説明

イオン液体、蓄電デバイス用非水電解液および蓄電デバイス

【課題】 テトラフルオロホウ酸アニオン又はヘキサフルオロリン酸アニオンを構成成分とするイオン液体に比べて粘度が低く、かつ、加水分解を起こしにくいイオン液体を提供する。
【解決手段】 式(1)又は(4)で示され、融点が50℃以下のイオン液体。
【化1】


〔R1〜R4はもしくは異種の炭素数1〜5のアルキル基又はR′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(R′はメチル又はエチル基を示し、nは1〜4の整数である。)を示し、R1〜R4のいずれか2個の基がXと共に環を形成していてもよい。ただし、R1〜R4の少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。Xは窒素原子又はリン原子を、RFは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数、bは1〜6の整数である(a,bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、RFが相互に結合してホウ素原子又はリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体、蓄電デバイス用非水電解液および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシアルキル基を有するオニウムカチオンと、テトラフルオロホウ酸またはヘキサフルオロリン酸アニオンとで構成されるイオン液体は、(1)蒸気圧が全くないか、極めて小さい、(2)不燃または難燃である、(3)高いイオン導電性を有する、(4)水よりも分解電圧が高い、(5)水よりも液体温度領域が広い、(6)大気中での取り扱いが可能、(7)それまで知られていたイオン液体より広い電位窓を有する、といった種々の利点から、近年、電気二重層キャパシタや、リチウムイオン電池等の電解液(溶媒)として好適であることが分かってきた(特許文献1:国際公開02/076924号パンフレット)。
【0003】
このイオン液体を構成するテトラフルオロホウ酸アニオンやヘキサフルオロリン酸アニオンは、系中に存在する水により加水分解され易いという性質を有している。これらのアニオンが加水分解するとフッ化水素が発生し、その結果、キャパシタや電池の電気容量、充放電効率、耐電圧等が低下したり、ガス発生により、キャパシタや電池が膨張したりするなどの問題が生じる。系内に存在する水の低減化を図ることは、通常でも行われているが、電極活物質などのキャパシタまたは電池構成部材に付着した水分を完全に除去することは困難である。このため、電解液中の含水量は、通常数十ppm程度にしかならず、上記加水分解を完全に防ぐことは難しい。
また、上記各アニオンを有する電解質塩を用いた蓄電デバイスを、Cレートで30C以上の大電流で充放電を繰り返すと、イオン会合が原因と考えられる可逆的な容量低下が発生することも知られている。
【0004】
さらに、上記イオン液体は、比較的粘度が高いという性質を有しており、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池の電解液として用いる場合、内部抵抗が増大しないよう、電解液溶媒で希釈して粘度を下げることが、一般的である。電解液溶媒としては、プロピレンカーボネート等の有機溶媒が用いられることが多いが、有機溶媒は引火性を有していることから、イオン液体自体が、上述のように、蒸気圧がない、不燃または難燃であるという性質を有していても、その利点が充分に生かされないことになる。
【0005】
アニオン成分の加水分解を防止するという観点から、パーフルオロアルキル基を有するフルオロホウ酸アニオンまたはフルオロリン酸アニオンで構成される電解質塩が開発されている(特許文献2:特開2002−63934号公報、特許文献3:特開2002−100403号公報、特許文献4:特開2002−151361号公報等参照)。
また、アルコキシアルキル基を有するアンモニウムカチオンと、パーフルオロエチルトリフルオロホウ酸アニオンとで構成されるイオン液体が、同カチオンと、テトラフルオロホウ酸アニオンとで構成されるイオン液体よりも粘度が低くなるということも報告されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、このイオン液体は、粘度の点で不充分であるだけでなく、これを電解液として用いたキャパシタや電池の特性も実用上充分満足できるものとは言い難い。
【0006】
【特許文献1】国際公開02/076924号パンフレット
【特許文献2】特開2002−63934号公報
【特許文献3】特開2002−100403号公報
【特許文献4】特開2002−151361号公報
【非特許文献1】ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)、Vol.33,No.7,886〜887頁、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、テトラフルオロホウ酸アニオンまたはヘキサフルオロリン酸アニオンをその構成成分とするイオン液体に比べて粘度が低く、かつ、加水分解を起こしにくいイオン液体、蓄電デバイス用非水電解液、およびこの非水電解液を用いてなる蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)および(4)で示されるイオン液体、好ましくは式(2),(3),(5),(6)で示されるイオン液体が、テトラフルオロホウ酸アニオンまたはヘキサフルオロリン酸アニオンをその構成成分とするイオン液体に比べて粘度が低く、かつ、加水分解を起こしにくいこと、並びにこのイオン液体を含む電解質を用いた電気二重層キャパシタ、二次電池等の蓄電デバイスが、内部抵抗が低い上、定格電圧が高く、しかも耐久性および大電流充放電時のサイクル特性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で示され、融点が50℃以下であることを特徴とするイオン液体、
【化1】

