説明

イオン液体を含む物品

【課題】本発明の目的は、イオン液体を含む物品および方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、1つ以上の層を有する層状化構造と、前記層状化構造内のイオン液体とを含み、前記層状化構造が、イオン液体の少なくとも一部が結合しており、かつプロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度が低下するように構成されている、支持層と、イオン液体の少なくとも一部を含有するゲルとの少なくとも1つを含む物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記述される技法は、一般に、イオン液体に関し、より具体的には、イオン液体を固定化する技法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体を構造体に付着させるための技法が、提案されている。例えば、特許文献1は、イオン基を含有し、かつCOなどの気体成分を排ガスおよび天然ガスから分離するための膜および吸着剤として使用することができる、ポリマー材料について述べている。ポリマーは、ポリマー主鎖と、この主鎖に結合したイオン液体部分とを有することができる。
【0003】
イオン液体を使用するための、改善された技法を有することが有利と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0119302号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、イオン液体を含む物品および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つ以上の層を有する層状化構造と、前記層状化構造内のイオン液体とを含み、前記層状化構造が、イオン液体の少なくとも一部が結合しており、かつプロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度が低下するように構成されている、支持層と、イオン液体の少なくとも一部を含有するゲルとの少なくとも1つを含む物品である。
【0007】
また、本発明は、透過性の支持層と、前記支持層内に固定化された1種以上のイオン液体とを含む膜を含み、動作中に、前記イオン液体が、プロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度を低下させる物品である。
【0008】
また、本発明は、層状化構造と、前記層状化構造内のマトリックスに結合されたイオン液体とを含む物品を製造するステップを含み、前記物品を製造する動作は、十分な量のイオン液体をマトリックスに結合させてプロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度が低下するように、イオン液体とマトリックスとを反応させるステップを含む方法である。
【0009】
本発明は、層状化構造と、前記層状化構造のゲル内のイオン液体とを含む物品を製造するステップを含み、前記物品を製造する動作は、イオン液体の一部をゲル内の所定位置に保持した状態でゲルを生成するステップを含む方法である。
【0010】
本発明の例示的な実施形態の、これらおよびその他の特徴および利点について、添付図面を参照しながら以下に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】固定化イオン液体を含む物品の、全体的な特徴を示す概略図である。
【図2】電気化学電池内など、二酸化炭素を分離する際の、分子およびイオンの流れを示す概略図である。
【図3】電気化学電池内など、二酸化炭素を分離する際の、分子およびイオンの流れを示す概略図である。
【図4】分子およびイオンが図2〜3のように流れることができるシステムの、概略ブロック図である。
【図5】図4のシステムの、気体の流路を示す概略図である。
【図6】図5の線6−6に沿って得られた、図5に示されるような電気化学電池の断面図である。
【図7】図5および6に示されるようなシステムを製造するための、プロセスを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な記述において、数値および範囲は、記述される実施形態の様々な態様に関して提供される。これらの数値および範囲は単なる例として扱われ、特許請求の範囲を限定するものではない。さらに、いくつかの材料は、実施形態の様々な局面に適切であることが確認されている。これらの材料は例示として扱われ、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0013】
