説明

イオン性化合物および電解液材料

【課題】常温で液状であり、耐熱性に優れたイオン性化合物および電解液材料を見出す。
【解決手段】本発明のイオン性化合物は、下記式(1)で表されるアニオンと、


(式(1)中、X1〜X3は同一もしくは異なって、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3R,−COR,もしくはこれらを含む1価の有機基を表し、Rは水素または1価の有機基を表し、Qは、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アルキニレン基等を表し、nは0または1を表す。)と、有機カチオンとからなる。本発明の電解液材料は上記イオン性化合物を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規イオン性化合物および電解液材料に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性化合物は、カチオンとアニオンとの組み合わせにより構成される化合物であり、イオンによる電気伝導性、すなわちイオン伝導性を有することから、イオン伝導を利用した各種の電池等において用いられるイオン伝導性材料を構成するものとして広く用いられているものであり、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスに用いられている。これらでは、一般に、一対の電極とその間を満たすイオン伝導体である電解液から電池が構成されることになる。このようなイオン伝導体としては、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン等の有機溶媒に、過塩素酸リチウム、LiPF6、LiBF4、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、フタル酸テトラメチルアンモニウム等の電解質を溶解した電解液が使用されている。このようなイオン伝導体においては、電解質が溶解することにより、カチオンとアニオンとに解離して電解液中をイオン伝導することになる。
【0003】
本出願人は従来からイオン性化合物について研究を重ねており、既にシアノ基を有するアニオンを含むイオン性化合物に関する発明について特許出願を行っている(特許文献1〜5)。
【0004】
一方、トリフルオロアセトイミドアニオンは、例えば、ナトリウムや水銀とイオン性化合物を作ることが知られている(ナトリウムについて非特許文献1〜2、水銀について非特許文献3)。しかし、これらのイオン性化合物は全て常温固体状であり、電解液材料としては使用しにくい上に、電子材料としての有用性が明らかにされているわけではない。
【特許文献1】特開2004−12774号公報
【特許文献2】特開2004−292350号公報
【特許文献3】特開2005−353568号公報
【特許文献4】特開2006−173014号公報
【特許文献5】特開2006−216524号公報
【非特許文献1】ジョバンニ・ビティ(Giovanni Viti)、外2名、「トリフルオロアセトアミドからのオキサゾリジン−2−オンの新合成法(A New Synthesis of Oxazolidin-2-ones from Triacetamides)」、「テトラヘドロンレターズ(Tetrahedron Letters)」、英国、1992年、第33巻、第3号、p.377-380
【非特許文献2】フィリップ・エー・ハーランド(Philip A.Harland)、外3名、「トリフルオロアセトアミドのナトリウム塩のアルキル化による第1級アミンの合成:ガブリエル合成の別法(Synthesis of Primary Amines via Alkylation of the Sodium Salt of Trifluoroacetamide : An Alternative to the Gabriel Synthesis)」、「合成(SYNTHSIS)」、英国、1984年11月、p.941-943
【非特許文献3】アール・エッチ・パットン(R. H. Patton)、外1名、「フルオロカーボンカルボン酸アミドの水銀誘導体(Mercury Derivatives of Fluorocarbon Carboxylic Acid Amides)」、「有機化学誌(Journal of Organic Chemistry)」、米国、1956年、第21巻、p.1199-1200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、電子材料として有用な常温で液状であるイオン性化合物および電解液材料を見出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は、
下記式(1)で表されるアニオンと、
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、X1〜X3は同一もしくは異なって、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3R,−COR,もしくはこれらを含む1価の有機基を表し、Rは水素または1価の有機基を表し、Qは、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3Rおよび−CORよりなる群から選択される1種以上を置換基として有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基、、またはアルキニレン基、または下記式のいずれかの基、またはこれら2価の基の2種以上が連結した基を表し、nは0または1を表す。)
【0009】
【化2】

