:ジ/トリカルボン酸及びそのアンモニウム塩塩を得る気液・気固分離
酢酸−コハク酸系における酢酸アンモニウムの気化を以下のモデル溶液を用いて検証した。
【0284】
和光純薬社製酢酸30.00g、和光純薬社製コハク酸アンモニウム15.18g、更に、和光純薬社製酢酸アンモニウムの気化をより正確に把握するため、酢酸アンモニウム7.71gを200mlのナス型フラスコに入れ、これをロータリーエバポレータに設置した。50mmHgに減圧し、100℃に昇温したオイルバスにつけ、140℃までオイルバスを昇温した。オイルバスが132℃になった時留去が始まった。留去時間は17分であった。
【0285】
コンデンサー部で白色の固体が析出付着していた。缶残は22.71gであった。
【0286】
缶残組成は酢酸34%、アセトアミド0.3%、琥珀酸54%、琥珀酸モノアミド0.7%、アンモニア12.7%であった。
【0287】
実験例3−5:アミド化の条件
和光純薬社製酢酸120g、和光純薬社製琥珀酸アンモニウム30gを混合して、加熱し完全溶解したものを晶析母液とした。また、
【表32】

であることから、琥珀酸アンモニウムの1価目は酢酸と反応し、
【表33】

に対して、凡そ以下のような組成になっていると考えられる。
【表34】

【0288】
これを200mlナス型フラスコに入れ、単蒸留装置に設置し、380mmHgにて単蒸留した。コンデンサーは水冷式を用いた。単蒸留装置には突沸を防ぐ目的と蒸留効率を上げる目的で微量の窒素ガスを常時流しておいた。
【0289】
フラスコ内の温度が110℃で最初の一滴が留去されたが、その後放熱による内部還流のため、留去の速度は著しく低下した。最初の一滴から1時間40分を要して留去量は40ml(実験例3−1相当)になった。ここで1回目の留分サンプルを回収した。この時点での温度は118℃であった。更に40ml留去したところで(132℃:延べ時間3時間47分)、一旦常圧に戻し、2回目の留分サンプルと缶残サンプル2.55gを採取した。更に、もう一度380mmHgに減圧し、2.97g留去したところで終了した。フラスコの内容量は、フラスコの風袋、実験前後の差し引きから54.47gであった。単蒸留の時間を通じ、結晶が析出する事はなかった。
【0290】
1回目留去組成は酢酸が100%、2回目留去組成は、酢酸が97%(留分はいずれも誤差範囲でほぼ100%)、2回目の留分をサンプルした時の缶残の組成は酢酸が49%、アセトアミドが7.3%、琥珀酸18%、琥珀酸モノアミド16%、アンモニア6.1%であった。
【0291】
実施例4
なお、以下において、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムには和光純薬社製特級試薬を用いた。
【0292】
実験例4−1
酢酸アンモニウム 15.22g(0.198mol)、イオン交換水20.01g、和光純薬社製28%アンモニア水5.20g(アンモニアとして0.086mol)を200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置し、150mmHgに減圧して、90℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が62℃になった時に留去が始まった。フラスコ内の液温が75℃になったところで、留出液をサンプリングした。その量は15.79gであった。その後、100mmHgに減圧し、留出液3.35g、缶残液18.54gを得た。
【0293】
1回目の留出液に含まれる酢酸は0.34wt%、2回目の留出液に含まれる酢酸は0.72wt%、缶残液に含まれる酢酸は62.4wt%(0.193mol)であった。缶残液中のアンモニアは13.9wt%(0.152mol)であった。
【0294】
この結果より、酢酸は酢酸アンモニウムとして存在し、酢酸アンモニウムの融点(114℃)以下において殆ど気化せず、アンモニア水を分離できることが証明された。
【0295】
実験例4−2
図6に示される実験装置によって実験を行った。蒸留塔10としては20段のオールダーショウ蒸留塔を用いた。液ホールドと蒸留効果の向上のため、ボンベ11より不活性ガスを、オイルバス12に漬けた塔底フラスコ13を経てこの蒸留塔10に流通させておき、非凝縮性ガスはコンデンサー14を経てガスパージライン15からドラフト中へ排気した。
【0296】
原料仕込みは酢酸アンモニウム249.9g、酢酸ナトリウム150.0g、イオン交換水250.0gであり、保温装置付原料槽16において、90℃に予熱しておいた。
塔底のフラスコ13の容量は500mlであり、スタートアップ用に酢酸アンモニウム30.06g、酢酸ナトリウム20.27g、酢酸70.16gを仕込んでおいた。
【0297】
塔底フラスコ13の内温が120℃になった時、原料槽16内の原料を165cc/hrの流速で予熱器(プレヒータ)17を経て蒸留塔10の塔頂から供給した。この時、予熱器17の温度は110℃であった。
【0298】
原料供給を開始して51分運転した所で、1回目の抜き出しとして、留出液63.6g、フラスコ内缶残液120.5gを取り出した。更に、37分間運転した所で2回目の抜き出しとして、留出液43.9g、フラスコ内缶残液71.1gを取り出した。
