説明

イオン性液体を用いたクッションアクチュエータ、及びそれからなる車両用部品

【課題】 軽量化、省スペース化が可能であると共に、入力エネルギーを機械的な出力に変換し駆動させるアクチュエータ機能を、自動車などの内装材部品に新機能として付加し提供する。
【解決手段】 高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料において、その多孔質材料の空隙部分以外の骨格中に駆動源となるイオン性液体が含まれることを特徴とするクッションアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、モーターや油圧式、空気圧式アクチュエータのように、電気や他の入力エネルギーを機械的エネルギーに変換して駆動することのできる成分を含み、その駆動の結果、クッション体から液体等の溶媒流出を伴わずに、すばやく見かけ上の体積変化をもたらすことができるクッションアクチュエータ、およびこのようなクッションを用いた車両用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に用いられている機械式の駆動源として、モーター、油圧・空気圧式アクチュエータ等があるが、これらは概ね金属からなるものが多く、重量、スペースを大きくとり、また必要な動力源としても多大なエネルギーを必要とするものが多い。
【0003】
これらに鑑み、軽量、省スペースで得られる有機材料を用いたアクチュエータの例として、特許文献1に記載の導電性高分子は、電気化学的な酸化還元反応を用いて、有機材料の伸縮を上記課題に適用しようとなされたものである。しかしながら、得られる形状の具体例は、フィルム状で伸縮方向も長手方向の一例しか示されていなく、体積変化を伴わない。
【0004】
体積変化するものの例としては、ゲルと溶媒との組合せによる特許文献2に記載の高分子アクチュエータが挙げられるが、ゲルからなる骨格内から電気刺激により溶媒を絞り出すことで、骨格材料の変形を導き出すため、変形速度も非常に緩やかで、また溶媒を溶媒槽ごとシステムとして抱えることになり、電解液漏れや、電気分解による性能低下が起こる可能性を十分に秘めている。
【特許文献1】特開2004−162035号公報
【特許文献2】特開2004−188523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、上記の問題点を鑑みて、これらの材料をクッション形状として得る工夫をすることにより、空気中で、迅速に大きな変位で動かすことのできるクッションアクチュエータを得ることを課題としている。
【0006】
そこで、本発明は、従来の有機アクチュエータにおける上記課題に着目してなされたものであって、軽量化、省スペース化が可能であると共に、入力エネルギーを機械的な出力に変換し駆動させるアクチュエータ機能を、自動車などの内装材部品に新機能として付加し提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料において、その多孔質材料の空隙部分以外の骨格中に駆動源となるイオン性液体が含まれることを特徴とするクッションアクチュエータにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温、空気中で即時の駆動が可能なクッションアクチュエータを得ることができる。これらのクッションアクチュエータは、従来のクッション材料と置き換えることにより、クッション製品に新たな機能を付与することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係わるクッションアクチュエータは、高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料において、その多孔質材料の空隙部分以外の骨格中に駆動源となるイオン性液体が含まれることを特徴としている。
【0010】
本発明のクッションアクチュエータに用いられる、高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料の形状(形態)としては、特に制限されるものではなく、一般的な多孔質クッション材料において利用されている各種形態を用いることができる。かかる高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料の実施形態につき、図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、空孔を持つ多孔質材料の代表的な一実施形態であって、空孔が独立気泡で出来ている多孔質材料の形状例を示す図面であり、図1Aは斜視図を示し、図1Bは断面図を示す。図2は、空孔を持つ多孔質材料の他の実施形態であって、該空孔(気泡)が連続に繋がった多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。図3は、空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔が、体心立方格子構造(ないし単純立方格子構造)に近い配置となるように周期的に並んでいる多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。図4は、空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔(気泡)が立方最密充填構造(面心立方格子構造)に近い配置となるように周期的に並んでいる多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。図5は、空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔(気泡)の大きさが不均一な多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。図6は、空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、気泡断面が円形でない、即ち、空孔(気泡)が球形ではない変形断面形状の多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【0012】