と、有機カチオンとからなるイオン性化合物である。
【0010】
式(1)におけるX1〜X3が全て同一であり、ハロゲン原子,−CN,−NOまたは−NO2であることが好ましい。特に、式(1)におけるX1〜X3が全てフッ素原子であり、nが0である態様が好ましい。また、有機カチオンは、オニウムカチオンであることが好ましい。
【0011】
本発明には、上記イオン性化合物を含む電解液材料も包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン性化合物は、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩であり、また、耐熱性にも優れていた。従って、長期間に亘って安定な電解液材料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のイオン性化合物は、下記式(1)で表されるアニオンを必須構成成分として含む。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(1)中、X1〜X3は同一もしくは異なって、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3R,−COR,もしくはこれらを含む1価の有機基を表し、Rは水素または1価の有機基を表し、Qは、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3Rおよび−CORよりなる群から選択される1種以上を置換基として有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基、、またはアルキニレン基、または下記式のいずれかの基、またはこれら2価の基の2種以上が連結した基を表し、nは0または1を表す。)
【0016】
【化4】

【0017】
式(1)の−SO2R,−SO3R,−CORにおけるRは、水素または1価の有機基であり、この有機基としては、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基や、直鎖、分岐鎖または環状で、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基、炭化フッ素基を表す。好ましくは水素原子、フッ素原子、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基である。
【0018】
また、式(1)におけるX1〜X3は、いずれも電子求引性基である。ハロゲン原子,−CN,−NOまたは−NO2であることが、電子材料としての性能の点から好ましく、X1〜X3が全てF(フッ素原子)であり、nが0である態様が最も好ましい。なお、ハロゲン原子とは、F,Cl,BrおよびIのことである。
【0019】
Qは2価の連結基であり、(a)ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3Rおよび−CORよりなる群から選択される1種以上を置換基として有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基;(b)アルキニレン基;(c)上記構造式で示したいずれかの基;(d)(a)〜(c)に示された基が2種以上連結した基;のいずれかである。Qの部分で電子を止めにくくするには、(c)の上記構造式で示したいずれかの基が好ましい。
【0020】
上記アニオンの相手となる有機カチオンは、常温で液状のイオン性化合物を形成する限り特に限定されないが、N,P,S,O等のへテロ原子を有するオニウムカチオンが好ましい。
【0021】
オニウムカチオンとしては、例えば、下記式で表されるようなカチオンが挙げられる。
【0022】
【化5】

【0023】
上記式におけるRは、同一もしくは異なって、水素原子、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基や、直鎖、分岐鎖または環状で、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基、炭化フッ素基を表す。好ましくは水素原子、フッ素原子、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基である。
【0024】
より具体的には、例えば、下記構造の複素環構造を有するカチオンが利用可能である。下記式におけるR1〜R6は、上記Rと同じ意味である。
【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
また、下記式で表される飽和環を有するオニウムカチオンであってもよい。下記式におけるR1〜R12は、上記Rと同じ意味である。
【0028】
【化8】

