説明

イオン交換膜

本出願には、運転コストが低くエネルギー効率の高い電気透析膜及びその新規製造方法が記載されている。前記膜は、水の脱塩及び廃水の浄化に有用である。前記膜は、その低電気抵抗及び高選択透過性の故に、海水の脱塩にも有効である。この膜は、新規方法で製造され、市販されている先行技術による電気透析膜よりもかなり薄い膜となる。前記膜は、1つ以上の単官能性イオノゲンモノマーと少なくとも1つの多官能モノマーとを多孔性基材の孔の中で重合することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、合衆国法典第35巻第119条(e)(35 U.S.C. §119(e))に基づき、2009年8月26日出願の米国仮出願番号61/237076、発明の名称「カチオン交換膜(CATION EXCHANGE MEMBRANE)」及び2009年8月26日出願の米国仮出願番号61/237084、発明の名称「アニオン交換膜(ANION EXCHANGE MEMBRANE)」の優先権を主張するものであり、前記両出願の全てを本明細書に参照として組み込む。
【0002】
本発明の実施態様は、イオン交換膜及びその製造方法を提供するものである。本明細書に記載の電気透析膜は、低抵抗と高い選択透過性とを併せ持ち、これにより、水の脱塩用途、特に海水の脱塩、に極めて有効である。本明細書に記載のイオン交換膜は、1つ以上の単官能イオノゲンモノマーと、場合により中性のモノマーと、少なくとも1つの多官能モノマーとを、多孔性基材の孔の中で重合することによって製造される。
【背景技術】
【0003】
イオン交換膜は、電気的又は化学的ポテンシャルの下に、カチオン又はアニオンを輸送する。イオン交換膜は、膜の大部分を構成している高分子材料に結合した、負又は正のいずれかに荷電した基を、有している。それぞれの対イオンは、移動可能なイオンである。カチオン交換膜は、固定された負電荷と可動性の正帯電カチオンとを有する。同様に、アニオン交換膜は、固定された正帯電基と可動性の負帯電アニオンとを有している。イオン交換膜の特性は、固定されたイオン性基の量、種類及び分布によって制御される。これらの膜は、強酸性及び強塩基性の膜又は弱酸性及び弱塩基性の膜と言われる場合がある。強酸性カチオン交換膜は、通常、荷電基として硫酸基を有しており、一方、弱酸性カチオン交換膜の場合は、典型的には、カルボン酸が固定荷電基を構成している。第4級及び第3級アミンは、それぞれ、強塩基性及び弱塩基性のアニオン交換膜内に、固定された正荷電基を生成する。
【0004】
イオン交換膜にとって最も重要な用途の一つに、逆電気透析法における発電源として、そして、燃料電池におけるセパレータとして、電気透析法(ED)によって水を脱塩することがある。他の用途としては、電気メッキ及び金属表面仕上げ業界における金属イオンの回収並びに食品及び飲料産業での様々な用途が挙げられる。
【0005】
電気透析は、直流電圧の駆動力の下に、イオンと一部の荷電有機物質とを、アニオン選択膜及びカチオン選択膜の対を通って、移動させることにより、水を脱塩する。ED装置は、セルの対向壁として配置された、導電性で実質的に水を通さないアニオン選択膜及びカチオン選択膜から構成されている。隣接するセルは、セル対を構成する。膜スタックは、多数の、時には何百もの、セル対で構成されており、また、EDシステムは、多数のスタックで構成されていてもよい。それぞれの膜スタックは、スタックの一方の末端部にDC(直流)アノードを、もう一方の末端部にDCカソードを、有している。DC電圧を受けると、イオンは、反対荷電を有する電極へと移動する。
【0006】
セル対は、2種類のセル、希釈セルと濃縮セル、で構成されている。代表的な例として、共通のカチオン輸送膜壁と2つのアニオン輸送膜壁とで形成される2つのセルを有するセル対を考える。即ち、第一アニオン輸送膜と前記カチオン輸送膜とが希釈セルを形成し、また、前記カチオン輸送膜と第二アニオン膜とが濃縮セルを形成する。希釈セルにおいて、カチオンは、アノードに面する前記カチオン輸送膜を通過するが、カソードに面する方向の濃縮セルの対アニオン輸送膜に捕まる。同様に、アニオンは、カソードに面する希釈セルのアニオン輸送膜を通過するが、アノードに面する隣接対のカチオン輸送膜で捕まる。このようにして、希釈セルでは塩が除去され、隣接する濃縮セルでは、カチオンが一方から入り、アニオンが反対側から入る。スタック内での流れは、希釈流と濃縮流とが別個に保たれ、しかも脱塩された水流が希釈流から作り出されるように配置される。
【0007】
ED法においては、物質は、一般に、電界方向の膜表面に密集しており、このことによってプロセス効率が低下する可能性があり、通常、実際に低下する。この作用を食い止めるために、逆電気透析(EDR)が開発され、現在では、主要な使用方法となっている。EDRでは、電極は、定期的に、例えば15分〜60分毎に、極性を反転させる。同様に、希釈流及び濃縮流も同時に切り替わり、濃縮流が希釈流になり、希釈流が濃縮流になる。このようにして、汚染沈着物が除去され押し出される。
【0008】
希釈セル内の濃度が約2,000ミリグラム/リットル(mg/L)未満まで低下すると、電気抵抗は、ますます費用の掛かる電力が必要となるレベルとなる。これを解決するため及び高品質の水を作り出すために、連続電気脱イオン(CEDI)と呼ばれることもある電気脱イオン(EDI)が開発された。この方法では、セルに、イオン交換媒体、通常、イオン交換樹脂ビーズ、を充填する。イオン交換媒体は、溶液よりも、導電性が数桁高い。イオンは、ビーズによって膜表面へ運ばれて、濃縮セルへ輸送される。EDIは、供給濃度が十分に低ければ、少ない電力で、EDよりも純粋な水を作り出すことができる。
【0009】
水を脱塩するためのED法は、ROよりも利点がある。前記方法は、前処理がほとんど必要なく、これにより、操作コストが軽減される。前記方法は、生成水回収率がより高く、塩水濃度がより高い。即ち、処分すべき塩水が少ない。
【0010】
一価選択性(univalent selective or monovalent selevtive)膜は、主に、一価のイオンを移動させる。一価カチオン選択性輸送膜は、主に、ナトリウム、カリウム等を移動させる。同様に、一価アニオン選択性膜は、塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン等のイオンを移動させる。
【0011】
逆浸透(RO)は、膜処理によって海水から真水を作り出す有力な方法である。電気透析(ED)は半塩水や廃水の脱塩に用いられるが、一般に、海水に利用するには費用が掛かりすぎると考えられている。ROと対抗するためには、ED及びEDRは、1Ωcm2未満、好ましくは0.8Ωcm2未満、最も好ましくは0.5Ωcm2未満、の膜抵抗を必要とする。90%を超える、より好ましくは95%を超える、最も好ましくは98%を超える、イオン選択透過性が望ましい。膜は、実用寿命が長く、物理的強度があり、化学的耐久性があり、しかも低コストでなければならない。
【0012】
逆電気透析(RED)は、塩分濃度の異なる2つの水溶液を混合したときに生じる自由エネルギーを、電力に変える。塩分濃度の差が大きいほど、発電の潜在能力も大きくなる。例えば、研究者らは、死海の水と真水又は海水とを用いてREDを調べている。オランダの研究者らは、海に注ぐ河川の水と海水とを混合している。RED膜は、好ましいことに、電気抵抗が低く、共イオン選択性が高く、実用寿命が長く、許容し得る強度及び寸法安定性を有し、しかも重要なことに、低コストである。
【0013】
ポリマー電解質膜(PEM)は、イオン交換膜の一種であって、電解質としての役割とセパレータとしての役割の両方を果たして、アノードから供給される水素とカソードに供給される酸素とが、直接物理的に、混合するのを防ぐものである。PEMは、PEMを構成するポリマーに結合した又はその一部としての負荷電の基、通常は硫酸基、を含んでいる。プロトンは、一方の固定された負電荷からもう一方へ跳び移ることによって、膜内を移動して、膜を透過する。
【0014】
PEMに対する要求特性としては、化学的、熱的及び電気化学的な安定性、並びに膨潤時や機械的応力に曝されたときの十分な機械的安定性及び強度が挙げられる。他の要求特性としては、低抵抗であること、直接メタノール燃料電池(DMFC)内でメタノール輸送が少ないか、好ましくは生じないこと、そして低コストであることが挙げられる。
【0015】
イオン交換膜の開発では、競合効果を抑えるために、特性を最適化することが求められる。従来、水の脱塩用イオン交換膜は、良好と見なされるために4つの主要特性を達成する必要があった。主要特性とは、
操作時の電位降下を抑え且つエネルギー効率を高める、低い電気抵抗、
高い透過選択性−即ち、対イオン透過性は高いが、共イオンがほとんど透過しないこと、
高い化学的安定性−0〜14のpH及び酸化性化学薬品に対する耐久性、並びに
機械的強度−膜は、モジュール又は他の処理装置への組込み中に受ける応力に耐えられなければならず、膜は、また、操作中、良好な寸法安定性を有している必要があり、しかも接触している流体の濃度又は温度が変化したときに過度に膨潤又は収縮してはならない−である。
【0016】
膜の開発者らは、イオン交換膜の製造に用いられる特定の化学的成分に関し、膜が薄いほど、抵抗が低くなり、また、装置の単位容積当たりの膜面積を大きくできることを認識している。しかし、膜は、薄いほど、接触している流体のイオン濃度変化又は操作温度の変化等の環境効果によって、寸法変化し易くなる。その上、膜が薄いほど、膜製造時の誤差の許容度が小さいので、欠陥の無い膜の開発及び製造が困難になる。膜が厚いと、膜形成時に生じ得る欠陥を膜の厚さでカバーするからである。
【0017】
特許文献1には、イオン伝導性領域と非イオン伝導性領域とを備えるイオン伝導性膜が記載されている。イオン伝導性領域は、イオン伝導性材料が充填された膜へ延びる複数の通路で形成されている。通路は、穴あけ、化学エッチング又は打抜き等の多くの方法によって、基材シートに形成することができ、これにより、真っ直ぐな貫通した通路が提供される。
【0018】
通路の好ましい配置は、正方形、長方形、三角形又は六角形の配列である。イオノゲンポリマーが通路に析出することによって、イオン伝導性領域が構成される。一部の実施態様では、表皮層を、基材の表面に結合させるか又は片面若しくは両面に被覆する。
【0019】
特許文献2には、支持膜とイオン交換樹脂組成物とを基材の孔の中に含む、複合イオン交換膜が記載されている。イオン交換樹脂は、特定の種類の芳香族ポリエーテルである。関連する特許文献3では、多孔性膜は、ポリベンザゾール膜である。
【0020】
