説明

イオン加工装置

【課題】 基材ホルダの着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオン加工装置を提供する。
【解決手段】 その内部で電力を用いて基材へのイオン加工を行うための導電性の真空チャンバ1と、前記真空チャンバの内部に配設され前記基材が装着される導電性の基材ホルダ8と、前記真空チャンバの内部に前記電力を導入しかつ前記基材ホルダを回動自在に支持するための電力導入体5と、前記基材ホルダを前記真空チャンバの内部で反転させるための反転構造9と、前記電力導入体に電気的に接続され該電力導入体に前記電力を供給するための電源16,17とを備えるイオン加工装置100であって、前記電力を前記電力導入体から前記基材ホルダに供給するための給電構造101を有し、前記電源から前記電力導入体を介して前記真空チャンバの内部に導入される前記電力が前記反転構造により反転可能な前記基材ホルダに対して前記給電構造を介して実質的に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で成膜するイオン加工装置に関し、特に、高周波電力を供給してプラズマを発生させることで基材の表面に薄膜を成膜するイオン加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス基材又は樹脂基材等の基材の表面に薄膜を積層して反射防止膜等の光学膜を形成するための成膜装置として、イオン加工装置が用いられている。
【0003】
このイオン加工装置としては、例えば、イオンプレーティング装置が好適に用いられている。このイオンプレーティング装置は、その内部を実質的な真空状態に維持することが可能な真空チャンバを有している。そして、この真空チャンバの内部の下方には、薄膜形成材料を蒸発させるための蒸発源が配設されている。又、この真空チャンバの内部の上方には、上述した蒸発源に対向するようにして、基材を装着するための基材ホルダが配置されている。ここで、この基材ホルダの背面の中央部には回転軸が取り付けられており、この回転軸は真空チャンバの天井壁を貫通して該真空チャンバの上部に配設された回転駆動装置に接続されている。つまり、基材ホルダは、真空チャンバの内部において、回転軸及び回転駆動装置によって回転自在に保持されている。尚、上述した回転軸及び回転駆動装置を衝撃等による破損から保護するために、それらは真空チャンバの一部とハウジングとによって完全に包囲されている。
【0004】
一方、このイオンプレーティング装置は、高周波電力を供給可能な高周波電源と、バイアス電圧を印加可能な直流電源との、2種類の電源装置を有している。そして、これらの高周波電源及び直流電源と上述した基材ホルダとは、所定の導通手段によって、相互に電気的に接続されている。ここで、高周波電源及び直流電源と基材ホルダとは、基材ホルダが回転駆動装置によって回転駆動される場合においても導通状態を有するように、相互に電気的に接続されている。つまり、このイオンプレーティング装置は、回転駆動される基板ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高周波電源及び直流電源から供給及び印加することが可能となるように構成されている。尚、高周波電源と基材ホルダとの間にはマッチング回路が設けられており、このマッチング回路によって高周波電源と基材ホルダとの高周波的な接続状態が最適化される。これにより、基材ホルダに対する高周波電力の供給状態が最適化される。
【0005】
さて、このように構成されているイオンプレーティング装置では、基材ホルダにガラス基材又は樹脂基材等の基材が取り付けられ、かつ真空チャンバの内部が所定の真空状態とされた後、回転駆動装置を動作させて基材を回転させると共に、高周波電源及び直流電源を動作させる。すると、回転駆動される基材ホルダに対して、高周波電源及び直流電源から高周波電力及びバイアス電圧が供給及び印加される。これにより、真空チャンバの内部に高周波電界が形成されると共に、基材ホルダと真空チャンバとの間にバイアス電界が発生する。その後、真空チャンバの内部に配設された蒸発源から薄膜形成材料を蒸発させると、その蒸発した薄膜形成材料が上述した高周波電界によって発生するプラズマにより励起され、この励起された薄膜形成材料が上述したバイアス電界によって加速されて、基材の表面に衝突して強固に付着する。これにより、基材上には強い密着力を有する薄膜が成膜される。そして、薄膜形成材料の種類を変えながらこの成膜を所定の回数行うことにより、基材上には薄膜が多層状に積層される。つまり、基材上に反射防止膜等の光学膜が形成される。
【0006】
ところで、全面に反射防止膜等の光学膜が成膜された光学部材を製造するためには、基材における表裏の両面にその反射防止膜等の光学膜を各々成膜する必要がある。しかし、上述した従来のイオンプレーティング装置では、基材ホルダは、基材の表裏に光学膜を成膜するための基材反転機構を有していない。つまり、従来のイオンプレーティング装置を用いて上述した光学部材を製造するためには、基材の一方の面に光学膜を成膜した後に真空チャンバの内部の圧力を大気圧に戻し、その大気圧に戻された真空チャンバから基材が装着されている基材ホルダを取り出し、その取り出した基材ホルダ上で基材を裏返して非成膜面を露出させるように基材ホルダに再び装着し、その基材が装着された基材ホルダを再び真空チャンバの内部に搬入及び装着し、その後、真空チャンバの内部を再び所定の真空状態として基材の他方の面に光学膜を成膜する必要がある。この場合、基材の一方の面に光学膜を成膜した後に、この一方の面に光学膜が成膜された基材を大気に接触させることになるので、その光学膜の表面又は非成膜面に大気中に浮遊する塵や埃等の異物が付着することがある。この光学膜の表面又は非成膜面への塵や埃等の異物の付着は、成膜する薄膜間の密着性の悪化や、成膜される光学膜の光学特性を悪化させる等の成膜品質の低下を引き起こす可能性がある。
【0007】
又、上述した基材の向きを変えるための一連の反転操作を行うためには、真空チャンバの内部の圧力を大気圧に戻すための過程や、その大気圧に戻された真空チャンバの内部の圧力を再び所定の真空状態とするための過程や、大気に接触させることにより吸着された水分を基材の表面から除去するための加熱過程等が必要となる。そのため、基材に反射防止膜等の光学膜を成膜するための総工程時間が長くなる。そして、これにより、上述した光学部材の生産効率が著しく悪化するという問題が発生する。