【0029】
上記の中でも好ましいのは、下記の6つの式で表されるカチオンである。
【0030】
【化9】

【0031】
さらに具体的には、下記構造のピロリジウムカチオン、
【0032】
【化10】

【0033】
下記構造のピペリジウムカチオン、
【0034】
【化11】

等も好適である。また、下記構造のアルキル4級アンモニウムカチオンも好適なものとして挙げられる。なお、mは1〜4の整数を表す。
【0035】
【化12】

【0036】
本発明のイオン性化合物は、有機カチオン、特に好ましくはオニウムカチオンと前記した式(1)で表されるアニオンとから構成される。このイオン性化合物は、融点が10℃以下であり、常温で液状である(イオン液体)。また、粘度も400mPa・s以下と低い。一方、熱分解開始温度は100℃以上と高く、耐熱性に優れていることがわかる。従って、後述する電解液材料以外にも、広範な用途に展開が可能である。例えば、一般に、イオン液体はイオン性結合を有しながら液体であるという特徴から、電気化学的、熱的安定性が高く、さらに、二酸化炭素などの特定のガスを選択的に吸収することが知られており、本発明のイオン性化合物も、これらの特徴を有している。このことから、本発明におけるイオン性化合物の好適な用途としては、電気化学材料以外にも、反応用の溶媒、機械摺動部のシール剤や潤滑剤、電気化学特性および熱的安定性を有することからポリマーへの導電性付与剤、二酸化炭素等のガス吸収剤等が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の電解液材料を説明する。本発明の電解液材料は、有機カチオン、特に好ましくは上記のオニウムカチオンと、前記した式(1)で表されるアニオンとから構成されるイオン性化合物を含むものである。このイオン性化合物は、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩であり、また、耐熱性にも優れている。従って、長期間にわたって安定な電気化学デバイスのイオン伝導体の材料となる。なお、溶融塩とは、室温(25℃)から80℃の温度範囲において液体状態を安定に保つことができるものである。
【0038】
本発明の電解液材料におけるカチオンの存在量としては、電解液材料中に存在するアニオン1molに対し、0.5mol以上が好ましく、より好ましくは、0.8mol以上である。また、2.0mol以下が好ましく、より好ましくは、1.2mol以下である。
【0039】
本発明の電解液材料には、電解液とした場合に好適に作用するものであれば、前記した式(1)で示される以外のアニオンを含有していてもよく、例えば、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン(TFSI)、テトラフルオロホウ酸アニオン、酢酸や安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、マレイン酸、コハク酸アニオン等のジカルボン酸アニオン、メチル硫酸、エチル硫酸等の硫酸エステルアニオン等を含有していてもよい。
【0040】
また、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロニオブ酸イオン、ヘキサフルオロタンタル酸イオン等の含フッ素無機イオン;フタル酸水素イオン、マレイン酸水素イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン、アジピン酸イオン等のカルボン酸イオン;ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パーフルオロブタンスルホン酸等のスルホン酸イオン;ホウ酸イオン、リン酸イオン等の無機オキソ酸イオン;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、パーフルオロアルキルフルオロボレートイオン、パーフルオロアルキルフルオロホスフェートイオン、ボロジカテコレート、ボロジグリコレート、ボロジサリチレート、ボロテトラキス(トリフルオロアセテート)、ビス(オキサラト)ボレート等の四配位ホウ酸イオン等の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0041】
本発明の電解液材料は、上記したイオン性化合物の他、溶媒を含むものである。溶媒は、電解液材料100質量%中、1〜99質量%であることが好ましい。1質量%未満では、イオン伝導度が小さすぎるおそれがあり、99質量%を超えると溶媒の揮発等で安定性が低下するおそれがある。溶媒量は、1.5質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が最も好ましい。また、85質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が最も好ましい。
【0042】
本発明の電解液材料は、揮発分が低減されており、かつ、イオン伝導度に優れるものであり、電解液とした場合に優れた基本性能を発揮することができる。
【0043】
上記溶媒としては、イオン伝導度を向上することが可能なものであればよく、例えば、水や有機溶媒等が好適である。有機溶媒としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、トリエチレングリコールメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル等のニトリル類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、炭酸エステル類、脂肪族エステル類、環状エステル類、エーテル類が好ましく、炭酸エステル類や、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類がさらに好ましい。
【0044】