特許文献4には、水溶性イオン伝導性材料が浸透した多孔性高分子基材からなる、複合固体ポリマー電解質膜が記載されている。多孔性高分子基材は、ポリベンザゾール(PBZ)又はポリアラミドポリマーのような、液晶ポリマーのホモポリマー又はコポリマーからなる。好ましいポリベンザゾールポリマー類としては、ポリベンズオキサゾール(PBO)ポリマー、ポリベンゾチアゾール(PBT)ポリマー及びポリベンズイミダゾール(PBI)ポリマーが挙げられる。好ましいポリアラミドポリマー類としては、ポリパラ−フェニレンテレフタルアミド(PPTA)ポリマーが挙げられる。他の好ましい実施態様では、高分子基材は、熱可塑性又は熱硬化性芳香族ポリマーからなる。イオン伝導性材料は、スルホン化イオン伝導性芳香族ポリマーの少なくとも1つの水溶性ホモポリマー又は水溶性コポリマーからなる。
【0021】
W.L.ゴア&アソシエーツ社(W.L.Gore & Associates,Inc.)(デラウェア州ニューアーク)は、特許文献5において、パーフルオロイオン交換材料を充満させて膜の微小孔を閉塞させた多孔性高分子膜と分子量が100を超える界面活性剤とを有する一体化複合膜であって、当該複合膜の厚さが0.025mm未満である、一体化複合膜を記載している。
特許文献6には、イオン交換材料を含浸させた延伸ポリテトラフルオロエチレン支持膜からなり、総厚が0.025mm未満の複合膜が記載されている。
特許文献7及び特許文献8には、また、ナフィオン(Nafion(登録商標))(デラウェア州ウィルミントンのE.I.デュポン社(E.I.Dupont))を含浸させた微小孔を有する延伸PTFE基材からなる、複合膜が記載されている。ゴア−セレクト(Gore−Select(登録商標))膜(ミッドランド州エルクトンのW.L.ゴア&アソシエーツ社)は、イオン交換材料を含浸させた微小孔を有する延伸PTFE膜からなる、複合膜である。
【0022】
特許文献9には、イオン交換ポリマーと、多孔性微細構造の高分子フィブリルを有する延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー支持体と、からなる複合膜であって、前記延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマーの少なくとも約85%が結晶質である、複合膜が記載されている。
【0023】
特許文献10には、多孔性高分子基材と前記基材の一部に充填されるカチオン交換材料含浸剤とを含み、前記基材が、孔が前記含浸剤で実質的に埋められた第一領域と、実質的に多孔性の第二の領域と、を備える、燃料電池の膜電極アセンブリで使用するための複合膜が記載されている。カチオン交換材料は、基材の第一領域に隣接する、高密度表層内の、基材の片面を覆っている。基材の残留有孔度は10%を超え、また複合膜は、実質的にガスを透過せず、少なくとも1つの実質的に多孔性の主表面を有している。
特許文献11には、多孔性基材と置換トリフルオロスチレンポリマー及びコポリマーを含んでなるイオン交換材料とからなる複合膜が記載されている。
【0024】
マクマスター大学(McMaster University)は、多孔性支持構造要素近辺に高分子電解質又はヒドロゲルを結合又は架橋させた複合膜に関する2つの米国特許を有している。特許文献12には、多孔性基材と、前記基材の孔中に位置する架橋された高分子電解質又はヒドロゲルと、を含んでなる、荷電膜が開示されている。この特許は、基材の孔の中における、モノマー又はモノマー混合物の架橋剤との重合を開示しており、前記モノマー又は少なくとも1つの前記モノマー混合物は、イオン交換部位を与える官能基を含むモノマー類、及び、このような官能基を、次いで、in situ形成されたポリマーに導入する化学反応を起こし易い基を含むモノマー類から選択される。或いは、未架橋の高分子電解質又はヒドロゲルは、上述のように前記基材の孔の中で形成してから架橋してもよい。
【0025】
特許文献13は、基材の孔の中に位置する架橋ゲル、好ましくはヒドロゲル又は高分子電解質ゲル、を含有する孔を有する、微細孔基材から構成された非対称膜であって、前記膜の一主要表面又はそのすぐ近傍における架橋ゲルの密度が、その他の主要表面における密度よりも高いことから、前記膜の前記一主要表面から前記膜の前記その他の主要表面に向かってゲルの分布勾配が存在する、非対称膜を提供している。
【0026】
特許文献14には、一定比率の高沸点エステル可塑化剤と共にキャスト成形又は押出成形した中実の高分子シートを、次いで、ジビニルベンゼン等の少量の架橋性二官能モノマーと共に1つ以上のモノマーに、浸漬するか又はこれと接触させる方法が、開示されている。前記モノマーは、前記高沸点可塑化剤と入れ替わって、ベースフィルムの隙間で重合される。前記モノマーは、イオン含有モノマーであっても、又は、重合後に、例えば、フェニル基のスルホン化若しくは芳香族ポリマーに結合したクロロメチル基の3級アミンによるアミノ化によって、イオン交換膜に変換できるモノマーであってもよい。
【0027】
特許文献15には、多孔性膜を、スチレン系モノマー、ビニルベンゼン系モノマー、架橋剤及び開始剤で含浸し、重合後、得られた架橋ポリマーを、アンモニウムイオンを加えて官能化することによって製造される、アニオン交換複合膜が記載されている。
【0028】
荷電ポリマーを有する膜も知られている。帯電膜は、通常、負に荷電されているが、ナノ濾過に用いられる。このような膜は、高い透水性を与えられている。このような膜は、高い透水性の故に浸透流が高くなるので、EDには向いていない。そのため、共イオン排除率も低下する。燃料電池用の膜は、水素イオンを運ぶように設計されており、それより大きなイオンを移動させるのには向いていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許第7,226,646号明細書
【特許文献2】米国特許第7,649,025号明細書
【特許文献3】米国特許第7,537,852号明細書
【特許文献4】米国特許第7,550,216号明細書
【特許文献5】米国特許第6,254,978号明細書
【特許文献6】米国特許第5,547,551号明細書
【特許文献7】米国特許第5,599,614号明細書
【特許文献8】米国特許第5,635,041号明細書
【特許文献9】米国特許第6,110,333号明細書
【特許文献10】米国特許第6,689,501号明細書
【特許文献11】米国特許第5,985,942号明細書
【特許文献12】米国特許第6,258,276号明細書
【特許文献13】米国特許第7,247,370号明細書
【特許文献14】米国特許第5,510,394号明細書
【特許文献15】国際出願公開WO2010/01361号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0030】
本明細書には、低い操作コストにつながる、高いエネルギー効率と高い選択浸透性との有益な組み合わせを有する、電気透析用の新規イオン交換膜が記載されている。前記膜は、水の脱塩に有用であり、海水の脱塩にも好適である。
【0031】
前記膜は、適切な多孔性基材を選択する工程、前記基材の多孔性領域を、単官能イオノゲンモノマーと多官能モノマーと重合開始剤とを含む溶液で飽和させる工程、前記多孔性容積を溶液で飽和させたまま、前記基材の表面から余剰の溶液を除去する工程、及び、場合により酸素が実質的に無い状態で、熱、紫外線又は電離放射線の適用によって、重合を開始してイオン輸送性架橋ポリマーを形成することによって、前記基材の孔を実質的に完全に塞ぐ工程、を備える方法によって製造される。
【0032】
微細孔性支持体は、好ましくは、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリフッ化ビニリデンの微細孔膜を含んでいる。支持体の厚さは、好ましくは、約55ミクロン以下、更に好ましくは25ミクロン以下である。
【0033】
カチオン交換膜の前記実施態様の抵抗は、約1.0Ωcm2以下、好ましくは約0.5Ωcm2以下、である。カチオン交換膜の好ましい実施態様の選択透過性は、約95%を超え、更に好ましくは、約99%を超える。カチオン交換膜を製造するのに好ましいイオノゲンモノマーは、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)である。好ましい架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレートである。
【0034】
アニオン交換膜の前記実施態様の抵抗は、約1.0Ωcm2以下、好ましくは約0.5Ωcm2以下、である。アニオン交換膜の好ましい実施態様の選択透過性は、約90%を超え、更に好ましくは、約95%を超える。アニオン交換膜を製造するのに好ましいイオノゲンモノマーは、エチレングリコールジメタクリレートで架橋したトリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライド、又はエチレングリコールジメタクリレートで架橋したグリシジルメタクリレート/N,N−ジメチルエチレンジアミン反応生成物、及びN,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロライド(即ち、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンと塩化ビニルベンジルとの第四級塩)又は1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロライド)(即ち、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)と塩化ビニルベンジルとの第四級塩)を重合することによって形成される、イオンを輸送する架橋ポリマーである。
【0035】
これら膜の実施態様は、1つ以上のイオノゲンモノマー、中性モノマー及び適切な架橋剤モノマーの重合によって製造される。好ましい中性モノマーは、ヒドロキシエチルアクリレート及びヒドロキシメチルメタクリレートである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例7に記載の試験における、ボルト/セル対と供給溶液中の全溶解固形分との関係を表わす図である。
【図2】膜試験セルと参照電極の構造を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書に記載された膜は、低コストの電気透析膜及び水の脱塩システム、とりわけ、低コストでしかもエネルギー効率の良い電気透析膜及び海水の脱塩システムのニーズに応じて、開発された。
【0038】
