説明

イオン発生素子、帯電装置および画像形成装置

【課題】低コストで、条件に応じて誘導電極の大きさや形状を適切に設定でき、安定した効率のよい放電を行える、イオン発生素子、帯電装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】イオン発生素子1では、放電電極22と誘導電極23とが、上部誘電体21aを挟んで対抗して設けられており、上部誘電体21aの誘導電極23が形成される側の面に、通電により発生するジュール熱で発熱するヒータ電極25を備えている。そして、誘導電極23にはヒータ電流が流れないように、誘導電極23とヒータ電極25とが配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられ、像担持体上に形成された静電潜像をトナーによって現像し、これを印字媒体上に転写定着させる画像形成プロセスに用いられるイオン発生素子、これを備える帯電装置および画像形成装置に関する。
【0002】
更に詳しくは、誘電体の表裏に放電電極と誘導電極を配置し、両者間に高圧交番電圧を印加して沿面放電を生じさせ、所望極性のイオンを取り出して、被帯電体(例えば感光体)を帯電させたり、像担持体(例えば感光体や中間転写体)上のトナー像を転写対象物(例えば中間転写体や記録紙)への転写前に帯電させるイオン発生素子、およびそれを備える帯電装置に関するものである。また、本発明は、この帯電装置を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、電子写真方式を用いた画像形成装置においては、感光体を帯電させる帯電装置、感光体等に形成されるトナー像を記録用紙等に静電的に転写させる転写装置、感光体等に静電的に接触する記録用紙等を剥離させる剥離装置などに、コロナ放電方式の帯電装置がよく用いられている。
【0004】
このようなコロナ放電方式の帯電装置としては、一般に、感光体や記録用紙等の被帯電物に対向する開口部を有するシールドケースと、このシールドケース内部に張設される線状あるいは鋸歯状の放電電極とを備えている。そして、放電電極に高電圧を印加することでコロナ放電を発生させて被帯電物を一様に帯電させる所謂コロトロンや、放電電極と被帯電物との間にグリッド電極を設け、このグリッド電極に所望の電圧を印加することで被帯電物を一様に帯電させる所謂スコロトロンなどが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このコロナ放電方式の帯電装置を、中間転写体や記録紙等の転写媒体に転写する前のトナー像を帯電するための転写前帯電装置に利用したものが、例えば特許文献2、3に開示されている。特許文献2,3に開示された技術によれば、像担持体に形成されたトナー像内に帯電量のばらつきがあっても、転写前にトナー像の帯電量を均一にするので、トナー像を転写するときの転写余裕度の低下を抑え、トナー像を転写媒体に安定して転写することができる。
【0006】
しかしながら、上述した従来の帯電装置は複数の問題を抱えている。第一に、帯電装置として放電電極のみならずシールドケースやグリッド電極等が必要である。また、放電電極と帯電対象物との間一定の距離(10mm)を確保する必要がある。そのため、帯電装置を設置するためのスペースが多く必要となる。一般に一次転写部周辺には現像装置や一次転写装置、二次転写部前には感光体や二次転写装置等が配置されており、転写前帯電装置を配置するためのスペースは少ない。そのため、従来のコロナ放電方式の帯電装置ではレイアウトが非常に困難となる、といった問題がある。
【0007】
また第二に、従来のコロナ放電方式の帯電装置では、オゾン(O)や窒素酸化物(NOx)等の放電生成物が大量に生成される、という問題がある。オゾンが大量に生成されると、オゾン臭の発生、人体に対する有害な影響、強い酸化力による部品劣化等の問題を引き起こす。また、窒素酸化物が生成されると、窒素酸化物が感光体にアンモニウム塩(硝酸アンモニウム)として付着し、異常画像の原因になるといった問題が生じる。特に、通常用いられている有機感光体(OPC)は、オゾンやNOxによりシロ抜けや像流れ等の画像欠陥を生じやすい。
【0008】
このようなことから、転写部位が複数存在するような中間転写方式のカラー画像形成装置では、全ての転写部位(複数の一次転写部位、および二次転写部位)の上流に転写前帯電装置を設けることは、転写前にトナー像の帯電量を均一にする点から好ましいものの、実際上、オゾンやNOxの発生量の問題から困難であった。
【0009】
また、オゾンレス化の目的で、近年、感光体自体を帯電する帯電装置として、導電性ローラや導電性ブラシによる接触帯電方式が採用されてきている。しかし、接触帯電方式によってトナー像を乱さずに帯電させることは困難である。従って、転写前帯電装置には、非接触のコロナ放電方式のものを用いることになる。だが、接触帯電方式を搭載した画像形成装置に従来のコロナ放電方式による転写前帯電装置を設けた場合、オゾンレスという特徴は発揮されない。
【0010】
なお、オゾン発生量を低減させるための技術として、例えば特許文献4には、ほぼ一定のピッチで所定の軸方向に並べられた多数の放電電極と、放電電極に放電開始電圧以上の電圧を印加するための高圧電源と、高圧電源の出力電極と放電電極との間に設置された抵抗体と、放電電極と近接し該放電電極と被帯電物との間の位置に設置されたグリッド電極と、グリッド電極にグリッド電圧を印加するためのグリッド電源とを備え、放電電極とグリッド電極とのギャップを4mm以下にすることで放電電流を低減してオゾン発生量を低減する帯電装置が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献4に開示された技術では、放電電流を低減することによってオゾン発生量を低減することはできるものの、それでもなおオゾンの低減量が十分でなく、1.0ppm程度のオゾンが発生してしまう。また、放電生成物やトナー、紙粉等が放電電極に付着したり、放電エネルギーによって放電電極の先端が磨耗・劣化したりすることにより、放電が不安定になるという別の問題もある。さらに、放電電極の形状から放電電極に付着した放電生成物やトナー、紙粉等をクリーニングするのが困難である。
【0012】
その上、放電電極と被帯電物とのギャップが狭いために、複数の放電電極のピッチに起因する長手方向(放電電極のピッチ方向)の帯電ばらつきが生じやすいという問題もある。ここで、帯電ばらつきを解消するために放電電極ピッチを小さくすることが考えられるが、その場合には放電電極数が増えて製造コストが増大してしまう。
【0013】
上記のような従来の帯電装置の課題を解決するため、例えば特許文献5には、誘電体を間に介して、外周辺に尖頭形の凸部を備えた放電電極と誘導電極とを配設し、この電極間に高圧交番電圧を印加することでイオンを発生させる(以後、このタイプの帯電方式を沿面放電方式と称する)イオン発生素子(沿面放電素子)を備えた帯電装置が開示されている。
【0014】
この沿面放電方式の帯電装置は、シールドケースやグリッド電極等がないため小型である。また、放電面がフラットであることからクリーニングがしやすく、メンテナンス性にも優れている。
【0015】
