イオン注入装置およびイオンビームの偏差角補正方法
【課題】 イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高める。
【解決手段】 このイオン注入装置は、X方向に走査されたイオンビーム4を磁界によって曲げ戻して平行ビーム化してリボン状の形をしているイオンビーム4を導出するビーム平行化器14を備えている。ビーム平行化器14は、イオンビーム4を磁界によって偏向させてイオンビーム4と中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を兼ねている。このビーム平行化器14の出口近傍に、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビーム4をY方向において絞る電界レンズ30を設けている。
【解決手段】 このイオン注入装置は、X方向に走査されたイオンビーム4を磁界によって曲げ戻して平行ビーム化してリボン状の形をしているイオンビーム4を導出するビーム平行化器14を備えている。ビーム平行化器14は、イオンビーム4を磁界によって偏向させてイオンビーム4と中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を兼ねている。このビーム平行化器14の出口近傍に、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビーム4をY方向において絞る電界レンズ30を設けている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X方向の寸法が当該X方向と直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状(これは、シート状または帯状とも呼ばれる)の形をしているイオンビームをターゲットに照射してイオン注入を行う構成のイオン注入装置に関し、より具体的には、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を備えているイオン注入装置および当該イオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン注入装置の従来例を図10に示す。これと同様のイオン注入装置が、例えば特許文献1に記載されている。なお、この明細書および図面においては、イオンビーム4の設計上の進行方向をZ方向とし、このZ方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。「設計上の進行方向」というのは、換言すれば、所定の進行方向、即ち本来進むべき進行方向のことである。
【0003】
このイオン注入装置は、イオン源2から発生させた、リボン状のイオンビームの元になる小さな断面形状をしているイオンビーム4を、質量分離器6を通して質量分離し、加減速器8を通して加速または減速し、エネルギー分離器10を通してエネルギー分離し、走査器12を通してX方向に走査し、ビーム平行化器14を通して平行ビーム化した後に、ホルダ26に保持されたターゲット(例えば半導体基板)24に照射して、ターゲット24にイオン注入を行うよう構成されている。ターゲット24は、ホルダ26と共に、ビーム平行化器14からのイオンビーム4の照射領域内で、ターゲット駆動装置28によって、Y方向に沿う方向に機械的に往復走査(往復駆動)される。
【0004】
ビーム平行化器14は、磁界または電界(この例では磁界)によってイオンビーム4を走査する走査器12と協働して、X方向に走査されたイオンビーム4を、磁界または電界(この例では磁界)によって基準軸16に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して、X方向の寸法が当該X方向と直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビーム4(図11も参照)を導出する。リボン状と言っても、Y方向の寸法が紙のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム4のX方向の寸法は35cm〜50cm程度であり、Y方向の寸法は5cm〜10cm程度である。ビーム平行化器14は、この例のように磁界を使用する場合は、ビーム平行化マグネットと呼ばれる。
【0005】
上記イオン注入装置は、X方向の走査を経てリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合の例であるが、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合もある。
【0006】
【特許文献1】特開平8−115701号公報(段落0003、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記イオンビーム4の輸送経路は、図示しない真空容器内にあり、真空雰囲気に保たれる。しかし、イオンビーム4の輸送経路には、残留ガスやアウトガス等のガスが僅かではあるが必ず存在する。
【0008】
このガス分子にイオンビーム4が衝突して中性粒子が発生する。この中性粒子がターゲット24に入射すると、注入量分布の均一性を悪化させたり、注入量誤差を生じさせたりする等の悪影響が生じる。
【0009】
これを防止するために、ターゲット24に照射するエネルギー状態(換言すれば、加減速器8を通した後の最終エネルギー状態)のイオンビーム4を、ターゲット24の近くに設けたイオンビーム偏向器によって磁界または電界の作用で偏向させて、偏向したイオンビーム4と偏向せずに直進する中性粒子18とを互いに分離して、中性粒子18がターゲット24に入射するのを防止する必要がある。上記ビーム平行化器14は、このイオンビーム偏向器を兼ねている。
【0010】
ビーム平行化器14で分離された中性粒子18がターゲット24に入射しないようにするためには、ビーム平行化器14の出口とターゲット24との間にある程度の距離L1 が必要である。この距離L1 が不足すると、中性粒子18がターゲット24に入射するようになるからである。ビーム平行化器14でイオンビーム4を大きく偏向させれば上記距離L1 は小さくできるが、そのようにするとビーム平行化器14およびその電源が大型化する等の問題が発生する。また、ターゲット24が大型化するほど、大きな距離L1 が必要になる。一例を挙げると、上記距離L1 は70cm〜80cm程度必要である。
【0011】
ところが、イオンビーム4は、上記ビーム平行化器14とターゲット24との間を輸送されている間においても、空間電荷効果によって発散する。装置のスループットを高めると共に、ターゲット24上に形成する半導体デバイスの微細化のためにイオン注入深さを浅くする等の観点から、ターゲット24に照射するイオンビーム4は低エネルギーかつ大電流のものが望まれているが、イオンビーム4が低エネルギーかつ大電流になるほど、空間電荷効果によるイオンビーム4の発散は大きくなる。また、上記距離L1 が大きくなるほどイオンビーム4の発散は大きくなる。
【0012】
このイオンビーム4の発散は、X、Y両方向において生じるけれども、元々、イオンビーム4のX方向の寸法は上記のようにY方向に比べてかなり大きいので、Y方向の発散による悪影響の方が大きい。そこで以下においてはこのY方向の発散に着目する。
【0013】
イオンビーム4がY方向に発散すると、Y方向におけるイオンビーム4の一部が、イオンビーム4の経路を囲む真空容器や、イオンビーム4を整形するマスク等によってカットされて、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率が低下する。
【0014】
例えば、ビーム平行化器14とターゲット24との間には、図10、図11に示すように、また例えば特許第3567749号公報にも記載されているように、イオンビーム4を通過させる開口22を有していてイオンビーム4を整形するマスク20が設けられていることが多い。このマスク20によって、イオンビーム4のY方向の不要な裾の部分をカットして、イオンビーム4からターゲット24を逃がす距離L2 を小さくすることができるからである。
【0015】
イオンビーム4が空間電荷効果によってY方向に発散すると、例えばこのマスク20によってカットされる割合が大きくなるので、マスク20を通過することができるイオンビーム4の量が減り、イオンビーム4の輸送効率が低下する。
【0016】
上記課題は、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合にも同様に存在する。
【0017】
そこでこの発明は、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器の下流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴としている。
【0019】
このイオン注入装置によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0020】
この発明に係るイオン注入装置の他のものは、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器の下流側であってしかも前記マスクの上流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴としている。
【0021】
このイオン注入装置によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とマスクとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やして、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0022】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されているものでも良い。そして、イオン注入装置は、前記中間電極に直流電圧を印加する直流電源を更に備えていても良い。または、前記中間電極を構成する一対の電極に直流電圧をそれぞれ印加する第1および第2の直流電源を更に備えていても良い。
【0023】
X方向に走査されたイオンビームを、磁界または電界によって、基準軸に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して前記リボン状の形をしているイオンビームを導出するビーム平行化器を備えていて、このビーム平行化器が前記イオンビーム偏向器を兼ねており、前記電界レンズはこのビーム平行化器の出口近傍に設けられていても良い。
【0024】
プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側近傍に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置を更に備えていて、前記電界レンズはこのプラズマ発生装置よりも上流側に設けられていても良い。