〔式中、R1〜R4は互いに同一もしくは異種の炭素数1〜5のアルキル基、またはR′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(R′はメチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基がXと共に環を形成していてもよい。ただし、R1〜R4の内少なくとも1つは上記アルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を示し、RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数である(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
2. 下記一般式(2)で示されることを特徴とする1のイオン液体、
【化2】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数である(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。ただし、Xが窒素原子、R′がメチル基、RFがペンタフルオロエチル基、nが2、aが1のものを除く。〕
3. 下記一般式(3)で示されることを特徴とする1のイオン液体、
【化3】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R1は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、mは4または5の整数であり、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数を示す(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
4. 下記一般式(4)で示され、融点が50℃以下であることを特徴とするイオン液体、
【化4】

〔式中、R1〜R4は互いに同一もしくは異種の炭素数1〜5のアルキル基、またはR′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(R′はメチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基がXと共に環を形成していてもよい。ただし、R1〜R4の内少なくとも1つは上記アルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を示し、RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜6の整数である(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
5. 下記一般式(5)で示されることを特徴とする4のイオン液体、
【化5】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜6の整数である(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
6. 下記一般式(6)で示されることを特徴とする4のイオン液体、
【化6】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R1は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、mは4または5の整数であり、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜4の整数を示す(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
7. 2〜6のいずれかのイオン液体のみからなることを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液、
8. 2〜6のいずれかのイオン液体を含むことを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液、
9. 7または8の蓄電デバイス用非水電解質を用いて構成された蓄電デバイス、
10. 電気二重層キャパシタまたはリチウムイオン電池である9の蓄電デバイス
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、(a)従来のアルコキシアルキル基を有する有機系イオン液体よりも低粘度である、(b)高いイオン導電性を有する、(c)加水分解でフッ化水素を発生しにくい、(d)電位窓が広い、(e)液体温度領域が広いといった特徴を有するイオン液体を提供することができる。
当該イオン液体からなる蓄電デバイス用電解液は、粘度が低く、有機溶媒で希釈等する必要が無いか、または極少量の希釈で使用できるため、安全性が高い。また、液体温度領域が広いため、低温下でも結晶化しにくい。
当該蓄電デバイス用電解液を用いてなる蓄電デバイスは、内部抵抗が小さいため、大電流充放電に適しているだけでなく、大電流充放電におけるサイクル特性にも優れている。また、上述のように電解液中における有機溶媒の使用量を極力抑えることができるから、安全性に優れる上、電解液が加水分解を起こしにくいから、水分の混入があっても、容量低下やガス発生等の問題を起こしにくい。さらに、電解液の液体温度領域が広いから、温度特性、特に低温下での充放電特性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[1]第1のイオン液体
本発明に係る第1のイオン液体は、上記一般式(1)で示され、融点が50℃以下であるものである。
(1)カチオン成分
式(1)において、炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。R′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシまたはエトキシメチル基、メトキシまたはエトキシエチル基、メトキシまたはエトキシプロピル基、メトキシまたはエトキシブチル基等が挙げられる。