本発明の電解液材料には、さらに、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が含まれていてもよい。アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を含む電解液材料は、電解質を含有するものとなるので、電気化学デバイスの電解液の材料として好適である。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましくは、リチウム塩である。
【0045】
上記アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩としては、上述のようなアニオンを必須とする化合物であっても、それ以外の化合物であってもよい。また、電解液中での解離定数が大きい電解質塩であることが好ましく、例えば、LiCF3SO3、NaCF3SO3、KCF3SO3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩;LiN(CF3SO33、LiN(CF3CF3SO22等のパーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩;LiPF6、NaPF6、KPF6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩;LiClO4、NaClO4等の過塩素酸のアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩;LiBF4、NaBF4等のテトラフルオロ硼酸のアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩;LiAsF6、LiI、NaI、NaAsF6、KI等のアルカリ金属塩が好適である。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やこれらのアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0046】
上記電解液材料はその他の電解質塩を含有していてもよく、過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の四級アンモニウム塩;(C254NBF4等のテトラフロロ硼酸の四級アンモニウム塩;(C254NPF6等の四級アンモニウム塩;(CH34P・BF4、(C254P・BF4等の四級ホスホニウム塩等が好適であり、溶解性やイオン伝導度の点から、四級アンモニウム塩が好適である。
【0047】
本発明の電解液材料が電解質塩を含む場合の存在量としては、電解液材料100質量%中、電解質塩を0.1質量%以上含むことが好ましく、また、50質量%以下が好ましい。0.1質量%未満であると、イオンの絶対量が不足となってイオン伝導度が小さくなるおそれがある。50質量%を超えると、イオンの移動が大きく阻害されるおそれがある。より好ましくは、30質量%以下である。
【0048】
本発明の電解液材料はプロトンを含むことにより、水素電池を構成するイオン伝導体の材料として好適に用いることができる。このような、さらにプロトンを含む電解液材料は、本発明の好ましい形態の1つである。なお、本発明においては、解離してプロトンを発生することができる化合物を含むことにより、電解液中にプロトンが存在することになる。
【0049】
本発明の電解液材料におけるプロトンの存在量としては、電解液材料に対して、0.01mol/L以上が好ましく、また、10mol/L以下が好ましい。0.01mol/L未満であると、プロトンの絶対量が不足となってプロトン伝導度が小さくなるおそれがある。10mol/Lを超えると、プロトンの移動が大きく阻害されるおそれがある。より好ましくは、5mol/L以下である。
【0050】
本発明の電解液材料は、本発明の作用効果を奏する限り、上記以外の構成要素を1種または2種以上含んでいてもよく、例えば、各種無機酸化物微粒子を含有していてもよい。上記無機酸化物微粒子としては、非電子伝導性の電気化学的に安定なものが好適であり、またイオン伝導性を有するものがより好ましい。このような微粒子としては、α、βまたはγ−アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム、酸化チタン、ハイドロタルサイト等のイオン伝導性または非電導性セラミックス微粒子が好適である。
【0051】
上記無機酸化物微粒子の比表面積としては、できるだけ大きいことが好ましく、BET法で5m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましい。このような無機酸化物微粒子は、電解液における他の構成要素と混合できればその大きさは特に限定されないが、大きさ(平均粒径)としては0.01μm以上が好ましく、また、20μm以下が好ましい。より好ましくは、0.1μm以上であり、また、2μm以下である。なお、平均粒径は、例えば、粒子をイオン交換水等に分散させて粒子分散液を調製し、精密粒度分布測定装置(「マルチサイザーII」;ベックマン・コールター社製)を用いて粒径測定を行い、体積基準で平均粒径を算出する等の方法によって求めることができる。上記無機酸化物微粒子としては、球形、卵形、立方体状、直方体状、円筒、棒状等の種々の形状のものを用いることができる。
【0052】
上記無機酸化物微粒子の添加量としては、電解液材料100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましい。100質量部を超えると、逆にイオン伝導性を低下させるおそれがある。より好ましい上限は、20質量部である。
【0053】
また、その他、無水酢酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物やその酸化合物、トリエチルアミン、メチルイミダゾール等の塩基性化合物を添加してもよい。添加量としては、電解液材料100質量%中、50質量%以下が好ましい。より好ましくは、0.01質量%以上、20質量%以下である。