【0025】
前記電界レンズを用いて、イオンビームのY方向の偏差角が小さくなるように偏差角を補正しても良い。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の発明によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とマスクとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やして、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0028】
請求項3に記載の発明によれば、電界レンズがユニポテンシャルレンズ(換言すればアインツェルレンズ。以下同様)の働きをするので、イオンビームのエネルギーを変えることなくイオンビームを絞ることができる、という更なる効果を奏する。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明と同様の効果に加えて、更に次のような効果を奏する。即ち、第1および第2の直流電源から、電界レンズの中間電極を構成する一対の電極に互いに異なる値の直流電圧を印加することができるので、電界レンズによってイオンビームのY方向の偏差角を調整することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明によれば、イオンビーム偏向器を兼ねるビーム平行化器の出口近傍に電界レンズが設けられているので、早い段階においてより効果的に電界レンズによってイオンビームを絞ることができ、それによってイオンビームの輸送効率をより高めることができる、という更なる効果を奏する。
【0031】
請求項6に記載の発明によれば、電界レンズをプラズマ発生装置よりも上流側に設けているので、プラズマ発生装置から発生させたプラズマ中の電子を、電界レンズを通過させることなくターゲットに供給することができる。従って、電界レンズを設けても、プラズマ発生装置によるターゲット表面の帯電抑制作用に対する影響を小さくすることが容易になる。
【0032】
請求項7、8に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、電界レンズを用いて、イオンビームのY方向の偏差角を小さくすることができるので、イオンビームの軌道が傾いていることによるターゲットへのイオンビームの入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを小さくすることができる。かつ、イオンビームの軌道を正して、イオンビームが構造物に衝突するのを抑制したり、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やしたりすることができるので、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0033】
請求項9に記載の発明によれば、上記偏差角を実質的に0度にするので、請求項7、8に示した効果をより高めることができる。即ち、イオンビームの入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを防止することができると共に、イオンビームの輸送効率をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。図2は、図1中の電界レンズ周りを矢印P方向に見て拡大して示す正面図である。図10に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0035】
このイオン注入装置は、イオンビーム4と中性粒子18(図10参照)とを分離するイオンビーム偏向器を兼ねる前記ビーム平行化器14の下流側に設けられていて、イオンビーム4をY方向において絞る電界レンズ30を備えている。より具体的には、電界レンズ30はビーム平行化器14の出口近傍に設けられている。
【0036】
電界レンズ30は、イオンビーム4の進行方向Zに互いに間をあけて並べられた入口電極32、中間電極34および出口電極36を有している。各電極32、34、36は、イオンビーム4の進行方向Zに実質的に直角に配置されている。換言すれば、X方向に実質的に平行に配置されている。但しこの実施形態では、入口電極32(具体的にはそれを構成する電極32a、32b。図2参照)の入口側の辺は、ビーム平行化器14(具体的にはその磁極14a、14b。図2参照)の出口側の辺に沿った形状をしている。このようにすると、電界レンズ30をビーム平行化器14の出口により近づけて配置することができる。入口電極32、中間電極34および出口電極36のX方向の長さは、イオンビーム4のX方向の寸法よりも大きい。
【0037】
入口電極32、中間電極34および出口電極36は、それぞれ、図2に示すように、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていて、イオンビーム4の広い方の面(XZ平面に沿う面)に実質的に平行な一対の電極32a、32b、34a、34bおよび36a、36bから成る。電極32aと32b、電極34aと34b、電極36aと36bは、それぞれ、導体によって電気的に接続されている。
【0038】
この実施形態では、電極32a、32b、36aおよび36bの内側面は、ビーム平行化器14の磁極14a、14bの内側面とほぼ同一面上に位置させている。電極34a、34bは、上記面よりも幾らか外側に位置させている。
【0039】
入口電極32および出口電極36(より具体的にはそれらを構成する電極32a、32b、36aおよび36b)は、電気的に接地されている。中間電極34(より具体的にはそれを構成する電極34aおよび34b)は、それに負または正(図1に示す実施形態では負)の直流電圧V1 を印加する直流電源38に接続されている。
【0040】
電界レンズ30は、その入口電極32および出口電極36が互いに同電位に保たれ、中間電極34が入口電極32および出口電極36とは互いに異なる電位に保たれるので、ユニポテンシャルレンズの働きをし、イオンビーム4を絞る働きをする。従って、イオンビーム4のエネルギーを変えることなく、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。
【0041】
その結果、この電界レンズ30によって、前述したイオンビーム偏向器を兼ねるビーム平行化器14とターゲット24との間において、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率を高めることができる。
【0042】
より具体的には、この実施形態のように前述したマスク20が設けられている場合は、ビーム平行化器14とマスク20との間において、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスク20の開口22を通過するイオンビーム4の量を増やして、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0043】
しかもこの実施形態のようにビーム平行化器14の出口近傍に電界レンズ30を設けておくと、イオンビーム4が空間電荷効果によってY方向に発散する前または途中の早い段階において、電界レンズ30によってイオンビーム4を絞ることができるので、イオンビーム4の損失を少なくしてより効果的にイオンビーム4を絞ることができる。従って、イオンビーム4の輸送効率をより高めることができる。
【0044】
直流電源38から中間電極34に印加する直流電圧V1 の絶対値(大きさ)を大きくするほど、イオンビーム4を強く絞ることができる。また、イオンビーム4を絞る程度は、電界レンズ30を通過する際のイオンビーム4のエネルギーによって変わる。イオンビーム4のエネルギーが大きくなるほど、直流電圧V1 がイオンビーム4に及ぼす偏向作用は小さくなるので、イオンビーム4を強く絞るためには、直流電圧V1 の絶対値を大きくすれば良い。
【0045】
中間電極34に負の直流電圧V1 を印加して、電界レンズ30によってイオンビーム4をY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を図5に示す。この例は、電界レンズ30にY方向において平行なイオンビーム4が入射した場合の例であり、かつ、V1 =−1.5VE の場合の例である。VE は、イオンビーム4のエネルギーに相当する電圧である(例えば、イオンビーム4のエネルギーが5keVなら電圧VE は5kVである)。−(マイナス)符号は、直流電圧V1 が負電圧であることを表している(以下同様)。電界レンズ30の下流側にイオンビーム4の焦点Fが形成されていることが分かる。
【0046】
図示は省略するけれども、直流電圧V1 の絶対値を1.5VE よりも小さくすると、イオンビーム4を絞る作用は弱くなるので焦点Fは電界レンズ30から遠ざかり、同絶対値を1.5VE よりも大きくすると、イオンビーム4を絞る作用はより強くなるので焦点Fは電界レンズ30に近づく。また、同じ大きさの直流電圧V1 の場合でも、電界レンズ30に平行ビームではなく発散したイオンビーム4が入射すると、焦点Fは電界レンズ30から遠ざかる。
【0047】
電界レンズ30を設けた場合のターゲット24でのイオンビーム4のビーム電流の最大増加率を、電界レンズ30を通過する際のイオンビーム4のエネルギーを変えて測定した結果の一例を図4に示す。この場合のイオンビーム4のイオン種はAs+ である。増加率とは、電界レンズ30を設けていない場合に比べて、他の条件を同じにした場合、電界レンズ30を設けた場合にイオンビーム電流が増加した割合をいう。最大増加率とは、直流電圧V1 の大きさによって増加率が変わるので、最大の増加率を与える大きさの直流電圧V1 を採用したときの増加率である。
【0048】
この図4から、イオンビーム4のエネルギーが低い方が最大増加率が高くなっていることが分かる。これは、前述したように、イオンビーム4が低エネルギーになるほど、空間電荷効果によるイオンビーム4の発散が大きくなって輸送効率が低下するので、電界レンズ30によってイオンビーム4の発散を抑えて輸送効率を向上させる効果が大きくなるからである。
【0049】
直流電源38の極性を逆にして、電界レンズ30の中間電極34に正の直流電圧V1 を印加するようにしても良い。この場合も、電界レンズ30はユニポテンシャルレンズの働きをし、イオンビーム4を、そのエネルギーを変えることなく、Y方向において絞ることができる。
【0050】
中間電極34に正の直流電圧V1 を印加して、電界レンズ30によってイオンビーム4をY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を図6に示す。この例は、V1 =0.25VE の場合の例である。
【0051】
図示は省略するけれども、直流電圧V1 の大きさを0.25VE よりも小さくすると、イオンビーム4を絞る作用は弱くなり、0.25VE よりも大きくすると、イオンビーム4を絞る作用は強くなる。
【0052】