【0008】
そこで、上述した基材の表裏の両面に反射防止膜等の光学膜を有する光学部材を効率良く生産するために、基材ホルダを真空チャンバの内部で反転させることが可能な基材ホルダ反転機構を設け、この基材ホルダ反転機構によって上述した光学部材を効率良く生産することが可能な真空蒸着装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この基材ホルダ反転機構を有する真空蒸着装置によれば、成膜中において基材ホルダ反転機構を動作させることによって基材を180°反転させることにより、真空チャンバの内部の圧力を大気圧とするための減圧や、その表面に吸着された水分を除去するための基材の加熱を行うことなく、基材の表裏の全面に反射防止膜等の光学膜を成膜することが可能になる。又、基材ホルダ反転機構が機能することによって真空チャンバが閉鎖された状態で維持されるので、基材の一方の面に対する光学膜の成膜が完了した後、その光学膜が成膜された基材が大気と接触することは無い。つまり、基材に反射防止膜等の光学膜を成膜するための総工程時間が短縮されると共に、その光学膜の表面や非成膜面への塵や埃等の異物の付着を防止することが可能になるので、成膜品質の良い良好な光学特性を有する光学部材を効率良く生産することが可能になる。
【特許文献1】特開平5−271935号公報(特に、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した基材ホルダ反転機構を用いてイオンプレーティング装置を構成する場合、反転可能な基板ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高周波電源及び直流電源から供給及び印加するためには、基材ホルダを反転させるために該基材ホルダが有する回転軸体と、その回転軸体を支持するための軸受け体との間で、高周波電源及び直流電源が出力する高周波電力及びバイアス電圧の伝達を行う必要がある。そして、この高周波電力及びバイアス電圧を上述した軸受け体から回転軸体に対して好適に伝達させるためには、その軸受け体と回転軸体との電気的な接触を安定にかつ十分に確保する必要がある。
【0011】
しかしながら、真空チャンバの内部における基材ホルダの反転駆動は、上述した軸受け体と回転軸体との金属同士の摺動によって実現されるため、その軸受け体と回転軸体との間には所謂「遊び」がある。そして、この軸受け体と回転軸体との間の「遊び」は、軸受け体と回転軸体とが接触する部分の接触面積を変化させる場合があり、従って、軸受け体と回転軸体との接触抵抗(インピーダンス)を変化させる場合がある。そのため、軸受け体と回転軸体との電気的な接触を阻害する場合がある。
【0012】
又、軸受け体と回転軸体との金属同士の摺動を好適に実現するためには、その軸受け体と回転軸体との間にグリース等の潤滑剤を充填させることが望ましい。しかし、この充填されるグリース等の潤滑剤は、所定の潤滑油に金属せっけんが混和され構成されており、通常、電気絶縁性を有している。そのため、この潤滑剤が充填される構成においては、潤滑剤によって軸受け体と回転軸体との接触抵抗(インピーダンス)が変化する場合があるので、軸受け体と回転軸体との電気的な接触が阻害される場合がある。
【0013】
つまり、上述した基材ホルダ反転機構を単に導入した構成のイオンプレーティング装置では、真空チャンバの内部に配置される基材ホルダに対して高周波電源及び直流電源から高周波電力及びバイアス電圧を供給及び印加すること自体は可能であるが、その高周波電力及びバイアス電圧を基材ホルダに供給及び印加する際の供給品質(印加品質)を安定にかつ十分に確保することが不可能であるという問題を有している。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、基材ホルダの着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオン加工装置(特に、イオンプレーティング装置)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るイオン加工装置は、その内部で電力を用いて基材へのイオン加工を行うための導電性の真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に配設され前記基材が装着される導電性の基材ホルダと、前記真空チャンバの内部に前記電力を導入しかつ前記基材ホルダを回動自在に支持するための電力導入体と、前記基材ホルダを前記真空チャンバの内部で反転させるための反転構造と、前記電力導入体に電気的に接続され該電力導入体に前記電力を供給するための電源とを備えるイオン加工装置であって、前記電力を前記電力導入体から前記基材ホルダに供給するための給電構造を有し、前記電源から前記電力導入体を介して前記真空チャンバの内部に導入される前記電力が前記反転構造により反転可能な前記基材ホルダに対して前記給電構造を介して実質的に供給される(請求項1)。かかる構成とすると、電源が出力する電力が給電構造を介して基材ホルダに実質的に供給されるので、基材ホルダに対する電力の供給品質が改善される。又、反転可能に配設されている基材ホルダに対する電力の供給品質が改善される。
【0016】
上記の場合、前記基材ホルダが該基材ホルダに電気的に接続されかつ該基材ホルダの反転軸と同軸状に配設された導電性の受電軸体を有し、前記給電構造が前記電力導入体に電気的に接続された導電性の給電ブラシを有し、前記給電ブラシと前記受電軸体との接触により、前記電源から前記電力が前記基材ホルダに対して供給される(請求項2)。かかる構成とすると、電力が給電ブラシ及び受電軸体を介して基材ホルダに供給されるので、反転可能に配設されている基材ホルダに対する電力の供給品質を大幅に改善することが可能になる。
【0017】
この場合、前記給電ブラシが平面状の給電面を備えかつ前記受電軸体が平面状の先端面を備え、前記給電面と前記先端面とが摺動自在に構成されている(請求項3)。かかる構成とすると、給電面と先端面とが摺動することにより接触面積が一定となるので、電力を安定して基材ホルダに対して供給することが可能になる。
【0018】
