説明

イオン交換ポリマー

【課題】電池(特に固体高分子形燃料電池)に用いられる隔膜材料として実用的なイオン伝導度を有し、当該電池の使用で生じる発熱に対しても十分な耐熱性を有するイオン交換ポリマーを提供する
【解決手段】窒素原子を含み1価のカチオンである複素環基を複数有する、イオン交換ポリマーの提供。かかるイオン交換ポリマーは、従来主として使用されてきた陰イオン交換ポリマーに比して、極めて良好な耐熱性を有しているので、特に固体高分子形燃料電池用隔膜として好適に使用可能することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なイオン交換ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換ポリマーは、当該ポリマーが有しているイオン交換基の種類により、陽イオン交換ポリマー、陰イオン交換ポリマーに大別され、水処理(例えば脱塩処理等)、気体(ガス)分離、食品・医薬品の分離精製、廃水処理、湿式精錬、電池の隔膜材料等に広く利用されている。中でも電池の隔膜(電池用隔膜)、特に固体高分子形燃料電池(以下、場合により「燃料電池」と略記することがある)用の隔膜としては、陽イオン交換ポリマーが、これまで主として検討されている。
【0003】
近年、燃料電池用の隔膜として、陰イオン交換ポリマーを用いた検討も散見されている。このような陰イオン交換ポリマーとしては、従来、水処理用や廃水処理用として使用されているものが検討されていおり、具体的にはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等のオレフィン系高分子に4級アンモニウム基を導入した陰イオン交換ポリマーやポリスルホン系高分子に4級アルキルアンモニウム基を導入した陰イオン交換ポリマーが提案されている(非特許文献1,非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.,46,8024−8027(2007)
【非特許文献2】Fuel Cell,5(2),187−200(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで検討されている4級アンモニウム基を有する陰イオン交換ポリマーを電池用隔膜として使用した場合、電池の使用によって生じる発熱により、隔膜を構成している陰イオン交換ポリマーが劣化し易いという問題が指摘されていた。
本発明は、かかる問題を解消することを目的とするものであり、電池用、特に固体高分子形燃料電池用の隔膜(高分子電解質膜)として、実用的なイオン伝導度を有しつつ、電池の使用で生じる発熱に対しても十分な耐久性、すなわち十分な耐熱性を発現する陰イオン交換ポリマーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、<1>〜<9>を提供する。
<1>窒素原子を含み1価のカチオンである複素環基を複数有する、イオン交換ポリマー。
【0007】
また、本発明は上記<1>に係る好適な実施形態として、以下の<2>を提供する。
<2>複素環基の少なくとも一部が、以下の式(A−1)〜式(A−11)からなる群より選ばれる、<1>のイオン交換ポリマー。





(ただし、式中、R11は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数7〜12のアラルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又は水素原子を表わし、同一の基に複数あるR11は互いに同一でも異なっていてもよい。式中の「+」の表記は、環内で正の電荷が非局在化していることを指す。)
【0008】
また本発明は、上記いずれかのイオン交換ポリマーの用途として以下の<3>〜<7>を提供する。
<3><1>又は<2>のイオン交換ポリマーを含む高分子電解質。
<4><3>の高分子電解質からなる高分子電解質膜。
<5><3>の高分子電解質と、触媒成分とを含む燃料電池用触媒層。
<6><4>の高分子電解質膜及び/又は<5>の燃料電池用触媒層を備える、膜−電極接合体。
<7><6>の膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池。
【0009】
さらに本発明は、イオン交換ポリマーの製造方法として、
<8>主鎖に芳香環を有する芳香族系高分子をハロアルキル化してハロアルキル化芳香族ポリマーを得るハロアルキル化工程と、
該ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを反応させることにより、該ハロアルキル化芳香族ポリマーにあるハロアルキル基のハロゲン原子を複素環基に置換してイオン交換ポリマーを得る置換工程とを、
この順で有するイオン交換ポリマーの製造方法。