ここで、イオン発生素子(沿面放電素子)は、高湿環境下において放電特性が低下する傾向がある。これを回避する方策として、例えば特許文献6や特許文献7に開示された技術では、ヒータ部材をイオン発生素子に配置し、素子を加温することで放電領域の吸着水分を除去して放電性能を向上させている。特に特許文献7には、誘導電極部分に通電することでジュール熱を発生させて、ヒータ作用も兼用することが記載されており、引用文献7に開示の技術は、別途ヒータ素子を配置するのに比べ、コンパクトにかつ、低コストにできる。
【特許文献1】特開平6−11946号公報(公開日:1994年1月21日)
【特許文献2】特開平10−274892号公報(公開日:1998年10月13日)
【特許文献3】特開2004−69860号公報(公開日:2004年3月4日)
【特許文献4】特開平8−160711号公報(公開日:1996年6月21日)
【特許文献5】特開2003−249327(公開日:2003年9月5日)
【特許文献6】特開2004−157447(公開日:2004年6月3日)
【特許文献7】特開2002−237368(公開日:2002年8月23日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記特許文献7に記載のように誘導電極とヒータラインとを共用する場合、以下のような課題がある。
【0017】
例えば、図6や図4(b)に示す従来のイオン発生素子(沿面放電素子)は、誘導電極を線状にし、これを放電電極の周囲を取り囲むようにループさせて、その両端に電位差を与えることで、誘導電極の抵抗に応じた電流によるジュール熱でヒータ作用を与える構成となっている。誘導電極およびヒータとして望まれる形状や特性は様々である。誘導電極の幅や位置は、放電量やオゾン発生量の大小と密接な関係があり、誘電体層厚みや印加電圧などの条件により適切な設定を行うことが必要である。
【0018】
一方、ヒータの基本機能としては、任意の投入電力により沿面放電素子を所望の加温状態とすることである。ヒータ電源側に投入電力の制御機能があれば、ヒータラインの抵抗値やそのバラツキにあまり影響を受けることなく加温性能を制御できる。しかし、電圧および電流のモニター機能とその可変制御機能とを有するようなヒータ電源では、大きなコストアップに成りうる。また、ヒータ用の電源電圧として専用の電圧を設定するよりも、各種の電気部品の駆動電圧である5Vや12Vや24Vといった汎用の電源電圧を流用する方が低コスト化に有利である。このような汎用電圧にてヒータを所望の加温性能を発揮するようにするには、ヒータラインの幅や長さや厚み、さらには材質を選定して、その抵抗を所望の範囲に設定する必要がある。しかしながら上述の通り、ヒータラインは誘導電極と共用であるため、ヒータラインと誘導電極の望ましい設定条件が互いに異なる場合があり、汎用電圧にて両者の機能を満たすのが困難な場合がある。
【0019】
また別の問題として、誘導電流が電源ラインへのノイズ付与原因となる場合がある。放電電極と誘導電極間に交番電圧を印加すると、両電極とその間に挟まれた誘電体層が形成する容量成分を充放電するための交番電流が流れる。図5(a)はパルス状の印加電圧を与えた際の、両電極に流れる電流波形を測定したものである。測定系は図5(b)のような構成となっている。印加電圧が立ち上がると(ここではマイナス側に増える時)、放電電極と誘導電極の間の容量成分を充電するための電流が瞬時に流れ、図5(a)のようにスパイク状の電流波形が観測される。このスパイク状部分には放電による電流も含まれている。立ち上がり後は、容量成分に充電されているため電流がほとんど流れないが、電圧が立ち下がるときに逆の電流が発生する。なお図示していないが、印加電圧を正弦波状とした場合は、各電極に流れる電流波形は正弦波状であり、電圧ピーク値の手前で放電電流によるスパイク状部分を持つものとなる。ただし、正弦波印加時は電流値の変化も穏やかで、最大値や放電のスパイク電流値も小さい。この交番電流は放電電極側にも、誘導電極側にも発生する。ここで誘導電極がヒータラインに接続されていると、誘導電流が電源部へも流れ込み、ノイズの原因となり得る。また、高湿環境ではパルス状の波形の方が放電効率が高い。高湿環境下では放電電極とその周囲の誘電体の間の吸着水分の影響で、両者間の電位差が小さくなるためである。正弦波を印加すると電圧の上昇時間に対して、水分吸着による放電電極近傍の表面抵抗の時定数によっては、大きな電位差が生じにくく、放電が起こりにくい。一方、パルス波の場合は、印加電圧変化が急峻であるため、放電電極と誘電体間の電位差を大きくした状態を形成しやすく、放電が生じやすい。しかしながらパルス波印加時は誘導電流がスパイク状で、その値も大きくノイズの原因となり得る懸念がある。
【0020】
その一方、高湿環境ではヒータによる放電素子の加温により、吸着水分を減じることが有効であり、ヒータ効果とパルス波効果の併用で、安定した効率のよい放電を行うことが可能となる。しかしながら、パルス波を印加した場合、誘導電流は電圧の立ち上がりと立ち下がり時にスパイク状に生じるため、これがヒータ電源ラインに乗ると、電源部へのダメージやノイズ発生源となりやすいという懸念がある。
【0021】
本発明は上記問題に鑑み、その目的は、沿面放電に伴ってイオンを発生させるイオン発生素子において、低コストで、条件に応じて誘導電極の大きさや形状を適切に設定でき、安定した効率のよい放電を行うことができる、イオン発生素子、帯電装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のイオン発生素子は、上記課題を解決するために、放電電極と誘導電極とが誘電体を挟んで対向して設けられており、上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧が印加されることにより、沿面放電に伴ってイオンを発生させるイオン発生素子であって、
上記誘電体の上記誘導電極が形成される側の面に、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極を、上記誘導電極とは別に備えており、上記誘導電極にはヒータ電流が流れないように、上記誘導電極と上記ヒータ電極とが配されていることを特徴としている。
【0023】
上記構成によると、ヒータ電極が誘導電極とは別に備えられており、誘導電極にはヒータ電流が流れないように、上記誘導電極と上記ヒータ電極とが配されている。よって、誘導電極の抵抗値は、ヒータ電極に影響しない。そのため、様々な条件に応じて誘導電極として適切な大きさや形状を設定することができる。また、ヒータ電極は、放電電極と誘導電極間の放電特性に影響を与えることなく、イオン発生素子を加温し、吸着水分を減じることができる。よって、上記構成のイオン発生素子は、安定した効率のよい放電を行うことができる。また、ヒータ電極は、イオン発生のための放電に用いられる電圧と共用の電圧(例えば、12Vや24Vなど)にて、所望の投入電力となるように、電極幅や長さを調整することができる。また、ヒータ電極が誘電体の誘導電極が形成されている面と同一面に形成されているため、誘電体の積層方向の厚みを増すことなく、イオン発生素子のサイズを大きくすることなく、イオン発生素子を形成することができる。
【0024】
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、上記ヒータ電極は、上記放電電極と対向して配された上記誘導電極を取り囲んで配されていてもよい。