本発明者らは、勤勉に大規模の実験を行なうことにより、本明細書に記載の方法及び手順により、優れたカチオン交換膜(CEM)又はアニオン交換膜(AEM)が製造されることを見出した。本発明者らは、海水を効率良く脱塩するのに適したイオン交換膜を開発するという問題点に直面し、電気抵抗が低く選択透過性が高い、機械的強度を有する膜が求められていることに気付いた。更に、抵抗を低くするためには薄い膜が必要であるという、結論に至った。
【0039】
良好な機械的強度は、膜が連続成膜工程の応力に耐え、目に見える損傷や、しばらく運転した後に出現することがある損傷なしに、最終的膜保持装置やモジュールに組み立て又は嵌め込むことを可能にする。更に、機械強度には、高い寸法安定性も包含される。ED膜は、脱塩装置としての運転中や、洗浄中、消毒中若しくは除染管理体制中、又は輸送中又は保管中の寸法変化が最小限でなければならない。例えばCEMと接している流体の、イオン含有量の変化又は温度変化に対する寸法安定性が高いことが重要である。何故ならば、運転中に組み合わせた膜の間の距離が変わると、電流効率が悪くなる可能性があるためである。電気透析中の寸法変化は、また、固定したED膜内での応力の原因となり、膜欠陥や性能低下を引き起こす可能性もある。
【0040】
抵抗が低いと、脱塩に要する電気エネルギーが減少し、運転コストが減少する。膜の抵抗率は、オームセンチメートル(Ωcm)で測定される。より適切な工学尺度はオーム・cm2(Ωcm2)である。抵抗は、電解質溶液中において、面積既知の2つの電極−典型的には、白金又はブラックグラファイト(black graphite)が用いられる−と、これらの間にある面積既知の膜試料とを、有するセルを用いて測定することができる。電極は、膜に接触していない。膜の抵抗は、膜がないときの電解質の抵抗を、定位置に膜を有する場合の試験結果から差引くことにより、求められる。抵抗は、また、膜で分離された、十分に撹拌された2つのチャンバーを有するセル内で、電圧対電流曲線を測定することで求めてもよい。カロメル電極で、膜を隔てた電位低下を測定する。電位低下対電流曲線の勾配は、電圧を変えて電流を測定することによって得られる。電気化学的インピーダンスを使用してもよい。この方法では、膜を横切って交流電流を印加する。単一周波数で測定することによって、膜の電気化学的特性に関するデータが得られる。周波数及び振幅を変えることによって、詳細な構造情報も得られる。本明細書における抵抗は、実験の項に記載の方法で定義する。
【0041】
選択透過性とは、電気透析中の対イオンの共イオンに対する相対的移動を指している。理想的なカチオン交換膜の場合、正荷電イオンのみが膜を通過するので、選択透過性は1.0となる。選択透過性は、膜が濃度の異なる一価の塩溶液を分離しているときの、膜を隔てた電位を測定することによって、求められる。本明細書で用いられる方法及び計算は、実験の項で説明する。
【0042】
これら当初の目標を達成するために、本発明者らは、荷電イオン基を結合させた架橋ポリマーが微細孔膜基材の孔に入ったタイプの複合イオン交換膜を開発した。前記多孔性膜基材の厚さは、好ましくは約155ミクロン未満、更に好ましくは約55ミクロン未満、である。
【0043】
気孔率が約45%を超える膜基材が好ましく、気孔率が約60%を超えるものが更に好ましい。最も好ましい実施態様では、膜基材の気孔率は、約70%を超える。好ましい膜基材の定格ポア寸法は、約0.05ミクロン〜約10ミクロンであり、更に好ましい範囲は、約0.1ミクロン〜約1.0ミクロンである。最も好ましい多孔性基材の定格ポア寸法は、約0.1ミクロン〜約0.2ミクロンである。
【0044】
微細孔膜支持体は、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン又は他のポリマーから製造することができる。好ましい基材類は、主に電池セパレータとして使用するために製造された薄いポリオレフィン膜からなる。より好ましい基材類は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から製造した薄い電池セパレータである。
【0045】
所望のイオン交換膜を製造するために、本発明者らは、荷電架橋ポリマーを基材の孔の中で重合することによって、前記架橋ポリマーを孔の中に載置する方法を、開発した。前記方法には、多孔性基材に、荷電モノマー、多官能モノマー、(例えば、架橋剤)及び重合開始剤の溶液で飽和させる工程が関係する。本明細書においてイオノゲンモノマーという用語は、少なくとも1つの荷電基が共有結合しているモノマー種を表わすのに用いられる。荷電基は、正に帯電していても、負に帯電していてもよい。一実施態様では、架橋ポリマーは、多官能性の荷電モノマーを重合することによって製造した。重合は、熱又はUV光によって、開始した。単官能モノマーは、重合反応を進めるための単一の部位を有するモノマーである。多官能モノマーは、重合反応部位を2つ以上有するので、網状構造を有する又は架橋したポリマーを形成することができる。
【0046】
以下の実験法を使用して、抵抗率及び選択透過性の試験用の小さな試験片を作成することにより、配合及び処理効果を調べた。直径43mmの多孔性膜基材試験片を打抜いた。もう少し大きな透明ポリエステルシート製のディスク(直径50mm又は100mm)も打抜いた。典型的には、一組の試験片を保持するのに、105mmのアルミニウム計量皿を用いた。試験片を、2枚のポリエステルフィルムディスクで挟んだ。先ず、基材試験片をモノマー溶液で十分に濡らして、試験試料を作成した。この工程は、アルミニウム皿に配合溶液を入れ、ポリエステルフィルムディスク1枚とその上に重ねた基材片とを前記溶液に浸漬することによって、多孔性支持体を飽和させることにより、行なった。次に、飽和させた支持体をモノマー溶液から取り出して、1枚のポリエステルフィルムの上に置いた。試験片を、小さなガラス棒等の常套のツール又は手で、例えば、伸し又は締め付けることによって、試験片から気泡を抜いた。次に、二枚目のポリエステルディスクを第一試験片の最上部に重ね、伸すことによって、試験片と下側及び上側のポリエステルフィルム層とを完全に表面接触させた。次に、第二の多孔性基材を上側のポリエステルフィルムの上に重ね、飽和、伸し、ポリエステルフィルムの外側層の追加を繰り返すことによって、試験片2枚と保護ポリエステルフィルム層3枚とからなる多層サンドイッチ構造体が得られた。典型的な実験ランでは、10枚以上の飽和基材試験片層から構成した多層サンドイッチ構造体を用いた。必要な場合、アルミニウム皿の縁を下方へ丸めて、ディスク/試験片アセンブリを保持した。
【0047】
次に、皿とアセンブリとを密封可能な袋(通常、ジップロック(zip−lock)ポリエチレンバッグ)に入れて、低い正圧の不活性ガス(通常、窒素)を加えてから袋を密封した。皿と試験片アセンブリとを入れた袋を、80℃のオーブンに最大30分入れる。次に、袋を取り出して冷却し、反応後のカチオン交換膜試験片を40℃〜50℃の0.5N NaCl溶液に少なくとも30分間浸漬して、NaClへの浸漬は最大18時間で十分であることが分かった。
【0048】
本発明のカチオン交換膜を製造するのに有用な負の荷電基を含むモノマーは、代表例として次のものを含むが、これらの例に限定されない。カチオン交換能力を与えるのに適したスルホン化アクリルモノマー;例えば、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)、2−プロピルアクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化グリシジルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム等;その他のモノマー例は、アクリル酸及びメタクリル酸又はこれらの塩、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルベンジルクロライド、1−アリルオキシ−2ヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、4−ビニル安息香酸、トリクロロアクリル酸、ビニルリン酸及びビニルスルホン酸である。好ましいモノマーは、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)、スチレンスルホン酸及びその塩、並びに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)である。
【0049】
本発明のアニオン交換膜を製造するのに有用な正の荷電基を含むモノマーには、代表例として次のものを含むが、これらの例に限定されない。メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、ポリアミンとビニル芳香族ハロゲン化物との第四級塩、例えば、これらに限定されないが、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロライド)(即ち、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)とピペラジンジビニルクロライドとの第四級塩);又は環状エーテルとポリアミンとアルキルハロゲン化物との反応によって形成される第四級塩、例えば、これらに限定されないが、ヨードエチルジメチルエチレンジアミノ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(即ち、グリシジルメタクリレート(GMA)とN,N−ジメチルエチレンジアミンとヨウ化エチルとの反応によって形成される第四級アンモニウム塩)、及びビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド。
【0050】
アニオン交換膜に好ましいモノマーは、トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライド、3−(アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロライド)(即ち、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)と塩化ビニルベンジルとの第四級塩)、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロライド)(即ち、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンと塩化ビニルベンジルとの第四級塩)、グリシジルメタクリレート/トリメチルアミン反応生成物、又はグリシジルメタクリレート/N,N−ジメチルエチレンジアミン反応生成物である。