又、この場合、前記給電ブラシが前記給電構造の内部で回動不能に配設されている(請求項4)。かかる構成とすると、基材ホルダの回動に伴う給電ブラシの回動が防止されるので、給電ブラシと電力導入体との電気的な接続を容易に確保することが可能になる。
【0019】
又、この場合、前記給電ブラシが前記給電構造の内部で変位可能に配設されている(請求項5)。かかる構成とすると、給電ブラシが変位可能に配設されているので、給電ブラシと受電軸体との電気的な接触を容易に確保することが可能になる。
【0020】
上記の場合、伸縮可能なバネ体を前記給電構造の収容部内に摺動自在に有し、前記バネ体の反発力により前記給電ブラシが前記受電軸体に対して付勢されている(請求項6)。かかる構成とすると、給電ブラシが受電軸体に対して付勢されていることにより、それらの電気的な接触状態が改善されるので、給電ブラシと受電軸体との電気的な接触状態を確実にかつ安定状態において確保することが可能になる。
【0021】
又、上記の場合、前記電源としての高周波電力を供給可能な高周波電源と直流電力を供給可能な直流電源とを有し、前記高周波電力及び前記直流電力が前記真空チャンバの内部で前記電力導入体から前記給電構造を介して前記基材ホルダに対して供給されて前記基材に成膜する(請求項7)。かかる構成とすると、高周波電力及び直流電力が給電構造を介して基材に対して好適に供給されるので、基材の表裏の両面に対する光学膜の成膜を容易に実施することが可能になる。又、かかる構成により、密着強度が確保された高品質の光学部材を容易に製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上に述べたような解決手段によって実施され、基材ホルダの着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオン加工装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
本実施の形態では、イオン加工装置として、基材の表面に薄膜を成膜するイオンプレーティング装置を例示している。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の構成を模式的に示す構成図である。又、図2は、図1に示すイオンプレーティング装置の基材ホルダ及び基材ホルダ反転機構の周辺部の構成を模式的に示す平面図である。尚、図1及び図2では、複数配設されている基材ホルダの内の1枚が垂直に配置されている状態を示している。
【0026】
先ず、図1及び図2を参照しながら、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の構成の概略について説明する。
【0027】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置100では、導電性の材料からなる真空チャンバ1の内部に、蒸発材料2a(薄膜形成材料)を蒸発させる蒸発源2が配設されている。又、図1及び図2に示すように、この蒸発源2に対向するようにして、導電性の材料からなる基材ホルダ8が複数配置されている。ここで、蒸発源2は、蒸発材料2aを入れるボート2bの外周に、加熱用電源4に接続された加熱用コイル3が配設されてなる。
【0028】
一方、図1及び図2に示すように、複数個の基材ホルダ8は、各々が略一定の厚みを有するリング状に形成された第1のリング部材5及び第2のリング部材7が用いられて支持されている。ここで、第1のリング部材5の直径(最外径)は、第2のリング部材7の直径(最外径)よりも小さい。又、この第1のリング部材5と第2のリング部材7とは、その本体が略一定の幅に形成された8本の支持部材6によって、同一中心軸を有するように相互に連結されている。基材ホルダ8は、これらの第1のリング部材5と第2のリング部材7と支持部材6とで囲まれる領域と略相似の形状を有しており、その領域内において第1のリング部材5と第2のリング部材7とが用いられて各々配置及び支持されている。
【0029】
又、第1のリング部材5の背面には、導電性部材と絶縁性部材とを有し後述する回転軸19を主体としてなる回転軸体11が接続されている。この回転軸体11は真空チャンバ1の上壁部1aを貫通して外部に延びるように配設されており、回転軸体11の上壁部1aから先端に至る部分(以下、突出部という)は、回転駆動装置12によって回転駆動され得るように配設されている。ここで、回転駆動装置12は、真空チャンバ1の上壁部1a上における所定の位置に配設されている。又、図1に示すように、上述した回転軸体11の突出部と回転駆動装置12とを覆うようにして、ハウジング13が配設されている。又、このハウジング13の所定の位置には、基材ホルダ8に対して高周波電力及びバイアス電圧を供給及び印加するための給電部14が設けられている。この給電部14には、高周波電力及びバイアス電圧を供給及び印加するためのケーブル18が所定の接続手段によって接続されている。尚、このケーブル18の給電部14に接続されていない端部は、直流ブロッキングコンデンサCo又は高周波ブロッキング用チョークコイルLoを介して、マッチング回路15及び高周波電源16又は直流電源17に接続されている。
【0030】
又、図1及び図2に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置100では、成膜中において基材ホルダ8を反転させるために機能する進退機構10が設けられている。ここで、図1及び図2に示すように、この進退機構10は、真空チャンバ1の側壁における所定の位置に配設されている。又、図1及び図2に示すように、このイオンプレーティング装置100では、進退機構10の機能に基づいて基材ホルダ8を実質的に反転駆動させるための基材ホルダ反転機構9が設けられている。本実施の形態では、これらの進退機構10及び基材ホルダ反転機構9が機能することによって、基材ホルダ8が成膜中において反転可能とされている。
【0031】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の構成について詳細に説明する。
【0032】
図3は、図1に示すイオンプレーティング装置の回転駆動部及び給電部の構成を拡大して示す縦断図である。又、図4は、図3におけるIV−IV線に沿った断面構成を模式的に示す横断図であって、図4(a)は全体の構成を示す横断図であり、図4(b)は給電部を拡大して示す横断図である。尚、図4においては、給電構成を明確にするため、給電部及びカーボンブラシ及び絶縁板を付記している。