【0025】
上記構成によると、適切にそして容易に、誘導電極にヒータ電流が流れないようにすることができ、誘導電流は誘導電極に流れるので、ヒータ電極に誘導電流がほとんど流れないようにすることができる。例えば、放電電極と誘導電極とが板状の誘電体を挟んで対向して設け、ヒータ電極は誘電体の外周部に近い部分を伝うように配してもよい。
【0026】
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、上記誘導電極は接地用接続部を有していてもよい。
【0027】
放電電極と誘導電極との間に交番電圧を印加すると、両電極とその間に挟まれた誘電体層が形成する容量成分を充放電するための交番電流が流れる。この交番電流は、放電電極側にも誘導電極側にも発生する。ここで誘導電極がヒータ電極に接続されていると、誘導電流がヒータ電源部へノイズとして影響する場合があり好ましくない。しかし、本発明の上記構成のように、誘導電極に接地用接続部があると、これにより直接接地電位へ接続することができるので、ヒータ電源ラインへのノイズが入りにくくすることができる。
【0028】
本発明に係るイオン発生素子では、上記構成に加え、上記ヒータ電極はライン状に形成されており、当該ヒータ電極の一端は接地電位に接続され、他端はヒータ電源に接続されており、当該ヒータ電極の抵抗値より、上記誘導電極の抵抗値が小さくてもよい。
【0029】
上記構成とすることで、誘導電流がほとんど接地電極側へ流れる。よって、ヒータ電源ラインを通る誘導電流の成分が小さくなり、ヒータ電源ラインへ与えられるノイズを低減させることができる。
【0030】
本発明の帯電装置は、上記いずれかのイオン発生素子と、上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧を印加する電源部とを備えることを特徴としている。
【0031】
上記構成によると、本発明のいずれかのイオン発生素子を備えているために、安定して効率よく帯電でき、コンパクトな帯電装置を提供できる。
【0032】
本発明に係る帯電装置では、上記構成に加え、上記電源部が印加する交番電圧の波形はパルス波であってもよい。
【0033】
特に高湿環境では、パルス状の波形の方が放電効率が高い。高湿環境下では放電電極とその周囲の誘電体の間の吸着水分の影響で、両者間の電位差が小さくなるためである。正弦波を印加すると電圧の上昇時間に対して、水分吸着による放電電極近傍の表面抵抗の時定数によっては、大きな電位差が生じにくく、放電が起こりにくい。一方、パルス波の場合は、印加電圧変化が急峻であるため、放電電極と誘電体間の電位差を大きくした状態を形成しやすく、放電が生じやすい。その一方、高湿環境ではヒータによる放電素子の加温により、吸着水分を減じることが有効であり、ヒータ効果とパルス波効果の併用で、より安定した効率の良い放電を行うことが可能となる。しかしながら、パルス波を印加した場合、誘導電流は電圧の立ち上がりと立ち下がり時にスパイク状に生じるため、これがヒータ電源ラインに乗ると、ヒータ電源へのダメージやノイズ発生源となりやすいという懸念がある。
【0034】
本発明の上記構成のように、誘導電極を直接接地電極に接続し、ヒータ電極へ誘導電流が流れにくい構成と、パルス波印加とを併用することで、より一層、効率の良いイオン発生を安定して行うことができる帯電装置を提供することができる。
【0035】
本発明の画像形成装置は、上記帯電装置を、静電潜像担持体を帯電させる帯電装置として備えることを特徴としている。
【0036】
静電潜像担持体を帯電させる装置に本発明の帯電装置を用いることで、静電潜像担持体を適切に帯電させることができ、また、コンパクトな画像形成装置を提供できる。
【0037】
本発明の画像形成装置は、上記帯電装置を担持体上に担持されたトナーに電荷を与える転写前帯電用の帯電装置として備えることを特徴としている。
【0038】
本発明の帯電装置を用いて、転写前のトナーに対して好適に適切に帯電することができ、転写効率の向上や、転写均一性の向上を図ることができる。さらに本発明の帯電装置は、上記したようにコンパクトであるため、転写前トナーの帯電を限られたスペースで行うことができ、画像形成装置の縮小化を図ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のイオン発生素子は、以上のように、上記誘電体の上記誘導電極が形成される側の面に、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極を、上記誘導電極とは別に備えており、上記誘導電極にはヒータ電流が流れないように、上記誘導電極と上記ヒータ電極とが配されている。
【0040】
上記構成によると、誘導電極の抵抗値は、ヒータ電極に影響しない。そのため、様々な条件に応じて誘導電極として適切な大きさや形状を設定することができる。また、ヒータ電極は、放電電極と誘導電極間の放電特性に影響を与えることなく、イオン発生素子を加温し、吸着水分を減じることができる。よって、上記構成のイオン発生素子は、安定した効率のよい放電を行うことができる。また、ヒータ電極は、イオン発生のための放電に用いられる電圧と共用の電圧(例えば、12Vや24Vなど)にて、所望の投入電力となるように、電極幅や長さを調整することができる。また、ヒータ電極が誘電体の誘導電極が形成されている面と同一面に形成されているため、誘電体の積層方向の厚みを増すことなく、イオン発生素子のサイズを大きくすることなく、イオン発生素子を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
〔実施の形態〕
以下、本発明の帯電装置およびこれを備えた画像形成装置についての一実施形態を、図1〜5に基づいて、具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0042】
まず、本実施形態における画像形成装置の全体構成について説明する。図2は、本実施形態の転写前帯電装置を備えた画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。この画像形成装置100は、いわゆるタンデム式で、かつ、中間転写方式のプリンタであり、フルカラー画像を形成できる。
【0043】
図2に示すように、画像形成装置100は、4色(C・M・Y・K)分の可視像形成ユニット50a〜50d、転写ユニット40、及び定着装置14を備えている。
【0044】
転写ユニット40は、中間転写ベルト15(像担持体)と、この中間転写ベルト15の周囲に配置された4つの一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、及び転写用クリーニング装置17を備えている。
【0045】
中間転写ベルト15は、可視像形成ユニット50a〜50dによって可視化された各色のトナー像が重ね合わせて転写されるとともに、転写されたトナー像を記録紙Pに再転写するためのものである。具体的には、中間転写ベルト15は無端状のベルトであり、一対の駆動ローラ及びアイドリングローラによって張架されているとともに、画像形成の際には所定の周速度(本実施形態では167〜225mm/s)に制御されて搬送駆動される。
【0046】
