説明

イオンビーム加工装置

【課題】 試料の薄膜加工終了を正しく判定して実行することができるイオンビーム加工装置を提供すること。
【解決手段】 イオンビーム加工開始時刻tから所定期間Tにおいては、第1光源7の輝度と第2光源8の輝度は、オペレータが像を観察しやすい明るさに任意に可変設定される。そして、イオンビーム加工開始時刻tから所定期間Tが経過して時刻tとなると、輝度設定手段16は第1光源7の輝度を所定期間Tにわたって所定値aに固定設定すると共に、第2光源8の輝度を所定期間Tにわたって所定値bに固定設定する。加工終了判定手段18は、輝度a,bの光で照らされた試料5の像を加工終了判定用画像として撮像手段9から取り込んで加工終了判定を行う。前記輝度aおよびbは、加工終了判定が正確に行えるように設定されたものであり、予め実験により求められたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡(TEM)などで観察する試料を作製するイオンビーム加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TEMで観察する薄膜試料を作製するイオンビーム加工装置として、たとえば特開2006−300759号公報(特許文献1)に記載されている装置が知られている。この特許文献1に記載されたイオンビーム加工装置においては、試料の薄膜加工終了は次のようにして自動で行われる。
【0003】
試料は暗室(真空チャンバ)の中で薄膜に加工されるが、その薄膜の表面に光源(加工終了判定用光源)からの光が照射される。イオンビーム加工が進むと薄膜中央付近に孔が開き、その孔を通った前記光は、薄膜を挟んで前記光源と反対側に配置された撮像手段によって撮像される。この撮像された像の信号は加工終了判定手段に送られており、加工終了判定手段は、各画素の輝度を閾値Kと比較し、閾値Kより高輝度な画素を、前記孔を通った光によるものとして抽出する。加工終了判定手段は、このような画素抽出によって前記薄膜に孔が開いたことを検出すると、試料へのイオンビーム照射を停止させる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−300759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、現在開発中のイオンビーム加工装置では、薄膜表面の加工状況をオペレータが観察できるように、前記撮像手段側から薄膜表面に光を照射する光源(加工状況観察用光源)と、撮像手段で撮像された像を表示する表示手段を更に備えている。そして、オペレータは、薄膜表面が良好に観察できるように、表示手段画面上に表示される像を見ながら、追加された加工状況観察用光源の輝度(明るさ)を任意に可変設定している。
【0006】
このように加工状況観察用光源の輝度を調整すれば、薄膜表面の加工状況を良好に観察することができる。しかし、このような輝度設定下で撮られた像が、上述した加工終了判定用の像として適しているとは限らない。加工試料にもよるが、通常、薄膜表面の加工状況を良好に観察するには加工状況観察用光源の明るさは明るい方が良いが、明る過ぎると、上述した加工終了判定が正しく行われなくなる。すなわち、加工状況観察用光源の明るさが明る過ぎると、加工終了判定手段は、薄膜に孔が開いていないのに開いたと判断してしまうことがある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて成されたもので、その目的は、試料の薄膜加工終了を正しく判定して実行できるイオンビーム加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のイオンビーム加工装置は、試料にイオンビームを照射し、試料を薄膜に加工するイオンビーム加工装置であって、前記薄膜の一方の表面に光を照射する第1光源と、前記薄膜の他方の表面に光を照射する第2光源と、前記第1光源からの光が照射される前記薄膜表面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で撮像された像を表示する表示手段と、前記撮像手段で撮像された像を所定時間間隔で取り込み、その取り込んだ像に基づいて薄膜加工終了を判定する加工終了判定手段と、前記加工終了判定手段の像取り込み期間をT,その期間Tに入る前の期間をTとするとき、前記期間Tにおける前記第1光源の輝度aと、前記期間Tにおける前記第2光源の輝度bを記憶する輝度メモリと、前記期間Tにおける前記第1光源の輝度を任意に指定可能な第1光源輝度指定手段と、前記期間Tにおける前記第2光源の輝度を任意に指定可能な第2光源輝度指定手段と、次の(i)と(ii)の輝度設定を行う輝度設定手段を備えている。
(i)前記期間Tにおいて、前記第1光源の輝度を前記輝度メモリに記憶された輝度aに固定設定すると共に、前記第2光源の輝度を前記輝度メモリに記憶された輝度bに固定設定する。
(ii)前記期間Tにおいて、前記第1光源の輝度を前記第1光源輝度指定手段により指定された輝度に設定すると共に、前記第2光源の輝度を前記第2光源輝度指定手段により指定された輝度に設定する。
【発明の効果】
【0009】