【0054】
本発明の電解液材料にはまた、上述した塩や溶媒の他にも種々の添加剤を含有させてもよい。添加剤を加える目的は多岐にわたり、電気伝導率の向上、熱安定性の向上、水和や溶解による電極劣化の抑制、ガス発生の抑制、耐電圧の向上、濡れ性の改善等を挙げることができる。このような添加剤としては、例えば、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸等のニトロ化合物;リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、リン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸モノオクチル、リン酸等のリン化合物;ホウ酸またはホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール等)や多糖類との錯化合物等のホウ素化合物;ニトロソ化合物;尿素化合物;ヒ素化合物;チタン化合物;ケイ酸化合物;アルミン酸化合物;硝酸および亜硝酸化合物;2−ヒドロキシ−N−メチル安息香酸、ジ(トリ)ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類;グルコン酸、重クロム酸、ソルビン酸、ジカルボン酸、EDTA、フルオロカルボン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘテロポリ酸(タングステン酸、モリブデン酸)、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、ボロジプロトカクテ酸、ボロジピロカテコール、バモン酸、ボン酸、ボロジレゾルシル酸、レゾルシル酸、ボロジプロトカクエル酸、グルタル酸、ジチオカルバミン酸等の酸類、そのエステル、そのアミドおよびその塩;シランカップリング剤、シリカ、アミノシリケート等のケイ素化合物;トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物;L−アミノ酸類;ベンゾール、多価フェノール、8−オキシキノリン、ハイドロキノン、N−メチルピロカテコール、キノリン;チオアニソール、チオクレゾール、チオ安息香酸等の硫黄化合物;ソルビトール、L−ヒスチジン等の1種または2種以上を使用することができる。
【0055】
上記添加剤の含有量は特に限定されないが、例えば、電解液材料100質量%に対して、0.1〜20質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10質量%の範囲である。
【0056】
本発明の電解液材料のイオン伝導度は、25℃において1×10-7S/cm以上であることが好ましい。1×10-7S/cm未満であると、本発明の電解液材料を用いた電解液が、優れたイオン伝導度を保って経時的に安定に機能できなくなるおそれがある。より好ましくは、1×10-6S/cm以上であり、さらに好ましくは、5×10-5S/cm以上であり、特に好ましくは、1×10-4S/cm以上である。
【0057】
上記イオン伝導度の測定方法としては、例えば、SUS電極を用いたインピーダンスアナライザーHP4294A(商品名、東陽テクニカ社製)やインピーダンスアナライザーSI1260(商品名、ソーラトロン社製)を用いて行う複素インピーダンス法により測定する方法が好適である。
【0058】
上記電解液材料は、25℃における粘度が300mPa・s以下であることが好ましい。300mPa・sを超えると、イオン伝導度が充分に向上したものとはならないおそれがある。より好ましくは200mPa・s以下であり、さらに好ましくは100mPa・s以下であり、最も好ましくは50mPa・s以下である。粘度の測定方法としては、特に限定はないが、25℃において、TV−20形粘度計:コーンプレートタイプ(トキメック社製)を用いて測定する方法が好適である。
【0059】
本発明の電解液材料は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適である。
【0060】
本発明の電解液材料を用いて電気化学デバイスを構成する場合、電気化学デバイスの好ましい形態は、基本構成要素として、イオン伝導体、負極、正極、集電体、セパレータおよび容器を有するものである。
【0061】
上記イオン伝導体としては、電解質と有機溶媒との混合物が好適である。有機溶媒を用いれば、一般にこのイオン伝導体は電解液と呼ばれるものになる。本発明の電解液材料は、このようなイオン伝導体において、電解液における電解質や有機溶媒の代替として好適に適用することができ、本発明の電解液材料をイオン伝導体の材料として用いた電気化学デバイスでは、これらのうちの少なくとも1つが、本発明の電解液材料により構成されることになる。これらの中でも、電解液における有機溶媒の代替物として用いることが好ましい。
【0062】
上記有機溶媒としては、本発明の電解液材料を溶解できる非プロトン性の溶媒であればよく、上述した有機溶媒と同様のものが好適である。ただし、2種類以上の混合溶媒にする場合、電解質がLiイオンを含むものである場合は、これらの有機溶媒のうち誘電率が20以上の非プロトン性溶媒と誘電率が10以下の非プロトン性溶媒との混合溶媒に溶解することにより電解液を調製することが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合には、ジエチルエーテル、ジメチルカーボネート等の誘電率が10以下の非プロトン性溶媒に対する溶解度が低く単独では充分なイオン伝導度が得られず、また、逆に誘電率20以上の非プロトン性溶媒単独では溶解度は高いもののその粘度も高いため、イオンが移動しにくくなりやはり充分なイオン伝導度が得られないことになる。これらを混合すれば、適当な溶解度と移動度を確保することができ充分なイオン伝導度を得ることができる。