すなわち、図1〜6に示すように、空孔3を持つ多孔質材料1では、駆動源となるイオン性液体が含まれていない状態では、その多孔質材料1の空孔(空隙)3部分以外の骨格2が高分子材料で形成された構造となっている。具体的には、空孔3が独立気泡で出来ているもの(図1)、空孔3が連続に繋がったもの(図2)、空孔3が周期的に並んでいるもの(図3、4)、空孔3の大きさが不均一なもの(図5)、空孔3の断面が円形ではない変形断面形状のもの(図6)等がある。これらはクッションの硬さやばね定数をチューニングする手段として用いられる。但し、本発明では、空孔を持つ多孔質材料の形状(形態)はこれらに何ら制限されるものではなく、例えば、空孔が連続に繋がったもの(連続気泡)と独立気泡が混在するようなものであってもよい。このように、上記の各種形態が適当に組み合わされたものなども利用可能である。なお、図3、4では、全ての空孔が整然と配列されているように表しているが、実際にはこれに近い状態に配列することができれば、こうした周期的に並ばせたことにより、一定の硬さや、ばね定数を得られたり、均一な変形が得られるなどの効果を十分に発現することができる。また周期的な配列の一部に不規則な配列が含まれていても同様である。
【0013】
この多孔質材料の骨格を構成する高分子材料としては、特に制限されるものではなく、一般的な多孔質クッション材料において利用されているものを用いることができる。具体的には、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルホルマール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0014】
本発明の意図するところは、これらのようなクッションの静的特性の変化もさることながら、アクチュエーション等の動的な特性をも狙って、多孔質クッションの構造の工夫と材料の工夫を組合せることによって、上記機能を実現したところにある。
【0015】
ここで言う高分子からなる多孔質材料とは、外形寸法から得られる見かけ体積よりも、材料の使用量が小さくなっているものをいい、多孔質化したことによる空隙(空孔)によりその材料単体からなる同寸法のものより見かけの密度が小さくなっているものを言う。高分子からなる多孔質材料として、一般的には、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン、発泡ウレタン等の発泡材が挙げられる。これらの材料は、空孔が独立しているもの、連続しているものに関わらず、外形より密度が小さくなっている。本発明では、上記した一般的な高分子材料の発泡材の他にも多孔質材料の骨格を構成する高分子材料として、高分子ゲル、エラストマー等からなるものも好適であるので後に記述する。
【0016】
独立気泡を形成させるには、予め内包物として揮発成分を含ませておいたマイクロカプセルを用いる方法や、上記連続気泡を形成させる材料でも、発泡成分量を少なくしておく方法等で作製出来る。
【0017】
これらの多孔質材料の空隙部分とは、すなわち連続気泡のものでは空気、独立気泡のものでは発泡したガス成分、またはそれが置換された空気が含まれる部分を言う。また、骨格とは、上記空隙以外の、高分子からなるものを示している。イオン性液体は、当該骨格中に含まれていればよい。使用中にイオン性液体が外部に流出することがないように、製造段階で余分なイオン性液体は外部に流出されている。そのため、一部、空隙部分に存在しても良いが、多くの場合、空隙部分にイオン性液体は残っていないといえる。
【0018】
これらの空隙部分の大きさは特に制限されるものではないが、数百nm程度から数mm程度の範囲で作ったものが、本発明のアクチュエートするクッションを得るには、骨格の変形を容易に得られる点で、好適である。本発明では、多孔質材料中の全ての空隙部分の大きさが上記に規定する範囲内にあるのが望ましいが、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、一部はずれるものが含まれていてもよい。ここで、空隙部分の大きさとは、連続、単独どちらの気泡においても、その発泡1単位毎の大きさのことを言う(図1〜図6中、符号Lで表した大きさ部分を参照)。よって、図2に示すように、空孔(気泡)3が連続に繋がったものでも、これら連続気泡を構成する個々の発泡1単位毎の大きさを言うものとする。また、図5に示すように、空孔(気泡)3の大きさが不均一な場合には、個々の発泡1単位毎の大きさLが、上記に規定する範囲に入っているのが望ましい。同様に、図6に示すように、空孔3の断面が円形ではない変形断面形状のものでは、発泡1単位毎の大きさLは、最大長さ部分をいうものとする。
【0019】
空隙部分の大きさ、量が小さくなると相対的に高分子材料からなる骨格が太く、大きくなる傾向があり、アクチュエート量は、概ね小さくなる。空隙部分の大きさ、量が大きくなると、高分子材料からなる骨格が小さくなるため、クッション体としての形状が維持しにくくなる傾向にある。発泡倍率で言うと、数倍から50倍程度のもの、空隙率で言うと30〜98%、好ましくは75〜97%程度ものが、容易に得られ、またクッション体、アクチュエート量を共に満足する傾向が見られるが、ここでは特に限定は行わない。
【0020】
本発明では、この骨格中にイオン性液体を含むことにより、温度刺激や電気刺激を与えることで、本クッションアクチュエータは駆動する。
【0021】
高分子材料からなる骨格中にイオン性液体を含ませる方法としては、(1)予め発泡体のモノマー中にイオン性液体を混合、分散させておき、発泡、ポリマー化させる際に骨格中に取り込ませる方法、(2)発泡させた後、含浸により、骨格中に含ませる方法(含浸方法)などが挙げられる。ただし、これらに制限されるものではない。イオン性液体は一般的に常温で不揮発性なので、これらの骨格中に留まる。ここで骨格に含ませるイオン性液体の量は、骨格材料の重量に対して数%から50%程度が、実際に駆動が起き、骨格強度を維持する等の点で好ましいが、ここでは特に限定を行わない。なお、上記(1)の方法に用いるモノマーを含む組成物としては、特に制限されるものではない。上述した骨格を構成する高分子材料(更には、後述する高分子ゲル材料やエラストマー材料を含む)を形成し得るモノマー、溶媒、重合開始剤、発泡剤などの各種添加剤、イオン性液体等を適量含有するものであればよい。なお、高分子材料からなる骨格中にはイオン性液体のほか、溶媒などが含まれていても良い。例えば、高分子をゲル化させるのに、イオン性液体を用いてゲル化させてもよいし、他の適当な溶媒を用いてもよいためである。