【0299】
以後、定常状態と想定した。
【0300】
更に、36分運転した所で、1回目の分析サンプルとして留出液44.5g、フラスコ内缶残液60.3gを取り出した。更に、36分間運転した所で、2回目の分析サンプルとして留出液46.3g、フラスコ内缶残液74.5gを取り出した。
【0301】
各分析サンプルの組成は表35に示す通りであった。
【0302】
【表35】

【0303】
表35より明らかなように、1回目と2回目の分析サンプルの組成に大差はなく、ほぼ定常状態であったとみなすことができる。運転がほぼ定常状態にあるとし、供給原料の組成と2回目分析サンプルの組成を比較するとマスバランスは下記表36に示す通りである。なお、供給原料165cc/hrは、原料比重1.14を用いて単位g/hrに換算した。
【0304】
また、アセトアミド化したアンモニア量は、次のようにして計算により求めた。即ち、表35に示す如く、缶残液中のアセトアミドは8.1wt%であり、これをモル数でアンモニア換算し、それを重量換算して1.7gを求めた。
【0305】
【表36】

【0306】
表36より明らかなように、アンモニアの分析値の合計は8.5g/hr(=3.8+3.0+1.7)であり、供給量9.7g/hrであることから、他の物質に比べてもその誤差は際立っている。これは主にアンモニアの一部が非凝縮性ガスと共にドラフト中へ失われたこととサンプル採取時や分析標準液の作成時に揮発しているからである。
【0307】
酢酸アンモニウムとして供給されたアンモニアは缶残液(塔底抜き出し)における残留酢酸アンモニウムとアセトアミドが分解留去できなかったものとして考えると、51.3%が留去、或いは、非凝縮性ガスとして分離されたことになり、同時に、僅か20段の蒸留塔によって通常では考えられない低含水率の酢酸と酢酸を含まないアンモニア水を得ることができたことが明らかである。
【0308】
実験例4−3
原料として、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムを用い、その原料仕込み量、運転条件を変えたこと以外は、実験例4−2と同様にして、図6に示される実験装置を用いて実験を行った。
【0309】
原料仕込みは酢酸アンモニウム250g、酢酸カリウム150.0g、イオン交換水250.0gであり、90℃に予熱しておいた。塔底のフラスコには、スタートアップ用に酢酸アンモニウム30.04g、酢酸カリウム20.28g、酢酸70.27gを仕込んでおいた。
【0310】
塔底フラスコの内温が120℃になった時、原料を150cc/hrの流速で塔頂から供給した。この時、予熱器の温度は110℃であった。
【0311】
原料供給を開始して59分運転した所で、1回目の抜き出しとして、留出液65.7g、フラスコ内缶残液133.4gを取り出した。更に、40分間運転した所で2回目の抜き出しとして、留出液43.5g、フラスコ内缶残液76.2gを取り出した。
【0312】
以後、定常状態と想定した。
【0313】
更に、40分間運転した所で1回目の分析サンプルとして留出液42.6g、フラスコ内缶残液68.5gを取り出した。更に、40分間運転した所で、2回目の分析サンプルとして留出液43.5g、フラスコ内缶残液68.1gを取り出した。
【0314】
各分析サンプルの組成は表37に示す通りであった。
【0315】
【表37】

【0316】
表37より明らかなように、1回目と2回目の分析サンプルの組成に大差はなく、ほぼ定常状態であったとみなすことができる。運転がほぼ定常状態にあるとし、供給原料の組成と2回目分析サンプルの組成を比較するとマスバランスは下記表38に示す通りである。なお、供給原料150cc/hrは、原料比重1.14を用いて単位g/hrに換算した。
【0317】
また、アセトアミド化したアンモニア量は、次のようにして計算により求めた。即ち、表37に示す如く、缶残液中のアセトアミドは5.0wt%であり、これをモル数でアンモニア換算し、それを重量換算して1.0gを求めた。
【0318】
【表38】

【0319】
表38より明らかなように、アンモニアの分析値の合計は6.2g/hr(=3.8+1.4+1.0)であり、供給量9.7g/hrに対して大きな誤差がでた。これは実験例4−2と同様に主にアンモニアの一部が非凝縮性ガスと共にドラフト中へ失われたこととサンプル採取時や分析標準液の作成時に揮発しているからである。カリウムの誤差が大きい理由は定かではない。
【0320】
酢酸アンモニウムとして供給されたアンモニアは缶残液(塔底抜き出し)における残留酢酸アンモニウムとアセトアミドが分解留去できなかったものとして考えると、75.4%が留去、或いは、非凝縮性ガスとして分離されたことになり、同時に、僅か20段の蒸留塔によって通常では考えられない低含水率の酢酸と、酢酸を含まないアンモニア水を得ることができたことが明らかである。
【0321】
実験例4−4
原料として、酢酸アンモニウム、酢酸カリウムを用い、その原料仕込み量、運転条件を変えたこと以外は、実験例4−2と同様にして、図6に示される実験装置を用いて実験を行った。
【0322】