【0063】
上記イオン伝導体中における電解質濃度としては、0.01mol/dm3以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。0.01mol/dm3未満であると、イオン伝導度が低いため好ましくない。より好ましくは、0.1mol/dm3以上、また、1.5mol/dm3以下である。
【0064】
負極、正極、集電体、セパレータおよび容器の各構成要素については、各種電気化学デバイスにおける公知の材料・形態のものをいずれも使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0066】
下記の実施例において、NMRは、NMR測定装置「Unity Plus」(Varian社製)で測定した。IRスペクトルは、FT−IR測定装置「Nexus−670」(サーモエレクトロン社製)で測定した。
【0067】
実施例1[トリエチルアンモニウムトリフルオロアセトイミド(TEATFAI)の合成]
撹拌装置を備えた500mlのビーカーにトリフルオロアセトアミド15.8g(140mmol)と水100mlを加え、室温で5分撹拌し、氷浴につけて冷却した。氷浴に浸したまま10分間撹拌し、トリエチルアミン17g(168mmol)をピペットで少しずつ加えた。トリエチルアミンを全量加えた後、氷浴からビーカーを取り出し、30分撹拌した。得られた溶液を、濃縮し、乾燥することで、無色透明の液体(TEATFAI)を得た。得られたTEATFAIは30g(140mmol)で、収率は100%であった。分析結果を下記に示す。
1H−NMR(400MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 9.28(bs,1H)、δ 7.19(m,1H),δ 3.09(m,6H),δ 1.20(m,9H)
13C−NMR(100MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 158.0(t),116.7(q),45.6(s),8.5(s)
19F−NMR(376MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 69.3(s)
FT−IR(ATR法)
2997,1666,1478,1199,1127cm-1
【0068】
実施例2[1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロアセトイミド(EMImTFAI)の合成]
イオン交換樹脂(「アンバーライト(登録商標)IRA−400−OH」:ローム・アンド・ハース社製)96mlをカラム管に充填し、実施例1で合成したTEATFAI25gの3%水溶液830mlを1時間かけてゆっくりと通した。通液後の液は廃棄した。TEATFAI水溶液の通液が終了した後、超純水を1時間かけてカラム管に通し、カラム中のイオン交換樹脂を洗浄した。洗浄後のカラム管に、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(EMImBr)5.1g(27mmol)の1%水溶液610mlを、2時間かけてゆっくりと通した。通液後に回収した溶液を濃縮し、乾燥することで、無色透明液体EMImTFAIが得られた。得られたEMImTFAIは5.4g(24mmol)で、収率は91%(EMImBr基準)であった。分析結果を下記に示す。
1H−NMR(400MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 9.14(s,1H)、δ 7.78(d,ΔJ=1.6Hz,1H),δ 7.69(d,ΔJ=1.6Hz,1H),δ 4.20(q,ΔJ=7.2Hz,2H),δ 3.84(s,3H),δ 1.41(t,ΔJ=7.2Hz,3H)
13C−NMR(100MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 136.3,123.6,122.0,118.9,115.9,44.1,35.7,15.1
19F−NMR(376MHz:DMSO−d6:TMS標準)
δ 69.1(s)
FT−IR(ATR法)
3090,1771,1688,1199,1168,1118,822,717cm-1
【0069】
以下では、実施例1で得たTEATFAIと実施例2で得たEMImTFAIの各特性を評価した。
【0070】
[イオン伝導度]
試料それぞれをγ−ブチロラクトンの35質量%溶液とした。インピーダンスアナライザー(「SI1260」;ソーラトロン社製)により、25℃、0℃および−20℃の雰囲気下で、SUS電極を用いて、複素インピーダンス法で測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[電位窓]
サイクリックボルタンメトリツール「HSV−100」(北斗電工社製)を用い、作用電極:グラッシーカーボン電極、参照極:Ag電極、対極:Pt電極を用い、掃引速度:100mV/s、掃引範囲:自然電位〜3V、といった条件で、電位窓を測定した。結果を表1に併記した。
【0072】
[融点の測定]
示差走査熱量計(「EXSTAR6000 DSC」:セイコーインスツル社製)を用い、試料をアルミパンに入れ、降温速度5℃/min、測定温度範囲30〜−100℃で測定した。結果を表1に併記した。
【0073】
[熱分解開始温度の測定]
示差熱熱重量同時測定装置(「EXSTAR6000 TG/DTA」:セイコーインスツル社製)を用い、試料をアルミパンに入れ、昇温速度10℃/min、測定温度範囲30〜500℃で昇温していき、初期質量から2%の質量減少が認められた温度を熱分解開始温度とした。結果を表1に併記した。
【0074】
[粘度の測定]
レオメーター(「プログラマブルレオメーターDV−III+」:ブルックフィールド社製)を用いて、25℃に試料を調温して測定した。結果を表1に併記した。
【0075】
【表1】