また、R1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基がXと共に環を形成している化合物としては、Xに窒素原子を採用した場合には、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等を有する4級アンモニウム塩、一方、Xにリン原子を採用した場合には、ペンタメチレンホスフィン(ホスホリナン)環等を有する4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0012】
特に、置換基として、R′がメチル基であり、nが2のメトキシエチル基を少なくとも1つ有する4級アンモニウムカチオンが好適である。
また、(A)置換基として、メチル基、2つのエチル基、およびアルコキシアルキル基を有する下記式(7)で示される4級カチオン、(B)置換基として、エチル基、2つのメチル基、およびアルコキシアルキル基を有する下記式(8)で示される4級カチオン(但し、アニオン成分が、ペンタフルオロエチルトリフルオロボレートの場合、式(7),(8)において、Xが窒素原子、R′がメチル基、nが2のものを除く。)、(C)置換基としてメチル基、ピロリジン環(上記式(3)のイオン液体においてR1がCH3、mが4、Xが窒素原子のもの)、およびアルコキシエチル基を有する下記式(9)で示される4級カチオンを好適に用いることができる。中でも、低粘度のイオン液体を形成し易いことから、下記式(9)で示されるピロリジン環を有する4級カチオンが好ましい。
【0013】
【化7】

【0014】
(2)アニオン成分
第1のイオン液体を構成するアニオン成分は、[(RFaBF4-a-で示される炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基RFを有するフルオロホウ酸アニオンである。
炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基が挙げられる。
【0015】
このアニオンの具体例としては、トリフルオロメチルトリフルオロボレート、ビス(トリフルオロメチル)ジフルオロボレート、トリス(トリフルオロメチル)フルオロボレート、テトラキス(トリフルオロメチル)ボレート、ペンタフルオロエチルトリフルオロボレート、ビス(ペンタフルオロエチル)ジフルオロボレート、トリス(ペンタフルオロエチル)フルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロエチル)ボレート、ヘプタフルオロプロピルトリフルオロボレート、ビス(ヘプタフルオロプロピル)ジフルオロボレート、トリス(ヘプタフルオロプロピル)フルオロボレート、テトラキス(ヘプタフルオロプロピル)ボレート、ノナフルオロブチルトリフルオロボレート、ビス(ノナフルオロブチル)ジフルオロボレート、トリス(ノナフルオロブチル)フルオロボレート、トリフルオロメチルペンタフルオロエチルジフルオロボレート、ビス(トリフルオロメチル)ペンタフルオロエチルフルオロボレート、トリス(トリフルオロメチル)ペンタフルオロエチルボレート、トリフルオロメチルビス(ペンタフルオロエチル)フルオロボレート、ビス(トリフルオロメチル)ビス(ペンタフルオロエチル)ボレート、トリフルオロメチルトリス(ペンタフルオロエチル)フルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロエチル)ボレート、パーフルオロ(B,B−テトラメチレン)ジフルオロボレート、パーフルオロ[ビス(B,B−テトラメチレン)ボレート]、パーフルオロ(B,B−ペンタメチレン)ジフルオロボレート、パーフルオロ[ビス(B,B−ペンタメチレン)ボレート]などが挙げられる。
合成の簡便さおよびコスト面、並びに電気二重層キャパシタ電解質塩として用いる際に要求される分子径の小ささおよび非対称性という点を考慮すると、トリフルオロメチルトリフルオロボレートまたはペンタフルオロエチルトリフルオロボレートが好ましい。
【0016】
なお、これらのアニオン成分は、公知の方法によって製造することができる。例えば、パーフルオロアルキルトリフルオロボレートは、R.D.Chambers et al.,J.Am.Chem.Soc.,82,5298(1960)、M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,127−131,123(2003),G.A.Molander and B.P.Hoag,Organometallics,3313−3315,22(2003)等の文献記載の方法によって合成することができる。ビス(トリフルオロメチル)ジフルオロボレートは、G.Pawellke et al.,J.Organomet.Chem.,178,1(1979)に記載の方法によって合成することができる。また、その他のアニオンも、これらの方法を応用することによって得ることができる。
本発明における第1のイオン液体として好適なものは、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0017】
【化8】

【0018】
(3)製造方法
第1のイオン液体の製造法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、アルコキシアルキル基を有する4級オニウムカチオンのハロゲン塩と、パーフルオロアルキル基を有するフルオロホウ酸アニオンの金属塩とを混合し、塩交換反応により製造する方法(塩交換法)、4級オニウムカチオン前駆体とパーフルオロアルキル基を有するフルオロホウ酸アニオン前駆体とを反応させる直接4級化法等を用いることができる。中でも、反応の容易性から塩交換法が好適である。
【0019】
塩交換法に用いられるパーフルオロアルキル基を有するフルオロホウ酸アニオン金属塩において、好適な金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類が挙げられる。
一方、塩交換法に用いられるアルコキシアルキル基を有する4級オニウムカチオンのハロゲン塩の合成法としては、例えば、次のような方法がある。
4級アンモニウム塩の場合、3級アミン類と、アルキルハライドとを混合し、必要に応じて加熱することで、4級アンモニウムハライド塩とする。