<9>前記置換工程が、前記ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを含む溶液を準備し、この溶液を支持基材上に塗布した後、加熱処理することにより、該ハロアルキル化芳香族ポリマーにあるハロアルキル基のハロゲン原子を複素環基に置換して、イオン交換ポリマーを膜状で得る工程である、<8>のイオン交換ポリマーの製造方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイオン交換ポリマーは、特に固体高分子形燃料電池用隔膜として有用であり、実用的なイオン伝導性を有しつつ、高い耐熱性を有する隔膜を得ることができる。したがって、本発明のイオン交換ポリマーは、電池、特に燃料電池の使用によって生じる発熱等による劣化を十分抑制することが可能であり、工業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のイオン交換ポリマーは、窒素原子を含み1価のカチオンである複素環基を複数有することを特徴とする。ここでいう複素環基とは、ヘテロ原子を含む環状化合物、すなわち複素環式化合物から水素原子を1個取り去って得られる基、および/または複素環式化合物中のヘテロ原子が正の電荷を有し(カチオンになり)、ポリマーの主鎖に直接または他の原子や原子団を介して、結合を構築できる状態にある基を意味する。
【0012】
好適な複素環式化合物としては、例えば、ピロール、3−ピロリン、ピロリジン、ピラゾール、2−ピラゾリン、ピラゾリジン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,3,4−チアジアゾール、ピリジン、ピペリジン、モルフォリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、1,3,5−トリアジン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアジン、プリン、キノリン、イソキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、ペルヒドロキノリン、ペルヒドロイソキノリン、イソキサゾリジン、イミダゾリン、チアゾリン、シンノリン、キノキサリン、カルバゾール、アクリジン、フェノチアジン、アジリジン、アゼチジン、イソオキサゾール、イソチアゾール、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5、又はこれらの化合物にある窒素原子が、水素原子若しくは一価の有機基と結合してイオン化している化合物である。なお、これら複素環式化合物は、水素原子を取り去って複素環基にすることが可能で、かつ該複素環基が陰イオン交換性を著しく損なわない範囲で、任意に置換基を有していてもよい。
【0013】
本発明のイオン交換ポリマーは、芳香族性を有している複素環基を含むことが好ましい。芳香族性を有する複素環基は、イオン化して正の電荷を有したとき、この正の電荷が芳香族性により非局在化することで、正の電荷が安定化し易くなるため、芳香族性を有する複素環基を含むイオン交換ポリマーは、よりイオン交換性に優れたものとなる。
【0014】
窒素原子を有し、かつ芳香族性を有する複素環基は、窒素原子を有する芳香族複素環式化合物(含窒素芳香族複素環式化合物)から水素原子を1個取り去って得られる基である。含窒素芳香族複素環式化合物は、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,3,4−チアジアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン、シンノリン、キノキサリン、カルバゾール、アクリジン、フェノチアジン、イソオキサゾール、イソチアゾール、又はこれらの化合物にある窒素原子が、水素原子若しくは一価の有機基と結合してイオン化している化合物である。これら含窒素芳香族複素環式化合物においても、水素原子を取り去って複素環基にでき、かつ該複素環基が陰イオン交換性を著しく損なわない範囲で、任意に置換基を有していてもよく、該置換基が芳香族複素環式化合物の環を構成している窒素原子に結合して、該窒素原子が正に帯電しているような芳香族複素環式化合物でもよい。また、これら含窒素芳香族複素環式化合物において、その共鳴構造のいずれかから水素原子を取り去って得られる複素環基でもよい。以下、含窒素芳香族複素環式化合物から得られる複素環基を「含窒素複素環基」と称することとする。
【0015】
本発明のイオン交換ポリマーは、前記含窒素複素環基がポリマー主鎖に直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団を介して結合している形態でもよく、それらの組合せであってもよい。また、特に好適な複素環基である含窒素複素環基である場合、含窒素芳香族複素環式化合物の環を構成している三級窒素原子と、ポリマー主鎖とを直接、あるいは適当な原子又は原子団を介して結合させ、前記三級窒素原子が四級化することにより、正の電荷を有する(カチオンになっている)窒素原子となった結合形態でもよい。好ましくは、適当な原子又は原子団を介して結合している形態である。