原料仕込みは酢酸アンモニウム250.1g、酢酸カリウム150.1g、イオン交換水160.0gであり、90℃に予熱しておいた。塔底のフラスコには、スタートアップ用に酢酸アンモニウム30.1g、酢酸カリウム20.1g、酢酸70.0gを仕込んでおいた。
【0323】
塔底フラスコの内温が138.4℃になった時、原料を174cc/hrの流速で塔頂から供給した。この時、予熱器の温度は109.5℃であった。
【0324】
原料供給を開始して22分運転した所で、1回目の抜き出しとして、留出液19.1g、フラスコ内缶残液95.0gを取り出した。更に、37分間運転した所で2回目の抜き出しとして、留出液32.0g、フラスコ内缶残液90.4gを取り出した。
【0325】
以後、定常状態と想定した。
【0326】
更に、35分間運転した所で1回目の分析サンプルとして留出液22.8g、フラスコ内缶残液74.6gを取り出した。更に、34分間運転した所で、2回目の分析サンプルとして留出液28.4g、フラスコ内缶残液77.7gを取り出した。
【0327】
各分析サンプルの組成は表39に示す通りであった。
【0328】
【表39】

【0329】
表39より明らかなように、1回目と2回目の分析サンプルの組成に大差はなく、ほぼ定常状態であったとみなすことができる。運転がほぼ定常状態にあるとし、供給原料の組成と2回目分析サンプルの組成を比較するとマスバランスは下記表40に示す通りである。なお、供給原料174cc/hrは、原料比重1.18を用いて単位g/hrに換算した。
【0330】
また、アセトアミド化したアンモニア量は、次のようにして計算により求めた。即ち、表39に示す如く、缶残液中のアセトアミドは2.2wt%であり、これをモル数でアンモニア換算し、それを重量換算して0.72gを求めた。
【0331】
【表40】

【0332】
表40より明らかなように、アンモニアの分析値の合計は4.5g/hr(=2.1+1.7+0.7)であり、供給量11.4g/hrに対して大きな誤差がでた。これは実験例4−2と同様に主にアンモニアの一部が非凝縮性ガスと共にドラフト中へ失われたこととサンプル採取時や分析標準液の作成時に揮発しているからである。カリウムの誤差が大きい理由は定かではない。
【0333】
酢酸アンモニウムとして供給されたアンモニアは缶残液(塔底抜き出し)における残留酢酸アンモニウムとアセトアミドが分解留去できなかったものとして考えると、78.7%が留去、或いは、非凝縮性ガスとして分離されたことになり、同時に、僅か20段の蒸留塔によって通常では考えられない低含水率の酢酸と、酢酸を含まないアンモニア水を得ることができたことが明らかである。
【0334】
実験例4−5
原料として、酢酸アンモニウム、酢酸カリウムを用い、その原料仕込み量、運転条件を変えたこと以外は、実験例4−2と同様にして、図6に示される実験装置を用いて実験を行った。
【0335】
原料仕込みは酢酸アンモニウム250.1g、酢酸カリウム150.1g、イオン交換水150.0gであり、90℃に予熱しておいた。塔底のフラスコには、スタートアップ用に酢酸アンモニウム30.1g、酢酸カリウム20.0g、酢酸70.1gを仕込んでおいた。
【0336】
昇温を開始して21分後、原料を160.0cc/hrの流速で塔頂から供給した。11分後初留が得られ、その時の塔底フラスコの内温は137.2℃、予熱器の温度は108.5℃であった。
【0337】
原料供給を開始して19分運転した所で、1回目の抜き出しとして、留出液10.7g、フラスコ内缶残液102.8gを取り出した。更に、30分間運転した所で2回目の抜き出しとして、留出液31.1g、フラスコ内缶残液79.8gを取り出した。
【0338】
以後、定常状態と想定した。
【0339】
更に、37分間運転した所で1回目の分析サンプルとして留出液31.8g、フラスコ内缶残液76.9gを取り出した。更に、38分間運転した所で、2回目の分析サンプルとして留出液31.1g、フラスコ内缶残液79.4gを取り出した。
【0340】
各分析サンプルの組成は表41に示す通りであった。
【0341】
【表41】

【0342】
表41より明らかなように、1回目と2回目の分析サンプルの組成に大差はなく、ほぼ定常状態であったとみなすことができる。運転がほぼ定常状態にあるとし、供給原料の組成と2回目分析サンプルの組成を比較するとマスバランスは下記表42に示す通りである。なお、供給原料160.0cc/hrは、原料比重1.20を用いて単位g/hrに換算した。
【0343】
また、アセトアミド化したアンモニア量は、次のようにして計算により求めた。即ち、表41に示す如く、缶残液中のアセトアミドは2.2wt%であり、これをモル数でアンモニア換算し、それを重量換算して1.05gを求めた。
【0344】
【表42】

【0345】
表42より明らかなように、アンモニアの分析値の合計は5.6g/hr(=2.6+2.1+1.1)であり、供給量11.7g/hrに対して大きな誤差がでた。これは実験例4−2と同様に主にアンモニアの一部が非凝縮性ガスと共にドラフト中へ失われたこととサンプル採取時や分析標準液の作成時に揮発しているからである。カリウムの誤差が大きい理由は定かではない。
【0346】