4級ホスホニウム塩の場合、3級ホスフィン類と、アルキルハライドとを混合し、必要に応じて加熱することで、4級ホスホニウムハライド塩とする。なお、アルコキシメチルハライド、アルコキシエチルハライド等の反応性の低い化合物を用いる場合、オートクレーブなどを用いて加圧下で反応させることが好ましい。
上記ハロゲン塩のハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれも制限無く用いることができるが、塩交換の容易性から、塩素、臭素、ヨウ素が好適である。
【0020】
上記塩交換反応は、一般的に溶媒中で行われる。この溶媒としては、特に限定されるものではなく、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類;ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル,酢酸イソプロピル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などの有機溶媒、水が挙げられる。中でも、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水などが、原料であるパーフルオロアルキル基を有するフルオロホウ酸アニオン金属塩およびアルコキシアルキル基を有する4級オニウムカチオンハロゲン塩の溶解度が高いことから、好適に用いられる。
【0021】
塩交換反応の条件は、特に限定されるものではなく、温度条件としては、加熱下、室温下および冷却下のいずれでもよく、圧力条件としては、加圧下、減圧下および常圧下のいずれでもよい。一般的には、常圧、室温の条件下で充分に反応は進行し、数分から10時間以内で反応は完結する。
塩交換反応を行う際の各原料の反応溶液中における濃度は、特に限定されるものではなく、使用する溶媒に対するこれら各原料の溶解度を勘案して適宜設定すればよい。ただし、濃度が低すぎると反応効率が悪く、高すぎると原料が溶媒に溶解し得ない場合があるため、一般には、反応溶液中の4級オニウムカチオンハロゲン塩およびフルオロホウ酸アニオン金属塩の総含有量が、3〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲で反応を行うことが好ましい。
【0022】
反応終了後は、副生する無機塩を除去し、目的物を単離すればよい。例えば、水で無機塩を抽出した後に、溶媒を除去する方法、無機塩を析出させて濾別した後に溶媒を除去する方法、無機塩を溶解させるとともに目的の有機塩を結晶化させ、これを濾取する方法など、適宜な方法を用いることができる。なお、単離されたイオン液体が水分を含む場合には、必要に応じて、濃縮、共沸脱水等を行い、水分を除去してもよい。
【0023】
[2]第2のイオン液体
本発明に係る第2のイオン液体は、上記一般式(4)で示され、融点が50℃以下であるものである。
(1)カチオン成分
カチオン成分としては、上記第1のイオン液体で説明したとおりであるが、第2のイオン液体においては、式(4)のカチオン成分の置換基として、メチル基、2つのエチル基、およびアルコキシアルキル基を有する4級カチオン、またはエチル基、2つのメチル基、およびアルコキシアルキル基を有する4級カチオンの場合でも、X、R′、n、アニオン成分に限定はない。
【0024】
(2)アニオン成分
第2のイオン液体を構成するアニオン成分は、[(RFbPF6-b-で示される炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基RFを有するフルオロリン酸アニオンである。
ここで、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基は、上記第1のイオン液体と同様である。
【0025】
このアニオンの具体例としては、トリフルオロメチルペンタフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート、トリス(トリフルオロメチル)トリフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルペンタフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルトリフルオロメチルテトラフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルビス(トリフルオロメチル)トリフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロメチルトリフルオロホスフェート、ヘプタフルオロプロピルペンタフルオロホスフェート、ビス(ヘプタフルオロプロピル)テトラフルオロホスフェート、トリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、トリフルオロメチルヘプタフルオロプロピルテトラフルオロホスフェート、トリフルオロメチルビス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチル)ヘプタフルオロプロピルトリフルオロホスフェート、ビス(トリフルオロメチル)ビス(ヘプタフルオロプロピル)ジフルオロホスフェート、トリス(トリフルオロメチル)ビス(ヘプタフルオロプロピル)フルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルヘプタフルオロプロピルテトラフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)ヘプタフルオロプロピルトリフルオロホスフェート、トリス(ペンタフルオロエチル)ヘプタフルオロプロピルジフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルビス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルトリフルオロメチルヘプタフルオロプロピルトリフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロメチルヘプタフルオロプロピルジフルオロホスフェート、ビス(ペンタフルオロエチル)ビス(トリフルオロメチル)ヘプタフルオロプロピルフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルビス(トリフルオロメチル)ヘプタフルオロプロピルジフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルトリス(トリフルオロメチル)ヘプタフルオロプロピルフルオロホスフェート、ペンタフルオロエチルテトラキス(トリフルオロメチル)ヘプタフルオロプロピルホスフェート、ペンタフルオロエチルトリフルオロメチルビス(ヘプタフルオロプロピル)ジフルオロホスフェートなどが挙げられる。