【0016】
含窒素複素環基は、以下の式(A−1)〜式(A−11)で表される。
【0017】





(式中、R11は前記と同義であり、式中の「+」の表記も前記と同義である。)
【0018】
11は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基又はアラルキル基である。
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
また、R11がハロゲン原子である場合、このハロゲン原子としては例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0019】
含窒素複素環基は、より好ましくは式(A−1)〜式(A−5)および式(A−7)〜式(A−10)で表される含窒素複素環基であり、さらに好ましくは式(A−1)〜式(A−5)で表される含窒素複素環基であり、より一層好ましくは式(A−1)〜式(A−3)で表される含窒素複素環基であり、特に好ましくは式(A−1)で表される含窒素複素環基である。
【0020】
また、本発明のイオン交換ポリマーにおいて、含窒素複素環基は適当な対イオン(対アニオン)とイオン結合して電気的に中性になっている。このような対アニオンとしては例えば、OH-、Cl-、Br-、I-等の1価のアニオンが典型的である。なお、本発明のイオン交換ポリマーを電池用隔膜の高分子電解質として使用する場合には、該イオン交換ポリマーにある含窒素複素環基に結合している対アニオンは、実質的に全てがOH-であることが好ましい。
【0021】
本発明のイオン交換ポリマーは、主鎖に芳香環を有する芳香族ポリマーであることを特徴とするものであり、主として芳香環が直接結合で結合しているか、適当な原子又は原子団を介して結合しているか、その組合せであるものである。そして、芳香環同士が原子団を介して結合している場合、その原子団は脂肪族鎖でないことが好ましい。その原子団としては、−O−で表される基、−S−で表される基、−CO−で表される基、−SO2−で表される基等が好ましい。
ここで、芳香環としては、例えば、ベンゼン環等の単環式芳香環、ナフタレン環、アントラセン環等の多環式芳香環、ピリジン環などの芳香族複素環、ベンズイミダゾール環等の多環芳香族複素環等が挙げられる。
【0022】
このような芳香族ポリマーとしては、例えば、ポリフェニレン系高分子、ポリナフチレン系高分子、ポリフェニレンエーテル系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリエーテルエーテルケトン系高分子、ポリエーテルエーテルスルホン系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリベンズイミダゾール系高分子等が挙げられる。この中でも、ポリフェニレンエーテル系高分子、ポリナフチレン系高分子、ポリフェニレン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルエーテルスルホン系高分子がより好ましく、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルエーテルスルホン系高分子が特に好ましい。
【0023】
本発明のイオン交換ポリマーの主鎖を構成している芳香環には、側鎖として陰イオン交換性の複素環基を有するものであるが、該複素環基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては例えば、水酸基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ベンジル基などの炭素数7〜12のアラルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ハロゲン原子等の置換基が挙げられる。置換基は複数有していてもよく、その場合、複数の置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0024】
次に、イオン交換ポリマーの製造方法を説明する。
イオン交換ポリマーは、予め複素環基を導入可能な反応基を有する前駆体(前駆ポリマー)を製造しておき、この前駆ポリマーの反応基によって複素環基を導入する方法により製造することが、操作が簡便である点で好ましい。そして、該反応基としては、反応性が高く、適当な複素環式化合物、好ましくは含窒素芳香族複素環式化合物との反応により複素環基を導入し易いものが好適である。このような観点から、該反応基としては、ハロアルキル基(ハロゲン化アルキル基)が好ましく、ハロアルキル基を有する前駆ポリマー(ハロアルキル化芳香族ポリマー)を用いてイオン交換ポリマーを製造することが好ましい。