一次転写装置12a〜12dは、可視像形成ユニット50a〜50dごとに設けられており、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、トナー像を中間転写ベルトへ転写する。それぞれの一次転写装置12a〜12dは、対応する可視像形成ユニット50a〜50dと中間転写ベルト15を挟んで反対側に配置されている。
【0047】
二次転写前帯電装置3は、中間転写ベルト15に重ね合わせて転写されたトナー像を再帯電させるものであり、詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させる。
【0048】
二次転写装置16は、中間転写ベルト15上に転写されたトナー像を、記録紙Pに対して再転写するためのものであり、中間転写ベルト15に接して設けられている。転写用クリーニング装置17は、トナー像の再転写が行われた後の中間転写ベルト15の表面をクリーニングするものである。
【0049】
なお、転写ユニット40の中間転写ベルト15の周囲には、中間転写ベルト15の搬送方向上流から一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、転写用クリーニング装置17の順で各装置が配置されている。
【0050】
二次転写装置16の記録紙P搬送方向下流側には、定着装置14が設けられている。定着装置14は、二次転写装置16によって記録紙P上に転写されたトナー像を記録紙Pに定着させるものである。
【0051】
また、中間転写ベルト15には、4つの可視像形成ユニット50a〜50dがベルトの搬送方向に沿って接して設けられている。4つの可視像形成ユニット50a〜50dは、用いるトナーの色が異なっている点以外は同一構成であり、それぞれ、イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)・ブラック(K)のトナーが用いられる。以下では、可視像形成ユニット50aのみについて説明し、その他の可視像形成ユニット50b〜50dについては説明を省略する。これに伴い、図2では、可視像形成ユニット50aにおける部材しか図示していないが、他の可視像形成ユニット50b〜50dも可視像形成ユニット50aと同様の部材を有している。
【0052】
可視像形成ユニット50aは、感光体ドラム(像担持体)7と、この感光体ドラム7の周りに配置された潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット(図示せず)、現像装置11、一次転写前帯電装置2、クリーニング装置13などを備えている。
【0053】
潜像用帯電装置4は、感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させるためのものである。潜像用帯電装置4の詳細については後述するが、本実施形態では、潜像用帯電装置4から放出するイオンによって感光体ドラムを帯電させるようになっている。
【0054】
レーザ書き込みユニットは、外部装置から受信した画像データに基づいて、感光体ドラム7にレーザ光を照射(露光)し、均一に帯電された感光体ドラム7上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。
【0055】
現像装置11は、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像を顕像化してトナー像を形成するものである。
【0056】
一次転写前帯電装置2は、感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を転写前に再帯電させるためのものである。一次転写前帯電装置2の詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
【0057】
クリーニング装置13は、中間転写ベルト15にトナー像を転写した後の感光体ドラム7上に残留したトナーを除去・回収して感光体ドラム7上に新たな静電潜像およびトナー像を記録することを可能にするものである。
【0058】
なお、可視像形成ユニット50aの感光体ドラム7の周囲には、感光体ドラム7の回転方向上流から、潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット、現像装置11、一次転写前帯電装置2、一次転写装置12a、クリーニング装置13の順で各装置が配置されている。
【0059】
次に、画像形成装置100の画像形成動作について説明する。可視像形成ユニットの動作については、上記した可視像形成ユニット50aの構成部材(参照符号がふられているもの)を用いて説明するが、可視像形成ユニット50b〜50dでも同様の動作が行われる。
【0060】
まず、画像形成装置100は、図示しない外部装置から画像データを取得する。また、画像形成装置100の図示しない駆動ユニットが、感光体ドラム7を図2に示した矢印の方向に所定の速度(本実施形態では167〜225mm/s)で回転させるとともに、潜像用帯電装置4が感光体ドラム7の表面を所定の電位に帯電させる。
【0061】
次に、取得した画像データに応じてレーザ書き込みユニットが感光体ドラム7の表面を露光し、感光体ドラム7の表面に上記画像データに応じた静電潜像の書き込みを行う。続いて、感光体ドラム7の表面に形成された静電潜像に対して、現像装置11がトナーを供給する。これにより、静電潜像にトナーを付着させてトナー像が形成される。
【0062】
このようにして感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像を、一次転写前帯電装置2が再帯電させる。そして、一次転写装置12aに感光体ドラム7の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、一次転写前帯電装置2により再帯電させられたトナー像を中間転写ベルトへ転写する(一次転写)。
【0063】
可視像形成ユニット50a〜50dが上記動作を順に行うことにより、中間転写ベルト15には、Y,M,C,Kの4色のトナー像が順に重ね合わされる。
【0064】
重ね合わされたトナー像は、中間転写ベルト15によって二次転写前帯電装置3まで搬送され、搬送されたトナー像に対して、二次転写前帯電装置3が再帯電を行う。そして、再帯電が行われたトナー像を担持する中間転写ベルト15を、二次転写装置16が図示しない給紙ユニットから給紙された記録紙Pに対して圧接し、トナーの帯電とは逆極性の電圧が印加されることにより、記録紙Pにトナー像が転写される(二次転写)。
【0065】
その後、定着装置14がトナー像を記録紙Pに定着させ、画像の記録された記録紙Pが図示しない排紙ユニットに排出される。なお、上記の転写後に感光体ドラム7上に残存したトナーは、クリーニング装置13によって、また、中間転写ベルト15上の残存したトナーは転写用クリーニング装置17によって除去・回収される。以上の動作により、画像形成装置100は、記録紙Pに適切な印刷を行うことができる。
【0066】
