説明

アーク溶接機

【課題】 短絡溶接とパルス溶接を1台の溶接機で実現し、安定したアーク溶接ができるアーク溶接機を提供する。
【解決手段】第1の整流回路2と、第1の整流回路2の出力を高周波交流に変換するインバータ回路3と、インバータ回路3の出力をアーク溶接に適した電圧に変換する絶縁トランス4と、絶縁トランス4の出力を整流する第2の整流回路5と、第2の整流回路に接続された第1のリアクトル6と、絶縁トランス4に対し、第2の整流回路5と並列に接続され、第1のリアクトル6よりも大きいリアクタンスを有する電流回路10と、インバータ回路3を制御する制御回路17とを備えたアーク溶接機であって、第1のリアクトル6に電流遮断機構100を接続し、制御回路17が出力する指令により電流遮断機構100を動作させて第1のリアクトル6が出力する電流を遮断するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電流を整流して直流とし、その出力をインバータ回路でのPWM制御により高周波交流とし、変圧器により適宜変圧した後に整流回路にて直流とする方式のアーク溶接機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、定電圧方式のアーク溶接電源の従来例1を示す図である。
図において、40は電流重畳回路の直流リアクタンス、41は出力側主回路の直流リアクタンス、42はワイヤ、43は1対のワイヤの送給ロ−ラ、44は通電チップ、45はア−ク負荷である。
そして、出力側主回路は、二次巻線56の両端から整流器16、直流リアクタ41、通電チップ44、ワイヤ42、ア−ク負荷45、ワ−クを経て絶縁トランス4に至る構成となっている。
また、電流重畳回路は二次巻線56の端部からコンデンサ51、全波整流用ダイオ−ド52、直流リアクタンス40、直流リアクタンス41、通電チップ44、ワイヤ42、ア−ク負荷45を経て二次巻線56の中点に至る構成となっている。
なお、電流重畳回路に流れる電流の値が、通常の溶接電流よりは小さいがア−クを十分に維持できる大きさになるようにコンデンサ51の容量を選定してある。
以下、動作について説明する。
例えばア−クスタ−ト時に、ワイヤの先端が過度に吹き飛びア−ク電圧が高くなると、溶接電流が不足する。しかし、電流重畳回路から電流が供給される結果、ア−クは切れない。
定電圧方式のアーク溶接電源を例にとり説明したが、パルス溶接電源に適用し、電流重畳回路から供給する電流の値をベ−ス電流よりも僅かに小さくなるように設定すれば、溶接中に例えばワイヤの送給抵抗の変化によりア−ク長が長くなって、ベ−ス電流ではア−ク切れを生じる場合でもア−ク切れを発生させないようにすることができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図6は、定電圧方式のアーク溶接機の従来例2を示している。
図において、商用交流電源1の電流は第1の整流回路2で直流に変換される。第1の整流回路2の出力はインバータ回路3で20〜200[KHz]の高周波に変換される。
インバータ回路3の出力は絶縁トランス4で溶接に適した電圧に変換され、第2の整流回路5で直流に変換された後直流リアクトル6を通り、アーク溶接部の溶接電極7にてアーク電流となる。この絶縁トランス4から第2の整流回路5、直流リアクトル6へのルートは、図5にて示した従来の溶接電源と同じである。直流リアクトル6には、パルス溶接用として20[μH]以下のリアクトルを適用している。
また、このアーク溶接機は第2の整流回路5と並列な電流回路10を有している。並列な電流回路10では、絶縁トランス4にて変換された溶接に適した電圧は電流制御回路11を通り、第3の整流回路12で直流に変換され、直流リアクトル13、直流リアクトル6を通り、アーク溶接部に電流を供給する。
また、電流制御回路11は半導体素子によって構成され、制御回路17からの信号で半導体のゲートをON/OFFし、流れる電流を制御している。直流リアクトル13には、100〜2000[μH]のリアクトルを適用している。
【0004】
図7は、定電圧方式のアーク溶接機の従来例2(図6)の変形例である。
図において、電流制御回路11はコンデンサ21、22で構成されている。図7の場合、絶縁トランス4で変換する電圧について、第2の整流回路5にかかる電圧よりも電流制御回路11にかかる電圧が高くなるように、絶縁トランス4の巻数を変えている。また、コンデンサ21、22はインバータ回路3が100[%]オン時であっても充電完了とならない、十分に大きな容量のものが選択されている。
このようにすることで、絶縁トランス4、電流制御回路11、第3の整流回路12にかかる電圧が、絶縁トランス4から第2の整流回路5にかかる電圧より高いため、電流は絶縁トランス4から電流制御回路11を通り第3の整流回路12に至る経路で流れようとするが、コンデンサ21、22で構成される電流制御回路11によって、絶縁トランス4から第3の整流回路12を通る電流が制限される。