電界レンズ30の中間電極34に印加する直流電圧V1 を負から正までに亘って変化させたときの、ターゲット24でのビーム電流の変化の概略例を図7に示す。直流電圧V1 が負の電圧−VN 付近のときと、正の電圧VP 付近のときに、ビーム電流にピークが表れている。電圧−VN は、例えば、−VE 〜−1.5VE 前後である。電圧VP は、例えば、0.5VE 〜0.7VE 前後である。
【0053】
従って、例えば、中間電極34に印加する直流電圧V1 として負の直流電圧を印加する場合は、−VN ≦V1 <0の範囲を使用すれば良い。正の直流電圧V1 を印加する場合は、0<V1 ≦VP の範囲を使用すれば良い。
【0054】
直流電源38として、直流電圧V1 を正負両極性に亘って連続して出力することができるバイポーラ電源(両極性電源)を用いても良い。この直流電源38から出力することができる直流電圧V1 の範囲は、例えば、−VN ≦V1 ≦VP にすれば良いが、これに余裕を持たせて、−2VE ≦V1 ≦VE の範囲にするのが好ましい。
【0055】
中間電極34に印加する直流電圧V1 の極性を、目的等に応じて正と負とで使い分けても良い。例えば、中間電極34に負の直流電圧V1 を印加すると、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34との間で一旦加速されることになり、元のエネルギーよりも一旦高くなる。この加速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して中性粒子が発生すると(発生空間距離が短いので、この発生確率は非常に小さい)、量はわずかではあるが、イオンビーム4の元のエネルギーよりも高いエネルギーの中性粒子が発生してそれがターゲット24に入射する可能性がないとは言えない。これは、エネルギーコンタミネーションと呼ばれる。
【0056】
低エネルギー(例えば10keV程度以下)のイオンビーム4を用いて低エネルギー注入を行う場合は、イオンビーム4のエネルギーよりもエネルギーの高い高エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションが特に問題になるので、それを避けたいのであれば、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する方を選んでも良い。但し、中間電極34に負の直流電圧V1 を印加すると、後述するように、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を押し戻すことができるという利点がある。
【0057】
中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する場合に、エネルギーコンタミネーションが発生しないわけではない。即ち、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加すると、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34との間で一旦減速されることになり、元のエネルギーよりも一旦低くなる。この減速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して中性粒子が発生すると(前記と同様にこの発生確率は非常に小さい)、量はわずかではあるが、イオンビーム4の元のエネルギーよりも低いエネルギーの中性粒子が発生してそれがターゲット24に入射する可能性がないとは言えない。
【0058】
しかしこのような、イオンビーム4のエネルギーよりも低いエネルギーの低エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションは、10keV程度以下の低エネルギー注入を行う場合は、高エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションに比べて問題になりにくい。但し、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する場合は、負の場合と違って、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を押し戻すことはできない。当該電子を引き込む可能性もある。これについては後述する手段で対処することができる。
【0059】
上記のような長所短所を考慮して、中間電極34に印加する直流電圧V1 の極性を正と負とで使い分けても良い。
【0060】
再び図1を参照して、ターゲット24の上流側および下流側に、イオンビーム4のビーム電流を計測する複数の検出器がX方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデー42および後段多点ファラデー44をそれぞれ設けておいて、例えば特開2005−195417号公報に記載されている技術と同様に、両多点ファラデー42、44とその前方でY方向に駆動されるシャッターとを組み合わせて用いて、イオンビーム4の進行方向Zの2箇所におけるイオンビーム4のY方向のビーム寸法df 、db と、両箇所間の距離L3 および両箇所とターゲット間の距離L4 、L5 とに基づいて、次式に従って、ターゲット24の位置でのイオンビーム4のY方向のビーム寸法dt 、イオンビーム4のY方向における発散角αを計測しても良い。前段多点ファラデー42の前方にシャッターを設ける代わりに、前段多点ファラデー42を例えばマスク20の下流側近傍に設ける等しておいて、前段多点ファラデー42をY方向に駆動しても良い。
【0061】
[数1]
dt =(L5 /L3 )df +(L4 /L3 )db 、(但しL3 =L4 +L5 )
【0062】
[数2]
α=tan-1{(db −df )/2L3 }
【0063】
そして、上記ビーム寸法dt 、発散角αの計測データに基づいて、上記直流電圧V1 をフィードバック制御するようにしても良い。例えば、イオンビーム4のY方向のビーム寸法dt や発散角αが大きいときは、上記直流電圧V1 の絶対値を大きくするように制御すれば良い。それによって、電界レンズ30によってイオンビーム4がY方向においてより強く絞られるので、上記ビーム寸法dt や発散角αを小さくすることができる。この場合、例えば、図7に示したような特性を考慮して、直流電圧V1 を制御する範囲を予め定めておくのが好ましく(例えば、負の直流電圧V1 を使用する場合は−VN ≦V1 <0、正の直流電圧V1 を使用する場合は0<V1 ≦VP )、そのようにすれば制御が簡単になる。後述する偏差角θを補正する場合も同様である。
【0064】
電界レンズ30の中間電極34を構成する一対の電極34a、34bに一つの直流電源38から同じ直流電圧V1 を印加する場合、例えば図8に示すように、何らかの原因で電界レンズ30に入射するイオンビーム4がY方向に傾いていると、電界レンズ30を通過したイオンビーム4もY方向において偏差角θを持つことになる。偏差角θは、YZ平面内において、イオンビーム4の中心軌道とZ軸方向との成す角度である。より具体的には、電界レンズ30を通過したイオンビーム4の中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である。
【0065】
これを、例えば図3に示す実施形態で解決することができる。この実施形態では、中間電極34を構成する一方の電極34aは、それに第1の直流電圧V1 を印加する第1の直流電源38に接続されており、他方の電極34bは、それに第2の直流電圧V2 を印加する第2の直流電源40に接続されている。
【0066】
図3に示す実施形態では、直流電源38、40から電極34a、34bに負の直流電圧V1 、V2 をそれぞれ印加する場合の例であるが、上記と同様に、直流電源38、40の極性を逆にして、電極34a、34bに正の直流電圧V1 、V2 をそれぞれ印加するようにしても良い。また、直流電源38、40として、直流電圧V1 、V2 をそれぞれ正負両極性に亘って連続して出力することができるバイポーラ電源を用いても良い。電極34a、34bに印加する直流電圧V1 、V2 を正と負とで使い分けても良い。
【0067】
第1および第2の直流電源38、40を設けることによって、中間電極34を構成する一対の電極34a、34bに互いに異なる値の直流電圧V1 、V2 を印加することができるので、イオンビーム4の上記Y方向の偏差角θを調整することができる。
【0068】
例えば、上記図8に示した例のようにイオンビーム4がY方向の上向きに傾いている場合、図9に示す例のように、傾いている側の電極36aに印加する直流電圧V1 の絶対値よりも、傾いているのと反対側の電極36bに印加する直流電圧V2 の絶対値を大きくすれば良い。この例では、電極34a、34bに、それぞれ、−VE 、−1.24VE の値の直流電圧V1 、V2 を印加した。図9は、直流電圧V1 、V2 が負の場合の例であるが、正の場合も同じ傾向になる。このようにして、上記偏差角θを小さくすることができる。上記偏差角θを実質的に0度にすることもできる。
【0069】
上述した前段多点ファラデー42、後段多点ファラデー44等を有する偏差角測定手段によって、例えば上記特開2005−195417号公報に記載されている技術と同様に、各多点ファラデー42、44にY方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビーム4の進行方向の2箇所におけるイオンビーム4のY方向の中心位置yf 、yb を求めて、両中心位置yf 、yb と両箇所間の距離L3 とに基づいて、次式に従って、上記偏差角θを計測しても良い。
【0070】
[数3]
θ=tan-1{(yb −yf )/L3 }
【0071】
そして、上記偏差角θの計測データに基づいて、上記直流電圧V1 およびV2 の少なくとも一方をフィードバック制御等によって調整するようにしても良い。例えば、前述したように、イオンビーム4が傾いているのと反対側の電極34b(または34a)に印加する直流電圧V2 (またはV1 )の絶対値を大きくするように調整(制御)すれば良い。それによって、電界レンズ30を通過したイオンビーム4の軌道が、元々傾いていたのと反対側に曲げられるので、上記偏差角θを小さくすることができる。上記偏差角θを実質的に0度にすることもできる。
【0072】
上記偏差角θを小さくすることによって、イオンビーム4の軌道が傾いていることによるターゲット24へのイオンビーム4の入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを小さくすることができる。かつ、イオンビーム4の軌道を正して、イオンビーム4が構造物に衝突するのを抑制することができるので、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。更に、この実施形態のようにマスク20を有している場合は、マスク20の開口22を通過するイオンビーム4の量を増やすことができるので、この観点からもイオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0073】