上述のように、イオン基を含有するポリマー材料は、COなどの気体成分を排ガスおよび天然ガス流から分離するための膜および吸着剤として使用してよい。COは、イオン液体に対するその溶解度に基づいて、ガス流から分離されると考えられる。
【0014】
本発明で記述される実施形態は、イオン液体を含む構造を生成する際に生じる問題に対処する。例えば米国特許出願公開第2007/0119302号は、個々のモノマーを、結合したイオン基で製作し次いで重合することによって、またはイオン基をフリーポリマーに結合させることによって、ポリマーから膜を形成する技法について記述する。これらおよびその他の先の技法は、堅固な製造実施例に関して、可能性として考えられる十分な範囲をもたらさない。さらに、そのような技法は、効率的な電気化学電池で使用することができる構造を提供することができない。
【0015】
本明細書に記述される実施形態は、これらの問題に対処するものであり、イオン液体は、ゲルの使用により、または1つ以上の化学反応を通してイオン液体をマトリックスに結合することにより、膜に固定される。得られた物品は、例えば、二酸化炭素またはその他の気体を気体流から分離するのに使用してもよい。十分なイオン液体を固定化して、プロトンおよび/またはヒドロキシルイオンのイオン電流密度を低下させることができ、その結果、効率が改善される。
【0016】
本明細書に記述される実施形態は、一般に、固体電解質を使用することのできる任意の適用例、および/または任意選択でイオン交換能力を有することができる電解質膜の導入によって補助される任意の適用例に有用であり、これらの技法から利益が得られる。「固体電解質」という用語は、標準的な固体材料だけではなく、ポリマー、ゲル、ガラス、または混合相材料も含むために使用される。そのような適用例には、水素燃料電池、メタノール燃料電池、その他の燃料電池、電気分解装置、電気化学センサ、Liイオン電池、その他の電池、および物理的であるがイオン伝導性の障壁を有することが有利な任意のその他の適用例が含まれる。これらの場合、膜は、これらの電気化学システムのアノードおよびカソード区画を分離する。液体電解質(例えば、水)がアノードおよび/またはカソード区画内にある場合、イオン液体は、このイオン液体またはその成分のいずれもがアノードおよび/またはカソード電解質に溶解しないように、慎重に選択されることが好ましい。そうでない場合には、拡散またはイオン交換を通して、イオン液体電解質の非固定化部分を失うという危険がある。
【0017】
ある例示的な適用例では、本明細書に記述される実施形態が、二酸化炭素の気体の分離に使用され得る。二酸化炭素は、加速する気候変動の一因である温室効果ガスの主成分である。COを、大気中から直接効率的に抽出するための方法によって、炭素を中性にしたままで、費用効果のあるCOの隔離、または燃料として使用するのに適した炭化水素への変換が可能になり得る。
【0018】
図1は、1つ以上の層を含み、そのそれぞれがマトリックス、膜、ゲル、または同様の構造であり得る層状化構造12を示す。固定化イオン液体14は、層状化構造12内にあり、一般に、層状化構造12の全体に及ぶべきである。以下により詳細に記述するように、固定化イオン液体14は、例えば、層状化構造内のマトリックスまたは膜にイオン液体を結合することによって、あるいはゲル内でのイオン液体の運動を制限することによって、実現することができる。一般に、イオン液体は、プロトンおよびヒドロキシルイオン(HおよびOHによって表される)の少なくとも1つの相対イオン電流密度を低下させるのに十分になるよう構成される。複数のイオン液体を、所望の適用例に応じて存在させてよい。イオン液体の少なくとも一部は、層状化構造12内に固定化すべきである。例えばイオン液体は、電荷に基づいて(陽イオンが固定化され、または陰イオンが固定化される)、またはサイズに基づいて(より大きいイオンが固定化され、またはより小さいイオンが固定化される)固定化することができる。適用例では、入力された気体(矢印15による)は層状化構造12の一面に入力され、得られた出力気体(矢印16による)は、層状化構造12の反対側の面から離れることになる。
【0019】