【0033】
図3に示すように、回転軸体11の突出部に設けられた電極リング30(第1の給電部材)に電力伝達構造体たるカーボンブラシ14a(第2の給電部材)が直接かつ電気的に接触するようにして、電力を供給するための給電部14が配設されている。この給電部14は、フッ素樹脂等の電気絶縁性材料からなる絶縁板36の上部に、所定の固定手段により固定されている。この給電部14を固定するための絶縁板36は、絶縁板固定部材固定ボルト32aによりハウジング13に固定された絶縁板固定部材32によって、ハウジング13上に固定されている。つまり、これによって、給電部14とハウジング13とが、相互に電気的に絶縁された状態に保持されている。そして、上述したように、給電部14は、ケーブル18を通じて直流ブロッキングコンデンサCo及び高周波ブロッキング用チョークコイルLoに接続されている。ここで、図1に示すように、直流ブロッキングコンデンサCoは、マッチング回路15を介して高周波電源16に接続されている。又、高周波ブロッキング用チョークコイルLoは、直流電源17に接続されている。尚、高周波電源16の所定の端子、直流電源17の正極側端子、及び真空チャンバ1は、各々接地されている。
【0034】
又、上述したように、この給電部14及び絶縁板36の所定の部分と、回転軸体11の突出部と、回転駆動装置12とを覆うようにして、導電性の材料からなるハウジング13が配設されている。このハウジング13は、上端が閉鎖され下方が開放された略円筒形状を有している。そして、このハウジング13は、真空チャンバ1の上壁部1aによってその下方から支持されると共に、その上壁部1a上に所定の固定手段によって固定されている。尚、ハウジング13は、真空チャンバ1と電気的に接続されている。つまり、このハウジング13も、接地状態とされている。
【0035】
又、図3に示すように、導電性を有する基材ホルダ8の一方は、その基材ホルダ8が有する回転軸体8aの一方が後述する給電機構101によって支持されることにより、第1のリング部材5上で保持されている。ここで、給電機構101は、導電性の材料によって構成されている。又、第1のリング部材5は、固定ボルト5bによって導電性を有する支柱23に導通状態で固定されている。又、この支柱23は、特に図示されない所定の固定手段によって、導電性を有する下部リング22に導通状態で固定されている。又、この下部リング22は、電気絶縁性を有する絶縁支柱21(第1の絶縁部材)を介して、特に図示されない所定の固定手段によって導電性を有する上部リング20に絶縁状態で固定されている。そして、この上部リング20は、導電性を有する回転軸19の下端に、特に図示されない所定の固定手段により導通状態で固定されている。本実施の形態では、回転軸19は、中空の円筒状の形状を有している。
【0036】
一方、図3及び図4に示すように、回転軸19の上部の外周には、フッ素樹脂等の電気絶縁性材料からなる絶縁リング29(第2の絶縁部材)が嵌入されている。この絶縁リング29は、略水平方向に延びる底部29aと、略垂直方向に延びる壁部29bとを有して一体成形されている。又、この絶縁リング29の外周には、導電性を有する電極リング30が嵌入されている。この電極リング30は、その下端が上述した底部29aの上面に接するようにして、絶縁リング29の外周上に所定の固定手段により固定されている。ここで、上述した絶縁リング29は、その上端面がスぺーサ固定ボルト31aによって回転軸19に固定されたスぺーサ31の下端により回転軸19に押さえ付けられるようにして、回転軸19に対して固定されている。
【0037】
又、図3に示すように、電極リング30と絶縁リング29と回転軸19とを略水平方向に貫通するようにして、導電性を有する電極軸27が配設されている。この電極軸27は電極リング30とは電気的に導通しており、反対に、回転軸19に対してはフッ素樹脂等の電気絶縁性材料からなる電極軸カバー28によって電気的に絶縁されている。そして、電極軸27の先端部には、略矩形の形状を有する電極プレート24の上端部が上端固定ボルト24bによって導通状態で固定されている。又、この電極プレート24は回転軸19の内部を下方に延び、上部リング20を貫通して下端部が下端固定ボルト24aによって下部リング22から突出している電極22aに導通状態で固定されている。つまり、このように構成されることによって、電極リング30と第1のリング部材5とが電気的に導通した状態に保持されている。つまり、電極リング30と基材ホルダ8とが電気的に導通した状態に保持されている。又、第1のリング部材5及び基材ホルダ8と、回転軸19及びハウジング13及び真空チャンバ1とが電気的に絶縁された状態に保持されている。
【0038】
又、図3及び図4に示すように、電極プレート24は、その所定の部分が所定の形状を有しかつ電気絶縁性を有する二つの電極プレートカバー25によって覆われている。又、電極プレート24を覆う電極プレートカバー25は、その所定の部分がSUS板カバー26によって覆われている。これにより、電極プレート24と、回転軸19及び上部リング20とは、電気的に絶縁された状態に保持されている。ここで、SUS板カバー26は、上部リング20と電気的に接続されている。つまり、SUS板カバー26は、回転軸19及び真空チャンバ1とも電気的に接続されている。従って、このSUS板カバー26は接地されている。
【0039】
以上、上記の如くして、回転軸19を主体としてなる前述した回転軸体11が構成されている。そして、この回転軸体11は、ハウジング13と回転軸19との間に配設された上部軸受け33a及び下部軸受け33bによって、ハウジング13に対して回転中心C1を回転中心とするように回転自在に固定されている。又、回転軸19とハウジング13との間には、複数のオイルシール35が設けられている。これにより、真空チャンバ1の内部は、所定の真空状態に保持されるようになる。又、回転軸体11における回転軸19の所定の位置には、平歯車34が取り付けられている。ここで、この平歯車34は回転駆動装置12を構成する歯車12bと螺合しており、この歯車12bはモータ12aから延出する回転軸に固定されている。即ち、回転駆動装置12を動作させてモータ12aが回転駆動することによって歯車12bが回転し、この歯車12bの回転によって回転軸19、即ち回転軸体11が回転するようになる。尚、ここでは、モータ12aはモータ固定部材12cに固定されており、このモータ固定部材12cはモータ架台12dを介してモータ固定部材固定ボルト12eによって真空チャンバ1の上壁部1a上に固定されている。