【0022】
本発明に用いることの出来るイオン性液体の例としては、特に限定されるものではないが、構成するカチオンまたはアニオンのうち少なくとも一つが有機物イオンであって、室温以下の融点を有する常温溶融塩である。
【0023】
上記イオン性液体を構成するカチオンとしては、イミダゾリニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン等のアミジニウムカチオン、イミダゾリニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、イミダゾリウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、等のグアニジニウムカチオン、およびメチルジラウリルアンモニウム等の3級アンモニウムカチオン等が挙げられる。上記カチオンは1種単独でも、また2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0024】
上記イオン性液体を構成するアニオンとしては、下記の有機酸、無機酸が挙げられる。
【0025】
有機酸としては、カルボン酸、硫酸エステル、高級アルキルエーテル硫酸エステル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
無機酸としては、例えば、超強酸(例えば、ホウフッ素酸、四フッ化ホウ素酸、過塩素酸、六フッ化リン酸、六フッ化アンチモン酸および六フッ化ヒ素酸等が挙げられる。)、リン酸およびホウ酸等が挙げられる。上記アニオンは、上記有機酸および無機酸の中から1種単独でも2種以上の併用でもいずれでもよい。
【0027】
本発明は、これらの多孔質材料とイオン性液体とを組み合わせることで、従来の材料では成し得なかった溶媒の放出を伴わない体積変化をくり返し可逆的に行うことを可能とした。この原理を図面を用いて以下に説明する。図7は、本発明に係わるクッションアクチュエータの駆動原理を示す断面模式図である。このうち、図7Aは、本発明に係わるクッションアクチュエータの多孔質材料の形状を表した断面模式図であって、温度刺激や電気刺激を与える前の状態を表す。図7Bは、図7Aの破線部分を拡大した断面模式図である。図7Cは、図7Bで拡大した部分において、温度刺激や電気刺激を与えて、係わるクッションアクチュエータを駆動(体積変化)させた状態を表す断面模式図である。図8は、本発明に係わる電極を設置したクッションアクチュエータの模式図である。このうち、図8Aは、クッションアクチュエータの斜視図を示し、図8Bは、図8AのB−B線の断面図を示す。本発明に係わる電極を設置したクッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体の状態を示す模式図である。このうち、図9Aは、電圧未印加で、クッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体が陽イオンと陰イオンに独立で分散している状態を示す断面模式図である。図9Bは、電圧印加して、クッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体が、陽極側に陰イオン、陰極側に陽イオンが移動した状態を示す断面模式図である。図9Cは、図9Bの状態を経た後、移動した陽、陰イオンの大きさに応じて、クッションアクチュエータの変形(駆動)が起こった状態を示す断面模式図である。
【0028】
温度刺激の場合、骨格中に含まれるイオン性液体と骨格を形成する高分子との相互作用により、見かけ上の体積変化が起こる。
【0029】
詳しくは、図7Bに示すように、骨格2内でイオン性液体が陽イオン(カチオン)10と陰イオン(アニオン)11に独立で分散している状態から、図7Cに示すように、温度刺激や電気刺激を与えることで骨格2との相互作用を持ち始めると、骨格2中で静電引力(図中、双方向矢印で示した。)が発生するようになる。それに伴って骨格2も異方的な延伸を受けることになり、骨格2自体の体積は変化しないものの、見かけ体積は大きくなる。図中の破線で表される体積量を持っていた空孔3や骨格2が、多孔質材料1の上下方向に異方的な延伸を受けることになり、それぞれ実線で表される体積量まで見かけ上の体積が大きくなる。更に、相互作用を持たない温度以下では、再び図7Bに示すように、イオン性液体が陽イオン(カチオン)10と陰イオン(アニオン)11にランダムに分散した状態になるので、骨格2を張る力が働かず、相対的に縮んだ状態となり、結果として骨格2が太く、短くなって、空隙3が小さくなり、図7Cの破線で表される体積量まで見かけ体積が小さくなる(元に状態に戻る)。このように、本発明では、多孔質材料1の見かけ上の体積変化をくり返し可逆的に行うことができる。
【0030】
電気刺激の場合にも、同様に見かけ体積の変化を引き起こせる。
【0031】
この場合には、図8に示すように、クッションアクチュエータ13の両面(対向する2面のうちの1つ)に少なくとも一対の電極15が設置されることがより好適である。なお、クッションアクチュエータ13の形状は、図10、11に示すように、使用用途により異なるので、電極を設置する面も、本発明の作用効果が効果的に得られるように配置すればよい。
【0032】
この様に電極15をクッションアクチュエータ13に対して向かい合わせて設置し電圧印加することで、図9Bに示すように、その電極間でイオン性液体は、陽極側15aに陰イオン11、陰極側15bに陽イオン10が移動する。これに伴い、移動した陽、陰イオン10、11の大きさに応じて、クッション(アクチュエータ13)の変形が起こる。陽イオン10の方が小さく、陰イオン11が大きい場合で、陽極15aが上側に設置され通電した場合、陽極15a付近では骨格2の太さが太くなり、陰極15a付近では骨格2が細くなる。それにより、図9Cに示すように、陰極15b付近の骨格2は形状を維持できる力が小さくなり、結果として上下方向に体積が見かけ上を小さくできる。