本明細書に記述される実施形態で使用したイオン液体は、一般に、室温イオン液体であり、即ち、室温で液体の形をとるイオン液体である。そのような室温イオン液体は、本明細書に記述される実施形態で役に立つが、当業者なら、やはり有用であり得る、必ずしも室温イオン液体である必要がない、その他のイオン液体を理解することができる。室温イオン液体は、取るに足らない蒸気圧を有し、良好なイオン伝導体である。多くの室温イオン液体は、水の存在が必要な適用例に役立つ吸湿性であるものを含む水と混和するが、これらのイオン液体は、湿度が低い環境であってもこれらの液体を非常に堅固なものにする無水状態においてさえ、その物理的および電気化学的性質を維持する。適切な緩衝または荷電群によって室温イオン液体を機能化すること、および任意選択でこれらの液体をマトリックスに結合することにより、これらの液体は、適切な陰イオン特異的伝導度を有することが可能になり、かつヒドロキシル拡散を低減することが可能になる。このように、イオン化液体は、二酸化炭素の輸送を促進させるのに使用することができる。
【0020】
イオン液体が一部固定化されている実施形態では、有用なイオン液体には、約50cpsよりも下の低粘度を有するものが含まれ、これらの液体は少なくとも部分的に水と混和する。イオン液体が完全に固定化されている場合、イオン液体の粘度は重要ではない。いくつかの実施形態では、イオン液体から水を排除することが有利である。有用なイオン液体の例には、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、N−ブチル−3−メチルピリジニウムジシアナミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、および1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロアセテートなどから形成されたものが含まれ、米国特許第6579343号に記載されている液体イオン化合物が含まれる。溶解した第I族および第II族炭酸塩または重炭酸塩を含有するイオン液体は、二酸化炭素の分離に特に有用と考えられる。その他の可溶性炭酸塩も、そのような実施形態に有用と考えられる。1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメタンは、一部が水と混和し、有用となり得;1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドは、約70cpsの粘度を有し、本明細書で記述される実施形態に有用となることもできる。ある実施形態では、イオン液体は吸湿性でよい。イオン液体は、一般に、電気化学COコンセントレータおよび燃料電池などの多くのその他の電気化学的適用例に典型的な電位で、電気化学的に安定である。
【0021】
図2は、図1の層状化構造の実施形態を示す。層状化構造は、例えば、アノードおよびカソードを有する電気化学電池の一部でよい。カソード14が存在する電池の側は、電池の塩基性側として構成され、一方、アノード12が存在する側は、電池の酸性側として構成される。CO(矢印17による)およびO(矢印18による)を共に含有する空気などの気体は、カソード14で導入される。アノード12とカソード14の間の領域では、イオン液体ILおよびILは(その領域内の特定のイオンが陽イオンかまたは陰イオンかに応じて)、支持構造16内を移動する。支持構造16は、セルロースなどの、多孔質膜または同様の材料でよい。
【0022】
図2は、反応用の燃料として水素ガスを示すが、アノードで消費される場合にはプロトンを生成する任意の水素含有分子を使用してよい。そのような材料の例には、メタノールおよびその他のアルコール、金属水素化物、およびメタンまたはその他の単純な炭化水素化合物が含まれる。
【0023】
図2では、カソードの塩基性側で、OがHOおよび2eと反応してOHを形成し、COがOHと反応して、Cによって表される炭素含有イオンを形成する。Cは、炭酸イオンまたは重炭酸イオンなどの、当業者に知られている任意の炭素含有構成要素にすることができる。
【0024】
CO分離の場合、Cは、典型的には炭酸イオンまたは重炭酸イオンになり;COはその他の化学種と反応して、その他の炭素含有イオンを生成することができる。水素ガス(矢印19による)は、アノード12で電池に供給され、そこでHおよびeが形成される。炭素含有イオンCは、アノード12の酸性側へと電池内を移動しまたは輸送され、そこでHと反応してCOを再び形成する。新たに形成されたCO(矢印21による)は、アノード12で解放される。例えば反応は、下記の事項を特徴とすると考えられる。
【0025】
アノード:H→2H+2e
HCO+H→HO+CO
【0026】
カソード:1/2O+HO+2e→2OH
CO+OH→HCO
【0027】