【0051】
負又は正の荷電基を含むモノマーとの架橋を生じさせるのに適した多官能モノマーとしては、代表例として次のものが挙げられるが、これらの例に限定されない。エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、イソホロンジイソシアネート、グリシジルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシル化(n)ビスフェノールA ジ(メタ)アクリレート(n=1.5、2、4、6、10、30)、エトキシル化(n)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(n=3,6,9,10,15,20)、プロポキシル化(n)トリメチロールプロパントリアクリレート(n=3、6)、塩化ビニルベンジル、グリシジルメタクリレート等。
【0052】
イオン基を1つ以上含む多官能モノマーを使用してもよい。次の例に限定されるものではないが、1,4−ジビニルベンゼン−3スルホン酸又はその塩等のモノマーを使用してもよい。
【0053】
架橋度は、2%〜60%までの範囲であってよい。
【0054】
本発明に有用なフリーラジカル開始剤としては、次のものが挙げられるが、これらの例に限定されない。過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)。
【0055】
膜の開発及び製造に関わる当業者には、この便利な実験法を他の実験室規模の方法に適合させることができ、連続製造にまでスケールアップできることが分かるであろう。
【0056】
例えば、基材の孔の充填又は浸透を若干高い温度(>40℃)で行なって空気の溶解を減少させてもよく、又はこの工程を行なう前に、配合溶液中に浸した基材試料を弱めの真空処理に付してもよい。基材試料を、予備浸漬してからポリエスエル又は同様のシートの上に載置して、被覆シートで覆い、次いで、伸して気泡を抜いてもよい。数枚の予備浸漬処理した試料片を層状に重ねてから、ポリエスエル又は同様のシートの上に載置して、被覆シートで覆い、次いで、伸して気泡を抜いてもよい。
【0057】
飽和基材サンドイッチ構造体は、オーブンで加熱するよりも、重合を開始して完了させるのに十分な温度に加熱した表面上に、そうするのに必要な時間、載置しておく方がよい。重合反応を開始するのに別の方法を使用してもよい。紫外線又はガンマ線もしくは電子線等の電離放射線を用いて、重合反応を開始することも可能である。
【0058】
連続的なパイロット規模の工程又は連続製造工程は、多孔性基材を飽和させ、これに続いて重合を開始して完了させ、これに続いて、形成された膜から非重合物を洗い流し又は除去する工程を備えていてもよい。膜は、場合により、乾燥させてもよい。塩溶液を用いた状態調節は、塩溶液のタンクに通し若しくは膜を巻き取ったロールを浸漬する等の連続浸漬法で行なっても、又はモジュールに組み込んでから行なってもよい。
【0059】
モノマー溶液が、基材を濡らしている溶媒で配合されている場合、前記工程は、基材をロールからモノマー配合物のタンクへ供給してタンクを通過させ、そして余剰の溶液を拭き取ることから始める。次いで、飽和させた基材を、ロールから供給される2層のプラスチックシートの間に挟み込み、2本のニップロールの間に通して空気を抜くことによって、平滑な多層アセンブリを製造することができる。好ましいシート材料は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。次いで、このアセンブリを、オーブンを通過させ又は加熱ロールを通すことによって、処理して、重合を開始させて完了させる。代替法は、飽和させたシートを、不活性ガスを行き渡らせたオーブンを通過させることである。この代替法は、高沸点溶媒を用いる場合に向いている。
【0060】
適切な開始剤を用いたUV光での開始を利用してもよい。前記の3層サンドイッチ構造体を、基材ウェブ用の入口及び出口を有するトンネル又は他のプロセス装置を、前記ウェブの片面又は両面にUV光源を当てながら、通過させてよい。高沸点配合物の場合、この工程は、不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。
【0061】
3層サンドイッチ構造体を用いる場合、重合後に被覆シートを取り外して、形成された膜を洗浄し、場合により、乾燥させてもよい。
【0062】
実施例の項に示す実験では、有機溶媒であるN−メチルピロリドンを反応物質キャリアとして使用した。好ましい溶媒類は、双極性非プロトン性溶媒である。これらに限定されないが、適切な溶媒の種類の例としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸アミド又は−トリアミド、アセトンアセトニトリル及びアセトンが挙げられる。この種の溶媒には、イオン基含有モノマーと非水溶性モノマーとを溶媒和させるという利点がある。
【0063】
有用であると認められる他の溶媒は、n−プロパノール及びジプロピレングリコールである。類似の水酸基含有溶媒、例えば、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;様々なグリコール等のジオール類;又はグリセリン等のポリオール類;が、有用な場合がある。これらは、例として示すものであって、実務者に制限を課すものではない。
【0064】
上記で検討した溶媒は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。上記溶媒を水と一緒に用いると、イオン含有有機物質の溶解度を高めることができる場合がある。
【0065】
これにより、膜の開発者は、特性の最適バランスを得るために、広範囲のモノマー混合物から架橋型コポリマーを仕立てることができる。水溶性及び/又は膨潤性のイオン含有モノマーと非水膨潤性コモノマーとを組み合わせることにより、開発者は、水の脱塩用途において、高度のイオン基を有し膨潤が軽減されたコポリマーを得ることができる。このようなコポリマーは、水中における改善された物理的強度を有しており、しかも、使用時に、水中におけるイオン含有量の変化又は温度変化による寸法変化を受け難い。
【0066】
多孔性基材でイオン輸送膜を作成するという初期の試みは、基材の孔への、イオン伝導性ポリマーの吸収に依存していた。米国特許第7,550,216号明細書では、水溶性イオン伝導性ポリマーが使用されている。水中では、このようなポリマーは、モノマー単位上の類似の荷電からの電荷斥力によって、膨張する。このことが、基材の孔への拡散を妨げて、基材中に恒久的に載置され得る荷電量を減少させる。前記特許第7,550,216号明細書には、水不溶性の(即ち、有機溶媒溶液性の)イオン伝導性ポリマーからは、満足すべき燃料電池膜が得られないことも記載されている。前記方法を用いてこれら膜を製造するには、乾燥/浸漬手順を長々と繰り返す必要があるため、製造原価が増加すると考えられる。その上、乾燥/浸漬工程は、膜の密度を十分に高めるのにも必要であり、このことは、ポリマー拡散によって多孔性領域が完全に満たされるわけではないことを示している。
【0067】
本発明者らは、本実施態様において、標準要求特性を超える電気透析膜を入手した。機械的強度を有する一方で、電気抵抗が低くしかも透過選択性の高い膜は、海水電気透析膜の基本要件であるが、最適の特性バランスを得るためには、その他の特徴も重要である。
【0068】
本明細書に記載した発明の幾つかの実施態様の発明者らは、また、透水性を低下させたイオン交換膜をも開発した。希釈流と濃縮流との間の浸透圧差を推進力として希釈流が膜欠陥を通過すると、高効率に有害である。水浸透は、電流効率を低下させて、しかも純水を取り出すことによる精製水の生産性をも低下させる。水の損失は、薄い膜を用いる海水の電気透析では特に深刻である。何故ならば、膜の高濃度(塩水)側と膜の純水側との濃度差が大きいと、浸透圧による推進力も増大するからである。膜欠陥は、高い浸透圧が純水をこのような欠陥から押し出して、水損失を増やして消費電力を増加させるので、特に運転に悪影響を与える。
【0069】
水浸透を抑えるために、本発明者らは、最小限度の欠陥を有する膜、好ましくは本質的に欠陥のない膜、を製造するために、膜の生産方法に適用し得る幾つかの方法を開発した。実施例において、特に実施例1及び2において、膜特性の最良の組み合わせを生み出す、見掛け上最適な浸漬時間を示した。実施例1では、6〜24時間の浸漬時間により、低い抵抗と高い選択透過性との最良の組み合わせが得られた。実施例2では、様々なモノマー配合物を用いることによって、1〜3時間の浸漬時間で、これら特性の最良の組み合わせが得られた。本発明者らは、二重細孔充填法を伴う方法によれば、抵抗には大きな影響を及ぼさずに見掛けの選択透過性を向上させることにより、明らかな瑕疵が減少することも見出した。
【0070】
更に、多孔性基材に充填するのに用いられる架橋ポリマーは、高いカチオン透過性と低い浸透圧流を可能にする構造を有するように開発された。見掛けの選択透過性は、共イオン(アニオン)に対するイオン(カチオン)の輸送比率であって、対イオンの除去速度を表わすものではない。
【0071】
カチオン透過性は、イオン構造(分子の大きさ及び全電荷)及び膜の微細構造の影響によって制御される。膜の微細構造は、膜が「小さい」孔を有すると考えられるならば、対イオンの浸透性を遅らせ得る。この定性的な用語は、対イオンが、膜を通過するに際して、あたかも、その見掛けの直径よりも僅かに大きなトンネルを通過しているかのように、膜材料との相互作用による大きな抵抗を受けることを表わす。膜は、相対的に低い水含有量を有し、これにより、対イオンの透過の経路が縮小する。対イオンの浸透性を高める親水性モノマーの含有量と、架橋モノマーの量や性質とを均衡させることによって、膜の水含有量及び有効孔径を最適化することができる。架橋性モノマーは、通常、疎水性化学物質であるが、親水性となるように選択することもできる。
【0072】
実験1、2及び4の結果から、配合の違いが膜の特性にどのように影響するのかが分かる。以下の表には、このことを表わす結果も含まれている。配合は、反応物質の重量百分率で表わしている。抵抗及び選択透過性は、特性の最良の組み合わせが得られる浸漬時間について表わしている(括弧内の試料番号)。架橋剤(EGDM)の比率を一定にしたまま、2−SEMの比率を低下させると、抵抗が増加して、選択透過性が低下するが、これはアポラス(APorous)基材を用いた場合にやや顕著である。試料24の抵抗が極めて低くしかも選択透過性が高いことに注目されたい。
【0073】
【表1】