酢酸アンモニウムとして供給されたアンモニアは缶残液(塔底抜き出し)における残留酢酸アンモニウムとアセトアミドが分解留去できなかったものとして考えると、72.8%が留去、或いは、非凝縮性ガスとして分離されたことになり、同時に、僅か20段の蒸留塔によって通常では考えられない低含水率の酢酸と、酢酸を含まないアンモニア水を得ることができたことが明らかである。
【0347】
比較実験例4−1
酢酸アンモニウム15.23g(0.198mol)、酢酸ナトリウム15.21g(0.185mol)、酢酸カリウム5.02g(0.051mol)、イオン交換水50.01gを200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置した。これを180℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が108℃になった時、留去が始まった。フラスコ内の液温が150℃になったところで加熱を止め、留出液と缶残をサンプリングした。留去時間は63分であった。留出液の量は53.18gであり、缶残の量は30.28gであった。初留からおよそ30分で析出したため、pHを計ることはできなかった。
【0348】
留出液に含まれる酢酸は5.47wt%(0.049mol)、アンモニアは2.98wt%(0.093mol)であった。缶残液に含まれる酢酸は79.32wt%(0.400mol)で、アンモニアは0.64wt%だった。
【0349】
アルカリ金属塩として存在する酢酸(0.236mol:仕込み量より)を除くと、0.164molであり、本来分解されるべき酢酸アンモニウム(0.198mol:仕込み量より)の24.7%の酢酸が留去されてしまったことになる。アンモニアは一部凝縮せずに排気されたためバランスが合わない。
【0350】
比較実験例4−2
酢酸アンモニウム15.22g(0.198mol)、酢酸カリウム10.00g(0.102mol)、イオン交換水50.05gを200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置した。これを180℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が106℃になった時、留去が始まった。フラスコ内の液温が150℃になったところで加熱を止め、留出液と缶残をサンプリングした。留去時間は51分であった。留出液の量は53.19gであり、缶残の量は20.26gであった。サンプリング直後に析出したため、pHを計ることはできなかった。
【0351】
留出液に含まれる酢酸は5.05wt%(0.045mol)、アンモニアは3.22wt%(0.101mol)であった。缶残液に含まれる酢酸は76.51wt%(0.258mol)で、アンモニアは検出されなかった。
【0352】
アルカリ金属塩として存在する酢酸(0.102mol:仕込み量より)を除くと、0.156molであり、本来分解されるべき酢酸アンモニウム(0.198mol:仕込み量より)の22.7%の酢酸が留去されてしまったことになる。アンモニアは一部凝縮せずに排気されたためバランスが合わない。
【0353】
比較実験例4−3
酢酸アンモニウム15.20g(0.197mol)、酢酸ナトリウム5.00g(0.061mol)、酢酸カリウム15.00g(0.153mol)、イオン交換水50.04gを200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置した。これを180℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が108℃になった時、留去が始まった。フラスコ内の液温が150℃になったところで加熱を止め、留出液と缶残をサンプリングした。留去時間は41分であった。留出液の量は52.32gであり、缶残の量は31.32gであった。サンプリング直後に析出したため、pHを計ることはできなかった。
【0354】
留出液に含まれる酢酸は5.72wt%(0.050mol)、アンモニアは3.68wt%(0.113mol)であった。缶残液に含まれる酢酸は72.21wt%(0.377mol)で、アンモニアは検出されなかった。
【0355】
アルカリ金属塩として存在する酢酸(0.214mol:仕込み量より)を除くと、0.163molであり、本来分解されるべき酢酸アンモニウム(0.197mol:仕込み量より)の25.4%の酢酸が留去されてしまったことになる。アンモニアは一部凝縮せずに排気されたためバランスが合わない。
【0356】
比較実験例4−4
酢酸アンモニウム15.20g(0.197mol)、酢酸カリウム10.02g(0.102mol)、イオン交換水15.27gを200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置した。これを180℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が116℃になった時、留去が始まった。フラスコ内の液温が150℃になったところで加熱を止め、留出液と缶残をサンプリングした。留去時間は23分であった。留出液の量は16.65gであり、缶残の量は21.76gであった。サンプリング直後に析出したため、pHを計ることはできなかった。