【0033】
イオン性液体の陽、陰イオン10、11の大きさが逆の場合や、クッション(アクチュエータ13)への電極15位置の配置により、動きのバリエーションを持たせることが出来る。このように、電気刺激を与えて駆動させる場合、イオン性液体の陽イオンと陰イオンの大きさが異なるものを適宜組み合わせることで、クッションアクチュエータの体積変化量(ないし変化幅)を任意にコントロールすることができる。
【0034】
このとき印加する電圧は、通常1〜100V程度がより好適ではあるが、クッション体として薄い形状で用いる場合には、数mVから数百mVでも駆動できる。また、逆に厚い場合には、数kVでも駆動させることは可能であるが、ここでは特に限定は行わない。これは、自動車などの内装材部品として適用する場合には、上記に規定する範囲の電圧であれば、自動車用電源から容易に供給することができるためである。
【0035】
これらのクッションアクチュエータの高分子材料からなる骨格へのイオン性液体の含ませ方は、先述の(2)の含浸方法が好適である。
【0036】
かかる含浸方法としては、予め発泡させた高分子材料(発砲体)をイオン性液体中に浸漬して、概ね1〜10日程度、イオン性液体を含浸させたのち、空隙部に入ったイオン性液体を概ね1〜5日程度放置するなどして流し出すことで得ることができる。これらの形態でも、上記と同様の原理で、クッションアクチュエータとして機能する。この時に含浸させたことによる重量増加は、先述の(1)の予め混合しておく方法と同様に、もとの骨格材料の重量に対して数%から50%程度であることが好ましいが、特に限定は行わない。
【0037】
なお、上記骨格に含浸させる成分としては、上記イオン性液体の他にも、本発明の作用効果を有効に発現することができる範囲内であれば、他の溶媒を含んでいてもよい。
【0038】
また、高分子材料(発砲体)をイオン性液体(他の溶媒を含んでいてもよい。以下同様とする。)中に浸漬し含浸させた後、放置するなどして骨格中に保持し得ないものや空隙部に入ったイオン性液体を外部に流出させてしまうことで、その後、製品化されたクッションアクチュエータを固く絞っても、また後述する実施例2等のように電圧負荷により素早くかつ大きな体積変化を行っても、イオン性液体が外部に流出することはない。そのため、実際にクッションアクチュエータとして利用する際に想定される外部負荷や電圧印加による体積変化を生じさせた程度では、イオン性液体が外部に流出することはない。また、骨格中に許容可能なイオン性液体が含浸されているため、外部から骨格内に更に他の液体(溶媒)が吸収されることもないため、駆動性能を長期間安定して保持することができる。これは、先述の(1)の予め混合しておく方法においても同様に、骨格中に保持し得ないものや空隙部に入ったイオン性液体を流出させることで、製品化後にイオン性液体(他の溶媒を含んでいてもよい)が外部に流出したり、外部の液体が骨格中に吸収されるのを防ぐことができる。
【0039】
本発明に用いる多孔質材料の骨格を構成する高分子材料としては、上述した一般的な多孔質クッション材料において利用されている、一般的な高分子材料の発泡材を用いることができるが、更に高分子ゲルからなることが好ましい。
【0040】
高分子ゲルの例としては、ポリアクリル酸系、ポリメタクリル酸系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリロニトリル系、ポリメチルメタクリレート系、ポリウレタン系、ポリスルホン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリロキサン系などを挙げることができる。さらに具体的には、ポリアクリル酸ゲル、ポリメタクリル酸ゲル、ポリ(アクリルアミド−アクリル酸)共重合体ゲル、ポリ(アクリルアミド−メタクリル酸)共重合体ゲル、ポリ(アクリルアミド−トリメチル(N−アクリロイル−3−アミノプロピル)アンモニウムアイオダイド)共重合体ゲルの4級化ゲル、ポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ゲル、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸複合体ゲル、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−メタクリル酸−2−ヒドロキシルエチル)共重合体ゲル、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸−7クリ口ニトリル)共重合体ゲル、アルギン酸塩ゲル、コラーゲンゲル等が挙げられる。その他、天然物を素にするものでは、タンパク質や多糖類等の天然高分子を素にする角膜、水晶体、卵白、豆腐、こんにゃく、ゼラチンの様なゲルも挙げられる。
【0041】
上記の高分子ゲルの中には、架橋点を持たない物理ゲルも含まれるが、より好ましくは、化学結合による架橋点を持つ化学ゲルが形状維持の観点から好ましい。
【0042】
また、本発明に用いる多孔質材料の骨格を構成する高分子材料としては、上述したものの他にエラストマーも好適であり、その例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム材料や、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル等のポリマーとゴム材料とのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体等が挙げられる。本発明で言うエラストマーは、最も公義に解釈されるべきものであり、上記に例示したとおり、ゴム、熱可塑性エラストマーの双方を含むものである。
【0043】
次に、本発明のクッションアクチュエータでは、その多孔質材料中の空孔が、独立しているもの、連続しているもの、独立したものと連続したものが混在したもののいずれの形態であってもよい。使用用途に応じて、適宜、最適な空孔形態となるように、高分子材料の種類、マイクロカプセルなどの発砲剤の種類や添加量(発砲倍率)や製造条件(温度、圧力等)などを適宜調整すればよい。
【0044】
上記多孔質材料中の空孔が、連続した空孔である場合には、下記の点で好ましい。
【0045】