上記偏差角θを実質的に0度にすることによって、上記効果をより高めることができる。即ち、イオンビーム4の入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを防止することができると共に、イオンビーム4の輸送効率をより高めることができる。
【0074】
再び図1を参照して、例えば特許第3387488号公報、特許第3414380号公報にも記載されているように、プラズマを生成して当該プラズマをターゲット24の上流側近傍に供給して、当該プラズマ中の電子によって、イオンビーム照射に伴うターゲット24表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置46を設ける場合がある。その場合は、上記電界レンズ30はプラズマ発生装置46よりも上流側に設けるのが好ましい。即ち、電界レンズ30は、上記ビーム平行化器14の下流側かつプラズマ発生装置46の上流側に設けるのが好ましい。
【0075】
そのようにすれば、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を、電界レンズ30を通過させることなくターゲット24に供給することができるので、電界レンズ30を設けても、プラズマ発生装置46によるターゲット24表面の帯電抑制作用に対する影響を小さくすることが容易になる。
【0076】
例えば、直流電圧V1 、V2 が負の場合は、仮に、電界レンズ30をプラズマ発生装置46の下流側に設けると、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子は電界レンズ30に印加される負の直流電圧V1 、V2 によって押し戻されて、ターゲット24に到達するのが困難になる。特に、プラズマ発生装置46から発生させるプラズマ中の電子のエネルギーは小さい方が望ましいので(例えば10eV程度以下)、当該プラズマ中の電子は負の直流電圧V1 、V2 によって押し戻されやすい。
【0077】
これに対して、電界レンズ30をプラズマ発生装置46よりも上流側に設けると、電界レンズ30に負の直流電圧V1 、V2 を印加しても、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子がターゲット24に到達するのを妨げないだけでなく、負の直流電圧V1 、V2 によって当該電子をターゲット24側へ押し戻してターゲット24に到達するのを助ける作用も期待できる。従って、プラズマ発生装置46によるターゲット24表面の帯電抑制作用を電界レンズ30が妨げないだけでなく、補助する作用も期待できる。
【0078】
直流電圧V1 、V2 が正の場合は、電界レンズ30をプラズマ発生装置46よりも上流側に設けても、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子をターゲット24側へ押し戻す作用は期待できない。上記電子を正の直流電圧V1 、V2 によって電界レンズ30内へ引き込む場合があるかも知れない。
【0079】
その場合は、例えば、図1中に二点鎖線で示すように、電界レンズ30とプラズマ発生装置46との間に、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていて、図示しない直流電源から負電圧が印加される一対の電極50を設けて、この電極50に印加される負電圧によって、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子をターゲット24側へ押し戻すようにしても良い。この電子のエネルギーは上記のように低いので、電極50に印加する電圧は、例えば、−数十V〜−1kV前後の範囲内にすれば良い。このような電極50およびそれ用の直流電源を、必要に応じて設ければ良い。
【0080】
なお、上記実施形態と違って、イオンビーム4と中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器は、イオンビーム4を平行ビーム化するビーム平行化器とは別個のものでも良い。その場合は、電界レンズ30は、ビーム平行化器の下流側かつイオンビーム偏向器の下流側に設ければ良い。通常は、ビーム平行化器の下流側にイオンビーム偏向器が設けられるので、イオンビーム偏向器の下流側に電界レンズ30を設ければ良い。イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させる場合はビーム平行化器は不要であるので、イオンビーム偏向器の下流側に電界レンズ30を設ければ良い。
【0081】
また、上記のような電界レンズ30を、イオンビーム4の進行方向に二つ設けて、両電界レンズ30の協働によって、前述したイオンビーム4の偏差角θを小さくする補正を行うようにしても良い。これは、厳密に見れば、電界レンズ30が一つの場合は、当該電界レンズ30を用いて上記偏差角θを小さくする補正を行う場合に、電界レンズ30に入射する際のイオンビーム4のY方向における中心軌道方向の違いによって、偏差角補正後のイオンビーム4のY方向における中心軌道位置が異なる可能性があるのに対して、二つの電界レンズ30の協働によって上記偏差角θを小さくする補正を行うようにすると、(a)偏差角補正を行うことができることに加えて、(b)上流側の電界レンズ30に入射する際のイオンビーム4のY方向における中心軌道方向に違いがあっても、下流側の電界レンズ30を通過して出てくるイオンビーム4のY方向における中心軌道位置を揃えることができる。ひいては、ターゲット24に入射するイオンビーム4のY方向の中心位置を実質的に一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。
【図2】図1中の電界レンズ周りを矢印P方向に見て拡大して示す正面図である。
【図3】電界レンズの電源構成の他の例を示す図であり、図2に相当している。
【図4】電界レンズを設けた場合のターゲットでのイオンビーム電流の最大増加率を、イオンビームのエネルギーを変えて測定した結果の一例を示す図である。
【図5】電界レンズによってイオンビームをY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を示す図であり、中間電極に負の直流電圧を印加している。
【図6】電界レンズによってイオンビームをY方向において絞ったシミュレーション結果の他の例を示す図であり、中間電極に正の直流電圧を印加している。
【図7】電界レンズの中間電極に印加する直流電圧を変化させたときのターゲットでのビーム電流の変化を示す概略図である。
【図8】イオンビームがY方向において上向きに傾いているシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図9】図8のイオンビームの傾きを補正したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図10】従来のイオン注入装置の一例を示す平面図である。
【図11】図10中のマスクおよびターゲットをイオンビームの進行方向に見て拡大して示す正面図である。
【符号の説明】
【0083】
4 イオンビーム
14 ビーム平行化器(イオンビーム偏向器)
24 ターゲット
30 電界レンズ
32 入口電極
34 中間電極
36 出口電極
38、40 直流電源
46 プラズマ発生装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、X方向の寸法が当該X方向と直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状(これは、シート状または帯状とも呼ばれる)の形をしているイオンビームをターゲットに照射してイオン注入を行う構成のイオン注入装置に関し、より具体的には、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を備えているイオン注入装置および当該イオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン注入装置の従来例を図10に示す。これと同様のイオン注入装置が、例えば特許文献1に記載されている。なお、この明細書および図面においては、イオンビーム4の設計上の進行方向をZ方向とし、このZ方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。「設計上の進行方向」というのは、換言すれば、所定の進行方向、即ち本来進むべき進行方向のことである。
【0003】
このイオン注入装置は、イオン源2から発生させた、リボン状のイオンビームの元になる小さな断面形状をしているイオンビーム4を、質量分離器6を通して質量分離し、加減速器8を通して加速または減速し、エネルギー分離器10を通してエネルギー分離し、走査器12を通してX方向に走査し、ビーム平行化器14を通して平行ビーム化した後に、ホルダ26に保持されたターゲット(例えば半導体基板)24に照射して、ターゲット24にイオン注入を行うよう構成されている。ターゲット24は、ホルダ26と共に、ビーム平行化器14からのイオンビーム4の照射領域内で、ターゲット駆動装置28によって、Y方向に沿う方向に機械的に往復走査(往復駆動)される。
【0004】
ビーム平行化器14は、磁界または電界(この例では磁界)によってイオンビーム4を走査する走査器12と協働して、X方向に走査されたイオンビーム4を、磁界または電界(この例では磁界)によって基準軸16に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して、X方向の寸法が当該X方向と直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビーム4(図11も参照)を導出する。リボン状と言っても、Y方向の寸法が紙のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム4のX方向の寸法は35cm〜50cm程度であり、Y方向の寸法は5cm〜10cm程度である。ビーム平行化器14は、この例のように磁界を使用する場合は、ビーム平行化マグネットと呼ばれる。
【0005】
上記イオン注入装置は、X方向の走査を経てリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合の例であるが、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合もある。
【0006】
【特許文献1】特開平8−115701号公報(段落0003、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記イオンビーム4の輸送経路は、図示しない真空容器内にあり、真空雰囲気に保たれる。しかし、イオンビーム4の輸送経路には、残留ガスやアウトガス等のガスが僅かではあるが必ず存在する。
【0008】