これらの中でも、合成の簡便さおよびコスト面、並びに電気二重層キャパシタ電解質塩として用いる際に要求される分子径の小ささという点を考慮すると、RFの炭素数の総和が6以下のものが好ましい。
【0026】
本発明における第2のイオン液体として好適なものは、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0027】
【化9】

【0028】
(3)製造方法
第2のイオン液体も、公知の方法を応用することによって製造することができる。例えば、N.Ignat′ev et al.,J.Fluorine.Chem.,103,57(2000)に記載された方法を応用することで得られるパーフルオロアルキル基を有するフルオロホスホランと、4級オニウムカチオンのフッ化物とを反応させることで製造することができる。
また、上記ホウ酸塩の製法と同様に、アルコキシアルキル基を有する4級オニウムカチオンのハロゲン塩と、パーフルオロアルキル基を有するフルオロリン酸アニオンの金属塩との塩交換反応でも製造することができる(塩交換法)。
【0029】
以上で説明した本発明の第1および第2のイオン液体は、従来の有機系イオン液体と比べて、(1)低粘度である、(2)高いイオン導電性を有する、(3)加水分解によりフッ化水素を発生しにくい、(4)広い電位窓を有する、(5)液体温度領域が広い、などの種々の利点を有している。
特に、イオン液体を蓄電デバイス用非水電解液として使用する場合、電位窓が狭いと、充放電に伴って電解質や電解液が酸化分解されたり、還元分解されたりする虞がある。イミダゾリウム系イオン液体は、電位窓が狭いため、リチウムイオン二次電池系では使用できないが、電位窓の広い本発明のイオン液体は、リチウムイオン二次電池にも使用することができる。
【0030】
蓄電デバイス用非水電解液の用途を考慮すると、上記第1および第2のイオン液体の25℃における粘度は、200mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下がより一層好ましい。この範囲の粘度とすることで、イオン液体のみからなる電解液を用いた蓄電デバイスにおいて、内部抵抗の増大等を抑制でき、大電流充放電におけるサイクル特性を向上させることができる。なお、粘度は、JIS Z8809に規定される粘度計校正用標準液で検定された測定機器を用いれば特に制限はなく、回転式、振動式、または細管式の粘度計を用いて測定することができる。本発明の粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計(商品名「デジタルレオメーター DV−III型」、ブルックフィールド社製)を粘度計として用い、スピンドルおよび回転数は、電解液の粘度に応じて、適宜選択し、25℃において測定した値である。
【0031】
また、本発明のイオン液体の融点は、50℃以下であるが、蓄電デバイス用非水電解液の用途を考慮すると、25℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。融点が25℃より高いイオン液体を非水電解液として用いた場合、低温下で凝固したり、有機溶媒中で析出したりする可能性がある。このような電解液の凝固や電解液中での析出が起こると、電解液のイオン電導率が低下し、取り出せる電気量が低下する可能性が高くなる。なお、この理由から、融点は低いほど好ましく、その下限値は特に限定されない。
【0032】
[3]蓄電デバイス用非水電解液
本発明に係る蓄電デバイス用非水電解液(以下、非水電解液と略記する)は、(1)上述した第1もしくは第2のイオン液体(以下、これらを併せて単にイオン液体という)のみからなるもの、または(2)上記イオン液体を含むものである。
ここで、蓄電デバイスとは、化学的、物理的または物理化学的に電気を蓄えることのできる装置または素子等をいい、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどの充放電可能なデバイスが挙げられる。
これらの蓄電デバイスに用いられるイオン液体を含む非水電解液としては、(2a)イオン液体および有機溶媒を含み、イオン導電性塩を含まない非水電解液、(2b)イオン液体およびイオン導電性塩を含み、有機溶媒を含まない非水電解液、(2c)イオン液体、有機溶媒およびイオン導電性塩を含む非水電解液が挙げられる。
【0033】
有機溶媒としては、イオン液体やイオン導電性塩を溶解可能であるとともに、蓄電デバイスの作動電圧範囲で安定なものであれば、特に限定されるものではない。
具体例としては、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、グリコールエーテル類(エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等)などの鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の環状エーテル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリン−2−オン等のラクトン類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド類;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類、またはこれらの各種有機溶媒の水素原子やアルキル基がフルオロアルキル基に置換されたフッ素系溶媒などが挙げられる。これらの非水系有機溶媒は、1種単独で用いることも、2種以上混合して用いることもできる。