【0357】
留出液に含まれる酢酸は8.43wt%(0.023mol)、アンモニアは7.00wt%(0.069mol)であった。缶残液に含まれる酢酸は75.62wt%(0.274mol)で、アンモニアは2.13wt%(0.027mol)であった。
【0358】
アルカリ金属塩として存在する酢酸(0.102mol:仕込み量より)を除くと、0.172molであり、本来分解されるべき酢酸アンモニウム(0.197mol:仕込み量より)の11.7%の酢酸が留去されてしまったことになる。アンモニアは一部凝縮せずに排気されたためバランスが合わない。
【0359】
比較実験例4−5
酢酸アンモニウム15.20g(0.197mol)、酢酸ナトリウム10.01g(0.122mol)、イオン交換水15.19gを200mlのフラスコに入れ、これを単蒸留装置に設置した。これを180℃に昇温したオイルバスにつけた。フラスコ内の液温が116℃になった時、留去が始まった。フラスコ内の液温が135℃になった時、固体の析出が認められた。フラスコ内の液温が150℃になったところで加熱を止め、留出液と缶残をサンプリングした。留去時間は23分であった。留出液の量は17.17gであり、缶残の量は21.25gであった。析出したため、pHを計ることはできなかった。
【0360】
留出液に含まれる酢酸は11.33wt%(0.032mol)、アンモニアは6.02wt%(0.061mol)であった。缶残液に含まれる酢酸は83.97wt%(0.297mol)で、アンモニアは2.13wt%(0.027mol)であった。
【0361】
アルカリ金属塩として存在する酢酸(0.122mol:仕込み量より)を除くと、0.175molであり、本来分解されるべき酢酸アンモニウム(0.197mol:仕込み量より)の16.2%の酢酸が留去されてしまったことになる。アンモニアは一部凝縮せずに排気されたためバランスが合わない。
【図面の簡単な説明】
【0362】
【図1】本発明の酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な装置の構成を示す模式的な系統図である。
【図2】本発明のモ酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な別の装置の構成を示す模式的な系統図である。
【図3】本発明の酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な別の装置の構成を示す模式的な系統図である。
【図4】本発明の酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な別の装置の構成を示す模式的な系統図である。
【図5】本発明の酸Bのアンモニウム塩の分解方法の実施に好適な別の装置の構成を示す模式的な系統図である。
【図6】実験例4−2〜4−6で用いた装置の構成図である。
【符号の説明】
【0363】
1,1A,1B 蒸留塔
2 気化槽
3 アセトアミド分解槽
4 薄膜蒸発器
5 フラッシュドラム
10 蒸留塔
12 オイルバス
13 フラスコ
16 原料槽
17 予熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸Aのアンモニウム塩から、下記の式(1)を満たす酸Bを使用する反応晶析により、有機酸Aを固体として分離することを特徴とする有機酸Aの製造方法。
pKa(A)≦pKa(B) …(1)
(但し、pKa(A)及びpKa(B)は、それぞれ有機酸A及び酸Bの電離指数を表し、それらが複数の値を有する場合はそのうちの最も小さいpKaを表わす。)
【請求項2】
酸Bが、揮発性である請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
有機酸Aが、融点120℃以上の有機酸である請求項1又は2に記載の有機酸の製造方法。
【請求項4】
有機酸Aが、炭素数4〜12の、ジカルボン酸若しくはトリカルボン酸、又はアミノ酸である請求項1ないし3のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項5】
酸Bが、モノカルボン酸である請求項1ないし4のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項6】
酸Bが、酢酸又はプロピオン酸である請求項1ないし4のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項7】
反応晶析が1段又は多段であり、pHが2.1〜6.5である段を少なくとも1段有する請求項1ないし6いずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項8】
有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アンモニア、炭酸アンモニウム、及び尿素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て得られたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項9】