【0025】
このハロアルキル基は、炭素数1〜8であると好ましく、炭素数1〜4であるとより好ましい。さらに耐熱性の良好なイオン交換ポリマーを得る観点からは、炭素数1のハロアルキル基を有するハロアルキル化芳香族ポリマーを使用してイオン交換ポリマーを製造することが好ましい。具体的に好適なハロアルキル基を例示すると、ハロゲン化メチル基、2−ハロゲン化エチル基、3−ハロゲン化プロピル基、4−ハロゲン化ブチル基、5−ハロゲン化ペンチル基、6−ハロゲン化ヘキシル基等が挙げられる。これらのハロアルキル基は、複素環基を導入する反応性を著しく妨げない限りにおいて、アルキル基にあるメチレン基の一部が、−O−で表される基、−S−で表される基等の2価の基に置換わったものでもよい。また、ハロアルキル基は、複素環式化合物との反応性を著しく妨げない範囲であれば、任意の置換基を有していてもよい。
【0026】
このようなハロアルキル化芳香族ポリマーを製造するには、上記に例示したような芳香族ポリマーの芳香環にある水素原子をハロゲン化アルキル基に置換すること(置換反応)により、芳香族ポリマーにハロアルキル基を導入することができる。芳香族ポリマーに対するハロアルキル基の置換反応がより容易である点からみれば、ハロアルキル基としてはクロロメチル基が特に好ましい。芳香族ポリマーの芳香環にある水素原子をクロロメチル基に置換する方法としては、例えば、芳香族ポリマーと、(クロロメチル)メチルエーテル、1,4−ビス(クロロメトキシ)ブタン、1−クロロメトキシ−4−クロロブタン等の親電子反応性のクロロメチル化剤とを反応させる方法を挙げることができる。または、ホルマリンと塩化水素とを併用する方法、パラホルムアルデヒドと塩化水素とを併用する方法又は、ジメトキシメタンと塩化チオニルとを併用する方法のように、反応系中で親電子反応性のクロロメチル化剤を発生させるといった方法でもよい。クロロメチル基を芳香族ポリマーに導入する際の反応触媒としては、塩化スズ、塩化亜鉛等を用いることができる。
【0027】
ハロアルキル化芳香族ポリマーの製造において、ハロアルキル基の導入量を所望の範囲にするために、反応停止剤を使用することもできる。例えば、好適なハロアルキル基であるクロロメチル基の場合には、芳香族ポリマーとクロロメチル化剤との反応途中で、反応停止剤としてメトキシ基を含有する化合物を添加するといった方法が挙げられる。
反応停止剤として使用可能なメトキシ基を含有する化合物としては、1−メトキシエタノール、2−メトキシエタノール等のメトキシアルコール、アニソール、p−メトキシフェノール等のメトキシ基を含有する芳香族化合物、1,2−ジメトキシエタン等のメトキシ基を2個含有する化合物が挙げられる。
【0028】
このようにして得られたハロアルキル化芳香族ポリマー、好ましくはクロロメチル基を有するハロアルキル化芳香族ポリマーを、複素環式化合物と反応させることによりイオン交換ポリマーを得ることができる。好適な複素環基である上記式(A−1)〜式(A−11)で表される含窒素複素環基を複数有するイオン交換ポリマーを製造するには、複素環式化合物として、下記式(B−1)〜式(B−11)で表される含窒素芳香族複素環式化合物を使用すればよい。式(B−1)〜式(B−11)で表される含窒素芳香族複素環式化合物の環を構成している三級窒素原子は、上記ハロアルキル化芳香族ポリマーのハロアルキル基にあるハロゲン原子と置換反応して、四級イオン化した複素環基とすることができる。







(式中、R12は、前記のR11と同じ意味を表す。同一の環に結合している複数のR12は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0029】
次に、ハロアルキル化芳香族ポリマーと、式(B−1)〜式(B−11)に例示したような含窒素芳香族複素環式化合物とを反応させる方法、特にイオン交換ポリマーの製造とともに、得られるイオン交換ポリマーを膜化する方法に関して説明する。
このような方法としては、以下の(1)又は(2)を挙げることができる。
(1)ハロアルキル化芳香族ポリマーを溶媒に溶解し、得られたハロアルキル化芳香族ポリマー溶液に複素環式化合物を添加した後、この溶液を基板上に流延塗布し、基板上に流延塗布された溶液を、加熱処理することにより溶媒を留去しながら、ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを反応させ、膜状イオン交換ポリマーを得る方法。
(2)ハロアルキル化芳香族ポリマーを溶媒に溶解させ、得られたハロアルキル化芳香族ポリマー溶液を基板上に流延し、その後溶媒を留去して得られたハロアルキル化芳香族ポリマー溶液を膜状に成形して得られたハロアルキル化芳香族ポリマー膜を得た後、このハロアルキル化芳香族ポリマー膜に複素環式化合物を接触させることでハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを反応させ、膜状イオン交換ポリマーを得る方法。