すなわち、絶縁トランス4にかかる電圧(平均電圧)が高ければ、整流回路12に流れる電流が大きくなり、絶縁トランス4にかかる電圧が低ければ、流れる電流が小さくなる。
短絡溶接では、短絡時には絶縁トランス4にかかる電圧が低くなり、アーク時には絶縁トランス4にかかる電圧が高くなる。アーク切れは必ずアーク時に発生するため、アーク時に絶縁トランス4にかかる電圧が高くなり、より多くの電流を絶縁トランス4から電流制御回路11を介し整流回路12、直流リアクトル13に流すことにより、アーク切れを防止できる(例えば特許文献2参照)。
【0005】
図8は、定電圧方式のアーク溶接機の従来例3を示している。
図8の溶接機は、溶接部210の近傍に電流遮断機構206を有している。電流遮断機構206で電流を遮断することで、溶接電流は抵抗274を流れる。このことで急激な溶接電流の低下を得ることができる(例えば特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−318128号公報
【特許文献2】特開2004−249331号公報
【特許文献3】特開2002−273569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来例1の改良型である従来例2においては、アーク溶接の性能を向上させるために、アーク溶接中のワイヤの溶融プールへの短絡時に電流を急激に低下させることが有効であることは周知の事実である。
しかしながら、従来例2では直流リアクトル6があるために、直流リアクトル電流変化抑制機能により急激な溶接電流の低下を得ることができなかった。
また、アーク開始時に溶接用ワイヤをワーク8に接触させ、ワイヤを逆転することでアークを発生させる方式がアーク溶接開始時の品質向上に有効であることも周知の事実であるが、従来例2では、溶接用ワイヤがワーク8に接触した瞬間に流れる電流で溶接ワイヤがワーク8に溶着し、ワイヤの逆転が正常に動作しないという課題があった。
従来例3は、溶接電流の遮断機構206を有しているため溶接電流の急激な低下が可能である。しかしながら、図8において電流遮断機構206が働いている間、溶接電流は抵抗274を流れるため、抵抗274は発熱する。アーク溶接では、50〜500[A]程度の非常に大きな電流が流れるため発熱も激しく冷却機構も大掛かりになる。また、従来例3では従来例2のような直流リアクトル6、13を有していないため、パルス溶接と短絡溶接とを使い分けることができないという課題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、パルス溶接と短絡溶接とを使い分けることができて、しかもより安定した溶接を実現できるアーク溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1記載の発明は、アーク溶接機に係り、交流電流を整流して直流とする第1の整流回路と、前記第1の整流回路の出力側に接続されて前記第1の整流回路の出力を高周波交流に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の出力側に接続されて前記インバータ回路の出力を電圧変換して2個の2次側コイルから出力するトランスと、前記2次側第1コイルに接続されて前記トランスの出力を整流して直流とする第2の整流回路と、前記第2の整流回路の出力側と溶接トーチとの間に接続されて前記整流回路の出力を平滑して溶接トーチに与える第1のリアクトルとから構成されるアーク溶接主回路と、
前記2次側第2コイルと溶接トーチとの間に接続されて前記整流回路の出力を前記第1のリアクトルのリアクタンスよりも大きいリアクタンスを有する第2のリアクトルを介して溶接トーチに与えるアーク溶接副回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、
を備えたアーク溶接機であって、さらに、電流遮断機構を前記アーク溶接主回路中に備え、前記電流遮断機構は、前記制御回路が出力する指令により前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断するものであることを特徴としている。
請求項2記載の発明は、請求項1記載のアーク溶接機において、前記アーク溶接副回路が、前記2次側第2コイルに接続される電流制御回路と、前記電流制御回路の出力側に接続されて前記電流制御回路の出力を整流する第3の整流回路と、前記第3の整流回路に接続された前記第2のリアクトルとを備えることを特徴としている。
請求項3記載の発明は、請求項2記載のアーク溶接機において、前記電流制御回路が、半導体素子によって構成され、かつ前記制御回路からの信号で前記半導体素子のゲートをON/OFFすることにより電流を制御するものであることを特徴としている。