次に、転写前帯電装置の構成について詳細に説明する。上述した一次転写前帯電装置2、潜像用帯電装置4、二次転写前帯電装置3は、設置される位置が異なっている点以外は同一であり、同じ構成の装置となっている。なお、潜像用帯電装置4では、帯電電位を制御するためのグリッド電極を以下で説明するイオン発生素子(沿面放電素子)1と感光体ドラム7との間に配置してもよい。このグリッド電極の位置は感光体ドラム7からは約1mm程度、イオン発生素子1からは2〜10mm程度隔てて配置するのがよい。以下では、二次転写前帯電装置3の詳細を説明し、一次転写前帯電装置2および潜像用帯電装置4については詳細な説明を省略する。
【0067】
図3(a)は、中間転写ベルト15近傍に配置されている二次転写前帯電装置3の構成図、図3(b)は二次転写前帯電装置3の有するイオン発生素子1の側面図であり、図1(a)は二次転写前帯電装置3の有するイオン発生素子1の正面図である。また、図1(b)および(c)に示すイオン発生素子1’およびイオン発生素子1’’は、図1(a)に示すイオン発生素子1の変形例である。
【0068】
図3(a)に示すように、二次転写前帯電装置3は、イオン発生素子1、対向電極31、高圧電源32、および電圧制御部33を備えている。
【0069】
イオン発生素子1は、図3(a)および(b)に示すように、誘電体21、放電電極22、誘導電極23、コート層(保護層)24を有しており、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて発生する放電(放電電極22付近で誘電体21の沿面方向に生じるコロナ放電)により、イオンを発生させる。
【0070】
誘電体21は略長方形状の上部誘電体21aと下部誘電体21bとを貼り合わせた平板状で構成されている。誘電体21の材料としては、有機物であれば耐酸化性に優れた材料が好適である。例えばポリイミドまたはガラスエポキシ等の樹脂を使用することができる。また、誘電体21の材料として無機物を選択するのであれば、マイカ集製材やアルミナ、結晶化ガラス、フォルステライト、ステアタイト等のセラミックを使用することができる。なお、耐食性の面を考えれば、誘電体21の材料として無機系のもののほうが望ましく、さらに成形性や後述する電極形成の容易性、耐湿性の低さ等を考えれば、セラミックを用いて成形するのが好適である。また、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗が均一であることが望ましいため、誘電体21の材料内部の密度バラツキが少なく、誘電体21の絶縁率が均一であればあるほど好適である。誘電体26の厚みは、50〜250μmが好ましいが、この数値に限定はされない。
【0071】
放電電極22は誘電体21(上部誘電体21a)の表面に誘電体21と一体的に形成されている。放電電極22の材料としては、例えばタングステンや銀、ステンレスのように導電性を有するものであれば、特に制限なく使用することができる。ただし、放電によって溶融や飛散する等の変形を起こさないものであることが条件となる。放電電極22は誘電体21の表面からの深さ(誘電体21の表面より誘導電極23側に放電電極22を設ける場合)、あるいは厚み(誘電体21の表面より突出して放電電極22を設ける場合)が、均一であるほうが望ましい。なお、本実施形態では、放電電極22の材料としてタングステン及びステンレスを使用する。
【0072】
放電電極22の形状は、中間転写ベルト15の移動方向と直交する方向に均一に伸びた形状であればいずれの形状であってもよい。ただし、誘導電極23との電界集中が起こりやすい形状とするほうが、放電電極22と誘導電極23との間に印加する電圧が低くても、上記両電極間で放電させることができるので、できればそのほうが望ましい。本実施形態では、図1(a)に示すように、放電電極22の形状は櫛歯状となっており、放電を起こしやすくしている。本実施形態では、放電電極22は櫛歯状とするが、図1(b),(c)に示す構成や、図4(c)に示す後述する実施例の構成のように、長方形状の電極となっていてもよい。
【0073】
誘導電極23は、誘電体21の内部(上部誘電体21aと下部誘電体21bとの間)に形成され、放電電極22に対向して配置される。これは、放電電極22と誘導電極23との間の絶縁抵抗は均一であることが望ましく、放電電極22と誘導電極23とは並行であることが望ましいからである。このような配置により、放電電極22と誘導電極23との距離(以下、電極間距離と称する)が一定となるので、放電電極22と誘導電極23との間の放電状態が安定し、イオンを好適に発生させることが可能となる。この構成では、放電電極22と誘導電極23とが上部誘電体21aを挟んで対向して配置されている。なお、誘導電極23は、誘電体21を1層として、誘電体21の裏面に設けても問題ないが、この場合は、誘電体の表面を伝って、放電電極と誘導電極がリークしないよう、印加電圧に対し十分な沿面距離を確保するか、或いは放電電極や誘導電極を絶縁性のコート層(保護層)で被覆する必要がある。
【0074】
誘導電極23の材料としては、放電電極22と同様に、例えばタングステンや銀、ステンレスのように導電性を有するものであれば、特に制限なく使用することができる。本実施形態では、誘導電極23の材料としてタングステン及びステンレスを用いる。誘導電極23は、図1(a)および(b)のようにベタ電極であってもよいし、あるいは図1(c)に示すように、放電電極22の長手方向に放電電極22と並行に、放電電極22を挟むように設けられた線状電極であってもよい。そして、誘導電極23の一端は、接地用接続端子(接地用接続端部)により、接地電位(グランド)に接続されている。
【0075】
ヒータ電極25は、誘電体21の内部(上部誘電体21aと下部誘電体21bとの間)に、誘導電極23とは別にライン状に設けられており、誘導電極23を取り囲むように、誘電体21の外周部に近い部分を伝うように配線されている。ヒータ電極25の、一端はヒータ電源34に、他端は接地電位に設置されている。そして、ヒータ電源34によりヒータ電極25に所定の電圧(本実施形態では12V)が印加されることで、ヒータ電極25がジュール熱により発熱するよう構成されている。このように、ヒータ電極25を発熱させることで、誘電体21が昇温(本実施形態では約60℃)し、誘電体21の吸湿を抑制することができる。よって、高湿環境下でも安定してイオンを発生させることができる。誘電体21がセラミックの場合、誘電体21自体は吸湿しないものの、誘電体21の表面が結露すると、放電特性が低下することから、ヒータの発熱により結露を防止、或いは結露を解消することは有効である。
【0076】
ここで、本実施形態のイオン発生素子1では、ヒータ電極25は、上部誘電体21aの誘導電極23が形成される面(下部誘電体21bの上面とも言える)に、誘導電極23とは別に形成されている。そして、誘導電極23にはヒータ電流が流れないように、誘導電極23とヒータ電極25とが配されている。このような構成であるため、誘導電極23の抵抗値は、ヒータ電極25に影響しない。そのため、誘導電極23は、様々な条件に応じて誘導電極23としての適切な大きさや形状を設定することができる。また、ヒータ電極25は、放電電極22と誘導電極23間の放電特性に影響を与えることなく、イオン発生素子1を加温し、吸着水分を減じることができる。よって、イオン発生素子1は、安定した効率のよい放電を行うことができる。また、ヒータ電極25は、イオン発生のための放電に用いられる電圧と共用の電圧(例えば、12Vや24Vなど)にて、所望の投入電力となるように、電極幅や長さを調整することができる。