有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て、有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液を得、該有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液に、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して反応晶析を行うことによりアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させ(ソルベー法反応工程)、析出した炭酸塩を分離し、有機酸Aのアンモニウム塩水溶液として得られたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項10】
微生物変換工程で得られた反応液を濃縮する濃縮工程を有し、該濃縮工程で得られた濃縮物を、反応晶析に供する請求項8又は9に記載の有機酸の製造方法。
【請求項11】
有機酸Aのアンモニウム塩が、化学プロセスで得られたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項12】
反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解工程により分解して酸Bを得、得られた酸Bを反応晶析の溶媒として循環再利用する請求項1ないし11のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項13】
反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液から酸Bを気化させて濃縮した後、酸B及びそのアンモニウム塩を分解・気化させ有機酸A及びそのアンモニウム塩を回収する請求項12に記載の有機酸の製造方法。
【請求項14】
酸Bの気化が、そのアンモニウム塩の融点以下で行われる請求項13に記載の有機酸の製造方法。
【請求項15】
酸B及びそのアンモニウム塩の分解・気化が、酸Bのアンモニウム塩を、0.001mmHg以上200mmHg以下の減圧下に加熱することによって行われる請求項13又は14に記載の有機酸の製造方法。
【請求項16】
分解工程が、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を加熱し、塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と、加熱工程からの抜き出した塩基性水溶液を直接、又は凝縮した後、前記酸Bのアンモニウム塩の融点以下の温度にて気液分離、気固分離、又は気液固分離する工程を備えている請求項12ないし15のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項17】
分解工程が、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔に供給し、該蒸留塔の塔頂から塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程を備えている請求項12ないし15のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項18】
加熱工程において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔の、酸Bのアンモニア塩の融点以下となる部位に供給する請求項17に記載の有機酸の製造方法。
【請求項19】
酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を形成する、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、Na、K、Ca、及び、Mgからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項16ないし18のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項20】
加熱工程にて塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液から、減圧或いは常圧下、125℃以上で酸Bを分離回収する分離回収工程を備えている請求項16ないし19のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項21】
分離回収工程後の残留液を水を含む系と混合し、加熱工程及び分離回収工程で副生するアミド化合物を加水分解した後、加熱工程へ循環する請求項20に記載の有機酸の製造方法。
【請求項22】