【0034】
中でも、誘電率が大きく、電気化学的安定範囲および使用温度範囲が広く、かつ、安全性に優れるものが好ましく、例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートを主成分として含む混合溶媒や、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、およびフッ素化γ−ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いることが好ましい。
【0035】
イオン液体と有機溶媒と含む電解液(上記(2a)、(2c))の場合、電解液中におけるイオン液体の含有量は、5〜90質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましい。この含有量が、5質量%未満であると、内部抵抗が増大する結果、エネルギー損失が増大する虞がある。一方、含有量が、90質量%を超えると、低溶解性かつ比較的高融点のイオン液体を用いた場合、低温下で析出し、デバイスの安定性の低下等の不具合を招く虞がある。ただし、本発明のイオン液体は、通常用いられる電解質塩よりも有機溶媒に対する溶解性が高く、融点が25℃以下のものが多い(液体温度領域が広い)ため、イオン液体濃度を通常より高くしても低温時においてその析出が生じにくい。
【0036】
イオン導電性塩としては、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスに一般的に使用されているアルカリ金属塩、第4級アンモニウム塩などの公知の各種イオン導電性塩を使用することができる。これらのイオン導電性塩と、イオン液体とを併用することで、イオン導電性塩の結晶化や金属のデンドライト化を防止することができる。イオン導電性塩を用いる場合、その非水電解液中における濃度は、通常、5〜40質量%程度である。
なお、本発明の非水電解液は、上述したように低粘度のイオン液体を用いるものであり、有機溶媒を使用しない、または極少量使用するだけでよいから、安全性に優れている。
【0037】
[4]蓄電デバイス
本発明に係る蓄電デバイスは、上述した蓄電デバイス用非水電解質を用いて構成されたものである。
蓄電デバイスの基本構造は、セパレータを介して正極および負極を対向配置し、これに非水電解液を含浸させるものであり、本発明においては、この非水電解液として、上述した本発明の蓄電デバイス用非水電解液を用いる。
【0038】
リチウム二次電池およびリチウムイオン二次電池の場合、正極に含まれる正極活物質としては、LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2,LiMn24などのリチウムと遷移金属との複合酸化物、MnO2,V25などの遷移金属酸化物、MoS2,TiSなどの遷移金属硫化物、ポリアセチレン,ポリアセン,ポリアニリン,ポリピロール,ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物、ポリ(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)などのジスルフィド化合物などが用いられる。
負極に含まれる負極活物質としては、リチウム金属、リチウムアルミニウム合金等の理リチウム合金、リチウムを吸蔵・放出できる炭素質材料、黒鉛,フェノール樹脂,フラン樹脂などのコークス類、炭素繊維、ガラス状炭素、熱分解炭素、活性炭などが用いられる。
【0039】
電気二重層キャパシタの場合、上記正極および負極として、一対の分極性電極が用いられる。
分極性電極を構成する材料としては、非水電解液に対して電気化学的に不活性であるとともに、適度の導電性を有する材料が好適であることから、炭素質物質が好適に用いられる。特に、電荷が蓄積する電極界面の面積が大きいという点から、活性炭が最適である。
電解コンデンサの場合、正極には、陽極酸化処理などによって表面に絶縁性のアルミナ層が形成されたアルミニウム箔が、負極には、アルミニウム箔が用いられる。これらのアルミニウム箔は、表面積を増大させて静電容量を高めるべく、通常は、エッチング処理が施されている。
【0040】
電極活物質を用いて電極を作成する際に用いられる導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケル等の金属繊維などが用いられる。これらの中でも、少量の配合で所望の導電性を確保できるアセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。なお、導電助剤は、電極活物質に対して、通常5〜50質量%程度配合されるが、10〜30質量%配合することがより好ましい。
【0041】
導電助剤と共に用いられるバインダーとしては、公知の各種バインダーを用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂などが挙げられる。
セパレータとしても、公知の各種セパレータを用いることができる。具体例としては、紙製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、ガラス繊維製セパレータなどが挙げられる。
【0042】
なお、本発明の非水電解液は、正負極いずれか一方を電気二重層キャパシタで用いられる分極性電極とし、もう一方をリチウムイオン電池で用いられるリチウムイオンを挿入・脱離可能な物質を活物質とする電極としたハイブリッド型の蓄電デバイスにも応用することができる。
【0043】
以上説明した本発明に係る蓄電デバイスは、本発明の非水電解質を用いて構成されているから、(1)内部抵抗が小さいため大電流充放電に適している、(2)大電流充放電でのサイクル特性が優れている、(3)有機溶媒の使用量をゼロまたは極力少なくできるため安全性が高い、(4)低温下での充放電特性に優れている、(5)水分の混入があっても容量低下、ガス発生等が生じにくい、などの種々の利点を有している。
【実施例】
【0044】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[1]イオン液体