【0074】
ここに示す結果からは、海水用のED膜の実現が困難な課題であることが明らかである。本発明者らは、膜の製造変数の特定の組み合わせによって、1.0Ωcm2未満、場合により0.5Ωcm2未満、の抵抗を有し、しかも90%を超える選択透過性を有する膜が得られることを、見出した。
【0075】
実施例1では、浸漬時間を長く(6〜24時間)することにより、約0.2〜約1.0の抵抗と99%を超える選択透過性とを有する、優れた膜が得られる。実施例2において、配合を変えて溶媒の量を増やした場合、99%の選択透過性をもたらす浸漬時間は0.5〜1.0時間であったが、抵抗は1〜2Ωcm2であった。
【0076】
実施例3の表8では、2回の細孔充填法において2つの別々の配合物を使用することを示している。抵抗の平均値及び標準偏差は、1.31Ωcm2(0.38〜1.72までの範囲)及び0.481Ωcm2であり、また、選択透過性の平均値及び標準偏差は、97.02%(95.77%〜98.08%までの範囲)及び0.918%である。平均値に対する標準偏差の比率から算出される幅は、抵抗についての幅の方が選択透過性についての幅よりも大きく、0.395対0.0094である。このことから、低い抵抗値と高い選択透過性との組み合わせは有望である(試料MBを参照)が、抵抗の制御が難しいことが示される。
【0077】
実施例4は、非反応性溶媒の量が最も多い(約52%のNMP)配合物で、構成している。本実施例では、浸漬時間の影響は明らかではないが、溶媒含有量と浸漬時間とに最適な組み合わせがあることが分かる。本実施例では、架橋率を一定にしたので、この特定の処理条件でも、最適な2−SEM濃度で示されたのと同じことが言える。
【0078】
実施例5は、アニオン交換膜の実施例を示している。表11には、様々な支持体及び架橋剤を用いた実施例を表わしている。この結果から、支持体の種類が、支持体中で形成されるポリマーの量(重量増加%)に重要な役割を果たすことが分かる。セルガード(Celgard)支持体(/C)及びデュラポア(Durapore)支持体(/F)は、一つを除いて全ての場合に、各架橋剤における第1の重量増加が最も高く、次にチコナ(Ticona)(/T)が続いている。しかしながら、Ticonaで支持した膜は、非常に高い抵抗を有している(第6列目、13列目及び18列目)。PETA架橋膜は、Celgard支持体を用いたときに高い重量増加を示し、不思議なことに、第2細孔充填後には抵抗も増加した。選択透過性は、一般的に、第2細孔充填後に数パーセント増加した。重量増加及び抵抗は大きく変化して、架橋剤の種類と支持体の特性との間に明確な関係が認められなかった。これらの結果からは、相当な量の実験が必要であることが分かる。
【0079】
表12の実施例からは、支持体と配合物との追加の組み合わせの結果が得られる。抵抗が0.5Ωcm2未満で選択透過性が90%を超えるもの(2列目の試料のうちの幾つか、並びに3列目及び4列目の試料)や、抵抗が1.0Ωcm2未満で選択透過性が90%を超えるもの(13列目及び32列目)がある。PMDETA/VBC及びDABCO/VBC付加物をベースとする膜の選択透過性は、AEMに関する本実験で見られる中で最も高かった。全体としては、TMAEMC/EDGM配合物とアポラス(APorous)支持体との組み合わせが、最も良好な整合性と優れた特性の組み合わせを有しているようであった。
【0080】
実施例6は、上述の前記実験に基づいて作成した配合物を用いて行なった連続機械実験結果を示している。表15に、用いた配合物及び支持体を示す。膜の開発は、10セルの試作品モジュールを試験に使用し得る段階まで進んだ。標準試験における結果を表16に示す。
【0081】
様々な塩濃度において、これらの膜に必要とされる電圧を図1に示す。実施例の膜は、同じ電流密度では、市販の膜よりも必要な電圧が低い、即ち、エネルギー効率が、より優れていることが分かる。このことは、5,000ppm未満の塩濃度のときに特に明白である。見掛けの選択透過性が同程度の場合に抵抗が低いことは、ランダム欠陥が存在しないことを強く示す。
【0082】
関連する実施例では、更に薄い基材を用いた本発明のアニオン膜の一実施態様の実験的製造を行なうことにより、18個の試料を実験的に製造し、欠陥の有無を調べた。見掛けの選択透過性を用いて、膜試料の欠陥を評価した。以下のデータから、見掛けの選択透過性の標準偏差が低く、ランダム欠陥が存在しないことが示される。
・見掛けの選択透過性の平均=93.75%
・標準偏差=0.0031
・配合:TMAEMC 58.1%、EGDM 18.1%、DPG 16.4%、1−プロパノール 6.7%、AIBN 0.7%。基材:テクロン(Teklon)、35μm、空孔率48%。
【0083】
実施例6に関して述べた結果は、前記の配合物及び他の処理条件に限定されるものではなく、本項では、長期に及ぶ困難な実験研究の結果として開発された例外的な電気透析膜の一例を表わすこととも関連している。
【0084】
驚くべきことに、非荷電の中性モノマーを重合配合物に加えることで、更なる改善がなされることが分かった(表17のデータ)。好ましい中性モノマーは、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及び塩化ビニルベンジルである。本発明者らは、これらモノマー及び類似のモノマーが、相分離を抑えて、より均質な架橋ポリマーを生成するものと、考えている。その他のモノマーの例は、これらの例に限定されるものではないが、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート及びヒドロキシプロピルアクリレートである。実施例7の表17は、2つのイオノゲンモノマー(VBTMAC及びTMAEMC)と中性モノマーとしてのヒドロキシエチルアクリレートとを使用し、架橋剤モノマーとしてジビニルベンゼンを用いた、幾つかの配合物について実施した実験結果を示している。結果は、一貫して1Ωcm2未満の、しかも約0.5Ωcm2まで低下した、抵抗値を示している。選択透過性は、92%〜95%までの範囲であった。好ましい支持体は、アポラス(APorous)H6Aであった。
【0085】
上記結果は、更に、アポラス(APorous)支持体膜が抵抗値1.0未満の膜を一貫して与えるのに対して、テクロン(Teklon)3及びソルポア(Solupor)16P10Aの両支持体は1を超える抵抗値を与えるので、妥当な支持体膜を選択することの重要性も表わしている。
【0086】
本発明者らは、重合された膜内に形成される架橋の量のバランスを取ることによって、膜特性を制御している。一般に、架橋度が高いと、高い選択透過性と共に高い抵抗が得られる。逆に、架橋の量が少なすぎると抵抗は低くなるが、選択透過性も低くなる。次の記述に限定するものではないが、本発明者らは、また、重合配合物の特性のいくつかが、結果として得られる膜の特性に影響を及ぼすと考えている。微細孔性基材を用いると、形成されるポリマーのミクロ不均一性が抑えられることにより、膜特性が向上すると考えられる。これは、孔の容積内での制約された架橋ポリマーの形成が原因であり、場合によっては、疎水性の孔壁の表面作用によって増強されるとも考えられる。(親水性)イオノゲンモノマーと疎水性架橋剤とを重合するに際して、疎水性領域と親水性領域とは、それぞれ別個に凝集する傾向がある。エチレングリコールジメタクリレート等の親水性架橋剤を用いた場合であっても、溶液の被膜を高密度基材フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、に適用すると、溶媒が除去されるにつれて、適用された溶液が曇っていくことから、相分離の証拠であると、本発明者らは考えている。本発明者らは、低い抵抗及び高い見掛けの選択透過性という改善された組み合わせが、一部は孔の微細孔寸法によって引き起こされる減速された運動によるものであって、恐らく、孔壁の疎水性引力によって促進されると、考えている。
【0087】
これらの実施例によって示される結論は、1.0Ωcm2未満、更に好ましくは0.5Ωcm2未満、で、しかも90%を超える選択透過性という目標特性を有する膜が製造できることである。CEMについては、同様の目標抵抗について、99%を超える選択透過性が示された。実験からは、支持体を適切に選択することが重要であるが、様々な配合物と様々な支持体とを組み合わせるので、概括的に選択することはできないことが分かる。浸漬時間等のプロセス変数も、また、重要である。膜の開発、特にED膜の開発、に熟練した当業者は、これらの実施例及び本明細書中の教示を利用することによって、標準的な実験手順を用いて、しかも必要以上の実験を行なわずに、目標の特性を有する膜を製造することができるであろう。
【0088】
実験例
以下の実施例は、主題である膜の開発に費やした尽力の度合いを表わすことを意図したものである。研究知見から、所望の特性を有するイオン交換膜が製造できることと、追加実験によって改善が見込まれることが示された。これらの結果は、膜開発に係る分野及び関連分野の当業者に、開発方向を説明し指し示すことを意図したものであって、本明細書に開示された事項の範囲を限定することを意図したものではない。使用した支持体の特性及び供給元を、以下の表1に示す。
【0089】
【表1A】