【0040】
一方、図5は、図1に示すイオンプレーティング装置の基材ホルダ反転機構の周辺部の構成を拡大して示す構成図である。
【0041】
図5に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置100の基材ホルダ8は、該基材ホルダ8が回転中心C2を回転中心として回転(反転)することが可能となるように、回転軸体8aを有している。この回転軸体8aは、所定の固定手段によって基材ホルダ8に対して固定されている。そして、図5に示すように、この回転軸体8aの上述した給電機構101によって支持されない他方の端部が、回転支持部材7aによって回転自在に支持されている。又、この回転支持部材7aによる支持により、回転軸体8a、即ち基材ホルダ8は、回転軸体8aの軸方向における位置が固定される。ここで、この回転支持部材7aは、第2のリング部材7の下面に配設されている。そして、この第2のリング部材7は、支持部材6によって、第1のリング部材5に連結されている。尚、この回転支持部材7aによる回転軸体8aの支持形態としては、特に限定されず、回転軸体8aを回転支持部材7aに対して容易に装着可能な(即ち、回転軸体8aを回転支持部材7aから容易に離脱可能な)支持形態であれば、如何なる支持形態を用いてもよい。このような構成により、回転軸体8aを回転することによって、基材ホルダ8を、回転中心C2を回転中心として回転(反転)することが可能となる。
【0042】
又、図5に示すように、回転軸体8aにおける他方の端部には、アーム37が設けられている。このアーム37は、所定の固定手段によって、回転軸体8aにおける他方の端部に固定されている。ここで、このアーム37は、図5では図示しないが、平面視において各々90°毎に隔離された所定長の突起部を有している。一方、図1及び図2に示したように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置100における真空チャンバ1の壁部には、進退機構10が設けられている。この進退機構10は、接続部材10aによって真空チャンバ1における壁部の所定の位置に配設されている。ここで、この進退機構10の先端部10bからは、進退駆動されるL字状の反転用ロッド10cが延出している。そして、これらのアーム37と反転用ロッド10cとによって、基材ホルダ反転機構9が構成されている。
【0043】
次に、図面を参照しながら、本発明を特徴付けるイオンプレーティング装置の基材ホルダへの給電機構の構成について詳細に説明する。
【0044】
図6は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の基材ホルダへの給電機構及びその周辺部の構成を模式的に示す縦断図である。
【0045】
図6に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置100では、第1のリング部材5の接触面5aに接して、高周波電源16及び直流電源17から基材ホルダ8に対して高周波電力及びバイアス電圧を好適に供給及び印加するための給電機構101が配設されている。ここで、第1のリング部材5の接触面5aは、給電機構101を所定の傾斜角度で傾斜させて配設するために、所定の傾斜角度を有して形成されている。これによって、給電機構101が、水平方向に対して所定の角度で下方に向けて傾斜して配設されている。つまり、基材ホルダ8も所定の傾斜角度で下方に向けて傾斜して配設されている。
【0046】
この給電機構101は、第1の内周面41aで形成される第1の円柱空間B1と、その第1の内周面41aで形成される第1の円柱空間B1の内径よりも内径が大きい、第2の内周面41bで形成される第2の円柱空間B2とを有している。ここで、この第1の円柱空間B1及び第2の円柱空間B2は、その内部に上述した第1の内周面41a及び第2の内周面41bが形成されたブラシ支持部材41によって形成されている。そして、このブラシ支持部材41は、第1のリング部材5の接触面5aとブラシ支持部材41の接触面41cとが接するようにして、第1のリング部材5上に配設されている。尚、ブラシ支持部材41は、内部に第1の内周面41a及び第2の内周面41bが形成されていれば良く、その外形形状は特に限定されない。
【0047】
又、ブラシ支持部材41の両端には、各々が略平板状の形状を有する軸受け部材39と裏面カバー40とが配設されている。これらの軸受け部材39及び裏面カバー40は、その周辺部の表面がブラシ支持部材41の端面に密着するようにして、ブラシ支持部材41の両端に配設されている。ここで、基材ホルダ8の回転軸体8aを回転自在に支持するために、軸受け部材39の厚みが、裏面カバー40の厚みよりも厚く形成されている。又、本実施の形態では、軸受け部材39及び裏面カバー40における第1のリング部材5側の端面は、ブラシ支持部材41における第1のリング部材5側の端面(つまり、接触面41c)と同一平面上となるように構成されている。これにより、給電機構101が所定の角度で傾斜しかつ安定して第1のリング部材5の接触面5a上に配設されている。そして、図6に示すように、上述した軸受け部材39と裏面カバー40とブラシ支持部材41とによって囲まれる空間として、第1の円柱空間B1及び第2の円柱空間B2からなるブラシ用空間Bが形成されている。
【0048】
図6に示すように、ブラシ空間Bにおける第2の円柱空間B2の内部には、平面状の導通用接触面42dを有する、電気伝導性のブラシ42が設けられている。このブラシ42は円柱状の形状を有しており、その外径は第2の円柱空間B2の内径と略同一とされている。つまり、このブラシ42は、ブラシ支持部材41の第2の内周面41bとブラシ42の外周面42aとが摺動するようにして、第2の円柱空間B2の内部に配設されている。これによって、このブラシ42は、ブラシ用空間Bにおける第2の円柱空間B2の内部を進退自在とされている。ここで、このブラシ42の所定の位置には、進退移動の際における移動距離を制限しかつブラシ42の回転を防止するために、溝部42bが形成されている。この溝部42bは、後述するピン44を挿入可能な幅を有し、かつブラシ42の進退移動の移動距離を制限するように所定の長さを有している。これによって、ブラシ支持部材41の第2の円柱空間B2におけるブラシ42の回転と進退移動の移動距離とが制限されている。尚、ピン44は、その一方の先端部が溝部42bの内部に位置するように、かつ他方の先端部がブラシ支持部材41に埋設されるようにして、給電機構101における所定の位置に配設されている。