[合成例1]イオン液体(38)の合成
【化10】

【0046】
ピロリジン(関東化学株式会社)88mlと2−メトキシエチルクロライド(関東化学株式会社)50mlを、冷却管を付けたフラスコ中で撹拌し、環流下、24時間反応を行った。反応後、反応液を放冷して析出した結晶を濾別し、濾液を減圧蒸留してN−(2-メトキシエチル)−ピロリジン41gを得た。
N−(2-メトキシエチル)−ピロリジン20gをテトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社)200mlに溶解し、氷冷下、撹拌しながらヨウ化メチル(和光純薬工業株式会社)13.5mlを加えた。30分後、氷浴を外して、室温で一晩撹拌した。析出した結晶を濾別、洗浄し、アセトニトリル(和光純薬工業株式会社)−テトラヒドロフラン系で再結晶し、N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムヨウ素塩を38g得た。
N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムヨウ素塩15.0gをクロロホルム(和光純薬工業株式会社)に溶解し、氷冷下、撹拌しながらテトラフルオロホウ酸銀(東京化成工業株式会社)10.8gを加えて18時間攪拌した。攪拌終了後、結晶を濾別し、濾液から溶媒を減圧留去してイオン液体(38)〈N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムテトラフルオロホウ酸塩〉12.4gを得た。なお、イオン液体(38)の粘度は、145mPa・s(25℃)であった。
【0047】
[合成例2]イオン液体(17)の合成
【化11】

【0048】
合成例1と同様の方法で中間体であるN−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムヨウ素塩を得た。
N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムヨウ素塩15.0gをクロロホルムに溶解し、氷冷下、撹拌しながらペンタフルオロエチルトリフルオロボレートカリウム(前述の参考文献 M.Ue et al.,J.Fluorine Chem.,128−131,123(2003)記載の方法で合成)12.5gを加えて18時間攪拌した。攪拌終了後、結晶を濾別し、濾液から溶媒を減圧留去してイオン液体(17)〈N−(2−メトキシエチル)−N−メチルピロリジニウムペンタフルオロエチルトリフルオロほう酸塩〉17.4gを得た。なお、イオン液体(17)の粘度は、15mPa・s(25℃)であった。
【0049】
[2]電気二重層キャパシタ
合成例1,2で得られたイオン液体を電解液として、以下の手順で電気二重層キャパシタをそれぞれ作製した。
[実施例1]
活物質としてフェノール樹脂由来の炭素材料をアルカリ賦活処理してなる活性炭(MSP−20、関西熱化学(株)製)と、導電性カーボンとしてHS−100(電気化学工業(株)製)と、バインダー樹脂としてPVDF(アルドリッチ社製、重量平均分子量534,000)と、塗工溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMPという)を、活物質:導電性カーボン:バインダー樹脂:NMP=90:5:5:230(質量比)の割合で混合してペースト状にし、分極性電極組成物を調製した。
このペースト状の分極性電極組成物を、アルミ集電箔(30CB、日本蓄電器工業(株)製)の両面に塗布し、80℃で4時間乾燥させた後、圧延して分極性電極を得た。
次いでセルロース製セパレータ(TF40−35、日本高度紙工業(株)製)を介して分極性電極を積層してセルを組み立て、アルミラミネート(大日本印刷(株)製、外層:6−ナイロン/厚み25μm、ガス遮断層:軟質アルミニウム/厚み40μm、内層:ポリプロピレン+変性ポリプロピレン/30μm+15μm)からなる外装容器に収納した後、合成例2のイオン液体(17)のみからなる電解液を注入して含浸させた後、密閉して電気二重層キャパシタセル1を得た。
【0050】
[比較例1]
電解液として合成例1のイオン液体(38)のみからなる電解液を注入する以外は、上記実施例1と同様にして電気二重層キャパシタセル2を作製した。
【0051】
〈キャパシタセルの評価〉
実施例1および比較例1で得られた電気二重層キャパシタセル1,2について、下記条件にて電流密度別充放電試験およびサイクル充放電試験を行った。
(1)電流密度別充放電試験
25℃環境下、放電電流密度:1、5、10、20mA/cm2の定電流、充放電電圧:0〜3.0Vの設定で充放電を行い、各電流密度の放電エネルギー量と、セルに用いた活物質質量とから、活物質質量あたり静電容量を算出した。結果を図1に示す。
(2)サイクル充放電試験
25℃環境下、電流密度:10mA/cm2の定電流、充放電電圧:2.0〜3.0V、定電圧充電無し、および休止無しの設定でサイクル充放電を行い、サイクル回数毎の放電エネルギー量を測定した。また、充放電1万サイクル後のセルを分解し、電解液を採取して電解液中のフッ素イオン濃度をイオンクロマトグラフにより測定した(なお、充放電試験前の電解液中のフッ素イオン濃度も同方法により測定し、試験開始前の電解液中の水分量は、カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製)により測定した。)。初回の放電エネルギー量を100%とした放電エネルギー維持率の結果を図2に、電解液中のフッ素イオン濃度を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
図1に示されるように、本発明のイオン液体のみを電解液として用いた実施例1のキャパシタセル1では、電流密度が大きくなっても活物質質量あたり静電容量の低下が少なく、比較例1のキャパシタセル2よりも大電流放電特性に優れることがわかる。
また、図2に示されるように、放電エネルギー量だけでなく、サイクル充放電特性でも実施例1のキャパシタセル1では維持率が高く、比較例1のキャパシタセル2よりサイクル特性に優れることがわかる。
さらに、表1に示されるように、アニオンの分解によるフッ素イオンの発生量も少ないことがわかる。