請求項4記載の発明は、請求項2記載のアーク溶接機において、前記電流制御回路が、コンデンサ又はコイルによって構成され、前記コンデンサ又は前記コイルの交流電流を制限する機能により電流を制御するものであることを特徴としている。
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項記載のアーク溶接機において、前記電流遮断機構が、前記第1のリアクトルと前記溶接トーチとの間に配置されていることを特徴としている。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機において、前記制御回路が、アークオン時に前記電流遮断機構へ指令を出力して、前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断することを特徴としている。
請求項7記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機において、前記制御回路が、アーク状態におけるアーク電圧が目標とする値から所定値だけ下がった際に前記電流遮断機構へ指令を出力して、前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断することを特徴としている。
請求項8記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機において、前記制御回路が、パルス溶接を行う場合、パルス溶接のベース電流区間では前記電流遮断機構を動作させて前記アーク溶接副回路からベース電流を供給し、パルス溶接のピーク電流区間では前記電流遮断機構の動作を停止させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のような構成により、本発明のアーク溶接機では、短絡溶接とパルス溶接を1台の溶接機で実現するだけで無く、電流遮断機構によって電流を急激に下げることでより安定したアーク溶接を実現することができる。
また、アークスタート時の電流遮断によりワイヤ引き戻しのアークスタート方式を問題なく適用することもでき、結果としてスパッタを抑え溶接品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の具体的実施例を図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明のアーク溶接機の構成図である。
商用交流電源1の電流は第1の整流回路2で直流に変換される。第1の整流回路2の出力はインバータ回路3で20〜200[KHz]の高周波に変換される。インバータ回路3の出力は、絶縁トランス4で溶接に適した電圧に変換され、第2の整流回路5で直流に変換された後、直流リアクトル6を通り、アーク溶接部(図中の7、8)の溶接トーチ7にてアーク電流となる。そして、本発明によれば、整流回路5と溶接トーチ7との間(図1では、整流回路5と直流リアクトル6との間)に電流遮断機構100が設けられている。この電流遮断機構100は、制御回路17の指示で直流リアクトル6に流れる溶接電流を遮断する働きをしている。直流リアクトル6は、パルス溶接用として20[μH]以下のリアクトルを適用している。
以上がアーク溶接主回路である。
また、本発明の溶接機では第2の整流回路5と並列な電流回路(アーク溶接副回路)10を有している。アーク溶接副回路10では、絶縁トランス4から得られる溶接に適した電圧は電流制御回路11を通り、第3の整流回路12で直流に変換され、直流リアクトル13を通り、アーク溶接部に電流を供給している。
また、電流制御回路11は半導体素子によって構成され、制御回路17からの信号で半導体のゲートをON/OFFし流れる電流を制御している。直流リアクトル13には、100〜2000[μH]のリアクトルを適用している。
【0012】
大電流でのMAG短絡溶接またはCO2溶接における溶接不安定の原因は、アーク切れであり、本発明のアーク溶接機では、アーク溶接部に電流を供給してアーク切れを抑制すれば溶接が安定するということを活用している。
直流リアクトル13は100〜2000[μH]とリアクタンスが大きいが、絶縁トランス4から第2の整流回路5を介し直流リアクトル6に至る経路と並列に入っているため、パルス溶接における電流立ち上がりの邪魔をしない。直流リアクトル13が有効に働くのは、短絡溶接のアーク期間中にアーク切れが発生する場合である。
アーク切れとは、溶融プールの振動や溶融プール内のガス爆発等が原因で溶接棒と被溶接材の距離が突然離れて溶接電流が減少することにより、アークを維持することができなくなった状態である。
アーク切れを防止するためには、溶接電流の減少に反応して電流を供給する直流リアクトル13が有効である。メインの直流リアクトル6はリアクタンスが小さいため、アーク切れ防止にはほとんど寄与しないが、並列に入った直流リアクトル13は、100〜2000[μH]とリアクタンスが大きいために、アーク切れ防止の役割を十分に果たしている。