したがって本発明によれば、試料の薄膜加工終了を正しく判定して実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
図1は本発明のイオンビーム加工装置の一例を示した図であり、まず装置構成を説明する。
【0012】
1は真空チャンバ容器であり、真空チャンバ容器1の内部の試料室2は図示しない排気装置によって排気されている。3はイオン源であり、イオン源3は真空チャンバ容器1に取り付けられていて、イオン源電源4に接続されている。
【0013】
試料室2には試料5が配置されており、試料5は図示しない試料ホルダに保持されている。試料5は、薄い板状(断面形状が長方形状)に予め加工されている。そして、薄い板状(断面形状が長方形状)の遮蔽板6が、試料5に接近して試料5上に配置されている。この遮蔽板6の厚さは試料5の厚さより薄くなっている。
【0014】
また、試料室2には、第1光源(加工状況観察用光源)7と第2光源(加工終了判定用光源)8と撮像手段9がそれぞれ配置されている。第1光源7は、イオンビーム加工によって出来た薄膜10の一方の表面11に光を照射できる位置に配置されており、第2光源8は、その薄膜10の他方の表面(表面11の裏側の面)12に光を照射できる位置に配置されている。そして、撮像手段9は、第1光源7からの光が照射される薄膜表面11を撮像できる位置に配置されている。
【0015】
13は第1光源輝度指定手段であり、第1光源輝度指定手段13は、第1光源7の輝度を任意に指定できるように構成されている。また、14は第2光源輝度指定手段であり、第2光源輝度指定手段14は、第2光源8の輝度を任意に指定できるように構成されている。これらの輝度指定手段13,14は制御装置15に接続されており、それらの輝度指定手段13,14は、たとえばキーボードなどで構成されている。
【0016】
前記制御装置15は、輝度設定手段16と輝度メモリ17と加工終了判定手段18を備えている。輝度設定手段16は、前記第1光源輝度指定手段13によって指定された輝度と、輝度メモリ17に予め記憶された輝度値aに基づいて第1光源7の輝度を設定するように構成されている。さらに輝度設定手段16は、前記第2光源輝度指定手段14によって指定された輝度と、輝度メモリ17に予め記憶された輝度値bに基づいて第2光源8の輝度を設定するように構成されている。
【0017】
また、前記加工終了判定手段18は、前記撮像手段9の出力信号(画像信号)を取り込んで、その取り込んだ像に基づいて薄膜加工終了を判定するように構成されている。そして、加工終了判定手段18は、薄膜加工終了と判断すると、前記イオン源電源4に加工終了信号を供給するように構成されている。
【0018】
19は表示手段(CRT)であり、撮像手段9の出力信号は表示手段19に供給されるように構成されている。オペレータは表示手段画面上に表示される像を観察することにより、薄膜表面11の加工状況を観察することができる。
【0019】
以上、図1の装置構成について説明した。以下、この装置の動作説明を行う。
【0020】
まず、制御装置15からの加工開始信号を受けたイオン源電源4がオンされて、イオン源3からイオンビームが放出される。このイオンビーム加工の開始時刻をtとする。イオン源3からのイオンビームのうち、遮蔽板6で遮られなかったイオンビームは試料5を照射し、そのイオンビーム照射によって試料5はエッチングされる。なお、イオン源3は、イオンビーム加工中、図示していない傾斜機構によって左右に繰り返し傾斜するように構成されており、試料5の左右の側面(面11と12)が交互に繰り返しエッチングされる。また、イオンビーム加工開始と同時に第1光源7と第2光源8がオンされ、試料5の左右の側面(面11と12)に光が照射される。
【0021】
さて、図2(a)は第1光源7の輝度変化を示したものであり、一方、図2(b)は第2光源8の輝度変化を示したものである。イオンビーム加工開始時刻tから所定期間Tにおいては(時刻tまでは)、図2(a)(b)に示すように、第1光源7の輝度と第2光源8の輝度は任意に変更可能である。すなわち、オペレータは、加工中の試料表面11が良好に観察できるように、表示手段19画面上に表示される像を見ながら、輝度指定手段13,14をそれぞれ操作して第1光源7の輝度と第2光源8の輝度を任意に指定する。すると、輝度設定手段16は、輝度指定手段13によって指定された輝度に第1光源7の輝度を設定すると共に、輝度指定手段14によって指定された輝度に第2光源8の輝度を設定する。こうして、イオンビーム加工開始時刻tから所定期間Tにおいては、第1光源7の輝度と第2光源8の輝度は、オペレータが像を観察しやすい明るさに任意に可変設定される。
【0022】
そして、イオンビーム加工開始時刻tから所定期間Tが経過して時刻tとなると、図2(a)(b)に示すように、輝度設定手段16は第1光源7の輝度を所定期間Tにわたって所定値aに固定設定すると共に、第2光源8の輝度を所定期間Tにわたって所定値bに固定設定する。この際、輝度設定手段16は、輝度メモリ17に予め記憶された輝度値a,bを読み出して、輝度設定を行う。この期間Tは加工終了判定手段18の像取り込み期間であり、加工終了判定手段18は、輝度a,bの光で照らされた試料5の像を加工終了判定用画像として撮像手段9から取り込む。そして、加工終了判定手段18は、その取り込んだ像の各画素の輝度を閾値Kと比較し、閾値Kより高輝度な画素の有無を検出する。