【0077】
なお、ヒータ電極25は、例えば、図4(c)に示すような配線であってよい。具体的には、ヒータ電流がヒータ電源34から誘導電極23部分に接続されている部分を通って、接地電極部に流れ込むように、ヒータ電極25が配線されていてもよい。この場合、誘導電極23のうち、細いヒータラインが接続される部分(図4(c)での右端部分)のみヒータ電流が流れるが、誘導電極23内は同一電位であり電流は流れない。ただし、誘導電流は、放電電極22に印加される交番電圧に誘起されて誘導電極23に流れてくる電流は、ヒータラインを通ってくるので、図4(c)のような構成ではヒータ電源34側と接地電極側との双方から誘導電流が行き来するので、ノイズの影響を受ける可能性がある。そのため、より好ましいのは、図1(a)〜(c)に示す構成である。
【0078】
なお、放電電極22および誘導電極23は、銅、金、ニッケル等にてメッキされていることが望ましい。メッキすることで、電極としてのライフが延びると共に強度を高めることができる。
【0079】
コート層24は、放電電極22を覆うように誘電体21上に形成されるものであり、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)やガラス、シリコン等で形成されている。
【0080】
ここで、本実施形態のイオン発生素子1の製造方法について説明するが、本発明の係るイオン発生素子1の製造方法は以下の方法、数値に限定されることはない。まず、厚さ0.2mmのアルミナシートを所定の大きさ(例えば、幅8.5mm×長さ320mm)に切断し、2つの略同一の大きさを有するアルミナの基材を形成し、これらを上部誘電体21a及び下部誘電体21bとする。次に、上部誘電体21aの上面に、放電電極22として櫛歯状にタングステンをスクリーン印刷し、放電電極22を上部誘電体21aと一体成形する。一方、下部誘電体21bの上面に、ヒータ電極25および誘導電極23としてタングステンをスクリーン印刷し、ヒータ電極25および誘導電極23を下部誘電体21bと一体成形する。本実施形態では、誘導電極23は、下部誘電体21bの中央で下部誘電体21bの長手方向に沿って配するように、そして、ヒータ電極25は、その誘導電極23の周囲を囲むように、下部誘電体21bの外周部に近い部分を伝ってU字状に配するように、印刷する。
【0081】
さらに、上部誘電体21aの表面に、放電電極22を覆うようにアルミナのコート層24を形成して、放電電極22を絶縁コートする。そして、上部誘電体21aを介して放電電極22と誘導電極23とが対向するように、上部誘電体21aの下面と下部誘電体21bの上面とを重ね合わせた後、圧着を行う。その後、これを炉に入れて1400〜1600℃の非酸化性雰囲気で焼成する。このようにして、本実施形態のイオン発生素子1を容易に製造することができる。なお、焼成前シートの圧着の順番や回数は、放電電極印刷前でも良いし、コート層形成前後でも構わない。
【0082】
対向電極31は、本実施形態ではステンレス製の板状形状となっており、中間転写ベルト15を介してイオン発生素子1と対向する位置に、中間転写ベルト15の裏面側(トナー像が形成されない側)に密着するよう配置される。そして、対向電極電源35を介してグランドに接続されている。対向電極電源35は、対向電極31に所定の電圧を印加する構となっている。このような対向電極電源35は、放電電極22からの放電を生じ易くするために配されるものであり、必ず必要なものではなく、省略することもできる。
【0083】
高圧電源(電圧印加回路)32は、電圧制御部33の制御により、イオン発生素子1の放電電極22と誘導電極23との間に交流高電圧を供給する構成となっている。印加電圧はVpp:2〜4kV、オフセットバイアスは−1〜−2kV、周波数は500〜2kHzのパルス波が用いられる。パルス波のDutyは高圧側時間が10〜50%となるようにしている。なお、波形は正弦波でも構わない、放電の効率、特に高湿条件での放電性能を考慮すると、パルス波の方が良好である。
【0084】
上記の構成の高圧電源32を動作させ、放電電極22と誘導電極23との間に交流高電圧を印加すると、放電電極22と誘導電極23との間の電位差に基づいて、放電電極22近傍で沿面放電(コロナ放電)が起こる。これにより、放電電極22の周囲の空気をイオン化することでマイナスイオンを発生させ、中間転写ベルト15上のトナー像を所定の帯電量(ここでは約−30μC/g)に帯電させる。
【0085】
また、高圧電源32は電圧制御部33に接続されている。電圧制御部33は、高圧電源の印加電圧の大きさを制御するものである。具体的には、電圧制御部33は、対向電極電源35を流れる電流の値を計測し、この計測した電流の値が目標値になるように、高圧電源32の印加電圧をフィードバック制御する。
【0086】
対向電極31を流れる電流の大きさは、トナー像の帯電量と相関する。従って、対向電極31を流れる電流を一定の目標値に保つことによって、トナー像の帯電量も一定の値となる。
【0087】
このように、高圧電源32の印加電圧の大きさを、対向電極31を流れる電流の大きさに基づいてフィードバック制御することにより、放電電極22の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、イオンの発生量や発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動しても、常に最適な量のイオンをトナー像に供給できる。
【0088】
以上で説明したように本実施形態の帯電装置(一次転写前帯電装置2、二次転写前帯電装置3、潜像用帯電装置4)が有する、本実施形態のイオン発生素子1では、ヒータ電極25と誘導電極23とが別々に設けられており、誘導電極23にはヒータ電流が流れないようになっている。よって、誘導電極23の抵抗値は、ヒータ電極25に影響しない。そのため、様々な条件に応じて誘導電極23として適切な大きさや形状を設定することができる。また、ヒータ電極25は、放電電極22と誘導電極23間の放電特性に影響を与えることなく、イオン発生素子1を加温し、吸着水分を減じることができる。よって、イオン発生素子1は、安定した効率のよい放電を行うことができる。また、ヒータ電極25は、イオン発生のための放電に用いられる電圧と共用の電圧(例えば、12Vや24Vなど)にて、所望の投入電力となるように、電極幅や長さを調整することができる。また、ヒータ電極25は、誘電体21の誘導電極23が形成されている面と同一面に形成されているため、誘電体21への積層方向の厚みを増すことなく、イオン発生素子1のサイズを大きくすることなく、イオン発生素子1を形成することができる。本発明に係るイオン発生素子には、さらに、以下のような効果がある。
【0089】