また、アークスタート時の急峻な電流の立ち上がり変化に対しても、直流リアクトル13はメインの直流リアクトル6と並列に入っているため、電流上昇を妨げることはない。
同様にパルス溶接機におけるベース電流からピーク電流への急峻な電流の立ち上がり変化に対しても、直流リアクトル13はメインの直流リアクトル6と並列に入っているため、電流上昇を妨げることはない。
また、メインの直流リアクトル6は、そのリアクタンスが20[μH]以下と小さいため、パルス溶接のベース電流からピーク電流への急峻な電流の立ち上がり変化を妨げることはない。
【0013】
絶縁トランス4から電流制御回路11を通り、第3の整流回路12、直流リアクトル13に適正な量の電流が流れるよう、制御回路17は電流制御回路11を制御している。
アーク溶接部に供給する適正な量の電流とは、5〜250[A]の値の電流であり、溶接方法、溶接電流によって異なる。
例えば、通常のパルスMAG溶接ではベース電流値に近い30〜60[A]である。
また、パルス溶接でもアルミに対するパルスMIG溶接ではベース電流値が小さくなるため、5〜10[A]である。
パルス溶接以外の溶接方法の場合、溶接条件によって異なるが、アーク期間で50〜250[A]となる。溶接が不安定な場合は、電流量を増す必要があるが、短絡時には電流をできるだけ流さないように制御する。
また、アーク切れは必ずアーク時に発生するため、短絡溶接においては、短絡時よりアーク時により多くの電流が流れるように制御している。すなわち、溶接時のアーク電流が大きいほど、より多くの電流、具体的にはアーク電流の10〜80[%]の電流を電流回路10に流すように制御している。
図1の構成図では、電流制御回路11は絶縁トランス4が出力する交流電流を制御しているが、整流回路12と直流リアクトル13の間に入れて直流電流を制御しても同様の効果を得ることができる。
【0014】
電流遮断機構100は、制御回路17の指示で直流リアクトル6に流れる溶接電流を遮断するように動作する。このため、アーク溶接部に流れる電流のほとんどは直流リアクトル13を流れる電流からのものになる。例えば電流制御回路11によって直流リアクトル13を流れる電流がアーク電流の20[%]となるよう制御していた場合には、電流遮断機構100が働いた時点でアーク電流は20[%]近くまで変化することになる。
従来例3では、電流遮断機構が働いた時に流れる電流は、抵抗274の抵抗値に依存するが、本発明では、電流制御回路11によって任意の電流に変化させることが可能である。また、電流遮断後に抵抗に電流が流れることがないので抵抗による発熱も存在しない。
【実施例2】
【0015】
図2は本発明の第2の実施例の構成図である。
図において、電流制御回路11は、コンデンサ21、22で構成されている。 図2の場合、絶縁トランス4で変換する電圧について、第2の整流回路5にかかる電圧よりも電流制御回路11にかかる電圧が高くなるように、絶縁トランス4の巻数を変えておく。また、コンデンサ21、22はインバータ回路3が100[%]オン時であっても充電完了とならない、十分に大きな容量のものが選択されている。
絶縁トランス4、電流制御回路11、第3の整流回路12にかかる電圧が、絶縁トランス4から第2の整流回路5にかかる電圧より高いため、電流は絶縁トランス4から電流制御回路11を通り第3の整流回路12に至る経路で流れようとするが、コンデンサ21、22で構成される電流制御回路11によって、絶縁トランス4から第3の整流回路12を通る電流を制限する。
すなわち、絶縁トランス4にかかる電圧(平均電圧)が高ければ、整流回路12に流れる電流が大きくなり、絶縁トランスにかかる電圧が低ければ、流れる電流が小さくなる。
短絡溶接では、短絡時には絶縁トランス4にかかる電圧が低くなり、アーク時には絶縁トランス4にかかる電圧が高くなる。アーク切れは必ずアーク時に発生するため、本発明ではアーク時に絶縁トランス4にかかる電圧が高くなり、より多くの電流を絶縁トランス4から電流制御回路11を介し整流回路12、直流リアクトル13に流すことにより、アーク切れを防止できる。
【0016】
また、電流制御回路11には、コンデンサ21、22の代わりにコイルを用いてもよい。コンデンサ21、22の代わりにコイル31、32を用いた場合を図3に示す。コイルは交流電流を制限する機能を持っているため、コンデンサと同じ役割を果たす。
電流遮断機構100は、制御回路17の指示でメインの直流リアクトル6に流れる溶接電流を遮断するように動作する。このため、アーク溶接部に流れる電流のほとんどは直流リアクトル13を流れる電流からのものになる。例えば電流制御回路11によって直流リアクトル13を流れる電流がアーク電流の20[%]となるよう制御していた場合には、電流遮断機構100が働いた時点でアーク電流は20[%]近くまで変化することになる。