このように、イオン液体のみを電解液として用いた場合、従来のイオン液体のみの電解液よりも優れており、通常の有機電解液と同等の性能の電気二重層キャパシタを得ることができるだけでなく、安全面を考慮すれば、本発明のイオン液体は、有用な蓄電デバイス用電解液となり得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1および比較例1で作製したキャパシタセル1,2の電流密度別充放電試結果を示すグラフである。
【図2】実施例1および比較例1で作製したキャパシタセル1,2のサイクル充放電試結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示され、融点が50℃以下であることを特徴とするイオン液体。
【化1】

〔式中、R1〜R4は互いに同一もしくは異種の炭素数1〜5のアルキル基、またはR′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(R′はメチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基がXと共に環を形成していてもよい。ただし、R1〜R4の内少なくとも1つは上記アルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を示し、RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数である(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
【請求項2】
下記一般式(2)で示されることを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【化2】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数である(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。ただし、Xが窒素原子、R′がメチル基、RFがペンタフルオロエチル基、nが2、aが1のものを除く。〕
【請求項3】
下記一般式(3)で示されることを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【化3】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R1は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、mは4または5の整数であり、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、aは1〜4の整数を示す(なお、aが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してホウ素原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
【請求項4】
下記一般式(4)で示され、融点が50℃以下であることを特徴とするイオン液体。
【化4】

〔式中、R1〜R4は互いに同一もしくは異種の炭素数1〜5のアルキル基、またはR′−O−(CH2n−で表されるアルコキシアルキル基(R′はメチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。)を示し、これらR1、R2、R3およびR4のいずれか2個の基がXと共に環を形成していてもよい。ただし、R1〜R4の内少なくとも1つは上記アルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を示し、RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜6の整数である(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
【請求項5】
下記一般式(5)で示されることを特徴とする請求項4記載のイオン液体。
【化5】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜6の整数である(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
【請求項6】
下記一般式(6)で示されることを特徴とする請求項4記載のイオン液体。
【化6】

〔式中、Xは窒素原子またはリン原子を示し、R1は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R′は、メチル基またはエチル基を示し、mは4または5の整数であり、nは1〜4の整数である。RFは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示し、bは1〜4の整数を示す(なお、bが2以上の場合、RFは互いに同一でも異なっていてもよく、またRFが相互に結合してリン原子と共に環を形成していてもよい。)。〕
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項記載のイオン液体のみからなることを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項8】
請求項2〜6のいずれか1項記載のイオン液体を含むことを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項9】
請求項7または8に記載の蓄電デバイス用非水電解質を含んでなる蓄電デバイス。
【請求項10】
電気二重層キャパシタまたはリチウムイオン電池である請求項9記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−236829(P2006−236829A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50919(P2005−50919)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】