本発明に係るイオン発生素子による効果について、図1(b),(c)および図5を用いて説明する。図1(b),(c)は、それぞれ、図1(a)に示す本実施形態のイオン発生素子1の変形例であるイオン発生素子の構成を示す図である。図1(b)に示す構成のイオン発生素子1’および図1(c)に示す構成のイオン発生素子1’’では、放電電極22と誘電体21を挟んで対向する箇所に誘導電極23が配され、誘導電極23の一端は、直接、接地電位となる電極接点に接続している。ヒータ電極25は、ライン状のヒータラインとして形成されており、誘電体21の外周部に近い部分を伝うように配線されており、ヒータ電極25の一端はヒータ電源34に、他端は接地電位に接続されており、ヒータ電流は誘導電極23には流れない構成となっている。また、ヒータ電極25は、放電電極22から離れた位置に配線されているため、ヒータ電極25に誘導電流が流れにくい構成でもある。ヒータ電極25の電極幅は、イオン発生素子1’およびイオン発生素子1’’では0.1mmとし、その抵抗は約30Ωとなっているが、これらの数値に限定されることはない。
【0090】
誘導電極23は、図1(b)に示すにベタ電極としてもよいし、図1(c)のように線状としてもよい。ここでは、ベタ電極では幅を1.5mmとし、線状電極では1mmとしており、どちらも抵抗値は約1〜2Ωであり、ヒータ電極25よりかなり小さい抵抗となっている。もちろん、これらの数値は単なる例示である。イオン発生素子をこのような構成とすることで、誘導電流は誘導電極23部分に流れ、ヒータ電極25には誘導電流はほとんど流れないようにすることができる。
【0091】
図5は、イオン発生素子にパルス波の印加電圧を与えた際の印加電圧波形と、放電電極および誘導電極に流れる電流波形とを測定した結果を示す図である。測定系は図5(b)のような構成である。図5(a)に示すように、印加電圧が立ち上がると(ここではマイナス側に増える時)、放電電極と誘導電極との間の容量成分を充電するための電流が瞬時に流れ、スパイク状の電流波形が観測されているのがわかる。このスパイク状部分には放電による電流も含まれている。印加電圧の立ち上がり後は、容量成分に充電されているため電流がほとんど流れないが、電圧が立ち下がるときに逆の電流が発生する。
【0092】
この誘導電流がヒータ電極と通して、ヒータ電源部へ流れ込むとノイズの原因となり得る場合がある。しかし、本実施形態では、誘導電極とヒータ電極とが分離されているため、誘導電流がヒータ電源部に流れ込むことが抑制され、ノイズ発生が抑制される。
【0093】
ここで、高湿環境では、正弦波よりパルス波の方が放電効率は高い。高湿環境下では放電電極とその周囲の誘電体との間の吸着水分の影響で、両者間の電位差が小さくなるためである。正弦波を印加すると電圧の上昇時間に対して、水分吸着による放電電極近傍の表面抵抗の時定数によっては、大きな電位差が生じにくく、放電が起こりにくい。一方、パルス波の場合は、印加電圧変化が急峻であるため、放電電極と誘電体との間の電位差を大きくした状態を形成しやすく、放電が生じやすい。しかしながら、パルス波印加時は誘導電流がスパイク状で、その値も大きくノイズの原因となり得る懸念がある。なお図示していないが、印加電圧を正弦波とした場合は、各電極に流れる電流波形は正弦波状であり、電圧ピーク値の手前で放電電流によるスパイク状部分を持つものとなる。ただし、正弦波印加時は電流値の変化も穏やかで、最大値や放電のスパイク電流値も小さいものであるため、ノイズの影響は受けにくいが、上述の通り、高湿環境での放電性能が低下する。
【0094】
その一方、高湿環境ではヒータによる放電素子の加温により、吸着水分を減じることが有効であり、ヒータ効果とパルス波効果との併用で、より安定した効率の良い放電を行うことが可能となる。しかしながら、パルス波を印加した場合、誘導電流は電圧の立ち上がりと立ち下がり時にスパイク状に生じるため、これがヒータ電源ラインに乗ると、ヒータ電源へのダメージやノイズ発生源となりやすいという懸念がある。
【0095】
しかしながら、本実施形態の構成を採用することで、パルス波を印加しても、誘導電流がヒータ電源部に流れ込むことが抑制され、ヒータ電源へのダメージやノイズの発生を低減させて、ヒータ効果とパルス波効果とを併用することができる。よって、本実施形態の構成を採用することにより、上記問題も解決することができる。
【0096】
〔実施例〕
次に、本発明のイオン発生素子を用いた実施例について説明する。ここでは、本発明に係る実施例および比較のための従来のイオン発生素子について図4を用いて説明する。図4(a),(b)は、比較例である従来のイオン発生素子を示す図であり、(c)は、本実施例のイオン発生素子を示す図である。
【0097】
比較例1のイオン発生素子は、図4(a)に示すように、誘導電極23はベタパターンの電極であり、その両端にバイアス電圧を印加してヒータとしての機能を与えられている。つまり、この比較例1では、誘導電極23とヒータとが兼用となっている。この比較例1のベタ電極部の幅は約1.5mm、長さは約300mmであり、ヒータ電極の抵抗は約1.2Ωであった。
【0098】
比較例2のイオン発生素子は、図4(b)に示すように、U字状に誘導電極をループさせ、その両端にバイアス電圧を印加してヒータ機能を与えられている。つまり、この比較例2でも、誘導電極23とヒータとが兼用となっている。この比較例2での電極幅は1mm、長さは約600mmで、ヒータ電極の抵抗は約3Ωであった。
【0099】
比較例3のイオン発生素子は、比較例2と同様に図4(b)に示す形状であり、電極幅を0.7mmと変更した以外は比較例2と同様の構成であり、抵抗値は約4.5Ωであった。比較例3でも、誘導電極23とヒータとが兼用となっている。
【0100】
本実施例(実施例1)のイオン発生素子は、図4(c)に示すように、誘導電極とヒータ電極とを機能分離した形状である。誘導電極としては放電電極の直下近傍にベタ電極を配置し、上記比較例1と同様、ベタ電極の幅は1.5mmとした。また、誘導電極の抵抗値は、1〜2Ω程度となるようにした。本実施では、ヒータ電極25は、ベタ電極である誘導電極23に接続され、一方はヒータ電源34への給電部、他方は接地電位側の給電部に接続されたヒータラインとして設けられている。図4(c)に示すように、ヒータ電流が、ヒータ電源34から誘導電極23部分に接続されている部分を通って、接地電極部に流れ込むように、ヒータ電極25が配線されている。よって誘導電極23のうち、細いヒータラインが接続される部分(図4(c)での右端部分)のみヒータ電流が流れるが、誘導電極23内は同一電位であり電流は流れない。なお、誘導電流は、図4(c)に示す本実施例では次のようになる。放電電極22に印加される交番電圧に誘起されて誘導電極23に流れてくる電流は、ヒータラインを通ってくる。図4(c)ではヒータ電源34側と接地電極側との双方から誘導電流が行き来するので、ノイズの影響を受ける可能性がある。本実施例でのヒータ電極は幅を約0.1mmとし、その抵抗は約30Ωとなるようにした。
【0101】
ここで、本実施例のイオン発生素子は、図4(c)に示す構成であるため、誘導電極部分にヒータ電流がほとんど流れなくすることができる。ただし、より好ましくは、図1(a)〜(c)に示すように、誘導電流が流れるパスは接地電極からが主たるルートになる構造である。このような構造であると、抵抗の高いヒータラインを通ってヒータ電源側まで誘導電流が流れにくく、ノイズに対して強くすることができるからである。
【0102】
なお、実施例1および比較例1〜3の誘導電極は、全ては同一の抵抗体を用いており、抵抗率が同一なため、抵抗値は電極幅と長さに対する比例関係が成り立つはずであるが、この比例関係がややずれている。その理由は、面状と線状では電極を印刷したり、加圧プレスしたりする際の状態が異なるため、電極層の厚みや密度が異なるためと思われる。