【0049】
又、ブラシ42の背面42cにおける所定の位置には、電気伝導性を有する円柱状の凸部42eが形成されている。この凸部42eは、その中心軸とブラシ42の中心軸とが一致するように、ブラシ42の背面42cに形成されている。ここで、この凸部42eは、後述するバネ体45の端部を位置決めするために形成されている。そのため、この凸部42eは、バネ体45の内径と略同一の外径を有するように形成されている。尚、凸部42eの厚みは、ブラシ42の進退移動を妨げない厚みであれば、特に限定はされない。
【0050】
又、図6に示すように、凸部42eの背後には、電気伝導性を有する円柱状の引き出し部43が形成されている。この引き出し部43は、その中心軸と凸部42eの中心軸とが一致するように、凸部42eの背後に形成されている。そして、この引き出し部43の端部は、裏面カバー40が有する貫通孔Cを貫通して、その外部に到達している。ここで、裏面カバー40が有する貫通孔Cの孔径は、引き出し部43がブラシ42の進退移動に応じて摺動可能な孔径とされている。そして、この引き出し部43の端部には、第1のリード接続部38aを介して、リード38が電気的な接続を有するように接続されている。このリード38は、第2のリード接続部38bを介して、第1のリング部材5における所定の位置に電気的に接続されている。このような構成により、高周波電源16及び直流電源17から第1のリング部材5に対して好適に供給及び印加された高周波電力及びバイアス電圧が、リード38と引き出し部43と凸部42eとを介して、ブラシ42に好適に供給及び印加される。尚、第1のリング部材5に対する高周波電力及びバイアス電圧の供給及び印加は、真空チャンバ1の外部からその内部に渡って配設されている電極プレート24を介して行われる。つまり、高周波電源16及び直流電源17から給電部14のカーボンブラシ14aに供給及び印加される高周波電力及びバイアス電圧は、電極リング30及び電極軸27を介して電極プレート24に供給及び印加される。この電極プレート24によって、高周波電力及びバイアス電圧が真空チャンバ1の内部に位置する電極22a(つまり、下部リング22)に供給及び印加される。そして、下部リング22に供給及び印加される高周波電力及びバイアス電圧は、導電性の支柱23を介して、第1のリング部材5に供給及び印加される。ここで、本実施の形態では、電極プレート24から第1のリング部材5までの導電経路(特に、第1のリング部材5)を電力導入体と称している。
【0051】
又、図6に示すように、給電機構101の内部には、バネ体45が配設されている。このバネ体45は、ブラシ42を軸受け部材39の方向に向けて押し出すために設けられている。そのため、バネ体45の一方の端部は凸部42eに嵌挿されかつ背面42cに当接して位置決めされており、他方の端部は裏面カバー40の当接面40aに当接している。ここで、バネ体45の外径は、第1の円柱空間B1の内径と略同一の寸法とされている。つまり、このバネ体45は、ブラシ用空間B内のブラシ42と裏面カバー40との間において、その外周部が第1の内周面41aによって保持されると共に、凸部42e及び背面42cによって保持及び位置決めされている。これにより、バネ体45は、ブラシ42を軸受け部材39の方向に向けて安定した状態で押し出すことが可能とされている。
【0052】
以上のようにして構成される給電機構101には、基材ホルダ8の回転軸体8aが回転自在に嵌挿されている。具体的には、基材ホルダ8の回転軸体8aの先端部が、給電機構101の軸受け部材39に形成された軸受け孔Aに嵌挿されている。ここで、この軸受け孔Aの内径は、回転軸体8aの外径よりも若干大きい孔径で形成されている。つまり、基材ホルダ8は、回転軸体8aの外周面8bと軸受け部材39の内周面39aとの摺動により回転中心C2を回転中心とする回転が可能となるように、給電機構101に嵌挿されている。そして、本発明では、基材ホルダ8が、回転軸体8aの先端部に形成されている導通用接触面8cとブラシ42の導通用接触面42dとが密着するようにして、給電機構101に嵌挿されている。ここで、この導通用接触面8cと導通用接触面42dとの密着状態は、バネ体45による押圧力によって、電気的に好適な密着状態とされている。これにより、回転軸体8aの外周面8bと軸受け部材39の内周面39aとの摺動状態に関係無く、ブラシ42から基材ホルダ8に対する高周波電力及びバイアス電圧の供給及び印加が一定の供給品質及び印加品質において好適に行われるようになる。又、上述した導通用接触面8cと導通用接触面42dとの密着状態がバネ体45による押圧力によって電気的に好適な密着状態とされるので、基材ホルダ8を取り外して再び装着した場合であっても、基材ホルダ8に対する高周波電力及びバイアス電圧の供給品質及び印加品質を保つことが可能になる。そして、このような構成とすることにより、基材ホルダ8の着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダ8に対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオンプレーティング装置100を提供することが可能になる。
【0053】
次に、以上のように構成されたイオンプレーティング装置の動作について、図面を参照しながら説明する。
【0054】
イオンプレーティング装置100を用いてイオン加工(ここでは、成膜)を行う際、作業者はイオン加工を行う前に、ガラス基材又は樹脂基材等の基材を基材ホルダ8に装着する。この時、基材の表面及び裏面に所定の光学膜を成膜することが可能となるよう、表裏が露出するように基材を基材ホルダ8に装着する。そして、基材ホルダ8に基材を装着した後、真空チャンバ1の内部を図示しない排気手段で所定の真空雰囲気まで排気すると共に、回転駆動装置12を動作させてモータ12aを回転させる。すると、このモータ12aの回転が歯車12bを介して平歯車34に伝達され、平歯車34が回転することによって回転軸19、つまり回転軸体11が回転中心C1を回転中心として回転する。これによって、回転軸体11の下端に取り付けられた基材ホルダ8が回転する。