【0023】
さて、前記輝度a,bおよび閾値Kは、加工終了判定手段18における加工終了判定が正確に行えるように設定されたものであり、それらの値a,b,Kは予め実験により加工試料毎に求められたものである。たとえば、加工状況観察用光源である第1光源7の輝度aは、加工終了判定手段18における前記閾値Kより小さな値に設定され、一方、加工終了判定用光源である第2光源8の輝度bは、前記閾値Kより大きな値に設定される。このような輝度a,bおよび閾値Kの設定により、加工終了判定手段18は、イオンビーム加工によって薄膜10の中央付近に孔20が開いたことを、閾値Kより高輝度な画素を抽出することによって正確に検出できる。そして、加工終了判定手段18は、このような画素を抽出するとイオン源電源4へ加工終了信号を供給し、この加工終了信号を受けたイオン源電源4は電源をオフするので、薄膜10に孔20が開いた時点で加工を自動的に終了させることができる。
【0024】
なお、実際の装置では、加工開始時刻t〜時刻tの間に薄膜10に孔20が開くことはなく、上述した加工状況観察期間Tと加工終了判定期間Tが交互に繰り返される。すなわち、この例では、図2に示すように、加工終了判定手段18による加工終了判定用画像の取り込みは所定の時間間隔で行われ、時間T経過する毎に画像取り込みが時間T行われる。そして、この例では、時刻t〜時刻tの画像取り込みによって、薄膜10に孔20が開いたことが検出されたものとする。
【0025】
また、前記取り込み時間Tは、試料の加工状況観察期間Tの1/10〜1/20と短いので、オペレータの表示手段画面上での試料観察に支障を来たすものではない。ただ、輝度a,bへの設定期間Tも良好な加工状況観察像を表示手段画面上に表示したいのであれば、その期間Tに入る直前に撮られた像(期間Tの最後の像)を画像メモリに記憶して、その記憶した像を期間Tにわたって読み出して表示手段画面上に表示するようにしてもよい。
【0026】
以上、本発明のイオンビーム加工装置の一例を図1,2を用いて説明した。このような本発明では、加工状況観察期間Tとは独立して加工終了判定期間Tを設け、その期間Tにおける光源の輝度を、期間Tにおける光源の輝度と独立して最適値に固定設定できるようにしたので、試料の薄膜加工終了を正確に判定して実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のイオンビーム加工装置の一例を示したものである。
【図2】図1の装置の動作を説明するために示したものである。
【符号の説明】
【0028】
1…真空チャンバ容器、2…試料室、3…イオン源、4…イオン源電源、5…試料、6…遮蔽板、7…第1光源、8…第2光源、9…撮像手段、10…薄膜、11…薄膜の一方の表面、12…薄膜の他方の表面、13…第1光源輝度指定手段、14…第2光源輝度指定手段、15…制御装置、16…輝度設定手段、17…輝度メモリ、18…加工終了判定手段、19…表示手段、20…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にイオンビームを照射し、試料を薄膜に加工するイオンビーム加工装置であって、
前記薄膜の一方の表面に光を照射する第1光源と、
前記薄膜の他方の表面に光を照射する第2光源と、
前記第1光源からの光が照射される前記薄膜表面を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像された像を表示する表示手段と、
前記撮像手段で撮像された像を所定時間間隔で取り込み、その取り込んだ像に基づいて薄膜加工終了を判定する加工終了判定手段と、
前記加工終了判定手段の像取り込み期間をT,その期間Tに入る前の期間をTとするとき、前記期間Tにおける前記第1光源の輝度aと、前記期間Tにおける前記第2光源の輝度bを記憶する輝度メモリと、
前記期間Tにおける前記第1光源の輝度を任意に指定可能な第1光源輝度指定手段と、
前記期間Tにおける前記第2光源の輝度を任意に指定可能な第2光源輝度指定手段と、
次の(i)と(ii)の輝度設定を行う輝度設定手段
(i)前記期間Tにおいて、前記第1光源の輝度を前記輝度メモリに記憶された輝度aに固定設定すると共に、前記第2光源の輝度を前記輝度メモリに記憶された輝度bに固定設定する
(ii)前記期間Tにおいて、前記第1光源の輝度を前記第1光源輝度指定手段により指定された輝度に設定すると共に、前記第2光源の輝度を前記第2光源輝度指定手段により指定された輝度に設定する
を備えたことを特徴とするイオンビーム加工装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−54409(P2010−54409A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220958(P2008−220958)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】