カソードおよびアノード反応は、異なるpH値での、COおよびCO関連炭素含有化学種の溶解度の較差に依拠し、電極の電位とは無関係に作用する。イオン液体がない状態では、HおよびOHは、電池の端から端まで拡散する傾向がある。膜は、炭素含有イオンのイオン電流密度に対して、HおよびOHイオン電流密度の少なくとも一方を選択的に低下させるため、十分なイオン液体を含む。電池の端から端まで輸送されるイオンは、アノードとカソードとの間の回路を完成させる。様々な化学種の相対イオン電流密度は、それぞれの相対電流密度が決定されるように各電極で測定することができる。したがって、電池の端から端までのHおよびOHの少なくとも一方の拡散を低減し、それと共に炭素含有イオンの輸送を可能にしまたは促進させることが考えられる。これは、例えば以下に記述されるように、ファラデー効率を測定することによって確認することができる。
【0028】
図2は、陽イオンILが固定化される実施形態を示す。固定化されたイオン液体は、支持体16への固定化によって、特定の領域または層内に保持される。イオン液体は、部分的にまたは完全に固定化することができる。このシステムは、特定の状況に合わせて、望み通りに固定化を構成するよう設計することができる。例えば固定化は、より大きいイオンを固定化しかつより小さいイオンを自由に動かす場合など、イオンの電荷(図2に示すように)またはサイズによるものでよく、または同様の技法によるものでよい。
【0029】
図2では、陽イオンILは、支持体16に共有結合している状態が示されている。この実施形態を実現するには、陽イオンILが支持体16と反応するように、システムを設計することが考えられる。そのようなシステムは、例えば、米国特許出願公開第2007/0119302号に記載されている技法を使用して構成することができる。そのような反応のその他の例には、イオンと支持体16との光誘発性架橋、またはアミン基とカルボン酸との反応が含まれる。
【0030】
示されるように、イオン液体を支持体16に固定化する1つの方法は、選択的架橋反応である。そのような反応は、イオン液体を支持体16と反応させ、それと共にこのイオン液体自体またはこのシステム内に存在するその他のイオン液体と反応しないようにすると考えられる。この結合反応は、イオン液体と支持体16との間の化学結合を引き起こす。
【0031】
本明細書に記述される実施形態に有用であり得る、架橋反応の例は、下記の通りである。反応は、N−ヒドロキシスクシンイミド−エステル(NHS−エステル)を含む。
第1級または第2級アミンを有する基A+NHSエステルを有する基B→A−CO−NH−B+NHS副生成物
【0032】
この場合、基AおよびBは、イオン液体陽イオン(または陰イオン)でよく、これに対応する基はポリマーマトリックスでよい。関係のある特定の構成要素に応じて、即ち、固定化される所望のイオン液体と、この液体が固定化されることになる特定の支持体またはマトリックスとに応じて使用することができるような、多くのその他の特異的架橋結合反応がある。例えば、その他の結合反応は、アミンとイミドエステルを、アルデヒドとヒドラジドを、およびカルボキシレートとアミンを結合するのに使用してもよい。これらおよびその他のそのような特異的結合反応は、当業者に知られるように使用することができる。
【0033】
図3は、固定化したイオン液体を有するシステムの、別の実施形態を示す。この実施形態では、ゲルを、イオン液体の完全または部分固定化を行うのに使用することができる。一般にゲルは、イオン液体と反応せず、代わりにサイズに基づいてイオンを固定化することができる。より大きいイオンは所定位置に保持され、一方、より小さいイオンはシステム内を自由に移動する。イオンの全てが大きい場合、イオン液体の全てのイオンを所定位置に保持することができる。典型的には、炭素含有イオンがシステム内を自由に移動し、その結果、所望の気体分離が実現される。イオン液体が十分な状態では、図3のゲルは、プロトンまたはヒドロキイシルイオン電流密度を低下させる可能性があり、したがって、炭素含有イオン電流に比べて電池の端から端まで拡散すると考えられる。イオン液体の陽イオンは、陰イオンよりもさらに大きいことが一般的である。そのような場合、陽イオンは、直接、その正電荷ではなくてそのより大きいサイズに基づいて、選択的に固定化することができる。膜は、陰イオン交換膜と同様に、イオン液体とイオン交換の両方の特徴を有すると考えられる。
【0034】
ゲルは、いくつかの異なる方法で実現することができる。1つの方法は、イオン液体を含有する配合物を使用して、膜を流延することと考えられる。別の代替の方法は、イオン液体を含むモノマー混合物を、マトリックスに浸透させることと考えられる。例えば、アクリルアミドおよびイモビリン(商標)モノマーのモノマー混合物は、セルロースマトリックスに浸透することができ、次いでマトリックスが固定化されるまで、このマトリックスを硬化することができる。