このガス分子にイオンビーム4が衝突して中性粒子が発生する。この中性粒子がターゲット24に入射すると、注入量分布の均一性を悪化させたり、注入量誤差を生じさせたりする等の悪影響が生じる。
【0009】
これを防止するために、ターゲット24に照射するエネルギー状態(換言すれば、加減速器8を通した後の最終エネルギー状態)のイオンビーム4を、ターゲット24の近くに設けたイオンビーム偏向器によって磁界または電界の作用で偏向させて、偏向したイオンビーム4と偏向せずに直進する中性粒子18とを互いに分離して、中性粒子18がターゲット24に入射するのを防止する必要がある。上記ビーム平行化器14は、このイオンビーム偏向器を兼ねている。
【0010】
ビーム平行化器14で分離された中性粒子18がターゲット24に入射しないようにするためには、ビーム平行化器14の出口とターゲット24との間にある程度の距離L1 が必要である。この距離L1 が不足すると、中性粒子18がターゲット24に入射するようになるからである。ビーム平行化器14でイオンビーム4を大きく偏向させれば上記距離L1 は小さくできるが、そのようにするとビーム平行化器14およびその電源が大型化する等の問題が発生する。また、ターゲット24が大型化するほど、大きな距離L1 が必要になる。一例を挙げると、上記距離L1 は70cm〜80cm程度必要である。
【0011】
ところが、イオンビーム4は、上記ビーム平行化器14とターゲット24との間を輸送されている間においても、空間電荷効果によって発散する。装置のスループットを高めると共に、ターゲット24上に形成する半導体デバイスの微細化のためにイオン注入深さを浅くする等の観点から、ターゲット24に照射するイオンビーム4は低エネルギーかつ大電流のものが望まれているが、イオンビーム4が低エネルギーかつ大電流になるほど、空間電荷効果によるイオンビーム4の発散は大きくなる。また、上記距離L1 が大きくなるほどイオンビーム4の発散は大きくなる。
【0012】
このイオンビーム4の発散は、X、Y両方向において生じるけれども、元々、イオンビーム4のX方向の寸法は上記のようにY方向に比べてかなり大きいので、Y方向の発散による悪影響の方が大きい。そこで以下においてはこのY方向の発散に着目する。
【0013】
イオンビーム4がY方向に発散すると、Y方向におけるイオンビーム4の一部が、イオンビーム4の経路を囲む真空容器や、イオンビーム4を整形するマスク等によってカットされて、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率が低下する。
【0014】
例えば、ビーム平行化器14とターゲット24との間には、図10、図11に示すように、また例えば特許第3567749号公報にも記載されているように、イオンビーム4を通過させる開口22を有していてイオンビーム4を整形するマスク20が設けられていることが多い。このマスク20によって、イオンビーム4のY方向の不要な裾の部分をカットして、イオンビーム4からターゲット24を逃がす距離L2 を小さくすることができるからである。
【0015】
イオンビーム4が空間電荷効果によってY方向に発散すると、例えばこのマスク20によってカットされる割合が大きくなるので、マスク20を通過することができるイオンビーム4の量が減り、イオンビーム4の輸送効率が低下する。
【0016】
上記課題は、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合にも同様に存在する。
【0017】
そこでこの発明は、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係るイオン注入装置の一つは、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器の下流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴としている。
【0019】
このイオン注入装置によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0020】
この発明に係るイオン注入装置の他のものは、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器の下流側であってしかも前記マスクの上流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴としている。
【0021】
このイオン注入装置によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とマスクとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やして、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0022】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されているものでも良い。そして、イオン注入装置は、前記中間電極に直流電圧を印加する直流電源を更に備えていても良い。または、前記中間電極を構成する一対の電極に直流電圧をそれぞれ印加する第1および第2の直流電源を更に備えていても良い。
【0023】
X方向に走査されたイオンビームを、磁界または電界によって、基準軸に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して前記リボン状の形をしているイオンビームを導出するビーム平行化器を備えていて、このビーム平行化器が前記イオンビーム偏向器を兼ねており、前記電界レンズはこのビーム平行化器の出口近傍に設けられていても良い。
【0024】
プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側近傍に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置を更に備えていて、前記電界レンズはこのプラズマ発生装置よりも上流側に設けられていても良い。
【0025】
前記電界レンズを用いて、イオンビームのY方向の偏差角が小さくなるように偏差角を補正しても良い。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の発明によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とターゲットとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、電界レンズによって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器とマスクとの間において、イオンビームの空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やして、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0028】
請求項3に記載の発明によれば、電界レンズがユニポテンシャルレンズ(換言すればアインツェルレンズ。以下同様)の働きをするので、イオンビームのエネルギーを変えることなくイオンビームを絞ることができる、という更なる効果を奏する。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明と同様の効果に加えて、更に次のような効果を奏する。即ち、第1および第2の直流電源から、電界レンズの中間電極を構成する一対の電極に互いに異なる値の直流電圧を印加することができるので、電界レンズによってイオンビームのY方向の偏差角を調整することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明によれば、イオンビーム偏向器を兼ねるビーム平行化器の出口近傍に電界レンズが設けられているので、早い段階においてより効果的に電界レンズによってイオンビームを絞ることができ、それによってイオンビームの輸送効率をより高めることができる、という更なる効果を奏する。
【0031】
請求項6に記載の発明によれば、電界レンズをプラズマ発生装置よりも上流側に設けているので、プラズマ発生装置から発生させたプラズマ中の電子を、電界レンズを通過させることなくターゲットに供給することができる。従って、電界レンズを設けても、プラズマ発生装置によるターゲット表面の帯電抑制作用に対する影響を小さくすることが容易になる。
【0032】
請求項7、8に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、電界レンズを用いて、イオンビームのY方向の偏差角を小さくすることができるので、イオンビームの軌道が傾いていることによるターゲットへのイオンビームの入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを小さくすることができる。かつ、イオンビームの軌道を正して、イオンビームが構造物に衝突するのを抑制したり、マスクの開口を通過するイオンビームの量を増やしたりすることができるので、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0033】
請求項9に記載の発明によれば、上記偏差角を実質的に0度にするので、請求項7、8に示した効果をより高めることができる。即ち、イオンビームの入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを防止することができると共に、イオンビームの輸送効率をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。図2は、図1中の電界レンズ周りを矢印P方向に見て拡大して示す正面図である。図10に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0035】
このイオン注入装置は、イオンビーム4と中性粒子18(図10参照)とを分離するイオンビーム偏向器を兼ねる前記ビーム平行化器14の下流側に設けられていて、イオンビーム4をY方向において絞る電界レンズ30を備えている。より具体的には、電界レンズ30はビーム平行化器14の出口近傍に設けられている。
【0036】
電界レンズ30は、イオンビーム4の進行方向Zに互いに間をあけて並べられた入口電極32、中間電極34および出口電極36を有している。各電極32、34、36は、イオンビーム4の進行方向Zに実質的に直角に配置されている。換言すれば、X方向に実質的に平行に配置されている。但しこの実施形態では、入口電極32(具体的にはそれを構成する電極32a、32b。図2参照)の入口側の辺は、ビーム平行化器14(具体的にはその磁極14a、14b。図2参照)の出口側の辺に沿った形状をしている。このようにすると、電界レンズ30をビーム平行化器14の出口により近づけて配置することができる。入口電極32、中間電極34および出口電極36のX方向の長さは、イオンビーム4のX方向の寸法よりも大きい。