【0090】
実施例1
処理溶液は、イオン性スルホン化メタクリレート−2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM、CAS番号10595−80−9)及びエチレングリコールジメタクリレート(EGDM、CAS番号97−90−5)に、非反応性溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP、CAS番号873−50−4)及びフリーラジカル重合開始剤2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、CAS番号78−67−1)であるデュポン(DuPont)社製バゾ(VAZO)−64を加えて調製した。次のとおり、配合した。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
膜試験片は、「発明を実施するための形態」の項に記載したアルミニウム皿法で作製した。浸漬時間(重合が開始するまで基材を配合物に入れておく時間)を変えた。抵抗及び選択透過性の結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
実施例2
処理溶液は、イオン性スルホン化メタクリレート−2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM、CAS番号10595−80−9)及びエチレングリコールジメタクリレート(EGDM、CAS番号97−90−5に、より高い比率の非反応性溶媒N−メチルピロリドン(NMP、CAS番号873−50−4)及びフリーラジカル重合開始剤2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、CAS番号78−67−1)であるデュポン(DuPont)社製バゾ(VAZO)−64を加えて調製した。次のとおり、配合した(重量%)。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
膜試験片は、「発明を実施するための形態」の項に記載したアルミニウム皿法で作製した。浸漬時間(重合を開始するまで基材を配合物に入れておく時間)を変更した。抵抗及び選択透過性の結果を表2に示す
【0099】
2−SEM/EGDM/NMP@40%NP配合のこのバッチは、溶液不安定性と一致する性質を示し、これは一晩浸漬後に現れた。
【0100】
追加の実施例
【表6A】