【0035】
図2と同様に、図3は、カソード14で導入されるCO(矢印17による)およびO(矢印18による)を含有する空気などの気体を示す。アノード12とカソード14との間の領域では、イオン液体ILおよびILがゲル内に固定化される。CO分離では、Cは、典型的には炭酸または重炭酸イオンになり、COはその他の化学種と反応して、その他の炭素含有イオンを生成することができる。水素ガス(矢印19による)は、アノード12で電池に供給され、そこでHおよびeを形成する。炭素含有イオンCは、電池内を横断してアノード12の酸性側に移動し、そこでHと反応して再びCOを形成する。新たに形成されたCO(矢印21による)は、アノード12で解放される。
【0036】
図4は、イオン液体構成要素35が、炭素含有イオン電流密度に対して、電池内のHおよびOHイオン電流密度を選択的に低下させるシステム25を示す。したがって、イオン液体構成要素35は、HおよびOH輸送を低下させ、それと共に炭素含有イオンの輸送を可能にし、または促進させると考えられる。システム25は、供給器38および出口64をカソード構成要素28に含み、供給器41および出口66をアノード構成要素32に含む。動作中、二酸化炭素を含む気体が、供給器38からカソード構成要素28に導入され、一方、水素ガスが供給器41からアノード構成要素32に導入される。二酸化炭素含量が減少した気体は、出口64を通してカソード構成要素28から放出される。炭素含有イオンは、矢印57によって示されるように、カソード構成要素28からイオン液体構成要素35に移動し、矢印59によって示されるように、イオン構成要素35からアノード構成要素32に移動する。炭素含有イオンはアノード構成要素32で反応して、出口66を通してシステム25から出て行く二酸化炭素を形成する。典型的な実施形態では、システム25は、負荷および制御器68も含み構成要素28および32の全体にわたって電気負荷をもたらし、かつ弁やポンプなどの任意のその他の電気部品を制御する。
【0037】
イオン液体構成要素35は、上述の方法の1つのように、二酸化炭素の分離のためにシステム内の反応を促進させるよう構成されたイオンを含み、したがって反応は、イオン液体が存在しない場合よりも効率的である。いくつかの実施形態では、イオンを、結合などによってマトリックスまたはその他の構造に固定化することができる。イオン液体構成要素35は、炭素含有イオンの電流密度に対してプロトンおよびヒドロキシルイオンのイオン電流密度を低下させながら、炭素含有イオンの拡散または輸送が可能になるように、十分なイオン液体を含有すべきである。このようにイオン液体は、プロトンおよびヒドロキシルイオンの拡散を低減させると考えられる。
【0038】
図5は、図4のシステム25の例示的な実施形態である、システム75を示す。この実施形態では、二酸化炭素を含有する空気が管78内を流れる。図5は、流入する気体が空気であることを示すが、工業プロセスからの排出ガスなど、二酸化炭素を含有するその他の気体を使用することもできる。一方、水素ガスが管79を通してシステム75に流入する。各気体の流れは、それぞれの流れ制御器80または81内、および任意選択で、気体の流れの相対湿度を制御するそれぞれの加湿器84または85内を流れる。イオン液体システムは、効率的に機能するのに大量の湿度を必要としない。このように、加湿ステップは任意選択である。そこから、加湿された気体の流れが並行に、それぞれの管86および87内を通って電気化学電池77内に流入し、そこで二酸化炭素が空気から分離される。2つの出口88および89がシステム75から示されている。減少した二酸化炭素の空気が一方の出口88内を流れ、それと共に二酸化炭素およびプロセス中に消費されなかった過剰な水素が、他方の出口89を通って流出する。可変負荷33が電気化学電池77に取り付けられて、電気化学電池77への電力を制御する回路92を形成する。動作中、回路92への負荷33が、Hによって電気化学電池77内の電気回路を発生させる程度を調節する。可変負荷33は、バッテリーまたはその他のエネルギー貯蔵または変換機器でよい。この場合、可変負荷33は、放電されるのではなく充電される。
【0039】
図6は、図5の電池77の例示的な実施形態である、電気化学電池77の断面を示す。層状化構造44が、金属または同様の材料にすることができるエンクロージャ42内に示されている。
【0040】