【0037】
入口電極32、中間電極34および出口電極36は、それぞれ、図2に示すように、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていて、イオンビーム4の広い方の面(XZ平面に沿う面)に実質的に平行な一対の電極32a、32b、34a、34bおよび36a、36bから成る。電極32aと32b、電極34aと34b、電極36aと36bは、それぞれ、導体によって電気的に接続されている。
【0038】
この実施形態では、電極32a、32b、36aおよび36bの内側面は、ビーム平行化器14の磁極14a、14bの内側面とほぼ同一面上に位置させている。電極34a、34bは、上記面よりも幾らか外側に位置させている。
【0039】
入口電極32および出口電極36(より具体的にはそれらを構成する電極32a、32b、36aおよび36b)は、電気的に接地されている。中間電極34(より具体的にはそれを構成する電極34aおよび34b)は、それに負または正(図1に示す実施形態では負)の直流電圧V1 を印加する直流電源38に接続されている。
【0040】
電界レンズ30は、その入口電極32および出口電極36が互いに同電位に保たれ、中間電極34が入口電極32および出口電極36とは互いに異なる電位に保たれるので、ユニポテンシャルレンズの働きをし、イオンビーム4を絞る働きをする。従って、イオンビーム4のエネルギーを変えることなく、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。
【0041】
その結果、この電界レンズ30によって、前述したイオンビーム偏向器を兼ねるビーム平行化器14とターゲット24との間において、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率を高めることができる。
【0042】
より具体的には、この実施形態のように前述したマスク20が設けられている場合は、ビーム平行化器14とマスク20との間において、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスク20の開口22を通過するイオンビーム4の量を増やして、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0043】
しかもこの実施形態のようにビーム平行化器14の出口近傍に電界レンズ30を設けておくと、イオンビーム4が空間電荷効果によってY方向に発散する前または途中の早い段階において、電界レンズ30によってイオンビーム4を絞ることができるので、イオンビーム4の損失を少なくしてより効果的にイオンビーム4を絞ることができる。従って、イオンビーム4の輸送効率をより高めることができる。
【0044】
直流電源38から中間電極34に印加する直流電圧V1 の絶対値(大きさ)を大きくするほど、イオンビーム4を強く絞ることができる。また、イオンビーム4を絞る程度は、電界レンズ30を通過する際のイオンビーム4のエネルギーによって変わる。イオンビーム4のエネルギーが大きくなるほど、直流電圧V1 がイオンビーム4に及ぼす偏向作用は小さくなるので、イオンビーム4を強く絞るためには、直流電圧V1 の絶対値を大きくすれば良い。
【0045】
中間電極34に負の直流電圧V1 を印加して、電界レンズ30によってイオンビーム4をY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を図5に示す。この例は、電界レンズ30にY方向において平行なイオンビーム4が入射した場合の例であり、かつ、V1 =−1.5VE の場合の例である。VE は、イオンビーム4のエネルギーに相当する電圧である(例えば、イオンビーム4のエネルギーが5keVなら電圧VE は5kVである)。−(マイナス)符号は、直流電圧V1 が負電圧であることを表している(以下同様)。電界レンズ30の下流側にイオンビーム4の焦点Fが形成されていることが分かる。
【0046】
図示は省略するけれども、直流電圧V1 の絶対値を1.5VE よりも小さくすると、イオンビーム4を絞る作用は弱くなるので焦点Fは電界レンズ30から遠ざかり、同絶対値を1.5VE よりも大きくすると、イオンビーム4を絞る作用はより強くなるので焦点Fは電界レンズ30に近づく。また、同じ大きさの直流電圧V1 の場合でも、電界レンズ30に平行ビームではなく発散したイオンビーム4が入射すると、焦点Fは電界レンズ30から遠ざかる。
【0047】
電界レンズ30を設けた場合のターゲット24でのイオンビーム4のビーム電流の最大増加率を、電界レンズ30を通過する際のイオンビーム4のエネルギーを変えて測定した結果の一例を図4に示す。この場合のイオンビーム4のイオン種はAs+ である。増加率とは、電界レンズ30を設けていない場合に比べて、他の条件を同じにした場合、電界レンズ30を設けた場合にイオンビーム電流が増加した割合をいう。最大増加率とは、直流電圧V1 の大きさによって増加率が変わるので、最大の増加率を与える大きさの直流電圧V1 を採用したときの増加率である。
【0048】
この図4から、イオンビーム4のエネルギーが低い方が最大増加率が高くなっていることが分かる。これは、前述したように、イオンビーム4が低エネルギーになるほど、空間電荷効果によるイオンビーム4の発散が大きくなって輸送効率が低下するので、電界レンズ30によってイオンビーム4の発散を抑えて輸送効率を向上させる効果が大きくなるからである。
【0049】
直流電源38の極性を逆にして、電界レンズ30の中間電極34に正の直流電圧V1 を印加するようにしても良い。この場合も、電界レンズ30はユニポテンシャルレンズの働きをし、イオンビーム4を、そのエネルギーを変えることなく、Y方向において絞ることができる。
【0050】
中間電極34に正の直流電圧V1 を印加して、電界レンズ30によってイオンビーム4をY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を図6に示す。この例は、V1 =0.25VE の場合の例である。
【0051】
図示は省略するけれども、直流電圧V1 の大きさを0.25VE よりも小さくすると、イオンビーム4を絞る作用は弱くなり、0.25VE よりも大きくすると、イオンビーム4を絞る作用は強くなる。
【0052】
電界レンズ30の中間電極34に印加する直流電圧V1 を負から正までに亘って変化させたときの、ターゲット24でのビーム電流の変化の概略例を図7に示す。直流電圧V1 が負の電圧−VN 付近のときと、正の電圧VP 付近のときに、ビーム電流にピークが表れている。電圧−VN は、例えば、−VE 〜−1.5VE 前後である。電圧VP は、例えば、0.5VE 〜0.7VE 前後である。
【0053】
従って、例えば、中間電極34に印加する直流電圧V1 として負の直流電圧を印加する場合は、−VN ≦V1 <0の範囲を使用すれば良い。正の直流電圧V1 を印加する場合は、0<V1 ≦VP の範囲を使用すれば良い。
【0054】
直流電源38として、直流電圧V1 を正負両極性に亘って連続して出力することができるバイポーラ電源(両極性電源)を用いても良い。この直流電源38から出力することができる直流電圧V1 の範囲は、例えば、−VN ≦V1 ≦VP にすれば良いが、これに余裕を持たせて、−2VE ≦V1 ≦VE の範囲にするのが好ましい。
【0055】
中間電極34に印加する直流電圧V1 の極性を、目的等に応じて正と負とで使い分けても良い。例えば、中間電極34に負の直流電圧V1 を印加すると、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34との間で一旦加速されることになり、元のエネルギーよりも一旦高くなる。この加速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して中性粒子が発生すると(発生空間距離が短いので、この発生確率は非常に小さい)、量はわずかではあるが、イオンビーム4の元のエネルギーよりも高いエネルギーの中性粒子が発生してそれがターゲット24に入射する可能性がないとは言えない。これは、エネルギーコンタミネーションと呼ばれる。
【0056】
低エネルギー(例えば10keV程度以下)のイオンビーム4を用いて低エネルギー注入を行う場合は、イオンビーム4のエネルギーよりもエネルギーの高い高エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションが特に問題になるので、それを避けたいのであれば、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する方を選んでも良い。但し、中間電極34に負の直流電圧V1 を印加すると、後述するように、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を押し戻すことができるという利点がある。
【0057】
中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する場合に、エネルギーコンタミネーションが発生しないわけではない。即ち、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加すると、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34との間で一旦減速されることになり、元のエネルギーよりも一旦低くなる。この減速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して中性粒子が発生すると(前記と同様にこの発生確率は非常に小さい)、量はわずかではあるが、イオンビーム4の元のエネルギーよりも低いエネルギーの中性粒子が発生してそれがターゲット24に入射する可能性がないとは言えない。
【0058】
しかしこのような、イオンビーム4のエネルギーよりも低いエネルギーの低エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションは、10keV程度以下の低エネルギー注入を行う場合は、高エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションに比べて問題になりにくい。但し、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加する場合は、負の場合と違って、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を押し戻すことはできない。当該電子を引き込む可能性もある。これについては後述する手段で対処することができる。
【0059】
上記のような長所短所を考慮して、中間電極34に印加する直流電圧V1 の極性を正と負とで使い分けても良い。
【0060】