【0101】
【表6B】

【0102】
【表7】

【0103】
実施例3
【表7A】

【0104】
テクロン(Teklon)試料(25インチ×25インチ)に、186−76−2配合物を1.5時間、飽和させた。次いで、第二配合物(186−77−2)を作製して、前記飽和させたテクロン試料(25インチ×25インチ)を186−77−2に、更に1時間、浸漬した。
【0105】
次に、それを大きなPETフィルム片上に載置し、伸して気泡を抜き、浸漬処理したテクロンを2回折り畳んで、小さなストリップとした。折り畳んだテクロンを伸して、再度、気泡を抜いた。次に、4つに折り畳んだテクロンストリップに別のPET片を被せ、伸して気泡を抜いた。テクロン/PETサンドイッチ構造体を直径4インチのシリンダー内に巻き取って、80℃のオーブンで1時間硬化させた。こうして作製した25インチ×25インチのCEMを、0.5N NaCl中で、一晩、調湿した。
【0106】
表8には、25インチ×25インチのCEMから打抜いた9枚の試料片の抵抗及び選択透過性測定値を示す。
【0107】
【表8】

【0108】
実施例4
この一連の試料は、以下の配合を用いて通常の方法で作製した。結果を表9に示す。
【0109】
【表9】

【0110】
中性モノマーHOEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)を用いた関連実験も行なった。溶液組成を表9Aに示す。膜の結果を表10Aに示す。
【0111】
【表9A】

【0112】
【表10】

【0113】
【表10A】

【0114】
実施例5
アニオン交換膜を作製するために使用する架橋剤の種類及び支持体を変えて一連の実験を行なった。結果を表11に示す。配合は、いずれも、TMAEMC 16.1%、DPG 6.8%、N−プロパノール 3.6%、架橋剤 18.8%及びバゾ(VAZO)0.6%であった。コーティング配合物/支持体欄においては、使用した架橋剤名を挙げている。
【0115】
【表11】

【0116】
一連の追加実験は、幾つかの支持体上で、モノマー/架橋剤の組み合わせを変えた配合物を用いて行なった。配合の詳細を表12に示す。
【0117】
【表12】

【0118】
表12の実施例のための配合物を以下に示す。表14には、使用した略称を示している。
【0119】
【表13】

【0120】
【表14】

【0121】
実施例6
本実施例における比較によって、本質的に無欠陥の膜の追加証拠を示す。本明細書における前記説明に従って作製した膜を、より厚い(120〜160μm)市販の電気透析膜と比較検討した。これらの膜に用いた配合を表14に示す。
【0122】
【表15】

【0123】
これらの膜を、10セルの電気透析モジュールにおいて、電流密度88A/m2で試験した。以下に示す結果からは、匹敵する見掛けの選択透過性において、抵抗がより低いことが分かる。供給溶液は、NaClから作製したものであって、良好な実験用海水代替物と考えられている。
【0124】
本発明の膜の特性:
・カチオン種:平均抵抗=0.9163Ωcm2、標準偏差=0.42Ωcm2、見掛けの選択透過性の平均=104%
・アニオン種:平均抵抗=0.8132Ωcm2、標準偏差=0.35Ωcm2、見掛けの選択透過性の平均=93.5%
【0125】
市販の膜の特性:
・カチオン種:抵抗=約2.8Ωcm2、見掛けの選択透過性=94%
・アニオン種:抵抗=約2.8Ωcm2、見掛けの選択透過性=104%
【0126】
【表16】

【0127】
実施例7
【表17】

【0128】
驚くべきことに、非電荷の中性モノマーを重合配合物に加えることで更に改善されることが分かった。好ましいモノマーは、ヒドロキシエチルアクリレートと塩化ビニルベンジルである。本発明者らは、これらモノマー及び類似のモノマーが、相分離を抑えて、より均質な架橋ポリマーをもたらすと、考えている。中性モノマーの他の例は、これらの例に限定されるものではないが、例えば、グリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート及び塩化ビニルベンジル等である。
【0129】
膜の面積抵抗及び見掛けの選択透過性の特性評価をするための実験手順
膜の抵抗及び対イオン輸率(選択透過性)は、電気化学セルを用いて測定することができる。この卓上試験によれば、小さな試料片を用いて、非常に有効かつ迅速な実験が行なえる。本項では、その装置と手順とを説明する。
【0130】
実験準備
(1)ソーラートロン(Solartron)1280電気化学測定装置
ソーラートロン1280電気化学測定装置により、セルの両側の2枚の白金電極間に電流を印加して、膜を隔てた電圧降下を測定することができる。この装置は、作用電極(WE)、対電極(CE)並びに参照電極(RE1及びRE2)の4つのコネクタを有している。CEとWEは、電流を印加するのに用いられ、RE1とRE2は電圧降下の測定に用いられる。
【0131】
(2)参照電極
膜の特性評価に用いた参照電極(図1の挿入図参照)は、R&Dラボ(R&D Lab)製である。4分の1インチのガラス棒を、軟化してから、図示した形になるように曲げて伸ばす。このチップに、多孔性プラグを挿入して、溶液の流れを低速に制御する。
【0132】
銀/塩化銀ワイヤは、毎日試験する毎に新たに作製する。0.1N HCl溶液に浸漬した白金ワイヤカソード及び銀ワイヤアノードに、電源及び電流計で2〜3mAの電流を印加して制御する。数分後、銀ワイヤが黒色化し始めて、表面にAgCl層が形成されたことを示した。参照電極管に入れる溶液は、1.0M KCl溶液である。溶液が多孔性チップから漏れるので、実験中は、KClを頻繁に(約20分毎)添加する必要がある。
【0133】
(3)膜試験セル
図2は、膜の抵抗及び対イオン選択透過性の測定実験で用いる、精密電気化学試験セル10の構造を表わしている。膜は、ダイカッターを用いてディスク状にカットする。参照電極は、試験膜14を隔てた電圧降下をモニターするために使用し、2枚の白金ディスク16は、膜に電流を印加するために使用する。セル10の円筒状経路の断面積は、約7.0cm2である。
【0134】
(4)溶液
どの溶液も、有効数字で示した定量値で準備する必要がある。これには、0.500N NaCl、1.0N HCl及び1.0N NaOHが挙げられる(腐食性、プラスチック製の容器又は容量フラスコ使用)。0.5N Na2SO4は、電極コンパートメントを、塩素ガスを発生させずに、供給するために用いられる。
【0135】
3−III. 測定手順
(1)抵抗測定
本項でいう抵抗とは、面積抵抗(Ωcm2)を指す。測定には3つの段階がある。
(a)電極の位置決め
測定に先立って、参照電極の水平位置を定める。参照電極の位置決めのために、膜の代替物として、硬質プラスチックディスクを使用する。プラスチックディスクとぴったりと接触するように各参照電極を調節して、それぞれの位置を2個の留めネジで固定する。
【0136】
(b)溶液伝導度の測定
次に、プラスチックディスクを取り除き、0.50mmのプラスチックブロックを2つ外すことにより、2枚の参照電極間が1.0cm離れるようにした。ソーラートロン(Solartron)1280を用いて、電流(約10〜50mA)を印加したときの、2枚の参照電極間の電圧降下を記録する。2枚の参照電極間の距離(ここでは、1.00cm)、電流密度(10.00mA)及び電圧(0.1mVの精度まで)を用いて、溶液(典型的には、0.50N NaCl)の伝導度を求めた。
【0137】
(c)膜抵抗の測定
次いで、膜試料を試料スライダーにより載置して、電圧及び電流を再度測定する。膜の抵抗は、手順(b)で測定した溶液の抵抗よりも小さな全抵抗値である。
【0138】
(2)対イオンの選択透過性(輸率)
測定手順は、以下のとおりである。
(a)参照電極の位置決め
参照電極の位置決めは、抵抗測定項(a)の記載と同様にして行なう。本試験で求められる電圧は、理論上、距離とは無関係なため、参照電極の位置は、おおよその位置であってよいが、その位置は、できる限り再現性良く配置するのが望ましい。
【0139】
(b)溶液:
膜試料をスライダーに取り付けた後、試験用の膜で仕切られたセルの右側部分には0.500N NaCl溶液を、セルの左側部分には0.250N NaClを流し込む。
【0140】
(c)電圧の測定
白金電極に取り付けた電圧計を用いて、電圧を(電流を印加せずに)測定して、データをスプレッドシートに入力して対イオンの選択透過性を求めた。
【0141】
3−IV. 計算例:
C=伝導度(ジーメンス/cm)
ρ=抵抗(オーム/cm)
R=抵抗率(オームcm2又はΩcm2
A=面積(cm2
U、V=電圧測定値(mV)
I=電流測定値(mA)
L=参照電極間の距離
【0142】
(1)伝導度
参照電極間の距離が1.00cmの場合について、測定された電流10.00mA及び33.1mVにおける0.500M NaClの溶液伝導度は、次の式で求められる。
【0143】
【数1】