即ち、独立気泡であると、その空隙中の内包物(蒸発した発泡剤や空気)が駆動により圧縮を受ける。つまりは、圧縮のための力が余計に必要になるため、駆動量が小さくなる傾向にある。連続気泡であれば、図9A→図9B→図9Cに示すように、気泡部分が小さくなったとしても、その部分の空気は、外部に流出することが出来、また、図9C→図9B→図9Aに示すように、気泡部分が大きくなった場合にも、外部から空気をすばやく吸入することが出来る。これにより、駆動量も大きくなり、且つ駆動速度も大幅に速くなる。
【0046】
ここで言う、駆動速度とは、駆動をさせるための刺激(温度、電気)を与えてから、変形完了までの間の最高の速度を言い、特に本発明で得られるクッションアクチュエータは、10分/mmの変形速度を持ち、すばやい変形をもたらすことができる。
【0047】
一方、上記多孔質材料中の空孔が、独立した空孔である場合には、下記の点で好ましい。即ち、独立気泡であると、駆動量が小さくなる反面、気泡内部に空気は圧縮された状態で残るため、優れた反発力(エアスプリング効果によるクッション性)を発現することができる。そのため、自動車用部品として利用する場合には、乗員に快適な乗り心地を提供することができる。また、独立気泡であるがゆえに気泡が残ることが明らかで、それにより変形量の推定が容易になり、ひいてはクッション設計も容易になる。
【0048】
更に上記多孔質材料中の空孔が、独立した空孔と連続した空孔とが混在している場合には、混在比率を調整することで、双方の特徴(利点)を持たせることができる。
【0049】
次に、先述の様にクッションアクチュエータ両面に少なくとも一対の電極が設置することは、電気刺激で駆動させる場合には特に有効である。
【0050】
電極を設置する方法としては、一般的に用いられる導電体を塗布する方法や、蒸着する方法等を適宜用いることが出来る。
【0051】
次に本発明のクッションアクチチュエータの高分子は、空隙を持つことはもちろんであるが、その空隙を持たせる方法として、発泡体から得ることが、製法上から好ましい。
【0052】
ここまでに記述している各種の材料を、公知の気泡発生手段、例えば、熱分解型発泡剤を用いた気泡発生手段、揮発性溶剤を用いた気泡発生手段、あるいは高圧下で不活性ガスを高分子中に吸収させ、常圧で発泡させる気泡発生手段などを用いて発泡成形することが出来る。
【0053】
ここで得られたクッションアクチュエータを車両用部品、例えば、車両の内装材に用いられるクッション材料と置換することで、乗員の座り心地やクッションの動きによる乗り心地の改善、車両から乗員へ信号を伝達する手段等に用いるのは、先述の課題を解決する手段の中では、従来持たない機能を付与する技術であるために、新たなスペースや重量の増加を伴わず、大変好適である。
【0054】
例えば、車両のシートクッションに使用した場合の図を図10、11に示す。図10は、本発明に係わるクッションアクチュエータを用いた車両用部品の1種である一人用の座席シートの側面模式図である。このうち、図10Aは、乗員の体格等に合わせて、シート座面に用いたクッションアクチュエータを下降させるように収縮(駆動)させた状態を表す側面模式図であり、図10Bは、図10Aのクッションアクチュエータを上昇させるように伸長(駆動)させた状態を表す側面模式図である。図11は、本発明に係わるクッションアクチュエータを用いた車両用部品の1種である多人数用のシートの正面模式図である。このうち、図11Aは、乗員が使用していないときのフラットな状態のシートを表す正面模式図である。図11Bは、乗員人数に合わせて2名の乗員が座る部分のクッションアクチュエータを凹ませ、乗員と乗員の間の部分のクッションアクチュエータを膨らませるように伸縮(駆動)させた状態を表す正面模式図である。図11Cは、乗員人数に合わせて3名の乗員が座る部分のクッションアクチュエータを、乗員と乗員の間の部分のクッションアクチュエータを膨らませるように伸縮(駆動)させた状態を表す正面模式図である。
【0055】
図10では、乗員1名ごとのシート30の場合、乗員(図示せず)の体格等に合わせて、シート座面31の上昇や下降を、メカニカルな機構を持たずに行うことができる。同様に図11では、多人数用のシート32の場合、乗員33の数に合わせて、例えば、図11Aのようにフラットな状態のシート30を、乗員2名の場合には図11Bに示すように、乗員3名の場合には図11Cに示すように、座り心地を高め適度なホールド感を得るために、座面の必要な部分だけ凹ませたり(乗員が座る部分32a)、膨らませたり(乗員と乗員の間の部分32b)させることが出来る。両例ともにメカニカルな機構を持たない為、本発明による機構を追加しても、大きな重量増を招かず、燃費の悪化を防ぐことが出来る。また、図10では、座席シートの座面部にクッションアクチュエータを用いた例を示したが、背もたれ部分34に用いてもよいし、双方に適用してもよい。同様のことが図11の多人数用のシートにおいても言えるものである。このように本発明のクッションアクチュエータの用途としては、座席シート、シートバック、ヘッドレスト、ステアリング、ドアクッション、肘掛、インパネ表皮材などとして、車両(自動車、電車や新幹線などの鉄道車両)用部品に限られるものではなく、他の輸送機器(船舶、航空機)用部品、家庭用部品(家具、寝具など)などにも幅広く適用することができるものである。
【0056】
なお、多人数用のシート32での乗員人数に応じて必要な部分だけ駆動させる方法としては、特に制限されるものではなく、上記したような車両から乗員へ信号を伝達する手段等を用いることができる。例えば、シート32全体に配置したクッションアクチュエータの多孔質材料の上下両面に設ける電極を細分化し、独立して通電できるようにすることができる。即ち、乗員が座った際の負荷を感知する感圧センサ等を配置しておき、一定以上の負荷が感知された部分の電極にのみ通電できるようにすれば、乗員が座った部分のみを凹ませることができる。ただし、本発明はこれらの駆動方法に何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0058】
(実施例1)