再び図1を参照して、ターゲット24の上流側および下流側に、イオンビーム4のビーム電流を計測する複数の検出器がX方向にそれぞれ並設されて成る前段多点ファラデー42および後段多点ファラデー44をそれぞれ設けておいて、例えば特開2005−195417号公報に記載されている技術と同様に、両多点ファラデー42、44とその前方でY方向に駆動されるシャッターとを組み合わせて用いて、イオンビーム4の進行方向Zの2箇所におけるイオンビーム4のY方向のビーム寸法df 、db と、両箇所間の距離L3 および両箇所とターゲット間の距離L4 、L5 とに基づいて、次式に従って、ターゲット24の位置でのイオンビーム4のY方向のビーム寸法dt 、イオンビーム4のY方向における発散角αを計測しても良い。前段多点ファラデー42の前方にシャッターを設ける代わりに、前段多点ファラデー42を例えばマスク20の下流側近傍に設ける等しておいて、前段多点ファラデー42をY方向に駆動しても良い。
【0061】
[数1]
dt =(L5 /L3 )df +(L4 /L3 )db 、(但しL3 =L4 +L5 )
【0062】
[数2]
α=tan-1{(db −df )/2L3 }
【0063】
そして、上記ビーム寸法dt 、発散角αの計測データに基づいて、上記直流電圧V1 をフィードバック制御するようにしても良い。例えば、イオンビーム4のY方向のビーム寸法dt や発散角αが大きいときは、上記直流電圧V1 の絶対値を大きくするように制御すれば良い。それによって、電界レンズ30によってイオンビーム4がY方向においてより強く絞られるので、上記ビーム寸法dt や発散角αを小さくすることができる。この場合、例えば、図7に示したような特性を考慮して、直流電圧V1 を制御する範囲を予め定めておくのが好ましく(例えば、負の直流電圧V1 を使用する場合は−VN ≦V1 <0、正の直流電圧V1 を使用する場合は0<V1 ≦VP )、そのようにすれば制御が簡単になる。後述する偏差角θを補正する場合も同様である。
【0064】
電界レンズ30の中間電極34を構成する一対の電極34a、34bに一つの直流電源38から同じ直流電圧V1 を印加する場合、例えば図8に示すように、何らかの原因で電界レンズ30に入射するイオンビーム4がY方向に傾いていると、電界レンズ30を通過したイオンビーム4もY方向において偏差角θを持つことになる。偏差角θは、YZ平面内において、イオンビーム4の中心軌道とZ軸方向との成す角度である。より具体的には、電界レンズ30を通過したイオンビーム4の中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である。
【0065】
これを、例えば図3に示す実施形態で解決することができる。この実施形態では、中間電極34を構成する一方の電極34aは、それに第1の直流電圧V1 を印加する第1の直流電源38に接続されており、他方の電極34bは、それに第2の直流電圧V2 を印加する第2の直流電源40に接続されている。
【0066】
図3に示す実施形態では、直流電源38、40から電極34a、34bに負の直流電圧V1 、V2 をそれぞれ印加する場合の例であるが、上記と同様に、直流電源38、40の極性を逆にして、電極34a、34bに正の直流電圧V1 、V2 をそれぞれ印加するようにしても良い。また、直流電源38、40として、直流電圧V1 、V2 をそれぞれ正負両極性に亘って連続して出力することができるバイポーラ電源を用いても良い。電極34a、34bに印加する直流電圧V1 、V2 を正と負とで使い分けても良い。
【0067】
第1および第2の直流電源38、40を設けることによって、中間電極34を構成する一対の電極34a、34bに互いに異なる値の直流電圧V1 、V2 を印加することができるので、イオンビーム4の上記Y方向の偏差角θを調整することができる。
【0068】
例えば、上記図8に示した例のようにイオンビーム4がY方向の上向きに傾いている場合、図9に示す例のように、傾いている側の電極36aに印加する直流電圧V1 の絶対値よりも、傾いているのと反対側の電極36bに印加する直流電圧V2 の絶対値を大きくすれば良い。この例では、電極34a、34bに、それぞれ、−VE 、−1.24VE の値の直流電圧V1 、V2 を印加した。図9は、直流電圧V1 、V2 が負の場合の例であるが、正の場合も同じ傾向になる。このようにして、上記偏差角θを小さくすることができる。上記偏差角θを実質的に0度にすることもできる。
【0069】
上述した前段多点ファラデー42、後段多点ファラデー44等を有する偏差角測定手段によって、例えば上記特開2005−195417号公報に記載されている技術と同様に、各多点ファラデー42、44にY方向においてイオンビームが徐々に入射するようにして、イオンビーム4の進行方向の2箇所におけるイオンビーム4のY方向の中心位置yf 、yb を求めて、両中心位置yf 、yb と両箇所間の距離L3 とに基づいて、次式に従って、上記偏差角θを計測しても良い。
【0070】
[数3]
θ=tan-1{(yb −yf )/L3 }
【0071】
そして、上記偏差角θの計測データに基づいて、上記直流電圧V1 およびV2 の少なくとも一方をフィードバック制御等によって調整するようにしても良い。例えば、前述したように、イオンビーム4が傾いているのと反対側の電極34b(または34a)に印加する直流電圧V2 (またはV1 )の絶対値を大きくするように調整(制御)すれば良い。それによって、電界レンズ30を通過したイオンビーム4の軌道が、元々傾いていたのと反対側に曲げられるので、上記偏差角θを小さくすることができる。上記偏差角θを実質的に0度にすることもできる。
【0072】
上記偏差角θを小さくすることによって、イオンビーム4の軌道が傾いていることによるターゲット24へのイオンビーム4の入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを小さくすることができる。かつ、イオンビーム4の軌道を正して、イオンビーム4が構造物に衝突するのを抑制することができるので、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。更に、この実施形態のようにマスク20を有している場合は、マスク20の開口22を通過するイオンビーム4の量を増やすことができるので、この観点からもイオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0073】
上記偏差角θを実質的に0度にすることによって、上記効果をより高めることができる。即ち、イオンビーム4の入射角度のずれ、ひいてはイオン注入角度のずれを防止することができると共に、イオンビーム4の輸送効率をより高めることができる。
【0074】
再び図1を参照して、例えば特許第3387488号公報、特許第3414380号公報にも記載されているように、プラズマを生成して当該プラズマをターゲット24の上流側近傍に供給して、当該プラズマ中の電子によって、イオンビーム照射に伴うターゲット24表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置46を設ける場合がある。その場合は、上記電界レンズ30はプラズマ発生装置46よりも上流側に設けるのが好ましい。即ち、電界レンズ30は、上記ビーム平行化器14の下流側かつプラズマ発生装置46の上流側に設けるのが好ましい。
【0075】
そのようにすれば、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子を、電界レンズ30を通過させることなくターゲット24に供給することができるので、電界レンズ30を設けても、プラズマ発生装置46によるターゲット24表面の帯電抑制作用に対する影響を小さくすることが容易になる。
【0076】
例えば、直流電圧V1 、V2 が負の場合は、仮に、電界レンズ30をプラズマ発生装置46の下流側に設けると、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子は電界レンズ30に印加される負の直流電圧V1 、V2 によって押し戻されて、ターゲット24に到達するのが困難になる。特に、プラズマ発生装置46から発生させるプラズマ中の電子のエネルギーは小さい方が望ましいので(例えば10eV程度以下)、当該プラズマ中の電子は負の直流電圧V1 、V2 によって押し戻されやすい。
【0077】
これに対して、電界レンズ30をプラズマ発生装置46よりも上流側に設けると、電界レンズ30に負の直流電圧V1 、V2 を印加しても、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子がターゲット24に到達するのを妨げないだけでなく、負の直流電圧V1 、V2 によって当該電子をターゲット24側へ押し戻してターゲット24に到達するのを助ける作用も期待できる。従って、プラズマ発生装置46によるターゲット24表面の帯電抑制作用を電界レンズ30が妨げないだけでなく、補助する作用も期待できる。
【0078】
直流電圧V1 、V2 が正の場合は、電界レンズ30をプラズマ発生装置46よりも上流側に設けても、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子をターゲット24側へ押し戻す作用は期待できない。上記電子を正の直流電圧V1 、V2 によって電界レンズ30内へ引き込む場合があるかも知れない。
【0079】
その場合は、例えば、図1中に二点鎖線で示すように、電界レンズ30とプラズマ発生装置46との間に、イオンビーム4が通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていて、図示しない直流電源から負電圧が印加される一対の電極50を設けて、この電極50に印加される負電圧によって、プラズマ発生装置46から発生させたプラズマ中の電子をターゲット24側へ押し戻すようにしても良い。この電子のエネルギーは上記のように低いので、電極50に印加する電圧は、例えば、−数十V〜−1kV前後の範囲内にすれば良い。このような電極50およびそれ用の直流電源を、必要に応じて設ければ良い。
【0080】
なお、上記実施形態と違って、イオンビーム4と中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器は、イオンビーム4を平行ビーム化するビーム平行化器とは別個のものでも良い。その場合は、電界レンズ30は、ビーム平行化器の下流側かつイオンビーム偏向器の下流側に設ければ良い。通常は、ビーム平行化器の下流側にイオンビーム偏向器が設けられるので、イオンビーム偏向器の下流側に電界レンズ30を設ければ良い。イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させる場合はビーム平行化器は不要であるので、イオンビーム偏向器の下流側に電界レンズ30を設ければ良い。
【0081】