【0144】
(2)面積抵抗
膜の面積抵抗を算出するには、溶液の抵抗を差引く必要がある。電位測定値が38.0mVのCMX膜の場合、面積抵抗は、次の式で求められる。
【0145】
【数2】

【0146】
(3)選択透過性(輸率)
カチオン(+)又はアニオン(−)膜のT±は、次の式で求められる。
【0147】
【数3】

これを整理すると、次のようになる。
【0148】
【数4】

【0149】
前記式中、Vは、参照電極の電圧測定値であり、Rは、気体定数(8.314ジュールK-1モル-1)であり、Tは、溶液のケルビン温度であり、Fは、ファラデー定数(96,480クーロン/モル)であり、aR及びaLは、セル内の膜の両側に入れた溶液の濃度(活量)である。
【符号の説明】
【0150】
10 精密電気化学試験セル
14 試験膜
16 白金ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性第1面及び多孔性第2面並びに前記第1面から前記第2面へ向かって延びる連続多孔性構造を有する微細孔膜支持体と、前記多孔性構造に実質的に完全に充填されたイオン輸送性架橋ポリマーとを、含んでなる電気透析用イオン交換膜であって、
前記ポリマーが、前記多孔性構造内に形成され、
a.単官能イオノゲンモノマーと多官能モノマーとの重合生成物、又は
b.1つ以上のイオノゲンモノマーと中性モノマーと多官能架橋性モノマーとの重合生成物
を含んでなるものである、電気透析用イオン交換膜。
【請求項2】
前記多孔性の支持体の厚さが、約55ミクロンを超え、約155ミクロン未満である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記多孔性の支持体の厚さが、約20ミクロンを超え、約55ミクロン未満である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
前記微細孔支持体が、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリフッ化ビニリデンを含んでなる、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
前記イオン輸送性ポリマーがカチオン輸送ポリマーである、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と適切な架橋性モノマーとの重合によって生成されてカチオン交換膜を形成したものである、請求項5に記載のイオン交換膜。
【請求項7】
前記架橋剤がエチレングリコールジメタクリレートである、請求項6に記載のイオン交換膜。
【請求項8】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と中性モノマーと適切な架橋性モノマーとの重合によって生成されてカチオン交換膜を形成したものである、請求項5に記載のイオン交換膜。
【請求項9】
前記中性モノマーがヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシメタクリレートである、請求項8に記載の膜。
【請求項10】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項11】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗及び約95%を超える選択透過性を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項12】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗及び約99%を超える選択透過性を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項13】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項14】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗及び約95%を超える選択透過性を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項15】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗及び約99%を超える選択透過性を有するものである、請求項5に記載のカチオン交換膜。
【請求項16】
前記イオン輸送性ポリマーがアニオン輸送ポリマーである、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項17】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、エチレングリコールジメタクリレートで架橋されたトリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライドの重合によって生成されるものである、請求項16に記載のアニオン交換膜。
【請求項18】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライドと、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドと、ジビニルベンゼンで架橋された中性モノマーとの、重合によって生成されるものである、請求項16に記載のアニオン交換膜。
【請求項19】
前記中性モノマーがヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシメタクリレートである、請求項18に記載のアニオン交換膜。
【請求項20】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項15に記載のアニオン交換膜。
【請求項21】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗及び約94%を超える選択透過性を有するものである、請求項15に記載のアニオン交換膜。
【請求項22】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項16に記載のアニオン交換膜。
【請求項23】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗及び約94%を超える選択透過性を有するものである、請求項16に記載のアニオン交換膜。
【請求項24】
適切な多孔性基材を選択する工程と、
前記基材の多孔性領域を、単官能イオノゲンモノマーと多官能モノマーと重合開始剤とを含む溶液又は1つ以上のイオノゲンモノマーと中性モノマーと多官能架橋性モノマーとを含んでなる溶液で、飽和させる工程と、
前記多孔性容積を溶液で飽和させたまま、前記基材の前記表面から余剰の溶液を除去する工程と、
場合により酸素が実質的に存在しない状態で、熱、紫外線又は電離放射線を適用することによって重合を開始してイオン輸送性架橋ポリマーを生成させることによって、前記基材の孔に実質的に完全に充填させる工程と、
を備えてなる、電気透析に使用できるイオン交換膜の製造方法。
【請求項25】
前記多孔性支持体が、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリフッ化ビニリデンを含んでなるものである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記多孔性の支持体の厚さが約55ミクロンを超え約155ミクロン未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記多孔性の支持体の厚さが約20ミクロンを超え約55ミクロン未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記イオン交換膜がカチオン交換膜である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と適切な架橋性モノマーとの重合によって生成されるものである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記架橋剤がエチレングリコールジメタクリレートである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、2−スルホエチルメタクリレート(2−SEM)又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と中性モノマーと適切な架橋性モノマーとの重合によって生成されてカチオン交換膜を形成したものである、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記中性モノマーがヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシメタクリレートである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記イオン交換膜がアニオン交換膜である、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、エチレングリコールジメタクリレートで架橋されるトリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライドの重合によって生成されてアニオン交換膜を形成したものである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライドと、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドと、ジビニルベンゼンで架橋された中性モノマーと、の重合によって生成されたものである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記中性モノマーがヒドロキシエチルアクリレート又はヒドロキシメタクリレートである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
多孔性第1面及び多孔性第2面並びに前記第1面から前記第2面へ向かって延びる連続多孔性構造を有する微細孔膜支持体と、前記多孔性構造に実質的に完全に充填されたイオン輸送性架橋ポリマーとを、含んでなる、電気透析用イオン交換膜であって、
前記ポリマーが、前記多孔性構造内に形成され、
a.ポリアミンとビニル芳香族ハロゲン化物とから生成される第四級塩の重合生成物、又は
b.適切なモノマーで架橋された、環状エーテルとポリアミンとの反応生成物
を含んでなる、前記電気透析用イオン交換膜。
【請求項38】
前記多孔性支持体の厚さが約55ミクロンを超え約155ミクロン未満である、請求項37に記載のイオン交換膜。
【請求項39】
前記多孔性の支持体の厚さが約20ミクロンを超え約55ミクロン未満である、請求項37に記載のイオン交換膜。
【請求項40】
前記微細孔支持体が、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリフッ化ビニリデンを含んでなる、請求項37に記載のイオン交換膜。
【請求項41】
前記イオン輸送性架橋ポリマーが、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロライド)(N,N,N’,N’,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンと塩化ビニルベンジルとの第四級塩)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロライド)(1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)と塩化ビニルベンジルとの第四級塩)又は適切な架橋剤モノマーで架橋されたグリシジルメタクリレート/N,N−ジメチルエチレンジアミン反応生成物の重合によって生成されてアニオン交換膜を形成したものである、請求項37に記載のイオン交換膜。
【請求項42】
前記架橋剤がエチレングリコールジメタクリレートである、請求項41に記載のイオン交換膜。
【請求項43】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項37に記載のアニオン交換膜。
【請求項44】
前記膜が約1.0オームcm2以下の抵抗及び約90%を超える選択透過性を有するものである、請求項37に記載のアニオン交換膜。
【請求項45】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗を有するものである、請求項37に記載のアニオン交換膜。
【請求項46】
前記膜が約0.5オームcm2以下の抵抗及び約90%を超える選択透過性を有するものである、請求項37に記載のアニオン交換膜。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−503038(P2013−503038A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526976(P2012−526976)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/046777
【国際公開番号】WO2011/025867
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(508375446)シーメンス ピーティーイー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS PTE LTD.
【Fターム(参考)】