架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてのアクリルアミドと、開始剤としての過硫酸カリウムとを含む水溶液に、熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用い、50℃環境下で緩やかに発泡させつつ、架橋を行い、多孔質材料を得た。得られた多孔質材料の空隙(空孔)の大きさは概ね直径500μmであり、発泡倍率は20倍程度(空隙率95%)で、気泡(空孔)は連続気泡となった。
【0059】
次にこの多孔質材料を乾燥し、水分を取り除いた後、1cm角のサイコロ状に切り出し、駆動源となるイオン性液体である、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフロロメタンスルフォン)イミド(以下、EMITFSIともいう)中に10日間浸漬した。取り出した後、5日間放置し、空隙部中のEMITFSIを取り除き、クッションアクチュエータを得た。含浸前に0.058gであった重量は、0.067gとなった。
【0060】
このクッションアクチュエータは、低温側で縮んだ状態、高温にするほど連続的に伸びる状態を示した。このとき低温側を25℃、高温側を70℃としたときには、0.1mm程度伸びた。なお、変位量は下記に示す変位量試験によって測定した(以下の実施例及び比較例の変位量につきても同様にして測定した。)。
【0061】
詳しくは、25℃の低温槽にクッションアクチュエータが体積変化しない状態で安定するまで静置した(この段階で基準となる体積量を測定した)後、70℃の高温槽にクッションアクチュエータを移動し、クッションアクチュエータの温度変化と体積変化とを測定し、クッションアクチュエータが70℃に達し体積変化しない状態で安定するまでの時間を測定した。その後、同様にして25℃の低温槽に移して、温度変化と体積変化とを測定した。こうした環境を変化させることを10回繰り返して行った。なお、クッションアクチュエータの温度は、各温度槽間の移動後短時間30秒程度で槽内温度に安定した。
【0062】
その結果、環境を変化させることでのくり返しの伸縮が1分以内に観察された。このことから、実施例2等に示す電気刺激を付与する場合に比して、温度変化に対する体積変化の追従性には、ある程度時間的なずれがある(時間差がある)ことがわかった。また、クッションアクチュエータの評価試験において、25〜70℃の範囲で温度環境を変化させることでくり返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに温度刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にして、1cm角のクッションアクチュエータを得て、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。
【0064】
このクッションアクチュエータに25℃環境下で10Vの直流電圧を印加すると、電極間の距離が0.2mm程度縮む様子が観察された。
【0065】
電圧印加、未印加の変化させることでのくり返しの伸縮が、10Hz程度でも観察された(図12参照)。また、クッションアクチュエータの評価試験において、電圧印加、未印加の変化させることで繰り返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに電気刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0066】
(実施例3)
30倍発泡(連続気泡、空隙率97%、空隙径約1mm)のウレタンクッションを1cm角のサイコロ状に切り出し、EMITFSI中に10日間浸漬して、イオン性液体を含浸させた。含浸前に0.041gであった重量は、0.052gとなった。
【0067】
このクッションアクチュエータは、低温側で縮んだ状態、高温にするほど連続的に伸びる状態を示した。このとき低温側を25℃、高温側を70℃としたときには、0.1mm程度伸びた。詳しい計測の内容は、実施例1で説明した通りである。
【0068】
環境を変化させることでのくり返しの伸縮が1分以内に観察された。また、クッションアクチュエータの評価試験において、25〜70℃の範囲で温度環境を変化させることでくり返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに温度刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0069】
(実施例4)
実施例3と同様にして、1cm角のクッションアクチュエータを得て、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。このクッションアクチュエータに25℃環境下で10Vの直流電圧を印加すると、電極間の距離が0.1mm程度縮む様子が観察された。
【0070】
電圧印加、未印加の変化させることでのくり返しの伸縮が10Hz程度でも観察された。また、クッションアクチュエータの評価試験において、電圧印加、未印加の変化させることで繰り返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに電気刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0071】
(実施例5)
実施例1と同様の発泡前の材料に、EMITFSIを体積比で10%混合し、50℃で発泡、架橋を行った。得られたクッション体の空隙の大きさは概ね直径500μm、発泡倍率は15倍程度(空隙率93%)、気泡は連続気泡となった。次にこの多孔質材料を乾燥し、水分を取り除いた後、1cm角のサイコロ状に切り出した。このクッションアクチュエータは、低温側で縮んだ状態、高温にするほど連続的に伸びる状態を示した。このとき低温側を25℃、高温側を70℃としたときには、0.1mm程度伸びた。
【0072】
環境を変化させることでのくり返しの伸縮が1分以内に観察された。また、クッションアクチュエータの評価試験において、25〜70℃の範囲で温度環境を変化させることでくり返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに温度刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0073】
(実施例6)