有機酸Aのアンモニウム塩が、アンモニアを中和剤として用い微生物により変換する微生物変換工程を経て有機酸Aのアンモニウム塩を含む反応液として得られたものであり、酸Bを添加して行う反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解してアンモニアを得、該アンモニアを微生物変換工程の中和剤として用いる請求項1〜10及び12ないし21のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項23】
有機酸Aのアンモニウム塩が、炭素源を、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の中和剤の存在下に、微生物により変換する微生物変換工程を経て有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液を得、該有機酸Aのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩を含む反応液に、アンモニアと二酸化炭素、及び/又は炭酸アンモニウムを添加して反応晶析を行うことによりアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩を析出させ(ソルベー法反応晶析工程)、該炭酸塩を分離し、有機酸Aのアンモニウム塩水溶液として得られたものであり、酸Bを添加して行う反応晶析にて析出した有機酸Aを分離し、分離後の晶析母液中の酸Bのアンモニウム塩を分解してアンモニアを得、該アンモニアをソルベー法反応晶析工程のアンモニア源として用いる請求項9,10及び12ないし22のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項24】
反応晶析が多段であり、2段目以降の反応晶析において、析出した有機酸Aを分離した後の晶析母液を、直接若しくは酸Bを含む反応晶析溶媒の気化によって酸Bのアンモニウム塩を濃縮した後、又は母液に溶存している有機酸A若しくはその塩を分離した後、酸Bとそのアンモニウム塩をそれより前段の反応晶析の晶析槽へ循環させる請求項1ないし23のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項25】
酸Bのアンモニウム塩を、酸Bとアンモニアとに分解して酸Bとアンモニアとを分離回収する方法において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を加熱して塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程と、該加熱工程で抜き出した塩基性水溶液を直接若しくは凝縮した後、前記酸Bのアンモニウム塩の融点以下の温度にて気液分離、気固分離、或いは気液固分離する工程とを備えていることを特徴とするアンモニウム塩の分解方法。
【請求項26】
酸Bのアンモニウム塩を、酸Bとアンモニアとに分解して酸Bとアンモニアとを分離回収する方法において、酸Bのアンモニウム塩と酸Bのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩と水を含む液を、実段数として2段以上の蒸留塔の酸Bのアンモニウム塩の融点以下となる部位に供給し、該蒸留塔の塔頂から前記塩基性水溶液の気体を抜き出す加熱工程を備えることを特徴とするアンモニウム塩の分解方法。
【請求項27】
酸Bのアルカリ金属塩塩及び/又はアルカリ土類金属塩を構成するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が、Na、K、Ca、及びMgからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項25又は26に記載のアンモニウム塩の分解方法。
【請求項28】
酸Bが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項25ないし27のいずれかに記載のアンモニウム塩の分解方法。
【請求項29】
加熱工程において塩基性水溶液の気体を抜き出した後の液を、減圧或いは常圧下、125℃以上での分離工程により、酸Bを分離回収する酸Bの分離回収工程を備えた請求項25ないし28のいずれかに記載のアンモニウム塩の分解方法。
【請求項30】
分離回収工程後の残留液を水を含む系と混合し、加熱工程及び分離回収工程において副生するアミド化合物を、加水分解した後加熱工程へ循環する請求項29に記載のアンモニウム塩の分解方法。
【請求項31】
請求項1ないし24のいずれかに記載の有機酸の製造方法で製造された有機酸A。
【請求項32】
請求項1ないし24のいずれかに記載の有機酸の製造方法で製造された有機酸Aを原料として用いたポリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−101005(P2008−101005A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285270(P2007−285270)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【分割の表示】特願2003−133305(P2003−133305)の分割
【原出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】