イオン液体を含む膜48は、エンクロージャ42内の所定位置にクランプ留めされまたはその他の方法で固定されており、図5に示されている管86および88は、膜48の片面に接続されており、同様に管87および89は、他方の面に接続されている。膜は、ポリマー、多孔質セルロース、発泡ポリテトラフルオロエチレン、ガラス繊維、またはその他の多孔質材料でよい。
【0041】
白金粒子または当業者に知られているその他の材料で形成された触媒層47は、膜48の両側に位置付けられている。その他の触媒材料の例には、ニッケルおよびパラジウムが含まれる。触媒層は、システム内のHおよびOHの量を増加させることによって、システムの効率を上昇させる。触媒は、H→2H+2eの燃料反応の速度を増大させる。この反応速度を増大させることが知られておりまたは発見された任意の材料は、触媒として使用することができる。触媒層47は、塗布、エアブラシ、または印刷によって付着させることができる。
【0042】
気体拡散層45は、膜48および触媒層47の両側に位置付けられている。気体拡散層によって、気体は、多孔質導電層46(以下に示す)のそれぞれからその内部の細孔を通って膜48へと拡散することが可能になる。気体拡散層は、カーボン紙またはカーボンクロスなどの多孔質導電性材料で形成することができ、この気体拡散層に過剰な水が蓄積するのを防ぐ助けをするために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーを注入してもよい。
【0043】
カソード側に炭素含有イオンを形成し、アノード側に二酸化炭素ガスを再度形成するための反応は、気体拡散層と膜との界面で生じる。これらの反応は、触媒または任意の外部印加電圧の存在を必要としない。白金触媒は、水素含有分子および酸素ガスの消費の効率を上昇させる。炭素含有イオンの形成は、炭酸脱水酵素などの酵素触媒または無機触媒の両方を含むその他の触媒の存在によって、支援することができる。多孔質導電材料46または流れ場(以下に示す)として作用する金属板のどちらの層も、気体拡散層45のどちらかの側に位置付けられている。多孔質導電体は、ワイヤメッシュ、エキスパンデッドメタル、または同様の材料などの、電気を伝導しかつ気体を拡散させる材料で形成することができる。
【0044】
燃料電池で一般に使用されるような、「流れ場」として作用する気体チャネルが機械加工された金属板を、多孔質導電材料46の所定位置に使用してもよい。例えば、一端に入口を有し他方の端部に出口を有する溝が機械加工されているステンレス鋼の平板を、使用してもよい。溝が付いた面は、気体拡散層上を気体が通過するチャネルを画定した状態で、気体拡散層に対して位置決めされる。これを一般に、燃料電池の分野では「流れ場」と呼ぶ。
【0045】
触媒層47で反応が進行するにつれ、触媒層47と気体拡散層45および膜48との界面は、電極と同様に振る舞い、一方がカソードのように、また他方がアノードのように振る舞う。したがって動作中、電場は、気体拡散層45と膜48との界面の、触媒層47同士の間の膜48の、両端間に形成される。
【0046】
膜48は、適切な構造内でイオン化液体を固定化することによって、または、化学反応が生じるようにイオン液体中に膜48を単に浸漬することによって、実施することができる。プロトンおよびヒドロキシルイオンの相対イオン密度を低下させつつ、炭素含有イオンの輸送が可能になるように、十分な量のイオン液体を膜48内に使用すべきである。このように、イオン液体は、システム内のプロトンおよびヒドロキシルイオンの拡散を減少させると考えられる。イオン液体は、細孔を通した直接的な気体輸送を防止するよう十分に、マトリックスの細孔の実質的に全てを満たす必要があるとも考えられる。例えば、イオン交換膜を一例として含む、ポリマー、マトリックス、またはその他の透過性もしくは半透過性の膜などの構造に、イオン液体を固定することによって、このイオン液体を固定化することができる。イオン交換膜は、イオン液体と膜との結合を引き起こす化学反応の前に、またはその反応と同時に、イオン液体に浸漬することができる。イオン液体は、膜を湿った状態に保持し、膜が乾ききるのを防止する。固定化したイオン液体は、膜またはその他のマトリックスに固定することができず、単に支持されているだけのイオン液体と共に使用することもできる。
【0047】