従来例3では、電流遮断機構が働いた時に流れる電流は、抵抗274の抵抗値に依存するが、本発明では電流制御回路11内のコンデンサもしくはコイルに依存した電流に変化する。また、電流遮断後に抵抗に電流が流れることがないので抵抗による発熱も存在しない。
【実施例3】
【0017】
図4は本発明の第3の実施例の構成図である。
本発明の第3の実施例は、図に示すように、電流遮断機構100を直流リアクトル6よりアーク溶接部に近い側に設けている。このため、電流遮断機構100が働いた場合、アーク溶接部に流れる電流は直流リアクトル13を流れる電流だけになる。
例えば電流制御回路11によって直流リアクトル13を流れる電流がアーク電流の20[%]となるよう制御していた場合には、電流遮断機構100が働いた時点でアーク電流は20[%]まで急激に変化することになる。すなわち従来例3のように直流リアクトル(図4においては直流リアクトル6)の影響を受けることがない。また、大きなリアクタンスを有する直流リアクトル13があるため、電流遮断機構100がメインの直流リアクトル6よりアーク溶接部に近い側で電流を遮断しても、直流リアクトル13の効果によりアーク切れを起こす恐れがない。
【実施例4】
【0018】
実施例4は、第1〜第3の実施例における電流遮断機構100の動作のタイミングに関するものである。
実施例4によるアーク溶接処理の流れは以下のようにしている。
(1) 開始
(2) 電流遮断機構100が動作
(3) ワイヤに溶接電圧印加
(4) ワイヤ送給
(5) ワイヤが母材8に接触するまでワイヤ送給継続
(6) ワイヤが母材8に接触した時点でワイヤ送給停止
(7) ワイヤを引き戻す
(8) アークが発生する
(9) 数[A]〜60[A]の小さい電流を維持する
(10)電流遮断機構100を停止する
(11)通常のアーク溶接のシーケンスを実行する
(12)終了
【0019】
(6)でワイヤが接触した時に従来では大きな電流が流れた。しかし、本発明では電流遮断機構100によってメインの電流が既に遮断されているため、大きな電流は流れない。その結果、スパッタを抑え溶接品質を向上させることができる。
また、電流遮断機構100が動作している時は、電流がリアクタンスの大きい直流リアクトル13を流れるため、(9)における小さいアーク電流が維持され、ワイヤ引き戻しから通常の送りに変える間のワイヤ燃え上がり防止に有効である。
【実施例5】
【0020】
実施例5は、電流遮断機構100の動作タイミングを以下のようにすることも可能である。
(1) 開始
(2) アーク溶接を実施
(2−1) アーク溶接におけるアーク期間で電圧制御
(2−2) アーク期間中に母材8とワイヤ先端が短絡し、アーク電圧が急激に低下する。この低下したアーク電圧の値が、目標とするアーク電圧値から予め設定された値を差し引いた値以下となった場合に短絡したと判断する。
(2−3) 電流遮断機構100が動作
(2−4) 短絡状態で10〜100[A]の小さい電流を10[μs]〜2[m s]の間維持
(2−5) 短絡開放の電流を流す
(2−6) 短絡が開放し、アーク状態になる
(3) 以下、上記の(2−1)に続く。
【0021】
通常の溶接では、短絡した際に抵抗値が下がって電流値が大きくなるため、スムーズに短絡状態に移行できない。本発明の溶接機では、上記のように、アーク電圧値が目標とする値から予め設定された値を差し引いた値以下となった場合に電流遮断を行う。
これにより電流値が急激に下がるため、アーク状態から短絡状態にスムーズに移行できる。
【実施例6】
【0022】
パルス溶接を行う場合、ベース電流を小さくすることが有効な場合が多い。特に、アルミのパルス溶接を行う場合は、ベース電流を4〜20[A]の小さい値にすることで、パルス溶接を安定して行うことができる。
実施例6は、このようにベース電流を小さくするためのもので、以下のようなパルス溶接の流れでベース電流を下げるようにしている。
(1) アーク溶接開始
(2) 電流遮断機構100を停止
(2−1) パルス溶接のピーク電流を流す
(3) 電流遮断機構100を動作
(3−1) パルス溶接のベース電流を流す
(4) 以下、(2)〜(3−1)を繰り返す
【0023】
パルス溶接を行う際には、電流遮断機構100を停止させ、アーク溶接副回路からベース電流を供給し、パルス溶接のピーク電流を供給するときには電流遮断機構100を動作させる。直流リアクトル6はリアクタンスが小さいため、パルス電流の立ち上がり、立ち下がりを急峻なものとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は安定したアークスタートとアーク溶接をもたらし、アーク溶接機に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施例の構成図である。
【図2】本発明の第2の実施例の構成図である。
【図3】電流制御回路にコイルを使用した図である。
【図4】本発明の第3の実施例の構成図である。