また、上記のような電界レンズ30を、イオンビーム4の進行方向に二つ設けて、両電界レンズ30の協働によって、前述したイオンビーム4の偏差角θを小さくする補正を行うようにしても良い。これは、厳密に見れば、電界レンズ30が一つの場合は、当該電界レンズ30を用いて上記偏差角θを小さくする補正を行う場合に、電界レンズ30に入射する際のイオンビーム4のY方向における中心軌道方向の違いによって、偏差角補正後のイオンビーム4のY方向における中心軌道位置が異なる可能性があるのに対して、二つの電界レンズ30の協働によって上記偏差角θを小さくする補正を行うようにすると、(a)偏差角補正を行うことができることに加えて、(b)上流側の電界レンズ30に入射する際のイオンビーム4のY方向における中心軌道方向に違いがあっても、下流側の電界レンズ30を通過して出てくるイオンビーム4のY方向における中心軌道位置を揃えることができる。ひいては、ターゲット24に入射するイオンビーム4のY方向の中心位置を実質的に一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。
【図2】図1中の電界レンズ周りを矢印P方向に見て拡大して示す正面図である。
【図3】電界レンズの電源構成の他の例を示す図であり、図2に相当している。
【図4】電界レンズを設けた場合のターゲットでのイオンビーム電流の最大増加率を、イオンビームのエネルギーを変えて測定した結果の一例を示す図である。
【図5】電界レンズによってイオンビームをY方向において絞ったシミュレーション結果の一例を示す図であり、中間電極に負の直流電圧を印加している。
【図6】電界レンズによってイオンビームをY方向において絞ったシミュレーション結果の他の例を示す図であり、中間電極に正の直流電圧を印加している。
【図7】電界レンズの中間電極に印加する直流電圧を変化させたときのターゲットでのビーム電流の変化を示す概略図である。
【図8】イオンビームがY方向において上向きに傾いているシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図9】図8のイオンビームの傾きを補正したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図10】従来のイオン注入装置の一例を示す平面図である。
【図11】図10中のマスクおよびターゲットをイオンビームの進行方向に見て拡大して示す正面図である。
【符号の説明】
【0083】
4 イオンビーム
14 ビーム平行化器(イオンビーム偏向器)
24 ターゲット
30 電界レンズ
32 入口電極
34 中間電極
36 出口電極
38、40 直流電源
46 プラズマ発生装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を備えているイオン注入装置において、
前記イオンビーム偏向器の下流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器と、このイオンビーム偏向器とターゲットとの間に設けられていて、イオンビームを通過させる開口を有していてイオンビームを整形するマスクとを備えているイオン注入装置において、
前記イオンビーム偏向器の下流側であってしかも前記マスクの上流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項3】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されており、
かつイオン注入装置は、前記中間電極に直流電圧を印加する直流電源を更に備えている請求項1または2記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されており、
かつイオン注入装置は、前記中間電極を構成する一対の電極に直流電圧をそれぞれ印加する第1および第2の直流電源を更に備えている請求項1または2記載のイオン注入装置。
【請求項5】
X方向に走査されたイオンビームを、磁界または電界によって、基準軸に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して前記リボン状の形をしているイオンビームを導出するビーム平行化器を備えていて、このビーム平行化器が前記イオンビーム偏向器を兼ねており、前記電界レンズはこのビーム平行化器の出口近傍に設けられている請求項1、2、3または4記載のイオン注入装置。
【請求項6】
プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側近傍に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置を更に備えていて、前記電界レンズはこのプラズマ発生装置よりも上流側に設けられている請求項1、2、3、4または5記載のイオン注入装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載のイオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法であって、
前記電界レンズを通過したイオンビームの中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である偏差角を偏差角測定手段によって測定し、
当該測定した偏差角が小さくなるように、前記電界レンズを構成する電極に印加する直流電圧を調整することを特徴とするイオンビームの偏差角補正方法。
【請求項8】
請求項4に記載のイオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法であって、
前記電界レンズを通過したイオンビームの中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である偏差角を偏差角測定手段によって測定し、
当該測定した偏差角が小さくなるように、前記第1および第2の直流電源から前記電界レンズの中間電極を構成する一対の電極にそれぞれ印加する直流電圧の少なくとも一方を調整することを特徴とするイオンビームの偏差角補正方法。
【請求項9】
前記測定した偏差角を実質的に0度にする請求項7または8記載のイオンビームの偏差角補正方法。
【請求項1】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を備えているイオン注入装置において、
前記イオンビーム偏向器の下流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
イオンビームの設計上の進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビームをターゲットに照射する構成の装置であって、ターゲットに照射するエネルギー状態のイオンビームを磁界または電界によって偏向させてイオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器と、このイオンビーム偏向器とターゲットとの間に設けられていて、イオンビームを通過させる開口を有していてイオンビームを整形するマスクとを備えているイオン注入装置において、
前記イオンビーム偏向器の下流側であってしかも前記マスクの上流側に設けられていて、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置された複数の電極を有していて、イオンビームをY方向において絞る電界レンズを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項3】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されており、
かつイオン注入装置は、前記中間電極に直流電圧を印加する直流電源を更に備えている請求項1または2記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記電界レンズは、イオンビームの進行方向に互いに間をあけて並べられた入口電極、中間電極および出口電極を有していて、入口電極、中間電極および出口電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向して配置されていてイオンビームの面に実質的に平行な一対の電極から成り、入口電極および出口電極は電気的に接地されており、
かつイオン注入装置は、前記中間電極を構成する一対の電極に直流電圧をそれぞれ印加する第1および第2の直流電源を更に備えている請求項1または2記載のイオン注入装置。
【請求項5】
X方向に走査されたイオンビームを、磁界または電界によって、基準軸に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して前記リボン状の形をしているイオンビームを導出するビーム平行化器を備えていて、このビーム平行化器が前記イオンビーム偏向器を兼ねており、前記電界レンズはこのビーム平行化器の出口近傍に設けられている請求項1、2、3または4記載のイオン注入装置。
【請求項6】
プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側近傍に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置を更に備えていて、前記電界レンズはこのプラズマ発生装置よりも上流側に設けられている請求項1、2、3、4または5記載のイオン注入装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載のイオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法であって、
前記電界レンズを通過したイオンビームの中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である偏差角を偏差角測定手段によって測定し、
当該測定した偏差角が小さくなるように、前記電界レンズを構成する電極に印加する直流電圧を調整することを特徴とするイオンビームの偏差角補正方法。
【請求項8】
請求項4に記載のイオン注入装置におけるイオンビームの偏差角補正方法であって、
前記電界レンズを通過したイオンビームの中心軌道の、YZ平面内におけるZ方向からの角度である偏差角を偏差角測定手段によって測定し、
当該測定した偏差角が小さくなるように、前記第1および第2の直流電源から前記電界レンズの中間電極を構成する一対の電極にそれぞれ印加する直流電圧の少なくとも一方を調整することを特徴とするイオンビームの偏差角補正方法。
【請求項9】
前記測定した偏差角を実質的に0度にする請求項7または8記載のイオンビームの偏差角補正方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−34360(P2008−34360A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133001(P2007−133001)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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