図7は、本明細書に開示されているようなシステムを生成することができる、例示的なステップを示す。ボックス98の動作では、イオン液体を膜に固定化することができる。イオン液体は、結合を形成するために膜内のマトリックスまたはマトリックス層と反応させることによって、または膜内のゲルに含ませることによって、膜内に固定化することができる。図7に示される残りのステップは、任意選択であり、特定の適用例が示すように使用することができる。ボックス100の動作では、層状化構造を膜から作製することができる。膜の片面には、触媒、気体拡散層、および多孔質導電層が結合される。ボックス102の動作では、システムが電気的に接続され、容器内に取り付けられ、密封される。最後に、ボックス104の動作では、供給および出口構成要素が接続される。システムを試験し、必要に応じて調節することができる。
【0048】
システムの様々な構成要素を作製するための、ステップのいずれかの特定の順序は重要ではない。実際、これらのステップは、任意の適切な順序で実施することができる。例えば図6では、層状化構造44は、膜48を覆う触媒層47として作製されることが示されているが、この層状化構造44は、ちょうど、後に膜48に結合される気体拡散層45を覆う触媒層47として、容易に構成することができる。触媒層47は、完全な層として存在させる必要は全くないが、所望の化学反応が促進されるように十分な量および厚さで存在させなければならないだけである。
【0049】
必要に応じて、または望みに応じて、システムは、様々な気体が全体を移動するときに、その気体の温度および圧力の制御が可能になるように、容易に設計することができる。システムが望み通りに動作しているか否かを決定するために、気体分析器を使用して様々な出口ガスを試験することができる。出口ガスは、所望の任意の適用例で使用してもよい。出口ガスは、別の部位に送出してもよく、または反応もしくは近くのその他の適用例で使用してもよい。
【0050】
ファラデー効率は、電気化学電池内の電流をどのように有効に使用するかという尺度である。高いファラデー効率は、反応を終了させてプロセスをより実現可能なものにするには、そのプロセスがより低い電流を必要とすることを示唆している。この場合、ファラデー効率は、システムを通る電流に対する、CO捕獲速度の尺度である。ファラデー効率100%は、システム内を通過する全ての電子1個ごとに、確かに1個のCO分子が捕獲されることを意味する(1個の水素分子は2個の電子を作る)。
【0051】
本明細書で使用する「結合」という用語は、一般に化学反応から得られる2個以上の原子、分子、またはイオンの間の化学結合を指す。化学反応は、一般に結合の破壊または形成をもたらすプロセスと見なされるが、この場合、反応は一般に、例えばイオン液体とマトリックスとの間の結合をもたらす。結合の例には、共有結合およびイオン結合が含まれる。
【0052】
本明細書で使用される「マトリックス」という用語は、イオン液体を支持することができるように構造化されたポリマー、樹脂、またはその他の材料を指す。例えば、イオン液体の陽イオンまたは陰イオンは、マトリックスにまたはマトリックス内に結合することができる。
【0053】
本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、本質的にイオンのみ含有する液体を指す。「室温イオン液体」という用語は、一般に室温で液体の形をとるように、一般に約100℃よりも低い融点を有する塩を指す。
【0054】
イオン液体を「固定化」するとは、移動可能なイオンおよびその周りの分子に対して、所定位置にイオンを保持することを意味し、即ち、イオンおよび分子が移動するようにイオンが移動しないようにする。陽イオンと陰イオンは別々に固定化してよいが、対イオンは自由に移動する。固定化は、イオンのサイズによって実施してもよく、大きいイオンを固定化し、小さいイオンを自由に移動させてもよい。固定化は、移動が完全に無くなることを指すのではなく、固定化の無いそのレベルから移動をある程度低減することを指す。例えば、層の少量の移動、したがって電池内のイオンの移動が依然としてある可能性がある。イオン液体の固定化は、マトリックスまたは同様の構造などにイオンを結合しまたは固定化することによって、または構造の比較的小さい領域内にイオンを閉じ込めることによって、実現することができる。
【0055】
本明細書で使用する「層」は、どのような方法でパターン化されているか否かに関わらず、材料の厚さである。層は、指定されたタイプの材料がこの層の任意の部分に存在する場合、指定されたタイプの材料を「含み」;層は、指定されたタイプの材料が層の大部分を占める場合、指定されたタイプの材料「の」層である。層は均質でよく、またはその組成もしくは特徴を変えてもよい。層は、2つ以上の層または層の一部をその内部に含んでよく、時々「副層」と呼ばれる。「絶縁層」は、電気的に絶縁する層であるが、「導電層」は、電気的に伝導性の層である。
【0056】