【0076】
本発明のイオン性化合物は、いずれも良好なイオン伝導度と、広い電位窓を示すことが確認できた。また、常温で液状の上、耐熱性も高い。さらに、粘度が低いことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の電解液材料は、イオン伝導度が高く、しかも耐熱性に優れており、経時的に安定であることから、イオン伝導体を構成する電解液材料として好適であり、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスに好適に適用することができる。
【0078】
特に、本発明による電解液材料を用いたリチウム二次電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスは、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の各種用途に好適に用いることができる。
【0079】
また、常温で液状かつ不揮発性であり、熱的安定性が高いことから、反応用の溶媒、機械摺動部のシール剤や潤滑剤、ポリマーへの導電性付与剤、二酸化炭素等のガス吸収剤等への応用展開が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアニオンと、
【化1】

(式(1)中、X1〜X3は同一もしくは異なって、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3R,−COR,もしくはこれらを含む1価の有機基を表し、Rは水素または1価の有機基を表し、Qは、ハロゲン原子,−CN,−OCN,−SCN,−NO,−NO2,−SO2R,−SO3Rおよび−CORよりなる群から選択される1種以上を置換基として有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基、またはアルキニレン基、または下記式のいずれかの基、またはこれら2価の基の2種以上が連結した基を表し、nは0または1を表す。)
【化2】

と、有機カチオンとからなることを特徴とするイオン性化合物。
【請求項2】
式(1)におけるX1〜X3が全て同一であり、ハロゲン原子,−CN,−NO,または−NO2である請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項3】
式(1)におけるX1〜X3が全てフッ素原子であり、nが0である請求項1または2に記載のイオン性化合物。
【請求項4】
有機カチオンが、オニウムカチオンである請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性化合物を含むことを特徴とする電解液材料。


【公開番号】特開2009−167108(P2009−167108A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3710(P2008−3710)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】