【0055】
一方、高周波電源16及び直流電源17を動作させる。すると、高周波電力及びバイアス電圧がケーブル18を介して給電部14に供給及び印加され、これによってカーボンブラシ14aに高周波電力及びバイアス電圧が供給及び印加され、更にカーボンブラシ14aに接触している電極リング30に伝達される。この電極リング30に伝達された高周波電力及びバイアス電圧は電極軸27を導通して電極プレート24に伝達され、更に、電極22aを導通して下部リング22に伝達される。そして、下部リング22に伝達された高周波電力及びバイアス電圧は、支柱23を介して第1のリング部材5に伝達される。
【0056】
高周波電源16及び直流電源17が出力する高周波電力及びバイアス電圧が第1のリング部材5に供給及び印加されると、この供給及び印加される高周波電力及びバイアス電圧は第2のリード接続部38bとリード38と第1のリード接続部38aとを介して、給電機構101が有する引き出し部43に供給及び印加される。そして、高周波電力及びバイアス電圧はこの引き出し部43から凸部42eに供給及び印加され、更に、凸部42eからブラシ42に供給及び印加される。ここで、上述したように、ブラシ42の導通用接触面42dと回転軸体8aの導通用接触面8cとは密着している。又、その密着状態は、ブラシ42がバネ体45の押圧力によって回転軸体8aに対して押し付けられているため、電気的に好適な密着状態とされている。そのため、ブラシ42に供給及び印加された高周波電力及びバイアス電圧は、回転軸体8a、即ち基材ホルダ8に好適に供給及び印加される。そして、これにより、基材ホルダ8と真空チャンバ1との間に高周波電力及びバイアス電圧が好適に供給及び印加される。
【0057】
次いで、加熱用コイル3が接続されている加熱用電源4を動作させる。すると、加熱用コイル3に高周波電力(加熱用電力)が供給され、これによって蒸発源2のボート2bの内部に入れた蒸発材料2a(薄膜形成材料)が加熱溶解して真空チャンバ1の内部に蒸発する。すると、その蒸発した薄膜形成材料が高周波電力により発生したプラズマによって励起され、この励起された薄膜形成材料がバイアス電圧によって生じる電界によって加速され、基材ホルダ8に装着されている基材の表面に衝突して強固に付着する。これにより、基材の表面には、緻密な薄膜が形成される。
【0058】
基材の一方の成膜面に対する薄膜の成膜が完了すると、その基材の他方の成膜面に対する薄膜の成膜が行われる。この時、その他方の成膜面に対する薄膜の成膜を行うために、進退機構10及び基材ホルダ反転機構9によって、基材ホルダ8が180°反転される。具体的には、基材ホルダ8を反転する際、図5に示す進退機構10の先端部10bから反転用ロッド10cが進出される。この時、回転軸体11は回転駆動される。すると、この進出された反転用ロッド10cが、基材ホルダ8の回転軸体8aに固定されたアーム37の上述した突起部に当接する。そして、回転軸体11が更に回転駆動されることにより、反転用ロッド10cがアーム37の突起部を、回転軸体8aを回転させるべく移動させる。このような反転用ロッド10cによるアーム37の突起部の移動に基づいて、基材ホルダ8が回転軸体8aを回転中心として180°反転される。尚、基材ホルダ8の反転が完了した後、進退機構10によって反転用ロッド10cは退出される。そして、基材の他方の成膜面に対する薄膜の成膜が行われる。
【0059】
上記のように構成されかつ動作する本発明のイオンプレーティング装置を用いることによって、以下に示す効果が得られる。
【0060】
即ち、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置100では、電極リング30が絶縁リング29によって回転軸19と電気的に絶縁されており、又、電極軸27が電極軸カバー28によって回転軸19と電気的に絶縁されており、又、電極プレート24が電極プレートカバー25によって回転軸19と電気的に完全に絶縁され、更に、下部リング22が絶縁支柱21によって上部リング20と電気的に絶縁されている。又、ハウジング13が真空チャンバ1を介して接地されており、これによりハウジング13が電磁シールドとして機能する。そのため、高周波電力及びバイアス電圧を第1のリング部材5に対して好適に供給及び印加することが可能になる。そして、その第1のリング部材5上には給電機構101が設けられているので、反転可能に配設された基材ホルダ8に対して、高周波電源16及び直流電源17から高周波電力及びバイアス電圧を確実にかつ安定した供給品質及び印加品質において好適に供給及び印加することが可能になる。又、基材ホルダ8を交換等した場合においても、基材ホルダ8に対する高周波電力及びバイアス電圧の供給品質及び印加品質は実質的に変化することはない。そして、以上により、基材ホルダ8の着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダ8に対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオンプレーティング装置100を提供することが可能になる。又、成膜中において真空チャンバ1を大気開放することなく、その両面に反射防止膜等の光学膜が形成された高品質な光学部材を容易に製造することが可能になる。
【0061】
尚、以上の説明では、イオン加工装置としてイオンプレーティング装置を例示して説明したが、特にイオンプレーティング装置に限定されることは無く、基材ホルダに高周波電力等を供給するイオン加工装置の全般に対し、本発明を実施又は応用することが可能である。例えば、本発明を実施又は応用することが可能である装置としては、CVDやエッチング装置等がある。ここで、CVDにおいては、加工物質たる薄膜生成用の原料ガスの反応を促進する目的で、高周波電力によって発生したプラズマにより前記原料ガスを励起して成膜を行うことが知られている(プラズマCVD)。又、エッチング装置においては、エッチングの選択比を高める、或いは、異方性を得る等の目的で、基材と反応する加工物質たる反応ガス(エッチングガス)をプラズマにより励起してエッチングを行うことが知られている(プラズマエッチング)。このように、かかる技術分野においても高周波電力を用いてプラズマを発生させ、その発生したプラズマを用いて基材を加工する点では、本実施の形態で例示したイオンプレーティング装置と本質的に異ならない。従って、上記技術分野の装置に対しても、本発明を実施又は応用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るイオン加工装置は、基材ホルダの着脱が容易であり、かつ成膜中に反転駆動される基材ホルダに対して高周波電力及びバイアス電圧を高い供給品質及び印加品質において安定に供給及び印加することが可能なイオン加工装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の構成を模式的に示す縦断図である。