【0103】
上記実施例1および比較例1〜3のイオン発生素子を用いて、放電性能と加温性能とについての測定を行った。その結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
なお、ヒータ電源の低コスト化を考慮し、ヒータへの印加電圧としては、画像形成装置内の汎用電源電圧である5V、12Vとした。ここで、24Vも対象であるが、投入電力が大きくなり過ぎるためここでは測定を行わなかった。また、イオン発生素子の加熱性能としては、室温に比べて20〜30度程度上昇するように加温できることが望ましい。この程度の加熱でイオン発生素子表面の付着水分が除去され、放電特性を改善できるからである。あまりに加熱しすぎると安全性の面や、付着したトナーなどが融着してしまい、放電性能に悪影響をもたらす場合がある。
【0106】
実施例1および比較例1〜3では、放電電極と誘導電極との間の誘電体(誘電層)が0.2mm、誘導電極側に保護や絶縁、セラミック電極の強度アップの目的で0.7mmのセラミック層を設けた構造で、総厚みは約0.9mmのものを用いた。このようなイオン発生素子に上記の加温を施すにはおおよそ5W程度の投入電力が必要であり、上記印加電圧にて5Wの投入電力を付与し得るか否かを加熱能力の適否として評価した。
【0107】
表1からわかるよう、比較例1の条件では、誘導電極の幅が十分にあり、放電によるイオン発生能力は十分に確保できるものの、ヒータ電極の抵抗値が低すぎ、5Vや12Vを投入してしまうと加温性能が過剰となった。また比較例2では誘導電極幅を1mmまで下げたが、イオン発生量は十分確保できたものの、抵抗値が適当でなく、過剰な加温性能になっている。さらに比較例3ではさらに誘導電極幅を0.6mmまで狭めて抵抗値を約5Ω程度に設定したことで、5V印加時に5W程度の投入電力となって適当な加温性能を得たものの、誘導電極の狭化によりイオン発生能力が低下した。このように、誘導電極とヒータ電極とを兼用した構成とした場合、イオン発生能力とヒータ加熱性能とを低コストに満足しうる条件設定とすることが困難である。なお、ここでは触れていないが、誘導電極(ヒータライン)の厚みや比抵抗を変えることも考えられるが、塗布条件や誘電体基材との相性などの問題もあり、任意の厚みや比抵抗に選択することも実際には容易ではない。
【0108】
一方、本発明に係る構成を有する実施例1では、誘導電極として作用する部分はベタ電極として、必要イオン量を確保できるようにしつつ、ヒータ電極は抵抗値を最適にするための線幅に設定している。そのため、本発明に係る構成のイオン発生素子により、イオン発生、加温性能とも満足のいく特性を容易に得ることができることがわかる。
【0109】
本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0110】
また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、電子写真方式を用いる画像形成装置において、感光体や中間転写体などの像担持体上に形成されるトナー像を転写前に帯電させるための転写前帯電や、感光体を帯電させる潜像用帯電、或いは現像装置内のトナーの帯電を補助するトナーの予備帯電等を行う帯電装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】(a)は、本発明に係るイオン発生素子の一実施形態を示す図であり、(b)および(c)は、それぞれ、(a)に示すイオン発生素子の変形例を示す図である。
【図2】本願発明に係る画像形成装置の要部構成を示す説明図である。
【図3】(a)は本発明に係る帯電装置の構成を示す図、(b)は本発明に係る帯電装置の有するイオン発生素子の側面図である。
【図4】(a),(b)は、それぞれ比較例である従来のイオン発生素子の正面図、(c)は、本発明の一実施例のイオン発生素子の正面図である。
【図5】(a)は、イオン発生素子にパルス波の印加電圧を与えた際の、印加電圧波形と、放電電極および誘導電極に流れる電流波形との測定結果を示す図であり、(b)は、そのときの測定系の構成を示す図である。
【図6】従来のイオン発生素子の一例の正面図である。
【符号の説明】
【0113】
1 イオン発生素子
2 一次転写前帯電装置(帯電装置)
4 潜像用帯電装置(帯電装置)
3 二次転写前帯電装置(帯電装置)
7 感光体
15 中間ベルト
21 誘電体
21a 上部誘電体(誘電体)
21b 下部誘電体
22 放電電極
23 誘導電極
24 カバー層
25 ヒータ電極
31 対向電極
32 高圧電源(電源部)
33 電圧制御部
34 ヒータ電源
35 対向電極電源
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極と誘導電極とが誘電体を挟んで対向して設けられており、
上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧が印加されることにより、沿面放電に伴ってイオンを発生させるイオン発生素子であって、
上記誘電体の上記誘導電極が形成される側の面に、通電により発生するジュール熱で当該イオン発生素子を加温するヒータ電極を、上記誘導電極とは別に備えており、
上記誘導電極にはヒータ電流が流れないように、上記誘導電極と上記ヒータ電極とが配されていることを特徴とするイオン発生素子。
【請求項2】
上記ヒータ電極は、上記放電電極と対向して配された上記誘導電極を取り囲んで配されることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生素子。
【請求項3】
上記誘導電極は接地用接続部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン発生素子。
【請求項4】
上記ヒータ電極はライン状に形成されており、
当該ヒータ電極の一端は接地電位に接続され、他端はヒータ電源に接続されており、
当該ヒータ電極の抵抗値より、上記誘導電極の抵抗値が小さいことを特徴とする請求項3記載のイオン発生素子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のイオン発生素子と、上記放電電極と上記誘導電極との間に交番電圧を印加する電源部とを備えることを特徴とする帯電装置。
【請求項6】
上記電源部が印加する交番電圧の波形はパルス波であることを特徴とする請求項5に記載の帯電装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の帯電装置を、静電潜像担持体を帯電させる帯電装置として備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項5または6に記載の帯電装置を、担持体上に担持されたトナーに電荷を与える転写前帯電用の帯電装置として備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−14783(P2009−14783A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173380(P2007−173380)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】