【0030】
また、一旦ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを反応させてイオン交換ポリマーを得た後、得られたイオン交換ポリマーを適当な溶媒を用いてイオン交換ポリマー溶液とし、溶液キャスト法によりイオン交換ポリマーを含む膜を得ることもできる。
【0031】
このようなハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物との反応に関し、その反応条件を詳述する。
反応温度は通常、−50〜200℃の範囲であり、好ましくは0℃〜150℃、特に好ましくは20℃〜100℃の範囲が採用される。
反応に用いる溶媒は、ハロアルキル化芳香族ポリマーを溶解可能であるならば特に制限はなく、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP又はこれらから選ばれる2種以上の混合溶媒が好ましい。また、これらの好適な溶媒は、生成するイオン交換ポリマー自体の溶解性も比較的良好であるので、上記(1)のようにイオン交換ポリマーを得るのと同時に、該イオン交換ポリマーを含む膜を製造する方法においても、好適に使用することができる。
【0032】
本発明のイオン交換ポリマーは、ハロアルキル化芳香族ポリマーにあるハロアルキル基の導入量や、ハロアルキル化芳香族ポリマーのハロアルキル基に対する複素環式化合物の反応量を制御することにより所望のイオン交換容量を有するものを製造可能である。該イオン交換容量としては好ましくは0.5〜5meq/gの範囲であり、より好ましくは0.8〜3meq/gの範囲である。
【0033】
このようにして得られたイオン交換ポリマーは使用用途に応じて、イオン交換反応により、複素環基に結合する対アニオンを適当なものにイオン交換することができる。電池用隔膜、特に燃料電池用隔膜として、本発明のイオン交換ポリマーを使用する場合には、記述のように対イオンがOH-であることが好ましい。本発明のイオン交換ポリマーが、ハロゲンイオンを対アニオンとして有している場合には、該イオン交換ポリマーを水酸化ナトリウム水溶液中や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液中に浸漬してイオン交換反応を生じさせることにより、容易に対アニオンをOH-とすることができる。
かくして得られるイオン交換ポリマーは、溶液キャスト法を用いることにより容易に膜にすることができる。
【0034】
本発明のイオン交換ポリマーは、上記の(1)又は(2)によりイオン交換ポリマーを含む膜を得たり、予め本発明のイオン交換ポリマーを製造してから、溶液キャスト法により膜を製造したり、することで燃料電池用隔膜(高分子電解質膜)を得ることができる。このようにして得られるイオン交換ポリマーを含む膜を、燃料電池用隔膜として使用する場合、その膜厚は0.1〜300μmが好ましく、1〜100μmがさらに好ましく、5〜75μmが特に好ましい。
また、燃料電池用隔膜として使用する際に、寸法安定性や取扱性が良好な膜を得る目的や、あるいは膜に実用的な強度を付与させる目的で、本発明のイオン交換ポリマーを多孔性基材と複合することにより、補強して複合膜としてもよい。このときの多孔性基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等からなる不織布や、これらの材質からなる膜を延伸展開法によって得られる微多孔膜が好ましい。多孔性基材と複合させる方法としては、イオン交換ポリマーを含む溶液に多孔性基材を含浸させるといった、いわゆるウエットラミネート法が採用される。
【0035】
また、本発明のイオン交換ポリマーを燃料電池用隔膜(高分子電解質膜)として使用する場合、該高分子電解質膜が実用的なイオン伝導性を発現する範囲において、各種物性改良を目的とした添加剤を高分子電解質膜に含有させてもよい。かかる添加剤としては、可塑剤、安定剤、離型剤等が挙げられる。このような添加剤を使用する場合、溶液キャスト法に使用するイオン交換ポリマー溶液に添加剤を共溶解させればよい。また、同様に混合共キャスト法によれば、他のポリマーを本発明のイオン交換ポリマーとを複合アロイ化することも可能である。
【0036】
本発明のイオン交換ポリマーは、上記の膜の形態の使用に止まらず、袋状、中空糸状、中空管状等に成形してもよい。
【0037】
また、膜、袋状、中空糸状又は中空管状に成形されたイオン交換ポリマーに電子線・放射線を照射したりして、イオン交換ポリマーを架橋させることで、機械的強度をより向上させることもできる。この場合、イオン交換ポリマーの実用的なイオン伝導性等を損なわない範囲で、電子線・放射線の照射量等を制御することが好ましい。
【0038】
以上説明したように、本発明のイオン交換ポリマーを含む高分子電解質膜は、特に燃料電池用隔膜として好適に使用することができるが、それ以外の用途にも使用することができる。このような用途としては、限外ろ過膜、逆浸透膜やガス分離膜等の分離膜が挙げられる。