ウレタン樹脂の発泡前に、EMITFSIを体積比で10%混合し、10kVの電界をかけながら型内で発泡させた。得られたウレタンは25倍程度の発泡倍率で、連続気泡、空隙率96%、空隙径約1mmで1cm角に切り出すと重量は0.049gであった。このクッションアクチュエータは、低温側で縮んだ状態、高温にするほど連続的に伸びる状態を示した。このとき低温側を25℃、高温側を70℃としたときには、0.1mm程度伸びた。
【0074】
環境を変化させることでのくり返しの伸縮が1分以内に観察された。また、クッションアクチュエータの評価試験において、電圧印加、未印加の変化させることで繰り返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに電気刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0075】
(実施例7)
架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてのアクリルアミドと、開始剤としての過硫酸カリウムとを含む水溶液に、独立気泡を得るためのマイクロカプセル(松本油脂製マイクロスフィアーF−80ED)を体積比で1900%、EMITFSIを体積比で10%混合し、50℃環境下で架橋を行い、クッション体(クッションアクチュエータ)を得た。得られたクッション体の空隙の大きさは概ね直径100μm、発泡倍率は25倍程度(空隙率93%)、気泡は独立気泡となった。
【0076】
このクッションアクチュエータは、低温側で縮んだ状態、高温にするほど連続的に伸びる状態を示した。このとき低温側を25℃、高温側を70℃としたときには、0.1mm程度伸びた。
【0077】
環境を変化させることでのくり返しの伸縮が1分以内に観察された。また、クッションアクチュエータの評価試験において、25〜70℃の範囲で温度環境を変化させることでくり返し伸縮させても重量変化は認められなかった。このことから、クッションアクチュエータに温度刺激を与えて駆動(伸縮)させても、溶媒(イオン性液体)の流出、吸収(空気中の水分や汗などの液体吸収)を伴わないことが確認された。
【0078】
(比較例1)
30倍発泡(連続気泡、空隙率97%、空隙径約1mm)のウレタンを1cm角に切り出し、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。このクッションアクチュエータに25℃環境下で10Vの直流電圧を印加したが、電極間の距離の変化は見られなかった。
【0079】
また、このサンプルを環境温度5℃〜80℃まで変化させ、変位を測定していたが変化は見られなかった。
【0080】
(比較例2)
架橋剤としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドと、モノマーとしてのアクリルアミドと、開始剤としての過硫酸カリウムとを含む水溶液に、熱分解型発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用い、50℃環境下で緩やかに発泡させつつ、架橋を行い、多孔質材料を得た。空隙の大きさは概ね直径500μm、発泡倍率は20倍程度(空隙率95%)、気泡は連続気泡となった。
【0081】
この多孔質材料をクッションアクチュエータとして1cm角に切り出し、これの1対の向かい合う面に電極として銀ペーストを塗布し、電線として0.05mm径の銅線を合わせて接着した。このクッションアクチュエータに25℃環境下で10Vの直流電圧を印加したが、電極間の距離の変化は見られなかった。
【0082】
また、このサンプルを環境温度5℃〜80℃まで変化させ、変位を測定していたところ、高温側で1時間程度の経過後、体積が収縮し0.1mm程度縮んでいる様子が観察されたが、低温に戻しても数時間の間は変化が見られなかった。
【0083】
〔評価試験〕変位量試験
上記実施例1〜7および比較例1〜2によって得られたクッションアクチュエータに対して、レーザー変位計(キーエンス株式会社製LB−5000)を用いて、恒温槽中で温度条件を適宜設定して評価した。
【0084】
なお、変位量試験に用いた装置を図12に示す。すなわち、図12は、本発明に係るクッションアクチュエータの評価方法を実施する装置の模式図である。
【0085】
この装置は恒温槽40とレーザー変位計41とから構成される。恒温槽40内には測定ヘッド42が設けられている。測定ヘッド42は二つの測定用ヘッド42A、42Bが対向して配置されて成り、一方の測定用ヘッド42Aから他方の測定ヘッド42Bに向けて測定用レーザー43が照射される。測定用ヘッド42Aと42Bとの間には、試料となるクッションアクチュエータ1が介在され、その高さ44が測定される。クッションアクチュエータ1の高さ44は、測定用ヘッド42Aから照射された測定用レーザー43がどの程度の高さまで測定用ヘッド42Bによって受光されたかを認識することによって求められる。測定用ヘッド42A、42Bにはレーザー変位計41が接続されているが、クッションアクチュエータ1の高さ44は、このレーザー変位計41によって求められる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1A】図1は、本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の代表的な一実施形態であって、空孔が独立気泡で出来ている多孔質材料の形状例を示す図面である。このうち、図1Aは、斜視図を示す。
【図1B】図1Bは、図1AのB−B線の断面図を示す。
【図2】本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の他の実施形態であって、該空孔(気泡)が連続に繋がった多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【図3】本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔が立方格子充填構造をとるように周期的に並んでいる多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【図4】本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔(気泡)が最密充填構造をとるように周期的に並んでいる多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【図5】本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、空孔(気泡)の大きさが不均一な多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【図6】本発明のクッションアクチュエータに用いることのできる空孔を持つ多孔質材料の更に他の実施形態であって、気泡断面が球形ではない変形断面形状の多孔質材料の形状例を示す断面図を示す。