「層構造」は、本明細書では、層を含む構造を指す。
【0057】
「膜」という用語は、気体や液体、エアロゾルなどの流体を透過させる構造を指す。膜は「半透過性」でよく、一部の物質に対して透過性であり、かつその他の物質に対しては不透過性であることを意味する。膜は、1層以上のマトリックスを含んでよい。
【0058】
「ゲル」という用語は、マトリックス内に維持されまたは保持されたかなりの割合の水またはその他の溶媒を含むことができる、繊維質および/または架橋マトリックス(通常は、ポリマーであり、水素結合マトリックスなど、弱い相互作用力を通して架橋している)を指す。
【0059】
「カソード構成要素」および「アノード構成要素」という用語は、それぞれ、電極として作用しかつそこから正または負の電流が流れる構造または材料を指す。「カソード構成要素」は、還元が生じる領域を含むことができるが、「アノード構成要素」は、酸化が生じる領域を含むことができる。
【0060】
「電気化学電池」という用語は、電子の放出および受容によって化学反応が生じ、または電子の放出または受容に関わる内部で生じる化学反応から電圧を生成する容器を指す。
【0061】
「炭素含有イオン」は、単に、元素である炭素を含有するイオンを指す。このイオンは、イオン化が炭素原子上でまたはイオン内の別の原子上で生じる陰イオンまたは陽イオンでよい。
【0062】
「イオン電流密度」という用語は、単位面積および時間当たりに表面の端から端まで横断するイオンによって輸送された、正味の電荷全体を指す。例えば、6.24×1018炭酸原子(1クーロン)が、1秒で1cmの膜を端から端まで輸送され、各炭酸イオンが−2電荷を運ぶ場合、イオン電流密度は2アンペア/cmになる。
【0063】
本発明について、二酸化炭素をその他の気体から分離することに関して主に本明細書で述べてきたが、本発明は、そのように限定するものではない。当業者に理解されるように、記述されるシステムは、その他の気体を分離するのに使用することができる。
【0064】
本発明について、特定の例示的な実施形態と併せて述べてきたが、前述の説明に照らし、多くの変更例、修正例、および変形例が明らかであることが、当業者に明白である。したがって本発明は、添付される特許請求の範囲の精神および範囲内に包含されるようなその他全ての代替例、修正例、および変形例を包含するものとする。
【符号の説明】
【0065】
12 層状化構造(アノード)、14 固定化イオン液体(カソード)、16 支持構造(支持体)、25 システム、32 アノード構成要素、35 イオン液体構成要素、38 供給器、41 供給器、64 出口、66 出口、68 制御器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の層を有する層状化構造と、前記層状化構造内のイオン液体とを含み、前記層状化構造が、
イオン液体の少なくとも一部が結合しており、かつプロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度が低下するように構成されている、支持層と、
イオン液体の少なくとも一部を含有するゲルとの少なくとも1つを含むことを特徴とする物品。
【請求項2】
透過性の支持層と、前記支持層内に固定化された1種以上のイオン液体とを含む膜を含み、動作中に、前記イオン液体が、プロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度を低下させることを特徴とする物品。
【請求項3】
層状化構造と、前記層状化構造内のマトリックスに結合されたイオン液体とを含む物品を製造するステップを含み、
前記物品を製造する動作は、十分な量のイオン液体をマトリックスに結合させてプロトンおよびヒドロキシルイオンの少なくとも一方のイオン電流密度が低下するように、イオン液体とマトリックスとを反応させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
層状化構造と、前記層状化構造のゲル内のイオン液体とを含む物品を製造するステップを含み、
前記物品を製造する動作は、イオン液体の一部をゲル内の所定位置に保持した状態でゲルを生成するステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−297710(P2009−297710A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135461(P2009−135461)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】