【図5】定電圧方式のアーク溶接電源の従来例1を示す図である。
【図6】定電圧方式のアーク溶接電源の従来例2を示す図である。
【図7】定電圧方式のアーク溶接電源の従来例2の変形例を示す図である。
【図8】定電圧方式のアーク溶接電源の従来例3を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 商用交流電源
2 第1の整流回路
3 インバータ回路
4 絶縁トランス
5 第2の整流回路
6 直流リアクトル
7 溶接トーチ
8 母材
10 電流回路
11 電流制御回路
12 整流回路
13 直流リアクトル
16 整流器
17 制御回路
21、22 コンデンサ
31、32 コイル
40、41 直流リアクタンス
42 ワイヤ
43 ワイヤ送給ロ−ラ
44 通電チップ
45 ア−ク負荷
51 コンデンサ
52 全波整流用ダイオ−ド
56 二次巻線
100 電流遮断機構
206 電流遮断機構
210 溶接部
274 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流を整流して直流とする第1の整流回路と、前記第1の整流回路の出力側に接続されて前記第1の整流回路の出力を高周波交流に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の出力側に接続されて前記インバータ回路の出力を電圧変換して2個の2次側コイルから出力するトランスと、前記2次側第1コイルに接続されて前記トランスの出力を整流して直流とする第2の整流回路と、前記第2の整流回路の出力側と溶接トーチとの間に接続されて前記整流回路の出力を平滑して溶接トーチに与える第1のリアクトルとから構成されるアーク溶接主回路と、
前記2次側第2コイルと溶接トーチとの間に接続されて前記整流回路の出力を前記第1のリアクトルのリアクタンスよりも大きいリアクタンスを有する第2のリアクトルを介して溶接トーチに与えるアーク溶接副回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、
を備えたアーク溶接機であって、
さらに、電流遮断機構を前記アーク溶接主回路中に備え、前記電流遮断機構は、前記制御回路が出力する指令により前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断するものであることを特徴とするアーク溶接機。
【請求項2】
前記アーク溶接副回路は、前記2次側第2コイルに接続される電流制御回路と、前記電流制御回路の出力側に接続されて前記電流制御回路の出力を整流する第3の整流回路と、前記第3の整流回路に接続された前記第2のリアクトルとを備えることを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機。
【請求項3】
前記電流制御回路は、半導体素子によって構成され、かつ前記制御回路からの信号で前記半導体素子のゲートをON/OFFすることにより電流を制御するものであることを特徴とする請求項2記載のアーク溶接機。
【請求項4】
前記電流制御回路は、コンデンサ又はコイルによって構成され、前記コンデンサ又は前記コイルの交流電流を制限する機能により電流を制御するものであることを特徴とする請求項2記載のアーク溶接機。
【請求項5】
前記電流遮断機構は、前記第1のリアクトルと前記溶接トーチとの間に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のアーク溶接機。
【請求項6】
前記制御回路は、アークオン時に前記電流遮断機構へ指令を出力して、前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機。
【請求項7】
前記制御回路は、アーク状態におけるアーク電圧が目標とする値から所定値だけ下がった際に前記電流遮断機構へ指令を出力して、前記第1のリアクトルが出力する電流を遮断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機。
【請求項8】
前記制御回路は、パルス溶接を行う場合、パルス溶接のベース電流区間では前記電流遮断機構を動作させて前記アーク溶接副回路からベース電流を供給し、パルス溶接のピーク電流区間では前記電流遮断機構の動作を停止させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のアーク溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−320928(P2006−320928A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145472(P2005−145472)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】