【図7A】図7は、本発明に係わるクッションアクチュエータの駆動原理を示す断面模式図である。このうち、図7Aは、本発明に係わるクッションアクチュエータの多孔質材料の形状を表した断面模式図であって、温度刺激や電気刺激を与える前の状態を表す。
【図7B】図7Bは、図7Aの破線部分を拡大した断面模式図である。
【図7C】図7Cは、図7Bで拡大した部分において、温度刺激や電気刺激を与えて、係わるクッションアクチュエータを駆動(体積変化)させた状態を表す断面模式図である。
【図8A】本発明に係わる電極を設置したクッションアクチュエータの模式図である。このうち、図8Aは、電極を設置したクッションアクチュエータの斜視図である。
【図8B】図8Bは、図8AのB−B線の断面図である。
【図9A】図9は、本発明に係わる電極を設置したクッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体の状態を示す模式図である。このうち、図9Aは、電圧未印加で、クッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体が陽イオンと陰イオンに独立で分散している状態を示す断面模式図である。
【図9B】図9Bは、電圧印加して、クッションアクチュエータの骨格内におけるイオン性液体が、陽極側に陰イオン、陰極側に陽イオンが移動した状態を示す断面模式図である。
【図9C】図9Cは、図9Bの状態を経た後、移動した陽、陰イオンの大きさに応じて、クッションアクチュエータの変形(駆動)が起こった状態を示す断面模式図である。
【0087】

【図10】本発明に係わるクッションアクチュエータを用いた車両用部品の1種である一人用の座席シートの側面模式図である。このうち、図10Aは、乗員の体格等に合わせて、シート座面に用いたクッションアクチュエータを下降させるように収縮(駆動)させた状態を表す側面模式図であり、図10Bは、図10Aのクッションアクチュエータを上昇させるように伸長(駆動)させた状態を表す側面模式図である。
【図11A】図11は、本発明に係わるクッションアクチュエータを用いた車両用部品の1種である多人数用のシートの正面模式図である。このうち、図11Aは、乗員が使用していないときのフラットな状態のシートを表す正面模式図である。
【図11B】図11Bは、乗員2名に合わせて、座面の必要な部分だけクッションアクチュエータを凹ませたり膨らませたりして伸縮(駆動)させた状態を表す正面模式図である。
【図11C】図11Cは、乗員3名に合わせて、座面の必要な部分だけクッションアクチュエータを凹ませたり膨らませたりして伸縮(駆動)させた状態を表す正面模式図である。
【図12】本発明に係るクッションアクチュエータの評価方法を実施する装置の模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 多孔質材料、
2 高分子材料からなる骨格、
3 空孔(気泡、空隙部分、発泡1単位)、
10 イオン性液体の陽イオン(カチオン)、
11 イオン性液体の陰イオン(アニオン)、
13 クッションアクチュエータ、
15 電極、
15a 陽極、
15b 陰極、
30 乗員1名用シート、
31 シート座面、
32 ベンチシート、
32a 乗員が座る部分、
32b 乗員と乗員の間の部分、
33 乗員、
34 背もたれ部分、
40 恒温槽、
41 レーザー変位計、
42 測定ヘッド、
43 測定用レーザー、
44 サンプルの変位測定方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子からなり、空孔を持つ多孔質材料において、
その多孔質材料の空隙部分以外の骨格中に駆動源となるイオン性液体が含まれることを特徴とするクッションアクチュエータ。
【請求項2】
前記多孔質材料が高分子ゲルからなり、その骨格中にイオン性液体が含浸されていることを特徴とする請求項1に記載のクッションアクチュエータ。
【請求項3】
前記多孔質材料中の空孔が、連続した空孔であることを特徴とする請求項1または2に記載のクッションアクチュエータ。
【請求項4】
前記多孔質材料中の空孔が、独立した空孔であることを特徴とする請求項1または2に記載のクッションアクチュエータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のクッションアクチュエータは、その両面に少なくとも一対の電極が設置されることを特徴とするクッションアクチュエータ。
【請求項6】
前記クッションアクチュエータの駆動速度は、10分/mm以下で、且つ溶媒流出、吸収を伴わないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のクッションアクチュエータ。
【請求項7】
前記高分子が、発泡体からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のクッションアクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のクッションアクチュエータを用いた車両用部品。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−348085(P2006−348085A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173016(P2005−173016)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】