【0039】
次に、本発明のイオン交換ポリマーを用いてなる燃料電池、特に本発明のイオン交換ポリマーを含む膜を用いてなる燃料電池に関して説明する。
燃料電池の基本単位である膜−電極接合体は、対向配置された一対の触媒層(燃料電池用触媒層)と、これら触媒層に挟持されるようにして高分子電解質膜を有するものである。かかる触媒層は、触媒成分を含むものであり、通常、触媒成分を含有する触媒インキと呼ばれる液状組成物から製造される。好適には、高分子電解質膜の両面に、該触媒インキを噴霧又は塗布する方法によって、触媒層は製造される。
【0040】
該触媒成分としては、例えば、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の周期表第8〜10(VIII)族元素や、例えば、Cu、Ag、Auなどの周期表第11(IB)族元素など、さらにはこれらの組み合わせが挙げられる。
また、触媒インクには、触媒層でのイオン伝導性を確保するために、通常高分子電解質を含有している。かかる触媒インクに使用される高分子電解質としても、本発明のイオン交換ポリマーは好適に使用することができる。
【0041】
このようにして得られた膜−電極接合体には、両面にある触媒層に、さらにカーボンペーパー等のガス拡散層になり得るものを配して燃料電池とすることができる。
このようにして製造される燃料電池は、燃料ガスとして水素又は改質水素を使用する形式や、メタノール、エタノール又はヒドラジン等の液体燃料を使用する形式等、各種形式の固体高分子形燃料電池で使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0043】
なお、イオン交換容量、イオン伝導度、官能基の熱分解温度は以下の方法で求めた。
イオン交換容量
イオン交換ポリマーを製膜した後、得られた膜をアルカリ水溶液に浸漬し、多量の水で洗浄することにより、該イオン交換ポリマーにあるイオン交換基の対アニオンをOH-にイオン交換した。イオン交換後の膜を充分に乾燥し、乾燥重量約100mgを精秤した。精秤した膜を0.1規定塩酸5mLに浸漬した後、50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この膜が浸漬された溶液に0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えることで滴定し、中和点を求めた。測定した乾燥重量と中和点に要する0.1規定水酸化ナトリウム水溶液の滴定量とから、イオン交換容量を求めた。
【0044】
イオン伝導度
交流インピーダンス法を用いて測定した。
【0045】
官能基の熱分解温度(TG−MS測定)
セイコーインスツル社製TG−DTA6300を用い、窒素気流下で試料を5℃/分で室温から400℃まで昇温した。昇温過程で排出されるガスをPFEIFFER VACUUM社製ThermoStar(質量分析計)で分析し、比較例1では分子量59(トリメチルアミン由来)の強度が最大になったときの温度、実施例1では分子量82(1−メチルイミダゾール由来)の強度が最大になった時の温度を熱分解温度として求めた。
【0046】
参考例1(前駆ポリマーの製造)
温度計、滴下ロート及び攪拌機を備えた500mlフラスコに、クロロホルム200mlとポリスルホン(Aldrich社製)4.00gを仕込み溶解させた。この溶液に室温でジメトキシメタン4.14gと塩化チオニル6.45gを加えた。さらに、1M四塩化スズ溶液(溶媒:ジクロロメタン)5.43mlを加え、60℃で8時間反応させた。反応液をメタノール中に投じてポリマーを析出させ、ろ過回収した。メタノールで繰り返し洗浄した後、80℃で乾燥してクロロメチル化ポリスルホン4.90g得た。得られたポリマーの1H−NMR(測定溶媒:重クロロホルム)より、4.6ppm付近にクロロメチル基のベンジルプロトンのピークが認められ、これの積分比から求めたクロロメチル基導入率は繰り返し単位あたり2.25個であった。
【0047】
実施例1
(含窒素複素環基を有するイオン交換ポリマーを含む高分子電解質膜1の製造)
参考例1で得られたクロロメチル化ポリスルホン0.50gをN−メチル−2−ピロリドン3mlに溶解し均一溶液とした。この溶液に1−メチルイミダゾール218mgを加え、60℃で1時間攪拌した。反応液をガラス基板上に塗布し、80℃のオーブンで溶媒を留去した。ガラス基板からフィルムをはがし、2規定水酸化カリウム水溶液中に10時間浸漬し、さらにイオン交換水で充分に洗浄して、さらに乾燥し、高分子電解質膜1を得た。かかる高分子電解質膜1に含有されるイオン交換ポリマーは、上記(A−1)の含窒素複素環基を有した。得られた高分子電解質膜1のイオン交換容量、イオン伝導度及びTG−MS測定で求めた分解開始温度を表1に示す。
【0048】
比較例1