【図2】図1に示すイオンプレーティング装置の基材ホルダ及び基材ホルダ反転機構の周辺部の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】図1に示すイオンプレーティング装置の回転駆動部及び給電部の構成を拡大して示す縦断図である。
【図4】図3におけるIV−IV線に沿った断面構成を模式的に示す横断図であって、図4(a)は全体の構成を示す横断図であり、図4(b)は給電部を拡大して示す横断図である。
【図5】図1に示すイオンプレーティング装置の基材ホルダ反転機構の周辺部の構成を拡大して示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の基材ホルダへの給電機構及びその周辺部の構成を模式的に示す縦断図である。
【符号の説明】
【0064】
1 真空チャンバ
1a 上壁部
2 蒸発源
2a 蒸発材料
2b ボート
3 加熱用コイル
4 加熱用電源
5 第1のリング部材
5a 接触面
5b 固定ボルト
6 支持部材
7 第2のリング部材
7a 回転支持部材
8 基材ホルダ
8a 回転軸体
8b 外周面
8c 導通用接触面
9 基材ホルダ反転機構
10 進退機構
10a 接続部材
10b 先端部
10c 反転用ロッド
11 回転軸体
12 回転駆動装置
12a モータ
12b 歯車
12c モータ固定部材
12d モータ架台
12e モータ固定部材固定ボルト
13 ハウジング
14 給電部
14a カーボンブラシ
15 マッチング回路
16 高周波電源
17 直流電源
18 ケーブル
19 回転軸
20 上部リング
21 絶縁支柱
22 下部リング
22a 電極
23 支柱
24 電極プレート
24a 下端固定ボルト
24b 上端固定ボルト
25 電極プレートカバー
26 SUS板カバー
27 電極軸
28 電極軸カバー
29 絶縁リング
29a 底部
29b 壁部
30 電極リング
31 スぺーサ
31a スぺーサ固定ボルト
32 絶縁板固定部材
32a 絶縁板固定部材固定ボルト
33a 上部軸受け
33b 下部軸受け
34 平歯車
35 オイルシール
36 絶縁板
37 アーム
38 リード
38a 第1のリード接続部
38b 第2のリード接続部
39 軸受け部材
39a 内周面
40 裏面カバー
40a 当接面
41 ブラシ支持部材
41a 第1の内周面
41b 第2の内周面
41c 接触面
42 ブラシ
42a 外周面
42b 溝部
42c 背面
42d 導通用接触面
42e 凸部
43 引き出し部
44 ピン
45 バネ体
100 イオンプレーティング装置(イオン加工装置)
101 給電機構(給電構造)
A 軸受け孔
B ブラシ用空間
B1 第1の円柱空間
B2 第2の円柱空間
C 貫通孔
C1,C2 回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部で電力を用いて基材へのイオン加工を行うための導電性の真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配設され前記基材が装着される導電性の基材ホルダと、
前記真空チャンバの内部に前記電力を導入しかつ前記基材ホルダを回動自在に支持するための電力導入体と、
前記基材ホルダを前記真空チャンバの内部で反転させるための反転構造と、
前記電力導入体に電気的に接続され該電力導入体に前記電力を供給するための電源とを備えるイオン加工装置であって、
前記電力を前記電力導入体から前記基材ホルダに供給するための給電構造を有し、
前記電源から前記電力導入体を介して前記真空チャンバの内部に導入される前記電力が前記反転構造により反転可能な前記基材ホルダに対して前記給電構造を介して実質的に供給される、イオン加工装置。
【請求項2】
前記基材ホルダが該基材ホルダに電気的に接続されかつ該基材ホルダの反転軸と同軸状に配設された導電性の受電軸体を有し、
前記給電構造が前記電力導入体に電気的に接続された導電性の給電ブラシを有し、
前記給電ブラシと前記受電軸体との接触により、前記電源から前記電力が前記基材ホルダに対して供給される、請求項1記載のイオン加工装置。
【請求項3】
前記給電ブラシが平面状の給電面を備えかつ前記受電軸体が平面状の先端面を備え、前記給電面と前記先端面とが摺動自在に構成されている、請求項2記載のイオン加工装置。
【請求項4】
前記給電ブラシが前記給電構造の内部で回動不能に配設されている、請求項2記載のイオン加工装置。
【請求項5】
前記給電ブラシが前記給電構造の内部で変位可能に配設されている、請求項2記載のイオン加工装置。
【請求項6】
伸縮可能なバネ体を前記給電構造の収容部内に摺動自在に有し、
前記バネ体の反発力により前記給電ブラシが前記受電軸体に対して付勢されている、請求項2記載のイオン加工装置。
【請求項7】
前記電源としての高周波電力を供給可能な高周波電源と直流電力を供給可能な直流電源とを有し、
前記高周波電力及び前記直流電力が前記真空チャンバの内部で前記電力導入体から前記給電構造を介して前記基材ホルダに対して供給されて前記基材に成膜する、請求項1乃至6の何れかに記載のイオン加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−89794(P2006−89794A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275225(P2004−275225)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】