(4級アンモニウム基を有するイオン交換ポリマーを含む高分子電解質膜3の製造)
参考例1で得られたクロロメチル化ポリスルホン0.50gをN−メチルピロリドン15mlに溶解し均一溶液とした。この溶液に30%トリメチルアミン水溶液5mlを加えて均一溶液とし、60℃で1時間攪拌した。反応液をガラス基板上に塗布し、80℃のオーブンで溶媒を留去した。ガラス基板からフィルムをはがし、2規定水酸化カリウム水溶液中に10時間浸漬し、さらにイオン交換水で充分に洗浄・乾燥して、高分子電解質膜3(4級アンモニウム基を有するイオン交換ポリマーを含む高分子電解質膜)を得た。イオン交換容量、イオン伝導度及びTG−MS測定で求めた熱分解開始温度を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、イオン交換ポリマーを含有する膜(高分子電解質膜1)は、アニオン交換性の複素環基(式(A−1)の複素環基)を有し、実用的に十分なイオン伝導性を有しつつ、極めて良好な耐熱性を有した。本発明のイオン交換ポリマーは、固体高分子形燃料電池用の電解質として特に有用である。
一方、従来の陰イオン交換ポリマーである4級アンモニウム基を有するイオン交換ポリマーは、本発明のイオン交換ポリマーに比して耐熱性に劣るものであった。
【0051】
実施例2
(含窒素複素環基を有するイオン交換ポリマーを含む高分子電解質膜2の製造)
参考例1で得られたクロロメチル化ポリスルホン0.50gをN−メチルピロリドン5mlに溶解し均一溶液とした。この溶液をガラス基板上に塗布し、80℃のオーブンで溶媒を留去した。ガラス基板からフィルムをはがし、このフィルムを1−メチルイミダゾール5.00gと水5mlの混合液に浸漬し、60℃で3日間反応を行った。その後、膜を2規定水酸化カリウム水溶液中に10時間浸漬し、さらにイオン交換水で充分に洗浄・乾燥して、高分子電解質膜2を得た。イオン交換容量及びイオン伝導度を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例2で得られた高分子電解質膜2は、高分子電解質膜1を構成しているイオン交換ポリマーの同じ複素環基を有するものであり、高分子電解質膜1と同様に高度の耐熱性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含み1価のカチオンである複素環基を複数有する、イオン交換ポリマー。
【請求項2】
複素環基の少なくとも一部が、以下の式(A−1)〜式(A−11)からなる群より選ばれる、請求項1記載のイオン交換ポリマー。





(ただし、式中、R11は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数7〜12のアラルキル基、フェニル基、ハロゲン原子又は水素原子を表わし、同一の基に複数あるR11は互いに同一でも異なっていてもよい。式中の「+」の表記は、環内で正の電荷が非局在化していることを指す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載のイオン交換ポリマーを含む高分子電解質。
【請求項4】
請求項3記載の高分子電解質からなる高分子電解質膜。
【請求項5】
請求項3記載の高分子電解質と、触媒成分とを含む燃料電池用触媒層。
【請求項6】
請求項4記載の高分子電解質膜及び/又は請求項5記載の燃料電池用触媒層を備える、膜−電極接合体。
【請求項7】
請求項6記載の膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池。
【請求項8】
主鎖に芳香環を有する芳香族系高分子をハロアルキル化してハロアルキル化芳香族ポリマーを得るハロアルキル化工程と、
該ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを反応させることにより、該ハロアルキル化芳香族ポリマーにあるハロアルキル基のハロゲン原子を複素環基に置換してイオン交換ポリマーを得る置換工程とを、
この順で有するイオン交換ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記置換工程が、前記ハロアルキル化芳香族ポリマーと複素環式化合物とを含む溶液を準備し、この溶液を支持基材上に塗布した後、加熱処理することにより、該ハロアルキル化芳香族ポリマーにあるハロアルキル基のハロゲン原子を複素環基に置換して、イオン交換ポリマーを膜状で得る工程である、請求項8記載のイオン交換ポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2010−47751(P2010−47751A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169784(P2009−169784)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】